説明

弁診断装置及び弁診断方法

【課題】弁診断装置の設置に時間を要することなく、容易に弁棒に亀裂が発生する前の異常兆候を検出することのできる弁診断装置及び弁診断方法を提供する。
【解決手段】弁箱内に収容された弁体と、弁体に接続され、弁体を上下駆動するための弁棒とを有する弁装置の異常を、弁棒の振動に基づいて診断する弁診断装置であって、弁棒頂部に設置され弁棒内部に超音波を伝播させる超音波センサと、超音波センサを駆動して弁棒に超音波を送受信する超音波送受信装置と、前記超音波送受信装置で得られた超音波信号を信号処理する超音波信号処理装置とを有し、超音波センサによって弁棒の底部から反射された弁棒端部エコーを検出し、超音波信号処理装置によって弁棒端部エコーの伝播時間の変化から、弁棒の振動を検出する弁診断装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラントを構成する弁装置の健全性を診断するための弁診断装置及び弁診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラント等の各種プラントにおいて、流体(例えば水など)の流れを制御する電動弁や空気作動弁などの弁装置は多数使用されている。これらの弁装置に不具合が発生した場合、プラントの計画外停止に至る可能性があるため、弁装置は必要な時に確実に動作する保証が求められている。このため、一時的に弁装置を駆動させて正常に動作するかどうかを確認する点検が実施されている。
【0003】
この点検は、電動弁駆動部の振動の他、電流、トルク、リミットスイッチの信号等を診断装置により測定し、それぞれのレベルや駆動のタイミングを分析評価することで駆動部にかかる負荷の異常や駆動部の部品の摩耗等によるガタ等、電動弁の駆動部の異常を診断するものである。
【0004】
弁装置の点検としては更に、弁装置を分解し、弁装置を構成する各部品の点検を行う分解点検も定期的に実施されている。分解点検される部品には多種多様なものがあるが、その一つとして弁棒が挙げられる。弁棒は、流路を開閉する弁体とネジ等で固定された1m程度の長尺棒であり、流路の開度を調整するために弁体位置を調整する駆動源とも機械的に接続された部品である。このように弁棒は、弁体と駆動源との中継部品であり異常が発生すれば流れの制御ができなくことから重要な点検部品となっている。
【0005】
この弁棒は、弁装置のトルク異常や弁体の異常振動等といった過大な負荷がかかることによって弁体近傍の弁棒表面に亀裂が発生して折損に進展する可能性がある。このため、分解点検にて弁棒表面の直接目視、染色液探傷、接触式超音波探傷による亀裂検査が実施されている。
【0006】
しかしながら、分解点検を行うことは点検時間の増大につながる。また、分解部品の組み立てミスなどによって弁装置としての駆動に異常をきたし、流れの制御ができなくなるトラブル事象も発生する可能性がある。このため、弁棒検査を非分解で実施できる技術開発が望まれている。
【0007】
このように、弁棒検査を非分解で実施する方法としては、弁棒の頂部から超音波を入射し、亀裂部で反射する超音波エコーを検出して弁棒内に発生した亀裂そのものを検出する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
また、亀裂の有無によって弁棒の振動モードが変化することを利用し、打診により予め求めてある正常時の振動数との比較により亀裂の有無や亀裂の発生箇所を推定する方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0009】
また、弁装置の外周側面から弁棒に向かって超音波を入射し、弁棒での超音波エコーの検出を連続的に行うことによって弁棒の振動を検出し、亀裂が発生する前の兆候である弁棒の異常振動を検出する方法が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第2868861号公報
【特許文献2】特開平6−300667号公報
【特許文献3】特開2010−54434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
弁棒の健全性について考えると、仮に亀裂が発生した場合、プラントの運転状況や弁の開度状況によるが、弁内の流れにより亀裂の進展速度は加速度的に速くなり、弁棒が短時間で折損に至る場合もある。このことから亀裂検知は早期での検出が望ましく、特許文献1、2のような亀裂発生後の検知ではなく、特許文献3の振動計測のような異常の兆候を捕らえることが有効な診断方法である。
【0012】
また、特許文献3のように、弁装置の側面から超音波を入射させて弁棒の振動を検出する方法では、超音波を弁装置の外壁と内部の液体を経由して弁棒に到達させるため、超音波の減衰が大きく、更に弁棒は円柱形状であることから反射した超音波が入射位置に戻ってくる超音波の強度は微小となる。このため十分な信号を得るには超音波センサの入射角度の微調整が必要となり、弁診断装置の設置に時間を要することになる。さらに、超音波の伝播路上の外壁で多重反射する超音波エコーも重複して検出されるため、受信信号の中から弁棒からの超音波エコーを識別する信号処理も必要となる。
【0013】
本発明は、上記従来の事情に対処してなされたもので、弁診断装置の設置に時間を要することなく、容易に弁棒に亀裂が発生する前の異常兆候を検出することのできる弁診断装置及び弁診断方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の弁診断装置の一態様は、弁箱内に収容された弁体と、前記弁体に接続され、前記弁体を上下駆動するための弁棒とを有する弁装置の異常を、前記弁棒の振動に基づいて診断する弁診断装置であって、前記弁棒頂部に設置され前記弁棒内部に超音波を伝播させる超音波センサと、前記超音波センサを駆動して前記弁棒に超音波を送受信する超音波送受信装置と、前記超音波送受信装置で得られた超音波信号を信号処理する超音波信号処理装置とを有し、前記超音波センサによって前記弁棒の底部から反射された弁棒端部エコーを検出し、前記超音波信号処理装置によって前記弁棒端部エコーの伝播時間の変化から、前記弁棒の振動を検出することを特徴とする。
【0015】
本発明の弁診断方法置の一態様は、弁箱内に収容された弁体と、前記弁体に接続され、前記弁体を上下駆動するための弁棒とを有する弁装置の異常を、前記弁棒の振動に基づいて診断する弁診断方法であって、前記弁棒頂部に、前記弁棒内部に超音波を伝播させる超音波センサを配設し、超音波送受信装置により前記超音波センサを駆動して前記弁棒に超音波を送信し、前記弁棒底部からの弁棒端部エコーを受信して、前記弁棒端部エコーの伝播時間の変化から前記弁棒の振動を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、弁診断装置の設置に時間を要することなく、容易に弁棒に亀裂が発生する前の異常兆候を検出することのできる弁診断装置及び弁診断方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る弁診断装置及び弁診断方法の構成を模式的に示す図。
【図2】検出される超音波信号の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0019】
図1(a),(b)は、本発明の一実施形態に係る弁診断装置及び弁診断方法の構成を模式的に示す図である。図1において、1は流体(例えば水など)の流路を開閉し、又流路の開度を調整するための弁体を示している。この弁体1は、弁棒2の一端にネジ等で固定されている。
【0020】
弁体1は、弁箱3内に収容されており、弁棒2の弁体1と接続された側とは反対側の端部(頂部)は弁箱3の外側に導出され、弁装置の駆動部(図示せず。)に接続されている。そして、この弁装置の駆動部によって弁体1と弁棒2は上下に移動するように構成されている。このように、弁体1を上下動させた時の弁体1と弁箱3の隙間量により、流体の流量を調節できるようになっている。この時、弁体1と弁箱3の隙間を流れる流体の流体力により弁体1と弁棒2は振動することになる。その流体力により弁棒が疲労し、条件によっては亀裂の発生やさらには破断にいたる場合がある。
【0021】
本実施形態において、弁棒2の頂部(図1中上側端部)に、弁棒2の底部(図1中下側端部)に向かって超音波が垂直に入射されるように超音波センサ4が設置されている。超音波センサ4には、超音波の送受信を行う送受信器10が接続されている。また、送受信器10には、A/D変換器11を介して信号処理部12が接続されており、信号処理部12には、表示部13が接続されている。
【0022】
超音波センサ4からの超音波としては、縦波及び横波のいずれも弁棒2を伝播させることが可能である。この弁棒2を伝播する超音波は、音響的インピーダンスの違いから弁体1までは伝播せず、弁棒2の底部でほぼ反射される。この超音波エコーは、弁棒端部エコーとして超音波センサ4で検出される。この時、弁棒2が振動し、弁棒2の先端部分が湾曲していれば、図1(b)に矢印で示すように、弁棒2内の超音波の伝播経路はΔLだけ長さが短くなる。
【0023】
超音波センサ4において検出され、信号処理部12において測定される超音波信号は、縦軸を振幅、横軸を伝播時間とした図2のグラフに示すように、送信波に対して弁棒全長の2倍相当の伝播時間の遅れを持った弁棒端部エコーとしてそのピークが検出される。この弁棒端部エコーのピーク位置は、振動が発生していなければ伝播時間Tが一定であるため一定であるが、弁体1が振動していれば、弁体1に接続されている弁棒2も振動することから弁棒端部エコーのピーク位置もΔTだけ変動する。この時、使用する超音波の周波数をメガHzオーダーとすれば、超音波の波長は約0.1mmであることから、この0.1mmオーダーで振動による長さΔLの微小変化を検出することが可能である。
【0024】
振動を計測するには、この弁棒端部エコーの測定を繰り返し行う必要がある。弁棒2に異常振動が起きた場合の振動周波数は約100Hzであることから、超音波を送信する測定間隔を、この異常振動の振動周波数の数倍から1桁上の1kHz程度とすれば、異常振動の有無を検出することが可能である。なお、この弁棒端部エコーの時間変化は、弁棒端部エコーの最大値(ピーク)の時間軸上の位置の変化を読み取ることで、把握することができる。なお、弁棒2に発生している振動が通常時の振動であるか、異常振動であるかの判定は、予め、通常時の振動の周波数及び振幅のパターンと、想定される異常時における振動の周波数及び振幅のパターンを取得しておき、これらのデータに基づいて行うことができる。
【0025】
また、弁棒2に亀裂5が発生すれば、超音波の伝播経路に反射源が現れることから図2に破線で示したように、弁棒端部エコー以外に亀裂エコーも発生する。したがって、この亀裂エコーの有無によって、亀裂5の有無を容易に検出することが可能となる。
【0026】
以上のように、本第1実施形態によれば、弁装置に特別な改造をすることなく、非分解で弁棒2の振動及び、弁棒2内に発生した亀裂5を検出することができる。そして、異常振動の発生を検知することにより、亀裂発生前の異常の兆候を捕らえて健全性の診断を行えるとともに、亀裂5の有無の検出による健全性の診断も行うことができる。
【0027】
また、超音波センサ4を取り付ける弁棒2の頂部は平面状となっていることから、容易に超音波センサ4を設置することができ、さらに、弁棒2の頂部から底部に向けて垂直に超音波を伝播させるため、超音波センサの入射角度の微調整等が不要であり、短時間でセットアップすることが可能である。
【0028】
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態に係る弁診断装置の装置構成は、図1に示した第1実施形態と同様であるが、信号処理方法が第1実施形態と異なっている。第1実施形態では、図2に示す信号採取を繰り返し行い、弁棒端部エコーのピーク位置の変化から弁棒2の振動を検出したが、第2実施形態では、この信号を複数回取得して平均化した信号から弁棒2の振動を検出する。
【0029】
信号を複数回取得して平均化する手法は、通常は信号からノイズを除去するために行うものであるが、弁棒2に振動が発生している場合には、弁棒端部エコーが検出される伝播時間が異なるため、加算平均した振幅レベルは振動していない場合と比較して低いレベルとなる。このことから、予め振動していない状態で、図2に示すような弁棒端部エコーの信号を複数回取得して平均化した信号の振幅レベルを基準値として得ておき、診断時に、弁棒端部エコーの信号を複数回取得して平均化した信号の振幅レベルと、基準値とを比較すれば、弁棒2の振動を検知することが可能となる。
【0030】
この第2実施形態では、前述した第1実施形態と同様な効果を得ることができるとともに、信号を平均化した上で弁棒2の振動を検出するので、信号処理部12において、第1実施形態のように測定毎に最大値を読み取るような高速処理を必要とすることがない。
【0031】
次に、第3実施形態について説明する。第3実施形態に係る弁監視装置の装置構成は、図1に示した第1実施形態と同様であるが、信号処理方法が第1実施形態及び第2実施形態と異なっている。第1実施形態では、前述したように弁棒端部エコーの最大値を読み取ることによって弁棒2の振動を検知するため、取得データの中の1点の値のみを用いた検出方法であり、信号に含まれるノイズの影響を受ける可能性がある。
【0032】
これに対して、第3実施形態では、図2に示すような弁棒端部エコーの信号の全体を用いる方法である。すなわち、弁棒2が振動していない状態で検出される弁棒端部エコーを基準信号として予め取得し、この基準信号と診断時の弁棒端部エコーの2つの信号を相互相関処理し、その相関係数が最大となる時間位置を読み取る。これによって、弁棒2の振動を検出する。
【0033】
このように、第3実施形態では、第1実施形態のように最大値の1点のみの測定ではなく、信号全体を用いて測定を行うため、ノイズによる影響が低減され、伝播時間の測定精度が向上する。
【0034】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0035】
1……弁体、2……弁棒、3……弁箱、4……超音波センサ、5……亀裂、10……送受信器、11……A/D変換器、12……信号処理部、13……表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁箱内に収容された弁体と、前記弁体に接続され、前記弁体を上下駆動するための弁棒とを有する弁装置の異常を、前記弁棒の振動に基づいて診断する弁診断装置であって、
前記弁棒頂部に設置され前記弁棒内部に超音波を伝播させる超音波センサと、
前記超音波センサを駆動して前記弁棒に超音波を送受信する超音波送受信装置と、
前記超音波送受信装置で得られた超音波信号を信号処理する超音波信号処理装置とを有し、
前記超音波センサによって前記弁棒の底部から反射された弁棒端部エコーを検出し、前記超音波信号処理装置によって前記弁棒端部エコーの伝播時間の変化から、前記弁棒の振動を検出する
ことを特徴とする弁診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の弁診断装置において、
前記弁棒が振動していない状態で検出される前記弁棒端部エコーを複数回取得し、取得した信号を平均化した前記弁棒端部エコーの振幅レベルを基準値として予め取得し、
診断時に、前記弁棒端部エコーを複数回取得し、取得した信号を平均化した前記弁棒端部エコーの振幅レベルと、前記基準値とを比較して前記弁棒の振動を検出する
ことを特徴とする弁診断装置。
【請求項3】
請求項1記載の弁診断装置において、
前記弁棒が振動していない状態で検出される前記弁棒端部エコーを基準信号として予め取得し、
前記基準信号と診断時の前記弁棒端部エコーの最大相関時間の変化から前記弁棒の振動を検出する
ことを特徴とする弁診断装置。
【請求項4】
弁箱内に収容された弁体と、前記弁体に接続され、前記弁体を上下駆動するための弁棒とを有する弁装置の異常を、前記弁棒の振動に基づいて診断する弁診断方法であって、
前記弁棒頂部に、前記弁棒内部に超音波を伝播させる超音波センサを配設し、
超音波送受信装置により前記超音波センサを駆動して前記弁棒に超音波を送信し、前記弁棒底部からの弁棒端部エコーを受信して、
前記弁棒端部エコーの伝播時間の変化から前記弁棒の振動を検出する
ことを特徴とする弁診断方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−251835(P2012−251835A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123704(P2011−123704)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】