説明

強磁性体及びその製造方法

【課題】非強磁性物質(非強磁性元素)を原料とする強磁性体、及びその簡易な製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の強磁性体の製造方法は、
グラファイトと、グラファイトに対して質量比で2倍以上の金属サマリウムとを耐熱性容器内に真空封入する工程と、
真空封入後の耐熱性容器を500℃以上750℃以下で加熱処理する工程と、
を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性を有しないグラファイトと、金属サマリウム(単体金属であるサマリウム)とを原料として、グラファイト層間化合物の一種である強磁性体を簡易に製造する方法に関する。また、本発明は、そのような製造方法によって得られる強磁性体に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルディスク等の磁気記録媒体としては、強磁性酸化鉄、Co変性強磁性酸化鉄、CrO2、強磁性金属粉末等の強磁性粉末を結合剤中に分散した磁性層を支持体に塗設したものが広く用いられている。また、磁気記録の高密度化に伴い、強磁性金属微粒子又は酸化鉄微粒子のような強磁性粉末の応用範囲は拡大しつつあり、強磁性金属微粒子又は酸化鉄微粒子に対する要求も、ますます高度なものとなってきている。
【0003】
強磁性体粉末の製造方法としては、例えば、軟磁性金属粉末の場合には、材料となる金属元素を、溶解炉を用いて溶解し、所定の温度と時間で熱処理を行って粉砕する方法が一般的であった。しかし、この方法では、磁性物質(磁性元素)を原料として高温に加熱する必要があるため、特別な設備が必要となる。また、製造コストも高くなりがちである。
【0004】
グラファイト層間化合物(GIC)は、グラファイトの層間に物質やイオンを挿入することにより得られる化合物であり、挿入する物質やイオンに応じてグラファイト層間化合物の物性にも多様な特徴が現れる。中でも、超伝導を示す層間化合物はよく知られている。
【0005】
例えば、チタン、マグネシウム等の常磁性を有する金属の金属化合物粉末を含有するグラファイト化合物からなる強磁性炭素材料が、特許文献1に開示されている。また、FeOOH(ゲータイト)針状結晶を水素還元することにより得られる針状鉄粉の表層にサマリウム及びホウ素が拡散しているサマリウム・鉄・ホウ素系永久磁石原料が、特許文献2に開示されている。
【0006】
一方、サマリウム(Sm)は、グラファイトと層間化合物を形成するであろうことは示唆されていたが(非特許文献1)高品質の具体的な層間化合物の作製例は未だに報告されていない。そして、Sm-GICの物性についても、不明なままであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−45124号公報
【特許文献2】特開平8−203715号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】”INTERCALATION OF RARE EARTH METALS IN GRAPHITE”, Mohamed El MAKRINI et al., Physica 99B (1980) 481-485.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、非強磁性物質(非強磁性元素)を原料とする強磁性体、及びその簡易な製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、非磁性物質であるグラファイトと、金属サマリウムとを耐熱性容器内に真空封入した状態で加熱処理することにより、金属サマリウムがグラファイトの層間に挿入され、極低温域(60K付近)においてサマリウムコバルトに匹敵する高保磁力を有する新規強磁性体を含有する物質を製造することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
具体的に、本発明は、
グラファイトと、グラファイトに対して質量比で2倍以上の金属サマリウムとを混合する工程と、
グラファイトと金属サマリウムとの混合物を耐熱性容器内に真空封入する工程と、
前記混合物を500℃以上750℃以下で加熱処理する工程と、
を有する強磁性体の製造方法に関する。
【0012】
また、本発明は、
グラファイトと、グラファイトに対して質量比で2倍以上の金属サマリウムとを混合し、真空封入下、500℃以上750℃以下で加熱処理することにより得られる、強磁性体に関する。
【0013】
グラファイトと、グラファイトに対して過剰量となる金属サマリウムとを混合し、耐熱容器内に真空密封し、500℃以上750℃以下で加熱処理することにより、サマリウム蒸気がグラファイトの層間に挿入され、Sm-GICが得られる。
【0014】
金属サマリウムは、真空密封下、500℃以上750℃以下で加熱処理することにより、サマリウム蒸気となり、グラファイトの層間に挿入され、Sm-GICが形成される。理論的には炭素(グラファイト)6モルに対して金属サマリウム1モルを原料として使用すればよいが、サマリウム蒸気は、その一部が耐熱性容器の内壁に付着する。このため、グラファイト及び金属サマリウムの密度を考慮すると、グラファイトに対して質量比で2倍以上である過剰量の金属サマリウムを使用することが好ましい。
【0015】
加熱温度を500℃以上とするのは、500℃未満では金属サマリウムの揮散が不十分となるためである。また、加熱温度を750℃以下とするのは、750℃超ではグラファイトとサマリウム蒸気とが化学反応を起こし、カーバイドが形成されるためである。
【0016】
金属サマリウムは、不活性ガス雰囲気下で表面研磨し、酸化膜を除去したものを使用することが好ましい。
【0017】
なお、耐熱性容器としては石英管が好ましい。透明で内部観察が可能であり、端部を熔封することにより、混合物を容易に真空封入することが可能だからである。
【0018】
加熱時間が2週間以上であることが好ましい。加熱温度500℃以上750℃以下の温度範囲では、2週間未満の加熱時間では十分な保持力を有し、かつ、均質な強磁性体が得られないためである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の強磁性体は、グラファイトの層状構造を残しつつ、極低温域で高い保持力を発揮する。そして、層状構造を有していることから、従来の強磁性体と異なり、磁気特性を制御することが可能である。また、従来の強磁性体よりも容易に製造することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1の強磁性体について、印加磁場を変化させた場合の磁化の変化を表すグラフである。
【図2】実施例2の強磁性体について、印加磁場を変化させた場合の磁化の変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、以下に限定されない。
【0022】
[実施例1]
2mm×2mmのブロック状グラファイト(MT-MDT社製高配向熱分解黒鉛、型番ZYA)2mgと、酸化膜を除去した金属サマリウム4mgとを、内径4mm、長さ10cmの石英管に充填し、真空封入した。
【0023】
次に、真空封入後の石英管を電気炉内に入れ、650℃で2週間加熱処理を行った。
【0024】
電気炉内の温度が室温付近まで下がった後、石英管を取り出し、内部から黄褐色のブロックを回収した。この黄褐色のブロックは、グラファイトの層状構造に金属サマリウムが挿入されたSm-GICであることが、X線回折の結果から確認された。また、原料として使用したブロック状グラファイトと比べ、厚みが増していた。
【0025】
黄褐色のブロック(3mg)をSQUID測定用の試料管に封入し、SQUID装置(超伝導量子干渉計:Superconducting QUantum Interference Device/Quantum design製MPMS-5SH型)を用いて、磁化の磁場依存性を調べた。その結果を、図1に示す。
【0026】
測定温度60Kにおいて、強磁性体に特有のヒステリシスが認められ、測定試料である実施例1の黄褐色のブロックが、サマリウムコバルト(SmCo5)の28kOeに匹敵する22kOeという高い保持力を有する強磁性体を含有していることが確認された。また、キュリー温度は150Kであった。
【0027】
なお、実施例1で使用したグラファイト及び酸化膜を除去した金属サマリウムについて、実施例1の黄褐色ブロックと同様に、SQUID装置を用いて磁化の磁場依存性を調べた(測定温度60K)。その結果、ヒステリシスは確認されなかった。
【0028】
また、加熱処理を650℃で10週間とした場合に得られた黄褐色のブロックについても、磁化の磁場依存性を調べたところ、実施例1とほとんど同じ結果が得られた。
【0029】
[実施例2]
ブロック状グラファイトと、酸化膜を除去した金属サマリウムとを、質量比1:50で真空密封する以外、すべて実施例1と同様にして黄褐色のブロックを得た。この実施例2の黄褐色のブロックについて、実施例1と同様にSQUID装置を用いて、磁化の磁場依存性を調べた。その結果を、図2に示す。
【0030】
測定温度45Kにおいて、強磁性体に特有のヒステリシスが認められ、測定試料である実施例2の黄褐色のブロックが、サマリウムコバルト(SmCo5)の28kOeとほぼ同程度の27kOeという高い保持力を有する強磁性体を含有していることが確認された。また、キュリー温度は150Kであった。
【0031】
[実施例3]
ブロック状グラファイトと、酸化膜を除去した金属サマリウムとを、質量比1:100で真空密封する以外、すべて実施例1と同様にして黄褐色のブロックを得た。この実施例3の黄褐色のブロックも、実施例2の黄褐色ブロックと同程度の保持力が認められた。
【0032】
[比較例1]
真空封入後の石英管を電気炉内に入れ、100℃で4週間加熱処理を行う以外、すべて実施例1と同様の操作を行った。この条件では、封入した金属サマリウムが揮散せずにほぼ元の状態で残存しており、得られたブロックについてSQUID装置を用いて磁化の磁場依存性を調べたところ、強磁性体の存在は認められなかった。
【0033】
[比較例2]
真空封入後の石英管を電気炉内に入れ、電気炉内において900℃で10週間加熱処理を行う以外、すべて実施例1と同様の操作を行ったが、実施例1と同様の黄褐色のブロックは得られなかった。この条件では、揮散した金属サマリウムがグラファイトと反応し、カーバイドが形成されたと推察された。
【0034】
[比較例3]
真空封入後の石英管を電気炉内に入れ、650℃で3日間加熱処理を行う以外、すべて実施例1と同様にして黒色のブロックを得た。得られたブロックについてSQUID装置を用いて磁化の磁場依存性を調べたところ、強磁性体の存在は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の強磁性体及びその製造方法は、磁気応用素子をはじめとする磁気分野において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイトと、グラファイトに対して質量比で2倍以上の金属サマリウムとを耐熱性容器内に真空封入する工程と、
真空封入後の耐熱性容器を500℃以上750℃以下で加熱処理する工程と、
を有する強磁性体の製造方法。
【請求項2】
加熱時間が2週間以上である請求項1に記載の強磁性体の製造方法。
【請求項3】
グラファイトと、グラファイトに対して質量比で2倍以上の金属サマリウムとを、真空封入下、500℃以上750℃以下で加熱処理することにより得られる、強磁性体。
【請求項4】
加熱時間が2週間以上である請求項3に記載の強磁性体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−108847(P2011−108847A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262308(P2009−262308)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年8月18日 社団法人 日本物理学会発行の「日本物理学会講演概要集第64巻第2号(2009年秋季大会) 第4分冊」に発表
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】