説明

微生物によるL−アスコルビン酸の製造

本発明は、配列番号1のうち少なくとも20個の連続するヌクレオチドの部分ヌクレオチド配列を含む、L−ソルボソンデヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドから得られる単離されたポリヌクレオチド分子を開示する。さらに本発明は、高収率でのL−アスコルビン酸の製造方法、特に所定の炭素源をビタミンCに転換できる微生物の休止細胞を使用する方法に関する。このようにして得られたビタミンCは、精製工程および/または分離工程によってさらに加工処理されうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L−ソルボソンをL−アスコルビン酸に直接転換する酵素をコードするポリヌクレオチドから誘導されるポリヌクレオチドに関する。その酵素であるL−ソルボソンデヒドロゲナーゼ(以下SNDHai)は、L−ソルボソンからL−アスコルビン酸(ビタミンC)を直接産生する。L−ソルボソンデヒドロゲナーゼ(SNDHai)は、グルコノバクター(Gluconobacter)属およびアセトバクター(Acetobacter)属に属する細菌から得られた。本発明は、さらに高い収率でのL−アスコルビン酸の製造方法に関する。L−アスコルビン酸は、製薬業、食品工業および化粧品工業に広く使用されている。
【0002】
過去70年間、L−アスコルビン酸 (ビタミンC)は、周知のライヒシュタイン法によってD−グルコースから工業的に製造されている。この方法における全段階は、微生物変換によって実施される一工程(D−ソルビトールからL−ソルボースへの転換)を除いて化学的である。L−アスコルビン酸の工業製造のための最初の実施以来、ライヒシュタイン法の効率性を改善するためにいくつかの化学的および技術的修正が用いられた。ビタミンCの製造の最近の発展が、Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 5th Edition, Vol. A27 (1996), pp. 547ffに要約されている。近年、微生物またはそれから単離された酵素の助けを借りて、ビタミンC製造の種々の工程が行われている。
【0003】
L−アスコルビン酸のための現行の製造方法は、高いエネルギー消費ならびに大量の有機溶媒および無機溶媒の使用などのいくつかの望ましくない特徴を有する。したがって、過去10年間にわたり、より経済的および生態学的であろう微生物転換を使用してL−アスコルビン酸を製造するための他のアプローチが研究された。いくつかの微生物ではL−アスコルビン酸の直接産生が報告された。
【0004】
驚くことに、G.オキシダンス(G. oxydans)N44−1から単離されたL−ソルボソンデヒドロゲナーゼ(以下SNDHaiと呼ぶ)、またはグルコノバクター属およびアセトバクター属に属する酢酸菌に由来するそのオーソログである酵素を使用してL−ソルボソンからL−アスコルビン酸への直接転換を行えることが今や見いだされた。この反応を担う遺伝子が単離され、その配列が決定された。この遺伝子がコードするソルボソンデヒドロゲナーゼ酵素は、L−ソルボソンをL−アスコルビン酸に転換する。この酵素は、公知のSNDH酵素とは異なる。
【0005】
本明細書において相互交換可能に使用されるL−アスコルビン酸またはビタミンCは、例えば未解離の遊離酸型または陰イオンとして解離した型のように、水溶液中でみられるL−アスコルビン酸の任意の化学形態でありうる。可溶化塩型のL−アスコルビン酸は、例えばカリウム、ナトリウム、アンモニウム、またはカルシウムのような発酵上清に通常みられるあらゆる種類の陽イオンの存在下での陰イオンとして特徴づけられうる。遊離酸型のL−アスコルビン酸の単離された結晶も含まれうる。一方、塩型のL−アスコルビン酸の単離された結晶は、対応する塩の名前で、すなわちアスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸カルシウムなどと呼ばれる。
【0006】
L−ソルボソンからビタミンCへの転換は、結果としてビタミンCをもたらす基質の転換がSNDHaiによって行われること、すなわちその基質がビタミンCに直接転換されうることを意味する。
【0007】
クローニングベクターは、例えば宿主細胞中で自律的に複製でき、かつ一つまたは少数の制限エンドヌクレアーゼ認識部位に特徴づけられるあらゆるプラスミドDNAもしくはファージDNAまたは他のDNA配列でありうる。その認識部位でベクターの本質的な生物学的機能を喪失せずに決定可能な方法でそのようなDNA配列を切断でき、DNAフラグメントを複製させるためにその認識部位にそのDNAフラグメントをスプライスできる。クローニングベクターは、例えばそのクローニングベクターで形質転換された細胞の同定に使用するために適したマーカーをさらに含みうる。そのようなマーカーは、例えばテトラサイクリンまたはアンピシリンのような例えば抗生物質耐性を提供しうる。
【0008】
発現ベクターは、例えば形質転換により宿主に導入された後に、その発現ベクターにクローニングされた遺伝子の発現を増強できるあらゆるベクターでありうる。クローニングされた遺伝子は通常、例えばプロモーター配列のようなある制御配列の制御下に置かれる(すなわち作動可能に連結する)。プロモーター配列は、構成性または誘導性のいずれかでありうる。
【0009】
核酸分子は、DNAおよびRNAを含み得る。例えば二本鎖核酸、一本鎖核酸、およびそのヌクレオシドのようなあらゆる形態が核酸分子として有用でありうる。例えばDNA−RNAハイブリッド、DNA−RNA−タンパク質ハイブリッド、RNA−タンパク質ハイブリッド、およびDNA−タンパク質ハイブリッドのようなハイブリッドも含まれる。ポリヌクレオチドは、いくつかの塩基、通常少なくとも20個のヌクレオチド塩基からなる場合がある。
【0010】
「相同性」という用語は、二つのポリヌクレオチド配列の類似性のことを意味する。相同性を決定するために、類似した領域を比較できるようにポリヌクレオチド配列を配置する。必要ならば、類似性を向上させるためにある位置のヌクレオチドをブランク位置に交換してもよい。例えば手作業で、または商業的に入手できるコンピュータプログラムを使用することによって、相同性の比較を行える。最大の相同性を得るために、好ましくはプログラムを標準条件で実行する。二つのヌクレオチド配列間の相同性または類似性の程度を、「%相同性」で示す。
【0011】
変異は、例えば目的のヌクレオチド配列における単一塩基対の変更、挿入もしくは欠失、または例えばトランスポゾンのような遺伝子エレメントの挿入のような遺伝学的事象でありうる。
【0012】
例えば微生物の染色体中または内在性プラスミド上の任意の位置に生じて変異の正確な部位が予想できないランダムに、すなわちランダム変異誘発のような種々の方法で、DNAへの変異の発生、すなわち変異誘発を行うことができる。例えば放射線照射、化学処理、または遺伝子エレメントの挿入のような作用因子によって引き起こされる、例えば物理的損傷の結果として、変異を発生させることもできる。
【0013】
それぞれの遺伝子の開始コドンに隣接して位置し、一つまたは複数の近隣遺伝子の転写を開始するあらゆるDNA配列をプロモーターとして使用できる。一般にプロモーターは、それぞれの遺伝子の5′領域に位置しうる。プロモーターは、誘導性プロモーターまたは構成性プロモーターでありうる。誘導性プロモーターの場合、誘導剤に応答して転写率は増加する。構成性プロモーターの場合、転写率は例えば誘導剤によって調節されない。
【0014】
「同一性」および「%同一性」という用語は、例えば以下に例示するような配列解析プログラムを使用した二つのアミノ酸配列の比較を意味する。「%同一である」は、比較されるアミノ酸配列の中で一致して同一のアミノ酸となっている対象のアミノ酸配列のアミノ酸のパーセントを指す。比較される両アミノ酸配列が、それらのアミノ酸のいずれとも相異しないならば、それらの配列は同一であるか、あるいは100%の同一性を有する。
【0015】
一態様において本発明は、少なくとも20個の連続するヌクレオチドの、配列番号1の部分ヌクレオチド配列を含む、L−ソルボソンデヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド分子から誘導可能な単離されたポリヌクレオチドに関する。このように本発明は、配列番号1の少なくとも20個の連続するヌクレオチドの部分ヌクレオチド配列を含む、L−ソルボソンデヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドから得られる単離されたポリヌクレオチド分子を提供する。単離されたポリヌクレオチドは、配列番号1のうち好ましくは少なくとも50個、さらに好ましくは少なくとも100個の連続するヌクレオチドの部分ヌクレオチド配列を含む。配列番号1のヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチドが最も好ましい。さらに最も好ましい態様は、配列番号11、13、15、17、19、21および26からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチドである。その単離されたポリヌクレオチドは、L−ソルボソンデヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドから誘導できる。配列番号1は、微生物であるグルコノバクターオキシダンスN44−1から単離されたSNDHaiの完全ヌクレオチド配列に相当する。そのような配列の部分を種々の目的に使用できる。例えば他の生物から単離された適切なポリヌクレオチドを増幅させるためのプライマーとして、例えば短鎖ポリヌクレオチドを使用できる。短鎖ポリヌクレオチドは、約10〜約100塩基対(bp)、通常約14〜約50bp、好ましくは約17〜約30bpの範囲に入りうる。そのような短鎖ポリヌクレオチド配列の例は、配列番号5、6、7、8、9、10、23または24によって表される。それよりも長鎖のポリヌクレオチドは、酵素活性を有するポリペプチドをコードしうる。例えばSNDHaiは、酵素活性に使用できない膜貫通ドメインを有する。膜貫通ドメインを有さない酵素的に活性なタンパク質の領域をコードするポリヌクレオチド部分が発現するならば、そのようなポリペプチドは十分な酵素活性を有しうる。
【0016】
単離されたポリヌクレオチド分子は、L−ソルボソンデヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドもコードする、より長鎖のポリヌクレオチド配列から通常は誘導される。そのようなポリヌクレオチドは、例えば細菌から単離されうる。好ましくはそれらのポリヌクレオチドは、G.オキシダンス、G.フラトゥリ(G. frateurii)、G.セリナス(G. cerinus)およびA.アセチ(A. aceti)を含むグルコノバクター属およびアセトバクター属に属する細菌から単離されるが、それらに限定されない。そのようなポリヌクレオチドが、より長鎖のポリヌクレオチド配列から誘導される場合、そのようなポリヌクレオチド配列と配列番号1との間の相同性を決定することが可能である。そのような場合に少なくとも100個の連続するヌクレオチドを有する領域が好ましくは選択され、他のポリヌクレオチドからの対応するストレッチをそれと比較できる。そのポリヌクレオチド配列および配列番号1から誘導可能な対応するストレッチが、100個の連続するヌクレオチドを比較することによって例えば同一である60個のヌクレオチドを有するならば、相同性は60%である。このように、一態様において本発明は、本発明による単離されたポリヌクレオチドに関し、部分ヌクレオチド配列は、少なくとも100個の連続するヌクレオチドが比較されたとき配列番号1と少なくとも60%の相同性を有するポリヌクレオチド配列から誘導される。好ましくは、本発明の部分ポリヌクレオチド配列は、配列番号1と少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも90%の相同性を有する。相同性の決定のために例えば少なくとも100個のストレッチ、好ましくは300個のストレッチ、さらに好ましくは少なくとも500個の連続するヌクレオチドのストレッチを使用できる。
【0017】
本発明は、L−ソルボソンからL−アスコルビン酸を産生するための、グルコノバクター属およびアセトバクター属を含めた酢酸菌に属する微生物のL−ソルボソンデヒドロゲナーゼをコードする新規なポリヌクレオチド配列を提供する。前記ポリヌクレオチドは、配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチド、あるいは例えば配列番号2のアミノ酸配列における一つもしくは複数のアミノ酸の置換、欠失、挿入または付加によって前記ポリペプチドから誘導され、また誘導することができるポリペプチドを好ましくはコードし、そのポリペプチドは、L−ソルボソンデヒドロゲナーゼ活性を保持し、L−ソルボソンからL−アスコルビン酸を産生する。例えば配列番号12、14、16、18、20、22、および27によって表されるポリペプチドのようにL−ソルボソンからL−アスコルビン酸を産生するL−ソルボソンデヒドロゲナーゼ活性を保持するポリペプチドの部分ポリペプチド配列をコードするヌクレオチド配列もさらに含まれる。
【0018】
本発明のポリペプチドは、本出願に開示されるポリペプチドのアミノ酸配列より選択される少なくとも25個の連続するアミノ酸の部分アミノ酸配列を好ましくは含む。当業者は、ポリペプチドにおいてあるストレッチが生物学的活性に必須であるという事実を認識している。しかし、アミノ酸が、交換されるアミノ酸に好ましくは類似するアミノ酸のような他のアミノ酸によって挿入、欠失または置換されうる他の領域がある。
【0019】
本発明は、本発明のポリヌクレオチド、特に適切な宿主細胞において機能するポリヌクレオチドを含む組換えDNA分子および/または発現ベクターにさらに関するものである。
【0020】
例えば複製可能な発現ベクターもしくはクローニングベクターを有する細胞、または自己の染色体もしくはゲノム上に所望の遺伝子を含むように周知の手法によって遺伝子操作された細胞のような、外来ヌクレオチド酸分子(類)のレシピエントとして働く任意の細胞を宿主細胞として使用できる。宿主細胞は、例えば細菌細胞、ヒト細胞を含む動物細胞、酵母細胞を含む真菌細胞、および植物細胞のような原核生物または真核生物起源でありうる。好ましくは宿主細胞は、インビボ活性型としてL−ソルボソンデヒドロゲナーゼを発現できる細菌に属し、さらに好ましくはグルコノバクター属、アセトバクター属、P.プチダ(P. putida)のようなシュードモナス属(Pseudomonas)または大腸菌(Escherichia coli)のようなエシェリキア属の細菌に属する。
【0021】
したがって、そのような発現ベクターを含むか、またはその染色体DNAに組込まれたポリヌクレオチドを有するそのようなヌクレオチドを含む上記のような宿主細胞を提供することは、本発明の一局面である。このとき、そのような宿主細胞は、組換え宿主細胞または組換え生物と呼ばれる。
【0022】
本発明は、本発明のポリヌクレオチドによってコードされる組換えL−ソルボソンデヒドロゲナーゼポリペプチドの製造方法にさらに関するものである。そのような方法には、例えば上に具体的に記載したように本発明の任意の組換え生物の培養がある。したがって、本発明の一部は、この方法によって産生される組換えL−ソルボソンデヒドロゲナーゼポリペプチドである。このような組換えL−ソルボソンデヒドロゲナーゼを、例えば酵素反応のために使用され当業者に公知である任意の標準的な手法において可溶性酵素として使用でき、膜モジュールもしくは膜リアクターのような装置の使用によってリサイクルでき、または固相酵素反応のために固体担体上に固定化できる。
【0023】
本発明の別の局面は、本発明のポリヌクレオチドによってコードされる組換えL−ソルボソンデヒドロゲナーゼポリペプチドを活用して基質をL−アスコルビン酸に転換することを含む、L−アスコルビン酸の製造方法である。そのような酵素を自然に、すなわち非組換え的に産生する微生物から単離されたL−ソルボソンデヒドロゲナーゼ(SNDHai)の使用も本発明に含まれ、ここで単離されたSNDHaiは、本発明のポリヌクレオチドによってコードされる。
【0024】
本発明のポリヌクレオチドによってコードされるSNDHaiによってL−アスコルビン酸に転換できる炭素源を基質として使用できる。好ましい基質は、L−ソルボース、D−ソルビトール、およびL−ソルボソンから選択される。
【0025】
本発明の一態様において、L−アスコルビン酸の製造方法は、L−ソルボースをL−ソルボソンに転換する能力またはD−ソルビトールをL−ソルボソンに転換する能力を有する宿主細胞において、L−ソルボースまたはD−ソルビトールをL−アスコルビン酸に転換することを含む。
【0026】
別の態様において、L−アスコルビン酸の製造方法は、本発明のポリヌクレオチドによってコードされる組換えSNDHaiを活用してL−ソルボソンをL−アスコルビン酸に転換することを含む。そのような酵素を自然に、すなわち非組換え的に産生する微生物から単離されるL−ソルボソンデヒドロゲナーゼ(SNDHai)もそのような方法に使用でき、単離されたSNDHaiは、本発明のポリヌクレオチドによってコードされる。
【0027】
本発明は、その酵素(L−ソルボソンデヒドロゲナーゼSNDHaiまたはその部分)をコードする単離された核酸分子を提供する。単離された核酸分子の操作のために設計された方法および手法は、当技術分野において周知である。核酸分子の単離、精製、およびクローニングのための方法、ならびに真核生物および原核生物宿主の使用とその宿主における核酸およびタンパク質の発現とを解説している方法と手法とは、当業者に公知である。
【0028】
本発明のポリペプチドの機能的誘導体も本発明の一部でありうるが、その機能的誘導体は、本発明のアミノ酸配列を基にそのような配列への一つまたは複数のアミノ酸残基の付加、挿入、欠失および/または置換によって規定され、そのような誘導体は、本技術分野において公知であるアッセイか、または本明細書において具体的に記載されるアッセイによって測定されるL−ソルボソンデヒドロゲナーゼ活性もなお有することが好ましい。そのような機能的誘導体は、当技術分野の現状において公知である化学ペプチド合成、または当技術分野の現状に公知である方法による、本明細書に開示されるようなDNA配列に基づいた組換え手法のいずれかによって作成されうる。タンパク質およびペプチドの活性を一般に変更しない、そのような分子におけるアミノ酸の交換は公知である。
【0029】
本発明の特定の態様において、目的の保存的置換は、以下のように生じる:例示的な置換として、AlaからVal/Leu/Ile、ArgからLys/Gln/Asn、AsnからGln/His/Lys/Arg、AspからGlu、CysからSer、GlnからAsn、GluからAsp、GlyからPro/Ala、HisからAsn/Gln/Lys/Arg、IleからLeu/Val/Met/Ala/Phe/ノルLeu、LysからArg/Gln/Asn、MetからLeu/Phe/Ile、PheからLeu/Val/Ile/Ala/Tyr、ProからAla、SerからThr、ThrからSer、TrpからTyr/Phe、TyrからTrp/Phe/Thr/Ser、およびValからIle/Leu/Met/Phe/Ala/ノルLeuが妥当である。好ましい例として、AlaからVal、ArgからLys、AsnからGlu、AspからGlu、CysからSer、GlnからAsn、GluからAsp、GlyからAla、HisからArg、IleからLeu、LeuからIle、LysからArg、MetからLeu、PheからLeu、ProからAla、SerからThr、ThrからSer、TrpからTyr、TyrからPhe、およびValからLeuが妥当である。そのような置換が生物学的活性に変化をもたらすならば、上記の例示的置換と称されるさらに実質的な変化が導入され、産物がスクリーニングされる。
【0030】
特に示さない限り、本明細書におけるDNA分子を配列分析することによって決定されるすべてのヌクレオチド配列は、(モデルApplied Biosystems PRISM 310遺伝子分析装置のような)DNA自動シーケンサを用いて決定された。したがって、この自動化アプローチによって決定されるあらゆるDNA配列について当技術分野において公知であるように、本明細書において決定されるあらゆるヌクレオチド配列は、いくつかの誤りを含みうる。自動化によって決定されるヌクレオチド配列は、配列分析されたDNA分子の実際のヌクレオチド配列と典型的には少なくとも約90%、さらに典型的には少なくとも約95%〜少なくとも約99.9%相同である。当技術分野において周知である手作業によるDNA配列分析法を含む他のアプローチによって、実際の配列をさらに精密に決定できる。当技術分野においてこれも公知であるように、実際の配列に比べ、決定されたヌクレオチド配列に単一の挿入または欠失が生じると、そのヌクレオチド配列の翻訳にフレームシフトを引き起こす結果、決定されたヌクレオチド配列によりコードされる予測アミノ酸配列は、その配列分析されたDNA分子によって実際にコードされるアミノ酸配列とは、そのような挿入または欠失の位置を起点として全く異なるようになるであろう。
【0031】
好ましい態様において、本発明は、配列番号2として挙げられている配列に開示されるL−ソルボソンデヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、その相補鎖、またはこれらの配列を含むポリヌクレオチド;そのDNA配列またはそのフラグメント;およびそのような配列と標準条件でハイブリダイズするが正確に同じアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNA配列に関するものである。
【0032】
ポリヌクレオチド配列の類似性を記載する別の様式は、そのような配列が実際にハイブリダイズするか、またはハイブリダイズしないかを決定することである。これは、ハイブリダイゼーションのために選択した条件に依存する。
【0033】
これに関連してハイブリダイゼーションのために標準的な条件は、特異的ハイブリダイゼーションシグナルを検出するために当業者によって一般に使用される条件、または好ましくは当業者によって使用されるいわゆる「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」を意味する。このように、本明細書に使用される「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」という用語は、配列との間に約95%、好ましくは約97%の相同性が存在するならばハイブリダイゼーションが起こることを意味する。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、例えば100μg/mlサケ精子DNAの存在下もしくは非存在下のDigEasyHyb溶液(Roche Diagnostics GmbH)、または50%ホルムアミド、5×SSC(150mM NaCl、15mMクエン酸三ナトリウム)、0.02%ドデシル硫酸ナトリウム、0.1%N−ラウロイルサルコシン、および2%ブロッキング試薬(Roche Diagnostics GmbH)のような溶液に溶かした(DIG標識システム(Roche Diagnostics GmbH、68298マンハイム、ドイツ)を使用して調製された)ジゴキシゲニン(DIG)標識DNAプローブを用いて42℃で2時間〜4日間インキュベートし、その後室温で2×SSCおよび0.1%SDS中でそのフィルターを5〜15分間で2回洗浄してから65〜68℃で0.5×SSCおよび0.1%SDS、または0.1×SSCおよび0.1%SDS中で15〜30分間で2回洗うことである。
【0034】
一局面において、L−ソルボソンデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子、前記遺伝子を含む核酸分子、発現ベクターおよび本発明に使用される組換え生物を以下の工程によって得ることができる:
(1)使用するトランスポゾンによってコードされる抗生物質耐性を発現するコロニーを得るためにL−ソルボソンからL−アスコルビン酸を産生するグルコノバクター属株またはアセトバクター属株に属する株への、下記のようなトランスポゾン変異;
(2)基質としてL−ソルボソンを用いたスクリーニングにおけるL−アスコルビン酸非産生変異体の選択;
(3)その変異体からの染色体DNAの単離;
(4)コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、またはサザンハイブリダイゼーション、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)クローニングなどによる染色体DNAからのトランスポゾン含有DNAフラグメントのクローニング;
(5)トランスポゾンの挿入を含むDNAフラグメントのヌクレオチド配列の決定;
(6)L−ソルボソンからL−アスコルビン酸を産生する親株からのDNAフラグメントのクローニング;
(7)L−ソルボソンデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が効率的に発現できる発現ベクターの構築;
(8)宿主細胞にDNAを導入するための適切な方法、例えば形質転換、形質導入、接合伝達および/またはエレクトロポレーションによるL−ソルボソンデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を有する組換え生物の構築。この宿主細胞は、それによって本発明の組換え生物となる。
【0035】
トランスポゾン変異誘発は、遺伝子解析のための強力なツールとして公知である(P. Gerhardt et al., "Methods for General and Molecular Bacteriology" Chapter 17, Transposon Mutagenesis; American Society for Microbiology)。
【0036】
Tn3、Tn5、Tn7、Tn9、Tn10、ファージMuなどのような多様なトランスポゾンが当技術分野で公知である。それらの間で、Tn5は挿入特異性をほとんど有さず、そのサイズは相対的に小さい。本発明の実施においてランダム変異誘発に使用する目的のためには、Tn5が好ましい。抗生物質耐性または他の選択マーカー遺伝子に連結した転位に必要な19bpのTn5逆位反復からなるMini−Tn5と称される多様なTn5誘導体も本発明に有用である。そのようなMini−Tn5は、Tn5トランスポザーゼ(tnp)に追加して自殺ベクターに挿入され、効率的なTn5自殺変異誘発系が構築される。
【0037】
トランスポゾンによるランダム変異誘発は、自殺プラスミドまたはファージベクターを使用することによって、例えば形質転換、形質導入、接合交配またはエレクトロポレーションを介して標的細菌細胞にトランスポゾンを導入することを伴う。得られた変異体を、トランスポゾンが有するマーカーを活用してスクリーニングできる。使用するベクターが分離により喪失した後で、レシピエント細菌のゲノムへのトランスポゾンの転位を検出できる。
【0038】
グルコノバクター属またはアセトバクター属の微生物にトランスポゾンを導入するために、例えばファージP1の誘導体およびColE1複製起点を有するpBR325の誘導体のような宿主の範囲の狭いプラスミドを含む、いわゆる自殺ベクターが通常使用される。ファージP1ベクターおよびプラスミドベクターを、それぞれ感染によって、および形質転換、接合交配またはエレクトロポレーションによって、レシピエント細胞に移送でき、これらのベクターは、好ましくは適切なレシピエントの起源を欠く。使用する自殺ベクターおよびトランスポゾンの選択は、例えばファージの感受性、レシピエント細胞の固有の抗生物質耐性、形質転換、接合伝達、エレクトロポレーションを含めた遺伝子導入系の利用性、または大腸菌にトランスポゾン保有ベクターを導入するための感染を含む基準に依存する。
【0039】
本発明に使用するための好ましいベクターの一つは、例えばグルコノバクター属またはアセトバクター属に属する微生物に自己のDNAを注入するファージP1(ATCC25404)であるが、このDNAは複製できず分離によって失われる。そのようなTn5(P1::Tn5)を有するP1ファージを、公知の手法によりP1::Tn5を有する大腸菌を溶解させることによって調製できるファージ溶解物の形で使用できる(例えば"Methods for General and Molecular Bacteriology" Chapter 17, Transposon Mutagenesis; American Society for Microbiologyまたは米国特許第5082785号、1992を参照のこと)。
【0040】
その欠損変異体が本当にトランスポゾンを有することを確認するために、例えば標準法によりプローブとして使用されるトランスポゾンを含む標識DNAフラグメントを用いてコロニーハイブリダイゼーションまたはサザンハイブリダイゼーションのような方法を実施できる(Molecular cloning, a laboratory manual second edition, Maniatis T., et al., 1989)。
【0041】
そのような変異体を、本発明の実施例5に記載されているように単離する。トランスポゾン変異体は、さらにL−ソルボソンデヒドロゲナーゼをコードする標的遺伝子を同定するために、およびそのトランスポゾンでタグ付けされた領域のヌクレオチド配列を決定するために有用でありうる。
【0042】
ベクターおよびトランスポゾンの選択マーカーの両表現型を示す形質転換体を選択することによって、トランスポゾンの挿入を含むDNAフラグメントを、任意の大腸菌クローニングベクター、好ましくはpUC18、pUC19、pBluescript II KS+(Stratagene Europe)およびそれらの類縁物にクローニングできる。トランスポゾン近隣のヌクレオチド配列を当技術分野で公知の配列分析法によって決定できる。
【0043】
あるいはまた、前記L−ソルボソンデヒドロゲナーゼポリペプチドがL−ソルボソンからL−アスコルビン酸を産生する株から精製される場合、以下の例示的な方法によって総染色体DNAからプラスミドベクターまたはファージベクターのいずれかに所望の遺伝子をクローニングできる:
(i)例えばマトリックス介助レーザー脱離/イオン化(MALDI)のような方法によって、精製されたタンパク質またはそのペプチドフラグメントから部分アミノ酸配列を決定できる。そのようなタンパク質全体の単離によって、またはSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)後のゲルからのペプチダーゼ処理によって、そのようなタンパク質全体またはペプチドフラグメントを調製できる。このように得られたタンパク質またはそのフラグメントは、Applied Biosystems気相自動シーケンサ470Aのようなタンパク質シーケンサにも適用できる。例えばApplied Biosystems自動DNAシーケンサ381AのようなDNA合成装置を用いてオリゴヌクレオチドプローブおよび/またはプライマーを設計および調製するために、そのアミノ酸配列を利用できる。例えばサザンハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーション、またはプラークハイブリダイゼーションにより、標的遺伝子を有する株の遺伝子ライブラリーから標的遺伝子を有するクローンを単離するためにこれらのプローブを使用できる。
(ii)あるいはまたさらに、遺伝子ライブラリーから標的タンパク質を発現するクローンを選択する目的で、例えば標的タンパク質に対して調製される抗体を用いた免疫学的方法を適用できる。
(iii)一組のプライマー、すなわち上記のように決定されたアミノ酸配列により合成された二つのオリゴヌクレオチドを用いたPCRによって、総染色体DNAから標的遺伝子のDNAフラグメントを増幅できる。次に、例えばプローブとして前記で得られたPCR産物を用いたサザンハイブリダイゼーション、コロニーハイブリダイゼーションまたはプラークハイブリダイゼーションによって、例えば大腸菌に構築された遺伝子ライブラリーから、遺伝子全体を有するクローンを単離できる。
【0044】
当技術分野で公知の方法によってそこに開示されているDNA配列に基づいて設計されたプライマーを用いたPCRによって作成できるDNA配列も、本発明の目的である。
【0045】
例えば精製されたL−ソルボソンデヒドロゲナーゼタンパク質、例えば大腸菌に発現したHisタグ付きL−ソルボソンデヒドロゲナーゼのような精製された組換えL−ソルボソンデヒドロゲナーゼタンパク質、またはそのペプチドフラグメントを抗原として用いて、上に言及した抗体を調製できる。L−ソルボソンデヒドロゲナーゼのヌクレオチド配列から推定されるポリペプチド配列を、抗体を調製するための抗原として使用できる。
【0046】
いったん所望の遺伝子を有するクローンが得られたならば、標的遺伝子のヌクレオチド配列を周知の方法によって決定できる。
【0047】
所望の遺伝子/ヌクレオチド配列を効率的に発現させるために、多様なプロモーター、例えばその遺伝子の本来のプロモーター、例えばカナマイシン耐性遺伝子Tn5、アンピシリン耐性遺伝子pBR322、および大腸菌のベータ−ガラクトシダーゼ(lac)のような抗生物質耐性遺伝子のプロモーター、trpプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、ラムダファージのプロモーター、および宿主細胞において機能的でありうるあらゆるプロモーターを使用できる。この目的のために、細菌細胞、ヒト細胞を含む動物細胞、酵母細胞を含む真菌細胞、および植物細胞からなる群より宿主細胞を選択できる。好ましくは、宿主細胞は、インビボ活性型としてL−ソルボソンデヒドロゲナーゼを発現できる細菌、特にグルコノバクター属、アセトバクター属、シュードモナス属およびエシェリキア属の細菌に属する。
【0048】
発現のために、例えばシャイン−ダルガルノ(SD)配列(例えば宿主細胞において作動可能な天然および合成配列を含むAGGAGGなど)および(コード配列が導入され本発明の組換え細胞を提供する)宿主細胞において作動可能な転写ターミネーター(任意の天然および合成配列を含む逆位反復構造)のような他の調節エレメントを、上記のプロモーターと共に使用できる。
【0049】
広範囲の宿主/クローニングベクターの組み合わせを二本鎖DNAのクローニングに採用できる。大腸菌に本発明の遺伝子、すなわちSNDHai遺伝子を発現させるための好ましいベクターを、例えばHisタグ付き組換えタンパク質を発現できる例えばpQEベクター(QIAGEN AG、スイス)、pBR322または例えばpUC18およびpBluescript II(Stratagene Cloning Systems、カリフォルニア州、米国)を含むその誘導体、pACYC177およびpACYC184およびそれらの誘導体、ならびにRK2およびRSF1010のような広範囲の宿主を有するプラスミドから誘導されるベクターのような、大腸菌において通常使用されるあらゆるベクターから選択できる。グルコノバクター、アセトバクター、およびシュードモナスを含む細菌に本発明のヌクレオチド配列を発現させるための好ましいベクターは、グルコノバクター、アセトバクター、またはシュードモナス、ならびに大腸菌のような好ましいクローニング生物において複製できる任意のベクターより選択される。好ましいベクターは、例えばpVK100およびその誘導体ならびにRSF1010のようなコスミドベクターのような宿主範囲の広いベクターである。クローニングされた遺伝子を安定に効率的に発現させるために、またクローニングされた遺伝子を有する宿主細胞を効率的に培養するためにも、ベクターのコピー数および安定性を注意深く考慮すべきである。例えばTn5のような転移性エレメントを含む核酸分子も、好ましい宿主に、特に染色体に所望の遺伝子を導入するためのベクターとして使用できる。本発明のSNDHai遺伝子と共に好ましい宿主から単離された任意のDNAを含む核酸分子も、好ましい宿主、特に染色体にこの遺伝子を導入するのに有用でありうる。宿主細胞および核酸分子の性質を考慮して当技術分野で周知である常法、例えば形質転換、形質導入、接合交配またはエレクトロポレーションのいずれかを適用することによって、そのような核酸分子を好ましい宿主に移送できる。
【0050】
発現ベクターを産生するために、当技術分野において周知の方法で、本発明において提供されるL−ソルボソンデヒドロゲナーゼ遺伝子/ヌクレオチド配列を、例えばプロモーター、リボソーム結合部位、および上記の宿主細胞において作動可能な転写ターミネーターのような調節領域を含む適切なベクターに連結できる。
【0051】
発現ベクターを有する組換え微生物を構築するために、例えば形質転換、形質導入、接合交配、およびエレクトロポレーションを含めた多様な遺伝子導入法を使用できる。組換え細胞を構築するための方法を、分子生物学の分野で周知の方法より選択できる。例えば、通常の形質転換系をグルコノバクター、アセトバクター、シュードモナス、またはエシェリキアに使用できる。大腸菌に形質導入系も使用できる。接合交配系は、例えば大腸菌、P.プチダおよびグルコノバクターを含むグラム陽性およびグラム陰性菌に広く使用できる。接合交配の例は、WO89/06688に開示されている。接合は、例えば液体培地または固体表面で起こり得る。SNDHai産生のためのレシピエントの例には、例えばグルコノバクター、アセトバクター、シュードモナス、またはエシェリキア属の微生物がある。接合交配のためのレシピエントに選択マーカーを追加でき、例えばナリジクス酸またはリファンピシンに対する耐性が普通選択される。自然耐性も使用され、例えばポリミキシンBに対する耐性は多くのグルコノバクターに有用である。
【0052】
本発明は、組換えL−ソルボソンデヒドロゲナーゼ(SNDHai)を提供する。上記の宿主細胞に、本発明によって提供されるL−ソルボソンデヒドロゲナーゼ遺伝子を導入することによって、L−ソルボソンデヒドロゲナーゼ酵素の産生収率を増加させることができる。一局面において、L−ソルボソンデヒドロゲナーゼタンパク質は、本発明のL−ソルボソンデヒドロゲナーゼ遺伝子を使用することによってグルコノバクター、アセトバクター、シュードモナス、またはエシェリキアからなる群より選択される宿主細胞から産生する。
【0053】
本発明のポリヌクレオチド配列によってコードされるようにSNDHaiを発現できる微生物を、好気条件で適切な栄養素を補充した水性培地中で培養できる。回分法、流加法(fed-batch)、半連続培養法または連続培養法で培養を実施できる。例えば標的ポリペプチドの発現に使用する宿主、pH、温度および使用する栄養培地に応じて培養時間は変動しうるが、運転が回分法または流加培養法の場合、好ましくは約1〜約10日間である。例えばpH約4.0〜約9.0、好ましくは約5.0〜約8.0で培養を実施できる。培養を行うのに好ましい温度範囲は、約13℃〜約36℃、好ましくは約18℃〜約33℃である。通常、培地は同化可能な炭素源、例えばグリセロール、D−マンニトール、D−ソルビトール、L−ソルボース、エリトリトール、リビトール、キシリトール、アラビトール、イノシトール、ズルシトール、D−リボース、D−フルクトース、D−グルコース、およびスクロース、好ましくはD−ソルビトール、D−マンニトール、およびグルセロール;ならびに有機物のような可消化窒素源、例えばペプトン、酵母エキス、パン酵母、尿素、アミノ酸、およびコーンスチープリカーのような栄養素を含みうる。多様な無機物、例えば硝酸塩およびアンモニウム塩も窒素源として使用できる。さらに培地は通常、無機塩類、例えば硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、リン酸カリウムおよび炭酸カルシウムを含みうる。
【0054】
本発明のようなポリヌクレオチドによってコードされるSNDHaiを含む宿主を用いた基質からのビタミンCの製造方法は、成長中の細胞、すなわち例えば少なくとも比成長速度0.02h-1である細胞で行われることが理解される。
【0055】
本発明の一態様は、ビタミンCの産生のために本明細書に開示されているヌクレオチド配列によってコードされる単離されたSNDHaiを使用することである。培養後の微生物からSNDHaiを単離および/または精製するために、例えば遠心分離または濾過によって液体培養ブロスから微生物の細胞を採取できる。採取された細胞を、例えば水、生理食塩水または適切なpHを有する緩衝溶液で洗浄できる。洗浄された細胞を、適切な緩衝溶液に懸濁でき、例えばホモジナイザー、ソニケーター、フレンチプレス、またはリゾチームなどによる処理によって破壊でき、破壊された細胞の溶液を与えることができる。例えば超遠心、適切な界面活性剤を使用した較差溶解度、塩類または他の適切な薬剤による沈殿、透析、イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、または結晶化のような標準的な方法によって、無細胞抽出物または破壊された細胞から、好ましくは膜画分からL−ソルボソンデヒドロゲナーゼを単離および精製できる。組換えL−ソルボソンデヒドロゲナーゼを、例えばHis−タグを付けたポリペプチドのようなタグ付きポリペプチドとして産生するとき、例えばニッケルアフィニティ樹脂のようなアフィニティ樹脂を用いてそれを精製できる。L−ソルボソンデヒドロゲナーゼの精製は、ニトロブルー塩化テトラゾリウム(NBT)およびファナジンメトスルフェート、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCIP)、フェリシアニドまたはシトクロムcのような例えば人工の電子受容体を使用することによって測光的に監視できる。
【0056】
本明細書に記載するようにSNDHaiの助けを借りたL−アスコルビン酸の産生が、本明細書によって提供される。SNDHaiの供給源は重要ではない。例えば活性SNDHai酵素を自然に発現できる微生物、前記微生物から単離された本発明のヌクレオチド配列によってコードされるSNDHai、本発明のSNDHai遺伝子を有する上記のような組換え生物を使用することによって、または下記のようなL−ソルボソンをL−アスコルビン酸に転換する生物学的触媒として働く膜画分、可溶性酵素または固定化酵素の形態の天然および/または組換えSNDHaiを使用することによって、本法を行うことができる。SNDHaiの単離および精製のための上記の方法を、天然および組換えSNDHaiの両方に対して使用できる。
【0057】
L−ソルボソンからL−アスコルビン酸を産生するために使用される組換え生物を、上記のように培養できる。好ましくは、組換え生物は、本発明のL−ソルボソンデヒドロゲナーゼ遺伝子を有するグルコノバクター、アセトバクター、シュードモナス、およびエシェリキアからなる群より選択される。この組換え微生物を上記と同条件で培養できる。L−アスコルビン酸の産生のために使用される組換え生物が、上記のいずれの炭素源もL−ソルボソンに転換できないのであれば、L−アスコルビン酸の産生のための前駆体としてL−ソルボソンを培地に加えなければならない。反応時間はpH、温度および使用する反応混合物によって変動しうるが、回分法または流加法で運転する場合は好ましくは約1〜約10日間である。
【0058】
一態様において、組換え型酵素または天然型酵素、すなわち単離された非組換え酵素のいずれかとしての本発明のSNDHaiは、上記のような培地から精製され、回分法、流加法、半連続法または連続法として当業者に公知の任意の加工処理法でL−ソルボソンをL−アスコルビン酸に転換するための生物学的触媒として可溶性酵素または固定化酵素の形態で使用される。精製されたL−ソルボソンデヒドロゲナーゼを、可溶型、膜装置によって反応容器に保持された形態、または例えば多孔質マトリックスまたはポリマーマトリックスのような任意の固相に固定化された酵素として使用できる。例えばその酵素は、一つまたは複数の官能基を有する樹脂製の膜、顆粒などに直接結合しうるし、あるいは一つまたは複数の官能基を有する架橋化合物、例えばグルタルアルデヒドを介してその樹脂に結合しうる。可溶型、保持型または固定化型の精製された酵素を使用する反応は、例えば好気条件でL−ソルボソンおよび他の適切な栄養素を含む水性培地中で行われうる。反応培地は、例えば無機塩、例えば硫酸マグネシウム、リン酸カリウム、および炭酸カルシウムを含みうる。反応は、約4.0〜約9.0、好ましくは約5.0〜約8.0のpHで実施されうる。反応を行うための好ましい温度範囲は、約13℃〜約36℃、好ましくは約18℃〜約33℃である。
【0059】
本発明に使用できる微生物は、種々の供給源、例えばドイツ微生物細胞培養コレクション(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen)(DSMZ)、Mascheroder Weg 1B, D-38124ブラウンシュバイク、ドイツ;2003年5月12日のアメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)、P.O. Box 1549、マナッサス、バージニア州20108米国;またはNITE生物遺伝資源部門遺伝資源保存課、〒292-0818千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8、日本(以前:発酵研究所、大阪(IFO)、〒532-8686大阪市淀川区十三本町2-17-85、日本)から公的に入手できる。IFOに寄託されている好ましい細菌の例は、例えばグルコノバクターオキシダンス(以前はG.メラノゲナス(G. melanogenus)として公知であった)IFO3293、グルコノバクターオキシダンス(以前はG.メラノゲナスとして公知であった)IFO3292、グルコノバクターオキシダンス(以前はG.ルビギノサス(G. rubiginosus)として公知であった)IFO3244、グルコノバクターフラトゥリ(以前はG.インダストリウス(G. industrius)として公知であった)IFO3260、グルコノバクターセリナスIFO3266、グルコノバクターオキシダンスIFO3287、およびアセトバクターアセチ亜種オルレアナス(Acetobacter aceti subsp. orleanus)IFO3259(それらはすべて1954年4月5日に寄託された);1975年10月22日に寄託されたアセトバクターアセチ亜種キシリナム(Acetobacter aceti subsp. xylinum)IFO13693;および1977年12月8日に寄託されたアセトバクターアセチ亜種キシリナムIFO13773である。好ましい細菌の例でもあるアセトバクター種ATCC15164株はATCCに寄託された。好ましい細菌の別の例としてのグルコノバクターオキシダンス(以前はG.メラノゲナスとして公知であった)N44−1株は、IFO3293株の派生株であり、Sugisawa et al., Agric. Biol. Chem. 54: 1201-1209, 1990に記載されている。
【0060】
上記の微生物に、国際原核生物命名規約(International Code of Nomenclature of Prokaryotes)によって規定されるものと同じ生理学的性質を有するそのような種の異名またはバシオニムも含めることが理解される。
【0061】
さらなる局面において、本発明は所定の炭素源をビタミンCに転換できる微生物の休止細胞を使用することによる、高収率でのL−アスコルビン酸(ビタミンC)の新規な製造方法に関するものである。
【0062】
L−アスコルビン酸の直接産生が、種々の培養法を用いたいくつかの微生物で報告されている。しかし、そのような方法の欠点は、産物の不安定性が原因となって産生されるビタミンCが低収率であることである。例えば、2−ケト−L−グロン酸(2−KGA)およびビタミンCの両方を産生できることが公知である微生物を使用するとき、微生物により産生されるビタミンCの収率は、前記微生物によってさらに容易に合成される2−KGAの産生が相対的に高いことによってさらに制限され、例えば0.1未満であるビタミンCと2−KGAとの濃度比をもたらす。このように、従来技術で記載されている方法よりも高い収率を得るために、微生物によるビタミンCの産生を改善することが、本発明の目的である。
【0063】
驚くことに、基質からビタミンCへの直接転換を行える微生物の休止細胞を使用した方法は、さらに高いビタミンCの収率をもたらすことが、今や見出された。
【0064】
特に、本発明は、微生物の休止細胞を含む培地中で基質をビタミンCに転換することを含む、ビタミンCの製造方法を提供する。
【0065】
微生物の休止細胞を使用した上記の方法のための基質として、L−アスコルビン酸に転換できる炭素源を使用できる。その炭素源は、例えばD−グルコース、D−ソルビトール、L−ソルボース、L−ソルボソン、2−ケト−L−グロン酸塩、D−グルコン酸塩、2−ケト−D−グルコン酸塩または2,5−ジケト−グルコン酸塩のようにD−グルコース代謝経路またはD−ソルビトール代謝経路から容易に得られる。さらに可能性のある基質は、ガラクトースでありうる。好ましくは、基質は、例えばD−グルコース、D−ソルビトール、L−ソルボースまたはL−ソルボソンより、さらに好ましくはD−グルコース、D−ソルビトールまたはL−ソルボースより、最も好ましくはD−ソルビトールまたはL−ソルボースより選択される。微生物の休止細胞を使用する上記の方法に関して「基質」および「生産基質」という用語は、本明細書において相互交換可能に使用される。
【0066】
微生物の休止細胞を使用する上記の方法に関連して基質からビタミンCへの転換は、ビタミンCを結果としてもたらす基質の転換が微生物によって実施される、すなわち基質がビタミンCに直接変換されうることを意味する。前記の微生物は、上に定義されるような基質からのそのような転換を可能にする条件で培養される。
【0067】
微生物の休止細胞を使用する上記の方法のために本明細書に使用する培地は、ビタミンCの産生に適した任意の培地でありうる。概してその培地は、例えば塩類、基質(類)、およびあるpHを含む水性培地である。その基質がビタミンCに転換される培地も生産培地と称される。
【0068】
微生物の休止細胞を使用する上記の方法に関連して、例えば野生型株として、古典的変異誘発および選択法によって誘導される変異株として、または組換え株としてのいずれかでの酵母、藻類または細菌のように、基質からビタミンCへの転換を行えるあらゆる微生物を使用できる。そのような酵母の例は、例えばカンジダ(Candida)、サッカロミセス(Saccharomyces)、チゴサッカロミセス(Zygosaccharomyces)、スキゾサッカロミセス(Scyzosaccharomyces)、またはクルイベロミセス(Kluyveromyces)でありうる。そのような藻類の例は、例えばクロレラ(Chlorella)でありうる。そのような細菌の例は、例えばグルコノバクター、アセトバクター、ケトグロニシゲニウム(Ketogulonicigenium)、パントエア(Pantoea)、クリプトコッカス(Cryptococcus)、例えばシュードモナスプチダのようなシュードモナス、例えば大腸菌のようなエシェリキアがありうる。例えばG.オキシダンス、G.セリナス、G.フラトゥリ、A.アセチ亜種キシリナム、またはA.アセチ亜種オルレアナスのようなグルコノバクターまたはアセトバクターアセチが好ましい。
【0069】
微生物の休止細胞を使用する上記の方法に関連して、本発明に使用できる微生物は、種々の供給源、例えばドイツ微生物細胞培養コレクション(DSMZ)、Mascheroder Weg 1B, D-38124ブラウンシュバイク、ドイツ;2003年5月12日のアメリカタイプカルチャーコレクション(ATCC)、P.O. Box 1549、マナッサス、バージニア州20108米国;またはNITE生物遺伝資源部門遺伝資源保存課、〒292-0818千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8、日本(以前:発酵研究所、大阪(IFO)、〒532-8686大阪市淀川区十三本町2-17-85、日本)から公的に入手できる。IFOに寄託されている好ましい細菌の例は、例えばグルコノバクターオキシダンス(以前はG.メラノゲナスとして公知であった)IFO3293、グルコノバクターオキシダンス(以前はG.メラノゲナスとして公知であった)IFO3292、グルコノバクターオキシダンス(以前はG.ルビギノサスとして公知であった)IFO3244、グルコノバクターフラトゥリ(以前はG.インダストリウスとして公知であった)IFO3260、グルコノバクターセリナスIFO3266、グルコノバクターオキシダンスIFO3287、およびアセトバクターアセチ亜種オルレアナスIFO3259(それらはすべて1954年4月5日に寄託された);1975年10月22日に寄託されたアセトバクターアセチ亜種キシリナムIFO13693;および1977年12月8日に寄託されたアセトバクターアセチ亜種キシリナムIFO13773である。好ましい細菌の例でもあるアセトバクター種ATCC15164株は、ATCCに寄託された。好ましい細菌の別の例としてのグルコノバクターオキシダンス(以前はG.メラノゲナスとして公知であった)N44−1株は、IFO3293株の派生株であり、Sugisawa et al., Agric. Biol. Chem. 54: 1201-1209, 1990に記載されている。
【0070】
微生物の休止細胞を使用する上記の方法に関連して、上記の微生物に、国際原核生物命名規約によって規定されるものと同じ生理学的性質を有するそのような種の異名またはバシオニムも含めるものとする。本明細書において使用する微生物の命名は、国際原核生物分類命名委員会(International Committee on Systematics of Prokaryotes)および国際微生物学会連合の細菌学および応用微生物学部門によって(優先権主張出願の提出日に)公的に承認され、公的出版媒体であるInternational Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology(IJSEM)によって公表されたものである。Urbance et al., IJSEM (2001) vol 51:1059-1070に特定の参照がなされ、G.オキシダンスDSM4025をケトグロニシゲニウムブルガレ(Ketogulonicigenium vulgare)として分類学的に再分類することを記載してIJSEM (2001) vol 51: 1231-1233に修正通知がなされている。
【0071】
本明細書に使用するように、休止細胞は、例えば生存可能であるが活発に成長していないか、または低い比成長速度(μ)、例えば0.02h-1未満、好ましくは0.01h-1未満の成長速度で成長している微生物の細胞を意味する。上記の増殖速度を示す細胞は、「休止細胞モード」にあると言われる。
【0072】
微生物の休止細胞を使用した上記のような本発明の方法を、種々の工程および時期で行うことができ、好ましくはその微生物は、成長が可能な条件で(工程(a)または成長期とも呼ぶ)第一工程で培養される。この時期は、工程(b)とも呼ぶ微生物の成長速度が低減して休止細胞をもたらすように条件を変更することによって終了し、(b)の休止細胞を使用して基質からビタミンCを産生させることに続き、これを産生期とも呼ぶ。
【0073】
微生物の休止細胞を使用して上記の方法において行われる成長期および産生期を、二つの時期の間で場合による細胞分離工程を伴って同一の容器、すなわちわずか一つの容器で、または二つ以上の異なる容器で行うことができる。細胞から産生したビタミンCをあらゆる適切な手段によって回収できる。回収は、例えば産生したビタミンCが生産培地から分離されうることを意味する。場合により、このように産生したビタミンCをさらに処理する。
【0074】
微生物の休止細胞を使用する上記の方法に関する本発明のために、「成長期」、「成長する工程」、「成長工程」および「成長時間」という用語は、本明細書において相互交換可能に使用される。「産生期」、「産生工程」、「産生時間」という用語にも同じことがあてはまる。
【0075】
本発明のように微生物の休止細胞を使用して上記の方法を行う一つのやり方は、休止細胞の供給源として第一の容器、いわゆる成長容器でその微生物を成長させ、その細胞の少なくとも一部を第二の容器、いわゆる産生容器に移送する方法でありうる。産生容器における条件は、成長容器から移された細胞が上に定義されるような休止細胞になるような条件でありうる。ビタミンCは、第二の容器で産生し、そこから回収される。
【0076】
微生物の休止細胞を使用した上記の方法に関連して、一局面において成長工程を、好気条件での成長に適した栄養素を補充した水性培地、すなわち成長培地で実施できる。例えば培養を回分法、流加法、半連続法または連続法で実施できる。培養時間は、細胞の種類、pH、温度および使用する栄養培地により変動しうるし、回分法または流加法で運転する場合に微生物に応じて例えば約10時間〜約10日間、好ましくは約1〜約10日間、さらに好ましくは約1〜約5日間でありうる。細胞を連続法で成長させるならば、滞留時間は、微生物に応じて例えば約2〜約100時間、好ましくは約2〜約50時間でありうる。微生物が細菌から選択されるならば、培養は、例えば約3.0〜約9.0、好ましくは約4.0〜約9.0、さらに好ましくは約4.0〜約8.0、なおさらに好ましくは約5.0〜約8.0のpHで実施されうる。藻類または酵母を使用するならば、培養は、例えば約7.0未満、好ましくは約6.0未満、さらに好ましくは約5.5未満、最も好ましくは約5.0未満のpHで実施されうる。細菌を使用した培養を実行するために適切な温度範囲は、例えば約13〜約40℃、好ましくは約18℃〜約37℃、さらに好ましくは約13℃〜約36℃、最も好ましくは約18℃〜約33℃でありうる。藻類または酵母を使用するならば、培養を実行するために適切な温度範囲は、例えば約15℃〜約40℃、好ましくは約20℃〜約45℃、さらに好ましくは約25℃〜約40℃、なおさらに好ましくは約25℃〜約38℃、最も好ましくは約30℃〜約38℃でありうる。成長用培地は、普通は同化可能な炭素源、例えばグリセロール、D−マンニトール、D−ソルビトール、L−ソルボース、エリトリトール、リビトール、キシリトール、アラビトール、イノシトール、ズルシトール、D−リボース、D−フルクトース、D−グルコース、およびスクロース、好ましくはD−ソルボース、D−グルコース、D−ソルビトール、D−マンニトールおよびグルセロール;ならびに有機物のような可消化窒素源、例えばペプトン、酵母エキスおよびアミノ酸のような栄養素を含みうる。その培地は、尿素および/またはコーンスチープリカーおよび/またはパン酵母を有しても有さなくてもよい。多様な無機物、例えば硝酸塩およびアンモニウム塩も窒素源として使用できる。さらに成長培地は、普通は無機塩類、例えば硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、リン酸カリウムおよび炭酸カルシウムを含みうる。
【0077】
微生物の休止細胞を使用した上記の方法に関連して、成長期における比成長速度は、例えば少なくとも0.02h-1である。回分法、流加法または半連続法で成長している細胞について、成長速度は例えば成長培地の組成、pH、温度などに依存する。一般に成長速度は、例えば約0.05〜約0.2h-1、好ましくは約0.06〜約0.15h-1、最も好ましくは約0.07〜約0.13h-1の範囲にありうる。
【0078】
微生物の休止細胞を使用した上記の方法の別の局面において、休止細胞は、本質的に同条件、例えば培養時間、pH、温度、寒天を添加した上記のような栄養培地を使用して、成長容器としての役目を果たす寒天平板上でそれぞれの微生物を培養することによって提供されうる。
【0079】
微生物の休止細胞を使用した上記の方法に関連して、成長期および産生期が二つの別々の容器で行われるならば、成長期からの細胞を採取または濃縮し、第二の容器、いわゆる産生容器に移送する。この容器は、その細胞によってL−アスコルビン酸に転換されうるあらゆる適用可能な生産基質を補充した水性培地を含みうる。成長容器からの細胞を、例えば遠心分離、膜十字流限外濾過または精密濾過、濾過、デカンテーション、凝集のようなあらゆる適切な作業によって採取または濃縮できる。このように得られた細胞を、採取、濃縮または洗浄せずに成長容器からの本来のブロスの形で、すなわち細胞懸濁液の形で産生容器に移送することもできる。好ましい態様において、細胞を、中間に洗浄または単離工程を全く行わずに細胞懸濁液の形で成長容器から産生容器に移送する。
【0080】
このように、微生物の休止細胞を使用した上記の方法の好ましい態様において、上に記載するような本発明の方法の工程(a)および(c)は、いかなる洗浄および/または分離工程によっても隔てられない。
【0081】
微生物の休止細胞を使用した上記の方法に関連して、成長期および産生期が同一の容器で行われるならば、所望の細胞密度まで適切な条件で細胞を成長させてから、成長培地を生産基質を含有する産生培地に交換できる。そのような交換は、例えばその容器からの上清の抜き取りおよび採取と同時および同速度でその容器に生産培地を供給することでありうる。容器内に休止細胞を保つために、例えば細胞リサイクリング工程のような細胞のリサイクリングまたは保持のための作業を使用できる。そのようなリサイクリング工程は、例えば遠心器、フィルター、限外濾過段階の膜十字流精密濾過、膜リアクター、凝集、または適切な多孔質、非多孔質もしくはポリマーマトリックスへの細胞の固定化を使用する方法があるが、それに限定されるわけではない。移行期の後で、その容器は、上に定義されるような休止細胞モードに細胞がなる加工処理条件にされて、生産基質は効率的にビタミンCに転換される。
【0082】
微生物の休止細胞を使用した上記の方法に関連して産生工程に使用される産生容器内の水性培地は、以下生産培地と呼ばれるが、L−アスコルビン酸に転換される生産基質のみを含みうるか、または例えば追加の無機塩類、例えば塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、リン酸カリウム、リン酸カルシウム、および炭酸カルシウムを含みうる。生産培地は、例えば有機物、例えばペプトン、酵母エキス、尿素、アミノ酸、およびコーンスチープリカー、ならびに無機物、例えばアンモニア、硫酸アンモニウム、および硝酸ナトリウムのような可消化窒素源も、その細胞が上に定義されるような休止細胞モードにあり続ける濃度で含みうる。培地は、尿素および/またはコーンスチープリカーおよび/またはパン酵母を有するか、または有さない場合がある。産生段階は、例えば回分法、流加法、半連続法または連続法で実施されうる。流加法、半連続法または連続法の場合、成長容器および生産培地の両方からの細胞を適切な供給速度で産生容器に連続的または間欠的に供給できる。または、生産培地のみを産生容器に連続的または間欠的に供給でき、一方で成長容器からの細胞を産生容器に一度に移送する。成長容器からの細胞を産生容器内の細胞懸濁液として使用でき、また例えば多孔質マトリックスまたはポリマーマトリックスのような任意の固相に凝集または固定化された細胞として使用できる。産生容器への基質の投入からビタミンCを含む上清の採取、いわゆる採取流の間に経過した時間として定義される産生時間は、例えば細胞の種類および濃度、pH、温度、ならびに使用する栄養培地に応じて変動しうるが、好ましくは約2〜約100時間である。pHおよび温度は、成長工程のpHおよび温度と異なる場合があるが、本質的に成長工程の場合と同様である。
【0083】
微生物の休止細胞を使用した上記の方法の好ましい態様において、産生工程は、連続法で実施される。連続法は、成長容器からの細胞を含む第一供給流、および基質を含む第二供給流を産生容器に連続的または間欠的に供給することを意味する。第一流は、成長培地から単離/分離された細胞のみ、または成長工程から直接もたらされた細胞懸濁液、すなわち細胞の分離、洗浄および/もしくは単離の中間工程を全く行わずに成長培地に懸濁した細胞のいずれかを含みうる。本明細書において定義される第二供給流は、一つまたは数個の異なる流液、希釈用の水、およびpH調整のための塩基の形で、産生工程の作業、例えば基質を含む生産培地に必要な他のすべての供給流を含みうる。
【0084】
微生物の休止細胞を使用した上記の方法に関連して、両方の流液を連続的に供給する場合、第二流の供給速度に対する第一流の供給速度の比は、約0.01から約10の間、好ましくは約0.01から約5の間、最も好ましくは約0.02と約2の間を変動しうる。その比は、第一流および第二流の細胞および基質の濃度にそれぞれ依存する。
【0085】
本発明の微生物の休止細胞を使用した上記の方法を行う別の方法は、産生容器中のある細胞密度の休止細胞を使用した方法でありうる。その細胞密度は、当業者に公知の方法により600nmでの吸光度ユニット(光学密度)として測定される。好ましい態様において、産生工程における細胞密度は、少なくとも約10、さらに好ましくは約10から約200の間、なおさらに好ましくは約15から約200の間、なおさらに好ましくは約15から約120の間、最も好ましくは約20から約120の間である。
【0086】
微生物の休止細胞を使用した上記の方法に関連して、例えば連続法または半連続法で行われる産生期の間に産生容器中の細胞を所望の細胞密度に保つために、例えば遠心分離、濾過、精密濾過の膜十字流限外濾過、デカンテーション、凝集による細胞リサイクリング;膜装置または細胞固定化による容器内での細胞保持のような当技術分野において公知であるあらゆる手段を使用できる。さらに、産生工程を連続法または半連続法で行い、細胞を成長容器から連続的または間欠的に供給する場合、例えば成長容器から供給される細胞の量に対応した細胞の量を産生容器から採取することによって、産生容器内の細胞密度を一定のレベルに保つことができる。
【0087】
微生物の休止細胞を使用した上記の方法に関連して、いわゆる採取流に含まれる産生ビタミンCは、産生容器から回収/採取される。採取流には、例えば産生容器中の休止細胞による生産基質の転換の結果としてのビタミンCを含む、産生容器からの無細胞水溶液または細胞含有水溶液がありうる。例えば濾過、遠心分離、デカンテーション、膜十字流限外濾過もしくは精密濾過、タンジェント流限外濾過もしくは精密濾過、またはデッドエンド濾過のような当技術分野で公知のあらゆる作業によって、採取流に依然として存在する細胞をビタミンCと分離できる。この細胞分離の作業後に、採取流は本質的に細胞を含まない。
【0088】
微生物の休止細胞を使用した上記の方法に関連して、一局面において本発明の方法は、少なくとも約1.8g/l、好ましくは少なくとも約2.5g/l、さらに好ましくは少なくとも約4.0g/l、最も好ましくは少なくとも約5.7g/lであるビタミンCの収量をもたらす。一態様において、本発明の方法によって産生するビタミンCの収量は、約1.8〜約600g/lの範囲である。ビタミンCの収量は、産生容器から直接流出する採取流、すなわちビタミンCを含む無細胞上清中のビタミンC濃度を示す。
【0089】
微生物の休止細胞を使用した上記の方法に関連して、本発明の一態様においてビタミンCは、例えば組換え細菌のような組換え微生物の休止細胞を用いて上記のような方法によって産生する。好ましくは組換え細菌は、インビボ活性型としてL−ソルボソンデヒドロゲナーゼを発現できる細菌、特にグルコノバクター属、アセトバクター属、シュードモナス属およびエシェリキア属の細菌、最も好ましくはグルコノバクター、アセトバクターまたは大腸菌より選択される。例えばG.オキシダンスおよび大腸菌がなおさらに好ましく、G.オキシダンスN44−1、G.オキシダンスIFO3293およびG.オキシダンスIFO3244からなる群より選択されるのが最も好ましい。組換え微生物は、その染色体または前記微生物に導入されたプラスミド上に一つまたは複数の所望の遺伝子を含むように周知の手法によって遺伝子操作され、例えば前記遺伝子(群)の過剰発現をもたらすあらゆる微生物でありうる。前記微生物に導入された所望の遺伝子(群)は、例えば基質からビタミンCへの転換に関与する酵素をコードしうる。好ましい態様において、所望の遺伝子は、L−ソルボソンからビタミンCへの転換を触媒するL−ソルボソンデヒドロゲナーゼをコードする。本発明において使用される好ましいL−ソルボソンデヒドロゲナーゼは、例えば配列番号2で表されるG.オキシダンスN44−1(Sugisawa et al., Agric. Biol. Chem. 54: 1201-1209, 1990)のL−ソルボソンデヒドロゲナーゼ (SNDHai)であり、前記SNDHaiをコードするヌクレオチド配列は、配列番号1で表される。前記SNDHaiの機能的誘導体も本発明のために使用できる。配列番号1に比べて少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%の相同性を有し、L−ソルボソンからビタミンCへの転換を触媒できる酵素をコードするヌクレオチド配列も本発明の一部であるものとする。
【0090】
例えばG.オキシダンスN44−1のような組換え微生物は、適切なプラスミドにクローニングされたか、またはその染色体に組込まれた数コピーのSNDHaiを含みうる。本発明に適しうるプラスミドコピーは、形質転換された微生物あたり例えば約2〜約15の範囲、好ましくは約5〜約10の範囲にある。プラスミドコピー数は、例えばSDS−PAGE上で可視であるそれぞれのバンドの強度の比較によって決定されうる。
【0091】
微生物の休止細胞を使用した上記の方法に関連して、本発明の方法のために組換え微生物を使用する場合、成長および産生工程は本質的に上記と同様でありうる。例えば増加したSNDHai量を有する組換えG.オキシダンスN44−1のようなSNDHaiを含む組換え微生物を使用する場合、成長培地は、例えばD−ソルビトール、L−ソルボース、グリセロールまたはD−グルコースの単独またはそれらの混合のいずれか、一つまたは複数の適切な窒素源および塩類を含みうる。生産培地は、例えばD−ソルビトールおよび/またはL−ソルボースならびに塩類を含みうる。ビタミンCの採取は、本明細書に本質的に記載するように行える。
【0092】
さらなる局面において、本発明の方法を、採取流に含まれる他の成分と産生ビタミンCを分離および/または精製するさらなる工程、すなわちいわゆる下流の加工処理工程と組合わせてもよい。これらの工程には、例えば濃縮、結晶化、沈殿、吸着、イオン交換、電気透析、バイポーラ膜電気透析および/または逆浸透のような当業者に公知のあらゆる手段がありうる。ビタミンCは、例えば活性炭を用いた処理、イオン交換、吸着および溶出、濃縮、結晶化、濾過ならびに乾燥のような作業によって、遊離酸型またはあらゆる公知の塩型としてさらに精製されうる。具体的には、ビタミンCと採取流中の他の成分との最初の分離を、例えば以下の方法のあらゆる適切な組合わせまたは反復によって行うことができる:二区画または三区画電気透析、バイポーラ膜電気透析、逆浸透または例えばイオン交換樹脂もしくは非イオン樹脂への吸着。得られたビタミンCの形態がL−アスコルビン酸の塩であるならば、例えばバイポーラ膜電気透析、イオン交換、模擬移動層クロマトグラフィー法などによって、塩型から遊離酸型への転換を実施できる。言及した工程、例えば電気透析およびバイポーラ膜電気透析を組合わせて一工程にすることも、言及した工程、例えば模擬移動層クロマトグラフィー法を使用することによるイオン交換のいくつかの工程を組合わせることと同様に使用できる。これらのいかなる手法も、単独または組み合わせで産物すなわちビタミンCを単離および精製する便利な手段を構成する。このように得られた産物を、例えば濃縮、結晶化、沈殿、結晶の洗浄および乾燥のような方法によってさらに単離でき、かつ/または例えば活性炭を用いた処理、イオン交換および/または再結晶化によってさらに精製できる。
【0093】
好ましい態様において、ビタミンCは、この加工処理のあらゆる時点で非水溶液に移送することなしに上記のような一連の下流の加工処理工程によって、すなわちすべての工程段階が水性環境中で行われて採取流から精製される。そのような好ましい下流の加工処理工程には、例えば二区画または三区画電気透析による産生容器からの採取流の濃縮、バイポーラ膜電気透析および/またはイオン交換による濃縮溶液中に存在する塩型から酸型のビタミンCへの転換、例えば活性炭、イオン交換樹脂または非イオン樹脂を用いた処理後にさらなる濃縮工程および結晶化を行うような方法による精製がありうる。これらの結晶を分離し、洗浄し、かつ乾燥できる。必要ならば、結晶をもう一度水に再溶解し、活性炭および/またはイオン交換樹脂で処理し、再結晶できる。次に、これらの結晶を分離し、洗浄し、かつ乾燥できる。
【0094】
以下の実施例は本発明をさらに例示するものであり、本発明を何ら限定することを意図しない。
【0095】
実施例1
精製SNDHaiによるL−アスコルビン酸の産生
1.SNDHaiの精製
流加発酵(培養については実施例3参照)によって培養された、SNDHaiを産生可能な微生物の細胞を、2mM MgCl、1mM ジチオトレイトール(DTT)、およびEDTA不含プロテアーゼ阻害剤錠(Roche Diagnostics GmbH)2〜3個を含むリン酸緩衝液(20mM、pH7.0)25mlに懸濁した。この細胞懸濁液をフレンチプレスセルで3回処理した。その後、2mM MgClおよび1M NaClを含むリン酸緩衝液(20mM、pH7.0)25mlを加え、得られた懸濁液を超遠心分離した(30000rpm、60分、4℃)。膜画分を含むペレットを2mM MgClおよび500mM NaClを含むリン酸緩衝液(20mM、pH7.0)で洗浄し、その後、2mM MgClを含むリン酸緩衝液(20mM、pH7.0)適量に懸濁した。次に、最終濃度2w/v%となるようにN−オクチルグルコシド(Fluka)を加え、その懸濁液を氷冷下で静かに撹拌しながら90分間インキュベートした。遠心分離(20000rpm、60分、4℃)後に、透明な赤色上清を採集し、最終濃度が15w/v%となるようにポリエチレングリコール6000(Fluka)を加えた。静かに振盪しながら4℃で60分間インキュベートした後、遠心分離(10000rpm、30分、4℃)を行い、2mM MgClおよび0.5w/v%ラウリルスルホベタイン(Fluka)を含むトリス−HCl緩衝液(20mM、pH7.6)にペレットを溶解させた。4℃で一晩静かに振盪した後、溶液を遠心分離(20000rpm、30分、4℃)した。上清を採集し、下記のようにさらに精製した。
【0096】
ソフトウェアUNICORN3.1を備えるAKTA Explorer 10Sシステム(Amersham Biosciences)で4℃で下記の精製工程を行った。イオン交換クロマトグラフィーのための典型的な流速は1〜2ml/分の範囲であった。タンパク質の溶出を280nmで監視し、精製の全段階(下記参照)での標準的な測光アッセイまたは精製された画分を用いた産物アッセイを使用してSNDHai活性画分を決定した。
【0097】
Sephadex G25ゲル濾過カラム(ボイド容量:2.5ml)で、2mM MgClおよび0.5w/v%ラウリルスルホベタインを含む20mMトリス−HCl緩衝液(pH7.6)を使用して、透明な上清IVを脱塩して2.5mlの部分にした。
【0098】
SNDHai陽性画分をプールし、使用前に緩衝液A1(10mMトリス、10mMビス−トリス、10mM MES、2mM MgCl、0.5%ラウリルスルホベタイン、pH7.6)で平衡化した強陰イオン交換カラム(例えばMono-Q HR、Amersham Biosciences、カラム容積8ml)にそのアリコート(約10ml)を入れた。非結合性のタンパク質を100%緩衝液A1で溶出させ、4カラム容後に、100%緩衝液B1(10mMトリス、10mMビス−トリス、10mM MES、2mM MgCl、0.5%ラウリルスルホベタイン、pH4.7)への6カラム容の直線pH勾配を適用してから、8カラム容の100%緩衝液B1で溶出させた。SNDHaiは、pH値約6.5で溶出した。そのpHは、アミノ酸配列から計算されたpI値6.52に非常に近接している。活性画分をプールし、2mM MgCl、および0.5%ラウリルスルホベタインを含む同量のHEPES緩衝液(50mM、pH8.0)で希釈し(最終容積15〜20ml)、緩衝液A2(15mM HEPES、2mM MgCl、0.5%ラウリルスルホベタイン、pH7.6)で平衡化した別の強陰イオン交換カラム(例えばMono-Q HR、Amersham Biosciences、カラム容積1ml)に適用した。非結合性のタンパク質を100%緩衝液A2で溶出させ、4カラム容後に、40%緩衝液B2(15mM HEPES、2mM MgCl、1M LiCl、および0.5%ラウリルスルホベタイン、pH7.6)への20カラム容の直線塩勾配を適用し、その後100%緩衝液B2への段階勾配をかけた。SNDHaiは150mMのLiCl付近で溶出した。活性画分は、SDSゲル電気泳動で約85kDaに単一バンドを示した。
【0099】
2. SNDHaiの測光アッセイ
SNDHai活性の測光測定用の反応混合物は、最終体積1.0mlの0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)に溶解した0.196mMニトロブルー塩化テトラゾリウム(NBT)、0.137mMフェナジンメトスルフェート(PMS)、20.4mM L−ソルボソン、および酵素溶液からなった。酵素を加えて反応を開始し、NBTの初期減少率として光路長1cmのキュベットで酵素活性を570nmで測定した(T=25℃)。酵素活性1単位を1分間あたり1μMのNBTの減少を触媒する酵素の量と定義した。pH7.5でのNBTの吸光係数を100mM-1cm-1とした。活性の決定にL−ソルボソン以外の上記の成分を含む一つおよび酵素溶液以外のすべての成分を含むもう一つの2種類の参照キュベットを使用した。
【0100】
3. SNDHaiの産物アッセイ
以下の組成を有するアッセイでL−ソルボソンからのL−アスコルビン酸の産生について、純粋なSNDHaiを含有する画分(上記参照)を直接分析した(総容積0.5ml):0.14mg/ml精製脱塩SNDHai、50mMリン酸緩衝液(pH6.5)、8mg/mlウシ血清アルブミン(BSA)、100mM L−ソルボソン、1mM PMS、5mM CaCl、50μM PQQ−K。遮光下で十分に振盪しながら(ベンチトップ振盪器で900rpm)、25℃で適切な反応管に入れてアッセイを実施した。
【0101】
Aminex-HPX-78H(300×7.8mm)カラム(Biorad、ライナッハ、スイス)を取り付けたLiChrospher-100-RP18(125×4.6mm)カラム(Merck、ダルムシュタット、ドイツ)を備えるAgilent 1100HPLCシステム(Agilent Technologies、ウィルミントン、米国)を使用した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で試料を分析した。移動相は、0.004M硫酸であり、流速は0.6ml/分であった。UV検出器(波長254nm)と屈折率検出器とを組合わせて使用して二つのシグナルを記録した。さらに、アミノカラム(YMC-PackポリアミンII、YMC社、京都、日本)を使用して254nmでUVを検出してL−アスコルビン酸の確認を行った。移動相は50mM NHPOおよびアセトニトリル(40:60)であった。これらの条件でのL−アスコルビン酸の典型的な初期容積生産性は0.5〜1.0g/l/時であった。このように、1時間の反応時間後に上清中のL−アスコルビン酸濃度は300〜930mg/lであった。
【0102】
実施例2
試験管発酵およびフラスコ発酵におけるL−ソルボースおよびD−ソルビトールからのL−アスコルビン酸の産生
3BD番の液体培地4mlに植菌するためにG.オキシダンスN44−1の細胞を使用し、220rpmで振盪しながら30℃で3日間試験管(直径18mm)内で培養した。インキュベーション時間の終了時にL−アスコルビン酸20mg/lが蓄積していた。
【0103】
500ml容のバッフル付き振盪フラスコに入れた100g/l D−ソルビトール、0.5g/lグリセロール、15g/l酵母エキス(Difco)、2.5g/l MgSO・7HOおよび15g/l CaCOを含む5番培地50ml中でN44−1株の細胞を(3回の繰り返しで)200rpmで浸透しながら30℃で培養した。72時間培養した後に、フラスコ3本からHPLCによって測定したL−アスコルビン酸の量は、400、500および680mg/lであった。
【0104】
実施例3
流加発酵におけるD−ソルビトールからのL−アスコルビン酸の産生
2l容バッフル付き振盪フラスコに入れた100g/l D−ソルビトール、0.5g/lグリセロール、15g/l酵母エキス(Fluka BioChemika、ブックス、スイス)、2.5g/l MgSO・7HOおよび15g/l CaCOを含む5番の培地200ml中で180rpmで浸透しながら30℃でG.オキシダンスN44−1の細胞を成長させた。48時間後に、20g/l D−ソルビトール、0.5g/lグリセロール、15g/l酵母エキス(Fluka BioChemika、ブックス、スイス)および2.5g/l MgSO・7HOを含む培地5.3lを予め準備し、温度センサー、pHセンサーおよび溶存酸素センサーならびに制御ループを備える10l容のバイオリアクター(B. Braun ED10、メルスンゲン、ドイツ)に植菌するために、この培養液150mlを使用した。温度を30℃に制御し、28%アンモニア液を加えることによってpHを6.0に制御し、通気流は4.5l/分であり、溶存酸素を撹拌速度による多段階で30%に制御した(最小300rpm)。工程時間の6時間後に、500g/lソルビトール溶液を44時間の間、25g/時の速度で供給した。工程時間の96時間後に約1%の基質が上清に残留し、950mg/lのL−アスコルビン酸が産生していた。
【0105】
実施例4
細胞膜画分を用いたL−ソルボソンまたはL−ソルボースからのL−アスコルビン酸の産生
500ml容のバッフル付き振盪フラスコに入れた3BD番の液体培地100ml中で30℃で220rpmで振盪しながら3日間G.オキシダンスN44−1の細胞を培養した。得られた培養液を500rpmで遠心分離してCaCOを除去した。この工程からの上清を次に5000rpmで遠心分離して細胞をペレットにした。採集した細胞を50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)3ml中に懸濁し、900psiでフレンチプレスセル(SIM-AMINCO Spetronic Instruments、米国)を2回通過させることで細胞を破壊した。得られたホモジネートをまず5000rpmで遠心分離して細胞破壊片を除去した。次に、タンパク質3mg/mlのタンパク質最終濃度まで上清を希釈した。この希釈された試料を無細胞抽出物(CFE)と名付けた。CFEを100000×gで60分間遠心分離した。得られた上清を捨て、膜画分としてペレットを採集した。
【0106】
50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)中で30℃で220rpmで15時間振盪しながら膜画分(100μl)との反応(200μl)を実行した。被験基質は、L−ソルボソン(最終濃度1%)およびL−ソルボース(最終濃度2%)であった。反応に使用したタンパク質の最終濃度は1.5mg/mlであった。インキュベーション時間の終了時に680mg/lおよび10mg/lのL−アスコルビン酸がそれぞれ1%L−ソルボソンおよび2%L−ソルボースから産生していた。
【0107】
実施例5
グルコノバクターオキシダンスN44−1からのSNDHai遺伝子の単離
1. Tn5の変異誘発
Tn5を含む「自殺」ベクターであるプラスミドpSUP2021(Simon R. et al. 1983. BIO/TECHNOLOGY 1: 784-791)を下記のような接合交配法によって大腸菌HB101からG.オキシダンスN44−1に転移させた。MB液体培地5mlの入った試験管でG.オキシダンスN44−1を30℃で一晩培養した。ヘルパープラスミドpRK2013(D. H. Figurski, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 76,1648-1652, 1979)を有する大腸菌HB101およびプラスミドpSUP2021を有する大腸菌HB101を、カナマイシン50μg/mlを有するLB培地5mlの入った試験管で37℃で一晩培養した。一晩培養後の培養液から、G.オキシダンスN44−1、大腸菌HB101(pRK2013)、および大腸菌HB101(pSUP2021)の細胞を遠心分離により別々に採集し、本来の容積になるようにMB培地に懸濁した。次に、これらの細胞懸濁液を等量ずつ混合し、得られた混合物をMB寒天平板上に置いた0.45μmニトロセルロース膜に塗布した。27℃で1日培養後、細胞を膜からかき取り、MBブロスで希釈液を調製した。次に、希釈された細胞を、ポリミキシンB10μg/mlおよびカナマイシン50μg/mlを含むMB寒天培地(MPK培地)に塗布した。ポリミキシンBは大腸菌ドナー株およびヘルパー株に対して選択し、カナマイシンはプラスミドpSUP2021で形質転換されたG.オキシダンス細胞(すなわち接合完了体)を選択する。約30000個の接合完了体が得られた。
【0108】
2. L−アスコルビン酸非産生体のスクリーニング
全部で3760個の接合完了体を滅菌つまようじでMPKグリッド平板に移植し、27℃で3日間成長させた。L−ソルボソンからのL−アスコルビンの産生を試験するために、各接合完了体の細胞を滅菌つまようじでグリッド平板から釣り上げ、96穴マイクロタイタープレートに0.5%L−ソルボソン、0.3%NaCl、および1%CaCOを含む休止細胞反応混合液50μlに懸濁した。マイクロタイタープレートを30℃で1日間振盪せずにインキュベートした。アスコルビン酸検査ストリップおよびRQFlex2装置(Merck KGaA, 64271ダルムシュタット、ドイツ)を使用してL−アスコルビン酸の形成について、得られた反応混合物それぞれ1μlを分析した。陽性対照株は、同条件で成長したG.オキシダンスN44−1であった。この方法によって、L−アスコルビン酸非産生変異体N44−1−6A9が同定された。次に、変異体N44−1−6A9の染色体DNAにTn5が存在することを確認するためにサザンブロットハイブリダイゼーション分析を行った。変異体から単離された染色体DNA2μgをApaI、ClaI、EcoRI、EcoRV、KpnI、StuI、BamHI、SalI、またはHindIIIのいずれかで分解し、アガロースゲル電気泳動に供した(0.8%アガロース)。次にゲルを0.25N HClで15分間処理し、その後0.5N NaOHで30分間処理した。急速下方転移システムTurboBlotter(Schleicher & Schuell GmbH、ドイツ)でDNAをナイロン膜に転移させた。プライマーTn2419(配列番号3)およびプライマーTn3125R(配列番号4)を使用してプラスミドpSUP2021を鋳型として用いてPCR-DIG標識キット(Roche Diagnostics GmbH、68298マンハイム、ドイツ)でプローブを調製した。707bpのPCR産物を得た。
【0109】
使用したハイブリダイゼーション条件は、以下のとおりである。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件、例えば100μg/mlサケ精子DNAを有するDigEasyHyb溶液(Roche Diagnostics)に入れた(DIG標識システム(Roche Diagnostics GmbH, 68298マンハイム、ドイツ)を使用して調製した)ジゴキシゲニン(DIG)標識DNAプローブを使用して42℃で2時間〜4日間インキュベーション後に、室温で2×SSCおよび0.1%SDS中でフィルターを15分間(2回)洗浄してから0.5×SSCおよび0.1%SDS、または0.1×SSCおよび0.1%SDS中で65℃で15分間(2回)洗浄することでハイブリダイゼーションを行った。
【0110】
ハイブリダイゼーション工程の後で、STORM装置(Amersham Biosciences)を使用して抗DIG−APコンジュゲート(Roche Diagnostics GmbH, 68298マンハイム、ドイツ)およびECF基質(Amersham Biosciences、ウプサラ、スウェーデン)を用いてハイブリダイゼーションの検出を行った。供給業者の指示書にしたがってすべての作業を行った。
【0111】
上記の方法を使用して、変異体N44−1−6A9の染色体にTn5が存在することを確認した。
【0112】
3.Tn5が割り込んだDNAフラグメントのクローニングおよび近隣領域の配列分析
上記第2節に記載した制限酵素による分解の結果に基づいて、ApaI、ClaI、EcoRI、およびEcoRVが、Tn5挿入部の両側に1kbを超える隣接染色体DNAを有するDNAフラグメントを発生する酵素として選択された。(Tn5のほぼ中央を切断する)SalIおよびApaIによる変異体N44−1−6A9のDNAの二重分解は、上記の707bpプローブにハイブリダイズする2本のフラグメント(6.2kbおよび3.8kb)を与えた。
【0113】
Tn5変異体であるG.オキシダンスN44−1−6A9の染色体DNAを調製し、ApaIで分解した。9〜12kbのサイズを有するDNAフラグメントをアガロースゲルから単離し、予めApaIで分解したクローニングベクターpBluescriptII KS+(Stratagene、スイス)に連結した。次に、この連結混合物を使用してコンピテント大腸菌細胞を形質転換し、50μg/mlカナマイシンおよび100μg/mlアンピシリンを含むL寒天平板で選択した。一つの形質転換体からプラスミドを抽出し、Tn5挿入部に隣接したクローニングされた領域の配列分析を行った。Tn5転位の事象の間に起こることが公知である9bpの重複を除去した後で、(Tn5挿入部が割り込んだ)単一のオープンリーディングフレームのヌクレオチド配列を組み立てた。以後グルコノバクターオキシダンスN44−1のSNDHai遺伝子と呼ぶ完全長オープンリーディングフレームのヌクレオチド配列は、2367bpからなり、それを配列番号1として示す。配列番号1のヌクレオチド配列から推定される対応するアミノ酸配列を配列番号2として本明細書に示す。
【0114】
SNDHai遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号1)を、データベースPRO SW-SwissProt(完全公開および増加分の更新)に関するBlast 2検索(BLASTバージョン2、国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)、Altschulら(Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402, 1997)が記載)に供した。使用した条件は、ギャップ付きアラインメントおよび低複雑度領域に対するクエリ配列のフィルタリングであった。
【0115】
プログラムMOTIFSを使用して、細菌キノンタンパク質デヒドロゲナーゼ類の署名配列が容易に同定され、SNDHaiがPQQ依存性酵素の性質を有することが示された。
【0116】
実施例6
L−ソルボソンからL−アスコルビン酸を産生する細菌のサザンブロット分析
グルコノバクターオキシダンスIFO3293、IFO3292、IFO3244、IFO3287、グルコノバクターフラトゥリIFO3260およびIFO3265、グルコノバクターセリナスIFO3266およびIFO3269、アセトバクターアセチ亜種オルレアナスIFO3259、アセトバクターアセチ亜種キシリナムIFO13693およびIFO13773、アセトバクター種ATCC15164、ならびに大腸菌K−12の細胞から染色体DNAを調製した。IFO13693株およびIFO13773株を、5g/lバクトペプトン(Difco)、5g/L酵母エキス(Difco)、5g/Lグルコース、5g/Lマンニトール、1g/L MgSO・7HO、5ml/Lエタノール、および15g/L寒天を含む350番の培地で27℃で3日間成長させた。他のすべてのアセトバクター株およびすべてのグルコノバクター株を、 25g/lマンニトール、5g/l酵母エキス(Difco Laboratories、デトロイト、ミシガン州、米国)、3g/lバクトペプトン(Difco)、および18g/l寒天(Difco)を含むマンニトールブロス(MB)寒天培地で27℃で3日間成長させた。大腸菌K−12をルリアブロス(Luria Broth)寒天培地で成長させた。実施例5に記載したようなストリンジェントな条件でのサザンブロットハイブリダイゼーションに、染色体DNA調製物を使用した。染色体DNA調製物をClaI(Nドメイン領域を分析する場合)またはEcoRI(Cドメイン領域を分析する場合)で分解し、DNAフラグメント1μgをアガロースゲル電気泳動(1%アガロース)で分離した。ゲルを0.25N HClで15分間処理してから、0.5N NaOHで30分間処理し、次に供給業者の指示書にしたがってVacuum Blotterモデル785(BIO-RAD Laboratories AG、スイス)を用いてナイロン膜に転写した。表2に記載するようなプライマーセットを使用することによって、PCR-DIG標識キット(Roche Diagnostics)でプローブを調製した。PCR産物P1は、Nドメイン(可能な膜貫通領域)と称されるSNDHaiの領域に対応し、PCR産物P2は、Cドメイン(可能な一次デヒドロゲナーゼ領域)と称されるSNDHaiの領域に対応する。
【0117】
【表1】

【0118】
表2にサザンブロットハイブリダイゼーション実験の結果を示す。P1(Nドメイン)プローブを用いたハイブリダイゼーションにおいて、G.オキシダンスIFO3293、IFO3292、IFO3244、IFO3287およびA.種ATCC15164株に対して鮮明な陽性バンドが観察された。P2(Cドメイン)プローブを用いたハイブリダイゼーションにおいて、IFO3293、IFO3292、IFO3244、IFO3287およびA.種ATCC15164株に対して鮮明な陽性バンドが観察され、一方でIFO3260、IFO3265、IFO3266、IFO3269およびIFO13773株について弱いバンドが観察された。対照株である大腸菌K−12はいずれのドメインに対しても検出可能なシグナルを示さなかった。
【0119】
【表2】

【0120】
tr:痕跡、nd:検出せず。プローブP1およびP2は、表2に具体的に述べるプライマーセットを用いて(DIG標識PCR産物として)合成された。
【0121】
実施例7
グルコノバクターオキシダンスN44−1のSNDHai遺伝子のオーソログのPCR増幅および配列分析
(実施例6に記載したように調製した)染色体DNA調製物を、表2に示す4つのプライマーセットを用いたPCRのための鋳型として使用した。染色体DNA5〜100ngを一反応あたりに使用した(総容積50μl)。特に指定しない限り、Expand High Fidelity PCRシステム(Roche Diagnostics)を使用した。PCR条件は以下のとおりであった。
【0122】
94℃で2分間インキュベーション、(i)94℃で15秒間の変性工程、(ii)60℃で30秒間のアニーリング工程、(iii)72℃で45〜120秒間の合成工程(プライマーセットP1、P2、P3およびP4に対する合成段階は、それぞれ45秒、120秒、90秒、および90秒であった)、72℃で7分間の伸長。
【0123】
PCR反応の試料をアガロースゲル電気泳動で分離し、臭化エチジウムで染色後に透視装置でバンドを可視化した。PCR反応の結果を表4にまとめる。
【0124】
【表3】

【0125】
+:検出、nd:検出せず、nt:試験せず。Expand High Fidelity PCRシステムのために使用したものと同じ反応サイクルでGCリッチPCRシステム(Roche Diagnostics)を用いて、このPCRを行った。
【0126】
アガロースゲルに鮮明なPCRバンドが観察された場合(表4)、標準法を使用したヌクレオチド配列分析のためにそのPCR産物を直接使用した。種々のPCR産物について得られたヌクレオチド配列、およびコードされるペプチドの対応するアミノ酸配列を、SNDHai遺伝子の完全長配列およびG.オキシダンスN44−1由来タンパク質と比較した。
【0127】
グルコノバクターオキシダンスIFO3292のSNDHaiオーソログ
プライマーSNDH1391F(配列番号10)およびSNDH2364R(配列番号8)ならびに鋳型としてG.オキシダンスIFO3292由来染色体DNAを用いた増幅により得られたPCR産物(約1kb)を、プライマーSNDH1391F(配列番号10)を用いた配列分析に使用した。決定された771bpのヌクレオチド配列(配列番号11)は、G.オキシダンスN44−1由来SNDHai配列(配列番号1)のヌクレオチド1431〜2201と98.7%(761/771)の相同性を示した。アミノ酸256個の推定されるアミノ酸配列(配列番号12)は、G.オキシダンスN44−1由来SNDHのアミノ酸配列(配列番号2)のアミノ酸478〜733と100%の同一性を示した。
【0128】
グルコノバクターオキシダンスIFO3287のSNDHaiオーソログ
プライマーSNDH1F(配列番号5)およびSNDH420R(配列番号6)ならびに鋳型としてG.オキシダンスIFO3287由来染色体DNAを用いた増幅により得られたPCR産物(約0.4kb)を、プライマーSNDH420R(配列番号6)を用いた配列決定に使用した。決定された350bpのヌクレオチド配列(配列番号13)は、配列番号1のヌクレオチド31〜380と97.4%(341/350)の相同性を示した。推定される116残基のアミノ酸配列(配列番号14)は、配列番号2のアミノ酸11〜126と100%の同一性を示した。
【0129】
プライマーSNDH501F(配列番号7)およびSNDH2364R(配列番号8)を用いた増幅により得られたPCR産物(約1.9kb)を、プライマーSNDH501F(配列番号7)を用いた配列分析に使用した。決定された808bpのヌクレオチド配列(配列番号15)は、配列番号1のヌクレオチド578〜1385と98.0%(745/808)の相同性を示した。推定される268残基のアミノ酸配列(配列番号16)は、配列番号2のアミノ酸194〜461と100%の同一性を示した。
【0130】
プライマーSNDH1391F(配列番号10)およびSNDH2364R(配列番号8)を用いた増幅により得られたPCR産物(約1kb)を、プライマーSNDH1391F(配列番号10)を用いた配列分析に使用した。決定された800bpのヌクレオチド配列(配列番号17)は、配列番号1のヌクレオチド1469〜2268と98.8%(790/800)の相同性を示した。推定される266残基のアミノ酸配列(配列番号18)は、配列番号2のアミノ酸491〜756と100%の同一性を示した。
【0131】
アセトバクター種ATCC15164のSNDHaiオーソログ
プライマーSNDH1F(配列番号5)およびSNDH420R(配列番号6)ならびに鋳型としてA.種ATCC15164由来染色体DNAを用いた増幅により得られたPCR産物(約0.4kb)を、プライマーSNDH420R(配列番号6)を用いた配列分析に使用した。決定された360bpのヌクレオチド配列(配列番号19)は、配列番号1のヌクレオチド31〜390と97.8%(352/360)の相同性を示した。推定される120残基のアミノ酸配列(配列番号20)は、配列番号2のアミノ酸11〜130と100%の同一性を示した。
【0132】
プライマーSNDH501F(配列番号7)およびSNDH2364R(配列番号8)を用いた増幅により得られたPCR産物(約1.9kb)を、プライマーSNDH501R(配列番号7)を用いた配列決定に使用した。決定された760bpのヌクレオチド配列(配列番号21)は、配列番号1のヌクレオチド563〜1322と98.0%(745/760)の相同性を示した。推定される252残基のアミノ酸配列(配列番号22)は、配列番号2のアミノ酸189〜440と100%の同一性を示した。
【0133】
グルコノバクターオキシダンスIFO3244のSNDHaiオーソログ
G.オキシダンスIFO3244のSNDHaiオーソログ遺伝子の完全ヌクレオチド配列を、鋳型としてG.オキシダンスIFO3244の染色体DNAおよび以下のプライマーセットを用いて得られたPCR産物を使用することによって決定した:SNDH1F(配列番号5)およびSNDH420R(配列番号6)、SNDH501F(配列番号7)およびSNDH1530R(配列番号9)、SNDH1391F(配列番号10)およびSNDH2364R(配列番号8)、SNDH382(配列番号23)およびSNDH1530R(配列番号9)、SNDH1F(配列番号5)およびSNDH689R(配列番号24)。BglIIおよびBamHIで分解し、連結した染色体DNAを、以下のプライマーセットを用いたさらに2回のPCRに使用した:SNDH420R(配列番号6)およびSNDH501F(配列番号7)およびSNDH1530R(配列番号9)およびIS−50.3(配列番号25)。完全ヌクレオチド配列(配列番号26)は、G.オキシダンスN44−1(配列番号1)由来SNDHaiのヌクレオチド配列と98.4%の相同性を示した。推定されるアミノ酸配列(配列番号27)は、配列番号2のアミノ酸配列と100%の同一性を示した。
【0134】
実施例8
SNDHaiの遺伝子の量を増加させることによるL−ソルボソンからのL−アスコルビン酸産生の増加
上流および下流に隣接領域を有するSNDHai遺伝子を、鋳型としてN44−1株の染色体DNAおよびプライマーセットN1(配列番号28)およびN2(配列番号29)を用いたPCRによって増幅させた。
【0135】
供給業者の指示書にしたがって、GCリッチPCRシステム(Roche Diagnostics)を用いてPCRを行った。増幅したDNAフラグメントをベクターpCR2.1-TOPO(Invitrogen、カールズバッド、カリフォルニア州、米国)に挿入した。次に、得られたプラスミドをHindIIIおよびXhoIで分解した。SNDHai遺伝子を含むHindIII−XhoIフラグメントを、予めHindIIIおよびXhoIで処理したベクターpVK100(アメリカンタイプカルチャーコレクション、カタログ番号ATCC37156から入手可能)に連結した。この連結混合物を大腸菌TG1を形質転換するために使用した。pVK−P−SNDHai−Tと称する所望のプラスミドを大腸菌から単離し、標準法を使用したエレクトロポレーション(Electrocell manipulator ECM600、BTX Inc.、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)によってG.オキシダンスN44−1株に導入した。
【0136】
G.オキシダンスN44−1株およびプラスミドpVK−P−SNDHai−Tを有するN44−1株の細胞を、500ml容のバッフル付き振盪フラスコに入れた100g/l D−ソルビトール、0.5g/lグリセロール、15g/l酵母エキス(Difco)、MgSO・7HO 2.5g/lおよびCaCO 15g/Lを含む5番の培地50ml中で30℃、200rpmで振盪しながら培養した。48時間の培養後、HPLCで測定された、2本のフラスコの上清中のL−アスコルビン酸の量は、それぞれ110mg/lおよび200mg/lであった。
【0137】
実施例9
マンニトールブロス寒天培地上で成長した休止細胞を使用したL−ソルボソンからのL−アスコルビン酸の産生
IFO株3293、3292、3244、3260、3266、3287、3259、13693、および13773ならびにアセトバクター種ATCC15164およびIFO3293株の派生株であるグルコノバクターオキシダンスN44−1を 、L−ソルボソンからのL−アスコルビン酸の産生に使用した。
【0138】
IFO13693およびIFO13773株を、5g/lバクトペプトン(Difco)、5g/l酵母エキス(Difco)、5g/lグルコース、5g/lマンニトール、1g/l MgSO・7HO、5ml/lエタノール、および15g/l寒天を含む350番の培地上で27℃で3日間成長させた。他のすべてのアセトバクター株およびすべてのグルコノバクター株を、25g/lマンニトール、5g/l酵母エキス(Difco Laboratories、デトロイト、ミシガン州、米国)、3g/lバクトペプトン(Difco)、および18g/l寒天(Difco)を含むマンニトールブロス(MB)寒天培地上で27℃で3日間成長させた。
【0139】
寒天平板から細胞をかき取り、蒸留水に懸濁し、230rpmで振盪しながら5ml容試験管中で30℃で20時間実施した休止細胞反応のために使用した。反応混合物(0.5ml)は、1%L−ソルボソン、0.3%NaCl、1%CaCOおよび600ナノメータで10吸光単位(OD600)の最終濃度の細胞を含んでいた。インキュベーション時間の最後に、Aminex-HPX-78H(300×7.8mm)カラム(Biorad、ライナッハ、スイス)を取り付けたLiChrospher-100-RP18(125×4.6mm)カラム(Merck、ダルムシュタット、ドイツ)を具備したAgilent 1100HPLCシステム(Agilent Technologies、ウィルミントン、米国)を使用した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によってその反応混合物を分析した。移動相は、0.004M硫酸であり、流速は0.6ml/分であった。UV検出器(波長254nm)と屈折率検出器とを組み合わせて使用して二つのシグナルを記録した。さらに、アミノカラム(YMC-PackポリアミンII、YMC社、京都、日本)を使用して254nmでUVを検出してL−アスコルビン酸の確認を行った。移動相は50mM NHPOおよびアセトニトリル(40:60)であった。
【0140】
L−アスコルビン酸を同定するためにAgilent Series 1100HPLC−マススペクトロメトリー(MS)システムを使用した。エレクトロスプレイインターフェースを使用した正イオンモードでMSを運転した。LUNA-C8(2)カラム(100×4.6mm)(Phenomenex、トランス、米国)を使用して分離を行った。移動相は、0.1%ギ酸およびメタノール(96:4)の混合物であった。L−アスコルビン酸は、3.1分の保持時間で溶出した。L−アスコルビン酸の同一性を保持時間およびその化合物の分子量から確認した。
【0141】
D−イソアスコルビン酸が存在していることを除外するために、アミノカラム(YMC-PackポリアミンII、YMC社、京都、日本)を使用して254nmでUVを検出したときの保持時間によってL−アスコルビン酸の同定を追加的に行った。移動相は50mM NHPOおよびアセトニトリル(40:60)であった。
【0142】
グルコノバクター株およびアセトバクター株は、表5に示すようにL−ソルボソンからL−アスコルビン酸を産生した。
【0143】
【表4】

【0144】
ブランク:細胞を含まない反応混合物で反応を行った。
【0145】
実施例10
3BD寒天培地上で成長した休止細胞を使用したD−ソルビトール、L−ソルボースまたはL−ソルボソンからのL−アスコルビン酸の産生
G.オキシダンスN44−1の細胞を、70g/l L−ソルボース、0.5g/lグリセロール、7.5g/l酵母エキス(Difco)、2.5g/l MgSO・7HO、10g/l CaCOおよび18g/l寒天(Difco)を含む3BD番の寒天培地上で27℃で3日間成長させた。休止細胞の反応(10ml容試験管に入れた反応混合物1ml)を、実施例9に記載したように2%D−ソルビトール、2%L−ソルボース、または1%L−ソルボソンを用いて30℃で24時間行った。N44−1株は、D−ソルビトール、L−ソルボース、およびL−ソルボソンからそれぞれ280、400および1780mg/lのL−アスコルビン酸を産生した。
【0146】
3BD番の寒天培地上で成長したN44−1細胞を、実施例9に記載するように2%D−ソルビトール、2%L−ソルボースまたは2%L−ソルボソンを含む反応混合物に入れて、他の反応(10ml容試験管に入れた反応混合物0.5ml)を2日間行った。N44−1株は、D−ソルビトール、L−ソルボース、およびL−ソルボソンからそれぞれ1.8、2.0および5.1g/lのL−アスコルビン酸を産生した。
【0147】
G.オキシダンスIFO3293の細胞を使用した反応を、上記のように2%L−ソルボソンを用いて実行した。IFO3293株は、2日間でL−アスコルビン酸5.7g/lを産生した。
【0148】
実施例11
液体培地中で成長した休止細胞を使用したD−ソルビトールからのL−アスコルビン酸の産生
G.オキシダンスN44−1の細胞を、2l容のバッフル付き振盪フラスコに入れた100g/l D−ソルビトール、0.5g/lグリセロール、15g/l酵母エキス(Fluka BioChemika、ブックス、スイス)、2.5g/l MgSO・7HOおよび15g/l CaCOを含む5番の培地200ml中で30℃、180rpmで振盪しながら成長させた。24時間後に培養液を3220gで遠心分離し(Eppendorf 5810R、ハンブルグ、ドイツ)、細胞を0.9%NaCl溶液に再懸濁し、再び3220gで遠心分離し、得られた細胞ペレットを、完全成長培地(100g/l D−ソルビトール、0.5g/lグリセロール、15g/l酵母エキス、2.5g/l MgSO・7HOおよび15g/l CaCO)50mlを含む500ml容バッフル付き振盪フラスコ1本および生産培地(100g/l D−ソルビトール、3g/l NaCl、10g/l CaCO)50mlを含む別の500ml容バッフル付き振盪フラスコに植菌するために使用した。600nmでの光学密度(OD600)として測定された両フラスコでの初期細胞密度は10であった。両フラスコを、30℃、180rpmで振盪しながらインキュベートした。48時間後に成長培地および生産培地中の細胞懸濁液は、それぞれ1.06および1.18g/lのL−アスコルビン酸を蓄積していた。インキュベーション時間の間に完全培地ではさらなる成長は観察されなかった。
【0149】
実施例12
増加したSNDHai遺伝子量を有する組換え微生物の休止細胞によるL−ソルボソンまたはD−ソルビトールからのL−アスコルビン酸の産生
上流および下流に隣接領域を有するG.オキシダンスN44−1(配列番号1)のSNDHai遺伝子を、鋳型としてN44−1株の染色体DNAならびにプライマーセットN1(配列番号28)およびN2(配列番号29)を用いたPCRによって増幅させた。
【0150】
供給業者の指示書に従って、GCリッチPCRシステム(Roche Diagnostics GmbH)でPCRを行った。増幅されたDNAフラグメントをベクターpCR2.1−TOPO(Invitrogen、カールスバッド、カリフォルニア州、米国)に挿入した。次に、得られたプラスミドをHindIIIおよびXhoIで分解した。SNDHai遺伝子を含むHindIII−XhoIフラグメントを、予めHindIIIおよびXhoIで処理したベクターpVK100(アメリカンタイプカルチャーコレクション、カタログ番号ATCC37156として入手可能)に連結した。連結混合物を用いて大腸菌TG1を形質転換した。pVK−P−SNDHai−Tと称する所望のプラスミドを大腸菌から単離し、標準法を使用したエレクトロポレーション(Electrocell manipulator ECM600、BTX Inc.、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)によってG.オキシダンスN44−1株に導入した。
【0151】
N44−1(pVK−P−SNDHai−T)クローン番号1、2、および3と称する3つの独立した形質転換体を、その親株G.オキシダンスN44−1と共に3BD番の寒天培地およびMB番の寒天培地でそれぞれ成長させた。細胞を平板からかき取り、実施例9に記載されているように休止細胞の反応(基質として1%L−ソルボソン)のために使用した。3BD番の寒天上で成長後の休止細胞アッセイにおいて、N44−1株は、2.5g/lのL−アスコルビン酸を産生したが、一方でN44−1(pVK−P−SNDHai−T)クローン1、2および3株はそれぞれ4.2、4.1および4.2g/lのL−アスコルビン酸を産生した。MB寒天で成長後の休止細胞アッセイで、N44−1株は0.12g/lのL−アスコルビン酸を産生したが、一方でN44−1(pVK−P−SNDHai−T)クローン1、2および3株は、それぞれ1.8、2.5および0.94g/lのL−アスコルビン酸を産生した。
【0152】
500ml容のバッフル付き振盪フラスコ2本に入れた5番の培地(100g/l D−ソルビトール、0.5g/lグリセロール、15g/l酵母エキス、2.5g/l MgSO・7HOおよび15g/l CaCO)50ml中で30℃、220rpmで振盪しながら3日間培養したG.オキシダンスN44−1およびクローン2(上記参照)の細胞を使用して別の反応を行った。各株について1本のフラスコから、得られたブロスを500rpmで遠心分離してCaCOを除去した。この工程の上清を次に5000rpmで遠心分離して細胞をペレットにした。採集した細胞を0.9%NaCl溶液10mlに再懸濁し、再び5000rpmで遠心分離して細胞をペレットにした。採取した細胞を水に再懸濁し、10ml容の反応管に入れた生産培地(20g/l D−ソルビトール、3g/l NaCl、10g/l CaCO)1mlに600nmで5OD単位に対応する最終休止細胞密度で植菌するために使用した。30℃、220rpmで反応時間20時間後に、産生フラスコから採取された上清は、N44−1株およびSNDHai過剰発現N44−1株についてそれぞれ360および760mg/lのL−アスコルビン酸を含んでいた。それに対して、72時間後に残りの成長培地から採取された上清は、それぞれ0および440mg/lのL−アスコルビン酸を含んでいた。
【0153】
実施例13
大腸菌の休止細胞におけるL−ソルボソンからのL−アスコルビン酸の産生
配列番号1のヌクレオチド1〜2364に対応する、SNDHai−1と名付けた、停止コドンを有さないSNDHai遺伝子を、プライマー対SNDHai−Nde(配列番号30)およびSNDHaiHis−X(配列番号31)を使用したPCR(Roche High Fidelity Kit)によってN44−1株の染色体DNAから増幅させた。
【0154】
増幅したDNAをpCR2.1−TOPO(Invitrogen、カールスバッド、カリフォルニア州、米国)にクローニングし、pCR2.1−TOPO−SNDHai−1を得て、そのSNDHai配列が正しいことをヌクレオチド配列分析によって確認した。次に、そのSNDHai−1遺伝子をNdeIおよびXhoIで切断し、pET−21b(+)(Novagen、マディソン、ウィスコンシン州、米国)のNdeIおよびXhoI部位の間に連結し、pET2lb−SNDHaiHisを産生させた。SNDHaiのC末端に6個のHisを付加した。このpET21b−SNDHaiHisを大腸菌BL21(DE3)に導入した。
【0155】
カルベニシリン50μg/mlを有するLB中で一晩培養した大腸菌BL21(DE3)/pET21b−SNDHaiHisの培養液5mlを同培地200mlに植菌した。細胞を230rpm、37℃で2時間培養してから、1mM IPTGで誘導し、230rpm、25℃で3時間培養を続けた。得られた培養物を遠心分離し、食塩水で2回洗浄し、細胞ペレットを水2mlに再懸濁した。OD600=10の細胞、1%ソルボソン一水和物、5μM PQQ、5mM MgCl、0.3%NaCl、および1%CaCOを含む反応混合物(5ml容試験管中に500μl)を用いて30℃で15時間行った休止細胞反応にその細胞を使用した。15時間のインキュベーション後にL−アスコルビン酸0.14g/Lが産生した。休止細胞反応を1μM PQQ(その他の条件は上記と同様)と共に行った場合、3時間のインキュベーション後にL−アスコルビン酸0.05g/Lが産生した。
【0156】
実施例14
増加したSNDHai遺伝子量を有する組換え微生物の休止細胞によるD−ソルビトールからのL−アスコルビン酸の産生
SNDHaiを過剰発現するG.オキシダンスN44−1の細胞を、500ml容のバッフル付き振盪フラスコに入れた100g/l D−ソルビトール、0.5g/lグリセロール、15g/l酵母エキス(Fluka BioChemika、ブックス、スイス)、2.5g/l MgSO・7HOおよび15g/l CaCOを含む5番の培地50ml中で30℃、180rpmで振盪しながら48時間成長させた。得られた細胞懸濁液を、100g/l D−ソルビトール、15g/l酵母エキス(Fluka BioChemika、ブックス、スイス)、2.5g/l MgSO・7HO、0.3g/l KHPOおよび0.12g/l CaSOからなる培地1.25lを含む成長容器(Biostat-MD、B. Braun Melsungen、メルスンゲン、ドイツ)と呼ばれる2L容のバイオリアクターに植菌するために使用した。細胞を30℃、通気速度1l/分で培養し、25%NaCO溶液でpHを5.7に制御し、撹拌速度を変動させることによって溶存酸素を10%飽和に制御した。24時間後、600nmでの吸光単位として測定された細胞密度は20であった。この時点で、100g/l D−ソルビトール、15g/l酵母エキス(Fluka BioChemika、ブックス、スイス)、2.5g/l MgSO・7HO、0.3g/l KHPOおよび0.12g/l CaSOを含む供給溶液を125ml/時の供給速度で成長容器に供給し、採取速度125ml/時でブロスを連続的に採取した。これによって、成長容器中の体積を1.25lの一定に保持した。他の工程パラメータを、上に言及したように制御し続けた。
【0157】
このブロスを、100g/l D−ソルビトール、0.3g/l NaClおよび0.12g/l CaSOを含む生産培地5lを満たした産生容器と呼ぶ第二リアクターに125ml/時の速度で連続的に供給し、温度を30℃に、20%NaOH溶液を用いた制御によりpHを7.0に保持した。通気速度を10l/分の一定に保ち、撹拌速度を変動させることによって溶存酸素を20%に制御した。同じ組成を有する生産培地も供給速度375ml/間で産生容器に連続的に供給した。500ml/時の速度で連続的に上清を採取することによって、容器の容積を5lの一定に保ち、その採取は孔サイズ500kDaを有する十字流限外濾過モジュール(UFP-500-E-9A、Amersham Biosciences)からの濾液流としてもたらされ、そのモジュールを通過して産生容器から採取された細胞懸濁液は、Masterflexポンプを使用して50l/時で汲み出された。リテンテート流をポンプで容器に汲み戻した。産生容器中の細胞密度が、いったん600nmで100吸光単位に達したならば、産生容器中の細胞密度を一定に保つために25ml/時の速度で産生容器に還流する濃縮細胞流からの細胞の採取を開始した。
【0158】
無細胞上清の採取流は、4g/lのL−アスコルビン酸を含み、30℃で二重ジャケットを有する採集容器(Ecoline Re 112、Lauda、ラウダ−ケーニックスホーフェン、ドイツ)に500ml/時の速度で連続的に供給された。この容器は、二区画電気透析ユニット(Eurodia Industries、Wissous、フランス製、陽イオン交換膜CMX−Sおよび陰イオン交換膜ASAを有し、膜総面積0.2m2を有するセル対10個を含むスタック)の希釈液区画に連続的に上清を180l/時の速度で供給し、一定の流液がその容器から汲み出され容積を2lの一定に保った。最初30℃の脱イオン水を入れた二重ジャケットを有する別の容器に、62.5ml/時の速度で新鮮脱イオン水を連続的に供給し、200l/時の速度で電気透析ユニットの濃縮区画に水溶液を一定に汲み入れ、一定の採取流をその容器から汲み出した。ぜん動ポンプ(7518-00、Masterflex、米国)を使用して電気透析スタックに供給溶液をポンプで入れ、各電気透析区画を通過した溶液の再循環をロータリーポンプ(MD-20、IWAK、東京、日本)の助けを借りて行った。工程全般で、電気透析スタックに14Vを印加した(電源FuMATech TS001/5、ザンクトイングベルト、ドイツ)。採取流中のL−アスコルビン酸濃度は16g/lであった。
【0159】
実施例15
下流の加工処理工程による休止細胞反応から産生したL−アスコルビン酸の精製
16g/1のL−アスコルビン酸を含む実施例14の採取流をキレート樹脂(Amberlite IRC 748、Rohm and Haas、フィラデルフィア、ペンシルベニア州、米国)に供給して、流液から二価陽イオンを除去した。次に、それを冷却容器(供給容器)に採集し、10lを採集したときにバイポーラ膜電気透析ユニット(Eurodia Industries、Wissous、フランス製、7 Neosepta BP1/CMB膜を含むスタック、総膜面積0.14m2)を通過する回分法でそれらを加工処理した。この溶液を電気透析ユニットの供給区画を介して200l/時の速度で汲み出し、供給容器に再循環させた。最初に2g/l NaOH溶液5lを含む別の冷却容器(濃縮容器)から、バイポーラ膜電気透析ユニットの濃縮区画を介して100l/時でポンプで液を流動させた。最大電圧25Vおよび最大電流20Aを適用することによって、供給区画からのナトリウム陽イオンを濃縮区画に移動させ、よって供給流に存在するナトリウム型のL−アスコルビン酸を対応する遊離酸型に転換した。90%の転換効率に達した後、工程を停止した。濃縮容器において、7.5g/l NaOHを含む溶液6lを希釈容器から採集し、ナトリウム塩型から遊離酸型への転換効率を約99%まで増加させるために約16g/l L−アスコルビン酸を遊離酸型で、および1.6g/l L−アスコルビン酸をナトリウム塩型で含む溶液9lを陽イオン交換樹脂(Amberlite FPC 21 H、Rohm and Haas、フィラデルフィア、ペンシルベニア州、米国)でさらに加工処理した。あるいはまた、電気透析工程からのナトリウム塩型の16g/l L−アスコルビン酸を含む溶液10lを陽イオン交換樹脂で直接処理し、99%の収率で遊離酸型に転換させた。上記の方法のいずれかによって得られた遊離酸型のL−アスコルビン酸の流液を、次に一連の以下の工程によってさらに加工処理した:陰イオン交換、活性炭処理、濃縮、結晶化、結晶の濾過、および乾燥。得られた結晶の最終純度は、98%であり、下流の加工処理工程の組み合わせで得られた収率は80%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のうち少なくとも20個の連続するヌクレオチドの部分ヌクレオチド配列を含むL−ソルボソンデヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドから誘導可能な単離されたポリヌクレオチド分子。
【請求項2】
配列番号1の部分ヌクレオチド配列が、少なくとも50個の連続するヌクレオチドを有する、請求項1記載の単離されたポリヌクレオチド分子。
【請求項3】
配列番号1の部分ヌクレオチド配列が、少なくとも100個の連続するヌクレオチドを有する、請求項1記載の単離されたポリヌクレオチド分子。
【請求項4】
部分ヌクレオチド配列が、少なくとも100個の連続するヌクレオチドを比較して、配列番号1と少なくとも60%の相同性を有するポリヌクレオチド配列から誘導可能である、請求項3記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項5】
部分ヌクレオチド配列が、配列番号1と少なくとも80%の相同性を有するポリヌクレオチド配列から誘導可能である、請求項1〜4のいずれか1項記載の単離されたポリヌクレオチド分子。
【請求項6】
部分ヌクレオチド配列が、配列番号1と少なくとも90%の相同性を有するポリヌクレオチド配列から誘導可能である、請求項1〜5のいずれか1項記載の単離されたポリヌクレオチド分子。
【請求項7】
配列番号1、11、13、15、17、19、21および26からなる群より選択される、請求項1〜6のいずれか1項記載の単離されたポリヌクレオチド分子。
【請求項8】
部分ヌクレオチド配列が、配列番号5、6、7、8、9、10、23、および24からなる群より選択される、請求項1記載の単離されたポリヌクレオチド分子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のポリヌクレオチドにコードされるポリペプチド。
【請求項10】
配列番号2、12、14、16、18、20、22、および27からなる群より選択される少なくとも25個の連続するアミノ酸の部分アミノ酸配列を含む、請求項9記載のポリペプチド。
【請求項11】
部分アミノ酸配列が、少なくとも35個の連続するアミノ酸を有する、請求項9または10記載のポリペプチド。
【請求項12】
L−ソルボソンデヒドロゲナーゼ活性を有するポリペプチドの発現のための組換えDNA分子であって、請求項1〜7のいずれか1項記載のポリヌクレオチドを含む組換えDNA分子。
【請求項13】
請求項12記載の組換えDNA分子を含む発現ベクター。
【請求項14】
請求項12記載の組換えDNAおよび/または請求項13記載の発現ベクターで形質転換された組換え生物。
【請求項15】
組換えDNAが染色体に少なくとも部分的に組込まれている、請求項14記載の組換え生物。
【請求項16】
真菌細胞、植物細胞、動物細胞および細菌細胞からなる群より選択される、請求項14または15記載の組換え生物。
【請求項17】
生物がグルコノバクター(Gluconobacter)、アセトバクター(Acetobacter)、シュードモナス(Pseudomonas)およびエシェリキア(Escherichia)からなる群より選択される属の細菌である、請求項16記載の組換え生物。
【請求項18】
D−ソルビトール、L−ソルボースおよびL−ソルボソンより選択される基質からのL−アスコルビン酸の製造方法であって、
(a)適切な培地中で請求項14〜17のいずれか1項記載の組換え生物を増殖させ;そして
(b)該培地からL−アスコルビン酸を回収および分離すること
を含む方法。
【請求項19】
D−ソルビトール、L−ソルボースおよびL−ソルボソンより選択される基質からのL−アスコルビン酸の製造方法であって、
(a)適切な培地中で請求項9記載のポリペプチドをコードする非組換え微生物を増殖させ;そして
(b)該培地からL−アスコルビン酸を回収および分離すること
を含む方法。
【請求項20】
D−ソルビトール、L−ソルボースおよびL−ソルボソンより選択される基質を請求項9記載の単離されたポリペプチドと接触させることを含む、L−アスコルビン酸の製造方法。
【請求項21】
D−ソルビトール、L−ソルボースおよびL−ソルボソンより選択される基質からのL−アスコルビン酸の製造方法であって、
(a)適切な培地中で請求項14〜17のいずれか1項記載の生物の組換え体または請求項9記載のポリペプチドをコードする非組換え微生物を増殖させ;
(b)L−ソルボソンデヒドロゲナーゼを単離および精製し;
(c)(b)のL−ソルボソンデヒドロゲナーゼの存在下で該基質をインキュベートし;そして
(d)反応混合物からL−アスコルビン酸を回収および分離すること
を含む方法。
【請求項22】
適切な培地中で請求項1〜7のいずれか1項記載のポリヌクレオチドを含む組換え生物を増殖し、細胞を破壊し、かつL−ソルボソンデヒドロゲナーゼを単離する、L−ソルボソンデヒドロゲナーゼの製造方法。
【請求項23】
適切な培地中で請求項1〜7のいずれか1項記載のポリヌクレオチドを含む非組換え微生物を増殖し、細胞を破壊し、かつL−ソルボソンデヒドロゲナーゼを単離する、L−ソルボソンデヒドロゲナーゼの製造方法。
【請求項24】
微生物の休止細胞を含む培地中で基質をビタミンCに転換することを含む、ビタミンCの製造方法。
【請求項25】
(a)成長を可能にする条件下で微生物を培養し;
(b)該微生物の成長速度を低減して休止細胞をもたらすような条件に変更し;そして
(c)(b)の休止細胞を使用して基質からビタミンCを産生する
工程を含む、請求項25記載の方法。
【請求項26】
工程(a)および(c)が、二つ以上の別個の容器において行われる、請求項25記載の方法。
【請求項27】
工程(a)および(c)がいかなる洗浄工程および/または単離工程によっても隔てられない、請求項25記載の方法。
【請求項28】
微生物を、回分法、流加法、連続法、または半連続法で成長させる、請求項24〜27のいずれか1項記載の方法。
【請求項29】
工程(c)を、回分法、流加法、連続法、または半連続法で行う、請求項25記載の方法。
【請求項30】
600nmでのODとして測定される、培地中の休止細胞の密度が少なくとも10である、請求項24〜29のいずれか1項記載の方法。
【請求項31】
産生するビタミンCの収量が、少なくとも1.8g/lである、請求項24〜30のいずれか1項記載の方法。
【請求項32】
微生物が、酵母、藻類、および細菌からなる群より選択される、請求項24〜31のいずれか1項記載の方法。
【請求項33】
微生物が、カンジダ(Candida)、サッカロミセス(Saccharomyces)、チゴサッカロミセス(Zygosaccharomyces)、スキゾサッカロミセス(Scyzosaccharomyces)、クルイベロミセス(Kluyveromyces)、クロレラ(Chlorella)、グルコノバクター、アセトバクターアセチ(Acetobacter aceti)、パントエア(Pantoea)、クリプトコッカス(Cryptococcus)、シュードモナスおよびエシェリキアからなる群より選択される、請求項24〜32のいずれか1項記載の方法。
【請求項34】
基質が、D−グルコース、D−ソルビトール、L−ソルボース、L−ソルボソン、2−ケト−L−グロナート、D−グルコナート、2−ケト−D−グルコナートおよび2,5−ジケト−グルコナートからなる群より選択される、請求項24〜33のいずれか1項記載の方法。
【請求項35】
基質からビタミンCおよび2−ケト−L−グロン酸の両方を産生できる微生物を使用し、ビタミンCおよび2−KGAの濃度の比が0.1を超える、請求項24〜34のいずれか1項記載の方法。
【請求項36】
培地からのビタミンCの単離、および場合により一つまたは複数の精製工程をさらに含む、請求項18〜21または請求項24〜35のいずれか1項記載の方法。
【請求項37】
すべての精製工程が水性環境で行われる、請求項36記載の方法。

【公表番号】特表2007−502102(P2007−502102A)
【公表日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522868(P2006−522868)
【出願日】平成16年8月16日(2004.8.16)
【国際出願番号】PCT/CH2004/000511
【国際公開番号】WO2005/017159
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】