説明

微生物の検出方法及び微生物検出用プレート

【課題】本発明は、全領域に点在している蛍光体(微生物)と検出器との間が一定であり、観察領域が変わるたびに蛍光体と検出器の距離を変えること無しに、迅速検査を可能にするメンブランフィルタ上の微生物を検出する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、メンブランフィルタ上の微生物を検出する方法であって、緩衝剤を介してセラミックからなる支持体にメンブランフィルタを配置することを特徴とする前記方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンブランフィルタ上の微生物を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メンブランフィルタ上の蛍光染色された微生物を検査する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)が、メンブランフィルタ上の蛍光物体を光学系検出器で検知するには、メンブランフィルタ面の平面度が重要である。なぜなら、メンブラン表面全領域の観察領域を変えるたびに蛍光体と検出器との最適な距離を計測、調整していては膨大な時間を要するためである。従って、迅速検査を可能にするためには、全領域に点在している蛍光体(微生物)と検出器との間が一定であることを前提条件に、観察領域が変わるたびに蛍光体と検出器の距離を変えること無しに、検出を行う必要がある。
メンブランフィルタの平面度を確保する際には、次の方法で実施することが知られている(ChemScan RDI User Manual, Gunze Sangyo Scientific Instruments)。まず、メンブランホルダー(ステンレス製)に100μlの緩衝液(商品名:Chemsol B16)を滴下し、中間材として、円形のニトロセルロース製フィルタ(商品名:Support PAD)を置き、Support PADを完全に湿潤させる。続いて、その上に蛍光染色したメンブランフィルタをSupport PADに重ねる。このような手順を経て、最終的にはメンブランフィルタがそのホルダーに密着し、フラットな状態が保たれる。
【0003】
【特許文献1】国際公開第03/008634号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ステンレス製のメンブランホルダーでは、製作加工時に研磨傷が生じる為、水平度の確保は厳密には不可能であった。また、ホルダーとメンブランフィルタを繋ぎとめる“糊”として、緩衝液(商品名:Chemsol B16)のみの使用では、乾燥する速度が速いことから、経時的にメンブランフィルタの高さが変化してしまう問題があった。また、緩衝液(商品名:Chemsol B16)には、退色防止効果はないため、蛍光染色した微生物がすぐに退色してしまう、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、メンブランホルダーに特定の材質を用いること等によって上記課題を効率的に解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、メンブランフィルタ上の微生物を検出する方法であって、緩衝剤を介してセラミックからなる支持体にメンブランフィルタを配置することを特徴とする前記方法を提供する。
また、本発明は、緩衝剤及びネットフィルタ介してセラミックからなる支持体にメンブランフィルタを配置した微生物検出用プレートを提供する。
また、本発明は、グリセロールを含む微生物検出用プレート用緩衝剤を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明のメンブランフィルタ上の微生物を検出する方法は、メンブランフィルタの支持体としてセラミックからなる支持体を使用する。メンブランフィルタの支持体をセラミックス製とすることで、精度よい加工が可能となり、高精度の水平度を確保することができる。したがって、2以上のメンブランフィルタを同時に配置する場合にも、各メンブランフィルタの高さを精度よく一様にすることができる。セラミックスとしては、SiC、SiN、Si34、Al23、ZrO2などが挙げられる。好ましくは、SiCである。
本発明の方法において、メンブランフィルタは緩衝剤を介して前記支持体上に配置される。緩衝剤としては、トリス塩酸緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液(PBS)、マレイン酸緩衝液等を用いることができる。好ましくは、緩衝剤はグリセロールを含む。グリセロールの粘性によって前記支持体とメンブランフィルタとの密着性が向上し、メンブランフィルタの乾燥を防止する。また、粘度上昇により酸素濃度が低減し、蛍光染色した微生物の褪色をも防止することができる。さらに、p-フェニレンジアミンやDABCO(1,4-ジアザビスシクロ-2,2,2-オクタン)などの退色防止剤を添加してもよい。退色防止効果をさらに向上させることができる。
本発明の方法において、緩衝剤を介してメンブランフィルタを前記支持体上に配置する場合、さらにネットフィルタを介してメンブランフィルタを配置するのが好ましい。ネットフィルタとしては、ナイロン製、ポリプロピレンなどのネットフィルタが挙げられる。好ましくは、ナイロン製である。緩衝剤を速やかに浸潤させることができ、メンブランフィルタの高さを短時間で安定させることができる。ネットフィルタのメッシュサイズは、10〜200μm程度のものが適している。
【0007】
本発明の方法においては、メンブランフィルタとして、通常使用されるメンブランフィルタを使用することができるが、ポリマー層と金属層を有するメンブランフィルタが好ましい。蛍光バックグラウンドを低減し、平滑で操作性に優れている。
ポリマー層を構成するポリマーは、通常メンブランフィルタとして使用されるポリマーであれば特に限定されるものではないが、例えばニトロセルロース、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフッ化エチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンが挙げられる。好ましくは、ポリエステル、ポリカーボネートである。ポリエステルやポリカーボネートなどで製造するメンブランフィルタは細孔サイズが均一であるため、細菌などを捕捉し、蛍光染色観察するのに適している。
ポリマー層の厚さは、好ましくは10〜500μmであり、より好ましくは20〜30μmである。
金属層を構成する金属は、特に限定されるものではないが、例えば金、銀、銅、亜鉛、アルミニウム、チタン、タンタル、クロム、鉄、ニッケル、コバルト、鉛、錫などの金属又はこれらの合金が挙げられる。好ましくは、錫である。錫は微生物に対する毒性がなく、染色後の細菌観察が容易であるので特に効果的である。
金属層の厚さは、好ましくは0.1nm〜1μmであり、より好ましくは10〜100nmである。
本発明の方法で用いるメンブランフィルタの細孔サイズは、好ましくはφ0.1〜10μmであるが、対象となる微生物細胞のサイズにより細孔サイズを選択することが好ましい。
細孔密度は、好ましくは105〜108個/m2である。細孔密度が大きければ大きいほど濾過性はよいが、メンブランフィルタの強度が低下する傾向があるため、これらを考慮して細孔サイズと細孔密度を選択する必要がある。
【0008】
本発明の方法において、メンブランフィルタ上の微生物の検出は、従来から公知の検出手段及び方法を用いて行うことができる。例えば、メンブランフィルタ上にトラップされた微生物を蛍光染色して蛍光顕微鏡で観察する方法、微生物由来のATPをルシフェリン-ルシフェラーゼ反応による発光で検出する方法等が挙げられる。微生物を蛍光染色して蛍光顕微鏡で観察する場合、蛍光染色は、従来から用いられている任意の蛍光染色法であってもよく、例えば大腸菌特異的蛍光プローブ(vermicon AG)やDAPI(4'6ジアミノ-2-フェニルインドール)等による染色が挙げられる。
【実施例】
【0009】
(実施例1)
図1に示した9箇所の円形のウェルを持ち、各ウェルに各1枚の試料をセットできる形状のプレート(材質:セラミックSiC)を作成した。各ウェルにつき、円の中心および中心を通る2本の直行軸と円周の交点の5箇所のプレート底面からの高さを測定したところ、交差は2μm以下であり、極めて平行度の高いものであった。このプレートの任意の場所のウェルを用いて、以下のような緩衝剤とパッドの組み合わせで試料を調製した。
【0010】
試料1:
緩衝剤(PBS/グリセロール、等量混合)+パッド(ナイロンネットフィルタ:TYPE NY60、60μm、Millipore)
試料2:
緩衝剤(PBS)+パッド(ナイロンネットフィルタ:TYPE NY60、60μm、Millipore)
試料3:
緩衝剤(PBS)+パッド(ニトロセルロースフィルタ:TYPE HA、0.45μm、Millipore)
試料4:
緩衝剤(PBS/グリセロール、等量混合)+パッド(ニトロセルロースフィルタ:TYPE HA、0.45μm、Millipore)
【0011】
平滑性の確認は次のように実施した。落射式蛍光顕微鏡DMRXA2(Leica)のステージに上記試料を載せたプレートを設置し、NDフィルタ付リフレクターを通過させた光を照射し、得られる画像をCCDカメラCool Snap fx(ローパー社)で撮像し、画像処理ソフトQwin(Leica)のオートフォーカスコマンドを実行し、最適なフォーカス位置を決定した。なお、オートフォーカス実行には、添付の説明書に従い、適切なパラメータを設定した。オートフォーカスにより決定されたZ軸の高さレベルは1試料あたり4点測定し、その4点中のフォーカス位置の差(Δ;単位はμm)を算出した。この測定を経時的に実施した。その結果を図2に示す。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】セラミックプレートの図面を示す。
【図2】平滑度の経時変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メンブランフィルタ上の微生物を検出する方法であって、緩衝剤を介してセラミックからなる支持体にメンブランフィルタを配置することを特徴とする前記方法。
【請求項2】
さらに、ネットフィルタを介してセラミックからなる支持体にメンブランフィルタを配置する請求項1記載の方法。
【請求項3】
緩衝剤がグリセロールを含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
ネットフィルタがナイロンネットフィルタである、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
メンブランフィルタがポリマー層と金属層とを有するメンブランフィルタである、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
メンブランフィルタ上の微生物を検出する方法が顕微鏡を用いる方法である請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
2以上のメンブランフィルタを同時に配置する請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
緩衝剤及びネットフィルタ介してセラミックからなる支持体にメンブランフィルタを配置した微生物検出用プレート。
【請求項9】
2以上のメンブランフィルタを配置した請求項8記載のプレート。
【請求項10】
グリセロールを含む微生物検出用プレート用緩衝剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−158326(P2006−158326A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−356847(P2004−356847)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【出願人】(300090846)株式会社ライフテック (13)
【Fターム(参考)】