説明

恒温槽の蓋開閉装置及び恒温槽

【課題】蓋を省略することなく、自動化に対応可能で、マイクロプレート等の温度制御対象を狭いスペースで出し入れ可能な恒温槽の蓋開閉装置を提供する。
【解決手段】恒温槽10の開口面に対して略垂直方向に平行移動する蓋30を開閉するための恒温槽の蓋開閉装置であって、蓋30の一端(30A)に加えられた開閉方向の動きを、蓋30の他端にも伝えるための伝達機構(スタッド50、52、プーリ54、56、58、ワイヤ60)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、恒温槽の蓋開閉装置に係り、特に、マイクロプレートEIA(エンザイムイムノアッセイ=酵素免疫測定)検査装置等における反応促進用恒温槽部に用いるのに好適な、自動化に対応可能で、マイクロプレート等の温度制御対象を狭いスペースで出し入れすることが可能な恒温槽の蓋開閉装置、及び、この蓋開閉装置を備えた恒温槽に関する。
【背景技術】
【0002】
EIA検査装置等では、マイクロプレート等に保持された試料を設定温度に保持するために恒温槽が用いられている。例えば特許文献1には、反応促進のための恒温槽として、箱の中にマイクロプレートを入れ、蓋を付けたものが記載されている。この装置では、試料の温度を均一化させるために蓋を設けている。
【0003】
一方、蓋を自動開閉するのは大変なので、特許文献2では、自動化に対応するため蓋を無くした恒温槽が開示されている。蓋を無くすと試料内の上下で温度差が生じるので、特許文献2では、ユニット全体を振動させて試料を攪拌する構造となっている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−89553号公報
【特許文献2】特開2004−294130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の記載の技術では、手動で扱うことを想定しており、自動でマイクロプレートを入れ、又、蓋をするといった自動化には対応できない。
【0006】
一方、特許文献2に記載の技術は、自動化に対応できるが、試料温度の均一化のために攪拌機能を必要とし、装置コストが高くなる。又、この恒温槽に試料反応促進のために振動機構を設けることも考えられるが、この場合でも大気開放となり、いずれにせよ、無駄なエネルギー供給によるランニングコストの上昇や、省エネルギーに反するといった問題がある。
【0007】
本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、自動化に対応可能で、温度制御対象を狭いスペースで出し入れすることが可能な恒温槽の蓋開閉装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、恒温槽の開口部に対して垂直方向に平行移動する蓋を開閉するための恒温槽の蓋開閉装置であって、蓋の一端に加えられた開閉方向の動きを、蓋の他端にも伝えるための伝達機構を備えることにより、前記課題を解決したものである。
【0009】
前記伝達機構は、糸状体と滑車を含むものとすることができる。
【0010】
前記蓋を直動ガイドにより支持することができる。
【0011】
前記蓋に、温度制御対象を熱源に密着させるための押え部材を設けることができる。
【0012】
更に、温度制御対象を熱源上で保持する手段を設けることができる。
【0013】
本発明は、前記の蓋開閉装置を備えたことを特徴とする恒温槽を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、蓋の一端に加えられた開閉方向の動きを、蓋の他端にも伝えるようにしたので、蓋の一端のみを持ち上げた場合でも、追従して他端も持ち上がるため、蓋に過大な強度が要求されず、蓋自体のコスト上昇、蓋が重くなることにより必要となる全体の剛性上昇によるコストアップ上昇、更に、蓋の強度が高すぎることによる蓋と温度制御対象との密着性低下を防ぐことができる。又、直動ガイド機構等の蓋の移動ガイドに過大な負荷を与えることもない。
【0015】
又、蓋が恒温槽の開口部に対して略垂直方向に平行移動するだけであるため、マイクロプレート等の温度制御対象を、開口面と蓋の間から出し入れすることにより、狭いスペースに多数の恒温槽を積層配置することができ、スペース効率を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0017】
図1に、本発明に係る蓋開閉装置の実施形態を備えた恒温槽の斜視図、図2に、装置内部の断面図、図3に外形側面説明図を示す。
【0018】
本実施形態は、恒温槽10の開口部に対して垂直方向(図の上下方向)に平行移動する蓋30を開閉するための恒温槽の蓋開閉装置であって、蓋30の先端の引掛け部30Aに加えられた開閉方向(図の上下方向)の動きを、蓋30の後端(図2及び図3の右端)にも伝えるための伝達機構として、蓋30の先端及び後端近傍の両側面に固定されたスタッド50、52と、恒温槽10の固定ベース12の先端及び後端近傍の両側面に回動自在に支持された、外周溝付きのプーリ54、56と、蓋30の後端近傍の両側面に回動自在に支持された、同じく外周溝付きのプーリ58と、該プーリ54、56、58に掛け回された状態で前記スタッド50、52間に張架された、例えばスチール製のワイヤ60と、を備えたものである。
【0019】
前記ワイヤ60には、スタッド50又は52の上下方向位置を調整することにより、適切な張力が掛けられている。
【0020】
前記固定ベース12の垂直面にはリニア(直動)ガイド14のレール14Rが固定され、前記蓋30は該レール14Rと係合される可動子14Mにより、該レール14Rに沿って上下方向に直動できるようになっており、固定ベース12と蓋30の先端及び後端近傍に張架されたコイルばね40によって開口を閉じる方向(図の下方)に付勢されている。
【0021】
前記蓋30の内側には、例えばペルチェ素子16、ヒートシンク18及び伝熱板20からなる熱源上で、温度制御対象であるマイクロプレート8を保持するためのプレート台22が設けられ、該プレート台22は、固定ベース12に固定されたレール24Rと可動子24Mからなるリニア(直動)ガイド24により蓋30の内側下方で上下動可能となっている。このプレート台22は蓋30とコイルばね42で繋がれており、このコイルばね42を介して蓋30と連動するが、ストッパ26で上方への移動が規制され、熱源の伝熱板20で下方への移動が規制されている。又、プレート台22には、大きな穴22Hが開いており、伝熱板20の凸部20Aに嵌まり込むようになっている。この伝熱板20の下にはペルチェ素子16があり、ヒートシンク18と伝熱板20によって挟み込まれている。
【0022】
前記蓋30の内部上方には、マイクロプレート8を伝熱板20に密着させるための押え部材32が設けられている。
【0023】
又、図4(斜視図)及び図5(要部の断面図)に例示する如く、マイクロプレート8を搬送するハンドリングユニット70のハンドリング部80は、ハンドリングベース72の上面に設けたリニアレール74上を前後移動する。そしてハンドリングベース72の下面には、その先端に、ソレノイド76の作用で出し入れ可能な爪78が設けられており、蓋30の引掛け部30Aに接合させ、ハンドリングユニット70を上下動させることで、蓋30の開閉ができるようになっている。図4、図5において、82は、マイクロプレート8を両側から把持するための一対のアーム、84は、その開閉機構、86は、その駆動源である。
【0024】
以下動作を説明する。
【0025】
自動分析装置中の試料や試薬の入ったマイクロプレート8は、図4及び図5に例示したようなハンドリングユニット70で、図6に例示する如く恒温槽ユニット前面まで運ばれる。図6において、90は、ハンドリングユニット70を水平に移動させる搬送機構、92は、搬送機構90を垂直に移動させる搬送機構である。
【0026】
次に、ハンドリングユニット70の爪78を蓋30の引掛け部30Aに下方で突出させ、ハンドリングユニット70を上方へ動かすことで、蓋30を持ち上げる。このとき、プレート台22は、コイルばね42を介して同時に持ち上げられるが、ストッパ26にリニアガイド24の可動子24Mが当接すると止まり、蓋30のみが更に持ち上げられる。
【0027】
蓋30とプレート台22の間隔が十分に開いた時点でハンドリングユニット70の上昇を止め、ハンドリングユニット70は、マイクロプレート8を恒温槽10の内部へ挿入し、プレート台22の上にマイクロプレート8を置いて退出する。
【0028】
次にハンドリングユニット70は下降し、蓋30を下ろすが、コイルばね42が十分に縮んで弛んだ時点で、プレート台22も下降を始め、最終的にはマイクロプレート8の底8Aが伝熱板20に当接する。
【0029】
更に蓋30が下降すると、押え部材32がコイルばね40を介してマイクロプレート8を伝熱板20に押し付けることになる。このコイルばね40による押付力が強い程、伝熱板20の熱がマイクロプレート8の各ウェルに均等に伝わり、検査の信頼性が増す。
【0030】
以上が一連の動きであるが、検査の信頼性を向上させるためにコイルばね40を強くすると、蓋30の引掛け部30Aを持ち上げたときに蓋30が変形し、後方のリニアガイド14側が遅れて持ち上がることとなり、マイクロプレート8を挿入するための適正空間の保持が難しくなる。又、これを避けるために蓋30の剛性を向上させたとしても、先端のみを持ち上げることでリニアガイド14の付く後端では大きなモーメントが生じ、リニアガイド14にこじれを発生させ、その寿命を短くすることとなる。
【0031】
以上の不具合を防止するため、本実施形態では、ワイヤ60とプーリ54、56、58を用いている。即ち、図3において、蓋30の引掛け部30Aが持ち上げられると、前方のスタッド50に固定されたワイヤ60の先端も同時に持ち上げられる。このワイヤ60の張力は、3個のプーリ54、56、58を介して、後方のスタッド52に固定されたワイヤ60の後端へ伝達されて、蓋30のリニアガイド14に近い後方部分も同時に持ち上げられる。従って、蓋30に必要以上の剛性を与える必要がなく、リニアガイド14の付く後端も同時に持ち上げられるため、リニアガイド14にモーメントによる過大な負荷は掛からない。
【0032】
又、蓋30の剛性が高い場合、マイクロプレート8を伝熱板20へ均一に押し付ける為には、20A部と押え部材32の平行度は高い精度を必要とするが、蓋30が、ある程度弾性変形を許容する板金等の構成であれば、4本のばね40の力により、均一に押し付けることが可能である。
【0033】
本実施形態においては、伝達機構を外周溝付きのプーリ54、56、58とスチール製のワイヤ60で構成しているので、構成が単純である。なお、ワイヤ60の材質はスチールに限定されず、例えばケプラーのような伸びの小さな繊維に置き換えても良い。又、プーリの代わりに、外周溝の無いローラを用いてもよい。更に、ワイヤの引き回しもこの実施形態に限定されない。又、ワイヤとプーリの組合せでなく、例えばギヤを用いて蓋の前後の動きを同期させてもよい。
【0034】
又、本実施形態においては、リニアガイド14を用いて蓋30を上下に移動させているので、僅かな隙間でも蓋全体を持ち上げることができ、マイクロプレート8を確実に出し入れすることができる。なお、蓋30の平行移動をガイドする構成はこれに限定されず、例えばボールとブッシュの組合せや、単なるブッシュや蟻溝を用いることも可能である。
【0035】
又、本実施形態においては、押え部材32を蓋30に設けているので、マイクロプレート8の蓋が不要であり、押え付けが上手くいく。なお、押え部材32を省略することも可能である。
【0036】
又、本実施形態においては、プレート台22を設けているので、ハンドリングユニット70の動きが単純な動きでよい。なお、ハンドリングユニット70側でマイクロプレート8を下げて熱源上に直接置きに行くことができれば、プレート台22を省略することもできる。
【0037】
又、本実施形態においては、蓋30の両側に伝達機構を設けていたので、バランスが良く、動きが円滑であるが、例えば対角線位置にのみ伝達機構を設けてもよい。
【0038】
又、本実施形態においては、熱源にペルチェ素子16を用いているので、加熱、冷却のいずれも可能である。なお、熱源の構成も実施形態に限定されず、加熱源又は冷熱源のいずれか一方のみを用いても良い。又、温度制御対象もマイクロプレート8に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態が採用された恒温槽の斜視図
【図2】同じく装置内部の断面図
【図3】同じく外形側面の説明図
【図4】マイクロプレートを搬送するハンドリングユニットの一例を示す斜視図
【図5】同じく要部の断面図
【図6】恒温槽が多数並置された恒温槽ユニットを示す斜視図
【符号の説明】
【0040】
8…マイクロプレート
10…恒温槽
14、24…リニア(直動)ガイド
16…ペルチェ素子
18…ヒートシンク
20…伝熱板
22…プレート台
30…蓋
32…押え部材
40、42…コイルばね
50、52…スタッド
54、56、58…プーリ
60…ワイヤ
70…ハンドリングユニット
72…ハンドリングベース
76…ソレノイド
78…爪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
恒温槽の開口部に対して垂直方向に平行移動する蓋を開閉するための恒温槽の蓋開閉装置であって、
蓋の一端に加えられた開閉方向の動きを、蓋の他端にも伝えるための伝達機構を備えたことを特徴とする恒温槽の蓋開閉装置。
【請求項2】
前記伝達機構が、糸状体と滑車を含むことを特徴とする請求項1に記載の恒温槽の蓋開閉装置。
【請求項3】
前記蓋が直動ガイドにより支持されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の恒温槽の蓋開閉装置。
【請求項4】
前記蓋に、温度制御対象を熱源と密着させるための押え部材が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の恒温槽の蓋開閉装置。
【請求項5】
温度制御対象を熱源上で保持する手段が設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の恒温槽の蓋開閉装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の蓋開閉装置を備えたことを特徴とする恒温槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−333659(P2007−333659A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−168245(P2006−168245)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【出願人】(000162478)協和メデックス株式会社 (42)
【Fターム(参考)】