説明

情報記憶媒体

【課題】 無線ICタグの貼り付け位置を変えずに複数の通信用周波数に対応することができる情報記憶媒体を提供する。
【解決手段】 情報記憶媒体1は、無線通信改善シート体10と無線ICタグ20とからなる。無線通信改善シート体10は、第1のスペーサ2、補助アンテナ3、第2のスペーサ4および裏面導体層5からなり、補助アンテナ3は、第1粘着剤3aによって第2のスペーサに貼り付けられ、裏面導体層5は、第2粘着剤5aによって第2のスペーサに貼り付けられる。孔Sの幅Wが、ループアンテナ21aの長辺部分23a,23bの長さよりも長くなるように、孔Sを補助アンテナ3に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線ICタグを用いた情報記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信の分野のみならず、物流管理などの分野でも無線通信技術が応用され、無線通信用のICタグ(以下では単に「無線ICタグ」という。)は、RFID(Radio Frequency Identification)技術の一翼を担う製品として広く知られている。
【0003】
無線ICタグは、自ら電源を持たないパッシブタイプと電源を持つアクティブタイプとがある。低価格で汎用性を有するパッシブタイプは、リーダからの電波を受信し、このエネルギを利用してIC回路を起動し、無線通信が可能となる。
【0004】
無線ICタグは、識別情報などのデータを記憶するICチップと、電波を送受信するためのアンテナとからなり、薄型、軽量で無線通信が実現できることが大きな利点となっている。ICチップにはメモリ領域を設けているため、ここに格納される各種の情報を用いて情報管理が可能となる。
【0005】
薄型、軽量の利点を生かして、無線ICタグを、物流管理や安価な情報記憶媒体として使用することができるが、その用途が多岐にわたることから、様々な使用環境に置かれることになる。
【0006】
たとえば、金属材料に無線ICタグを貼り付けて使用しようとすると、アンテナの通信特性が劣化し、通信可能距離が短くなってしまう。金属材料に貼り付けて使用する場合には、たとえば、特許文献1に開示されているような無線通信改善シート体を用いればよい。
【0007】
また、UHF帯の無線ICタグの場合、通信用周波数は、アメリカにおいて902〜928MHz、日本において952〜954MHz、韓国において910〜915MHz、EUにおいて866〜868MHzのように、国別に割り当てが異なっている。特許文献1記載の無線通信改善シート体では、補助アンテナに設けられた孔または切り欠きなどの共振周波数を調整するための調整部に対して、無線ICタグの貼り付け位置を変えると、複数の通信用周波数に対応することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開2010/38813号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1記載の無線通信改善シート体を用いた場合、通信用周波数が異なるごとに、無線ICタグの位置を異ならせる必要がある。たとえば、使用する国ごとに無線ICタグの貼り付け位置を予め決定しておき、製品出荷時に決定しておいた位置に無線ICタグを貼り付ける。貼り付け位置がずれたり、対応すべき周波数を誤って貼り付けてしまうと、無線通信を行うことができなくなってしまう。無線通信改善シート体を再利用する場合などで、通信用周波数が異なる無線ICタグを使用しようとした場合、一度貼り付けたものを剥がして、再度所定の位置に貼り付けるという作業が必要となる。
【0010】
本発明の目的は、無線ICタグの貼り付け位置を変えずに複数の通信用周波数に対応することができる情報記憶媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、矩形状のループアンテナ、および前記ループアンテナに接続され、識別情報が記憶される集積回路素子からなる無線ICタグと、
前記無線ICタグが配置される配置面を有する第1のスペーサと、
前記第1のスペーサの前記配置面とは反対側の面に設けられる補助アンテナであって、前記第1のスペーサを挟んで前記ループアンテナに対応する位置に、前記ループアンテナの長辺の内寸長さ以上の長さの幅を有する孔が設けられた導電体層からなる補助アンテナと、
前記補助アンテナを挟んで前記第1のスペーサとは反対側に設けられる第2のスペーサと、が積層されて成ることを特徴とする情報記憶媒体である。
【0012】
また本発明は、前記集積回路素子は、前記ループアンテナの一方の長辺に接続され、
前記ループアンテナは、積層方向から見たときに、前記一方の長辺が前記孔内に位置し、他方の長辺が前記導電体層に重なるように、設けられることを特徴とする。
【0013】
また本発明は、前記無線ICタグは、EPC Class1 Generation2規格に準拠し、通信周波数の帯域が、UHF帯であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、矩形状のループアンテナ、および前記ループアンテナに接続され、識別情報が記憶される集積回路素子からなる無線ICタグを用い、補助アンテナは、ループアンテナの長辺の内寸長さ以上の長さの幅を有する孔が設けられた導電体層からなるものである。
【0015】
これにより、無線ICタグの貼り付け位置を変えずに通信周波数を広帯域とすることができ、複数の通信用周波数に対応することができる。
【0016】
また本発明によれば、前記ループアンテナは、積層方向から見たときに、前記一方の長辺が前記孔内に位置し、他方の長辺が前記導電体層に重なるように、設けられる。
これにより、通信周波数をより広帯域とすることができる。
【0017】
また本発明によれば、前記無線ICタグは、EPC Class1 Generation2規格に準拠し、通信周波数の帯域が、UHF帯であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態である情報記憶媒体100の構成を示す断面図である。
【図2】情報記憶媒体1の平面図である。
【図3】実施例1の通信距離の周波数特性を示すグラフである。
【図4】実施例2の通信距離の周波数特性を示すグラフである。
【図5】比較例の通信距離の周波数特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の実施形態である情報記憶媒体1の構成を示す断面図である。図2は、情報記憶媒体1の平面図である。情報記憶媒体1は、無線通信改善シート体(以下では単に「シート体」という)10と無線ICタグ20とからなる。なお、図2では理解を容易にするために、後述するアンテナ21について、斜線(ハッチング)を施して示した。
【0020】
シート体10は、第1のスペーサ2、補助アンテナ3、第2のスペーサ4および裏面導体層5からなり、補助アンテナ3は、第1粘着剤3aによって第2のスペーサ4に貼り付けられ、裏面導体層5は、第2粘着剤5aによって第2のスペーサ4に貼り付けられる。
【0021】
無線ICタグは、無線電波を送受信するためのアンテナ21と、アンテナ21に接続され識別情報が記憶される集積回路素子(以下では「ICチップ」という)22とを有する。さらに、アンテナ21は、ループアンテナ21aとパターンアンテナ21bとからなり、ICチップ22は、ループアンテナ21aに接続されている。
【0022】
第1のスペーサ2は、無線ICタグ20を結線しないで配置する配置面2aを有し、無線ICタグ20のアンテナ21と補助アンテナ3との間を絶縁する誘電体層で構成される。
【0023】
補助アンテナ3は、第1のスペーサ2の配置面2aとは反対側の面に設けられる金属薄層からなり、無線ICタグ20の通信周波数で共振することで、無線ICタグ20のアンテナ21と電磁的に結合し、しかもそれ自身が共振アンテナとして機能する。
【0024】
第2のスペーサ4は、補助アンテナ3を挟んで第1のスペーサ2とは反対側に設けられ、補助アンテナ3と裏面導体層5との間を絶縁する誘電体層で構成される。
【0025】
裏面導体層5は、金属薄層からなり、第2のスペーサ4を挟んで補助アンテナ3とは反対側に設けられる。
【0026】
第1のスペーサ2、補助アンテナ3、第2のスペーサ4および裏面導体層5は、それぞれ同一の外形寸法を有し、この順に積層してシート体10を構成する。
【0027】
シート体10を積層方向から見たときの平面形状は、実装する無線ICタグ20の形状にもよるが、多くは矩形状である。また、シート体10の総厚みは、約0.5〜15mmである。
【0028】
本実施形態では、シート体10の平面形状は長方形であり、補助アンテナ3には、長辺方向中央部に開口する、矩形状の孔(スロット)Sが設けられる。図2の平面図では、孔Sの位置がシート体10のほぼ中央に位置しているが、必ずしも中央部とは限らない。孔Sは、無線ICタグ20のループアンテナ21aの位置に対応するように設ける。
【0029】
孔Sは、図1の断面図に示すように、補助アンテナ3を積層方向に貫通する。孔Sの長さLは、シート体10の短辺方向長さL0に対して3〜97%となる長さに形成され、たとえば3〜194mmである。
【0030】
孔Sの幅Wは、矩形状のループアンテナ21aの長辺の内寸長さ以上の長さに設けられ、ループアンテナ21aの大きさによるが、たとえば1〜180mmである。
【0031】
無線ICタグ20の全体形状は、略矩形状であり、図2に示すように、中央にループアンテナ21aがあり、その両側にパターンアンテナ21bが延びて設けられる。ICチップ22は、ループアンテナ21aに接続される。ループアンテナ21aは、略矩形状であり、2つの長辺部分23a,23bと2つの短辺部分24a,24bとからなる。ループアンテナ21aの配置は、無線ICタグ20全体形状の長手方向に、長辺部分23a,23bが平行に沿うように設けられる。シート体10も、上記のように無線ICタグ20の全体形状に合わせて矩形状であり、無線ICタグ20の長手方向と、シート体10の長手方向とが平行となるように、無線ICタグ20を、第1のスペーサ2の配置面2aに配置する。
【0032】
本発明において、ループアンテナ21aの形状が略矩形状であるとは、正方形を含む長方形、隅がR形状となった隅丸矩形、および少なくとも3辺が直線状で、残りの1辺が曲線状であったり、残りの1辺の一部が凹状部分または凸状部分を有しているような形状も含む。
【0033】
補助アンテナ3の孔Sは、第1のスペーサ2を挟んでループアンテナ21aに対応する位置に、設けられる。孔Sの開口寸法のうち幅Wは、シート体10の長手方向に平行な方向の長さ寸法であり、長さLは、シート体10の長手方向に直交する短手方向に平行な方向の長さ寸法である。孔Sの幅Wが、ループアンテナ21aの長辺部分23a,23bの内寸長さ以上に長くなるように、孔Sを補助アンテナ3に設けることで、無線ICタグ20の貼り付け位置を変えることなく、通信周波数帯域を、より広帯域とすることができる。
【0034】
本実施形態では、無線ICタグ20の全体形状およびループアンテナ21aの形状を略矩形状としたが、これに限らず円形状、楕円形状であってもよい。
【0035】
ループアンテナが円形状であるときは、全体が同じ幅で一様に形成され、孔Sの幅Wが、ループアンテナの直径(ループアンテナの長辺に相当)の内寸長さ以上に長くなるように孔Sを設け、楕円形状であるときは、全体が同じ幅で一様に形成され、長軸がシート体10の長手方向に平行となるように設けられるとともに、孔Sの幅Wが、ループアンテナの長径(ループアンテナの長辺に相当)の内寸長さ以上に長くなるように孔Sを設ける。
【0036】
なお、孔Sの幅Wが、ループアンテナ21aの長辺部分23a,23bの内寸長さよりも短い場合であっても、通信周波数帯域が広帯域とならないだけで、無線ICタグ20の本来の通信周波数による無線通信は当然可能であり、シート体10による通信改善機能も発揮される。
【0037】
さらに、ループアンテナ21aの、配置位置については、シート体10の積層方向から見たときに、ループアンテナ21aの長辺部分23a,23bのうち、ICチップ22が接続される、一方の長辺部分(本実施形態では長辺部分23a)が孔S内に位置し、他方の長辺部分(本実施形態では長辺部分23b)が補助アンテナ3の金属薄層部分に重なるように設けることが好ましい。
【0038】
ループアンテナ21aの、ICチップ22が接続される側の長辺部分を金属薄層部分に重なるように設けたり、ループアンテナ21aの長辺部分がいずれも金属薄層部分に重ならず、短辺部分24a,24bを含めループアンテナ21a全体が孔S内に位置するような場合は、通信周波数帯域を、十分に広げることができない。
【0039】
無線ICタグ20については、市販品を使用することが可能であり、通信周波数帯域も限定されるものではないが、特に通信周波数帯域がUHF帯の無線ICタグ20に、効果が顕著となる。
【0040】
さらに、EPC Class1 Generation2規格(EPC C1G2規格)およびISO 18000−6 TypeCに準拠するICチップ22を用いた無線ICタグ20を用いたときに効果が顕著となる。EPC C1G2規格に準拠したICチップとしては、NXP社製 UCODE G2iL、ALIEN社製 Higgs3、Impinj社製 Monza4などが挙げられる。
【0041】
以下では、シート体10についてさらに説明する。
本発明のシート体10は、補助アンテナ3に孔Sを設けることで、少なくとも通信改善機能を発揮し、上記のようなループアンテナ21aに対する寸法を規定することで、さらに通信周波数が広帯域となる。通信改善機能は、配置面2aに配置された無線ICタグ20のアンテナ21と、補助アンテナ3とが、この孔Sを介して電磁的に結合し、補助アンテナ3が共振アンテナとして機能することにより発揮される。
【0042】
補助アンテナ3に孔Sを設けることで、無線ICタグ20のアンテナ21の共振動作に応じて孔Sに、アンテナ形状の長軸方向に沿って電界が発生するため、これを介することでアンテナ21およびICチップ22と補助アンテナ3間の電磁的結合が活性化することになる。さらに、孔Sは補助アンテナ3の電気抵抗を上昇させるので、無線ICタグ20のアンテナ21に対応して補助アンテナ3に発生する誘導電流を抑えることが可能となる。
【0043】
孔Sを介することで補助アンテナ3は、無線ICタグ20と電気的に接続しなくとも電磁エネルギを受け渡す機能を有することやICチップ22への情報とICチップ22からの情報の伝搬経路もその内部で重畳化することにより、従来の遠方とのアンテナ動作に加え近傍での無線ICタグ20との電磁エネルギの受け渡しという動作メカニズムにも対応している。
【0044】
補助アンテナ3は、無線ICタグ20と組み合わせたときに、全体として無線通信周波数に共振する構成であり、補助アンテナ3の共振層は、共振する部位は一つでも複数でもよいが、その部位は無線通信周波数の電波の波長をλとすると、共振部位はλ/8〜3λ/4の範囲に入る寸法を有している。
【0045】
このように、情報記憶媒体1は、シート体10と無線ICタグ20とを互いに貼り合わせるだけで無線ICタグ20の通信改善を行なうことが可能となる。市販の無線ICタグはそれぞれの設計により、チップインピーダンスの値が異なっている。このインピーダンスは静置の場合と動作時の場合でも異なるし、また動作条件でも受信するエネルギ量に依存して変化する。これら不安定で、変動しやすいインピーダンスを持つ無線ICタグに、シート体10を後から貼り付けるだけでインピーダンス整合および改善を実現できるところが本発明の無線通信改善シート体の特徴である。
【0046】
第1のスペーサ2および第2のスペーサ4は、それぞれ無線ICタグ20と補助アンテナ3とを絶縁し、補助アンテナ3と裏面導体層5とを絶縁するとともに、誘電体層として波長短縮効果を与えることで、補助アンテナ3の共振周波数を調整する。補助アンテナ3と裏面導体層5との間には電界=0となる部分が形成される場合があり、その場合は電界=0の部分にビアを設けるなど補助アンテナ3と裏面導体層5とを導通させても動作は可能である。
【0047】
第1のスペーサ2および第2のスペーサ4は、無線ICタグ20と補助アンテナ3、および補助アンテナ3と裏面導体層5の間隔など位置関係を保つことができればよく、用いる材料としては、電磁エネルギの損失の低い、すなわち通信周波数帯域で誘電正接tanδ(ε”/ε’)または磁性正接tanδ(μ”/μ’)の低い材料を用いることが好ましい。たとえば、単に間隔を空けた空気層などであってもよいが、一般には下記に例示するような有機材料を用いることが好ましい。
【0048】
有機材料としては、たとえばゴム、熱可塑性エラストマー、各種プラスチック、木材、紙材、などの高分子有機材料等を用いることができる。またそれらの多孔質体も用いることができる。前記ゴムとしては、天然ゴムのほか、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDMゴム)、エチレン−酢酸ビニル系ゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、エチレンアクリル系ゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、水素添加ニトリルゴム(HNBR)などの合成ゴム単独、それらの誘導体、もしくはこれらを各種変性処理にて改質したものなどが挙げられる。これらのゴムは、単独で使用するほか、複数をブレンドして用いることができる。
【0049】
熱可塑性エラストマーとしては、たとえば塩素化ポリエチレンのような塩素系、エチレン系共重合体、アクリル系、エチレンアクリル共重合体系、ウレタン系、エステル系、シリコーン系、スチレン系、アミド系、オレフィン系などの各種熱可塑性エラストマーおよびそれらの誘導体が挙げられる。
【0050】
さらに、各種プラスチックとしては、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリイミド、ポリウレタン、ポリエステル、不飽和ポリエステル、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニルおよびポリ塩化ビニリデン等の塩素系樹脂;フッ素樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂などの熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂およびこれらの誘導体、さらには共重合体やリサイクル樹脂等が挙げられる。
【0051】
以上の材料をそのままか、複合化、変性化して用いることができる。たとえば、カーボン、黒鉛、グラファイト、酸化チタン、炭素繊維、カーボンチューブ、黒鉛繊維等のフィラーを複合化して誘電率を上げることで波長短縮効果によりシート体10の小型化が実現する。また補強材を充填した強化樹脂を用いてもよいし、無線ICタグや補助アンテナの構成材料、たとえば基材、粘着材、接着剤、被覆材などをスペーサ材としてもよい。
【0052】
たとえば、EPDMゴムに酸化チタンをフィラーとして混合し、可塑剤、充填材および老化防止剤などの添加物を添加することで、高誘電率材料であって、さらに柔軟性を有するスペーサ材が実現できる。
【0053】
可塑剤としては、パラフィン系オイル、アロマ系オイル、ナフテン系オイル、アジピン酸系ポリエステル、トリメット酸系エステル、ジペンタエリスリトールまたはピロメリット酸エステル、アジピン酸、フタル酸エステル、ポリエーテルエステル系などの1種または2種以上を用いることができる。充填剤としては、コロイド炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルクなどの1種または2種以上を用いることができる。老化防止剤としては、ワックス、モノフェノール系、ビスフェノール系、ポリフェノール系、ベンズイミダゾール系、チオウレア系、アミン-ケトン系、アミン系などの1種または2種以上を用いることができる。
【0054】
また、第1のスペーサ2と第2のスペーサ4とは、同じ材料であっても、異なる材料であってもよい。異なる材料である場合、たとえば、第1のスペーサ2としてPETフィルムを用い、第2のスペーサ4として軟質ポリエチレンを用いてもよい。
【0055】
これにより、情報記憶媒体1として、貼り付けようとする部材の表面形状に十分に追従することができる柔軟性を付与することができる。
【0056】
第1のスペーサ2および第2のスペーサ4を構成する誘電体材料は、たとえば密度が1.0g/cm未満の低密度材料であることが好ましい。
【0057】
このような低密度の誘電体材料としては、多孔質有機材料、多孔質無機材料から選ばれる1または複数の材料を使用する。発泡しない材料を用いてもよいし、発泡しない材料と発泡材料を組み合わせてもよい。以上の他、スペーサの材料としてはダンボールなどの紙材、木材、ガラス、ガラス繊維、土系材料なども使用可能である。
【0058】
発泡方法として手段は問わないが、発泡剤添加、または熱膨張性微粒子添加等に分類される。発泡剤は有機系発泡剤と無機系発泡剤がある。
【0059】
有機系発泡剤としては、たとえばジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、アゾジカルボンアミド(ADCA)、p,p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、ヒドラジドジカルボンアミド(HDCA)等が添加されるが、それに限られたものではない。
【0060】
無機系発泡剤としては、炭酸水素ナトリウムなどが添加されるがそれに限られたものではなく、材料に応じて適宜選択して添加してもよい。
【0061】
また熱膨張性微粒子としては、マイクロカプセル化した熱膨張性微粒子小球などが添加される。さらにガラスビーズ、ガラス中空体などの無機および有機材料から成る中空材料を添加するものでもよい。
【0062】
発泡倍率も特に限定されるものではないが、強度が保持され、かつ軽量化ができるような形態にする必要がある。これらから好ましくは、発泡倍率は2〜30倍程度が好ましい。
発泡構造についても特に限定されるものではない。
【0063】
木材として、合板、ラワン材、パーチクルボード、MDF等の木質材料でありその材料に本質的な制限を受けるものではなく、複数の材料を組み合わせて用いることもできる。
【0064】
多孔質無機材料として、各種セラミック材料、石膏ボード、コンクリート、発泡ガラス、軽石、アスファルト、土材などが挙げられるが、それに限られるものではない。
【0065】
また無線ICタグ20の基材や各層を貼り合わせるための粘着材層をスペーサの材料とすることも可能である。粘着材層は全面でなく、部分的に設けられていてもよい。第1のスペーサ2の機能としては、無線ICタグ20と補助アンテナ3とが電気的に導通しなければ十分であるので、空気層すなわち無線ICタグ20と補助アンテナ3との間に空間が設けられていてもよい。
【0066】
第1のスペーサ2および第2のスペーサ4は、受信した電波エネルギをできる限り損失無く送信エネルギに変える必要があるため、できる限りエネルギ損失が少ない材料を選定する必要がある。そのためには無線ICタグ20が無線通信に利用する電磁波の周波数において誘電正接tanδ(ε”/ε’)が0.5以下であることが好ましく、より好ましくは0.2以下である。
【0067】
スペーサ材としては高誘電率、柔軟性および低誘電正接tanδ(ε”/ε’)を兼ねているのが好ましいが、より重要なのは通信周波数帯域(UHF帯等)で低い誘電正接tanδを示すことである。
【0068】
さらに複素比誘電率の実部ε’が高ければシート寸法の薄型化、小型化が可能となり得るため、ε’としては1〜50であることが好ましい。ただし、様々なパラメーターによりシートは構成されるため上記数値に限ったものではない。
【0069】
補助アンテナ3および裏面導体層5は、導電性を有する導電性材料から構成される。
補助アンテナ3および裏面導体層5を構成する導電性材料としては、金、白金、銀、ニッケル、クロム、アルミニウム、銅、亜鉛、鉛、タングステン、鉄などの金属であってもよく、樹脂に上記金属の粉末、導電性カーボン系材料の混入された樹脂混合物、あるいは導電性樹脂のフィルム等であってもよい。上記金属等を、箔状、板状、シート状、フィルム状等に加工されたものであってもよい。あるいはまた合成樹脂性フィルム上に、膜厚たとえば600Åの金属薄層が形成された構成を有してもよい。金属箔をフィルムもしくはクロスなどの基材に転写したものでもよい。また、導電インク(たとえば抵抗率10Ω/sq.以下)を第1のスペーサ2、第2のスペーサ4に塗布してもよい。
【0070】
補助アンテナ3の共振層は特定周波数の電波に対応する波長に応じたサイズに決まるが、裏面導体層5のサイズに制限はない。またこの裏面導体層5はたとえば金属製品のみに貼るなどの電磁遮蔽性を有する材料、つまり裏面導体層と同等の機能を有する材質に貼る場合はなくてもよい場合がある。
【0071】
孔Sは、一般的な形成方法で導電体層に形成することができる。第1のスペーサ2においては、打ち抜き、切削などの機械的加工を用いたり、エッチングなどの化学的加工を用いて誘電体材料からなる板状部材から孔または切り欠きとなる所定の部分を除去すればよい。また、使用する誘電体材料によっては、成型時に予め孔または切り欠きが設けられた形状に成型することも可能である。
【0072】
補助アンテナ3においても、第1のスペーサ2と同様に機械的、化学的加工を用いて孔または切り欠きとなる所定の部分を除去すればよい。また、予め切り欠きが設けられた形状となるように、PETフィルムなどの誘電体層に直接印刷、蒸着、塗工することも可能である。
【0073】
孔Sは、補助アンテナ3に設けるものであるが、第1のスペーサ2と補助アンテナ3のそれぞれに、補助アンテナ3に設けた孔Sと同様の孔Sを形成してもよく、第1のスペーサ2に予め補助アンテナ3を積層しておき、両者に同時の孔または切り欠きを形成してもよい。
【0074】
孔Sは、導電体層からなる補助アンテナ3の電気抵抗を上昇させるものであればよく、上記のように、幅寸法がループアンテナ21aの長辺部分の長さよりも長ければよい。
【0075】
本来、無線ICタグ20は、導電性材料からなる金属部材などの近傍では無線通信が妨害されて通信距離が短くなってしまうが、シート体10を用いることで通信距離が改善される。
【0076】
(実施例1)補助アンテナ3に設けられた孔Sの幅寸法の検討
実際に情報記憶媒体1を形成し、孔Sの幅寸法を変化させて、情報記憶媒体1の通信距離の周波数特性を測定した。
【0077】
シート体10は、外形寸法が縦28mm、横120mmとした。第1のスペーサ2は、厚み0.1mmのPET(ポチエチレンテレフタレート)フィルムを用いた。補助アンテナ3は、厚み0.05mmのアルミニウム箔層であり、孔Sは、長さLが20mm、幅Wが4〜45mmとした。第2のスペーサ4は、厚み2mmの発泡材料(発泡倍率5倍)を、2枚張り合わせて用いた。裏面導体層5は、厚み0.05mmのアルミニウム箔層とした。
【0078】
用いた無線ICタグ20は、ALIEN TECNOLOGY社製 ALN-9640であり、ループアンテナの長辺部分の内寸長さは、24mmであった。また、積層方向から見たときに、ICチップ22が接続された一方の長辺部分23aは、孔S内に配置され、他方の長辺部分23bは、アルミニウム箔層に重なるように配置した。
【0079】
図3は、実施例1の通信距離の周波数特性を示すグラフである。横軸は、周波数(MHz)を示し、縦軸は、通信距離(m)を示す。プロットAは、W=4mmの場合を示し、プロットBは、W=11mmの場合を示し、プロットCは、W=15mmの場合を示し、プロットDは、W=24mmの場合を示し、プロットEは、W=27mmの場合を示し、プロットFは、W=30mmの場合を示し、プロットGは、W=40mmの場合を示し、プロットHは、W=45mmの場合を示す。
【0080】
グラフからわかるように、プロットA〜プロットCまでは、共振周波数のシフトは見られたものの、共振帯域は狭いままであった。これに対して、プロットD〜プロットHは、プロットA〜プロットCの周波数特性とは大きく異なり、50MHz以上の共振帯域を確保することができた。
【0081】
共振帯域が、広帯域となったプロットD〜プロットHは、孔SのWが24mm、27mm、30mm、40mm、45mmであり、ループアンテナ21aの長辺部分の内寸長さ(24mm)以上の長さであった。
【0082】
(実施例2)補助アンテナ3のループアンテナ位置の検討
シート体10および無線ICタグ20は、実施例1と同じものを用いた。孔Sの幅はW=40mmとした。
【0083】
無線ICタグ20の貼り付け位置を変化させたときの、情報記憶媒体1の通信距離の周波数特性を測定した。具体的には、シート体10の長辺から無線ICタグ20のループアンテナ21aの長辺部分までの距離を、1mm、2mm、3mm、4mm、5mmにそれぞれ変化させた。
【0084】
図4は、実施例2の通信距離の周波数特性を示すグラフである。横軸は、周波数(MHz)を示し、縦軸は、通信距離(m)を示す。プロットIは、距離が1mmの場合を示し、プロットJは、距離が2mmの場合を示し、プロットKは、距離が3mmの場合を示し、プロットLは、距離が4mmの場合を示し、プロットMは、距離が5mmの場合を示す。
【0085】
グラフからわかるように、シート体10の長辺から無線ICタグ20のループアンテナ21aの長辺部分までの距離が短いほど共振帯域が広くなった。これは、ループアンテナ21aの、ICチップが接続されていない他方の長辺部分23bが、補助アンテナ3のアルミニウム箔層に重なるように配置され、さらに、長辺側端部に近いほど共振帯域が広くなることを示している。
【0086】
(比較例)孔を切り欠きに変更した構成の検討
比較例として、補助アンテナに孔Sではなく、切り欠きを設けた構成のシート体を作製し、通信距離の周波数特性を測定した。
【0087】
比較例のシート体の外形寸法などは実施例1,2と同じであり、孔Sの代わりに長辺に開放された切り欠きを設けた。切り欠きの幅を30mm、40mm、50mm、60mmと変化させた。
【0088】
図5は、比較例の通信距離の周波数特性を示すグラフである。横軸は、周波数(MHz)を示し、縦軸は、通信距離(m)を示す。プロットNは、幅が30mmの場合を示し、プロットOは、幅が40mmの場合を示し、プロットPは、幅が50mmの場合を示し、プロットQは、幅が60mmの場合を示す。
【0089】
グラフからわかるように、切り欠きの幅を広げたが、通信周波数は広帯域とはならなかった。したがって、通信周波数の帯域を広げるには、切り欠きではなく孔を補助アンテナ3に特定の寸法で設けることが必要であることがわかった。
【符号の説明】
【0090】
1 情報記憶媒体
2 第1のスペーサ
3 補助アンテナ
4 第2のスペーサ
5 裏面導体層
S 孔
10 無線通信改善シート体
20 無線ICタグ
21 アンテナ
21a ループアンテナ
21b パターンアンテナ
22 ICチップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ループアンテナ、および前記ループアンテナに接続され、識別情報が記憶される集積回路素子からなる無線ICタグと、
前記無線ICタグが配置される配置面を有する第1のスペーサと、
前記第1のスペーサの前記配置面とは反対側の面に設けられる補助アンテナであって、前記第1のスペーサを挟んで前記ループアンテナに対応する位置に、前記ループアンテナの長辺の内寸長さ以上の長さの幅を有する孔が設けられた導電体層からなる補助アンテナと、
前記補助アンテナを挟んで前記第1のスペーサとは反対側に設けられる第2のスペーサと、が積層されて成ることを特徴とする情報記憶媒体。
【請求項2】
前記集積回路素子は、前記ループアンテナの一方の長辺に接続され、
前記ループアンテナは、積層方向から見たときに、前記一方の長辺が前記孔内に位置し、他方の長辺が前記導電体層に重なるように、設けられることを特徴とする請求項1記載の情報記憶媒体。
【請求項3】
前記無線ICタグは、EPC Class1 Generation2規格に準拠し、通信周波数の帯域が、UHF帯であることを特徴とする請求項1または2記載の情報記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−114513(P2013−114513A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260986(P2011−260986)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】