説明

感光性樹脂構成体

【課題】 赤外線アブレージョン層に傷が入り難い柔軟性を有し、感光性樹脂層との密着性を維持し、且つ洗浄液中の残留アブレージョン膜中のカーボンブラックを版面への再付着を防ぐ感光性樹脂構成体の提供。
【解決手段】 感光性樹脂中に高ゲル分率の親水性重合体と熱可塑性エラストマーを1:3〜3:1の範囲で配合し、感光性樹脂成分と相溶性の良いバインダーポリマーを選択した赤外線アブレージョンを直接配置した凸版印刷用水系現像感光性樹脂構成体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水系の洗浄剤で現像されるデジタル情報転写に適する凸版印刷版用感光性樹脂構成体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来フレキソ印刷に用いられてきたゴム版にかわり、熱可塑性エラストマーをベースポリマーとしたフレキソ印刷用感光性樹脂版について種々のものが知られている。これら感光性樹脂は溶剤現像型や水又は水系現像液で現像可能な感光性エラストマー組成物等があり、これまでいくつかの感光性エラストマー組成物(特許文献1:特公昭59−29849号公報)が提案されている。
これら感光性樹脂は近年フレキソ製版においてもCTP(Computer to plate)技術がすすみ、多様化されるようになってきた。フレキソ用CTPは感光性樹脂層の上に赤外線によりアブレージョン可能な層を設け,レーザーにより目的とする画像に当たる版面上のアブレージョン層を除去することでネガにあたる活性光線の透過部分を形成させる。このアブレージョン層には赤外線吸収性の材料をバインダー成分中に存在させることでアブレージョン性能を持たせたり(特許文献2:特開平11-153865)、またIR吸収性の金属を薄膜として感光性樹脂表層部に形成させアブレージョン機能を持つ薄膜としての使用が挙げられている。(特許文献3:特開2004-163925)
【0003】
また、特許文献4(特表平10−509254)によれば、赤外線アブレージョン層、バリア層、感光性樹脂層がこの順に積層されてなるフレキソ印刷版が提案されているが、バリア層を有するために印刷版の製造工程が複雑になり、経済性、製品性能の面で負荷が大きいといった問題がある。またバリア層の材質によっては赤外線アブレージョン層との接着性の問題から剥がれを起こしたり、バリア層はアブレージョンされないため、酸素の透過性が悪く、形成画像が太る問題がある。
【0004】
現在,赤外線吸収成分としてはその熱変換効率からカーボンブラックなどが用いられることが多い。この赤外線アブレージョン層には現像性を考慮し,感光性樹脂層の現像液で溶解除去されるバインダーポリマーが使用されることが多い。しかし赤外線アブレージョン層のバインダーポリマー溶解に伴い洗浄液中にカーボンブラックが分散し,浸漬現像方式、又は現像液を循環させる製版装置においても洗浄工程を終えた版面に再付着することがある。このカーボンブラックはバインダーポリマーへの分散性、均一な濃度を粒子径の微細なものが多く、フィルター除去の為にはメッシュの細かいものが必要となりろ過効率も悪くなる。
【0005】
水系感光性樹脂の赤外線アブレージョン膜材料においても、水溶性のバインダーを使用しているものがほとんどである。例えば特許文献5(特許第2916408号)に記載されているようにヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等の水溶性セルロース類、特許文献6(特開2003-177514)に記載されているポリビニルアルコール類、ポリエチレンオキサイド類などが挙げられる。これらの材料は吸湿性が高い為、カバーフィルム剥離後空気中の水分を吸収し膜物性が低下し、赤外線アブレージョン層が物理的な接触により傷が入り易くなる。赤外線アブレージョン層への傷は、本来目的とする画像部位外に活性光線の透過部分を作り、画像露光の際、本来非画像部であるべき場所に画像を形成させ、版としての価値を無くしてしまう。また、これらのバインダーポリマーも水系現像剤に可溶である為、赤外線吸収材料が液中に微分散し再付着の問題が懸念される。
【特許文献1】特公昭59−29849号公報
【特許文献2】特開平11−153865公報
【特許文献3】特開2004−163925公報
【特許文献4】特表平10−509254公報
【特許文献5】特許第2916408号公報
【特許文献6】特開2003−177514公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、水系現像感光性樹脂版のCTPの製版工程において、赤外線アブレージョン層への傷の発生を軽減し、赤外線アブレージョン膜の剥がれなどにより画像露光に対する遮光効率を落とす事無く、非画像部表面に残留し現像により洗浄液中に発生する赤外線吸収剤残留物を分散させ、洗浄液中から印刷版への再付着を防止することにより、安定した版品質の水系現像感光性樹脂構成体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、当該課題の解決に至った。
本発明は以下の通りである。
1.少なくとも支持体(a)、感光性樹脂層(b)、赤外線により加工可能な赤外線アブレージョン層(c)がこの順に積層されて成る凸版印刷用水系現像感光性樹脂構成体であり、感光性樹脂が少なくともバインダーポリマー、エチレン性不飽和化合物、光重合開始剤を含有し、バインダーポリマーが、1種類以上の親水性共重合体と、1種類以上の熱可塑性エラストマーからなり、かつ親水性共重合体と熱可塑性エラストマーの比率が1:3〜3:1の範囲である水系現像剤で現像される樹脂であり、赤外線アブレージョン層(c)が感光性樹脂層(b)の現像液に不溶又は可膨潤で、かつ感光性樹脂組成物に含まれるバインダーポリマーのうち少なくとも1種類および/または感光性樹脂組成物に含まれる低分子量成分のうち少なくとも1種類と相溶性を有するバインダーポリマーと、1種類以上の赤外線吸収材料を含み、感光性樹脂層(b)に接して赤外線アブレージョン層(c)が配置されていることを特徴とする凸版印刷用水系現像感光性樹脂構成体
【0008】
2.1.に記載の感光性樹脂組成物に含有されるバインダーポリマーが、カルボン酸基、アミン若しくはアミノ基、水酸基、燐酸基、スルフォン酸基、又はそれらの塩からなる親水性基を1種類以上有し、トルエンで測定したゲル分率が80〜99%である親水性共重合体であり、熱可塑性エラストマーがモノビニル芳香族化合物単量体とエチレン性不飽和化合物又は共役ジエン化合物との共重合体を1種類以上含む紫外線硬化樹脂であり、且つ赤外線アブレージョン層(c)のバインダーポリマーが、モノビニル芳香族化合物単量体とエチレン性不飽和化合物若しくは共役ジエン化合物との共重合体、又はそれらの共重合体を変性した化合物を1種類以上含むことを特徴とする1.に記載の凸版印刷用水系現像感光性樹脂構成体
【0009】
3.赤外線アブレージョン層(c)の赤外線吸収材料が感光性樹脂層(b)の現像剤によりバインダーポリマーから分離されないことを特徴とする1.または2.に記載の凸版印刷用水系現像感光性樹脂構成体
4.赤外線吸収材料がカーボンブラックである事を特徴とする1.〜3.のいずれかに記載の凸版印刷用水系現像感光性樹脂構成体
5.赤外線アブレージョン層の上に剥離可能なカバーフィルムが存在することを特徴とする1.〜4.のいずれかに記載の凸版印刷用水系現像感光性樹脂構成体
6.1.〜5.のいずれかに記載された構成体から製版された版厚0.5mmから10mmの感光性樹脂凸版印刷版
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、赤外線アブレージョン層と感光性樹脂層の密着性が高まり、赤外線アブレージョン層の耐傷性が向上することに加え、現像液中への赤外線吸収材料の拡散を抑え、版面への再付着軽減、洗浄液中からの除去を簡便にし、製版品質、製版効率を向上させた水系現像感光性樹脂構成体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下の本発明について、その好ましい形態を中心に詳細を説明する。
本発明に使用される感光性樹脂組成物に含まれるバインダーポリマーは、1種類以上の親水性共重合体と、1種類以上の熱可塑性エラストマーからなる。また、バインダーポリマーは水溶性、または水膨潤性を有し、それらはカルボン酸基、アミン若しくはアミノ基、水酸基、燐酸基、スルフォン酸基等の親水性基、又はそれらの塩を有する親水性共重合体であることが好ましい。具体的にはカルボキシル化スチレンブタジエンラテックス、カルボキシル基を含有した脂肪族共役ジエンの重合体、燐酸基、又はカルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物の乳化重合体、スルフォン酸基含有ポリウレタンなどが例として挙げられる。これらの親水性共重合体類は単独でも2種類以上を併用しても良い。これらの親水性共重合体はゲル分率が高いほどが感光性樹脂版としての性能を高める為好ましく、80%〜99%が好適である。ここでいうゲル分率は、親水性共重合体の重合後の濃度が約30%の分散液をテフロン(登録商標)シート上に適当量滴下し、130℃で30分乾燥させ、乾燥物を0.5g取り、25℃のトルエン30mlに浸漬させ、振とう機を用いて3時間浸透させた後320SUSメッシュでろ過し、不透過分を130℃1時間乾燥させた後の質量を0.5gで割った質量分率(%)から求められる。ゲル分率は印刷版の強度の面からも80%以上が望ましい。
【0012】
またバインダーポリマーには疎水性のポリマーを併用する。併用ポリマーとしては熱可塑性エラストマーが有効で、例えば共役ジエン系炭化水素を重合して得られる重合体、又は共役ジエン系炭化水素と、モノオレフィン系不飽和化合物を重合して得られる共重合体があり、2種以上のモノオレフィンの重合体などが挙げられる。具体的にはブタジエン重合体、イソプレン重合体、クロロプレン重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体、スチレン−クロロプレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−イソプレン共重合体、メタクリル酸メチル−ブタジエン共重合体、メタクリル酸メチル−イソプレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−イソプレン−スチレン共重合体等が上げられる。これらの疎水性ポリマーは単独でも2つ以上を併用しても良い。この中でスチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体は特に望ましい。
【0013】
親水性重合体と熱可塑性エラストマーの存在比率は質量比率で1:3〜3:1の間である。好ましくは1:2〜2:1の範囲である。この比率であれば、現像時間が短縮できるだけでなく、感光性樹脂層(b)の耐吸湿性が保持され保管性の面で好ましい。
感光性樹脂組成物には、エチレン性不飽和化合物が一定量添加される。この添加量は好ましくは5質量%以上30質量%以下、より好ましくは10質量%以上、20質量%以下である。エチレン性不飽和化合物に特に制限は無く、例えばエチレン性不飽和酸とアルコール類のエステル化合物などがあり、例えば文献「光硬化技術データブック(テクノネット社発行)」等に記載された化合物が利用できる。
【0014】
具体的にはヘキシル(メタ)アクリレート、ノナン(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2エチル,2ブチルプロパンジオール(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート,2−(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタレート、(メタ)アクリル酸ダイマー、ECH変性アリルアクリレート,ベンジルアクリレート、カプロラクトン(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート,シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の直鎖,分岐,環状の単官能モノマー、又はヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル、2−エチルプロパンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ECH変性フタル酸ジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ECH変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンベンゾエート(メタ)アクリレート、EO(PO)変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の直鎖,分岐,環状の多官能モノマーなどが挙げられる。また、ジオクチルフマレート等のアルコールとフマル酸のエステル、又はラウリルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドなどN置換マレイミド誘導体なども挙げることができる。これらは単独で用いても、2つ以上を組み合わせて用いても良い。
【0015】
感光性樹脂組成物には、光重合開始剤が添加されるが、その添加量としては好ましくは0.5質量%以上,10質量%以下で用いられ、より好ましくは2質量%以上、5質量%以下である。光重合開始剤の例としては文献「光硬化技術データブック(テクノネット社発行)」、「紫外線硬化システム(総合技術センター発行)」等に記載されたものが使用できる。具体的にはベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、α―メチロールベンゾイン、α―メチロールベンゾインメチルエーテル、ベンジルメチルケタール、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、ベンゾフェノン、アクリル化ベンゾフェノン,o−ベンゾイル安息香酸メチル、ビスアシルフォスフィンオキサイド、α―メトキシベンゾインメチルエーテル、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2メチル1[4−メチルチオ]フェニル,2−モルフォリノプロパン−1−オン、チオキサントン、ベンジル、アンスラキノンなどが挙げられる。これらは単独でも、2種類以上を併用しても良い。
【0016】
感光性樹脂組成物にはバインダーポリマー、エチレン性不飽和化合物、光重合開始剤以外に必要に応じて重合禁止剤、可塑剤、染料、紫外線吸収剤、耐オゾン剤、等の添加剤を配合することができる。可塑剤としては液状1,2(又は1,4)−ポリブタジエン、1,2(または1,4)−ポリイソプレン、又はこれらの末端変性品、ナフテン油、パラフィン油等の炭化水素油等が挙げられる。この中でもポリブタジエン、ポリイソプレンは樹脂硬度、物性の調整等の目的に好適である。重合禁止剤としてはハイドロキノン、P−メトキシフェノール、2,4−ジ−t−ブチルクレゾール、カテコール、t−ブチルカテコール等のフェノール類、又はヒンダードアミン類、イオウ系抗酸化剤、リン系抗酸化剤等が挙げられる。
【0017】
感光性樹脂層(b)の現像剤としてはアニオン系界面活性剤,両性界面活性剤,ノニオン系界面活性剤などが挙げられる。これらは単独で用いても2種類以上を混合して使用してもよい。
アニオン系界面活性剤の例としては硫酸エステル塩、高級アルコール硫酸エステル,高級アルキルエーテル硫酸エステル塩,硫酸化オレフィン,アルキルベンゼンスルフォン酸塩、α−オレフィンスルフォン酸塩、燐酸エステル塩、ジチオ燐酸エステル塩などが挙げられる。
両性活性剤の例としては、アミノ酸型両性界面活性剤、ベタイン型両性界面活性剤などが挙げられる。
【0018】
ノニオン系界面活性剤の例としては、高級アルコールエチレンオキサイド付加物,アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物,多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物,高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物,脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物等のポリエチレングリコール型界面活性剤や,グリセロール脂肪酸エステル,ペンタエリスリトール脂肪酸エステル,ソルビトール,およびソルビタンの脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエステル,アルカノールアミン類の脂肪酸アミド等の多価アルコール型界面活性剤などが挙げられる。
【0019】
また現像速度を向上させる為に浸透剤(アルキルグリコールエステル等)を添加しても良い。浸透剤は洗浄する樹脂の組成により選択することができるが,例えばジブチルジグリコールエーテルなどのポリエチレングリコールエーテル型非イオン浸透剤等が挙げられる。この添加量としては0.2質量部以上,20質量部以下が好ましく、より好ましくは0.2質量部以上、10質量部以下である。
【0020】
本発明では洗浄液中にアルカリビルダーを添加しても良い。アルカリビルダーとしては有機材料,無機材料のどちらでも良いが,pHを9以上に調整できるものが望ましい。例えば水酸化ナトリウム,炭酸ナトリウム,珪酸ナトリウム,メタ珪酸ナトリウム,琥珀酸ナトリウムなどが挙げられる。 本発明は、現像方式に特に影響されないが非画像部のアブレージョン膜を効率よく除去する為にブラシを併用することが望ましい。具体的には版を洗浄液に浸漬させた状態でブラシを用いて未露光部を溶解、又は掻き落とす現像方式、スプレーなどで版面に洗浄液を振りかけながらブラシで未露光部を溶解、又は掻き落とす現像方式などが挙げられる。
【0021】
本発明における赤外線アブレージョン層はバインダーポリマーと赤外線吸収物質、及び非赤外線の遮蔽物質で構成されることが好ましい。非赤外線とは赤外線以外の光線、例えば紫外光線などを意味する。また赤外線吸収物質と、非赤外線遮蔽物質は同じでも異なっていても良い。本発明は、使用する赤外線吸収材料及び遮断物質が感光性樹脂層(b)の現像液によってバインダーポリマーから分離されないことを特徴とする。この場合分離されないとは、バインダーポリマーが溶解、又は分解し、洗浄液中に赤外線吸収材料が単独で分散せず、又はバインダーポリマーが溶解しなくとも赤外線吸収材料が現像液に溶解しバインダーポリマーから溶出しないことを意味する。本発明に用いる現像剤に対してその特徴を持つバインダーポリマーにはスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のモノビニル置換芳香族炭化水素とブタジエンやイソプレン等の共役ジエンからなる共重合体や、モノビニル芳香族化合物と共役ジエンの共重合体の水素添加処理をしたもの等を用いることが好ましい。
【0022】
モノビニル芳香族と共役ジエン共重合体において、モノビニル置換芳香族炭化水素の含量は10〜90質量%のものを用いれば所定の性能を有することができるが、特にスチレンの含量が60〜90質量%であるスチレン−ブタジエン共重合体は赤外線アブレージョン層とカバーフィルムとの剥離抵抗が少なく好ましい。スチレン比率が下がれば膜の柔軟性が良くなり、耐傷性がより向上する。スチレン−ブタジエンのブロック共重合体は先述の効果が更に顕著になりより好ましい。
スチレンの含量が10〜50質量%であるスチレン−ブタジエンの共重合体の水素添加物である場合、赤外線アブレージョン層の伸縮性が更に大きく表面に亀裂が入り難くより望ましい。ここでの水素添加前のスチレン−ブタジエン共重合体がブロック共重合体である場合は先述の効果が更に顕著でありより好ましい。
【0023】
赤外線吸収物質には通常750〜2000nmの範囲で強い吸収を持つ単体、あるいは化合物が使用される。その例として、カーボンブラック、グラファイト、亜クロム酸銅、酸化クロム等の無機顔料や、ポリフタロシアニン化合物、シアニン色素、金属チオレート色素等の色素類が上げられる。特にカーボンブラックは粒径が13〜85nmの広い範囲で使用が可能であり、粒径が小さいほど赤外線に対する感度が高くなるため好ましい。これらの赤外線吸収材料は使用するレーザー光線で除去可能な感度を有する範囲で添加されることが好ましい。一般的には10〜80質量%の添加が効果的である。
【0024】
非赤外線の遮蔽物質としては紫外光線を反射または吸収する物質を使用でき、紫外線吸収剤やカーボンブラック、グラファイトなどが好適な例である。一般的に添加量は、光学濃度が2以上であることが好ましく、より好ましくは3以上である。なお、カーボンブラックのように赤外線吸収と非赤外線遮蔽を兼ね備えたものはその材料として特に好ましい。これは先のバインダーポリマーから分離しない特長を表すため好適である。
【0025】
また、必要に応じて赤外線感受層の上にポリエチレンテレフタレートフィルム等のカバーフィルムを用いても良い。このとき赤外線感受層とカバーフィルムとの剥離性を改良する為にシリコン化合物等の離型剤等の添加剤を用いてもかまわない。離型剤は赤外線感受層に添加しても、またシリコン処理したカバーフィルムを用いても良い。
本発明の凸版印刷用水系現像感光性樹脂構成体から製版された印刷版の版厚は、0.5mmから10mmが好ましい。
以下に本発明の実施例を記すが、本発明は以下の条件に限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
〔製造例1〕
親水性共重合体Aの合成
攪拌装置と温度調整用ジャケットを取り付けた耐圧反応容器に水125質量部、及び乳化剤(α−スルフォ(1−(ノニルフェノキシ)メチル−2−(2プロペニルオキシ)エトキシ−ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル)のアンモニウム塩(商品名 アデカリアソープ 旭電化工業製)3質量部を初期仕込みとし,内温を80℃まで昇温後、アクリル酸2質量部,メタクリル酸5質量部、ブタジエン60質量部、スチレン10質量部,ブチルアクリレート23質量部,t-ドデシルメルカプタンの油性混合液と、水28質量部,ペルオキソ二硫酸ナトリウム1.2質量部,乳化剤(商品名 アデカリアソープ 旭電化工業製)1質量部からなる水溶液をそれぞれ一定流速で5時間,及び6時間かけて添加した。その後1時間保って重合を完了した後冷却した。生成したラテックスを水酸化ナトリウムでpH7に調整した後、スチームストリッピングで未反応物を除去し最終的に固形分濃度40%で親水性重合体水溶液を得た。これを60℃で乾燥し親水性共重合体Aを得た。この樹脂のトルエンによるゲル分率測定結果は85%であった。
【0027】
〔製造例2〕
感光性樹脂組成物Bの調製
製造例1に示した親水性共重合体A30質量部、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(クレイトンKX405 シェル化学 商品名)15質量部、スチレン−ブタジセン−スチレン共重合体(タフプレン315 旭化成 商品名)15質量部、液状ポリブタジエン(LIR305 クラレ 商品名)20質量部、液状ポリブタジエンB3000(日曹 商品名)10質量部、ヘキサメチレンジメタクリレート2.5質量部、2−ブチル、2−エチルプロパンジオールジアクリレート8質量部、ベンジルメチルケタール1質量部、t-ブチルクレゾール0.3質量部を130℃のニーダーを用いて均一に混練して感光性樹脂組成物Bを得た。この組成物を120℃の熱プレス機を使用し、ハレーション防止剤を含む接着剤層を有するポリエチレンテレフタレートフィルム支持体とシリコン処理をしたフィルムを用いて、1.14mmの厚みに成形した。
【0028】
〔製造例3〕
感光性樹脂組成物Cの調製
製造例2の親水性共重合体Aとスチレン−ブタジエン―スチレン共重合体の添加量(合計量、比率は同じ)をそれぞれ10質量部、50質量部に変更した以外は同様の操作を行い、感光性樹脂組成物Cを得た。
【0029】
〔製造例4〕
感光性樹脂組成物Dの調製
製造例2の親水性共重合体Aとスチレン−ブタジエン―スチレン共重合体の添加量(合計量、比率は同じ)をそれぞれ50質量部、10質量部に変更した以外は同様の操作を行い、感光性樹脂組成物Dを得た。
【0030】
〔実施例1〕
アブレージョン膜はバインダーポリマーにスチレン−ブタジエン−スチレン共重合ポリマー“タフプレンA”(旭化成 製品名 スチレン含量40質量%のスチレン−ブタジエン−スチレン共重合体)50質量部、カーボンブラック(三井化学製 #30 粒子径30nm)50質量部をニーダーで混練し、トルエン/酢酸エチル=1/9の混合溶剤に溶解、分散させて5質量%の均一な液を調合し、この塗工液をナイフコーターを用いて塗布量が5〜6g/mになるように100μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに塗工を行い、乾燥温度80℃で2分乾燥することで得た。この光学濃度はD200−2透過濃度計(GretagMacbeth社製)で測定を行った。
【0031】
この塗膜を先にプレス成形した版のシリコン処理フィルムを剥離し、塗工したアブレージョン膜を樹脂面にラミネートし転写させて赤外線アブレージョン層を有する感光性樹脂構成体とした。この構成体のカバーフィルムを剥離したところ、赤外線アブレージョン膜がカバーフィルムに持っていかれる不具合は発生しなかった。
赤外線アブレージョン層への描画は、YAGレーザーを装備した描画装置CDI CLASSIC(製品名 ESKO GRAPHIC社製)を使用した。上記構成体の赤外線アブレージョン層側のPETフィルムを剥離し、描画装置の回転ドラムの外側に真空引きを利用し装着し、出力20W 1600rpmの回転数でレーザー描画を行った。
【0032】
描画後の版はAFP−1216露光機(旭化成製 商品名)を用いてまず支持体側から全面露光600mJを行った後、画像露光9000mJを行った。次にノニオン系界面活性剤を主成分とする現像液を用い平型ブラシ式洗浄機(ロボ電子製)により未露光部の洗い出しを行った。洗浄後の現像液を観察すると、赤外線により加工されなかった部分は洗浄液中に浮遊しており、洗浄液自体に着色は見られない。また350μmメッシュのフィルターを通すことでカーボンブラックはバインダーポリマーと共に容易に洗浄液からの除去ができた。又版面へのカーボンブラックの付着もほとんど無い。
【0033】
〔実施例2〕
実施例1で使用したバインダーポリマーに“クレイトンDX408”(シェル化学 製品名 スチレン含量43質量%のスチレン−ブタジエン−スチレン共重合体)を用いて実施した以外は全て同様の評価を行った。
【0034】
〔実施例3〕
実施例1で使用したバインダーポリマーの変わりに“クレイトンD1107”(シェル化学製 製品名 スチレン含量14質量%スチレン−イソプレン−スチレン共重合体)を用いて実施した以外は全て同様に評価した。
【0035】
〔実施例4〕
実施例1で使用したバインダーポリマーの変わりに水添スチレン−ブタジエン共重合体タフテック1041(旭化成 製品名 スチレン含量30質量%)を用いて実施した以外は全て同様に評価した。
【0036】
〔比較例1〕
ポリビニルアルコール(ケン化度95%)50質量部を水/エタノール混合溶液(30%エタノール)に溶解して、カーボンブラック(三井化学製 #30 粒子径30nm)を50質量部添加し,30分超音波を使用して分散させた。この塗工液を実施例1と同様の塗膜量になるようにポリエチレンテレフタレートフィルム上に塗工した。この塗膜を製造例2に示したプレス成形した版のシリコン処理フィルムを剥離し、塗工したアブレージョン膜を樹脂面にラミネートし転写させて赤外線アブレージョン層を有する感光性樹脂構成体とした。
この積層体を実施例1と同様の条件で評価を行ったところ、膜に柔軟性が無く容易に傷が発生した。又樹脂面との密着性が悪く剥離を生じた。
この版に実施例1と同条件でレーザー描画、露光を行い非画像部の洗浄除去を行った。非画像部に残留した赤外線アブレージョン膜は現像液中に均一に分散、浮遊してしまい、網点の間などに付着してしまった。又この現像液を350μmメッシュフィルターで除去を図ったが、カーボンブラックがフィルターを通過してしまい完全な除去ができなかった。
【0037】
〔比較例2〕
赤外線アブレージョン膜のバインダーポリマーに水溶性ポリウレタンを使用した以外は比較例1と同様の評価を行った。赤外線アブレージョン膜は柔軟性があり傷は入り難いが、現像工程において現像溶剤に均一に溶解した為、洗浄後の版面にカーボンブラックの微粒子が付着した。また350μmメッシュのフィルターを用いても洗浄液中のカーボンブラック粒子はほとんど除去することができなかった。
【0038】
〔比較例3〕
アブレージョン膜のバインダーポリマーに水溶性セルロースを使用した以外は比較例1と同様の評価を行ったが、当アブレージョン膜も現像溶剤に均一に溶解した為、350μmメッシュのフィルターを用いてもカーボンブラック粒子はほとんど除去することができなかった。
【0039】
〔比較例4〕
感光性樹脂組成物Cを用いて実施例1と同様の操作を行い感光性樹脂構成体を得た。この感光性樹脂構成体は現像時間が実施例1と同条件で5倍以上かかり実用性が低いものであった。また、洗浄時間が長い為、CTPで必要とされる網画像にダメージが多く、版としての品質も低いものであった。
【0040】
〔比較例5〕
感光性樹脂組成物Dを用いて実施例1と同様も操作を行い感光性樹脂構成体を得た。この感光性樹脂構成体は現像性については問題ないもの、経時における吸湿性が高く、版の硬度が低下する問題が見られた。この硬度低下のため、特に微細な網点画像の印刷における太りが大きく、CTPで期待される網画像が暗い印刷物となり、CTP版としての品質も低いものであった。
【0041】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は水系の洗浄剤で現像されるデジタル情報転写に適する凸版印刷版用感光性樹脂構成体に好適に利用される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも支持体(a)、感光性樹脂層(b)、赤外線により加工可能な赤外線アブレージョン層(c)がこの順に積層されて成る凸版印刷用水系現像感光性樹脂構成体であり、感光性樹脂組成物が少なくともバインダーポリマー、エチレン性不飽和化合物、光重合開始剤を含有し、バインダーポリマーが、1種類以上の親水性共重合体と、1種類以上の熱可塑性エラストマーからなり、かつ親水性共重合体と熱可塑性エラストマーの比率が1:3〜3:1の範囲である水系現像剤で現像される樹脂であり、赤外線アブレージョン層(c)が、感光性樹脂層(b)の現像液に不溶又は可膨潤で、かつ感光性樹脂組成物に含まれるバインダーポリマーのうち少なくとも1種類および/または感光性樹脂組成物に含まれる低分子量成分のうち少なくとも1種類と相溶性を有するバインダーポリマーと、1種類以上の赤外線吸収材料を含み、感光性樹脂層(b)に接して赤外線アブレージョン層(c)が配置されていることを特徴とする凸版印刷用水系現像感光性樹脂構成体。
【請求項2】
請求項1記載の感光性樹脂組成物に含有されるバインダーポリマーが、カルボン酸基、アミン若しくはアミノ基、水酸基、燐酸基、スルフォン酸基、又はそれらの塩からなる親水性基を1種類以上有し、トルエンで測定したゲル分率が80〜99%である親水性共重合体であり、熱可塑性エラストマーが、モノビニル芳香族化合物単量体とエチレン性不飽和化合物又は共役ジエン化合物との共重合体を1種類以上含む紫外線硬化樹脂であり、且つ赤外線アブレージョン層(c)のバインダーポリマーが、モノビニル芳香族化合物単量体とエチレン性不飽和化合物若しくは共役ジエン化合物との共重合体、又はそれらの共重合体を変性した化合物を1種類以上含むことを特徴とする請求項1に記載の凸版印刷用水系現像感光性樹脂構成体。
【請求項3】
赤外線アブレージョン層(c)の赤外線吸収材料が、感光性樹脂層(b)の現像剤によりバインダーポリマーから分離されないことを特徴とする請求項1または2に記載の凸版印刷用水系現像感光性樹脂構成体。
【請求項4】
赤外線吸収材料がカーボンブラックである事を特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の凸版印刷用水系現像感光性樹脂構成体。
【請求項5】
赤外線アブレージョン層の上に剥離可能なカバーフィルムが存在することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の凸版印刷用水系現像感光性樹脂構成体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載された構成体から製版された版厚0.5mmから10mmの感光性樹脂凸版印刷版。

【公開番号】特開2006−163284(P2006−163284A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−358515(P2004−358515)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】