説明

成形加工機洗浄用の熱可塑性樹脂組成物

【課題】成形加工機の洗浄状態の目視による確認が容易である、成形加工機洗浄用の熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と亜リン酸エステルを含む酸化防止剤を含有する成形加工機洗浄用の熱可塑性樹脂組成物であって、前記亜リン酸エステルが、6-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキソフォスフェピンである成形加工機洗浄用の熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機や押出機等の成形加工機の内部を洗浄するために用いる熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機の内部(スクリューやシリンダー)を洗浄用樹脂で洗浄するとき、洗浄用樹脂を金型内に流して洗浄するのではなく、溶融した洗浄用樹脂を射出成形機のノズルから空気中に排出する操作を繰り返す方法が一般的である。
【0003】
このような洗浄方法を適用する場合、洗浄の終了は、排出された洗浄用樹脂中に洗浄対象である前材料や炭化物等の異物が混入しているかどうかを目視で確認する方法が採用されている。
しかし、排出された洗浄用樹脂の色目が経時的に変化すると、異物が混入しているかどうかの目視による確認が困難になる。
洗浄用樹脂を成形加工機、特に射出成形機の洗浄に使用する際には、通常の樹脂の成形とは異なり、高温の樹脂が直接空気と接触して酸化されるものであるため、通常の樹脂の使用と比べて酸化の程度が著しく大きくなり、変色は避けられない。
特に加工温度が高い場合や、洗浄用樹脂中に高濃度のガラス繊維が含まれている場合等には、排出された洗浄用樹脂が空気酸化により変色し易いため、異物混入の目視による確認作業をより困難にする。
【0004】
特許文献1には、特定構造の亜リン酸エステル類が熱可塑性樹脂等に対する熱劣化及び酸化劣化に有効であることが記載されている(段落番号0030等)が、成形加工機の洗浄用樹脂としての用途は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−124674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、成形加工機の洗浄状態の目視による確認が容易である、成形加工機洗浄用の熱可塑性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、課題の解決手段として、
熱可塑性樹脂と亜リン酸エステルを含む酸化防止剤を含有する成形加工機洗浄用の熱可塑性樹脂組成物であって、
前記亜リン酸エステルが、6-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキソフォスフェピンである成形加工機洗浄用の熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【0008】
本発明でいう「酸化防止剤」は、酸化防止作用をするものであるが、酸化防止作用と共に熱安定剤として作用することがあってもよいものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成形加工機の洗浄に使用した後においても変色が抑制される。このため、洗浄効果の目視による確認が容易になる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂は、特に制限されるものではなく、公知の各種熱可塑性樹脂を使用することができる。
熱可塑性樹脂としては、スチレン系樹脂(ポリスチレン、AS樹脂等)、ポリカーボネート系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリメタクリレート、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリサルホン系樹脂(PSF)、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)等を挙げることができる。
【0011】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれる酸化防止剤は、亜リン酸エステルを含むものである。
前記亜リン酸エステルは、下記構造式で示される6-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキソフォスフェピン(C42614P;MW:661)である。
【0012】
【化1】

【0013】
このような酸化防止剤としては、住友化学株式会社製から販売されているSUMILIZER GP(スミライザー GP)(登録商標)を使用することができる。
【0014】
酸化防止剤は、通常、上記の亜リン酸エステルのみで使用するが、公知の酸化防止剤(例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤)と併用することもできる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の上記の亜リン酸エステルは、その添加量に比例して変色抑制の効果が高まるため、その含有割合は、コストとのバランスで決定されるが、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.05〜3質量部が好ましく、0.1〜2質量部がより好ましく、0.2〜1質量部がさらに好ましい。
酸化防止剤として上記の亜リン酸エステルと他の公知の酸化防止剤を併用するときは、公知の酸化防止剤の含有割合は3質量%以下であり、2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、さらに無機フィラーを含有することができる。無機フィラーとしては、周知のガラス繊維や金属繊維のほか、特開2006−257297号公報に記載の溶融スラグ、鉄鋼スラグ又はこれらの破砕物、人造鉱物繊維から選ばれるものを挙げることができ、繊維状のもの、非繊維状のもの(粉末状、粒状、破砕物等)を用いることができる。
【0016】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、さらに特開2006−257297号公報に記載のアルキレングリコール脂肪酸エステル、有機燐化合物、多価アルコール、金属石鹸、金属石鹸以外の界面活性剤(アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤)等を含有することができる。
【0017】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記各成分を、ヘンシェルミキサー、タンブラーブレンダー、ニーダー等の混合機で予備混合した後、押出機で混練したり、加熱ロール、バンバリーミキサーで溶融混練したりすることによって製造する。
【0018】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、押出機や射出成形機等の樹脂の成形加工機洗浄用として使用することができるものであり、特に射出成形機の洗浄用として好適である。
【実施例】
【0019】
実施例及び比較例
表1に示す組成の各成分をタンブラーブレンダーで混合後、押出機にて溶融混練し、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。これらの組成物を使用し、下記の方法で洗浄後における組成物の変色の有無を試験した。結果を表1に示す。
【0020】
(組成物の変色の有無)
射出成形機(住友重機械工業社製「SH100」;シリンダー温度300℃,軽量60mm)に、表1に示す各組成物を投入し、スクリューを回転させながら、組成物量を計量した後、可塑化させた組成物をノズルから空気中に排出した。
この操作を5回繰り返した後、排出させた組成物の塊を室温(20〜25℃)にて30分間放冷した後の色を目視により観察した。なお、排出直後の組成物の色は白色であった。
【0021】
(使用成分)
<熱可塑性樹脂>
・PP:ポリプロピレン,株式会社プライムポリマー製のプライムポリプロE111G(ホモポリマー,MFR0.5)
・AS樹脂:ダイセルポリマー株式会社製のセビアン−N 080SF
【0022】
<酸化防止剤>
酸化防止剤1:スミライザーGP
酸化防止剤2:スミライザーGS(C37563 MW:549)
【0023】
【化2】

【0024】
酸化防止剤3:スミライザーTPS〔S(CH2CH2COOC18H372〕(イオウ系)
酸化防止剤4:BASF製のイルガノックス1010(フェノール系)
酸化防止剤5:BASF製のイルガフォス168(リン系)
【0025】
<その他の成分>
アニオン界面活性剤1:アルカンスルホン酸ナトリウム
ガラス繊維:日本電気硝子株式会社製 ECS03 T−120
【0026】
【表1】

【0027】
実施例1〜3の組成物は、放冷後においても変色していなかったが、比較例1〜13の組成物は、放冷後には全て茶色に変色していた。
このため、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形加工機の洗浄剤として使用したときには、高温状態で空気と接触して酸化され、その後、放冷された場合であっても変色が抑制されるため、目視により容易に洗浄状態の確認(異物の混入の有無の確認)をすることができるようになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と亜リン酸エステルを含む酸化防止剤を含有する成形加工機洗浄用の熱可塑性樹脂組成物であって、
前記亜リン酸エステルが、6-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]ジオキソフォスフェピンである成形加工機洗浄用の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
組成物中の酸化防止剤としての前記亜リン酸エステルの含有割合が、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.05〜3質量部である請求項1記載の成形加工機洗浄用の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
射出成形機の洗浄用である請求項1又は2記載の成形加工機洗浄用の熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−158115(P2012−158115A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19664(P2011−19664)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】