説明

成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルム

【課題】インモールド成形などの成形加工において、より立体的または複雑な形状の成形部品への加工であっても、意匠を形成するフィルムに破れや変形が生じることなく、また厚み斑が少ないことによって意匠層、すなわちインク層に歪みや厚み斑が生じることなく、立体的な成形部品に優れた意匠性を付与することができるフィルムであって、さらに塗工時の溶剤に対する耐溶剤性を兼ね備えた、成形加工性に優れる成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】融点が225〜275℃のポリエステル(A)を含む第1の層と、融点が210〜235℃のポリエステル(B)を含む第2の層とを31層以上交互に積層させた多層積層フィルムであって、ポリエステル(A)の融点がポリエステル(B)の融点より12℃以上高く、第1の層が結晶構造、第2の層が低結晶構造を有し、かつ第1の層が最外層を構成してなり、多層積層フィルムの総厚みに占める第1の層の総厚みの比が5〜35%である積層構造を有し、メチルエチルケトン、トルエンまたは酢酸エチルを溶剤として用いた下記式(1)で表わされる耐溶剤性試験前後のヘーズ変化量がいずれについても10%未満である成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルム。
耐溶剤性テスト前後のヘーズ変化量=(浸漬後のヘーズ(%)−浸漬前のヘーズ(%))/浸漬前のヘーズ(%)・・・(1)
(式中、浸漬後のヘーズ(%)はフィルムを溶剤中に25℃、8時間浸した後のヘーズ値、浸漬前のヘーズ(%)は初期のヘーズ値をそれぞれ表わす)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルムに関し、さらに詳しくは高い伸度を有し、成形加工性に優れ、厚み斑が少なく、かつ耐溶剤性に優れる成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家具や屋内装飾品、電化製品、自動車等の意匠性が重要視される中、これらに用いられる立体的な樹脂成形部品においても表面に意匠を付与することは非常に重要視されている。立体的な樹脂成形部品の表面に装飾を施す方法としては、大きく分ければ、直刷り法と転写法がある。直刷り法は、成形部品に直接印刷する方法であり、パッド印刷法、曲面シルク印刷法、静電印刷法などがある。しかし、これらの方法は複雑な形状を有する成形部品の製造には不適であり、高度な意匠性を付与することが難しい。他方、転写法には、熱転写法や水転写法がある。これらの方法は比較的コストが高い傾向にある。
【0003】
これらの問題を解決するべく、立体的な樹脂成形部品に低コストで意匠性を付与する方法として、成形同時加飾法が知られている。この方法は、印刷したポリエステル系樹脂(例えば特許文献1)、ポリカーボネート系樹脂(例えば特許文献2)、アクリル系樹脂(例えば特許文献3)などのシートもしくはフィルムを、あらかじめ真空成形などによって三次元の形状に成形した後、あるいは成形せずに、射出成形金型内にインサートし、その後成形樹脂を射出成形する方法である。この方法により、フィルム上に形成されていた意匠を成形部品に付与することができ、インモールド成形と称される他、インサート成形、インジェクション成形などと称されることがある。かかる成形同時加飾法によって、部品、部材の表面を表装するに際し、樹脂シートもしくはフィルムと成形樹脂を一体化させる場合と、印刷のみ成形樹脂に転写させる場合がある。
【0004】
このような成形同時加飾法において、意匠性は基材となるフィルムの特性によって異なり、得られた樹脂成形部品の意匠性が十分でない場合があるため、最適な基材フィルムが求められる。
例えば、特許文献1で開示されている基材フィルムの成形加工性では、比較的単純な形状の樹脂成形部品でないと十分な意匠性が得られないことがある。また、フィルムを成形加工するのに高い荷重が必要であり、その為に樹脂の射出速度を下げる必要が生じ、生産性の点で十分でないことがある。
また特許文献2、特許文献3で開示されるフィルムを基材フィルムとして用いた場合、延伸処理を施していない為に、厚み斑が大きく、得られた意匠の色の濃淡が不均一になることがある。また基材フィルムの表面が粗いために、基材フィルム上の印刷が不明瞭になりやすく、転写する場合は印刷の再現性が十分でなく、転写された外観が劣ることがある。その他にも、未延伸フィルムである為、二軸延伸ポリエステルフィルムと同等の耐溶剤性は備えておらず、インクによってはフィルムが白化、劣化したり、ガラス転移温度以上の熱をかけると結晶化し、白化してしまう恐れがあり、フィルムが最終製品に成形物として残るような用途の加工には適さないことがあった。
【0005】
一方、インサート成形用ポリエステルフィルムとして、例えば特許文献4において、成型品の図柄に歪みがなく、さらに成形時の加熱温度を比較的低温で行うことができ、成型品の仕上がり性が改善されたフィルムが開示されている。かかるフィルムは共重合ポリエステルフィルムの少なくとも片面に接着性改質樹脂を含む印刷性改良層を設けてなる二軸延伸フィルムであり、共重合ポリエステルからなる基材フィルムの部分は単層のフィルムである。単層部分は実質的に結晶構造を有するため、夏期の車中のような過酷な温度環境、例えば110℃で24時間加熱による白化は生じにくく透明性に優れるものの、延伸時の応力(例えば100℃におけるF100)が高いために金型への追随性が十分ではないことがあった。
【0006】
曲面、凹凸面等の非平坦表面形態である製品への加工性・成形性を高めた二軸延伸フィルムとして、特許文献5には、実質的に低結晶構造のポリエステルの層と、この層に接して両側に設けられた結晶構造のポリエステルの層とからなり、結晶構造のポリエステルの層は少なくとも2種類の不活性粒子を含有する二軸延伸ポリエステルフィルムが提案されている。
しかしながら、特許文献5におけるフィルムは実質的に低結晶構造のポリエステル層と、結晶構造のポリエステル層を含む3層構成にすることにより、延伸時の応力が比較的小さく、かつ伸度に富む成形加工性を有するものの、さらに立体的、または複雑な形状の樹脂成形部品への意匠性付与が求められた場合に形状の再現性が十分でなく、フィルムが破れたり変形するなどして、その形状にそった精密な成形加工性が十分に得られないことがあった。
【0007】
そのため、インモールド成形などによる成形同時加飾やプレス成形などにおいて、より立体的、または複雑な形状の成形部品への加工であっても、意匠を形成するフィルムに破れや変形が生じることがなく、また厚み斑の少ないフィルムが求められているのが現状である。
【0008】
【特許文献1】特開2001−354843号公報
【特許文献2】特開2002−234955号公報
【特許文献3】特開2002−80678号公報
【特許文献4】特開2005−205871号公報
【特許文献5】特開2005−335276号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題を解消し、インモールド成形などの成形加工において、より立体的または複雑な形状の成形部品への加工であっても、意匠を形成するフィルムに破れや変形が生じることなく、また厚み斑が少ないことによって意匠層、すなわちインク層に歪みや厚み斑が生じることなく、立体的な成形部品に優れた意匠性を付与することができるフィルムであって、さらに塗工時の溶剤に対する耐溶剤性を兼ね備えた、成形加工性に優れる成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、融点差が一定以上異なるポリエステル層を交互に多層積層した二軸配向フィルムを用いて、例えばフィルム製膜工程における熱固定(以下、熱処理と称することがある)温度を所定温範囲で調整し、低融点側の層を部分的に溶融させるなどの方法を用い、配向結晶構造を有する層と低結晶構造を有する層とを一定の厚み比で交互に31層以上積層することによって、成形加工時に求められる応力を有しながらも従来得ることのできなかった非常に高い破断伸度が発現すること、また厚み均一性、耐溶剤性も具備することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
具体的には、従来の3層構造のフィルム、すなわち低結晶構造のポリエステル層の両面に結晶構造のポリエステル層が設けられたフィルムであっても、ある程度の成形加工性を有していたのに対し、31層以上の多層積層構成にすると、クッション材となる低結晶構造層が結晶構造層を介して多数存在するため、局部的な応力集中を緩和する効果を有し、応力が分散されること、また部分的に結晶構造層が破断したとしても低結晶構造層の部分は同時に破断しないため、フィルム全体としては破断せずに、従来得られなかったような高い破断伸度が発現するものと考えられる。
【0012】
一方、このような多層積層構成にすると1層あたりの厚みが薄くなり、最外層が結晶構造であっても印刷時の溶剤への耐性が十分でないことを鑑み、低結晶構造層を完全に溶融することなく、部分的に結晶状態を残すことで、初めて高い破断伸度と耐溶剤性とを両立できることを見出したものである。
【0013】
すなわち本発明によれば、本発明の目的は、融点が225〜275℃のポリエステル(A)を含む第1の層と、融点が210〜235℃のポリエステル(B)を含む第2の層とを31層以上交互に積層させた多層積層フィルムであって、ポリエステル(A)の融点がポリエステル(B)の融点より12℃以上高く、第1の層が結晶構造、第2の層が低結晶構造を有し、かつ第1の層が最外層を構成してなり、多層積層フィルムの総厚みに占める第1の層の総厚みの比が5〜35%である積層構造を有し、メチルエチルケトン、トルエンまたは酢酸エチルを溶剤として用いた下記式(1)で表わされる耐溶剤性試験前後のヘーズ変化量がいずれについても10%未満である成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルムによって達成される。
耐溶剤性テスト前後のヘーズ変化量=(浸漬後のヘーズ(%)−浸漬前のヘーズ(%))/浸漬前のヘーズ(%)・・・(1)
(式中、浸漬後のヘーズ(%)はフィルムを溶剤中に25℃、8時間浸した後のヘーズ値、浸漬前のヘーズ(%)は初期のヘーズ値をそれぞれ表わす)
【0014】
また本発明の成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルムは、その好ましい態様として、120℃におけるフィルム長手方向と幅方向との破断伸度の平均値が400%以上であること、フィルムを150℃×5min熱処理した前後のヘーズ変化量が300%未満であること、温度変調示差走査熱量測定により求められる結晶化エネルギーが1J/g以上15J/g以下の範囲内にあること、ポリエステル(A)を構成する主たる成分がエチレンテレフタレートまたはエチレンナフタレートであること、ポリエステル(A)を構成する主たる成分以外の共重合成分が、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびジエチレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種であること、ポリエステル(A)を構成する共重合成分の含有量が、第1の層を構成するポリエステル(A)の全酸成分を基準として0〜10モル%であること、ポリエステル(B)を構成する主たる成分がエチレンテレフタレートまたはエチレンナフタレートであること、ポリエステル(B)を構成する主たる成分以外の共重合成分が、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびジエチレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種であること、ポリエステル(B)を構成する共重合成分の含有量が、第2の層を構成するポリエステル(B)の全酸成分を基準として9〜20モル%であること、120℃におけるフィルム長手方向と幅方向との100%伸長時応力F100の平均値が10〜50MPaの範囲であること、フィルムの厚み斑がフィルム長手方向、幅方向ともに0.0%以上7.0%以下であること、全層厚みが10〜300μmであること、の少なくともいずれか1つを具備するものも包含する。
【0015】
また、本発明の成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルムは、成形加工用途がインモールド成形加工用またはプレス成形加工用であることを、その好ましい態様として包含する。
さらに本発明は、本発明の成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルムと金属板との積層体を含むプレス成形加工用積層体、かかるプレス成形加工用積層体をプレス成形加工して得られた成形体を包含するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、本発明の多層積層二軸配向ポリエステルフィルムは、成形加工時に求められる適度な応力を有しつつ、非常に高い破断伸度を有し、また厚み均一性ならびに耐溶剤性も具備することから、インモールド成形などによる成形同時加飾やプレス成形などにおいて、より立体的または複雑な形状の成形部品への加工であっても、意匠を形成するフィルムに破れや変形が生ずることなく、精密な意匠性を立体的な樹脂成形部品に付与することができ、また耐溶剤性に優れているため、インクなどの溶剤を含有する成分に触れても白化しにくいフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
[第1の層]
本発明における第1の層は、結晶構造を有し、融点が225〜275℃のポリエステル(A)を含む層であり、かつポリエステル(A)の融点がポリエステル(B)の融点より12℃以上高いことを要する。本発明における「結晶構造」とは、第1の層が十分に結晶化している状態を指し、具体的には第1の層について示差熱量計を用いて昇温測定した場合に結晶化ピークが観察されない状態であることを指す。
【0018】
かかる融点を有するポリエステル(A)として、具体的には主たる成分がエチレンテレフタレートまたはエチレンナフタレートであるポリエステルが例示される。ポリエステル(A)の主たる成分は、ポリエステル(A)を構成する全酸成分を基準として90モル%以上100モル%以下であることが好ましい。ポリエステル(A)の主たる成分は、全酸成分を基準として92モル%以上であることがより好ましく、94モル%以上であることがさらに好ましく、96モル%以上であることが特に好ましい。主たる成分がかかる範囲にあることにより、ポリエステル(A)は上述の範囲の融点を有し、第2の層を構成するポリエステル(B)よりも高融点を維持することが可能となり、例えば第2の層の融点以上の温度で熱処理を行ってもフィルムが破断することなく製膜することができる。
ポリエステル(A)の主たる成分量が下限に満たない場合、融点が225℃よりも低下し、それに伴って第2の層を構成するポリエステル(B)の共重合成分量が増えてその上限を超えてしまい、フィルムの耐熱性が低下する。
【0019】
第1の層を構成するポリエステル(A)の融点は225〜275℃の範囲である。ポリエステル(A)の融点の下限は230℃以上であることが好ましく、240℃以上であることがさらに好ましく、245℃以上であることが特に好ましい。またポリエステル(A)の融点の上限は270℃以下であることが好ましく、265℃以下であることがさらに好ましく、260℃以下であることが特に好ましい。ポリエステル(A)の融点が下限よりも低いと、それに伴って一定の融点差のポリエステル(B)とするために、第2の層を構成するポリエステル(B)の共重合成分量が増え、フィルムの耐熱性が低下する。一方、ポリエステル(A)の融点の上限は、製膜性などを考慮して定めたものである。
【0020】
ポリエステル(A)を構成する主たる成分以外の共重合成分は、イソフタル酸、テレフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸の如き芳香族カルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の如き脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸の如き脂環族ジカルボン酸等の酸成分や、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の如き脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のグリコール成分を好ましく挙げることができる。またナフタレンジカルボン酸として、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸が例示される。
これらの共重合成分の中でも、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびジエチレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの共重合成分の中で、例えば主たる成分がエチレンテレフタレートの場合にはイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましく、さらにイソフタル酸が特に好ましい。また主たる成分がエチレンナフタレートの場合にはイソフタル酸、テレフタル酸が好ましい。これらの共重合成分は、単独で用いてもよく、また2成分以上用いることもできる。
【0021】
なおポリエステル(A)を構成する共重合成分の含有量は、ポリエステル(A)の全酸成分を基準として0〜10モル%であることが好ましい。また、ポリエステル(A)を構成する共重合成分の含有量の上限は、8モル%以下であることがより好ましく、6モル%以下であることがさらに好ましく、4モル%以下であることが特に好ましい。
【0022】
ポリエステル(A)は、公知の方法を適用して製造することができる。例えば、主たる成分の酸成分、ジカルボン酸成分、および必要に応じて共重合成分をエステル化反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させてポリエステルとする方法で製造することができる。また、これらの原料モノマーの誘導体をエステル交換反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させてポリエステルとする方法で製造してもよい。さらに、2種以上のポリエステルを用いて押出機内で溶融混合してエステル交換反応(再分配反応)させて得る方法であってもよい。
【0023】
第1の層を構成するポリエステル(A)の固有粘度は、好ましくは0.40〜0.80dl/gであり、更には0.45〜0.75dl/gの範囲であることが好ましい。第1の層を構成するポリエステル(A)の固有粘度がかかる範囲内にない場合、第2の層を構成するポリエステル(B)の固有粘度との差が大きくなることがあり、その結果交互積層構成とした場合に層構成が乱れたり、製膜はできるものの製膜性が低下することがある。
【0024】
第1の層を構成するポリエステル(A)の融点は、第2の層を構成するポリエステル(B)の融点より12℃以上高いことを要するが、より好ましくは15℃以上、さらには18℃以上、特に20℃以上高いことが好ましい。
ポリエステル(A)とポリエステル(B)との融点差がかかる範囲に満たないと、同時に所定の結晶構造を有する各層を得がたくなる。また、第2の層を低結晶構造化させるために熱処理を施す場合、熱処理を実施する温度の最適化が行いにくくなる。即ち、第1の層の結晶構造を破壊しない範囲で、かつ第2の層の結晶構造を緩和できるような熱処理加工が施しにくくなる。
またポリエステル(A)のガラス転移温度は、フィルムおよびその加工製品の寸法安定性、耐変形性および耐カール性の面から、60℃以上であることが好ましく、さらに好ましくは70℃以上である。
【0025】
なお本発明におけるポリエステル(A)の融点とは、示差熱量計(TA Instruments社製、商品名「DSC Q100」)を用い、測定温度25℃〜320℃、昇温速度20℃/分、窒素雰囲気下で測定して得られた融解ピーク温度をいう。
また本発明におけるポリエステル(A)のガラス転移温度とは、融点と同様の測定で得られた構造変化(比熱変化)温度をいう。
【0026】
本発明の第1の層は、本発明の目的を損なわない範囲で少量の添加剤を含有していてもよく、不活性粒子などの滑剤、顔料、染料などの着色剤、安定剤、難燃剤、発泡剤、紫外線吸収剤などの添加剤が例示される。滑剤粒子として、シリカ、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリンなどの無機粒子、触媒残渣の析出粒子、シリコーン、ポリスチレン架橋体、アクリル系架橋体などの有機粒子が例示される。
【0027】
[第2の層]
本発明における第2の層は、低結晶構造を有し、融点が210〜235℃のポリエステル(B)を含む層であり、かつポリエステル(B)の融点がポリエステル(A)の融点より12℃以上低いことを要する。かかる融点差を設けることにより各層がそれぞれの結晶構造を発現させることができる。
【0028】
本発明における「低結晶構造」とは、第2の層が一部結晶化している状態を指し、具体的には示差熱量計を用いてフィルムを昇温測定した場合に結晶化ピークが観察され、かつ第1の層について同様に示差熱量計を用いて昇温測定した場合に結晶化ピークが観察されない状態であり、結果的にフィルムについてのかかる結晶化ピークが第2の層由来と判断される状態を指す。
【0029】
かかる低結晶構造は、フィルム延伸工程において、一旦配向結晶構造が形成された後に第2の層を構成するポリエステル(B)の融点を超える温度で熱処理を施すことにより低結晶構造が発現したものであってもよく、またフィルム延伸工程において十分に配向結晶化せずに低結晶構造を有する場合であってもよい。
すなわち、第2の層を構成するポリエステル(B)としては、熱処理によりポリマーの結晶構造を形成し得るポリエステルであってもよく、熱処理を施してもポリマーが低結晶構造を保ったままのポリエステルのいずれであってもよいが、耐熱性の点で、熱処理によりポリマーの結晶構造を形成し得るポリエステルであることがより好ましい。
【0030】
かかる融点を有するポリエステル(B)として、具体的には主たる成分がエチレンテレフタレートまたはエチレンナフタレートであるポリエステルが例示される。ポリエステル(B)の主たる成分は、ポリエステル(B)を構成する全酸成分を基準として80モル%以上91モル%以下であることが好ましい。ポリエステル(B)の主たる成分の下限は、全酸成分を基準として85モル%以上であることがより好ましく、88モル%以上であることがさらに好ましい。ポリエステル(B)の主たる成分が下限に満たない場合、フィルムの耐熱性が低下し、例えばABS樹脂などの部材とのインサート成形などにおいて耐熱性が十分でない。一方、ポリエステル(B)の主たる成分が上限を超える場合、ポリエステル(A)との融点差が小さく、同時に所定の結晶構造を有する各層を得がたくなる。また、延伸後に第2の層の結晶構造を部分的に緩和して低結晶構造化させる熱処理を施す際に温度の制御が困難となり、第2の層を低結晶構造化することが困難になることがある。
【0031】
第2の層を構成するポリエステル(B)の融点は、210〜235℃の範囲である。ポリエステル(B)の融点の下限は220℃以上であることが好ましく、上限は230℃以下であることが好ましい。ポリエステル(B)の融点が下限よりも低いと、フィルムの耐熱性が低下し、例えばABS樹脂材料からなる部材とのインサート成形などにおいて耐熱性が十分でない。一方、融点が上限を超えるとポリエステル(A)との融点の差が所望の範囲に満たなくなる。
【0032】
ポリエステル(B)を構成する主たる成分以外の共重合成分は、イソフタル酸、テレフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸の如き芳香族カルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の如き脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸の如き脂環族ジカルボン酸等の酸成分や、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の如き脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のグリコール成分を好ましく挙げることができる。またナフタレンジカルボン酸として、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸が例示される。
これらの共重合成分の中でも、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびジエチレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの共重合成分の中で、例えば主たる成分がエチレンテレフタレートの場合にはイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましく、さらにイソフタル酸単独、2,6−ナフタレンジカルボン酸単独、またはイソフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸との併用が例示され、特にイソフタル酸単独、イソフタル酸と2,6−ナフタレンジカルボン酸との併用が好ましい。また主たる成分がエチレンナフタレートの場合にはイソフタル酸、テレフタル酸が好ましく、イソフタル酸単独、テレフタル酸単独、またはイソフタル酸とテレフタル酸との併用が例示される。
【0033】
なおポリエステル(B)を構成する共重合成分の含有量は、ポリエステル(B)の全酸成分を基準として9〜20モル%であることが好ましい。また、ポリエステル(B)を構成する共重合成分の含有量の上限は、15モル%以下であることがより好ましく、12モル%以下であることがさらに好ましい。
【0034】
ポリエステル(B)は、公知の方法を適用して製造することができる。例えば、主たる成分の酸成分、ジカルボン酸成分、および必要に応じて共重合成分をエステル化反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させてポリエステルとする方法で製造することができる。また、これらの原料モノマーの誘導体をエステル交換反応させ、次いで得られる反応生成物を重縮合反応させてポリエステルとする方法で製造してもよい。さらに、2種以上のポリエステルを用いて押出機内で溶融混合してエステル交換反応(再分配反応)させて得る方法であってもよい。
【0035】
第2の層を構成するポリエステル(B)の固有粘度は、好ましくは0.40〜0.80dl/gであり、更には0.45〜0.75dl/gの範囲であることが好ましい。第2の層を構成するポリエステル(B)の固有粘度がかかる範囲内にない場合、第1の層を構成するポリエステル(A)の固有粘度との差が大きくなることがあり、その結果交互積層構成とした場合に層構成が乱れたり、製膜はできるものの製膜性が低下することがある。
【0036】
第2の層を構成するポリエステル(B)の融点は、第1の層を構成するポリエステル(A)の融点より12℃以上低いことを要するが、好ましくは15℃以上、さらには18℃以上、特に20℃以上低いことが好ましい。ポリエステル(A)とポリエステル(B)との融点差がかかる範囲に満たないと、各層がそれぞれの結晶構造を有し難くなるためである。
また、ポリエステル(B)のガラス転移温度は、フィルムおよびその加工製品の寸法安定性、耐変形性および耐カール性の面から、60℃以上であることが好ましく、さらに好ましくは70℃以上である。
【0037】
なお本発明におけるポリエステル(B)の融点とは、示差熱量計(TA Instruments社製、商品名「DSC Q100」)を用い、測定温度25℃〜320℃、昇温速度20℃/分、窒素雰囲気下で測定して得られた融解ピーク温度をいう。
また本発明におけるポリエステル(B)のガラス転移温度とは、融点と同様の測定で得られた構造変化(比熱変化)温度をいう。
【0038】
本発明の第2の層は、本発明の目的を損なわない範囲で少量の添加剤を含有していてもよく、不活性粒子などの滑剤、顔料、染料などの着色剤、安定剤、難燃剤、発泡剤、紫外線吸収剤などの添加剤が例示される。滑剤粒子として、シリカ、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリンなどの無機粒子、触媒残渣の析出粒子、シリコーン、ポリスチレン架橋体、アクリル系架橋体などの有機粒子が例示される。
【0039】
[フィルム積層構成]
(積層数)
本発明の多層積層二軸配向ポリエステルフィルムは、ポリエステル(A)を含む第1の層と、ポリエステル(B)を含む第2の層とを31層以上交互に積層させてなるフィルムである。多層積層フィルムの積層数の下限は、好ましくは41層以上、さらに好ましくは49層以上である。また積層数の上限は製膜可能な範囲で特に制限されないが、現在可能な範囲としては例えば1001層以下である。また生産性を考慮すると高々501層が好ましく、より好ましくは401層以下、さらに好ましくは301層以下、特に好ましくは251層以下である。多層積層フィルムの積層数が下限に満たない場合、成形加工時に求められる応力を維持しつつ、従来得られなかったような非常に高い破断伸度、例えば120℃において400%以上の高伸度の発現が難しく、また均一な厚みが得難い。
【0040】
また本発明の多層積層二軸配向ポリエステルフィルムの最外層は第1の層で構成される。最外層が第1の層で構成されることにより、第2の層よりも融点が高いために、例えば製膜工程において各種ロールへのフィルムの粘着を防止することができる。また第2の層を熱処理により非晶化させる際にポリエステル(B)の融点を超える温度で熱処理を行うことができる。
【0041】
(全層厚みに占める第1の層の総厚み比)
本発明の多層積層二軸配向ポリエステルフィルムは、該フィルムの総厚み(以下、全層厚みと称することがある)に占める第1の層の総厚み比が5〜35%である。
全層厚みに占める第1の層の総厚み比の下限は、好ましくは7%以上、さらに好ましくは10%以上である。他方、全層厚みに占める第1の層の総厚み比の上限は、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下、特に好ましくは15%以下である。
【0042】
全層厚みに占める第1の層の総厚み比が下限に満たないと、第2の層を構成するポリエステル(B)が最表面に露出してしまい、フィルム製造工程における熱処理をポリエステル(B)の融点以上で行うとフィルムが破断融着したり、フィルムに厚み斑が生じたりする。一方、全層厚みに占める第1の層の総厚み比が上限を超える場合には、成形加工時の応力が高くなる他、十分な破断伸度が得られない。
【0043】
多層積層フィルムの総厚みに対する第1の層の総厚みの比がかかる範囲にあることによって破断伸度が向上するメカニズムは明らかでないが、第1の層と第2の層との厚み比のバランスが上述の範囲にあることにより、低結晶構造を有する第2の層によるクッション材としての機能が十分に発現可能となり、第1の層による結晶構造層への局部的な応力集中を分散させるか、また部分的に結晶構造層が破断したとしても低結晶構造層の部分は同時に破断しないため、フィルム全体としては破断せずに、従来得られなかったような高い破断伸度が発現するものと考えられる。
【0044】
(全層厚み)
本発明の多層積層フィルムの全層厚みは特に限定されないが、実用上好ましくは10〜300μmである。多層積層フィルムの全層厚みの下限は、より好ましくは20μm以上である。一方、多層積層フィルムの全層厚みの上限は、より好ましくは200μm以下である。多層積層フィルムの全層厚みが下限に満たない場合、フィルムにコシがなくなり、成形加工工程におけるフィルムの破断やしわの発生などのハンドリング性の低下が生じることがある。同時にこれらの問題はフィルム上に塗工したインクなどの樹脂にも影響を及ぼす。他方、多層積層フィルムの全層厚みが上限を超える場合、フィルムの腰が強すぎて成形加工時に必要な荷重が大きくなるために、結果として生産性の低下につながる。
【0045】
(各層厚み)
本発明の多層積層フィルムは、第1の層の1層あたりの平均厚みが0.001〜1μm、第2の層の1層あたりの平均厚みが0.01〜5μmの範囲であることが好ましい。
なお、1層あたりの平均厚みは、かかる範囲内で、層数及び全層厚みに占める第1の層の総厚み比に対応して変化する。具体的にはかかる範囲内で、層数の増加に応じて薄くなり、また層数の減少に応じて厚くなる関係にある。またかかる範囲内で、全層厚みに占める第1の層の総厚み比の増加に応じて第1の層は厚くなり、全層厚みに占める第1の層の総厚み比の減少に応じて第1の層は薄くなる関係にある。
【0046】
(塗布層)
本発明の多層積層フィルムに不活性粒子を含有させない場合など、二軸配向フィルムの加工工程において、さらに易滑性塗布層を少なくとも片面に設けることができる。塗布層を構成する組成物は、バインダー成分として、ポリエステル樹脂やアクリル樹脂が例示され、易滑性を付与させるための滑剤粒子として、シリカ、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリンなどの無機粒子、触媒残渣の析出粒子、シリコーン、ポリスチレン架橋体、アクリル系架橋体などの有機粒子が例示される。
塗布層の塗布方法として、公知の任意の塗工法が適用できる。例えばロールコート法、グラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法、カーテンコート法などを単独または組合せて用いることができる。なお塗布層は、必要に応じ、フィルムの片面のみに形成してもよいし、両面に形成してもよい。
【0047】
[配向フィルム]
本発明の多層積層二軸配向フィルムは、第1の層が配向状態にあるフィルムを指すものである。かかる二軸配向フィルムにおいて、第2の層は低結晶構造を有する層であれば配向状態については特に限定されない。
該二軸配向フィルムは、延伸加工の製膜性を確保し、特性の不均一化を抑制する観点から、延伸加工時には第1の層、第2の層ともに配向状態であってもよいが、その場合は、延伸後に第2の層を少なくとも部分的に非晶状態にするための熱処理を施すことにより、最終的に得られたフィルムは第2の層は低結晶構造状態を有するものである。
第1の層の配向状態の確認は、例えば配向状態の確認方法として屈折率ピークから確認することができる。
【0048】
[フィルム特性]
(耐溶剤性試験前後のヘーズ変化量)
本発明の多層積層二軸配向フィルムは、メチルエチルケトン、トルエンまたは酢酸エチルを溶剤として用いた下記式(1)で表わされる耐溶剤性試験前後のヘーズ変化量がいずれについても10%未満である。
耐溶剤性テスト前後のヘーズ変化量=(浸漬後のヘーズ(%)−浸漬前のヘーズ(%))/浸漬前のヘーズ(%)・・・(1)
(式中、浸漬後のヘーズ(%)はフィルムを溶剤中に25℃、8時間浸した後のヘーズ値、浸漬前のヘーズ(%)は初期のヘーズ値をそれぞれ表わす)
かかるヘーズ変化量は、好ましくは8%以下である。またヘーズ変化量の下限は0%である。ヘーズ変化量が上限値を超えると、成形加工用フィルムとしてフィルムに意匠の印刷を施す際、インクに含まれる溶剤によりフィルムが白化し、外観不良が生じる。
【0049】
通常、多層積層構成のポリエステルフィルムであっても、最外層が一定厚みを有している場合は最外層が結晶構造であれば、耐溶剤性は良好である。しかしながら、本発明のように層数が多く、最外層の厚みが薄いと、最外層が結晶構造であっても印刷時の溶剤に対し、十分な耐溶剤性が得られない。本発明では、第2の層の低結晶構造を完全に溶融することなく、部分的に結晶状態を残すことで、高い破断伸度と耐溶剤性とを両立できる。第2の層の低結晶構造は、第1の層と一定の融点差を有する融点のポリエステル(B)で構成されること、また熱固定処理を行う場合に一定の温度条件で処理することによって達成される。
【0050】
(破断伸度)
本発明の多層積層二軸配向フィルムは、120℃におけるフィルム長手方向と幅方向との破断伸度の平均値が400%以上であることが好ましい。かかる破断伸度は、さらに好ましくは500%以上、特に好ましくは550%以上である。フィルムの破断伸度が下限に満たないと、インサート成形やインジェクション成形などを用いた成形同時加飾やプレス加工において、立体性の高い形状や複雑な形状への成形、もしくは射出速度が高速な条件、射出圧力が高い条件での成形により、意匠を形成するフィルムに破れや変形が生じることがある。
なおフィルム長手方向とは、フィルムの連続製膜方向を指し、製膜方向、縦方向、MD方向と称することがある。またフィルム幅方向とは長手方向と直交方向を指し、横方向、TD方向と称することがある。
【0051】
かかる破断伸度は、第1の層と第2の層の結晶状態、全層に占める第1の層の厚み比、および層数によって達成される。多層積層構造が破断伸度の向上に寄与するメカニズムとして、31層以上の多層積層構成にすると、クッション材となる低結晶構造層が結晶構造層を介して多数存在するため、局部的な応力集中を緩和する効果を有し、応力が分散されること、また部分的に結晶構造層が破断したとしても低結晶構造層の部分は同時に破断しないため、フィルム全体としては破断せずに、従来得られなかったような高い破断伸度が発現するものと考えられる。
【0052】
(熱処理前後のヘーズ変化量)
本発明の多層積層二軸配向フィルムは、150℃で5分間熱処理した前後のヘーズ変化量が300%未満であることが好ましい。熱処理前後のヘーズ変化量は、下記式(2)から求めた値で表わされる。
加熱テスト前後のヘーズ変化量=(加熱後のヘーズ(%)−加熱前のヘーズ(%))/加熱前のヘーズ(%)・・・(2)
かかるヘーズ変化量は、好ましくは200%以下である。またヘーズ変化量の下限は0%である。ヘーズ変化量が上限値を超えると、成形加工時の熱によってフィルムが白化し、外観不良が生じることがある。
熱処理前後のヘーズ変化量特性は、第2層の低結晶構造の程度に依存しており、第2の層が、第1の層と一定の融点差を有する融点のポリエステル(B)で構成されること、また熱固定処理を行う場合に一定の温度条件で処理することによって達成される。
【0053】
(結晶化エネルギー)
本発明の多層積層二軸配向フィルムは、温度変調示差走査熱量測定により求められる結晶化エネルギーが1J/g以上15J/g以下の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは11J/g以上10J/g以下、特に好ましくは1J/g以上5J/g以下である。
かかる結晶化エネルギーは、第2の層の低結晶構造を具体的に特定する指標となる特性である。結晶化エネルギーが下限値に満たないと、第2の層の結晶状態が高すぎ、十分な成形加工性が得られないことがある。また結晶化エネルギーが上限値を超えると、第2の層の結晶構造が低すぎ、十分な耐溶剤性が発現しないことがある。
かかる結晶化エネルギー特性は、第2の層が、第1の層と一定の融点差を有する融点のポリエステル(B)で構成されること、また熱固定処理を行う場合に一定の温度条件で処理することによって達成される。
【0054】
(100%伸長時応力F100)
本発明の多層積層フィルムは、120℃におけるフィルム長手方向と幅方向との100%伸長時応力F100の平均値が10〜50MPaの範囲であることが好ましい。かかる伸長時応力の上限は、さらに好ましくは30MPa以下、特に好ましくは20MPa以下である。かかる伸長時応力が上限を超える場合、成形加工時に型にフィルムが追従できず、十分な加工性が得られないことがある。一方、該伸長時応力が下限に満たない場合、成形加工時にフィルムのコシが不足してしまい、しわが発生しやすくなる。
かかる伸長時応力は、第1の層の結晶構造、第2の層の低結晶構造および全層に占める第1の層の厚み比によって達成される。
【0055】
(フィルム厚み斑)
本発明の多層積層フィルムは、フィルムの厚み斑がフィルム長手方向、幅方向ともに0.0%以上7.0%以下であることが好ましい。フィルム厚み斑の下限は、さらに好ましくは3.0%以上である。フィルム厚み斑の上限は、さらに好ましくは6.0%以下、特に好ましくは5.0%以下である。フィルムの厚み斑が上限を超える場合、フィルム上に塗工したインクなどの樹脂の厚み斑が悪化し、色の濃淡斑の原因となることがある。フィルムの厚み斑はかかる範囲内でより小さい方が好ましい。
【0056】
ここでフィルム厚み斑とは、長手方向の測定長2m、幅方向の測定長3mにおいて、それぞれ等間隔で100点ずつフィルム厚みを測定し、それぞれの方向について平均値を求めてフィルム厚み(単位:μm)とし、各方向について、フィルム厚みの最大値と最小値の差をフィルム厚みの平均値で割った値(単位:%)である。フィルム厚みの測定は打点式厚み測定器(アンリツ(株)製)を用いて行われる。
【0057】
フィルム厚み斑をかかる範囲にするための達成手段は、第1の層を構成するポリエステル(A)および第2の層を構成するポリエステル(B)の組成および延伸製膜時の製膜温度に加え、層数が31層以上であることで延伸時応力を分散させて均一に成形できることが重要である。
【0058】
[成形加工用途]
本発明の多層積層フィルムは破断伸度が極めて高いことから、インモールド成形などによる成形同時加飾法やプレス成形などの成形加工用途の意匠性フィルムとして用いた場合に、より立体的または複雑な形状の成形部品への加工でもフィルム破れや変形が生じにくくなる特性を有しており、より立体的な樹脂成形部品に意匠性を付与することができる。
【0059】
本発明における成形加工の具体例として、例えば成形同時加飾法を用いた成形加工が挙げられ、インモールド成形、インサート成形、インジェクション成形を含む概念である。また、本発明における成形加工の他の具体例としてプレス成形加工が挙げられ、本発明のフィルムを単独で用いる形態、本発明のフィルムを金属板に貼り合せた積層体を用いる形態、本発明のフィルムを他の樹脂フィルムに貼り合せた積層体を用いる形態のいずれの形態を用いてプレス加工を行ってもよい。
【0060】
[製造方法]
以下に、本発明の多層積層フィルムの製造方法について、49層積層フィルムを例に説明するが、かかる方法に限定されるものではない。
多層積層フィルムは、公知の共押出製膜法で製造することができる。まず第1の層用に調製したポリエステル(A)のペレットを乾燥、溶融する。これと並行して第2の層用に調製したポリエステル(B)のペレットを乾燥、溶融する。続いて、これらの溶融ポリマーの吐出量を所定の吐出比に設定し、それぞれの押出機から押出し、多層フィードブロック装置によりダイ内部で溶融状態で交互に49層に積層し、その後、冷却ドラム上にキャスティングしてシート状物(多層積層の未延伸フィルム)とする。なおフィードブロックは、第1の層の各層厚み、第2の層の各層厚みについて、それぞれ均一な厚みとなるように制御されることが好ましい。
なお、吐出比により全層厚みに占める第1の層の総厚み比を調整することができる。かかると出比は、得られたフィルムの厚み比を測定した上で、所望の厚み比になるよう調整することが好ましい。
【0061】
吐出比は、下記式(3)から算出して求められる。
総ポリエステル吐出量に占めるポリエステル(A)の吐出量の比=((A)/((A)+(B))×100(%)) ・・・(3)
(上式中、(A)はポリエステルAの吐出量(Kg/min)、(B)はポリエステル(B)の吐出量(Kg/min)をそれぞれ表わす)
【0062】
このようにして得られたシート状物は、続いてフィルム長手方向に延伸され、その後、その直交方向である幅方向に延伸される。
長手方向の延伸温度は、第1の層を構成するポリエステル(A)のガラス転移温度(TgA)−30℃からTgA+5℃の温度で予熱処理を行った後、(TgA−10)℃〜(TgA+50)℃の温度で、長手方向に2.7〜3.3倍の延伸倍率で延伸処理を行うのが好ましく、さらに好ましい延伸倍率は2.9〜3.1倍の範囲である。
幅方向の延伸温度は、TgA〜(TgA+30)℃の温度で予熱処理を行った後、(TgA+30)℃〜(TgA+70)℃の温度で、幅方向に2.7〜3.3倍の延伸倍率で延伸処理を行うのが好ましく、さらに好ましい延伸倍率は2.9〜3.1倍の範囲である。
2方向に延伸する際の延伸方法は、逐次二軸延伸であっても同時二軸延伸であってもよい。
【0063】
第1の層、第2の層を構成するポリエステルがそれぞれ延伸により配向性を有している場合は、このようにして得られた状態では、第1の層、第2の層が共に延伸配向配向の状態にある。かかる場合は、延伸工程後に熱処理を行い、第2の層の配向状態を緩和させて低結晶構造とすることが好ましい。第2の層が延伸工程後も配向を形成せず、低結晶構造である場合には熱処理は必須で行う必要はない。
【0064】
延伸工程後に第2の層が配向結晶を有する場合に施す熱処理の温度は、(TmB+6)℃以下(ここでTmBとはポリエステル(B)の融点を表わす)の温度で、かつ(TmB−10)℃以上の温度の範囲で行うことが好ましい。熱処理温度は、さらに好ましくは、(TmB−5)℃以上(TmB+5)℃以下、特に好ましくはTmB℃以上(TmB+5)℃以下の範囲である。
また熱処理時間は2〜180秒の範囲が好ましく、さらに好ましくは3〜100秒である。熱処理は通常、幅方向への延伸の直後に、フィルムの両端をステンターのクリップで保持した状態で実施する。
【0065】
熱処理温度が下限に満たない場合、第2の層の分子鎖の配向結晶構造を緩和させる効果が不十分であり、十分な破断伸度および成形加工時の低応力化が発現しないことがある。一方、熱処理温度が上限を超える場合、第1の層の分子鎖の結晶構造も緩和されて伸長時応力が低下し、かつ第2の層がほぼ完全に非晶化し、耐溶剤性の低下、また成形加工する際に白化しやすくなる。
かかる温度範囲で熱処理を行うことにより、第2の層を構成するポリエステル(B)の少なくとも一部が溶融し、配向結晶構造が形成されていたとしても、適度な低結晶構造に変化し、高い破断伸度および成形加工時の低応力化の発現、ならびに耐溶剤性を兼ね備えることができる。また、かかる熱処理によって第1の層自体は結晶化がすすみ、通常の熱固定処理と同じ効果が得られる。
【0066】
また、塗布層を設ける場合は、例えば縦延伸後に、フィルムの片面ないし両面に水分散性の塗剤を塗布し、横延伸の前に乾燥してフィルムに塗布層を形成させることが好ましい。塗工方法は特に限定されないが、リバースロールコーターによる塗工が好ましい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
なお、実施例および比較例において用いた特性の測定方法ならびに評価方法は、次のとおりである。
【0068】
(1)ポリエステル成分量
フィルムサンプルの各層について、H−NMR測定よりポリエステルの成分および共重合成分及び各成分量を特定した。
【0069】
(2)固有粘度
ポリエステルの固有粘度([η]dl/g)は、25℃のo−クロロフェノール溶液で測定した。
【0070】
(3)ポリエステルの融点、結晶化温度およびガラス転移点
フィルムサンプルを約10mgサンプリングし、示差熱量計(TA Instruments社製、商品名「DSC Q100」)を用い、測定温度25℃〜320℃、昇温速度20℃/分の条件で、ガラス転移点、結晶化温度および融点を測定する。なお試料パンにはアルミニウムパンを用い、窒素雰囲気下で測定を行った。
ガラス転移点(Tg)は補外ガラス転移開始温度および補外ガラス転移修了温度の各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線とガラス転移の階段状変化部分の曲線とが交わる点の温度である。また結晶化温度は結晶化ピークの頂点温度とする。結晶化温度は、ガラス転移点以上、融解温度以下の範囲に認められる。融点は融解ピークの頂点温度より求める。
【0071】
(4)結晶化エネルギー
フィルムサンプルを20mgサンプリングし、温度変調示差走査熱量測定(DSC)装置(TAインスツルメンツ社製、商品名;DSC Q100)を用い、加熱温度20〜320℃、温度変調振幅±2℃、温度変調周期60秒、昇温速度(ステップ)2℃/minの条件で結晶化エネルギーを測定する。なお試料パンにはアルミニウムパンを用い、窒素50ml/min雰囲気下で測定を行った。結晶化ピークは、ガラス転移点以上、融解温度以下の範囲に認められ、結晶化エネルギーは結晶化ピークの面積から算出することができる。
【0072】
(5)各層厚み、層数
フィルムサンプルを三角形に切り出し、包埋カプセルに固定後、エポキシ樹脂にて包埋する。そして、包埋されたサンプルをミクロトーム(ULTR(A)CUT−S、製造元:ライヘルト社)で製膜方向と厚み方向に沿って切断し、厚さ50nmの薄膜切片にした。得られた薄膜切片を、透過型電子顕微鏡(製造元:日本電子(株)、商品名:JEM2010、以下TEMと称することがある)を用いて、加速電圧100kVにて観察・撮影し、写真から第1の層、第2の層の各層の厚みおよび層数を測定し、それぞれについて平均値より各層厚みを求めた。
【0073】
(6)全層厚みに占める第1の層の総厚み比
全層厚みに占める第1の層の総厚み比は、下記式(4)により算出した。
なお、下記式中、Aは(5)の方法で求めた第1の層厚みの平均値に第1の層数を乗じて得られた第1の層厚みの総計(μm)を表わしており、Bは(5)の方法で求めた第2の層厚みの平均値に第2の層数を乗じて得られた第2の層厚みの総計(μm)を表わしている。
フィルム全層厚みに占める第1の層の総厚み比=(A/(A+B))×100[%]・・(4)
【0074】
(7)結晶構造、低結晶構造の評価
第1の層の結晶構造
(3)の方法に準じ、第1の層について示差熱量計(TA Instruments社製、商品名「DSC Q100」)を用いて昇温測定した場合に結晶化ピークが観察されなければ結晶構造を有していると判断した。なお第1の層は最外層を液体窒素で冷却しながら削り確認した。
また、第1の層が第2の層よりも相対的に結晶構造であることは、(5)のTEM写真の濃淡からも観察することができ、濃い方がより結晶化していることを示している。
第2の層の低結晶構造
(3)の方法に準じ、示差熱量計(TA Instruments社製、商品名「DSC Q100」)を用いてフィルムを昇温測定した場合の結晶化ピークの有無を観察した。フィルムとして結晶化ピークが観察され、一方第1の層について結晶化ピークが観察されなければ、フィルムを測定して観察された結晶化ピークは第2の層に由来するものとして判断した。
また、第2の層が第1の層よりも相対的に低結晶構造であることは、(5)のTEM写真の濃淡からも観察することができ、薄い方がより低結晶であることを示している。
【0075】
(8)ヘーズ
ヘーズメーター(日本精密光学(株)製、POICヘーズメーター SEP−HS−D1)によりヘーズ値(%)を測定した。なおこれらの測定は、JIS−K−7136(ISO 14782)規格に準拠して行った。
【0076】
(9)耐溶剤性テスト
耐溶剤性テストとして、メチルエチルケトン、トルエン、酢酸エチルを用い、これらの溶剤をそれぞれガラス容器に入れ、フィルムを溶剤中に25℃、8時間浸し、取り出した。この浸漬前後のフィルムのヘーズを(8)の方法で測定し、下記式(1)から浸漬前後のフィルムヘーズ変化量を求め、以下の基準により耐溶剤性を評価した。
耐溶剤性テスト前後のヘーズ変化量=(浸漬後のヘーズ(%)−浸漬前のヘーズ(%))/浸漬前のヘーズ(%)・・・(1)
○:ヘーズ変化量が10%未満
×:ヘーズ変化量が10%以上
【0077】
(10)加熱テスト
ギアオーブン(ヤマト科学(株)製、Constant Temperature Oven DN43)を150℃に設定し、フィルムを5分間ギアオーブン内で加熱し、その後取り出した。
この加熱前後のフィルムのヘーズを(8)の方法で測定し、下記式(2)から加熱前後のフィルムヘーズ変化量を求め、以下の基準により加熱白化性を評価した。
加熱テスト前後のヘーズ変化量=(加熱後のヘーズ(%)−加熱前のヘーズ(%))/加熱前のヘーズ(%)・・・(2)
○:ヘーズ変化量が300%未満
×:ヘーズ変化量が300%以上
【0078】
(11)120℃における破断伸度および100%伸長時応力F100
120℃における破断伸度および100%伸長時応力F100は、測定装置として引張試験機(東洋ボールドウィン社製、商品名「テンシロン」)を用い、試験片およびチャック部を加熱チャンバーで覆って測定した。フィルムサンプルを試料片の幅(短辺)10mm×長さ(長辺)150mmに切り出し、長辺が測定方向となるようチャック間隔を50mmに設定してチャックで固定した。その際、引張試験機のチャック部分に設置されている加熱チャンバーにより、サンプルの存在する雰囲気下は120℃に保った。50mm/分の速度で引張り、試験機に装着されたロードセルで荷重を測定した。荷伸曲線の100%での伸長時の荷重を読取り、引張前のサンプル断面積で割って100%伸張時応力(F100)(単位:MPa)を計算した。また破断伸度は試験片が破断するまで50mm/分の速度で引張り、破断時の伸度を求めた。
【0079】
なおフィルム長手方向の値は、試験片の長辺が長手方向(MD)のサンプルから求めた値であり、フィルム幅方向(TD)の値は、試験片の長辺が幅方向(TD)のサンプルから求めた値である。またフィルム長手方向と幅方向との平均値とは、それぞれの方向についてn=5の平均値を求め、さらに長手方向と幅方向の平均値より求めた値を表わす。
【0080】
(12)フィルム厚み斑
長手方向の測定長2m、幅方向の測定長3mにおいて、それぞれ等間隔で100点ずつフィルム厚みを測定し、それぞれの方向について平均値を求めてフィルム厚み(単位:μm)とし、各方向について、フィルム厚みの最大値と最小値の差をフィルム厚みの平均値で割った値を厚み斑(単位:%)とした。フィルム厚みの測定は打点式厚み測定器(アンリツ(株)製)を用いて行った。
【0081】
(13)成形性
350mm×350mmサイズのフィルムを、プレヒート温度170℃、プレヒート時間1minでフィルムを予熱した後、長さ180mm、幅140mm、深さ100mmの金型で成形圧力3Kg/cmでプレス成形する。
○:ポケットの形状は金型通りであり、ポケット間のフィルムにしわの発生もない
△:ポケットにしわがあり、また角の部分の形状が金型通りでない
×:フィルム破れが発生するか、側面または底部の形状が金型通りでない
【0082】
(ポリエステルペレットの作成)
(ポリエチレンテレフタレート)
出発原料としてテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールを用い、常法によりエステル交換反応、重縮合反応を実施し、得られたポリマーを反応釜から吐出、冷却して、ポリエチレンテレフタレートのペレット(以下「PET」と略記する)を得た。得られたPETのガラス転移温度は80℃、融点は256℃、固有粘度は0.65dL/gであった。
【0083】
(イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート)
出発原料としてテレフタル酸ジメチル88モル%(全酸成分に対し)、イソフタル酸ジメチル12モル%(全酸成分に対し)およびエチレングリコールを用いる以外は、上記PETと同様に、エステル交換反応、重縮合反応を実施し、得られたポリマーを反応釜から吐出、冷却して、イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートのペレット(以下、「IA−PET」と略記する)を得た。得られたIA−PETのガラス転移温度は66℃、融点は226℃、固有粘度は0.62dL/gであった。
【0084】
(ナフタレンジカルボン酸共重合ポリエチレンテレフタレート)
出発原料としてテレフタル酸ジメチル88モル%(全酸成分に対し)、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル12モル%(全酸成分に対し)およびエチレングリコールを用いる以外は、上記PETと同様に、エステル交換反応、重縮合反応を実施し、得られたポリマーを反応釜から吐出、冷却して、ナフタレンジカルボン酸共重合ポリエチレンテレフタレートのペレット(以下「NDC−PET」と略記する)を得た。得られたNDC−PETのガラス転移温度は82℃、融点は226℃、固有粘度は0.66dL/gであった。
【0085】
[実施例1]
第1の層を構成するポリエステルAとして上記のPETおよびIA−PETを(PET)/(IA−PET)=67/33重量%となるように混合した混合物を準備し、160℃で4時間乾燥した。また第2の層を構成するポリエステルBとして上記のIA−PETを160℃で4時間乾燥した。乾燥したペレットをそれぞれの単軸スクリュー押出機に供給し、287℃の溶融押出温度で溶融混練した後、第1の層用ポリエステル(A)を25層、第2の層用ポリエステル(B)を24層に分岐させた後、第1の層を最外層とし、第1の層と第2の層が交互に積層するような多層フィードブロック装置を使用して、その積層状態を保持したままダイへと導き、この状態で冷却ドラム上にキャスティングし、49層の未延伸多層積層フィルムを得た。このとき総吐出量に占めるポリエステル(A)の吐出量の比は10%であった。なお、フィルムにした時の第1の層の各層厚み、第2の層の各層厚みが均一となるようにフィードブロック間隔が調整されたフィードブロックを使用した。
【0086】
続いて、この未延伸多層積層フィルムをフィルム連続製膜方向に110℃で3.0倍延伸した後、25℃の金属ロールに接触させ冷却した。次いで、ステンターに投入して120〜140℃の温度勾配をかけた延伸ゾーンにおいて、幅方向に3.0倍に延伸した後、229℃で15秒間熱固定し、積層数49層でフィルム全層厚みが75μmの多層積層フィルムを得た。得られた多層積層フィルムの構成と特性を表1に示す。
本実施例のフィルムは、フィルムとしての結晶化ピークは観察されたものの第1の層由来の結晶化ピークは観察されず、かかる結晶化ピークは第2の層由来と判断して、第1の層の結晶構造および第2の層の低結晶構造を確認した。
【0087】
[実施例2]
第1の層を構成するポリエステル(A)および熱固定温度を表1に記載のように変更した以外は、実施例1と同様の方法で49層の多層積層フィルムを得た。得られた多層積層フィルムの構成と特性を表1に示す。
本実施例のフィルムは、フィルムとしての結晶化ピークは観察されたものの第1の層由来の結晶化ピークは観察されず、かかる結晶化ピークは第2の層由来と判断して、第1の層の結晶構造および第2の層の低結晶構造を確認した。
【0088】
[実施例3]
第2の層を構成するポリエステル(B)を表1に記載のように変更した以外は、実施例1と同様の方法で49層の多層積層フィルムを得た。得られた多層積層フィルムの構成と特性を表1に示す。かかるポリエステル(B)はIA−PETおよびNDC−PETを(IA−PET)/(NDC−PET)=50/50重量%となるように混合して準備した。
本実施例のフィルムは、フィルムとしての結晶化ピークは観察されたものの第1の層由来の結晶化ピークは観察されず、かかる結晶化ピークは第2の層由来と判断して、第1の層の結晶構造および第2の層の低結晶構造を確認した。
【0089】
[実施例4]
積層数を201層とし、フィルム厚みを188μmとした以外は実施例1と同様の方法で多層積層フィルムを得た。得られた多層積層フィルムの構成と特性を表1に示す。
本実施例のフィルムは、フィルムとしての結晶化ピークは観察されたものの第1の層由来の結晶化ピークは観察されず、かかる結晶化ピークは第2の層由来と判断して、第1の層の結晶構造および第2の層の低結晶構造を確認した。
【0090】
[実施例5]
総吐出量に占めるポリエステル(A)の吐出量の比を7%とした以外は、実施例1と同様の方法で49層の多層積層フィルムを得た。得られた多層積層フィルムの構成と特性を表1に示す。
本実施例のフィルムは、フィルムとしての結晶化ピークは観察されたものの第1の層由来の結晶化ピークは観察されず、かかる結晶化ピークは第2の層由来と判断して、第1の層の結晶構造および第2の層の低結晶構造を確認した。
【0091】
[実施例6]
総吐出量に占めるポリエステル(A)の吐出量の比を20%とした以外は、実施例1と同様の方法で49層の多層積層フィルムを得た。得られた多層積層フィルムの構成と特性を表1に示す。
本実施例のフィルムは、フィルムとしての結晶化ピークは観察されたものの第1の層由来の結晶化ピークは観察されず、かかる結晶化ピークは第2の層由来と判断して、第1の層の結晶構造および第2の層の低結晶構造を確認した。
【0092】
[実施例7]
総吐出量に占めるポリエステル(A)の吐出量の比を24%とした以外は、実施例1と同様の方法で49層の多層積層フィルムを得た。得られた多層積層フィルムの構成と特性を表1に示す。
本実施例のフィルムは、フィルムとしての結晶化ピークは観察されたものの第1の層由来の結晶化ピークは観察されず、かかる結晶化ピークは第2の層由来と判断して、第1の層の結晶構造および第2の層の低結晶構造を確認した。
【0093】
[実施例8]
熱固定温度を表1に記載のように変更した以外は、実施例1と同様の方法で49層の多層積層フィルムを得た。得られた多層積層フィルムの構成と特性を表1に示す。
本実施例のフィルムは、フィルムとしての結晶化ピークは観察されたものの第1の層由来の結晶化ピークは観察されず、かかる結晶化ピークは第2の層由来と判断して、第1の層の結晶構造および第2の層の低結晶構造を確認した。
【0094】
[実施例9]
積層数を33層とした以外は実施例1と同様の方法で多層積層フィルムを得た。得られた多層積層フィルムの構成と特性を表1に示す。
本実施例のフィルムは、フィルムとしての結晶化ピークは観察されたものの第1の層由来の結晶化ピークは観察されず、かかる結晶化ピークは第2の層由来と判断して、第1の層の結晶構造および第2の層の低結晶構造を確認した。
【0095】
[実施例10]
第1の層を構成するポリエステル(A)および(B)ならびに熱固定温度を表1に記載のように変更した以外は、実施例1と同様の方法で49層の多層積層フィルムを得た。得られた多層積層フィルムの構成と特性を表1に示す。
本実施例のフィルムは、フィルムとしての結晶化ピークは観察されたものの第1の層由来の結晶化ピークは観察されず、かかる結晶化ピークは第2の層由来と判断して、第1の層の結晶構造および第2の層の低結晶構造を確認した。
実施例1〜10はいずれも成形加工に適した応力を有しつつ、非常に高い破断伸度を有し、また厚み均一性にも優れ、なおかつ耐溶剤性にも優れていた。
【0096】
【表1】

【0097】
[比較例1〜6]
積層数、ポリエステル(A)およびポリエステル(B)の融点差、熱固定温度、ならびに最外層の種類を表1に記載のように変更した以外は、実施例1と同様の方法で多層積層フィルムを得た。また、比較例5は総吐出量に占めるポリエステル(A)の吐出量の比を40%、比較例6は総吐出量に占めるポリエステル(A)の吐出量の比を50%とした以外は実施例1と同様の方法で多層積層フィルムを得た。得られた多層積層フィルムの構成と特性を表2に示す。
【0098】
比較例1および2で得られたフィルムは、積層数が所望の数に達しないため、成形性および厚み斑の特性に劣るものであった。なお比較例1、2のフィルムは、フィルムとしての結晶化ピークは観察されたものの第1の層由来の結晶化ピークは観察されず、かかる結晶化ピークは第2の層由来と判断して、第1の層の結晶構造および第2の層の低結晶構造を確認した。
【0099】
比較例3、4で得られたフィルムは、厚み斑も良好で、積層数は所望の層数であるものの、総吐出量に占めるポリエステル(A)の吐出量の比が高く、成形性に劣るものであった。なお比較例3、4のフィルムは、フィルムとしての結晶化ピークは観察されたものの第1の層由来の結晶化ピークは観察されず、かかる結晶化ピークは第2の層由来と判断して、第1の層の結晶構造および第2の層の低結晶構造を確認した。
【0100】
比較例5で得られたフィルムは、厚み斑も良好で、積層数は所望の層数であるものの、最外層がB層であるため、ロールに融着しやすいものであった。
比較例6で得られたフィルムは、厚み斑も良好で、積層数は所望の層数であるものの、熱固定温度が熱固定温度が高く、第二の層が非結晶構造となり、耐薬品性が低下した。
【0101】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の多層積層二軸配向ポリエステルフィルムは、成形加工時に求められる適度な応力を有しつつ、非常に高い破断伸度を有し、また厚み均一性ならびに耐溶剤性も具備することから、インモールド成形などによる成形同時加飾やプレス成形などにおいて、より立体的または複雑な形状の成形部品への加工であっても、意匠を形成するフィルムに破れや変形が生ずることなく、精密な意匠性を立体的な樹脂成形部品に付与することができ、また耐溶剤性に優れているため、インクなどの溶剤を含有する成分に触れても白化しにくいフィルムを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が225〜275℃のポリエステル(A)を含む第1の層と、融点が210〜235℃のポリエステル(B)を含む第2の層とを31層以上交互に積層させた多層積層フィルムであって、ポリエステル(A)の融点がポリエステル(B)の融点より12℃以上高く、第1の層が結晶構造、第2の層が低結晶構造を有し、かつ第1の層が最外層を構成してなり、多層積層フィルムの総厚みに占める第1の層の総厚みの比が5〜35%である積層構造を有し、メチルエチルケトン、トルエンまたは酢酸エチルを溶剤として用いた下記式(1)で表わされる耐溶剤性試験前後のヘーズ変化量がいずれについても10%未満であることを特徴とする成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルム。
耐溶剤性テスト前後のヘーズ変化量=(浸漬後のヘーズ(%)−浸漬前のヘーズ(%))/浸漬前のヘーズ(%)・・・(1)
(式中、浸漬後のヘーズ(%)はフィルムを溶剤中に25℃、8時間浸した後のヘーズ値、浸漬前のヘーズ(%)は初期のヘーズ値をそれぞれ表わす)
【請求項2】
120℃におけるフィルム長手方向と幅方向との破断伸度の平均値が400%以上である請求項1に記載の成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
フィルムを150℃×5min熱処理した前後のヘーズ変化量が300%未満である請求項1または2のいずれかに記載の成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
温度変調示差走査熱量測定により求められる結晶化エネルギーが1J/g以上15J/g以下の範囲内にある請求項1〜3のいずれかに記載の成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】
ポリエステル(A)を構成する主たる成分がエチレンテレフタレートまたはエチレンナフタレートである請求項1〜4のいずれかに記載の成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項6】
ポリエステル(A)を構成する主たる成分以外の共重合成分が、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびジエチレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項5に記載の成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項7】
ポリエステル(A)を構成する共重合成分の含有量が、第1の層を構成するポリエステル(A)の全酸成分を基準として0〜10モル%である請求項6に記載の成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項8】
ポリエステル(B)を構成する主たる成分がエチレンテレフタレートまたはエチレンナフタレートである請求項1〜7のいずれかに記載の成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項9】
ポリエステル(B)を構成する主たる成分以外の共重合成分が、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびジエチレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項8に記載の成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項10】
ポリエステル(B)を構成する共重合成分の含有量が、第2の層を構成するポリエステル(B)の全酸成分を基準として9〜20モル%である請求項9に記載の成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項11】
120℃におけるフィルム長手方向と幅方向との100%伸長時応力F100の平均値が10〜50MPaの範囲である請求項1〜10のいずれかに記載の成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項12】
フィルムの厚み斑がフィルム長手方向、幅方向ともに0.0%以上7.0%以下である請求項1〜11のいずれかに記載の成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項13】
全層厚みが10〜300μmである請求項1〜12のいずれかに記載の成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項14】
成形加工用途がインモールド成形加工用である請求項1〜13のいずれかに記載の成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項15】
成形加工用途がプレス成形加工用である請求項1〜13のいずれかに記載の成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項16】
請求項1〜13に記載の成形加工用多層積層二軸配向ポリエステルフィルムと金属板との積層体を含むプレス成形加工用積層体。
【請求項17】
請求項16に記載のプレス成形加工用積層体をプレス成形加工して得られた成形体。

【公開番号】特開2010−5954(P2010−5954A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168984(P2008−168984)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】