説明

抗うつ薬及びその用途

【課題】さまざまな副作用を伴うことが知られている従来の三環系抗うつ薬や選択的セロトニン再取り込み阻害剤とは異なる作用機序に基づく、うつ病に対する治療薬の提供。
【解決手段】下記式で例示されるヒストン脱アセチル化酵素6阻害剤を有効成分として含有する抗うつ薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗うつ薬及びその用途(うつ病の治療や予防など)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、我が国ではうつ病などの精神疾患患者が急増している(厚生労働省 患者調査2008)。うつ症状を改善し治療するには、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)、SNRI(セロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害剤)等が用いられている。
【0003】
作用機序について、上述の抗うつ薬は脳内のモノアミン神経伝達に関わる分子に作用することが知られている(第129回日本医学シンポジウム記録集)。三環系抗うつ薬であるイミプラミンやSSRI・SNRIはモノアミントランスポーターの働きを阻害することでシナプス間隙のモノアミン量を増加させる。
【0004】
しかし、これらの薬剤は高い薬理効果を有する一方で、さまざまな副作用を伴うことが知られている。また、効果が出るまで長期間の服用が必要とされている。加えて、最近では従来の抗うつ薬が効かないとされる「新型うつ病」が20代から30代の若い世代を中心に増加している。
【0005】
このため、より副作用の少ない、即効性のある、「新型うつ病」に対しても有効な抗うつ薬を求めて新しい作用機序に基づく薬剤開発が進められている。
【0006】
尚、中枢神経系障害の治療用の医薬組成物を報告する文献を以下に列挙する(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−46464号公報
【特許文献2】特表2008−505970号公報
【特許文献3】特開2007−238452号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Y. Ito et al., J. Med. Chem. 2007, 50, 5425-5438
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、従来の抗うつ薬とは異なる作用機序に基づく、うつ病に対する治療戦略(治療薬、治療法など)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らの研究グループは、ヒストン脱アセチル化酵素6(以下、「HDAC6」とも称する)阻害剤が抗腫瘍剤として有望視されていることに注目して研究を進め、HDAC6に選択的阻害活性を示す新規な化合物群の合成に成功した(特許文献3、非特許文献1)。一方、本願発明者らは、HDAC6遺伝子欠損マウスが抗うつ薬を投与した野生型マウスに近似した表現型を示すことに着目し、鋭意検討を重ねた。その結果、脳内のHDAC6酵素活性を抑えることがうつ病に対する有効な治療戦略になること(換言すれば、うつ病の治療や予防にHDAC6阻害剤が有効であること)及びHDAC6選択性の高い化合物には特に高い薬効を期待できることが判明した。以下に示す本発明は、当該知見に基づき完成した。
[1]ヒストン脱アセチル化酵素6阻害剤を有効成分として含有する抗うつ薬。
[2]前記ヒストン脱アセチル化酵素6阻害剤が、ヒストン脱アセチル化酵素6選択的阻害剤である、[1]に記載の抗うつ薬。
[3]前記ヒストン脱アセチル化酵素6阻害剤が、下記一般式(1)
【化1】

[式中、R1は置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、又は窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群より独立して選択される1〜3個のヘテロ原子を含有する、置換基を有していても良い複素芳香環基、又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す。Xは−NHCO−基、又は−CONH−基を示す。Nは窒素原子を示す。Oは酸素原子を示す。Sは硫黄原子を示す。R2は水素原子、または下記一般式(2)
【化2】

(但しYは炭素原子、酸素原子、又は窒素原子のいずれかを示す。R4は置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、又は窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群より独立して選択される1〜3個のヘテロ原子を含有する、置換基を有していても良い複素芳香環基、又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す。)を示す。
3は水素原子、または下記一般式(3)
【化3】

(但しR5は置換基を有して良い炭化水素基、置換基を有して良い芳香族炭化水素基、又は窒素原子、酸素原子、硫黄原子から独立して選択される1〜3個のヘテロ原子を含有する、置換基を有していても良い複素芳香環基を示す。)nは3から10の整数を表す。]で表される化合物またはその薬理学的に許容される塩である、[1]に記載の抗うつ薬。
[4]前記ヒストン脱アセチル化酵素6阻害剤が、
【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

からなる群より選択される化合物又はその薬理学的に許容される塩である、[1]に記載の抗うつ薬。
[5][1]〜[4]のいずれか一項に記載の抗うつ薬を含有する食品組成物。
[6]うつ病の患者に対してヒストン脱アセチル化酵素6阻害剤を治療上有効量投与するステップを含む、うつ病の治療又は予防法。
[7]ヒストン脱アセチル化酵素6阻害剤がヒストン脱アセチル化酵素6選択的阻害剤である、[6]に記載のうつ病の治療又は予防法。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】HDAC6遺伝子欠損マウスとうつ症状との関係を示す図である。テールサスペンジョン試験で比較・評価した。cont.:コントロール群(n=18)、HDAC6欠損:HDAC6遺伝子欠損マウス群(n=18)、抗うつ剤:フロキセチン投与群(n=12)。平均±標準誤差で示した。*p<0.01。
【図2】(S)−チオイソブチル酸S−(6−tert−ブトキシカルボニルアミノ−6−1−アダマンチルカルバモイル−ヘキシル)エステル(NCT−14b)の抗うつ効果を示す図である。テールサスペンジョン試験で比較・評価した。cont.:コントロール群(n=14)、NCT:NCT−14b投与群(n=21)HDAC6欠損:陽性対照群(n=16)。平均±標準誤差で示した。*p<0.05。
【図3】NCT−14bの脳内ヒストン脱アセチル化酵素6阻害効果(ウエスタンブロット法による)を示す図である。
【図4】NCT−14bの抗うつ効果を既存の抗うつ薬と比較した図である。NCT−14b(n=21)、フロキセチン(n=12)、デシプラミン(n=11)、イミプラミン(n=18)の抗うつ効果をテールサスペンジョン試験で比較・評価した。平均±標準誤差で示した。*p<0.05、***p<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の第1の局面は抗うつ薬を提供する。本明細書において用語「抗うつ薬」とは、うつ病に対して治療的効果又は予防的効果を示す薬剤をいう。治療的効果にはうつ病に特徴的な症状又は随伴症状を緩和すること(軽症化)、症状の悪化を阻止ないし遅延すること等が含まれる。後者については、重症化を予防するという点において予防的効果の一つと捉えることができる。このように、治療的効果と予防的効果は一部において重複する概念であり、明確に区別して捉えることは困難であり、またそうすることの実益は少ない。尚、予防的効果の典型的なものは、うつ病に特徴的な症状の発現又は再発を阻止ないし遅延することである。
【0013】
本発明の抗うつ薬は、ヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)阻害剤(即ち、HDAC6に対する阻害活性を示す化合物又はその塩)を有効成分として含有する。好ましくは、HDAC6選択的阻害活性を示すHDAC6阻害剤が用いられる。「HDAC6選択的阻害活性を示す」とは、HDACの中でもHDAC6に対する阻害活性が特に高いことを意味する。「HDAC6選択的阻害活性」の有無及び/又は程度は、例えば、HDAC1やHDAC4に対する阻害活性との比較の上で評価することができる。HDAC6選択的阻害活性を評価するための方法(阻害活性測定試験)については後述する。
【0014】
本発明の一態様では、HDAC6阻害剤として、下記一般式(1)で表される化合物又はその薬理学的に許容される塩が用いられる。
【化1】

[式中、R1は置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、又は窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群より独立して選択される1〜3個のヘテロ原子を含有する、置換基を有していても良い複素芳香環基、又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す。Xは−NHCO−基、又は−CONH−基を示す。Nは窒素原子を示す。Oは酸素原子を示す。Sは硫黄原子を示す。R2は水素原子、または下記一般式(2)
【化2】

(但しYは炭素原子、酸素原子、又は窒素原子のいずれかを示す。R4は置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、又は窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群より独立して選択される1〜3個のヘテロ原子を含有する、置換基を有していても良い複素芳香環基、又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す。)を示す。
3は水素原子、または下記一般式(3)
【化3】

(但しR5は置換基を有して良い炭化水素基、置換基を有して良い芳香族炭化水素基、又は窒素原子、酸素原子、硫黄原子から独立して選択される1〜3個のヘテロ原子を含有する、置換基を有していても良い複素芳香環基を示す。)nは3から10の整数を表す。]
【0015】
本発明の一態様では、一般式(1)におけるXが−NHCO−基であり、nが3〜7である。
【0016】
本発明の一態様では、一般式(2)におけるYが酸素原子であり、R4がベンジル基、t−ブチル基、9−フルオレニル基、又は4−メトキシフェニルメチル基である。
【0017】
本発明の一態様では、一般式(3)におけるR5がC1〜C10の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルキル基、又は置換基を有していても良いフェニル基、又は窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群より独立して選択される1〜3個のヘテロ原子を含有する、置換基を有していても良い複素芳香環基であり、n=5である。
【0018】
本発明の一態様では、一般式(1)におけるR1の置換基、前記一般式(2)におけるR4の置換基、前記一般式(3)におけるR5の置換基が、それぞれ独立してハロゲノ基、水酸基、シアノ基、トリフルオロメチル基、ニトロ基、アミノ基、C1〜C6アルキル基、C1〜C6アルコキシ基、フェニル基、C1〜C7アルカノイル基、C1〜C7アルカノイルオキシ基、C1〜C6アルキルスルファニル基、C1〜C6アルキルスルフィニル基、C1〜C6アルキルスルホニル基、カルボキシル基、C1〜C6アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、N−(C1〜C6アルキル)カルバモイル基、N、N−ジ(C1〜C6アルキル)カルバモイル基、−NR67(R6、R7はそれぞれ独立して水素、C1〜C6アルキル基、C1〜C7アルカノイル基、C1〜C6アルコキシカルボニル基またはベンジルオキシカルボニル基を示す)で表されるアミノ基、芳香族炭化水素基及び窒素原子、酸素原子、もしくは硫黄原子からなる群より独立して選択される1〜3個のヘテロ原子を含有する5〜7員の飽和または不飽和複素環基よりなる群より一個以上選択される。
【0019】
本発明の一態様では、一般式(1)におけるR1がC1〜C10の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、フェニル基、ビフェニル基、2−オキソ−4−トリフルオロメチルクロメノ基−7−イル基、3−フェニルチアゾリル基、キノリノ基、又はピリジノ基である。
【0020】
本発明において特に好ましい有効成分は、以下に列挙する化合物又はその薬理学的に許容される塩である。
【0021】
【化4】

(S)−チオイソブチル酸S−(6−tert−ブトキシカルボニルアミノ−6−シクロペンチルカルバモイル−ヘキシル)エステル
【0022】
【化5】

(S)−チオイソブチル酸S−(6−tert−ブトキシカルボニルアミノ−6−シクロヘキシルカルバモイル−ヘキシル)エステル)
【0023】
【化6】

(S)−チオイソブチル酸S−(6−tert−ブトキシカルボニルアミノ−6−シクロヘプチルカルバモイル−ヘキシル)エステル
【0024】
【化7】

(S)−チオイソブチル酸S−(6−tert−ブトキシカルボニルアミノ−6−1−アダマンチルカルバモイル−ヘキシル)エステル
【0025】
上記化合物(化4〜7)はHDAC6選択的阻害活性を示す。これらは、本発明者らにより設計、合成された化合物である(Y. Ito et al., J. Med. Chem. 2007, 50, 5425-5438を参照)。中でも(S)−チオイソブチル酸S−(6−tert−ブトキシカルボニルアミノ−6−1−アダマンチルカルバモイル−ヘキシル)エステルはHDAC6選択性が非常に高く、特に有効な化合物である。
【0026】
本発明の抗うつ薬の有効成分として、既知のHDAC6阻害剤、或いは生薬などの抽出物(HDAC6阻害活性を示すもの)を用いることもできる。採用可能なHDAC6阻害剤の例を以下に示す。
【化8】

vorinostat(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 1996, 93, 5705-5708を参照)
【0027】
【化9】

J. Med. Chem. 2008, 51, 3437-3448に開示される化合物6b
【0028】
【化10】

tubacin(Chem. Biol. 2003, 10, 383-396を参照)
【0029】
【化11】

Bioorg. Med. Chem. Lett. 2009, 19, 688-692に開示される化合物7d
【0030】
【化12】

ChemMedChem 2009, 4, 283-290に開示される化合物5a
【0031】
【化13】

Bioorg. Med. Chem. Lett. 2009, 19, 1866-1870に開示される化合物2e
【0032】
【化14】

J. Med. Chem. 2007, 50, 3054-3061に開示される化合物13
【0033】
【化15】

tubastatin A(J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 10842-10846を参照)
【0034】
上記の既知HDAC6阻害剤の中でvorinostat以外はHDAC6選択的阻害活性を示し、本発明の有効成分として特に好ましい。tubastatin AはHDAC6選択性が非常に高い。
【0035】
本発明において「芳香族炭化水素基」としては、例えばフェニル基、ビフェニル−3−イル基、ビフェニル−4−イル基ナフタレン−1−イル基およびナフタレン−2−イル基を挙げることができる。好ましくは、フェニル基またはビフェニル基である。
【0036】
本発明において「窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より独立して選択される1〜3個のヘテロ原子を含有する、置換基を有していても良い芳香族複素環基」としては、例えばフラン−2−イル基、フラン−3−イル基、チオフェン−2−イル基、チオフェン−3−イル基、オキサゾール−5−イル基、イソキサゾール−5−イル基、ピリジン−2−イル基、ピリジン−3−イル基、ピリジン−4−イル基、ピリミジン−4−イル基、ピラジン−2−イル基、キノリン−2−イル基、キノリン−3−イル基、キノリン−4−イル基、キノリン−5−イル基、キノリン−6−イル基、キノリン−7−イル基、キノリン−8−イル基、イソキノリン−1−イル基、イソキノリン−3−イル基、イソキノリン−4−イル基、イソキノリン−5−イル基、イソキノリン−6−イル基、イソキノリン−7−イル基、イソキノリン−8−イル基、チアゾール−4−イル基、チアゾール−5−イル基、4−フェニルチアゾール−2−イル基、および2−オキソ−4−トリフルオロメチルクロメン−7−イル基を挙げることができる。好ましくはキノリン−3−イル基、ピリジン−3−イル基、4−フェニルチアゾール−4−イル基、2−オキソ−4−トリフルオロメチルクロメン−7−イル基であり、より好ましくは4−フェニルチアゾール−2−イル基、キノリン−3−イル基、ピリジン−3−イル基である。
【0037】
本発明において一般式(1)式における「置換基を有していても良い炭化水素基」の「炭化水素基」としては、例えばC1〜C10の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基などが挙げられる。
【0038】
本発明において一般式(1)式中、Xは、−NHCO−、−CONH−を表す。−NHCO−が特に好ましい。
【0039】
本発明において一般式(1)式中、nは3〜10の整数を表す。中でも3〜7が好ましく、5が特に好ましい。
【0040】
本発明において、「C1〜10の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、2−メチルブチル基、ネオペンチル基、1−エチルプロピル基、ヘキシル基、4−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基、1−プロピルブチル基、4,4−ジメチルペンチル基、オクチル基、1−メチルヘプチル基、2−メチルヘプチル基、3−メチルヘプチル基、4−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、6−メチルヘプチル基、1−プロピルペンチル基、2−エチルヘキシル基、5,5−ジメチルヘキシル基、ノニル基、3−メチルオクチル基、4−メチルオクチル基、5−メチルオクチル基、6−メチルオクチル基、1−プロピルヘキシル基、2−エチルヘプチル基、6,6−ジメチルヘプチル基、デシル基、1−メチルノニル基、3−メチルノニル基、8−メチルノニル基、3−エチルオクチル基、3,7−ジメチルオクチル基、7,7−ジメチルオクチル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基、2,6−ジメチルシクロヘキシル基、4,4−ジメチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、アダマンタン−1−イル基およびアダマンタン−2−イル基を挙げることができる。好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、4−メチルペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、5−メチルヘキシル基、4,4−ジメチルペンチル基、シクロペンチル基およびシクロヘキシル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソペンチル基、4−メチルペンチル基およびシクロヘキシル基である。
【0041】
本発明において「ハロゲノ基」とは、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基またはヨード基である。好ましくは、フルオロ基またはクロロ基であり、より好ましくは、フルオロ基である。
【0042】
本発明において,「C1〜C6アルキル基」とは、炭素数1乃至6個の直鎖、分枝鎖または環状アルキル基を示し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、2−メチルブチル基、ネオペンチル基、1−エチルプロピル基、ヘキシル基、4−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基およびシクロヘキシル基を挙げることができる。好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基またはtert−ブチル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基またはイソプロピル基である。
【0043】
本発明において「C1〜C6アルコキシ基」とは、前記C1〜C6アルキル基が酸素原子に結合した基を示し、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペントキシ基、イソペントキシ基、2−メチルブトキシ基、ネオペントキシ基、1−エチルプロポキシ基、ヘキシルオキシ基、4−メチルペントキシ基、3−メチルペントキシ基、2−メチルペントキシ基、1−メチルペントキシ基、3,3−ジメチルブトキシ基、2,2−ジメチルブトキシ基、1、1−ジメチルブトキシ基、1,2−ジメチルブトキシ基、1,3−ジメチルブトキシ基、2,3−ジメチルブトキシ基、2−エチルブトキシ基、シクロプロポキシ基、シクロペントキシ基及びシクロヘキシルオキシ基を挙げることができる。好ましくはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基またはtert−ブトキシ基であり、より好ましくは、メトキシ基またはエトキシ基である。
【0044】
本発明において「C1〜C7アルカノイル基」とは、水素原子または前記C1〜C6アルキル基がカルボニル基に結合した基を示し、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、シクロプロピルカルボニル基、シクロペンチルカルボニル基およびシクロヘキサンカルボニル基を挙げることができる。好ましくはアセチル基、プロピオニル基またはピバロイル基であり、より好ましくは、アセチル基である。
【0045】
本発明において「C1〜C7アルカノイルオキシ基」とは、前記C1〜C7アルカノイル基が酸素原子に結合した基を示し、例えば、ホルミルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、イソブチリルオキシ基、バレリルオキシ基、イソバレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ヘキサノイルオキシ基、シクロプロピルカルボニルオキシ基、シクロペンチルカルボニルオキシ基およびシクロヘキサンカルボニルオキシ基を挙げることができる。好ましくは、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基またはピバロイルオキシ基であり、より好ましくは、アセトキシ基である。
【0046】
本発明において、「C1〜C6アルキルスルファニル基」とは、前記C1〜C6アルキル基が硫黄原子に結合した基を示し、例えば、メチルスルファニル基、エチルスルファニル基、プロピルスルファニル基、イソプロピルスルファニル基、ブチルスルファニル基、イソブチルスルファニル基、tert−ブチルスルファニル基、ペンチルスルファニル基、イソペンチルスルファニル基、2−メチルブチルスルファニル基、ネオペンチルスルファニル基、1−エチルプロピルスルファニル基、ヘキシルスルファニル基、4−メチルペンチルスルファニル基、3−メチルペンチルスルファニル基、2−メチルペンチルスルファニル基、1−メチルペンチルスルファニル基、3,3−ジメチルブチルスルファニル基、2,2−ジメチルブチルスルファニル基、1,1−ジメチルブチルスルファニル基、1,2−ジメチルブチルスルファニル基、1,3−ジメチルブチルスルファニル基、2,3−ジメチルブチルスルファニル基,2−エチルブチルスルファニル基,シクロプロピルスルファニル基、シクロペンチルスルファニル基およびシクロヘキシルスルファニル基を挙げることができる。好ましくは、メチルスルファニル基、エチルスルファニル基、プロピルスルファニル基、イソプロピルスルファニル基、ブチルスルファニル基、イソブチルスルファニル基またはtert−ブチルスルファニル基であり、より好ましくは、メチルスルファニル基またはエチルスルファニル基である。
【0047】
本発明において、「C1〜C6アルキルスルフィニル基」とは,前記C1〜C6アルキル基がスルフィニル基に結合した基を示し、例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、プロピルスルフィニル基、イソプロピルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基、イソブチルスルフィニル基、tert−ブチルスルフィニル基、ペンチルスルフィニル基、イソペンチルスルフィニル基、2−メチルブチルスルフィニル基、ネオペンチルスルフィニル基、1−エチルプロピルスルフィニル基、ヘキシルスルフィニル基、4−メチルペンチルスルフィニル基、3−メチルペンチルスルフィニル基、2−メチルペンチルスルフィニル基、1−メチルペンチルスルフィニル基、3,3−ジメチルブチルスルフィニル基、2,2−ジメチルブチルスルフィニル基、1,1−ジメチルブチルスルフィニル基、1,2−ジメチルブチルスルフィニル基、1,3−ジメチルブチルスルフィニル基、2,3−ジメチルブチルスルフィニル基、2−エチルブチルスルフィニル基、シクロプロピルスルフィニル基、シクロペンチルスルフィニル基およびシクロヘキシルスルフィニル基を挙げることができる。好ましくは、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、プロピルスルフィニル基、イソプロピルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基、イソブチルスルフィニル基またはtert−ブチルスルフィニル基であり、より好ましくは、メチルスルフィニル基またはエチルスルフィニル基である。
【0048】
本発明において、「C1〜C6アルキルスルホニル基」とは,前記C1〜C6アルキル基がスルホニル基に結合した基を示し、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、イソプロピルスルホニル基、ブチルスルホニル基、イソブチルスルホニル基、tert−ブチルスルホニル基、ペンチルスルホニル基、イソペンチルスルホニル基、2−メチルブチルスルホニル基、ネオペンチルスルホニル基、1−エチルプロピルスルホニル基、ヘキシルスルホニル基、4−メチルペンチルスルホニル基、3−メチルペンチルスルホニル基、2−メチルペンチルスルホニル基、1−メチルペンチルスルホニル基、3,3−ジメチルブチルスルホニル基、2,2−ジメチルブチルスルホニル基、1,1−ジメチルブチルスルホニル基、1,2−ジメチルブチルスルホニル基、1,3−ジメチルブチルスルホニル基、2,3−ジメチルブチルスルホニル基、2−エチルブチルスルホニル基、シクロプロピルスルホニル基、シクロペンチルスルホニル基およびシクロヘキシルスルホニル基を挙げることができる。好ましくは、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、イソプロピルスルホニル基、ブチルスルホニル基、イソブチルスルホニル基またはtert−ブチルスルホニル基であり、より好ましくは、メチルスルホニル基またはエチルスルホニル基である。
【0049】
本発明において、「C1〜C6アルコキシカルボニル基」とは、前記C1〜6アルコキシ基がカルボニル基に結合した基を示し、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、ペントキシカルボニル基、イソペントキシカルボニル基、2−メチルブトキシカルボニル基、ネオペントキシカルボニル基、1−エチルプロポキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、4−メチルペントキシカルボニル基、3−メチルペントキシカルボニル基、2−メチルペントキシカルボニル基、1−メチルペントキシカルボニル基、3,3−ジメチルブトキシカルボニル基、2,2−ジメチルブトキシカルボニル基、1,1−ジメチルブトキシカルボニル基、1,2−ジメチルブトキシカルボニル基、1,3−ジメチルブトキシカルボニル基、2,3−ジメチルブトキシカルボニル基、2−エチルブトキシカルボニル基、シクロプロポキシカルボニル基、シクロペントキシカルボニル基およびシクロヘキシルオキシカルボニル基を挙げることができる。好ましくは、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基またはtert−ブトキシカルボニル基であり、より好ましくは、エトキシカルボニル基またはtert−ブトキシカルボニル基である。
【0050】
本発明において「N−(C1〜C6アルキル)カルバモイル基」とは、窒素原子に前記C1〜C6アルキル基が置換したカルバモイル基を示し、例えば、メチルカルバモイル基、エチルカルバモイル基、プロピルカルバモイル基、イソプロピルカルバモイル基、ブチルカルバモイル基、イソブチルカルバモイル基、tert−ブチルカルバモイル基、ペンチルカルバモイル基、イソペンチルカルバモイル基、2−メチルブチルカルバモイル基、ネオペンチルカルバモイル基、1−エチルプロピルカルバモイル基、ヘキシルカルバモイル基、4−メチルペンチルカルバモイル基、3−メチルペンチルカルバモイル基、2−メチルペンチルカルバモイル基、1−メチルペンチルカルバモイル基、3,3−ジメチルブチルカルバモイル基、2,2−ジメチルブチルカルバモイル基、1,1−ジメチルブチルカルバモイル基、1,2−ジメチルブチルカルバモイル基、1,3−ジメチルブチルカルバモイル基、2,3−ジメチルブチルカルバモイル基、2−エチルブチルカルバモイル基、シクロプロピルカルバモイル基、シクロペンチルカルバモイル基およびシクロヘキシルカルバモイル基を挙げることができる。好ましくは、メチルカルバモイル基、エチルカルバモイル基、プロピルカルバモイル基、イソプロピルカルバモイル基、ブチルカルバモイル基、イソブチルカルバモイル基またはtert−ブチルカルバモイル基であり、より好ましくは、メチルカルバモイル基またはエチルカルバモイル基である。
【0051】
本発明において、「N,N−ジ(C1〜C6アルキル)カルバモイル基」とは、窒素原子に前記C1〜C6アルキルカルボニル基が二置換したカルバモイル基を示し、例えば、ジメチルカルバモイル基、ジエチルカルバモイル基、ジプロピルカルバモイル基、ジイソプロピルカルバモイル基、ジブチルカルバモイル基、ジイソブチルカルバモイル基、ジ−tert−ブチルカルバモイル基、ジペンチルカルバモイル基、ジイソペンチルカルバモイル基、ジ−2−メチルブチルカルバモイル基、ジネオペンチルカルバモイル基、ジ−1−エチルプロピルカルバモイル基、ジヘキシルカルバモイル基、ジ−4−メチルペンチルカルバモイル基、ジ−3−メチルペンチルカルバモイル基、ジ−2−メチルペンチルカルバモイル基、ジ−1−メチルペンチルカルバモイル基、ビス−(3,3−ジメチルブチル)カルバモイル基、ジシクロプロピルカルバモイル基、ジシクロペンチルカルバモイル基およびジシクロヘキシルカルバモイル基を挙げることができる。好ましくは、ジメチルカルバモイル基、ジエチルカルバモイル基、ジプロピルカルバモイル基、ジイソプロピルカルバモイル基またはジブチルカルバモイル基であり、より好ましくは、ジメチルカルバモイル基またはジエチルカルバモイル基である。
【0052】
本発明における一般式(1)で表される化合物は、常法により塩にすることができ、それらの塩も本発明に含まれる。そのような塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩などの金属塩;アンモニウム塩などの無機塩、モルホリン塩、エチレンジアミン塩、グアニジン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、プロカイン塩、ジエタノールアミン塩、ピペラジン塩、テトラメチルアンモニウム塩などの有機塩等のアミン塩;フッ化水素酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩などのハロゲン化水素酸塩;硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの無機酸塩;メタンスルホン酸塩,トリフルオロメタンスルホン酸塩,エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩などのスルホン酸塩、酢酸塩、リンゴ酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩などの有機酸塩;および、オルニチン酸塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩などのアミノ酸塩を挙げることができる。好ましくは、ハロゲン化水素酸塩または有機酸塩である。
【0053】
また,生体内において代謝されることにより,本発明における一般式(1)で表される化合物またはその医薬上許容される塩に変換される化合物、いわゆるプロドラッグも全て含むものである。
【0054】
本発明における一般式(1)で表される化合物、そのプロドラッグまたはそれらの医薬上許容される塩は、大気中に放置しておいたり、再結晶することにより、水分を吸収し、吸着水が付いたり、水和物となる場合があり、そのような溶媒和物を形成する場合には、これら全て本発明に含まれる。
【0055】
更に、本発明における一般式(1)で表される化合物、そのプロドラッグまたはそれらの医薬上許容される塩は、他のある種の溶媒を吸収し、溶媒和物となる場合があるが、そのようなものも本発明に包含される。
【0056】
本発明における一般式(1)で表される化合物が不斉炭素を有する場合、即ち、R1、R2、R4がそれぞれ独立に不斉炭素を有する場合、R配位、S配位である立体異性体が存在する。その各々,あるいはそれらの任意の割合の化合物いずれも本発明に含まれる。そのような立体異性体は、光学分割された原料化合物を用いて一般式(1)で表される化合物を合成するか、または合成した一般式(1)で表される化合物を通常の光学分割法もしくは分離法を用いて光学分割することができる。
【0057】
本発明における一般式(1)で表される化合物のうち、n=3の化合物はJournal of Organic Chemstry 55(1990),p.1711−1721 記載の方法に基づいて、グルタミン酸を出発物質に用いることにより、得ることができる。また、Tetrahedron Letters 45(2004),p.491−494 記載の方法に基づいて、2−tert−ブトキシカルボニルアミノマロン酸ジエチルなどを出発物質に用いることにより、本発明における一般式(1)で表される化合物のうちn=4の化合物を得ることができる。n=5〜10の化合物は、例えば以下の反応式A〜Sで示される方法などで得られる。以下の反応式の略図中の化合物の各記号は前記と同意義を示す。反応中の化合物は塩を形成している場合も含み、該塩としては、例えば前記の一般式(1)で表される化合物の塩と同様のものなどが挙げられる。
【0058】
【化16】

化合物(a)に化合物(b)を反応させ、化合物(c)を得る。本反応は通常、塩基の存在下で行われる。当該塩基としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩類、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属重炭酸塩類、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウムなどのアルカリ金属水素化物類、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物類、ナトリウムエトキシド、カリウムtert−ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド類、ブチルリチウム、tert−ブチルマグネシウムクロリドなどのアルキル金属類、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミドなどの金属アミド類、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルモルホリン、ピリジン、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)などの有機アミン類などが挙げられ、好ましくは、アルカリ金属アルコキシド類または金属アミド類である。当該塩基の使用量は、化合物(a)に対して0.5〜5モル当量であり、好ましくは、1〜2モル当量である。化合物(b)の使用量は、化合物(a)に対して0.5〜5モル当量であり、好ましくは、1〜2モル当量である。本反応は、溶媒の非存在下もしくは存在下で行われ、好ましくは、溶媒の存在下で行われる。当該溶媒としては、反応が進行する限り特に限定されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、リグロイン、石油エーテルなどの脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、エタノール、tert−ブタノールなどのアルコール類、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどのアミド類、N,N−ジメチルイミダゾリジノンなどのウレア類または上記溶媒の混合溶媒などが挙げられ、好ましくは、エーテル類またはアルコール類である。反応温度は、通常−80〜+150度、好ましくは、−10〜+100度である。反応時間は、通常10分〜48時間である。化合物(a)及び化合物(b)は、市販されている場合には、市販品をそのまま用いてもよく、自体公知の方法またはこれに準じた方法などに従って製造してもよい。
【0059】
【化17】

化合物(c)の片方のエステル基を加水分解して化合物(d)を得る。加水分解反応は通常、塩基性条件下で行なわれる。当該塩基としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩類、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属重炭酸塩類、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウムなどのアルカリ金属水素化物類、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物類、ナトリウムエトキシド、カリウムtert−ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド類などが挙げられ、好ましくはアルカリ金属水素化物類、アルカリ金属水酸化物類である。当該塩基の使用量は、化合物(c)に対して0.5モル当量〜大過剰であり、好ましくは、1〜2モル当量である。本反応は、溶媒の非存在下もしくは存在下で行われ、好ましくは、溶媒の存在下で行われる。当該溶媒としては、反応が進行する限り特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、tert−ブタノールなどのアルコール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類、及び水、または上記溶媒の混合溶媒などが挙げられ、好ましくは、アルコール類、エーテル類、水及びこれらの混合溶媒である。反応温度は、通常0〜+150度、好ましくは、0〜+100度である。反応時間は、通常10分〜48時間である。
【0060】
【化18】

化合物(d)を脱炭酸して化合物(e)を得る。本反応は、好ましくは、溶媒の存在下で行われる。当該溶媒としては、反応が進行する限り特に限定されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、リグロイン、石油エーテルなどの脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、メタノール、エタノール、tert−ブタノールなどのアルコール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類、または上記溶媒の混合溶媒などが挙げられ、好ましくは、芳香族炭化水素類、エーテル類、これらの混合溶媒である。反応温度は、通常0〜+150度、好ましくは、0〜+100度である。反応時間は、通常10分〜48時間である。
【0061】
【化19】

化合物(e)のエステル基を加水分解して化合物(f)を得る。加水分解反応は通常、塩基性条件下で行なわれる。当該塩基としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩類、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属重炭酸塩類、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウムなどのアルカリ金属水素化物類、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物類、ナトリウムエトキシド、カリウムtert−ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド類などが挙げられ、好ましくはアルカリ金属水素化物類、アルカリ金属水酸化物類である。当該塩基の使用量は、化合物(e)に対して0.5モル当量〜大過剰であり、好ましくは、1〜2モル当量である。本反応は、溶媒の非存在下もしくは存在下で行われ、好ましくは、溶媒の存在下で行われる。当該溶媒としては、反応が進行する限り特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、t−ブタノールなどのアルコール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類、及び水、または上記溶媒の混合溶媒などが挙げられ、好ましくは、アルコール類、エーテル類、水及びこれらの混合溶媒である。反応温度は、通常0〜+150度、好ましくは、0〜+100度である。反応時間は、通常10分〜48時間である。
【0062】
【化20】

化合物(f)のアセチル基の加水分解を行なう。本反応ではアシラーゼなどによる酵素反応を利用することにより、光学活性な化合物(g)を得ることが可能である。アシラーゼによる酵素反応を利用する場合、通常アシラーゼは(f)1mmolに対して1〜30g、好ましくは5〜15g用いる。反応はpH7.0付近、37〜38℃で行なうことが好ましい。本方法で光学純度の高い化合物(g)が得られるが、さらに化合物(g)は光学活性な有機酸と塩を形成した後、再結晶することにより光学純度を上げることができる。有機酸としてはここに挙げたものに限定されるものではないが、例えば(+)あるいは(−)の酒石酸、ベンゾイル酒石酸、パラ−トルオイル酒石酸、マンデル酸、シス−ベンザミドシクロヘキサンカルボン酸、1、1'−ビナフチル−2、2'−ジハイドロゲンフォスファイト、ナプロキセン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、N−アセチルフェニルアラニン、N−アセチルロイシン、N−アセチルフェニルグリシン、リンゴ酸、コハク酸、フェニルコハク酸、グルタル酸、メントキシ酢酸、キニ酸、2−(4−イソブチルフェニル)プロピオン酸、タートラニル酸、フェノキシプロピオン酸などのカルボン酸、及び(+)あるいは(−)10−カンファースルホン酸などのスルホン酸が挙げられる。また化合物(g)はアキラルな無機酸と塩を形成し、結晶化することによっても若干の光学純度を向上させることもできる。無機酸としては塩酸、硫酸、酢酸、リン酸などが挙げられ、好ましくは塩酸である。再結晶溶媒としては通常水やメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、ジ−n−プロピルケトン、メチルイソプロピルケトン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、イソプロピルエーテル、2−メトキシエチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の炭化水素類、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類、及びこれらの溶媒の適当な組み合わせからなる混合溶媒などが挙げられるが、好ましくはメタノール、エタノール、アセトン、酢酸エチル、2−プロパノール、イソプロピルエーテル及びこれらの混合溶媒である。また、その使用量は用いる溶媒、化合物(g)および光学活性な酸によって変化するが、当該溶媒中でより難溶性のジアステレオマー塩の大半が晶析する溶媒量が目安になる。おおよそ、ジアステレオマー塩1gに対して約1から100mL程度が良く、好ましくは,約2から50mL程度である。化合物(g)に、光学活性な酸および溶媒、場合によっては、異性化補助剤を加え、当該溶媒中でより難溶性のジアステレオマーの大半が晶析する溶媒量で、−78℃〜用いる溶媒の沸点程度の温度、好ましくは、−78℃〜110℃で、1分〜120時間攪拌し、2種類のジアステレオマー塩のうち当該溶媒に対する溶解度がより小さい方のジアステレオマー塩を蓄積させた後、析出した塩を分離する。
【0063】
また化合物(g)は光学活性な有機塩基と塩を形成した後、再結晶することにより光学純度を上げることができる。有機塩基としてはここに挙げたものに限定されるものではないが、例えばキニーネ、シンコニジン、ブルシン、エフェドリン、リシン、アルギニン、α−メチルベンジルアミン、1−(1−ナフチル)エチルアミン、1−フェニル−2−(p−トリル)エチルアミンなどが挙げられる。また化合物(g)はアキラルな無機塩基と塩を形成し、結晶化することによっても若干の光学純度を向上させることもできる。無機塩基としては水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、炭酸カリウムなどが挙げられるが、好ましくは水酸化ナトリウムである。再結晶溶媒、その使用量は光学活性な有機酸と塩を形成した後、再結晶する際に挙げたものと同様の溶媒及び使用量が挙げられる。
【0064】
このようにして得られたジアステレオマー塩の結晶は、必要があればこれをさらに再結晶した後、イオン交換樹脂を使用して化合物(g)を遊離させ、純度の高い化合物(g)を得ることもできる。
【0065】
【化21】

また化合物(g)は、化合物(f)を通常の加水分解反応を行いラセミ体の化合物(g’)とした後、前述のジアステレオマー塩による光学分割により化合物(g)を得ることも出来る。化合物(f)の加水分解反応は常法に従って化合物(e)から化合物(f)を得る時と同様に、塩基性条件下で行なわれる。化合物(g’)のジアステレオマー塩による光学分割は前述と同様の方法で行なうことができる。
【0066】
また化合物(g)は、化合物(f)を通常の加水分解反応を行いラセミ体の化合物(g’)とした後、市販の光学活性カラムにより分取することで得ることもできる。
【0067】
【化22】

化合物(g)のアミノ基をアシル化して化合物(h)を得る。化合物(g)に、ジ−t−ブチルジカルボネート、ベンジルオキシカルボニルクロリド、N−(9−フルオレニルメトキシカルボニルオキシ)スクシンイミドなどのカルバメート系保護基の導入試薬を反応させることで、対応するt−ブチルカルボネート、ベンジルオキシカルボネート、9−フルオレニルメトキシカルボネートが得られる。また無水プロピオン酸、無水イソ酪酸などの無水物、及びヘキサノイルクロリド、ペンタノイルクロリド等の酸クロリドを用いることで、対応するプロピオン酸アミド、イソ酪酸アミド等、ヘキサノイル酸アミド、ペンタン酸アミド等のアミド類を得ることが出来る。また、化合物(g)にメチルイソシアネート、フェニルイソシアネート等のイソシアネートを反応させることで対応するメチルウレア、フェニルウレア等のウレア類を得ることが出来る。本反応は通常、塩基の存在下、あるいは非存在下で行われる。当該塩基としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩類、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属重炭酸塩類、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウムなどのアルカリ金属水素化物類、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物類、ナトリウムエトキシド、カリウムtert−ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド類、ブチルリチウム、tert−ブチルマグネシウムクロリドなどのアルキル金属類、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミドなどの金属アミド類、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルモルホリン、ピリジン、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)などの有機アミン類などが挙げられ、好ましくは、アルカリ金属アルコキシド類または金属アミド類である。当該塩基の使用量は、化合物(g)に対して0.5〜5モル当量であり、好ましくは、1〜2モル当量である。化合物(g)の使用量は、化合物(g)に対して0.5〜5モル当量であり、好ましくは、1〜2モル当量である。本反応は、溶媒の非存在下もしくは存在下で行われ、好ましくは、溶媒の存在下で行われる。当該溶媒としては、反応が進行する限り特に限定されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、リグロイン、石油エーテルなどの脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、エタノール、t−ブタノールなどのアルコール類、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどのアミド類、N,N−ジメチルイミダゾリジノンなどのウレア類、水、または上記溶媒の混合溶媒などが挙げられ、好ましくは、エーテル類、ウレア類または水または上記溶媒の混合溶媒である。反応温度は、通常−80〜+150度、好ましくは、−10〜+100度である。反応時間は、通常10分〜48時間である。カルバメート系保護基の導入試薬、無水酢酸、無水プロピオン酸などのアシル化剤、メチルイソシアネート、フェニルイソシアネート等のイソシアネート類は、市販されている場合には、市販品をそのまま用いてもよく、自体公知の方法またはこれに準じた方法などに従って製造してもよい。
【0068】
【化23】

化合物(h)のカルボン酸を一旦酸クロリド(i)に変換した後、種々のアミン(j)を反応させて化合物(k)を得ることができる。化合物(h)を酸クロリド(i)に変換する試薬としては、ここに挙げたものに限定するわけではないが、例えば、塩化チオニル、オキシ塩化リンなどが挙げられる。本反応は,溶媒の非存在下もしくは存在下で行われる。当該溶媒としては、反応が進行する限り特に限定されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、リグロイン,石油エーテルなどの脂肪族炭化水素類,ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどのアミド類、N,N−ジメチルイミダゾリジノンなどのウレア類、ピリジン、キノリンなどの複素芳香族系炭化水素類または上記溶媒の混合溶媒などが挙げられ、好ましくは、無溶媒または複素芳香族系炭化水素類である。反応温度は、通常−80〜+150度、好ましくは、−20〜+120度である。反応時間は、通常10分〜48時間である。塩化チオニル、オキシ塩化リン等のクロル化剤は、市販されている場合には、市販品をそのまま用いてもよく、自体公知の方法またはこれに準じた方法などに従って製造してもよい。酸クロリド(i)は、一旦単離して用いることも、単離することなくそのまま種々のアミン(j)と反応させて化合物(k)へと導くことも可能である。
【0069】
続いて種々のアミン(j)を反応させ、化合物(k)を得る。当該アミンとしては反応が進行する限り特に限定されないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン、シクロヘプチルアミン、イソプロピルアミン、t−ブチルアミン等のアルキルアミン、アニリン、3−アミノビフェニル、4−アミノビフェニル、α―ナフチルアミン、β−ナフチルアミンなどの芳香族アミン、2−アミノチアゾール、2−アミノ−4−フェニルチアゾール、7−アミノ−4−トリフルオロメチルクロメン−2−オン、2−アミノキノリン、3−アミノキノリン、4−アミノキノリン、1−アミノイソキノリン、3−アミノイソキノリン、4−アミノイソキノリン、2−アミノピリジン、3−アミノピリジン、4−アミノピリジン、2−アミノベンゾチアゾール、2−アミノフラン、3−アミノフラン、2−アミノチオフェン、3−アミノチオフェン、5−アミノオキサゾール、5−アミノイソキサゾール、2−アミノピラジン等の複素芳香族アミンが挙げられる。本反応は、通常、塩基の非存在下もしくは存在下で行われる。当該塩基としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩類、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属重炭酸塩類、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウムなどのアルカリ金属水素化物類、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物類、リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムtert−ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド類、ブチルリチウム、tert−ブチルマグネシウムクロリドなどのアルキル金属類、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミドなどの金属アミド類、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルモルホリン、ピリジン、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)などの有機アミン類などが挙げられ、好ましくは、アルカリ金属炭酸塩類または有機アミン類である。当該塩基の使用量は、化合物(i)に対して0.5〜5モル当量であり、好ましくは、1〜2モル当量である。化合物(j)の使用量は、化合物(i)に対して0.5〜5モル当量であり、好ましくは、1〜2モル当量である。本反応は,溶媒の非存在下もしくは存在下で行われ、好ましくは、溶媒の存在下で行われる。当該溶媒としては、反応が進行する限り特に限定されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、リグロイン,石油エーテルなどの脂肪族炭化水素類,ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどのアミド類、N,N−ジメチルイミダゾリジノンなどのウレア類、ピリジン、キノリンなどの複素芳香族系炭化水素類または上記溶媒の混合溶媒などが挙げられ、好ましくは、エーテル類、複素芳香族系炭化水素類またはアミド類である。反応温度は、通常−80〜+150度、好ましくは、−20〜+120度である。反応時間は、通常10分〜48時間である。化合物(j)は、市販されている場合には、市販品をそのまま用いてもよく、自体公知の方法またはこれに準じた方法などに従って製造してもよい。
【0070】
【化24】

化合物(h)と種々のアミン(j)を縮合剤の存在下反応させ、(k)へと導くことも出来る。縮合剤は、ここに挙げたものに限定されないが、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、ベンゾトリアゾール−1−イル−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン化物塩、ジフェニルホスホリルアジドなどが挙げられる。またこれら縮合剤を単独で用いる他、添加剤を共存させて反応を行なうことも可能である。添加剤としては、ここに挙げたものに限定されないが、例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、3−ヒドロキシ−4−オキソ−3,4−ジヒドロ−1,2,3−ベンゾトリアジンなどが挙げられる。化合物(j)の使用量は,化合物(h)に対して0.5〜5モル当量であり、好ましくは、1〜2モル当量である。縮合剤の使用量は、化合物(h)に対して0.5〜5モル当量であり、好ましくは、1〜3モル当量である。また、添加剤の使用量は化合物(h)に対して0.5〜5モル当量であり、好ましくは、1〜3モル当量である。また、本反応は場合に応じて塩基を添加してもよい。当該塩基としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルモルホリン、ピリジン、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)などの有機アミン類などが挙げられる。当該塩基の使用量は、化合物(h)に対して0.5〜5モル当量であり、好ましくは、1〜2モル当量である。本反応は,溶媒の非存在下もしくは存在下で行われ、好ましくは、溶媒の存在下で行われる。当該溶媒としては、反応が進行する限り特に限定されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、リグロイン,石油エーテルなどの脂肪族炭化水素類,ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどのアミド類、N,N−ジメチルイミダゾリジノンなどのウレア類、ピリジン、キノリンなどの複素芳香族系炭化水素類または上記溶媒の混合溶媒などが挙げられ、好ましくは、ハロゲン化炭化水素類、またはアミド類である。反応温度は、通常−80〜+150度、好ましくは、室温〜+80度である。反応時間は、通常10分〜48時間である。縮合剤及び添加剤は、市販されている場合には、市販品をそのまま用いてもよく、自体公知の方法またはこれに準じた方法などに従って製造してもよい。
【0071】
【化25】

化合物(k)に種々のチオカルボン酸(l)を反応させ、化合物(m)を得る。本反応は通常、塩基の存在下で行われる。当該塩基としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩類、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属重炭酸塩類、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウムなどのアルカリ金属水素化物類、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物類、ナトリウムエトキシド、カリウムtert−ブトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド類、ブチルリチウム、tert−ブチルマグネシウムクロリドなどのアルキル金属類、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミドなどの金属アミド類、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルモルホリン、ピリジン、4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)などの有機アミン類などが挙げられ、好ましくは、有機アミン類である。当該塩基の使用量は、化合物(k)に対して0.5〜5モル当量であり、好ましくは、1〜2モル当量である。化合物(l)としては、例えばチオ酢酸、チオプロピオン酸、チオイソブチル酸、2,2−ジメチルチオプロピオン酸、シクロプロパンチオカルボン酸、シクロペンタンチオカルボン酸、シクロプロパンチオカルボン酸、フェニルチオ酢酸、4−ニトロフェニルチオ酢酸、4−メトキシチオ酢酸などのアルキルチオカルボン酸類、チオ安息香酸、4−ニトロチオ安息香酸、4−クロロチオ安息香酸、4−メトキシチオ安息香酸などの芳香族チオカルボン酸類などが挙げられる。化合物(l)の使用量は、化合物(k)に対して0.5〜5モル当量であり、好ましくは、1〜2モル当量である。本反応は、溶媒の非存在下もしくは存在下で行われ、好ましくは、溶媒の存在下で行われる。当該溶媒としては、反応が進行する限り特に限定されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、リグロイン、石油エーテルなどの脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブタノールなどのアルコール類、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどのアミド類、N,N−ジメチルイミダゾリジノンなどのウレア類または上記溶媒の混合溶媒などが挙げられ、好ましくは、アルコール類またはエーテル類である。反応温度は、通常−80〜+150度、好ましくは、−10〜+100度である。反応時間は、通常10分〜48時間である。化合物(l)は、市販されている場合には、市販品をそのまま用いてもよく、自体公知の方法またはこれに準じた方法などに従って製造してもよい。
【0072】
【化26】

化合物(h)のカルボキシル基を転位反応により、アミノ基に変換し、化合物(n)を得る。本反応ではジフェニルホスホリルアジド及びトリエチルアミン等の有機塩基の共存下反応を行なう。ジフェニルホスホリルアジドの使用量は、化合物(h)に対して0.5〜5モル当量であり、好ましくは、1〜3モル当量である。当該有機塩基の使用量は、化合物(h)に対して0.5〜5モル当量であり、好ましくは、1〜3モル当量である。本反応は、溶媒の非存在下もしくは存在下で行われ、好ましくは、溶媒の存在下で行われる。当該溶媒としては、反応が進行する限り特に限定されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、リグロイン、石油エーテルなどの脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブタノールなどのアルコール類、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどのアミド類、N,N−ジメチルイミダゾリジノンなどのウレア類または上記溶媒の混合溶媒などが挙げられ、好ましくは、芳香族炭化水素類またはエーテル類である。反応温度は、通常−20〜+150度、好ましくは、0〜+100度である。反応時間は、通常10分〜48時間である。ジフェニルホスホリルアジド及び当該有機塩基は、市販されている場合には、市販品をそのまま用いてもよく、自体公知の方法またはこれに準じた方法などに従って製造してもよい。
【0073】
【化27】

化合物(n)と種々のカルボン酸(o)を縮合剤の存在下反応させ、(p)へと導くことも出来る。縮合剤は、ここに挙げたものに限定されないが、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、ベンゾトリアゾール−1−イル−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩、ジフェニルホスホリルアジドなどが挙げられる。またこれら縮合剤を単独で用いる他、添加剤を共存させて反応を行なうことも可能である。添加剤は、ここに挙げたものに限定されないが、例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、3−ヒドロキシ−4−オキソ−3,4−ジヒドロ−1,2,3−ベンゾトリアジンなどが挙げられる。
【0074】
当該カルボン酸(o)としては反応が進行する限り特に限定されないが、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、2,2−ジメチルプロピオン酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロヘプタンカルボン酸等の脂肪族カルボン酸、安息香酸、ビフェニル−3−カルボン酸、ビフェニル−4−カルボン酸、4−メトキシ安息香酸、3−ニトロ安息香酸、2−ナフトエ酸などの芳香族カルボン酸、ピリジン−2−カルボン酸、ニコチン酸、イソニコチン酸、4−フェニルチアゾール−2−カルボン酸、2−オキソ−4−トリフルオロメチル−2H−クロメン−7−カルボン酸、キノリン−3−カルボン酸、キノリン−4−カルボン酸、イソキノリン−3−カルボン酸、イソキノリン−4−カルボン酸、イソキサゾール−5−カルボン酸等の複素芳香族カルボン酸が挙げられる。カルボン酸(o)の使用量は,化合物(n)に対して0.5〜5モル当量であり、好ましくは、1〜2モル当量である。縮合剤の使用量は、化合物(n)に対して0.5〜5モル当量であり、好ましくは、1〜3モル当量である。また、添加剤の使用量は化合物(n)に対して0.5〜5モル当量であり、好ましくは、1〜3モル当量である。本反応は,溶媒の非存在下もしくは存在下で行われ、好ましくは、溶媒の存在下で行われる。当該溶媒としては、反応が進行する限り特に限定されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、リグロイン,石油エーテルなどの脂肪族炭化水素類,ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、アセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどのアミド類、N,N−ジメチルイミダゾリジノンなどのウレア類、ピリジン、キノリンなどの複素芳香族系炭化水素類または上記溶媒の混合溶媒などが挙げられ、好ましくは、エーテル類、またはアミド類である。反応温度は、通常−80〜+150度、好ましくは、室温〜+80度である。反応時間は、通常10分〜48時間である。縮合剤及び添加剤は、市販されている場合には、市販品をそのまま用いてもよく、自体公知の方法またはこれに準じた方法などに従って製造してもよい。
【0075】
当該カルボン酸(o)は、常法により対応する酸クロリドとして化合物(n)と反応させても良い。また、当該カルボン酸(o)の対応する酸クロリドが市販されている場合には市販品をそのまま用いてもよい。
【0076】
【化28】

化合物(p)に種々のチオカルボン酸(l)を反応させ、化合物(q)を得る。本反応は化合物(k)より化合物(m)を得る反応と同様の条件で行なうことが出来る。
【0077】
【化29】

化合物(m)、とりわけR4がメチル基の場合、チオエステル基を加水分解することにより化合物(r)を得ることができる。本反応はアンモニアを飽和させたメタノール中で行なうことができる。反応温度は、通常−80〜+150度、好ましくは、−20〜+80度である。反応時間は、通常10分〜48時間である。
【0078】
【化30】

化合物(q)、とりわけR4がメチル基の場合、チオエステル基を加水分解することにより化合物(s)を得ることができる。本反応はアンモニアを飽和させたメタノール中で行なうことができる。反応温度は、通常−80〜+150度、好ましくは、−20〜+80度である。反応時間は、通常10分〜48時間である。
【0079】
【化31】

化合物(m)のR2がt−ブトキシカルボニル基の場合、トリフルオロ酢酸中、0〜室温で反応を行なうことにより化合物(t)へと導くことが出来る。
【0080】
【化32】

化合物(q)のR2がt−ブトキシカルボニル基の場合、トリフルオロ酢酸中、0〜室温で反応を行なうことにより化合物(u)へと導くことが出来る。
【0081】
【化33】

化合物(t)、とりわけR4がメチル基の場合、チオエステル基を加水分解することにより化合物(v)を得ることができる。本反応はアンモニアを飽和させたメタノール中で行なうことができる。反応温度は、通常−80〜+150度、好ましくは、−20〜+80度である。反応時間は、通常10分〜48時間である。
【0082】
【化34】

化合物(u)、とりわけR4がメチル基の場合、チオエステル基を加水分解することにより化合物(w)を得ることができる。本反応はアンモニアを飽和させたメタノール中で行なうことができる。反応温度は、通常−80〜+150度、好ましくは、−20〜+80度である。反応時間は、通常10分〜48時間である。
【0083】
本発明の一態様では、2種類以上のHDAC6阻害剤を併用する。この態様の特徴は2種類以上のHDAC6阻害剤を組み合わせて用いることである。典型的には2種類以上のHDAC6阻害剤を混合した配合剤として本発明の抗うつ薬が提供されることになる。一方、例えば、第1のHDAC6阻害剤(第1構成要素)と、第2のHDAC6阻害剤(第2構成要素)とからなるキットの形態で本発明の抗うつ薬を提供することもできる(3種類以上併用する場合も同様)。この場合、治療期間内に第1構成要素及び第2構成要素が最低1回ずつは投与されることになる。各要素の投与スケジュールは個別に設定することができる。両要素を同時に投与することにしてもよい。ここでの「同時」は厳密な同時性を要求するものではない。従って、両要素を混合した後に対象へ投与する等、両要素の投与が時間差のない条件下で実施される場合は勿論のこと、片方の投与後、速やかに他方を投与する等、両要素の投与が実質的な時間差のない条件下で実施される場合もここでの「同時」の概念に含まれる。
【0084】
2種類以上のHDAC6阻害剤を併用する態様は以上のものに限定されず、例えば、有効成分として特定のHDAC6阻害剤を含有する抗うつ薬とし、それによる治療期間内に他のHDAC6阻害剤が投与されるようにしてもよい。
【0085】
一方、HDAC6阻害剤とは作用機序の異なる成分の抗うつ薬(1種類又は2種類以上)を併用することにしてもよい。この場合の併用の態様は、2種類以上のHDAC6阻害剤を併用する場合と同様、特に限定されない。併用可能な抗うつ薬を例示すると、三環系抗うつ薬(アモキサピン、塩酸ドスレピン、塩酸ロフェプラミン、塩酸アミトリプチリン、塩酸イミプラミン、塩酸クロミプラミン、マレイン酸トリミプラミン、塩酸ノルトリプチリン等)、四環系抗うつ薬(塩酸マプロチリン、塩酸ミアンセリン、マレイン酸セチプチリン等)、SSRI(フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン等)、SNRI(ミルナシプラン、ヴェンラファキシン、デュロキセチン、ネファゾドン等)、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(ミルタザピン)である。
【0086】
本発明の抗うつ薬の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、界面活性剤、滑沢剤、稀釈剤、被覆剤、糖衣剤、矯味矯臭剤、乳化・可溶化・分散剤、pH調製剤、等張剤、可溶化剤、香料、着色剤、溶解補助剤、生理食塩水など)を含有させることができる。製剤化する場合の剤形も特に限定されない。剤形の例は錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゼリー剤、注射剤、外用剤、吸入剤、点鼻剤、点眼剤及び座剤である。本発明の抗うつ薬には、期待される治療効果(又は予防効果)を得るために必要な量(即ち治療上有効量)の有効成分が含有される。本発明の抗うつ薬中の有効成分量は一般に剤形によって異なるが、所望の投与量を達成できるように有効成分量を例えば約0.01重量%〜約95重量%の範囲内で設定する。
【0087】
本発明の抗うつ薬はその剤形に応じて経口投与又は非経口投与(静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜など)によって対象に適用される。これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用することもできる(例えば、経口投与と同時に又は所定時間経過後に静脈注射等を行う等)。全身投与によらず、局所投与することにしてもよい。ドラッグデリバリーシステム(DDS)を利用して標的組織特異的に有効成分が送達されるように投与してもよい。
【0088】
本発明の抗うつ薬の使用形態の一つとして、本発明の抗うつ薬を含有する食品組成物が提供される。本発明での「食品組成物」の例として一般食品(穀類、野菜、食肉、各種加工食品、菓子類(例えばクッキー、ビスケット、ゼリー、飴)、牛乳、清涼飲料水、アルコール飲料等)、栄養補助食品(サプリメント、栄養ドリンク等)、食品添加物を挙げることができる。栄養補助食品又は食品添加物の場合、粉末、顆粒末、タブレット、ペースト、液体等の形状で提供することができる。食品組成物の形態で提供することによって、本発明の抗うつ薬を日常的に摂取したり、継続的に摂取したりすることが容易となる。本発明の食品組成物には、治療的又は予防的効果が期待できる量の有効成分が含有されることが好ましい。添加量は、それが使用される対象となる者の病状、健康状態、年齢、性別、体重などを考慮して定めることができる。
【0089】
本発明の他の局面は、本発明の抗うつ薬を使用した、うつ病に対する治療方法又は予防方法(以下、これら二つの方法をまとめて「治療方法等」という)が提供される。本発明の治療方法等は、上記本発明の抗うつ薬を、うつ病を罹患する又はうつ病の兆候を認める患者に投与するステップを含む。投与経路は特に限定されず例えば経口、静脈内、動脈内、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、経皮、経鼻、経粘膜などを挙げることができる。これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用することもできる。抗うつ薬の投与量は一般に、患者の症状、年齢、性別、及び体重などによって変動し得るが、当業者であれば適宜適当な投与量を設定することが可能である。投与スケジュールとしては例えば一日一回〜数回、二日に一回、或いは三日に一回などを採用できる。投与スケジュールの設定においては、患者の症状や有効成分の効果持続時間などを考慮することができる。
【実施例】
【0090】
<HDAC6阻害活性の測定>
HDAC6阻害活性を確認するために、HDAC6の標的蛋白質であるチューブリンのアセチル化されたものの細胞内における増加量をウエスタン・ブロッティング法により測定し、アセチル化ヒストンの蛋白質量をコントロールとして比較することにより評価した。
【0091】
HCT116細胞(American Type Culture Collection,ROCKVILLE,MD)を5×105個を60mm培養皿に播種し、24時間後に各濃度に調製した被験化合物を添加して、37℃で8時間インキュベートした。インキュベート後、培養上清を抜き取り、溶解バッファー(50mM Tris−HCl(pH 6.8);2%SDS;10%グリセロール,70mM 2−メルカプトエタノール)を0.1mL添加した。細胞ライセートを10分間煮沸し、遠心分離(15000rpm、5分間)して、上清の蛋白質32μgをSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS PAGE;ゲル濃度:15%;BIO−RAD:READY GELS J)に用いた。電気泳動終了後、ゲル中蛋白質をニトロセルロース膜(BIO−RAD:Trans−Blot Transfer Medium)に転写した。転写後の膜を標的蛋白質に対する1次抗体(抗Ac−チューブリン抗体、Sigma−Aldrich Corp.,St.Louis,MO,USAまたは抗Ac−ヒストンH4抗体、Upstate,Lake Placid,NY,USA)、続いて二次抗体(anti−mouse HRPまたはanti−rabbit HRP、いずれもAmersham Biosciences UK Limited,Buckinghamshire,UK)溶液で処理し、化学発光試薬(ECL:Amersham Biosciences UK Limited,Buckinghamshire,UK)により、標的蛋白質量を化学発光のシグナル強度として検出した。
【0092】
<HDAC1、HDAC4、HDAC6阻害活性測定試験>
HDAC1、HDAC4、HDAC6阻害活性の測定はBIOMOL社のSIRT1、HDAC1蛍光アッセイキット、BPS社のHDAC class2α蛍光アッセイキットとBIOMOL社から購入したHDAC6を用いて以下のように行った。即ち、5倍阻害剤(最終濃度100〜0.01μM)10μLとHDAC1(あるいはHDAC4、HDAC6)15μLと2倍基質25μLを混合し、室温あるいは37℃で30分反応させた。この反応液にディベロッパーとトリコスタチンAの混合溶液50μLを添加後、プレートリーダーを用いて蛍光強度(蛍光測定波長:460nm)を測定し、IC50値(酵素を50%阻害する阻害剤濃度)を算出した。HDAC6選択性は、(HDAC1についてのIC50値)/(HDAC6についてのIC50値)及び(HDAC4についてのIC50値)/(HDAC6についてのIC50値)で評価できる。これらの値が大きいほどHDAC6選択性が高いことになり、10倍以上の場合にHDAC6選択性があると判断できる。
【0093】
<実施例1>(S)−チオイソブチル酸S−[6−tert−ブトキシカルボニルアミノ−6−(2−オキソ−4−トリフルオロメチル−2H−クロメン−7−イルカルバモイル)ヘキシル]エステル(1)の製造
工程1:2−アセチルアミノ−2−(5−ブロモ−フェニル)マロン酸ジエチルエステル(11)の製造
2−アセチルアミノ−マロン酸ジエチルエステル(12.91g,59.4mmol)及びナトリウムエトキシド(4.85g,71.3mmol)をエタノール(50mL)に溶解し、30分間還流した。その後、ジブロモペンタン(68.73g,298.9mmol)を加えて、さらに3時間加熱還流流した。反応混合物を中和し、酢酸エチルで抽出した。抽出液を水、2N塩酸水溶液及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮後、フラッシュカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:3)で精製し、黄色油状の表題化合物(15.16g,収率70%)を得た。
【0094】
1H-NMR(CDCl3,500 MHz,δ;ppm) 6.77(1H,s),4.25(4H,q,J=7.1),3.37(2H,t,J=6.7),2.34(2H,t,J=8.3),2.04(3H,s),1.84(2H,quint,J=7.16),1.45(2H,quint,J=7.51),1.26(6H,t,J=7.16),1.41(2H,quint,J=8.07)
【0095】
工程2:2−アセチルアミノ−2−(5−ブロモ−フェニル)マロン酸モノエチルエステル(12)の製造
前工程で得られた2−アセチルアミノ−2−(5−ブロモ−フェニル)マロン酸ジエチルエステル(11)(12.50g,34.1mmol)及び水酸化リチウム一水和物(2.19g)にエタノール(50mL)及び水(30mL)を加えて溶解し、0℃で2時間攪拌した。反応混合物を中和し、酢酸エチルで抽出した。抽出液を水、2N塩酸水溶液及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮して白色固形状の表題化合物(11.5g,収率99%)を得た。
【0096】
1H-NMR(CDCl3,500 MHz,δ;ppm) 6.89(1H,s),4.23〜4.31(2H,M),3.38(2H,t,J=6.7),2.27〜2.35(2H,M),2.10(3H,s),1.84(2H,quint,J=7.31),1.46(2H,quint,J=7.61),1.26(3H,t,J=7.16),1.22〜1.25(2H,M)
【0097】
工程3:2−アセチルアミノ−7−ブロモヘプタン酸エチルエステル(13)の製造
前工程で得られた2−アセチルアミノ−2−(5−ブロモ−フェニル)マロン酸モノエチルエステル(12)(12.2g,36.0mmol)をトルエン(200mL)に溶解し、3時間加熱還流した。反応混合物を減圧濃縮し、フラッシュカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:1)で精製して、無色油状の表題化合物(6.4g,収率61%)を得た。
【0098】
1H-NMR(CDCl3,500 MHz,δ;ppm) 6.03(1H,D,J=5.6),4.60(1H,q,J=6.8),4.21(2H,q,J=7.11),3.40(2H,t,J=6.7),2.03(3H,s),1.82〜1.88(4H,M),1.35〜1.47(4H,M),1.29(3H,t,J=7.16)
【0099】
工程4:2−アセチルアミノ−7−ブロモヘプタン酸(14)の製造
2−アセチルアミノ−7−ブロモヘプタン酸エチルエステル(13)(7.97g,27.1mmol)及び水酸化リチウム一水和物(1.71g,40.1mmol)にエタノール(30mL)及び水(10mL)を加えて溶解し、0℃で10時間攪拌した。反応混合物を中和し、酢酸エチルで抽出した。抽出液を水及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮して白色固形状の表題化合物(7.20g,収率99%)を得た。
【0100】
1H-NMR(CDCl3,500 MHz,δ;ppm) 6.08(1H,D,J=7.0),4.61(1H,q,J=6.8),3.40(2H,t,J=6.7),2.07(3H,s),1.89〜1.95(1H,M),1.72〜1.76(1H,M),1.87(2H,quint,J=7.1),1.40〜1.50(4H,M)
【0101】
工程5:(S)−(+)−2−アミノ−7−ブロモ−ヘプタン酸(15)
前工程で得られた2−アセチルアミノ−7−ブロモヘプタン酸(14)(21.1g,79.1mmol)を0.2M水酸化ナトリウム水溶液に溶解し(pH7.0)、0.2M酢酸ナトリウム水溶液で溶解したアシラーゼ(633mg;東京化成工業:Aspergillus genus由来)を加え、37℃で24時間反応させた。反応混合物を濃縮し、エタノールを添加した。結晶化した残渣をろ過し、エタノールで洗浄して、白色固形の表題化合物(3463.0mg,収率20%)を得た。
旋光度:+24°(c=1.0、4M HCl−ジオキサン、25℃)
L−2−アミノ−7−ブロモ−ヘプタン酸の旋光度は Tetrahedron Letters 45(2004),491−494に+25゜と記載されていることから、本化合物は(S)体であることを確認した。
【0102】
工程6:(S)−ブロモ−2−ブトキシカルボニルアミノ−ヘプタン酸(16)
前工程で得られた(S)−(+)−2−アミノ−7−ブロモ−ヘプタン酸(15)(1077.0mg,4.90mmol)にトリエチルアミン(2mL)を加えて水で溶解し、テトラヒドロフランに溶解したジ−tert−ブチルジカーボネート(2051.3mg,9.40mmol)を加えて、室温で一晩攪拌した。反応混合液を2M水酸化ナトリウム水溶液に注ぎ、酢酸エチルで抽出した。水層に10%クエン酸を加えて、酢酸エチルで抽出した。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧濃縮して無色油状の表題化合物(1333.4mg,収率94%)を得た。
【0103】
1H-NMR(CDCl3,500 MHz,δ;ppm) 5.02(1H,D,J=7.0),4.31(1H,s),3.40(2H,t,J=6.7),1.87(1H,M),1.65〜1.72(1H,M),1.87(2H,quint,J=7.1),1.43〜1.52(13H,M)
【0104】
工程7:(S)−[6−ブロモ−1(2−オキソ−4−トリフルオロメチル−2H−クロメン−7−イルカルバモイル)ヘキシル]カルバミン酸tert−ブチルエステル(17a)
前工程で得られた(S)−ブロモ−2−ブトキシカルボニルアミノ−ヘプタン酸(1−15)(972.6mg,3.0mmol)に7−アミノ−4−(トリフルオロメチル)クロメン−2−オン(687.5mg,3.0mmol)と乾燥ピリジン(18mL)を加えて、−15℃で混和した。さらにオキシ塩化リン(0.75mL)を加え、−15℃で15分間攪拌した。反応混合物を水に注いで、酢酸エチルで抽出した。抽出液は飽和炭酸水素ナトリウム、10%クエン酸及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮後、フラッシュカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:3)で精製し、白色固形状の表題化合物(921.6mg,収率57%)を得た。
【0105】
1H-NMR(CDCl3,500 MHz,δ;ppm)9.02(1H,s),7.80(1H,D,J=1.8),7.62(1H,D,J=7.9),7.46(1H,D,J=9.1),6.67(1H,s),4.97(1H,s),4.19(1H,s),3.41(2H,t,J=6.7),1.96〜2.02(1H,M),1.88(2H,quint,J=7.0),1.60〜1.71(1H,M),1.48(9H,s),1.35〜1.52(4H,M)
【0106】
工程8:(S)−チオイソブチル酸S−[6−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−オキソ−6−(4−トリフルオロメチル−2H−クロメン−7−イルカルバモイル)ヘキシル]エステル(1)の製造
前工程で得られた(S)−[6−ブロモ−1(2−オキソ−4−トリフルオロメチル−2H−クロメン−7−イルカルバモイル)ヘキシル]カルバミン酸tert−ブチルエステル(17a)(443.2mg,0.83mmol)をエタノールで溶解し,チオイソブチル酸のエタノール溶液及びトリエチルアミンを加え、室温で一晩攪拌した。反応混合物を水に注ぎ、酢酸エチルで抽出した。抽出液を10%クエン酸水溶液及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮後、フラッシュカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:4)で精製し、酢酸エチル/ヘキサンより再結晶し、表題化合物(250.4mg,収率54%)を得た。
【0107】
1H-NMR(CDCl3,500 MHz,δ;ppm)9.07(1H,s),7.81(1H,s),7.62(1H,D,J=7.9),7.41(1H,D,J=7.3),6.68(1H,s),5.06(1H,s),4.18(1H,s br),2.84(2H,t,J=7.8),2.73(1H,quin,J=6.9), 1.95〜1.99(1H,M),1.65〜1.70(1H,M),1.54〜1.60(2H,M),1.47(9H,s),1.40〜1.45(4H,M),1.18(6H,D,J=7.0)mp.163〜165℃,Anal.Calcd.for C26H33N2O6S(1/4 H2O):C,55.46;H,6.00;N,4.97.Found: C,55.21;H,5.81;N,5.21.
【0108】
<実施例2>(S)−チオイソブチル酸S−(6−tert−ブトキシカルボニルアミノ−6−シクロヘキシルカルバモイル−ヘキシル)エステル(7)の製造
実施例1の工程7の7−アミノ−4−(トリフルオロメチル)クロメン−2−オンの代わりにシクロヘキシルアミンを用い、実施例1と同様の方法により表題化合物(収率0.5%)を得た。
【0109】
1H-NMR(CDCl3,500 MHz,δ;ppm)5.88(1H,D,J=8.2),4.99(1H,s),3.94(1H,s),3.75(1H,s),2.83(2H,t,J=7.4),2.73(1H,quin,J=7.0),1.78〜1.90(3H,M),1.68〜1.72(2H,M),1.56〜1.64(3H,M),1.44(9H,s),1.28〜1.39(4H,M),1.13〜1.19(8H,t,J=12.3)HRMS;Calcd.for C22H40N2O4S;428.27088.Found;428.27642.
【0110】
<実施例3>(S)−チオイソブチル酸S−(6−tert−ブトキシカルボニルアミノ−6−シクロペンチルカルバモイル−ヘキシル)エステル(8)の製造
工程1:(S)−[6−ブロモ−1−シクロペンチルカルバモイル]ヘキシル]カルバミン酸tert−ブチルエステル(17b)の製造
実施例1の工程6で得られた(S)−ブロモ−2−ブトキシカルボニルアミノ−ヘプタン酸(16)(600mg,1.9mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド(4mL)に溶解させ、1−ヒドロキシ−1H−ベンゾトリアゾール一水和物(283mg,1.85mmol)、ベンゾトリアゾール−1−イル−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン化物塩(1052mg,2.78mmol)、シクロペンチルアミン(0.28mL,2.8mmol)、トリエチルアミン(0.65mL,4.6mmol)を添加し室温で2時間攪拌した。反応混合物を水に注いで、酢酸エチルで抽出した。抽出液を10%クエン酸及び飽和食塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮後、フラッシュカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:4)で精製し、白色固形状の表題化合物(276mg,収率38%)を得た。
【0111】
1H-NMR(CDCl3,500MHz, δ;ppm)5.93(1h,D,J=6.7),4.95(1H,s),4.17(1H,M),3.95(1H,s),3.40(2H,t,J=7.1),1.89-1.98(2H,M),1.80-1.87(3H,M),1.58-1.67(5H,M),1.44-1.56(13H,M),1.36-1.39(4H,M)
【0112】
工程2:(S)−チオイソブチル酸S−(6−tert−ブトキシカルボニルアミノ−6−シクロペンチルカルバモイル−ヘキシル)エステル(8)の製造
前工程で得られた(S)−[6−ブロモ−1−シクロペンチルカルバモイル]ヘキシル]カルバミン酸tert−ブチルエステル(17b)を用い、実施例1の工程8と同様の方法により表題化合物(収率48%)を黄色油状物として得た。
【0113】
1H-NMR(CDCl3,500MHz, δ;ppm)5.97(1H,D,J=7.6),4.97(1H,s),4.18(1H,sex,J=6.9),3.94(1H,s),2.83(2H,t,J=7.2),2.73(1H,sep,J=6.9),1.94-1.97(2H,M),1.78-1.83(1H,M),1.53-1.68(5H,M),1.44(9H,s),1.37-1.47(8H,M),1.19(6H,t,J=6.7)13C-NMR(CDCl3,500MHz,δ;ppm)19.42,24.36,25.06,27.99,28.30,28.32,28.43,29.40,34.95,35.04, 43.11,50.37,77.23,155.72,170.59,204.29;Anal.Calcd.for C21H38N2O4S.1/3H2O:C,59.97;H,9.27;N,6.66.Found:C,59.91;H,9.28;N,6.79.
【0114】
<実施例4>(S)−チオイソブチル酸S−(6−tert−ブトキシカルボニルアミノ−6−シクロヘプチルカルバモイル−ヘキシル)エステル(9)の製造
実施例3の工程1のシクロペンチルアミンの代わりにシクロヘプチルアミンを用い、実施例3と同様の方法により表題化合物(収率23%)を黄色油状物として得た。
【0115】
1H-NMR(CDCl3,500MHz,δ;ppm)5.98(1H,D,J=8.2),4.98(1H,S),3.91-3.95(2H,M),2.83(2H,t,J=7.3),2.73(1H,sep,J=7.0),1.87-1.88(2H,M),1.78-1.81(1H,M),1.36-1.61(20H,M),1.18(6H,D,J=7.0)13C-NMR(CDCl3,500MHz,δ;ppm)14.21,19.42,21.06,24.03,25.06,27.99,28.30,28.32,29.40,32.27,43.11,50.37,60.40,77.23,171.16,204.31;Anal.Calcd.For C23H42N2O4S.1/2H2O:C,61.16;H,9.60;N,6.20.Found:C,62.23;H,9.55;N,6.32.
【0116】
<実施例5>(S)−チオイソブチル酸S−(6−tert−ブトキシカルボニルアミノ−6−1−アダマンチルカルバモイル−ヘキシル)エステル(NCT-14b)の製造
実施例3の工程1のシクロペンチルアミンの代わりに1−アダマンチルアミンを用い、実施例3と同様の方法により表題化合物(収率66%)を無色油状物として得た。
【0117】
1H NMR (CDCl3, 500 MHz, δ; ppm), 5.62 (1H, s), 4.99 (1H, m), 3.88 (1H, m), 2.83 (2H, t, J = 7.3 Hz), 2.72 (1H, septet, J = 6.7 Hz), 2.07 (3H, s), 1.98 (6H, s), 1.77 (1H, sextet, J = 7.0 Hz), 1.67 (6H,s), 1.56-1.30 (16H, m), 1.18 (6H, d, J = 6.7 Hz); 13C NMR (CDCl3, 500 MHz, δ; ppm), 204.27, 170.87, 155.69, 79.90, 55.01, 43.12, 41.58, 36.33, 36.20, 32.51, 29.55, 29.50, 29.43, 28.49, 28.34, 25.00, 19.42; MS (FAB) m/z: 481 (MH+); Anal. Calcd. for C26H44N2O4S: C, 64.96; H, 9.23; N, 5.83. Found: C, 64.56; H, 9.18; N, 5.72.
【0118】
<実施例6>HDAC6遺伝子欠損マウスとうつ症状との関係
HDAC6遺伝子欠損マウスとうつ症状との関係を調べるためにテールサスペンジョン試験を実施した。野生型マウスをコントロール群、野生型マウスに抗うつ剤(フロキセチン、30mg/kg)を腹腔内投与したマウスをフロキセチン投与群とした。尚、HDAC6遺伝子欠損マウスは「ジーンターゲッティング」(野田哲生/監訳、メディカル・サイエンス・インターナショナル、1996)に記載の方法で作製された。
(テールサスペンジョン試験)
テールサスペンジョン試験用装置(縦27cm、横27cm、高さ40cm)の上部クリップにマウスの尾を挟み、懸垂した。その後の6分間の不動時間を測定した。
【0119】
図1に示した通り、HDAC6遺伝子欠損マウス群では、コントロールの野生型マウス群と比較して、不動時間が有意に減少した。この不動時間の減少は、抗うつ剤を投与した野生型マウス群でも観察されたことから、HDAC6遺伝子欠損マウスは、抗うつ剤を投与されたマウスと類似した状態にあることが確認された。
【0120】
<実施例7>HDAC6阻害剤の効果
HDAC6に対する高い選択性を示した(S)−チオイソブチル酸S−(6−tert−ブトキシカルボニルアミノ−6−1−アダマンチルカルバモイル−ヘキシル)エステル(NCT−14b)溶液(100mM;ジメチルスルホキシドに溶解)を用いた。
【0121】
テールサスペンジョン試験を用い、NCT−14bの抗うつ効果を以下の通り評価した。なお、生理的食塩水投与群をコンロトール群、HDAC6遺伝子欠損マウスを陽性対照群とした。
【0122】
(評価法:抗うつ試験)
100mM NCT−14b溶液を10μLとり、生理的食塩水990μLに混ぜて良く溶解させた後、10mL/kg(4.8mg/kg)になるように雄性マウス(129SV)に腹腔内投与した。投与24時間後にテールサスペンジョン試験を実施した。
【0123】
図2に示した通り、NCT−14bを投与した群では、コントロール群と比較して、有意に不動時間が減少し、抗うつ効果を発揮することが示された。なお、抗うつ効果は陽性対照群のそれとほぼ同程度であった。
【0124】
<実施例8>脳におけるHDAC6阻害効果の検証
抗うつ試験終了直後のマウスから脳を取り出し、脳重量の10倍の中性緩衝液を用いて脳懸濁液を調製した。これをサンプルとしてウエスタンブロットを実施し、抗アセチル化チューブリン抗体で検出されるシグナルの強さを指標に、HDAC6の酵素活性阻害効果を検証した。
【0125】
図3に示した通り、NCT−14bを投与したマウスでは、コントロール群のマウスと比較して、抗アセチル化チューブリン抗体で検出されるシグナル(Ac-チューブリン)が増加した。このことにより、NCT−14bは脳においてHDAC6の酵素活性を阻害することが確認された。
【0126】
<実施例9>NCT−14bの抗うつ効果の検証
テールサスペンジョン試験により、NCT−14bの抗うつ効果を既存の抗うつ薬と比較した。試験方法は実施例7の場合と同様である。但し、NCT−14bの投与量は4.8mg/kgとし、既存の抗うつ薬については、至適投与量(フロキセチン(Fluoxetine)は30mg/kg、デシプラミン(desipramine)は20mg/kg、イミプラミン(imipramine)は25mg/kg。いずれも生理食塩水に溶解した)を10ml/kgとなるように投与した。
【0127】
図4に示した通り、低投与量にも拘わらず、NCT−14bに十分な抗うつ効果が認められる。なお、既存の抗うつ薬を投与した場合に不動時間が短縮したことは、テールサスペンジョン試験を利用した本評価方法が抗うつ効果の評価系として有効であり且つ適切であることを裏付ける。
【0128】
以上の結果より、以下の知見が導き出される。
・脳内のHDAC6の酵素活性を阻害することが、うつ病に対する有効な治療戦略になる。
・HDAC6選択性の高い化合物には特に高い薬効を期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の抗うつ薬はHDAC6阻害剤を有効成分とする。HDAC6を標的とすることにより、モノアミンの働きを標的とした従来の抗うつ薬の使用に伴う副作用(モノアミン神経伝達の乱れによる種々の症状)のない治療を実現可能である。また、従来の抗うつ薬と作用機序が異なるため、新型うつ病に対する薬効も期待できる。
【0130】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒストン脱アセチル化酵素6阻害剤を有効成分として含有する抗うつ薬。
【請求項2】
前記ヒストン脱アセチル化酵素6阻害剤が、ヒストン脱アセチル化酵素6選択的阻害剤である、請求項1に記載の抗うつ薬。
【請求項3】
前記ヒストン脱アセチル化酵素6阻害剤が、下記一般式(1)
【化1】

[式中、R1は置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、又は窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群より独立して選択される1〜3個のヘテロ原子を含有する、置換基を有していても良い複素芳香環基、又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す。Xは−NHCO−基、又は−CONH−基を示す。Nは窒素原子を示す。Oは酸素原子を示す。Sは硫黄原子を示す。R2は水素原子、または下記一般式(2)
【化2】

(但しYは炭素原子、酸素原子、又は窒素原子のいずれかを示す。R4は置換基を有していても良い芳香族炭化水素基、又は窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子からなる群より独立して選択される1〜3個のヘテロ原子を含有する、置換基を有していても良い複素芳香環基、又は置換基を有していても良い炭化水素基を示す。)を示す。
3は水素原子、または下記一般式(3)
【化3】

(但しR5は置換基を有して良い炭化水素基、置換基を有して良い芳香族炭化水素基、又は窒素原子、酸素原子、硫黄原子から独立して選択される1〜3個のヘテロ原子を含有する、置換基を有していても良い複素芳香環基を示す。)nは3から10の整数を表す。]で表される化合物またはその薬理学的に許容される塩である、請求項1に記載の抗うつ薬。
【請求項4】
前記ヒストン脱アセチル化酵素6阻害剤が、
【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

からなる群より選択される化合物又はその薬理学的に許容される塩である、請求項1に記載の抗うつ薬。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の抗うつ薬を含有する食品組成物。
【請求項6】
うつ病の患者に対してヒストン脱アセチル化酵素6阻害剤を治療上有効量投与するステップを含む、うつ病の治療又は予防法。
【請求項7】
ヒストン脱アセチル化酵素6阻害剤がヒストン脱アセチル化酵素6選択的阻害剤である、請求項6に記載のうつ病の治療又は予防法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−51851(P2012−51851A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196993(P2010−196993)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(506218664)公立大学法人名古屋市立大学 (48)
【出願人】(000116622)愛知県 (99)
【Fターム(参考)】