説明

抗インフルエンザウイルス活性を有するペプチド

【課題】既存の医薬とは異なる分子を標的とする新規な作用機序を持った、インフルエンザの予防又は治療薬を提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列を含む、12アミノ酸程度のペプチドであって、インフルエンザウイルスのヘマグルチニンと結合可能なペプチド。また、候補ペプチドから、抗インフルエンザ薬を選択するスクリーニング方法であって、特定の塩基配列を含む核酸を鋳型として、無細胞翻訳系でペプチドライブラリーを発現させる工程と、該ライブラリーとヘマグルチニンを接触させてインキュベートし、ヘマグルチニン結合ペプチドを選択する工程を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗インフルエンザウイルス活性を有するペプチド等に関する。
【背景技術】
【0002】
新型インフルエンザウイルスの発生と拡大は歴史的に人類に大きな被害をもたらしており、現在においても高病原性鳥インフルエンザなどはヒトからヒトに感染するウイルスに変異した場合に大きな脅威となることが予想されている。
【0003】
インフルエンザウイルスは、エンベロープをもつRNAウイルスであり、核タンパク質(NP)及びマトリックスタンパク質(M)の抗原性により、A、B、C型に分類される。ヒトでの流行は主にA型及びB型である。
A、B、Cといった型が同じであっても、エンベロープ表面上の分子であるヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の抗原性の違いから、さらに複数の亜型に分類され、H1N1、H5N1等と表される。
【0004】
既存の抗インフルエンザ薬として、ザナミビル(リレンザ(登録商標))(例えば特許文献1)やオセルタミビル(タミフル(登録商標))(例えば、特許文献2)が広く用いられている。
ザナミビルやオセルタミビルは、インフルエンザウイルスが感染細胞から他の細胞に感染する際に必要となるノイラミニダーゼの活性を抑えることで作用する。さらに他の作用機序を持つ抗インフルエンザ薬としてM2蛋白を標的とするアマンタジン、リマンタジンがあり、細胞感染後のウイルスの脱殻を阻害する。
ノイラミニダーゼあるいはM2蛋白の機能を阻害するこれらの薬剤は、酵素やイオンチャネルを標的とする他の薬剤と同様に、基質からの誘導体化や立体構造に基づく分子設計、あるいは既存化合物からの機能の発見などの過程を経て開発されている。すなわち生体に存在する分子の類縁体あるいは化学的に調製された低分子に属する。
【0005】
しかしながら、M2蛋白阻害薬は、A型インフルエンザにしか有効でなく、ノイラミニダーゼ阻害剤は、ノイラミニダーゼを有しないC型インフルエンザには奏功しない。
また、抗ウイルス薬は変異によるウイルスの薬剤耐性の獲得により効力に限界が生じるのが一般的であり、ザナミビル、オセルタミビル、アマンタジンなど投与実績の多い抗インフルエンザウイルス薬においても耐性ウイルスの出現が認められている。ウイルスの薬剤耐性の獲得は標的分子の変異による薬剤の親和性の低下によるものの他に、異なる分子の変異による増殖力の回復という間接的な機構によるものもあり、長期にわたって耐性の獲得を完全に回避できる薬剤を創製することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5360817号
【特許文献2】米国特許第5763483号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、既存の医薬とは異なる分子を標的とする新規な作用機序を持った抗インフルエンザ薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、インフルエンザウイルスの表面に多数存在し細胞感染に重要な役割を果たしているヘマグルチニンに結合する化合物を多種類選択することが、インフルエンザウイルスに対する阻害作用を示す新規な薬剤の開発に結び付くと考えた。
ヘマグルチニンに結合する化合物を効率的に多種類得るための手段として、無細胞翻訳系で調製したペプチドのライブラリーを母集団とするスクリーニングを実施した。このスクリーニングによりヘマグルチニンに高い親和性を有するペプチドを数十種類得ることに成功した。
得られたペプチドを合成し、インフルエンザウイルス阻害試験により、阻害活性を確認し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、
〔1〕以下のいずれかのペプチド:
(i)配列番号:1−24で表されるアミノ酸配列を含むペプチド;
(ii)前記(i)に記載のペプチドの部分配列を含むペプチドであって、ヘマグルチニンと結合可能なペプチド;及び
(iii)前記(i)又は(ii)に記載のペプチドのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、付加若しくは置換されているペプチドであって、ヘマグルチニンと結合可能なペプチド;
〔2〕環状化している、上記〔1〕に記載のペプチド;
〔3〕クロロアセチルアミノ酸と、システインを含み、クロロアセチルアミノ酸とシステインとのチオエーテル結合により環状化している、上記〔2〕に記載のペプチド;
〔4〕N末端から3アミノ酸以内にクロロアセチルアミノ酸を有し、C末端から3アミノ酸以内にシステインを有する、上記〔3〕に記載のペプチド;
〔5〕配列番号:25−48で表されるアミノ酸配列からなるペプチドであって、N末端のクロロアセチル−トリプトファンと、C末端から2番目のシステインとのチオエーテル結合により環状化している、ペプチド;
〔6〕上記〔1〕から〔5〕のいずれか1項に記載のペプチドを含むインフルエンザの予防又は治療のための医薬組成物;
〔7〕インフルエンザの予防又は治療薬を製造するための、上記〔1〕から〔5〕のいずれか1項に記載のペプチドの誘導体の使用;
〔8〕候補ペプチドから、インフルエンザの予防又は治療薬を選択するスクリーニング方法であって、
以下の配列を含む核酸を鋳型として無細胞翻訳系でペプチドライブラリーを発現させる工程と、
ATG(NNK)n(配列番号:49)
〔式中、nは4〜12の整数を示し、Nは、A、T、G又はCに相当し、Kは、T又はGに相当する。〕;
前記ペプチドライブラリーとヘマグルチニンを接触させてインキュベートし、ヘマグルチニンと結合するペプチドを選択する工程と、
を含む方法;
〔9〕前記鋳型として、(NNK)nの3’末端にTGCを含むものを用い、
前記無細胞翻訳系において、コドンATGに対応するアミノアシルtRNAとして、クロロアセチル化アミノ酸を用い、
前記ペプチドライブラリーとヘマグルチニンを接触させてインキュベートする工程に先立って、ペプチドを環状化させる工程を含む、上記〔8〕に記載の方法;
〔10〕上記〔1〕から〔5〕のいずれか1項に記載のペプチドを含む、インフルエンザウイルス検出薬;及び
〔11〕上記〔10〕に記載のインフルエンザ検出薬を含む、インフルエンザウイルス検出用キット、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のペプチドは、ヘマグルチニンに結合することによりインフルエンザウイルスに対する阻害活性を示すので、ノイラミニダーゼ阻害剤やM2蛋白阻害剤に耐性を有するインフルエンザウイルスに対しても抗ウイルス効果を有する。
また、本発明のペプチドを、ノイラミニダーゼやM2蛋白等を標的とする薬剤と組み合わせることにより、薬剤耐性変異体が出現する確率をより低くすることができるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、特殊環状ペプチドの選択実験における回収率の変化を示したグラフである。
【図2】図2は、インフルエンザウイルスH5N1−Vac3に対する、本発明のペプチドによる増殖阻害試験の結果を示すプレートの写真である。
【図3】図3は、インフルエンザウイルスH5N1−Vac3に対する、本発明のペプチドによる増殖阻害試験の結果を示すプレートの写真である。
【図4】図4は、図2及び図3の結果をもとに作成した各ウェルのプラーク数を示すグラフである。
【図5】図5は、図2及び図3の結果をもとに作成した各ウェルのプラーク数を示すグラフである。
【図6】図6は、図2及び図3の結果をもとに作成した各ウェルのプラークの直径を示すグラフである縦軸はmmを示す。
【図7】図7は、インフルエンザウイルスH1N1に対する、本発明のペプチドによる増殖阻害試験の結果を示すプレートの写真である。
【図8】図8は、インフルエンザウイルスに対するペプチドの中和活性を確認するため、ペプチドとインフルエンザウイルスを予め混合し、この混合液と細胞を接触させて増殖阻害試験を行った結果を示すプレートの写真である。
【図9】図9は、ペプチドとウイルス液の処理条件を示す。
【図10】図10は、インフルエンザウイルスH5N1−Vac3に対する、本発明のペプチドの中和活性を調べた結果を示すプレートの写真である。
【図11】図11は、インフルエンザウイルスH5N1−Vac3に対する、タミフル及びリレンザの中和活性を調べた結果を示すプレートの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(ペプチド)
本発明に係るペプチドの一態様は、以下の(i)から(iii)のいずれかである。
(i)配列番号:1−24で表されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(ii)前記(i)に記載のペプチドの部分配列を含むペプチドであって、ヘマグルチニンと結合可能なペプチド。
(iii)前記(i)又は(ii)に記載のペプチドのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、付加若しくは置換されているペプチドであって、ヘマグルチニンと結合可能。
【0012】
本明細書においてペプチドは、2以上のアミノ酸がペプチド結合で結合しているものをいい、例えば、8−20アミノ酸がペプチド結合したものとすることができる。
本明細書において「アミノ酸」は、その最も広い意味で用いられ、天然アミノ酸に加え、人工のアミノ酸変異体、誘導体、アナログを含む。本明細書においてアミノ酸は、天然タンパク性L−アミノ酸;D−アミノ酸;アミノ酸変異体及び誘導体などの化学修飾されたアミノ酸;ノルロイシン、β−アラニン、オルニチンなどの天然非タンパク性アミノ酸;及びアミノ酸の特徴である当業界で公知の特性を有する化学的に合成された化合物などが挙げられる。非天然アミノ酸の例として、α−メチルアミノ酸(α−メチルアラニンなど)、D−アミノ酸、ヒスチジン様アミノ酸(2−アミノ−ヒスチジン、β−ヒドロキシ−ヒスチジン、ホモヒスチジン、α−フルオロメチル−ヒスチジン及びα−メチル−ヒスチジンなど)、側鎖に余分のメチレンを有するアミノ酸(「ホモ」アミノ酸)及び側鎖中のカルボン酸官能基アミノ酸がスルホン酸基で置換されるアミノ酸(システイン酸など)が挙げられる。
【0013】
本明細書においては、生細胞におけるリボソーム上で翻訳合成に用いられる20種類の天然型アミノ酸以外のアミノ酸、即ち、以下の(1)〜(3)に該当するアミノ酸を「特殊アミノ酸」と呼ぶ場合がある。
(1)翻訳合成された後に修飾を受けたポリペプチド上のアミノ酸残基に相当するアミノ酸(例えば、リン酸化チロシン、アセチル化リジン、ファルネシル化システイン)
(2)リボソーム上での翻訳合成には用いられないが天然に存在するアミノ酸
(3)天然に存在しない人工アミノ酸(非天然型アミノ酸)
【0014】
配列番号:1−24で表されるアミノ酸を下表に示す。
【表1】

【0015】
(i)のペプチドは、配列番号:1−24で表されるアミノ酸配列のみからなるポリペプチドであってもよく、その少なくとも一端に1以上のアミノ酸が結合しているものであってもよい。(i)のペプチドの全長は、例えば15アミノ酸以下、20アミノ酸以下、又は30アミノ酸以下とすることができる。
【0016】
(ii)のペプチドは、(i)に記載のペプチドの部分配列を含むペプチドであって、ヘマグルチニンと結合可能なペプチドである限りどのようなペプチドであってもよく、例えば、(i)のペプチドの連続した6アミノ酸を含み、その少なくとも一端に1以上のアミノ酸が結合したもの;(i)のペプチドの連続した8アミノ酸を含み、その少なくとも一端に1以上のアミノ酸が結合したもの;(i)のペプチドの連続した10アミノ酸を含み、その少なくとも一端に1以上のアミノ酸が結合したもの等とすることができる。(ii)のペプチドの全長は、例えば15アミノ酸以下、20アミノ酸以下、又は30アミノ酸以下とすることができる。
【0017】
(iii)のペプチドは、(i)又は(ii)に記載のペプチドのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、付加若しくは置換されているペプチドであって、ヘマグルチニンと結合可能である限り、どのようなペプチドであってもよい。ヘマグルチニンと結合可能であるか否かは、当業者が公知の方法に従って確認することができる。
【0018】
本明細書において、「1又は数個のアミノ酸が欠失、付加、若しくは置換されているペプチド」という場合、欠失等されるアミノ酸の個数は、そのペプチドが、ヘマグルチニンに対する結合能を維持する限り特に限定されないが、例えば、1〜5個、1〜3個、又は1〜2個とすることができる。あるいは全体の長さの10%以内、又は5%以内としてもよい。欠失、付加、置換される場所は、ペプチドの末端であっても、中間であってもよく、1ヶ所であっても2ヶ所以上であってもよい。
【0019】
本発明のペプチドは、本発明の課題を解決するものである限り、その種々の誘導体も包含する。かかる誘導体としては、例えば、そのC末端がアミドやエステルになっているもの、投与したときに細胞内に導入されるよう、膜透過性ペプチド(cell-penetrating peptide, CPP)と融合させたものが挙げられる。CPPは、細胞膜への親和性、細胞内への移行性を有するペプチドの総称であり、HIV−1ウイルスが発現するTrans-activator of transcription protein(TATタンパク質)の11個のアミノ酸からなるドメインであるprotein-transduction domain(PTD)や、ショウジョウバエのAntennapedia、ヘルペスウイルス由来のVP22、オリゴアルギニンなどが知られている。一般に、CPPはアルギニン、リジン、ヒスチジン等の塩基性アミノ酸の含有率が高いものが多い。
また、本発明のペプチドの誘導体としては、リン酸化、メチル化、アセチル化、アデニリル化、ADPリボシル化、糖鎖付加などの修飾が加えられたもの、他のペプチドやタンパク質との融合ペプチドも挙げられる。これらの誘導体は、公知の方法又はそれに準ずる方法で当業者が調製することができる。
【0020】
また、本発明のペプチドは、本発明の課題を解決するものである限り、その塩も包含する。ペプチドの塩としては、生理学的に許容される塩基や酸との塩が用いられ、例えば、無機酸(塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、リン酸等)の付加塩、有機酸(p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、p−ブロモフェニルスルホン酸、カルボン酸、コハク酸、クエン酸、安息香酸、酢酸等)の付加塩、無機塩基(水酸化アンモニウム又はアルカリ若しくはアルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩等)、アミノ酸の付加塩等が挙げられる。
【0021】
本明細書において、ヘマグルチニンとは、インフルエンザウイルスをはじめとする多くの細菌やウイルスの表面に存在する抗原性糖タンパク質をいい、「HA」と表される。ヘマグルチニンは、ウイルスによる宿主細胞への接着過程に関与する。具体的には、ウイルス表面のヘマグルチニンが標的とする宿主細胞表面にあるシアル酸と結合すると、ウイルスは細胞膜に包みこまれ、ウイルスを含むエンドソームの形で細胞内に取り込まれる。続いて、エンドソーム膜とウイルス膜が融合し、ウイルスゲノムが細胞内に挿入され、増殖が開始される。
ヘマグルチニンには、サブタイプが少なくとも16種類存在し、H1〜H16と呼ばれる。インフルエンザの亜型名のHはヘマグルチニンを示す。
【0022】
本発明のペプチドは、液相法、固相法、液相法と固相法を組み合わせたハイブリッド法等の化学合成法;遺伝子組み換え法等、公知のペプチドの製造方法によって製造することができる。
【0023】
固相法は、例えば、水酸基を有するレジンの水酸基と、α−アミノ基が保護基で保護された第一のアミノ酸(通常、目的とするペプチドのC末端アミノ酸)のカルボキシ基をエステル化反応させる。エステル化触媒としては、1−メシチレンスルホニル−3−ニトロ−1,2,4−トリアゾール(MSNT)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPCDI)等の公知の脱水縮合剤を用いることができる。
次に、第一アミノ酸のα−アミノ基の保護基を脱離させるとともに、主鎖のカルボキシ基以外のすべての官能基が保護された第二のアミノ酸を加え、当該カルボキシ基を活性化させて、第一及び第二のアミノ酸を結合させる。さらに、第二のアミノ酸のα−アミノ基を脱保護し、主鎖のカルボキシ基以外のすべての官能基が保護された第三のアミノ酸を加え、当該カルボキシ基を活性化させて、第二及び第三のアミノ酸を結合させる。これを繰り返して、目的とする長さのペプチドが合成されたら、すべての官能基を脱保護する。
【0024】
固相合成のレジンとしては、Merrifield resin、MBHA resin、Cl-Trt resin、SASRIN resin、Wang resin、Rink amide resin、HMFS resin、Amino-PEGA resin(メルク社)、HMPA-PEGA resin(メルク社)等が挙げられる。これらのレジンは、溶剤(ジメチルホルムアミド(DMF)、2−プロパノール、塩化メチレン等)で洗浄してから用いることができる。
α−アミノ基の保護基としては、ベンジルオキシカルボニル(Cbz又はZ)基、tert−ブトキシカルボニル(Boc)基、フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)基、ベンジル基、アリル基、アリルオキシカルボニル(Alloc)基等が挙げられる。Cbz基はフッ化水素酸、水素化等によって脱保護でき、Boc基はトリフルオロ酢酸(TFA)により脱保護でき、Fmoc基はピペリジンによる処理で脱保護できる。
α−カルボキシ基の保護は、メチルエステル、エチルエステル、ベンジルエステル、tert−ブチルエステル、シクロヘキシルエステル等を用いることができる。
アミノ酸のその他の官能基として、セリンやトレオニンのヒドロキシ基はベンジル基やtert−ブチル基で保護することができ、チロシンのヒドロキシ基は2−ブロモベンジルオキシカルボニル希やtert−ブチル基で保護する。リジン側鎖のアミノ基、グルタミン酸やアスパラギン酸のカルボキシ基は、α−アミノ基、α−カルボキシ基と同様に保護することができる。
【0025】
カルボキシ基の活性化は、縮合剤を用いて行うことができる。縮合剤としては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPCDI)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDCあるいはWSC)、(1H−ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスファート(BOP)、1−[ビス(ジメチルアミノ)メチル]−1H−ベンゾトリアゾリウム−3−オキシドヘキサフルオロホスファート(HBTU)等が挙げられる。
【0026】
レジンからのペプチド鎖の切断は、TFA、フッ化水素(HF)等の酸で処理することによって行うことができる。
【0027】
遺伝子組み換え法(翻訳合成系)によるペプチドの製造は、本発明のペプチドをコードする核酸を用いて行うことができる。本発明のペプチドをコードする核酸は、DNAであってもRNAであってもよい。
本発明のペプチドをコードする核酸は、公知の方法又はそれに準ずる方法で調製することができる。例えば、自動合成装置によって合成することができる。得られたDNAをベクターに挿入するために制限酵素認識部位を加えたり、できたペプチド鎖を酵素などで切り出すためのアミノ酸配列をコードする塩基配列を組み込んでもよい。
上述のとおり、本発明のペプチドを膜透過性ペプチド等と融合させる場合、上記核酸は、膜透過性ペプチドをコードする核酸も含む。
宿主由来のプロテアーゼによる分解を抑制するため、目的のペプチドを他のペプチドとのキメラペプチドとして発現させるキメラタンパク質発現法を用いることもできる。この場合、上記核酸としては、目的とするペプチドと、これに結合するペプチドとをコードする核酸が用いられる。
【0028】
続いて、本発明のペプチドをコードする核酸を用いて発現ベクターを調製する。核酸はそのまま、又は制限酵素で消化し、又はリンカーを付加する等して、発現ベクターのプロモータの下流に挿入することができる。ベクターとしては、大腸菌由来プラスミド(pBR322、pBR325、pUC12、pUC13、pUC18、pUC19、pUC118、pBluescript II等)、枯草菌由来プラスミド(pUB110、pTP5、pC1912、pTP4、pE194、pC194等)、酵母由来プラスミド(pSH19、pSH15、YEp、YRp、YIp、YAC等)、バクテリオファージ(eファージ、M13ファージ等)、ウイルス(レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、カリフラワーモザイクウイルス、タバコモザイクウイルス、バキュロウイルス等)、コスミド等が挙げられる。
【0029】
プロモータは、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。宿主が動物細胞である場合は、例えば、SV40(simian virus 40)由来プロモータ、CMV(cytomegalovirus)由来プロモータを用いることができる。宿主が大腸菌である場合は、trpプロモータ、T7プロモータ、lacプロモータ等を用いることができる。
発現ベクターには、DNA複製開始点(ori)、選択マーカー(抗生物質抵抗性、栄養要求性等)、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、タグ(FLAG、HA、GST、GFPなど)をコードする核酸等を組み込むこともできる。
【0030】
次に、上記発現ベクターで適当な宿主細胞を形質転換する。宿主は、ベクターとの関係で適宜選択することができ、例えば、大腸菌、枯草菌、バチルス属菌)、酵母、昆虫又は昆虫細胞、動物細胞等が用いられる。動物細胞として、例えば、HEK293T細胞、CHO細胞、COS細胞、ミエローマ細胞、HeLa細胞、Vero細胞を用いることができる。形質転換は、宿主の種類に応じ、リポフェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法等、公知の方法に従って行うことができる。形質転換体を常法に従って培養することにより、目的とするペプチドが発現する。
【0031】
形質転換体の培養物からのペプチドの精製は、培養細胞を回収し、適当な緩衝液に懸濁してから超音波処理、凍結融解などの方法により細胞を破壊し、遠心分離やろ過によって粗抽出液を得る。培養液中にペプチドが分泌される場合には、上清を回収する。
粗抽出液又は培養上清からの精製も公知の方法又はそれに準ずる方法(例えば、塩析、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、SDS−PAGE法、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー等)で行うことができる。
得られたペプチドは、公知の方法又はそれに準ずる方法で遊離体から塩に、又は塩
から遊離体に変換してもよい。
【0032】
翻訳合成系は、無細胞翻訳系としてもよい。無細胞翻訳系は、例えば、リボソームタンパク質、アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)、リボソームRNA、アミノ酸、rRNA、GTP、ATP、翻訳開始因子(IF)伸長因子(EF)、終結因子(RF)、およびリボソーム再生因子(RRF)、ならびに翻訳に必要なその他の因子を含む。発現効率を高くするために大腸菌抽出液や小麦胚芽抽出液加えてもよい。他に、ウサギ赤血球抽出液や昆虫細胞抽出液を加えてもよい。
これらを含む系に、透析を用いて連続的にエネルギーを供給することで、数100μgから数mg/mLのタンパク質を生産することができる。遺伝子DNAからの転写を併せて行うためにRNAポリメラーゼを含む系としてもよい。市販されている無細胞翻訳系として、大腸菌由来の系としてはロシュ・ダイアグノスティックス社のRTS−100(登録商標)、PGI社のPURESYSTEM(登録商標)等、小麦胚芽抽出液を用いた系としてはゾイジーン社やセルフリーサイエンス社のもの等を使用できる。
無細胞翻訳系によれば、発現産物を精製することなく純度の高い形で得ることができる。
【0033】
無細胞翻訳系においては、天然のアミノアシルtRNA合成酵素に合成されるアミノアシルtRNAに代えて、所望のアミノ酸又はヒドロキシ酸をtRNAに連結(アシル化)した人工のアミノアシルtRNAを用いてもよい。かかるアミノアシルtRNAは、人工のリボザイムを用いて合成することができる。
かかるリボザイムとしては、フレキシザイム(flexizyme)(H. Murakami, H. Saito, and H. Suga, (2003), Chemistry & Biology, Vol. 10, 655-662; H. Murakami, D. Kourouklis, and H. Suga, (2003), Chemistry & Biology, Vol. 10, 1077-1084; H. Murakami, A. Ohta, H. Ashigai, H. Suga (2006) Nature Methods 3, 357-359 "The flexizyme system: a highly flexible tRNA aminoacylation tool for the synthesis of nonnatural peptides";N. Niwa, Y. Yamagishi, H. Murakami, H. Suga (2009) Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters 19, 3892-3894 "A flexizyme that selectively charges amino acids activated by a water-friendly leaving group";及びWO2007/066627等)が挙げられる。フレキシザイムは、原型のフレキシザイム(Fx)、及び、これから改変されたジニトロベンジルフレキシザイム(dFx)、エンハンスドフレキシザイム(eFx)、アミノフレキシザイム(aFx)等の呼称でも知られる。
【0034】
フレキシザイムによって生成された、所望のアミノ酸又はヒドロキシ酸が連結されたtRNAを用いることにより、所望のコドンを、所望のアミノ酸又はヒドロキシ酸と関連付けて翻訳することができる。所望のアミノ酸としては、特殊アミノ酸を用いてもよい。
特殊アミノ酸の例を下表に示すが、これらに限定されない。なお、表中DBEとCMEは、特殊アミノ酸をフレキシザイムでtRNAに結合させるときのエステルの種類であり、DBEは、3,5-dinitrobenzyl esterを意味し、CMEは、cyanomethyl esterを意味する。
【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【0035】
本発明のペプチドは、一態様として環状化されていてもよく、環状化されたペプチドも本発明のペプチドに包含される。本明細書において環状化とは、1つのペプチド内において、1アミノ酸以上離れた2つのアミノ酸が直接に、又はリンカー等を介して間接的に結合し、分子内に環状の構造を作ることを意味する。
環状化は、ジスルフィド結合、ペプチド結合、アルキル結合、アルケニル結合、エステル結合、チオエステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、ホスホネートエーテル結合、アゾ結合、C−S−C結合、C−N−C結合、C=N−C結合、アミド結合、ラクタム架橋、カルバモイル結合、尿素結合、チオ尿素結合、アミン結合、チオアミド結合などによることができるが、これらに限定されない。
ペプチドを環状化することにより、ペプチドの構造を安定化させ、標的への親和性を高めることができる場合がある。
【0036】
例えば、環状化のために、特殊アミノ酸としてクロロアセチル化したアミノ酸を用い、特殊アミノ酸とtRNAとの複合体をフレキシザイムによって生成して翻訳合成系に用いてもよい。かかる複合体は、クロロアセチル化したアミノ酸とtRNAをフレキシザイムの存在下で反応させることにより調製することができる。
クロロアセチル化アミノ酸としては、例えば、上表に示した特殊アミノ酸のうち、N-Chloroacetyl-L-alanine、N-Chloroacetyl-L-phenylalanine、N-Chloroacetyl-L-tyrosine、N-Chloroacetyl-L-tryptophan、N-Chloroacetyl-D-alanine、N-Chloroacetyl-D-phenylalanine、N-Chloroacetyl-D-tyrosine、N-Chloroacetyl-D-tryptophan、N-3-chloromethylbenzoyl-L-tyrosine、N-3-chloromethylbenzoyl-L-tryptophaneを用いることができる。
これらは開始アミノ酸として用いられるので、ペプチドのN末端アミノ酸となる。したがって、これらの特殊アミノ酸を用いれば、N末端アミノ酸と、同じペプチド内のシステインとの間にチオエーテル結合が生成され、環状構造が形成される。
また、クロロアセチル化アミノ酸として、Nγ-(2-chloroacetyl)-α,γ-diaminobutylic acid、又はNγ-(2-chloroacetyl)-α,γ-diaminopropanoic acidを用いれば、ペプチド鎖のどの部位にも導入できるので、任意の箇所のアミノ酸と、同じペプチド内のシステインとの間にチオエーテル結合が生成され、環状構造が形成される。
特殊アミノ酸を用いた環状化方法は、例えば、Kawakami, T. et al., Nature Chemical Biology 5, 888-890 (2009);Yamagishi, Y. et al., ChemBioChem 10, 1469-1472 (2009);Sako, Y. et al., Journal of American Chemical Society 130, 7932-7934 (2008);Goto, Y. et al., ACS Chemical Biology 3, 120-129 (2008);Kawakami T. et al, Chemistry & Biology 15, 32-42 (2008)に記載された方法に従って行うことができ、その開示は全体として本明細書に参照により組み込まれる。
【0037】
具体的には、例えば、クロロアセチル−L/D−トリプトファンを、配列番号1−24で表されるアミノ酸配列のN末端に配置し、同アミノ酸配列のC末端側にシステインを配置することができる。
クロロアセチル化アミノ酸とシステインの位置は、環状化によってヘマグルチニンへの親和性が低下しない限り、ペプチド内のどこであってもよい。例えば、クロロアセチル化アミノ酸を、N末端から3アミノ酸以内に配置し、システインをC末端から3アミノ酸以内に配置してもよい。
【0038】
クロロアセチル化アミノ酸とシステインとの間に形成されるチオエーテル結合は生体内の還元条件下でも分解を受けにくいので、ペプチドの血中半減期を長くして生理活性効果を持続させることが可能である。
なお、クロロアセチル化アミノ酸をペプチドに導入する方法として、特殊アミノ酸を用いないで任意の方法でペプチドを合成し、当該ペプチドのいずれかのアミノ酸残基をクロロアセチル化して、ペプチド内のシステインとの間にチオエーテル結合を生成させて環状化することもできる。
【0039】
(医薬組成物)
後述する実施例に示されるとおり、本発明のペプチドは、インフルエンザウイルス表面のヘマグルチニンに結合することにより、抗インフルエンザウイルス効果を示す。従って、本発明のペプチドを含む組成物は、インフルエンザの予防又は治療剤として有用である。
本明細書において、インフルエンザとは、インフルエンザウイルスによる急性感染症をいう。感染すると、ヒトにおいては高熱、筋肉痛などを伴う風邪様の症状があらわれる。腹痛、嘔吐、下痢などの胃腸症状を伴う場合もあり、合併症として肺炎とインフルエンザ脳症がある。
本明細書において感染とは、ウイルスが皮膚や粘膜を介して生体に侵入する過程、又は、ウイルスが膜融合により細胞内に侵入する過程のいずれかを指す用語として用いられる。また、本明細書においてウイルス感染とは、症状の有無にかかわらずウイルスが生体内に侵入している状態をいう。
【0040】
本明細書においてインフルエンザの治療または予防とは、その最も広い意味で用いられ、例えば、インフルエンザウイルスの感染と関連する一つ又は複数の症状の緩和若しくは悪化の阻止、感染後の症状の発生の抑制、生体内におけるウイルスの細胞への感染の阻止(遅延又は停止)、生体内におけるウイルスの増殖の阻止(遅延又は停止)、生体内におけるウイルス数の減少等を生じさせることをいう。これらのうち少なくとも一つの効果を示すとき、インフルエンザの治療または予防に有用であると判断される。
また、後述する実施例に示されるとおり、本発明のペプチドは、ヘマグルチニンに対する中和活性を有するので、インフルエンザワクチンと同様の効果を得られうるものと理解される。
【0041】
本明細書において、医薬組成物の投与形態は特に限定されず、経口的投与でも非経口的投与でもよい。非経口投与としては、例えば、筋肉内注射、静脈内注射、皮下注射等の注射投与、経皮投与、経粘膜投与(経鼻、経口腔、経眼、経肺、経膣、経直腸)投与等が上げられる。
上記医薬組成物は、ポリペプチドが代謝及び排泄されやすい性質に鑑みて、各種の修飾を行うことができる。例えば、ポリペプチドにポリエチレングリコール(PEG)や糖鎖を付加して血中滞留時間を長くし、抗原性を低下させることができる。また、ポリ乳酸・グリコール(PLGA)などの生体内分解性の高分子化合、多孔性ヒドロキシアパタイト、リポソーム、表面修飾リポソーム、不飽和脂肪酸で調製したエマルジョン、ナノパーティクル、ナノスフェア等を徐放化基剤として用い、これにポリペプチドを内包させてもよい。経皮投与する場合、弱い電流を皮膚表面に流して角質層を透過させることもできる(イオントフォレシス法)。
【0042】
上記医薬組成物は、有効成分をそのまま用いてもよいし、薬学的に許容できる担体、賦形剤、添加剤等を加えて製剤化してもよい。剤形としては、例えば、液剤(例えば注射剤)、分散剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、粉末剤、坐剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤、軟膏剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤等が挙げられる。
製剤化は、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶解剤、溶解補助剤、着色剤、矯味矯臭剤、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤などを適宜使用し、常法により行うことができる。
製剤化に用いられる成分の例としては、精製水、食塩水、リン酸緩衝液、デキストロース、グリセロール、エタノール等薬学的に許容される有機溶剤、動植物油、乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ソルビトール、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、コーンスターチ、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ぺクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、トラガント、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル、高級アルコール、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、等が挙げられるがこれらに限定されない。
上記医薬組成物は、ペプチドが経粘膜吸収されにくいことに鑑みて、難吸収性薬物の吸収を改善する吸収促進剤を含むことができる。かかる吸収促進剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル類、ラウリル硫酸ナトリウム、サポニン等の界面活性剤;グリココール酸、デオキシコール酸、タウロコール酸等の胆汁酸塩;EDTA、サリチル酸類等のキレート剤;カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、オレイン酸、リノール酸、混合ミセル等の脂肪酸類;エナミン誘導体、N-アシルコラーゲンペプチド、N-アシルアミノ酸、シクロデキストリン類、キトサン類、一酸化窒素供与体等を用いることができる。
【0043】
丸剤又は錠剤は、糖衣、胃溶性、腸溶性物質で被覆することもできる。
注射剤は、注射用蒸留水、生理食塩水、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、アルコール類等を含むことができる。さらに、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解剤、溶解補助剤、防腐剤等を加えることができる。
【0044】
本発明の医薬組成物を哺乳類(例えば、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ウマ、サル、ブタ等)、特にヒトに投与する場合の投与量は、症状、患者の年齢、性別、体重、感受性差、投与方法、投与間隔、有効成分の種類、製剤の種類によって異なり、特に限定されないが、例えば、30μg〜100g、100μg〜500mg、100μg〜100mgを1回又は数回に分けて投与することができる。注射投与の場合、患者の体重により、1μg/kg〜3000μg/kg、3μg/kg〜1000μg/kgを1回又は数回に分けて投与してもよい。
【0045】
(スクリーニング方法)
本発明は、候補ペプチドから、インフルエンザの予防又は治療薬を選択するスクリーニング方法も包含する。
本発明のスクリーニング方法は、その一態様において、
以下の配列を含む核酸を鋳型として無細胞翻訳系でペプチドライブラリーを発現させる工程と
ATG(NNK)n(配列番号:49)
〔式中、nは4〜12の整数を示し、Nは、A、T、G又はCに相当し、Kは、T又はGに相当する。〕;
前記ペプチドライブラリーとヘマグルチニンを接触させてインキュベートし、ヘマグルチニンと結合するペプチドを選択する工程と、を含む。
ATG(NNK)nを含む核酸は、例えば、この3’末端にシステインをコードするTGCや、グリシンセリンリンカーをコードする塩基配列(例えば、GGCAGCGGCAGCGGCAGC;配列番号:50)を付加したものとしてもよい。
無細胞翻訳系でペプチドライブラリーを発現させる工程は、上述したペプチドの製造方法に従って行うことができる。
【0046】
また、本発明のスクリーニング方法は、その一態様において、無細胞翻訳系でペプチドライブラリーを発現させる際、ATGに対応するアミノアシルtRNAとして、特殊アミノ酸の開始アミノ酸を用いてもよい。
開始アミノ酸の中でもクロロアセチル化アミノ酸を用いれば、システインとの間にチオエーテル結合が生成され、環状ペプチドライブラリーとすることができる。
【0047】
(インフルエンザウイルス検出薬及び検出用キット)
本発明は、本発明のペプチドを含むインフルエンザウイルス検出薬も包含する。本発明のペプチドは、インフルエンザウイルス表面のヘマグルチニンに特異的に結合する。従って、例えば、ELISA法等のイムノアッセイにおける抗インフルエンザ抗体に代えて、本発明のペプチドを用いて試料中のインフルエンザウイルスを検出することができる。
検出薬として用いる場合、本発明のペプチドは、検出可能に標識してもよい。ペプチドの標識は、例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等の酵素、125I、131I、35S、3H等の放射性物質、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ダンシルクロリド、フィコエリトリン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、近赤外蛍光材料等の蛍光物質、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、エクオリン等の発光物質で標識した抗体が用いられる。その他、金コロイド、量子ドットなどのナノ粒子で標識した抗体を検出することもできる。
また、イムノアッセイでは、本発明のペプチドをビオチンで標識し、酵素等で標識したアビジン又はストレプトアビジンを結合させて検出することもできる。
イムノアッセイの中でも、酵素標識を用いるELISA法は、簡便且つ迅速に抗原を測定することができて好ましい。例えば、インフルエンザウイルスのヘマグルチニン以外の部分を特異的に認識する抗体を固相担体に固定し、サンプルを添加して反応させた後、標識した本発明のペプチドを添加して反応させる。洗浄後、酵素基質と反応、発色させ、吸光度を測定することにより、インフルエンザウイルスを検出することができる。固相担体に固定した抗体と試料を反応させた後、標識していない本発明のペプチドを添加し、本発明のペプチドに対する抗体を酵素標識してさらに添加してもよい。
酵素基質は、酵素がペルオキシダーゼの場合、3,3'−diaminobenzidine(DAB)、3,3'5,5'−tetramethylbenzidine(TMB)、o−phenylenediamine(OPD)等を用いることができ、アルカリホスファターゼの場合、p−nitropheny phosphate(NPP)等を用いることができる。
【0048】
本明細書において「固相担体」は、抗体を固定できる担体であれば特に限定されず、ガラス製、金属性、樹脂製等のマイクロタイタープレート、基板、ビーズ、ニトロセルロースメンブレン、ナイロンメンブレン、PVDFメンブレン等が挙げられ、標的物質は、これらの固相担体に公知の方法に従って固定することができる。
【0049】
本発明に係る検査用キットは、上記検出に必要な試薬及び器具(本発明のペプチド、抗体、固相担体、緩衝液、酵素反応停止液、マイクロプレートリーダー等を含むが、これらに限定されない)を含む。
【実施例】
【0050】
以下に示す実施例は、単なる例示であって、上述した実施形態と共に本発明を詳細に説明することのみを意図しており、本発明を限定するものではない。
【0051】
[ヘマグルチニンに結合する特殊環状ペプチドの選択]
<スクリーニング1>
H5N1型インフルエンザウイルス(1203/04)(PROSPEC社)のヘマグルチニンをバキュロ系で組換え発現したタンパク質を、DMSOに溶解し、リン酸ナトリウム水溶液でpH8.0-8.2に調整した約3当量のビオチン活性エステル体(Sulfo-NHS-LC-Biotin(PIERCE社))と反応させた。この反応溶液を精製せずにストレプトアビジン固定磁気ビーズ(Dynabeads M-280 Streptavidin(Invitrogen社))の懸濁液と混合し、ビオチン化されていないヘマグルチニンを除いて選択実験に用いる標的ビーズとした。
特殊環状ペプチドライブラリーの鋳型分子として、ATG(NNK)nTGCGGCAGCGGCAGCGGCAGC(配列番号:51)を用いた。式中、nは4〜12の整数を示し、Nは、A、T、G又はCに相当し、Kは、T又はGに相当する。
このDNA分子は転写開始配列と翻訳促進配列(GGGTTAACTTTAAGAAGGAGATATACAT:配列番号:53)を5’側に、グリシンセリンリンカー配列と対応付けのためのタグ配列(GGCAGCGGCAGCGGCAGC;配列番号:50)を3’側にそれぞれ有する。これを転写してmRNAとし、対応付けに用いる核酸誘導体を共有結合させた(国際公開第2011/049157号パンフレット参照)。この複合体240pmolを最初の翻訳に用いた。
翻訳系にはメチオニンを除く19種類の天然型アミノ酸の他に、開始コドンに対応するtRNAにクロロアセチル−D/L−トリプトファンを結合させた複合体を約50μM相当の濃度で加えた。この複合体はクロロアセチル−D/L−トリプトファンシアノメチルエステルとtRNAをフレキシザイムの存在下で反応させることで調製した(H. Murakami et al., Nat. Methods (2006)3:357-359; Y. Goto et al., ACS Chem. Biol. (2008)3:120-129; Y. Goto et al., RNA (2008)14:1390-1398)。
翻訳溶液約240μLに100mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)水溶液を48μl加えて30分静置したのち、ストレプトアビジン固定磁気ビーズと混合して4℃で1時間混合した。上清をとりビオチン化ヘマグルチニンを結合した標的ビーズと合わせ、1時間4℃で混合したのちTBST(50mM トリスヒドロキシメチルアミノメタン−塩酸緩衝液、120mM 塩化ナトリウム、0.05% Tween20)で3回洗浄した。このビーズに逆転写反応混合液を加え、42℃で1時間反応させた。上清をPCR反応液で希釈し、その一部をリアルタイムPCRで定量した。この定量結果に従いサイクル数を決めて残りの溶液のPCR反応を行った。
得られたPCR反応物を鋳型に転写し、1回目の12分の1のスケールで2回目の選択実験を実施した。2回目以降の逆転写反応は翻訳の後に行ない、2本鎖の形で標的ビーズと反応させた。標的ビーズにPCR反応液を加えて95℃で加熱し、鋳型の核酸を回収した。この選択実験を核酸の回収量がヘマグルチニンを固定した場合に固定しない場合よりも10倍以上多く得られた5回目まで繰り返した。各選択実験後の回収率の変化を図1に示した。
最終的に回収されたDNAをプラスミド(pGEM-T Easy(Promega社))にライゲーションし、クローニングして64個の配列を解析したところ、2個から5個の重複を含む52種類の核酸に対応していた。
【0052】
<スクリーニング2>
次に、この52種類の核酸から3種類を選択し、この3種類の核酸配列に基づいて、経験則により、以下のコード領域を含む鋳型分子を設計した。
ATGVVKNNKHWTVVKNNKVDAVDATWTNNKHWTVVKTGGTGTGGGTCGGGGTCGGGTTCG(配列番号:52)
この配列においてVはC、A又はGを、HはT、C又はAを、WはT又はAを、DはT、A又はGをそれぞれ示す。
クロロアセチル−D−トリプトファンが3’位にエステル結合したtRNAの存在下で核酸ライブラリーを転写して、核酸誘導体と結合させたライブラリー約50pmolを50μlの無細胞翻訳系で翻訳した。EDTA(100mM)水溶液を10μl加えて37℃で30分静置したのち、逆転写反応によりcDNAを形成させた。
この複合体を初期翻訳物ライブラリーとして、スクリーニング1と同様の操作でヘマグルチニンに対する親和性選択を繰り返した。ただしヘマグルチニンとの相互作用は4℃ではなく室温で実施した。選択実験を6回まで繰り返して最終的に回収されたDNAをPCRで増幅してクローニングした。解析した17配列はすべて異なっていたが、全体に収束しており相同性の高さが認められた。
【0053】
[ヘマグルチニンに結合する特殊環状ペプチドの化学合成]
選択の結果得られた核酸に対応すると考えられるペプチドが実際にヘマグルチニンに対する結合活性を持つかどうか、インフルエンザウイルスの増殖に対する阻害活性を持つかどうかを確認する目的で、上記スクリーニング1及び2で得られた69種類のペプチドから選択した下表の24種類のペプチドを化学合成した。
ペプチド合成は、自動合成機SyroI(Biotage Japan社)を用い、9−フルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc基)をαアミノ基の保護基として用いる一般的な固相合成法に従って行った。
Rink Amide AM resin(Novabiochem社)の3μmol相当を合成用チップに加え、2-(1H-benzotriazole-1-yl)-1,1,3,3-tetramethyluronium hexafluorophosphate(HBTU)、及びFmoc基で保護したアミノ酸(いずれもNovabiochem社)を順次反応させた。
N末端のトリプトファンを連結してFmocを外したのち、1-methyl-2-pyrrolidinone(NMP;Nacalai Tesuque社)に溶解したN−ヒドロキシコハク酸クロロアセチルを6当量加えて1時間静置した。
得られたペプチドレジンを、N,N-dimethylformamide(DMF;Nacalai Tesuque社)と塩化メチレンで3回洗浄して乾燥し、トリフルオロ酢酸−水−トリイソプロピルシランの混合物(体積比で90:5:5)を加えて室温で2時間攪拌した。
エーテル沈殿により切断された粗ペプチドを回収し、ジエチルエーテルで2回洗浄して乾燥したのち、終濃度が10mMとなるように125mMのトリスヒドロキシメチルアミノメタンを含む80%DMSO水溶液を加えて、室温で1時間攪拌した。
環状ペプチド溶液を酸性にして濾過し、C4カラム(Cosmosil AR300 5C4(10×250mm、Nacalai Tesuque社)を用いた逆相高速液体クロマトグラフィーで目的物を精製した。移動相として0.1%トリフルオロ酢酸を含む水−アセトニトリルを用いた。生成したペプチドは、Autoflex II(Bruker Daltonics社)を用いてMALDI-TOF-MSにより同定した。
以下の24種類のペプチドをインフルエンザウイルスの増殖阻害試験に用いた。
【表8】

【0054】
[インフルエンザウイルスの増殖に対するペプチドの阻害活性の評価]
1.インフルエンザウイルスH5N1−Vac3株に対する阻害
インフルエンザウイルスH5N1−Vac3に対する阻害試験を以下の手順で行った。
1) アッセイ3日前にMDCK細胞を6wellプレートへ2×105cells/wellで播いた。
2) インフルエンザウイルス感染前日に各ペプチド0.01μM、0.1μM、1μMを含有する細胞培養培地に交換して細胞を前処理した。
3) 1%BSAを含有するMEM培地で希釈したインフルエンザウイルスH5N1(1×103PFU/ml)ウイルス液0.1mlを各wellに加え、全体に行き渡らせた。
4) 37 or 34℃,1時間吸着した。15分おきにプレートを揺らした。
5) ウイルス液を取り除き、BSA(-)/MEMで1回洗浄した。
6) ペプチド0.01μM、0.1μM、1μM,10μg/mlアセチルトリプシン,0.8%アガロース加1%BSA/MEM 2mlを各wellに加えた。
7) アガロース凝固後、プレートの上下を反転させ、CO2インキュベーターへ入れた。
8) 37 or 34℃,2〜3日培養した。
9) 10%ホルマリンを加えた。室温,1時間固定した。
10) ホルマリンとアガロース培地を取り除き、水洗した。
11) 1%クリスタルバイオレットで1時間染色した。
12) 水洗、乾燥後にプラーク数を判定した。
【0055】
図2及び3に培養後のプレートの写真を示す。ネガティブコントロール(NC)と比較して、No.11、12、18及び24(図2)、並びにNo.19及びNo.23(図3)では、プラークの大きさ及び数に明らかに差が見られた。使用したウイルスの量をBack-titrationを行って確認したが所定のウイルス量であった。
図4〜6に、プラーク数とプラークの直径の比較を示す。図4及び5に示されるとおり、全体としてネガティブコントロールに比較してプラークの数が減少する傾向にあり、No.11及び12では半数以下に減少した(図4)。また、No.14もプラーク数は半数以下、No.19は0.1μM以上においてプラーク数がゼロ、No.23は1μMにおいてプラーク数が1/10であった。
また、図6に示されるとおり、いずれのペプチドについても、用量依存的にプラークの直径が減少する傾向が見られた。
No.18の1μMでは、プラークの数及び直径ともに、ザナミビル(商品名リレンザ)と同等な減少が見られ、No.24の1μMでは、プラークの直径が約半分に縮小された。No.14、19及び23でも、ネガティブコントロールに比較して、プラーク直径も半分以下であった(データ図示せず)。
【0056】
2.インフルエンザウイルスH1N1株に対する阻害
同様に、インフルエンザウイルスH1N1に対するペプチドによる阻害試験を行った。
インフルエンザウイルスH1N1株A/Tokyo/2619/2009に対する阻害試験を以下の手順で行った。
1) アッセイ3日前にMDCK細胞を6wellプレートへ2×105cells/wellで播いた。
2) インフルエンザウイルス感染前日に各ペプチド0.01μM、0.1μM、1μMを含有する細胞培養培地に交換して細胞を前処理した。
3) 1%BSAを含有するMEM培地で希釈したインフルエンザウイルスH5N1(1×103PFU/ml)ウイルス液0.1mlを各wellに加え、全体に行き渡らせた。
4) 37 or 34℃,1時間吸着。15分おきにプレートを揺らした。
5) ウイルス液を取り除き、BSA(-)/MEMで1回洗浄した。
6) ペプチド0.01μM、0.1μM、1μM,10μg/mlアセチルトリプシン,0.8%アガロース加1%BSA/MEM 2mlを各wellに加えた。
7) アガロース凝固後、プレートの上下を反転させ、CO2インキュベーターへ入れる。
8) 37 or 34℃,2〜3日培養した。
9) 10%ホルマリンを加えた。室温,1時間固定した。
10) ホルマリンとアガロース培地を取り除き、水洗した。
11) 1%クリスタルバイオレットで1時間染色した。
12) 水洗、乾燥後にプラーク数を判定した。
結果を図7に示す。リレンザが効果を示さないH1N1に対しても増殖阻害効果を有するペプチドが見られた。特にNo.23及び24は高い増殖阻害効果を示した。
【0057】
3.インフルエンザウイルスH5N1−Vac3株に対する中和活性
また、インフルエンザウイルスに対するペプチドの中和活性を確認するため、ペプチドとインフルエンザウイルスをまず混合し、その後、この混合液と細胞を接触させる試験を行った。具体的な試験方法を以下に示す。
1) アッセイ3日前にMDCK細胞を6wellプレートへ2×105cells/wellで播いた。
2) インフルエンザウイルス感染前日に各ペプチド0.01μM、0.1μM、1μMを含有する細胞培養培地に交換して細胞を前処理した。
3) 各ペプチド0.01μM、0.1μM、1μMを含有する細胞培養培地110μlに55PFUのウイルス溶液(H5N1 Vac−3)110μlを混合し、CO2インキュベータにおいて37℃で1時間インキュベートした。
4) ペプチドとインキュベートしたウイルス液0.2mlを各wellに加え、全体に行き渡らせた。
5) 37 or 34℃,1時間吸着。15分おきにプレートを揺らした。
6) ウイルス液を取り除き、BSA(-)/MEMで1回洗浄した。
7) ペプチド0.01μM、0.1μM、1μM,10μg/mlアセチルトリプシン,0.8%アガロース加1%BSA/MEM 2mlを各wellに加えた。又は、オセルタミビル(商品名タミフル)若しくはザナミビル(商品名リレンザ)を0.01μM、0.1μM、1μM含むアガロース培地を重層した。
8) アガロース凝固後、プレートの上下を反転させ、CO2インキュベーターへ入れた。
9) 37 or 34℃,2〜3日培養した。
10) 10%ホルマリンを加えた。室温,1時間固定した。
11) ホルマリンとアガロース培地を取り除き、水洗した。
12) 1%クリスタルバイオレットで1時間染色した。
13) 水洗、乾燥後にプラーク数を判定した。
結果を図8に示す。図9に被験ペプチドとウイルス液の処理条件を示す。各ウェルの右上の数字がプラーク数を表す。ペプチドNo.11,14,18は図9の2条件すなわち中和反応のみで、無効条件と比較してプラーク数が半数以下に減少した。この結果は、ペプチドNo.11,14,18ペプチドが、インフルエンザウイルスに対する中和活性を有する可能性を示唆するものである
【0058】
さらに、インフルエンザウイルスに対するNo.23,24ペプチドの中和活性を確認するため、ペプチドとインフルエンザウイルスをまず混合し、その後、この混合液と細胞を接触させる試験を行った。具体的な試験方法を以下に示す。
1) アッセイ3日前にMDCK細胞を6wellプレートへ2×105cells/wellで播いた。
2) 各ペプチド0.01μM、0.1μM、1μMを含有する細胞培養培地110μlに55PFUのウイルス溶液(H5N1 Vac−3)110μlを混合し、CO2インキュベータにおいて37℃で1時間インキュベートした。
3) ペプチドとインキュベートしたウイルス液0.2mlを各wellに加え、全体に行き渡らせた。
4) 37 or 34℃,1時間吸着。15分おきにプレートを揺らした。
5) ウイルス液を取り除き、BSA(-)/MEMで1回洗浄した。
6) 10μg/mlアセチルトリプシン,0.8%アガロース加1%BSA/MEM 2mlを各wellに加えた。試験の陽性コントロールとして、オセルタミビル(商品名タミフル)若しくはザナミビル(商品名リレンザ)を0.01μM、0.1μM、1μM含むアガロース培地を重層した。
7) アガロース凝固後、プレートの上下を反転させ、CO2インキュベーターへ入れた。
8) 37 or 34℃,2〜3日培養した。
9) 10%ホルマリンを加えた。室温,1時間固定した。
10) ホルマリンとアガロース培地を取り除き、水洗した。
11) 1%クリスタルバイオレットで1時間染色した。
12) 水洗、乾燥後にプラーク数を判定した。
中和試験結果を図10及び陽性コントロールの結果を図11に示す。使用したウイルスの量をBack-titrationを行って確認したが所定のウイルス量であった。各ウェルの右上の数字がプラーク数を表す。いずれのペプチドも、無効条件と比較してプラーク数が半数以下に減少した。この結果は、本発明のペプチドが、インフルエンザウイルスに対する中和活性を有する可能性を示唆するものである。
【配列表フリーテキスト】
【0059】
配列番号:1〜24は、抗インフルエンザウイルス活性を有するペプチドのアミノ酸配列である。
配列番号:25〜48は、抗インフルエンザウイルス活性を有する環状ペプチドのアミノ酸配列である。
配列番号:49は、無細胞翻訳系でペプチドライブラリーを発現させる際に用いられる鋳型核酸配列の一例である。
配列番号:50は、グリシン−セリンリンカーをコードする核酸の塩基配列である。
配列番号:51は、無細胞翻訳系でペプチドライブラリーを発現させる際に用いられる鋳型核酸配列の一例である。
配列番号:52は、無細胞翻訳系でペプチドライブラリーを発現させる際に用いられる鋳型核酸配列の一例である。
配列番号:53は、無細胞翻訳系でペプチドライブラリーを発現させる際に用いられる鋳型核酸配列の5’側に付加される翻訳促進配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のいずれかのペプチド:
(i)配列番号:1−24で表されるアミノ酸配列を含むペプチド;
(ii)前記(i)に記載のペプチドの部分配列を含むペプチドであって、ヘマグルチニンと結合可能なペプチド;及び
(iii)前記(i)又は(ii)に記載のペプチドのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、付加若しくは置換されているペプチドであって、ヘマグルチニンと結合可能なペプチド。
【請求項2】
環状化している、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
クロロアセチルアミノ酸と、システインを含み、クロロアセチルアミノ酸とシステインとのチオエーテル結合により環状化している、請求項2に記載のペプチド。
【請求項4】
N末端から3アミノ酸以内にクロロアセチルアミノ酸を有し、C末端から3アミノ酸以内にシステインを有する、請求項3に記載のペプチド。
【請求項5】
配列番号:25−48で表されるアミノ酸配列からなるペプチドであって、N末端のクロロアセチル−トリプトファンと、C末端から2番目のシステインとのチオエーテル結合により環状化している、ペプチド。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のペプチドを含むインフルエンザの予防又は治療のための医薬組成物。
【請求項7】
インフルエンザの予防又は治療薬を製造するための、請求項1から5のいずれか1項に記載のペプチドの誘導体の使用。
【請求項8】
候補ペプチドから、インフルエンザの予防又は治療薬を選択するスクリーニング方法であって、
以下の配列を含む核酸を鋳型として無細胞翻訳系でペプチドライブラリーを発現させる工程と、
ATG(NNK)n(配列番号:49)
〔式中、nは4〜12の整数を示し、Nは、A、T、G又はCに相当し、Kは、T又はGに相当する。〕;
前記ペプチドライブラリーとヘマグルチニンを接触させてインキュベートし、ヘマグルチニンと結合するペプチドを選択する工程と、
を含む方法。
【請求項9】
前記鋳型として、(NNK)nの3’末端にTGCを含むものを用い、
前記無細胞翻訳系において、コドンATGに対応するアミノアシルtRNAとして、クロロアセチル化アミノ酸を用い、
前記ペプチドライブラリーとヘマグルチニンを接触させてインキュベートする工程に先立って、ペプチドを環状化させる工程を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から5のいずれか1項に記載のペプチドを含む、インフルエンザウイルス検出薬。
【請求項11】
請求項10に記載のインフルエンザ検出薬を含む、インフルエンザウイルス検出用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−71904(P2013−71904A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211100(P2011−211100)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(506269633)ペプチドリーム株式会社 (2)
【出願人】(591063394)公益財団法人東京都医学総合研究所 (69)
【Fターム(参考)】