説明

抗ウイルス性カーテン

【課題】
低照度の可視光照射下においても、高い抗ウイルス性を有するカーテンを提供する。
【解決手段】
本態様にかかる抗ウイルス性を有するカーテンは酸化タングステン微粒子および酸化タ
ングステン複合材微粒子から選ばれる少なくとも1種の微粒子を具備する。微粒子は、0
.01mg/cm以上40mg/cm以下の範囲で微粒子を付着させた試験片に、低
病原性鳥インフルエンザウイルス(H9N2)、高病原性鳥インフルエンザウイルス(H
5N1)、および豚インフルエンザウイルスから選ばれる少なくとも1種のウイルスを接
種し、可視光を24時間照射した後のウイルス力価を評価したとき、[R=logC−l
ogA](Cは無加工試験片を可視光下で24時間保存した後のウイルス力価TCID
、Aは前記微粒子を塗布した前記試験片を可視光下で24時間保存した後のウイルス力
価TCID50である。)で表される不活化効果Rが1以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗ウイルス性カーテンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新型インフルエンザなどのさまざまなウイルスやO157等の細菌による感染症
に対しては、人間の生命を脅かす存在であり、世界的にその対策が急がれている。このよ
うな観点から、抗菌・抗ウイルス性の材料の需要は高まる一方であり、あらゆる製品にお
いて、抗菌・抗ウイルス性が求められている。現在、抗菌性に関しては応用がすすんでい
るが、抗ウイルス性については、十分な性能を有する材料は開発されていない。
【0003】
光触媒は、光を照射することにより有機物を分解する機能を有し、抗菌・抗ウイルス性
といった効果が期待されている材料であり、酸化チタン光触媒を混ぜ込んだ抗菌性のマス
クが実用化されている。ただし、酸化チタンからなる光触媒は紫外線でしか励起されない
ため、紫外線が少ない屋内環境では十分な性能が得られない。例えば、特許文献1に酸化
チタンを用いたフィルターの抗ウイルス性能が記載されているが、蛍光灯に含まれる紫外
線を利用したものであり、実用的な照度、あるいはシェードなどにより紫外線がカットさ
れた室内空間では、十分な効果を発揮できず、その性能は不十分である。その対策として
、可視光でも性能を発揮する白金化合物を担持した酸化チタン、窒素や硫黄をドープした
酸化チタン等の可視光応答型光触媒が開発されている。しかし、酸化チタンをベースにし
た可視光応答型光触媒は励起波長の範囲が狭く、一般的な屋内照明のように低い照度の下
では十分な性能が得られていない。また、抗ウイルス性に対しても、同様に実用的な光触
媒は得られていないため、カーテンへの応用は進んでいないのが現状である。
【0004】
抗ウイルス性を有するカーテンは、人が触れたり、存在する環境、特に医療施設や介護
施設などにおいて用いられる製品であり、屋内においてその性能を十分発揮するものが最
も好ましい。光触媒は光の照射によりその性能が発現されるものであるが、使用環境の光
の照射量にかかわらず抗ウイルス性能を発揮する材料がより好ましい。アルコールにより
ウイルスは不活化されるとされているが、これはアルコールを塗布した時点での一時的な
効果であり、その製品自体がウイルスを不活するわけではなく、ウイルスは再び付着する
可能性がある。また、ウイルスの種類によっても効果に差がある。Agイオンなどもウイル
スの不活化に効果があるとされているものの、効果の持続性が低いという問題がある。
【0005】
酸化タングステンはバンドギャップが酸化チタンに比べて狭いため、可視光で光触媒作
用を得ることが可能な材料として注目されている。酸化タングステンの抗菌作用について
は、例えば非特許文献1にpH2.5の環境下で硫黄酸化細菌の生育を阻害することが記
載されている。さらに、酸化チタンと混合して光触媒作用による抗菌性が得られることも
知られている。しかしながら、従来の酸化タングステンをベースとする抗ウイルス材は知
られていない。
【0006】
上述したように、従来の抗ウイルス材はその効果の評価が困難であることも一因として
、これまで実用的なものは得られていない。屋外、屋内といった環境にかかわらず、その
効果を有する抗ウイルス性材料を用いたカーテンの開発が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−33921号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「下水道協会誌 論文集」2005 No.507 Vol.42
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、従来の光触媒では、有効な抗ウイルス性能を有する材料は得られておら
ず、また、特に一般的な屋内照明のような、低い照度の可視光照射下において、抗ウイル
ス性能を発揮することができる光触媒材料による抗ウイルス性を有するカーテンは得られ
ていなかった。
本発明の目的は、上記問題を解決し、一般的な屋内環境においても実用的な抗ウイルス性
を有するカーテンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の態様に係る抗ウイルス性を有するカーテンは、酸化タングステン微粒子および
酸化タングステン複合材微粒子から選ばれる少なくとも1種の微粒子を具備する抗ウイル
ス性を有する光触媒材料を具備し、
前記微粒子は、JIS−R−1702(2006)の光照射下での光触媒抗菌加工製品の
抗菌性試験方法・抗菌効果に準じた方法において、
0.01mg/cm以上40mg/cm以下の範囲で前記微粒子を付着させた試験片
に、低病原性鳥インフルエンザウイルス(H9N2)、高病原性鳥インフルエンザウイル
ス(H5N1)、豚インフルエンザウイルスから選ばれる少なくとも1種のウイルスを接
種し、白色蛍光灯と紫外線カットフィルタを使用し、波長が380nm以上のみで、照度
が6000lxの可視光を24時間照射した後のウイルス力価を評価したとき、式(1)
で表される不活化効果Rが1以上であることを特徴としている。
R=logC−logA ・・・ (1)
(式中、Cは無加工試験片を可視光下で24時間保存した後のウイルス力価TCID50
、Aは前記微粒子を塗布した前記試験片を可視光下24時間保存した後のウイルス力価T
CID50である。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、酸化タングステン系微粒子の粒径や結晶構造等が適切に制御されてい
るため、一般的な屋内環境のような可視光照射下において、前記酸化タングステン系微粒
子を使用することにより、抗ウイルス性を有するカーテンを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明の実施形態による抗ウイ
ルス性を有するカーテンは、酸化タングステン微粒子および酸化タングステン複合材微粒
子から選ばれる少なくとも1種の微粒子(以下、酸化タングステン系微粒子と記す)を具
備する。酸化タングステン系微粒子は、試験片に当該微粒子を0.01〜40mg/cm
の範囲で付着させて抗ウイルス性の評価試験を行ったとき、不活化効果Rが1以上の特
性を有するものである。さらに、酸化タングステン系微粒子は不活化効果Rが2以上の特
性を有することが好ましい。
【0013】
抗ウイルス性能を評価する試験は、JIS−R−1702(2006)の光照射下での
光触媒抗菌加工製品の抗菌性試験方法・抗菌効果に準じた方法で実施するものとする。
0.01mg/cm以上40mg/cm以下の範囲で前記微粒子を付着させた試験片
に、低病原性鳥インフルエンザウイルス(H9N2)、高病原性鳥インフルエンザウイル
ス(H5N1)、豚インフルエンザウイルスから選ばれる少なくとも1種の菌を接種し、
白色蛍光灯と紫外線カットフィルタを使用し、波長が380nm以上のみで、照度が60
00lxの可視光を24時間照射した後のウイルス力価Aと、無加工試験片に同様なウイ
ルスを接種し、同様の光源を24時間照射した後のウイルス力価Cを評価し、これらウイ
ルス力価AおよびCから以下の式(1)に基づいて求められる。
R=logC−logA ...(1)
【0014】
尚、ウイルス力価の評価は、下記の方法にて実施する。試料にウイルスを接種し、光照
射後ウイルス液を生理食塩水で希釈し、回収し、測定を行う。回収したウイルスを10倍
に希釈し、それぞれ培養したMDCK細胞(イヌ腎臓由来株化細胞)に感染させ、37℃
、CO2濃度5%で5日間培養する、培養後、細胞の形態変化(細胞変性効果)の有無を
観察し、50%培養細胞に感染した量を算出することで1ml当たりのウイルス力価(T
CID50/ml)を求める。
【0015】
ここで、一般に可視光とは波長が380nm〜830nmの領域の光を指すものである
。可視光照射下における性能を評価するために、この実施形態の評価では波長が380n
m以上のみの可視光を用いるものとする。具体的には、光源としてJIS−Z−9112
で規定されている白色蛍光灯を使用し、波長が380nm未満の光をカットする紫外線カ
ットフィルタを用いて、波長が380nm以上のみの可視光を照射して評価を行うことが
好ましい。白色蛍光灯としては、例えば東芝ライテック社製FL20SS・W/18もし
くはそれと同等品が用いられる。紫外線カットフィルタとしては、例えば日東樹脂工業社
製クラレックスN−169(商品名)もしくはそれと同等品が用いられる。
【0016】
酸化タングステン系微粒子の抗ウイルス性を評価するにあたって、まず微粒子(微粉末
)を水等の分散媒と混合し、超音波分散機、湿式ジェットミル、ビーズミル等により分散
処理を行って分散液を作製する。得られた分散液をガラス板等の試験片に、滴下、スピン
コート、ディップ、スプレー等の一般的な方法で塗布して試料を作製する。このような試
料にウイルスを接種して抗ウイルス性を評価する。酸化タングステン系微粒子が光触媒性
能を有する場合、試験片の表面に塗布した状態で光触媒性能を発揮させるために、分散処
理で粉末に歪を与えすぎないような条件を設定することが好ましい。
【0017】
抗ウイルス性を有するカーテンは、酸化タングステン系微粒子をカーテン基材に具備し
たものであり、基材に具備させる方法は、塗布、練り込み、基材の成形工程で微粒子を含
有する表面層を形成する方法等、既知の方法で製造される。このようなカーテンの抗ウイ
ルス性能を評価する場合には、当該カーテンから切り出した試験片を用いて評価試験を実
施する。微粒子を基材に塗布する方法としては、微粒子の抗ウイルス性評価試験と同様に
、粉末と分散媒と必要に応じて分散剤との混合物に分散処理を行って作製した分散液を用
いる方法が挙げられる。膜の均一性が要求される場合には、塗布法としてスピンコート、
ディップ、スプレー等の方法を適用することが好ましい。
【0018】
この実施形態で用いられる酸化タングステン微粒子および酸化タングステン複合材微粒
子から選ばれる少なくとも1種の微粒子は分散性が非常に高いため、抗ウイルス性能を発
揮する膜を形成することができる。これまでの粒径が大きな酸化タングステン粒子の場合
には、基材表面に膜を形成することができなかったため、抗ウイルス性を評価することが
できなかった。また、粒径が大きな酸化タングステン粒子を使用して、抗ウイルス性能を
示すカーテンは得られていなかった。
【0019】
この実施形態の抗ウイルス性を有するカーテンに用いられる酸化タングステン系微粒子
は、6000lxの可視光を24時間照射した条件において、不活化効果Rが1以上の特
性を有している。すなわち、酸化タングステン系微粒子は試験片に対する当該微粒子の付
着量を0.01〜40mg/cmの範囲とした場合において、低病原性鳥インフルエン
ザウイルス(H9N2)、高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1)、豚インフル
エンザウイルスから選ばれる少なくとも1種のウイルスに対して良好な抗ウイルス性能を
示すものである。酸化タングステン系微粒子の抗ウイルス性能は屋外、屋内にかかわらず
発揮され、さらに比較的低照度である日常の室内環境下においても発揮されるものである

【0020】
このように、抗ウイルス性を有するカーテンに用いられる酸化タングステン系微粒子は
、可視光の照射により、抗ウイルス性能を発揮するものである。従って、そのような酸化
タングステン系微粒子を具備する抗ウイルス性を有するカーテンは、屋内、特に照度が低
い室内環境で使用した場合においても、実用的な抗ウイルス性能を発揮することができる

【0021】
抗ウイルス性を有するカーテンに用いられる酸化タングステン系微粒子は、6000l
xの可視光を24時間照射した場合、不活化効果Rが1以上、さらに2以上であることが
好ましい。また、照射時間を4時間とした場合、不活化効果Rが0.5以上であることが
好ましい。さらに照度が1000lxである可視光を24時間照射した場合、不活化効果
Rが1以上であることがより好ましい。また、このような条件を満足する酸化タングステ
ン系微粒子を用いることで、より高い抗ウイルス性能を有するカーテンを実現することが
できる。このような酸化タングステン系微粒子を用いたカーテンは、使用される環境の照
度に影響を受けることなく、高い抗ウイルス性能を発揮させることができる。
【0022】
また、この実施形態による抗ウイルス性を有するカーテンは、用いられる酸化タングステ
ン系微粒子の粒径が小さく、光触媒活性が高いことから、インフルエンザウイルス以外に
も、エンベロープのないアデノウイルス、ノロウイルス、エンベロープを有するヘルペス
ウイルス、SARSウイルスなどのさまざまなウイルスに接触しやすく、ウイルスのたん
ぱく質を分解することにより、不活化が可能となる。
【0023】
上述したような抗ウイルス性を有するカーテンは、酸化タングステン系微粒子の粒径(
比表面積)や結晶構造等を制御することにより得ることができる。抗ウイルス性を有する
カーテンに用いる微粒子は、酸化タングステンの微粒子に限られるものではなく、酸化タ
ングステン複合材の微粒子であってもよい。酸化タングステン複合材とは、主成分として
の酸化タングステンに、遷移金属元素や他の金属元素を含有させたものである。遷移金属
元素とは原子番号21〜29、39〜47、57〜79、89〜109の元素である。酸
化タングステン複合材はTi、Zr、Mn、Fe、Pd、Pt、Cu、Ag、Zn、Al
およびCeから選ばれる少なくとも1種の金属元素を含むことが好ましい。Cu、Agお
よびZnから選ばれる少なくとも1種の金属元素は有効であり、少量で抗ウイルス性能を
向上させることができる。
【0024】
酸化タングステン複合材における遷移金属元素等の金属元素の含有量は0.01〜50
質量%の範囲とすることが好ましい。金属元素の含有量が50質量%を超えると、抗ウイ
ルス性を有するカーテンとしての特性が低下するおそれがある。金属元素の含有量は10
質量%以下であることがより好ましく、さらに好ましくは2質量%以下である。金属元素
の含有量の下限値は特に限定されるものではないが、金属元素の添加効果をより有効に発
現させる上で、その含有量は0.01質量%以上とすることが好ましい。Cu、Agおよ
びZnから選ばれる少なくとも1種の金属元素の含有量は、酸化タングステン微粒子が有
する効果と金属元素の添加効果とを考慮して0.01〜1質量%の範囲とすることが好ま
しい。
【0025】
抗ウイルス性カーテンに用いられる酸化タングステン複合材において、金属元素は各種
の形態で存在させることができる。酸化タングステン複合材は、金属元素の単体、金属元
素を含む化合物(酸化物を含む化合物)、酸化タングステンとの複合化合物等の形態とし
て、金属元素を含有することができる。酸化タングステン複合材に含有される金属元素は
、それ自体が他の元素と化合物を形成していてもよい。金属元素の典型的な形態としては
酸化物が挙げられる。金属元素は単体、化合物、複合化合物等の形態で、例えば酸化タン
グステン粉末と混合される。金属元素は酸化タングステンに担持されていてもよい。
【0026】
酸化タングステン複合材の具体例としては、酸化銅粉末を0.01〜5質量%の範囲で
含有する混合粉末が挙げられる。酸化銅粉末以外の金属酸化物粉末(酸化チタン粉末、酸
化鉄粉末等)についても、酸化タングステン複合材中に0.01質量%以上10質量%以
下の範囲で含有させることが好ましい。酸化タングステン複合材は酸化物以外のタングス
テン化合物、例えば炭化タングステンを含有していてもよい。炭化タングステンはその粉
末として0.01質量%以上5質量%以下の範囲で酸化タングステン粉末と混合される。
【0027】
酸化タングステンと金属元素(具体的にはTi、Zr、Mn、Fe、Pd、Pt、Cu
、Ag、Zn、AlおよびCeから選ばれる少なくとも1種の元素の単体、化合物、複合
化合物)との複合方法は特に限定されるものではなく、粉末同士を混合する混合法、含浸
法、担持法等の種々の複合法を適用することが可能である。代表的な複合法を以下に記載
する。酸化タングステンに銅を複合させる方法としては、酸化タングステン粉末と酸化銅
粉末とを混合する方法が挙げられる。硝酸銅や硫酸銅の水溶液やエタノール溶液に酸化タ
ングステン粉末を加えて混合した後、70〜80℃の温度で乾燥させてから500〜55
0℃の温度で焼成する方法も有効である。
【0028】
また、例えば塩化銅水溶液や硫酸銅水溶液に酸化タングステン粉末を分散させ、この分
散液を乾燥させる方法(含浸法)を適用することも可能である。含浸法は銅の複合方法に
限らず、塩化鉄水溶液を用いた鉄の複合方法、塩化銀水溶液を用いた銀の複合方法、塩化
白金酸水溶液を用いた白金の複合方法、塩化パラジウム水溶液を用いたパラジウムの複合
方法等にも応用することができる。さらに、酸化チタンゾルやアルミナゾル等の酸化物ゾ
ルを用いて、酸化タングステンと金属元素(酸化物)とを複合させてもよい。これら以外
にも各種の複合方法の適用が可能である。
【0029】
抗ウイルス性を有するカーテンに用いる酸化タングステン系微粒子は、平均一次粒子径
として1〜200nmの範囲の平均一次粒子径(D50)を有することが好ましい。また、
酸化タングステン系微粒子は4.1〜820m/gの範囲のBET比表面積を有するこ
とが好ましい。平均一次粒子径はSEMやTEM等の写真の画像解析から、n=50個以
上の粒子の体積基準の積算径における平均一次粒子径(D50)に基づいて求めるものとす
る。平均一次粒子径(D50)は比表面積から換算した平均一次粒子径と一致していてもよ
い。
【0030】
抗ウイルス性を有する微粒子の性能は、比表面積が大きく、粒径が小さい方が高くなる
。酸化タングステン系微粒子の平均一次粒子径が200nmを超える場合やBET比表面
積が4.1m/g未満の場合には、均一で安定な膜の形成が困難となり、十分な抗ウイ
ルス性能が得られないおそれがある。一方、酸化タングステン系微粒子の平均一次粒子径
が1nm未満の場合やBET比表面積が820m/gを超える場合には、粒子が小さく
なりすぎて取扱い性(粉末としての取扱い性)が劣るため、抗ウイルス性を有する材料(
微粒子)としての実用性が低下する。酸化タングステン系微粒子のBET比表面積は8.
2〜410m/gの範囲であることがより好ましく、平均一次粒子径は2〜100nm
の範囲であることがより好ましい。
【0031】
酸化タングステン系微粒子の平均一次粒子径は2.7〜75nmの範囲であることが好
ましく、さらに好ましくは5.5〜51nmの範囲である。BET比表面積は11〜30
0m2/gの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは16〜150m/gの範囲
である。酸化タングステン系微粒子を分散液に混ぜて塗布したり、基材に練り込んで使用
する場合、粒子径が小さすぎると粒子の分散性が低下する。このような点を改善する上で
、平均一次粒子径が5.5nm以上の酸化タングステン系微粒子を用いることが好ましい

【0032】
酸化タングステン系微粒子の一次粒子経のうち40nm以下の大きさである粒子が15
%以上含まれていることが好ましい。細菌のサイズは0.5〜2μm程度の大きさである
のに対し、ウイルスは数10〜300nm程度と小さく、細菌に比較して1/10〜1/
100のサイズである。このため、ウイルスを不活化するためには、より細かい微粒子が
多く存在することが効果的である。より好ましくは、均一な細かい微粒子であることであ
るが、大きめの粒子を含んでいても細かい微粒子を多く含むことにより、効果を発揮する
ことができる。特にエンベローブを表面に有する形態のウイルスに対しては、特に粒径が
細かい微粒子が多く存在していると、高い抗ウイルス性能を得ることができる。
【0033】
酸化タングステン微粒子や酸化タングステン複合材微粒子を構成する酸化タングステン
は、三酸化タングステンの単斜晶および三斜晶から選ばれる少なくとも1種の結晶構造、
あるいは前記単斜晶および三斜晶から選ばれる少なくとも1種に斜方晶が混入した結晶構
造を有することが好ましい。このような結晶構造を有する酸化タングステンを用いた酸化
タングステン微粒子や酸化タングステン複合材微粒子は、優れた抗ウイルス性能を安定し
て発揮させることができる。三酸化タングステンの各結晶相の存在比率を同定することは
困難であるものの、X線回折法で測定した際に下記の(1)および(2)の条件を満足す
る場合に、上記した結晶構造を有するものと推定することができる。
【0034】
(1)X線回折チャートにおいて、2θが22.5〜25°の範囲に第1ピーク(全ピ
ークのうち強度が最大の回折ピーク)、第2ピーク(強度が2番目に大きい回折ピーク)
、および第3ピーク(強度が3番目に大きい回折ピーク)を有する。
(2)X線回折チャートにおいて、2θが22.8〜23.4°の範囲に存在するピー
クをA、2θが23.4〜23.8°の範囲に存在するピークをB、2θが24.0〜2
4.25°の範囲に存在するピークをC、2θが24.25〜24.5°の範囲に存在す
るピークをDとしたとき、ピークDに対するピークAの強度比(A/D)およびピークD
に対するピークBの強度比(B/D)がそれぞれ0.5〜2.0の範囲であり、かつピー
クDに対するピークCの強度比(C/D)が0.04〜2.5の範囲である。
【0035】
X線回折の測定および解析について説明する。X線回折測定はCuターゲット、Niフ
ィルタを使用して行い、解析が処理条件の違いの影響を受けないように、平滑化処理とバ
ックグラウンド除去のみを行い、Kα2除去を行わずにピーク強度の測定を行うものとす
る。ここで、X線回折チャートのそれぞれの2θ範囲内でのピーク強度の読み取り方は、
山が明確な場合にはその範囲内での山の高い位置をピークとし、その高さを読み取るもの
とする。山が明確でないが肩がある場合には、肩の部分をその範囲内のピークとし、肩の
部分の高さを読み取るものとする。山や肩がない勾配の場合には、その範囲の中間での高
さを読み取って、その範囲内のピーク強度と見なすものとする。
【0036】
酸化タングステン系微粒子の結晶性が低い場合、あるいは酸化タングステン系微粒子の
粒子径が非常に小さい場合には、X線回折チャートにおける2θが22.5〜25°の範
囲内において、
(1) 1ピークのみを有し、半値幅が1°以上である。
あるいは
(2)第1ピーク、第2ピークを有し、ピークの谷間の強度が第1ピークの強度比の10
%以上である。
あるいは、
(3) 第1、第2、第3ピークを有し、各ピークの谷間のうち、最も低い谷間の強度が
、第1ピークの強度比の10%以上となることがある。

この場合、より細かい微粒子が多く存在していることを示し、高い抗ウイルス性能を得る
ことができる。
【0037】
また、X線回折チャートにおける2θが22.5〜25°の範囲に、第1ピーク、第2
ピークm、および第3ピークを有し、かつ、各ピークの谷間が第1ピークに対する強度比
の10%以上である場合、はより細かい微粒子が多く存在していることを示し、高い抗ウ
イルス性能を得ることができる。
【0038】
上述したような粒子径(比表面積)や結晶構造を有する酸化タングステン系微粒子を用
いることによって、抗ウイルス性能を示す材料を実現することができる。このような抗ウ
イルス性材料をカーテンに適用することによって、屋内環境、特に照度の低い室内環境で
用いた場合でも実用的な抗ウイルス性能を発揮するカーテンを得ることができる。
【0039】
酸化タングステンは光触媒作用を有することが知られている。この実施形態の抗ウイル
ス性材料に用いられる酸化タングステン系微粒子は、上述した粒径(比表面積)や結晶構
造を満足させ、さらには酸化タングステンや酸化タングステン複合材の結晶性を高めるこ
とによって、光の照射が少ない可視光照射下においても高い抗ウイルス性能を示すもので
ある。例えば、前述したX線回折チャートにおけるピーク強度比において、ピークDに対
するピークAの強度比(A/D)およびピークDに対するピークBの強度比(B/D)が
それぞれ0.7〜2.0の範囲であり、かつピークDに対するピークCの強度比(C/D
)が0.5〜2.5の範囲であるときに光触媒活性が高くなり、より一層良好な抗ウイル
ス性能を発揮させることができる。
【0040】
酸化チタン系光触媒の場合、窒素や硫黄をドープして可視光の吸収性能を高めることに
よって、可視光応答性を向上させることができる。さらに、熱処理温度を制御して結晶性
を向上させたり、あるいは金属を担持させることによって、電子や正孔の再結合を防いで
光触媒活性を高めることができる。しかしながら、著しく高い照度の下では高い性能を発
揮する酸化チタンも、照度の低下に伴って性能が低下し、日常的な低い照度では実用的な
光触媒性能を示すものは得られていない。そのため、酸化チタン系の可視光応答性を向上
させた光触媒をカーテンに用いた場合でも、特に屋内においては、実用的な抗ウイルス性
能は得られていなかった。
【0041】
上述したような条件を満足する酸化タングステン系微粒子を用いることによって、通常
の屋内環境において、より高い抗ウイルス性能を有するカーテンを得ることが可能となる
。ここで、抗ウイルス性を有するカーテンに照射する可視光としては、上記した白色蛍光
灯の光のみならず、太陽光、白色LED、電球、ハロゲンランプ、キセノンランプ等の一
般照明、青色発光ダイオード、青色レーザ等を光源とする光であってもよい。さらに、抗
ウイルスカーテンは照度の高い可視光を照射することで、より高い抗ウイルス性能を発揮
させることが可能となる。
【0042】
この実施形態の抗ウイルス性を有するカーテンが高い抗ウイルス性能を発揮するのは、
酸化タングステン微粒子の比表面積を大きくし、微粒子の粒径を小さくする、あるいはよ
り細かい微粒子を多く含有させることでウイルスとの接触面積が増加し、これにより活性
サイトを増加させることができることに加えて、結晶性の向上により電子や正孔の再結合
の確率が低下するためである。
【0043】
酸化タングステンのバンドギャップは2.5〜2.8eVであり、酸化チタンより小さ
いために可視光を吸収する。従って、優れた可視光応答性が実現できる。さらに、酸化タ
ングステンの代表的な結晶構造はReO構造であることから、表面最外層に酸素を持つ
反応活性が高い結晶面が露出しやすい。このため、水を吸着することにより高い親水性を
発揮する。あるいは、吸着した水を酸化することでOHラジカルを生成し、それにより分
子や化合物を酸化することができるため、酸化チタンのアナターゼやルチル結晶より優れ
た光触媒性能を発揮させることが可能となる。加えて、この実施形態による酸化タングス
テン系微粒子はpH1〜7の水溶液中でのゼータ電位がマイナスであるために分散性に優
れ、これにより基材等に薄くむらなく塗布することができる。
【0044】
なお、抗ウイルス性を有するカーテンに用いられる酸化タングステン系微粒子(粉末)
は、不純物として金属元素を含有していてもよい。不純物元素としての金属元素の含有量
は2質量%以下であることが好ましい。不純物金属元素としては、タングステン鉱石中に
一般的に含まれる元素や原料として使用するタングステン化合物等を製造する際に混入す
る汚染元素等があり、例えばFe、Mo、Mn、Cu、Ti、Al、Ca、Ni、Cr、
Mg等が挙げられる。これらの元素を複合材の構成元素として用いる場合には、この限り
ではない。
【0045】

本発明の実施形態による抗ウイルス性を有するカーテンに用いられる酸化タングステン系
微粒子(粉末)は以下に示す方法で作製することが好ましいが、これに限定されるもので
はない。酸化タングステン微粒子は昇華工程を適用して作製することが好ましい。また、
昇華工程に熱処理工程を組合せることも有効である。このような方法で作製した三酸化タ
ングステン系微粒子によれば、上述した平均一次粒子径やBET比表面積、結晶構造を安
定して実現することができる。さらに、平均一次粒子径がBET比表面積から換算した値
に近似し、粒径ばらつきが小さい微粒子(微粉末)を安定して提供することができる。
【0046】
まず、昇華工程について述べる。昇華工程は、金属タングステン粉末、タングステン化
合物粉末、またはタングステン化合物溶液を、酸素雰囲気中で昇華させることによって、
三酸化タングステン微粒子を得る工程である。昇華とは固相から気相、あるいは気相から
固相への状態変化が、液相を経ずに起こる現象である。原料としての金属タングステン粉
末、タングステン化合物粉末、またはタングステン化合物溶液を、昇華させながら酸化さ
せることによって、微粒子状態の酸化タングステン粉末を得ることができる。
【0047】
昇華工程の原料(タングステン原料)には、金属タングステン粉末、タングステン化合
物粉末、またはタングステン化合物溶液のいずれを使用してもよい。原料として使用する
タングステン化合物としては、例えば三酸化タングステン(WO)、二酸化タングステ
ン(WO)、低級酸化物等の酸化タングステン、炭化タングステン、タングステン酸ア
ンモニウム、タングステン酸カルシウム、タングステン酸等が挙げられる。
【0048】
上述したようなタングステン原料の昇華工程を酸素雰囲気中で行うことで、金属タング
ステン粉末やタングステン化合物粉末を瞬時に固相から気相とし、さらに気相となった金
属タングステン蒸気を酸化することによって、酸化タングステン微粒子が得られる。溶液
を使用した場合でも、タングステン酸化物あるいは化合物を経て気相となる。このように
、気相での酸化反応を利用することによって、酸化タングステン微粒子を得ることができ
る。さらに、酸化タングステン微粒子の結晶構造を制御することができる。
【0049】
昇華工程の原料としては、酸素雰囲気中で昇華して得られる酸化タングステン微粒子に
不純物が含まれにくいことから、金属タングステン粉末、酸化タングステン粉末、炭化タ
ングステン粉末、およびタングステン酸アンモニウム粉末から選ばれる少なくとも1種を
使用することが好ましい。金属タングステン粉末や酸化タングステン粉末は、昇華工程で
形成される副生成物(酸化タングステン以外の物質)として有害なものが含まれないこと
から、特に昇華工程の原料として好ましい。
【0050】
原料に用いるタングステン化合物としては、その構成元素としてタングステン(W)と
酸素(O)を含む化合物が好ましい。構成成分としてWおよびOを含んでいると、昇華工
程で後述する誘導結合型プラズマ処理等を適用した際に瞬時に昇華されやすくなる。この
ようなタングステン化合物としては、WO、W2058、W1849、WO等が
挙げられる。また、タングステン酸、パラタングステン酸アンモニウム、メタタングステ
ン酸アンモニウムの溶液あるいは塩等も有効である。
【0051】
酸化タングステン複合材微粒子を作製する際には、タングステン原料に加えて遷移金属
元素やその他の元素を、金属、酸化物を含む化合物、複合化合物等の形態で混ぜてもよい
。酸化タングステンを他の元素と同時に処理することによって、酸化タングステンと他の
元素との複合酸化物等の複合化合物微粒子を得ることができる。酸化タングステン複合材
微粒子は、酸化タングステン微粒子を他の金属元素の単体粒子や化合物粒子と混合、担持
させることによっても得ることができる。酸化タングステンと他の金属元素との複合方法
は特に限定されるものではなく、各種公知の方法を適用することが可能である。
【0052】
タングステン原料としての金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末は0.1〜
100μmの範囲の平均粒子径を有することが好ましい。タングステン原料の平均粒子径
は0.3μm〜10μmの範囲がより好ましくは、さらに好ましくは0.3μm〜3μm
の範囲、望ましくは0.3μm〜1.5μmの範囲である。上記範囲内の平均粒子径を有
する金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を用いると、昇華が生じやすい。
【0053】
タングステン原料の平均粒子径が0.1μm未満の場合には原料粉が微細すぎるため、
原料粉の事前調整が必要になったり、取扱い性が低下することに加えて、高価になるため
に工業的に好ましくない。タングステン原料の平均粒子径が100μmを超えると均一な
昇華反応が起きにくくなる。平均粒子径が大きくても大きなエネルギー量で処理すれば均
一な昇華反応を生じさせることができるが、工業的には好ましくない。
【0054】
抗ウイルス性能を高めるためには、粒径のバラツキが小さく、小さい粒径を多く含むも
のが好ましく、このような微粒子を得るためには、処理量やエネルギー投入量が適切にコ
ントロールされる必要がある。一般的に微細で均一な粒子を作製する場合、粒子生成や熱
処理等の処理量を少なくする方が良い。しかし、工業的には、生産性も考慮する必要があ
り、処理量を多くせざるを得ない。その場合、粒子の粒径や結晶性のばらつきが大きくな
りやすい。しかし、粒子生成および熱処理の温度、時間、雰囲気等の条件を最適化するこ
とにより、活性が高い微粒子が多く含まれ、粒子の特性ばらつきを有していても高い光触
媒活性を発揮することが可能となる。
【0055】
昇華工程でタングステン原料を酸素雰囲気中で昇華させる方法としては、誘導結合型プ
ラズマ処理、アーク放電処理、レーザ処理、電子線処理、およびガスバーナー処理から選
ばれる少なくとも1種の処理が挙げられる。これらのうち、レーザ処理や電子線処理では
レーザまたは電子線を照射して昇華工程を行う。レーザや電子線は照射スポット径が小さ
いため、一度に大量の原料を処理するためには時間がかかるものの、原料粉の粒径や供給
量の安定性を厳しく制御する必要がないという長所がある。
【0056】
誘導結合型プラズマ処理やアーク放電処理は、プラズマやアーク放電の発生領域の調整
が必要であるものの、一度に大量の原料粉を酸素雰囲気中で酸化反応させることができる
。また、一度に処理できる原料の量を制御することができる。ガスバーナー処理は動力費
が比較的安いものの、原料粉や原料溶液を多量に処理することが難しい。このため、ガス
バーナー処理は生産性の点で劣るものである。なお、ガスバーナー処理は昇華させるのに
十分なエネルギーを有するものであればよく、特に限定されるものではない。プロパンガ
スバーナーやアセチレンガスバーナー等が用いられる。
【0057】
昇華工程に誘導結合型プラズマ処理を適用する場合、通常アルゴンガスや酸素ガスを用
いてプラズマを発生させ、このプラズマ中に金属タングステン粉末やタングステン化合物
粉末を供給する方法が用いられる。プラズマ中にタングステン原料を供給する方法として
は、例えば金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末をキャリアガスと共に吹き込
む方法、金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を所定の液状分散媒中に分散さ
せた分散液を吹き込む方法等が挙げられる。
【0058】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末をプラズマ中に吹き込む場合に用いら
れるキャリアガスとしては、例えば空気、酸素、酸素を含有した不活性ガス等が挙げられ
る。これらのうち、空気は低コストであるために好ましく用いられる。キャリアガスの他
に酸素を含む反応ガスを流入する場合や、タングステン化合物粉末が三酸化タングステン
の場合等、反応場中に酸素が十分に含まれているときには、キャリアガスとしてアルゴン
やヘリウム等の不活性ガスを用いてもよい。反応ガスには酸素や酸素を含む不活性ガス等
を用いることが好ましい。酸素を含む不活性ガスを用いる場合、酸化反応に必要な酸素量
を十分に供給することが可能なように、酸素量を設定することが好ましい。
【0059】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末をキャリアガスと共に吹き込む方法を
適用すると共に、ガス流量や反応容器内の圧力等を調整することによって、三酸化タング
ステン微粒子の結晶構造を制御しやすい。具体的には、単斜晶および三斜晶から選ばれる
少なくとも1種(単斜晶、三斜晶、または単斜晶と三斜晶との混晶)、あるいはそれに斜
方晶を混在させた結晶構造を有する三酸化タングステン微粒子が得られやすい。三酸化タ
ングステン微粒子の結晶構造は、単斜晶と三斜晶との混晶、あるいは単斜晶と三斜晶と斜
方晶の混晶であることがより好ましい。
【0060】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末の分散液の作製に用いられる分散媒と
しては、分子中に酸素原子を有する液状分散媒が挙げられる。分散液を用いると原料粉の
取扱いが容易になる。分子中に酸素原子を有する液状分散媒としては、例えば水およびア
ルコールから選ばれる少なくとも1種を20容量%以上含むものが用いられる。液状分散
媒として用いるアルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール
および2−プロパノールから選ばれる少なくとも1種が好ましい。水やアルコールはプラ
ズマの熱で容易に揮発しやすいため、原料粉の昇華反応や酸化反応を妨害することはなく
、分子中に酸素を含有していることから酸化反応を促進しやすい。
【0061】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を分散媒に分散させて分散液を作製す
る場合、金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末は分散液中に10〜95質量%
の範囲で含ませることが好ましく、さらに好ましくは40〜80質量%の範囲である。こ
のような範囲で分散液中の分散させることで、金属タングステン粉末やタングステン化合
物粉末を分散液中に均一に分散させることができる。均一に分散していると原料粉の昇華
反応が均一に生じやすい。分散液中の含有量が10質量%未満では原料粉の量が少なすぎ
て効率よく製造ができない。95質量%を超えると分散液が少なく、原料粉の粘性が増大
することで、容器にこびりつき易くなるために取扱い性が低下する。
【0062】
金属タングステン粉末やタングステン化合物粉末を分散液にしてプラズマ中に吹き込む
方法を適用することによって、三酸化タングステン微粒子の結晶構造を制御しやすい。具
体的には、単斜晶および三斜晶から選ばれる少なくとも1種、またはそれに斜方晶を混在
させた結晶構造を有する三酸化タングステン微粒子が得られやすい。さらに、タングステ
ン化合物溶液を原料として用いることによっても、昇華反応を均一に行うことができ、さ
らに三酸化タングステン微粒子の結晶構造の制御性が向上する。上記したような分散液を
用いる方法は、アーク放電処理にも適用することが可能である。
【0063】
レーザや電子線を照射して昇華工程を実施する場合は、金属タングステンやタングステ
ン化合物をペレット状にしたものを原料として使用することが好ましい。レーザや電子線
は照射スポット径が小さいため、金属タングステン粉末、タングステン化合物粉末を用い
ると供給が困難になるが、ペレット状にした金属タングステンやタングステン化合物を用
いることで効率よく昇華させることができる。レーザは金属タングステンやタングステン
化合物を昇華させるのに十分なエネルギーを有するものであればよく、特に限定されるも
のではないが、COレーザが高エネルギーであるために好ましい。
【0064】
レーザや電子線をペレットに照射する際に、レーザ光や電子線の照射源またはペレット
の少なくとも一方を移動させると、ある程度の大きさを有するペレットの全面を有効に昇
華することができる。これによって、単斜晶および三斜晶から選ばれる少なくとも1種に
斜方晶を混在させた結晶構造を有する三酸化タングステン粉末が得られやくなる。上記し
たようなペレットは誘導結合型プラズマ処理やアーク放電処理にも適用可能である。
【0065】
この実施形態の抗ウイルス性を有するカーテンに用いられる酸化タングステン系微粒子
は、上述したような昇華工程のみによっても得ることができるが、昇華工程で作製した酸
化タングステン系微粒子に熱処理工程を実施することも有効である。熱処理工程は、昇華
工程で得られた三酸化タングステン系微粒子を、酸化雰囲気中にて所定の温度と時間で熱
処理するものである。昇華工程の条件制御等で三酸化タングステン微粒子を十分に形成す
ることができない場合でも、熱処理を施すことで酸化タングステン微粒子中の三酸化タン
グステン微粒子の割合を99%以上、実質的には100%にすることができる。さらに、
熱処理工程で三酸化タングステン微粒子の結晶構造を所定の構造に調整することができる

【0066】
熱処理工程で用いられる酸化雰囲気としては、例えば空気や酸素含有ガスが挙げられる
。酸素含有ガスとは酸素を含有した不活性ガスを意味する。熱処理温度は200〜100
0℃の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは400〜700℃である。熱処理時
間は10分〜5時間とすることが好ましく、さらに好ましくは30分〜2時間である。熱
処理工程の温度および時間を上記範囲内にすることによって、三酸化タングステン以外の
酸化タングステンから三酸化タングステンを形成しやすい。また、欠陥が少ない結晶性の
良い粉末を得るためには、熱処理時の昇温や降温を緩やかに実施することが好ましい。熱
処理時の急激な加熱や急冷は結晶性の低下を招くことになる。
【0067】
熱処理温度が200℃未満の場合には、昇華工程で三酸化タングステンにならなかった
粉末を三酸化タングステンにするための酸化効果を十分に得ることができないおそれがあ
る。熱処理温度が1000℃を超えると酸化タングステン微粒子が急激に粒成長するため
、得られる酸化タングステン微粉末の比表面積が低下しやすい。さらに、上記したような
温度と時間で熱処理工程を行うことによって、三酸化タングステン微粉末の結晶構造や結
晶性を調整することが可能となる。
【0068】
この実施形態の抗ウイルス性を有するカーテンは、各種の形態や構成のカーテンに適用
することができる。抗ウイルス性を有するカーテンは上述したような製造方法で作製した
酸化タングステン系微粒子をカーテン基材の表面に付着させたり、あるいは基材中への練
り込み、機材の成形工程で微粒子を含有する表面層を形成する方法など、既知の方法によ
って具備させることができる。酸化タングステン系微粒子をカーテン基材表面に付着させ
る方法としては、例えば酸化タングステン系微粒子を水やアルコール等の分散媒中に分散
させた分散液や塗料を基材の表面に塗布する方法が挙げられる。このような方法を適用す
ることによって、酸化タングステン系微粒子を具備する被膜や塗膜等の表面層を有する抗
ウイルス性カーテンを得ることができる。
【0069】
この実施形態の抗ウイルス性を有するカーテンは、様々な基材のカーテンに適用できる
。この実施形態の抗ウイルス性を有するカーテンの基材には、天然繊維、合繊繊維、これ
らの混合繊維などの不織布または織布、紙、発泡性樹脂生地等に各種素材を適用すること
ができる。
天然繊維としては、綿、麻、パルプ等の植物繊維、毛、絹などの動物繊維のいずれでも
良いが、綿が好適である。
また、合繊繊維としては、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリオレフィン系、ポリア
クリロニトリル系、ポリウレタン系繊維等が上げられるが、ポリオレフィン系、ポリエス
テル系繊維が好適である。中でもポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリエチレン
テレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維が好ましい。
また、レーヨン、アセテート等の再生、半合成繊維などを使用できる。
また、不織布の製法は、スパンポンド法、メルトブロー法、ポイントボイド法、乾式又は
湿式法など任意に選定できる。
【0070】
抗ウイルス性を有する基材の表面層は抗ウイルス性を有する酸化タングステン系微粒子
を0.1〜90質量%の範囲で含有することが好ましい。抗ウイルス性を有する酸化タン
グステン系微粒子の含有量が0.1質量%未満であると、抗ウイルス性能を十分に得るこ
とができないおそれがある。抗ウイルス性を有する酸化タングステン系微粒子の含有量が
90質量%を超える場合には、基材表面層の特性が低下するおそれがある。抗ウイルス性
を有する表面層の厚みは2〜1000nmの範囲であること好ましい。層の厚みが2nm
未満であると抗ウイルス性を有する材料の量が不足し、抗ウイルス性能を十分に得ること
ができないおそれがある。抗ウイルス性の表面層の厚みが1000nmを超える場合、抗
ウイルス性能は得られるものの、表面層の強度が低下しやすい。抗ウイルス性を有する表
面層の厚さは2〜400nmの範囲であることがより好ましい。
【0071】
抗ウイルス性を有する表面層は酸化タングステン系微粒子を用いた抗ウイルス性を有す
る材料以外に、無機バインダ等を含有していてもよい。無機バインダとしてはSi、Ti
、Al、WおよびZrから選ばれる少なくとも1種の元素のアモルファス酸化物が挙げら
れる。アモルファス酸化物からなる無機バインダは、例えば酸化タングステン系微粒子を
用いた塗料中にコロイダルシリカ、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル等とし
て添加することにより用いられる。無機バインダの含有量は5〜95質量%の範囲とする
ことが好ましい。抗ウイルス性を有する表面層において、無機バインダの含有量が95質
量%を超えると、所望の抗ウイルス性能を得ることができないおそれがある。無機バイン
ダの含有量が5質量%未満の場合には十分な結合力が得られない。
【0072】
この実施形態の抗ウイルス性を有するカーテンの形態は、基材に抗ウイルス性を有する
酸化タングステン系微粒子を付着もしくは含浸させた形態、抗ウイルス性を有する酸化タ
ングステン系微粒子を含有する分散液や塗料を基材に塗布する形態等が挙げられる。抗ウ
イルス性を有する酸化タングステン系微粒子は活性炭やゼオライト等の吸着性能を有する
材料と混合、担持、含浸等の処理を行って使用してもよい。抗ウイルス性を有するカーテ
ンは照度が1000lx以下の可視光の照射下で用いることができ、低病原性鳥インフル
エンザウイルス(H9N2)、高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1)、および
豚インフルエンザウイルスから選ばれる少なくとも1種のウイルスに対する抗ウイルスを
目的として使用されるものである。しかしながら、これらのウイルス以外の抗ウイルスを
目的として使用することは可能である。
【0073】
また、この実施形態の抗ウイルス性を有するカーテンは、照度が1000lx以下の可
視光の照射下でも、抗ウイルス性能を有しているため、カーテンの外表面層のみならず、
光の届きにくい層の内部まで具備させた場合でも抗ウイルス性能を発揮することができ、
より高いウイルスの不活化効率を有する、高性能なカーテンを提供することができる。
【0074】
この実施形態の抗ウイルス性を有するカーテンは、実用的な抗ウイルス性能を発揮する
ものであるため、通常の屋内空間などの低照度の可視光照射下で使用された場合でも、抗
ウイルス性能を得ることができ、光の少ない夜間であっても抗ウイルス性能を発揮させる
ことができる。従来から使用されている抗ウイルス性金属イオンを利用した抗ウイルス剤
のように、変質による性能の低下がなく、実用的な抗ウイルス性能を安定的に発揮させる
ことが可能である。
【0075】
[実施例]
次に、本発明の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。粉末の製造方法と
して、タングステン酸アンモニウム塩を用いる、あるいは、昇華工程に誘導結合型プラズ
マ処理を適用しているが、本発明は、これに限定されるものではない。
また、カーテンの評価は、得られた微粒子を水中で分散させて水分散液を調整し、Si
バインダーを用いて、木綿繊維の目付け90g/mの布に付着させ、この微粒子を
付着させた木綿繊維布から5cm×5cmの試験片を切り出して、微粒子同様にして抗ウ
イルス性を評価した。なお、このときの無加工試験片は、試料と同一量のSiOバイン
ダーのみを付着させた布を用いた。ただし、カーテン基材や塗布方法はこれに限定される
ものではない。
【0076】
(実施例1)
原料として密度4.7g/cmの酸化タングステンのペレットを用意した。これを反
応容器に設置し、酸素を10L/minの流量で流しながら圧力を3.5kPaに保持カ
ーテンつ、COレーザを照射した。レーザ処理により作製した酸化タングステン微粒子
を大気中にて900℃、0.5hの条件下で熱処理し、実施例1の微粒子を得た。
得られた微粒子の平均一次粒子径(D50)とBET比表面積を測定した。平均一次粒子
径はTEM写真の画像解析によって測定した。TEM観察には日立社製H−7100FA
を使用し、拡大写真を画像解析にかけて粒子50個以上を抽出し、体積基準の積算径を求
めてD50を算出した。また、40nm以下の大きさの粒子の累積頻度から含有比率を算出
した。BET比表面積の測定は、マウンテック社製比表面積測定装置Macsorb12
01を用いて行った。前処理は窒素中にて200℃×20分の条件で実施した。平均一次
粒子径(D50)、40nm以下の粒子の比率とBET比表面積との測定結果を表1に示
す。
【0077】
さらに、得られた微粒子のX線回折を実施した。X線回折はリガク社製X線回折装置R
INT−2000を用いて、Cuターゲット、Niフィルタ、グラファイト(002)モ
ノクロメータを使用して行った。測定条件は、管球電圧:40kV、管球電流:40mA
、発散スリット:1/2°、散乱スリット:自動、受光スリット:0.15mm、2θ測
定範囲:20〜70°、走査速度:0.5°/min、サンプリング幅:0.004°で
ある。ピーク強度の測定にあたり、Kα2除去は行わずに、平滑化とバックグラウンド除
去の処理のみを行った。平滑化はSavizky−Golay(最小二乗法)を用い、フ
ィルタポイント11とした。バックグラウンド除去は、測定範囲内で直線フィット、閾値
σ3.0として行った。X線回折結果に基づく微粒子の2θが22.5〜25°の間に存
在するピークの数および第3ピークまで有する場合にはピークの谷間の第1ピークに対す
る強度比を求め表1に示す。
【0078】
次に、得られた微粒子の抗ウイルス性能の評価を行った。まず、微粒子を水と混合した
後に、超音波分散処理を行って分散液を作製した。この時、試験片用基材への微粒子の固
着を強固にするために微粒子の質量比で0.1のコロイダルシリカを混合した。この分散
液を5×5cmのガラス板に広げ、200℃で30分間乾燥させることによって、10m
gの酸化タングステン微粒子を塗布した試料を作製した。微粒子の付着量は、0.4mg
/cmである。ここで、無加工試験片として、試料と同一量のコロイダルシリカのみを
塗布したガラス板を作製した。
試験片の抗ウイルス性評価は、JIS−R−1702(2006)の「光照射下での光
触媒抗菌加工製品の抗菌性試験方法・抗菌効果」に準じた方法とした。ただし、光源には
白色蛍光灯(東芝ライテック社製、FL20SS・W/18)を使用し、紫外線カットフ
ィルタ(日東樹脂工業社製、クラレックスN−169)を用いて380nm未満の波長の
光をカットし、照度を6000lxに調整した。また、細菌の代わりに低病原性鳥インフ
ルエンザウイルス(H9N2 亜型)を用いてウイルス力価(ウイルス感染価)を測定し
た。
【0079】
具体的な評価手順は以下のとおりである。まず、評価対象の試験片および無加工試験片
にインフルエンザウイルスをそれぞれ100μL接種し、各表面にフィルムでカバーし、
35±1℃、相対湿度90%の条件下で静置した。次に蛍光灯により照度6000lxの
可視光を照射し、一定の反応時間(0hおよび24h)経過した後、ウイルス液を生理食
塩水で希釈することで回収した。さらに回収液を10倍段階希釈し、培養したMDCK細
胞(イヌ腎臓由来株化細胞)に感染させ、37℃、CO濃度5%で5日間培養した。培
養後、細胞の形態変化(細胞変性効果)の有無を観察し、50%培養細胞に感染した量を
算出することで、1mL当たりのウイルス力価(TCID50/mL)を求めた。ウイル
ス力価は3回の評価試験の平均値として求めた。さらに、6000lx照射24h経過後
の無加工試験片のウイルス力価から、6000lx照射24h経過後の微粒子を付着させ
た試験片のウイルス力価を差し引き、不活化効果R<6000lx、24h>を求めた。
同様にして、1000lx照射24h経過後のウイルス力価から、不活化効果R<100
0lx、24h>、6000lx照射4h経過後のウイルス力価から、不活化効果R<6
000lx、4h>を求めた。結果を表1に示す。
【0080】
無加工試験片の可視光照射前および6000lx照射24h経過後では、ウイルス力価
の対数値logTCID50で約1の減少があった。これは、単にガラス板のみで光照射
なしの場合と同等の減少範囲であり、自然減少の範囲といえる。
実施例1による酸化タングステン微粒子は粒径がやや大きいため、抗ウイルス性を示し
たものの、不活化効果の値Rは小さいものであった。6000lxの4h照射では、Rが
1以下であり、より効果が小さいものであった。これらの結果は、酸化タングステン微粒
子の粒径がやや大きいため、ウイルスと接触しにくく、光触媒効果によるタンパク質の分
解がすすみにくかったためと考えられる。
また、実施例1による酸化タングステン微粒子を用いて、前記した方法により木綿繊維
布に塗布しカーテンの評価を実施したところ、同様の結果を得た。
【0081】
(実施例2)
原料粉末として平均粒子径が0.5μmの三酸化タングステン粉末を用意した。この原
料粉末をキャリアガス(Ar)と共にRFプラズマに噴霧し、さらに反応ガスとして酸素
を80L/minの流量で流した。この際、反応容器内の圧力は20kPaに調整した。
このようにして、原料粉末を昇華させながら酸化反応させる昇華工程を経て、酸化タング
ステン微粒子を作製した。得られた酸化タングステン微粒子の平均粒子径(D50)、4
0nm以下の粒子の比率とBET比表面積等の粉末特性評価、X線回折結果に基づく微粒
子の2θが22.5〜25°の間に存在するピークの数および第3ピークまで有する場合
にはピークの谷間の第1ピークに対する強度比等のX線回折評価を実施例1と同様にして
行った。結果を表1に示す。
実施例1と同様にしてガラス板上に酸化タングステン微粒子を塗布して試験片を作製し
、6000lx可視光照射で4h経過後、24h経過後、1000lx可視光照射で経過
24h後のウイルス力価を評価し、不活化効果Rを求めた。結果を表1に示す。実施例2
の微粒子は、いずれの場合も高い不活化効果を示した。
また、実施例2による酸化タングステン微粒子を用いて、前記した方法により木綿繊維布
に塗布しカーテンの評価を実施したところ、同様の結果を得た。
【0082】
(実施例3〜5)
反応ガスとしてアルゴンを40L/min、空気を40L/minの流量で流し、反応
容器内の圧力を40kPaに調整する以外は、実施例2と同様にして昇華工程を実施して
酸化タングステン微粒子を作製した。ただし、実施例5のみ実施例2や他の条件より原料
投入速度を1.4倍に設定した。さらに、得られた微粒子を実施例3は550℃で1h、
実施例4は750℃で1h、実施例5は800℃で0.25hの条件で熱処理を施した。
このようにして得られた実施例3〜5の微粒子の粉末特性およびX線回折評価の結果を表
1に示す。また、得られた微粒子について、実施例1と同様にしてウイルス力価を評価し
、不活化効果Rを求めた。結果を表1に示す。
【0083】
実施例3〜5は、いずれも高い不活化効果を示し、粒径が小さい方がより効果が高かっ
た。また、平均一次粒子径がほぼ同じ場合、40nm以下の小さい微粒子を多く含む方が
不活化効果が高かった。これは、粒径がウイルスの大きさに対して充分に小さく、さらに
小さい粒子が多く含まれる方がより接触面積が多くなるため、不活化効果が大きくなった
と考えられる。実施例3が実施例2より粒径が大きいにもかかわらず高い抗菌性能を示し
たのは、酸化タングステン微粒子の結晶性が向上し、欠陥等が少ないために、有機物分解
等の光触媒性能が向上したためであると考えられる。
また、実施例3〜5による酸化タングステン微粒子を用いて、前記した方法により木綿繊
維布に塗布しカーテンの評価を実施したところ、同様の結果を得た。
【0084】
(実施例6〜13)
実施例6は、プラズマに投入する原料として、FeやMo等の不純物が多い酸化タング
ステン粉末を用いる以外は、実施例3と同様の昇華工程と熱処理工程を実施し、Feを5
00ppm含有する酸化タングステン複合材微粒子を作製した。
実施例7は、実施例3で得られた酸化タングステン微粒子に酸化銅(CuO)粉末を0
.5質量%混合し、複合材微粒子を作製した。
実施例8は、実施例3で得られた酸化タングステン微粒子に酸化チタン粉末を10質量
%の割合で混合することにより複合材微粒子を作製した。
【0085】
実施例9は、プラズマに投入する原料として酸化タングステン粉末に酸化ジルコニウム
粉末を混合して使用する以外は、実施例3と同じにして昇華工程と熱処理工程とを実施す
ることにより、ジルコニウム(Zr)を0.2質量%含有する酸化タングステン複合材微
粒子を作製した。
実施例10は、実施例3で得られた酸化タングステン微粒子を塩化パラジウム水溶液に
分散させた。この分散液を遠心分離し、上澄みの除去と水の追加による洗浄を2回行った
後、上澄み除去後の粉末を110℃で12時間乾燥させることによって、パラジウム(P
d)を0.5質量%含有する酸化タングステン複合材微粒子を作製した。
【0086】
実施例11は、実施例3で得られた酸化タングステン微粒子を塩化マンガン水溶液に分
散させた。この分散液を遠心分離し、上澄み液の除去と水の追加による洗浄を2回以上行
った後、上澄み除去後の微粒子を110℃で12時間乾燥させることによって、マンガン
(Mn)を0.05質量%含有する酸化タングステン複合材微粒子を作製した。
実施例12は、実施例3で得られた酸化タングステン微粒子を塩化白金酸水溶液に分散
させ、可視光照射とメタノール投入を行い、光析出法による担持を行った。遠心分離を実
施し、上澄みの除去と水の追加による洗浄を2回行った後、上澄み除去後の粉末を110
℃で12時間乾燥させることによって、白金(Pt)を0.2質量%含有する酸化タング
ステン複合材微粒子を作製した。
【0087】
実施例13は、実施例3で得られた酸化タングステン微粒子を硝酸銀水溶液に分散させ
、光還元処理により担持を行った。遠心分離を実施し、上澄みの除去と水の追加による洗
浄を2回行った後、上澄み除去後の粉末を110℃で12時間乾燥させることによって、
銀(Ag)を0.01質量%含有する酸化タングステン複合材微粒子を作製した。
このようにして得られた微粒子の粉末特性およびX線回折評価の結果を表1に示す。ま
た、得られた微粒子について、実施例1と同様にしてウイルス力価を評価し、不活化効果
Rを求めた。結果を表1に示す。
【0088】
実施例6〜実施例13で得られた複合材微粒子は、実施例3と同等あるいは同等以上の
不活化効果Rを示し、高い抗ウイルス性を有していた。
実施例14は、実施例3で得られた酸化タングステン微粒子をアルミナゾルに分散させ
、この分散液を110℃で12時間乾燥させることによって、アルミナ(Al23)を2
質量%含有する酸化タングステン複合材微粒子を作製した。
実施例15は、実施例3で得られた酸化タングステン微粒子を塩化セリウム水溶液に分
散させた。この分散液を遠心分離し、上澄みの除去と水の追加による洗浄を2回行った後
、上澄み除去後の粉末を110℃で12時間乾燥させることによって、Ceを0.1質量
%含有する酸化タングステン複合材微粒子を作製した。
また、実施例6〜13による酸化タングステン複合材微粒子を用いて、前記した方法に
より木綿繊維布に塗布しカーテンの評価を実施したところ、同様の結果を得た。
【0089】
(比較例1)
試薬等として市販されている酸化タングステン粉末(レアメタリック社製)を用いて、
実施例1と同様の測定、評価を行った。粉末特性を表1に示す。さらに、実施例1と同様
にしてガラス板上に酸化タングステン微粒子を塗布したが、粒径が著しく大きいために膜
を形成することができず、ウイルス力価を評価することはできなかった。
また、同様に前記した方法により木綿繊維布に塗布しカーテンの評価を実施したところ
、同様にウイルス力価を評価することはできなかった。
【0090】
(比較例2)
可視光応答型光触媒としての窒素ドープ型酸化チタン粉末を用いて、実施例1と同様に
してウイルス力価を評価した。粉末特性、不活化効果を表1に示す。窒素ドープ型酸化チ
タン粉末は、照度が6000lxの可視光を24h照射した場合の不活化効果は0.1と
小さく、低照度、短時間光照射では、ほとんど抗ウイルス性能が得られなかった。
また、この粉末を用いて、前記した方法により木綿繊維布によるカーテンの評価を実施し
たところ、抗ウイルス性能は得られなかった。
【0091】
(比較例3)
一般に除菌用に使用されているアルコールとウイルスを同時に5×5cmのガラス板に
接種し、ウイルス力価の評価を行った。結果を表1に示す。ウイルスの不活化効果は得ら
れた。しかし、試験に使用したガラス板を再度評価に使用した場合には、不活化効果は得
られず、当然のことながら、アルコールが揮発した後には、効果がなかった。
【0092】
(実施例16)
実施例3で得られた酸化タングステン微粒子5質量%をアモルファスZrO0.5質
量%と水を混合して分散させて水系塗料を調整し、木綿繊維布に塗布した。この繊維布表
面において酸化タングステン微粒子を具備する表面層の厚みは、約200nmである。こ
の木綿繊維布から5×5cmの試験片を切り出して、微粒子の評価と同様にして抗ウイル
ス性を評価した。なお、このときの無加工試験片は、無加工の木綿繊維布を用いた。
【0093】
実施例16で使用した微粒子の粉末特性およびX線回折評価の結果を表1に示す。また
、作製した繊維布についてウイルス力価を評価したところ、不活化効果Rが高く、高い抗
ウイルス性を有していた。結果を表1に記す
【0094】
(実施例17)
抗ウイルス性能の持続性を評価するために、実施例14の部材のウイルス力価を成膜直
後と通常環境下で6ヶ月保存した後に評価した。不活化効果R<6000lx、24h>
はそれぞれ4.5、4.4であり、6ヵ月後においても高い抗ウイルス性が維持されるこ
とが確認された。
また、また同様の試験を木綿繊維布に塗布したサンプルで実施したところ、同様の結果
を得た。
【0095】
(比較例4)
Ag系抗菌剤を5×5cmのガラス板に塗布し、ウイルス力価の評価を行った。結果を
表1に示す。高い抗ウイルス性を示した。しかし、Ag系抗菌剤は高価であることに加え
て、金属アレルギーを発生する可能性がある。さらに、塗布したガラス板を6ヶ月間放置
した後、ウイルス力価の評価を行った結果、不活化効果がほとんどなくなっていた。抗菌
剤は、性能の持続期間が短いことが確認された。
また、このAg系抗菌剤を木綿繊維布に塗布し、評価を実施したところ、同様の結果を
得た。
【0096】
【表1】

【0097】
(実施例18)
実施例3で得られた酸化タングステン微粒子2.5mgを5×5cmのガラス板に塗布
して試料を作製する以外は、実施例3と同様にしてウイルス力価を評価した。酸化タング
ステン微粒子の付着量は0.1mg/cmであり、このとき形成された膜厚は約50n
mである。この結果、照度6000lxの可視光を24h照射した場合の不活化効果Rは
1.5であり、塗布量の減少により値は低下したが、抗ウイルス性を有することが確認さ
れた。これは、酸化タングステン粉末の粒径が小さく、均一な塗布層を形成することが可
能であることから、少量の粉末でも高い抗ウイルス性が得られたものと考えられる。
また、基材を木綿繊維布とした場合においても同様の結果を得た。
【0098】
以上のように酸化タングステン微粒子や酸化タングステン複合材微粒子を用いた抗ウイ
ルス性カーテンは、実用的な抗ウイルス性能を長期間に渡って発揮することができ、さら
に、低照度の可視光下でも高い抗ウイルス性を示すものである。
【0099】
ゼオライト、活性炭、多孔質セラミックス、珪藻土等に酸化タングステン微粒子や酸化
タングステン複合材微粒子を含有させ、これらを塗布したところ、ウイルスを低減するだ
けでなく、菌やカビの発生を低減することができることが確認された。従って、そのよう
な抗ウイルス材料を適用することで、実用的な抗ウイルス性能を長期間発揮するカーテン
を提供することが可能となる。
【0100】
さらに、酸化タングステン微粒子や酸化タングステン複合材微粒子を用いて水系分散液
を作製し、バインダーを用いてカーテンに付着させることにより、基材となる繊維を劣化
させることなく、ウイルスや菌を抑制し、さらに、アセトアルデヒド等の有機ガスの分解
性能も優れたカーテンを提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の態様に係る抗ウイルス性を有するカーテンは、可視光照射下において実用的な
抗ウイルス性能を示すものである。また、低照度の環境においても実用的な抗ウイルス性
能を有するため、カーテンの複数積層された構成において、光の届きにくい中間層に本発
明に微粒子を具備させることにより複数の層で抗ウイルス性能を発揮するため、さらに高
いウイルスの捕集および不活化効率を有するカーテンを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化タングステン微粒子および酸化タングステン複合材微粒子から選ばれる少なくとも
1種の微粒子を具備する抗ウイルス性を有するカーテンであって、
前記微粒子が、JIS−R−1702(2006)の光照射下での光触媒抗菌加工製品
の抗菌性試験方法・抗菌効果に準じた方法において、
0.01mg/cm以上40mg/cm以下の範囲で前記微粒子を付着させた試験片
に、低病原性鳥インフルエンザウイルス(H9N2)、高病原性鳥インフルエンザウイル
ス(H5N1)、および豚インフルエンザウイルスから選ばれる少なくとも1種のウイル
スを接種し、白色蛍光灯と紫外線カットフィルタを使用して、波長が380nm以上のみ
で、照度が6000lxの可視光を24時間照射した後のウイルス力値を評価したとき、
式(1)で表される不活化効果Rが1以上であることを特徴とする抗ウイルス性を有する
カーテン。
R=logC−logA ・・・ (1)
(式中、Cは無加工試験片を可視光下で24時間保存した後のウイルス力価TCID50
、Aは前記微粒子を塗布した前記試験片を可視光下で24時間保存した後のウイルス力価
TCID50である。)
【請求項2】
請求項1記載の抗ウイルス性を有するカーテンにおいて、
前記微粒子の、前記不活化効果Rが2以上であることを特徴とする抗ウイルス性を有す
るカーテン。
【請求項3】
請求項1または2記載の抗ウイルス性を有するカーテンにおいて、
前記試験の可視光の照度が1000lxとしたときの、前記微粒子の不活化効果Rが1
以上であることを特徴とする抗ウイルス性を有するカーテン。
【請求項4】
請求項1または2記載の抗ウイルス性を有するカーテンにおいて、
前記試験の可視光照射時間を4時間とした時の前記微粒子の不活化効果Rが0.5以上
であることを特徴とする抗ウイルス性を有するカーテン。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項記載の抗ウイルス性を有するカーテンにおいて、
前記微粒子の平均一次粒子径(D50)が1nm以上200nm以下の範囲であることを
特徴とする抗ウイルス性を有するカーテン。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項記載の抗ウイルス性を有するカーテンにおいて、
前記微粒子のBET比表面積が4.1m/g以上820m/g以下の範囲であるこ
とを特徴とする抗ウイルス性を有するカーテン。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項記載の抗ウイルス性を有するカーテンにおいて、
前記微粒子の一次粒子径のうち、40nm以下の大きさである粒子が15%以上含まれ
ていることを特徴とする抗ウイルス性を有するカーテン。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項記載の抗ウイルス性を有するカーテンにおいて、
前記微粒子はX線回折法で測定したとき、2θが22.5°以上25°以下の範囲に
(1)第1ピークのみを有し半値幅が1°以上である。
あるいは、
(2)第1ピーク、第2ピークを有し、ピークの谷間の強度が第1ピークの強度比の10
%以上である。
あるいは、
(3)第1、第2、第3ピークを有し、各ピークの谷間のうち最も低い谷間の強度が第1
ピークの強度比の10%以上であることを特徴とする抗ウイルス性を有するカーテン。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項記載の抗ウイルス性を有するカーテンにおいて、
前記微粒子は、遷移金属元素を0.01質量%以上50質量%以下の範囲で含むことを
特徴とする抗ウイルス性を有するカーテン。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項記載の抗ウイルス性を有するカーテンにおいて、
前記微粒子はTi、Zr、Mn、Fe、Pd、Pt、Cu、Ag、Zn、AlおよびC
eから選ばれる少なくとも1種の金属元素を0.01質量%以上50質量%以下の範囲で
含むことを特徴とする抗ウイルス性を有するカーテン。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項記載の抗ウイルス性を有するカーテンにおいて、
前記微粒子がCu、AgおよびZnから選ばれる少なくとも1種の金属元素を0.01
質量%以上1質量%以下の範囲で含むことを特徴とする抗ウイルス性を有するカーテン。
【請求項12】
請求項9ないし11のいずれか1項記載の抗ウイルス性を有するカーテンにおいて、
前記金属元素が、単体、化合物、および酸化タングステンとの複合化合物から選ばれる
少なくとも1種の形態で、前記微粒子に含まれることを特徴とする抗ウイルス性を有する
カーテン。
【請求項13】
請求項1ないし12記載の抗ウイルス性を有するカーテンにおいて、
前記微粒子を具備する表面層が5質量%以上95質量%以下の範囲の無機バインダーを
含有することを特徴とする抗ウイルス性を有するカーテン。
【請求項14】
請求項13記載の抗ウイルス性を有するカーテンにおいて、
前記微粒子を具備する表面層の膜厚が2nm以上1000nm以下の範囲であることを
特徴とする抗ウイルス性を有するカーテン。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれか1項記載の抗ウイルス性を有するカーテンにおいて、
カーテン基材が木綿繊維であることを特徴とする抗ウイルス性を有するカーテン。
【請求項16】
請求項1ないし14のいずれか1項載の抗ウイルス性を有するカーテンにおいて、
カーテンの基材がポリプロピレン繊維の不織布であることを特徴とする抗ウイルス性を有
するカーテン。
【請求項17】
請求項1ないし16のいずれか1項記載の抗ウイルス性を有するカーテンにおいて、
基材が複数の繊維を積層する構造であり、前記微粒子が表面から2層目以上内部の層に具
備されていることを特徴とする抗ウイルス性を有するカーテン。

【公開番号】特開2011−212300(P2011−212300A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84264(P2010−84264)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(303058328)東芝マテリアル株式会社 (252)
【Fターム(参考)】