説明

抗スクレロスチン抗体

ヒトスクレロスチンと特異的に結合し、高い親和性及び強力な中和特性を有することを特徴とする、ヒト化及びキメラ抗体の提供に関する。本発明の抗体は、骨量、骨塩密度及び骨強度の増強、並びにヒト被験者の様々な障害(例えば骨粗鬆症)の治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学の分野、特にスクレロスチンに対する抗体の分野に関する。より具体的には、本発明はヒトスクレロスチンと特異的に結合する高親和性抗体、並びに、ヒト被験者における、骨量、骨塩密度、骨塩量及び骨強度の少なくとも1つの増加により利益を受ける様々な障害又は症状の治療への、当該抗体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
骨粗鬆症は骨塩密度(BMD)が低下し、骨の微細構造が崩壊し、骨粗鬆症の際の骨は骨折の危険性が高くなる疾患である。骨粗鬆症は依然として、特に高齢者における長期にわたる障害及び死亡率の大きな原因である。骨粗鬆症の有効な治療法として、生活様式の改善や薬物療法が存在するが、現在利用可能な治療方法は、数的に、及び有効性において限られたものであり、また望ましくない副作用をしばしば生じさせ、ゆえに患者への許容性は普遍的なものとはいえない。カルシトニン、ビスホスホネート、エストロゲン置換療法剤及び選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERMs)など多くの骨吸収抑制剤により、更なる骨損失が防止されるが、骨が失われた後では、それらは骨を再構築しない。ヒトPTH(1−34)の形態のタンパク質同化剤を、骨量及び骨塩密度の上昇、及び骨構造の再構築に利用できる。しかしながらこの治療薬は通常、1年以上の期間にわたり、毎日皮下注射する必要があり、患者がそれを遵守することは困難となる。
【0003】
スクレロスチン(SOST遺伝子産物)は、骨内の骨細胞において強発現している。スクレロスチンは、骨形成に対する強力な負の調節因子としての役割を有するため、骨量、骨塩密度、骨塩量及び骨強度の少なくとも1つの増加により利益を受ける障害又は症状(例えば骨粗鬆症)への治療的介入のための望ましい標的である。したがって、抗スクレロスチン抗体は、かかる障害又は症状を治療する同化アプローチにおいて有用であると考えられる。特許文献1:国際公開第2006/119107号パンフレットは、CDRの全てが完全にマウスのものである(すなわち、抗体中のマウス由来のCDRが変化していない)、特定のヒト化抗スクレロスチン抗体のアミノ酸配列を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2006/119107号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヒトスクレロスチンと強い結合親和性で結合し、スクレロスチン生物活性アッセイにおいて低いIC50値を示す、代替的な抗スクレロスチン抗体へのニーズが存在する。かかる抗体は、特に骨粗鬆症において治療的に有効性が高いと予測され、PTH(1−34)又は低い結合親和性(すなわち高いK)又は高いIC50値を示す抗スクレロスチン抗体の場合よりも少ない頻度での投与が可能である。また、ヒトスクレロスチンに特異的な抗体であって、当該抗体を投与されたヒト被験者における、当該抗体に対する免疫反応の危険性が少なく、又は不安定性の危険性が少なく、一方で、ヒトスクレロスチンに対する高い結合親和性を有し、生物活性アッセイにおいて低いIC50値を示す抗体特性が維持されている、前記抗体へのニーズも存在する。本発明の抗スクレロスチン抗体は、これらのニーズを満たし、関連する利点を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の抗体は、キメラ若しくはヒト化モノクローナル抗体であって、本願明細書において、開示される特異的なポリペプチド配列を含み、ヒトスクレロスチンと高い結合親和性で特異的に結合し、哺乳動物(好ましくはヒト)の骨量、骨塩密度、骨塩量及び骨強度の少なくとも1つを増加させるために使用できる。
【0007】
一実施形態では、本発明の抗体の少なくとも1つのCDRは、変異型抗体(すなわち本発明のヒト化若しくはキメラ抗体)の産生の基となる親抗体(すなわち齧歯動物(例えばマウス)中で産生させた抗体)に存在する、そのCDRの位置におけるアミノ酸配列と異なる。本発明の抗体のCDR配列におけるかかる1つ以上のアミノ酸置換により、親抗体の場合にみられるものより大きなヒトスクレロスチンとの結合親和性(すなわち低いK)、スクレロスチン生物活性アッセイにおける低いIC50、又はその両方が生じるのが好ましい。本発明の抗体のCDR配列を、親抗体に存在するCDRからアミノ酸置換したものとすることにより、当該抗体を投与されたヒトにおいて、当該抗体に対する免疫反応を低下させることができる。更に、本発明の抗体のCDR配列を、親抗体に存在するCDRからアミノ酸置換したものとすることにより、当該抗体の不安定性の危険性を減少させることができる。例えば、アスパラギン残基を異なるアミノ酸で置換することにより、脱アミド化の危険性を減少させることができる。
【0008】
一実施形態では、本発明の抗体は、ヒトスクレロスチンと特異的に結合し、以下からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する6つのCDR領域を含んでなる:
(i)配列番号20で表されるHCDR1、配列番号21で表されるHCDR2、配列番号22で表されるHCDR3、配列番号23で表されるLCDR1、配列番号24で表されるLCDR2、及び配列番号25で表されるLCDR3、
(ii)配列番号26で表されるHCDR1、配列番号27で表されるHCDR2、配列番号28で表されるHCDR3、配列番号29で表されるLCDR1、配列番号30で表されるLCDR2、及び配列番号31で表されるLCDR3、並びに、
(iii)配列番号32で表されるHCDR1、配列番号33で表されるHCDR2、配列番号34で表されるHCDR3、配列番号35で表されるLCDR1、配列番号36で表されるLCDR2、及び配列番号37で表されるLCDR3。
【0009】
他の実施形態では、本発明の抗体は、ヒトスクレロスチンと特異的に結合し、重鎖可変領域(「HCVR」)ポリペプチド及び軽鎖可変領域(「LCVR」)ポリペプチドを含んでなり、
(i)上記HCVRは配列番号14のアミノ酸配列を有し、上記LCVRは配列番号17のアミノ酸配列を有するか、
(ii)上記HCVRは配列番号15のアミノ酸配列を有し、上記LCVRは配列番号18のアミノ酸配列を有するか、又は、
(iii)上記HCVRは配列番号16のアミノ酸配列を有し、上記LCVRは配列番号19のアミノ酸配列を有する。
【0010】
他の実施形態では、本発明の抗体は、ヒトスクレロスチンと特異的に結合し、重鎖ポリペプチド及び軽鎖ポリペプチドを含んでなり、
(i)上記重鎖ポリペプチドは配列番号2のアミノ酸配列を有し、上記軽鎖ポリペプチドは配列番号5のアミノ酸配列を有するか、
(ii)上記重鎖ポリペプチドは配列番号3のアミノ酸配列を有し、上記軽鎖ポリペプチドは配列番号6のアミノ酸配列有するか、又は、
(iii)上記重鎖ポリペプチドは配列番号4のアミノ酸配列を有し、上記軽鎖ポリペプチドは配列番号7のアミノ酸配列有する。
【0011】
一実施形態では、本発明の抗体は、本明細書で定義される(好ましくは配列番号により定義される)ように、ヒトスクレロスチンとの結合親和性(K)が25℃で約10pM以下であるものとして更に特徴付けられる。本発明の好適な抗体は、カニクイザルスクレロスチンとのKが25℃で約100pM以下である。本発明のより好適な抗体は、ヒトスクレロスチンとの結合親和性が25℃で約10pM以下であり、かつ、カニクイザルスクレロスチンとの結合親和性が25℃で約100pM以下である。
【0012】
他の実施形態では、本発明の抗体は、本明細書で定義される(好ましくは配列番号により定義される)ように、ヒトスクレロスチンを使用する骨特異的アルカリホスファターゼアッセイにおいて、IC50が50nM以下であることによって特徴付けられる。好ましくは、これらの抗体はまた、ヒトスクレロスチンとのKが25℃で約10pM以下である。好ましくは、これらの抗体は、ヒトスクレロスチンとのKが25℃で約10pM以下であり、かつ、カニクイザルスクレロスチンとのKが25℃で約100pM以下である。
【0013】
他の実施形態では、本発明は、本発明の抗体と、薬理学的に許容できる担体又は希釈剤とを含んでなる医薬組成物を提供する。好ましくは、上記医薬組成物は、本発明のモノクローナル抗体と、薬理学的に許容できる担体又は希釈剤との均一若しくは実質的に均一な混合物を含んでなる。
【0014】
本発明の実施形態は、薬剤の調製への本発明の抗体の使用にも関する。更なる本発明の実施形態は、動物、好ましくは哺乳動物の種、好ましくはヒト被験者における、骨量、骨塩密度、骨塩量及び骨強度の少なくとも1つを増加させるための方法への、本発明の抗体の使用に関する。
【0015】
更に本発明は、骨量、骨塩密度、骨塩量及び骨強度の少なくとも1つを増加させる方法であって、それを必要とするヒト被験者に、有効量の本発明の抗体を投与することを含んでなる方法の提供に関する。
【0016】
本発明の一実施形態は、ヒト被験者における、骨量、骨塩密度、骨塩量及び骨強度の少なくとも1つの増加により利益を受ける疾患、症状又は障害(例えば骨粗鬆症、骨減少症、骨関節炎、骨関節炎に関連する痛み、歯周病及び多発性骨髄腫など)を治療する方法の提供に関する。
【0017】
更なる本発明の実施形態は、生物学的サンプル中のスクレロスチンタンパク質を検出するための方法であって、本発明の抗体を、前記抗体がスクレロスチンタンパク質と結合できるのに十分な条件及び時間において、生物学的サンプルとインキュベートするステップと、前記結合を検出するステップと、を含んでなる方法の提供に関する。かかる検出アッセイに用いられる好適な抗体は、以下を有する:
配列番号40で表される重鎖ポリペプチド及び配列番号41で表される軽鎖ポリペプチドか、
配列番号42で表される重鎖ポリペプチド及び配列番号43で表される軽鎖ポリペプチドか、
配列番号2で表される重鎖ポリペプチド及び配列番号5で表される軽鎖ポリペプチドか、
配列番号3で表される重鎖ポリペプチド及び配列番号6で表される軽鎖ポリペプチドか、
又は、配列番号4で表される重鎖ポリペプチド及び配列番号7で表される軽鎖ポリペプチド。
【0018】
更に本発明は、本発明の抗体をコードする単離された核酸分子、上記核酸を含んでなるベクター(任意に、当該ベクターによって形質転換された宿主細胞により認識される制御配列に作動可能に連結される)、上記ベクターを含んでなる宿主細胞、上記宿主細胞を培養して上記核酸を発現させ、任意に上記宿主細胞の培地から抗体を回収するステップを含んでなる、本発明の抗体を生産する工程、の提供に関する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、ヒトスクレロスチンと特異的に結合し、in vitroで又はin vivoで、少なくとも1つのヒトスクレロスチン生物活性を中和するか又はアンタゴナイズし、更にヒトスクレロスチンとの強い結合親和性を示す抗体の提供に関する。
【0020】
用語「スクレロスチン」は、本願明細書で使用する場合、配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する全長のヒトタンパク質、又は、シグナル配列が削除された成熟型タンパク質のことを指す。
【0021】
「抗体」という用語は、本発明の抗スクレロスチン抗体(又は簡単に「本発明の抗体」)に関して本明細書で使用する場合、モノクローナル抗体のことを指す。特に明記しない限り、本明細書で用いられる「モノクローナル抗体」は、キメラ抗体又はヒト化抗体を指す。本発明のモノクローナル抗体は、例えば組換え技術、ファージディスプレイ技術、合成技術(例えばCDR移植)又はそれらの技術若しくは当該技術分野で公知の他の技術を組合せることにより調製できる。「モノクローナル抗体」とは、単一コピー又はクローン(例えば原核生物、真核生物又はファージのクローン)に由来する抗体を指し、それらを調製するための方法を指すものではない。
【0022】
「モノクローナル抗体」、「本発明の抗体」若しくは単に「抗体」とは、完全抗体(完全な又は全長のFc領域を含む)、又は抗原結合部分(例えばキメラ若しくはヒト化抗体のFab断片、Fab’断片若しくはF(ab’)断片)を含んでなる抗体の部分若しくは断片であってもよい。特に好適な本発明の抗体の抗原結合断片は、in vivo又はin vitroで、哺乳動物のスクレロスチンに特徴的な1つ以上の生物活性を阻害又は中和する能力を保持している。例えば、一実施形態では、本発明の抗体の抗原結合部分は、成熟型ヒトスクレロスチンと、その1つ以上のリガンドとの相互作用を阻害することができ、及び/又は、ヒトスクレロスチンの受容体により媒介される1つ以上の機能を阻害できる。
【0023】
更に、本明細書で用いられる「モノクローナル抗体」、「本発明の抗体」又は単に「抗体」は、LCVR及びHCVRをコードするDNAをリンカー配列と結合させることによって得られる単鎖Fv断片であってもよい(Pluckthun,The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.,Springer−Verlag,New York,pp 269−315,1994を参照のこと)。本明細書で用いられる用語「抗体」は、抗原結合断片又は部分が特定されたか否かに関係なく、特に明記しない限り、単鎖形態並びにかかる断片又は部分を包含するものと理解されている。タンパク質がスクレロスチンと特異的に結合する能力を保持する限り、それは用語「抗体」の中に含まれる。
【0024】
本明細書で使用される「特異的に結合する」という用語は、当該技術分野で利用可能な技術(例えば競合ELISA、BIACORE(登録商標)アッセイ又はKINEXA(登録商標)アッセイ)で測定した場合、特異的な結合対のうちの1つのメンバーが、1つ以上のその特異的な結合パートナー以外の分子と顕著に結合しない状況のことを意味する。上記用語はまた、例えば、本発明の抗体の抗原結合ドメインが多くの抗原が有する特定のエピトープに特異的である場合にも適用でき、その場合には、当該抗原結合ドメインを有する抗体は、当該エピトープを有する様々な抗原に結合することが可能である。「エピトープ」という用語は、抗体中の1つ以上の抗原結合領域において、その抗体により認識及び結合される分子の部分のことを指す。
【0025】
本発明の抗体に関する「生物学的活性」という用語には、限定されないが、エピトープ又は抗原との結合親和性、in vivo又はin vitroにおけるスクレロスチンの生物活性を中和する又はアンタゴナイズする能力、骨特異的アルカリホスファターゼアッセイ(例えば本願明細書の実施例2にて説明される)又は他のin vitro活性アッセイにおけるIC50、抗体のin vivo及び/又はin vitro安定性、並びに(例えばヒト被験者に投与した場合)抗体の免疫原性などが包含される。上記の特性又は性質は、限定されないが、以下のような当業者に公知の技術を使用することにより観察又は測定することができる:ELISA、競合ELISA、表面プラスモン共鳴分析、限定されないin vitro及びin vivo中和アッセイ、受容体結合、並びに、ヒト、霊長類又は必要と考えられる他の給源などの様々給源に由来する組織切片を用いた免疫組織化学。
【0026】
スクレロスチンに関する「生物学的活性」という用語には、限定されないが、他のタンパク質(例えば受容体又はTGF−βファミリー)に対するスクレロスチンの特異的な結合、受容体により媒介されるヒトスクレロスチンの1つ以上の機能、シグナル伝達、免疫原性、in vivo若しくはin vitro安定性、in vivo若しくはin vitroでの他のタンパク質のレベル又は活性への影響(例えば実施例2を参照のこと)、スクレロスチンの発現レベル及び組織における分布が包含される。
【0027】
本発明の抗体の生物活性に関して、本明細書で用いられる用語「阻害」又は「中和」とは、(例えば本願明細書の実施例2で測定されるような)スクレロスチンの生物活性を実質的にアンタゴナイズし、抑止し、防止し、制限し、遅延させ、崩壊させ、除去し、停止させ、低下させ、又は逆転させる能力のことを意味する。
【0028】
本明細書で用いられる用語「Kabatの番号付け」は、当該技術分野で公知であり、抗体中の他の重鎖及び軽鎖領域のアミノ酸残基よりも可変的(すなわち超可変的)なアミノ酸残基への番号付けシステムのことを指す(Kabatら、Ann.NY Acad.Sci.190:382−93(1971)、Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91−3242(1991))。抗体の可変領域中のCDRの位置決めは、Kabat番号付け、又は単に「Kabat」に従い行う。
【0029】
ポリヌクレオチドは、それが他のポリヌクレオチドとの機能的な関連を有するとき、「作動可能に連結されている」という。例えば、プロモータ又はエンハンサーは、それらが配列の転写に影響を及ぼす場合に、コーディング配列に作動可能に連結されているという。
【0030】
用語「被験者」及び「患者」(本願明細書において同義的に使用される)とは、哺乳動物(好ましくはヒト)のことを指す。具体的な実施形態では、上記被験者は更に、スクレロスチンのレベルの減少又はスクレロスチンの生物活性の減少により利益を受ける疾患、障害又は症状を有することを特徴とする。
【0031】
「ベクター」という用語は、作動可能に連結された他の核酸を輸送できる核酸分子のことを指し、限定されないがプラスミド及びウィルスベクターなどが挙げられる。ある特定のベクターは、それらが導入された宿主細胞において自己複製ができ、一方、他のベクターは、宿主細胞への導入後に宿主細胞のゲノムに挿入され、それにより宿主ゲノムと共に複製される。更に、ある特定のベクターは、それらに作動可能に連結されている遺伝子の発現を導くことができる。かかるベクターは、本明細書において「組み換え発現ベクター」(又は単に「発現ベクター」)と称される。典型的なベクターは公知技術である。
【0032】
本願明細書における「細胞」、「宿主細胞」、及び「培養細胞」は同義的に使用され、それらの表現には、本発明に係るあらゆる単離されたポリヌクレオチド、又は本発明のHCVR、LCVR又は抗体をコードするヌクレオチド配列を含む1つ以上の組換えベクターの受容体である、個々の細胞又は培養細胞が包含される。宿主細胞には、本発明のモノクローナル抗体又はその軽鎖若しくは重鎖を発現する1つ以上の組換えベクター又はポリヌクレオチドにより形質転換、形質導入又は感染された細胞が包含される。
【0033】
全長抗体の各重鎖は、N末端重鎖可変領域(本願明細書の「HCVR」)及び重鎖定常領域から構成される。全長抗体の各軽鎖は、N末端軽鎖可変領域(本願明細書の「LCVR」)及び軽鎖定常領域から構成される。HCVR及びLCVR領域は更に、相補性決定領域(「CDR」)と称される超可変領域に再分類することができ、より保存された、フレームワーク領域(「FR」)と称される領域と共に分散している。抗体が、特定の抗原又はエピトープと結合する機能的能力は、主に抗体の可変領域に存在する6つのCDRによる影響を受ける。各HCVR及びLCVRは、3つのCDR(HCVRにはHCDR1、HCDR2及びHCDR3、並びにLCVRにはLCDR1、LCDR2及びLCDR3)と、4つのFRとから構成され、以下の順序でアミノ末端からカルボキシ末端に向けて配置されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。CDRは、抗原との間で特異的な相互作用を形成する大部分の残基を含む。可変領域内のCDRの位置決めは、Kabatに従い行う。
【0034】
軽鎖は、κ又はλに分類され、周知の特定の定常領域を有することを特徴とする。重鎖は、γ、μ、α、δ又はεに分類され、それぞれIgG、IgM、IgA、IgD及びIgEとして抗体のアイソタイプを規定し、またこれらの幾つかはサブクラス(例えばIgG、IgG、IgG、IgG)に更に分類できる。各重鎖タイプは、当該技術分野で公知の配列を有する特定の定常領域を有することを特徴とする。軽鎖定常領域κ及び重鎖定常領域IgG、IgG、IgG、IgGは、本発明の抗体における好適な定常領域である。より好ましくは、上記重鎖定常領域は、配列番号39のポリヌクレオチドによってコードされるような、配列番号38のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含んでなる。キメラ抗体は、非ヒト由来(好ましくはラット又はマウス)の定常領域を有してもよい。
【0035】
本発明の「抗原結合領域」又は「抗原結合部分」とは、可変領域内の抗体分子の部分であって、抗原と相互作用し、抗体に、抗原に対するその特異性及び親和性を付与するアミノ酸残基を含む部分のことを指す。この抗体部分は、抗原結合残基の適当な形態を維持するのに必要なフレームワークアミノ酸残基を含んでなる。
【0036】
本発明の好適な抗体は、配列番号20、21、22、23、24及び25のアミノ酸配列を有する6つのCDRを含んでなる。本発明の他の好適な抗体は、配列番号32、33、34、35、36及び37のアミノ酸配列を有する6つのCDRを含んでなる。本発明のより好適な抗体は、配列番号26、27、28、29、30及び31のアミノ酸配列を有する6つのCDRを含んでなる。これらの好適な抗体のCDRは、下記の表1に記載の位置に存在する。CDRは、Kabatによる可変領域に位置する。
【0037】
本発明の好適な抗体は、配列番号17、18又は19のアミノ酸配列を有するLCVRを含んでなる。本発明の他の好適なモノクローナル抗体は、配列番号14、15又は16のアミノ酸配列を有するHCVRを含んでなる。好ましくは、本発明の抗体は、配列番号17のLCVRと、配列番号14のHCVRとを含んでなる。本発明の他の抗体は、配列番号19のLCVRと、配列番号16のHCVRとを含んでなる。本発明のより好適な抗体は、配列番号18のLCVRと、配列番号15のHCVRとを含んでなる。かかるLCVRは、好ましくは軽鎖定常領域(好ましくはヒト由来)に、好ましくはκ鎖に連結する。かかるHCVRは、好ましくは重鎖定常領域(好ましくはヒト由来)に、好ましくはIgG又はIgGに、最も好ましくは配列番号38の配列を含んでなる重鎖定常領域に、作動可能に連結する。
【0038】
本発明の1つの好適な抗体は、配列番号2の重鎖ポリペプチドと、配列番号5の軽鎖ポリペプチドとを含んでなる。配列番号2の重鎖ポリペプチドは、例えば配列番号8のポリヌクレオチド配列によってコードされてもよく、配列番号5の軽鎖ポリペプチドは、例えば配列番号11のポリヌクレオチドによってコードされてもよい。
【0039】
本発明の他の好適な抗体は、配列番号4の重鎖ポリペプチドと、配列番号7の軽鎖ポリペプチドとを含んでなる。配列番号4の重鎖ポリペプチドは、例えば配列番号10のポリヌクレオチド配列によってコードされてもよく、配列番号7の軽鎖ポリペプチドは、例えば配列番号13のポリヌクレオチドによってコードされてもよい。
【0040】
本発明の他の好適な抗体は、配列番号3の重鎖ポリペプチドと、配列番号6の軽鎖ポリペプチドとを含んでなる。配列番号3の重鎖ポリペプチドは、配列番号9のポリヌクレオチド配列によってコードされてもよく、配列番号6の軽鎖ポリペプチドは、配列番号12のポリヌクレオチドによってコードされてもよい。
【0041】
本発明の好適なヒト化抗体は、本明細書において86、88及び89と称される。それらの配列の配列番号を、下記の表1に列挙する。
【0042】
【表1】

【0043】
好ましくは、本発明の抗体(6つの全てのCDR、HCVR、LCVR、HCVR及びLCVR、全ての重鎖、全ての軽鎖、又は全ての重鎖及び全ての軽鎖は、本願明細書の配列番号により示されるような特定の配列により限定される(表1参照))は更に、ヒトスクレロスチンに対するKが25℃で、約10pM未満、8pM未満、6pM未満又は4pM未満、より好ましくは約2.2pM未満であることを特徴とする。また、かかる抗体は更に、カニクイザルスクレロスチンに対するKが25℃で、約100pM未満、90pM未満又は80pM未満、より好ましくは約75pM未満であることにより限定されるのが好ましい。
【0044】
好ましくは、本発明の抗体(6つの全てのCDR、HCVR、LCVR、HCVR及びLCVR、全ての重鎖、全ての軽鎖、又は全ての重鎖及び全ての軽鎖は、本願明細書の配列番号により示されるような特定の配列により限定される)は更に、ヒトスクレロスチン(本願明細書の実施例2を参照)を使用した骨特異的アルカリホスファターゼアッセイにおいて、IC50が約50nM以下、約40、35又は30nM以下、より好ましくは約25nM、更に好ましくは約20nM以下(例えば20.2nM)であることを特徴とする。
【0045】
より好ましくは、本発明の抗体(6つの全てのCDR、HCVR、LCVR、HCVR及びLCVR、全ての重鎖、全ての軽鎖、又は全ての重鎖及び全ての軽鎖は、本願明細書の配列番号により示されるような特定の配列により限定される)は更に、ヒトスクレロスチンに対するKが25℃で、約10pM未満、8pM未満、6pM未満又は4pM未満、より好ましくは約2.2pM未満であることを特徴とし、かつ、ヒトスクレロスチンを使用した骨特異的アルカリホスファターゼアッセイにおいて、IC50が約50nM以下、約40、35又は30nM以下、より好ましくは約25nM以下、更に好ましくは約20nM以下(例えば20.2nM)であることを特徴とする。
【0046】
更に好ましくは、本発明の抗体(6つの全てのCDR、HCVR、LCVR、HCVR及びLCVR、全ての重鎖、全ての軽鎖、又は全ての重鎖及び全ての軽鎖は、本願明細書の配列番号により示されるような特定の配列により限定される)は更に、ヒトスクレロスチンに対するKが25℃で、約10pM未満、8pM未満、6pM未満又は4pM未満、より好ましくは約2.2pM未満であることを特徴とし、かつ、ヒトスクレロスチンを使用した骨特異的アルカリホスファターゼアッセイにおいて、IC50が約50nM以下、約40、35又は30nM以下、より好ましくは約25nM以下、更に好ましくは約20nM以下(例えば20.2nM)であることを特徴とし、かつ、カニクイザルスクレロスチンを使用した骨特異的アルカリホスファターゼアッセイにおいて、IC50が約75nM以下であることを特徴とする。
【0047】
抗体の発現:
本発明はまた、本発明の抗スクレロスチン抗体を発現する宿主細胞の提供に関する。本発明の抗体を産生する宿主細胞系の作製及び単離は、当該技術分野で公知の標準的な技術を使用して実施できる。
【0048】
当該技術分野で公知の多種多様な宿主発現系(原核生物(細菌)発現系、真核生物発現系(例えば酵母、バキュロウイルス、植物、哺乳動物細胞及び他の動物細胞、トランスジェニック動物及びハイブリドーマ細胞)、並びにファージディスプレイ発現系など)を用いて、本発明の抗体を発現することができる。
【0049】
本発明の抗体は、宿主細胞において、免疫グロブリン軽鎖及び重鎖遺伝子の組換え発現により調製することができる。抗体を組換え発現させるために、宿主細胞を、抗体の免疫グロブリン軽鎖及び/又は重鎖をコードするDNA断片を担持する1つ以上の組換え発現ベクターを用いて形質変換、形質導入又は感染等を行い、軽鎖及び/又は重鎖を宿主細胞において発現させる。重鎖及び軽鎖を、1個のベクター中に作動可能に連結している別個のプロモータから独立に発現させてもよく、又は、重鎖及び軽鎖を、各々が作動可能に連結している別個のプロモータから、2個のベクターで独立に発現させてもよい(すなわち、1つは重鎖を発現し、1つは軽鎖を発現する)。任意に、重鎖及び軽鎖を異なる宿主細胞において発現させてもよい。
【0050】
更に、組換え発現ベクターは、宿主細胞から抗スクレロスチン抗体の軽鎖及び/又は重鎖の分泌を促進するシグナルペプチドをコードしてもよい。抗スクレロスチン抗体の軽鎖及び/又は重鎖遺伝子を、シグナルペプチドが抗体鎖遺伝子のアミノ末端に対してインフレームに作動可能に連結されるように、ベクターにクローニングすることができる。上記シグナルペプチドは、免疫グロブリンのシグナルペプチド又は異種シグナルペプチドであってもよい。好ましくは、上記組換え抗体は、宿主細胞を培養する際の培地に分泌され、そこから当該抗体を回収又は精製することができる。
【0051】
HCVR領域をコードする単離されたDNAは、それを、重鎖定常領域をコードする他のDNA分子に使用可能な状態で連結することによって、全長の重鎖遺伝子に変換することができる。ヒト、並びに他の哺乳動物の重鎖定常領域遺伝子の配列は、従来技術において周知である。例えば標準的なPCR増幅によって、これらの領域を含むDNA断片を得ることができる。重鎖定常領域は、Kabat(上記)にて説明したように、あらゆるタイプ(例えばIgG、IgA、IgE、IgM又はIgD)、クラス(例えばIgG、IgG、IgG及びIgG)又はサブクラスの定常領域、並びにあらゆるアロタイプ変異体であってもよい。好適な重鎖定常領域は、配列番号38のポリペプチドを含む。
【0052】
LCVRをコードするDNAを、軽鎖定常領域をコードする他のDNA分子に使用可能な状態で連結することによって、LCVR領域をコードする単離されたDNAを全長の軽鎖遺伝子(同様にFab軽鎖遺伝子に)に変換することができる。ヒト、並びに他の哺乳動物の軽鎖定常領域遺伝子の配列は、従来技術において周知である。これらの領域を含むDNA断片を、標準的なPCR増幅によって得ることができる。軽鎖定常領域は、κ又はλ定常領域であってもよい。
【0053】
本発明に用いられる好適な哺乳動物由来の宿主細胞は、CHO細胞(例えばATCC CRL−9096)、NS0細胞、SP2/0細胞及びCOS細胞(例えばATCC CRL−1650、CRL−1651)、HeLa細胞(ATCC CCL−2)である。本発明に用いられる更なる宿主細胞としては、他の哺乳動物細胞、酵母細胞及び原核細胞が挙げられる。抗体遺伝子をコードする組換え発現ベクターを哺乳動物宿主細胞に導入した場合、宿主細胞における抗体の発現を可能にするのに十分な時間、又は、好ましくは宿主細胞を増殖させる培地中に抗体が分泌されるのに十分な時間、宿主細胞を培養することにより抗体が産生される。標準的な精製方法を使用して、宿主細胞及び/又は培地から抗体を回収することができる。
【0054】
発現させた後、本発明の免疫グロブリンの全長抗体、個々の軽鎖及び重鎖、又は他の形態のものを、当該技術における標準的方法(硫酸アンモニウム沈殿、イオン交換クロマト、親和性クロマト、逆相クロマト、疎水性相互作用カラムクロマト、ゲル電気泳動など)に従って精製できる。少なくとも約90%、92%、94%又は96%の均質性を有する、実質的に純粋な免疫グロブリンが好適であり、医薬用途においては98〜99%以上の均質性が最も好ましい。精製(部分的に、又は所望の均質性を有する態様で)した後、本願明細書に記載のとおり、無菌の抗体を治療用途に使用してもよい。
【0055】
ヒト化抗体:
好ましくは、治療用の本発明の抗体は、哺乳動物由来のフレームワーク及び定常領域の配列を有し(抗体中に存在する範囲内において)、それを治療用途に使用することにより、当該哺乳動物における治療用抗体に対する免疫反応が生じる可能性を減少させることができる。ヒト化抗体は、特に興味深い。なぜなら、それらは治療用途にとり有用であり、また、ヒト被験者に投与したとき、マウス由来の抗体、又はマウス由来の部分を含む抗体によってしばしば観察されるような、ヒト抗マウス抗体反応の可能性を低下させるからである。注入されたヒト化抗体は、例えばマウス抗体の場合よりも、天然のヒト抗体の場合と類似する半減期を有するのが好ましい。それにより、被験者への投与量をより少量とし、かつ、投与頻度をより少なくすることができる。
【0056】
本明細書で使用される「ヒト化抗体」という用語は、少なくとも1つの部分がヒト由来である抗体を意味する。例えば、上記ヒト化抗体は、非ヒト由来(例えばマウス由来)の抗体部分と、ヒト由来の抗体部分とを含んでもよく、それらは、例えば従来公知の技術により化学的に(例えば合成的)に結合してもよく、又は遺伝子工学技術を使用して隣接するポリペプチドとして調製してもよい。
【0057】
好ましくは、「ヒト化抗体」は、親抗体(すなわち非ヒト抗体、好ましくはマウスモノクローナル抗体)から派生するか又は由来するCDRを有し、一方、フレームワーク及び定常領域(それが存在する限りにおいて)(又はその実質的な若しくは相当な部分(すなわち少なくとも約90%、92%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%))は、ヒト生殖細胞系の免疫グロブリン領域で生じる核酸配列情報(International ImMunoGeneTics Database参照)、又はその組み換え若しくは変異形態によりコードされる。なお、前記抗体がヒト細胞において産生されるか否かを問わない。好ましくは、ヒト化抗体の少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ又は6つのCDRは、例えば改良された特異性、親和性又は中和特性など所望の特性を得るため、当該ヒト化抗体が由来する非ヒト親抗体のCDRを基に最適化される。この所望の特性は、スクリーニングアッセイ(例えばELISAアッセイ)により同定することができる。好ましくは、本発明の抗体の最適化されたCDRは、親抗体に存在するものと比較して、少なくとも1つのアミノ酸置換を含んでなる。本発明のヒト化抗体88及び89のCDRの特定のアミノ酸置換により、親抗体788及び789(本願明細書の実施例5及び6を参照)のそれらと比較して、抗体の不安定性(例えばCDR Asn残基の除去)が減少するか、又は、ヒト被験者に投与されたとき当該抗体の免疫原性(例えば、IMMUNOFILTER(商標)技術により予測される)が減少する。
【0058】
ヒト化抗体は、好ましくは非ヒト抗体に由来する最小配列を含む。ヒト化抗体は、レシピエント抗体においても、あるいは親抗体から導入されるCDR又はフレームワーク配列においても存在しない残基を含んでいてもよい。ヒト化抗体を、当該技術分野でルーチン的に使用されているin vitro突然変異導入に供し、それにより、ヒト化組換え抗体のHCVR及びLCVR領域のフレームワーク領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系のHCVR及びLCVRの配列に関連するものに由来するが、in vivoでヒト抗体生殖細胞系レパートリ中には天然に存在しえない配列となる。ヒト化組換え抗体のHCVR及びLCVRフレームワーク領域のかかるアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系配列と少なくとも90%、92%、94%、95%、96%、98%以上、好ましくは少なくとも99%、又は最も好ましくは100%の相同性を有すると考えられる。
【0059】
他の好ましい実施形態では、本発明のヒト化抗体は、ヒト生殖細胞系の軽鎖フレームワーク配列(国際公開第2005/005604号パンフレットを参照)及びヒト生殖細胞系の重鎖フレームワーク配列(国際公開第2005/005604号パンフレットを参照)を含む。好適なヒト生殖細胞系の軽鎖フレームワーク領域は、以下からなる群から選択されるヒトκ軽鎖遺伝子である:A11、A17、A18、A19、A20、A27、A30、L1、L11、L12、L2、L5、L6、L8、O12、O2及びO8。好適なヒト生殖細胞系の重鎖フレームワーク領域は、以下からなる群から選択されるヒト重鎖である:VH2−5、VH2−26、VH2−70、VH3−20、VH3−72、VH1−24、VH1−46、VH3−9、VH3−66、VH3−74、VH4−31、VH1−18、VH1−69、VH3−7、VH3−11、VH3−15、VH3−21、VH3−23、VH3−30、VH3−48、VH4−39、VH4−59、VH5−51(国際公開第2006/046935号パンフレットを参照)。
【0060】
ヒト化抗体を産生させるための利用可能な多くの方法が当該技術分野に存在する。例えばヒト化抗体は、スクレロスチン(好ましくはヒトスクレロスチン)に特異的に結合する親抗体(例えばマウス抗体又はハイブリドーマによって産生される抗体)のHCVR及びLCVRをコードする核酸配列を得るステップと、前記HCVR及びLCVR(非ヒト)のCDRを同定するステップと、かかるCDRをコードする核酸配列を、選択されたヒトフレームワークをコードする核酸配列と融合させるステップと、により調製してもよい。任意に、フレームワーク領域に当該CDR領域を融合させる前に、突然変異をランダムに又は特定の部位で導入し、CDRの1つ以上のアミノ酸を異なるアミノ酸で置換する、ことにより、CDR領域を最適化してもよい。あるいは、ヒトフレームワーク領域への挿入の後で、当業者に利用可能な方法を使用してCDR領域を最適化してもよい。
【0061】
CDRをコードする配列を、選択されたヒトフレームワークをコードする配列に融合させた後、それにより得られるヒト化重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の配列をコードするDNA配列を次に発現させ、スクレロスチンと結合するヒト化抗体を調製する。ヒト化HCVR及びLCVRを、全長の抗スクレロスチン抗体分子の一部として、すなわちヒト定常ドメイン配列との融合タンパク質として発現させてもよい。しかしながら、HCVR及びLCVR配列を、定常ドメインの配列がない状態で発現させ、ヒト化抗スクレロスチンFvを生じさせてもよい。
【0062】
更に、マウス抗体をヒト化する使用可能な方法を記載した参考文献として、例えばQueenら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA88:2869,1991及びWinterらの方法(Jonesら、Nature,321:522(1986)、Riechmannら、Nature,332:323−327(1988)、Verhoeyenら、Science,239:1534(1988))などが挙げられる。
【0063】
診断への使用:
本発明の抗体は、ヒトスクレロスチンの発現を伴う障害又は疾患の診断に使用できる。同様の方法で、本発明の抗体は、スクレロスチンに関連する症状の治療を受けている被験者において、スクレロスチンレベルをモニターするためのアッセイにおいて使用できる。かかる用途には、生物学的サンプル(例えばヒト体液、又は細胞若しくは組織抽出物(本願明細書の実施例1を参照))中のスクレロスチンを検出するために本発明の抗体及び標識を利用する方法が含まれる。本発明の抗体は、修飾の有無にかかわらず使用でき、検出可能な部分を共有結合若しくは非共有結合させることにより標識してもよい。
【0064】
生物学的サンプル中のスクレロスチンレベルを測定するための様々な従来のプロトコル(例えばELISA、RIA及びFACSなど)が公知であり、その使用により、変化した若しくは異常なスクレロスチンの発現レベルを診断するための基礎が提供される。サンプル中で検出される通常の若しくは標準的なスクレロスチンレベルは、任意の周知技術を使用して、例えば、スクレロスチンポリペプチドを含んでなるサンプルと、例えば、本発明の抗体とを、抗原:抗体複合体を形成するのに適切な条件下で結合させることにより決定される。上記抗体を、直接的若しくは間接的に、検出可能な物質で標識し、それにより、結合した若しくは未結合の抗体の検出が促進される。好適な検出可能な物質としては、様々な酵素、補綴基(prosthetic groups)、蛍光材料、発光材料及び放射性物質などが挙げられる。形成されたスタンダード複合体の量を、様々な方法(例えば光度測定手段)により測定する。サンプルに存在するスクレロスチンポリペプチドの量を、次にスタンダードの数値と比較する。
【0065】
治療への使用:
スクレロスチンは、骨形成の負の調節因子として機能する(Cytokine&Growth Factor Reviews,16:319−327,2005を参照)。成人において、スクレロスチンmRNAは主に骨細胞において検出されるが、低い濃度で軟骨においても検出されることが、出願人によって明らかになった。
【0066】
本発明の抗スクレロスチンモノクローナル抗体を含んでなる医薬組成物は、それを必要とするヒト被験者に有効量で投与して使用することにより、椎骨若しくは非椎骨又はその両方において、骨量、骨塩密度、骨塩量及び骨強度の少なくとも1つを増加させることができる。本発明の抗スクレロスチンモノクローナル抗体を含んでなる医薬組成物は、それを必要とするヒト被験者に有効量で投与して使用することにより、椎骨及び/又は非椎骨の骨折の発生率を低下させることができる。骨折の発生率を低下させることには、無処置のコントロール個体群と比較して、ヒト被験者における骨折の可能性又は実際の発生率を低下させることが含まれる。
【0067】
更に、本発明の抗体は、スクレロスチンの存在が望ましくない病理学的効果の原因となるか若しくはそれに寄与するか、又は、スクレロスチンレベル若しくはスクレロスチン生物活性の減少がヒト被験者の治療にとり利益となる、症状、疾患又は障害の治療において有用であると考えられる。かかる症状、疾患又は障害としては、限定されないが、骨粗鬆症、骨減少症、骨関節炎、骨関節炎に関連する痛み、歯周病又は多発性骨髄腫などが挙げられる。被験者は、男性でも女性でもよい。好ましくは、ヒト被験者は椎骨及び/又は非椎骨の骨折の危険性を有し、好ましくは、ヒト被験者は骨粗鬆症の危険性を有するか又はそれに罹患している。ヒト被験者は好ましくは女性であり、より好ましくは、閉経後の骨粗鬆症の危険性を有するか又はそれに罹患している女性である。本発明の方法は、いかなる段階の骨粗鬆症の被験者においても有用であると考えられる。
【0068】
更に本発明には、上記の障害の少なくとも1つの治療用薬剤の製造への、本発明の抗体の使用が包含される。
【0069】
用語「治療」及び「治療する」とは、本願明細書に記載の障害の進行を減速させ、中断させ、抑制し、制御し、又は停止させうる全てのプロセスのことを指すが、必ずしも全ての障害の徴候を完全に除去することを意味するわけではない。本明細書の用語「治療」とは、哺乳動物(特にヒト)の疾患又は症状の治療のために、本発明の化合物を投与することを含み、また、(a)疾患の更なる進行を阻害すること(すなわちその進行を抑止すること)、及び(b)疾患を緩和する(すなわち疾患又は障害を後退させる)か、又はその徴候若しくは合併症を軽減することを含む。投与計画は、最適な所望の反応(例えば治療反応)を提供するように調整されてもよい。例えば、単一のボーラス投与を行ってもよく、幾つかの回数に分割して投与してもよく、又は、治療状況の緊急性に応じて、投与量を比例的に減少又は増加させてもよい。
【0070】
医薬組成物:
本発明の抗体を、被験者への投与に適する医薬組成物中に組み込むことができる。本発明の抗体は、ヒト被験者に対して、それ単独で、又は薬理学的に許容できる担体及び/又は希釈剤との組み合わせで、単回若しくは複数回投与することができる。かかる医薬組成物は、選択された投与形態で適切に設計され、また、必要に応じて、分散助剤、バッファ、界面活性剤、防腐剤、可溶化剤、等張剤、安定化剤などの、薬理学的に許容できる希釈剤、担体及び/又は賦形剤を使用する。前記組成物は、例えばRemington,The Science and Practice of Pharmacy,19th Edition,Gennaro,Ed.,Mack Publishing Co.,Easton,PA 1995(当業者にとり公知の、製剤技術を解説した文献)に開示されるような、従来技術に従って設計できる。医薬組成物のための適切な担体としては、本発明のモノクローナル抗体と組み合わせたときに、その分子の活性を保持し、被験者の免疫系がそれに反応しない、あらゆる材料が挙げられる。
【0071】
本発明の抗スクレロスチンモノクローナル抗体を含んでなる医薬組成物は、本願明細書に記載されているような病理(例えば骨粗鬆症、骨関節炎又は他の骨変性障害)の危険性を有するか又はそれらの病理を示す被験者に対して、標準的な投与技術を使用して投与することができる。
【0072】
本発明の医薬組成物は、好ましくは「有効量」の本発明の抗体を含有する。有効量とは、所望の治療効果を得るのに必要な量(投与量、及び期間、及び投与手段に関する)のことを指す。抗体の有効量は、例えば、疾患の状態、個人の年齢、性別及び体重、並びに個人における所望の反応を誘発する抗体若しくは抗体部分の能力などの要因に応じて変化しうる。また有効量とは、抗体によるあらゆる毒性若しくは有害な効果を、治療的に有益な効果が上回るときの量を指すこともある。
【0073】
有効量とは、治療効果を被験者に付与するのに必要となる有効成分の、少なくとも最小の投与量であるが、毒性量よりも少ない量のことを指す。換言すると、本発明の抗体の有効量又は治療的有効量とは、哺乳動物(好ましくはヒト)において、
(i)骨量、骨塩密度、骨塩量及び骨強度の少なくとも1つを増加させるか、
(ii)スクレロスチンの存在が、望ましくない病理学的効果を生じさせるか又はそれに寄与する症状、障害若しくは疾患を治療するか、又は、
(iii)スクレロスチンレベル若しくはスクレロスチン生物活性の減少が、哺乳動物(好ましくはヒト)において、限定されないが、骨粗鬆症、骨減少症、骨関節炎、慢性関節リウマチ、歯周病若しくは多発性骨髄腫などにとって有益な治療効果をもたらす量のことを指す。
【0074】
医学分野において周知のように、被験者への投与量は、患者の身体のサイズ、体表面積、年齢、投与する具体的な化合物、性別、投与時間及び投与経路、健康状態及び併用して投与を受けている他の薬剤など、多くの要因に依存する。投与量は更に、疾患の種類及び重篤度に応じて変化しうる。典型的な投与量は、例えば0.001〜1000μg、好ましくは1〜100μgの範囲であってもよいが、特に上記の要因を考慮して、この典型的な範囲以下又は以上の投与量としてもよい。非経口投与の場合、投与量は1日あたり、総体重に対して約0.1μg/kg〜約20mg/kg、好ましくは約0.3μg/kg〜約10mg/kgであってもよい。疾患の進行を定期的に評価してモニターし、それに応じて投与量を調整してもよい。
【0075】
示唆されたこれらの抗体の量は、多くの場合、治療における裁量の範囲内にある。適当な投与量及びスケジューリングを選択する際の鍵となる要因は、得られた効果である。この点に関して考慮されるべき要因としては、治療しようとする具体的な障害、個々の患者の臨床症状、障害の原因、抗体の送達部位、抗体の具体的なタイプ、投与方法、投与計画、及び医師にとり周知の他の要因、などが挙げられる。
【0076】
本発明の抗体の投与経路は、吸入、非経口、経口又は局所経路であってもよい。好ましくは、本発明の抗体を、非経口投与に適する医薬組成物中に組み込むことができる。本明細書で用いられる非経口投与薬という用語には、静脈内、筋肉内、皮下、直腸内、膣内又は腹膜内投与が包含される。静脈内、腹膜内又は皮下への注射による非経口送達が好適である。皮下注射が最も好適である。かかる注射のための適切な担体は公知技術である。
【0077】
医薬組成物は、製造条件及び提供される容器(例えば密封バイアル、シリンジ又は他の送達装置(例えばペン))の貯蔵条件において典型的に無菌で、かつ安定でなければならない。従って、医薬組成物を、製剤後にフィルター滅菌するか、又は微生物学的に許容できるものに調製するのが好適である。
【0078】
以下の例は、説明の便宜上提供するものに過ぎず、本発明の範囲を限定することを目的とするものではない。
【実施例】
【0079】
実施例1:ELISAアッセイ:
【0080】
このアッセイを用いて、ヒト血清サンプル中のスクレロスチンを、0.4ng/mLの下方検出限界で検出し、定量した。抗体86は捕捉抗体であり、一方、抗体88は検出抗体である(抗体配列については表1を参照)。
【0081】
96ウェルプレートの内側ウェルを、0.5Mの炭酸ナトリウム(pH9.6(「コーティングバッファ」))中に0.5μg/mLの濃度の全長抗スクレロスチンモノクローナル抗体86を含有する溶液100μLでコーティングした。プレートを密封し、4℃で一晩インキュベートした。プレートは、次にTBST「洗浄バッファ」(0.4Mのトリス−HCl、3M NaCl、0.1% Tween20)で3回洗浄した。次に、PBS(Pierce社、#37528)中のカゼインブロッキングバッファを200μLずつウェルに添加し、プレートを室温で1時間インキュベートした。プレートを次に、洗浄バッファで二回洗浄し、ブロッキング溶液を除去した。
【0082】
標準曲線を作成するため、0.35mg/mLの濃度でヒトスクレロスチンを含むカゼインブロッキングバッファを調製し、PBS中のカゼインブロッキングバッファ中に5%プールされたヒト血清で、2倍連続希釈(1.25ng/ml〜0ng/mlまで)を調製した。上記ヒト血清を、抗スクレロスチンモノクローナル抗体86でコーティングした磁気ビーズのカラムに通し、血清中に内在的に存在しうるあらゆるスクレロスチンを除去した。
【0083】
100μLのサンプル(カゼインブロッキングバッファ中の5%の血清)又はスタンダードを2倍希釈でウェルに添加し、当該プレートを更に室温で2時間インキュベートした。次にウェルを洗浄バッファで5回洗浄した。
【0084】
Pierce EZ link NHS−LCビオチンキットによってビオチン化した、100μLの検出抗体(全長の抗スクレロスチンモノクローナル抗体88)をウェルに添加した。プレートを室温で1時間インキュベートし、次に洗浄バッファで4回洗浄した。ストレプトアビジン−西洋ワサビペルオキシダーゼを、0.5μg/mlの最終濃度となるように、PBS中のカゼインブロッキングバッファで1:2000に希釈し、次に、ウェルあたり100μLを添加し、室温で1時間インキュベートし、次に洗浄バッファで7回洗浄した。OPD基質(Sigma社 P8806)を100μL/ウェルで添加し、室温で20分間反応を継続させた。次に、1N HClを100μL/ウェルで添加し、反応を終了させた。プレートの490nmにおけるODを測定した。
【0085】
実施例2:中和−骨特異的アルカリホスファターゼアッセイ
骨特異的アルカリホスファターゼは、骨芽細胞活性の生化学的な指標である。本願明細書に記載する骨特異的アルカリホスファターゼアッセイは、多分化能を有するマウス細胞系(C2C12)において、BMP−4及びWnt3aの刺激によるアルカリホスファターゼ濃度を低下させるスクレロスチンの能力に基づくものであり、一方、スクレロスチン活性を中和する抗体は、このアッセイにおいて、アルカリホスファターゼ活性を投与量依存的に増加させる。Wnt3a及びBMP−4は、骨原性成長因子である。
【0086】
C2C12細胞(ATCC、CRL 1772)を、5%の牛胎仔血清を添加したMEM培地中に懸濁し、96ウェル組織培養プレートに、ウェルあたり3000〜5000細胞でプレーティングし、次に5%のCO、37℃で一晩インキュベートした。試験に供する抗体を、0.5×Wnt3a馴化培地で様々な最終濃度に希釈した。培地を次に組織培養プレート上の細胞から除去し、プレミックスした抗体−BMP4−スクレロスチン溶液(ヒト若しくはカニクイザル)を、ウェルあたり150μLで添加し、抗体の最終濃度を30μg/mL〜0.5μg/mLとし、BMP−4を25ng/mLの最終濃度とし、スクレロスチンタンパク質を1.0μg/mLの最終濃度とし、馴化培地を0.5×濃度とした。プレートを次に、5%のCO、37℃で72時間インキュベートした。培地を培養プレート上の細胞から除去し、細胞をPBSで一度洗浄し、次に細胞プレートを、−80℃及び37℃で3回、凍結・解凍を繰り返した。
【0087】
Wnt3a馴化培地は、L−Wnt−3A細胞及びコントロールL細胞(それぞれATCC CRL−2647及びCRL−2648)を、4日間、コンフルエント細胞の1:20継代で、10%のFBS及び2mMのL−グルタミンを含有するDMEM培地中で増殖させることにより調製した。回収した培地を、0.2μmナイロン製メンブランで濾過し、−20℃で長期保存又は4℃で短期保存した。
【0088】
アルカリホスファターゼ活性は、アルカリホスファターゼ基質(1−ステップPNPP、Pierce社#37621)をウェルあたり150μLで添加することにより測定した。細胞のプレートを次に室温で60分間インキュベートし、その際、405nmのODを測定してアルカリホスファターゼ活性を解析した。下記の表2に記載の抗体中和IC50値は、2つの別々の実験結果を平均した値である。IC50の算出は、4−パラメータのシグモイド曲線により、SigmaPlot Regression Wizardを使用して実施した。
【0089】
【表2】

【0090】
実施例3:親和性結合:
抗スクレロスチン抗体と、ヒト、カニクイザル(「cyno」)又はラットのいずれかのスクレロスチンとの間の平衡結合試験を、K制御された条件で、KinExA 3000計測器(Sapidyne Instruments社)により実施した。この技術では、K以下の濃度に固定された抗体を、様々な濃度のスクレロスチンタンパク質と混合し、平衡化させた。遊離の、未結合の、溶液中に残留する抗体のフラクションを、短時間、この平衡化された混合物をスクレロスチンコーティングしたビーズに曝露した後、蛍光標識二次的抗体で検出した。典型的には、試験に供する抗スクレロスチン抗体2pMを、2〜50nMから開始される様々な濃度のヒト、cyno若しくはラットのスクレロスチンと混合し、試験に供する抗体を2pM含む結合バッファ(1×リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)、0.02%のアジ化ナトリウム及び1mg/mLのウシ血清アルブミン)で3倍連続希釈を調製した。これらの溶液を、25℃で2日にわたり平衡化させた。未結合の抗体の量を、ヒトスクレロスチンコーティングしたアザラクトンビーズ(Sapidyne Instruments社)を使用して標識した。これらのビーズを、一晩回転させながら、pH9.0〜9.6の50mMの炭酸ナトリウムバッファ中で、50mcg/mLのヒトスクレロスチンと、乾燥させたアザラクトンビーズ50mgとを反応させることにより調製した。次にビーズを沈殿させ、上清をブロッキング溶液(1Mトリス(pH8.0)+10mg/mLのウシ血清アルブミン)で置換し、1時間回転させた。このビーズストックを、結合バッファ中で20倍希釈し、3日以内に使用した。室温(約25℃)で平衡化させたKinExA3000計測器を結合試験に用いた。典型的には、平衡化された抗体/スクレロスチン溶液6.25mLを0.25mL/分の流速で、プレパックされたヒトスクレロスチン−アザラクトンビーズカラムに通し、次にランニングバッファ(1×リン酸緩衝生理食塩水、0.02%のアジ化ナトリウムを含有、pH7.4)で洗浄した。注入された標識二次的抗体(Cy5標識ヤギ抗ヒトFab’2抗体)により生じる蛍光を測定することによって、これらのビーズに結合した遊離抗スクレロスチン抗体のフラクションを解析した。各条件においてサンプルを2回反復して解析し、KinExA Proソフトウェアを用いて、1:1結合モデルにデータをフィットさせてKを決定した。25℃における平均K値を、下記の表3に示す。
【0091】
【表3】

【0092】
実施例4:In vivoカルセインアッセイ:
ラットカルセインアッセイにより、短期間(10日)での骨形成及び骨形成に及ぼす本発明の抗体の効果を、直接評価することができる。カルセインは蛍光色素標識であり、新しい骨形成の間、骨基質中に取り込まれる。カルセインの定量値は、薬理物質により誘導される骨形成の程度を反映する。6ヵ月齢のメスのスピローグ−ドーリーラットを使用した(n=6/投与群)。ラットに対して、皮下注射で、PBSビヒクル中の1mg/kg若しくは6mg/kgの抗体による3日毎(0、3及び6日目)の投与、又は10μg/kg PTHによる毎日の投与、又は陰性コントロールとして6mg/kgのヒトIgGによる投与を行った。カルセインを7日目に皮下注射し、更にラットを10日目にと殺した。脛骨を採集し、切片を作製し、小柱骨(遠位骨幹端)の形成又は皮質骨(脛骨骨幹)の形成を評価し、また脱ミネラル化及び全カルセインの蛍光色素測定を行った。下記の表4に示される値は、ヒトIgGコントロールを1.0としたときの平均値である。そのデータは、本発明の抗体の投与により小柱及び皮質における骨形成が生じることを証明するものである。
【0093】
【表4】

【0094】
実施例5:変形性股関節症:
SOSTの発現は、主に骨組織に限定される。しかしながら出願人は、リアルタイムPCRで測定した結果、顕著なSOST発現を示す他の組織として、軟骨が挙げられると本願明細書において結論づけた。SOSTの軟骨発現は、健常者若しくは関節炎の患者の軟骨から分離されるRNAのアレイを使用することによっても観察される。更に、そのアレイにおいて、SOSTの発現は、骨関節炎の重篤度に比例して増加し(軽度の骨関節炎の場合の軟骨における発現はコントロールより大きく、重度の場合には軽度の場合よりも大きく、また外科的に重症である場合(膝関節置換手術のために除去した場合)には他の全ての場合よりも大きい)、すなわち骨関節炎とSOST発現との相関を示すものである。スクレロスチンに特異的な抗体は、骨関節炎の治療に使用できる。
【0095】
ラットFc領域上にラット可変領域を有する抗スクレロスチンキメラ抗体(配列番号42の重鎖及び配列番号43の軽鎖を有する抗体789)を用い、骨関節炎のMIAモデルの関節痛を防止する能力を試験した。この抗体の可変領域を、ヒト化抗体89(配列番号16のHCVR及び配列番号19のLCVR)の調製用の親配列とした。ヒト化抗体89及びキメラ抗体789は、両方とも、同じエピトープと結合する。この骨関節炎モデルは、直接膝関節へのモノヨードアセテート(MIA)の注入を利用して、炎症性及びサイトカイン媒介の痛み及び軟骨破壊プロセスを伴うOA様のプロセスを誘導するものである。ラットの反対側の膝に生理食塩水のみを注射し、2つの後肢の加重耐久性の相違として痛みを測定した。
【0096】
MIA実験#1は、「予防モード」の若いオスのルイスラット(生後7〜8週齢)を用いて、抗スクレロスチン抗体をMIA注射前に投与するものである。MIA注入の前日、ラットに、10mg/kgの抗スクレロスチン抗体、又は10mg/kgのコントロールIgG、又はPBS(群あたりn=6)を注射(i.p.)した。翌日、ラットを麻酔し、右膝に、0.9%の無菌の生理食塩水に溶解させた0.3mgのヨード酢酸一ナトリウムを50μLで注射した。左膝に、生理食塩水のみを注射した。プラスチック製のチューブシースで覆われた28Gの針を有するインシュリンシリンジを使用して、膝蓋骨の靭帯を通して5mmだけ貫通させ、膝関節に注射した。
【0097】
痛みの測定は、MIA注射の2日及び7日後(抗体注射の3日及び8日後)に行った。7日目における痛み測定の後、第2の抗体又はコントロールの注射を行った。更なる痛みの測定を、MIAの10日及び14日後(抗体の第2の注射後3日及び7日)に行った。
【0098】
鎮痛評価装置を用いて、注射された肢の荷重耐久性の違いとして痛みを測定した。圧力センサ上に後肢を乗せる形で、パースペックス製のボックスにラットを置いた。ラットが確実に静止したら、1秒間の読み取りを行い、更に2回の読み取りを行い、それらの平均値を算出した。MIA注射された肢に荷重される重量から、生理食塩水を注入された肢の値を減算し、荷重耐性の差を算出した。
【0099】
統計学的に有意な痛みの減少が、IgG(及びPBS)のコントロールと比較し、抗スクレロスチン抗体によるMIA投与の後、7、10及び14日目に観察された(下記の表5参照)。それらの値は、MIAを注射された肢と生理食塩水を注射された肢との荷重耐性の相違(平均±標準偏差)である。
【0100】
第2のMIA実験を、高齢ラット(生後27週間目)及びMIA注射した後で抗体を投与した「処置モード」に関して実施した。ラットに、上記と同様にMIA又はコントロール生理食塩水を注射し、次に6日後に10mg/kgの抗スクレロスチン抗体、コントロールIgG又はPBSをi.p.で注射した(群あたりn=6)。MIAの8日及び15日後(抗体投与後2日及び9日後)に、上記の通りの痛み測定を実施した。MIAの16日後、抗スクレロスチン抗体及びコントロールの第2の投与を行い、21日(第2の抗体投与の5日後)に、痛み測定値を再度収集した。
【0101】
抗スクレロスチン抗体の投与後の初期の時点(MIA後8日)においては、痛みに対する抗体の効果はなかったが、7日後においては、MIA注射された肢と、生理食塩水を注射された肢との重量(g)の測定値の相違として、痛みを減少させる傾向が示された。抗スクレロスチン抗体により痛みが緩和される傾向は、第2の抗体投与の5日後にも観察された。キメラ抗体789は、15及び21日目で、それぞれp値が0.06及び0.08であり、IgGコントロールとは異なっていた。これらの結果から、確立されたMIA疾患プロセスから生じる関節炎が、抗スクレロスチン中和抗体の投与により抑制されることが証明された。
【0102】
実施例6:OVXラット試験:
卵巣切除(OVX)ラットは、閉経後骨粗鬆症モデルとして周知である。この試験では、OVXラットにおける、ラット可変領域及びラットFcを含んでなる本発明の抗スクレロスチン抗体の効果を解析した。
【0103】
6ヵ月齢のメスのスピローグ−ドーリーラットを卵巣摘出し、投与前の1ヵ月間、骨損失を生じさせた。ラットの1つの群(n=8)は、卵巣切除を受けていないが、卵巣摘出ラットとの骨比較のための擬似(sham)手術を受けた。全てのOVXラットを、各処置群(各々n=7)にランダム化し、PTH(1−38)、IgGコントロール(10mg/kg)又は10mg/kgのキメラ抗スクレロスチン抗体(配列番号40の重鎖及び配列番号41の軽鎖を有する抗体788:[この抗体の可変領域は、ヒト化抗体88の調製用の親配列である]、配列番号42の重鎖及び配列番号43の軽鎖を有する抗体789)のいずれかで、合計58日間にわたり処置した。全ての抗体を3日毎に1回皮下投与し、一方、PTH(1−38)は10mg/kgで1日1回皮下投与した。安楽死させた後、大腿骨及び脊柱を摘出し、遠位大腿骨(小柱骨)及び骨幹中部(皮質骨)、並びに第5腰椎を、CTスキャナを使用して、定量的コンピュータ断層撮影(CT)分析により解析した。再生可能な測定のために鋳造粘土に骨を配置し、大腿骨のスキャンを、骨端から2mm(大腿骨遠位部)、又は骨端から10mm(大腿骨骨幹中部)において実施した。
【0104】
脊椎骨のランドマーク「V」構造からのL−5スキャンにより、椎骨の測定を実施した。SYS−C320−V 1.5ソフトウェアパッケージを用いてデータを算出した。大腿骨の骨幹、L−5脊柱及び大腿骨頸部の生体機械的特性を、Turner CH,Burr DB,Basic biomechanical measurements of bone:a tutorial.Bone 14(4):595−608,1993に従い、検死後に測定した。骨幹中部の機械的特性は、無傷の左の大腿骨を用いて、15mm間隔で2つの支持体の中間への荷重による3点屈曲試験により測定した。荷重位置が、末梢部の膝窩空間から約7.5mmとなるように大腿骨を配置し、中央−横軸周辺で屈曲を生じさせた。37℃の生理食塩水の浴槽中で標本を試験した。荷重−変位(Load−displacement)曲線を、材料試験機(モデル:1/S、MTS社、ミネアポリス、MN)を使用して、10mm/分のクロスヘッド速度で記録し、TestWorks4ソフトウェア(MTS社)を使用して解析し、ピーク負荷を算出した。後部プロセスを取り除いた後、L−5脊柱の機械的特性を分析し、中心の端はダイヤモンドウエハ調製用ソー(Buekler Isomet社製、エヴァンストン、IL)を使用して平行にした。材料試験装置を使用して椎骨標本をロードして圧縮し、TestWorks4ソフトウェア(MTS社)を使用して分析した。大腿骨頸部の測定の場合、大腿骨を近位側を上に向けて取付チャック上に垂直に置き、大腿骨頭部の中間点において、下方へ荷重をかけた。TestWorks4ソフトウェア(MTS社)を用いて分析した。平均値及び平均値の標準誤差を、下記の表5及び6に示す。それらのデータから、キメラ抗体788及び789が、OVXラットの骨密度(「BMD」)、骨塩量(「BMC」)及び骨強度(ピーク負荷)を増加させることが証明された。
【0105】
【表5】

【0106】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトスクレロスチンと特異的に結合し、
i)配列番号20のHCDR1、配列番号21のHCDR2、配列番号22のHCDR3、配列番号23のLCDR1、配列番号24のLCDR2及び配列番号25のLCDR3;
ii)配列番号26のHCDR1、配列番号27のHCDR2、配列番号28のHCDR3、配列番号29のLCDR1、配列番号30のLCDR2及び配列番号31のLCDR3;並びに
iii)配列番号32のHCDR1、配列番号33のHCDR2、配列番号34のHCDR3、配列番号35のLCDR1、配列番号36のLCDR2及び配列番号37のLCDR3;
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する6つのCDRを含む抗体であって、前記抗体が、
i)ヒトスクレロスチンに対するKが25℃で10pM以下、
ii)カニクイザルスクレロスチンに対するKが25℃で100pM以下、及び、
iii)ヒトスクレロスチンを使用した骨特異的アルカリホスファターゼアッセイにおけるIC50が50nM以下、のうちの少なくとも1つを特徴とする抗体。
【請求項2】
ヒトスクレロスチンと特異的に結合し、かつ重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含んでなる抗体であって、
i)重鎖可変領域が配列番号14のアミノ酸配列を有し、かつ軽鎖可変領域が配列番号17のアミノ酸配列を有するか、
ii)重鎖可変領域が配列番号15のアミノ酸配列を有し、かつ軽鎖可変領域が配列番号18のアミノ酸配列を有するか、又は、
iii)重鎖可変領域が配列番号16のアミノ酸配列を有し、かつ軽鎖可変領域が配列番号19のアミノ酸配列を有する抗体。
【請求項3】
ヒトスクレロスチンと特異的に結合し、かつ重鎖ポリペプチド及び軽鎖ポリペプチドを含んでなる抗体であって、
i)重鎖ポリペプチドが配列番号2のアミノ酸配列を有し、かつ軽鎖ポリペプチドが配列番号5のアミノ酸配列を有するか、
ii)重鎖ポリペプチドが配列番号3のアミノ酸配列を有し、かつ軽鎖ポリペプチドが配列番号6のアミノ酸配列を有するか、又は、
iii)重鎖ポリペプチドは配列番号4のアミノ酸配列を有し、かつ軽鎖ポリペプチドが配列番号7のアミノ酸配列を有する抗体。
【請求項4】
ヒトスクレロスチンと特異的に結合し、かつ、配列番号3のアミノ酸配列を有する重鎖ポリペプチドと配列番号6のアミノ酸配列を有する軽鎖ポリペプチドを含んでなる抗体。
【請求項5】
前記抗体のヒトスクレロスチンに対するKが25℃で10pM以下である、請求項2から4のいずれか1項記載の抗体。
【請求項6】
前記抗体のヒトスクレロスチンに対するKが25℃で2.2pM以下である、請求項2から4のいずれか1項記載の抗体。
【請求項7】
前記抗体のヒトスクレロスチンを使用した骨特異的アルカリホスファターゼアッセイにおけるIC50が50nM以下である、請求項2から6のいずれか1項記載の抗体。
【請求項8】
前記抗体が、ヒトIgG、IgG2、IgG、IgGの重鎖定常領域及び配列番号38のアミノ酸配列を有するポリペプチドからなる群から選択される重鎖定常領域を含んでなる、請求項1又は2記載の抗体。
【請求項9】
薬剤の調製に用いられる、請求項1から8のいずれか1項記載の抗体。
【請求項10】
ヒト被験者において、骨量、骨塩密度、骨塩量及び骨強度の少なくとも1つを増加させる方法に用いられる、請求項1から8のいずれか1項記載の抗体。
【請求項11】
ヒト被験者における骨量、骨塩密度、骨塩量及び骨強度の少なくとも1つを増加させるための薬剤の調製への、請求項1から8のいずれか1項記載の抗体の使用。
【請求項12】
ヒト被験者の骨粗鬆症、骨減少症、骨関節炎、慢性関節リウマチ、歯周病及び多発性骨髄腫からなる群から選択される疾患又は障害の治療用薬剤の調製への、請求項1から8のいずれか1項記載の抗体の使用。
【請求項13】
ヒト被験者の骨量、骨塩密度、骨塩量及び骨強度の少なくとも1つを増加させる方法であって、それを必要とするヒト被験者に有効量の請求項1から8のいずれか1項記載の抗体を投与することを含んでなる方法。
【請求項14】
ヒト被験者の骨粗鬆症、骨減少症、骨関節炎、骨関節炎に関連する痛み、歯周病及び多発性骨髄腫からなる群から選択される疾患又は障害を治療する方法であって、それを必要とするヒト被験者に有効量の請求項1から8のいずれか1項記載の抗体を投与することを含んでなる方法。
【請求項15】
ヒト被験者の骨粗鬆症を治療する方法であって、それを必要とするヒト被験者に、配列番号3の重鎖ポリペプチドと配列番号6の軽鎖ポリペプチドを含んでなる、有効量の抗体を投与することを含んでなる方法。
【請求項16】
請求項1から8のいずれか1項記載の抗体と、薬理学的に許容できる担体又は希釈剤とを含んでなる医薬組成物。
【請求項17】
生物学的サンプル中のスクレロスチンタンパク質を検出する方法であって、
i)配列番号40の重鎖ポリペプチドと配列番号41の軽鎖ポリペプチドを含んでなる抗体、
ii)配列番号42の重鎖ポリペプチドと配列番号43の軽鎖ポリペプチドを含んでなる抗体、
iii)配列番号2の重鎖ポリペプチドと配列番号5の軽鎖ポリペプチドを含んでなる抗体、
iv)配列番号3の重鎖ポリペプチドと配列番号6の軽鎖ポリペプチドを含んでなる抗体、及び
v)配列番号4の重鎖ポリペプチドと配列番号7の軽鎖ポリペプチドを含んでなる抗体からなる群から選択される抗体と、生物学的サンプルとを、前記抗体がスクレロスチンタンパク質と結合し、かつ前記結合を検出するのに十分な条件及び時間で、インキュベートするステップを含んでなる方法。

【公表番号】特表2010−524846(P2010−524846A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−554637(P2009−554637)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【国際出願番号】PCT/US2008/056527
【国際公開番号】WO2008/115732
【国際公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(594197872)イーライ リリー アンド カンパニー (301)
【Fターム(参考)】