説明

抗体遺伝子送達およびそのための組換えAAV

【課題】HIV−1感染に対して有効な予防的および治療的処置を提供すること。
【解決手段】本発明は、一般に、遺伝子送達のための組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の使用に関し、より具体的には、哺乳動物における標的細胞に抗体遺伝子を送達するためのrAAVの使用に関する。HIV−1ウイルスを中和する抗体をコードするrAAVの投与を例示する。能動免疫ストラテジーおよび受動免疫ストラテジーの両方に関する有意な障害に起因して、本発明は、上述のHIV−1 gp160に対するヒトモノクローナル中和抗体およびAAV固有の遺伝子送達特性の存在を利用するアプローチを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2002年4月9日に出願された米国仮出願番号60/371,501の一部継続である。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、一般には遺伝子送達のための組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の使用に関し、より具体的には、哺乳動物における標的細胞への抗体遺伝子を送達するためのrAAVの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、複製不全のパルボウイルスであり、その1本鎖DNAゲノムは、逆方向末端反復(ITR)の145ヌクレオチドを含む約4.7kb長である。AAV血清型2(AAV2)ゲノムのヌクレオチド配列は、Srivastavaら、J.Virol.,45:555−564(1983)に示されており、Ruffingら、J.Gen.Virol.,75:3385−3392(1994)によって訂正されている。ウイルスDNA複製(rep)、キャプシド形成/パッケージングおよび宿主細胞の染色体組込みを指示するシス作動性配列は、ITRの範囲に含まれる。3つのAAVプロモーター(p5、p19およびp40(その相対的なマップ位置にちなんで名付けられる))は、rep遺伝子およびcap遺伝子をコードする2つのAAV内部オープンリーディングフレームの発現を駆動する。単一のAAVイントロン(ヌクレオチド2107および2227)の差次的なスプライシングと相まって、この2つのrepプロモーター(p5およびp19)は、rep遺伝子からの4つのrepタンパク質(rep78、rep68、rep52およびrep40)の産生を生じる。repタンパク質は、最終的にウイルスゲノムの複製を担う複数の酵素特性を保有する。cap遺伝子は、p40プロモーターから発現され、この遺伝子は、3つのキャプシドタンパク質(VP1、VP2およびVP3)をコードする。選択的スプライシングおよびコンセンサスでない翻訳開始部位は、3つの関連するキャプシドタンパク質の産生を担う。単一のコンセンサスポリアデニル化部位がAAVゲノムのマップ位置95に位置する。AAVの生活環および遺伝学は、Muzyczka、Current Topics in Microbiology and Immunology,158:97−129(1992)において総説されている。
【0004】
野生型のAAVがヒト細胞に感染すると、ウイルスゲノムが19番染色体に組み込まれ、細胞の不顕性感染を生じ得る。細胞がヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルスまたはヘルペスウイルス)に感染するまで、感染性ウイルスの産生は生じない。アデノウイルスの場合、遺伝子E1A、E1B、E2A、E4およびVAがヘルパー機能を提供する。ヘルパーウイルスに感染すると、AAVプロウイルスがレスキューおよび増幅され、AAVとアデノウイルスの両方が産生される。
【0005】
AAVは、免疫原性ペプチド/ポリペプチドを発現するためのワクチンベクターとして、および、例えば、遺伝子治療において、外因性のDNAを細胞に送達するためのベクターとして、AAVを魅力的にする独特の特性を保有する。培養中の細胞のAAV感染は、非細胞障害性であり、ヒトおよび他の動物の天然の感染は、静的であり、無症候性である。さらに、AAVは、多くの哺乳動物細胞に感染し、インビボにおいて多くの異なる組織を標的化する可能性を提供する。さらに、AAVは、分裂細胞および非分裂細胞にゆっくりと形質導入し、転写的に活性な核エピソーム(染色体外エレメント)として、本質的にはこれらの細胞の寿命の間持続し得る。AAVプロウイルスゲノムは、プラスミドにクローニングされたDNAとして感染性であり、このことは、組換えゲノムの構築物を実現可能にする。さらに、AAVの複製、ゲノムのキャプシド形成および組み込みを指向するシグナルがAAVゲノムのITR内に含まれるので、ゲノムの内側約4.3kb(複製キャプシドタンパク質および構造キャプシドタンパク質(rep−cap)をコードする)のいくらかまたは全てが、プロモーター、目的のDNAおよびポリアデニル化シグナルを含む、遺伝子カセットのような外来DNAで置換され得る。repタンパク質およびcapタンパク質は、トランスで提供され得る。AAVの別の重要な特徴は、AAVが非常に安定かつ頑強なウイルスであるということである。AAVは、アデノウイルスを不活性化するのに用いられる条件(56〜65℃で数時間)に容易に耐え、rAAVベクターの定温保存をより重要でなくする。AAVは、凍結乾燥さえされ得る。最後に、AAVが感染した細胞は、多重感染に抵抗性でない。
【0006】
HIV−1は、米国において後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因物質であると考えられている。世界保健機構によって評価されたように、4千万人以上が現在HIVに感染しており、2千万人がすでにAIDSで死亡している。従って、HIV感染は、世界規模の流行病であると考えられる。
【0007】
現在認識されている2つのHIV株(HIV−1およびHIV−2)が存在する。HIV−1は、世界中でAIDSの主要な原因である。HIV−1は、ゲノム配列変化に基づいてクレードに分類されている。例えば、クレードBは、北米、ヨーロッパ、南米の一部およびインドで最も優勢であり;クレードCは、サハラ以南のアフリカにおいて最も優勢であり;そして、クレードEは、東南アジアにおいて最も優勢である。HIV−1感染は、主に、性的感染、母子感染、または汚染された血液もしくは血液製剤への曝露を通じて生じる。
【0008】
現在認識されている2つのHIV株(HIV−1およびHIV−2)が存在する。HIV−1は、世界中でAIDSの主要な原因である。HIV−1は、ゲノム配列変化に基づいてクレードに分類されている。例えば、クレードBは、北米、ヨーロッパ、南米の一部およびインドで最も優勢であり;クレードCは、サハラ以南のアフリカにおいて最も優勢であり;そして、クレードEは、東南アジアにおいて最も優勢である。HIV−1感染は、主に、性的感染、母子感染、または汚染された血液もしくは血液製剤への曝露を通じて生じる。
【0009】
HIV−1は、ウイルス構造タンパク質および酵素の内部コア、ならびにウイルスの複製に必要とされるタンパク質、および2つの同一の直鎖状RNAのゲノムを取り囲む脂質エンベロープからなる。脂質エンベロープにおいて、ウイルス糖タンパク質41(gp41)が、ウイルス表面から延びて、感受性細胞の表面上レセプターと相互作用する別のウイルスエンベロープ糖タンパク質120(gp120)を係留する。HIV−1ゲノムは、約10,000ヌクレオチドのサイズであり、9つの遺伝子を含む。HIV−ゲノムは、全てのレトロウイルスに共通の3つの遺伝子(gag遺伝子、pol遺伝子およびenv遺伝子)を含む。gag遺伝子は、コア構造タンパク質をコードし、env遺伝子はgp120およびgp41エンベロープタンパク質をコードし、そして、pol遺伝子はウイルスの酵素である逆転写酵素(RT)、インテグラーゼおよびプロテアーゼ(pro)をコードする。ゲノムは、ウイルスの複製に必須の2つの他の遺伝子である、ウイルスプロモータートランスアクチベーターをコードするtat遺伝子および、また、遺伝子の転写を促進するrev遺伝子を含む。最後に、nef遺伝子、vpu遺伝子、vpr遺伝子およびvif遺伝子は、レンチウイルスに固有であり、Trono,Cell,82:189−192(1995)に記載される機能のポリペプチドをコードする。
【0010】
HIV−1がヒト細胞に感染するプロセスは、ウイルスの表面上タンパク質と細胞の表面上タンパク質との相互作用を含む。一般的な理解は、HIV感染の最初の段階が、HIV−1の糖タンパク質(gp)120の細胞CD4タンパク質への結合であるということである。この相互作用は、ウイルスgp120に立体構造の変化を生じさせ、他の細胞表面タンパク質(例えば、CCR5タンパク質またはCXCR4タンパク質)に結合し、ウイルスの細胞との引き続く融合を可能にする。従って、CD4は、HIV−1に対する主要なレセプターとして記載されており、一方で、他の細胞表面タンパク質がHIV−1に対するコレセプターとして記載されている。
【0011】
HIV−1感染は、ウイルス感染とAIDSの発症との間の無症候性の期間により特徴付けられる。AIDSへの進行速度は、感染した個人間で異なる。AIDSは、CD4陽性細胞(例えば、ヘルパーT細胞および単球/マクロファージ)が感染され、そして消耗されると発症する。AIDSは、日和見感染症、悪性腫瘍の危険の増加および細胞媒介性免疫の欠失に代表的な他の症状として顕性化する。The Centers for Disease Control and Preventionの小児、青年および成人の疾患の臨床分類は、SleasmanおよびGoodenow,J.Allergy Clin.Immunol.,111(2):S582−S592(2003)の表Iに示される。
【0012】
AIDSへの進行の可能性の予測は、ウイルス負荷(ウイルスの複製)のモニタリング、および感染した個体におけるCD4陽性T細胞の測定を包含する。ウイルス負荷が高いほど、個人はよりAIDSを発症する可能性が高い。CD4陽性T細胞数が低いほど、個人がAIDSを発症する可能性が高い。
【0013】
現在、抗レトロウイルス薬物療法(ART)は、HIV感染を処置するか、または1個人から別の個人へのHIV−1の伝染を防ぐ唯一の手段である。せいぜい、ARTを用いてさえ、HIV−1感染は、一生の薬物療法を必要とする慢性状態であり、疾患へのゆっくりとした進行がなお存在し得る。ウイルスが不顕性の保有者において持続し得るため、ARTは、HIV−1を根絶しない。さらに、処置レジメンは、毒性であり得、毎日複数の薬物を使用しなければならない。従って、HIV−1感染に対する有効なワクチンおよび処置を開発する緊急の必要性が存在する。
【0014】
過去数年にわたって、HIV感染に対する安全かつ有効なワクチンに向って進歩がなされており、複数のアプローチが動物モデルおよびヒトにおいてとられている。ワクチン候補物の多くは、測定可能かつ有意な抗原特異的T細胞応答を誘発した。対照的に、ワクチン候補の多くは、HIV−1の重要な単離体を広く中和する血清抗体を誘導できない。従って、このような抗体がHIV−1感染および疾患に対する重要な保護であると考える場合、現在のHIV−1ワクチン候補物の設計には重大なギャップが残る。
【0015】
エンベロープ免疫原でのワクチン接種後の中和抗体の誘導の欠落を説明するために、いくつかの仮説が提示される。まず、誘発された抗エンベロープ抗体のほとんどが、成熟したオリゴマーエンベロープ複合体を認識せず、むしろプロセシングされていないgp160前駆体または単量体のgp120に結合する。このことは、部分的に、成熟したエンベロープスパイクの三量体構造に起因し、この構造は、低い固有免疫原性の分子を生じる。露出された表面ドメインの伸長性のグリコシル化は、スパイクの重要な部分を非免疫原性にし、分子のいわゆる「静的表面」を生じる。第2に、三量体部分のコンパクトな構造は、三量体のコアの内部に位置されるタンパク質エピトープの抗体認識と立体的に干渉する。重要なことには、これらの同じエピトープが、プロセシングされていないgp160前駆体または単量体のgp120タンパク質上に容易に露出され、タンパク質の非中和化表面にマッピングされる。結果として、広範なクレードにまたがる様式で主要なウイルス単離体を中和する、ヒトモノクローナル抗体を単離することは、非常に困難である。実際、種々の技術を用いる努力にも拘らず、わずか6つのこのような抗体(Zwickら、J.Virol.,75:12198−12208,2001に記載されるb12、2G12、2F5、Z13および4E10、ならびにMoulardら.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,6913−6918,2002に記載されるX5)が同定されている。このような抗体がHIV−1に感染したヒトにおいて稀であるという事実は、従来のワクチン接種法を用いて広範に反応性な抗体を誘発するのに、病気(と定義されるが実質的には障壁である)を強調するようにして働く。
【0016】
この問題のための1つの可能な解決策は、所望の中和活性を有する抗体調製物(モノクローナルまたはポリクローナル)を予防的に投与することであり得る。HIV−1に関して、非ヒト霊長類における研究は、受動的に投与された中和抗体がSIV/SHIV/HIV感染に対して有意な保護を提供し得ることを示唆する。この型の「受動免疫」スキームは、重篤な呼吸器合胞体ウイルス感染の危険性がある幼児の標的化された集団に対すて大規模に首尾良く適用されている。しかし、このようなHIV感染に対するストラテジーは、重大な欠陥を有する。無期限にわたって、頻繁に多数の人に抗体調製物を投与することは、非常にコストがかかり、非実用的である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
(発明の要旨)
本発明は、HIV−1感染に対して有効な予防的および治療的処置の開発への必要性を認識する。能動免疫ストラテジーおよび受動免疫ストラテジーの両方に関する有意な障害に起因して、本発明は、上述のHIV−1 gp160に対するヒトモノクローナル中和抗体およびAAV固有の遺伝子送達特性の存在を利用するアプローチを用いる。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
rAAV/IgG1b12ゲノム。
(項目2)
項目1に記載のrAAV/IgG1b12ゲノムを含むポリヌクレオチド。
(項目3)
項目1に記載のrAAV/IgG1b12ゲノムを含むパッケージング細胞。
(項目4)
項目1に記載のrAAV/IgG1b12ゲノムを含む精製rAAV/IgG1b12。
(項目5)
項目4に記載のrAAV/IgG1b12を含む組成物。
(項目6)
細胞においてIgG1b12抗体を産生する方法であって、細胞を項目4に記載の精製rAAV/IgG1b12の有効量で形質転換して該細胞におけるIgG1b12抗体の発現を誘発する工程を包含する、方法。
(項目7)
動物においてIgG1b12抗体を産生する方法であって、項目5に記載の組成物の有効量を患者に投与して、該動物におけるIgG1b12抗体の発現を誘発する工程を包含する、方法。
(項目8)
前記動物が人間である、項目7に記載の方法。
(項目9)
rAAV/ScFvX5ゲノム。
(項目10)
項目9に記載のrAAV/ScFvX5ゲノムを含むポリヌクレオチド。
(項目11)
項目9に記載のrAAV/ScFvX5ゲノムを含むパッケージング細胞。
(項目12)
項目9に記載のrAAV/ScFvX5ゲノムを含む精製rAAV/ScFvX5。
(項目13)
項目12に記載のrAAV/ScFvX5を含む組成物。
(項目14)
細胞においてScFvX5抗体ポリペプチドを産生する方法であって、細胞を項目12に記載の精製rAAV/ScFvX5の有効量で形質転換して該細胞におけるScFvX5抗体ポリペプチドの発現を誘発する工程を包含する、方法。
(項目15)
動物においてScFvX5抗体ポリペプチドを産生する方法であって、項目13に記載の組成物の有効量を患者に投与して、該動物におけるScFvX5抗体ポリペプチドの発現を誘発する工程を包含する、方法。
(項目16)
前記動物が人間である、項目15に記載の方法。
(項目17)
抗HIV−1抗体ポリペプチドをコードする精製rAAV。
(項目18)
1つ以上の項目17に記載のrAAVを含む組成物。
(項目19)
細胞において抗HIV−1抗体ポリペプチドを産生する方法であって、細胞を項目17に記載の精製rAAVの有効量で形質転換して該細胞における抗HIV−1抗体ポリペプチドの発現を誘発する工程を包含する、方法。
(項目20)
動物において抗HIV−1抗体ポリペプチドを産生する方法であって、項目18に記載の組成物の有効量を患者に投与して、該動物における抗HIV−1抗体ポリペプチドの発現を誘発する工程を包含する、方法。
(項目21)
前記動物が人間である、項目20に記載の方法。
【0018】
第1の局面において、本発明は、rAAVゲノムを提供する。このrAAVゲノムは、標的細胞において機能的である、転写制御DNA、特にプロモーターのDNAおよびポリアデニル化シグナル配列のDNAに作動可能に連結されている1つ以上の抗体ポリペプチドをコードするDNAの遺伝子カセットに隣接するAAV ITRを含む。この遺伝子カセットはまた、イントロン配列を含み、哺乳動物細胞において発現される場合にRNA転写物のプロセシングを促進し得る。本発明のrAAVゲノムは、AAVのrep DNAおよびcap DNAを欠失する。rAAVゲノムのAAV DNAは、組換えウイルスが由来し得る任意のAAV血清型由来であり得る。
【0019】
特に、本発明は、軽鎖および重鎖ポリペプチドをコードする二重プロモーターの遺伝子カセットを意図する。1つの実施形態において、遺伝子カセットは、以下を含む:(1)形質導入される細胞において活性な2つの恒常性プロモーター、(2)プロモーターエレメントまたは重鎖および軽鎖コード配列の迅速な置換を可能にするいくつかの固有の制限酵素部位、(3)インフレームの抗体遺伝子クローニングを促進する固有の制限部位、(4)可能性のあるプロモーター干渉を減らすための、第1の発現カセットに対する強力な転写終止部位3’、ならびに(5)2つのプロモーターのうちの1つの転写制御下にて、各々挿入される目的のモノクローナル抗体の重鎖および軽鎖の両方をコードするポリヌクレオチド配列。
【0020】
本発明は、ウイルスタンパク質(例えば、HIV、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、Epstein Barrウイルスおよび呼吸器合胞体ウイルスのタンパク質)および細菌タンパク質、ならびに抗体の供給が有効な処置である慢性疾患状態に関する他のタンパク質(例えば、疾患状態が生じるときにのみ発現されるタンパク質、または疾患状態の非存在下での発現と比べて発現がアップレギュレートされるタンパク質)に指向する抗体を発現するrAAVゲノムを意図する。慢性疾患状態の例としては、以下が挙げられる:癌、炎症性疾患(例えば、慢性関節性リウマチおよび炎症性腸疾患)、およびプリオン関連疾患(例えば、狂牛病、Creutzfeldt−Jakob病、Gerstmann−Straussler−Scheinker症候群、致死性家族性不眠症、クールーおよびAlpers症候群)。主要なHIV−1単離体(例えば、モノクローナル抗体IgG1b12、2F5、Z13、45E10、F105およびX5)を中和するモノクローナル抗体をコードするゲノムが特に意図される。これらの抗体は、Zwickら、J.Virol.,75:12198−12208,2001;Babaら、Nat.Med.6:200−206,2000;およびMoulardら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,6913−6918,2002)に多様に記載されている。Z13のアミノ酸配列は、Genebank登録番号AY035845およびAY035846(配列番号18および19)に示され、2F5の重鎖DNAおよび軽鎖DNAならびにアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号22および23ならびに配列番号24および25に記載される。ヒトCMVの最初期のプロモーター/エンハンサー、SV40小T−抗原イントロン、b12重鎖コード配列、ウシ成長ホルモンポリアデニル化部位、HTLV1型の長い末端反復配列のRセグメントおよびU5配列の一部を用いて改変されたヒト伸長因子−1αプロモーター、I117イントロン、b12軽鎖コード配列ならびにSV40ポリアデニル化部位を含む二重プロモーターの遺伝子カセットが本明細書中で具体的に例示される。この遺伝子カセットを含むrAAVゲノムは、rAAV/IgG1b12ゲノムに指向する。ヒトCMVの最初期のプロモーター/エンハンサー、SV40小T−抗原イントロン、X5重鎖可変領域コード配列、(GlySer)リンカー、X5軽鎖可変領域コード配列およびSV40ポリアデニル化部位を含む遺伝子カセットがまた、本明細書中で具体的に例示される。この遺伝子カセットを含むrAAVゲノムは、rAAV/ScFvX5ゲノムに指向する。
【0021】
本発明は、rAAVゲノムによってコードされる抗体ポリペプチドを意図し、この抗体ポリペプチドは、任意のクラス(IgG、IgA、IgD、IgMまたはIgE)またはそのサブクラスのインタクトな免疫グロブリン分子、四量体、二量体、単鎖抗体、二官能性抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全に新規の組換え抗体、化学的手段または生物学的手段によって新規に合成された抗体、Fabフラグメント、F(ab)’、ならびに他の免疫活性部分、フラグメント、セグメントおよび他のより小さい部分抗体構造もしくはより大きい部分抗体構造であり得、これらの全てが十分な結合活性を有し、従って、本発明の方法において治療的に有用である。さらに、本発明は、「ヒト化」抗体の使用を意図するので、例えば、フレームワークおよび/または相補性決定領域の同一性のいくらかの変化(すなわち、抗体の抗原特異性を決定するのに重要な上記抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域のCDRまたは超可変領域)が、両方とも許容および予想される。従って、本発明に従って、本発明において有用な抗体ポリペプチドのアミノ酸配列は、感染(急性および慢性の感染)および慢性疾患を処置する、公知の効用のこれらの抗体からのいくらかの配列変化を示し得る。このような配列変化は、5%程度であり得、それによって、本明細書中で有用な抗体配列が、既知の効用の抗体と少なくとも95%の同一性を有する。上記のように、抗体ポリペプチドは、任意の抗体クラスであり得る(または任意の抗体クラス由来であり得る)。抗体クラスは、処置される感染および/または疾患状態ならびに抗体ポリペプチドの所望の作用および作用部位を考慮して、当業者により選択され得る(か、または改変され得る)。
【0022】
別の局面において、本発明は、本発明のrAAVゲノムを含むDNAベクターを提供する。このベクターは、感染性のウイルス粒子へのrAAVゲノムのアセンブリのために、AAVのヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス、E1欠失アデノウイルスまたはヘルペスウイルス)での感染に許容性の細胞に輸送される。パッケージングされているAAVゲノム、rep遺伝子およびcap遺伝子ならびにヘルパーウイルス機能が細胞に提供されるAAV粒子を産生する技術は、当該分野の技術水準である。rAAVの産生は、以下の成分が単一の細胞(本明細書中でパッケージング細胞と称する)内に存在することを必要とする:rAAVゲノム、rAAVゲノムとは別のAAV rep遺伝子およびAAV cap遺伝子、ヘルパーウイルス機能。AAV rep遺伝子およびAAV cap遺伝子は、組換えウイルスがrAAVゲノムITR以外の異なるAAV血清型由来であり得る、任意のAAV血清型由来であり得る。
【0023】
パッケージング細胞の作製方法は、AAV粒子産生のための全ての必要な成分を安定に発現する細胞株を作製することである。例えば、rAAVゲノム、rAAVゲノムから単離したAAV repおよびcap遺伝子、ならびに選択マーカー(例えば、ネオマイシン体制遺伝子)を含むプラスミド(または複数のプラスミド)を細胞のゲノムに組み込む。次いで、パッケージング細胞株にヘルパーウイルス(例えば、アデノウイルス)を感染させる。この方法の利点は、細胞が選択可能であり、rAAVの大規模産生に適することである。適切な方法の他の例は、プラスミドよりむしろ、アデノウイルスまたはバキュロウイルスを用いて、パッケージング細胞内にrAAVゲノムならびに/またはrepおよびcap遺伝子を組み込む。
【0024】
従って、本発明は、感染性のrAAVを産生するパッケージング細胞を提供する。1つの実施形態において、パッケージング細胞は、癌細胞(例えば、HeLa細胞、293細胞およびPerC.6細胞(同族の293株))に安定に形質導入され得る。別の実施形態において、パッケージング細胞は、低い継代の293細胞(アデノウイルスのE1で形質転換したヒト胎性腎臓細胞)、MRC−5細胞(ヒト胎性線維芽細胞)、WI−38細胞(ヒト胎性線維芽細胞)、Vero細胞(サル腎臓細胞)およびFRhL−2細胞(アカゲザル胎性肺細胞)のような形質転換された癌細胞でない細胞である。
【0025】
別の局面において、本発明は、本発明のrAAVゲノムを含むrAAV(すなわち、感染性のキャプシド化されたrAAV粒子)を提供する。1つの実施形態において、rAAVは、rAAV/IgG1b12である。別の実施形態において、rAAVは、rAAV/ScFvX5である。rAAVは、カラムクロマトグラフィーまたは塩化セシウム勾配によってのような、当該分野で標準的な方法によって精製され得る。
【0026】
別の実施形態において、本発明は、本発明のrAAVを含む組成物を企図する。これらの組成物を用いて、ウイルス感染(急性および慢性のウイルス感染)、特にAIDS、細菌感染(急性、亜急性および慢性の細菌感染)および他の慢性疾患状態を、処置および/または予防し得る。1つの実施形態において、本発明の組成物は、目的の抗体ポリペプチドをコードするrAAVを含む。他の実施形態において、本発明の組成物は、異なる目的の抗体ポリペプチドをコードする2つ以上のrAAVを含み得る。中和HIV−1について特に、いくつかの抗HIV−1抗体ポリペプチドプチドの発現および分泌を生じるrAAV混合物の投与は、ウイルスの中和を増加させ得る。投与は先行し、同時にかまたは引き続いてARTが施され得る。
【0027】
本発明の組成物は、薬学的に受容可能なキャリア中にrAAVを含む。この組成物はまた、賦形剤およびアジュバントのような他の成分を含み得る。受容可能なキャリア、賦形剤およびアジュバントは、レシピエントに対して無毒性であり、好ましくは、使用される投薬量および濃度では不活性である。このようなものとしては、緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液または他の有機酸緩衝液);抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸);低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);単糖、二糖および他の炭水化物(グルコース、マンノースまたはデキストリンが挙げられる);キレート化剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);および/または非イオン性界面活性剤(例えば、Tween、pluronicsまたはポリエチレングリコール(PEG))が挙げられる。
【0028】
本発明の方法において投与されるrAAVの力価は、例えば、特定のrAAV、投与の様式、処置の目標、標的化される個体および細胞型に依存して変化し、当該分野の標準的な方法によって決定され得る。
【0029】
インビボまたはインビトロで標的細胞にrAAVを形質導入する方法は、本発明によって企図される。インビボ方法は、本発明のrAAVを含む有効量の組成物を、rAAVの投与を必要とする動物(人間を含む)に投与する工程を包含する。この用量がウイルスによる感染または慢性疾患状態の発症の前に投与される場合、投与は予防的である。この量がウイルスによる感染または慢性疾患状態の発症の後に投与される場合、投与は治療的である。有効量とは、処置される感染または疾患状態に関する少なくとも1つの症状を緩和(排除または減少)し得るのに十分な用量である。1つの実施形態において、症状の緩和は、疾患状態へのウイルス感染の進行を妨げる。別の実施形態において、症状の緩和は、疾患状態への進行または疾患状態の進行(ウイルス感染によるものであってもなくても)を防ぐ。ウイルス感染(急性および慢性のウイルス感染を含む)、細菌感染(急性、亜急性および慢性感染を含む)および処置される患者の慢性疾患状態としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:HIV−1感染、B型肝炎ウイルス感染、C型肝炎ウイルス感染、Epstein Barrウイルス感染、呼吸器合胞体ウイルス感染、骨髄炎、結核、慢性関節性リウマチ、炎症性大腸疾患、伝染性海綿状脳症(例えば、Creutzfeldt−Jakob病およびクールー)、Gerstmann−Straussler−Scheinker症候群、致死性家族性不眠症、Alpers症候群および癌。この方法において、感染または疾患状態に関連するタンパク質またはペプチドと特異的に反応する抗体ポリペプチドをコードするrAAVが投与される。有効量の組成物の投与は、当該分野で標準的な経路(例えば、非経口、静脈内、経口、頬側、経鼻、経肺、脳内、骨内、眼内、経直腸または経膣によってであり得る。本発明のrAAVのAAV成分の投与経路および血清型(特に、AAV ITRおよびキャプシドタンパク質)は、処置される感染および/または疾患状態、ならびに抗体ポリペプチドを発現する標的細胞/組織を考慮して、当業者によって選択および/または適合され得る。
【0030】
特に、本発明のrAAVの実際の投与は、rAAV組換えベクターを動物の標的組織内に輸送する任意の物理的な方法を用いて達成され得る。簡単にrAAVをリン酸緩衝生理食塩水に再懸濁させることが、筋肉組織での発現に有用なビヒクルを提供するのに十分であることが示されており、(DNAを分解する組成物が通常の様式でベクターを妨害するが)ベクターと同時に投与され得るキャリアまたは他の成分についての制限は知られていない。rAAVのキャプシドタンパク質は、rAAVが筋肉のような目的の特定の標的組織に標的化されるように改変され得る。薬学的組成物は、注射用処方物としてか、または局所用処方物として経皮輸送によって筋肉へと送達されるように調製され得る。筋肉内注射および経皮輸送の両方についての多数の処方物がこれまでに開発されており、本発明の実施において使用され得る。rAAVは、投与および扱いを容易にするために任意の薬学的に受容可能なキャリアと共に使用され得る。
【0031】
筋肉内注射の目的のために、ゴマ油もしくはピーナッツ油のようなアジュバント中、または、プロピレングリコール水溶液中の溶液、ならびに滅菌水性溶剤が使用され得る。このような水性溶剤は、必要な場合緩衝化され得、そして、液体賦形剤がまず生理食塩水もしくはグルコースで等張にされる。遊離酸としてのrAAV溶液(DNAは酸性リン酸基を含む)または薬学的に受容可能な塩が、ヒドロキシプロピルセルロースのような界面活性剤と適度に混合された水中で調製され得る。rAAVの分散物はまた、グリセロ−ル、液体ポリエチレングリコールおよびこれらの混合物中、ならびに油中に調製され得る。保存および使用の通常の条件下にて、これらの調製物は、微生物の増殖を防ぐために保存剤を含む。この関係で、使用される滅菌水性媒体は全て、当業者に周知の標準的な技術によって容易に入手可能である。
【0032】
注射用途に適切な薬学的形態としては、滅菌水溶液または滅菌分散物、および滅菌注射用溶液または滅菌注射用分散物の即席の調製物のための滅菌粉末が挙げられる。全ての場合において、この形態は、滅菌でなければならず、かつ、容易に注入能が存在する程度に流動性でなければならない。この形態は、製造および保存の条件下において安定でなければならず、かつ、微生物(例えば、細菌および真菌)の汚染作用に対して保護されなければならない。キャリアは、例えば、水、エタノール、ポリオ−ル(例えば、グリセロ−ル、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、これらの適切な混合物、および植物油を含む溶媒または分散媒体であり得る。適切な流動性は、例えば、コーティング剤(例えば、レシチン)を使用することによって、分散剤の場合には必要とされる粒子サイズを維持することによって、および界面活性剤を使用することによって維持され得る。微生物の作用の予防は、種々の抗生物質おおよび抗真菌剤(例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなど)によってもたらされ得る。多くの場合、等張化剤(例えば、糖または塩化ナトリウム)を含むことが好ましい。注射用組成物の延長した吸収は、吸収遅延剤(例えば、一ステアリン酸アルミニウムおよびゼラチン)を使用することによってもたらされ得る。
【0033】
滅菌注射溶剤は、上記で列挙した種々の他の成分と共に適切な溶媒中で必要量のrAAVを組み込むことによって調製され、この後、必要に応じて、フィルター滅菌される。一般に、分散物は、滅菌活性成分を塩基性の分散媒体および上に列挙したもののうち必要な他の成分を含む滅菌ビヒクルに組み込むことによって調製され得る。滅菌注射用溶液の調製のための滅菌粉末の場合、本発明の好ましい方法は、真空乾燥技術および凍結乾燥技術であり、これらは、活性成分の粉末+前もって滅菌濾過したその溶液からの任意の追加の所望の成分を得る。
【0034】
rAAVの形質導入はまた、インビトロで実行され得る。1つの実施形態において、所望の標的筋肉細胞が被験体から取り出され、rAAVで形質導入され、そして、被験体へと再び戻される。あるいは、これらの細胞が被験体において不適切な免疫応答を惹起しない場合、同系または異種の筋肉細胞が使用され得る。
【0035】
形質導入された細胞を被験体に形質導入および再導入する適切な方法は、当該分野で公知である。1つの実施形態において、細胞は、例えば、適切な培地中で、rAAVを筋肉細胞と合わせることによってインビトロで形質導入され得、サザンブロットおよび/もしくはPCRのような従来の技術を用いてか、または選択マーカーを用いて、目的のDNAを保有する細胞についてスクリーニングされ得る。次いで、形質導入された細胞は、薬学的組成物中に処方され得、そして、この組成物は、種々の技術によって(例えば、筋肉内注射、静脈内注射、皮下注射および腹腔内注射によって、または、例えば、カテーテルを用いて平滑筋および心筋内に注射することによって)被験体に導入され得る。
【0036】
本発明のrAAVを用いる細胞の形質導入は、抗体ポリペプチドの持続的な発現を生じる。従って、本発明は、動物、好ましくは人間に対して抗体ポリペプチドを発現するrAAVの送達方法を提供する。これらの方法は、組織(筋肉、肝臓および脳を含むがこれらに限定されない)を本発明の1つ以上のrAAVを用いて形質導入する工程を包含する。形質導入は、組織的特異的制御エレメントを含む遺伝子カセットを用いて行われ得る。例えば、本発明の1つの実施形態は、筋肉特異的制御エレメント(これらとしては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:アクチン由来の制御エレメントおよびmyoD遺伝子ファミリー由来のようなミオシン遺伝子ファミリー由来の制御エレメント(Weintraubら.,Science 251:761−766,1991を参照のこと)、単球特異的エンハンサー結合因子MEF−2(CserjesiおよびOlson,Mol.Cell Biol.11:4854−4862,1991)、ヒト骨格アクチン遺伝子由来の制御エレメント(Muscatら.,Mol.Cell Biol.7:4089−4099,1987)、心臓アクチン遺伝子由来の制御エレメント、筋肉クレアチンキナーゼ配列エレメント(Johnsonら.Mol.Cell Biol.9:3393−3399,1989を参照のこと)およびマウスクレアチンキナーゼエンハンサー(mCK)エレメント、骨格速収縮(fast−twitch)トロポニンC遺伝子、遅収縮(slow−twitch)心臓トロポニンC遺伝子および遅収縮トロポニンI遺伝子:虚血(hypozia)誘導性核因子由来の制御エレメント(Semenzaら.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:5680−5684,1991)、ステロイド誘導性エレメントおよび糖質コルチコイド応答性エレメント(GRE)を含むプロモーター(MaderおよびWhite,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5603−5607,1993を参照のこと)ならびに他の制御エレメント)によって指向される筋肉細胞および筋肉組織を形質導入する方法を提供する。
【0037】
筋肉組織は、インビボでの遺伝子送達および遺伝子治療の魅力的な標的である。なぜならば、筋肉組織は、生命の維持に必要な器官でなく、かつアクセスしやすいからである。本発明の方法におけるrAAVの筋肉細胞および組織への送達を実施するために、単鎖抗体(scFv)またはFab誘導体の使用が、筋肉組織からのより有効な抗体の分泌を促進するために企図される。本発明により企図される単鎖抗体は、HIV−1中和単鎖抗体X5であり、この抗体のDNAおよびアミノ酸配列は、それぞれ配列番号20および21に示される。さらに、代替的な血清型(例えば、AAV−1およびAAV−5)に基づくrAAVは、AAV−2よりも効率的に骨格筋細胞を形質導入し得る。
【0038】
rAAVは、高い効率で筋肉細胞または筋肉組織を形質導入し、種々の導入遺伝子の長期間の発現を指示することが示されている。このシステムの柔軟性のために、軽鎖および重鎖抗体遺伝子が単一のrAAVに組み込まれ得、次いで、抗体を発現するrAAVがインビボで筋肉を形質導入するのに使用され得ることが企図される。本発明は、形質導入した筋繊維由来の生物学的に活性な抗体ポリペプチドプチドの持続性の発現を企図する。
【0039】
「筋肉細胞」または「筋肉組織」は、例えば、消化管、膀胱および血管ならびに心臓からの任意の種類の筋肉(骨格筋、平滑筋を含む)由来の細胞または細胞群を意味し、体の任意の領域から切除される。このような筋肉細胞(例えば、筋芽細胞、筋細胞、筋管、心筋細胞および心筋芽細胞)は、分化していても未分化であってもよい。筋肉組織が容易に循環系にアクセス可能であるので、インビボで筋肉細胞および組織により産生および分泌されたタンパク質は、理論的には、全身送達のために血流に入り、それによって、筋肉からの持続性の治療レベルのタンパク質分泌を提供する。
【0040】
用語「形質導入」は、インビボまたはインビトロのいずれかで、レシピエントの細胞による機能的な抗体ポリペプチドの発現を生じる本発明の複製不全rAAVを介する、レシピエントの細胞への抗体ポリペプチドDNAの送達をいうのに使用される。
【0041】
HIV−1に指向する抗体が、ウイルスのレセプターへの結合を阻害することによってウイルスを中和し得ることが知られている。本発明は、ウイルスを中和する抗体ポリペプチドをコードする本発明のrAAVの有効量をそれを必要とする患者に投与する方法を提供する。本発明に従う中和は、当該分野で公知のインビトロまたはインビボのアッセイによって測定される、主要なウイルス単離体の感染の減少である。複数のアッセイが当該分野で公知である。中和は、以下のうちの1つ以上を包含し得る:ウイルスの細胞上のレセプターとの相互作用をブロッキングするウイルスの表面上の抗原への抗体の結合、補体媒介性のウイルスの溶解および/またはファゴサイトーシスを生じるウイルスの表面上の抗原への抗体の結合、Fc媒介性のエフェクター系の活性化を生じるウイルスに感染した細胞表面上の抗原への抗体の結合、ならびに抗体依存性の細胞傷害性(ADCC)または補体依存性の細胞傷害性による感染細胞の溶解/排除、ウイルスの複製の阻害を生じるウイルスに感染した細胞表面上の抗原への抗体の結合、感染細胞からのウイルスの放出の阻害を生じるウイルスに感染した細胞表面上の抗原への抗体の結合、ならびにウイルスの細胞−細胞伝達の阻害を生じる細胞表面上の抗原への抗体の結合。細胞内免疫による中和がまた企図される。さらに、細菌の中和が企図される。
【0042】
中和は、患者からのウイルスもしくは細菌の排除を生じ得(すなわち、殺菌)、または、ウイルスもしくは細菌によって生じる疾患状態の進行を遅延し得る。1つの実施形態において、本発明の方法は、HIV−1中和抗体ポリペプチドをコードする本発明のrAAVの有効量の投与を含み、HIV−1に感染した患者のAIDSへの進行を防ぐ。好ましい方法は、個体において以下のうちの1つ以上を生じる:ウイルス負荷の減少、低ウイルス負荷の維持、CD4陽性T細胞の増加、CD4陽性T細胞の安定化、日和見感染症の発症または重篤度の減少、悪性腫瘍の発症の減少および細胞媒介性免疫の欠損に代表的な症状の発症または重篤度の減少。上述のものは、当該技術に従って、各々、AIDSを進行しているかまたはAIDSに進行する傾向にある個体と比較される。
本明細書中に記載されるように(実施例5を参照のこと)、有意なレベルのHIV−1中和活性が、抗HIV−1モノクローナル抗体IgG1b12を発現する本発明のrAAVベクターの単回筋肉内投与後6ヶ月にわたるマウスの血清において見出される。このアプローチは、「免疫」の前に抗体の親和性および特異性を前もって決定させ、HIVエンベロープタンパク質に対する活性な体液性免疫応答の必要性を回避する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は、pCMV/HC/EF1a/LCと命名された二重プロモーターのrAAVゲノムを示す。固有の制限部位を、図の上部に表示する。ゲノム成分を以下のように表示する:「HC」および「LC」は、それぞれ重鎖抗体遺伝子および軽鎖抗体遺伝子を示し、「CMVp」はヒトCMVの最初期のプロモーター/エンハンサーを示し、そして「I」はSV40小T−抗原イントロンを示す。抗体リーダー配列を「L」で表示し、そして「pA」は、ウシ成長ホルモンポリアデニル化部位を示す。二次転写ユニットは、ヒト伸長因子−1α(EF−1α)プロモーターを含み、そして、HTLV 1型末端反復配列のRセグメントおよびU5配列(R−U5’)の部分を用いて、DNAおよびRNAの安定性を増強するように改変されている。このプロモーターはまた、I117イントロンを含み、これは、プラスミドpGT62LacZ(InVivoGen Inc.)由来である。軽鎖ポリアデニル化部位はSV40由来である。
【図2】図2は、ヒトCMVの最初期のプロモーター/エンハンサー(「CMV」と表す)、SV40小T−抗原イントロン(「SV40 sd/sa」)、X5重鎖可変領域コード配列(「V」)、(GlySer)リンカー(「linker」)、X5軽鎖可変領域コード配列(「V」)およびSV40ポリアデニル化部位(「SV40 poly A」)を含む遺伝子カセットを含むrAAV/X5ゲノムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
(詳細な説明)
以下の実施例は、本発明を例示する。実施例1は、抗体ポリペプチド発現のための二重プロモーターのrAAVの構築を記載し、実施例2は、rAAV産生を記載し、実施例3は、rAAVを形質導入したマウスにおける循環IgGの産生を記載し、実施例4は、筋肉由来のIgG1b12によるHIV−1の中和活性を記載し、そして、実施例5は、筋肉におけるrAAVの残留性およびIgG1b12の産生を記載する。実施例6は、抗体ポリペプチド発現のための単一プロモーターのrAAVの構築を記載し、実施例7はマカクへのrAAV投与を記載し、そして、実施例8は、ヒトへのrAAV投与を記載する。実施例9は、ウイルス感染に有用なもの以外の抗体ポッリペプチドをコードするrAAVを含む、本発明において有用なrAAVを記載する。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
(抗体発現のための二重プロモーターのrAAVの構築)
標的筋肉細胞内に効率のよい抗体発現を達成するために、二重プロモーターのrAAVを構築して、同じ形質導入した細胞内に重鎖および軽鎖タンパク質の、最適な同時発現を生じた。図1に示すように、得られた二重プロモーターのrAVVは以下の特徴を有した:(1)rAAVベクター(hCMVプロモーター/エンハンサーおよびヒトEF1−αプロモーター)において、骨格筋内で活性な2つの構成的プロモーター;(2)ベクターに組み込まれ、プロモーターエレメントまたは重鎖および軽鎖コード配列の迅速な置換を可能にする、いくつかの固有の8塩基対制限酵素部位;(3)IgG1b12の重鎖および軽鎖のリーダーペプチド配列に指向性の変異誘発を行い、インフレームの抗体遺伝子クローニングを促進する固有の制限部位(重鎖リーダーについてMluI、そして軽鎖リーダーについてBssHII)を導入した;(4)RT−PCRによりIgG1b12重鎖イントロンを取り除き、ベクターサイズを減らし、野生型AAVのパッケージング制限内に残す;ならびに(5)可能性のあるプロモーター干渉を減少するための第1の発現カセットの3’側の強力な転写終止部位。最近、安定な産生細胞株アプローチ(Clarkら、Hum.Gene Ther.6:1329−1341,1995)を用いて、高力価のrAAV/IgG1b12ベクター産生を可能にするために、rAAV/IgG1b12プラスミドベクター配列を、以前に記載されたように、またAAV−2 rep−capヘルパー配列およびネオマイシン耐性遺伝子を有する、3部からなる長いプラスミド(pAAV/IgG1b12/rep−cap/neotk)(Clarkら、Hum.Gene Ther.6:1329−1341,1995)にクローニングした。次いで、この3部からなるプラスミドを用いて、最適なHeLaベースのrAAV/IgG1b12産生細胞株(CE71)を作製した。
【0046】
ヒトモノクローナル抗体IgG1b12の軽鎖および重鎖に対するコード配列は、プラスミドpDR12由来であり、本明細書中でそれぞれ配列番号14および16にて示す。IgG1b12の重鎖および軽鎖に対する得られたアミノ酸配列を、本明細書中で、それぞれ配列番号15および17として示す。IgG1b12およびプラスミドpDR12の単離は、Burtonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:10134−10137,1991およびScience 266:1024−1027(1994)に記載されている。
【0047】
続いて、二重プロモーターのrAAVクローニングプラスミドpAAV/IgG1b12を以下のようにして構築した。まず、プラスミドpCMV/β(Clontech)をPstIで消化して2.7kbのベクタープラスミドDNAフラグメントを単離し、自己同士で再度連結し、アンピシリン耐性ベクター(pB)を作製した。次いで、PCRを用いて、プラスミドpCMV/P由来のhCMVプロモーター/エンハンサーおよびSV40イントロン(808bp)を増幅し、PCRを以下のプライマーを用いて実施した:CMV 順方向:TCTAGAATTCTTTAATTAAGTCGTTACATAACTTACGG(配列番号1);CMV 逆方向:TCTAGAATTCTGCCCGGGCTACAATTCCGCAGCTTTTAG(配列番号2)。
【0048】
得られたフラグメントをプラスミドpBの固有のEcoRI部位にクローニングしてプラスミドpCMVを作製した。これらのプライマーを、EcoRI部位が5’末端および3’末端で固有のPacIおよびSrfI部位に隣接するように設計した。その後、PCRを用いて、プラスミドpGT62lacZ(InVivoGen)を鋳型として、それぞれ以下のプライマーを用いて、ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル(190bp)およびEF1−αプロモーター(770bp)を、別々に増幅した:BGH 順方向:TTAGTGTGCCCGGGCACTCGCTGATCAGCCTCGACT(配列番号3);BGH 逆方向:TAGTGTCTCGAGAATCCTCCCCCTTGCTGTC(配列番号4);EF1 順方向:TTAGTGTCTCGAGAACTAACATACGCTCTCCA(配列番号5);EF1 逆方向:GTGTCTGCAGGTATTTAAATGTGGGAATTCGTCCTAGGCCCTCCTACCGGTGATCTC(配列番号6)。その後、得られたPCRフラグメントをXhoIで消化し、再度連結して、BGH 順方向プライマーおよびEF1−α逆方向 プライマー(配列番号3および6)を用いて、第2ラウンドのPCRを行い、単一のDNAフラグメントを生成した。これらのプライマーは、それぞれ、5’のSrfI部位ならびに3’のAvrII、EcoRI、SwaIおよびPstI部位を組み込んだ。この960bpのDNAフラグメントを固有のSrfIおよびPstI部位でプラスミドpCMVに一方向でクローニングした。得られたプラスミド(pCMV/EF1)は、ここで、BGHポリアデニル化部位を有するCMVプロモーターおよび、引き続くEF1−αプロモーターを保有した。
【0049】
SV40ポリアデニル化シグナル(プラスミドpGT62lacZから単離した)を含む270塩基対のDNAフラグメントをプラスミドpCMV/EF1のEcoRI/Swa I部位に直接クローニングして、pCMV/EF1aを得た。プラスミドpDR12および単離した総RNAでCHO細胞を形質転換して、IgG1b12重鎖cDNA(1,463bp)を単離した。RNAをRT−PCRに供し、以下のプライマーを用いてpZeroベクター(Invitrogen)にクローニングした:重鎖cDNA 順方向:TACTTCGCCCGGGCTAATTCGCCGCCACCATGGAA(配列番号8);重鎖cDNA 逆方向:TACTTCGCCCGGGCTTTATTCATTTACCCGGAGACAGGG(配列番号9)。これらのプライマーは、隣接するSrfI部位を組み込み、この部位は、プラスミドpCMV/EF1aの固有のSrfI部位へのIgG1b12重鎖のクローニングを容易にした。プラスミドpCMV/HC/EFlaを得た。IgG1b12κ軽鎖遺伝子をプラスミドpDR12から直接PCRで増幅し、720bpの生成物を以下のプライマーを用いてプラスミドpZeroにクローニングした:軽鎖 順方向:CCTCACCTAGGCCACCATGGGTGTGCCACGCTGG(配列番号9);軽鎖 逆方向:CCTCACCTAGGATTAACACTCTCCCCTGTT(配列番号10)。軽鎖プライマーは、隣接するAvrII制限部位を組み込み、この部位は、κ軽鎖をプラスミドpCMV/HC/EF1aのAvrII部位にクローニングしてプラスミドpCMV/HC/EF1a/LCを生じるのに使用された。
【0050】
次いで、部位指向性の変異誘発を用いて重鎖リーダーペプチド配列に固有のMluI制限部位を導入し、同じストラテジーを用いて軽鎖リーダーペプチド配列にBssHI部位を導入した。次いで、二重発現カセットを4.5kbのPacI/SrfI DNAフラグメントとして単離し、プラスミドpAAV/3−gal/rep−cap/neotk(Clarkら、Hum.Gene Therapy 6:1329−1341,1995)のAAV ITRの間にクローニングし、pAAV/IgG1b12/rep−cap/neotkを作製した。この3部からなるプラスミドは、ネイティブのrep−cap AAVヘルパー配列ならびに安定な細胞株選択のためのネオマイシン耐性遺伝子を含む。
【0051】
プラスミドpAAV/IgG1b12/rep−cap/neotkおよびrAAV/IgG1b12のヒトIgG抗体を産生する能力は、いくつかの形質転換した細胞株(CHO−K1、HeLa、COS−7およびC2C12)を用いてインビトロでまず確認された。当該分野で標準の方法を用いたプラスミドトランスフェクションまたはrAAV/IgG1b12形質導入の後、細胞培養上清を、製造業者の指示に従って、1ヒトIgGサブタイプ1 ELISA Immunoassayキット(The Binding Site)を用いて分析した。このアッセイの感度は、2.9mg/mlのヒトIgGである。このアッセイは、細胞培養上清が検出可能なレベルのヒトIgGを含むことを決定した。
【0052】
(実施例2)
(rAAV産生)
rAAV/IgG1b12を産生して、当該分野で公知の方法を用いて精製した(Clarkら、Hum.Gene Therapy 10:1031−1039,1999;Clarkら、Hum.Gene Therapy 6:1329−1341,1995)。簡単には、産生細胞株(CE71)を単離し、その後、HeLa細胞をプラスミド pAAV/IgG1b12/rep−cap/neotkでトランスフェクションし、引き続いてG418(700μg/ml)で薬剤選択した。200個の別々の細胞株をスクリーニングし、その後、野生型のアデノウイルス5型(moi=20)を感染させ、CE71を、細胞あたりの最も高いDNase耐性粒子(DRP)を産生するものとして同定した(10 DRP/細胞)。大規模のベクター産生のために、1010個のCE71細胞をCorning Cell Cube接着細胞バイオリアクター中で増殖させ、引き続いて、野生型のAd5(moi=20)で感染させた。アデノウイルスのCPE(72時間)の発生の後、rAAV/IgG1b12を、以前に詳述されたようにヘパリンクロマトグラフィーを用いて粗CE71細胞溶解物から精製した(Clarkら、Hum.Gene Therapy 10:1031−1039,1999)。Clarkら、1999に詳述されるように、Prism 7700 Taqman配列決定検出システム(PE Applied Biosystems)を使用するリアルタイムPCR法によって精製したrAAV/IgG1b12について、DRPの力価を決定した。rAAV/IgG1b12の定量に使用したプライマーおよび蛍光プローブセットは以下の通りである;CMV 順方向プライマー:5’−TGGAAATCCCCGTGAGTCAA−3’(配列番号11)、CMV 逆方向プライマー:5’−CATGGTGATGCGGTTTTGG−3(配列番号12)’、およびプローブ、5−FAM−CCGCTATCCACGCCCATTGATG−TAMRA−3’(配列番号13)。
【0053】
感染性のrAAV/IgG1b12の力価は、rAAV/IgG1b12ストックの限界希釈およびアデノウイルスの存在下でのrep−cap発現細胞株(C12)の感染を使用して決定した。終点力価決定を、以前に記載されたように、C12細胞において複製するrAAV/IgG1b12ゲノムの定量的PCR検出に基づいて行った(Clarkら、Gene Therapy 3:1124−1132,1996)。これらの実験に用いたrAAV/IgG1b12の算出したDRP 対 IU比は28:1であった。
【0054】
(実施例3)
(rAAVで形質導入したマウスにおける循環IgGの産生)
免疫不全のRagIマウスの、両方の大腿四頭筋にrAAV/IgG1b12を接種した。Raglマウスを用いて抗ヒトIgG応答を回避した。
【0055】
全ての実験をChildren’s Hospital Institutional
Animal Care and Use Committeeに従って実施した。6週齢のRag−1マウス(C.129S7(B6)−Rag1tmlMom)をThe Jackson Laboratory(Bar Harbor,Maine)から購入し、ミクロアイソレーターバリアの入れ物内に収容した。この研究は、16匹の動物からなった:6匹は5×1011のrAAV/IgG1b12のDNase耐性粒子(DRP)を受け;6匹は、5×1010のDRPを受け;2匹はβ−グルクロニダーゼを発現する無関係のrAAVベクター(rAAV/GUS、4×1011DRP)を受け;そして、2匹にはPBS賦形剤を与えた(ベクターDNA分析のみのために使用した)。
【0056】
チレタミンHCl/ゾレザパムHCl(Telazol,Ft.Dodge,IA)を筋肉内注射してマウスを麻酔にかけた。大腿にわたって5mmの皮膚切開を行い、50μlのウイルス顕濁液またはPBSを、28ゲージ針を用いて、筋肉の長軸に沿って大腿四頭筋に注射した。注射手順に起因する副作用は、いずれのマウスにおいても特筆すべきものでなかった。麻酔下で後眼窩洞から血液サンプルを採取した。屠殺するときに、大腿四頭筋全体を摘出して、横断面に沿って二等分し、非架橋固定液(Histochoice,Amresco,Solon,OH)で半分を固定してパラフィンで包埋し、他の半分を、後のDNA分析のために液体窒素で急速凍結した。脛骨の外側の筋肉をコントロール組織として採取した。
【0057】
全ての生存している11匹のrAAV/IgG1b12マウスにおいて、接種後6週間でヒトIgGを検出した;1匹は無関係の原因で2週間で死亡した。平均すると、高用量のrAAV/IgG1b12を受けた動物は、低用量を受けた動物よりも7〜28倍高いIgGを有した。最大IgG濃度は、注射後12週で観察され、次いで、先の3ヶ月にわたってプラトーに達した。高用量の動物の血清の大部分は、常に4〜5μg/mlの間のヒトIgGを有し、最大レベルは8μg/mlを超えた。低用量の群において、抗体レベルは、ベクターの接種後20週間、増加し続け、0.5〜1.0μg/mlの範囲の循環抗体レベルを有した。
【0058】
いくつかの血清をまた、抗HIV gp120終点ELISA力価を決定するためにアッセイした。抗HIV gp120 ELISAを、以下のようにして実行した。Immulon 4免疫アッセイプレート(Dynatech)を、4℃で16時間、炭酸塩緩衝液(BupH,Pierce,Rockford,IL)中に希釈したチャイニーズハムスターの卵巣(CHO)細胞(Quality Biological,Gaithersburg,MD)で産生した組換えHIV−1LAl gp120でコートした(100ng/ウェル)。抗原を除去し、ウェルをBlotto(1×PBS中5%のスキム乾燥ミルク pH7.4)中1%の正常ヤギ血清を用いて、25℃で1時間ブロッキングした。マウス血清をPBS中0.1%(v/v)のTriton−X 100に希釈して、30分間インキュベートし、次いで、PBS中0.1%(v/v)のTriton−X
100に浸漬することで5回洗浄した。ヤギ抗ヒトIgG HRP結合体化2次抗体(1:5,000)を1時間添加した(Pierce,Rockford,IL)。比色定量(colorometric)基質である3,3’,5,5’テトラメチルベンジジン(TMB)を添加し、30分後に1N HSOを添加して反応を停止した。両方のELISAアッセイを、Perkin−Elmer HTS 7000プレートリーダーにて450nmで読んだ。終点力価をOD450値を得る血清希釈の逆数を取って導き、この値は、対応する抗原を含まないコントロールのウェルよりも少なくとも2倍高かった。
【0059】
16週で4倍より高い用量を受けた動物から採取した血清の限界希釈は、終点力価が1:800〜1:3,200の範囲であることを明らかにした。これらのデータは、筋肉がgp120結合特異性を保持するIgG1b12を分泌することと一致した。
【0060】
(実施例4)
(筋肉由来のIgG1b12はHIV−1を中和する)
IgGおよびgp120 ELISAのデータがインビボでの抗体発現を確認したが、これらのアッセイは、分泌されたIgG1b12がHIV−1を中和する能力を保持するかどうかには取り組んでいなかった。したがって、6匹の高用量の動物からの20週の血清サンプルを、MT−2細胞殺傷アッセイを用いてTCLA株HIV−1 IIIBに対する中和活性について分析した。これらのアッセイは、Finterニュートラルレッドを利用し、Herzogら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:5804−5809,1997に記載されるように生存細胞を定量した。力価を50%の細胞がウイルス誘導性の殺傷から保護される血清希釈の逆数として報告した。この50%終点は、このアッセイにおけるp24 Gag抗原合成の90%以上の減少に一致する(Buresら、AIDS Res.Hum.Retroviruses 16:2019−2035,2000を参照のこと)。SHIV−89.6の中和を、マイトジェンで刺激したヒト末梢血単核細胞(PBMC)において、Buresら(前出)に記載されるp27 Gag抗原合成の減少を用いて測定した。ウイルスストックをH9細胞(HIV−1 IIIB)またはヒトPBMC(SHIV−89.6)のいずれかで作製した。
【0061】
6匹中5匹の動物からの血清は、以下の表1に記載するように検出可能な中和活性を有した。
【0062】
(表1.HIV−1 IIIBに対する血清の中和力価)
【0063】
【表1】

各マウスに、四頭筋に単一用量(5×1011DRP)のrAAV/IgG1b12を与えた。
【0064】
抗体媒介性の中和を、MT−2細胞殺傷性アッセイにおいて測定した。力価は、50%の細胞がウイルス誘導性の殺傷から保護される血清希釈の逆数であり、これは、p24 Gag抗原合成の90%以上の減少に一致する。
【0065】
観察された中和力価を達成するために必要な精製IgG1b12の濃度。
【0066】
血清におけるヒトIgGの実際の濃度。
【0067】
これらのデータを拡張するために、ほぼ最初の(primary−like)HIV−1単離体(HIV89.6envを含むSHIV−89.6)を中和する、マウス血清の能力もまた試験した。注射後16、20および24週に、中和活性を血清プールで観察した(表2);用量が有限であるので、血清をプールした。これらのデータは、筋肉起源のIgG1b12がTCLAおよび最初のHIV−1単離体の両方を中和する予想された能力を保持することを示した。
【0068】
(表2.SHIV 89.6に対する血清の中和力価)
【0069】
【表2】

マウスRA1、RA2、RA3、RB1、RB2、およびRB3由来の血清からなる、前免疫(時間0)されたプール。これらの同じマウス由来の血清を、示された回収日(注射後16週、20週または24週)でプールした。全てのプールを1:4希釈でアッセイした。
【0070】
p27抗原における減少%を血清の不在下でのp27合成の量に対して計算した。
【0071】
(実施例5)
(筋肉におけるrAAVベクターの残存性およびタンパク質生成)
筋肉が抗体産生部位であったという証拠を得るために、接種後24週で摘出した筋肉組織において、rAAVゲノムの残存性およびヒトIgGタンパク質の発現をアッセイした。rAAV/IgG1b12ベクターDNAの残存性を、リアルタイム定量的PCRを用いて分析した。各動物からの約50%の左右の四頭筋をゲノムDNA単離のために用い、CMVプロモーターに特異的なPCRプライマー/プローブ対を用いるTaqman PCRに供した。表3に示すように、全ての接種された筋肉組織は、かなりのレベルのベクターDNAを保有し、これは、核あたり0.4〜10コピーの間の範囲であった。平均すると、高用量を受けていた動物からの筋肉は、低用量の動物からの筋肉と比較して、筋肉あたり5倍多いベクターDNAを保有した。
【0072】
(表3. マウスの筋肉におけるベクターDNAの残存性)
【0073】
【表3】

用量はDNase耐性粒子(DRP)として測定される;材料および方法を参照のこと。
【0074】
値は、rAAV注射後の四頭筋において観察される核あたりのrAAVゲノムの平均を示す。60ngの筋肉DNA(10,000核当量)を、CMVプライマー/プローブセット(配列番号1および2)を用いる定量的Taqman PCRによって分析した。全てのサンプルを、注射後24週で摘出した。
【0075】
接種された筋肉内のインサイチュ抗体発現を示すために、ヒトIgGについての免疫ペルオキシダーゼ染色を、パラフィン包埋した筋肉組織について行った。ヒトIgG重鎖(Fc特異的)検出のための筋肉組織を、連続薄切し(6μm)、連続的なエタノール浴を伴うAmericlear中にて脱パラフィンし、引き続いて、1×PBS+0.2% Tween 20で洗浄した。まず、組織切片を製造業者の指示書に従って、Antigen Retrieval Citra Solution(BioGenex)を用いて処理し、次いで、Power Block試薬(BioGenex)を用いて10分間ブロッキングした。1:100希釈のポリクローナルウサギ抗ヒトIgG抗血清(DAKO,A0424)を切片とともに4℃で18時間インキュベートした。十分に洗浄した後、ビオチン化抗ウサギ二次抗体(1:100希釈;Vector Laboratories)を添加し、30分間インキュベートした。製造業者の指示書に従ってアビジン/ビオチン−ペルオキシダーゼ結合体(VECTASTAIN Elite ABC−ペルオキシダーゼ,Vector Laboratories)を用いて抗原を可視化した。AECペルオキシダーゼ基質(DAKO)中で5分間切片をインキュベートして発色させた。
【0076】
全ての高用量動物は、分泌されたタンパク質のER/ゴルジ局在化に一致する特定の筋繊維の明らかな、しばしば点状の免疫染色を示した。コントロールのrAAV/GUS四頭筋組織は、ヒトIgGの存在についてネガティブであった(動物RF1、RF2)。
【0077】
(実施例6)
(抗体発現のための単一プロモーターのrAAVの構築)
ヒトCMVの最初期のプロモーター/エンハンサー、SV40小T−抗原イントロン、X5重鎖可変領域コード配列、(GlySer)リンカー、X5軽鎖可変領域コード配列およびSV40ポリアデニル化部位を含む遺伝子カセットに隣接するAAV ITRを含むrAAVゲノムを、標準のDNA操作技術を用いて構築した。この遺伝子カセットは、1本鎖のX5抗体ポリペプチド(ScFvX5)をコードした。図2を参照のこと。AAV ITRを、McCartyら、Gene Therapy,8,124801254,2001に記載されるように改変し、rAAVゲノムを2本鎖の自己相補性DNAとしてウイルス粒子にパッケージングさせた。
【0078】
遺伝子カセットのScFvX5を産生する能力を、インビトロにてHeLa細胞を用いて確認した。この遺伝子カセットを、裸のDNAとしてHeLa細胞に一過的にトランスフェクトした。ScFvX5をトランスフェクトされた細胞によって産生し、当該分野の標準的な方法によってHIV−1 gp120に結合することを示した。
【0079】
rAAV/ScFvX5ゲノムを、AAV血清型1キャプシドにパッケージングすること以外は、本質的に上記の実施例2に記載した方法によってパッケージングし、次いで、精製した。得られたrAAV/ScFvX5を、上記実施例3、4および5に記載したマウスモデルにおいて、および、以下の実施例6に記載するマカクモデルにおいて試験し得る。
【0080】
(実施例7)
(マカクへのrAAV投与)
マカクサルのSIVでの感染は、AIDS様疾患を誘導し得る。これらの感染された動物は、ヒトのHIV−1での感染およびヒトにおけるAIDSの発症についてのモデルとして使用され得る。特に、SIVウイルスに感染したマカクは、ヒトのAIDSに特徴的な症状(例えば、CD4陽性T細胞の枯渇、日和見感染症、神経性疾患および悪性腫瘍などの発症)を発症する。さらに、SIVは、投与経路(例えば、経直腸および経膣)によって動物に感染し得、ヒトにおいてHIVの伝染を再生する。例えば、Nathanson,International Journal of STD & AIDS,9(補遺1):3−7(1998)を参照のこと。従って、SIV/マカクモデルは、AIDSワクチンの開発および単為生殖に関する主要な動物モデルである。例えば、Hoら、Cell,110:135−138(2002)(サルの実験で用いられたストラテジーの成功が、「多数の候補ワクチンを治験に駆り立てた」ことを考察している)を参照のこと。grants1.nih.gov/grants/guide/rfa−files/RFA−MH−99−009.html(1999年1月29日)(「ヒトのAIDSが神経病を発症させることの根底にあるメカニズムを解読および理解を補助するためのAIDSのSIVモデルの重要性」を考察している)もまた参照のこと。
【0081】
さらに、サルにおけるチャレンジ研究が、免疫不全ウイルスおよび/またはウイルスの感染から生じる疾患に対する保護を確立するため、そして、ワクチンまたはワクチンの概念がヒトにおける用途に対しての見込みを有するか否かを確立する手段として使用され得る。Schultz、AIDS Research and Human Retroviruses,14(3):S261−S263(1998)を参照のこと。
【0082】
従って、マカクモデルは、rAAV/IgG1b12および/または他のHIV−1中和抗体をコードするrAAVの投与の有利な効果を確証するために使用され得る。例えば、rAAV/IgG1b12は、チャレンジHIV−1ウイルス(例えば、SIVsm/E660(通常用いられるチャレンジウイルス以外の、よりストリンジェントなチャレンジを提示するマカクにおいてよりAIDS様疾患を誘導するウイルス株))での感染の前、または感染後に、マカクへ1回以上の筋肉内注射によって投与される。中和抗体レベルをPolacinoら、J.Virol.,73(10):8201−8215(1999)に記載されるように、種々の時点で測定する。
【0083】
rAAVの投与は、SIVに曝露したマカクにおいて、以下のうちの1つ以上を生じる:ウイルス負荷の減少、低ウイルス負荷の維持、CD4陽性T細胞の増加、CD4陽性T細胞の安定化、日和見感染症の発症または重篤度の減少、悪性腫瘍の発症の減少、および細胞媒介性免疫の欠損に代表的な症状の発症または重篤度の減少。上述のものは、当該技術に従って、各々、AIDS様疾患が進行しているか、またはAIDS様疾患を進行する傾向にあるマカクと比較する。
【0084】
(実施例8)
(ヒトへのHIV−1抗体ポリペプチドをコードするrAAVの投与)
rAAV/IgG1b12、rAAV/ScFvX5、他のHIV−1抗体ポリペプチドをコードするrAAV(または、以下の2つ以上の混合物)を、HIV−1による感染に感受性の個体または、HIV−1により感染した個体に投与され、AIDSの進行を防ぐかまたは遅延する。
【0085】
例えば、1回以上のrAAVの筋肉内注射が個体に投与される。rAAVによってコードされる抗体ポリペプチドの産生レベルを、当該分野の標準的な技術によってモニタリングする。AIDSに進行する可能性を、当該分野で標準的な技術による、HIV−1ウイルス負荷およびCD4陽性T細胞の測定によりモニタリングする。ウイルス負荷が高いほど、個体はAIDSを発症する傾向が高い。CD4陽性T細胞のカウントが少ないほど、個体がAIDSを発症する傾向が高い。
【0086】
rAAVの投与は、HIV−1に感染した場合の個体において、以下のうちの1つ以上を生じる:ウイルス負荷の減少、低ウイルス負荷の維持、CD4陽性T細胞の増加、CD4陽性T細胞の安定化、日和見感染症の発症または重篤度の減少、悪性腫瘍の発症の減少、および細胞媒介性免疫の欠失の代表的な状態の発症または重篤度の減少。上述のものを、当該技術に従って、各々、AIDSが進行しているかまたはAIDSに進行する傾向にある個体と比較する。
【0087】
(実施例9)
(他の抗体ポリペプチドをコードするrAAV)
他のrAAV(例えば、同種移植拒絶のための抗体ポリペプチドOrthoclone
OKT3、PCTA補助剤としてのReoPro、非ホジキンリンパ腫のためのRituxan、臓器拒絶のためのSimulect、慢性関節性リウマチおよびクローン病のためのRemicade、臓器拒絶のためのZenapax、RSV感染のためのSynagis、転移性乳癌のためのHerceptin、急性骨髄性白血病のためのMylotarg、慢性リンパ球白血病のためのCampath、非ホジキンリンパ腫のためのZevalinおよび慢性関節性リウマチのためのHumiraをコードするrAAV)を、本明細書中に記載される方法に従って、作製および使用し得る。これらは、記された感染または疾患状態のためのヒトの用途に適用され得る。
【0088】
本発明は、特定の実施形態観点から記載されているが、変更および改変が想起されることが当業者に理解される。従って、添付の特許請求の範囲に見えるような限定のみが、本発明に対して決定され得るべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物における抗体ポリペプチドを生産する方法において使用するためのrAAV組成物であって、該方法は、該動物の筋肉、肝臓または脳の細胞を、該抗体ポリペプチドの発現を惹起するに有効な量の該rAAV組成物で形質導入する工程を包含し、ここで、該rAAV組成物は、抗体ポリペプチドをコードするrAAVを含むか、または、2つもしくはそれより多くの異なる抗体ポリペプチドをコードするrAAVの混合物を含む、rAAV組成物。
【請求項2】
前記動物は、ヒトである、請求項1に記載のrAAV組成物。
【請求項3】
抗体ポリペプチドは、ウイルスタンパク質に対して指向される、請求項1または2に記載のrAAV組成物。
【請求項4】
前記ウイルスタンパク質は、ヒト免疫不全ウイルスタンパク質である、請求項3に記載のrAAV組成物。
【請求項5】
前記rAAV組成物が、rAAV/IgG1b12を含む、請求項4に記載のrAAV組成物。
【請求項6】
前記rAAV組成物が、rAAV/ScFvX5ゲノムを含む、請求項5に記載のrAAV組成物。
【請求項7】
抗体ポリペプチドは、細菌タンパク質に対して指向される、請求項1または2に記載のrAAV組成物。
【請求項8】
抗体ポリペプチドは、慢性疾患状態に関連するタンパク質に対して指向される、請求項1または2に記載のrAAV組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−6846(P2010−6846A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−238783(P2009−238783)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【分割の表示】特願2003−584268(P2003−584268)の分割
【原出願日】平成15年4月9日(2003.4.9)
【出願人】(502200830)ネイションワイド チルドレンズ ホスピタル, インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】