抗癌剤投与に伴う末梢神経障害抑制用医薬組成物
【課題】本発明の目的は、主として、抗癌剤投与に伴う末梢神経障害を抑制するための医薬組成物を提供することにある。
【解決手段】本発明は、(±)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸、(+)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸及び(−)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸からなる群より選択される化合物又はその医薬上許容される塩を有効成分として含有する、抗癌剤を投与することにより生じる末梢神経障害を抑制するための医薬組成物に関するものである。
【解決手段】本発明は、(±)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸、(+)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸及び(−)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸からなる群より選択される化合物又はその医薬上許容される塩を有効成分として含有する、抗癌剤を投与することにより生じる末梢神経障害を抑制するための医薬組成物に関するものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌剤投与に伴う末梢神経障害を抑制するための医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍に対する抗癌剤治療において、パクリタキセル等の抗癌剤投与に伴い、副作用として、アロディニア、知覚過敏又は知覚鈍麻等の末梢神経障害が生じることが報告されている(例えば、非特許文献1を参照)。かかる末梢神経障害に対する有効な治療方法は確立されておらず、患者の日常生活の質が低下することが、大きな問題となっている(例えば、非特許文献2を参照)。
【0003】
(±)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸)(一般名:エトドラク)(以下、「化合物A」という)は、シクロオキシゲナーゼ2の選択的な阻害活性を有する、非ステロイド性抗炎症剤として知られており、世界約60カ国で既に販売されている(例えば、非特許文献3を参照)。日本においては、1994年から関節リウマチ、変形性関節症等を適応症として販売されている。
【0004】
【非特許文献1】Dougherty PM et al、Pain、109、132−142(2004)
【非特許文献2】Kuroi K et al、Brest Cancer、11、92−99(2004)
【非特許文献3】Kawai S et al、Inflamm Res、Suppl2、 102−106(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、主として、抗癌剤投与に伴う末梢神経障害を抑制するための医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、化合物A、(+)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸(以下、「化合物B」という)及び(−)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸(以下、「化合物C」という)が、抗癌剤を投与することにより生じる末梢神経障害を抑制することを見出し、本発明を完成した。
本発明は、化合物A、化合物B及び化合物Cからなる群より選択される化合物又はその医薬上許容される塩を有効成分として含有する、抗癌剤を投与することにより生じる末梢神経障害を抑制するための医薬組成物(以下、「本発明組成物」という)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
化合物A、化合物B及び化合物Cは、いずれも抗炎症作用、抗癌作用を有することが知られている公知化合物である。
【0008】
化合物Aは、米国特許公報第3939178号に記載の方法により合成することができる。
【0009】
化合物B及び化合物Cは、常法により、化合物Aを光学分割することにより得ることができる。
【0010】
本発明に係る化合物A、化合物B又は化合物Cの医薬上許容される塩としては、特に限定されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩、アルギニン塩、リジン塩、アンモニウム塩、コリン塩、メグルミン塩、ジエチルアミン塩、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン塩、トロメタミン塩、イミダゾール塩、エタノールアミン塩、ピペラジン塩、ジイソプロピルアミン塩、tert−ブチルアミン塩を挙げることができる。それらの中で、特にカリウム塩、リシン塩、トロメタミン塩、メグルミン塩、tert−ブチルアミン塩、ピペラジン塩が好ましい。
【0011】
上記の塩は、化合物A、化合物B又は化合物C(以下、前記3つの化合物をまとめて「化合物A等」という)を用いて、常法により合成することができる。例えば、ナトリウム塩であれば、先行文献(欧州特許公報221032号)に記載の方法により合成することができる。カリウム塩であれば、先行文献(米国特許公報5578734号)に記載の方法により合成することができる。また、メグルミン塩であれば、先行文献(国際公開公報95/27713号)に記載の方法により合成することができる。
【0012】
本発明に係る「抗癌剤」としては、特に限定されないが、例えば、核酸の代謝を阻害する抗癌剤、微小管重合若しくは脱重合を阻害する抗癌剤、ホルモン拮抗作用を有する抗癌剤、細胞内のシグナル伝達を阻害する抗癌剤、悪性腫瘍に特異的な分子標的に作用する抗癌剤、非特異的な免疫賦活作用を有する抗癌剤を挙げることができる。これらを二種以上併用しても良い。
【0013】
核酸の代謝を阻害する抗癌剤としては、例えば、アルキル化剤(例えば、シクロフォスファミド、ニムスチン)、抗腫瘍性抗生物質(例えば、ドキソルビシン、マイトマイシンC、ブレオマイシン)、トポイソメラーゼ阻害剤(例えば、イリノテカン、エトポシド)、白金製剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン)、ピリミジン代謝阻害剤(例えば、フルオロウラシル、シタラビン)、プリン代謝阻害剤(例えば、メルカプトプリン、フルダラビン)、葉酸合成阻害剤(例えば、メトトレキセート)を挙げることができる。
【0014】
微小管重合若しくは脱重合を阻害する抗癌剤としては、例えば、ビンカアルカロイド系抗癌剤(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン)、タキサン系抗癌剤(例えば、パクリタキセル、ドセタキセル)を挙げることができる。
【0015】
ホルモン拮抗作用を有する抗癌剤としては、例えば、抗エストロゲン剤(例えば、タモキシフェン)、抗アンドロゲン剤(例えば、フルタミド)を挙げることができる。
【0016】
細胞内のシグナル伝達を阻害する抗癌剤としては、例えば、プロテオソーム阻害剤(例えば、ボルテゾミブ)を挙げることができる。
【0017】
悪性腫瘍に特異的な分子標的に作用する抗癌剤としては、例えば、BCR/ABLチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、イマチニブ)、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ゲフィチニブ)、抗体製剤(例えば、リツキシマブ、トラスツズマブ、トシリツマブ)、砒素製剤を挙げることができる。
【0018】
非特異的な免疫賦活作用を有する抗癌剤としては、例えば、溶連菌製剤、かわらたけ多糖体製剤を挙げることができる。
【0019】
本発明に係る「抗癌剤を投与することにより生じる末梢神経障害」とは、抗癌剤投与に伴う脱髄等の障害により生じる末梢神経の機能異常を意味する。当該末梢神経障害の主な症状としては、アロディニア、知覚過敏、知覚鈍麻等を挙げることができる。より具体的には、手足の痺れ、ピリピリ感、痛み、感覚麻痺等を挙げることができる。
【0020】
アロディニアとは、通常では痛みを引き起こさない刺激(例えば、軽い接触や圧迫)を痛みとして感じる症状を意味する。知覚過敏とは、刺激に対する感受性が増大することにより生じる症状を意味する。知覚鈍麻とは、刺激に対する感受性が低下することにより生じる症状を意味する。
【0021】
本発明組成物は、化合物A等を、そのまま又は医薬上許容される無毒性かつ不活性な担体中に、0.01〜99.5%の範囲内で、好ましくは0.5〜90%の範囲内で含有するものである。
【0022】
上記担体としては、固形、半固形又は液状の希釈剤、充填剤、その他の処方用の助剤を挙げることができる。これらを一種又は二種以上用いることができる。
【0023】
本発明組成物は、固形又は液状の用量単位で、末剤、カプセル剤、錠剤、糖衣剤、顆粒剤、散剤、懸濁剤、液剤、シロップ剤、エリキシル剤、トローチ剤等の経口投与製剤、注射剤、坐剤等の非経口投与製剤のいずれの形態をもとることができる。徐放性製剤であってもよい。それらの中で、特に錠剤等の経口投与製剤が好ましい。
【0024】
末剤は、化合物A等を適当な細かさにすることにより製造することができる。
【0025】
散剤は、化合物A等を適当な細かさにし、次いで同様に細かくした医薬用担体、例えば、澱粉、マンニトールのような可食性炭水化物と混合することにより製造することができる。任意に風味剤、保存剤、分散剤、着色剤、香料等を添加することができる。
【0026】
カプセル剤は、まず上述のようにして粉末状となった末剤や散剤あるいは錠剤の項で述べるように顆粒化したものを、例えば、ゼラチンカプセルのようなカプセル外皮の中へ充填することにより製造することができる。滑沢剤や流動化剤、例えば、コロイド状のシリカ、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、固形のポリエチレングリコールを粉末状のものに混合し、その後充填操作を行うことにより製造することもできる。崩壊剤や可溶化剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウムを添加すれば、カプセル剤が摂取されたときの医薬の有効性を改善することができる。また、化合物A等の微粉末を植物油、ポリエチレングリコール、グリセリン、界面活性剤中に懸濁分散し、これをゼラチンシートで包んで軟カプセル剤とすることもできる。
【0027】
錠剤は、賦形剤を加えて粉末混合物を作り、顆粒化もしくはスラグ化し、次いで崩壊剤又は滑沢剤を加えた後、打錠することにより製造することができる。
粉末混合物は、適当に粉末化された物質を上述の希釈剤やベースと混合することにより製造することができる。必要に応じて、結合剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール)、溶解遅延化剤(例えば、パラフィン)、再吸収剤(例えば、四級塩)、吸着剤(例えばベントナイト、カオリン)等を添加することができる。
粉末混合物は、まず結合剤、例えば、シロップ、澱粉糊、アラビアゴム、セルロース溶液又は高分子物質溶液で湿らせ、攪拌混合し、これを乾燥、粉砕して顆粒とすることができる。このように粉末を顆粒化する代わりに、まず打錠機にかけた後、得られる不完全な形態のスラグを破砕して顆粒にすることも可能である。このようにして作られる顆粒に、滑沢剤としてステアリン酸、ステアリン酸塩、タルク、ミネラルオイル等を添加することにより、互いに付着することを防ぐことができる。
また、錠剤は、上述のように顆粒化やスラグ化の工程を経ることなく、化合物A等を流動性の不活性担体と混合した後に直接打錠することによっても製造することができる。
こうして製造された錠剤にフィルムコーティングや糖衣を施すことができる。シェラックの密閉被膜からなる透明又は半透明の保護被覆、糖や高分子材料の被覆及びワックスよりなる磨上被覆をも用いることができる。
【0028】
他の経口投与製剤、例えば、液剤、シロップ剤、トローチ剤、エリキシル剤もまたその一定量が化合物A等の一定量を含有するように用量単位形態にすることができる。
【0029】
シロップ剤は、化合物A等を適当な香味水溶液に溶解して製造することができる。エリキシル剤は、非毒性のアルコール性担体を用いることにより製造することができる。
【0030】
懸濁剤は、化合物A等を非毒性担体中に分散させることにより製造することができる。必要に応じて、可溶化剤や乳化剤(例えば、エトキシ化されたイソステアリルアルコール類、ポリオキシエチレンソルビトールエステル類)、保存剤、風味付与剤(例えば、ペパーミント油、サッカリン)等を添加することができる。
【0031】
必要であれば、経口投与のための用量単位処方をマイクロカプセル化することができる。当該処方はまた、被覆をしたり、高分子・ワックス等中に埋め込んだりすることにより作用時間の延長や持続放出をもたらすこともできる。
【0032】
非経口投与製剤は、皮下・筋肉又は静脈内注射用とした液状用量単位形態、例えば、溶液や懸濁液の形態をとることができる。当該非経口投与製剤は、化合物A等の一定量を、注射の目的に適合する非毒性の液状担体、例えば、水性や油性の媒体に懸濁し又は溶解し、次いで当該懸濁液又は溶液を滅菌することにより製造することができる。注射液を等張にするために非毒性の塩や塩溶液を添加することができる。また、安定剤、保存剤、乳化剤等を添加することもできる。
【0033】
坐剤は、化合物A等を低融点の水に可溶又は不溶の固体、例えば、ポリエチレングリコール、カカオ脂、半合成の油脂[例えば、ウイテプゾール(登録商標)]、高級エステル類(例えば、パルミチン酸ミリスチルエステル)又はそれらの混合物に溶解又は懸濁させて製造することができる。
【0034】
本発明組成物の投与は、抗癌剤の投与前若しくは投与後から開始してもよい。また、抗癌剤の投与と同時に本発明組成物の投与を開始してもよい。
【0035】
本発明組成物の投与量は、体重、年齢等の患者の状態、投与経路、症状の程度等によって異なるが、一般的には成人に対して、化合物A等の量として、1日当たり1mg〜5gの範囲内が適当であり、10mg〜2gの範囲内が好ましく、100mg〜1gの範囲内がより好ましい。場合によっては、これ以下でも足りるし、また逆にこれ以上の用量を必要とするときもある。また、1日1回から数回の投与又は1日から数日間の間隔で投与することができる。
【実施例】
【0036】
以下に、試験例及び製剤例を掲げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は実施例に示される範囲に限定されるものではない。
【0037】
試験例1
化合物Bの有する、パクリタキセルの投与に伴う末梢神経障害の抑制効果を、アロディニアに対する抑制効果を指標として評価した。
(1)試験方法
ddY系マウス(雄性、5週齢)(日本エスエルシー社製。以下同じ。)にパクリタキセル(シグマ社製。以下同じ。)(4mg/kg)を腹腔内投与した。パクリタキセルは、投与開始日より、0日、2日、5日及び7日目の計4回投与した。試験物質は、パクリタキセルの投与開始8日目より、1日1回、8日間経口投与した。試験物質としては、化合物Bのメグルミン塩(5mg/kg)を用いた。
アロディニアに対する抑制効果は、パクリタキセルの投与開始日より8日及び15日目に、von Frey フィラメントを用いた右後肢足底への機械刺激に対する閾値(疼痛閾値)を測定することにより評価した。測定は、試験物質を投与してから、4時間後に行った。疼痛閾値は、文献[Chaplan SR et al、J Neurosci Methods、53、55−63(1994)、Guindon J et al、Neuropharmacology、50、814−823(2006)]に記載の方法に準じて測定した。なお、パクリタキセル及び試験物質を投与していないマウスを正常とし、パクリタキセルのみを投与したマウスを対照として評価した。また、1群あたり、10匹のマウスを用いた。その結果を図1に示す。
(2)結果
図1に示すように、化合物Bのメグルミン塩は、パクリタキセルの投与に伴う末梢神経障害に対して抑制効果を示した。
【0038】
試験例2
化合物A、化合物B及び他の非ステロイド性抗炎症剤の有する、パクリタキセルの投与に伴う末梢神経障害の抑制効果を、アロディニアに対する抑制効果を指標として評価した。
(1)試験方法
ddY系マウス(雄性、5週齢)にパクリタキセル(4mg/kg)を腹腔内投与した。パクリタキセルは、投与開始日より、0日、2日、5日及び7日目の計4回投与した。試験物質は、パクリタキセルの投与開始8日目より、1日1回、8日間経口投与した。試験物質としては、化合物A(10mg/kg)、化合物B(5mg/kg)、インドメタシン(シグマ社製)(1mg/kg)、ジクロフェナク(カルビオケム社製)(3mg/kg)、セレコキシブ[セレブレックス(登録商標)錠(ファイザー社製)より抽出](30mg/kg)及びメロキシカム(USV社製)(10mg/kg)を用いた。
アロディニアに対する抑制効果は、パクリタキセルの投与開始日より15日目に、von Frey フィラメントを用いた右後肢足底への機械刺激に対する閾値(疼痛閾値)を測定することにより評価した。測定は、試験物質を投与してから、4時間後に行った。疼痛閾値は、試験例1と同様に、文献[Chaplan SR et al、J Neurosci Methods、53、55−63(1994)、Guindon J et al、Neuropharmacology、50、814−823(2006)]に記載の方法に準じて測定した。なお、パクリタキセル及び試験物質を投与していないマウスを正常とし、パクリタキセルのみを投与したマウスを対照として評価した。また、正常、対照、化合物A、化合物B、インドメタシン、セレコキシブ及びメロキシカムの投与群については、1群あたり10匹のマウスを、ジクロフェナクの投与群については、1群あたり4匹のマウスをそれぞれ用いた。その結果を図2〜5に示す。
(2)結果
図2及び図3に示すように、化合物A及び化合物Bは、いずれもパクリタキセルの投与に伴う末梢神経障害に対して抑制効果を示した。図2、図4及び図5に示すように、インドメタシン、ジクロフェナク、セレコキシブ及びメロキシカムは、いずれもパクリタキセルの投与に伴う末梢神経障害に対して抑制効果を示さなかった。
【0039】
試験例3
化合物Bの有する、シスプラチンの投与に伴う末梢神経障害の抑制効果を、アロディニアに対する抑制効果を指標として評価した。
(1)試験方法
ddY系マウス(雄性、5週齢)にシスプラチン(ブリストル・マイヤーズ スクイブ社製)(2mg/kg)を腹腔内投与した。シスプラチンは、投与開始日より、0日、2日、5日及び7日目の計4回投与した。試験物質は、シスプラチンの投与開始8日目より、1日1回、8日間経口投与した。試験物質としては、化合物Bのメグルミン塩(10mg/kg)を用いた。
アロディニアに対する抑制効果は、シスプラチンの投与開始日より8日及び15日目に、von Frey フィラメントを用いた右後肢足底への機械刺激に対する閾値(疼痛閾値)を測定することにより評価した。測定は、試験物質を投与してから、4時間後に行った。疼痛閾値は、試験例1と同様に、文献[Chaplan SR et al、J Neurosci Methods、53、55−63(1994)、Guindon J et al、Neuropharmacology、50、814−823(2006)]に記載の方法に準じて測定した。なお、シスプラチン及び試験物質を投与していないマウスを正常とし、シスプラチンのみを投与したマウスを対照として評価した。また、1群あたり、10匹のマウスを用いた。その結果を図6に示す。
(2)結果
図6に示すように、化合物Bのメグルミン塩は、シスプラチンの投与に伴う末梢神経障害に対して抑制効果を示した。
【0040】
試験例4
化合物A及び化合物Bの有する、オキサリプラチンの投与に伴う末梢神経障害の抑制効果を、アロディニアに対する抑制効果を指標として評価した。
(1)試験方法
ddY系マウス(雄性、6週齢)にオキサリプラチン(ヤクルト本社製)(3mg/kg)を腹腔内投与した。オキサリプラチンは、投与開始日より、0日、2日、4日及び7日目の計4回投与した。試験物質は、オキサリプラチンの投与開始8日目より、1日1回、8日間経口投与した。試験物質としては、化合物A(10mg/kg)及び化合物B(5mg/kg)を用いた。
アロディニアに対する抑制効果は、オキサリプラチンの投与開始日より8日及び15日目に、von Frey フィラメントを用いた右後肢足底への機械刺激に対する閾値(疼痛閾値)を測定することにより評価した。測定は、試験物質を投与してから、4時間後に行った。疼痛閾値は、試験例1と同様に、文献[Chaplan SR et al、J Neurosci Methods、53、55−63(1994)、Guindon J et al、Neuropharmacology、50、814−823(2006)]に記載の方法に準じて測定した。なお、オキサリプラチン及び試験物質を投与していないマウスを正常とし、オキサリプラチンのみを投与したマウスを対照として評価した。また、1群あたり、7〜9匹のマウスを用いた。その結果を図7に示す。
(2)結果
図7に示すように、化合物A及び化合物Bは、オキサリプラチンの投与に伴う末梢神経障害に対して抑制効果を示した。
【0041】
試験例5
化合物A及び化合物Bの有する、ビンクリスチンの投与に伴う末梢神経障害の抑制効果を、アロディニアに対する抑制効果を指標として評価した。
(1)試験方法
ddY系マウス(雄性、6週齢)にビンクリスチン(日本化薬社製)(0.5mg/kg)を腹腔内投与した。ビンクリスチンは、投与開始日より、0日、2日、4日及び6日目の計4回投与した。試験物質は、ビンクリスチンの投与開始7日目より、1日1回、8日間経口投与した。試験物質としては、化合物A(10mg/kg)及び化合物B(5mg/kg)を用いた。
アロディニアに対する抑制効果は、ビンクリスチンの投与開始日より7日及び14日目に、von Frey フィラメントを用いた右後肢足底への機械刺激に対する閾値(疼痛閾値)を測定することにより評価した。測定は、試験物質を投与してから、4時間後に行った。疼痛閾値は、試験例1と同様に、文献[Chaplan SR et al、J Neurosci Methods、53、55−63(1994)、Guindon J et al、Neuropharmacology、50、814−823(2006)]に記載の方法に準じて測定した。なお、ビンクリスチン及び試験物質を投与していないマウスを正常とし、ビンクリスチンのみを投与したマウスを対照として評価した。また、1群あたり、7〜9匹のマウスを用いた。その結果を図8に示す。
(2)結果
図8に示すように、化合物A及び化合物Bは、ビンクリスチンの投与に伴う末梢神経障害に対して抑制効果を示した。
【0042】
試験例6
化合物Bの有する、ボルテゾミブの投与に伴う末梢神経障害の抑制効果を、アロディニアに対する抑制効果を指標として評価した。
(1)試験方法
ddY系マウス(雄性、6週齢)にボルテゾミブ(ヤンセンファーマ社製)(0.2mg/kg)を腹腔内投与した。ボルテゾミブは、投与開始日より、0日、2日、4日及び6日目の計4回投与した。試験物質は、ボルテゾミブの投与開始7日目より、1日1回、8日間経口投与した。試験物質としては、化合物B(5mg/kg)を用いた。
アロディニアに対する抑制効果は、ボルテゾミブの投与開始日より7日及び14日目に、von Frey フィラメントを用いた右後肢足底への機械刺激に対する閾値(疼痛閾値)を測定することにより評価した。測定は、試験物質を投与してから、4時間後に行った。疼痛閾値は、試験例1と同様に、文献[Chaplan SR et al、J Neurosci Methods、53、55−63(1994)、Guindon J et al、Neuropharmacology、50、814−823(2006)]に記載の方法に準じて測定した。なお、ボルテゾミブ及び試験物質を投与していないマウスを正常とし、ボルテゾミブのみを投与したマウスを対照として評価した。また、1群あたり、5又は6匹のマウスを用いた。その結果を図9に示す。
(2)結果
図9に示すように、化合物Bは、ボルテゾミブの投与に伴う末梢神経障害に対して抑制効果を示した。
【0043】
試験例7
化合物Bの有する、パクリタキセルの投与に伴う末梢神経障害の抑制効果を、アロディニアに対する抑制効果を指標として評価した。
(1)試験方法
ddY系マウス(雄性、5週齢)にパクリタキセル(4mg/kg)を腹腔内に1回投与した。パクリタキセルの投与1時間前に試験物質を経口投与した。試験物質としては、化合物B(5mg/kg)を用いた。
アロディニアに対する抑制効果は、パクリタキセルの投与24時間後に、von Frey フィラメントを用いた右後肢足底への機械刺激に対する閾値(疼痛閾値)を測定することにより評価した。疼痛閾値は、試験例1と同様に、文献[Chaplan SR et al、J Neurosci Methods、53、55−63(1994)、Guindon J et al、Neuropharmacology、50、814−823(2006)]に記載の方法に準じて測定した。疼痛閾値が0.07g以下であるマウスをアロディニア発症マウスとした。
なお、パクリタキセルのみを投与したマウスを対照として評価した。また、1群あたり、29又は30匹のマウスを用いた。
(2)結果
パクリタキセルの投与により、対照群では29例中23例でアロディニアの発症が認められた。一方で、化合物Bの前投与群では、30例中16例でのみアロディニアの発症が認められ、化合物Bは、パクリタキセルの投与に伴う末梢神経障害の抑制効果を示した。
【0044】
試験例8
化合物Aの有する、パクリタキセルの投与に伴う末梢神経障害の抑制効果を、知覚鈍麻に対する抑制効果を指標として評価した。
(1)試験方法
SD系ラット(雄性、7週齢)(日本エスエルシー社製。以下同じ。)にパクリタキセル(5mg/kg)を腹腔内投与した。パクリタキセルは、投与開始日より、0日、2日及び4日目の計3回投与した。試験物質は、パクリタキセルの投与開始日より、1日1回、8日間経口投与した。試験物質として、化合物A(5mg/kg)を用いた。
知覚鈍麻に対する抑制効果は、パクリタキセルの投与開始7日目に、52.5℃のホットプレート上での逃避反応時間を測定することにより評価した。測定は、試験物質を投与してから、4時間後に行った。逃避反応時間は、文献[Woolfe G et al、J Pharmacol Exp Ther、80、300−307(1944)]に記載の方法に準じて測定した。なお、パクリタキセル及び試験物質を投与していないラットを正常とし、パクリタキセルのみを投与したラットを対照として評価した。また、1群あたり、12又は13匹のラットを用いた。その結果を図10に示す。
(2)結果
図10に示すように、化合物Aは、パクリタキセルの投与に伴う末梢神経障害に対して抑制効果を示した。
【0045】
試験例9
化合物B及び化合物Cの有する、パクリタキセルの投与に伴う末梢神経障害の抑制効果を、知覚鈍麻に対する抑制効果を指標として評価した。
(1)試験方法
SD系ラット(雄性、7週齢)にパクリタキセル(5mg/kg)を腹腔内投与した。パクリタキセルは、投与開始日より、0日、2日及び4日目の計3回投与した。試験物質は、パクリタキセルの投与開始日より、1日1回、8日間経口投与した。試験物質として、化合物Bのメグルミン塩(2.5mg/kg)及び化合物C(2.5mg/kg)を用いた。
知覚鈍麻に対する抑制効果は、パクリタキセルの投与開始7日目に、52.5℃のホットプレート上での逃避反応時間を測定することにより評価した。測定は、試験物質を投与してから、4時間後に行った。逃避反応時間は、試験例8と同様に、文献[Woolfe G et al、J Pharmacol Exp Ther、80、300−307(1944)]に記載の方法に準じて測定した。なお、パクリタキセル及び試験物質を投与していないラットを正常とし、パクリタキセルのみを投与したラットを対照として評価した。また、1群あたり、12又は13匹のラットを用いた。その結果を図11に示す。
(2)結果
図11に示すように、化合物Bのメグルミン塩及び化合物Cは、パクリタキセルの投与に伴う末梢神経障害に対して抑制効果を示した。
【0046】
製剤例1 内服錠
処方1剤150mg中
化合物A 100 mg
トウモロコシ澱粉 38 mg
結晶セルロース 10.5 mg
ステアリン酸マグネシウム 1.5 mg
上記の処方に従って、常法により、内服錠を製造する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、パクリタキセルの投与開始日から8日目及び15日目の末梢神経障害に対する化合物Bのメグルミン塩の抑制効果を表す。縦軸は、疼痛閾値(g)を表す。
【0048】
【図2】図2は、パクリタキセルの投与開始日から15日目の末梢神経障害に対する化合物A、インドメタシン及びセレコキシブの抑制効果を表す。縦軸は、疼痛閾値(g)を表す。
【0049】
【図3】図3は、パクリタキセルの投与開始日から15日目の末梢神経障害に対する化合物Bの抑制効果を表す。縦軸は、疼痛閾値(g)を表す。
【0050】
【図4】図4は、パクリタキセルの投与開始日から15日目の末梢神経障害に対するジクロフェナクの抑制効果を表す。縦軸は、疼痛閾値(g)を表す。
【0051】
【図5】図5は、パクリタキセルの投与開始日から15日目の末梢神経障害に対するメロキシカムの抑制効果を表す。縦軸は、疼痛閾値(g)を表す。
【0052】
【図6】図6は、シスプラチンの投与開始日から8日目及び15日目の末梢神経障害に対する化合物Bのメグルミン塩の抑制効果を表す。縦軸は、疼痛閾値(g)を表す。
【0053】
【図7】図7は、オキサリプラチンの投与開始日から8日目及び15日目の末梢神経障害に対する化合物A及び化合物Bの抑制効果を表す。縦軸は、疼痛閾値(g)を表す。
【0054】
【図8】図8は、ビンクリスチンの投与開始日から7日目及び14日目の末梢神経障害に対する化合物A及び化合物Bの抑制効果を表す。縦軸は、疼痛閾値(g)を表す。
【0055】
【図9】図9は、ボルテゾミブの投与開始日から7日目及び14日目の末梢神経障害に対する化合物Bの抑制効果を表す。縦軸は、疼痛閾値(g)を表す。
【0056】
【図10】図10は、パクリタキセルの投与開始日から7日目の末梢神経障害に対する化合物Aの抑制効果を表す。縦軸は、逃避反応時間(秒)を表す。
【0057】
【図11】図11は、パクリタキセルの投与開始日から7日目の末梢神経障害に対する化合物Bのメグルミン塩及び化合物Cの抑制効果を表す。縦軸は、逃避反応時間(秒)を表す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌剤投与に伴う末梢神経障害を抑制するための医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍に対する抗癌剤治療において、パクリタキセル等の抗癌剤投与に伴い、副作用として、アロディニア、知覚過敏又は知覚鈍麻等の末梢神経障害が生じることが報告されている(例えば、非特許文献1を参照)。かかる末梢神経障害に対する有効な治療方法は確立されておらず、患者の日常生活の質が低下することが、大きな問題となっている(例えば、非特許文献2を参照)。
【0003】
(±)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸)(一般名:エトドラク)(以下、「化合物A」という)は、シクロオキシゲナーゼ2の選択的な阻害活性を有する、非ステロイド性抗炎症剤として知られており、世界約60カ国で既に販売されている(例えば、非特許文献3を参照)。日本においては、1994年から関節リウマチ、変形性関節症等を適応症として販売されている。
【0004】
【非特許文献1】Dougherty PM et al、Pain、109、132−142(2004)
【非特許文献2】Kuroi K et al、Brest Cancer、11、92−99(2004)
【非特許文献3】Kawai S et al、Inflamm Res、Suppl2、 102−106(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、主として、抗癌剤投与に伴う末梢神経障害を抑制するための医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、化合物A、(+)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸(以下、「化合物B」という)及び(−)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸(以下、「化合物C」という)が、抗癌剤を投与することにより生じる末梢神経障害を抑制することを見出し、本発明を完成した。
本発明は、化合物A、化合物B及び化合物Cからなる群より選択される化合物又はその医薬上許容される塩を有効成分として含有する、抗癌剤を投与することにより生じる末梢神経障害を抑制するための医薬組成物(以下、「本発明組成物」という)である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
化合物A、化合物B及び化合物Cは、いずれも抗炎症作用、抗癌作用を有することが知られている公知化合物である。
【0008】
化合物Aは、米国特許公報第3939178号に記載の方法により合成することができる。
【0009】
化合物B及び化合物Cは、常法により、化合物Aを光学分割することにより得ることができる。
【0010】
本発明に係る化合物A、化合物B又は化合物Cの医薬上許容される塩としては、特に限定されないが、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩、アルギニン塩、リジン塩、アンモニウム塩、コリン塩、メグルミン塩、ジエチルアミン塩、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン塩、トロメタミン塩、イミダゾール塩、エタノールアミン塩、ピペラジン塩、ジイソプロピルアミン塩、tert−ブチルアミン塩を挙げることができる。それらの中で、特にカリウム塩、リシン塩、トロメタミン塩、メグルミン塩、tert−ブチルアミン塩、ピペラジン塩が好ましい。
【0011】
上記の塩は、化合物A、化合物B又は化合物C(以下、前記3つの化合物をまとめて「化合物A等」という)を用いて、常法により合成することができる。例えば、ナトリウム塩であれば、先行文献(欧州特許公報221032号)に記載の方法により合成することができる。カリウム塩であれば、先行文献(米国特許公報5578734号)に記載の方法により合成することができる。また、メグルミン塩であれば、先行文献(国際公開公報95/27713号)に記載の方法により合成することができる。
【0012】
本発明に係る「抗癌剤」としては、特に限定されないが、例えば、核酸の代謝を阻害する抗癌剤、微小管重合若しくは脱重合を阻害する抗癌剤、ホルモン拮抗作用を有する抗癌剤、細胞内のシグナル伝達を阻害する抗癌剤、悪性腫瘍に特異的な分子標的に作用する抗癌剤、非特異的な免疫賦活作用を有する抗癌剤を挙げることができる。これらを二種以上併用しても良い。
【0013】
核酸の代謝を阻害する抗癌剤としては、例えば、アルキル化剤(例えば、シクロフォスファミド、ニムスチン)、抗腫瘍性抗生物質(例えば、ドキソルビシン、マイトマイシンC、ブレオマイシン)、トポイソメラーゼ阻害剤(例えば、イリノテカン、エトポシド)、白金製剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン)、ピリミジン代謝阻害剤(例えば、フルオロウラシル、シタラビン)、プリン代謝阻害剤(例えば、メルカプトプリン、フルダラビン)、葉酸合成阻害剤(例えば、メトトレキセート)を挙げることができる。
【0014】
微小管重合若しくは脱重合を阻害する抗癌剤としては、例えば、ビンカアルカロイド系抗癌剤(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン)、タキサン系抗癌剤(例えば、パクリタキセル、ドセタキセル)を挙げることができる。
【0015】
ホルモン拮抗作用を有する抗癌剤としては、例えば、抗エストロゲン剤(例えば、タモキシフェン)、抗アンドロゲン剤(例えば、フルタミド)を挙げることができる。
【0016】
細胞内のシグナル伝達を阻害する抗癌剤としては、例えば、プロテオソーム阻害剤(例えば、ボルテゾミブ)を挙げることができる。
【0017】
悪性腫瘍に特異的な分子標的に作用する抗癌剤としては、例えば、BCR/ABLチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、イマチニブ)、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、ゲフィチニブ)、抗体製剤(例えば、リツキシマブ、トラスツズマブ、トシリツマブ)、砒素製剤を挙げることができる。
【0018】
非特異的な免疫賦活作用を有する抗癌剤としては、例えば、溶連菌製剤、かわらたけ多糖体製剤を挙げることができる。
【0019】
本発明に係る「抗癌剤を投与することにより生じる末梢神経障害」とは、抗癌剤投与に伴う脱髄等の障害により生じる末梢神経の機能異常を意味する。当該末梢神経障害の主な症状としては、アロディニア、知覚過敏、知覚鈍麻等を挙げることができる。より具体的には、手足の痺れ、ピリピリ感、痛み、感覚麻痺等を挙げることができる。
【0020】
アロディニアとは、通常では痛みを引き起こさない刺激(例えば、軽い接触や圧迫)を痛みとして感じる症状を意味する。知覚過敏とは、刺激に対する感受性が増大することにより生じる症状を意味する。知覚鈍麻とは、刺激に対する感受性が低下することにより生じる症状を意味する。
【0021】
本発明組成物は、化合物A等を、そのまま又は医薬上許容される無毒性かつ不活性な担体中に、0.01〜99.5%の範囲内で、好ましくは0.5〜90%の範囲内で含有するものである。
【0022】
上記担体としては、固形、半固形又は液状の希釈剤、充填剤、その他の処方用の助剤を挙げることができる。これらを一種又は二種以上用いることができる。
【0023】
本発明組成物は、固形又は液状の用量単位で、末剤、カプセル剤、錠剤、糖衣剤、顆粒剤、散剤、懸濁剤、液剤、シロップ剤、エリキシル剤、トローチ剤等の経口投与製剤、注射剤、坐剤等の非経口投与製剤のいずれの形態をもとることができる。徐放性製剤であってもよい。それらの中で、特に錠剤等の経口投与製剤が好ましい。
【0024】
末剤は、化合物A等を適当な細かさにすることにより製造することができる。
【0025】
散剤は、化合物A等を適当な細かさにし、次いで同様に細かくした医薬用担体、例えば、澱粉、マンニトールのような可食性炭水化物と混合することにより製造することができる。任意に風味剤、保存剤、分散剤、着色剤、香料等を添加することができる。
【0026】
カプセル剤は、まず上述のようにして粉末状となった末剤や散剤あるいは錠剤の項で述べるように顆粒化したものを、例えば、ゼラチンカプセルのようなカプセル外皮の中へ充填することにより製造することができる。滑沢剤や流動化剤、例えば、コロイド状のシリカ、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、固形のポリエチレングリコールを粉末状のものに混合し、その後充填操作を行うことにより製造することもできる。崩壊剤や可溶化剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウムを添加すれば、カプセル剤が摂取されたときの医薬の有効性を改善することができる。また、化合物A等の微粉末を植物油、ポリエチレングリコール、グリセリン、界面活性剤中に懸濁分散し、これをゼラチンシートで包んで軟カプセル剤とすることもできる。
【0027】
錠剤は、賦形剤を加えて粉末混合物を作り、顆粒化もしくはスラグ化し、次いで崩壊剤又は滑沢剤を加えた後、打錠することにより製造することができる。
粉末混合物は、適当に粉末化された物質を上述の希釈剤やベースと混合することにより製造することができる。必要に応じて、結合剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール)、溶解遅延化剤(例えば、パラフィン)、再吸収剤(例えば、四級塩)、吸着剤(例えばベントナイト、カオリン)等を添加することができる。
粉末混合物は、まず結合剤、例えば、シロップ、澱粉糊、アラビアゴム、セルロース溶液又は高分子物質溶液で湿らせ、攪拌混合し、これを乾燥、粉砕して顆粒とすることができる。このように粉末を顆粒化する代わりに、まず打錠機にかけた後、得られる不完全な形態のスラグを破砕して顆粒にすることも可能である。このようにして作られる顆粒に、滑沢剤としてステアリン酸、ステアリン酸塩、タルク、ミネラルオイル等を添加することにより、互いに付着することを防ぐことができる。
また、錠剤は、上述のように顆粒化やスラグ化の工程を経ることなく、化合物A等を流動性の不活性担体と混合した後に直接打錠することによっても製造することができる。
こうして製造された錠剤にフィルムコーティングや糖衣を施すことができる。シェラックの密閉被膜からなる透明又は半透明の保護被覆、糖や高分子材料の被覆及びワックスよりなる磨上被覆をも用いることができる。
【0028】
他の経口投与製剤、例えば、液剤、シロップ剤、トローチ剤、エリキシル剤もまたその一定量が化合物A等の一定量を含有するように用量単位形態にすることができる。
【0029】
シロップ剤は、化合物A等を適当な香味水溶液に溶解して製造することができる。エリキシル剤は、非毒性のアルコール性担体を用いることにより製造することができる。
【0030】
懸濁剤は、化合物A等を非毒性担体中に分散させることにより製造することができる。必要に応じて、可溶化剤や乳化剤(例えば、エトキシ化されたイソステアリルアルコール類、ポリオキシエチレンソルビトールエステル類)、保存剤、風味付与剤(例えば、ペパーミント油、サッカリン)等を添加することができる。
【0031】
必要であれば、経口投与のための用量単位処方をマイクロカプセル化することができる。当該処方はまた、被覆をしたり、高分子・ワックス等中に埋め込んだりすることにより作用時間の延長や持続放出をもたらすこともできる。
【0032】
非経口投与製剤は、皮下・筋肉又は静脈内注射用とした液状用量単位形態、例えば、溶液や懸濁液の形態をとることができる。当該非経口投与製剤は、化合物A等の一定量を、注射の目的に適合する非毒性の液状担体、例えば、水性や油性の媒体に懸濁し又は溶解し、次いで当該懸濁液又は溶液を滅菌することにより製造することができる。注射液を等張にするために非毒性の塩や塩溶液を添加することができる。また、安定剤、保存剤、乳化剤等を添加することもできる。
【0033】
坐剤は、化合物A等を低融点の水に可溶又は不溶の固体、例えば、ポリエチレングリコール、カカオ脂、半合成の油脂[例えば、ウイテプゾール(登録商標)]、高級エステル類(例えば、パルミチン酸ミリスチルエステル)又はそれらの混合物に溶解又は懸濁させて製造することができる。
【0034】
本発明組成物の投与は、抗癌剤の投与前若しくは投与後から開始してもよい。また、抗癌剤の投与と同時に本発明組成物の投与を開始してもよい。
【0035】
本発明組成物の投与量は、体重、年齢等の患者の状態、投与経路、症状の程度等によって異なるが、一般的には成人に対して、化合物A等の量として、1日当たり1mg〜5gの範囲内が適当であり、10mg〜2gの範囲内が好ましく、100mg〜1gの範囲内がより好ましい。場合によっては、これ以下でも足りるし、また逆にこれ以上の用量を必要とするときもある。また、1日1回から数回の投与又は1日から数日間の間隔で投与することができる。
【実施例】
【0036】
以下に、試験例及び製剤例を掲げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は実施例に示される範囲に限定されるものではない。
【0037】
試験例1
化合物Bの有する、パクリタキセルの投与に伴う末梢神経障害の抑制効果を、アロディニアに対する抑制効果を指標として評価した。
(1)試験方法
ddY系マウス(雄性、5週齢)(日本エスエルシー社製。以下同じ。)にパクリタキセル(シグマ社製。以下同じ。)(4mg/kg)を腹腔内投与した。パクリタキセルは、投与開始日より、0日、2日、5日及び7日目の計4回投与した。試験物質は、パクリタキセルの投与開始8日目より、1日1回、8日間経口投与した。試験物質としては、化合物Bのメグルミン塩(5mg/kg)を用いた。
アロディニアに対する抑制効果は、パクリタキセルの投与開始日より8日及び15日目に、von Frey フィラメントを用いた右後肢足底への機械刺激に対する閾値(疼痛閾値)を測定することにより評価した。測定は、試験物質を投与してから、4時間後に行った。疼痛閾値は、文献[Chaplan SR et al、J Neurosci Methods、53、55−63(1994)、Guindon J et al、Neuropharmacology、50、814−823(2006)]に記載の方法に準じて測定した。なお、パクリタキセル及び試験物質を投与していないマウスを正常とし、パクリタキセルのみを投与したマウスを対照として評価した。また、1群あたり、10匹のマウスを用いた。その結果を図1に示す。
(2)結果
図1に示すように、化合物Bのメグルミン塩は、パクリタキセルの投与に伴う末梢神経障害に対して抑制効果を示した。
【0038】
試験例2
化合物A、化合物B及び他の非ステロイド性抗炎症剤の有する、パクリタキセルの投与に伴う末梢神経障害の抑制効果を、アロディニアに対する抑制効果を指標として評価した。
(1)試験方法
ddY系マウス(雄性、5週齢)にパクリタキセル(4mg/kg)を腹腔内投与した。パクリタキセルは、投与開始日より、0日、2日、5日及び7日目の計4回投与した。試験物質は、パクリタキセルの投与開始8日目より、1日1回、8日間経口投与した。試験物質としては、化合物A(10mg/kg)、化合物B(5mg/kg)、インドメタシン(シグマ社製)(1mg/kg)、ジクロフェナク(カルビオケム社製)(3mg/kg)、セレコキシブ[セレブレックス(登録商標)錠(ファイザー社製)より抽出](30mg/kg)及びメロキシカム(USV社製)(10mg/kg)を用いた。
アロディニアに対する抑制効果は、パクリタキセルの投与開始日より15日目に、von Frey フィラメントを用いた右後肢足底への機械刺激に対する閾値(疼痛閾値)を測定することにより評価した。測定は、試験物質を投与してから、4時間後に行った。疼痛閾値は、試験例1と同様に、文献[Chaplan SR et al、J Neurosci Methods、53、55−63(1994)、Guindon J et al、Neuropharmacology、50、814−823(2006)]に記載の方法に準じて測定した。なお、パクリタキセル及び試験物質を投与していないマウスを正常とし、パクリタキセルのみを投与したマウスを対照として評価した。また、正常、対照、化合物A、化合物B、インドメタシン、セレコキシブ及びメロキシカムの投与群については、1群あたり10匹のマウスを、ジクロフェナクの投与群については、1群あたり4匹のマウスをそれぞれ用いた。その結果を図2〜5に示す。
(2)結果
図2及び図3に示すように、化合物A及び化合物Bは、いずれもパクリタキセルの投与に伴う末梢神経障害に対して抑制効果を示した。図2、図4及び図5に示すように、インドメタシン、ジクロフェナク、セレコキシブ及びメロキシカムは、いずれもパクリタキセルの投与に伴う末梢神経障害に対して抑制効果を示さなかった。
【0039】
試験例3
化合物Bの有する、シスプラチンの投与に伴う末梢神経障害の抑制効果を、アロディニアに対する抑制効果を指標として評価した。
(1)試験方法
ddY系マウス(雄性、5週齢)にシスプラチン(ブリストル・マイヤーズ スクイブ社製)(2mg/kg)を腹腔内投与した。シスプラチンは、投与開始日より、0日、2日、5日及び7日目の計4回投与した。試験物質は、シスプラチンの投与開始8日目より、1日1回、8日間経口投与した。試験物質としては、化合物Bのメグルミン塩(10mg/kg)を用いた。
アロディニアに対する抑制効果は、シスプラチンの投与開始日より8日及び15日目に、von Frey フィラメントを用いた右後肢足底への機械刺激に対する閾値(疼痛閾値)を測定することにより評価した。測定は、試験物質を投与してから、4時間後に行った。疼痛閾値は、試験例1と同様に、文献[Chaplan SR et al、J Neurosci Methods、53、55−63(1994)、Guindon J et al、Neuropharmacology、50、814−823(2006)]に記載の方法に準じて測定した。なお、シスプラチン及び試験物質を投与していないマウスを正常とし、シスプラチンのみを投与したマウスを対照として評価した。また、1群あたり、10匹のマウスを用いた。その結果を図6に示す。
(2)結果
図6に示すように、化合物Bのメグルミン塩は、シスプラチンの投与に伴う末梢神経障害に対して抑制効果を示した。
【0040】
試験例4
化合物A及び化合物Bの有する、オキサリプラチンの投与に伴う末梢神経障害の抑制効果を、アロディニアに対する抑制効果を指標として評価した。
(1)試験方法
ddY系マウス(雄性、6週齢)にオキサリプラチン(ヤクルト本社製)(3mg/kg)を腹腔内投与した。オキサリプラチンは、投与開始日より、0日、2日、4日及び7日目の計4回投与した。試験物質は、オキサリプラチンの投与開始8日目より、1日1回、8日間経口投与した。試験物質としては、化合物A(10mg/kg)及び化合物B(5mg/kg)を用いた。
アロディニアに対する抑制効果は、オキサリプラチンの投与開始日より8日及び15日目に、von Frey フィラメントを用いた右後肢足底への機械刺激に対する閾値(疼痛閾値)を測定することにより評価した。測定は、試験物質を投与してから、4時間後に行った。疼痛閾値は、試験例1と同様に、文献[Chaplan SR et al、J Neurosci Methods、53、55−63(1994)、Guindon J et al、Neuropharmacology、50、814−823(2006)]に記載の方法に準じて測定した。なお、オキサリプラチン及び試験物質を投与していないマウスを正常とし、オキサリプラチンのみを投与したマウスを対照として評価した。また、1群あたり、7〜9匹のマウスを用いた。その結果を図7に示す。
(2)結果
図7に示すように、化合物A及び化合物Bは、オキサリプラチンの投与に伴う末梢神経障害に対して抑制効果を示した。
【0041】
試験例5
化合物A及び化合物Bの有する、ビンクリスチンの投与に伴う末梢神経障害の抑制効果を、アロディニアに対する抑制効果を指標として評価した。
(1)試験方法
ddY系マウス(雄性、6週齢)にビンクリスチン(日本化薬社製)(0.5mg/kg)を腹腔内投与した。ビンクリスチンは、投与開始日より、0日、2日、4日及び6日目の計4回投与した。試験物質は、ビンクリスチンの投与開始7日目より、1日1回、8日間経口投与した。試験物質としては、化合物A(10mg/kg)及び化合物B(5mg/kg)を用いた。
アロディニアに対する抑制効果は、ビンクリスチンの投与開始日より7日及び14日目に、von Frey フィラメントを用いた右後肢足底への機械刺激に対する閾値(疼痛閾値)を測定することにより評価した。測定は、試験物質を投与してから、4時間後に行った。疼痛閾値は、試験例1と同様に、文献[Chaplan SR et al、J Neurosci Methods、53、55−63(1994)、Guindon J et al、Neuropharmacology、50、814−823(2006)]に記載の方法に準じて測定した。なお、ビンクリスチン及び試験物質を投与していないマウスを正常とし、ビンクリスチンのみを投与したマウスを対照として評価した。また、1群あたり、7〜9匹のマウスを用いた。その結果を図8に示す。
(2)結果
図8に示すように、化合物A及び化合物Bは、ビンクリスチンの投与に伴う末梢神経障害に対して抑制効果を示した。
【0042】
試験例6
化合物Bの有する、ボルテゾミブの投与に伴う末梢神経障害の抑制効果を、アロディニアに対する抑制効果を指標として評価した。
(1)試験方法
ddY系マウス(雄性、6週齢)にボルテゾミブ(ヤンセンファーマ社製)(0.2mg/kg)を腹腔内投与した。ボルテゾミブは、投与開始日より、0日、2日、4日及び6日目の計4回投与した。試験物質は、ボルテゾミブの投与開始7日目より、1日1回、8日間経口投与した。試験物質としては、化合物B(5mg/kg)を用いた。
アロディニアに対する抑制効果は、ボルテゾミブの投与開始日より7日及び14日目に、von Frey フィラメントを用いた右後肢足底への機械刺激に対する閾値(疼痛閾値)を測定することにより評価した。測定は、試験物質を投与してから、4時間後に行った。疼痛閾値は、試験例1と同様に、文献[Chaplan SR et al、J Neurosci Methods、53、55−63(1994)、Guindon J et al、Neuropharmacology、50、814−823(2006)]に記載の方法に準じて測定した。なお、ボルテゾミブ及び試験物質を投与していないマウスを正常とし、ボルテゾミブのみを投与したマウスを対照として評価した。また、1群あたり、5又は6匹のマウスを用いた。その結果を図9に示す。
(2)結果
図9に示すように、化合物Bは、ボルテゾミブの投与に伴う末梢神経障害に対して抑制効果を示した。
【0043】
試験例7
化合物Bの有する、パクリタキセルの投与に伴う末梢神経障害の抑制効果を、アロディニアに対する抑制効果を指標として評価した。
(1)試験方法
ddY系マウス(雄性、5週齢)にパクリタキセル(4mg/kg)を腹腔内に1回投与した。パクリタキセルの投与1時間前に試験物質を経口投与した。試験物質としては、化合物B(5mg/kg)を用いた。
アロディニアに対する抑制効果は、パクリタキセルの投与24時間後に、von Frey フィラメントを用いた右後肢足底への機械刺激に対する閾値(疼痛閾値)を測定することにより評価した。疼痛閾値は、試験例1と同様に、文献[Chaplan SR et al、J Neurosci Methods、53、55−63(1994)、Guindon J et al、Neuropharmacology、50、814−823(2006)]に記載の方法に準じて測定した。疼痛閾値が0.07g以下であるマウスをアロディニア発症マウスとした。
なお、パクリタキセルのみを投与したマウスを対照として評価した。また、1群あたり、29又は30匹のマウスを用いた。
(2)結果
パクリタキセルの投与により、対照群では29例中23例でアロディニアの発症が認められた。一方で、化合物Bの前投与群では、30例中16例でのみアロディニアの発症が認められ、化合物Bは、パクリタキセルの投与に伴う末梢神経障害の抑制効果を示した。
【0044】
試験例8
化合物Aの有する、パクリタキセルの投与に伴う末梢神経障害の抑制効果を、知覚鈍麻に対する抑制効果を指標として評価した。
(1)試験方法
SD系ラット(雄性、7週齢)(日本エスエルシー社製。以下同じ。)にパクリタキセル(5mg/kg)を腹腔内投与した。パクリタキセルは、投与開始日より、0日、2日及び4日目の計3回投与した。試験物質は、パクリタキセルの投与開始日より、1日1回、8日間経口投与した。試験物質として、化合物A(5mg/kg)を用いた。
知覚鈍麻に対する抑制効果は、パクリタキセルの投与開始7日目に、52.5℃のホットプレート上での逃避反応時間を測定することにより評価した。測定は、試験物質を投与してから、4時間後に行った。逃避反応時間は、文献[Woolfe G et al、J Pharmacol Exp Ther、80、300−307(1944)]に記載の方法に準じて測定した。なお、パクリタキセル及び試験物質を投与していないラットを正常とし、パクリタキセルのみを投与したラットを対照として評価した。また、1群あたり、12又は13匹のラットを用いた。その結果を図10に示す。
(2)結果
図10に示すように、化合物Aは、パクリタキセルの投与に伴う末梢神経障害に対して抑制効果を示した。
【0045】
試験例9
化合物B及び化合物Cの有する、パクリタキセルの投与に伴う末梢神経障害の抑制効果を、知覚鈍麻に対する抑制効果を指標として評価した。
(1)試験方法
SD系ラット(雄性、7週齢)にパクリタキセル(5mg/kg)を腹腔内投与した。パクリタキセルは、投与開始日より、0日、2日及び4日目の計3回投与した。試験物質は、パクリタキセルの投与開始日より、1日1回、8日間経口投与した。試験物質として、化合物Bのメグルミン塩(2.5mg/kg)及び化合物C(2.5mg/kg)を用いた。
知覚鈍麻に対する抑制効果は、パクリタキセルの投与開始7日目に、52.5℃のホットプレート上での逃避反応時間を測定することにより評価した。測定は、試験物質を投与してから、4時間後に行った。逃避反応時間は、試験例8と同様に、文献[Woolfe G et al、J Pharmacol Exp Ther、80、300−307(1944)]に記載の方法に準じて測定した。なお、パクリタキセル及び試験物質を投与していないラットを正常とし、パクリタキセルのみを投与したラットを対照として評価した。また、1群あたり、12又は13匹のラットを用いた。その結果を図11に示す。
(2)結果
図11に示すように、化合物Bのメグルミン塩及び化合物Cは、パクリタキセルの投与に伴う末梢神経障害に対して抑制効果を示した。
【0046】
製剤例1 内服錠
処方1剤150mg中
化合物A 100 mg
トウモロコシ澱粉 38 mg
結晶セルロース 10.5 mg
ステアリン酸マグネシウム 1.5 mg
上記の処方に従って、常法により、内服錠を製造する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、パクリタキセルの投与開始日から8日目及び15日目の末梢神経障害に対する化合物Bのメグルミン塩の抑制効果を表す。縦軸は、疼痛閾値(g)を表す。
【0048】
【図2】図2は、パクリタキセルの投与開始日から15日目の末梢神経障害に対する化合物A、インドメタシン及びセレコキシブの抑制効果を表す。縦軸は、疼痛閾値(g)を表す。
【0049】
【図3】図3は、パクリタキセルの投与開始日から15日目の末梢神経障害に対する化合物Bの抑制効果を表す。縦軸は、疼痛閾値(g)を表す。
【0050】
【図4】図4は、パクリタキセルの投与開始日から15日目の末梢神経障害に対するジクロフェナクの抑制効果を表す。縦軸は、疼痛閾値(g)を表す。
【0051】
【図5】図5は、パクリタキセルの投与開始日から15日目の末梢神経障害に対するメロキシカムの抑制効果を表す。縦軸は、疼痛閾値(g)を表す。
【0052】
【図6】図6は、シスプラチンの投与開始日から8日目及び15日目の末梢神経障害に対する化合物Bのメグルミン塩の抑制効果を表す。縦軸は、疼痛閾値(g)を表す。
【0053】
【図7】図7は、オキサリプラチンの投与開始日から8日目及び15日目の末梢神経障害に対する化合物A及び化合物Bの抑制効果を表す。縦軸は、疼痛閾値(g)を表す。
【0054】
【図8】図8は、ビンクリスチンの投与開始日から7日目及び14日目の末梢神経障害に対する化合物A及び化合物Bの抑制効果を表す。縦軸は、疼痛閾値(g)を表す。
【0055】
【図9】図9は、ボルテゾミブの投与開始日から7日目及び14日目の末梢神経障害に対する化合物Bの抑制効果を表す。縦軸は、疼痛閾値(g)を表す。
【0056】
【図10】図10は、パクリタキセルの投与開始日から7日目の末梢神経障害に対する化合物Aの抑制効果を表す。縦軸は、逃避反応時間(秒)を表す。
【0057】
【図11】図11は、パクリタキセルの投与開始日から7日目の末梢神経障害に対する化合物Bのメグルミン塩及び化合物Cの抑制効果を表す。縦軸は、逃避反応時間(秒)を表す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(±)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸、(+)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸及び(−)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸からなる群より選択される化合物又はその医薬上許容される塩を有効成分として含有する、プロテオソーム阻害剤を投与することにより生じる末梢神経障害を抑制するための医薬組成物。
【請求項2】
(±)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸又はその医薬上許容される塩を有効成分として含有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
(+)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸又はその医薬上許容される塩を有効成分として含有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
(−)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸又はその医薬上許容される塩を有効成分として含有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
プロテオソーム阻害剤がボルテゾミブである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項1】
(±)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸、(+)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸及び(−)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸からなる群より選択される化合物又はその医薬上許容される塩を有効成分として含有する、プロテオソーム阻害剤を投与することにより生じる末梢神経障害を抑制するための医薬組成物。
【請求項2】
(±)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸又はその医薬上許容される塩を有効成分として含有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
(+)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸又はその医薬上許容される塩を有効成分として含有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
(−)−1,8−ジエチル−1,3,4,9−テトラヒドロピラノ[3,4−b]インドール−1−酢酸又はその医薬上許容される塩を有効成分として含有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
プロテオソーム阻害剤がボルテゾミブである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−167164(P2009−167164A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220620(P2008−220620)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【分割の表示】特願2008−521731(P2008−521731)の分割
【原出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000004156)日本新薬株式会社 (46)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【分割の表示】特願2008−521731(P2008−521731)の分割
【原出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000004156)日本新薬株式会社 (46)
【Fターム(参考)】
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