説明

抗菌性、耐切断性合成糸およびそれから編成、織成された衣類

抗菌性、耐切断性合成糸は少なくとも一本の耐切断性ストランドを芯材に含み、少なくとも一本のストランドを含む被覆材が芯材に巻き付いてそれを包む。芯材または被覆材の少なくとも一本のストランドは抗菌化合物により処理され、これと結合している。さらに、該糸は一以上のチャネル繊維を含み、合成糸内の湿気の移動を促進し、湿気が抗菌化合物と接触することによって、抗菌化合物の効果が増大する。該糸は例えば、ナイフ、のこぎり、その他の鋭利な器具を使用する人や、肉を切る人の装用する手袋などの耐切断性衣類に編まれる。抗菌効果によって、衣類の洗浄までの間のバクテリア、カビなどの菌類の増殖を抑える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐切断性の糸に関し、特に、食品の汚染や人の病気の原因となる細菌の増殖を防ぐように処理された耐切断性の混合糸、およびそのような糸で編成、織成された耐切断性手袋のような衣類に関する。本発明によれば、糸はバクテリアやカビなどの菌類の増殖を防止するように処理され、該糸で編成、織成された手袋は、ナイフ、のこぎりなどを使用して肉などを切る職業の人に好適である。
【背景技術】
【0002】
抗菌処理を施された医療用手袋はよく知られている。また、アセテート繊維を表面処理して抗菌性を付与した耐切断性糸とし、これを編成過程で使用した耐切断性の手袋についても知られている。しかし、耐切断性の合成糸がそれ自体抗菌化合物を含むものについては知られていない。
【0003】
切創からの保護および高度な操作性を必要とするユーザーは、その使用に有効な様々な製品を待っている。そのような製品にはたとえば、「ケブラー」の商品名で販売されている繊維や、「SPECTRA」の商品名で販売されている超高分子量ポリオレフィン繊維で編成した手袋がある。これらは安全性、保護性能が高いが、極めて高価である。商業的にはこれらのエンジニアリング繊維は、「SPECTR A900」「SPECTRA 1000」の商標でハネウェル社から、「ケブラー」の商標でデラウエア州ウィルミントンのデュポン社からそれぞれ売られている。
【0004】
やや価格を抑えた糸として、ワイヤ、ファイバーグラス、ポリエステル、ポリプロピレンおよびポリオレフィン繊維があり、それらもまた耐切断性を有する。具体的には以下の特許において開示されている。
【特許文献1】米国特許第4383499号(発行;1983年5月23日 発明者;Byrne,Sr.名称;保護手袋およびアラミド繊維で可撓性芯材を巻き付けた糸)
【特許文献2】米国特許第4651514号(発行;1987年3月24日 発明者;Collett.名称;電気非伝導性、耐磨耗、耐切断性な糸)
【特許文献3】米国特許第4777789号(発行;1988年10月18日 発明者;Kolmesら.名称;保護衣類のためのワイヤを巻き付けた糸)
【特許文献4】米国特許第4818587号(発行;1989年4月4日 発明者;Ejimaら.名称;不織布およびその製造方法)
【特許文献5】米国特許第4838017号(発行;1989年6月13日 発明者;Kolmesら.名称;保護衣類のためのワイヤを巻き付けた糸)
【特許文献6】米国特許第4886691号(発行;1989年12月12日 発明者;Wincklhofer.名称;ロープ、帯ひも、ストラップ、空気入れ製品などのための耐切断ジャケット)
【特許文献7】米国特許第4936085号(発行;1990年6月26日 発明者;Kolmesら.名称;糸および手袋)
【特許文献8】米国特許第5010723号(発行;1991年4月30日 発明者;Wilen.名称;捻糸およびそれから製造された製品)
【特許文献9】米国特許第5119512号(発行;1992年6月9日 発明者;Dunbarら.名称;耐切断の糸、繊維および手袋)
【特許文献10】米国特許第5177948号(発行;1993年1月12日 発明者;Kolmesら.名称;糸および手袋)
【0005】
米国特許第4383499号には、保護手袋などが示される。これは可撓性ワイヤの芯材を、デラウエア州ウィルミントンのデュポン社が「ケブラー」なる商標で製造・販売しているアラミド繊維で被覆したストランドもしくはアラミド繊維ストランドによって巻いた糸によって製作されたものであり、アラミド繊維はスパン糸(短繊維)またはフィラメント糸(長繊維)である。スパン糸またはフィラメント糸である二本のアラミド繊維ストランドが芯材の周りに巻かれており、一方のストランドが時計回りに、他方のストランドは反時計回りに巻かれる。互いに螺旋状に巻かれたストランドは他の保持手段なしで、芯材上の形態を保持している。アラミド繊維ストランドが巻かれた可撓性芯材を有する糸は、標準的な手袋の編成、織成機によって防護手袋へと製造される。また、この糸は、他の天然もしくは合成繊維糸と同様に絡まることなしに、針の目を通過する動的能力を有する。アラミド繊維ストランドが巻かれた可撓性芯材を有する糸は、標準的繊維糸と同様にアメリカの他の製品にも用いられている。
【0006】
米国特許第4651514号には、約0.004〜0.020インチの範囲の直径の単繊維ナイロンを芯材として含む、電気非伝導性、耐切断、耐磨耗性を有する糸を防護被覆の製造に用いることを開示する。芯材の第一巻はコットンカウントサイズ(cotton count size)が1/1〜30/1の範囲のアラミド繊維のストランドを一つ以上含み、第二巻は2から8撚り(ply)構造のナイロン繊維である。各撚りは24〜44のナイロンフィラメントから作られ、各フィラメントは約50−90デニールである。
【0007】
米国特許第4777789号には、改良された糸、および該糸から製造された織物、保護衣類が開示される。これらの織物、保護衣類は切断に対する抵抗性が増加している。該糸は繊維で作られたコードを含み、芯材の周りに被覆が巻き付けられ、該被覆は一以上のワイヤストランドを含んでいる。
【0008】
米国特許第4818587号には、芯部分と鞘部分からなる熱接着性複合繊維を少なくとも30%含む不織布について示される。その芯部分は、並列型複合構造で2つの芯材を有し、異なるポリプロピレン系ポリマーで構成される。一方の芯材のQ値(重量平均分子量/数平均分子量)が6以上であり、他方のQ値が5以下である。鞘部分は少なくともポリエチレン系ポリマーから構成され、その融点が2種の芯材の低い方の融点よりも、少なくとも20℃以上低い。不織布は、熱接着性複合繊維が芯部分形成のためにひだを成すことから嵩高で、ソフトである。また、鞘部分の内部繊維結合によって安定化させられている。
【0009】
米国特許第4838017号には、改良された糸、および該糸から製造された織物、保護衣類が開示される。これらの織物、保護衣類は切断に対する抵抗性が増加している。該糸は繊維で作られたコードを含み、芯材の周りに被覆が巻き付けられ、該被覆は一以上のワイヤストランドを含んでいる。
【0010】
米国特許第4886691号には、耐切断性の小さい要素を囲む耐切断性のジャケットを含む切断抵抗性物品について開示される。ジャケットは糸の繊維を含み、該糸は少なくとも1GPaの引っ張り強さを有し、本質的に高強度の長いストランドから成る。ストランドは同一もしくは異なる繊維により巻きつけられている。
【0011】
米国特許第4936085号には、改良された糸、および該糸から製造された織物、保護衣類が開示される。これらの織物、保護衣類は切断に対する抵抗性が増加し、可撓性、柔軟性がある。糸は非金属で繊維の芯材とその芯材の周りに被覆が巻き付けられている。ストランドの少なくとも一つはファイバーガラスであり、ファイバーガラスでないストランドはナイロンもしくはポリエステルである。
【0012】
米国特許第5010723号には、2本以上の撚糸セルロース繊維(例えば綿、レイヨン繊維)を含む糸が示されている。撚りは熱可塑性プラスチックにらせん状に巻き付けられ、溶融処理によって互いに内部で結合し、容易に解けたり、綿くずなどを生じない。該糸はモップやフロアマット、ボンネット掃除具、耐汚染処理されたカーペットなどに用いられている。
【0013】
米国特許第5119512号には、耐切断性の小さい要素を囲む耐切断性のジャケットを含む切断抵抗性物品20について開示される。ジャケットは糸の繊維を含み、該糸は少なくとも1GPaの引っ張り強さを有し、本質的に高強度の長いストランドから成る。ストランドは同一もしくは異なる繊維により巻きつけられている。別の具体例として、少なくとも2本の非金属性繊維を含む高度に耐切断性がある糸について示す。繊維の一本はポリエチレン、ポリプロピレン、アラミドなどのような高強度の耐切断性を有している。他方の繊維は高い硬度を有する糸である。
【0014】
米国特許第5177948号には、改良された非金属の糸30、および該糸から製造された織物、保護衣類が開示される。これらの織物、保護衣類は切断に対する抵抗性が増加し、可撓性、柔軟性がある。糸は非金属で繊維の芯材とその芯材の周りに被覆が巻き付けられている。ストランドの少なくとも一つはファイバーガラスであり、ファイバーガラスでないストランドはナイロン、延伸ポリエチレン、アラミド、ポリエステルである。
【0015】
これらのいずれもが、糸および糸から織成される衣類に対して抗菌性を与えるために、本発明に従った処理を施すことかできる。これらの糸は一般にバクテリアや他の細菌を殺すための周期的消毒に対する充分な耐熱性を有する。この明細書に記載される処理を行った糸は、熱消毒の間における細菌の増殖を充分に遅らせることができる。従って、食料製品への細菌汚染の可能性を非常に減少させる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は抗菌効果を有するように処理された耐切断性合成糸を提供することである。
【0017】
また、本発明の目的は抗菌効果を有するように処理されたキャリアー糸を少なくとも一つ有する耐切断性合成糸を提供することである。
【0018】
本発明の別の目的は抗菌効果を有する衣類に編成・織成することができる十分な可撓性、弾性を持つ耐切断性合成糸を提供することである。
【0019】
本発明は、ユーザーにとって耐切断性だけでなく、ユーザーが取り扱う上で食料製品に混入する可能性のある細菌の成長を抑制ことができるという重要な効果を有する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
典型的には、芯材は一本のファイバーグラスストランド(a strand of fiberglass)である。ファーバーグラスストランドから破断されたファイバーグラス断片(それが人の皮膚に接触すると炎症を起こすので)を最小にするために、被覆が施される。これらの被覆はそれ自体高い耐切断性を有する物質からなる。更に、その外側に手触りを滑らかにするためにポリエステルやナイロンなどの繊維を巻きつけることができる。しかし、耐切断性を最大にするためには、被覆は「SPECTRA」のようなポリオレフィンまたは「ケブラー」のようなアラミドから選択することもできる。
【0021】
好ましくは、芯材の周りに巻きつけられ撚り合わされた被覆は、連続層を形成し、その直下の被覆層では反対方向に巻き付けられ撚り合わされている。
【0022】
こうして得られた防護性糸は防護手袋や他の防護衣類へと織成するのに適している。これらの糸は、ユーザーの皮膚への炎症を起こすことなく十分な耐切創性を有し、現状の防護性糸よりも安い代替品として提供される。
【0023】
ファーバーグラス芯材の上に巻きつけられた被覆層は、隣接する被覆層においてその直下層に対して反対方向に巻きつけられているので、現状の糸よりも安い価格で、所望の防護性特徴を与える。本発明の防護糸は、標準の編成・織成機により防護繊維・衣類を編むことができる十分な柔軟性を有し、実質的な耐切断性を与えるに充分な強度を有する。また、本発明の防護糸は、洗浄工程での高温にさらされても収縮し難い。
【0024】
本発明のこれらの目的を達成するために好ましい具体例として、少なくとも一本の耐切断性ストランドを含む芯材と、その芯材を包むように巻き付けられた少なくとも一本のストランドを含む被覆とを含み、芯材または被覆の少なくとも一方のストランドが抗菌化合物によって処理され、これと結合した、抗菌性・耐切断性合成糸に関し、以下に詳述する。
【0025】
複数の非ガラスファイバー製芯材の代わりに一本のファイバーグラスを使用して、本発明においては、「SPECTRA」や「ケブラー」のような耐切断性エンジニアリング繊維を使用すると同程度以上の耐切断性を極めて低価格で実現した。低強度で硬くてもろい繊維の代わりにファイバーグラスのような物質を糸の芯材に用いて、コストを抑えて驚異的なレベルの耐切断性を与えたのである。この新規な合成糸はユーザーの操作性の問題を減少させ、身体を保護する耐切創を増加させた。
【0026】
本発明の一つの好ましい例によれば、芯材は耐切断性ストランドおよび合成芯糸を含み、合成芯糸は抗菌化合物によって処理され、これと結合している。
【0027】
本発明の別の好ましい例によれば、芯材または被覆の少なくとも一つのストランドがチャネル繊維(channel fibers)を含む。チャネル繊維は合成糸の中の湿気の移動および抗菌化合物との接触を促進するので、抗菌化合物の効果が増強される。
【0028】
本発明のまた別の好ましい例によれば、チャネル繊維は、合成糸の表面への抗菌化合物の移動を促進するので、抗菌化合物の効果が増強される。
【0029】
本発明のまた別の好ましい例によれば、チャネル繊維は、合成糸の表面における湿気と抗菌化合物の間の接触を促進するので、抗菌化合物の効果が増強される。
【0030】
本発明のまた別の好ましい例によれば、耐切断性ストランドは、ファイバーグラス、金属ワイヤ、アラミド、ポリオレフィン繊維である。
【0031】
本発明のまた別の好ましい例によれば、芯材は耐切断性ストランドおよび合成芯糸を含み、合成芯糸は抗菌化合物によって処理され、これと結合している。
【0032】
本発明のまた別の好ましい例によれば、合成芯糸はポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、アセテート、延伸ポリオレフィンである。
【0033】
本発明のまた別の好ましい例によれば、被覆は、少なくとも二本の反対方向に巻かれた合成被覆糸を含み、その内少なくとも一本が抗菌化合物により処理され、これと結合している。
【0034】
本発明のまた別の好ましい例によれば、合成被覆糸はポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、アセテート、延伸ポリオレフィンである。
【0035】
本発明のまた別の好ましい例によれば、チャネル繊維は芯材中にある。また別の好ましい例では、チャネル繊維は被覆中に存在する。
【0036】
本発明のまた別の好ましい例によれば、芯材は少なくとも一本の耐切断性ストランドと少なくとも一本の合成糸ストランドを含み、それらが互いに平行に存在している。
【0037】
本発明のまた別の好ましい例によれば、被覆は、内部被覆、抗菌処理された中間被覆、チャネル繊維を有する外部被覆を含んでいる。
【0038】
本発明のまた別の好ましい例によれば、合成糸は、耐切断性のストランドを有する芯材と、少なくとも一本の延伸ポリオレフィン繊維ストランドがその芯材の周りに巻き付いた第一の被覆と、第一の被覆と反対方向に巻き付いた第二の被覆を有する。第二の被覆は抗菌化合物により処理され、これと結合している。合成糸の少なくとも一本のストランドはチャネル繊維である。
【0039】
本発明のまた別の好ましい例によれば、チャネル繊維は第二の被覆中に存在する。
【0040】
本発明のまた別の好ましい例によれば、第二の被覆は、延伸ポリオレフィン繊維ストランドを含み、第二の被覆の周りに第三の被覆が巻き付いている。第三の被覆はチャネル繊維を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明の目的のいくつかは上述の通りである。本発明の他の目的および優れた点は以下に図面を参照しつつ説明することにより理解されるであろう。
【0042】
本発明の耐切断性糸は一般に、一本は芯糸、一本は被覆糸の、少なくとも二つの繊維を有する。芯糸、被覆糸の一方もしくは双方は、予め標準的方法により方向付けられた2以上の糸を含んでいる。糸のうちの一本は抗菌剤のキャリアー糸として作用する。キャリアー糸は芯材の一部または被覆の一部であってもよい。その結果、糸は 切断防御性能試験(Cut Protection Performance Test(ANSI/ISEA スタンダード 105-2000))により定義されるレベル2以上の耐切断性を有する.
【0043】
図1を参照すると、本発明による防護糸が番号10として示されている。防護糸10は芯材20と被覆材30を含む複合体である。芯材20はファイバーグラス21のストランドとポリプロピレン22のストランドを含んでいる。図1において、被覆材30は好ましくは三つのらせん状に巻き付いた被覆糸を含み、内部被覆糸31は芯材20の上で包むように、巻き付けられ、またはねじられている。中間被覆糸32は内部被覆糸31の上で内部被覆糸31の螺旋とは反対方向の螺旋で包むように、巻き付けられ、またはねじられており、外部被覆糸33は中間被覆糸32の上で中間被覆糸32の螺旋とは反対方向の螺旋で包むように、巻き付けられ、またはねじられている。
【0044】
ファイバーグラスストランド21はファイバーグラスG75の一本の縦(longitudinal)ストランドが好ましい。またポリプロピレンストランド22は150デニール(denier)のポリプロピレンで一本のパラレルストランド(parallel strand)が好ましく、チバガイギー社の「トリクロサン(TRICLOSAN)」やマイクロバン社の「マイクロバン(MICROBAN)(登録商標)」という名称で市販されている有機抗菌化合物によって処理されている。処理されていても良い代替糸としては、ポリエステル、アセテート、ナイロンがあるるがこれに限定されるものではない。
【0045】
ファイバーグラスストランド21とポリプロピレンストランド22は共に撚り合わされているのではなく、むしろ互いに並列に並べられていることが望ましい。
【0046】
内部被覆糸31は375デニールの延伸ポリオレフィンで、例えば「T1000 SPECTRA」の名称で市販されているものである。中間被覆糸32もまた375デニールで、「T1000 SPECTRA」のような延伸ポリオレフィンである。外部被覆糸は500デニールのフラットポリエステル糸(flat polyester yarn)である。
【0047】
被覆材30の芯材20に対する1インチ当たりの巻き付け回数は、被覆層および被覆材質の種類による。図1においては内部被覆糸31は芯材20に対して1インチ当たりおよそ4.8回の巻き数である。中間被覆糸32は内部被覆糸31に対して1インチ当たりおよそ9.1回の巻き数であり、外部被覆糸33は中間被覆糸32に対して1インチ当たりおよそ8.2回巻き付けられている。
【0048】
本発明の好ましい例である抗菌処理されたポリプロピレンストランド22は、「トリクロサン」の名称で市販されている抗菌化合物を1重量%の比率で結合するように処理される。
【0049】
この濃度であれば、糸10から編まれた手袋がEPA-TM-002(Dow Shaker Assay)試験法において、微生物の99.9%を死滅させるのに充分である。供試菌は大腸菌(Escherichia coli)、サルモネラ菌(Salmonella choleraesuis)、クレブジラ菌(Klebsiella pneumonia)である。
【0050】
本発明における第二の具体例を図2に示す。この図では防護糸が番号40で示され、芯材50と、被覆材60とを含む。芯材50はステンレススチールワイヤ51のストランドとポリエステル52のストランド、および芯包装材(core wrap)53を含む。図2においては、被覆材60は好ましくは三つのらせん状に巻き付いた被覆糸を含み、内部被覆糸61は芯材50を上から包むように、巻き付けられ、またはねじられている。中間被覆糸62は内部被覆糸61の上で内部被覆糸61の螺旋とは反対方向の螺旋で包むように、巻き付けられ、またはねじられており、外部被覆糸63は中間被覆糸62の上で中間被覆糸62の螺旋とは反対方向の螺旋で包むように、巻き付けられ、またはねじられている。
【0051】
ワイヤストランド51は直径0.003インチのステンレススチールの一本の縦ストランドが好ましい。ポリエステルストランド52は、500デニールのフラットポリエステル糸で一本のパラレルストランドが好ましい。
【0052】
ワイヤストランド51とポリエステルストランド52は共に撚り合わされているのではなく、むしろ互いに並列に並べられていることが望ましい。芯包装材53は直径0.002インチのステンレススチールワイヤが好ましい。
【0053】
内部被覆糸61は150デニールのポリエステルである。中間被覆糸62と外部被覆糸63はともに500デニールのフラットポリエステル糸である。
【0054】
被覆糸61、62、63の芯材50に対する1インチ当たりの巻き付け回数は、被覆層および被覆材質の種類による。図2においては内部被覆糸61は芯材50に対して1インチ当たりおよそ4.8回の巻き数である。中間被覆糸62は内部被覆糸61に対して1インチ当たりおよそ9.1回の巻き数であり、外部被覆糸63は中間被覆糸62に対して1インチ当たりおよそ8.2回巻き付けられている。
【0055】
内部被覆糸61は、本発明の好ましい例によれば、無機銀系化合物によって処理されている。この化合物はアギオンテクノロジー(Agion Technologies)社より「AGION」の名称で市販されており、1重量%の比率で適用されている。無機抗菌化合物の他の代替品としては、銀亜鉛酸化物系のものがデュポンスペシャリティケミカルズ社より「MICROFREE」の名称で製造されているものが使用に適している。
【0056】
他の態様として、単一もしくは複数ストランドの被覆材を含む単一もしくは複数ストランドの芯材、1もしくはそれ以上の芯ストランドおよび/または被覆ストランドを上述の有機系または無機系抗菌化合物で処理したものなどが可能である。また、これらの抗菌剤は、ポリエステル、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アセテートなどの合成繊維糸と各種比率で処理して用いることができる。
【0057】
肉切用に用いられる耐切断性手袋が図3の番号70として示される。
【0058】
耐切断性合成糸および衣服の構成要素として適当な各種抗菌繊維および糸としては、アセテート、アクリル、ポリエステル、ナイロン、オレフィンなど広く適用できる。それらの繊維は、多様な有機・無機の抗菌化合物で処理され、あるいは染み込んでいる。
【0059】
織物に使用される有機抗菌剤は、以下に限定されるものではないが、トリクロサン、四級アンモニウム化合物、ジアンモニウム環式化合物、キトサン、N-ハロアミノシロキサン、塩素などがあげられる。有機複合体は繊維の内部から表面に染み出しまたは移動する抗菌剤によって抗菌効果を示し、その程度は表面への移動速度に依存する。
【0060】
無機抗菌剤もまた織物に利用でき、例えば、ミリケンケミカル(Milliken Chemical)社より最近市販されている「ALPHASAN」や、アギオンテクノロジー社より市販されている「AGION」などの銀ゼオライト複合体があげられる。無機複合体は繊維表面のイオンが放出されることで抗菌活性を示すが、抗菌効果はポリマー内で結合した複合体から金属が遊離する速度に依存する。有機複合体の移動および無機複合体のイオンの放出は湿気の存在により増大される。湿度は抗菌作用の必要的要素であり、繊維表面における抗菌剤の放出を誘引する。
【0061】
耐切断性合成糸の構成要素として最も汎用される合成繊維は、ポリエステル、オレフィン、ナイロン、金属ワイヤ、ファイバーグラスであるが、これらの糸は水を吸収し保持する能力が殆どないために、湿気を取り入れることは非常に少ない。湿度の運搬が増強された特徴を有するある種(例えばポリエステルやオレフィンなど)の合成繊維が開発された。そのような繊維は、チャネル繊維または異型断面繊維(modified cross section fibers)として知られ、チャネルまたは溝が形成されており、繊維表面の毛管現象によって湿気が移動することができる。そのようなチャネル繊維の例としては、ファイバーイノベーションテクノロジー社より販売されている「4DG Deep Grooved Fiber」や、ユニフィ社より販売されている「SORBTEC」、日本の出光テクノファイン社より販売されている「TECHNOFINE」などがある。
【0062】
本発明の好適な具体例に従うチャネル繊維を利用した防護糸が図4の番号100として示されている。防護糸100は、芯材120および被覆材130を含む複合体である。芯材120はファイバーグラス121のストランドとポリプロピレン122のストランドを含む。ポリプロピレンストランド122は湿度活性化抗菌化合物により処理され、これを結合している。ポリプロピレンの代わりにポリエステルストランドが使用できる。
【0063】
図1に示されるように、被覆材30は好ましくは三つのらせん状に巻き付いた被覆糸を含み、内部被覆糸131は芯材120の上で包み、巻き付けられ、またはねじられている。中間被覆糸132は内部被覆糸131の上で内部被覆糸131の螺旋とは反対方向の螺旋で包み、巻き付けられ、またはねじられており、外部被覆糸133は中間被覆糸132の上で中間被覆糸132の螺旋とは反対方向の螺旋で包み、巻き付けられ、またはねじられている。内部被覆糸131は375デニールの延伸ポリオレフィン糸であり、「T1000 SPECTRA」の名称で市販されている。中間被覆糸132は、湿度活性抗菌化合物で処理され、これと結合したポリエステル糸である。外部被覆糸133は未処理のポリエステルチャネル繊維である。チャネル繊維133の異型断面形状が図5に示される。図5からはチャネル繊維の特別な断面形状が確認され、チャネル繊維の断面は、”C”、”S”、”I”、”W”、などの形状をした溝またはくぼみが延長された非円形状を有する。
【0064】
チャネル繊維は湿気が合成糸100の中に移動すること、合成糸100の中での湿気の移動も促進する。チャネル繊維に沿った湿気の移動は合成糸100内の抗菌化合物と湿気との接触を許容し、抗菌化合物を活性化する。さらに、チャネル繊維による湿気の継続的な移動を促進し、抗菌化合物との接触により、抗菌化合物が合成糸100の外側表面に移動する結果、抗菌化合物のさらなる効果増大へと繋がる。
【0065】
空気中の環境湿度では、抗菌剤放出レベルは低い。湿度が増加すれば、抗菌活性も増加する。抗菌性・耐切断性糸100が例えば手袋のような衣類に採用されるときには、装用者の皮膚からの湿気は、チャネル繊維による湿気輸送を通して移動し、抗菌剤を含む繊維に直接接触する。糸束100の全体構成は、湿気を充分にし、抗菌効果を増大させる。同様に、抗菌性・耐切断性糸100で作られた手袋の装用者がじめじめした環境で仕事をすると、従来技術における通常の疎水性繊維ではむしろ妨げられていた周囲環境からの湿気が、毛管現象によって手袋を通して運搬される。
【0066】
そのような衣類に用いる抗菌化合物の量はできるだけ少ないほうが望ましい。本発明の合成糸100の有意な利点は、チャネル繊維を用いることによってもたらされた増加した効力が、効果的な抗菌性衣類のために必要な抗菌化合物の量を減少させたことである。
【0067】
別の具体例においては、合成糸はファイバーグラスストランドとポリエステルのチャネル繊維を有する芯材を有している。内部被覆糸は延伸ポリオレフィン糸である。中間被覆糸は抗菌化合物で処理されたポリエステルストランドであり、外部被覆糸は未処理のポリエステルストランドである。或いは、外部被覆糸は抗菌化合物により処理されたポリエステルのチャネル繊維であってもよい。
【0068】
本発明にあっては、一つ以上のチャネル繊維の使用や、一つ以上の抗菌処理繊維の使用もできることを理解すべきである。チャネル繊維は芯材、被覆、もしくは双方に使用でき、抗菌処理繊維もまた同様である。
【0069】
抗菌性、耐切断性合成糸およびそのような糸から製造された衣類は上述の通りである。本発明の多様な細部において、有効な範囲内で変更ができる。更に、本発明の前記した好適な実施例および発明を実施するための最良の形態は、本発明の説明のためにのみ用いられ、請求項に定義された発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は本発明による抗菌剤で処理された糸の構造を示す概略図である。
【図2】図2は本発明による抗菌剤で処理された別の糸の構造を示す概略図である。
【図3】図3は図1−2で示す糸で編まれた手袋を示す図である。
【図4】図4は本発明によるチャネル糸を含む別の糸の構造を示す概略図である。
【図5】図5は図4の糸の5-5断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌性、耐切断性合成糸であって、
(a)少なくとも一つの耐切断性のストランドを含む芯材と、
(b)前記芯材の周りに巻き付け包囲する少なくとも一つのストランドを含む被覆と、
(c)前記芯材および被覆の少なくとも一方のストランドが、湿度によって活性化される抗菌化合物により処理され、これと結合しており、
(d)さらに前記芯材および被覆の少なくとも一方のストランドが、チャネル繊維を含む
ことを特徴とする合成糸。
【請求項2】
チャネル繊維が、合成糸内の湿気の動きおよび抗菌化合物との接触を容易にし、該抗菌化合物の効果を増大させることを特徴とする請求項1記載の抗菌性、耐切断性合成糸。
【請求項3】
チャネル繊維が、合成糸の外表面への抗菌化合物の移動を容易にし、該抗菌化合物の効果を増大させることを特徴とする請求項1記載の抗菌性糸。
【請求項4】
チャネル繊維が、合成糸の外表面における湿気と抗菌化合物の接触を容易にし、該抗菌化合物の効果を増大させることを特徴とする請求項1記載の抗菌性糸。
【請求項5】
耐切断性ストランドが、ファイバーグラス、金属ワイヤ、アラミドもしくはポリオレフィン繊維の群より選択されることを特徴とする請求項1記載の抗菌性糸。
【請求項6】
芯材が耐切断性ストランドおよび合成芯糸を含み、該合成芯糸が抗菌化合物により処理され、これと結合していることを特徴とする請求項1記載の抗菌性糸。
【請求項7】
合成芯糸が、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、アセテート、延伸ポリオレフィンの群より選択されることを特徴とする請求項6記載の抗菌性糸。
【請求項8】
被覆が、少なくとも2本の反対方向に巻き付けられた合成被覆糸を含み、該合成被覆糸の少なくとも一本は抗菌化合物により処理され、これと結合していることを特徴とする請求項1記載の抗菌性糸。
【請求項9】
合成被覆糸が、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、アセテート、延伸ポリオレフィンの群より選択されることを特徴とする請求項8記載の抗菌性糸。
【請求項10】
芯材がチャネル繊維を含んでいることを特徴とする請求項1記載の抗菌性糸。
【請求項11】
被覆がチャネル繊維を含んでいることを特徴とする請求項1記載の抗菌性糸。
【請求項12】
チャネル繊維がポリエステルおよびオレフィンの群より選択されることを特徴とする請求項1記載の抗菌性糸。
【請求項13】
相互に平行関係にある耐切断性ストランドと合成糸ストランドのそれぞれ一本以上を含んでいる芯材であることを特徴とする請求項1記載の抗菌性、耐切断性合成糸。
【請求項14】
(a)芯材に巻き付けられインナー被覆ストランドと;
(b)前記インナー被覆ストランドの周りに前記インナー被覆ストランドと反対方向で巻き付けられ、湿度活性化抗菌化合物により処理され、これと結合しれている中間被覆ストランドと;
(c)前記中間被覆ストランドの周りに前記中間被覆ストランドと反対方向で巻き付けられ、チャネル繊維を含むアウター被覆ストランドと、
を含む被覆を特徴とする請求項13記載の抗菌性、耐切断性合成糸。
【請求項15】
抗菌性、耐切断性合成糸であって、
(a)耐切断性のストランドを含む芯材と;
(b)前記芯材の周りに巻き付いて延伸ポリオレフィン繊維ストランドを少なくとも含む第一の被覆と;
(c)前記第一の被覆の周りに第一の被覆と反対方向で巻き付けられ、抗菌化合物により処理され、これと結合している第二の被覆と;
(d)チャネル繊維、
を含むことを特徴とする合成糸。
【請求項16】
前記抗菌化合物が湿度活性であって、前記チャネル繊維が合成糸内の湿気の動きおよび抗菌化合物との接触を容易にし、該抗菌化合物の効果を増大させることを特徴とする請求項15記載の抗菌性、耐切断性合成糸。
【請求項17】
前記第二の被覆がチャネル繊維を含んでいることを特徴とする請求項15記載の抗菌性糸。
【請求項18】
前記第二の被覆が延伸ポリオレフィン繊維ストランドを含み、第三の被覆が前記第二の被覆に巻回されており、この第三の被覆はチャネル繊維を含むことを特徴とする請求項15記載の抗菌性、耐切断性合成糸。
【請求項19】
請求項15記載の抗菌性、耐切断性合成糸から製作された耐切断性衣類。
【請求項20】
衣類が手袋である請求項19記載の耐切断性衣類。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−531832(P2007−531832A)
【公表日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−506306(P2007−506306)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【国際出願番号】PCT/US2005/011071
【国際公開番号】WO2005/100656
【国際公開日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(506333945)ワールド ファイバーズ インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】