説明

抗菌性表面の製造方法

【課題】ヒドロキシル基非含有表面を抗菌性にする新規な方法を提供すること。
【解決手段】この方法は、(i)1〜3個のヒドロキシ基及び1〜4個の炭素原子を有する水溶性アルコール及び約50%以下の水を含む溶媒系中、約60℃〜約80℃で、カルボキシル基含有ポリマー表面のカルボキシル基を、ポリマーの大部分の性質を変えずに表面のヒドロキシメチル基に還元するのに十分な時間で、当該ポリマー表面を、金属ホウ化水素と反応させるステップと、(iia)表面のヒドロキシメチル基のヒドロキシ基を脱離基に転化し、脱離基を1種の抗菌剤又は抗菌剤の組み合わせと置換するステップか、又は(iib)表面のヒドロキシメチル基のヒドロキシ基における水素原子を1種の抗菌剤又は抗菌剤の組み合わせで置換するステップと、を含み、且つ脱離基又はヒドロキシル基の水素原子の置換後、抗菌剤を陽性に荷電する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボキシル基含有のポリマー表面に微生物の増殖に対する耐性を付与する方法に関する。また、本願は、2005年10月14日に出願され、米国仮出願第60/726596号の利益を主張し、かかる出願の内容を参照することによって本願の内容に組み込む。
【背景技術】
【0002】
抗生物質耐性菌及び他の微生物、並びに生物兵器テロに対する現在の懸念により、人々を微生物の感染から保護するための新規な方法を開発する重要性が高まっている。例えば、汚染された環境において更に安全に身につけられ得る衣類を製造するための新規な材料を開発することが重要である。かかる材料は、例えば、細菌の汚染が引き起こされたか又は予想される病院及び軍・民作戦行動中において有用であろう。
【0003】
Engel等による米国特許出願公開第2005/0181006A1号は、抗菌性表面を開示している。Engel等の抗菌性表面は、未変性状態のヒドロキシル基を本来的に有する固体表面(例、炭水化物)を、荷電された抗菌剤で処理することによって形成される。
【0004】
しかしながら、ヒドロキシル基を本来的に含まない他の表面に抗菌性を付与することは、高い利益をもたらすであろう。かかる表面は、抗菌剤が付着可能な官能基(例、ヒドロキシル基)を含まないのが一般的である。かかる材料(例、ポリエステル織物)にヒドロキシル基を導入して、材料を抗菌剤の付着用の支持体として好適にすることは複雑である。例えば、ポリエステル織物は、ポリエステル基をヒドロキシル基に還元する場合に一般に用いられる殆どの条件下で品質が低下するであろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、かかるヒドロキシル基非含有表面を抗菌性にする新規な方法が必要である。かかる表面は、カルボキシル基を含む場合がある。従って、カルボキシル基含有材料、例えばポリエステル織物を抗菌性にすることが特に必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
当業者により明白となるであろう上記の目的及び他の目的は、カルボキシル基含有のポリマー表面に微生物の増殖に対する耐性を付与する方法であって、前記方法が、以下のステップ:(i)1〜3個のヒドロキシ基及び1〜4個の炭素原子を有する水溶性アルコール及び所望により約50%以下の水を含む溶媒系中、約60℃以上で且つ約80℃以下の範囲の温度条件下、カルボキシル基含有のポリマー表面におけるカルボキシル基を、ポリマーにおける大部分(bulk)の性質を変えることなく表面のヒドロキシメチル基に還元するのに十分な時間で、カルボキシル基含有のポリマー表面を、金属ホウ化水素と反応させるステップと、(iia)表面のヒドロキシメチル基のヒドロキシ基を脱離基に転化し、そして脱離基を、1種の抗菌剤又は抗菌剤の組み合わせと置換するステップか、又は(iib)表面のヒドロキシメチル基のヒドロキシ基における水素原子を1種の抗菌剤又は抗菌剤の組み合わせで置換するステップと、を含み、且つ脱離基又はヒドロキシル基の水素原子の置換後、抗菌剤を陽性(プラス)に荷電する、方法を提供することによって達成された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、カルボキシル基含有のポリマー表面に微生物の増殖に対する耐性を付与する方法に関する。カルボキシル基含有のポリマー表面は、例えば、衣類、包帯、縫合糸、防護服、容器等の一部であってもよい。好ましい実施形態において、カルボキシル基含有ポリマーは、カルボキシル基含有織物、例えばポリエスエルである。
【0008】
上記方法は、第1に、カルボキシル基含有のポリマー表面におけるカルボキシル基を、カルボキシル基含有ポリマーにおける大部分の性質を変更することなく表面のヒドロキシメチル基に選択的に還元することを含む。上記方法は、カルボキシル基含有のポリマー表面を、特定の反応条件下、金属ホウ化水素と反応させることによって選択的な転化を達成する。
【0009】
金属ホウ化水素は、金属イオン(Mn+)をアニオン性のホウ化水素錯体(BH)と結合させて含むが、nは、任意の好適な値であってもよく、好ましくは1又は2である。更に好ましくは、金属ホウ化水素は、アルカリ金属ホウ化水素である。アルカリ金属ホウ化水素としては、例えば、リチウムホウ化水素、ナトリウムホウ化水素、及びカリウムホウ化水素を挙げられる。また、金属ホウ化水素は、金属ホウ化水素の組み合わせであってもよい。
【0010】
反応条件は、1〜3個のヒドロキシ基及び1〜4個の炭素原子を有する水溶性アルコール、及び必要により約50%以下の水を含む溶媒系を含む。かかるアルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール、エチレングリコール、グリセロール、及びこれらの組み合わせを挙げられる。水分含有量は、例えば、正確に又は約0%、5%、10%、20%、30%、40%、45%、又は50%であってもよい。
【0011】
方法で用いられる温度範囲は、約60℃以上で且つ約80℃以下である。例えば、上記方法は、約60℃、61℃、63℃、65℃、67℃、69℃、70℃、又は73℃の最小温度条件下、及び約74℃、75℃、76℃、77℃、78℃、79℃、又は80℃の最大温度条件下で行われ得るのが好ましい。特に好ましい温度範囲は、上述の最小温度と上述の最大温度との組み合わせから得られる。
【0012】
上述の条件下でカルボキシル基含有のポリマー表面を処理する場合に用いられる時間は、用いる温度に従って変わる。例えば、より高温では、短い時間を必要とする。特定の温度条件下で、最小の反応時間は、表面のカルボキシル基の、表面のヒドロキシメチル基への十分な転化に必要とされる。更に、特定の温度条件下で、最大の反応時間は、ヒドロキシル基含有ポリマーの過大な品質低下を防ぐために必要とされる。
【0013】
約60℃の場合、約2時間以上で且つ約4時間以下が、十分な反応時間であるのが一般的である。約80℃の場合、約15分以上で且つ約35分以下が、十分である。約60℃から約80℃に温度が上昇すると、十分な時間は、約2時間から約15分に低減する最小値と、約4時間から約35分に低減する最大値と、を有する範囲内である。
【0014】
ポリマー表面におけるカルボキシル基をヒドロキシメチル基に還元した後、当該分野で知られている方法によって、ヒドロキシル基含有表面を、1種の抗菌剤又は抗菌剤の組み合わせと反応させて、抗菌剤を表面に対して付着させる。抗菌剤の付着は、2つの方法のいずれかによって達成されるのが好ましい。
【0015】
一の方法によると、表面のヒドロキシル基を脱離基に転化し、そして脱離基は、好適な条件下、1個以上の求核性基を有する抗菌剤で置換する。かかる反応は、当該分野で周知である。例えば、Introduction to Organic Laboratory Techniques, Pavia, Lampman, Kriz, Second Edition, Saunders College Publishing, (Copyright) 1982を参照されたい。
【0016】
例えば、一の実施形態において、表面のヒドロキシル基を、エステルの脱離基に転化する。エステルの脱離基には、スルホニル及びアシル基がある。
【0017】
ヒドロキシル基は、ヒドロキシル基を好適な活性化合物と反応させることによってエステル基に転化され得る。活性化合物に関する分類例は、スルホニルクロリド、塩化アシル、及び有機エステルである。スルホニルクロリドの例示は、ベンゼンスルホニルクロリド、p−トルエンスルホニルクロリド(すなわち、トシルクロリド、TsCl)及びメチルスルホニルクロリド(塩化メシル、MsCl)である。塩化アシルの例示は、塩化アセチル及び塩化ベンゾイルである。有機エステルの例示は、安息香酸エチル、酢酸メチル、及び酢酸エチルである。
【0018】
ポリエステル織物を、好適な溶媒中において活性化合物で処理することが可能である。溶媒は、ヒドロキシル基含有材料の大部分(bulk)を分解しないことが必要である。
【0019】
薬剤の量及び好適な媒体の体積は、当業者に知られているか、又は当業者によって簡単に決定され得る。反応を行うために使用されてもよい溶媒は、ピリジン、ヘキサン、ヘプタン、エーテル、トルエン、酢酸エチル、及びこれらの混合物を含むが、これらに限定されない。
【0020】
スルホニルクロリド又は塩化アシルとの活性化では、プロトン吸込系(proton−sink)を必要とする。従って、活性化は、炭酸水素塩水溶液の媒体において達成されるのが一般的である。或いは、アミンベースのプロトン吸込系、例えばピリジン又はポリマーの第三級アミンを使用することが可能である。ポリマーの第三級アミンは、例えばDEAE−セルロースを挙げられる。
【0021】
上述したように、有機酸でのヒドロキシル基含有表面の活性化は、例えば、適当に極性で、非反応性の溶媒中、触媒量の無機酸の存在下で達成され得る。例えばポリエステル織物表面を含む溶液を、必要により、反応を促進するのに好適な温度に加熱することも可能である。温度は、ポリエステル織物を品質低下しないように選択される必要がある(80℃以下であるのが好ましい)。有機酸は、例えば、安息香酸又は酢酸であってもよい。無機酸は、例えば、硫酸、塩酸又は硝酸であってもよい。
【0022】
非反応性の溶媒は、有機酸と相当に反応してはならず、そして用いられる条件下で相当に加水分解してはならない。好適な非反応性の溶媒は、高沸点のエーテル、例えばエチレングリコールジメチルエーテル(グリム)、ビス−(2−メトキシエチル)エーテル、及びテトラヒドロフランを挙げられる。
【0023】
他の実施形態において、表面のヒドロキシル基は、ハライド脱離基に転化される。ヒドロキシル基は、ヒドロキシル基をハライド基に転化可能な化合物で表面を処理することによって、ハライド基に転化され得る。表面のヒドロキシル基をクロロ及びブロモ基に転化可能な化合物としては、それぞれ塩化チオニル及び三臭化リンが挙げられる。
【0024】
更に別に実施形態において、表面のヒドロキシル基は、ヒドロニウムイオン脱離基に転化される。ヒドロキシル基は、例えば、ヒドロキシル基を、水性ベースの溶液中において無機酸、例えばハロゲン化水素(例、塩酸又は臭化水素酸)、硫酸又は硝酸と反応させることによって、ヒドロニウムイオンに転化され得る。或いは、ヒドロキシル基を、エステル化に有利ではない条件下で有機酸、例えば酢酸、プロパン酸又は安息香酸と反応させることが可能である。
【0025】
ポリマー表面におけるヒドロキシル基の数は、還元されるカルボキシル基の数及び表面の寸法に応じて異なる。例えば、ポリマー表面におけるヒドロキシル基の数は、1個を超え、一般的には1,000個を超え、更には10,000個を超えるか、又は100,000個を超える。
【0026】
カルボキシル基含有のポリマー表面に存在する全ての利用可能なヒドロキシル基(すなわち、部位)を脱離基に転化する必要はない。例えば、表面において約10%未満の利用可能なヒドロキシル基を転化して、その後、十分な抗菌活性を提供してもよい。好ましくは約25%、更に好ましくは約50%、最も好ましくは約75%の利用可能なヒドロキシル基を転化してもよい。
【0027】
表面のヒドロキシル基を脱離基に転化した後、脱離基を、抗菌性化合物において好適な求核性基と置換する。脱離基を置換可能な求核性基の好ましい例は、アミノ、メルカプト、及びホスフィノ(phospino)基である。アミノ酸の好ましい例は、−NH、−N(CH)H、−H(CH、−N(CHCH、−N(CH(CHCH)N(CH、ピペラジニル、ピリジニル、ピペラジニル、ピラジニル、及び1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタニル基である。メルカプト基の好ましい例は、−SH、−SCH、テトラヒドロチオピラニル、1,4−ジチアニル、チオフェニル、及びチオフェネイル基である。ホスフィノ基としては、例えば、−P(CH、−P(CHCH、−P(C)(CH)、―P(C、及び−P(CH(CHCH)P(CH基が挙げられる。
【0028】
好ましい実施形態において、活性化カルボキシル基含有表面は、好適な反応媒体において好適な第三級アミン、チオエーテル、又は第三級ホスフィン種の化学的な付着によって抗菌性にされる。反応媒体の好ましい例は、水性エタノール、エタノール、メタノール、2−プロパノール、アセトニトリル、プロピオンニトリル、及びこれらの混合物である。
【0029】
特に好適な第三級アミン、第三級ホスフィン、及びチオエーテル種としては、例えば、下記式:
【0030】
【化1】

(式中、nは9〜23である。)が挙げられる。
【0031】
抗菌性化合物を表面のヒドロキシル基に付着させる別の方法によると、表面のヒドロキシル基は、ヒドロキシル基における水素原子を置換可能である1種の抗菌剤又は抗菌剤の組み合わせと反応させる。例えば、エステル基又は抗菌剤において活性化されたエステル基を、表面のヒドロキシル基と縮合反応させることが可能である。これにより得られるエステル結合を生成するのに好適な条件は、上述したように、当該分野で周知である。
【0032】
かかる縮合反応は、例えば、ヒドロキシル基含有のポリエステル織物を、上述により調製し、適当に極性の非反応性溶媒中において、触媒量の無機酸の存在下に抗菌剤のカルボン酸誘導体で処理することによって達成され得る。カルボン酸基を更に、例えば、カルボジイミド(例、1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド、DCC)、ヒドロキシスクシンイミド、カルボニルジイミダゾール、又はこれらの組み合わせと反応させることによって活性化可能である。
【0033】
カルボキシル基含有ポリマーは、本発明の方法で使用されてもよい。ある実施形態において、カルボキシル基含有ポリマーは、縮合ポリエステルである。
【0034】
好ましい実施形態において、縮合ポリエステルは、下記式:
【0035】
【化2】

を有する単位を含む。式(1)において、R及びRは、独立して、1個以上の炭素原子を有する炭化水素基を表す。炭化水素基は、24個以下の炭素原子を有するのが好ましい。炭化水素基は、10個以下、好ましくは8個以下、更に好ましくは6個以下の炭素原子を有する。
【0036】
ある実施形態において、R及び/又はRにおける炭化水素基は飽和されている。飽和炭化水素基は、直鎖であってもよく、例えば、直鎖のアルキレン基であってもよい。直鎖のアルキレン基の好ましい例は、メチレン(−CH−)、ジメチレン(―CHCH―)、トリメチレン(−CHCHCH−)、テトラメチレン、ペンタメチレン、及びヘキサメチレン基である。
【0037】
或いは、R及び/又はRにおける炭化水素基は、飽和され且つ分岐であってもよく、例えば分岐のアルキレン基であってもよい。分岐のアルキレン基の好ましい例としては、1−メチル−ジメチレン(−CH(CH)CH−)、1−メチル−トリメチレン(−CH(CH)CHCH−)、1,1−ジメチル−トリメチレン(−C(CHCHCH−)、1,2−ジメチル−トリメチレン、2,2−ジメチル−トリメチレン、1−メチル−テトラメチレン、2−メチル−テトラメチレン、3−メチル−ペンタメチレン等が挙げられる。
【0038】
或いは、R及び/又はRにおける炭化水素基は、飽和され且つ環式であってもよく、すなわちシクロアルキレン基であってもよい。シクロアルキレン基は、3〜7個の環形成炭素原子を含んでいてもよい。シクロアルキレン基は、6個の環形成炭素原子を有するのが更に好ましい。シクロアルキレン基の好ましい例は、1,4−シクロヘキシレン及び2,3,5,6−テトラメチル−1,4−シクロヘキシレンである。
【0039】
また、R及び/又はRにおける炭化水素基は、不飽和であってもよい。不飽和炭化水素基は、例えば、直鎖又は分岐のアルキレン基であってもよい。アルキレン基の好ましい例は、ビニレン(−CH=CH−)、1,4−ジイル−2−ブテニレン(−CH−CH=CH−CH−)、及び1,4−ジイル−2,3−ジメチル−2−ブテニレンである。
【0040】
或いは、R及び/又はRにおける炭化水素基は、不飽和であり且つ環式であってもよく、すなわちシクロアルケニレン基であってもよい。シクロアルケニレン基は、3〜7個の環形成炭素原子を有するのが好ましい。シクロアルケニレン基の好ましい例は、シクロヘキサ−2−エン−1,4−ジイル、シクロヘキサ−4−エン−1,2−ジイル、及びシクロヘキサ−2,5−ジエン−1,4−ジイルである。不飽和の環式炭化水素基は、更に、芳香族であってもよく、すなわちアリーレン基であってもよい。好ましいアリーレン基は、フェニレン(例、1,2−フェニレン又は1,4−フェニレン)である。
【0041】
好ましい実施形態において、式(1)におけるRは、ジメチレン基を表し、そしてRは、テトラメチレン基を表す。他の好ましい実施形態において、式(1)におけるRは、ジメチレン基を表し、そしてRは、フェニレン基(市販のDacron(登録商標)又はMylar(登録商標)において見出される)を表す。
【0042】
縮合ポリエステルは、1種以上のジオール又はポリオール化合物、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、又はグリセロールを、1種以上のジカルボキシル又はポリカルボキシル化合物、例えばジメチルテレフタレート、ジメチルフタレート、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジメチルグルタレート、ジメチルマロネート、これらの酸、及びこれらの無水物と縮合させることによって調製してもよい。従って、縮合ポリエステルは、カルボキシル(−C(O)O−)結合を含む。
【0043】
他の実施形態において、カルボキシル基含有ポリマーは、ペンダント(懸垂)カルボキシル基を有する付加ポリマーである。付加ポリマーは、1種のアクリレート系モノマー又はアクリレート系モノマーの組み合わせから得られるのが好ましい。アクリレート系モノマーは、少なくとも1個の炭素−炭素二重結合と、少なくとも1個のカルボキシル基とを含む。二重結合及び1個以上のカルボキシル基は、(メチルメタクリレートにおけるように)隣接しているか、或いは、(3−ブテン酸のように)1個以上の炭素原子によって分離されていてもよい。
【0044】
好ましい実施形態において、アクリレート系モノマーは、独立して、下記式:
【0045】
【化3】

によって表される。式(2)において、R、R、及びRは、独立して水素(H)、ニトリル(−CN)、フルオロ(−F)、クロロ(−Cl)、又は炭化水素基を表す。Rは、H又は炭化水素基を表す。
【0046】
、R、R、及びRにおける炭化水素基は、1個以上の炭素原子を有する。炭化水素基は、24個以下の炭素原子を有するのが好ましい。炭化水素基は、10個以下、更に好ましくは8個以下、なお一層好ましくは6個以下の炭素原子を有するのが更に好ましい。
【0047】
ある実施形態において、R、R、R、及び/又はRにおける炭化水素基は、飽和されている。飽和炭化水素基は、直鎖であってもよく、例えば直鎖のアルキル基であってもよい。直鎖のアルキル基の好ましい例は、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、及びn−ヘキシル基である。
【0048】
或いは、R、R、R、及び/又はRにおける炭化水素基は、飽和され且つ分岐していてもよく、すなわち分岐のアルキル基であってもよい。分岐のアルキル基の好ましい例は、iso−プロピル、iso−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、1−メチルブチル、2−メチルブチル、3−メチルブチル(イソペンチル)、1,1−ジメチルプロピル、1,2−ジメチルプロピル、2,2−ジメチルプロピル(ネオペンチル)、1−メチルペンチル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、及び4−メチルペンチル基である。
【0049】
或いは、R、R、R、及び/又はRにおける炭化水素基は、飽和され且つ環式であってもよく、すなわちシクロアルキル基であってもよい。シクロアルキル基は、3〜7個の炭素環員を含むのが好ましい。シクロアルキル基の好ましい例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、及びシクロヘプチル基である。
【0050】
、R、R、及び/又はRにおける炭化水素基は、不飽和であってもよい。不飽和の炭化水素基は、例えば、直鎖であってもよく、例えば、直鎖のアルケニル基であってもよい。直鎖のアルケニル基の好ましい例は、ビニル、2−プロペン−1−イル、2−ブテン−1−イル、3−ブテン−1−イル、2−ペンテン−1−イル、3−ペンテン−1−イル、4−ペンテン−1−イル、2−ヘキセン−1−イル、3−ヘキセニル、4−ヘキセン−1−イル、及び5−ヘキセン−1−イル基である。
【0051】
或いは、R、R、R、及び/又はRにおける炭化水素基は、不飽和であり且つ分岐していてもよく、すなわち分岐のアルケニル基であってもよい。分岐のアルケニル基の好ましい例は、プロペン−2−イル、1−ブテン−2−イル、2−ブテン−2−イル、1−ブテン−3−イル、1−ペンテン−2−イル、1−ペンテン−3−イル、1−ペンテン−4−イル、2−ペンテン−2−イル、2−ペンテン−3−イル、2−ペンテン−4−イル、1−ブテン−3−メチル−2−イル、1−ブテン−3−メチル−3−イル、2―ブテン−2−メチル−1−イル、2−ブテン−2−メチル−3−イル、2−ブテン−2−メチル−4−イル、2−ブテン−2−メチレニル、2−ブテン−2,3−ジメチル−1−イル、1−ヘキセン−2−イル、1−ヘキセン−3−イル、1−ヘキセン−4−イル、1−ヘキセン−5−イル、2−ヘキセン−2−イル、2−ヘキセン−3−イル、2−ヘキセン−4−イル、2−ヘキセン−5−イル、3−ヘキセン−2−イル、3−ヘキセン−3−イル、1−ペンテン−3−メチル−2−イル、1−ペンテン−3−メチル−3−イル、1−ペンテン−3−メチル−4−イル、2−ペンテン−3−メチル−2−イル、及び2−ペンテン−3−メチル−4−イル基である。
【0052】
或いは、R、R、R、及び/又はRにおける炭化水素基は、不飽和であり且つ環式であってもよく、すなわち、シクロアルケニル基であってもよい。シクロアルケニル基は、3〜7個の炭素環員を含むのが好ましい。シクロアルケニル基の好ましい例は、シクロブテニル、シクロブタジエニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘキサジエニル、シクロヘプテニル、及びシクロヘプタジエニル基である。
【0053】
、R、R、及び/又はRにおける不飽和の環式炭化水素基は、更に、芳香族であってもよく、すなわち、アリール基であってもよい。アリール基は、6〜18個の炭素環員を含むのが好ましい。
【0054】
アリール基は、縮合されていても、又は縮合されていなくてもよい。好ましい非縮合アリール基は、フェニルである。縮合アリール基の好ましい例は、ナフチル、フェントリル、アントラセニル、トリフェニレニル、クリセニル、及びピレニルである。
【0055】
上述の炭化水素基は、1個以上のヘテロ原子を含んでいてもよく、例えば、窒素、酸素、又は硫黄原子を含んでいてもよい。ヘテロ原子を有する炭化水素鎖は、例えば、−(CHCHm1−[但し、m1が1〜8を表し、YがO、S、又はNHを表す。]を含む。
【0056】
式(2)において、Rは、非共有電子対を表していてもよい。Rが非共有電子対を表す場合、アクリレート系モノマーは、マイナスに荷電されたカルボキシレート基を含む。カルボキシレート基は、好適なプラスに荷電された基、例えばアンモニウム、ホスホニウム、リチウム、又はナトリウムのカチオンでカウンターバランスされていてもよい。
【0057】
式(2)のアクリレート系モノマーの好ましい実施形態において、R及びRは、Hを表す。かかるアクリレート系モノマーとしては、例えば、アクリレート(CH=CH−COO又はCH=CH−COOH)、メチルアクリレート(CH=CH−COOCH)、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、iso−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、iso−ブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、メタクリレート(CH=C(CH)−COO又はCH=C(CH)−COOH)、メチルメタクリレート(CH=C(CH)−COOCH)、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、iso−ブチルメタクリレート、sec−ブチルメタクリレート、及びtert−ブチルメタクリレートが挙げられる。
【0058】
他の好適なアクリレート系モノマーとしては、フマル酸、マレイン酸、3−メタクリル酸、3,3−ジメチルアクリル酸、2,3−ジメチルアクリル酸、2−フルオロアクリル酸、3−クロロアクリル酸、2−シアノアクリル酸、ヒドロキシルエチルアクリレート、ヒドロキシルエチルメタクリレート、アミノエチルアクリレート、アミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、t−ブチルアミノエチルアクリレート、及び3−ブテン酸が挙げられる。
【0059】
付加ポリマーは、単一のアクリレート系モノマー、すなわち単独重合体から得ることが可能である。単独重合体の好ましい例は、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(エチルアクリレート)、ポリ(n−プロピルアクリレート)、ポリ(iso−プロピルアクリレート)、ポリ(n−ブチルアクリレート)、ポリ(iso−ブチルアクリレート)、ポリ(t−ブチルアクリレート)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(n−プロピルメタクリレート)、ポリ(iso−プロピルメタクリレート)、ポリ(n−ブチルメタクリレート)、ポリ(iso−ブチルメタクリレート)、ポリ(t−ブチルメタクリレート)、及びポリ(酢酸ビニル)である。
【0060】
付加ポリマーは、2種以上の異なる種類のモノマー、すなわち共重合体から得ることが可能である。共重合体が得られる少なくとも1種のモノマーは、アクリレート系モノマーである。
【0061】
一の実施形態において、共重合体は、異なる種類のアクリレート系モノマーの組み合わせから得られる。かかる共重合体の好ましい例は、アクリル酸−メチルアクリレート、メチルアクリレート−エチルアクリレート、メチルアクリレート−イソプロピルアクリレート、アクリル酸−メチルメタクリレート、メチルアクリレート−メチルメタクリレート、メチルアクリレート−マレイン酸、及びメチルメタクリレート−フマル酸共重合体である。
【0062】
他の実施形態において、共重合体は、1種のアクリレート系モノマー又はアクリレート系モノマーの組み合わせと、1種の非アクリレート系のビニルモノマー又は非アクリレート系のビニルモノマーの組み合わせと、から得られる。非アクリレート系のビニルモノマーの好ましい例は、エテン(例、エチレン、CH=CH)、プロピレン(CH=CH−CH)、2−メチルプロペン(CH=C(CH)、ブタジエン(CH=CH−CH=CH)、ジビニルベンゼン、塩化ビニル(CH=CHCl)、塩化ビニリデン(CH=CCl)、フッ化ビニル(CH=CHF)、フッ化ビニリデン(CH=CF)、テトラフルオロエテン(CF=CF)、スチレン(CH=CH−C)、アクリロニトリル(CH=CHCN)、アクリルアミド(CH=CHC(O)NH)、イソプレン、及びクロロプレンである。
【0063】
非アクリレート系単位を含む共重合体としては、例えば、エチレン−アクリル酸、エチレン−メタクリル酸、エチレン−メタクリレート、エチレン−メチルメタクリレート、エチレン−エチルアクリレート、エチレン−n−ブチルアクリレート、エチレン−イソブチルアクリレート、スチレン−アクリル酸、アクリルアミド−メタクリル酸、エチレン−スチレン−メタクリル酸、フッ化ビニル−メチルメタクリレート、スチレン−ブタジエン−メチルアクリレート、エチレン−マレイン酸、プロピレン−フマル酸、エチレン−アクリル酸−メチルメタクリレート、エチレン−イソブチルアクリレート−メタクリル酸、エチレン−n−ブチルアクリレート−アクリル酸、エチレン−酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル−メタクリル酸、エチレン−酢酸ビニル−モノエチルマレエート、及びエチレン−メチルアクリレート−モノエチルマレエートが挙げられる。
【0064】
上述の共重合体は、モノマー単位の任意の分散を有することが可能である。例えば、共重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0065】
抗菌剤は、表面のヒドロキシル脱離基又は表面のヒドロキシル基の水素原子の置換後、陽性(プラス)に帯電される。抗菌剤は、表面のヒドロキシル基との反応前にプラスに荷電されてもよく、又はかかる反応の結果として正電荷を帯びていてもよい。
【0066】
抗菌剤は、下記式:
【0067】
【化4】

によって従来から表され得る。式(3)において、V+aは、プラスに荷電された基であるか、又は表面のヒドロキシル基若しくは表面のヒドロキシル基の水素原子を置換するときにプラスに荷電された状態になる非荷電の基である。上付文字の+aは、V部分の電荷の合計を示す。上付文字の+aは、0、1、又は2を表すのが好ましい。
【0068】
一の実施形態において、aは0であり、そしてV+aは、非荷電の第三級アミノ基を表す。他の実施形態において、V+aは、単一電荷又は二重電荷部分を表す。単一電荷部分の場合、式1における+aは、1を表す。二重電荷部分の場合、+aは、2を表す。単一電荷又は二重電荷部分は、例えば、1個又は2個のプラスに帯電される窒素原子、1個又は2個のプラスに帯電されるリン原子、又は1個又は2個のプラスに帯電される硫黄原子を含んでいてもよい。
【0069】
好ましい実施形態において、Vは、表面に結合された後、2価の正電荷を有する部分を含む。2価の正電荷は、2個のプラスに帯電される窒素原子、例えば−NR−T−NR−又は1,4−ジアゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンから得られる場合がある。或いは、2価の正電荷は、2個のプラスに帯電される硫黄原子、例えば−SR−T−SR−又は1,4−ジチオニウムシクロヘキサンから得られる場合がある。かかる実施形態において、Tは、上述したように、1〜24個の原子を有する飽和又は不飽和の炭化水素鎖を表す。Tは、ヘテロ原子を有さない飽和アルキル鎖を表すのが好ましい。飽和アルキル鎖は、1〜3個の炭素原子を有するのが好ましい。
【0070】
Lは、飽和又は不飽和の炭化水素鎖を表す。炭化水素鎖は、上述したように、ヘテロ原子を含むことが可能である。かかる鎖は、ヘテロ原子を含まないのが好ましい。上記鎖は、飽和の炭素原子のみを含むのが更に好ましい。
【0071】
鎖における原子の最小数は、10個であり、12個であるのが好ましく、14個であるのが更に好ましい。鎖における原子の最大数は、24個であり、18個であるのが更に好ましい。鎖における原子の最適な数は、16個である。
【0072】
Lは、全て同じ長さを有する炭化水素鎖を表す。全ての炭化水素鎖Lは、12〜18個の原子を有し、14〜16個の原子を有するのが好ましく、16個の原子を有するのが更に好ましく、16個の炭素原子を有するのが最も好ましく、最適には16個の飽和炭素原子を有する。
【0073】
或いは、Lは、炭化水素鎖の混合物を表す場合がある。混合物における炭化水素鎖の少なくとも一部は、12〜18個の原子を有し、14〜16個の原子を有するのが好ましく、16個の原子を有するのが更に好ましく、16個の炭素原子を有するのが最も好ましく、最適には16個の飽和炭素原子を有する。
【0074】
大多数の炭化水素鎖Lは、16個の原子を有するのが特に望ましい。一般に、混合物における炭化水素鎖Lの少なくとも10%、好ましくは少なくとも25%、更に好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも75%、最適には少なくとも90%は、16個の原子を有し、16個の炭素原子を有するのが好ましく、16個の飽和炭素原子を有するのが更に好ましい。
【0075】
Zは、炭化水素鎖Lの末端部における安定な化学部分を表す。Zは、例えば、−H、−OH、−SH、−F、−Cl、−Br、−OR、−NQ、−NHC(O)Q、又は−OC(O)Qを表し、且つQは、独立してHを表すか、又は上述したように1〜24個の炭素原子を有する飽和又は不飽和炭化水素基を表す。Qは、メチル又はエチルを表すのが更に好ましい。
【0076】
好ましい実施形態において、ZはHを表す。ZがHを表す場合のLZ基の例示は、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシル、ウンエイコシル、ドコシル、トリコシル、及びテトラコシルである。
【0077】
式(3)で表される一の実施形態において、抗菌剤は、下記式:
【0078】
【化5】

によって表される非荷電のアミンである。式(4)において、R及びRは、独立して、上述したように1〜24個の炭素原子を有する飽和又は不飽和炭化水素基を表す。R及びRは、独立して、1〜4個の炭素原子を有する飽和又は不飽和炭化水素基を表すのが更に好ましい。R及びRに関して好ましい基の例示は、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、及びt−ブチルを含む。L及びZは、式(3)に関して上述した通りである。
【0079】
式(4)で表される抗菌剤の例示は、ジ−(メチル)デシルアミン(すなわち、(CH(C1021)N)、ジ−(メチル)ウンデシルアミン、ジ−(メチル)ドデシルアミン、ジ−(メチル)トリデシルアミン、ジ−(メチル)テトラデシルアミン、ジ−(メチル)ペンタデシルアミン、ジ−(メチル)ヘキサデシルアミン、ジ−(メチル)ヘプタデシルアミン、ジ−(メチル)オクタデシルアミン、ジ−(メチル)ノナデシルアミン、ジ−(メチル)エイコシルアミン、ジ−(メチル)ウンエイコシルアミン、ジ−(メチル)ドコシルアミン、ジ−(メチル)トリコシルアミン、ジ−(メチル)テトラコシルアミン、ジ−(エチル)ヘキサデシルアミン、ジ−(エチル)オクタデシルアミン、メチルエチルヘキサデシルアミン、ジ−(イソプロピル)ヘキサデシルアミン、メチルイソプロピルヘキサデシルアミン、ジ−(メチル)(16−ヒドロキシヘキサデシル)アミン、ジ−(メチル)(16−フルオロヘキサデシルアミン)、及びジ−(メチル)(16−アミノヘキサデシルアミン)である。
【0080】
式(3)で表される他の実施形態において、抗菌剤は、下記式:
【0081】
【化6】

で表される荷電アミンである。式(5)において、R、R、R、R10、及びR11は、独立して、上述したように1〜24個の炭素原子を有する飽和又は不飽和炭化水素基を表す。更に、Rは、R10と必要により結合可能であり、及び/又はRは、R11と必要により結合可能である。L及びZは、上述した通りである。
【0082】
R基の間に結合の無い式(5)による抗菌剤の例示は、(CHN−(CH)−N(CH(C1021)、(CHN−(CH)−N(CH(C1225)、(CHN−(CH)−N(CH(C1633)、(CHN−(CH)−N(CH(C1837)、(CHN−(CH)−N(CH(C2041)、(CHN−(CH)−N(CH(C2245)、(CHN−(CH)−N(CH(C2450)、(CHN−(CHCH)−N(CH(C1225)、(CHN−(CHCH)−N(CH(C1633)、(CHN−(CHCH)−N(CH(C1837)、(CHN−(CHCHCH)−N(CH(C1633)、(CHN−(CHCHCHCH)−N(CH(C1633)、(CHCHN−(CHCH)−N(CH(C1633)、及び(CHN−(CHCH)−N(CHCH(C1633)である。
【0083】
式(5)による他の実施形態において、Rは、下記式:
【0084】
【化7】

により、R11と結合される。式(6)による抗菌剤の例示は、1,4−ジメチル−4−デシル−ピペラジン−1−イウム、1,4−ジメチル−4−ドデシル−ピペラジン−1−イウム、1,4−ジメチル−4−ヘキサデシル−ピペラジン−1−イウム、1,4−ジメチル−4−オクタデシル−ピペラジン−1−イウム、1,4−ジメチル−4−エイコシル−ピペラジン−1−イウム、1,4−ジメチル−4−ドコシル−ピペラジン−1−イウム、1,4−ジメチル−4−テトラコシル−ピペラジン−1−イウム、1,4−ジエチル−4−ドデシル−ピペラジン−1−イウム、1,4−ジエチル−4−ヘキサデシル−ピペラジン−1−イウム、1−メチル−4−エチル−4−ヘキサデシル−ピペラジン−1−イウム、及び1−プロピル−4−メチル−4−ヘキサデシル−ピペラジン−1−イウムである。
【0085】
式(6)による他の実施形態において、Rは、下記式:
【0086】
【化8】

により、R10と結合される。好ましくは、Lは10〜18個の炭素原子を有し、12〜16個の炭素原子を有するのが更に好ましく、14〜16個の炭素原子を有するのがなお一層好ましく、16個の炭素原子を有するのが最も好ましい。
【0087】
式(7)による抗菌剤の例示は、1−アザ−4−アゾニア−4−デシル−ビシクロ[2.2.2]オクタン、1−アザ−4−アゾニア−4−ウンデシル−ビシクロ[2.2.2]オクタン、1−アザ−4−アゾニア−4−ドデシル−ビシクロ[2.2.2]オクタン、1−アザ−4−アゾニア−4−トリデシル−ビシクロ[2.2.2]オクタン、1−アザ−4−アゾニア−4−テトラデシル−ビシクロ[2.2.2]オクタン、1−アザ−4−アゾニア−4−ペンタデシル−ビシクロ[2.2.2]オクタン、1−アザ−4−アゾニア−4−ヘキサデシル−ビシクロ[2.2.2]オクタン、1−アザ−4−アゾニア−4−ヘプタデシル−ビシクロ[2.2.2]オクタン、1−アザ−4−アゾニア−4−オクタデシル−ビシクロ[2.2.2]オクタン、1−アザ−4−アゾニア−4−ノナデシル−ビシクロ[2.2.2]オクタン、1−アザ−4−アゾニア−4−エイコシル−ビシクロ[2.2.2]オクタン、1−アザ−4−アゾニア−4−ウンエイコシル−ビシクロ[2.2.2]オクタン、1−アザ−4−アゾニア−4−ドコシル−ビシクロ[2.2.2]オクタン、1−アザ−4−アゾニア−4−トリコシル−ビシクロ[2.2.2]オクタン、及び1−アザ−4−アゾニア−テトラコシル−ビシクロ[2.2.2]オクタンである。
【0088】
明瞭にするため、上記の各式で示される荷電分子は、逆に荷電された対イオンと結合される必要がある。例えば、式(5)、(6)、又は(7)によるプラスに帯電されるアミンは、記号(I)に至り得る。(I)は、中性の化合物を形成するために、マイナスに荷電された対アニオン(W)と結合されることは当然に必要である。
【0089】
対アニオン(counteranion)は、本発明の場合に有用となることが可能である。特定の対アニオンは、本願の明細書に記載される方法に対する最適化効果、溶解度効果、コスト等の多くの理由を目的として選択されてもよい。
【0090】
対アニオンは、単一にマイナスに荷電されてもよく、すなわち、簡単な対アニオンであってもよい。簡単な対アニオンの好ましい例は、クロリド、ペルクロレート、スルフェート、ニトレート、及びテトラフルオロボレートである。対アニオンは、例えば、二重にマイナスに、又は三重にマイナスに荷電されてもよく、すなわち、ジアニオン又はトリアニオンであってもよい。対ジアニオンの好ましい例は、カーボネート、オキサレート、フマレート、テレフタレート、マロネート、及びスクシネートである。対トリアニオンの好ましい例は、ホスフェート、シトレート、及びアスコルベートである。
【0091】
上述から、多くのイオン−対アニオンの組み合わせが可能であることは明らかである。従って、イオン−対アニオンの組み合わせは、下記式:
【0092】
【化9】

によって適当に記載される。式(8)において、zは、荷電アミンの電荷であり、rは、対アニオンの電荷である。化学規則により、電荷の対は、式uz=rtにより式(8)においてバランスされる。
【0093】
本発明において、カルボキシル基含有表面は、微生物の増殖に対して耐性を付与される。耐え得る微生物は、単細胞の生物、例えば、バクテリア、菌類、藻類、及び酵母菌、並びにカビを含む。
【0094】
バクテリアは、グラム陽性及びグラム陰性のバクテリの両方を含むことが可能である。グラム陽性バクテリアは、例えば、Bacillus cereus, Micrococcus luteus, 及びStaphylococus aureusを含む。グラム陰性バクテリアは、例えば、Escherichia coli, Enterobacter aerogenes, Enterobacter cloacae, 及びProteus vulgarisを含む。酵母菌の菌株は、例えば、Saccharomyces cerevisiaeを含む。
【0095】
ここで、本発明を説明し、そして最良の形態を記載するために、以下に実施例を記載する。しかしながら、本発明の範囲は、本願の明細書に記載される実施例によって何ら限定されない。
【実施例】
【0096】
実施例1:N−ヘキサデシル−N,N−ジメチル−N−(2−チオメチル)エチルアンモニウムブロミド
【0097】
N−ヘキサデシル−N,N−ジメチル−N−(2−チオメチル)エチルアンモニウムブロミドのアンモニウム塩は、150mlの酢酸エチル中の66.1g(0.210モル)の1−ブロモヘキサデカンを、250mlの酢酸エチル中の25g(0.210モル)のN,N−ジメチル−N−(2−チオメチル)エチルアミンに添加することによって調製した。溶液混合物を撹拌した。これにより得られた沈殿を、吸引ろ過によって集め、そしてエーテルで洗浄し、真空下で乾燥した。
【0098】
実施例2:1−ヘキサデシル−1−チオニウム−4−チアシクロヘキサンブロミドの調製
1−ヘキサデシル−1−チオニウム−4−チアシクロヘキサンブロミドのスルホニウム塩は、150mlの酢酸エチル中の63.3g(0.201モル)の1−ブロモヘキサデカンを、250mlの酢酸エチル中の25g(0.201モル)の1,4−ジチアンに添加することによって調製した。溶液混合物を撹拌した。これにより得られた沈殿を、吸引ろ過によって集め、そしてエーテルで洗浄し、真空下で乾燥した。
【0099】
実施例3:ポリエステル織物の還元による予備処理
合計重量2.89gの白色の100%ポリエステル織物の細片(18個の寸法1インチx6インチ)を、丸底フラスコ(250mL)に配置し、これらの細片に対して、水素化ホウ素ナトリウム(0.93g)を溶解させた無水エタノール(100mL)を添加した。撹拌しながら、反応混合物を76℃で33分間加熱し、次に、水(50mL)に溶解させた塩化アンモニウム(1.38g)を添加することによって反応物をクエンチング処理した。織物を蒸留水で繰り返し洗浄し、そして空気乾燥した。
【0100】
実施例4:4−ヘキサデシル−1−アザ−4−アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタンクロリドを用いた抗菌性ポリエステル織物の調製
これにより得られた細片は、炭酸水素塩の水溶液中において塩化トシルで処理し、次に、水洗後、水性のエタノール中において1−アザ−4−アゾニア−4−ヘキサデシル−ビシクロ[2.2.2]オクタンクロリドで処理する、二工程手順によって細片を抗菌性にするために処理した。その後、細片を水で洗浄し、空気乾燥した。
【0101】
従って、本発明の好ましい実施形態であると今のところ考えられることを説明したものの、当業者であれば、他の実施形態及び更に別の実施形態を、本発明の範囲から逸脱することなく構成可能であり、そしてこのような全ての更なる修正及び変更を、本願に記載の特許請求の真なる範囲内であるとして含む意図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有のポリマー表面に微生物の増殖に対する耐性を付与する方法であって、前記方法が、以下のステップ:
(i)1〜3個のヒドロキシ基及び1〜4個の炭素原子を有する水溶性アルコール及び所望により約50%以下の水を含む溶媒系中、約60℃以上で且つ約80℃以下の範囲の温度条件下、カルボキシル基含有のポリマー表面におけるカルボキシル基を、ポリマーにおける大部分(bulk)の性質を変えることなく表面のヒドロキシメチル基に還元するのに十分な時間で、カルボキシル基含有のポリマー表面を、金属ホウ化水素と反応させるステップと、
(iia)表面のヒドロキシメチル基のヒドロキシ基を脱離基に転化し、そして脱離基を、1種の抗菌剤又は抗菌剤の組み合わせと置換するステップか、又は
(iib)表面のヒドロキシメチル基のヒドロキシ基における水素原子を1種の抗菌剤又は抗菌剤の組み合わせで置換するステップと、を含み、且つ脱離基又はヒドロキシル基の水素原子の置換後、抗菌剤を陽性(プラス)に荷電する方法。
【請求項2】
前記水溶性アルコールはメチル、エチル又はイソプロピルアルコールから選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カルボキシル基含有ポリマーは、カルボキシル基含有織物である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記カルボキシル基含有ポリマーは、縮合ポリエステルである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記縮合ポリエステルは、以下の化学式
【化1】

(式中、R及びRは、独立して、1〜24の炭素原子を有する飽和又は不飽和炭化水素基を表す。)を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
及びRは、独立して、1〜6の炭素原子を有する炭化水素基を表す、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
はジメチレン基を表す、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
はテトラメチレン基を表す、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
はフェニレン基を表す、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記カルボキシル基含有ポリマーは、ペンダント(懸垂)カルボキシル基を有する付加ポリマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記付加ポリマーは、以下の化学式、
【化2】

(式中、R、R、及びRは、独立して水素、1〜24の炭素原子を有する飽和又は不飽和炭化水素基、ニトリル、フルオロ、クロロを表し、Rは、H又は1〜24の炭素原子を有する飽和又は不飽和炭化水素基若しくは非共有電子対を表す。)により独立して表される1種のアクリレート系モノマー又はアクリレート系モノマーの組み合わせから得られる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
、R、及びRは、独立して水素、1〜6の炭素原子を有する飽和又は不飽和炭化水素基を表し、Rは、H又は1〜6の炭素原子を有する飽和又は不飽和炭化水素基若しくは非共有電子対を表す、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
及びRは水素を表す、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記アクリレートモノマーは、アクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、iso−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、iso−ブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、メタクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、iso−ブチルメタクリレート、sec−ブチルメタクリレート、及びtert−ブチルメタクリレートから選ばれる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記アクリレートモノマーはメチルメタクリレートを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記付加ポリマーは単独重合体である、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記付加ポリマーは共重合体である、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記共重合体はアクリレート系モノマーの1種又は組み合わせ、及び、非アクリレート系のビニルモノマーの1種又は組み合わせから形成される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記非アクリレート系のビニルモノマーはエテンである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記共重合体はランダム共重合体である、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記共重合体は交互共重合体である、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記共重合体はブロック共重合体である、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記共重合体はグラフト共重合体である、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記金属ホウ化水素は、アルカリ金属ホウ化水素である、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記アルカリ金属ホウ化水素はナトリウムホウ化水素である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記溶媒系はエタノールと水とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
前記十分な時間は、約80℃で約15分〜35分、約60℃で約2時間〜4時間である、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記抗菌剤は、以下の化学式、
【化3】

(式中、Vはプラスに荷電された基であるか、又は表面のヒドロキシル基若しくは表面のヒドロキシル基の水素原子を置換するときにプラスに荷電された状態になる基であり、aは0、1、又は2を表し、Lは10〜24の炭素原子を有する飽和又は不飽和の炭化水素鎖を表し、Zは、−H、−OH、−SH、−F、−Cl、−Br、−OR、−NQ、−NHC(O)Q、又は−OC(O)Qを表し、且つQは、独立してHを表すか、又は1〜24個の炭素原子を有する飽和又は不飽和炭化水素基を表す。)により表される、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
aは0、Vは非荷電の第三級アミノ基を表す、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記抗菌剤は、以下の化学式、
【化4】

(式中、R及びRは、独立して、1〜24個の炭素原子を有する飽和又は不飽和炭化水素基を表す。)により表される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
及びRは、独立して、1〜4個の炭素原子を有する飽和又は不飽和炭化水素基を表す、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
Vは、荷電したアミノ基を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項33】
前記抗菌剤は、以下の化学式、
【化5】

(式中、R、R、R、R10、及びR11は、独立して、1〜24個の炭素原子を有する飽和又は不飽和炭化水素基を表し、Rは、R10と必要により結合可能であり、及び/又はRは、R11と必要により結合可能である。)により表される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記抗菌剤は、以下の化学式
【化6】

により表される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記抗菌剤は、以下の化学式
【化7】

により表される、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
Lは炭素原子10〜24個を有する飽和炭化水素鎖を、Zは−Hを表す、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
Lは10〜18個の炭素原子を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
Lは12〜16個の炭素原子を含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
Lは14〜16個の炭素原子を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
Lは16個の炭素原子を含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
表面のヒドロキシル基を脱離基に転化し、そして脱離基は、好適な条件下、1個以上の抗菌剤で置換される、請求項1に記載の方法。
【請求項42】
表面のヒドロキシル基を、この基をエステル基に転化することができる活性化合物と反応させることにより脱離基に転化する、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記活性化合物はスルホニルクロリドである、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
スルホニルクロリドは、ベンゼンスルホニルクロリド、メチルスルホニルクロリド又はp−トルエンスルホニルクロリドである、請求項43に記載の方法。

【公表番号】特表2009−516083(P2009−516083A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−535794(P2008−535794)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際出願番号】PCT/US2006/040587
【国際公開番号】WO2008/018890
【国際公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(503161626)リサーチ ファウンデーション オブ シティ ユニバーシティ オブ ニューヨーク (4)
【Fターム(参考)】