説明

抗酸化剤、及び抗酸化化粧料

【課題】
これまでにない高い抗酸化効果を有する抗酸化物質を得、化粧品に応用することを課題とする。
【解決手段】
天然成分を含まず、炭素源、窒素源、リン源を含む基本培地に地楡抽出液及び/又は丁子抽出液を加え、Saccharomyces cerevisiae 酵母で培養し、培養終了後、菌体と培養液とに分離し、本培養菌体の抽出液を効果成分として用いることで、優れた抗酸化剤、抗酸化化粧料を得る事が出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定培地で培養したSaccharomyces cerevisiae 酵母の菌体抽出液からなることを特徴とする抗酸化剤、およびこれを配合した化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、老化の原因としてフリーラジカルや活性酸素がとりあげられ、生体成分の酸化による機能低下が大きな問題となっている。なかでも紫外線に常にさらされている皮膚は、このような酸化ストレスのダメージが最も大きな器官の一つであり、紫外線により発生した種々の活性酸素が、皮脂や脂質の過酸化、蛋白変性、酵素阻害等を引き起こし、皮膚の炎症などの原因となる。また、紫外線により真皮のヒアルロン酸やコラーゲンの産生が低下すると共に、コラーゲンの変性が生じ、肌の弾力やハリが低下しシワの原因になる。さらに、表皮細胞が紫外線に照射されると各種のサイトカインを産生し、メラニン産生を増大させることが知られている。例えばエンドセリンやチオレドキシンなどのサイトカインは、紫外線照射により表皮細胞から産生され、メラノサイトに働きかけてメラニン産生を促進させ光老化によるシミの原因になっている。これら紫外線が原因となって生じるシワ・シミを防ぐ方法の一つにフリーラジカルや活性酸素を除去する抗酸化剤を配合する方法が知られている。
【0003】
生体は活性酸素種を除去する自己防御機構としてSODなどの抗酸化機構を有しているものの、生体組織の防御能力を超えた活性酸素が生体組織の老化の原因となっている。フリーラジカルを捕捉する能力を備える抗酸化剤は、ラジカル連鎖反応を抑制・停止させることができるので、このような抗酸化剤を配合した皮膚外用剤は、光酸化ストレスによる皮膚老化、例えば、シミ、しわ、たるみなどの予防・改善効果が期待できる。このため、従来より光老化によるシワ防止を目的として用いられるフリーラジカル消去剤にはアスコルビン酸、トコフェロール、3,5−tert−ブチル−4−ヒドロキシトルエン(BHT)、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)等が用いられてきた。
【0004】
しかし、皮膚の光老化防止又は抗酸化を目的として用いられるSODは不安定であり、製剤化が難しく、トコフェロールも効果が充分であるとは言えない。また、合成化合物であるBHT等は安全性に問題があり、配合量に制限があることから、化学合成品ではなく、安定でかつ副作用が少ないとともにより効果の高い天然原料が望まれてきた。
【0005】
抗酸化性の高い天然物質として、健康食品や化粧品にはハーブ植物が多く用いられてきた。しかし、これらの植物抽出物は色、臭いが強く、化粧料に配合するには脱色、脱臭などの精製処理を施す必要があり、その際に抗酸化効果が減少することが多く、充分な効果を有する抽出物を得ることが困難であった。
【0006】
酵母の菌体抽出液には抗酸化効果があることは既に知られており、特開平8−100175(特許文献1)には、酵母を細胞壁溶解酵素あるいはタンパク質分解酵素により処理し抽出した水溶性の抗酸化作用を有する酵母タンパク質分解物の記載がなされている。
【0007】
また、培地に植物体を添加して発酵させた組成物を利用するものとして、特開2004−141163(特許文献2)には、モモタマナ(Terminalia catappa)の葉を乳酸菌、酵母を用いて発酵させた組成物が、特開2004−73050(特許文献3)には、ミカン科(Rutaceae)植物及び/又はキク科(Asteraceae)植物を、乳酸菌、酵母を用いて発酵させた発酵組成物、特開2002−335881(特許文献4)には、イチゴ、イチジク、ウメ、ブルーベリー、ラズベリー、リンゴ、キウイ等の果実、あるいは柑橘類の皮を加熱殺菌し、酵母Saccharomyces cerevisiae
を接種して発酵させた組成物が記載されている。
【0008】
さらに、培地に植物抽出物を添加して発酵させた組成物を利用するものとして、特開2004−43505(特許文献5)には、グアバ抽出物と、米糠類、大豆類及び炭素源を含む培地に微生物を接種し、発酵培養して得られる米糠・大豆発酵物を含有することを特徴とする発酵組成物が記載されている。グアバはフトモモ科、バンジロウ属の植物で、学名をプジジウム グアヤバ エル(Psidium Guajava L)である。本願特許の丁子は同じフトモモ科植物であるが、学名はSyzygium aromaticumでありフトモモ属に属する植物である。上記特許明細書にはグアバが属するバンジロウ属のその他の植物に関する記載も無く、さらに、バンジロウ属以外のフトモモ科に属する他の属の植物に関する記載も無い。したがって、上記特許からは、本願発明のフトモモ属に関する植物を培養して抗酸化組成物を得ることは全く想像されないものである。
【0009】
特開2000−87(特許文献6)では、フトモモ科(丁子)などから成る植物の抽出液と、食用の果実から成る抽出液とを配合した微生物培養基について記載されている。すなわち、土壌菌を上記の培養基で培養することにより、堆肥の腐熟促進、土壌の改良、肥効の増進、残留農薬の無害化、病害微生物を抑制する能力が高められ、かつ、Cd、Hg等の重金属を除去する能力があることを見出している。このため、フトモモ科(丁子)などから成る植物の抽出液と、食用の果実から成る抽出液とを配合した微生物培養基が、主にキノコ類の微生物の増殖促進に有用であることが記載されている。上記特許は、フトモモ科(丁子)その他の植物抽出液と各種果実の抽出液を併用してキノコ類の生育を促進させる培養基についての特許であり、本願特許に記載している培養液の組み合わせにも、また本願特許の効果についても、全く異なるものである。
【0010】
特開平5−336953(特許文献7)では、月桂樹、ニンニク、タマネギ、オレガノ、ローズマリー、サルビア、タイム、生姜、クローブ、キャラウェー、松、檜、楠、竹を配合したことを特徴とする微生物培養用培地が記載されている。しかし、記載されている内容は、微生物の中でも細菌類(とりわけ嫌気性菌)には、培養に伴いインドールなどの硫化化合物、酢酸アミル、トリメチルアミンなどの臭気の強い化合物を産生し悪臭を発するものが多いため、上記のような植物体からの抽出物を、消臭物質として培地に添加している。これらの成分は、揮発性を有するため培養中に微量ずつ揮発する。
このため、培養に伴い微生物から産生される成分が、上記の揮発性の成分と反応することにより微生物が産生する悪臭を脱臭することを目的としている。上記特許は、微生物用培養培地と記載されているが、具体的には細菌用培地に関する内容しか記載されておらず、すべての微生物にその効果が適用されると納得できるデータも説明も明細書には記載されていない。また、上記特許の内容は、細菌が代謝する硫化化合物、およびアミン物質を上記の植物抽出物の臭いでマスキングしようとするものであり、植物抽出物の臭い自体を減じようとするものではない。しかし、本願特許は、植物抽出液自体の臭い、色を減じることを目的として、酵母菌の培養培地に植物抽出液を添加してその臭い、色を減じるものである。また、酵母菌は分類上も原核生物である細菌とは異なる真核生物であり、かつ清酒の吟醸講に代表されるように、代謝により硫化化合物、アミン化合のような不快な臭気を出すものではないことは明らかであり、本願特許とは全く異なるものである。
【0011】
上記に記載したように培地に各種植物抽出物を添加し、各種微生物を用いて培養した組成物が記載されている。しかしながら、地楡および/又は丁子の抽出液を完全合成培地に添加し、Saccharomyces cerevisiae 酵母菌で培養し、培養後の菌体抽出液を利用した抗酸化剤の記載はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−100175号公報
【特許文献2】特開2004−141163号公報
【特許文献3】特開2004−73050号公報
【特許文献4】特開2002−335881号公報
【特許文献5】特開2004−43505号公報
【特許文献6】特開2000−87号公報
【特許文献7】特開平5−336953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述の技術文献のように、各種培地にて微生物を培養した培養組成物を得ているが、いずれも満足いく効果ではなかった。そこで、本願においては、これまでにない高い抗酸化効果を有する培養組成物を開発し、化粧料に応用することを課題とする。
【0014】
さらに、本発明において培地に添加する植物抽出液は、その植物抽出液単独でもこれまで多くの化粧料に利用されてきた。しかし、いずれも抽出物の色、臭いが強く、脱色、脱臭などの精製を行う必要があり、その際に抗酸化効果も減少することが多く、充分な効果を発揮する化粧料を開発することが困難であった。そこで、本願においては、植物抽出液を酵母菌で発酵させ、その酵母菌体抽出液を利用することで、植物抽出物の色や臭いが無く、かつ高い抗酸化効果を有する化粧料を開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
完全合成培地に、地楡抽出液及び/又は丁子抽出液を加え、Saccharomyces cerevisiae 酵母で培養し、培養終了後、菌体と培養液とに分離し、本培養菌体抽出液を効果成分として用いる。
【発明の効果】
【0016】
本発明による地楡、丁子の抽出物を添加した培地でSaccharomyces cerevisiae 酵母を培養した培養後の菌体抽出液は、高い抗酸化性物質を含有し、紫外線による細胞の損傷を抑制する作用がある。酵母を用いて植物抽出液を発酵することにより、臭いが少なくかつ、高い抗酸化性物質を含有する酵母菌体抽出液が得られる。さらに、一般的に酵母の培養培地に用いられるペプトン、酵母エキス、および麦芽エキスなどの天然物を配合しない完全合成培地で培養することにより、臭いの無い酵母菌体抽出液を得ることができる。
【0017】
ところで、紫外線は皮膚内で活性酸素を生成し、表皮細胞にアポトーシスを起こさせると共に、種々のサイトカインを産生しメラニン産生を促進させる。紫外線照射により表皮細胞は傷害され細胞数の減少を招くと共に、表皮の角化が抑制され表皮バリアーの形成が不十分となる。このため、皮膚の水分保持がすくなくなり、かさかさした肌になると共に炎症も起こり易い肌となる。また、真皮の線維芽細胞は、紫外線照射によりコラーゲン・ヒアルロン酸の産生が抑制され、肌のハリ・弾力が低下する。
【0018】
従って、かかるSaccharomyces cerevisiae 酵母菌体抽出液を配合してなる本発明の化粧料は、それら両作用の複合に基づく相乗的効果により、紫外線によるシワ・シミ・タルミなどの皮膚の老化や不健全化の症状の予防或いは改善に多面的かつすぐれた効果を発揮して、皮膚を真に健全で若々しい状態に維持し、改善する効果を有する。又、本発明化粧料で活性成分として用いるSaccharomyces cerevisiae 酵母菌体抽出液は、皮膚に対する刺激性が全くなく、このため本発明の化粧料は生体安全性にも大変すぐれたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で用いるSaccharomyces cerevisiae 酵母は市販されているパン酵母、または分譲されているSaccharomyces cerevisiae
に属する酵母であれば使用できる。また、酵母は糖類が存在する自然界からも容易に分離することができるため、植物や土などから分離した酵母でSaccharomyces cerevisiae に属する酵母であれば使用できる。
【0020】
また、培地に添加する地楡(Sanguisorba officinalis L.)は、バラ科ワレモコウ属の植物で別名ワレモコウ、ノコギリグサとも呼ばれる。多年生草木で、根はタンニンやサポニンを多く含み、天日乾燥すれば収斂薬になり止血や火傷、湿疹の治療に用いられてきた。主にその根を乾燥して利用する。
【0021】
丁子(Syzygium aromaticum)は、フトモモ科フトモモ属の常緑高木で開花前の花蕾を乾燥させたもので、丁香、クローブとも呼ばれ、古くから利用されてきた。胡椒と並ぶ代表的なスパイスで、匂い香・焼香・線香などに広く使われる他、防腐剤・健胃剤としての薬効も高い植物である。
【0022】
本発明に用いる地楡および丁子抽出液の調製法は特に限定されないが、例えば種々の適当な有機溶媒を用いて低温下から加温下で抽出することができる。抽出溶媒としては、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール等の低級1価アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、1、3−ブチレングリコール等の液状多価アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;酢酸エチルなどのアルキルエステル;ベンゼン、ヘキサン等の炭化水素;ジエチルエーテル等のエーテル類;ジクロルメタン、クロロホルム等のハロゲン化アルカン等の1種または2 種以上を用いることが出来る。そのうち、水、エチルアルコール、1、3−ブチレングリコールの1種または2種以上の混合溶媒が特に好適に示される。
【0023】
また抽出方法は地楡或いは丁子をそのまま、あるいは粉砕したものを質量比で2〜1000倍量、特に5〜100倍量の溶媒を用いることが出来る。常温抽出の場合には、0℃以上、特に20℃〜40℃で1時間以上、特に3〜7日間行うのが好適である。また、60〜100℃で0.5〜24時間、加熱抽出しても良い。
【0024】
以上のような条件で得られる地楡、丁子抽出液は、ろ過等の処理をして溶液のまま用いても良いが、更に必要により、濃縮、粉末化したものを適宜使い分けて用いることが出来る。
【0025】
酵母菌は一般的にグルコースに代表される炭素源と、ペプトンに代表されるペプチド類からなる窒素源、酵母エキスに代表される微量ビタミン類、ミネラル類などの栄養素を含有する物質が含まれていれば培養が可能である。一般的には天然物からなるYM(Yeast-Malt)培地、YPD(Yeast-Polypeptone-Dextrose)培地などが用いられている。しかしながら、酵母菌はこれら天然物を配合した培地で培養すると、不快な臭いを有する培養物になることが知られている。
【0026】
そこで、本特許においては天然物を配合しない合成培地を基本培地としている。
培地組成としては、最低限の炭素源と窒素源とリン源を含んでいれば良く、炭素源としては、リボース、アラビノース、キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、ラムノース、等の単糖類、シュクロース、マルトース、ラクトース、トレハロース、セロビオース、等の二糖類、またラフィノース、マルトトリオース等の三糖類を用いることができる。これらから1種以上含有していれば良い。
窒素源としては、尿素、硝酸塩として硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カルシウム、アンモニウム塩として硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、また、アミノ酸として、トリプトファン、
リシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、ヒスチジン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、セリン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、プロリン、チロシン等の窒素含有化合物を用いることができ、これらから1種以上含有していれば良い。
リン源としては、リン酸塩を用いることが出来、リン酸1水素カリウム、リン酸2水素カリウム、リン酸アンモニウムを用いることができ、これらから1種以上含有していれば良い。
【0027】
合成培地の基本培地としては、前記炭素源と窒素源とリン源を含んでいれば十分であるが、その他にビタミン源、ミネラル源を追加することも可能である。
ビタミン源としては、例えばビオチン、チアミン(ビタミンB1)、リボフラビン、ピリドキシン(ビタミンB6)、パントテン酸、アスコルビン酸、ヨウ酸、シアノコバラミン、イノシトール、ニコチン酸、コリン、カルニチン、パラアミノ安息香酸、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド等を用いることができる。
ミネラル源としては、カリウム、カルシウム、マグネシウム、イオウ、鉄、マンガン、亜鉛、ホウ素、銅、モリブデン、ナトリウム、ヨウ素、コバルト等が挙げられ、これらを供給できる具体的な成分としては、例えば、硝酸カルシウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、ホウ酸、硫酸銅、モリブデン酸ナトリウム、三酸化モリブデン、ヨウ化カリウム、塩化コバルト等の化合物を用いることができる。
【0028】
本発明においては、上記成分を適宜組み合わせて基本培地とする。
勿論、天然成分を含まない合成培地であるCzapek培地、Burkholder培地、YNB(Yeast Nitrogen Base)培地を基本培地とすることも出来る。
【0029】
前記以外の培地組成であっても、酵母菌が資化・増殖できる物質であれば、本発明に適用されるのは勿論である。さらに、培地には水或いは水と低級アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノールなど)もしくはグリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリンなど)との混液等を添加して基本培地としても良い。
【0030】
本発明に用いられる培地は、前記基本培地に、地楡抽出液及び/又は丁子抽出液を加えたものを培地として利用する。
【0031】
前記の培地は、これを培養工程に供する前に、殺菌を行って培養の障害となる雑菌を除去する。この場合殺菌除去方法としては、培地の組成物を予め殺菌した上、無菌水等の無菌媒体に懸濁する方法を用いてもよく、又培地の組成物を媒体に懸濁した後、懸濁液を加熱殺菌する方法を用いるようにしてもよい。加熱殺菌法としては、懸濁液を120〜130℃で10〜20分間加熱するオートクレーブ殺菌法や、懸濁液を80〜90℃に60〜120分間保持することを1日1回2〜3日間繰り返す間断殺菌法が一般に用いられる。
【0032】
次に、この無菌化した培地を培養タンクに入れ、これにSaccharomyces cerevisiae 酵母を植菌して培養を行う。Saccharomyces cerevisiae 酵母の接種量は10〜10個/mLが適量である。接種量が上記の範囲より多くなっても培養の進行時間は殆ど変わらず、一方上記の範囲より少なくなると培養完了までに長時間を要することとなって好ましくない。
【0033】
培養温度は一般に5〜50℃の範囲、好ましくはSaccharomyces cerevisiae 酵母の生育至適温度である20〜35℃の範囲である。培養日数は、至適温度に於いて一般に1〜10日、好ましくは2〜5日の範囲である。培養日数が上記の一般的範囲より短くなると培養が十分に行われず培養物の有効性が低下する傾向にあり、一方10日を越えて長くしても有効性のそれ以上の上昇は認められないだけでなく、Saccharomyces cerevisiae酵母菌体への色や培養臭の増加が生ずることとなっていずれも好ましくない。
【0034】
以上の培養が終ったならば、Saccharomyces cerevisiae 酵母菌体と培養液を分離させ培養の進行を止める。培養物はろ過、或いは遠心分離などの固液分離手段によって培養液を分取し、酵母菌体と分離する。得られたSaccharomyces cerevisiae 酵母は、菌体中の抗酸化性物質を抽出するために、水と有機溶媒の混液などで抽出する。このとき用いる有機溶媒は特に限定されないが、例えば種々の適当な有機溶媒を用いて低温下から加温下で抽出することができる。抽出溶媒としては、例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール等の低級1価アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、1、3−ブチレングリコール等の液状多価アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;酢酸エチルなどのアルキルエステル;ベンゼン、ヘキサン等の炭化水素;ジエチルエーテル等のエーテル類;ジクロルメタン、クロロホルム等のハロゲン化アルカン等の1種または2 種以上を用いることが出来る。そのうち、水、エチルアルコール、1、3−ブチレングリコールの1種または2種以上の混合溶媒が特に好適に示される。また、酵母菌体の細胞壁を分解させるβ-グルカナーゼなどの酵素を作用させる方法や、酸、アルカリによる加水分解により、菌体内成分を抽出する方法が可能である。
【0035】
本発明のSaccharomyces cerevisiae 酵母の培養後の菌体抽出液を配合してなる化粧料としては、例えば乳液、クリーム、ローション、エッセンス、パック、洗顔料などの基礎化粧料、口紅、ファンデーション、リキッドファンデーション、メイクアッププレスドパウダーなどのメイクアップ化粧料、洗顔料、ボディーシャンプー、石けんなどの清浄用化粧料、さらには浴剤等が挙げられるが、勿論これらに限定されるものではない。
【0036】
本発明の化粧料中に於けるSaccharomyces cerevisiae 酵母の培養後の菌体抽出液の配合量は、菌体抽出液の蒸発残分に換算して、に0.0001〜10質量%、好ましくは0.01〜1質量%の範囲である。
【0037】
本発明の化粧料には、上記の必須成分の他に、通常化粧料に用いられる配合成分、例えば油性成分、界面活性剤、保湿剤、増粘剤、防腐・殺菌剤、粉体成分、紫外線吸収剤、色素、香料等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0038】
ここで、油性成分としては、例えばオリーブ油、ホホバ油、ヒマシ油、大豆油、米油、米胚芽油、ヤシ油、パーム油、カカオ油、メドウフォーム油、シアーバター、ティーツリー油、アボガド油、マカデミアナッツ油、植物由来スクワランなどの植物由来の油脂類;ミンク油、タートル油などの動物由来の油脂類;ミツロウ、カルナウバロウ、ライスワックス、ラノリンなどのロウ類;流動パラフィン、ワセリン、パラフィンワックス、スクワランなどの炭化水素類;ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、イソステアリン酸、cis−11−エイコセン酸などの脂肪酸類;ラウリルアルコール、セタノール、ステアリルアルコールなどの高級アルコール類;ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、2−エチルヘキシルグリセライド、高級脂肪酸オクチルドデシル(ステアリン酸オクチルドデシル等)などの合成エステル類及び合成トリグリセライド類等が挙げられる。
【0039】
界面活性剤としては,例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステルなどの非イオン界面活性剤;脂肪酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレン脂肪酸アミン硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、α−スルホン化脂肪酸アルキルエステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル燐酸塩などのアニオン界面活性剤;第四級アンモニウム塩、第一級〜第三級脂肪酸アミン塩、トリアルキルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、2−アルキル−1−アルキル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリニウム塩、N,N−ジアルキルモルフォルニウム塩、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミド塩などのカチオン界面活性剤;N,N−ジメチル−N−アルキル−N−カルボキシメチルアンモニオベタイン、N,N,N−トリアルキル−N−アルキレンアンモニオカルボキシベタイン、N−アシルアミドプロピル−N′,N′−ジメチル−N′−β−ヒドロキシプロピルアンモニオスルホベタインなどの両性界面活性剤等を使用することができる。
【0040】
保湿剤としては、例えばグリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのグリコール類、マルチトール、ソルビトール、キシリトール、トレハロース、グルコース等の糖類、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、乳酸菌発酵米、ムコ多糖類(例えば、ヒアルロン酸及びその誘導体、コンドロイチン及びその誘導体、ヘパリン及びその誘導体など)、エラスチン及びその誘導体、コラーゲン及びその誘導体、加水分解シルク蛋白質、NMF関連物質、乳酸、尿素、高級脂肪酸オクチルドデシル、フィトステロール、大豆リン脂質、イソステアリン酸コレステリル、海藻抽出物、各種アミノ酸及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0041】
増粘剤としては、例えばアルギン酸、寒天、カラギーナン、フコイダン、ファーセララン等の褐藻、緑藻或いは紅藻由来成分、ビャッキュウ抽出物、ペクチン、ローカストビーンガム、アロエ多糖体等の多糖類、キサンタンガム、トラガントガム、グアーガム等のガム類、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アクリル酸・メタクリル酸共重合体等の合成高分子類;ヒアルロン酸及びその誘導体、ポリグルタミン酸及びその誘導体、グルコシルトレハロースと加水分解水添デンプンを主体とする糖化合物等が挙げられる。
【0042】
防腐・殺菌剤としては、例えばパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチルなどのパラオキシ安息香酸エステル類;フェノキシエタノール、ジクロロフェン、ヘキサクロロフェン、塩酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、サリチル酸、エタノール、ウンデシレン酸、フェノール類、ジャーマル(イミダゾデイニールウレア)、1,2−ペンタンジオール、各種精油類、樹皮乾留物、プロポリスエキス等がある。
【0043】
粉体成分としては、例えばセリサイト、酸化チタン、タルク、カオリン、ベントナイト、酸化亜鉛、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、無水ケイ酸、雲母、6−又は12−ナイロンパウダー、ポリエチレンパウダー、シルクパウダー、セルロース系パウダー等がある。
【0044】
紫外線吸収剤としては、例えばパラアミノ安息香酸エチル、パラジメチルアミノ安息香酸エチルヘキシル、サリチル酸アミル及びその誘導体、パラメトキシ桂皮酸2−エチルヘキシル、桂皮酸オクチル、オキシベンゾン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸塩、4−ターシャリーブチル−4−メトキシベンゾイルメタン、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、ウロカニン酸、ウロカニン酸エチル、アロエ抽出物等がある。
【0045】
抗酸化剤としては、例えばスーパーオキシドディスムターゼ(Superoxide dismutase)、カタラーゼなどの生体内活性酸素分解酵素、ビタミンE、ビタミンDなどのビタミン類及びその誘導体、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、ユビデカキノン(ユビキノン)、ルチン、ルチングルコシド、γ−オリザノール等がある。
【0046】
さらに必要ならば、本発明で用いる発酵物の作用効果及び特長を損なわない範囲で、他の活性成分(美白剤、皮膚老化防止・肌荒れ改善剤、抗炎症剤等)を配合してもよく、かかるものとしては、例えば美白剤であれば、トラネキサム酸及びその誘導体、t−シクロアミノ酸誘導体、コウジ酸及びその誘導体、アスコルビン酸及びその誘導体、ハイドロキノン誘導体、エラグ酸及びその誘導体、レゾルシノール誘導体、胎盤抽出物、システイン、ソウハクヒ抽出物、ユキノシタ抽出物、ハマメリス抽出物、イタドリ抽出物、甘草抽出物、ゲンノショウコ抽出物、ナツメ抽出物、シャクヤク抽出物、トウキ抽出物、モモ抽出物、緑藻類、紅藻類又は褐藻類の海藻の抽出物、リノール酸及びその誘導体もしくは加工物(例えばリノール酸メントールエステルなど)、2,5−ジヒドロキシ安息香酸誘導体等が、皮膚老化防止・肌荒れ改善成分であれば、動物又は魚由来のコラーゲン及びその誘導体、エラスチン及びその誘導体、セラミドなどの細胞間脂質、胎盤抽出物、ニコチン酸及びその誘導体、グリチルリチン酸及びその誘導体(ジカリウム塩等)、t−シクロアミノ酸誘導体、ビタミンA前駆体、ビタミンA及びその誘導体、ビタミンE及びその誘導体、アラントイン、α−ヒドロキシ酸類、ジイソプロピルアミンジクロロアセテート、γ−アミノ−β−ヒドロキシ酪酸、コエンザイムQ−10、アデノシン、α−リポ酸、ピコリン、カルニチン及びその誘導体、ゲンチアナエキス、甘草エキス、ハトムギエキス、カミツレエキス、ニンジンエキス、アロエエキスなどの生薬抽出エキス、米発酵エキス、緑藻類、紅藻類又は褐藻類の海藻の抽出物、ソウハクヒエキス、ブナ抽出物、キダチアロエ抽出物、マンネンロウ抽出物、イチョウ抽出物、スギナ抽出物、ベニバナ抽出物、オタネニンジン抽出物、セイヨウニワトコ抽出物、ハゴロモグサ抽出物、レンゲ抽出物、マンゴー抽出物、卵殻膜抽出タンパク質、デオキシリボ核酸カリウム塩、紫蘭根抽出物、ムラサキシキブ抽出物、イネ抽出物等が、又抗炎症成分であれば、例えばグアイアズレンスルホン酸ナトリウム、グアイアズレンスルホン酸エチルなどのアズレン誘導体、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルレチン酸ステアリルなどのグリチルリチン酸誘導体、アラントイン、カンゾウ抽出物、クジン抽出物、シャクヤク抽出物、ボタンピ抽出物、レンギョウ抽出物、リュウタン抽出物、トウキンセンカ抽出物、パセリ抽出物、オトギリソウ抽出物等が挙げられる。
【0047】
以下、本発明における酵母菌体抽出液の効果試験の実施例を示す。さらに、その酵母菌体抽出液を用いた皮膚組成物への応用処方例等について述べるが、ここに記載された実施例に限定されるものではない。なお、以下に於いて、部はすべて質量部を、又%はすべて質量%を意味する。
【実施例1】
【0048】
Saccharomyces cerevisiae 酵母の採取方法
市販されているパン酵母(日清スパーカメリア・ドライイースト:日清フーズ(株))を購入し、120℃で15分間滅菌したYM培地100mlを添加した三角フラスコに0.1g懸濁し、28℃、150rpmで3日間回転培養を行った。懸濁液を1白金耳取り、YM寒天培地上で引き伸ばして単独コロニーを得、これを以下の実験に使用した。
以下、培地組成においてg/L等とあるのは、各成分を該当g計量し、精製水で1Lにしたという意味である。
<YM培地>
ペプトン5g/L、酵母エキス3g/L、麦芽エキス3g/L、グルコース10g/L
<YM寒天培地>
YM培地に寒天20g/Lを添加し、加熱溶解して作成。
【実施例2】
【0049】
地楡、丁子抽出液の調製
地楡抽出液は、漢方薬として市販されている地楡乾燥物を購入し、粉砕機で粉砕した。粉砕物10gに精製水90gを加え、80℃で2時間加熱抽出した。抽出液は遠心分離器で上澄み液を取り、地楡抽出液とした。丁子抽出液は香辛料として市販されているクローブ粉末を購入し、以下地楡抽出液と同じ処理を行い、丁子抽出液を得た。
なお、得られた抽出液の濃度は、地楡抽出液は、蒸発残分に換算して2.0W/V%、丁子抽出液は、蒸発残分に換算して6.5W/V%であった。
【実施例3】
【0050】
酵母の培養と培地の調製
培地はYNB(Yeast Nitrogen Base) with Ammonium Sulfate 合成培地にグルコースを2.0%添加した(以下、本明細書中では、YNB-SG培地と称す)。
培地50mlに〔実施例2〕で調製した地楡及び/又は丁子抽出液を加え(配合量は表中に記載)、120℃、15分間オートクレーブで滅菌処理を行った。培地を冷却後、1白金耳の酵母菌を植え付け、28℃、150rpm、で4日間培養を行った。培養後、3,000rpm、5分間の遠心分離により、菌体と培養液を分離した。分離した菌体に50%エタノール水溶液3mlを加え、室温で1昼夜放置した。その後3000rpmで5分間遠心分離を行い、上清を取り菌体抽出液とした。
<YNB-SG培地組成>
硫酸アンモニウム5,000、リン酸二水素カリウム1,000、硫酸マグネシウム500、塩化ナトリウム100、塩化カルシウム100、ビオチン0.002、パントテン酸カルシウム0.4、葉酸0.002、イノシトール2.0、ナイアシン0.4、パラアミノ安息香酸0.2、塩酸ピリドキシン0.4、リボフラビン0.2、塩酸チアミン0.4、ホウ酸0.5、硫酸銅0.04、ヨウ化カリウム0.1、塩化第二鉄0.2、硫酸マンガン0.4、モリブデン酸ナトリウム0.2、硫酸亜鉛0.4、グルコース20,000(単位は全てmg/L)。
【0051】
YM培地50mlに〔実施例2〕で調製した地楡及び/又は丁子抽出液(配合量は表中に記載:%は抽出液として添加した濃度である。)を加え、120℃、15分間オートクレーブで滅菌処理を行った。培地を冷却後、1白金耳の酵母菌を植え付け、28℃、150rpm、で4日間培養を行った。培養後、3,000rpm、5分間の遠心分離により、菌体と培養液を分離した。分離した菌体に50%エタノール水溶液3mlを加え、室温で1昼夜放置した。その後3000rpmで5分間遠心分離を行い、上清を取り菌体抽出液とした。
【実施例4】
【0052】
(処方例3)の化粧水の処方で、地楡抽出液を添加して培養した酵母菌体抽出液の代わりに〔実施例2〕で示した地楡抽出液、および丁子抽出液を用いて作成した化粧水(比較品1、2)、及び天然成分を含有するYM培地に、〔実施例3〕で示した地楡抽出液、丁子抽出液を添加して培養した酵母の菌体抽出液を用いた化粧水(比較品3〜5)、合成培地(天然成分を含有しない培地)であるYNB-SG培地に、〔実施例3〕で示した地楡抽出液、丁子抽出液を添加して培養した酵母の菌体抽出液を用いた化粧水(試験品1〜3)を作成し、10名の臭い判定専門の官能パネラーを用いて臭いの官能評価を行った。なお、比較品1〜3における地楡抽出液、丁子抽出液の化粧水中の濃度、および比較品4〜5、試験品1〜3における酵母菌体抽出液の化粧水中の濃度は蒸発残留物として0.1%になるように調製して化粧水を作成した。
【0053】
【表1】

【0054】
結果を〔表1〕に示した。地楡、丁子抽出液を配合した化粧水(比較品1、2)では、臭いが強く、大変気になると答えたパネラーが8名および9名という結果であった。一方、天然物を含むYM培地に地楡及び/又は丁子抽出液を添加して培養した酵母菌体抽出液を配合した化粧水(比較品3〜5)では、大変気になるがそれぞれ4名、6名、及び2種混合培養物でも6名となり、いずれも臭いが気になることがわかる。しかし、合成培地であるYNB-SG培地に地楡、丁子抽出液を添加して培養した酵母の菌体抽出液を配合した化粧水(試験品1〜3)では、臭いが気にならないと答えたパネラーがそれぞれ6名、4名、および5名となり、地楡抽出液及び/又は丁子抽出液含有合成培地で酵母を培養することにより、地楡抽出液、丁子抽出液、及び酵母特有の臭いが大幅に低減されたことが分かる。
尚、比較品1〜5、試験品1〜3の色は、化粧品に添加する前の状態で、比較品1、2は、生薬特有の濃い茶色を示し、酵母で培養した比較品3〜5及び試験品1〜3については、透明淡黄色であった。
【0055】
以上の結果から、地楡及び/又は丁子抽出液における生薬特有の色は、酵母で培養することにより低減するものの、天然物を含む培地で培養した際には、依然臭いを低減することは出来ていないことが分かる。
それに対し、本願発明である、天然物を含まない合成培地に地楡及び/又は丁子抽出液を添加する形で培養した場合においては、生薬特有の色も臭いも大幅に低減することが出来、汎用性が広がったと言える。
【実施例5】
【0056】
DPPH試験
<DPPH溶液の調製>
DPPH溶液は、以下に示す各成分を、(A):(B):(C)=1:4:3容量の割合で混合し調製する。
(A)ES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)5.52gを水100mlに溶かし、1N−NaOHでPH6.1に調製する。
(B)DPPH(1,1−ジフェニルー2−ピクリルヒドラジル)15.7mgをエタノール100mlに溶解する。
(C)精製水
<Trolox溶液の調製>
Trolox25mgをDMSO(ジメチルスルホキシド)10mlに溶解し、10mM溶液を作成した。
<DPPH試験>
測定は試験溶液10μlを96wellplateの1well中に加え、次いでDPPH溶液190μlを迅速に加え混合する。10分後、各wellの吸光度を540nmで測定する。試験溶液のTrolox当量は、0.1mM、0.3mM、0.5mM、1.0mM、3.0mM、5.0mM、10mMのTrolox溶液10μlをとり、DPPH溶液190μlを加え混合し、10分後の540nmの吸光度を測定し、Trolox濃度と540nmの吸光度値の検量線を作成する。試験溶液の540nmの吸光度値から、検量線によりTrolox当量を算出した。標準物質として使用するTroloxは、トコフェロールと類似した構造を有する物質である。Troloxを1とした場合、α-トコフェロール、γ-トコフェロール、δ-トコフェロールは、それぞれ0.50、0.74、1.36を示すといわれているので、Trolox当量が0.5以上であれば、十分な抗酸化効果であると言える。
【0057】
【表2】

【0058】
[表2]には、[実施例2]で調製した地楡抽出液を[実施例3]で示したYNB-SG培地に添加して培養した場合(培養前培地及び培養後の菌体抽出液)のDPPH消去活性をTrolox当量(mM)で示した。尚、各酵母菌体抽出液の濃度は、蒸発残分に換算して約0.35W/V%であった。
地楡抽出液添加濃度0%において、培養前培地のTrolox当量が0mMであることから、YNB-SG培地そのものには、DPPH消去活性がないことが分かる。つまり、地楡抽出液が実質的に添加されている培養前培地のTrolox当量は、各添加濃度の地楡抽出液そのもののTrolox当量を示していると言える。
酵母培養後の菌体抽出液のTrolox当量は、地楡抽出液の添加濃度に依存して高くなっている。尚、表には示していないが、地楡抽出液を更に添加した場合においても、濃度依存性が確認された。
培養前培地及び培養後の菌体抽出液のTrolox当量が、近似した数値になっていることから、地楡抽出液を酵母で培養しても、地楡抽出液そのものの抗酸化効果は低減していないことが分かる。
尚、地楡抽出液の各添加濃度において、当初の抽出液に存在した特有の臭い、色は、培養後には大幅に低減されており、地楡抽出液の当初の抗酸化効果は維持したままで、臭い、色を大幅に低減することが出来ることが確認出来た。
【0059】
【表3】

【0060】
[表3]には、[実施例2]で調製した丁子抽出液を[実施例3]で示したYNB-SG培地に添加して培養した場合(培養前培地及び培養後の菌体抽出液)のDPPH消去活性をTrolox当量(mM)で示した。尚、各酵母菌体抽出液の濃度は、蒸発残分に換算して約0.35W/V%であった。 丁子抽出液添加濃度0%において、培養前培地のTrolox当量が0mMであることから、YNB-SG培地そのものには、DPPH消去活性がないことが分かる。つまり、丁子抽出液が実質的に添加されている培養前培地のTrolox当量は、各添加濃度の丁子抽出液そのもののTrolox当量を示していると言える。
酵母培養後の菌体抽出液のTrolox当量は、丁子抽出液の添加濃度に依存して高くなっている。尚、表には示していないが、丁子抽出液を更に添加した場合においても、濃度依存性が確認された。
培養前培地及び培養後の菌体抽出液のTrolox当量が、近似した数値になっていることから、丁子抽出液を酵母で培養しても、丁子抽出液そのものの抗酸化効果は低減していないことが分かる。
尚、丁子抽出液の各添加濃度において、当初の抽出液に存在した特有の臭い、色は、培養後には大幅に低減されており、丁子抽出液の当初の抗酸化効果は維持したままで、臭い、色を大幅に低減することが出来ることが確認出来た。
【0061】
【表4】

【0062】
[表4]には、[実施例2]で調製した地楡抽出液及び丁子抽出液を[実施例3]で示したYNB-SG培地に添加して培養した場合(培養前培地及び培養後の菌体抽出液)のDPPH消去活性をTrolox当量(mM)で示した。尚、各酵母菌体抽出液の濃度は、蒸発残分に換算して約0.35W/V%であった。 地楡抽出液及び丁子抽出液を併用した場合においても、各抽出液を単独で添加した場合同様の傾向が見られた。つまり、地楡抽出液及び丁子抽出液を酵母で培養しても、地楡抽出液及び丁子抽出液そのものの抗酸化効果は低減せず、地楡抽出液及び丁子抽出液の各添加濃度において、当初の抽出液に存在した特有の臭い、色は、培養後には大幅に低減されており、地楡抽出液及び丁子抽出液の当初の抗酸化効果は維持したままで、臭い、色を大幅に低減することが出来ることが確認出来た。
【0063】
次に、[表5]に示した酵母菌の生育に必要な最小限の栄養源からなる合成培地(詳細は表に記載;各成分の単位はg/100ml)を100mlの三角フラスコに50ml作成し、本願発明の地楡抽出液を培地に3%添加して(表中は蒸発残分に換算した濃度W/V%)滅菌した後、酵母菌を植菌し1週間、24℃にて150rpmで回転培養を行い、菌体の生育度、Trolox当量、臭いを確認した。比較例としてYNB-SG培地で培養したものについても同様の項目を確認した。
菌体抽出液は得られた菌体に、50%エタノール水溶液を3ml添加し、5℃、24時間放置撹拌後、5,000rpmにて遠心分離した上清を菌体抽出液とした。
<菌体の生育度>
培養して得られた、培養液を3,000rpmで10分間遠心分離を行い、培養上清を除去し、増殖した酵母菌体を回収し、回収した菌体湿重量を測定した。
<Trolox当量>
前述の[実施例5]と同様の方法で行った。
<臭いの確認>
各培地において培養後に、上記方法で得られた菌体抽出液を作成して臭いを確認した。
(判定基準)
◎:臭いなし。
○:やや臭いはあるが、気にならない。
×:臭いあり。
<色の確認>
各培地において培養後に、得られた前記菌体抽出液の色を下記の判定基準に従って評価した。
(判定基準)
◎:色なし。
○:やや色はあるが、気にならない。
×:色あり。
【0064】
【表5】

【0065】
[表5]中、上段は地楡抽出液を添加した培地におけるTrolox量、臭い、色について評価した。下段は、地楡抽出液を添加していない培地のTrolox量を参考に示した。下段は地楡抽出液を培地中に添加していないので、臭いはなく、色も無色であった。
表5の結果より、(A)炭素源、(B)窒素源、(C)リン源からなる合成培地に地楡抽出液を添加した培地で培養した場合であっても、高い抗酸化効果を維持し、臭いも色も気にならない抗酸化剤が得ることが出来た。
尚、(A)炭素源を含まない場合は、極端に菌が生育しなかった為、表に示さず。
【0066】
次に、本発明の培養処理液を配合した処方例を示すが、本発明はこれに限定されるものでない。
【0067】
化粧料の処方例
以下の化粧料の処方例で示す酵母菌体抽出液は、YNB-SG培地で、地楡及び/又は丁字抽出液を0.2%添加して培養した酵母菌体抽出液を示す。なお、下記に示した酵母菌体抽出液の配合料は、抽出液としての量である。カッコ内に蒸発残分としての量を併記した。
(処方例1)化粧用クリーム(質量%)
a)ミツロウ・・・2.0
b)ステアリルアルコール・・・5.0
c)ステアリン酸・・・8.0
d)スクワラン・・・10.0
e)自己乳化型グリセリルモノステアレート・・・3.0
f)ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.O.)・・・1.0
g)地楡抽出液を添加して培養した酵母菌体抽出液・・・10.0(0.035)
h)1,3−ブチレングリコール・・・5.0
i)水酸化カリウム・・・0.3
j)防腐剤・酸化防止剤・・・適量
k)精製水・・・残部
製法
a)〜f)までを加熱溶解し、80℃に保つ。h)〜k)までを加熱溶解し、80℃に保ち、a)〜f)に加えて乳化し、40℃まで撹拌しながら冷却する。その後、g)を加え、攪拌し均一に溶解する。
【0068】
(処方例2)乳液(質量%)
a)ミツロウ・・・0.5
b)ワセリン・・・2.0
c)スクワラン・・・8.0
d)ソルビタンセスキオレエート・・・0.8
e)ポリオキシエチレンオレイルエーテル(20E.O.)・・・1.2
f)丁子抽出液を添加して培養した酵母菌体抽出液・・・0.1(0.00035)
g)1,3−ブチレングリコール・・・7.0
h)カルボキシビニルポリマー・・・0.2
i)水酸化カリウム・・・0.1
j)精製水・・・残部
k)防腐剤・酸化防止剤・・・適量
l)エタノール・・・7.0
製法
a)〜e)までを加熱溶解し、80℃に保つ。g)〜k)までを加熱溶解し、80℃に保ち、a)〜e)に加えて乳化し、50℃まで撹拌しながら冷却する。50℃でf)、l)を添加し、40℃まで攪拌、冷却する。
【0069】
(処方例3)化粧水(質量%)
a)地楡抽出液を添加して培養した酵母菌体抽出液・・・5.0(0.0175)
b)グリセリン・・・5.0
c)ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(20E.O.)・・・1.0
d)エタノール・・・6.0
e)香料・・・適量
f)防腐剤・酸化防止剤・・・適量
g)精製水・・・残部
製法
a)〜g)までを混合し、均一に溶解する。
【0070】
(処方例4)洗顔料(質量%)
a)ステアリン酸・・・12.0
b)ミリスチン酸・・・14.0
c)ラウリン酸・・・5.0
d)ホホバ油・・・3.0
e)グリセリン・・・10.0
f)ソルビトール・・・15.0
g)1,3−ブチレングリコール・・・10.0
h)POE(20)グリセロールモノステアリン酸・・・2.0
i)水酸化カリウム・・・5.0
j)水・・・残部
k)キレート剤・・・適量
l)香料・・・適量
m)丁子抽出液を添加して培養した酵母菌体抽出液・・・1.0(0.0035)
n)地楡抽出液を添加して培養した酵母菌体抽出液・・・1.0(0.0035)
製法
a)〜h)までを加熱溶解し70℃に保つ。j)にi)を溶解後a)〜h)に加えケン化する。その後k)、l)を入れ攪拌しながら冷却する。50℃でm)、n)を添加し、40℃まで攪拌、冷却する。
【0071】
(処方例5)化粧水(質量%)
a)地楡抽出液を添加して培養した酵母菌体抽出液・・・10.0(0.035)
b)丁子抽出液を添加して培養した酵母菌体抽出液・・・5.0(0.0175)
c)グリセリン・・・5.0
d)ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(20E.O.)・・・1.0
e)エタノール・・・6.0
f)香料・・・適量
g)防腐剤・酸化防止剤・・・適量
h)精製水・・・残部
製法
a)〜h)までを混合し、均一に溶解する。
【0072】
(処方例6)化粧水(質量%)
a)地楡抽出液と丁子抽出液を添加して培養した酵母菌体抽出液・・・5.0(0.0175)
b)グリセリン・・・5.0
c)ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(20E.O.)・・・1.0
d)エタノール・・・6.0
e)香料・・・適量
f)防腐剤・酸化防止剤・・・適量
g)精製水・・・残部
製法
a)〜g)までを混合し、均一に溶解する。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上詳述したごとく、本発明によれば、色及び臭いが大幅に低減された、高い抗酸化剤を得る事が可能になる。本抗酸化剤を添加した抗酸化化粧料は、紫外線や、外的環境から受ける肌の炎症などにより生じる光老化によるシワの改善に幅広く適用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然成分を含まず、炭素源及び窒素源及びリン源を含む基本培地に、地楡及び/又は丁子抽出液を配合した培地で培養したSaccharomyces cerevisiae の菌体抽出液からなる抗酸化剤。
【請求項2】
次の(A)、(B)、(C)からなる基本培地であることを特徴とする請求項1記載の抗酸化剤。
(A)炭素源として、単糖類、二糖類、三糖類から選択される1種以上
(B)窒素源として、硝酸塩、アンモニウム塩、尿素、アミノ酸から選択される1種以上
(C)リン源として、リン酸塩から選択される1種以上
【請求項3】
次の(A)、(B)、(C)からなる基本培地であることを特徴とする請求項1から請求項2いずれか記載の抗酸化剤。
(A)炭素源として、リボース、アラビノース、キシロース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、ラムノース、シュクロース、マルトース、ラクトース、トレハロース、セロビオース、ラフィノース、マルトトリオースから選択される1種以上
(B)窒素源として、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カルシウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、トリプトファン、
リシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、ヒスチジン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、セリン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、プロリン、チロシンから選択される1種以上
(C)リン源として、リン酸1水素カリウム、リン酸2水素カリウム、リン酸アンモニウムから選択される1種以上
【請求項4】
基本培地に加えて配合する抽出液が、地楡抽出液の蒸発残留物で0.05質量%以上、丁子抽出液が蒸発残留物で0.05質量%以上であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の抗酸化剤。
【請求項5】
請求項1〜請求項4記載いずれかの抗酸化剤を配合したことを特徴とする抗酸化化粧料。



【公開番号】特開2012−214393(P2012−214393A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79711(P2011−79711)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(591230619)株式会社ナリス化粧品 (200)
【Fターム(参考)】