説明

抗酸化機能賦活剤

【課題】抗酸化機能賦活剤、および該賦活剤を配合した経口組成物の提供。
【解決手段】ブロッコリの乳酸菌発酵物からなる抗酸化機能賦活剤、および該賦活剤を配合した、歯周病、動脈硬化症、網膜症の予防または症状改善に有用な経口組成物。該乳酸菌としては、ビフィドバクテリウム属またはラクトバチルス属であることが好ましい。該ブロッコリの乳酸菌発酵に供する部位としては、花蕾、茎、葉であり、その中でも特に花蕾、茎が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸化機能賦活剤およびそれを配合した酸化ストレスに関連する諸疾病の予防・改善剤に関する。より詳細には、ブロッコリー乳酸菌醗酵処理物により生体の抗酸化機能を賦活し、血漿抗酸化力を増強させる抗酸化機能賦活剤およびそれを配合した酸化ストレスと関連する動脈硬化症、腎不全症、糖尿病性網膜症、歯周病などの疾病の予防・改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内における「酸化ストレス」とは生体内で生成するフリーラジカルや活性酸素などの酸化物質の発生、抗酸化反応のバランスが崩れることで酸化側に傾き、生体にとって好ましくない状態になっていることを指す。この酸化ストレスは、主として、多様な活性酸素種の存在によって引き起こされるといわれており、細胞や生体組織だけでなく、生体維持のための生体システムの均衡に対して悪影響を及ぼすと考えられている。具体的には、「酸化ストレス」により、脂質の過酸化や蛋白質変性、DNAなどの損傷や酵素の失活化などが生じ、老化現象だけでなく、循環器疾患(動脈硬化症、高血圧、虚血性心疾患など)、腎障害(腎不全など)、歯周病、糖尿病性網膜症など広範な疾病病態の進行と関連があることが指摘されている。特に、糖尿病患者や耐糖機能に障害を有する人では酸化ストレスが顕著に亢進されているため、糖尿病合併症とされる動脈硬化症や糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害、糖尿病性歯周病などの病態を進行させていると考えられていることから、通常の人以上に酸化ストレスを抑制する必要性がある。したがって、この「酸化ストレス」の緩和や解消は、健康維持のみならず諸疾病の予防・改善において非常に重要な要因の一つであることから、その効果的な手段の実現が強く望まれている。
【0003】
この要望に対して、一般的には、抗酸化力を有する物質を使用することにより「酸化ストレス」の緩和や解消する試みがなされている。具体的には、抗酸化ビタミンであるビタミンEとビタミンCを単独もしくは併用する方法、グランスリンDなどの特定のポリフェノールを使用する方法(特許文献1)、イソクウェルシトリンなどの特定のフラボノイドを使用する方法(特許文献2)、還元型補酵素Qを使用する方法(特許文献3)、特定の抗酸化性ペプチドを使用する方法(特許文献4)、α、β−不飽和結合を有するアルデヒド化合物を使用する方法(特許文献5)、酒粕のアルコール類に可溶でかつ水に不溶な成分を使用する方法(特許文献6)などが挙げられる。
【0004】
抗酸化性物質を使用する以外の方法としては、特定の植物抽出物により、酸化ストレスを惹起する細菌の生体組織への付着を抑制し、組織障害作用を抑制する方法(特許文献7)、活性酸素消去成分などを酸化ストレス解除成分として使用する方法(特許文献8)、活性酸素の産生を抑制する方法(特許文献9)などが挙げられる。
【0005】
しかし、何れの方法も効果が十分でなかったり、長期間継続して使用するには安全性上の問題を生じる恐れがあったり、十分な効果を得るには多量の摂取等を必要とし現実的でないなどの課題点があった。特に、現在、一般に広く使用されている抗酸化ビタミンであるビタミンCやビタミンEの場合、ハプトグロビン遺伝子の1型ホモタイプの人には効果があるが、同2型ホモタイプや1型と2型のヘテロタイプの人には効果が無い可能性が最近指摘されている。また、2型ホモタイプでかつ糖尿病を罹患している人においては、前記の抗酸化ビタミンの摂取により、逆に動脈硬化症の進行を促進させるとの報告もなされている。したがって、全ての人に対して十分な効果が見込め、安全性上の懸念も無い技術の提案が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−52184号公報
【特許文献2】特開2006−143658号公報
【特許文献3】特開2007−204454号公報
【特許文献4】特開2007−217358号公報
【特許文献5】特開2009−108009号公報
【特許文献6】特開2010−285357号公報
【特許文献7】特開2003−176225号公報
【特許文献8】特開2009−73775号公報
【特許文献9】特開2011−148790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、抗酸化機能賦活剤およびそれを配合した酸化ストレスに関連する諸疾病の予防・改善剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、かかる事情に鑑み鋭意検討を重ねた結果、驚くべきことにブロッコリーの乳酸菌醗酵処理物に優れた抗酸化機能賦活効果および酸化ストレスに関連する諸疾病に対する予防・改善効果が存在することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、1〜3項の抗酸化機能賦活剤およびそれを配合した経口組成物を提供するものである。
項1.ブロッコリ乳酸菌醗酵物からなる抗酸化機能賦活剤。
項2.乳酸菌がビフィドバクテリウム属またはラクトバチルス属であることを特徴とする項1に記載の抗酸化機能賦活剤。
項3.項1に記載の抗酸化機能賦活剤を配合したことを特徴とする、歯周病、動脈硬化症、網膜症の予防または症状改善用の経口組成物。
項4.項2の乳酸菌が、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ラクトバチルス・プランタラムおよびラクトバチルス・ペントサスから選ばれる一種以上であることを特徴とする項2に記載の抗酸化機能賦活剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の、抗酸化機能賦活剤は、体内の抗酸化機構を正常化もしくは活性化し、血清の抗酸化力を向上させ、血清中の過酸化脂質の発生量を抑制することができる。さらに、前記効果より、酸化ストレスと関連があるとされている動脈硬化症や歯周病などの疾病の予防や改善効果が期待できる。特に、糖尿病患者に対する安全性の懸念がないと考えられることから、糖尿病患者の合併症予防手段として有効である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、ラットに経口摂取させたときの血清中のヘキサノイルジン測定結果を示す。
【図2】図2は、ラットに経口摂取させたときの血清中の総抗酸化能 (Potential Anti Oxidant)測定結果を示す。
【図3】図3は、ラットに経口摂取させたときの歯槽骨の吸収レベルの測定結果を示す。
【図4】図4は、ラットに経口摂取させたときのTRAP陽性破骨細胞数の測定結果を示す。
【図5】図5は、ラットに経口摂取させたときの歯肉部におけるGSH/GSSG比の測定結果を示す。
【図6】図6は、ラットに経口摂取させたときの歯肉部におけるiNOSの遺伝子発現の測定結果を示す。
【図7】図7は、ラットに経口摂取させたときの歯肉部におけるNF−κBの遺伝子発現の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における抗酸化機能賦活剤は、ブロッコリを乳酸菌で醗酵処理することにより得られる。なお、本願明細書において配合比率は、特に断りのない限り配合質量比率を表す。
【0013】
本発明に用いるブロッコリは、地中海原産のアブラナ科アブラナ族の植物であり、ミドリハナヤサイ、メハナヤサイとも呼ばれる緑黄色野菜である。乳酸菌醗酵に供する部位は、花蕾、茎、葉であり、その中でも特に花蕾、茎が好ましい。
【0014】
本発明に用いる乳酸菌は、次に挙げる菌群が例示される。ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・カテヌラタム(Bifidobakuterium catenulatum)、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム(Bifidobacterium pseudolongum)、ビフィドバクテリウム・アニマリス(Bifidobacterium animalis)等に代表されるビフィドバクテリウム属。ペディオコッカス・アシディラクチシ(Pediococcus acidilactici)、ぺディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)等に代表されるペディオコッカス属。エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)等に代表されるエンテロコッカス属。ラクトバチルス属の中では、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ペントサス(Lactobacillus pentosus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・ヘルベチクス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidphilus)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacilus gaseri)、ラクトバチルス・ラクチス(Lactobacillus lactis)等である。この中でもビフィドバクテリウム属およびラクトバチルス属が好ましい。これらの乳酸菌は、単独もしくは複数の乳酸菌を組み合わせて用いることができる。個々の乳酸菌株には、人体にとって好ましい整腸作用や免疫賦活作用に代表される固有の機能性を有しており、複数の乳酸菌を組み合わせると、これらの種々の機能性が本発明の抗酸化機能賦活機能と複合されて発揮されることも期待できる。
【0015】
乳酸菌醗酵処理を行う前のブロッコリの前処理としては、破砕、搾汁、濃縮、乾燥などの処理を施した後に、加熱殺菌を行う。具体的には、ブロッコリの破砕物、搾汁液、搾汁上清液(搾汁のろ過処理、遠心処理などにより得られる液体物)、搾汁濃縮液、水抽出物などを加熱殺菌処理の後に乳酸菌醗酵処理を行う。この中でも破砕物または破砕物と搾汁を混合したものを用いることが好ましい。具体的には、醗酵処理する前のブロッコリは、不溶性固形分が5重量%以上の液状ないしペースト状のものが好ましく、さらには50重量%以上のものがより好ましい。ここで言う不溶性固形分量は、果汁飲料の不溶性固形分分析法、すなわち試料10mlを遠沈管に採取し、ローター半径14.5cmの遠心分離機を用いて、毎分3000回転、10分間遠心分離を行い、上清部と沈殿部を分けて重量測定し、沈殿部分の重量パーセントを測定する事により得られる数値である。流動性が悪く前記遠心分離の条件では分離しにくい場合は、精製水により正確に2倍希釈して均一分散した試料を遠心分離し、沈殿物の重量%を2倍して不溶性固形分量とすることにより測定することも可能である。
【0016】
乳酸菌醗酵の方法としては、常法に従い実施するものであれば特に限定されるものではない。例えば下記の方法によって実施することができる。
【0017】
まず、乳酸菌スターターを調製し、ブロッコリに添加する。この際、乳酸菌スターターの性状、組成、調製法に特に制限はなく、常法にしたがって調製される。乳酸菌スターターとしては、液状、凍結状、粉末状のものが使用できるが、添加前に液状とすることが好ましい。均質な醗酵を行うため、ブロッコリに水を加えることも可能である。但し、この場合、不溶性固形分量が5重量%以上を維持することが必要である。ブロッコリへの乳酸菌スターターの接種量は、ブロッコリに対し、1グラムあたり少なくとも10の6乗以上が好ましく、10の7乗以上がより好ましい。また、乳酸菌スターター中の乳酸菌数は、乳酸菌スターターの量、ブロッコリの量によって適宜設定でき、ブロッコリに接種する乳酸菌数がこの値を満たせば特に制限されないが、液状のスターターの場合、乳酸菌数が、1グラムあたり少なくとも10の8乗以上が好ましく、10の9乗以上がより好ましい。乳酸発酵処理時の温度は、20℃〜45℃、好ましくは25℃〜40℃で行うことができる。乳酸発酵の終点は、乳酸酸度及びpHを測定して決定することができる。すなわち、乳酸菌発酵培地の乳酸酸度が上昇せず、pHも下がらない時点を醗酵の終点とすることが好ましい。終点の前後で醗酵を止めると品質の均一性が確保しやすいというメリットがある。醗酵時間は使用する菌種や醗酵条件によって異なるが、一般的には6時間〜72時間、好ましくは16時間〜36時間である。
【0018】
乳酸菌醗酵に用いるブロッコリには、醗酵処理時において乳酸菌以外の細菌が増殖するのを防止する目的で、適宜少量の食塩に代表されるナトリウム塩、緑茶カテキンに代表される植物抽出物等を添加することができる。これらの添加量は、ナトリウム換算で0.05〜1重量%、緑茶カテキンでは0.01〜0.2重量%である。また、ブロッコリには、乳酸菌の醗酵に必要な糖分の含量が少ないため醗酵効率が悪い場合が生じる。この場合は、醗酵を助けるためにブドウ糖などの糖質を適量添加することができる。糖質の添加量は、ブロッコリに対し0.1〜10重量%である。さらに乳酸菌醗酵過程のpH制御を目的として、pH調整剤の添加も可能である。乳酸醗酵に適したpH調整剤としては、酢酸ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウムが挙げられるが、pH緩衝作用を有するものであればこれらに限定されるものではない。一般的なpH調整剤の添加量は、ブロッコリに対し0.01〜1重量%である。また、保存安定性を確保するために防腐剤などを添加することもできる。
【0019】
乳酸菌醗酵処理したブロッコリはそのままの状態で使用することができるが、保存安定性や取扱い性、使用感などを向上させる理由から、濃縮、乾燥、造粒等を行うことができる。また、水不溶分をろ過して除去することも可能である。
【0020】
本発明の抗酸化機能賦活剤は経口組成物として摂取する。経口組成物としては、特に限定しないが、医薬品、医薬部外品、特定保健用食品、疾病者用食品、栄養機能食品、栄養補助食品として使用することができる。これら経口組成物の剤形も特に限定するものではないが、例えば、ハードカプセル、ソフトカプセル、錠剤、チュアブル錠、粉末剤、顆粒剤、各種形態の飲料、フィルム剤などとして使用することができる。通常、本発明の抗酸化機能賦活剤は、乾燥物換算でこれら経口組成物全量に対して、5〜60質量%、好ましくは10〜50質量%配合する。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。なお、以下特に断りのない限り「%」は「質量%」を示す。
【0022】
ブロッコリの乳酸菌醗酵処理
下記にしたがって、ブロッコリの乳酸菌醗酵処理を行った。
Bifidobacterium longum BB536 (森永乳業社製)をMRS broth 培地(Difco Laboratories社製)を用いて、それぞれ37℃、24時間前培養し、得られた菌液を乳酸菌スターターとして用いた。ブロッコリの花蕾および茎を破砕し、ピューレ状とした後に、前記で調製した乳酸菌スタータを2%(v/v)添加して接種し、24時間、37℃の条件で培養した。培養後得られたブロッコリ乳酸菌醗酵物は凍結乾燥し、粉末化した。得られた粉末を、以下の実験において「ブロッコリ乳酸菌醗酵物」として使用した。
【0023】
ブロッコリ乳酸菌醗酵物のラットへの経口投与試験
8週令の雄性Wistar系ラットを、一群6匹で下記に示した4群において12週間の飼育を行った。餌および水は自由摂取とした。飼育後、血清および歯周組織に関する下記分析を実施した。
1:通常餌群 (対照群)
(MF粉末飼料、オリエンタル酵母工業株式会社)
2:高コレステロール餌群
通常餌に1%(w/w)cholesterolおよび0.5%(w/w)cholic acid を添加
3:ブロッコリ添加餌群
高コレステロール食餌に5%ブロッコリピューレ(凍結乾燥物)を添加
4:ブロッコリ醗酵物添加餌群
高コレステロール食餌に5%ブロッコリ乳酸菌醗酵物を添加
【0024】
血清中のヘキサノイルリジンおよび血清総抗酸化能の測定
前記方法で12週間飼育した後に、さらに24時間の絶食を行った後にラット心臓より採血を行った。得られた血液を室温で1時間放置した後、遠心分離処理(4℃、1,500g、15分)することによって血清を得た。得られた血清におけるヘキサノイルリジンの濃度は、ELISAキット(日研ザイル社日本老化制御研究所製)を用いて測定し、血清総抗酸化能 (Potential Anti Oxidant) は、抗酸化能測定キット 「PAO」(日研ザイル社日本老化制御研究所製)を用いて測定した。なお、測定手順については各キットの添付書を参考に実施した。得られた結果を図1、2に示す。
【0025】
図1に示したとおり、通常餌群に比べ、高コレステロール餌群はヘキサノイルリジン濃度が有意に高くなった。これに対して高コレステロール餌にブロッコリまたはブロッコリ乳酸菌醗酵物を5%添加した群では、高コレステロール餌群に対して有意にヘキサノイルリジンの濃度が低くなり通常餌群に対しても低い値を示した。また、図2に示したとおり、血清総抗酸化能については、通常餌群および高コレステロール餌群に比べ、高コレステロール餌にブロッコリまたはブロッコリ乳酸菌醗酵物を5%添加した群では有意に高い抗酸化能を示した。更に、高コレステロール餌にブロッコリ乳酸菌醗酵物を添加した群は、ブロッコリを添加した群に対しても有意に高い抗酸化能を示した。ヘキサノイルリジンは、脂質の過酸化の初期段階を把握するための酸化ストレスバイオマーカーであり、疾病との関連性ではヒト動脈硬化病変部位に局在することが免疫学的に証明されていることから、動脈硬化症の予防・改善効果が期待できる。
【0026】
歯周組織における歯槽骨レベルおよび破骨細胞数の測定
前記の方法に従い12週間飼育した後、ラットを麻酔によって安楽死させた。直ちに、上顎骨の左側を切除し、4%パラホルムアルデヒドを含む0.1 mol/L リン酸緩衝液 (pH 7.4) 中で1日間固定後、さらに、10% EDTA四ナトリウム水溶液 (pH 7.4) に4℃、2週間浸漬することによって脱灰を行った。脱灰後、パラフィン固定した各歯の頬舌部位をヘマトキシリンにて染色した。顕微鏡を用いた組織学的観察は、一人の試験者が盲検によって行った。ヘマトキシリン-エオジン染色によって歯槽骨吸収の程度を評価した。セメント・エナメル接合部 (CEJ; cemento-enamel junction)と歯槽骨頂 (ABC; alveolar bone crest) の直線距離(μm)を測定した。さらに、破骨細胞の同定には、TRAP染色を用いた。歯槽骨表面に出現するTRAP陽性破骨細胞数をカウントし、個/mmとして算出した。得られた結果を、図3および4に示す。
【0027】
歯肉組織におけるGSH/GSSG比の測定
前記方法に従って安楽死させた後に、歯肉部を切除し、GSH/GSSG比を測定した。総グルタチオン (GSH + GSSG) レベルとGSSGレベルは、GSSG/GSH定量キット(同仁化学研究所社製)を用いて測定した。なお、GSSGレベルの測定においては、2−ビニルピロリドンによりGSHをブロックすることによって測定した。測定結果を図5に示す。
【0028】
歯周組織におけるiNOSおよびNF−κBの遺伝子発現の測定
前記方法に従って安楽死させた後に、右歯肉部を切除した。切除した歯肉部は液体窒素下で凍結させた後に粉砕し、総RNAをtotal RNA Mini Kit (Bio-rad社製) を用いて抽出した。得られた総RNAをDNaseI (Invirogen社製)で処理することによってゲノムDNAを除去した。次に、PrimeScript RT Reagent Kit (タカラバイオ社製) を用いた逆転写反応により、総RNA(1.0μg)から一本鎖cDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型にして、iNOSとNF-κBのmRNA発現をリアルタイムPCR (ABI 7500 Fast Real-Time PCR System: Applied Biosystems社製) により測定した。定量的リアルタイムPCRには、Premix Ex Taq (タカラバイオ社製)、および、Assay-on-Demand、 Gene Expression Products Rn00561646_m1 (Nos2)、Rn01413849_g1(Nfkb2)、Rn99999916_s1 (GAPDH) (Applied Biosystems社製) を用いた。全ての定量データは、glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase (GAPDH) の発現レベルで補正した。測定結果を図6および7に示す。
【0029】
図3および4に示したとおり、通常餌群に比べ、高コレステロール餌群はTRAP陽性の破骨細胞数が有意に増加し、歯周組織においても組織学的に有意な歯槽骨吸収を示している。これに対して、ブロッコリ乳酸醗酵物添加餌群では、高コレステロール餌群に対して有意に破骨細胞数が少なく、歯周組織においても組織学的に有意に歯槽骨吸収抑制効果を示している。この事実は、破骨細胞の分化が低濃度の過酸化水素で促進され、TRAP陽性の破骨細胞が誘導され、さらにこの系において過酸化水素の還元剤であるNACを添加すると、破骨細胞の分化は抑制されるという報告と一致する。(科学研究費補助金データベース:研究課題番号16570109)したがって、図3および4に示したとおり、ブロッコリ乳酸菌醗酵物の抗酸化機能賦活効果により、骨減少を伴う歯周病を予防・改善し得ると考えられる。
【0030】
図5に、還元型グルタチオン(GSH)と酸化型グルタチオン(GSSG)の比の測定値を示している。GSHは動物組織内で主要な抗酸化物質であり、グルタチオンペルオキシダーゼの作用の下で、GSHは高い割合で過酸化水素などを除去し、プロセス中にそれ自体がGSSGになる。生体が酸化ストレスにさらされると、GSSG蓄積の結果として、GSH/GSSGの比率は低下する。したがって、GSH/GSSGの比率の測定は哺乳動物における酸化ストレスの状態を評価するために有意な指標とされている。図5に示したとおり、高コレステロール餌群は酸化ストレスが生じやすいため、GSH/GSSG比は通常餌群に対して有意に低下している。これに対してブロッコリ乳酸菌醗酵物添加餌群は低下したGSH/GSSG比を有意に上昇させている。このことから、歯周組織においても、ブロッコリ乳酸菌醗酵物は酸化ストレスを解消し、組織の抗酸化性を維持していることがわかる。
【0031】
図6には、歯周組織における、一酸化窒素を産生する酵素であるiNOSに対するmRNAの量と、細胞の解糖系中の酵素であるGAPDHに対するmRNAの量との比であるiNOS/GAPDH比に関する測定結果を示している。GAPDHは常時継続的に発現しているハウスキーピング蛋白質であるため、一般的にmRNAの発現量の変化を定量する場合においてコントロールとして用いられている。図6に示したとおり、高コレステロール餌群は通常餌群に比べて有意に一酸化窒素を産生する酵素であるiNOS生成のmRNA発現を亢進させているが、ブロッコリ醗酵物はその亢進を有意に低下させていることがわかる。
【0032】
図7には、歯周組織における、酸化ストレスなどの刺激により活性化されることが知られているNF−κBに対するmRNAの量と、細胞の解糖系中の酵素であるGAPDHに対するmRNAの量との比であるNF−κB/GAPDH比に関する測定結果を示している。図7に示したとおり、高コレステロール餌群は通常餌群に比べてNF−κBのmRNA発現を亢進させているが、ブロッコリ醗酵物はその亢進を低下させていることがわかる。
【0033】
図6および7に示した結果より、本発明のブロッコリ乳酸菌醗酵物の抗酸化効果が、生体が有する抗酸化機能を亢進することにより得られるものであると推察できる。抗酸化物質を摂取することで体内の酸化性物質を消去する手段の場合、体内における抗酸化物質の量に抗酸化効果が左右されるため、酸化性物質の消去に必要な相当量の抗酸化物質を摂取し、体内に取り込む必要がある。また、酸化性物質は持続的に体内で発生していると考えられる事から、抗酸化物質の摂取を継続する必要もある。一方、本発明では体内の遺伝子の発現を亢進させることで抗酸化効果を発揮することから、遺伝子の発現亢進に必要な量を体内に取り込めれば十分な効果を得ることができ、また、ある程度の継続的な効果も期待できる点で抗酸化物質による方法に比べ優れていると考えられる。
【0034】
以下、本発明に係る抗酸化機能賦活剤の製造例および同抗酸化機能賦活剤を配合した経口組成物の実施例の処方を挙げるが、本発明は下記の処方に限定されるものではない。なお、特に指定の無いかぎり配合量は質量部を示す。
【0035】
醗酵処理例1
Bifidobacterium longum SH-1株(自社保存株)を前培養用培地1(30%ブロッコリーピューレ、2%グルコース、1%酵母エキス、1%リン酸二カリウム、0.25%酢酸ナトリウム、残りは蒸留水)を用いて、37℃、16時間前培養し、得られた菌液をスターターとして用いた。ブロッコリーピューレを95℃、10分間加熱殺菌、冷却したものに前記で調製したスターターを2%(v/v)添加して接種し、16時間、37℃の条件で培養した。得られた醗酵物のpHは4.0、乳酸酸度は0.9%であった。
【0036】
醗酵処理例2
Lactobacillus pentosus SH-2株(自社保存株)を前培養用培地2(10%グルコース、5%酵母エキス、2%リン酸水素二カリウム、0.5%酢酸ナトリウム、残りは蒸留水)を用いて、30℃、24時間前培養し、得られた菌液をスターターとして用いた。ブロッコリーピューレを同量の蒸留水で2倍に希釈し、95℃、10分間加熱殺菌、冷却したものに前記で調製したスターターを1%(v/v)添加して接種し、48時間、25℃の条件で培養した。得られた発酵物のpHは3.7、乳酸酸度は1.2%であった。
【0037】
醗酵処理例3
Bifidobacterium breve SH-3株(自社保存株)を前述の前培養用培地1を用いて、それぞれ37℃、24時間前培養し、得られた菌液をスターターとして用いた。ブロッコリーピューレを同量の蒸留水で2倍に希釈、5%グルコースを添加したものを110℃、10分間加熱殺菌、冷却したものに前記で調製したスターターを5%(v/v)添加して接種し、24時間、37℃の条件で培養した。得られた発酵物のpHは3.9、乳酸酸度は1.0%であった。
【0038】
醗酵処理例4
Bifidobacterium lomgum SH-1株(自社保存株)およびLactobacillus plantarum SH-4株(自社保存株)を前述の前培養用培地2を用いて、それぞれ30℃、24時間前培養し、得られた菌液をスターターとして用いた。ブロッコリーピューレを110℃、10分間加熱殺菌、冷却したものに、前記で調製した2種類のスターターを1:1で混合したものを5%(v/v)添加して接種し、36時間、30℃の条件で培養した。得られた発酵物のpHは3.8、乳酸酸度は1.1%であった。
【0039】
処方例1 乳酸菌醗酵飲料
成分 配 合 量
醗酵処理例1の醗酵物 50
りんご濃縮混濁果汁 10
ラクチュロースシロップ(純度50%) 1
寒天 1
アスコルビン酸ナトリウム 0.1
スクラロース 0.01
香料 0.15
無水クエン酸 適 量
精製水 残 部
合計 100
(pH 4.9)
【0040】
処方例2 野菜飲料
成分 配 合 量
醗酵処理例2の醗酵物 30
オレンジ搾汁 20
りんご濃縮混濁果汁(1/4) 10
レモン濃縮混濁果汁400GPL 1.8
ラクチュロースシロップ50% 0.5
アスコルビン酸ナトリウム 1
スクラロース 0.01
無水クエン酸 適 量
精製水 残 部
合計 100
(pH 4.2)
【0041】
処方例3 飲料
成分 配 合 量
醗酵処理例3の醗酵物 10
コラーゲン蛋白質加水分解物 5
エリスリトール 5
アスコルビン酸ナトリウム 0.5
スクラロース 0.005
ステビア混合物 0.01
無水クエン酸 適 量
精製水 残 部
合計 100
(pH4.0)
【0042】
処方例4 飲料
成分 配 合 量
醗酵処理例4の醗酵物 10
マルチトール 5
コラーゲン蛋白質加水分解物 1
リンゴ濃縮果汁(1/5) 1
グルコサミン 0.7
アスコルビン酸ナトリウム 0.1
ステビアエキス 0.1
無水クエン酸 適 量
精製水 残 部
合計 100
(pH4.0)
【0043】
処方例5 酸性飲料
成分 配 合 量
醗酵処理例1の醗酵物 30
ミルクオリゴ糖 1
グルコン酸カルシウム 0.67
クエン酸無水 0.7
グアーガム 0.3
酸化マグネシウム 0.12
スクラロース 0.01
アスコルビン酸ナトリウム 0.1
精製水 残 部
合計 100
(pH3.7)
【0044】
処方例6 ゼリー
成分 配 合 量
醗酵処理例1の醗酵物 20
エリスリトール 7.5
サメ軟骨抽出物(コンドロイチン硫酸C含有) 1.0
無水クエン酸 0.5
カラギナン 0.3
グルコマンナン 0.2
クエン酸3ナトリウム 0.2
香料 0.2
アスコルビン酸ナトリウム 0.1
精製水 残 部
合計 100
(pH3.8)
【0045】
処方例7 スポーツ飲料
成分 配 合 量
果糖 8
醗酵処理例3の醗酵物 5
食塩 2
重曹 2
精製水 残 部
合 計 500
(pH6.8)
【0046】
処方例8 粉末茶
成分 配 合 量
ウーロンチャエキス 10
醗酵処理例1の醗酵物の凍結乾燥物 10
香料 3
デキストリン 残 部
合 計 100
【0047】
処方例9 チュアブル錠
成分 配 合 量
醗酵処理例4の醗酵物の凍結乾燥物 30
ステアリン酸マグネシウム 10
アスパルテーム 4
香料 1
キシリトール 残 部
合 計 100
【0048】
処方例10 焼き菓子
成分 配 合 量
薄力粉 17.85
醗酵処理例3の醗酵物 10
還元水あめ 9
米油 2.7
ベーキングパウダー 0.3
香料 0.15
合 計 40
【0049】
処方例11 ゼリー飲料
成分 配 合 量
オリゴ糖シロップ 27
還元水あめシロップ 27
醗酵処理例2の醗酵物 20
濃縮果汁 7.2
グルコマンナン 5.4
pH調整剤 4.5
ゲル化剤 2.7
香料 0.45
精製水 残 部
合 計 100
【0050】
処方例12 カプセル剤 (300mg/個)
成分 配 合 量
醗酵処理例1の醗酵物の凍結乾燥物 150
微粒子結晶セルロース 60
乳糖 25
トコフェロール 6
コーンスターチ 残 部
合 計 300
【0051】
処方例13 錠剤(250mg錠)
成分 配 合 量
ビタミンC 50
醗酵処理例2の醗酵物の凍結乾燥物 50
セルロース粉末 25
コーンスターチ 残 部
合 計 250

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロッコリ乳酸菌醗酵物からなる抗酸化機能賦活剤。
【請求項2】
乳酸菌がビフィドバクテリウム属またはラクトバチルス属であることを特徴とする請求項1に記載の抗酸化機能賦活剤。
【請求項3】
請求項1に記載の抗酸化機能賦活剤を配合したことを特徴とする、歯周病、動脈硬化症、網膜症の予防または症状改善用の経口組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−103880(P2013−103880A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246194(P2011−246194)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000106324)サンスター株式会社 (200)
【Fターム(参考)】