抜止め部材の挿入方法及び抜止め部材の挿入装置
【課題】ハウジングの収容溝に抜止め部材を精度良く効率的に挿入できる抜止め部材の挿入方法と抜止め部材の挿入装置を提供する。
【解決手段】流体管を取り囲んで装着される環状の受口部1に形成された収容溝4に抜止め部材6を挿入する抜止め部材の挿入方法において、収容溝4の径方向に対向する二箇所に抜止め部材6を仮置きする工程と、受口部1に挿入装置5をセットし、その挿入装置5が有する一対の押込み部51を収容溝4の内側に配置する工程と、挿入装置5のハンドル操作により一対の押込み部51を互いに離間する方向に変位させ、その押込み部51の各々によって仮置きした抜止め部材6を押圧して収容溝4に挿入する工程とを備える。
【解決手段】流体管を取り囲んで装着される環状の受口部1に形成された収容溝4に抜止め部材6を挿入する抜止め部材の挿入方法において、収容溝4の径方向に対向する二箇所に抜止め部材6を仮置きする工程と、受口部1に挿入装置5をセットし、その挿入装置5が有する一対の押込み部51を収容溝4の内側に配置する工程と、挿入装置5のハンドル操作により一対の押込み部51を互いに離間する方向に変位させ、その押込み部51の各々によって仮置きした抜止め部材6を押圧して収容溝4に挿入する工程とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体管を取り囲んで装着される環状のハウジングに形成された収容溝に、その流体管の外周面に係止可能な抜止め部材を挿入する方法と、その方法に使用しうる装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1の第7〜9図に開示されているように、一方の流体管の端部に形成された受口部に、他方の流体管の端部に形成された挿口部を挿入し、受口部の内周側に配設した抜止め部材を挿口部の外周面に係止させて、その挿口部を有する流体管が管軸方向に移動するのを防止できるように構成した管継手が知られている。かかる管継手では、受口部が、挿口部を取り囲んで装着される環状のハウジングとなり、そのハウジングに形成された収容溝に抜止め部材が収容される。
【0003】
また、上記文献の第2〜4図に開示されているように、受口部の内周と挿口部の外周との間を密封するシール材を、押輪と呼ばれる環状の金具で押圧するとともに、その押輪の内周側に配設した抜止め部材を挿口部の外周面に係止させて、挿口部を有する流体管が管軸方向に移動するのを防止できるように構成した管継手も知られている。かかる管継手では、押輪が、挿口部を取り囲んで装着される環状のハウジングとなり、そのハウジングに形成された収容溝に抜止め部材が収容される。
【0004】
上記の如き流体管の移動防止装置を組み立てる作業では、受口部や押輪などのハウジングが有する収容溝に抜止め部材を精度良く挿入する必要があり、仮に、収容溝に対する抜止め部材の挿入量にばらつきが生じたり、挿入した抜止め部材の姿勢が崩れていたりすると、挿口部の外周面に対する抜止め部材の係止作用を安定的に発揮しにくい傾向にある。また、生産性の観点からは、抜止め部材を挿入する際の作業効率を高められる手法の提案が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−88091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ハウジングの収容溝に抜止め部材を精度良く効率的に挿入できる抜止め部材の挿入方法と抜止め部材の挿入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。即ち、本発明に係る抜止め部材の挿入方法は、流体管を取り囲んで装着される環状のハウジングに形成された収容溝に、前記流体管の外周面に係止可能な抜止め部材を挿入する抜止め部材の挿入方法において、前記収容溝の径方向に対向する二箇所に抜止め部材を仮置きする工程と、前記ハウジングに挿入装置をセットし、その挿入装置が有する一対の押込み部を前記収容溝の内側に配置する工程と、前記挿入装置のハンドル操作により一対の押込み部を互いに離間する方向に変位させ、その押込み部の各々によって仮置きした抜止め部材を押圧して前記収容溝に挿入する工程と、を備えるものである。
【0008】
本発明に係る抜止め部材の挿入方法では、ハウジングにセットした挿入装置が有する押込み部によって、収容溝に仮置きしている抜止め部材を押圧できることから、抜止め部材を収容溝に精度良く挿入することができる。しかも、一対の押込み部により抜止め部材を二箇所で同時に挿入できるため、抜止め部材を挿入する際の作業効率を高めることができる。
【0009】
本発明の抜止め部材の挿入方法では、前記抜止め部材を仮置きする工程の前に、管軸方向を上下にして据えた前記ハウジングに台座を挿入し、その台座の座面を前記収容溝の奥側の内壁面の高さに配置するものが好ましい。この場合、ハウジングに台座を挿入したことにより抜止め部材を安定して仮置きできるとともに、仮置きした抜止め部材の落下を防止して作業性を向上できる。その結果、収容溝に抜止め部材をより精度良く効率的に挿入することができる。
【0010】
また、本発明に係る抜止め部材の挿入装置は、流体管を取り囲んで装着される環状のハウジングに形成された収容溝に、前記流体管の外周面に係止可能な抜止め部材を挿入する抜止め部材の挿入装置において、前記抜止め部材を内側から押圧する一対の押込み部と、その一対の押込み部が互いに離間する方向に変位するように操作可能なハンドルと、前記ハウジングに対する相対位置を定める位置決め部と、を備えるものである。
【0011】
本発明に係る抜止め部材の挿入装置は、ハウジングに対する相対位置を位置決め部により定めたうえで、ハンドル操作によって一対の押込み部を互いに離間する方向に変位できることから、上述した方法に使用しうるものであり、ハウジングの収容溝に抜止め部材を精度良く効率的に挿入することができる。
【0012】
本発明の抜止め部材の挿入装置では、一端に柄部を有し且つ他端に前記押込み部を有する第一の部材と第二の部材とが、前記柄部と前記押込み部との間に位置する支点部にて回転可能に軸支され、前記ハンドルを構成する一対の前記柄部を近接又は離間させることにより、一対の前記押込み部が互いに離間する方向に変位するものが好ましい。かかる構成によれば、挿入装置をシンプルに構成できるとともに、一対の押込み部を変位させるためのハンドル操作を簡単に行うことができる。
【0013】
上記においては、前記位置決め部が前記ハウジングに管軸方向から当接するとともに、前記支点部が前記位置決め部に対して管軸方向に相対移動可能に構成されているものが好ましい。かかる構成によれば、一対の押込み部を互いに離間する方向に変位させる過程で、その押込み部の管軸方向位置を一定に保持して、抜止め部材を径方向に精度良く押圧して収容溝に挿入できる。
【0014】
本発明の抜止め部材の挿入装置では、前記位置決め部が前記ハウジングと嵌合して径方向に係合するものが好ましい。かかる構成によれば、ハウジングに対する挿入装置の位置ずれを的確に防いで、抜止め部材をより精度良く挿入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】管継手の縦断面図(図2のA−A断面図)
【図2】受口部の正面図
【図3】受口部を内周側から見たときの展開図
【図4】図3に示した抜止め部材の(a)B−B断面図と(b)C−C断面図
【図5】受口部を有する流体管の縦断面図
【図6】収容溝に抜止め部材を仮置きしたときの流体管の縦断面図
【図7A】受口部に挿入装置をセットしたときの流体管の縦断面図
【図7B】受口部に挿入装置をセットしたときの流体管の縦断面図
【図8】抜止め部材を押圧して収容溝に挿入するときの流体管の縦断面図
【図9】挿入装置の斜視図
【図10】押込み部の先端を示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。はじめに、図1〜4を用いて、流体管の移動防止装置の構成について簡単に説明する。
【0017】
図1,2に示した管継手では、流体管P1の端部に形成された受口部1に、流体管P2の端部に形成された挿口部2を挿入し、その受口部1の内周と挿口部2の外周との間を環状のシール材3により密封している。本実施形態では、流体管P1,P2がダクタイル鋳鉄製の水道管であるが、これに限られるものではなく、ガス管やプラント用配管などの他の流体管であっても構わない。受口部1は、二本の流体管の間に介在する管継手本体の端部に形成されたものでもよい。
【0018】
受口部1は、挿口部2を取り囲んで装着される環状のハウジングであり、その内周側には挿口部2に向かって開口した収容溝4が環状に形成され、管周方向に並んだ複数の(本実施形態では四つの)抜止め部材6を収容している。抜止め部材6は、挿口部2の外周面に沿って湾曲した断面三角形状の爪8を内周面に有し、挿口部2の外周面に係止可能に構成されている。抜止め部材6の各々の外周側では、収容溝4の外周壁を貫通するネジ孔に押ボルト7が螺合されており、抜止め部材6を挿口部2に向けて押圧可能になっている。
【0019】
図1の状態において受口部1から挿口部2が抜け出そうとすると、挿口部2の外周面に対する抜止め部材6の係止作用によって流体管P2の管軸方向への移動が妨げられ、挿口部2の離脱が阻止される。また、本実施形態では、抜止め部材6の外周面に傾斜面6aが形成されており、挿口部2が抜け出す力が働いた際には、楔効果によって押ボルト7の先端が抜止め部材6を内周側に押圧し、挿口部2の外周面に対する爪8の接触抵抗を増大して、抜止め部材6による移動防止効果が高められる。
【0020】
図1,3,4に示すように、本実施形態では管軸方向に間隔を置いて二本の爪8を設けており、管周方向に隣り合う抜止め部材6の間で、爪8同士が管軸方向に重なるように配置されている。これによって、挿口部2の外周面に対する爪8の接触領域が管周方向に連続的に形成され、抜止め部材6による移動防止効果が格段に向上する。このように爪8を重複して配置する構造では、隣り合う抜止め部材6の間で爪8が干渉しないよう、収容溝4に対して抜止め部材6を精度良く挿入することが重要となる。
【0021】
抜止め部材6は、移動規制部材11と保持部材12を介して収容溝4内に嵌まり込んでおり、受口部1から脱落しないように保持されている。移動規制部材11及び保持部材12は、それぞれ抜止め部材6の側面61,62に取り付けられ、本実施形態では双方がシート状のゴムで構成されている。移動規制部材11は、弾性材料により形成され、保持部材12よりも硬質であることが好ましい。保持部材12は、ゴムやウレタンなどの弾性材料により形成されることが好ましい。
【0022】
保持部材12は、収容溝4の奥側の内壁面42に常に当接し、抜止め部材6を収容溝4の手前側の内壁面41に向けて付勢する。このため、抜止め部材6の側面61と内壁面41との間には、移動規制部材11の厚みに対応した間隔Dが設けられる。挿口部2が抜け出す力が働くと、それに応じて抜止め部材6が内壁面41に向かって移動するが、そのときの移動代は、挿口部2の外周面に爪8が係止可能な状態での間隔Dに基づいて定められる。
【0023】
流体管P2の管軸方向への移動を防止する機能を安定的に発揮するには、抜止め部材6の移動代のばらつきを抑えることが有効である。例えば、流体管P2の上側に位置する抜止め部材6と、その流体管P2の下側に位置する抜止め部材6との間で移動代が異なると、移動防止効果が安定的に発揮されにくく、特に流体管P2に強力な負荷が作用したときには、抜止め部材6の移動代のばらつきにより極限性能が左右される場合がある。
【0024】
この管継手では、押ボルト7が抜止め部材6を斜め方向に押し込もうとするが、保持部材12が内壁面42に当接し、移動規制部材11を介して間隔Dが一定に保持されるため、その押込み量や収容溝4の溝幅に左右されることなく、抜止め部材6の移動代が定まる。その結果、押ボルト7による押込み量が互いに異なる場合や、ハウジングが鋳物(例えば鋳鉄製)であって寸法公差が大きい場合であっても、抜止め部材6の移動代のばらつきを抑えて、流体管P2の移動防止効果を安定的に発揮できる。
【0025】
次に、ハウジングである受口部1の収容溝4に抜止め部材6を挿入する方法と、それに使用する装置について説明する。尚、図1,6,7A及び8においては、抜止め部材6を周方向から見た側方視にて描いている。
【0026】
図5は、受口部1を上方に向けて置かれた流体管P1の縦断面図であり、収容溝4には未だ抜止め部材6が内蔵されていない。この受口部1に対して、まずは、図6に示すように収容溝4の径方向(図6の左右方向)に対向する二箇所に抜止め部材6を仮置きする。仮置きは作業者の手作業によるものでよく、収容溝4の径方向内側に抜止め部材6が軽く嵌め込まれた状態となる。この例では、保持部材12の突き出た部分を引っ掛けるようにして、抜止め部材6を若干斜めにセットしている。
【0027】
本実施形態では、抜止め部材6を仮置きする前に、図5のように管軸方向を上下にして据えた受口部1に台座9を挿入し、その座面9aを収容溝4の内壁面42の高さに配置している。このため、抜止め部材6を安定して仮置きできるとともに、仮置きした抜止め部材6の落下を防止して作業性を向上できる。かかる効果が得られる限り、座面9aの位置は内壁面42より若干上下しても構わない。台座9の使用は任意であり、本実施形態では受口部1の奥端1aに載置可能な有底の円筒体であるが、台座9の形状はこれに限られない。
【0028】
続いて、図7A,7Bのように、受口部1に挿入装置5をセットし、挿入装置5が有する一対の押込み部51を収容溝4の内側に配置する。図7Bは、図7Aの受口部1を横から見た断面に相当する。セットした挿入装置5は、受口部1に対して管軸方向の相対位置が定まった状態となる。この時点では、一対の押込み部51の間隔がスプリング57によって縮められており、押込み部51の管軸方向位置は抜止め部材6とずれていても構わない。挿入装置5をセットする工程は、抜止め部材6を仮置きする工程と前後してもよい。
【0029】
続いて、図8に示すように、挿入装置5のハンドル操作により一対の押込み部51を互いに離間する方向に変位させ、その押込み部51の各々によって仮置きした抜止め部材6を押圧して収容溝4に挿入する。これにより、収容溝4に対する抜止め部材6の挿入量を一定にして、抜止め部材6を精度良く挿入できるうえ、一対の押込み部51により抜止め部材6を二箇所で同時に挿入して作業効率を高められる。挿入装置5のハンドル操作は、作業者の手作業によるものでよい。
【0030】
本実施形態では、移動規制部材11と保持部材12を貼り付けた抜止め部材6が収容溝4内に嵌まり込んでいるため、抜止め部材6を強く押しこんで圧入する必要があり、収容溝4に対する抜止め部材6の挿入量にばらつきが生じやすい構造であるが、かかる挿入方法によれば、収容溝4に対して抜止め部材6を精度良く挿入することが可能となる。
【0031】
その後、図7Bに示される収容溝4の径方向(図7Bの左右方向)に対向する二箇所にも、上記と同様にして抜止め部材6を挿入する。隣り合う抜止め部材6の間では爪8同士が管軸方向に重なるように配置されるが、この挿入方法によれば、抜止め部材6を精度良く挿入できるため、隣り合う抜止め部材6の間で爪8の干渉を防ぎやすい。抜止め部材6の挿入後は、受口部1から挿入装置5と台座9を取り外し、押ボルト7やシール材3を装着することで、図1,2の如き流体管の移動防止装置に供することができる。
【0032】
挿入装置5は、図9に示すように、抜止め部材6を内側から押圧する一対の押込み部51と、その一対の押込み部51が互いに離間する方向に変位するように操作可能なハンドル52と、受口部1に対する相対位置を定める位置決め部53とを備える。更に、本実施形態では、位置決め部53が、受口部1に管軸方向から当接する当接部53aと、受口部1と径方向に係合する係合部53bとを備えている。図示の都合上、図7A,7B及び図8では、位置決め部53のみを破断させて描いている。
【0033】
受口部1にセットした挿入装置5は、受口部1に対する管軸方向の相対位置が位置決め部53により定まった状態となっている。位置決め部53は、受口部1の端面に管軸方向から当接する当接部53aを有し、本実施形態の当接部53aは、管軸方向に突出した受口部1の鍔1bと略同じ形状の固定リングとして構成されている。固定リング53aには係合部53bが一体的に取り付けられており、本実施形態では一対のサイドプレートとして構成されている。
【0034】
サイドプレート53bは、図7Bに示すように固定リング53aよりも管軸方向に突出しており、これらを鍔1bに外嵌することで、位置決め部53が受口部1と嵌合して径方向に係合可能となる。これにより、受口部1に対する挿入装置5の位置ずれを的確に防いで、抜止め部材6をより精度良く挿入できる。かかる構成に代えて、固定リング53aの外周縁を管軸方向に延ばし、固定リング53a自体を鍔1bに嵌め込むようにしても構わない。
【0035】
一対の押込み部51は、ハンドル52の操作によって径方向外側に且つ互いに逆向きに変位し、抜止め部材6の内周面に押し当たる。そのため、押込み部51の先端には、抜止め部材6の爪8を傷めないように、ゴムなどの緩衝材を取り付けておくことが好ましい。或いは、押込み部51の先端形状を調整して、抜止め部材6の爪8以外の部分(例えば二本の爪8の間)を押圧可能に構成することも効果的である。
【0036】
押込み部51の先端は、図10(a)に示すように流体管P1の周方向に沿って緩やかに湾曲しており、抜止め部材6の内周面にフィットするようになっている。また、図10(b)に示すように、押込み部51の先端の周方向両側を膨出させて、抜止め部材6を周方向の一方に片寄って押圧しないすることも有効である。
【0037】
本実施形態では、一端に柄部55を有し且つ他端に押込み部51を有する第一の部材50Aと第二の部材50Bとが、その柄部55と押込み部51との間に位置する支点部56にて回転可能に軸支され、その一対の柄部55がハンドル52を構成している。そして、この一対の柄部55を互いに近接させることで、図8に示すように一対の押込み部51が互いに離間する方向に変位し、抜止め部材6の挿入に利用される。互いに離間した一対の押込み部51は、スプリング57の付勢により元の位置へ容易に復帰する。
【0038】
支点部56にて回転軸を構成するシャフト54は、一対のサイドプレート53bに形成された長孔53cに挿通され、留め具58によって緩やかに固定されている。このため、図7A,7Bのように挿入装置5を受口部1にセットした状態では、管軸方向に延びる長孔53cの上側にシャフト54が位置し、ハンドル52の操作に伴ってシャフト54に下方への力を加えることで、図8のように長孔53cの下側にシャフト54が移動する。
【0039】
このように、本実施形態では、支点部56が位置決め部53に対して管軸方向に相対移動可能に構成されている。かかる構成によれば、一対の押込み部51を互いに離間する方向に変位させる過程で、その押込み部51の管軸方向位置を一定に保持して、抜止め部材6を径方向に精度良く押圧して収容溝4に挿入できる。つまり、押込み部51は、支点部56を中心とする弧を描いて移動するが、その支点部56を管軸方向に変位させることにより、押込み部51の管軸方向位置を一定に保持できるのである。
【0040】
本実施形態では、一対の柄部55を互いに近接させると、一対の押込み部51が互いに離間する例を示すが、これに代えてハサミのような機構とし、一対の柄部55を互いに離間させることで、一対の押込み部51が互いに離間するようにしてもよい。また、本実施形態では、同一形状の第一の部材50Aと第二の部材50Bを組み合わせているが、これらの形状は相違していても構わない。
【0041】
本実施形態では、隣り合う抜止め部材6の間で爪8同士が管軸方向に重なるように配置される例を示すが、本発明はこれに限られず、爪8同士が管軸方向に重ならない配置でも構わない。かかる場合には、収容溝4を、抜止め部材6ごとに独立させて、周方向に断続的に設けてもよい。また、そのような爪の配置の採否に関わらず、抜止め部材6が有する爪8の本数は一本又は三本以上でもよい。
【0042】
本実施形態では、流体管の受口部をハウジングとした例を示すが、本発明はこれに限られず、受口部の内周と挿口部の外周との間に介在するシール材を管軸方向に押圧可能な環状の押輪(例えば、特開平11−63328号公報参照)をハウジングとしてもよい。かかる押輪は、挿口部を取り囲んで装着され、内周側に形成された収容溝に抜止め部材を収容して、流体管の移動防止装置を構成する。押輪が有するその他の構造については、本技術分野における公知の構造を限定なく使用可能である。
【0043】
更に、本発明では、管継手の挿口部を取り囲んで装着され、受口部から挿口部が抜け出す力が働いた際に受口部のフランジに係合するフックを持つ補強金具(例えば、特開平10−122466号公報参照)や、流体管を取り囲んで装着される不平均力の支持装置(例えば、特開2002−243066号公報参照)をハウジングとしてもよい。かかる補強金具や支持装置は、その内周側に形成された収容溝に抜止め部材を収容して、流体管の移動防止装置を構成する。
【0044】
ハウジングは、環状体として一体的に形成されているものに限られず、複数の分割片の周端を互いに組み付けて環状に形成される割り構造でもよい。また、前述したハウジングとしての受口部1には、抜止め部材6を挿口部2に向けて押圧する押ボルト7を設けていたが、これに限定されず、ハウジングの縮径や収容溝の外周壁での楔効果によって押圧するようにしても構わない。
【符号の説明】
【0045】
1 受口部(ハウジングの一例)
2 挿口部
4 収容溝
5 挿入装置
6 抜止め部材
8 爪
9 台座
11 移動規制部材
12 保持部材
41 内壁面
42 内壁面
50A 第一の部材
50B 第二の部材
51 押込み部
52 ハンドル
53 位置決め部
54 シャフト
55 柄部
56 支点部
P1 流体管
P2 流体管
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体管を取り囲んで装着される環状のハウジングに形成された収容溝に、その流体管の外周面に係止可能な抜止め部材を挿入する方法と、その方法に使用しうる装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1の第7〜9図に開示されているように、一方の流体管の端部に形成された受口部に、他方の流体管の端部に形成された挿口部を挿入し、受口部の内周側に配設した抜止め部材を挿口部の外周面に係止させて、その挿口部を有する流体管が管軸方向に移動するのを防止できるように構成した管継手が知られている。かかる管継手では、受口部が、挿口部を取り囲んで装着される環状のハウジングとなり、そのハウジングに形成された収容溝に抜止め部材が収容される。
【0003】
また、上記文献の第2〜4図に開示されているように、受口部の内周と挿口部の外周との間を密封するシール材を、押輪と呼ばれる環状の金具で押圧するとともに、その押輪の内周側に配設した抜止め部材を挿口部の外周面に係止させて、挿口部を有する流体管が管軸方向に移動するのを防止できるように構成した管継手も知られている。かかる管継手では、押輪が、挿口部を取り囲んで装着される環状のハウジングとなり、そのハウジングに形成された収容溝に抜止め部材が収容される。
【0004】
上記の如き流体管の移動防止装置を組み立てる作業では、受口部や押輪などのハウジングが有する収容溝に抜止め部材を精度良く挿入する必要があり、仮に、収容溝に対する抜止め部材の挿入量にばらつきが生じたり、挿入した抜止め部材の姿勢が崩れていたりすると、挿口部の外周面に対する抜止め部材の係止作用を安定的に発揮しにくい傾向にある。また、生産性の観点からは、抜止め部材を挿入する際の作業効率を高められる手法の提案が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−88091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ハウジングの収容溝に抜止め部材を精度良く効率的に挿入できる抜止め部材の挿入方法と抜止め部材の挿入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。即ち、本発明に係る抜止め部材の挿入方法は、流体管を取り囲んで装着される環状のハウジングに形成された収容溝に、前記流体管の外周面に係止可能な抜止め部材を挿入する抜止め部材の挿入方法において、前記収容溝の径方向に対向する二箇所に抜止め部材を仮置きする工程と、前記ハウジングに挿入装置をセットし、その挿入装置が有する一対の押込み部を前記収容溝の内側に配置する工程と、前記挿入装置のハンドル操作により一対の押込み部を互いに離間する方向に変位させ、その押込み部の各々によって仮置きした抜止め部材を押圧して前記収容溝に挿入する工程と、を備えるものである。
【0008】
本発明に係る抜止め部材の挿入方法では、ハウジングにセットした挿入装置が有する押込み部によって、収容溝に仮置きしている抜止め部材を押圧できることから、抜止め部材を収容溝に精度良く挿入することができる。しかも、一対の押込み部により抜止め部材を二箇所で同時に挿入できるため、抜止め部材を挿入する際の作業効率を高めることができる。
【0009】
本発明の抜止め部材の挿入方法では、前記抜止め部材を仮置きする工程の前に、管軸方向を上下にして据えた前記ハウジングに台座を挿入し、その台座の座面を前記収容溝の奥側の内壁面の高さに配置するものが好ましい。この場合、ハウジングに台座を挿入したことにより抜止め部材を安定して仮置きできるとともに、仮置きした抜止め部材の落下を防止して作業性を向上できる。その結果、収容溝に抜止め部材をより精度良く効率的に挿入することができる。
【0010】
また、本発明に係る抜止め部材の挿入装置は、流体管を取り囲んで装着される環状のハウジングに形成された収容溝に、前記流体管の外周面に係止可能な抜止め部材を挿入する抜止め部材の挿入装置において、前記抜止め部材を内側から押圧する一対の押込み部と、その一対の押込み部が互いに離間する方向に変位するように操作可能なハンドルと、前記ハウジングに対する相対位置を定める位置決め部と、を備えるものである。
【0011】
本発明に係る抜止め部材の挿入装置は、ハウジングに対する相対位置を位置決め部により定めたうえで、ハンドル操作によって一対の押込み部を互いに離間する方向に変位できることから、上述した方法に使用しうるものであり、ハウジングの収容溝に抜止め部材を精度良く効率的に挿入することができる。
【0012】
本発明の抜止め部材の挿入装置では、一端に柄部を有し且つ他端に前記押込み部を有する第一の部材と第二の部材とが、前記柄部と前記押込み部との間に位置する支点部にて回転可能に軸支され、前記ハンドルを構成する一対の前記柄部を近接又は離間させることにより、一対の前記押込み部が互いに離間する方向に変位するものが好ましい。かかる構成によれば、挿入装置をシンプルに構成できるとともに、一対の押込み部を変位させるためのハンドル操作を簡単に行うことができる。
【0013】
上記においては、前記位置決め部が前記ハウジングに管軸方向から当接するとともに、前記支点部が前記位置決め部に対して管軸方向に相対移動可能に構成されているものが好ましい。かかる構成によれば、一対の押込み部を互いに離間する方向に変位させる過程で、その押込み部の管軸方向位置を一定に保持して、抜止め部材を径方向に精度良く押圧して収容溝に挿入できる。
【0014】
本発明の抜止め部材の挿入装置では、前記位置決め部が前記ハウジングと嵌合して径方向に係合するものが好ましい。かかる構成によれば、ハウジングに対する挿入装置の位置ずれを的確に防いで、抜止め部材をより精度良く挿入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】管継手の縦断面図(図2のA−A断面図)
【図2】受口部の正面図
【図3】受口部を内周側から見たときの展開図
【図4】図3に示した抜止め部材の(a)B−B断面図と(b)C−C断面図
【図5】受口部を有する流体管の縦断面図
【図6】収容溝に抜止め部材を仮置きしたときの流体管の縦断面図
【図7A】受口部に挿入装置をセットしたときの流体管の縦断面図
【図7B】受口部に挿入装置をセットしたときの流体管の縦断面図
【図8】抜止め部材を押圧して収容溝に挿入するときの流体管の縦断面図
【図9】挿入装置の斜視図
【図10】押込み部の先端を示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。はじめに、図1〜4を用いて、流体管の移動防止装置の構成について簡単に説明する。
【0017】
図1,2に示した管継手では、流体管P1の端部に形成された受口部1に、流体管P2の端部に形成された挿口部2を挿入し、その受口部1の内周と挿口部2の外周との間を環状のシール材3により密封している。本実施形態では、流体管P1,P2がダクタイル鋳鉄製の水道管であるが、これに限られるものではなく、ガス管やプラント用配管などの他の流体管であっても構わない。受口部1は、二本の流体管の間に介在する管継手本体の端部に形成されたものでもよい。
【0018】
受口部1は、挿口部2を取り囲んで装着される環状のハウジングであり、その内周側には挿口部2に向かって開口した収容溝4が環状に形成され、管周方向に並んだ複数の(本実施形態では四つの)抜止め部材6を収容している。抜止め部材6は、挿口部2の外周面に沿って湾曲した断面三角形状の爪8を内周面に有し、挿口部2の外周面に係止可能に構成されている。抜止め部材6の各々の外周側では、収容溝4の外周壁を貫通するネジ孔に押ボルト7が螺合されており、抜止め部材6を挿口部2に向けて押圧可能になっている。
【0019】
図1の状態において受口部1から挿口部2が抜け出そうとすると、挿口部2の外周面に対する抜止め部材6の係止作用によって流体管P2の管軸方向への移動が妨げられ、挿口部2の離脱が阻止される。また、本実施形態では、抜止め部材6の外周面に傾斜面6aが形成されており、挿口部2が抜け出す力が働いた際には、楔効果によって押ボルト7の先端が抜止め部材6を内周側に押圧し、挿口部2の外周面に対する爪8の接触抵抗を増大して、抜止め部材6による移動防止効果が高められる。
【0020】
図1,3,4に示すように、本実施形態では管軸方向に間隔を置いて二本の爪8を設けており、管周方向に隣り合う抜止め部材6の間で、爪8同士が管軸方向に重なるように配置されている。これによって、挿口部2の外周面に対する爪8の接触領域が管周方向に連続的に形成され、抜止め部材6による移動防止効果が格段に向上する。このように爪8を重複して配置する構造では、隣り合う抜止め部材6の間で爪8が干渉しないよう、収容溝4に対して抜止め部材6を精度良く挿入することが重要となる。
【0021】
抜止め部材6は、移動規制部材11と保持部材12を介して収容溝4内に嵌まり込んでおり、受口部1から脱落しないように保持されている。移動規制部材11及び保持部材12は、それぞれ抜止め部材6の側面61,62に取り付けられ、本実施形態では双方がシート状のゴムで構成されている。移動規制部材11は、弾性材料により形成され、保持部材12よりも硬質であることが好ましい。保持部材12は、ゴムやウレタンなどの弾性材料により形成されることが好ましい。
【0022】
保持部材12は、収容溝4の奥側の内壁面42に常に当接し、抜止め部材6を収容溝4の手前側の内壁面41に向けて付勢する。このため、抜止め部材6の側面61と内壁面41との間には、移動規制部材11の厚みに対応した間隔Dが設けられる。挿口部2が抜け出す力が働くと、それに応じて抜止め部材6が内壁面41に向かって移動するが、そのときの移動代は、挿口部2の外周面に爪8が係止可能な状態での間隔Dに基づいて定められる。
【0023】
流体管P2の管軸方向への移動を防止する機能を安定的に発揮するには、抜止め部材6の移動代のばらつきを抑えることが有効である。例えば、流体管P2の上側に位置する抜止め部材6と、その流体管P2の下側に位置する抜止め部材6との間で移動代が異なると、移動防止効果が安定的に発揮されにくく、特に流体管P2に強力な負荷が作用したときには、抜止め部材6の移動代のばらつきにより極限性能が左右される場合がある。
【0024】
この管継手では、押ボルト7が抜止め部材6を斜め方向に押し込もうとするが、保持部材12が内壁面42に当接し、移動規制部材11を介して間隔Dが一定に保持されるため、その押込み量や収容溝4の溝幅に左右されることなく、抜止め部材6の移動代が定まる。その結果、押ボルト7による押込み量が互いに異なる場合や、ハウジングが鋳物(例えば鋳鉄製)であって寸法公差が大きい場合であっても、抜止め部材6の移動代のばらつきを抑えて、流体管P2の移動防止効果を安定的に発揮できる。
【0025】
次に、ハウジングである受口部1の収容溝4に抜止め部材6を挿入する方法と、それに使用する装置について説明する。尚、図1,6,7A及び8においては、抜止め部材6を周方向から見た側方視にて描いている。
【0026】
図5は、受口部1を上方に向けて置かれた流体管P1の縦断面図であり、収容溝4には未だ抜止め部材6が内蔵されていない。この受口部1に対して、まずは、図6に示すように収容溝4の径方向(図6の左右方向)に対向する二箇所に抜止め部材6を仮置きする。仮置きは作業者の手作業によるものでよく、収容溝4の径方向内側に抜止め部材6が軽く嵌め込まれた状態となる。この例では、保持部材12の突き出た部分を引っ掛けるようにして、抜止め部材6を若干斜めにセットしている。
【0027】
本実施形態では、抜止め部材6を仮置きする前に、図5のように管軸方向を上下にして据えた受口部1に台座9を挿入し、その座面9aを収容溝4の内壁面42の高さに配置している。このため、抜止め部材6を安定して仮置きできるとともに、仮置きした抜止め部材6の落下を防止して作業性を向上できる。かかる効果が得られる限り、座面9aの位置は内壁面42より若干上下しても構わない。台座9の使用は任意であり、本実施形態では受口部1の奥端1aに載置可能な有底の円筒体であるが、台座9の形状はこれに限られない。
【0028】
続いて、図7A,7Bのように、受口部1に挿入装置5をセットし、挿入装置5が有する一対の押込み部51を収容溝4の内側に配置する。図7Bは、図7Aの受口部1を横から見た断面に相当する。セットした挿入装置5は、受口部1に対して管軸方向の相対位置が定まった状態となる。この時点では、一対の押込み部51の間隔がスプリング57によって縮められており、押込み部51の管軸方向位置は抜止め部材6とずれていても構わない。挿入装置5をセットする工程は、抜止め部材6を仮置きする工程と前後してもよい。
【0029】
続いて、図8に示すように、挿入装置5のハンドル操作により一対の押込み部51を互いに離間する方向に変位させ、その押込み部51の各々によって仮置きした抜止め部材6を押圧して収容溝4に挿入する。これにより、収容溝4に対する抜止め部材6の挿入量を一定にして、抜止め部材6を精度良く挿入できるうえ、一対の押込み部51により抜止め部材6を二箇所で同時に挿入して作業効率を高められる。挿入装置5のハンドル操作は、作業者の手作業によるものでよい。
【0030】
本実施形態では、移動規制部材11と保持部材12を貼り付けた抜止め部材6が収容溝4内に嵌まり込んでいるため、抜止め部材6を強く押しこんで圧入する必要があり、収容溝4に対する抜止め部材6の挿入量にばらつきが生じやすい構造であるが、かかる挿入方法によれば、収容溝4に対して抜止め部材6を精度良く挿入することが可能となる。
【0031】
その後、図7Bに示される収容溝4の径方向(図7Bの左右方向)に対向する二箇所にも、上記と同様にして抜止め部材6を挿入する。隣り合う抜止め部材6の間では爪8同士が管軸方向に重なるように配置されるが、この挿入方法によれば、抜止め部材6を精度良く挿入できるため、隣り合う抜止め部材6の間で爪8の干渉を防ぎやすい。抜止め部材6の挿入後は、受口部1から挿入装置5と台座9を取り外し、押ボルト7やシール材3を装着することで、図1,2の如き流体管の移動防止装置に供することができる。
【0032】
挿入装置5は、図9に示すように、抜止め部材6を内側から押圧する一対の押込み部51と、その一対の押込み部51が互いに離間する方向に変位するように操作可能なハンドル52と、受口部1に対する相対位置を定める位置決め部53とを備える。更に、本実施形態では、位置決め部53が、受口部1に管軸方向から当接する当接部53aと、受口部1と径方向に係合する係合部53bとを備えている。図示の都合上、図7A,7B及び図8では、位置決め部53のみを破断させて描いている。
【0033】
受口部1にセットした挿入装置5は、受口部1に対する管軸方向の相対位置が位置決め部53により定まった状態となっている。位置決め部53は、受口部1の端面に管軸方向から当接する当接部53aを有し、本実施形態の当接部53aは、管軸方向に突出した受口部1の鍔1bと略同じ形状の固定リングとして構成されている。固定リング53aには係合部53bが一体的に取り付けられており、本実施形態では一対のサイドプレートとして構成されている。
【0034】
サイドプレート53bは、図7Bに示すように固定リング53aよりも管軸方向に突出しており、これらを鍔1bに外嵌することで、位置決め部53が受口部1と嵌合して径方向に係合可能となる。これにより、受口部1に対する挿入装置5の位置ずれを的確に防いで、抜止め部材6をより精度良く挿入できる。かかる構成に代えて、固定リング53aの外周縁を管軸方向に延ばし、固定リング53a自体を鍔1bに嵌め込むようにしても構わない。
【0035】
一対の押込み部51は、ハンドル52の操作によって径方向外側に且つ互いに逆向きに変位し、抜止め部材6の内周面に押し当たる。そのため、押込み部51の先端には、抜止め部材6の爪8を傷めないように、ゴムなどの緩衝材を取り付けておくことが好ましい。或いは、押込み部51の先端形状を調整して、抜止め部材6の爪8以外の部分(例えば二本の爪8の間)を押圧可能に構成することも効果的である。
【0036】
押込み部51の先端は、図10(a)に示すように流体管P1の周方向に沿って緩やかに湾曲しており、抜止め部材6の内周面にフィットするようになっている。また、図10(b)に示すように、押込み部51の先端の周方向両側を膨出させて、抜止め部材6を周方向の一方に片寄って押圧しないすることも有効である。
【0037】
本実施形態では、一端に柄部55を有し且つ他端に押込み部51を有する第一の部材50Aと第二の部材50Bとが、その柄部55と押込み部51との間に位置する支点部56にて回転可能に軸支され、その一対の柄部55がハンドル52を構成している。そして、この一対の柄部55を互いに近接させることで、図8に示すように一対の押込み部51が互いに離間する方向に変位し、抜止め部材6の挿入に利用される。互いに離間した一対の押込み部51は、スプリング57の付勢により元の位置へ容易に復帰する。
【0038】
支点部56にて回転軸を構成するシャフト54は、一対のサイドプレート53bに形成された長孔53cに挿通され、留め具58によって緩やかに固定されている。このため、図7A,7Bのように挿入装置5を受口部1にセットした状態では、管軸方向に延びる長孔53cの上側にシャフト54が位置し、ハンドル52の操作に伴ってシャフト54に下方への力を加えることで、図8のように長孔53cの下側にシャフト54が移動する。
【0039】
このように、本実施形態では、支点部56が位置決め部53に対して管軸方向に相対移動可能に構成されている。かかる構成によれば、一対の押込み部51を互いに離間する方向に変位させる過程で、その押込み部51の管軸方向位置を一定に保持して、抜止め部材6を径方向に精度良く押圧して収容溝4に挿入できる。つまり、押込み部51は、支点部56を中心とする弧を描いて移動するが、その支点部56を管軸方向に変位させることにより、押込み部51の管軸方向位置を一定に保持できるのである。
【0040】
本実施形態では、一対の柄部55を互いに近接させると、一対の押込み部51が互いに離間する例を示すが、これに代えてハサミのような機構とし、一対の柄部55を互いに離間させることで、一対の押込み部51が互いに離間するようにしてもよい。また、本実施形態では、同一形状の第一の部材50Aと第二の部材50Bを組み合わせているが、これらの形状は相違していても構わない。
【0041】
本実施形態では、隣り合う抜止め部材6の間で爪8同士が管軸方向に重なるように配置される例を示すが、本発明はこれに限られず、爪8同士が管軸方向に重ならない配置でも構わない。かかる場合には、収容溝4を、抜止め部材6ごとに独立させて、周方向に断続的に設けてもよい。また、そのような爪の配置の採否に関わらず、抜止め部材6が有する爪8の本数は一本又は三本以上でもよい。
【0042】
本実施形態では、流体管の受口部をハウジングとした例を示すが、本発明はこれに限られず、受口部の内周と挿口部の外周との間に介在するシール材を管軸方向に押圧可能な環状の押輪(例えば、特開平11−63328号公報参照)をハウジングとしてもよい。かかる押輪は、挿口部を取り囲んで装着され、内周側に形成された収容溝に抜止め部材を収容して、流体管の移動防止装置を構成する。押輪が有するその他の構造については、本技術分野における公知の構造を限定なく使用可能である。
【0043】
更に、本発明では、管継手の挿口部を取り囲んで装着され、受口部から挿口部が抜け出す力が働いた際に受口部のフランジに係合するフックを持つ補強金具(例えば、特開平10−122466号公報参照)や、流体管を取り囲んで装着される不平均力の支持装置(例えば、特開2002−243066号公報参照)をハウジングとしてもよい。かかる補強金具や支持装置は、その内周側に形成された収容溝に抜止め部材を収容して、流体管の移動防止装置を構成する。
【0044】
ハウジングは、環状体として一体的に形成されているものに限られず、複数の分割片の周端を互いに組み付けて環状に形成される割り構造でもよい。また、前述したハウジングとしての受口部1には、抜止め部材6を挿口部2に向けて押圧する押ボルト7を設けていたが、これに限定されず、ハウジングの縮径や収容溝の外周壁での楔効果によって押圧するようにしても構わない。
【符号の説明】
【0045】
1 受口部(ハウジングの一例)
2 挿口部
4 収容溝
5 挿入装置
6 抜止め部材
8 爪
9 台座
11 移動規制部材
12 保持部材
41 内壁面
42 内壁面
50A 第一の部材
50B 第二の部材
51 押込み部
52 ハンドル
53 位置決め部
54 シャフト
55 柄部
56 支点部
P1 流体管
P2 流体管
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体管を取り囲んで装着される環状のハウジングに形成された収容溝に、前記流体管の外周面に係止可能な抜止め部材を挿入する抜止め部材の挿入方法において、
前記収容溝の径方向に対向する二箇所に抜止め部材を仮置きする工程と、
前記ハウジングに挿入装置をセットし、その挿入装置が有する一対の押込み部を前記収容溝の内側に配置する工程と、
前記挿入装置のハンドル操作により一対の押込み部を互いに離間する方向に変位させ、その押込み部の各々によって仮置きした抜止め部材を押圧して前記収容溝に挿入する工程と、を備えることを特徴とする抜止め部材の挿入方法。
【請求項2】
前記抜止め部材を仮置きする工程の前に、管軸方向を上下にして据えた前記ハウジングに台座を挿入し、その台座の座面を前記収容溝の奥側の内壁面の高さに配置する請求項1に記載の抜止め部材の挿入方法。
【請求項3】
流体管を取り囲んで装着される環状のハウジングに形成された収容溝に、前記流体管の外周面に係止可能な抜止め部材を挿入する抜止め部材の挿入装置において、
前記抜止め部材を内側から押圧する一対の押込み部と、その一対の押込み部が互いに離間する方向に変位するように操作可能なハンドルと、前記ハウジングに対する相対位置を定める位置決め部と、を備えることを特徴とする抜止め部材の挿入装置。
【請求項4】
一端に柄部を有し且つ他端に前記押込み部を有する第一の部材と第二の部材とが、前記柄部と前記押込み部との間に位置する支点部にて回転可能に軸支され、前記ハンドルを構成する一対の前記柄部を近接又は離間させることにより、一対の前記押込み部が互いに離間する方向に変位する請求項3に記載の抜止め部材の挿入装置。
【請求項5】
前記位置決め部が前記ハウジングに管軸方向から当接するとともに、前記支点部が前記位置決め部に対して管軸方向に相対移動可能に構成されている請求項4に記載の抜止め部材の挿入装置。
【請求項6】
前記位置決め部が前記ハウジングと嵌合して径方向に係合する請求項3〜5いずれか1項に記載の抜止め部材の挿入装置。
【請求項1】
流体管を取り囲んで装着される環状のハウジングに形成された収容溝に、前記流体管の外周面に係止可能な抜止め部材を挿入する抜止め部材の挿入方法において、
前記収容溝の径方向に対向する二箇所に抜止め部材を仮置きする工程と、
前記ハウジングに挿入装置をセットし、その挿入装置が有する一対の押込み部を前記収容溝の内側に配置する工程と、
前記挿入装置のハンドル操作により一対の押込み部を互いに離間する方向に変位させ、その押込み部の各々によって仮置きした抜止め部材を押圧して前記収容溝に挿入する工程と、を備えることを特徴とする抜止め部材の挿入方法。
【請求項2】
前記抜止め部材を仮置きする工程の前に、管軸方向を上下にして据えた前記ハウジングに台座を挿入し、その台座の座面を前記収容溝の奥側の内壁面の高さに配置する請求項1に記載の抜止め部材の挿入方法。
【請求項3】
流体管を取り囲んで装着される環状のハウジングに形成された収容溝に、前記流体管の外周面に係止可能な抜止め部材を挿入する抜止め部材の挿入装置において、
前記抜止め部材を内側から押圧する一対の押込み部と、その一対の押込み部が互いに離間する方向に変位するように操作可能なハンドルと、前記ハウジングに対する相対位置を定める位置決め部と、を備えることを特徴とする抜止め部材の挿入装置。
【請求項4】
一端に柄部を有し且つ他端に前記押込み部を有する第一の部材と第二の部材とが、前記柄部と前記押込み部との間に位置する支点部にて回転可能に軸支され、前記ハンドルを構成する一対の前記柄部を近接又は離間させることにより、一対の前記押込み部が互いに離間する方向に変位する請求項3に記載の抜止め部材の挿入装置。
【請求項5】
前記位置決め部が前記ハウジングに管軸方向から当接するとともに、前記支点部が前記位置決め部に対して管軸方向に相対移動可能に構成されている請求項4に記載の抜止め部材の挿入装置。
【請求項6】
前記位置決め部が前記ハウジングと嵌合して径方向に係合する請求項3〜5いずれか1項に記載の抜止め部材の挿入装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−41945(P2012−41945A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181060(P2010−181060)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(396020361)株式会社水道技術開発機構 (113)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(396020361)株式会社水道技術開発機構 (113)
【Fターム(参考)】
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