説明

拡張性熱プラズマ蒸着装置

基体を被覆するための装置は、大気圧より低い圧力に維持された蒸着室、前記蒸着室に伴われた二つ以上の拡張性熱プラズマ源(14)を含む一つ以上の配列体、及び各配列体についてオリフィス(15)を含む少なくとも一つの注入器(13)を含む。基体を蒸着室中に配置し、各拡張性熱プラズマ源により中心軸を有するプラズマジェットを生じさせ、同時に注入器によりプラズマ中へ気化反応物を注入して基体上に蒸着された被覆を形成する。注入器オリフィスは、全体的に均一な被覆特性を有する被覆が一般に得られるように、拡張性熱プラズマ源から特定の距離以内に位置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2004年3月9日に出願された米国特許仮出願No.60/551,933の利権を主張するものであり、その全内容を参考のためここに組み入れる。
【0002】
本発明は、一般に大きな基体を均一な性質を有する被覆で被覆するための装置及び方法に関する。特に本発明は、拡張性熱プラズマ蒸着(expanding thermal plasma deposition)に関する。
【背景技術】
【0003】
機能性被覆で基体を被覆するために種々の技術が存在する。慣用的な熱(thermal)化学蒸着(CVD)及びスパッタリング及び蒸着のような物理的蒸着が用いられてきた。しかし、これらの技術は高い蒸着温度を必要とし、そのため被覆できる基体が限定され、更に、含まれる蒸着速度が非常に低い。最近これらの短所の幾つかを克服するためにプラズマ促進化学蒸着(PECVD)法が開発されてきた。PECVDは、一般にCVDではプラスチックのガラス転移温度よりも低い温度では使用できないポリカーボネートのようなプラスチック基体に材料を蒸着するのに用いることができる。PECVDでは、適用した電場がイオン化物質の形成を促進し、遥かに大きな%でイオン化物質を与え、それにより、低い蒸着温度、例えば室温のような低い温度を使用することが出来る。しかし、PECVDは、UV吸収性及び耐摩耗性層を被覆したポリカーボネートを含めた多くの用途で商業的に実施することができるような充分大きな蒸着速度を依然として一般には与えてはいない。更に、PECVDは、大きくて複雑な形をしたものに対しては実証されておらず、むしろ平面状基体、又は眼科用レンズのような非常に穏やかな曲率を有する非平面状基体に限定されてきた。
【0004】
ポリカーボネートを処理する別の方法には、ポリカーボネート基体にシリコーン硬質被覆(hardcoat)を適用することが含まれる。シリコーン硬質被覆は、例えば、シリコーン浴中にポリカーボネートを浸漬するか、又はポリカーボネートの上にシリコーンを噴霧することにより湿式法で適用される。シリコーン硬質被覆は、限定された耐摩耗性をポリカーボネートに与え、UV放射線を吸収する成分を含んでいてもよい。しかし、この方法は比較的遅い。なぜなら、シリコーン硬質被覆を乾燥し、硬化しなければならないが、それには数時間かかることがあり、シリコーン硬質被覆用溶液が限定された寿命しか持たないからである。更に、この方法は廃棄化学物質を発生し、適用、乾燥、及び硬化中、重力効果のため全体的に不均一な厚さを生ずる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述から分かるように、大きな領域及び複雑な形のものを覆って均一な被覆特性を与える装置及び方法に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(要約)
本発明は、基体を被覆するための装置(system)及び方法に関する。その装置は、大気圧より低い圧力(sub−atmospheric pressure)に維持された蒸着室、その蒸着室に伴われた二つ以上の拡張性熱プラズマ(ETP)源、及び少なくとも一つの注入器を含む。基体を蒸着室中に配置し、各ETP源から中心軸を有するプラズマジェットを発生させると共に、注入器から気化反応物をそのプラズマ中へ注入し、基体上に蒸着する被覆を形成する。反応物の注入は、その反応物の注入が不均一になることがあっても、全体的に均一な被覆特性を有する被覆が一般に得られるように、中心軸から特定の距離内に位置する。
【0007】
他の利点の中で、本発明は、大きな蒸着速度、低い蒸着温度、及び複雑な形のものの大きな領域に亙って全体的に均一な性質を与えることができる。
【0008】
本発明の更に別の特徴及び利点が、次の記載及び特許請求の範囲から容易に明らかになるであろう。
【0009】
詳細な記述
先ず図1A及び1Bに関し、そこには被覆場所10が示されており、そこでは基体12が、その被覆場所を通って一定の直線経路に従って移動する。移動方向は、図1Aに関し左から右であり、図1Bに関しては頁中へ入る方向である。基体を被覆場所10を通って移動させるのに、どのような適切な機構を用いてもよい。基体12は自動車乗り物のための部品でもよい。例えば、基体は後部窓又は屋根のパネルでもよい。基体12はポリカーボネートを含んでいてもよい。基体を形成するのに適したポリカーボネートは、一般に次の式の反復単位を含む:
【0010】
【化1】

【0011】
式中、Rは、重合体生成反応で用いられた二価フェノールの二価芳香族ラジカル(例えば、ビスフェノールAとしても知られている2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−プロパンのラジカル)であるか;又は有機ポリカルボン酸(例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等)である。これらのポリカーボネート樹脂は、一種類以上の二価フェノールと、ホスゲン、ハロホルメート、又はカーボネートエステルのようなカーボネート前駆物質との反応により製造することができる芳香族カーボネート重合体である。用いることができるポリカーボネートの一つの例は、コネチカット州フェアフィールドのゼネラル・エレクトリック社(General Electric Company)(GE)により製造されているレキシアン(LEXAN)(登録商標名)である。
【0012】
芳香族カーボネート重合体は、例えば、米国特許第3,161,615号、第3,220,973号、第3,312,659号、第3,312,660号、第3,313,777号、第3,666,614号、第3,989,672号、第4,200,681号、第4,842,941号、及び第4,210,699号明細書(それら全ては参考のため全体的にここに入れてある)に記載されているような方法により製造することができる。
【0013】
基体12には、カーボネート前駆物質、二価フェノール、及び二カルボン酸又はそれのエステル形成誘導体を反応させることにより製造することができるポリエステルカーボネートが含まれていてもよい。ポリエステルカーボネートは、例えば、米国特許第4,454,275号、第5,510,448号、第4,194,038号、及び第5,463,013号明細書(それらは参考のため全体的にここに入れてある)に記載されている。
【0014】
基体は、熱可塑性又は熱硬化性材料を含んでいてもよい。適当な熱可塑性材料の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリメタクリレートエステル、ポリアクリル酸、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、セルロース樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、フッ素含有樹脂、及びポリスルホンが含まれる。適当な熱硬化性材料の例には、エポキシ及び尿素メラミンが含まれる。
【0015】
アクリル重合体は、基体12を形成することができる別の材料である。アクリル重合体は、メチルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート等のような単量体から製造することができる。ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、及びn−ブチルアクリレートのような置換アクリレート及びメタクリレートも用いることができる。
【0016】
ポリエステルも基体12を形成するのに用いることができる。ポリエステルは、有機ポリカルボン酸(例えば、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、アジピン酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、ドデカン二酸等)又はそれらの無水物を、第一級又は第二級ヒドロキシル基を含む有機ポリオール(例えば、エチレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、及びシクロヘキサンジメタノール)でポリエステル化することにより製造することができる。
【0017】
ポリウレタンは、基体を形成するのに用いることができる別の種類の材料である。ポリウレタンは当分野でよく知られており、ポリイソシアネートとポリオールとの反応により製造される。有用なポリイソシアネートの例には、ヘキサメチレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、MDI、イソホロンジイソシアネート、及びビウレット、及びこれらジイソシアネートのトリイソシアヌレートが含まれる。有用なポリオールの例には、低分子量脂肪族ポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、脂肪アルコール等が含まれる。
【0018】
基体12を形成することができる他の材料の例には、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン、ガラス、バロックス(VALOX)(登録商標名)(ゼネラル・エレクトリック社から入手することができるポリブチレンフタレート)、キセノイ(XENOY)(登録商標名)〔ゼネラル・エレクトリック社から入手できるレキサン(LEXAN)(登録商標名)とバロックスとの混合物〕等が含まれる。
【0019】
基体は他の機能性被覆を含んでいてもよい。例えば、基体は、シリコーン硬質被覆(hardcoat)及び下塗り剤を含んでいてもよく、それらの機能は、接着性、UV濾波性、及び幾らかの耐摩耗性を与えることにある。硬質被覆として用いることができる有機珪素組成物の例は、一般式:
SiZ(4−n)
(式中、Rは、一価炭化水素ラジカル、又は一価ハロゲン化炭化水素ラジカルを表し、Zは加水分解可能な基を表し、nは0〜2の間で変化させることができる)
により表される化合物である。特にZは、ハロゲン、アルコキシ、アシルオキシ、又はアリールオキシのようなものであるのが典型的である。そのような化合物は、例えば、シュレーテル(Schroeter)その他による米国特許第4,224,378号明細書(それらの全内容は参考のためここに入れてある)に記載されている。
【0020】
用いることができる有機珪素の別の例には、式:
Si(OH)
(式中、Rは、約1〜約3個の炭素原子を有するアルキルラジカル、ビニルラジカル、3,3,3−トリフルオロプロピルラジカル、γ−グリシドキシプロピルラジカル、γ−メタクリロキシプロピルラジカルを含む群から選択される)
を有するシラノールが含まれ、そのシラノールの少なくとも約70重量%はCHSi(OH)である。そのような化合物は、米国特許第4,242,381号明細書(これは参考のため全体的にここに入れてある)
に記載されている。
【0021】
他の機能性被覆には、無機UVフィルター、湿分及び酸素障壁、赤外線(IR)反射性被覆、反射防止用(AR)被覆、透明伝導性酸化物(TCO)、平面化層、曇り防止剤、ブラックアウトインク(black out ink)等が含まれる。典型的なUVフィルターには、ZnO、ZnS、TiO、CeO、SnO、及びこれらの材料の組合せが含まれる。それらは、UV吸収性、水浸漬安定性、及び電気伝導性を改良するため、例えば、Al、In、F、B、及びNがドープされていてもよい。典型的な湿分及び酸素障壁には、SiO、Si、TiO、Al、AlN、及びこれらの材料の組合せが含まれる。典型的なIR反射性被覆には、SiO、Si、TiO、ZnO等のような屈折率の大きな及び小さな誘電体材料の多層積層体が含まれる。別のIR反射性被覆には、これら誘電体材料と、Al及びAgのような金属との多層積層体が含まれる。TCOの例には、アルミニウムドープZnO(AZO)、インジウムドープZnO(IZO)、インジウム錫酸化物(ITO)等が含まれる。
【0022】
基体12は、慣用的やり方で、例えば、射出成形、押出し、冷間形成、真空形成、吹き込み成形、圧縮成形、転写成形、熱形成等により形成することができる。物品はどのような形をしていてもよく、完成した市販物品である必要はない。即ち、それはシート材料又はフイルムでもよく、それを最終物品へ切削又は寸法合わせをするか、或は機械的に成形する。基体は透明でも、透明でなくてもよい。基体は堅くても可撓性でもよい。
【0023】
基体は、もし望むならば、例えば、種々の水性石鹸及びクリーナー、或はイソプロピルアルコールのような溶媒で洗浄し、場合により約80℃で一晩真空乾燥した後、プラズマ蒸着にかけてもよい。基体は、プラズマ前処理クリーニング工程(「エッチング」とも呼ばれている)によりその場でクリーニングすることもでき、その場合、蒸着する前に基体の表面にある汚染物を除去するか又は酸化するため、アルゴン又はアルゴンと酸素を用いてプラズマを発生させる。
【0024】
被覆場所10は、その被覆場所10の両側上にETP源14の配列体、アノード15、及びカソード17(図2D)のみならず、付随する反応物マニホルド、酸素マニホルド13を含む。被覆場所10には、基体が被覆場所に入る前にそれを加熱するため、被覆場所の上流に位置する一つ以上のヒーターを伴っていてもよい。更にプラズマ被覆能力を与えるように、被覆場所10の下流に追加の被覆場所を配置してもよく、その場合、別のヒーターを、それら二つの場所の間に配置していてもよい。
【0025】
被覆場所10を作動させている間、ETP源14に、アルゴンのような不活性ガスをカソード中に供給するのが典型的であり、そこでそれは部分的にイオン化し、基体12の方へ向けられたプラズマジェット20として(各ETP源から)真空蒸着室11中に放出される。被覆反応物及び酸素8は、夫々のマニホルド13に分布したオリフィス15により、プラズマ中に蒸気状で注入される。
【0026】
接着性耐摩耗性層被覆を形成するためにプラズマ中に注入することができる材料の例には、有機珪素の外、エチルベンゼンのような炭化水素及びブタンのような直鎖炭化水素が含まれる。ここで用いられる「有機珪素(organosilicon)」とは、少なくとも一つの炭素原子に少なくとも一つの珪素原子が結合した有機化合物を包含していることを意味し、シリコーン材料のみならず、一般にシラン、シロキサン、シラザン、及び有機シリコーンと呼ばれている材料が含まれる。被覆場所10で用いるのに適した有機珪素の多くは、K.サウンダーズ(Saunders)による「有機重合体の化学」(Organic Polymer Chemistry)〔チャップマン・アンド・ホール社(Chapman and Hall Ltd.)、1973〕(その全体的内容は参考のためここに入れてある)に記載されている。接着性層及び/又は耐摩耗性層を形成するための有機珪素前駆物質の例には、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン(V−D4)、テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、ジメチルジメトキシシラン(DMDMS)、及びヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、及びビニルトリメチルシラン(VTMS)が含まれる。
【0027】
機能性被覆及び付随前駆物質の例には次の物が含まれる:ジメチル亜鉛(DMZ)、ジエチル亜鉛(DEZ)、亜鉛蒸気、四塩化チタン、チタンアルコキシド、セリウムアルコキシド及びジケトネートからの無機UVフィルター;トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、アルミニウムアルコキシド、アルミニウム蒸気、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、インジウムジケトネートからのドーパント及び誘電体;ビニルトリメチルシラン(VTMS)、シラン、錫アルコキシド及びジケトネートからのTCO。有用な酸化剤には、酸素、水、アンモニア、硫化水素、ヘキサメチルジシルチアン、フッ化物、CF、及びNFが含まれる。
【0028】
一つの耐摩耗性層被覆は、接着性と耐摩耗性層との妥協点を含むが、二つ以上の組成物の多層耐摩耗性被覆によりその両方の必要条件を満たすことができる。典型的には、第一層を、その後に続く層の場合よりも注入される酸素を少なくして蒸着する。これにより、有機珪素の酸化度を低くする結果になり、典型的には、一層低い酸素含有量を有し、一層軟質で、水浸漬試験で一層よい性能を示す被覆を与える結果になる。そのようなものとして、下に記載する例では、二つ以上の耐摩耗性層を有し、少なくとも第一層で異なった酸素含有量を有するものを形成した。
【0029】
本発明に従い、被覆場所10で、基体12の大きな領域に亙り均一な性質を有する被覆を蒸着する。複数のETP源14を用いて均一な被覆特性を得るため、ETP源から特定の距離内で反応物を注入する。
【0030】
図2A〜2Eに示したように、この方法は、環状マニホルド30、レーストラック状マニホルド32、直管状マニホルド34、又は一点管状注入器(single−point tube injector)36を用いて実施し、大きな表面積及び複雑な形を有する基体を覆って、厚さ、耐摩耗性、及び浸漬後の接着性のような均一な被覆特性を達成することができる。これは、夫々の部品について被覆操作中処理パラメーターを変化させる煩瑣な操作及びETP源を個々に調節することなく達成することができる。或る実施法として、ETP源14を約6インチづつ離し、注入器のオリフィスを、ETPオリフィスから約0.1〜4インチ以内、好ましくはETPオリフィスから約2インチ以内に配置する。
【0031】
被覆した基体が外の気候に曝される自動車窓のような多くの用途では、UV放射線に長期間曝しても被覆がテーバー(Taber)耐摩耗性を維持するのが有利である。本願と同時に出願された特許出願(代理人文書番号11745−089)には、耐摩耗性の劣化が被覆のUV吸収性(absorbency)に関係していることが論じられている。このように、或る実施では、被覆は、300nmで0.02μm−1より小さい、低いUV吸収性を与えるのが好ましい。
【0032】
本発明の種々の特徴を、次の実施例により例示するが、それらの実施例は本発明の範囲に対する限定として見做されるべきではない。
【0033】
例1
この例では、ゼネラル・エレクトリックから入手できるレキサンMR10シートを、プラズマ重合及び酸化D4で被覆した。被覆処理では、水平面内で約16cm離して配置した二つの静止ETP源14を用いて、基体の約64inを覆うようにした。4つの4in×4in試料(平板)39を、図3に示したように、アルミニウム保持器上に取付けた。基体を約2.3cm/秒の走査速度でETP源14に対し垂直に移動させた。四角形40は、珪素チップの典型的な位置を示している。これらのチップの上の被覆厚さを、偏光法により測定した。珪素チップは、被覆厚さのプロファイルを生じさせる実験中、垂直及び水平の両方の直線上で基体に沿って1in毎に配置した。陰影42は、65℃の水に3日間浸漬する前及び後で被覆の接着性を測定した場所である。リング44は、ASTM D1044テーバー摩耗試験後のテーバー輪の軌跡を示している。テーバー摩耗試験は、CS10F輪を用い1000サイクル行なわれた。垂直の点線は、基体を移動させた時の夫々のETP源14の中心線の通路を示している。ETP源の中心線の通路は、図4〜7の垂直点線によっても示されていることに注意されたい。
【0034】
基体を、約120℃に予熱した後、蒸着した。被覆は2工程で適用した。第一層については、プラズマ条件は、1.65標準リットル・分(slm)のアルゴン、0.3slmの酸素、0.19slmのD4、及び各アークへの70アンペアであった。第二層については、条件は同じであったが、但し酸素流量を1.0slmへ増大した。ETP源14のアノードから基体への距離(即ち、作用距離WD)は、約25.5cmであった。二つの工程の間の時間のずれは約1分であった。全ての例でアルゴンをカソード室へ供給した。この例ではD4及び酸素を、各ETP源のアノードから約1 1/8インチ下流に位置し、ETP源の中心線に対し同心円状に配置した丸い環を通してプラズマ中へ注入した。D4の注入は、図2Aに示したように、環の回りに等間隔にある約0.04インチの12個のオリフィスを通してETP源中心線から約2インチの所で行われた。酸素の注入は別の同様な環を通して行われたが、その環は、基体に近い方の側で、反応物環の方へ直接向けて配置されていた。
【0035】
図4には、基体を横切る被覆厚さの均一性を表すグラフが示されている。図に示されているように、被覆の厚さはどこでも平均厚さの約10%以内にあった。ASTM D3359クロスハッチ試験(cross hatch test)により測定して、初期被覆接着性は5Bであり、水浸漬後の平均接着性は4.2Bであった。被覆のテーバー△曇りは、三つの実験からの12枚の板について2%〜6%で、平均4.1%±1.2%(±は標準偏差を示している)であった。
【0036】
例2
方法は例1の場合と同様であったが、図2Bに示すように、D4を注入するのに一つのレーストラック状マニホルド32を用いた。酸素の注入は、別ではあるが同様なレーストラックを通して行い、それは基体に近い方の側で4Dレーストラックの方に直接向けて配置されていた。レーストラック32には、最も近接した所でETP中心線から約2インチの所で両方のETP源を囲んでいた。レーストラック面は、アノード面の約1 1/8インチ下流にあった。この例では、D4は、レーストラックに沿って約0.5インチ離れて均一に間隔をあけた約0.04インチのオリフィスを通して注入され、前記レーストラックの各直線部分に沿って約11.5インチの全距離を覆っていた。
【0037】
図5は、ETP中心線と比較してETP源間の重複領域中では、被覆厚さは45%一層厚くなっていたことを示している。被覆は、水浸漬後、3.1Bの平均接着性を有し、非常に高い1.0Bの標準偏差値を有し、幾つかの領域では2Bより小さい接着性を持っていた。テーバー均一性は例1の場合と同じであり、四つの実験からの8枚の板について2%〜6%の△曇り値及び4.4%±1.8%の平均△曇りを持っていた。例1と2とを比較すると、注入場所が被覆の接着性及び厚さの均一性に影響を与えることが実証されている。
【0038】
例3
注入法は例2の場合と同様であった。但し、図2Cに例示したように、ETPオリフィスから1.8インチ半径以内に位置するオリフィスだけを用いて酸素及びD4を注入した。図6は、図5と比較して、被覆厚さがどこでも平均厚さの約10%以内にある一層均一な被覆が得られた。この被覆もよく接着されており、四つの実験からの10枚の板全てが5Bの初期接着性を示し、3日間水浸漬後、3.6B±0.6B接着性の平均値を示していた。平均値が1.9%、標準偏差が±0.6%の非常に低い優れたテーバー摩耗の均一性が達成された。
【0039】
例4
方法は例2の場合と同様であったが、0.25インチの外径及び0.156インチの直径の注入孔37を有する1本の管36で、図2D及び2EI例示したように、アノードから11/8インチ下流に位置する管を通してD4及び酸素の両方を注入した。図7に示したように、被覆厚さはどこでも平均厚さの約5%以内であった。テーバー均一性も非常に良好で、2%〜4%の値、3.3%の平均値、及び0.8%の低い標準偏差を持っていた。更に、4枚の板で試験した全ての場所で、5Bの初期接着性規格及び水浸漬後4.0Bの接着性を持っていた。
【0040】
例1、3、及び4を、例2と比較すると、被覆厚さの均一性、テーバー摩耗性、水浸漬後の接着性について、反応物、特に有機珪素をETP源14のオリフィスから半径約2インチ以内で注入するのが望ましいことが実証されている。比較例2で代表されるPECVD蒸着で典型的に行われている均一な注入は、ばらばらなETP源と組合せた場合、不均一な厚さ及び良くないテーバー摩耗性及び水浸漬性能を与える結果になる。
【0041】
例5
例5の方法は、例1で用いたのと同じであるが、但し三つの耐摩耗性層を適用した。第一層は、例1の層1と同様であり、0.3slmの酸素を用い、第二及び第三層は、例1の層2と同様であり、1.0slmの酸素を用いた。3.5μの平均厚さが得られ、テーバー△曇りは、2.69%±0.3%に改善された。このテーバー△曇りは、平均4.3%±1.2%である例1のテーバーと比較すると、一層低くかつ一層均一になっている。
【0042】
例6
この例の方法は例1のものと同様であったが、ZnO被覆を蒸着した。アルゴン流量及びETP電力は同じであり、加熱蒸発器からの蒸気としての亜鉛は0.5slmで供給した。酸素流量は5slmであった。平均厚さ0.5μのZnO被覆が得られた。UV吸光度は350nmで3であった。
【0043】
例7
この例の方法は例1のものと同様であったが、湿潤被覆を持たないPC基体を用いた。次の条件で接着性層を蒸着した:1.65slmのアルゴン、30A、酸素無し、45ミリトールで0.03slmのV−D4。平均0.3μの厚さの被覆が得られた。水浸漬性能は、14日後、5Bであった。
【0044】
例8
例1で用いた方法に従いポリカーボネートの上に6層の被覆を蒸着した。第一層は、例7のものと同様な接着性層であった。第二被覆は、例6で用いた方法に従い蒸着したZnOのUV吸収性層であった。第三層は、例1で用いた方法に従い、0.3slmの酸素を用いて蒸着したD4耐摩耗性層であった。層4〜6は、例1の方法に従い、0.8slmの酸素を用いて蒸着した耐摩耗性層であった。得られた被覆は、約7μの厚さで、テーバー△曇りは2%より低く、3日水浸漬試験に合格した。
【0045】
他の態様も次の特許請求の範囲内に入る。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1において、図1Aは、本発明の態様に従いETP源及び注入マニホルドを具えた被覆場所の前面図であり、図1Bは、図1Aの被覆場所の側面図である。
【図2】図2において、図2Aは、本発明に従う環状注入器を具えた別のETP源の構成を示す図であり、図2Bは、本発明に従うレーストラック状注入器を具えた別のETP源の構成を示す図であり、図2Cは、本発明に従う直管状マニホルド注入器を具えた更に別のETP源の構成を示す図であり、図2D及び2Eは、本発明に従う一点管状注入器を具えたETP源の、夫々、上面図及び前面図である。
【図3】図3は、基体設定の前面図である。
【図4】図4は、二つのETP源及び環状注入器を用いた場合の、基体上の被覆厚さのプロファイルを示すグラフである。
【図5】図5は、二つのETP源及び均一に分布させたオリフィスを有するレーストラック状注入器を用いた場合の、基体上の被覆厚さのプロファイルを示すグラフである。
【図6】図6は、各ETP源のアノードオリフィスから僅か1.8インチ以内に注入オリフィスを有する二つのETP源及びレーストラック状注入器を用いた場合の、基体上の被覆厚さのプロファイルを示すグラフである。
【図7】図7は、二つのETP源及び一点管状注入器を用いた場合の基体上の被覆厚さのプロファイルを表すグラフである。
【図1A】

【図1B】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】

【図2E】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体を被覆する方法において、
二つ以上のETP源で、夫々アノードを含むETP源からプラズマを発生させ、そして
前記プラズマ中へ気化反応物を注入して前記基体上に被覆を形成し、然も、前記反応物の注入が、ETP源のアノードオリフィスから特定の距離以内に位置し、前記基体を覆って一つ以上の均一な被覆特性を得る、
ことを含む基体被覆方法。
【請求項2】
均一な被覆特性が被覆の厚さである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
均一な被覆特性が被覆の耐摩耗性である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
均一な被覆特性が、水浸漬後の基体に対する被覆の接着性である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
被覆が、プラズマ重合し、酸化した有機珪素である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
有機珪素が、DMDMS、HMDSO、TMDSO、D4、及びD5からなる群から選択する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
被覆が、約300nmで約0.02μm−1より小さなUV吸収性を有する耐摩耗性被覆である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
異なった組成物の二つの耐摩耗性層を、基体の上に被覆する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
組成物が、酸素%及び硬度について異なっている、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
一層柔らかい層が、基体に近い方になっている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
三つ以上の耐摩耗性層を基体上に被覆する、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
一つの層が他の層よりも柔らかく、その柔らかい層が基体に最も近い、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
被覆が耐摩耗性層である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
接着性層を、V−D4、D4、D5、VTMS、HMDSO、DMDMS及びTMDSOからなる群から選択する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
基体がシリコーン硬質被覆を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
基体が、下地及びシリコーン硬質被覆を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
基体がプラスチックである、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
プラスチックがポリカーボネートである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
被覆が、接着性層及び耐摩耗性層を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
被覆が、無機UVフィルター、IR被覆、AR被覆、TCO、障壁被覆、及び一緒にした複数の層を含む機能性被覆である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
ETP源のオリフィスから半径約0.1〜4インチ以内に位置する注入器オリフィスを通して反応物をプラズマ中に注入する、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
ETP源アノードのオリフィスから2インチ以内で反応物をプラズマ中に注入する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
均一な被覆特性が、UV吸収性である、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
全体的に均一な性質を有する被覆で大きな面積の基体を被覆するための装置において:
基体が中に配置される蒸着室で、大気圧より低い圧力に維持された蒸着室;
前記蒸着室に伴われた二つ以上のETP源で、夫々のETP源がアノードを含み、中心軸を有するプラズマジェットを生ずるETP源;
前記基体上に蒸着される被覆を形成するために前記プラズマ中に、気化反応物を注入する少なくとも一つの注入器で、前記反応物の注入が前記ETP源のアノードから特定の距離以内に位置している注入器;
を含む、被覆装置。
【請求項25】
気化反応物が、ETP源から離れた注入器からプラズマ中に注入される、請求項24に記載の装置。
【請求項26】
注入器が、複数のオリフィスを有する環状マニホルドである、請求項24に記載の装置。
【請求項27】
注入器が、複数のオリフィスを有するレーストラック状マニホルドである、請求項24に記載の装置。
【請求項28】
注入器が、複数のオリフィスを有する直管型マニホルドである、請求項24に記載の装置。
【請求項29】
注入器が、一点オリフィスである、請求項24に記載の装置。
【請求項30】
ETP源のオリフィスから半径約0.1〜4インチ以内に位置する注入器オリフィスを通して気化反応物を注入する、請求項24に記載の装置。
【請求項31】
ETP源のオリフィスから半径2インチ以内に位置する注入器オリフィスを通して気化反応物を注入する、請求項30に記載の装置。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−528446(P2007−528446A)
【公表日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−502916(P2007−502916)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【国際出願番号】PCT/US2005/007501
【国際公開番号】WO2005/087977
【国際公開日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(505365404)エクスアテック、エル.エル.シー. (51)
【Fターム(参考)】