説明

振動子検査方法、および振動子検査装置

【課題】スプリアスで発振する振動子を判別することができる振動子検査方法および振動子検査装置を提供する。
【解決手段】検査対象の振動子の周波数に対するインピーダンスを測定して、主振動及びスプリアスのインピーダンスを得る(第1工程)。第1工程で得た主振動及びスプリアスのインピーダンスを基に、主振動及びスプリアスのリアクタンスと抵抗とを求める(第2工程)。第2工程で求めた主振動のリアクタンスに対する抵抗と、スプリアスのリアクタンスに対する抵抗とを比較し、前記検査対象の振動子が接続され得る発振回路の負荷容量範囲に対応するリアクタンスにおいて主振動の抵抗よりも小さい抵抗を示すスプリアスが存在する場合に、スプリアスで発振すると判定する(第3工程)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振回路に接続されて発振する際にスプリアスで発振する振動子を判別するための振動子検査方法、および振動子検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波振動子では、主振動以外の発振、具体的には、インハーモニックスプリアス(非調和副振動)による発振を回避することが重要であり、近年、振動子のスプリアスを抑制するための各種方法が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、矩形の圧電振動基板の少なくとも一方の主面の振動領域内に、少なくとも外径側に位置する第1の平面部と、該第1の平面部の内径側に位置し且つ前記第1の平面部よりも厚さ方向外側へ突出した略楕円形状の第2の平面部と、該第2の平面部の内径側に位置し且つ厚さ方向外側へ突出した略楕円形状の第3の平面部とを設け、略楕円形状の第2及び第3の平面部の夫々の焦点間を結ぶ線分の中点が、圧電振動基板の振動領域の中心に位置するようにして構成された圧電振動素子が開示されている。
【0004】
この特許文献1に開示の圧電振動素子では、変動変位分布が振動領域の中央部に集中して、圧電振動基板の周縁での振動変位が極めて小さくなるため、圧電振動素子のQ値が高まると共に、圧電振動基板端部における高次輪郭変動への変換が大幅に低減され、この結果、スプリアスの発生が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−205516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の圧電振動素子によっても、スプリアスの発生を完全に抑制することは困難であり、そのような圧電振動素子を有する振動子は、スプリアスで発振する可能性がある。
【0007】
このため、発振回路に振動子を接続して発振器を製造する際には、予め、その発振器においてスプリアスで発振する振動子を不良品として選別しておく必要があった。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、スプリアスで発振する振動子を判別することができる振動子検査方法、および振動子検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係る振動子検査方法は、スプリアスで発振する振動子を判別する振動子検査方法であって、検査対象の振動子の周波数に対するインピーダンスを測定して、主振動及びスプリアスのインピーダンスを得る第1工程と、前記第1工程で得た主振動及びスプリアスのインピーダンスを基に、主振動及びスプリアスのリアクタンスと抵抗とを求める第2工程と、前記第2工程で求めた主振動のリアクタンスに対する抵抗と、スプリアスのリアクタンスに対する抵抗とを比較し、前記検査対象の振動子が接続され得る発振回路の負荷容量範囲に対応するリアクタンスにおいて主振動の抵抗よりも小さい抵抗を示すスプリアスが存在する場合に、スプリアスで発振すると判定する第3工程とを有することを特徴とする。
【0010】
この方法によれば、振動子の周波数に対するインピーダンスを1回測定して、この測定結果に基づいて得られる主振動のリアクタンスに対する抵抗と、スプリアスのリアクタンスに対する抵抗とを比較するだけで、検査対象の振動子に負荷されると想定される負荷容量範囲の全範囲にわたって、簡単かつ正確に、その振動子がスプリアスで発振するか否かを判別することができる。
【0011】
この本発明に係る振動子検査方法は、前記第3工程においてスプリアスで発振しないと判定した振動子を再検査する第4工程を更に有してもよく、前記第4工程は、再検査対象の前記振動子に直列に負荷容量を接続した状態で、前記振動子の周波数に対するインピーダンスの測定を行う測定工程を有し、前記測定工程では、前記負荷容量を可変させ、可変させた前記負荷容量毎に、前記インピーダンスの測定を行い、少なくとも1回の前記インピーダンスの測定の結果が、主振動よりもインピーダンスの絶対値が小さいスプリアスの存在を示す場合に、スプリアスで発振すると判定してもよい。
【0012】
この場合には、検査対象の振動子に負荷されると想定される負荷容量範囲の全範囲にわたって、簡単かつ正確に、その振動子がスプリアスで発振するか否かを判別することができるとともに、その判別の精度を高めることができる。
【0013】
また、上記課題を解決するため、本発明に係る他の振動子検査方法は、スプリアスで発振する振動子を判別する振動子検査方法であって、検査対象の振動子に直列に負荷容量を接続した状態で、前記振動子の周波数に対するインピーダンスの測定を行う測定工程を有し、前記測定工程では、前記負荷容量を可変させ、可変させた前記負荷容量毎に、前記インピーダンスの測定を行い、少なくとも1回の前記インピーダンスの測定の結果が、主振動よりもインピーダンスの絶対値が小さいスプリアスの存在を示す場合に、スプリアスで発振すると判定することを特徴とする。
【0014】
この方法によれば、振動子に負荷される容量の異なる複数のインピーダンス測定の結果に基づき、検査対象の振動子がスプリアスで発振するか否かを正確に判別することができる。また、振動子に容量が負荷された時のインピーダンスの測定値を用いて判別を行うため、検査対象の振動子がスプリアスで発振するか否かの判別の精度を高めることができる。
【0015】
また、上記課題を解決するため、本発明の振動子検査装置は、スプリアスで発振する振動子を判別する振動子検査装置であって、検査対象の振動子の周波数に対するインピーダンスの測定を行う第1測定部と、前記第1測定部での前記インピーダンスの測定の結果を取得して、主振動及びスプリアスのインピーダンスを得る第1取得部と、前記第1取得部で得た主振動及びスプリアスのインピーダンスを基に、主振動及びスプリアスのリアクタンスと抵抗とを求める第1演算部と、前記第1演算部で求めた主振動のリアクタンスに対する抵抗と、スプリアスのリアクタンスに対する抵抗とを比較し、前記検査対象の振動子が接続され得る発振回路の負荷容量範囲に対応するリアクタンスにおいて主振動の抵抗よりも小さい抵抗を示すスプリアスが存在する場合に、スプリアスで発振すると判定する第1判定部とを有することを特徴とする。
【0016】
この装置によれば、振動子の周波数に対するインピーダンスを1回測定して、この測定結果に基づいて得られる主振動のリアクタンスに対する抵抗と、スプリアスのリアクタンスに対する抵抗とを比較するだけで、検査対象の振動子に負荷されると想定される負荷容量範囲の全範囲にわたって、簡単かつ正確に、その振動子がスプリアスで発振するか否かを判別することができる。
【0017】
また、上記課題を解決するため、本発明の他の振動子検査装置は、スプリアスで発振する振動子を判別する振動子検査装置であって、検査対象の振動子に直列に負荷容量を接続した状態での前記振動子の周波数に対するインピーダンスの測定を行う第2測定部と、前記第2測定部での前記インピーダンスの測定の結果を取得する第2取得部と、前記第2取得部で取得した前記インピーダンスの測定の結果に基づいて、スプリアスで発振するか否かを判定する第2判定部とを有しており、前記第2取得部は、前記負荷容量を可変させ、可変させた前記負荷容量毎に前記第2測定部で実施された前記インピーダンスの測定の結果を全て取得し、前記第2判定部は、前記第2取得部が取得した少なくとも1回の前記インピーダンスの測定の結果が、主振動よりもインピーダンスの絶対値が小さいスプリアスの存在を示す場合に、スプリアスで発振すると判定することを特徴とする。
【0018】
この装置によれば、振動子に負荷される容量の異なる複数のインピーダンス測定の結果に基づき、検査対象の振動子がスプリアスで発振するか否かを正確に判別することができる。また、振動子に容量が負荷された時のインピーダンスの測定値を用いて判別を行うため、検査対象の振動子がスプリアスで発振するか否かの判別の精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、スプリアスで発振する振動子を正確に判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1に係る振動子検査装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、実施の形態1に係る振動子検査方法において、検査対象とする水晶振動子の概略構成を示す概略断面図である。
【図3】図3は、図2に示す水晶振動子が接続された水晶発振回路の一例を示す回路図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態1に係る振動子検査方法により、不良品と判定される水晶振動子の周波数インピーダンス特性の一例を示すグラフ図である。
【図5】図5は、図4に示す周波数インピーダンス特性に基づいて作成されたインピーダンスチャートである。
【図6】図6は、本発明の実施の形態1に係る振動子検査方法により、不良品と判定される水晶振動子の周波数インピーダンス特性の一例を示すグラフ図である。
【図7】図7は、図6に示す周波数インピーダンス特性に基づいて作成されたインピーダンスチャートである。
【図8】図8は、本発明の実施の形態1に係る振動子検査方法により、良品と判定される水晶振動子の周波数インピーダンス特性の一例を示すグラフ図である。
【図9】図9は、図8に示す周波数インピーダンス特性に基づいて作成されたインピーダンスチャートである。
【図10】図10は、本発明の実施の形態2に係る振動子検査装置の概略構成を示すブロック図である。
【図11】図11は、本発明の実施の形態2に係る振動子検査方法により、不良品と判定される水晶振動子の周波数インピーダンス特性の一例を示す図である。
【図12】図12は、本発明の実施の形態2に係る振動子検査方法により、良品と判定される水晶振動子の周波数インピーダンス特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態1及び2について図面を参照して説明する。
【0022】
なお、実施の形態1及び2において、検査対象の振動子は特に限定されるものではないが、以下の実施の形態1及び2に係る説明においては、図3に示す水晶発振回路3に接続される水晶振動子1(図2参照)を、検査対象の振動子とした場合を例に挙げて説明する。
【0023】
水晶振動子1は、図2に示すように、封止部材17を介して接合されたベース12と蓋13とにより形成されたパッケージ内に、ATカット水晶片からなる水晶振動片11が気密封止された構成とされている。ここで、水晶振動片11の両主面には、励振電極14,15が設けられており、水晶振動片11は、導電性接着剤や金バンプ、メッキバンプ等の導電性接合材16を介してベース12に接合されている。
【0024】
この水晶振動子1は、例えば、図3に示す水晶発振回路3に接続される。
【0025】
水晶発振回路3は、発振用トランジスタQ1と、抵抗R1,R2と、コンデンサC2,C3と、コイルL1とにより構成された発振回路部31を備えている。この発振回路部31において、発振用トランジスタQ1のベースには、コンデンサC2の一方の端子と、抵抗R2の一方の端子とが接続されている。また、コンデンサC2の他方の端子には、コンデンサC3の一方の端子が接続されており、この接続点がコンデンサC1を介して出力バッファに接続されている。また、発振用トランジスタQ1のエミッタには、コイルL1の一方の端子が接続されている。さらに、発振用トランジスタQ1のコレクタには、抵抗R2の他方の端子と、抵抗R1の一方の端子とが接続されている。そして、抵抗R1の他方の端子が、電源電圧に接続されている。
【0026】
また、水晶発振回路3において、発振回路部31の一方の端子には、コンデンサC4の一方の端子が接続されており、発振回路部31の他方の端子とコンデンサC4の他方の端子との間に抵抗R3が接続されている。これらコンデンサC4及び抵抗R3により、発振回路部31の負性抵抗が拡大される。また、コンデンサC4の他方の端子には、コンデンサC5の一方の端子が接続されている。そして、コンデンサC5の他方の端子には、周波数制御範囲を確保するためのコイルL2を介して、水晶振動子1の一方の端子が接続されている。そして、水晶振動子1の他方の端子が、抵抗R4,R5と、バリキャップダイオード(可変容量ダイオード)D1,D2とからなる周波数制御回路部32に接続されている。具体的には、水晶振動子1の他方の端子に、バリキャップダイオードD1の一方の端子が接続され、これらの接続点に抵抗R4が接続されている。そして、バリキャップダイオードD1の他方の端子にバリキャップダイオードD2の一方の端子が接続され、これらの接続点に抵抗R5を介して、周波数制御電圧が接続されている。さらに、バリキャップダイオードD2の他方の端子は、発振回路部31の他方の端子と抵抗R3の他方の端子との接続点に接続されている。また、水晶振動子1には、水晶振動子1のC0(並列容量)をキャンセルするコイルL3が接続されている。
【0027】
<実施の形態1>
本発明の実施の形態1に係る振動子検査装置10は、図1に示すように、検査対象の水晶振動子1の周波数に対するインピーダンス(周波数インピーダンス特性と称す。)を測定するための測定器2(本発明でいう第1測定部)と、この測定器2での測定結果を取得し、水晶振動子1がスプリアスで発振するか否かを判別する演算装置(PC)5と、演算装置5での判別結果を表示するための表示装置8と、演算装置5に各種情報を入力するための入力装置9とを備えている。
【0028】
測定器2は、検査対象の水晶振動子1の周波数インピーダンス特性を測定するネットワークアナライザであり、図1に示す検査対象の水晶振動子1の両端子に接続される。また、この測定器2は、演算装置5に常時接続(ネットワーク接続を含む)されている。
【0029】
また、演算装置5は、パーソナルコンピュータ(PC)で構成されており、測定器2と、表示装置8と、入力装置9とに接続されている。
【0030】
この演算装置5は、測定器2に周波数インピーダンス特性の測定の条件(例えば、測定する周波数範囲等の条件)を入力する条件設定部51と、測定器2に測定開始を指示する測定命令部52と、測定器2での測定結果を取得して、主振動及びスプリアスのインピーダンスを得る取得部53(本願発明でいう第1取得部)と、取得部53が得た主振動及びスプリアスのインピーダンスを基に、主振動及びスプリアスのリアクタンスと抵抗とを求める演算部54(本発明でいう第1演算部)と、演算部54での演算結果を基に、水晶振動子1がスプリアスで発振するか否かを判定し、その判定結果を表示装置8に出力する判定部55(本願発明でいう第1判定部)とを有している。
【0031】
また、表示装置8は、液晶ディスプレイ等で構成されており、演算装置5から出力された出力情報、例えば、判定部55から出力された判定結果を表示する。
【0032】
また、入力装置9は、キーボード等の操作部を備えており、演算装置5に対して、各種情報の入力を行うことが可能な構成とされている。
【0033】
本実施の形態1では、上記振動子検査装置10により、本実施の形態1に係る振動子検査方法が実現される。具体的には、上記振動子検査装置10により、検査対象の水晶振動子1の周波数インピーダンス特性を測定する第1工程と、この第1工程における測定で得た主振動及びスプリアスのインピーダンスを基に、主振動及びスプリアスのリアクタンスと抵抗とを求める第2工程と、この第2工程で求めた主振動及びスプリアスのリアクタンスに対する抵抗に基づいて、検査対象の水晶振動子1が、水晶発振回路3においてスプリアスで発振するか否かを判定する第3工程とが実現される。以下、第1乃至第3工程のそれぞれについて、詳述する。
【0034】
第1工程では、まず、検査対象の水晶振動子1の両端子を測定器2に接続する。そして、入力装置9を用いて、演算装置5に、周波数インピーダンス特性を測定する際の測定条件を入力する。入力装置9から演算装置5に測定条件が入力されると、条件設定部51は、その測定条件を測定器2に対して出力し、これにより、測定器2において、その測定条件が記憶される。次いで、測定命令部52が測定器2に対して測定開始命令を出力し、これにより、測定器2が、周波数インピーダンス特性の測定を開始する。測定器2での測定が終了すると、測定器2での測定結果が、測定器2から演算装置5へ出力される。この測定結果は、取得部53で取得され、これにより、主振動及びスプリアスのインピーダンスが得られる。
【0035】
例えば、第1工程では、図4、図6、及び図8のグラフ図に示すような周波数インピーダンス特性が、測定器(ネットワークアナライザ)2により測定される。これら図4、図6、及び図8に示すグラフ図において、横軸は周波数(MHz)を示し、縦軸は、インピーダンスの絶対値│Z│(Ω)を示している。なお、図4、図6、及び図8に示すグラフ図では、インピーダンスの絶対値を示しているが、測定器2ではベクトルインピーダンスを測定している。このベクトルインピーダンスは、一般に、インピーダンスの絶対値とインピーダンスの位相角との組合せ、または、インピーダンスの抵抗と、インピーダンスのリアクタンスとの組み合わせ等で表現される。
【0036】
そして、第2工程では、演算装置5の演算部54が、第1工程で測定された周波数インピーダンス特性の結果、即ち、取得部53で得た主振動のインピーダンス、及び、スプリアスのインピーダンスに基づいて、主振動及びスプリアスのリアクタンスと抵抗とを求める。具体的には、測定した周波数インピーダンス特性の結果に対して、図5、図7、及び図9に示すような、横軸を抵抗R(Ω)、縦軸をリアクタンスX(Ω)とするインピーダンスチャートを作成する。このインピーダンスチャートには、少なくとも、水晶振動子1が接続される水晶発振回路3(図3参照)の負荷容量範囲に対応するリアクタンスX(以下、「リアクタンスXの範囲」と称す)における抵抗Rを表示するようにする。なお、一般に、発振回路は、振動子の周波数に対応させて構成されるものである。そのため、発振回路の負荷容量範囲は、検査対象の振動子に依存する場合がある。
【0037】
なお、水晶発振回路3の負荷容量の上限値をCL1、下限値をCL2、水晶振動子1の周波数をf0で表わした場合、リアクタンスXの範囲は、下記〔式1〕で表わすことができる。
【0038】
〔式1〕
1/(2π*f0*CL1)≦X≦1/(2π*f0*CL2
例えば、水晶振動子1の周波数が621.95MHzで、この水晶振動子1が接続される水晶発振回路3の負荷容量の範囲が1〜12pFである場合、インピーダンスチャートには、図5、図7、及び図9に示すように、少なくともリアクタンスXの範囲20〜250Ωにおける抵抗Rを表示するようにする。
【0039】
そして、第3工程では、演算装置5の判定部55が、上記インピーダンスチャートを利用して、第2工程で演算部54が求めた主振動のリアクタンスに対する抵抗と、スプリアスのリアクタンスに対する抵抗とを比較し、検査対象の水晶振動子1が、スプリアスで発振するか否かを判定する。そして、この判定結果を上記インピーダンスチャートと共に、表示装置8に表示する。
【0040】
具体的には、第2工程で作成したインピーダンスチャートを参照し、上記リアクタンスXの範囲において主振動の抵抗よりも小さい抵抗を示すスプリアス又は主振動の抵抗と同じ抵抗を示すスプリアスが存在する場合には(即ち、上記リアクタンスXの範囲において、主振動の抵抗がスプリアスの抵抗と同じ又は主振動の抵抗がスプリアスの抵抗を上回る場合には)、「スプリアスで発振する」と判定し、検査対象の水晶振動子1を「不良品」と判定する。一方、上記リアクタンスXの範囲において主振動の抵抗よりも小さい抵抗を示すスプリアスが存在せず、上記リアクタンスXの範囲において主振動の抵抗と同じ抵抗を示すスプリアスも存在しない場合には(即ち、上記リアクタンスXの範囲において、主振動の抵抗が全てのスプリアスの抵抗を下回っている場合には)、「スプリアスで発振する」と判定し、検査対象の水晶振動子1を「良品」と判定する。
【0041】
一例として、上記リアクタンスXの範囲が20〜250Ωである場合において、上記第1工程で、図4に示す周波数インピーダンス特性が測定され、第2工程で、図5に示すインピーダンスチャートを得たとする。即ち、図4において、記号M1に示す主振動(以下、主振動M1という)のインピーダンスを基に、図5の記号M1の曲線で示す主振動M1のリアクタンスXに対する抵抗Rが求められたとする。同様に、例えば、記号S1に示すスプリアス(以下、スプリアスS1という)のインピーダンス、記号S2に示すスプリアス(以下、スプリアスS2という)のインピーダンスに基づいて、図5の記号S1の曲線で示すスプリアスS1のリアクタンスXに対する抵抗R、及び図5の記号S2の曲線で示すスプリアスS2のリアクタンスXに対する抵抗Rが求められたとする。この図5に示すインピーダンスチャートにおいて、主振動M1のリアクタンスXに対する抵抗Rを示す曲線M1と、スプリアスS2のリアクタンスXに対する抵抗Rを示す曲線S2は、リアクタンスXが約210Ωの点で交差しており、210Ωを超えるリアクタンスXで、主振動M1の抵抗RがスプリアスS2の抵抗Rを上回ることが認められる。即ち、210ΩのリアクタンスXで主振動M1の抵抗Rと同じ抵抗Rを示し、210Ωを超えるリアクタンスXにおいて主振動M1の抵抗Rよりも小さい抵抗Rを示すスプリアスS2の存在が認められる。このため、第3工程では、「スプリアスS2で発振する」と判定し、検査対象の水晶振動子1を「不良品」と判定する。
【0042】
他の例として、上記リアクタンスXの範囲が20〜250Ωである場合において、上記第1工程で、図6に示す周波数インピーダンス特性が測定され、第2工程で、図7に示すインピーダンスチャートを得たとする。即ち、図6において、主振動M1のインピーダンスを基に、図6の記号M1の曲線で示す主振動M1のリアクタンスXに対する抵抗Rが求められたとする。同様に、図6に示すスプリアスS1のインピーダンス、及びスプリアスS2のインピーダンスに基づいて、図7の記号S1の曲線で示すスプリアスS1のリアクタンスXに対する抵抗R、及び図7の記号S2の曲線で示すスプリアスS2のリアクタンスXに対する抵抗Rが求められたとする。この図7に示すインピーダンスチャートにおいて、主振動M1のリアクタンスXに対する抵抗Rを示す曲線M1と、スプリアスS1のリアクタンスXに対する抵抗Rを示す曲線S1は、リアクタンスXが約150Ωの点で交差しており、150Ωを超えるリアクタンスXで、主振動M1の抵抗RがスプリアスS1の抵抗Rを上回ることが認められる。即ち、約150ΩのリアクタンスXで主振動M1の抵抗Rと同じ抵抗Rを示し、150Ωを超えるリアクタンスXにおいて主振動M1の抵抗Rよりも小さい抵抗Rを示すスプリアスS1の存在が認められる。このため、第3工程では、「スプリアスS1で発振する」と判定し、検査対象の水晶振動子1を「不良品」と判定する。
【0043】
さらに他の例として、上記リアクタンスXの範囲が20〜250Ωである場合において、上記第1工程で、図8に示す周波数インピーダンス特性が測定され、第2工程で、図9に示すインピーダンスチャートを得たとする。即ち、図8において、主振動M1のインピーダンスを基に、図9の記号M1の曲線で示す主振動M1のリアクタンスXに対する抵抗Rが求められたとする。同様に、例えば、図8に示すスプリアスS1のインピーダンス、及びスプリアスS2のインピーダンスに基づいて、図9の記号S1の曲線で示すスプリアスS1のリアクタンスXに対する抵抗R、及び図9の記号S2の曲線で示すスプリアスS2のリアクタンスXに対する抵抗Rが求められたとする。この図9に示すインピーダンスチャートにおいては、主振動M1のリアクタンスXに対する抵抗Rを示す曲線M1は、いずれのスプリアスのリアクタンスXに対する抵抗Rを示す曲線(記号S1及びS2で示す曲線を含む)にも交差しておらず、20〜250ΩのリアクタンスXにおいて、主振動M1の抵抗Rが、スプリアスの抵抗Rを下回っていることが認められる。即ち、20〜250ΩのリアクタンスXにおいて主振動M1の抵抗Rよりも小さい抵抗Rを示すスプリアスが存在せず、また、主振動M1の抵抗Rと同じ抵抗Rを示すスプリアスも存在しないことが認められる。このため、第3工程では、「スプリアスで発振しない」と判定し、検査対象の水晶振動子1を「良品」と判定する。
【0044】
上記したインピーダンスチャート(図5、図7、及び図9参照)を用いた本実施の形態1に係る振動子検査方法によれば、「リアクタンスXの範囲において主振動M1の抵抗Rよりも小さい抵抗Rを示すスプリアスが存在するか否か」の判断を、インピーダンスチャート上で、主振動M1のリアクタンスXに対する抵抗Rを示す曲線M1が、いずれかのスプリアス(例えば、スプリアスS1,S2)のリアクタンスXに対する抵抗Rを示す曲線(例えば、曲線S1,S2)に交差しているか否かで判断することができるので、検査対象の水晶振動子1がスプリアスで発振するか否かの判定が容易である。
【0045】
なお、本実施の形態1に係る振動子検査方法において、演算装置5の判定部55は、リアクタンスXの範囲において主振動M1の抵抗Rが全てのスプリアスの抵抗Rを下回っている場合(即ち、リアクタンスXの範囲において主振動M1の抵抗Rと同じ抵抗を示すスプリアスが存在せず、また、リアクタンスXの範囲において主振動M1の抵抗を上回る抵抗を示すスプリアスも存在しない場合)に、「スプリアスで発振しない」と判定しているが、本発明は、これに限定されない。例えば、リアクタンスXの範囲で、主振動M1の抵抗Rが全てのスプリアスの抵抗Rを下回っている場合であっても、リアクタンスXの範囲において、主振動M1の抵抗Rと、スプリアスの抵抗Rとに、一定以上の違いが認められないときには(例えば、主振動の抵抗に対するスプリアスの抵抗の比が1.2倍以下の場合、或いは、主振動の抵抗とスプリアスの抵抗との差が10Ω未満の場合)、「スプリアスで発振する可能性有り」と判定し、検査対象の水晶振動子1を「不良品」と判定してもよい。この場合には、リアクタンスXの範囲において主振動M1の抵抗よりも高い抵抗を示すが、その抵抗の比もしくは差が小さいスプリアスが存在するために、極僅かにスプリアスで発振する可能性がある水晶振動子1も「不良品」として判定される。このため、上記水晶発振回路3において、水晶振動子1がスプリアスで発振する危険性を低減させることができる。
【0046】
上記した本実施の形態1に係る振動子検査方法及び振動子検査装置10によれば、振動子の周波数に対するインピーダンスを1回測定して、この測定結果に基づいて得られる主振動のリアクタンスに対する抵抗と、スプリアスのリアクタンスに対する抵抗とを比較するだけで、検査対象の水晶振動子1に負荷されると想定される負荷容量範囲の全範囲にわたって、簡単かつ正確に、その振動子がスプリアス発振するか否かを判別することができる。結果として、検査工数(測定器2による測定回数)を増やすことなく正確に、検査対象の水晶振動子1がスプリアス発振するか否かを判定することが可能となり、水晶振動子1の製造コストの削減が可能となる。特に、300MHz以上の高周波振動子では、インハーモニックスプリアスを抑制することが困難であるが、本実施の形態1の振動子検査方法を採用することで、スプリアス発振する可能性のある高周波振動子を事前に除外することができ、発振器の組み立て後のスプリアス発振をなくすことができる。
【0047】
また、上記した実施の形態1に係る振動子検査方法は、上記振動子検査装置10を用いて実現されるが、本発明の振動子検査方法は、これに限定されない。例えば、測定器2での測定結果を基に、検査者が、主振動のリアクタンスに対する抵抗と、スプリアスのリアクタンスに対する抵抗とを求め(例えば、上記インピーダンスを作成し)、検査者が、求めた主振動のリアクタンスに対する抵抗と、スプリアスのリアクタンスに対する抵抗とを比較して、スプリアスで発振するか否かの判定を行ってもよい。
【0048】
また、上記した振動子検査装置10において、測定器2は、演算装置5に常時接続されており、演算装置5からの指示(測定条件の設定及び測定開始命令)に従って、測定を行う構成とされているが、本発明の振動子検査装置10は、これに限定されない。例えば、演算装置5に条件設定部51及び測定命令部52を設けずに、測定器2に入力部を設け、この入力部を通じて、測定器2の測定条件の設定と測定の開始の指示を行う構成とされていてもよい。この場合、演算装置5の取得部53は、USBメモリ等の外部記憶媒体を介して、測定器2での測定結果を取得する構成とされていてもよい。或いは、本発明の振動子検査装置は、演算装置5、入力装置9、及び表示装置8を備えず、測定器2が上記演算装置5と同様の構成を有する演算部と、上記表示装置8と同様の構成を有する表示部と、上記入力装置9と同様の構成を有する入力部とを有する構成であってもよい。
【0049】
<実施の形態2>
本発明の実施の形態2に係る振動子検査装置20は、図10に示すように、検査対象の水晶振動子1の周波数インピーダンスを測定するための測定器2(本発明でいう第2測定部)と、前記測定器2での測定結果を取得し、水晶振動子1がスプリアスで発振するか否かを判別する演算装置(PC)6と、演算装置6での判別結果を表示するための表示装置8と、演算装置6に各種情報を入力するための入力装置9とを備えている。さらに、振動子検査装置20は、測定器2と接続された負荷容量治具4と、演算装置6から出力されたデジタル信号をアナログ電圧に変換して負荷容量治具4に入力するD/Aコンバータ7を備えている。
【0050】
測定器2は、検査対象の水晶振動子1の周波数インピーダンス特性を測定するネットワークアナライザであり、この測定器2は、図10に示す負荷容量治具4に接続されている。この負荷容量治具4は、負荷容量としてのバリキャップダイオード(可変容量ダイオード)DSを内蔵したものであり、この負荷容量治具4の所定箇所Pに水晶振動子1を配置することにより、図10に示すように、バリキャップダイオードDSと水晶振動子1が直列に接続される。この負荷容量治具4において、バリキャップダイオードDSの容量は、D/Aコンバータ7から出力されたアナログ電圧により、可変される。また、この測定器2は、演算装置6に常時接続(ネットワーク接続を含む)されている。
【0051】
また、演算装置6は、パーソナルコンピュータ(PC)で構成されており、測定器2と、表示装置8と、入力装置9と、D/Aコンバータ7とに接続されている。
【0052】
この演算装置6は、測定器2に周波数インピーダンス特性の測定の条件(例えば、測定する周波数範囲等の条件)を入力する条件設定部61と、負荷容量治具4に内蔵されたバリキャップダイオードDSの容量を設定するための負荷容量設定部62と、測定器2に測定開始を指示する測定命令部63と、測定器2での測定結果を取得する取得部64(本願発明でいう第2取得部)と、取得部64が取得した測定結果を基に、水晶振動子1がスプリアスで発振するか否かを判定し、その判定結果を表示装置8に出力する判定部65(本願発明でいう第2判定部)とを有している。
【0053】
また、表示装置8は、液晶ディスプレイ等で構成されており、演算装置6から出力された出力情報、例えば、判定部65から出力されてきた判定結果を表示する。
【0054】
また、入力装置9は、キーボード等の操作部を備えており、演算装置6に対して、各種情報の入力を行うことが可能な構成とされている。
【0055】
本実施の形態2では、上記振動子検査装置20を用いて、本実施の形態2に係る振動子検査方法が実現される。この本発明の実施の形態2に係る振動子検査方法は、図10に示すように、水晶振動子1に負荷容量(バリキャップダイオードDS)を直列に接続した状態で水晶振動子1の周波数に対するインピーダンス(周波数インピーダンス特性)の測定を行う測定工程を有している。この測定工程では、水晶振動子1に接続する負荷容量を可変させ、可変させた負荷容量毎に、インピーダンスを測定する。そして、少なくとも1回のインピーダンスの測定の結果が、主振動よりもインピーダンスの絶対値が小さいスプリアス又は主振動とインピーダンスの絶対値が同じスプリアスの存在を示す場合に、「スプリアスで発振する」と判定する。以下、上記振動子検査装置20を用いて実現される本実施の形態2に係る振動子検査方法について詳述する。
【0056】
本実施の形態2の測定工程では、まず、負荷容量治具4に水晶振動子1を配置する。そして、入力装置9を通じて、演算装置6に、周波数インピーダンス特性を測定する際の測定条件(例えば、測定する周波数の範囲)を入力すると共に、周波数インピーダンス特性を測定する際のバリキャップダイオードDSの容量値(可変値)を複数入力する。ここで入力されるバリキャップダイオードDSの容量値(可変値)は、検査対象の水晶振動子1が接続される水晶発振回路3の負荷容量範囲内のものとする。演算装置6に測定条件及びバリキャップダイオードDSの容量値が入力されると、条件設定部61が、その測定条件を測定器2に対して出力し、これにより、測定器2において、その測定条件が記憶される。次いで、負荷容量設定部62が、入力された1つの容量値に対応するデジタル信号をD/Aコンバータ7に向けて出力する。このデジタル信号はD/Aコンバータ7によりアナログ電圧に変換され、変換されたアナログ電圧がバリキャップダイオードDSの端子間電圧としてバリキャップダイオードDSに供給される。これにより、バリキャップダイオードDSの容量値が設定される。次いで、測定命令部63が、測定器2に対して測定開始命令を出力し、これにより、測定器2が、上記測定条件に従って、周波数インピーダンス特性の測定を開始する。測定器2での周波数インピーダンス特性の測定が終了すると、この周波数インピーダンス特性の測定の結果が、測定器2から演算装置6へ出力され、取得部64で取得される。
【0057】
本実施の形態2の測定工程では、演算装置6に入力された全ての容量値に対応する周波数インピーダンス特性の測定が終了するまで、負荷容量設定値62によるバリキャップダイオードDSの容量値の設定処理と、測定命令部63による測定開始処理と、取得部65による測定結果の取得処理が繰り返される。これにより、測定工程では、バリキャップダイオードDSの容量が可変され、この可変された容量毎に、測定器2での水晶振動子1の周波数インピーダンス特性の測定が実施される。そして、この測定器2が実施した全ての周波数インピーダンス測定の結果が、演算装置6の取得部64で取得される。
【0058】
このような測定工程の実施が終了したら、演算装置6の判定部65が、測定工程での測定結果、即ち、取得部64が取得した複数の周波数インピーダンス特性の測定の結果を基に、主振動M1よりもインピーダンスの絶対値が小さいスプリアス又は主振動M1とインピーダンスの絶対値が同じスプリアスが存在するか否かを確認する。少なくとも1回の前記周波数インピーダンス特性の測定の結果が、主振動M1よりもインピーダンの絶対値が小さいスプリアス又は主振動M1とインピーダンスの絶対値が同じスプリアスの存在を示す場合には、「スプリアスで発振する」と判定し、検査対象の水晶振動子1を「不良品」と判定する。一方、実施した全ての前記周波数インピーダンス特性の測定の結果が、主振動M1よりもインピーダンスの絶対値が小さいスプリアスが存在せず、また、主振動M1とインピーダンスの絶対値が同じスプリアスも存在しないことを示す場合には、「スプリアスで発振しない」と判定し、検査対象の水晶振動子1を「良品」と判定する。そして、この判定の結果を表示装置8に出力する。
【0059】
図11に、水晶発振回路3においてスプリアスで発振する水晶振動子1の周波数インピーダンス特性の一例を示す。この図11に示すグラフ図において、横軸は周波数(MHz)を示しており、縦軸は、インピーダンスの絶対値│Z│(Ω)を示している。記号W1で示す波形は、容量が負荷されていない時の水晶振動子1の周波数インピーダンス特性を示している。また、記号W2に示す波形は、5pFの容量負荷時の水晶振動子1の周波数インピーダンス特性を示し、W3に示す波形は、2pFの容量負荷時の水晶振動子1の周波数インピーダンス特性を示し、W4に示す波形は、1pFの容量負荷時の水晶振動子1の周波数インピーダンス特性を示している。
【0060】
図11に示す周波数インピーダンス特性を有する水晶振動子1の場合、容量を負荷しない状態でのインピーダンス測定では、記号W1の波形が示すように、主振動M1よりもインピーダンスの絶対値│Z│の小さいスプリアスの存在は確認されず、例えば、比較的インピーダンスの絶対値│Z│の小さいスプリアスS1,S2であっても、それらスプリアスS1,S2のインピーダンスZは、主振動M1のインピーダンスの絶対値│Z│よりも大きい。これに対して、1〜5pFの容量を負荷した状態では、図11の記号W2〜W4の波形に示すように、その負荷容量が小さくなるに従って、主振動M1のインピーダンスの絶対値│Z│と、スプリアスS1,S2のインピーダンスの絶対値│Z│の差が小さくなり、1pFの容量負荷時には、記号W4の波形が示すように、主振動M1のインピーダンスの絶対値│Z│よりも、スプリアスS2のインピーダンスの絶対値│Z│が小さくなる。つまり、1pFの容量負荷時のインピーダンス測定において、主振動M1よりもインピーダンスの絶対値│Z│の小さいスプリアスS2の存在が確認される。このため、本実施の形態2に係る振動子検査方法では、図11に示す周波数インピーダンス特性を有する水晶振動子1を、スプリアスS2で発振する「不良品」と判定する。
【0061】
また、図12に、水晶発振回路3においてスプリアスで発振する可能性のない水晶振動子1の周波数インピーダンス特性を示す。記号W5で示す波形は、容量が負荷されていない時の水晶振動子1の周波数インピーダンス特性を示している。また、記号W6に示す波形は、5pFの容量負荷時の水晶振動子の周波数インピーダンス特性を示し、W7に示す波形は、2pFの容量負荷時の水晶振動子の周波数インピーダンス特性を示し、W8に示す波形は、1pFの容量負荷時の水晶振動子の周波数インピーダンス特性を示している。
【0062】
図12に示す周波数インピーダンス特性を有する水晶振動子1の場合、容量を負荷しない状態でのインピーダンス測定では、記号W5の波形が示すように、主振動M1よりもインピーダンスの絶対値│Z│の小さいスプリアスの存在は確認されず、例えば、比較的インピーダンスの絶対値│Z│の小さいスプリアスS1,S2であっても、それらスプリアスS1,S2のインピーダンスの絶対値│Z│は、主振動M1のインピーダンスの絶対値│Z│よりも大きい。また、1〜5pFの容量を負荷した状態では、図12の記号W6〜W8の波形に示すように、その負荷容量が小さくなるに従って、主振動M1のインピーダンスの絶対値│Z│と、スプリアスS1,S2のインピーダンスの絶対値│Z│の差が小さくなるが、常に、主振動M1が、他の全てのスプリアス(スプリアスS1,S2を含む)よりも小さいインピーダンスの絶対値│Z│を示す。つまり、5pFの容量負荷時のインピーダンス測定(記号W6の波形参照)、2pFの容量負荷時のインピーダンス測定(記号W7の波形参照)、及び1pFの容量負荷時のインピーダンス測定(記号W8の波形参照)のいずれにおいても、主振動M1よりもインピーダンスの絶対値│Z│の小さいスプリアスの存在は確認されず、また、主振動M1とインピーダンスの絶対値│Z│が同じスプリアスの存在も確認されない。このため、本実施の形態2に係る振動子検査方法では、図12に示す周波数インピーダンス特性を有する水晶振動子1を、スプリアスで発振しない「良品」と判定する。
【0063】
上記した実施の形態2に係る振動子検査方法及び振動子検査装置20によれば、水晶振動子1に負荷される容量の異なる複数の周波数インピーダンス特性の測定の結果に基づき、検査対象の水晶振動子1がスプリアスで発振するか否かを正確に判別することができる。また、水晶振動子1に容量が負荷された時のインピーダンスの測定値を用いて判別を行うため、検査対象の振動子がスプリアスで発振するか否かの判別の精度を高めることができる。
【0064】
なお、上記した実施の形態2に係る振動子検査方法では、測定工程が終了してから、その測定結果に基づき、演算装置6の判定部65が、スプリアスで発振するか否かの判定を実施しているが、測定工程において、周波数インピーダンス特性の測定を実施する都度、スプリアスで発振するか否かの判定を実施してもよい。例えば、測定工程において、1つの周波数インピーダンス特性の測定が終了し、演算装置6の取得部64がその周波数インピーダンス特性の測定の結果を取得したら、演算装置6の判定部65が、その1つのインピーダンスの測定の結果に基づいて、スプリアスで発振するか否かの判定を行い、「スプリアスで発振しない」と判定した場合には、負荷容量を可変させて、可変させた負荷容量にて新たなインピーダンスの測定を行う一方(具体的には、負荷容量設定部62によりバリキャップダイオードDsの容量値を変更し、そして、測定命令部63が測定器2に測定開始命令を出力する一方)、「スプリアスで発振する」と判定した場合には、測定工程を終了し、検査対象の水晶振動子1に対する全処理を終了する。この場合には、1つの周波数インピーダンス特性の測定においてスプリアスで発振することが認められた場合には、さらに負荷容量を可変させて、可変させた負荷容量にて新たな周波数インピーダンス特性の測定を行うことが不要となるため、測定工程の実施に要する手間を削減することができる。
【0065】
また、上記した実施の形態2に係る振動子検査方法は、上記振動子検査装置20を用いて実現されるが、本発明の振動子検査方法は、これに限定されない。例えば、測定器2での測定結果を基に、検査者自身が、図11及び図12に示すような測定結果を参照して、スプリアスで発振するか否かの判定を行ってもよい。
【0066】
また、上記した振動子検査装置20では、測定器2が演算装置6に常時接続され、負荷容量治具4がD/Aコンバータ7を介して演算装置6に接続されており、演算装置6からの指示(測定条件の設定、測定開始命令、及びデジタル信号)に従って、負荷容量治具4のバリキャップダイオードDSが可変され、測定器2での測定が実行される構成とされているが、本発明の振動子検査装置は、これに限定されない。例えば、演算装置6に条件設定部61、負荷容量設定部62、及び測定命令部63を設けずに、測定器2に入力部を設け、この入力部を通じて、測定器2の測定条件の設定、バリキャップダイオードDSの容量設定、及び測定の開示の指示を行う構成とされていてもよい。この場合、演算装置6の取得部64は、USBメモリ等の外部記憶媒体を介して、測定器2での測定結果を取得する構成とされていてもよい。或いは、本発明の振動子検査装置は、演算装置6、入力装置9、及び表示装置8を備えず、測定器2が上記演算装置6と同様の構成を有する演算部と、上記表示装置8と同様の構成を有する表示部と、上記入力装置9と同様の構成を有する入力部とを有する構成であってもよい。
【0067】
以上、本発明の実施の形態1及び2に係る振動子検査方法について説明したが、実施の形態1に係る振動子検査方法と、実施の形態2に係る振動子検査方法を組み合わせてもよい。例えば、実施の形態1に係る振動子検査方法において、第3工程において主振動で発振すると判定した水晶振動子1を再検査する第4工程を更に備えてもよい。この第4工程では、第3工程において「スプリアスで発振しない」と判定した水晶振動子1を再検査対象として、上記した実施の形態2に係る振動子検査方法により、その再検査対象の水晶振動子1がスプリアス発振するか否かを判別するものとする。このようにして、実施の形態1に係る振動子検査方法と、実施の形態2に係る振動子検査方法とを組み合わせれば、検査対象の水晶振動子1が、水晶発振回路3においてスプリアスで発振するか否かの判別の精度を高めることができる。
【0068】
なお、上記した実施の形態1及び2に係る振動子検査方法では、図2に示す水晶振動子1を検査対象としているが、検査対象の振動子は、いかなる構成の振動子であってもよく、図2に示す水晶振動子1に限定されない。また、検査対象の振動子が接続される発振回路の構成も、いずれの構成であってもよく、図3に示す水晶発振回路3の構成に限定されない。
【0069】
また、上記した実施の形態1及び2に係る振動子検査方法では、周波数インピーダンス特性を測定するための測定器として、ネットワークアナライザ2を使用しているが、これに限定されず、周波数インピーダンス特性を測定することができる他の測定器、例えば、インピーダンスアナライザ等を使用してもよい。
【0070】
本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、スプリアスで発振する振動子を選別するための振動子検査に利用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 水晶振動子
11 水晶振動片
12 ベース
13 蓋
14、15 励振電極
16 導電性バンプ
17 接合材
2 測定器(第1測定部、第2測定部)
3 水晶発振回路
31 発振回路部
32 周波数制御回路部
4 負荷容量治具
5 演算装置
51 条件設定部
52 測定命令部
53 取得部(第1取得部)
54 演算部(第1演算部)
55 判定部(第1判定部)
6 演算装置
61 条件設定部
62 負荷容量設定部
63 測定命令部
64 取得部(第2取得部)
65 判定部(第2判定部)
7 D/Aコンバータ
8 表示装置
9 入力装置
10 振動子検査装置
20 振動子検査装置
Q1 発振用トランジスタ
C1〜D5 コンデンサ
R1〜R5 抵抗
L1〜L3 コイル
D1、D2 バリキャップダイオード
S バリキャップダイオード(負荷容量)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプリアスで発振する振動子を判別する振動子検査方法であって、
検査対象の振動子の周波数に対するインピーダンスを測定して、主振動及びスプリアスのインピーダンスを得る第1工程と、
前記第1工程で得た主振動及びスプリアスのインピーダンスを基に、主振動及びスプリアスのリアクタンスと抵抗とを求める第2工程と、
前記第2工程で求めた主振動のリアクタンスに対する抵抗と、スプリアスのリアクタンスに対する抵抗とを比較し、前記検査対象の振動子が接続され得る発振回路の負荷容量範囲に対応するリアクタンスにおいて主振動の抵抗よりも小さい抵抗を示すスプリアスが存在する場合に、スプリアスで発振すると判定する第3工程と
を有することを特徴とする振動子検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の振動子検査方法であって、
前記第3工程においてスプリアスで発振しないと判定した振動子を再検査する第4工程を更に有しており、
前記第4工程は、再検査対象の前記振動子に直列に負荷容量を接続した状態で、前記振動子の周波数に対するインピーダンスの測定を行う測定工程を有し、
前記測定工程では、前記負荷容量を可変させ、可変させた前記負荷容量毎に、前記インピーダンスの測定を行い、
少なくとも1回の前記インピーダンスの測定の結果が、主振動よりもインピーダンスの絶対値が小さいスプリアスの存在を示す場合に、スプリアスで発振すると判定する
ことを特徴とする振動子検査方法。
【請求項3】
スプリアスで発振する振動子を判別する振動子検査方法であって、
検査対象の振動子に直列に負荷容量を接続した状態で、前記振動子の周波数に対するインピーダンスの測定を行う測定工程を有し、
前記測定工程では、前記負荷容量を可変させ、可変させた前記負荷容量毎に、前記インピーダンスの測定を行い
少なくとも1回の前記インピーダンスの測定の結果が、主振動よりもインピーダンスの絶対値が小さいスプリアスの存在を示す場合に、スプリアスで発振すると判定する
ことを特徴とする振動子検査方法。
【請求項4】
スプリアスで発振する振動子を判別する振動子検査装置であって、
検査対象の振動子の周波数に対するインピーダンスの測定を行う第1測定部と、
前記第1測定部での前記インピーダンスの測定の結果を取得して、主振動及びスプリアスのインピーダンスを得る第1取得部と、
前記第1取得部で得た主振動及びスプリアスのインピーダンスを基に、主振動及びスプリアスのリアクタンスと抵抗とを求める第1演算部と、
前記第1演算部で求めた主振動のリアクタンスに対する抵抗と、スプリアスのリアクタンスに対する抵抗とを比較し、前記検査対象の振動子が接続され得る発振回路の負荷容量範囲に対応するリアクタンスにおいて主振動の抵抗よりも小さい抵抗を示すスプリアスが存在する場合に、スプリアスで発振すると判定する第1判定部と
を有することを特徴とする振動子検査装置。
【請求項5】
スプリアスで発振する振動子を判別する振動子検査装置であって、
検査対象の振動子に直列に負荷容量を接続した状態での前記振動子の周波数に対するインピーダンスの測定を行う第2測定部と、
前記第2測定部での前記インピーダンスの測定の結果を取得する第2取得部と、
前記第2取得部で取得した前記インピーダンスの測定の結果に基づいて、スプリアスで発振するか否かを判定する第2判定部とを有しており、
前記第2取得部は、前記負荷容量を可変させ、可変させた前記負荷容量毎に前記第2測定部で実施された前記インピーダンスの測定の結果を全て取得し、
前記第2判定部は、前記第2取得部が取得した少なくとも1回の前記インピーダンスの測定の結果が、主振動よりもインピーダンスの絶対値が小さいスプリアスの存在を示す場合に、スプリアスで発振すると判定する
ことを特徴とする振動子検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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