説明

捕集器具、検出装置、及び、捕集方法

【課題】分析対象物の濃度が薄い場合でも分析対象物の迅速な検出を可能とする捕集器具や捕集方法、及びこれを用いた測定装置を提供する。
【解決手段】支持板12と、支持板12上に支持された多孔部材23と、多孔部材23に対して被検液を供給する被検液供給部20と、を備える捕集器具100である。支持板12には、多孔部材23に対向する位置に開口12aが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捕集器具、検出装置、及び、捕集方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、唾液等の被検液中における細菌等の分析対象物を迅速に検出する装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−322594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の装置では、被検液中の分析対象物の濃度が薄い場合に十分に高感度に検出を行なうことが困難であった。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、分析対象物の濃度が薄い場合でも分析対象物の迅速な検出を可能とする捕集器具や捕集方法、及びこれを用いた検出装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る捕集器具は、支持板と、この支持板上に支持された多孔部材と、多孔部材に対して被検液を供給する被検液供給部と、を備える。そして、この支持板には、多孔部材と対向する位置に開口が形成されている。
【0007】
本発明によれば、被検液供給部から多孔部材に被検液を供給して多孔部材に被検液を含浸させた後、開口を介して多孔部材中の被検液を吸引することにより、被検液中の分析対象物を多孔部材における前記開口と対向する部分に集中させることができる。これにより、被検液中の分析対象物の濃度が低い場合であっても、分析対象物を上記部分に集中させることができるので、この集中部を対象として分析対象物の検出を行うことにより感度のよい検出が迅速に可能となる。
【0008】
ここで、多孔部材の開口と対向する部分は、多孔部材の開口と対向しない部分にくらべて孔径が細かいことが好ましい。
【0009】
孔径の差により、多孔部材の開口と対向する部分に分析対象物を留めることができ、より分析対象物を集中させることができる。
【0010】
また、多孔部材の開口と対向する部分に、被検液中の分析対象物と特異的に結合する分子認識素子が固定されていることも好ましい。
【0011】
分析対象物を分子認識素子と結合させることにより、多孔部材の開口と対向する部分に分析対象物を留めることができ、より分析対象物を集中させることができる。
【0012】
また、多孔部材の開口と対向する部分は、多孔部材の開口と対向しない部分にくらべて親水性とされることも好ましい。
【0013】
これによって、被検液が水系の場合、被検液をより多孔部材の開口と対向する部分に集めやすくなり、分析対象物を集中させやすい。
【0014】
また、被検液供給部は、捕集器具から着脱自在な被検液吸収体を含むことが好ましい。
【0015】
これによれば、被検液吸収体を捕集器具から取り外して、被検液を吸収させ、その後、被検液吸収体を捕集器具に戻すことにより、被検液を多孔部材に容易に供給できる。また、被検液の採取も容易である。
【0016】
また、被検液吸収体は、多孔部材の側面を取り囲む環状をなすことも好ましい。被検液吸収体は、多孔部材の側面を取り囲むと共に多孔部材の主面を覆う皿状とされることも好ましい。
【0017】
これによれば、多量の被検液をムラなく均一に迅速に処理しやすい。
【0018】
また、多孔部材と被検液供給部との間に、被検液中の夾雑物を捕集するプレフィルタをさらに備えることが好ましい。
【0019】
これにより、プレフィルタにより被検液中の夾雑物を捕集でき、多孔部材における目詰まり等を抑制できる。
【0020】
また、被検液供給部から多孔部材に供給される被検液に対して溶出可能に保持された、被検液中の分析対象物と特異的に結合可能でかつ標識された分子認識素子を更に備えることも好ましい。
【0021】
これにより、分析対象物が標識されるので、多孔部材に捕集された分析対象物を容易に定量等が可能である。
【0022】
また、本発明にかかる捕集器具は、支持板の下に開口と連通するチャンバ室を更に備え、チャンバ室には吸引口が設けられ、チャンバ室内には、開口と対向する位置に後段吸収体が設けられることも好ましい。
【0023】
これにより、開口を介して液体が漏れ出しても液が外部に漏れにくい。
【0024】
本発明に係る検出装置は、上述の捕集器具の開口に接続される吸引手段と、捕集器具における多孔部材の開口と対向する部分を対象として分析対象物の検出を行う検出手段と、を備える。
【0025】
本発明に係る分析対象物の捕集方法は、上述の捕集器具を用いる分析対象物の捕集方法であって、被検液供給部から多孔部材に供給された被検液を、開口を介して吸引する吸引工程を備える。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、分析対象物の濃度が薄い場合でも分析対象物の迅速な検出を可能とする捕集器具や捕集方法、及びこれを用いた検出装置等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、第一実施形態にかかる捕集器具の一部破断斜視図である。
【図2】図2は、図1のII−II矢視図である。
【図3】図3は、図1の多孔部材の近傍の一部破断拡大図である。
【図4】図4は、第一実施形態にかかる検出装置の概略斜視図である。
【図5】図5は、第一実施形態にかかる捕集器具の変形態様にかかる一部破断斜視図である。
【図6】図6は、図5のVI−VI矢視図である。
【図7】図7は、第二実施形態にかかる捕集器具の断面図である。
【図8】図8は、第三実施形態にかかる捕集器具の一部破断斜視図である。
【図9】図9は、図8のVII−VII矢視図である。
【図10】図10は、第三実施形態にかかる捕集器具の変形態様にかる図9と同じ断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0029】
(第一実施形態にかかる捕集器具)
図1は、第1実施形態に係る捕集器具の一部破断斜視図である。図2は、図1の捕集器具のII−II断面図である。図3は、図1の多孔部材23の開口12a近傍の一部破断拡大図である。
【0030】
この捕集器具100は、支持板12を含む筐体10、多孔部材23、標識保持体22、プレフィルタ21、被検液吸収体(被検液供給部)20を主として備える。
【0031】
(筐体)
筐体10は、透明樹脂から形成され、箱型形状をなしている。この筐体10は、水平に配置された支持板12によって上下に2つの部屋に分割されている。ここでは、上の部屋をフィルタ室10a、下の部屋をチャンバ室10bとする。
【0032】
(フィルタ室)
フィルタ室10a内には、支持板12上に、多孔部材23、標識保持体22、プレフィルタ21、被検液吸収体20がこの順に配置されている。支持板12における多孔部材23と対向する部分には、フィルタ室10aとチャンバ室10bとを連通する開口12aが形成されている。開口12aの直径は特に限定されないが、例えば、1〜15mm程度、より好ましくは、3〜10mmである。形状も特に限定されず、円形、楕円形、矩形、正方形等が挙げられる。
【0033】
フィルタ室10aの上部の一端には開口10cが形成されており、筐体10のフィルタ室10aにおいて、プレフィルタ21、標識保持体22、及び、多孔部材23は、筐体10に覆われている。これにより、開口10cからフィルタ室10a内のガスを吸引した場合に、開口10cからフィルタ室10a内にガスが吸引され、被検液をプレフィルタ21、標識保持体22、及び、多孔部材23の順に押し出すことが容易である。
【0034】
(被検液吸収体(被検液供給部)20)
被検液吸収体20は、唾液等の被検液を吸収することができ、吸収した被検液を多孔部材23に対して供給することのできる吸収体である。被検液吸収体20は特に限定されないが、液体試料を吸収・放出しやすい多孔性物質でシート状の形態のもの、例えば、スポンジ、ろ紙、不織布、メッシュ、などが挙げられる。その素材としては、綿、麻、セルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、ロックウール、ガラス繊維、シリカ繊維、カーボン繊維、ボロン繊維、ポリアミド、アラミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、レーヨン等の再生セルロース、ポリエステル、ポリウレタン、ナイロン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンジフロライド、およびポリオレフィン、などが挙げられる。被検液吸収体20の孔径は、10〜1000μmより好ましくは、20〜500μmが好ましい。これら被検液吸収体の形状は、特に限定されないが、本実施形態では直方体状である。また、被検液吸収体20は一種類のみでも使用することができるが、数種類を複合させて使用することもでき、更に非吸収体に接着させて使用することもできる。
【0035】
筐体10のフィルタ室10aにおいて、上述のように被検液吸収体20の上の部分は開口10cとされ、フィルタ室10aからの被検液吸収体20の取出し及び再挿入が可能となっている。これにより、被検液吸収体20をフィルタ室10aから取り出した上で、口内等にいれて唾液等の被検液を吸収させて採集した上で、フィルタ室10a内に再配置することができる。
【0036】
被検液としては、分析対象物が含まれている液体であればよく、動物の各種体液(例えば、唾液、胃液、胆汁、膵液、腸液、汗、涙、鼻水、尿、精液、膣液、羊水、乳汁、血液、リンパ液、組織液、体腔液、脳脊髄液、関節液、眼房水、細胞間液等)や植物の篩管液又は導管液、動植物細胞の抽出液、動植物細胞の培養上清、食物の抽出液、発酵微生物産生物、組織抽出物、細胞抽出物、微生物培養液、海水、湖水、河川水、雨水、水道水、井戸水、農業用水、工業用水、生活排水や工業排水等あらゆる溶液を被検液とすることができる。
【0037】
分析対象物も、特に限定されないが、天然化合物、合成化合物、糖類、タンパク質、抗体、抗原、ホルモン、ペプチド、糖タンパク質、核酸、糖類、ビタミン、天然化合物、合成化合物、細胞、細胞組織、ウィルス、色素、蛍光分子、金属、金属イオンなどを挙げることができる。
【0038】
具体的には、例えば、被検液として唾液を用いる場合には、分析対象物として、虫歯原因菌であるストレプトコッカスミュータンス菌(Sm菌)、ストレプトコッカスソブリヌス菌(Ss菌)及びラクトバチルスアシドフィリウス菌(La菌)からなる群から選ばれる菌とすることができ、唾液中の虫歯原因菌の量を測定することとにより虫歯の可能性当を判断できる。
【0039】
筐体10の開口10cの縁には、可撓性のある部材により形成されたカバー11の一端が固定され、必要に応じてカバー11により開口10cを覆うことができる。カバー11には、吸引時に空気をフィルタ室10a内に供給可能とすべく空気を流通可能な小穴(不図示)が形成されている。カバー11に、筐体10と粘着する粘着剤をつけておき、開口10cを密閉してもよい。
【0040】
(プレフィルタ21)
プレフィルタ21は、被検液吸収体20と隣接して設けられており、被検液吸収体20から供給される被検液中の夾雑物を捕集する。プレフィルタの材料も、織布、不織布、メッシュ、メンブレンフィルタ等の多孔材料であれば特に限定されない。孔径も特に限定されないが、10〜100μm程度のものがよい。その素材としては、例えば、ガラス繊維、シリカ繊維、カーボン繊維、ボロン繊維、綿、麻、コットンニトロセルロース、セルロース、セルロース混合エステル、セルロースアセテート、ポリカーボネート、などがあげられる。
【0041】
(標識保持体22)
標識保持体22は、多孔部材23と、プレフィルタ21との間に設けられていてこれらと接触している。
【0042】
標識保持体22は、被検液吸収体20から多孔部材23に供給される被検液に対して、標識済分子認識素子を溶出する吸収体である。この標識済み分子認識素子とは、分析対象物と特異的に結合可能でありかつ標識された分子認識素子である。
【0043】
分子認識素子としては、抗原、抗体(モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体等)、核酸配列断片、エフェクター分子、レセプター分子、酵素とそのインヒビター、補酵素、アビジン、ビオチン、糖鎖化合物、レクチン、アプタマー(DNAアプタマー、RNAアプタマー、ペプチドアプタマー等)、分子鋳型、などが挙げられる。
【0044】
標識としては、金コロイド、銀コロイド粒子、白金コロイド粒子等の金属コロイド、着色した脂質小胞(リボソーム)や小胞、着色してもよいラテックス粒子、磁気微粒子などの各種微粒子、蛍光物質、発色物質、発光物質、酵素、ビオチン、放射性同位元素、酸化還元物質などが挙げられる。
【0045】
標識済分子認識素子の保持方法も特に限定されず、含浸法、塗布法、スプレー法等が挙げられる。
【0046】
(多孔部材23)
多孔部材23は、被検液吸収体20から供給される被検液を吸収するものである。多孔部材23としては、例えば、織布、不織布、メッシュ、メンブレンフィルタ等が挙げられる。多孔部材23の材料や孔径は、分析対象物に合わせて適宜選択できる。例えば、細菌を分析対象物とする場合には、孔径を0.2〜1μmとすることが好ましい。
【0047】
材料も特に限定されず、綿、麻、セルロース、コットンニトロセルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、ロックウール、ガラス繊維、シリカ繊維、カーボン繊維、ボロン繊維、ポリアミド、アラミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、レーヨン等の再生セルロース、セルロース混合エステル、ポリエステル、ポリウレタン、ナイロン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンジフロライド、およびポリオレフィン、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0048】
多孔部材23には、図3に示すように、開口12aと対向する部分23a、及び、開口12aと対向しない部分23bが存在する。少なくとも、開口12aと対向しない部分23bの孔径は、分析対象物が移動可能な孔径とされている。
【0049】
ここで、多孔部材23の開口12aと対向する部分23aの孔径を、多孔部材23の開口12aと対向しない部分23bの孔径にくらべて細かくすることが好ましい。このような孔径の差をつけることにより、多孔部材の開口と対向する部分23aにおいて分析対象物を捕集でき、濃度の集中化がきわめて容易となる。この場合、分析対象物が細菌である場合には、多孔部材の開口と対向する部分23aの孔径を0.2〜10μmとすることが好ましく、より好ましくは0.2〜1μmであり、多孔部材の開口と対向しない部分23bの孔径を10〜200μmとすることが好ましく、より好ましくは20〜100μmである。
【0050】
また、多孔部材の開口と対向する部分23aに、分析対象物と特異的に結合する分子認識素子を固定することも好ましい。分子認識素子は、特に限定されず、前述のものが利用できる。このような分子認識素子を用いることによっても、分析対象物の選択的捕集が容易となる。この場合、多孔部材の開口と対向する部分23aの孔径は特に限定されない。分子認識素子の固定方法も、公知の方法が利用できる。
【0051】
さらに、多孔部材の開口と対向する部分23aの材料を、多孔部材の開口と対向しない部分23bにくらべて親水性の高い材料とすることも好ましい。具体的には例えば、多孔部材の開口と対向しない部分23bの材料に、ガラス繊維、シリカ繊維、カーボン繊維、ボロン繊維、などの親水性の比較的低い材料を用い、多孔部材の開口と対向する部分23aの材料に、綿、麻、コットンニトロセルロース、セルロース、セルロース混合エステル、セルロースアセテート、ポリカーボネート等の親水性の比較的高い材料を用いることが挙げられる。
【0052】
また、多孔部材の開口と対向しない部分23bの表面をフッ素樹脂やシリコーン樹脂等の疎水性表面処理剤で処理すること、多孔部材の開口と対向する部分23aの表面を、等の親水性表面処理剤で処理すること、及び、これらの双方を行なうことも挙げられる。このような表面処理は、表面処理剤を用いなくても、UV照射、コロナ放電、プラズマ処理などによっても可能である。これにより、被検液が水系の場合、被検液を多孔部材の開口と対向する部分23aに集めやすくなり、分析対象物を集中させやすい。特に、多孔部材の開口と対向しない部分23bを撥水処理すると、分析対象物が余計な部分に捕集、吸着されることが抑制される。また、被検液の展開も迅速となる。
【0053】
多孔部材23の大きさは、特に限定されないが、開口12aよりも十分に大きいことが好ましい。好ましくは、開口12aの面積の1.1〜50.0倍、より好ましくは2〜25倍の面積が好ましい。
【0054】
(チャンバ室)
チャンバ室10b内には、開口12aと対向する位置に、後段吸収体31を備えている。後段吸収体31は、開口12aから漏れてくる可能性のある液体を捕集するものであり、材料としては、被検液吸収体20と同様のものを利用できる。
【0055】
チャンバ室10bの側面には、吸引管8が設けられてチャンバ室10bと外部とが連通している。
【0056】
(測定装置)
本実施形態に係る測定装置400は、図4に示すように、上述の捕集器具100を用いて分析対象物の検出を行なう測定装置である。この測定装置400は、捕集器具100の吸引管8に接続されて筐体10内からガスを吸引する吸引手段としてのポンプ401と、捕集器具100における多孔部材23の開口12aと対向する部分23aに対して分析対象物の検出を行う検出部403とを備える。
【0057】
検出部403の構成は特に限定されない。例えば、光学的に分析対象物を検出する場合、多孔部材23の開口12aと対向する部分23aに所定の光を照射し、分析対象物、或いは、分析対象物に結合した標識の反射光や蛍光等を検出することにより、分析対象物の濃有無や濃度を算出することができる。
【0058】
また、電気化学的に分析対象物を検出する場合、多孔部材23の開口12aと対向する部分23aに測定電極を接触させ、分析対象物や分析対象物に結合した標識由来の電気応答を測定し、分析対象物の有無や濃度を算出することができる。
【0059】
続いて本実施形態の動作について説明する。
【0060】
まず、図1の捕集器具100の被検液吸収体20を筐体10の開口10cを介してフィルタ室10aから取り出し、例えば、口の中に含むことにより、唾液等の被検液を被検液吸収体20に十分吸収させる。続いて、被検液が吸収された被検液吸収体20を、開口10cを介してフィルタ室10a内に戻し、プレフィルタ21と接触させる。そして、必要に応じて、カバー11を閉じる。
【0061】
続いて、この捕集器具100の吸引管8を、図4に示すように、測定装置400のポンプ401に接続し、吸引を開始する。これにより、筐体10内のガスが吸引管8から排出され、開口10cから流入した空気が被検液吸収体20中の被検液を押し出して、被検液が、プレフィルタ21、標識保持体22、を通過し、多孔部材23に到達する。このとき、プレフィルタ21を通過することにより、被検液中の食べかす等の夾雑物がトラップされる。さらに、標識保持体22を通過することにより、被検液に標識済分子認識素子が溶出し、この標識済分子認識素子が被検液対中の細菌(ストレプトコッカスミュータンス菌や、ラクトバチルスアシドフィラス菌、ストレプトコッカスソブリヌス菌等)等の分析対象物と結合し、分析対象物が標識される。
【0062】
そして、図3に示すように、多孔部材23に到達した被検液は、吸引により開口12aと対向する部分23aに向かって流れ、吸引しない場合に比べて、多孔部材の開口と対向する部分23aにおける分析対象物56の濃度が、多孔部材の開口と対向しない部分23bにくらべて高くなり、分析対象物の高濃度化が可能となる。特に、孔径、分子認識素子の固定、表面処理等により、多孔部材23の開口12aと対向する部分23aを、多孔部材23の開口12aと対向しない部分23bにくらべて分析対象物を捕集しやすい構造としておくと、分析対象物を、多孔部材23の開口12aと対向する部分23a及びその近傍に極めて効率よく集中させることができる。
【0063】
なお、多孔部材23の開口12aと対向する部分23aと、多孔部材23の開口12aと対向しない部分23bとの構造が同じであっても、一部の分析対象物が開口12aを介して流出する可能性があるが、開口12aを設けない場合に比べて分析対象物を狭い領域に濃縮できることには変わりがない。この場合は、分析対象物がすべて排出される前に適切な時期に吸引を止めればよい。
【0064】
なお、一部の液体は多孔部材23を通過して、開口12aを介してチャンバ室10b内に到達するが、この液体は後段吸収体31にトラップされる。ポンプによる吸引は、多孔部材23の開口12aと対向する部分23aに対する分析対象物の高濃度化が完了したところで適宜停止する。
【0065】
続いて、検出部403によって、多孔部材23の開口12aと対向する部分23aについて、所望の検出工程を行い、分析対象物の有無やその濃度を測定する。
【0066】
本実施形態によれば、支持板12には、多孔部材23と対向する位置に開口12aが形成されている。このため、この開口12aの下側を負圧として吸引することにより、被検液中の分析対象物56を多孔部材23における開口12aと対向する部分に集中させることができる。これにより、多孔部材23における分析対象物の濃度を、特定の領域について高くできるため、被検液が分析対象物56を低濃度に含む場合であっても、分析対象物を高感度かつ培養等の手間なく迅速に検出することが可能となる。
【0067】
続いて、図5及び図6を参照して、第一実施形態に係る捕集器具100の変形態様について説明する。本態様では、筐体10の上面に開口10cがなく、筐体10の側面(Y方向側の側面)に開口10cが設けられており、開口10cの縁にはこの開口10cを覆うようにカバー11が設けられている。本実施形態では、被検液吸収体20を開口10cからY方向に沿って挿入する以外は前述の態様と同様である。本態様でも上述と同様の効果を奏する。なお、開口10cは、Y方向側の側面で無く、X方向側の側面に設けられていてもよい。
【0068】
(第二実施形態に係る捕集器具200)
続いて、図7を参照して第二実施形態に係る捕集器具200について説明する。本実施形態に係る捕集器具200が、第一実施形態に係る捕集器具100と異なる点は、支持板12が筐体10の底面を兼ねている、すなわち、チャンバ室10bがなく、フィルタ室10aのみを有し、開口12aに直接、吸引管8が接続されている点である。本実施形態でも、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。検出装置400のポンプ401に液体が吸引されることがあるがこの場合、ポンプ側に液体トラップを設けておけばよい。これにより、捕集器具200の小型化がはかられる。
【0069】
(第三実施形態に係る捕集器具300)
続いて、図8,図9を参照して第三実施形態に係る捕集器具300について説明する。この捕集器具300は、上部が開口した有底の円筒状をなす筐体10を有し、さらに、多孔部材23が円板状をなし、標識保持体22、プレフィルタ21、及び、被検液吸収体20が、それぞれ多孔部材23を順に取り囲む円環形状をなしている。これら以外は、第一実施形態と同様である。
【0070】
本実施形態によっても、第一実施形態と同様の作用効果を奏する。なお、第三実施形態では、筐体10の上部が開放されているので、被検液吸収体20から多孔部材23までの被検液の移動は、主として毛管現象に基づくものであるが、多孔部材23に被検液が十分に浸透した後に、開口12aを介した吸引により、被検液中の分析対象物を、多孔部材23の開口12aと対向する部分23aに集中させることが可能である。
【0071】
続いて、図10を参照して、第三実施形態に係る捕集器具300の変形態様について説明する。本態様では、標識保持体22、プレフィルタ21、被検液吸収体20が、それぞれ、さらに、多孔部材23の上面を覆うように皿状となっている。本実施形態でも、上述と同様の作用を奏する。より多量の被検液を処理可能である。
【0072】
本発明は上記実施形態に限定されず様々な変形態様が可能である。
【0073】
例えば、上記実施形態では、多孔部材23に対して被検液を供給する被検液供給部として、取り外し可能な被検液吸収体20を採用しているが、取り外し不能な被検液吸収体20を設けてもよい。この場合、被検液吸収体20に被検液を滴下すればよい。また、被検液吸収体20を設けず、標識保持体22、プレフィルタ21を介して多孔部材23まで連通するくぼみ部のように、吸収体を設けずに外部から供給される液体を受け入れるくぼみとされていてもよい。この場合も、くぼみに被検液を滴下すればよい。
【0074】
また、上記実施形態では、被検液供給部(たとえば、被検液吸収体20)と多孔部材23との間が、標識保持体22及びプレフィルタ21により直接接続されており、毛管現象による被検液の供給が可能であるが、被検液供給部とプレフィルタ21の間、プレフィルタ21と標識保持体22との間、標識保持体22と多孔部材23との間が直接接触せず、流路を介して接続されていても実施は可能である。吸引により被検液を移動させうる。
【0075】
また、上記実施形態では、標識済分子認識素子は、標識保持体22に対して溶出可能に保持されているが、被検液供給部2から多孔部材に供給される被検液に対して溶出可能な場所に固定されていればよく、流路、支持板、被検液吸収体等に塗布等されていてもよい。もちろん標識済分子認識素子がなくても、実施は可能である。
【0076】
また、標識保持体22やプレフィルタ21がなくても実施可能である。その場合も、被検液供給部と多孔部材23とが直接接続されることが好ましい。
【0077】
また、第一実施形態では、開口10c以外が密閉されているが、開放形でもよい。
【0078】
また、筐体10は、少なくとも、多孔部材23における開口12aと対向する部分23aが光透過性であればよく、また、開口12aと対向する部分23aを開口としていてもよい。
【0079】
さらに、筐体10、吸引管8や、各種吸収体の形状も上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0080】
図1に示す捕集器具100を製造した。筐体10はPET樹脂製で大きさは16cm×5cm×5cmであった。開口12aの径は8mmとした。
【0081】
多孔部材23の開口12aと対向しない部分23bとしては、孔径1μmのガラス繊維製不織布を用い、多孔部材23の開口12aと対向する部分23aには孔径0.45μmのニトロセルロースを用いることにより、多孔部材の開口と対向する23a部分が、多孔部材の開口と対向しない部分23bにくらべて細菌を捕集しやすくした。
【0082】
標識保持体22としては、ガラス繊維不織布を用い、この標識保持体22には、金コロイド粒子で標識された、Sm菌結合アプタマーを溶出可能に含浸させた。
【0083】
プレフィルタ21には、孔径10μmのガラス繊維フィルタを用いた。
【0084】
被検液吸収体20としては、セルローススポンジを用いた。
【0085】
カバーには、PETフィルムを用いた。
【0086】
被検液吸収体20を被験者の口内に保持して唾液を吸収させた後、フィルタ室10a内に戻し、カバーで蓋をし、吸引管8を検査装置400のポンプ401に接続し、陰圧にした。
【0087】
これにより、唾液が、プレフィルタ21を通過し、唾液中に混入していた表皮細胞や食べかすなどのゴミが除去され、続いて、標識保持体22を通過して、標識されたアプタマーが唾液中に溶け出し、Sm菌と結合し、続いて、多孔部材23に到達したSm菌が多孔部材の開口と対向する部分23aにトラップされた。この部分はトラップされたSm菌に結合している金コロイド粒子により赤く着色していた。測定装置の検出手段に設けられた緑色LEDの光をこの部分に照射し、反射光強度をフォトダイオードで読み取り、Sm菌濃度を算出できた。
【符号の説明】
【0088】
10…筐体、10a…フィルタ室、10b…チャンバ室、12…支持板、12a…開口、20…被検液吸収体(被検液供給部)、21…プレフィルタ、23…多孔部材、23a…多孔部材の開口と対向する部分、23b…多孔部材の開口と対向しない部分、31…後段吸収体、100、200、300…捕集器具、400…検出装置、401…ポンプ(吸引手段)、402…検出手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持板と、
前記支持板上に支持された多孔部材と、
前記多孔部材に対して被検液を供給する被検液供給部と、を備え、
前記支持板には、前記多孔部材と対向する位置に開口が形成された、捕集器具。
【請求項2】
前記多孔部材の前記開口と対向する部分は、前記多孔部材の前記開口と対向しない部分にくらべて孔径が細かい請求項1記載の捕集器具。
【請求項3】
前記多孔部材の前記開口と対向する部分に、前記被検液中の分析対象物と特異的に結合する分子認識素子が固定された請求項1又は2記載の捕集器具。
【請求項4】
前記多孔部材の前記開口と対向する部分は、前記多孔部材の前記開口と対向しない部分にくらべて親水性とされた請求項1〜3の何れか1項記載の捕集器具。
【請求項5】
前記被検液供給部は、前記捕集器具から着脱自在な被検液吸収体を含む請求項1〜4のいずれか1項記載の捕集器具。
【請求項6】
前記被検液吸収体は、前記多孔部材の側面を取り囲む環状をなす請求項5記載の捕集器具。
【請求項7】
前記被検液吸収体は、前記多孔部材の側面を取り囲むと共に前記多孔部材の主面を覆う皿状をなす請求項5記載の捕集器具。
【請求項8】
前記多孔部材と前記被検液供給部との間に、前記被検液中の夾雑物を捕集するプレフィルタをさらに備える請求項1〜7のいずれか1項記載の捕集器具。
【請求項9】
前記被検液供給部から前記多孔部材に供給される被検液に対して溶出可能に保持された、前記被検液中の分析対象物と特異的に結合可能でかつ標識された標識済分子認識素子を更に備える請求項1〜8のいずれか記載の捕集器具。
【請求項10】
前記支持板の下に、前記開口と連通するチャンバ室を更に備え、
前記チャンバ室には吸引口が設けられ、前記チャンバ室内には、前記開口と対向する位置に後段吸収体が設けられた請求項1〜9の何れか1項記載の捕集器具。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項記載の捕集器具の前記開口に接続される吸引手段と、
前記捕集器具における前記多孔部材の前記開口と対向する部分を対象として前記分析対象物の検出を行う検出手段と、を備える検出装置。
【請求項12】
請求項1〜10の何れか1項記載の捕集器具を用いる分析対象物の捕集方法であって、
前記被検液供給部から前記多孔部材に供給された被検液を、前記開口を介して吸引する吸引工程を備える捕集方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−95161(P2011−95161A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250809(P2009−250809)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】