説明

捺染物の製造方法

【課題】石油を原料とするミネラルターペンを使用することなく、且つ、繊維材料を連続して走行させる速度が変化しても、得られる捺染物の捺染品位が良好で、且つ、同等の捺染物が得られる捺染物の製造方法を提供する。
【解決手段】捺染物の製造方法は、少なくともアルギン酸塩とアクリル系合成糊剤とを配合する捺染糊組成物を連続して走行する繊維材料に印捺する印捺工程と、捺染糊組成物中の染料を繊維材料に固着する固着工程と、この繊維材料を洗浄する洗浄工程とからなる。印捺工程における繊維材料の走行速度を30m/分にしたときの印捺量W30と、80m/分にしたときの印捺量W80との比(W80/W30)が、0.95〜1.05の範囲以内にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維材料を連続して走行させるようにして製造する捺染物の製造方法を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
捺染物の製造方法において、繊維材料に捺染柄を印捺する際に、染料、糊剤、その他の染色助剤が配合された捺染糊組成物が使用される。ここで、糊剤は、捺染糊組成物の増粘成分として作用し、従来から多くの天然糊剤や合成糊剤が使用されている。
【0003】
また、捺染糊組成物には、繊維材料への転写性と浸透性、並びに、捺染柄の均染性、鮮明性、尖鋭性及び染色濃度等の所謂捺染品位といわれる各性能が要求される。
【0004】
従って、捺染品位の良好な捺染物を得るためには、単一の糊剤だけでは不十分であり、複数の糊剤を配合して使用することが一般的である。中でも、アルギン酸ナトリウム等の天然糊剤とエマルション糊剤(石油を原料とするミネラルターペンを乳化剤により水に分散したO/Wエマルション)とを併用した、所謂ハーフエマルション糊剤が多く使用されている。
【0005】
しかし、近年の重油の高騰に加え、地球温暖化に影響する揮発性有機化合物(VOC)対策の観点から、石油を原料とするミネラルターペンを使用することなく、十分な捺染品位を有する捺染物を得ることのできる捺染物の製造方法が要求されるようになってきた。
【0006】
そこで、上記各性能を満足する捺染物の製造方法に使用され、且つ、ミネラルターペンを使用しない捺染用糊剤の提案がなされている。例えば、下記特許文献1には、特定の置換度を有し、且つ、粘度と捺染粘性指数(PVI)の関係が特定の値を示すカルボキシメチルセルロース(CMC)が示されている。
【特許文献1】特開平4−140876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、実際の捺染物の工業生産において、上記各性能を満足して十分な捺染品位を得るためには、捺染糊組成物に対して、使用される捺染機(繊維材料に捺染糊組成物を印捺する装置)の種類に対応した使用特性が要求される。
【0008】
特に、繊維材料を連続して走行させる捺染機においては、その稼動速度(繊維材料がその長尺方向に走行して印捺される速度)が大きな要因となる。即ち、捺染機の実際の稼動状況では、始動時の低速からの加速、安定稼動時の高速、更には、終了時の減速にいたる全印捺過程の稼動速度において、得られる捺染物の捺染品位が良好で、且つ、同等の捺染物が得られなければならない。
【0009】
これまでは、この要求を満足するものとして、ミネラルターペンを使用したハーフエマルション糊剤を使用した捺染糊組成物が用いられてきた。
【0010】
しかし、上記特許文献1の捺染用糊剤を配合した捺染糊組成物をはじめ、ミネラルターペンを使用しない捺染糊組成物の印捺工程においては、上記各稼動速度において、得られる捺染物の捺染品位が良好で、且つ、同等の捺染物を得ることが困難であるという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、以上のようなことに対処するために、石油を原料とするミネラルターペンを使用することのない捺染物の製造方法であって、繊維材料を連続して走行させる速度が変化しても、得られる捺染物の捺染品位が良好で、且つ、同等の捺染物が得られる捺染物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、捺染用途に従来から使用されている汎用の糊剤の中から、アルギン酸塩とアクリル系合成糊剤とを選択して配合した捺染糊組成物を使用して印捺することにより、上記目的を達成できることを見出した。
【0013】
即ち、本発明は、繊維材料をその長尺方向に連続して走行させるようにして、捺染糊組成物を上記繊維材料に印捺する印捺工程と、
当該印捺工程後に上記捺染糊組成物中の染料を上記繊維材料に固着する固着工程と、当該固着工程後に上記繊維材料を洗浄する洗浄工程とを含む捺染物の製造方法において、上記捺染糊組成物が少なくともアルギン酸塩とアクリル系合成糊剤とを配合する組成物であって、
上記印捺工程における上記繊維材料の走行速度を30m/分にしたときの上記捺染糊組成物の印捺量W30(g/m2)と、上記走行速度を80m/分にしたときの上記捺染糊組成物の印捺量W80(g/m2)との比(W80/W30)が、0.95〜1.05の範囲以内にあることを特徴とする。
【0014】
上記構成によれば、石油を原料とするミネラルターペンを使用することのない捺染物の製造方法であって、繊維材料を連続して走行させる速度が変化しても、得られる捺染物の捺染品位が良好で、且つ、同等の捺染物が得られる捺染物の製造方法を提供することができる。
【0015】
本発明において、捺染とは、繊維材料に染料等で模様を染色することをいう。また、捺染によって模様を染色された繊維材料を捺染物という。
【0016】
本発明において、繊維材料とは、綿、麻等の天然セルロース繊維、レーヨン、キュプラ、ポリノジック、溶剤紡糸セルロース繊維等の再生セルロース繊維、羊毛、絹等の天然タンパク質繊維、アセテート等の半合成繊維、ポリエステル、ナイロン等の合成繊維の単一使用又は複合使用からなる織物、編物又は不織布等をいう。
【0017】
また、上記繊維材料を染色する染料は、上記各繊維材料に対応したものが使用され、例えば、セルロース系繊維には、直接染料、反応染料、建染め染料等が使用される。タンパク質繊維には、酸性染料、塩基性染料等が使用される。また、半合成繊維や合成繊維には、分散染料等が使用される。
【0018】
ここで、本発明に係る捺染物の製造方法は、印捺工程、固着工程及び洗浄工程からなる。
【0019】
まず、印捺工程においては、捺染機が使用される。この捺染機では、繊維材料をその長尺方向に連続して走行させるようにして、捺染糊組成物を上記繊維材料に印捺する。印捺後の上記繊維材料は、一般に、捺染機の後部に設置された乾燥機で乾燥される。
【0020】
ここで、長尺の繊維材料の捺染においては、その印捺工程に、フラットスクリーン、ロータリースクリーン等のスクリーン捺染機やローラー捺染機を使用することが一般的である。
【0021】
また、繊維材料をその長尺方向に連続して走行させる捺染機の中でも、ロータリースクリーン捺染機は、稼動速度が他の捺染機より格段に速く、繊維材料を約100m/分もの高速で走行させながら印捺することができるので、工業生産においては、その生産性の高さが有効である。
【0022】
続く固着工程においては、上記印捺工程後に上記捺染糊組成物中の染料を上記繊維材料に固着する。染料の固着は、当該染料の種類に適した方法で行われる。例えば、蒸熱処理、乾熱処理等が行われる。
【0023】
続く洗浄工程においては、上記固着工程後に上記繊維材料を洗浄する。洗浄は、未固着の染料、糊剤及び染色助剤等を繊維材料から除去するために行う。一般には、水洗、湯洗や界面活性剤等の洗浄剤を併用したソーピングが行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係る捺染物の製造方法の一実施形態について説明する。本実施形態は、ロータリースクリーン捺染機を使用して、綿織物を反応染料で捺染する捺染物の製造方法に関するものである。
【0025】
まず、捺染糊組成物について説明する。
【0026】
本実施形態に係る捺染物の製造方法に使用される捺染糊組成物は、糊剤、反応染料及び染色助剤等を含む。当該染色助剤としては、反応触媒としてのアルカリ、ヒドロトロープ剤、抗還元剤及び金属イオン封鎖剤等がある。
【0027】
本実施形態において、増粘成分としての糊剤の一成分として、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸塩を使用する。一般に捺染に使用されるアルギン酸ナトリウムには、高固形分低粘度のものから低固形分高粘度のものがある。本実施形態においては、これらのいずれを使用してもよい。
【0028】
一般に、アルギン酸ナトリウムは、捺染粘性指数(PVI)が大きく、また、反応染料にも使用できる。このアルギン酸ナトリウムは、繊維材料への浸透性、捺染柄の均染性がよく、捺染品位の良好な捺染物ができる。
【0029】
一方、このアルギン酸ナトリウムは、天然物であり、単独使用では粘度安定性の不十分な点が顕著に現れ、また染色濃度が十分に得られないという欠点を有する。また、アルギン酸ナトリウムは、曳糸性が強く、捺染時の転写性と捺染柄の尖鋭性に劣ることがある。
【0030】
特にロータリースクリーン捺染機においては、印捺時の捺染機の稼動速度によって、印捺量が大きく変動する。従って、一般に、アルギン酸ナトリウムの単独での使用では、本発明の目的を達成することはできない。
【0031】
そこで、本実施形態においては、上記アルギン酸ナトリウム単独では不十分な点をアクリル系合成糊剤で補完する。
【0032】
ここで、アクリル系合成糊剤とは、一般にはポリアクリル酸といわれるものであり、カルボン酸等のアルカリ中和増粘により粘性を維持している。本発明においては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルホスホン酸、ビニルスルホン酸等のビニル基含有モノマーのホモポリマー又はコポリマー等を含めてアクリル系合成糊剤という。
【0033】
アクリル系合成糊剤は、一般に、捺染粘性指数(PVI)が小さく、捺染柄の鮮明性と尖鋭性がよく、また、合成物であり粘度安定性は良好であるが、逆に繊維材料への浸透性が不十分であり、単独では反応染料に使用しにくい。
【0034】
本実施形態においては、アクリル系合成糊剤を3重量%の水溶液にしたときに、当該水溶液の捺染粘性指数(PVI)が、0.2〜0.3の範囲以内にある当該アクリル系合成糊剤を使用することが好ましい。このアクリル系合成糊剤を捺染粘性指数(PVI)が大きなアルギン酸ナトリウム(一般に、PVI=0.7〜0.9)と併用して使用する。
【0035】
この場合、アルギン酸ナトリウムとアクリル系合成糊剤の使用量は、求める粘度において適宜調整すればよいが、本実施形態においては、アルギン酸ナトリウムの使用量は、例えば、捺染糊組成物に対して、1〜10重量%、好ましくは、3〜6重量%の範囲以内である。
【0036】
一方、アクリル系合成糊剤の使用量は、アルギン酸ナトリウムに比べ少量でよく、例えば、捺染糊組成物に対して、0.05〜0.5重量%、好ましくは、0.1〜0.35重量%の範囲以内である。
【0037】
また、捺染糊組成物は、好ましくは、下記の粘度及び捺染粘性指数(PVI)を満足することがよい。
【0038】
本実施形態においては、捺染糊組成物の粘度が、10,000〜20,000(mP・s)の範囲以内、好ましくは、12,000〜17,000(mP・s)の範囲以内であって、且つ、当該捺染糊組成物の捺染粘性指数(PVI)が、0.5〜0.8の範囲以内、好ましくは、0.5〜0.7の範囲以内にあることがよい。
【0039】
本実施形態に係る捺染糊組成物の粘度及び捺染粘性指数(PVI)が、上記の範囲以内にあれば、ロータリースクリーン捺染機の各稼動速度によって、捺染糊組成物の印捺量が大きく変動するということがない。
【0040】
本実施形態において、捺染糊組成物の粘度とは、ブルックフィールドB型粘度計において、4号ロータを使用して、回転数6rpmのときの粘度(η6)をいう。
【0041】
また、捺染粘性指数(PVI)とは、捺染糊組成物の流動特性を数値化し、特にその擬塑性流動を比較するために使用される。本発明においては、ブルックフィールドB型粘度計を使用し、異なるずり速度における各粘度の比で表す。具体的には、上記粘度計において、4号ロータを使用して、回転数6rpmのときの粘度(η6)とその10倍の回転数60rpmのときの粘度(η60)の比から、ずり速度に関する捺染粘性指数(PVI)は、次の式(1)で表される。
【0042】
PVI=η60/η6 ・・・ (1)
従って、PVIが大きく、1.0に近いほど曳糸性が強くニュートン流動に近づき、逆に、PVIが小さく、0.1に近いほど構造粘性が強く塑性流動に近づく。
【0043】
また、本実施形態に使用される捺染糊組成物には、反応染料が含まれる。この反応染料としては、セルロースに反応する、少なくとも1個の反応性基を有するモノアゾ系、ポリアゾ系、アントラキノン系、フタロシアニン系、ホルマザン系又はジオキサジン系等の染料がある。ここで、セルロースに対する代表的な反応基としては、クロルトリアジン基、クロルピリミジン基、ビニルスルホン基等があるが、これらに限るものではなく、いずれのタイプでもよい。また、ビニルスルホン基とモノクロルトリアジン基を有する二官能染料等であってもよい。
【0044】
この反応染料の使用量は、求める捺染柄の色相と染色濃度によって適宜決定される。また、これらの染料は、必要とする色相に合わせるために複数の染料を配合して使用してもよい。
【0045】
本実施形態に使用される捺染糊組成物には、反応触媒としてのアルカリが含まれる。このアルカリには、一般に、炭酸ナトリウム又は炭酸水素ナトリウム等が使用される。例えば、炭酸水素ナトリウムを使用する場合には、その使用量は、捺染糊組成物に対して、0.1〜10重量%、好ましくは、1〜5重量%含有される。
【0046】
本実施形態に使用される捺染糊組成物には、ヒドロトロープ剤が含まれる。このヒドロトロープ剤としては、その代表的なものとして尿素等がある。尿素を使用する場合には、その使用量は、捺染糊組成物に対して、0.1〜30重量%、好ましくは、1〜15重量%含有される。
【0047】
本実施形態に使用される捺染糊組成物には、抗還元剤が含まれる。この抗還元剤としては、芳香族二トロ化合物、好ましくは、メタニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム等がある。メタニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムを使用する場合には、その使用量は、捺染糊組成物に対して、0.1〜4重量%、好ましくは、0.5〜2重量%含有される。
【0048】
本実施形態に使用される捺染糊組成物には、金属イオン封鎖剤が含まれる。この金属イオン封鎖剤としては、リン酸塩、好ましくは、ヘキサメタリン酸ナトリウム等がある。ヘキサメタリン酸ナトリウムを使用する場合には、その使用量は、捺染糊組成物に対して、0.05〜1重量%、好ましくは、0.1〜0.5重量%含有される。
【0049】
次に、印捺工程について説明する。
【0050】
上述にように、ロータリースクリーン捺染機は、繊維材料を約100m/分もの高速で走行させることができ、その生産性の高さから、工業生産において有効な捺染機である。
【0051】
従って、このロータリースクリーン捺染機を使用して、始動時の低速からの加速、安定稼動時の高速、更には、終了時の減速にいたる全印捺過程の稼動速度において、得られる捺染物の捺染品位が良好で、且つ、同等の捺染物が得られなければならない。
【0052】
そこで、本実施形態においては、上記ロータリースクリーン捺染機の低速稼動速度を30m/分とし、また、高速稼動速度を80m/分として、それらの比較において、得られる捺染物の捺染品位とそれらの同等性を評価する。
【0053】
上記捺染品位の評価は、得られた捺染物における捺染柄の均染性、鮮明性、尖鋭性及び染色濃度を目視によって行う。
【0054】
一方、捺染糊組成物の繊維材料への転写性と浸透性は、次の方法で評価する。即ち、上記低速稼動速度30m/分にしたときの上記捺染糊組成物の印捺量W30(g/m2)と、上記高速稼動速度80m/分にしたときの上記捺染糊組成物の印捺量W80(g/m2)との比(W80/W30)でもって、上記転写性と上記浸透性を評価する。
【0055】
これらの比(W80/W30)が、0.95〜1.05の範囲以内にあれば、捺染糊組成物の繊維材料への印捺状態(捺染糊組成物の繊維材料への転写性と浸透性及び印捺量)がほぼ同等であり、その結果として、得られる捺染物の同等性が認められる。
【0056】
よって、上記捺染品位の評価と上記印捺量の比(W80/W30)でもって、本実施形態が本発明の目的を達成できることの評価を行うことができる。
【0057】
上記印捺工程後に繊維材料を乾燥する。この乾燥は、熱風乾燥又は接触乾燥等のいずれの方法でもよいが、一般に、100〜150℃程度の温度による熱風乾燥が好ましい。本実施形態においては、捺染機の後部に設置した連続式の熱風乾燥機により乾燥した。
【0058】
次に、印捺工程に続く固着工程及び洗浄工程について説明する。
【0059】
固着工程では、上記捺染糊組成物中の染料を前記繊維材料に固着する。この固着は、発色ともよばれ、反応染料の捺染においては、一般に、蒸熱処理又は乾熱処理が行われる。この蒸熱処理においては、一般に、100〜130℃程度の常圧飽和水蒸気中又は常圧加熱水蒸気中で1〜20分間、好ましくは、3〜10分間、上記繊維材料を処理する。本実施形態においては、連続式の常圧蒸熱機により染料を繊維材料に固着した。
【0060】
次に、洗浄工程では、上記繊維材料を洗浄する。この反応染料の洗浄は、一般に、冷水で洗浄して大まかな糊剤等を除去した後、80〜100℃程度の温水で十分に洗浄する。場合により、界面活性剤又はトリポリリン酸ナトリウムのような洗浄剤を併用してもよい。本実施形態においては、連続式拡布洗浄機により冷水及び温水で十分に洗浄した。
【0061】
上記洗浄工程後の繊維材料を脱水、乾燥して、捺染物を得た。
【0062】
以下、本実施形態において、次のような実施例及び各比較例の製造方法を行い、それぞれの捺染物を評価した。
【0063】
実施例:
捺染の対象である繊維材料として、通常の方法で糊抜き・精練・漂白・シルケット加工した長尺の綿織物(40番手、平織物)を使用した。
(A)捺染糊組成物の作製
本実施例においては、アルギン酸ナトリウムとして、キミテックスα105(株式会社キミカ製)を使用した。一方、アクリル系合成糊剤として、ALCOPRINT RT−BC(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ株式会社製、アクリル系合成糊剤のミネラルオイル分散液、有効成分70%)を使用した。この場合、ALCOPRINT RT−BCを見かけで4.3重量%の水溶液(有効成分として3重量%に相当、また、中和のため炭酸水素ナトリウム0.5重量%を併用)にしたときには、PVI=0.22であった。
【0064】
本実施例に使用する捺染糊組成物の作製については、上記キミテックスα105を3.9重量%、上記ALCOPRINT RT−BCを見かけで0.25重量%、反応染料 Remazol Black R−KN(ダイスター株式会社製、染料成分50重量%水溶液)を15重量%、炭酸水素ナトリウムを2.5重量%、尿素を8重量%、抗還元剤(メタニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム)1.0重量%、金属イオン封鎖剤(ヘキサメタリン酸ナトリウム)0.16重量%及び残余の水を含む捺染糊組成物1を作製した。
【0065】
作製した捺染糊組成物1の粘度(η60及びη6)及びPVIの値を表1に示す。
(B)印捺工程
上記捺染糊組成物1を用いて、上記綿織物にロータリースクリーン捺染機(Zimmer社製、型式RSD)により面積既知の模様を印捺した。このロータリースクリーン捺染機による模様の印捺は、100メッシュのスクリーンを使用して、スキージ径18mm、マグネットレベル6の条件で行った。
【0066】
印捺時の稼動速度を30m/分及び80m/分にして、各々安定した段階で、印捺された綿織物の一部をサンプリングした。このサンプルの乾燥しない状態の重量を測定し、この値から綿織物の重量を差し引いて、単位面積当りの捺染糊組成物の各印捺量W30(g/m2)及びW80(g/m2)を求め、上記各印捺量の比(W80/W30)を計算した。
【0067】
本実施例で得られたW30、W80及び比(W80/W30)の各値を表1に示す。
【0068】
また、サンプリングした部分以外の綿織物は、乾燥して続く固着工程を行った。
(C)固着工程
染料を綿織物に固着させるために、この捺染糊組成物が印捺された各稼動速度に対応する各綿織物を連続式の常圧蒸熱機を使用して、103℃の常圧加熱水蒸気中で8分間処理した。
(D)洗浄工程
未固着の染料、各染色助剤及び糊剤を綿織物から除去するために、連続式拡布洗浄機を使用して、上記各綿織物を冷水及び温水(90℃)により洗浄した。この洗浄した各綿織物を乾燥して捺染物P1(30m/分に対応)及び捺染物P2(80m/分に対応)を得た。
比較例1:
捺染の対象である繊維材料として、実施例と同一の綿織物を使用した。
(A)捺染糊組成物の作製
本比較例1においては、糊剤としてアルギン酸ナトリウムを単独で使用した。アルギン酸ナトリウムとしては、上記実施例と同様にキミテックスα105を使用した。
【0069】
捺染糊組成物の作製については、糊剤としてキミテックスα105を4.5重量%単独で使用したこと以外は、上記実施例と同様に行い、捺染糊組成物2を作製した。
【0070】
作製した捺染糊組成物2の粘度(η60及びη6)及びPVIの値を表1に示す。
【0071】
続く工程、(B)印捺工程、(C)固着工程及び(D)洗浄工程については、捺染糊組成物2を使用した以外は、上記実施例と同様にして行い、捺染物P3(30m/分に対応)及び捺染物P4(80m/分に対応)を得た。
【0072】
また、本比較例1で得られたW30、W80及び比(W80/W30)の各値を表1に示す。
比較例2:
捺染の対象である繊維材料として、実施例と同一の綿織物を使用した。
(A)捺染糊組成物の作製
本比較例2においては、糊剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を単独で使用した。CMCとしては、サンローズMAC01(日本製紙ケミカル株式会社製、高エーテル化CMC)を使用した。
【0073】
捺染糊組成物の作製については、糊剤としてサンローズMAC01を7.7重量%単独で使用したこと以外は、上記実施例と同様に行い、捺染糊組成物3を作製した。
【0074】
作製した捺染糊組成物3の粘度(η60及びη6)及びPVIの値を表1に示す。
【0075】
続く工程、(B)印捺工程、(C)固着工程及び(D)洗浄工程については、捺染糊組成物3を使用した以外は、上記実施例と同様にして行い、捺染物P5(30m/分に対応)及び捺染物P6(80m/分に対応)を得た。
【0076】
また、本比較例2で得られたW30、W80及び比(W80/W30)の各値を表1に示す。
比較例3:
捺染の対象である繊維材料として、実施例と同一の綿織物を使用した。
(A)捺染糊組成物の作製
本比較例3においては、糊剤としてアルギン酸ナトリウムとエマルション糊剤を併用して使用した。アルギン酸ナトリウムとしては、上記実施例と同様にキミテックスα105を使用した。
【0077】
上記エマルション糊剤は、乳化剤ST−50A(日華化学株式会社製)を3重量%使用して、ミネラルターペン62重量%を水35重量%に乳化して作製した。
【0078】
捺染糊組成物の作製については、糊剤としてキミテックスα105を3.35重量%と上記エマルション糊剤を25重量%使用した以外は、上記実施例と同様に行い、捺染糊組成物4を作製した。
【0079】
作製した捺染糊組成物4の粘度(η60及びη6)及びPVIの値を表1に示す。
【0080】
続く工程、(B)印捺工程、(C)固着工程及び(D)洗浄工程については、捺染糊組成物4を使用した以外は、上記実施例と同様にして行い、捺染物P7(30m/分に対応)及び捺染物P8(80m/分に対応)を得た。
【0081】
また、本比較例3で得られたW30、W80及び比(W80/W30)の各値を表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
表1から明らかなように、本実施形態に係る捺染糊組成物1を使用した印捺工程(実施例)においては、低速稼動(30m/分)と高速稼動(80m/分)における各対応の印捺量の比(W80/W30)が、0.97の値を示し、0.95〜1.05の範囲以内にあった。また、従来から使用されているミネラルターペンを含む捺染糊組成物4を使用した印捺工程(比較例3)と同様の結果であった。
【0084】
このことは、低速稼動(30m/分)と高速稼動(80m/分)における捺染糊組成物の繊維材料への印捺状態(捺染糊組成物の繊維材料への転写性と浸透性及び印捺量)がほぼ同等であることを示している。
【0085】
一方、アルギン酸ナトリウムを単独使用した捺染糊組成物2を使用した印捺工程(比較例1)、並びに、CMCを単独使用した捺染糊組成物3を使用した印捺工程(比較例2)は、上記各対応の印捺量の比(W80/W30)が1から大きく離れた。
【0086】
このことは、低速稼動(30m/分)と高速稼動(80m/分)における捺染糊組成物の繊維材料への印捺状態(捺染糊組成物の繊維材料への転写性と浸透性及び印捺量)が大きく異なることを示している。
【0087】
上述のように、表1の結果から、本実施形態によって、捺染機の始動時の低速からの加速、安定稼動時の高速、更には、終了時の減速にいたる全印捺過程の稼動速度において、得られる捺染物の捺染品位が良好で、且つ、同等の捺染物が得られることを示している。
【0088】
次に、上記実施例及び各比較例によって得られた捺染物P1〜P8について、捺染品位を評価した。
【0089】
評価は、得られた各捺染物における捺染柄の均染性、鮮明性及び尖鋭性の良否を目視にて評価し、また、低速稼動と高速稼動で得られる捺染品位の同等性を評価した。その結果を表2に示す。
【0090】
表2において、上記各性能の評価は、良好なものを○、不十分なものを△、不良なものを×とした。
【0091】
更に、上記各捺染物における捺染柄の染色濃度について、綿織物の表面濃度を相対的に評価し、その結果を表2に示す。
【0092】
表2において、染色濃度の評価は、濃いものを○、若干薄いものを△、染色濃度が極端に薄いものを×とした。
【0093】
【表2】

【0094】
表2から明らかなように、本実施形態に係る捺染物の製造方法で得られた捺染物P1及び捺染物P2は、捺染柄の均染性、鮮明性、尖鋭性及び染色濃度のいずれの性能も、従来から使用されているミネラルターペンを含む捺染糊組成物4を使用して捺染した捺染物P7及び捺染物P8(比較例3)と同様に良好な結果を示した。
【0095】
このことは、本実施例において、低速稼動(30m/分)と高速稼動(80m/分)で得られる各捺染物(捺染物P1及び捺染物P2)の捺染品位の同等性が良好であることを示している。よって、本実施例は、従来のミネラルターペンを使用した比較例3と同様に使用することができる。
【0096】
一方、アルギン酸ナトリウムを単独使用した捺染糊組成物2で捺染した捺染物P3及び捺染物P4(比較例1)、並びに、CMCを単独使用した捺染糊組成物3で捺染した捺染物P5及び捺染物P6(比較例2)は、低速稼動(30m/分)又は高速稼動(80m/分)のいずれか、或いは、双方において、上記各性能に不十分なものがあった。
【0097】
特に、低速稼動(30m/分)及び高速稼動(80m/分)のいずれにおいても、染色濃度が低く不良であった。
【0098】
このことは、比較例1及び比較例2において、低速稼動(30m/分)と高速稼動(80m/分)で得られる各捺染物(捺染物P3と捺染物P4、並びに、捺染物P5と捺染物P6)の捺染品位の同等性が不良であることを示している。
【0099】
以上のことにより、本実施形態においては、石油を原料とするミネラルターペンを使用することのない捺染物の製造方法であって、繊維材料を連続して走行させる速度が変化しても、得られる捺染物の捺染品位が良好で、且つ、同等の捺染物が得られる捺染物の製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維材料をその長尺方向に連続して走行させるようにして、捺染糊組成物を前記繊維材料に印捺する印捺工程と、
当該印捺工程後に前記捺染糊組成物中の染料を前記繊維材料に固着する固着工程と、
当該固着工程後に前記繊維材料を洗浄する洗浄工程とを含む捺染物の製造方法において、
前記捺染糊組成物が少なくともアルギン酸塩とアクリル系合成糊剤とを配合する組成物であって、
前記印捺工程における前記繊維材料の走行速度を30m/分にしたときの前記捺染糊組成物の印捺量W30(g/m2)と、前記走行速度を80m/分にしたときの前記捺染糊組成物の印捺量W80(g/m2)との比(W80/W30)が、0.95〜1.05の範囲以内にあることを特徴とする捺染物の製造方法。
【請求項2】
前記捺染糊組成物の粘度が、10,000〜20,000(mP・s)の範囲以内であって、且つ、当該捺染糊組成物の捺染粘性指数(PVI)が、0.5〜0.8の範囲以内にあることを特徴とする請求項1に記載の捺染物の製造方法。
【請求項3】
前記アクリル系合成糊剤を3重量%の水溶液にしたときに、当該水溶液の捺染粘性指数(PVI)が、0.2〜0.3の範囲以内にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の捺染物の製造方法。
【請求項4】
前記捺染糊組成物が反応染料を含有してなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の捺染物の製造方法。
【請求項5】
前記印捺工程がロータリースクリーン捺染機を使用して印捺することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の捺染物の製造方法。

【公開番号】特開2008−127718(P2008−127718A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315466(P2006−315466)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000219794)東海染工株式会社 (24)
【Fターム(参考)】