説明

排ガス浄化触媒及びその製造方法

【課題】触媒層の強度低下や圧力損失を抑制しつつも、排気ガスの拡散性を向上させることができる排ガス浄化触媒を提供する。
【解決手段】本発明の排ガス浄化触媒(1)は触媒層(3)を備え、前記触媒層(3)内には複数の空隙(5)が存在し、前記空隙(5)の断面の縦横比(D/L)に関する頻度分布の最頻値が2以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関から排出される排気ガスを浄化する排ガス浄化触媒及びその製造方法に関する。詳細には、本発明は、触媒層内における排気ガスの拡散性を向上させることができる排ガス浄化触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に搭載される排ガス浄化触媒として、排気ガス中に含まれる有害ガス(炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx))を酸化又は還元する三元触媒が知られている。そして、近年の環境意識の高まりから、自動車等から排出される排気ガス規制がより一層強化されており、それに伴い三元触媒の改良が進められている。
【0003】
このような排ガス浄化触媒では、ハニカム担体などの耐火性無機担体の内面に排気ガスを浄化するための触媒層が形成されている。そして、従来の排ガス浄化触媒では、触媒層内における排気ガスの拡散性を向上させるため、触媒層の内部に空隙を形成している(例えば、特許文献1参照)。このように空隙を形成し、触媒層内のガス拡散性を向上させることにより、加速時など高空間速度条件下における貴金属と排気ガスとの接触率を上げ、浄化性能を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−305369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、従来、排ガス浄化触媒における触媒層内部に空隙を形成する方法としては、主として次の2つの方法が存在する。
(1)触媒層を構成する触媒粒子の粒子径を大きくすることで、間接的に粒子間の空隙を拡大する方法
(2)製造時における最終焼成で消失する造孔材を用いて、直接空隙を生成する方法
【0006】
しかしながら、空隙を形成しない場合に比べ、空隙を形成することにより触媒層の層厚が増加する。そのため、排ガス浄化触媒の圧力損失が上昇することから、エンジン出力の低下や燃費の悪化を生じさせる虞があった。
【0007】
さらに、触媒粒子の粒子径を大きくして空隙を形成する方法では、触媒粒子間の接触界面が減少するために、触媒層の強度の低下し、これに伴い触媒層の剥離が発生する虞があった。つまり、触媒層を形成する触媒粒子間の接触界面が相対的に減少する為、排気ガスの熱による膨張や収縮が繰り返されることにより、触媒層の剥離が生じ易くなる虞があった。
【0008】
また、造孔材を用いて空隙を形成する方法の場合、従来ではカーボンなど球状の造孔材を用いていたため、形成される空隙は球状であった。ただ、空隙が球状の場合、空隙間の繋がりが乏しいため、ガス拡散性が十分でない場合があった。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、触媒層の強度低下や圧力損失を抑制しつつも、排気ガスの拡散性を向上させることができる排ガス浄化触媒及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第一の態様に係る排ガス浄化触媒は、触媒層を備え、前記触媒層内には複数の空隙が存在し、前記空隙の断面の縦横比(D/L)に関する頻度分布の最頻値が2以上であることを要旨とする。
【0011】
本発明の第二の態様に係る排ガス浄化触媒の製造方法は、貴金属粒子を含有する触媒粒子と、断面の縦横比(D/L)に関する頻度分布の最頻値が2以上である炭素化合物材とを混合する工程を有すること要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の排ガス浄化触媒は、上述のように伸長形状を有する複数の空隙が形成された触媒層を備えている。そのため、空隙同士が繋がり、触媒層中でのガス拡散経路が増加するため、圧力損失を抑制しつつも、排気ガスの拡散性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1(a)は、本発明の実施形態に係る排ガス浄化触媒を示す斜視図である。図1(b)は、図1(a)の符号Bの部分を拡大した概略図である。
【図2】図2は、図1(b)の符号Cの部分を拡大した顕微鏡写真である。
【図3】図3は、触媒層内の空隙の断面における縦横比(D/L)の測定方法を説明するための顕微鏡写真である。図3(a)は、排ガス浄化触媒におけるセルの拡大写真である。図3(b)は、図3(a)の符号Dの部分を拡大した顕微鏡写真である。図3(c)は、図3(b)の顕微鏡写真を二値化処理した図である。
【図4】図4(a)〜(c)は、触媒層内の空隙における空隙長及び空隙径を説明するための概略図である。
【図5】図5は、包接構造を有する触媒粒子を示す概略図である。
【図6】図6は、排気耐久試験前の複合粒子の平均粒子径Daと包接材の平均細孔径Dbの比Da/Dbを横軸に、排気耐久試験後のCeOの結晶成長比及びPtの表面積を縦軸にして、これらの関係を示すグラフである。
【図7】図7は、貴金属の粒子径と表面積との関係を示すグラフである。
【図8】図8は、貴金属の粒子径と原子数及び表面積との関係を示すグラフである。
【図9】図9は、実施例1及び比較例1における空隙の断面の縦横比(D/L)に関する頻度分布を示すグラフである。
【図10】図10は、比較例1の触媒層を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0015】
図1では、本発明の実施形態に係る排ガス浄化触媒(以下、触媒ともいう。)1を示す。排ガス浄化触媒1は、図1(a)に示すように、複数のセル2aを有するハニカム担体(耐火性無機担体)2を備えている。排気ガスは、矢印Fに沿って各セル2a内を流通し、そこで触媒層と接触することにより浄化される。
【0016】
排ガス浄化触媒1では、図1(b)に示すように、担体2の内表面上に触媒層3が形成されている。そして、触媒層3は、図2に示すように、複数の触媒粒子4により形成されている。以下、触媒層3及び触媒粒子4について詳述する。
【0017】
[触媒層]
本実施形態における排ガス浄化触媒1は内部に触媒層3を備えており、さらに触媒層3は複数の触媒粒子4により形成されている。また、触媒層3の触媒粒子4の間には複数の空隙5が形成されている。
【0018】
ここで、上述のように造孔材を用いて空隙を形成する場合、従来ではカーボンなどの球状の造孔材を用いていたため、形成される空隙も球状である。たとえ空隙が球状であっても一定のガス拡散効果を有するが、空隙の繋がりが乏しいため、十分なガス拡散効果が得られない場合があった。
【0019】
これに対し、本実施形態の排ガス浄化触媒では、触媒層3の触媒粒子4の間に形成された空隙5が、円筒形や直方体、円盤状など、球に対し伸長した形状となっている。このため、触媒層内における触媒粒子径、触媒層重量及び触媒粒子間の空隙容積を一定とした場合、球状に比べ伸長形状の場合には空隙同士の接点が相対的に増加する。つまり、断面の縦横比(D/L)が1の空隙が触媒層内に均等に分布している状態に比べ、縦横比(D/L)が1を超えるシンメトリーでない空隙が触媒層内に均等に分布している状態では、空隙同士の接点が増加する。この接点の数は、空隙の断面形状の縦横比に対し指数的に増加する。その結果、空隙間の繋がりが増大することから、触媒層3の内側の触媒粒子4(担体2の近傍の触媒粒子4)に対し、より排気ガスが到達しやすくなる。そのため、触媒粒子4における活性点と排気ガスとの接触率が上昇し、触媒性能が向上する。
【0020】
そして、本実施形態において、触媒層3内の空隙5の断面における縦横比(D/L)に関する頻度分布の最頻値が2以上であることが好ましい。つまり、触媒層3の触媒粒子4の間に存在する全空隙5に関し、空隙径に対して空隙長が2倍以上のものが最も多く存在していることが好ましい。これにより、空隙間の接点がより増加するため、触媒層3内での排気ガスの拡散性が向上する。また、触媒層3内でのガス拡散性が向上するため、たとえ触媒層の厚さが増加したとしても、圧力損失の上昇を抑制することができる。
【0021】
なお、空隙5の最頻値は2以上であることが好ましいが、最頻値は2以上100以下であることがより好ましく、2以上20以下であることがさらに好ましく、2以上5以下であることが特に好ましい。空隙5の最頻値が100を超える場合であっても本願発明の効果を得ることができるが、100を超える場合では触媒層内の空隙を基点として触媒層の剥離が生じる虞がある。これは、車両運転時における、排気ガスの温度変動による熱衝撃や触媒の振動により、触媒層は熱膨張及び収縮を繰り返す。その熱膨張及び収縮の過程でクラックが生じ、その結果、ハニカム担体に対する触媒層の接着強度が低下し、剥離が生じ易くなる。なお、空隙5の最頻値が20以下、特に5以下である場合には、剥離の発生をより抑制することが可能となる。
【0022】
ここで、触媒層3内の空隙5の断面における縦横比(D/L)は、次のように求めることができる。
(1)まず、触媒を切断し、樹脂により包埋し、図3(a)のように走査型電子顕微鏡(SEM)で撮像する。このとき、触媒層の上端部、中央部及び下端部等の測定点が偏らないよう複数撮像することが望ましい。また、各試料中でも複数のセルを撮影することが望ましい。
(2)次に、触媒層を拡大する。つまり、SEM像の倍率を上げ、触媒層中の空隙長及び空隙径が測定可能な倍率にする。
(3)さらに、拡大後のSEM像における空隙部分を二値化抽出する。通常のSEM像では触媒粒子のない部分、つまり試料の前処理時に樹脂が充填された部分は電子線を反射しないため、黒く写る。この画像の白黒を反転させ、さらに二値化処理を行うと、空隙部分が白く抽出される。
(4)その後、白く抽出された部分の輪郭抽出を行い、各空隙の長径(空隙長)Dと短径(空隙径)Lから縦横比(D/L)を算出する。
(5)得られたデータについて、横軸に縦横比(D/L)、縦軸に頻度を取ると、触媒層中の空隙に関する縦横比(D/L)の頻度分布が得られる。このグラフ中の最頻値を読み取る。
【0023】
なお、図4に示すように、上記空隙長6は空隙5の輪郭形状における外周上の最大2点間距離をいい、空隙径7は空隙長6の中点を通り、空隙長6の方向に直角な線が空隙5の輪郭を横切る長さをいう。
【0024】
ここで、触媒層3における空隙5の割合が15vol%以上30vol%以下であることが好ましい。空隙5の容積が30vol%以下では触媒粒子4間の接点数が十分に確保されるため、触媒層3の強度の低下を抑制することができる。このため、外気温から600℃程度への急激な温度変化を伴い、熱履歴が激しく、さらに熱収縮が繰り返される自動車用排ガス浄化触媒に用いても、触媒層の剥離を防止することができる。また、空隙容積15vol%以上であれば、触媒層中での排気ガスの拡散性が十分に確保されるため、加減速時など急激な空間速度の変化が生じる条件においても、活性点である貴金属と排気ガスとの接触確率が向上し、触媒性能が良好となる。
【0025】
さらに、触媒層3の最厚部における厚さが150μm以下であることが好ましい。触媒層3が伸長形状の空隙を有し、さらに最厚部が150μm以下の領域では、特にガス拡散性の向上効果が高くなる。また、圧力損失の低減のため、触媒層3を薄くすることが好ましいマニホールド触媒の場合では、特にガス拡散性の効果が高い。
【0026】
なお、上記最厚部は、触媒層3がハニカム担体2に担持されている場合、ハニカム担体2におけるコーナー部の厚さを意味する。具体的には、最厚部Tは、図1(b)に示すように、セル2aの断面形状の中心aを通過する対角線b上における触媒層3の厚さを示しており、この部分の厚さが触媒層全体において最も厚くなる。なお、図1(b)のセル2aは断面形状が略正方形であるが、断面形状が略正六角形の場合も同様である。
【0027】
[触媒粒子]
本実施形態における触媒粒子4としては、貴金属が基材粒子に担持されたものを使用することができる。触媒粒子4中の貴金属としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)及びルテニウム(Ru)の中から選ばれる少なくとも一つを使用することができる。また、基材粒子としては、酸化アルミニウム(Al)、酸化セリウム(CeO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化イットリウム(Y)及び酸化ネオジム(Nd)の中から選ばれる少なくとも一つを使用することができる。なお、触媒粒子4では、助触媒として、酸素吸蔵能を有するセリア、耐熱性を向上させるアルカリ金属及びアルカリ土類金属、さらにHC吸着能を有するゼオライトを含んでも良い。
【0028】
また、触媒粒子4は、平均粒子径(D50)が6μm以下であることが好ましい。触媒粒子4の平均粒子径が6μmを超える場合でも本願発明の効果を得ることができる。ただ、触媒粒子4の外周部からの粒子の中心部までの距離が大きくなり、粒子中心部へのガス拡散性が低下するため、浄化性能が低下する虞がある。また、6μmを超える場合、ハニカム担体へのコート時に剥離や偏りなどが起き易くなる。触媒粒子4の平均粒子径は、適切な粒子間空隙が形成でき、さらに剥離を抑制できる1μm〜4μmの範囲であることがより好ましい。なお、触媒粒子4の平均粒子径は、これらの粒子を含有するスラリーをレーザー回折式粒度分布測定装置にかけることにより求めることができる。
【0029】
ここで、触媒粒子4としては、図5に示す包接構造を有するものであることがより好ましい。図5に示す触媒粒子4は、貴金属粒子8と、アンカー粒子9とを含有している。アンカー粒子9は、貴金属粒子8のアンカー材として貴金属粒子8を表面に担持している。さらに触媒粒子4は、貴金属粒子8とアンカー粒子9との複合粒子10を包接し、隣接する複合粒子10の間を互いに隔てる包接材12を含有する。
【0030】
触媒粒子4では、貴金属粒子8とアンカー粒子9とが接触して担持することにより、アンカー粒子9が化学的結合のアンカー材として作用し、貴金属粒子8の移動を抑制する。また、貴金属粒子8が担持されたアンカー粒子9を包接材12で覆い、内包する形態とすることにより、貴金属粒子8が包接材12により隔てられた区画を越えて移動することを物理的に抑制する。更に、包接材12により隔てられた区画内にアンカー粒子9を含むことにより、包接材12により隔てられた区画を越えてアンカー粒子9同士が接触し凝集することを抑制する。これによって、アンカー粒子9が凝集することを防止するだけでなく、アンカー粒子9に担持された貴金属粒子8同士が凝集することも防止できる。その結果、触媒粒子4は、製造コストや環境負荷を大きくすることなく、貴金属粒子8の凝集による触媒活性の低下を抑制することができる。また、アンカー粒子9による貴金属粒子8の活性向上効果を維持することができる。
【0031】
このように、貴金属粒子8及びアンカー粒子9の両方が包接材12で内包されることにより、貴金属粒子8の凝集を抑制することが可能となる。ただ、貴金属粒子8及びアンカー粒子9の周囲が包接材12により覆われることから、排気ガスが活性点である貴金属粒子8に到達し難くなる可能性がある。
【0032】
これに対し、上述のように、本実施形態では、触媒層3の触媒粒子4の間に伸長した空隙5が形成されている。その結果、複合粒子10の周囲に排気ガスが到達しやすくなる。さらに後述のように、包接材12には複数の微細孔が存在することから、活性点である貴金属粒子8に対し排気ガスが接触しやすくなり、浄化性能を向上させることが可能となる。
【0033】
ここで、図5に示した触媒粒子4において、包接材12により隔てられた領域内では、貴金属粒子8と、アンカー粒子9の一次粒子が凝集した二次粒子とを含有した触媒ユニット11が包接されている。しかし、アンカー粒子9は、包接材12により隔てられた領域内において一次粒子として存在しても良い。つまり、触媒ユニット11は、貴金属粒子8とアンカー粒子9の一次粒子とを含有したものであっても良い。
【0034】
貴金属粒子8としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)及びルテニウム(Ru)の中から選ばれる少なくとも一つを使用することができる。この中でも特に白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びロジウム(Rh)が高いNOx浄化性能を発揮することができる。
【0035】
また、アンカー粒子9としては、酸化アルミニウム(Al)、酸化セリウム(CeO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化イットリウム(Y)及び酸化ネオジム(Nd)の中から選ばれる少なくとも一つを主成分とすることができる。この中でも、AlやZrOは高温耐熱性に優れ、高い比表面積を維持できるため、アンカー粒子9としてAlやZrOを主成分とすることが好ましい。なお、本明細書において、主成分とは粒子中の含有量が50モルパーセント以上の成分のことをいう。
【0036】
包接材12はアルミニウム(Al)及びケイ素(Si)の少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。包接材12としては、アンカー粒子を包接でき、かつ、ガス透過性を確保できる材料が好ましい。このような観点から、Al及びSiの少なくとも一つを含む化合物、例えばAl及びSiOなどは細孔容積が大きく、高いガス拡散性を確保できる。そのため、包接材12は、Al及びSiOを主成分とすることが好ましい。なお、包接材は、Al及びSiの複合化合物であっても良い。
【0037】
ここで、触媒粒子4で使用される包接材12は、触媒ユニット11の周囲を完全に包囲するわけではない。つまり、包接材12は、触媒ユニット11の物理的移動を抑制する程度に覆いつつも、排気ガスや活性酸素が透過できる程度の細孔を有している。具体的には、図5に示すように、包接材12は、触媒ユニット11を適度に包接し、それぞれのユニットにおける粒子の凝集を抑制している。さらに、包接材12は、複数の細孔12aを有しているため、排気ガスや活性酸素が通過することができる。この細孔12aの細孔径は、30nm以下が好ましく、10nm〜30nmがより好ましい。なお、この細孔径は、ガス吸着法により求めることができる。
【0038】
上述のように、このような包接材12としては、アルミナやシリカを使用することができる。包接材がアルミナからなる場合、前駆体としてベーマイト(AlOOH)を使用することが好ましい。つまり、貴金属粒子8を担持したアンカー粒子9を、ベーマイトを水等の溶媒に分散させたスラリーに投入し、攪拌する。これにより、アンカー粒子9の周囲にベーマイトが付着する。そして、この混合スラリーを乾燥及び焼成することにより、アンカー粒子9の周囲でベーマイトが脱水縮合し、ベーマイト由来のγアルミナからなる包接材が形成される。このようなベーマイト由来のアルミナからなる包接材は、アンカー粒子9を覆いつつも、30nm以下の細孔を多く有しているため、ガス透過性にも優れている。
【0039】
同様に、包接材がシリカからなる場合には、前駆体としてシリカゾルとゼオライトを使用することが好ましい。つまり、貴金属粒子8を担持したアンカー粒子9を、シリカゾル及びゼオライトを溶媒に分散させたスラリーに投入し、攪拌し、乾燥及び焼成することにより、シリカからなる包接材が形成される。このようなシリカゾル及びゼオライト由来のシリカからなる包接材も、アンカー粒子9を覆いつつも、30nm以下の細孔を多く有しているため、ガス透過性に優れている。
【0040】
なお、上記包接材12により隔てられた区画内に含まれる触媒ユニット11の平均粒子径は300nm以下であることが好ましい。そのため、触媒ユニット11に含まれるアンカー粒子9の平均二次粒子径も300nm以下であることが好ましい。この場合には、貴金属を微粒子状態に維持することができる。より好ましい触媒ユニット11の平均粒子径及びアンカー粒子の平均二次粒子径は200nm以下である。これにより、アンカー粒子の二次粒子上に担持される貴金属量が更に減るため、貴金属の凝集を抑制することができる。なお、触媒ユニット11の平均粒子径及びアンカー粒子9の平均二次粒子径の下限は特に限定されないが、例えば5nmとすることができる。ただ、後述するように、触媒ユニット11の平均粒子径が包接材12に形成されている細孔12aの平均細孔径より大きいことが好ましい。そのため、触媒ユニット11の平均粒子径及びアンカー粒子9の平均二次粒子径は、30nmを超えることがより好ましい。
【0041】
アンカー粒子の平均二次粒子径は、触媒粒子の製造過程における、これらの粒子を含有するスラリーを、レーザー回折式粒度分布測定装置にかけることにより求めることができる。なお、この場合の平均二次粒子径とは、メジアン径(D50)をいう。また、得られた触媒粉末の透過型電子顕微鏡(TEM)の写真より、アンカー粒子の平均二次粒子径や後述する貴金属粒子の粒子径を測定することもできる。さらに、触媒ユニット11の平均粒子径もTEM写真より測定することができる。
【0042】
また、貴金属粒子8の平均粒子径は2nm以上10nm以下の範囲内にあることが望ましい。貴金属粒子8の平均粒子径が2nm以上である場合には、貴金属粒子8自身の移動によるシンタリングを低減することができる。また、貴金属粒子8の平均粒子径が10nm以下である場合には、排気ガスとの反応性の低下を抑えることができる。
【0043】
ここで、貴金属粒子8とアンカー粒子9とを含有した触媒ユニット11に関し、その触媒ユニット11の平均粒子径Daと、触媒ユニット11を内包する包接材12に形成されている細孔12aの平均細孔径Dbとが、Db<Daの関係を満たすことが好ましい。つまり、図5に示すように、Db<Daは、触媒ユニット11の平均粒子径Daが、包接材12の細孔12aの平均径Dbよりも大きいことを意味している。Db<Daであることにより、貴金属粒子8とアンカー粒子9との複合粒子10が、包接材12に形成されている細孔を通して移動することが抑制される。従って、他の区画に包接される複合粒子10との凝集を低減することができる。
【0044】
なお、上記不等式Db<Daの効果は、本発明者らの実験により確認されている。図6は、排気耐久試験前の複合粒子10の平均粒子径Daと包接材の平均細孔径Dbの比Da/Dbを横軸に、排気耐久試験後のアンカー粒子9としてのセリア(CeO)の結晶成長比及び貴金属粒子8としての白金(Pt)の表面積を縦軸にして、これらの関係を示すグラフである。図6から、Da/Dbが1を超える場合にはCeOの結晶成長比が顕著に低下し、CeOの焼結が少ないことが分かる。また、耐久試験後でもPtの表面積が高い状態で維持され、Ptの凝集が抑制されているが分かる。
【0045】
さらに、貴金属粒子8の80%以上はアンカー粒子9に接触していることが望ましい。アンカー粒子9と接触している貴金属粒子8の割合が80%未満であると、アンカー粒子9上に存在しない貴金属粒子8が増加するため、貴金属粒子8の移動によってシンタリングが進むことがある。
【0046】
また、アンカー粒子9は、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)から選ばれる少なくとも一つを更に含む酸化物であることが好ましい。つまり、上述のように、アンカー粒子9はアルミナやジルコニアを主成分としている。そして、アンカー粒子に上記遷移金属を添加物として含有することが望ましい。これらの遷移金属を少なくとも一つを含有することで、遷移金属が有する活性酸素により触媒性能、特にCO及びNOx浄化率を向上させることができる。
【0047】
また、アンカー粒子9は、バリウム(Ba),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr)及びナトリウム(Na)から選ばれる少なくとも一つのNOx吸着材を更に含むことが好ましい。これらの元素を含む化合物は、いずれもNOx吸着材として作用する。そのため、アンカー粒子にNOx吸着材を含むことで、NOx浄化性能を向上させることができる。これはNOx吸着反応がガスの接触に非常に感度があるためである。これらのNOx吸着材を含む触媒は、理論空燃比付近で燃焼させるエンジンよりも大量にNOxが生じるリーンバーンエンジン用の触媒として好適である。なお、ストイキ雰囲気での燃焼を主としたガソリンエンジンに用いる場合にはこの限りではない。
【0048】
さらに、包接材12は、セリウム(Ce)、ジルコニウム(Zr)、ランタン(La)、バリウム(Ba)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びナトリウム(Na)の少なくともいずれか一つを含有する酸化物であることが好ましい。セリウムを含有することにより、包接材にも酸素吸蔵放出能を与え、排ガス浄化性能を向上させることができる。また、ジルコニウム及びランタンを含有させることで、包接材の耐熱性を向上させることができる。さらに、包接材にバリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びナトリウムのようなNOx吸着材を含有させることで、NOx浄化性能を向上させることができる。なお、ストイキ雰囲気での燃焼を主としたガソリンエンジンに用いる場合にはこの限りではない。また、これらの元素は包接材の前駆体スラリーにこれらの元素の硝酸塩や酢酸塩等を混合することにより、含有させることができる。
【0049】
また、包接材12により隔てられた区画内には、貴金属粒子8を合計で8×10−20モル以下の量で含有することが好ましい。つまり、一つの触媒ユニット11内において、貴金属粒子8のモル数は8×10−20モル以下であることが好ましい。包接材12により隔てられた区画内では、高温状態において複数個の貴金属粒子8が移動し、互いに凝集する場合がある。この場合、貴金属粒子8はアンカー粒子9の効果によって包接材12には移動せず、アンカー粒子9の表面で一つ又は複数個の貴金属粒に凝集する。
【0050】
ここで、一つの触媒ユニット11内で貴金属粒子8が凝集した場合に、凝集した貴金属粒子8の粒径が10nm以下であれば、充分な触媒活性を示し、凝集による劣化を抑制することができる。図7は、貴金属としての白金やパラジウムに関し、粒子径と表面積との関係を示すグラフである。なお、図7では白金とパラジウムの場合でほぼ同じ曲線を示すので、一つの曲線として示している。図7から明らかなように、貴金属の粒子径が10nm以下であれば表面積が大きいため、凝集による触媒活性の劣化を抑制することができる。
【0051】
そして、図8は、貴金属としての白金やパラジウムに関し、粒子径と原子数との関係を示すグラフである。なお、図8では白金とパラジウムの場合でほぼ同じ曲線を示すので、一つの曲線として示している。図8から明らかなように、粒子径が10nmであるとき、貴金属の原子数は約48000であり、この値をモル数に換算すると約8×10−20モルとなる。これらの観点から、触媒ユニット11内の貴金属量を制限し、8×10−20モル以下とすることで、たとえ触媒ユニット11内で貴金属が1個に凝集しても、触媒活性の劣化を抑制することができる。なお、触媒ユニット11内に含まれる貴金属量を8×10−20モル以下にする方法としては、貴金属粒子8を担持するアンカー粒子9の粒径を小さくすることが挙げられる。
【0052】
さらに、図5に示す触媒粒子4において、貴金属粒子8のアンカー粒子9への吸着安定化エネルギーがEaであり、貴金属粒子8の包接材12への吸着安定化エネルギーがEbであるとき、EaがEbよりも小さい値であること(Ea<Eb)が好ましい。貴金属粒子8のアンカー粒子9への吸着安定化エネルギーEaが、貴金属粒子8の包接材12への吸着安定化エネルギーEbよりも小さいことにより、貴金属粒子8が包接材12に移動することを抑制できる。その結果、貴金属粒子8の凝集をさらに低減することができる。
【0053】
また、貴金属粒子8のアンカー粒子9への吸着安定化エネルギーEaと、貴金属粒子8の包接材12への吸着安定化エネルギーEbとの差(Eb−Ea)が、10.0cal/molを超えることがより好ましい。吸着安定化エネルギー差が10.0cal/molを超えることにより、貴金属粒子8が包接材12に移動することをより確実に抑制することができる。
【0054】
なお、貴金属粒子8のアンカー粒子9への吸着安定化エネルギーEaや、貴金属粒子8の包接材12への吸着安定化エネルギーEbは、いずれも密度汎関数法を用いたシミュレーションにより算出することができる。この密度汎関数法は、多電子間の相関効果を取り入れたハミルトニアンを導入して、結晶の電子状態を予測する方法である。その原理は、系の基底状態の全エネルギーを電子密度汎関数法で表すことができるという数学的定理に基づいている。そして、密度汎関数法は、結晶の電子状態を計算する手法として信頼性が高い。
【0055】
このような密度汎関数法は、アンカー粒子9や包接材12と貴金属粒子8との界面における電子状態を予測するのに適している。そして、実際のシミュレーション値を基に選択した貴金属粒子、アンカー粒子及び包接材の組み合わせを基に設計した本実施形態の触媒は、貴金属粒子の粗大化が生じにくく、高温耐久後も高い浄化性能を維持することが確認されている。このような密度汎関数法を用いたシミュレーションのための解析ソフトウェアは市販されており、解析ソフトの計算条件の一例としては、以下のものが挙げられる。
【0056】
プリ/ポスト:Materials studio 3.2 (Accelrys社製)、ソルバ:DMol3 (Accelrys社製)、温度:絶対零度、近似:GGA近似
【0057】
[排ガス浄化触媒]
本実施形態の排ガス浄化触媒1は触媒層3を有しており、触媒層3は耐火性無機担体2にコーティングされている。これにより、排ガス浄化触媒1が内燃機関の排気ガス流路に設置された場合には、内燃機関から排出される排気ガスと触媒層3との接触率を高めることが可能となる。
【0058】
耐火性無機担体2としては、コージェライト製ハニカム担体を用いることができる。コージェライト製ハニカム担体は、耐熱性、耐衝撃性及び製造コストに優れ、自動車用排ガス浄化触媒の担体として一般的に用いられる。流路(セル2a)の断面形状は四角形や六角形などがあるが、本実施形態ではいずれの形状でも使用することができる。また、耐火性無機担体2としては、ステンレス製のメタル担体も用いることができる。メタル担体は、壁厚を薄く加工できることから、圧力損失の低減が要求される高出力車を中心に採用される。メタル担体は、波状に加工されたステンレス箔を同心円状に巻き取る加工するため、流路形状は主として3箇所に隅部をもつ不定形な形状となる。本実施形態ではこの形状の担体にも使用することができる。
【0059】
さらに本実施形態における排ガス浄化触媒1の触媒層3は、複数の層が積層された構造とすることができる。触媒層3を複数層とすることで、層ごとに機能を分けることが可能となる。例えば、ガソリン車用の三元触媒、なかでもエンジンの排気側に近いマニホールド触媒では、比較的安価なパラジウム(Pd)と高価なロジウム(Rh)を組み合わせた触媒が一般的である。このとき、パラジウムとロジウムの比率(Pd/Rh)は、一般的に10/1〜20/1のように、ロジウムはパラジウムに対し少ない量で配合することが多い。このため、ロジウムの耐久後の劣化による表面積の低下を抑制する為、触媒層を複数に分割し、ロジウムを含む触媒層を排気ガス流路の表面から遠い側、すなわち触媒層の内層側に配置することで、ロジウムへの熱履歴を緩和する方策が取られる。
【0060】
なお、ロジウムを内層側に配置することにより、ロジウムへのガス拡散性が低下し、結果としてロジウムが反応に大きく寄与するNOx還元能が低下し、NOx転化率が悪化しやすくなる。これに対し、本実施形態では、各触媒層の空隙割合を変えることでガス拡散性をコントロールすることができる。例えば、ロジウムを内層に配置してもガス拡散性の低下が起き難いように、表層の空隙容積を拡大し、ロジウムを含む内層側へ排気ガスが拡散しやすいようにすることが可能である。また、この逆として、表層側に対し内層側の空隙容積を拡大することで、触媒層内のガス滞留時間を増加させ、反応に比較的時間のかかるNOx転化率を向上させる方法も有効である。これは、エンジン排気側から遠く、反応に十分な温度に達するまでに比較的時間のかかる床下位置の触媒において特に有効である。
【0061】
[触媒層の製造方法]
次に、本実施形態に係る排ガス浄化触媒1の製造方法について説明する。本触媒の製造方法は、貴金属粒子を含有する触媒粒子と、断面の縦横比(D/L)に関する頻度分布の最頻値が2以上である炭素化合物材とを混合する工程を有する。
【0062】
本触媒の製造方法では、まず、貴金属粒子を含有する触媒粒子4を調製する。触媒粒子4は、上記基材粒子に貴金属を担持することにより調製することができる。貴金属の担持法としては特に限定されないが、例えば含浸法により担持することができる。
【0063】
次に、調製した触媒粒子と、炭素化合物材とを混合し、溶媒(例えば、イオン交換水)と共に混合し、触媒スラリーを調製する。製造工程において、触媒スラリーにこのような炭素化合物材を混合し、その後の工程において焼失させることで、炭素化合物材の形状と同じ形状の空隙を触媒層内に造ることが可能となる。このようにして調製した空隙は排気ガスの拡散流路となり、特に加速時など急激に触媒入口のガス流速が増大する際に、触媒性能を向上させることができる。
【0064】
ただ、圧力損失を上げることなく触媒層3中のガス拡散性を向上させるためには、伸長形状の炭素化合物を混合する必要がある。具体的には、炭素化合物の断面の縦横比(D/L)に関する頻度分布の最頻値が2以上である必要がある。このような炭素化合物材を使用することにより伸長形状の空隙5が形成されるため、触媒層3内のガス拡散性を向上させることができる。
【0065】
ここで、炭素化合物材の断面の縦横比に関する頻度分布の最頻値は、上記空隙5の断面の最頻値と同様に求めることができる。つまり、電子顕微鏡などを用いて炭素化合物材の長さと径を求め、縦横比(D/L)を算出する。そして、得られたデータについて、横軸に縦横比(D/L)、縦軸に頻度を取ると、炭素化合物材に関する縦横比(D/L)の頻度分布が得られ、このグラフ中の最頻値を読み取る。なお、炭素化合物材の長さ及び径の定義は、上記空隙5と同様とする。具体的には、炭素化合物材の長さは炭素化合物材の輪郭形状における外周上の最大2点間距離をいい、炭素化合物材の径は炭素化合物材の長さの中点を通り、長さ方向に直角な線が炭素化合物材の輪郭を横切る長さをいう。
【0066】
ここで、炭素化合物材の混合方法は特に限定されないが、例えば、触媒粒子を所望の粒径にまで粉砕した触媒スラリー中へ直接混合しても良い。また、炭素化合物材と触媒粉末とを混合した後、所望の粒径まで粉砕しても良い。ただ、炭素化合物材と触媒粉末とを混合した後に粉砕する方法の場合、触媒粉末だけでなく炭素化合物材も微細化されてしまう可能性がある。その場合、炭素化合物材の断面の縦横比に関する頻度分布の最頻値が2未満となる場合がある。そのため、まず触媒粒子を所望の粒径にまで粉砕した触媒スラリーを調製し、その後触媒スラリー中へ炭素化合物材を直接混合するほうが好ましい。なお、触媒粒子の粉砕は、例えばボールミル等を用いて行うことができる。また、必要に応じて触媒スラリーにバインダを添加することができる。
【0067】
その後、上記触媒スラリーを耐火性無機担体の内面に塗布し、乾燥させることにより、触媒層前駆体を形成する。そして、本実施形態では、得られた触媒層前駆体中の炭素化合物材の少なくとも一部を焼失させる工程を有する。具体的には、得られた触媒層前駆体付きの耐火性無機担体を空気中で焼成することにより炭素化合物材を消失させて、触媒層3中に空隙5を形成することができる。なお、この際の焼成温度は、炭素化合物材が消失する温度で焼成すれば良いが、例えば400℃以上の温度で1時間以上焼成することにより、触媒層前駆体中の炭素化合物材を焼失させることができる。
【0068】
ここで、得られた排ガス浄化触媒が未使用の状態において、触媒層中の炭素化合物材は完全に焼失されていることが好ましい。ただ、未使用の状態において、触媒層中の炭素化合物材は完全に焼失されていなくても良い。つまり、未使用の状態で触媒層中の炭素化合物材が残存していたとしても、触媒が内燃機関の排気ガス流路に設置され、使用されることにより、触媒の温度を上昇させ、炭素化合物材を焼失させることも可能である。
【0069】
このように、炭素化合物材を混合した後に、焼失させる工程を経ない、または一部しか焼失させないで製造を終了することも可能である。ただ、触媒の使用条件によっては、実際の運転中に、炭素化合物材が焼失するまでの温度に到達しない場合があるため、製造工程中で焼失させることが好ましい。
【0070】
上述のように、炭素化合物材としては、断面の縦横比に関する頻度分布の最頻値が2以上であり、かつ、空気気流下にて焼失することが可能な物質を使用する必要がある。このような炭素化合物材としては、カーボン、高分子化合物、多糖類及び炭水化物の少なくとも一つを用いることが好ましい。また、混合する炭素化合物材中には、触媒被毒や活性点への被覆など、触媒性能を低下させる成分を含まないことが望ましい。具体的には、カリウム(K)、リン(P)、亜鉛(Zn)、及び塩素(Cl)を極力含まない材料であることが望ましい。
【0071】
炭素化合物材としては、具体的には、カーボンやセルロース、ポリカーボネート、ブドウ糖などが好ましい。これらは触媒性能の低下が起きにくく、また比較的低温(200〜400℃)にて焼失するため、貴金属に対しシンタリング等の熱影響を与えにくいことから、好適な材料である。この中でも特にセルロースが好ましい。セルロースは低温で焼失する上に、縦横比が2以上であるものが得られやすい。
【0072】
炭素化合物材として使用するセルロースの大きさは、触媒層中における焼成前の状態で、繊維長が5μm〜50μm、繊維径が0.5μm〜10μm程度であることが好ましい。これにより、焼成後に空隙長が5μm〜50μm、空隙径が0.5μm〜10μmの伸長形状の空隙5を得ることができる。なお、上述のように、セルロースの混合方法は、触媒スラリーの粉砕前に投入する方法と粉砕後に投入する方法がある。そして、ここで述べているセルロースの大きさは耐火性無機担体へのコート時の値、つまり触媒層前駆体中での値であり、セルロースをスラリーに混合する際の値ではない。セルロースと触媒粉末を混合後に粉砕する場合は、触媒粒径と同様にセルロースのサイズも変化するため、ここでは担体へのコート時の値とする。
【0073】
次に、図5に示す包接構造を有する触媒粒子4の製造方法について説明する。触媒粒子4では、まず、アンカー粒子9に貴金属粒子8を担持する。このとき、貴金属粒子は含浸法により担持することができる。そして、貴金属粒子8を表面に担持したアンカー粒子9をビーズミル等を用いて粉砕し、所望の粒子径とする。なお、アンカー粒子9の原料として、酸化物コロイド等の微細な原料を用いることにより、破砕工程を省略することができる。
【0074】
次に、上記粉砕後、貴金属を担持したアンカー粒子を、包接材の前駆体を分散させたスラリーに投入し、攪拌する。上記スラリーを攪拌することにより、アンカー粒子9の周囲に包接材の前駆体が付着する。その後、このスラリーを乾燥及び焼成することにより、貴金属を担持したアンカー粒子9の周囲に包接材が形成された触媒粒子4を得ることができる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0076】
[実施例1]
(Rh触媒粉末の調製)
まず、比表面積が約70m/gの活性ジルコニウム−セリウム複合酸化物(ZrO‐CeO)の基材粉末に、硝酸ロジウム溶液を、ロジウム担持濃度が1.0wt%となるように担持した。この溶液を150℃で一昼夜乾燥後、400℃で1時間焼成して、ロジウムを1.0wt%担持したジルコニウム−セリウム複合酸化物を得た。次に、Rhを担持したジルコニウム−セリウム複合酸化物を粉砕し、平均粒子径(D50)を150nmとした。なお、平均粒子径の測定には、株式会社堀場製作所製レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920を用いた。
【0077】
次に、ベーマイトと、硝酸と、水とを混合し、1時間攪拌した。そして、この溶液中に、粉砕したRh担持ジルコニウム−セリウム複合酸化物にゆっくりと投入し、高速攪拌機を用いて更に2時間攪拌した。得られたスラリーを急速乾燥し、150℃で一昼夜更に乾燥させて水分を除去した。その後、550℃で3時間、空気中で焼成し、実施例1のRh触媒粉末を得た。なお、このRh触媒粉末は、図5に示すように、Rh担持ジルコニウム−セリウム複合酸化物をアルミナからなる包接材で包接したものである。
【0078】
(Pd触媒粉末の調製)
まず、比表面積が約70m/gのZrO基材粉末に、硝酸パラジウム溶液を、担持濃度が8.0wt%となるように担持した。この溶液を150℃で一昼夜乾燥後、400℃で1時間焼成して、パラジウムを8.0wt%担持したZrO粉末を得た。次に、Pdを担持したZrO粉末を粉砕し、平均粒子径(D50)を150nmとした。
【0079】
次に、ベーマイトと、硝酸と、水とを混合し、1時間攪拌した。そして、この溶液中に、粉砕したPd担持ZrO粉末をゆっくりと投入し、高速攪拌機を用いて更に2時間攪拌した。得られたスラリーを急速乾燥し、150℃で一昼夜更に乾燥させて水分を除去した。その後、550℃で3時間、空気中で焼成し、実施例1のPd触媒粉末を得た。なお、このPd触媒粉末は、図5に示すように、Pd担持ZrOをアルミナからなる包接材で包接したものである。
【0080】
(触媒層の調製)
上記Rh触媒粉末200g、ZrO‐CeO粉末25g、アルミナゾル25g、水230g及び硝酸10gを磁性ボールミルに投入し、混合し粉砕することによりRh触媒スラリーを調製した。
【0081】
次に、上記Pd触媒粉末175g、ZrO‐CeO粉末50g、アルミナゾル25g、水230g及び硝酸10gを磁性ボールミルに投入し、混合し粉砕することによりPd触媒スラリーを調製した。
【0082】
そして、上記Rh触媒スラリーに、平均縦横比が2.5の市販のセルロース粉末を別途粉砕したものを混合した。その後、セルロースを含むRh触媒スラリーをコーデェライト質モノリス担体(0.12L,900セル)に付着させて、空気流にてセル内の余剰のスラリーを取り除いた。さらに、スラリー付き担体を130℃で乾燥した後、400℃で1時間焼成して、Rh触媒層を調製した。
【0083】
さらに、Pd触媒スラリーに、平均縦横比が2.5の市販のセルロース粉末を別途粉砕したものを混合した。その後、セルロースを含むPd触媒スラリーをRh触媒層が担持されたモノリス担体に付着させて、空気流にてセル内の余剰のスラリーを取り除いた。さらに、スラリー付き担体を130℃で乾燥した後、400℃で1時間焼成して、Pd触媒層を調製した。このようにして、表層としてPd触媒層を設け、内層としてRh触媒層を設けた実施例1の触媒を調製した。
【0084】
[実施例2]
実施例1におけるセルロース及び触媒粉末の粉砕条件を変更した以外は実施例1と同様にして、本実施例の触媒を得た。
【0085】
[実施例3]
実施例1の内層を上記Pd触媒層とし、表層を上記Rh触媒層とした以外は実施例1と同様にして、本実施例の触媒を得た。
【0086】
[実施例4〜6]
実施例1の炭素化合物の種類及び触媒粉末の粉砕条件を変更した以外は実施例1と同様にして、本実施例の触媒を得た。
【0087】
[比較例1]
まず、比表面積が約200m/gの活性Al基材粉末に、硝酸ロジウム溶液を、ロジウム担持濃度が1.0wt%となるように担持した。この溶液を150℃で一昼夜乾燥後、400℃で1時間焼成して、ロジウムを1.0wt%担持したAl粉末を得た。
【0088】
次に、Rh担持Al粉末200g、ZrO‐CeO粉末25g、アルミナゾル25g、水230g及び硝酸10gを磁性ボールミルに投入し、混合し粉砕することによりRh触媒スラリーを調製した。
【0089】
さらに、比表面積が約200m/gの活性Al基材粉末に、硝酸パラジウム溶液を、パラジウム担持濃度が8.0wt%となるように担持した。この溶液を150℃で一昼夜乾燥後、400℃で1時間焼成して、パラジウムを8.0wt%担持したAlを得た。
【0090】
次に、Pd担持Al粉末175g、ZrO‐CeO粉末50g、アルミナゾル25g、水230g及び硝酸10gを磁性ボールミルに投入し、混合し粉砕することによりPd触媒スラリーを調製した。
【0091】
そして、Rh触媒スラリーに平均縦横比が1.2の市販のカーボン粉末を別途粉砕したものを混合した。その後、カーボンを含むRh触媒スラリーをコーデェライト質モノリス担体(0.12L,900セル)に付着させて、空気流にてセル内の余剰のスラリーを取り除いた。さらに、スラリー付き担体を130℃で乾燥した後、400℃で1時間焼成して、Rh触媒層を調製した。
【0092】
さらに、Pd触媒スラリーに、平均縦横比が1.2の市販のカーボン粉末を別途粉砕したものを混合した。その後、カーボンを含むPd触媒スラリーをRh触媒層が担持されたモノリス担体に付着させて、空気流にてセル内の余剰のスラリーを取り除いた。さらに、スラリー付き担体を130℃で乾燥した後、400℃で1時間焼成して、Pd触媒層を調製した。このようにして、表層としてPd触媒層を設け、内層としてRh触媒層を設けた比較例1の触媒を調製した。
【0093】
[比較例2]
比較例1のカーボン及び触媒粉末の粉砕条件を変更した以外は比較例1と同様にして、本比較例の触媒を得た。
【0094】
[比較例3]
比較例1に炭素化合物材を加えず、さらに触媒粉末の粉砕条件を変更した以外は比較例1と同様にして、本比較例の触媒を得た。
【0095】
[比較例4]
実施例1の炭素化合物材をカーボンとし、さらにカーボンの投入量を変更した以外は実施例1と同様にして、本比較例の触媒を得た。
【0096】
[耐久試験方法]
排気量3500ccのガソリンエンジンの排気系に上記実施例1〜6及び比較例1〜4の各触媒を装着し、触媒入口温度を900℃として、50時間運転し、各触媒を劣化させた。その後、排気量3500ccのガソリンエンジンの排気系に劣化後の各触媒を装着し、触媒入口温度を480℃とし、触媒の入口及び出口の炭化水素濃度から、次式1より炭化水素の転化率(HC転化率)を測定した。
【0097】
【数1】

【0098】
実施例1〜6及び比較例1〜4の貴金属種、貴金属担持基材種、空隙容積、炭素化合物材種、形成した空隙の断面における縦横比(D/L)の最頻値、触媒層の最厚部の厚さ、触媒粉末の粒径、及び耐久試験後のHC転化率を表1に示す。図9は、実施例1及び比較例1の空隙の断面における縦横比(D/L)の頻度分布を示す。さらに、図2は実施例1の触媒層のSEM像を示し、図10は比較例1の触媒層のSEM像を示す。なお、表1の貴金属担持基材における「ZrO‐CeO/Al」は、アンカー材としてZrO‐CeOを用い、包接材としてAlを用いたことを表す。同様に「ZrO/Al」は、アンカー材としてZrOを用い、包接材としてAlを用いたことを表す。
【表1】

【0099】
表1に示すように、縦横比(D/L)の最頻値が2以上の実施例の触媒は、最頻値が2未満の比較例に対し、HC転化率が上昇している。特に、実施例1〜6と比較例4を比べると、貴金属担持基材、貴金属種及び貴金属担持量が同じであるにもかかわらず、HC転化率が4%以上上昇している。これは、触媒層内の空隙が伸長形状を有しているため、ガス拡散性が向上したためだと推測される。
【0100】
これに対し、図9及び図10に示すように、比較例1の触媒層では、触媒粒子4a間に略球状の空隙5aが形成されており、空隙5a間の連通が不十分であることから、HC転化率が悪化したものと推測される。なお、比較例3については、触媒粉末の平均粒子径が大きく、耐久時に剥離が生じたため、HC転化率が低下した。
【符号の説明】
【0101】
1 排ガス浄化触媒
2 耐火性無機担体
3 触媒層
4 触媒粒子
5 空隙
8 貴金属粒子
9 アンカー粒子
11 触媒ユニット
12 包接材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒層を備える排ガス浄化触媒であって、
前記触媒層内には複数の空隙が存在し、前記空隙の断面の縦横比(D/L)に関する頻度分布の最頻値が2以上であることを特徴とする排ガス浄化触媒。
【請求項2】
前記触媒層における空隙の割合が15vol%以上30vol%以下であることを特徴とする請求項1に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項3】
前記触媒層の最厚部における厚さが150μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項4】
前記触媒層は、貴金属粒子を含有する触媒粒子を備え、
前記触媒粒子の平均粒子径は6μm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項5】
前記触媒層は、貴金属粒子と前記貴金属粒子のアンカー材として貴金属粒子を担持するアンカー粒子とを含む複数の触媒ユニットと、前記複数の触媒ユニットを内包し、かつ、前記触媒ユニット同士を互いに隔てる包接材と、を含有する触媒粒子を備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項6】
前記触媒層は、耐火性無機担体にコーティングされていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項7】
前記触媒層は、複数層からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒の製造方法において、
貴金属粒子を含有する触媒粒子と、断面の縦横比(D/L)に関する頻度分布の最頻値が2以上である炭素化合物材とを混合する工程を有することを特徴とする排ガス浄化触媒の製造方法。
【請求項9】
前記混合工程後、前記炭素化合物材の少なくとも一部を焼失させる工程をさらに有することを特徴とする請求項8に記載の排ガス浄化触媒の製造方法。
【請求項10】
前記炭素化合物材は、空気気流下にて焼失されるカーボン、高分子化合物、多糖類又は炭水化物であることを特徴とする請求項8又は9に記載の排ガス浄化触媒の製造方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【図3】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−240027(P2012−240027A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115754(P2011−115754)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】