説明

排尿情報測定装置

【課題】 溜水圧計測手段の計測値が尿の比重差の影響を受けずに、どのような比重の尿に対しても正確な尿量を得ることを可能することである。
【解決手段】 溜水が形成された状態で使用者が排泄する排尿を受けるボウルを備えた便器と、前記溜水によって生じる水圧を溜水圧として計測する溜水圧計測手段と、排泄に伴って前記溜水圧計測手段によって計測される前記溜水圧の変化に予め求められている溜水量と溜水圧との関係式を適用することによって、排泄された前記排尿の体積を尿量として求める尿量算出手段と、を有する排尿情報測定装置において、前記水圧計測手段は、排泄時に前記ボール内面の底部より所定量だけ高い所定位置に生じる水圧を前記溜水圧として計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボウル内部の底部より上方の位置で溜水圧を計測することに係り、特に尿の比重による水圧変化に対する影響をなくして、より高精度の尿量測定を行うことに好適な排尿情報測定装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来の排尿情報測定装置は、排泄に伴う溜水水位変化による溜水圧変化を水圧センサーで測定し、予め記憶された溜水圧と溜水量との関係式から尿量をはじめとする下部尿路の診断に必要な各種の排尿情報を測定している(例えば、特許文献1参照。)。
この場合、記憶されている溜水量と溜水圧との関係式は排尿の比重変化は考慮せずに一定として求めたものを用いている。しかしながら、実際の排尿ではその成分変化によって排尿毎の比重が変化する場合がある。そのような場合には溜水量と溜水圧との関係も異なることになるため、前記の関係式をそのまま用いると、尿量をはじめとする溜水圧変化を利用して求められる各種の排尿情報に誤差を生じるという問題があった。
【0003】
また、尿の比重に関しては、腎臓で作られる原尿は、水分を再吸収され、濃く濃縮されてから尿となり、膀胱に送られるが、腎臓の働きが低下すると薄い尿しか作れなくなるため、尿の比重を測ることによって腎臓の働きが推定できるとされている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
しかし、尿比重を測定するために尿検体を採取する通常の方法では、尿量測定とは別に行なわなくてはならず煩雑であり、また、特許文献1で示した便器で尿量測定する方法では医療行為の省力化は計れる半面、尿比重の測定が必要な患者に対しては尿検体を採取すると尿量測定値に影響が出るためこの方法を指示することができず、反対に患者への指導が煩雑になってしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−219977号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】AlfredH.Free.Ph.D.&HelenM.Free.B.S.著阿部正和/井川幸雄日本語版監修「尿検査に対する考え方」マイルス・三共株式会社発行、1991年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、本発明の課題は、均一断面積を有しない便器ボウルを利用した場合でも尿比重の違いに影響されない高精度の尿量測定を実現することを目的とし、さらに好適には、便器に排泄された同一尿で尿量と尿比重を同時に計測することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明によれば、溜水が形成された状態で使用者が排泄する排尿を受けるボウルを備えた便器と、前記溜水によって生じる水圧を溜水圧として計測する溜水圧計測手段と、排泄に伴って前記溜水圧計測手段によって計測される前記溜水圧の変化に予め求められている溜水量と溜水圧との関係式を適用することによって、排泄された前記排尿の体積を尿量として求める尿量算出手段と、を有する排尿情報測定装置において、前記水圧計測手段は、排泄時に前記ボール内面の底部より所定量だけ高い所定位置に生じる水圧を前記溜水圧として計測することを特徴とすることにより、
が溜水圧計測手段の計測値が尿の比重差の影響を受けないようになり、どのような比重の尿に対しても正確な尿量を得ることを可能とした。
【0009】
また、請求項2記載の発明のよれば、請求項1記載の発明に加えて、一端に前記所定位置に開口する開口部を有した第一測定管路をさらに有し、前記溜水圧計測手段は、前記第一測定管路に流体的に連通して設けられ、前記第一測定管路に生じる圧力を前記溜水圧として計測するものであることを特徴とすることにより、
便器のボウル面から離れた位置に溜水圧計測手段を配置できるため、レイアウトの自由度を増して装置の最適設計を可能とした。
【0010】
また、請求項3記載の発明のよれば、請求項1又は2に記載の発明に加えて、前記ボウル内面の底部に生じる水圧を底部溜水圧として計測する底部溜水圧計測手段をさらに有し、前記尿量算出手段は、予め求められている排泄に伴う前記溜水圧の変化と前記底部溜水圧の変化との関係式に基づいて、前記排尿の比重を求めるものであることを特徴とすることにより、
便器に排泄された同一尿で尿量と尿比重とを計測することを可能とした。
【0011】
また、請求項4記載の発明のよれば、請求項3に記載の発明に加えて、一端に前記ボウル内面の底部に開口する開口部を有した第二測定管路をさらに有し、前記溜水圧計測手段は、前記第二測定管路に流体的に連通して設けられ、前記第二測定管路に生じる圧力を前記底部溜水圧として計測するものであることを特徴とすることにより、
便器のボウル面から離れた位置に底部溜水圧計測手段を配置できるためレイアウトの自由度を増して装置の最適設計を可能とした。
【0012】
また、請求項5記載の発明のよれば、請求項4に記載の発明に加えて、ボウル内容物を給水によって発生するサイホン現象によって下水配管に搬出するために前記ボウルの底部に開口するゼット吐水口と、前記ゼット吐水口に給水するゼット給水管路とをさらに有し、前記第二測定管路は、前記ゼット給水管路に流体的に連通して設けられ、排泄時に前記第二測定管路に生じる水圧を前記底部溜水圧として計測するものであることを特徴とすることにより、
計測用の開口部を別途設けることなく尿比重測定が可能となるため装置のコストダウンを図ることを可能とした。
【0013】
また、請求項6記載の発明のよれば、請求項4又は5に記載の発明に加えて、前記第一測定管路と第二測定管路とを択一的に選択して連通させる測定管路切替手段をさらに有し、前記底部溜水圧計測手段は、前記溜水圧計測手段が兼ねるものであることを特徴とすることにより、
底部溜水圧計測手段を別途設けることなく1つの溜水圧計測手段で異なる状態の水頭圧を図ることにより、尿比重測定に必要な水頭圧の比率が同一基準で計測可能となるため、より高精度の尿比重測定が行なえる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ボウル底部より高い位置の水圧を計測することによって、尿比重の影響を排除した尿量測定が可能となるという効果がある。さらに好適には、尿量測定と尿比重測定とが同じ排泄行為で行なえるいう効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を実施した実施例における排尿情報測定装置全体を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る実施例の機能ブロック図である。
【図3】本発明に係る実施例の全体構成を示すシステム構成図である。
【図4】本発明の動作原理を説明する模式図であり、測定開始水位状態の図である(第一の測定管路連通)。
【図5】本発明の動作原理を説明する模式図であり、いづれも比重1とみなせる尿が投入された状態の図である。
【図6】本発明の動作原理を説明する模式図であり、比重1より大きい比重の尿が投入された場合における尿量測定状態の図である(第一測定管路連通)。
【図7】本発明の動作原理を説明する模式図であり、比重1より大きい比重の尿が投入された場合における尿比重測定状態の図である。(第二測定管路連通)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明を実施した実施例における排尿情報測定装置全体を示す斜視図である。図1を使用して、本実施例における排尿情報測定装置の全体構成について以下に述べる。
【0017】
本実施例における排尿情報測定装置1は、便器洗浄機能や衛生洗浄機能などの通常の便器機能を備えた洋風大便器4と、洋風大便器4に一体的に組み込まれた便器機能部9と、洋風大便器4の背後に設置されたキャビネット18と、キャビネット18の内部に収納され、被験者が排泄する尿の量である尿量や単位時間当たりの排泄速度である尿流率及び、尿比重等の排尿情報の測定を行う排尿情報測定部5と、被験者が排尿情報測定装置1の各種の動作を指示する操作を行なったり、得られた測定結果等を表示するために壁に設けられたリモコン操作部70とで構成されている。
【0018】
洋風大便器4は陶器製でありボウルの上部には樹脂製の便座171が回動自在に取り付けられている。本実施例では一般的に採用される便ふたを省略し、患者の上半身を支えることを配慮した背もたれ172をキャビネット18に設置している。
【0019】
排尿情報測定部5には、被験者が洋風大便器4に排泄する尿の量である尿量や単位時間当たりの排泄速度である尿流率及び、尿比重等の排尿情報の測定を行うために溜水の水位変化を計測する機構部等を備えた計測手段と、尿量算出手段の動作制御や情報処理等を行う制御手段と、が収納されている。
【0020】
その他、必要に応じて尿中の特定成分濃度等を計測する尿成分測定部などを、キャビネット18の内部に収納しても良い。収納するものの占有体積により、キャビネット18の大きさ・形状は変更が可能である。
【0021】
リモコン操作部70は、排尿情報測定用のリモコン72と、衛生洗浄装置を備えた大便器操作用のリモコン71とを備え、排尿情報測定結果等を印刷出力するプリンター73をキャビネット18の上方に配置している。被験者の操作性・視認性を配慮した時に、リモコン操作部70は壁に取り付けることが推奨されるが、操作の動線を配慮し、プリンター73も壁取り付けとすることも可能である。
【0022】
リモコン72は被験者がトレイに入室し、排尿情報を測定する時に操作するもので、測定開始を指示する測定開始スイッチと、排尿が終了したことを指示する排尿終了スイッチとが設置されている。さらに、リモコン72には被験者の測定履歴などの個人情報を取得するために必要な個人認証手段としての個人別スイッチ、及び、電子データの入出力装置等が設けられている。個人認証手段としては、IDカードやIDタグの読み込み手段を用いることも可能である。
【0023】
測定結果はプリンター73を使用して被験者に開示されるようになっているが、リモコン72の表示部で被験者に開示しても良い。さらにまた、本尿流量測定装置を医療機関に設置した場合は、複数の被験者データを看護師が所定の時刻にリモコン72を操作して、プリンター73からデータを取り出すことも考えられる。また、病院内LANを活用し、個人情報や排尿情報測定結果の電子データを通信する方法であっても良い。
【0024】
図2は、本実施例の排尿情報測定装置1のシステムブロック図である。図2を使用して、排尿情報測定装置1の構成を説明する。
【0025】
供給される市水20は、洗浄水供給手段21によって給水管路を介してボウル22に供給される。この給水管路は本実施例では後述するように、ボウル22を水洗するためのリム洗浄や、排泄物混じりの溜水を排出するためのゼット洗浄をそれぞれ行うため2つの管路に分流している。
【0026】
ボウル洋風大便器4の内部には、排水ソケット25を介して建物の排水配管26と連通されたトラップ24が設けられ、ボウル22内には排水配管26内部で発生した悪臭や衛生害虫などがトイレ内に侵入することを防止するための溜水23が形成されている。使用者の排泄した排泄物混じりの溜水は、排水ソケット25を経由して排水配管26に排出されるようになっている。
【0027】
排尿情報測定部5には、被験者の排尿によって変化する溜水23の水位を求める溜水水位算出部50や、排尿情報測定装置1の各種動作の制御や溜水水位算出部50で求められた溜水水位から尿量や尿比重他の排尿情報を求める制御部6や、測定開始時の水位を形成する測定開始水位形成部60や、ボウル22の形状に依存する溜水水位と溜水量との関係を検量線として求める尿量検量線作成部80が設けられている。
【0028】
溜水水位算出部50は、溜水23の水位によって生じる圧力(水頭圧)を溜水圧計測手段51を用いて計測し、計測値に予め求められている水位と圧力との検量線を適用することによって、排尿によって変化する溜水23の水位を求めるものであり、溜水23の水位によって生じる水頭圧を計測する溜水圧計測手段51が溜水23と連通する測定管路を介して接続されている。
【0029】
本実施例では1つの溜水圧計測手段51で尿量測定だけでなく尿比重測定も併せて行なえるように、溜水23と異なる水位位置で流体的に連通する2つの測定管路と、それらの測定管路を択一的に選択して溜水圧計測手段51に接続する測定管路切替手段52とを設けている。
【0030】
第一測定管路532は、尿量測定時に使用する水位位置で溜水23と連通している管路であり、第二の測定管路543は尿比重を測定時に使用する水位位置で溜水23と連通している管路である。ここで、この連通させるためにボウル22の内面に設けられる連通口の位置や測定管路などの詳細構成については後に述べる。
【0031】
溜水水位算出部50は、さらに溜水水位に影響を与える排水配管圧を測定する排水配管圧計測手段56と、得られた排水配管圧が溜水水位に与える影響量を算出して溜水水位を補正する排水配管圧変動補正手段57とを備えている。排水配管圧変動補正手段57は、排水配管内で発生する圧力変動が溜水水位に与える影響量を求め、圧力変動が無い状態の溜水水位に補正を行うものである。
【0032】
尿量検量線作成部80は、ボウル22が陶器である場合には特に個体毎の形状寸法バラツキが大きいため、使用する洋風大便器4のボウル22における溜水水位と溜水量との関係を測定するものであり、装置設置時に測定して記憶され、定期的な検定時に書き換えが実施される。その手順は、まず第一測定管路53から所定量の水をボウル22内に吐出させてその時の溜水水位による水圧を溜水圧計測手段51で計測して溜水圧と溜水量の関係を記録する。次にこの一連の動作を複数回重ねて行なうことによってボウル22の所定水位範囲における溜水圧と溜水量との関係を学習・記憶する。形成される溜水水位は設置現場の床傾きや排水配管の内圧状況等にも影響されるため、尿量検量線の作成は高精度測定を行う場合は設置時の設定・記憶が不可欠である。
【0033】
制御部6は、排尿情報測定装置1の各部の動作の制御をする部分の他に、被験者が排泄した尿の尿量を求める尿量算出手段30と、尿の比重を求める尿比重算出手段40を備えている。
【0034】
尿量算出手段30は尿量検量線作成部80で作成された尿量検量線を記憶する尿量検量線記憶部31を備え、溜水水位算出部50で算出された溜水水位情報と、記憶されている尿量検量線から被験者の尿量を演算するものである。
【0035】
尿比重算出手段40は測定管路として第一測定管路53と第二測定管路54とを択一的に接続したときに得られる溜水圧計測手段51の2種類の測定結果から尿比重を演算するようになっている。尿比重測定の原理については後述する。
【0036】
リモコン操作部70を構成するリモコン71、72には排尿情報測定装置1を動作させるための各種の操作スイッチが設けられている。リモコン操作部70の各操作は操作信号として赤外線通信などの無線通信手段によってマイコンで動作する制御部9に伝えられ、排尿情報測定装置1の排尿情報測定部5や便器機能部9は、この制御部6によって統合制御されている。
【0037】
図3は、本発明に係る排尿情報測定装置のシステム構成図であり、本実施例である排尿情報測定装置1の具体的な構成を示したものである。ただし、衛生洗浄装置91を含む便器機能部9の詳細構成は省略している。
【0038】
大便器4は排水ソケット25を介して排水配管26に接続されている。トラップ24によって形成される溜水23には、排水配管との連通を遮断する封水の役割を持たせることで、排水配管内で発生した臭気や衛生害虫がトイレ内に侵入しないよう衛生面に配慮されている。
【0039】
上水道などの外部給水源からの給水は、洗浄水供給手段21を構成する止水栓210を設けている。分岐金具211と三方弁213によって、リム吐水口215に向けたリム給水管路214と、後述する本発明の測定連通口としても機能するゼット吐水口541に向けたゼット給水管路216と、測定開始水位形成のために設けられた補水タンク61に向けた尿量計測部給水管路217とに分岐されて供給されている。
【0040】
補水タンク61への給水は開閉弁611によって実施され、所定量はフロートスイッチ612で検知され給水が停止されるが、万一の動作不良発生時はオーバーフロー管路64によって途中にトラップタンク551を介した排水配管連絡管路562を経由して排水配管26に向けて排出を行い、装置外への漏水等が発生しないよう配慮されている。
【0041】
本実施例では溜水23の水位を計測するために、ボウル22の内面でボウル22とトラップ24とを結ぶ上昇管部の所定位置、に設けられた開口部531に、本発明の第一の測定管路を構成する管路532が接続され、排尿情報測定部50の圧力センサ512とボウル22内部の溜水23とを連通させている。そしてこの管路532の途中には、排尿情報測定部5を洋風大便器部から着脱する場合にこの管路を開閉するための開閉弁533が設けられている。
【0042】
また、ゼット給水管路216の途中には分岐具542が設けられ、圧力センサ512に連通し本発明の第二測定管路を構成する管路543が接続されている。管路543の途中には管路を開閉するための開閉弁521と開閉弁524と、排尿情報測定部5を洋風大便器部から着脱する場合にこの管路を開閉するための開閉弁544が設けられている。
【0043】
またこの管路543の途中には分岐具545が設けられ、補水タンク61と連通する管路63が分岐接続されている。そして、その途中にはこの管路63を開閉する開閉弁522が設けられている。
【0044】
管路543の途中にはさらに分岐具546が設けられ、途中に管路を開閉するための開閉弁525と溜水23を吸引するための検量ポンプ811とが設けられトラップタンク551に連通する管路812が接続されている。トラップタンク551は各部の動作に伴って発生するオーバーフロー水等の余剰水を排水配管26に排出させるために排水配管に対するトラップ機能を果たすドレンタンクである。
【0045】
次に本実施例における実際の動作について説明する。
【0046】
便器洗浄を実施する場合は、ゼット吐水口541からのゼット吐水によって誘引したサイホン現象によって溜水23を排水配管26へ全て排出した後、リム吐水口215からの吐水によってトラップ24から溢流が発生するまでリム吐水を続けた後、吐水を停止することによって溢流水位Hの溜水23が得られるようになっている。
【0047】
また、測定開始水位を創成する測定開始水位形成動作時には、まず管路216からの給水によるゼット吐水口541からのゼット吐水によって誘発されたサイホン現象によって、溜水23を全て排水配管26に排出する。次に、開閉弁524と開閉弁525とを閉止し、かつ、開閉弁521と開閉弁522とを開放して、管路63と管路543とによって補水タンク61と溜水23とを連通させた状態で給水ポンプ62を所定の給水率で所定の時間だけ作動させ、補水タンク61に貯留されている水をゼット吐水口541から吐水させることによって、溜水水位をトラップ24の破封水位Xより所定量高い水位測定開始水位Yとする動作を行う。
【0048】
本実施例での待機中の溜水水位は測定開始水位Yであるため、待機中に排水配管内で発生した圧力変動によって溜水切れ(破封)が発生する恐れがないように、破封水位Xからの水深で封水深とも呼ばれる前記所定量を建築基準法施工令に示された50mm以上100mm以下に設定している。所定量の封水深を確保することにより、下水配管内の臭気がトイレ内にもれたり、衛生害虫がトイレ内に侵入するような、衛生性の問題に注意を計る必要がない。使用者が便器としてのみ使用する場合は前述の溢流水位Hで待機すべきであるが、排尿情報測定を行うものと行わないものが混在する場合は測定開始水位Yで待機して、使用者が水位移行のための待ち時間を必要としないよう配慮する必要がある。
【0049】
本実施例では尿量だけでなく尿比重をも測定するために、前述したように2つの測定管路となる管路532、543を備えている。これらの管路はいづれも本発明における溜水圧計測手段としての圧力センサ512に接続され、さらに圧力センサ512には測定管511が接続されている。そして、制御部6によって管路に設けられた各開閉弁を適宜動作させて両測定管路を択一的に選択して連通させることにより、圧力センサ512のボウル22内の溜水23への連通位置を選択可能としている。
【0050】
測定管511は、トラップタンク551の中に延出され大気に開放された大気開放端511aを有しており、互いに測定管路で連通するボウル22を含めて両端が解放されたU字管管路系を形成している。本実施例における測定管511は、本発明における溜水圧計測手段に含まれるものではないが、所定の内径を持った細管で形成されているため、排尿による溜水23の水面の波立ちによる測定管路内を伝わる振動成分を流体的に減衰させることが可能となり、圧力センサ512は、溜水23の水圧をより高精度に計測出来る構成となっている。
【0051】
また、圧力センサ512は、設置された環境の温度変化やセンサ自身の経時変化によって出力が変化するため、測定管511は圧力センサ512の出力を校正するための校正管の機能をも備えている。即ち、開閉弁521、523、525を閉め、開閉弁522、524、526を開放した状態で、給水ポンプ62を稼働させて給水貯留タンク61に貯留された水を測定管511に導き、かつ、開放端511aからトラップタンク551の中に溢れさせて測定管511の中を満水状態にすることによって、固定長を持つ測定管511の長さに等しい高さの水柱を作り出す構成となっている。そして、その一定高さの水柱の水頭圧を圧力センサ512で計測することで、圧力センサ512の出力値と水位との関係を校正時の大気圧を基準とした水位値に対応付ける出力校正を行なう。
【0052】
なお、トラップタンク551は、この出力校正時の測定管511からのオーバーフロー水を排水配管26に排出させるために、内部に封水を形成する位置から延出した排水配管連絡管路562で排水ソケット25に設けられた排水配管連絡口563に接続されて、排水配管との接続管路を水封して縁切りを行なう縁切り手段として機能している。
【0053】
また本実施例の排尿情報測定装置1は、設置現場で溜水23の水位と溜水量との対応関係を計測して本発明における検量関係として記憶する機能を備えている。そのために、任意の量を吸引できる定量吸引タイプのポンプである検量ポンプ531を備え、この検量ポンプ531で本発明における第一測定管路である管路532を使用して溜水23を吸引し、トラップタンク551、排水配管連絡管路562を経て、排水配管に向けて排出できる構成になっている。
【0054】
そして、設置現場において溜水23の水位を尿量測定範囲の最高水位以上の水位にした状態から、検量ポンプ531で所定量分ずつ溜水23をボウル22から吸引して排出し、吸引の都度の溜水水位によって発生する水頭圧を圧力センサ512で測定して水位を算出することによって、溜水水位と溜水量の検量関係が取得されるようになっている。
【0055】
なお検量線の取得方法としては、本実施例の構成のように本発明における第一測定管路と第二測定管路の2つの管路を備えている場合は、そのどちらを本発明における溜水圧計測手段と連通させてもよい。溜水23が水だけのときなど均一な比重を持つ液体の場合、後述のように両者に差は生じないためである。
【0056】
なお、使用する洋風大便器4のボウル面22の形状の個体差が小さくて溜水水位と溜水量の関係が一定な場合は検量関係計測手段全体を省略した構成とし、予め作成した検量線を尿量検量線記憶部31に記憶させておき、装置個別の検量線としてもよい。例えば、少なくともボウル部を樹脂製とした便器であった場合にこの構成を適用することが可能である。
【0057】
本発明における排水配管圧計測手段56を構成する排水配管圧計測センサ561はトラップタンク551に取り付けられ、トラップタンク551とソケット25とを連通する排水配管連絡管路562を介して排水配管内で発生している圧力を排水配管圧として計測している。排水配管圧変動補正手段57によって、この計測された排水配管圧が溜水水位に与える影響量が溜水水位計測値の補正量として算出され、溜水圧計測手段51が計測する水圧計測値は常に排水配管圧変動が無い状態の値に換算される補正処理が行われるようになっている。
【0058】
次に、本発明の排尿量の測定原理について以下で説明する。以下に述べる測定原理は、本発明者による予備実験によって判明した新たな知見に基づくものである。本発明の測定原理を、本実施例における二つの測定管路を備えた場合を模した図4〜図7を用いて以下で説明する。
【0059】
図4は、測定開始水位状態の模式図であり、本発明における第一測定管路(本実施例においては管路532)を連通させ、第二測定管路(本実施例においては管路543)を閉止させた場合である。このとき、ボール22と測定管511とは第一測定管路である管路532を介してU字管水路系を構成していて、かつ、いづれの内部にも給水源から供給された水(ここでは説明の便宜上、比重1とする)が満たされているため、圧力センサ位置を基準とした両者の水位差は同じである(b0、B0)。従って、本発明の溜水圧計測手段に相当する圧力センサー512に対して加わる圧力は、ボウル22内に発生している水位差A0の水柱による水頭圧と同一のものとなる。
【0060】
図5の(イ)、(ロ)はいづれも、排尿前の溜水23と同じ比重1とみなせる比重の尿が投入された場合の模式図である。(イ)は第一測定管路を連通させた場合である。この場合、測定管511内の水と尿の比重が同じでU字管水路系内の液体の比重は均一とみなせるため、ボウル22と測定管511の水位は同一水位となり(b1=B1)、圧力センサー512に対して加わる圧力は、ボウル22に発生した水位差B1の水柱による水頭圧PB1と同一のものとなっている。
【0061】
また(ロ)は、(イ)の状態から測定管路を切り替えて第二測定管路を連通させた場合である。この場合も同様に、同じ水位差(d2=D2)で圧力的に釣り合う(Pd2=PD2)こととなり、かつ、U字管水路系内の液体の移動はないとみなせるので、このときの水位差D2は前述した(イ)の状態の水位差D1と同じで変化しない。従って、圧力センサー512に対して加わる圧力は(イ)の場合と同じ圧力PA1(PA1=PA2)となる。つまり、排尿前の溜水23と同じ比重1とみなせる比重の尿が投入された場合では、第一測定管路と第二測定管路のどちらを圧力センサ512と連通させても同じ溜水圧力が測定されることになる。
【0062】
図6、図7はいづれも、投入された尿の量は図5の場合と同じであるが、その比重が排尿前の溜水23の比重1より無視できないだけ大きいの尿が投入された場合の前述した新たな知見をモデル化した模式図である。
【0063】
我々の行なった予備実験では、比重1より大きい比重の尿が投入された場合、実際の測定時間となる排尿時間のような比較的短時間内では、直ちには尿と溜水が均一に混ざることはなく比重の大きな尿はボウル内面に沿って沈下していき、比重の大きな尿はボウル内面に沿って沈下していき、ボウル底部に沈降した状態であることが確かめられた。
【0064】
図6は、第一測定管路を連通させた状態で比重1より大きい比重の尿が投入された場合の水位状態を示すものである。図示の通り、この場合の尿は放尿前の溜水との比重の違いにより、集合体のような状態で底部に沈降している。
【0065】
この場合、第一測定管路がボウルの溜水と連通する位置を、前述の沈降した尿の集合体より上方の水位位置に設けられているとすると、前述した図5の(イ)と同じように、U字管部系内は液比重は1で等しいため、ボウル22内の溜水水位と測定管511内の水位とは同一水位差(a3=A3)で、圧力的に釣り合うこととなる(Pa3=PA3)。しかも、排泄された尿の体積は前述した図5の(イ)の場合と同じであればU字管路系内の液体の総体積も変わらないため、水位差D3も図5の(イ)の水位差D1に等しくなる。従って、圧力センサー512は尿の比重が図5の(イ)の場合とは異なるにもかかわらず、同じ水位差A1(=A3)の圧力PA1を検知することとなる。言い換えれば、尿の比重の違いによる影響を受けずに、尿量が計測できることとなる。
【0066】
図7は、比重1より大きい比重の尿が投入された図6の状態で、測定管路を第二測定管路を連通させた場合の水位状態を示すものである。図示の通り、測定管511は底部近傍に沈降している比重1より大きい比重の尿を含むボウル22とU字管水路を構成することになるため、第二測定管路を連通させると相対的な比重が大きいボウル22の水位は若干低くなり(D4<D3)、相対的な比重が小さい測定管511内の水位は上昇して(d4>d3)、水位差(d4)と水位差(D4)とで圧力的に釣り合うこととなる(Pd4=PD4)。従って、圧力センサー512は水位差A4ではなく水位差a4の水頭圧(Pa4)を検知することとなる。
【0067】
ここで前述したa4/a3は測定の対象となる排尿の尿比重によって変化する値であり、第一測定管路と第二測定管路を適宜切り替えて両方の水位差で生じる圧力を計測することによって尿比重が推定されることになる。
【0068】
実際の尿の集積状態は、以上の説明で仮定したようには完全に2溶液に分離されることはないため、予め、水位差比a4/a3の関係を尿比重検量線として使用する便器毎に測定環境に合わせて実験的に求めて記憶しておけば、a3とa4(Pa3とPa4)とを計測することによって正確な尿比重の測定が可能となる。
【0069】
また、第一測定管路を本発明における所定位置に設けておけば、尿の比重に影響されずに溜水圧計測手段を用いて尿量を測定することが可能であるが、前述した尿比重の場合と同様な理由で、実際にa3/a1を予め実験的に求めて記憶させておけば、より正確な尿量の測定が可能となる。
【0070】
以上述べた原理説明においては、説明を簡易にするために本実施例でも採用している測定管511を用いたU字管路系で説明したが、測定管511を設けずに圧力センサー512を測定管路端に配置する構成としても良い。その場合、圧力センサー512が検知する圧力は、それぞれ水位差A3/B3(尿量測定時)あるいは水位差A4/D4(尿比重測定時)の水頭圧となる。
【0071】
なお、本発明における第一測定管路のボウル内の開口部の所定位置に関しては、予想される最大尿量の尿がすべてボウル底部に集積貯留したと仮定したときの尿の水位と測定開始水位Yとの間の水位範囲内に前記の所定位置を設定すれば良い。
【0072】
また、本発明における第二測定管路のボウル内の開口部の位置に関するボウルの底部とは、前述した図6、図7で示されているように、通常の排尿状態で尿が沈降する部分であれば良く、実験的に底部近傍で最適な位置を求めて設定すればよい。
【0073】
さらにまた、以上述べた本実施例では尿量と尿比重の両者を測定可能な構成としているが、本発明では第一測定管路のみとして尿量測定だけを実施する構成としてもよい。また、別発明として第二測定管路のみとして、別途に溜水水位変化と尿比重を考慮した溜水圧変化との関係式を求めておいて、尿比重のみを測定する構成としてもよい。
【0074】
さらにまた、以上述べた本実施例では第一測定管路と第二測定管路とを択一的に選択して連通させるための測定管路切替手段を設けて、1つの圧力センサーを本発明における溜水圧計測手段又は底部溜水圧計測手段として使い分ける構成としているが、測定管路切替手段を設けずに、二つの測定管路それぞれに圧力センサーを設ける構成としても良い。その場合は、それぞれの圧力センサーに対して、大気圧を基準とした出力較正を行うことや、圧力と溜水量との関係式を求めておく必要が生じるが、装置構成をシンプルにすることが可能となる。
【0075】
また、以上述べた本実施例では測定管路切替手段は複数の比較的安価な電磁開閉弁を組み合わせて構成しているが、通常の電磁式管路切換え弁を用いることも可能である。
【0076】
以上述べてきたように本発明は、尿収集を洋風大便器で行ないその溜水水位変化を溜水圧を計測することによって知って排尿量を求める方式おいて適用できるものであ。即ち、
本方法は被験者の排泄する尿の比重がボウル内の初期溜水の比重に対して水と近似している場合だけでなく、無視できない程度に異なる場合にも適用できる。
【符号の説明】
【0077】
1・・・排尿情報測定装置
4・・・洋風大便器
5・・・排尿情報測定部
6・・・制御部
7・・・入出力部
70・・・リモコン操作部
71・・・リモコン(便器操作用)
72・・・リモコン(排尿情報測定装置用)
73・・・プリント出力部
9・・・便器機能部
91・・・衛生洗浄装置部
171・・・便座
172・・・背もたれ
18・・・キャビネット
20・・・市水
21・・・洗浄水供給手段
210・・・止水栓
211・・・分岐金具
212・・・便器洗浄水供給管路
213・・・三方弁
214]・・・リム給水管路
215・・・リム吐水口
216・・・ゼット給水管路
217・・・尿量計測部給水管路
22・・・ボウル
23・・・溜水
24・・・トラップ
25・・・排水ソケット
26・・・排水配管
30・・・尿量算出手段
31・・・尿量検量線記憶部
40・・・尿比重算出手段
41・・・尿比重検量線記憶部
50・・・溜水水位算出部
51・・・溜水圧計測手段
511・・・溜水圧測定管
511a・・・開放端(溜水圧測定管)
512・・・圧力センサ
513・・・開閉弁
52・・・測定管路切替手段
521・・・開閉弁
522・・・開閉弁
523・・・開閉弁
524・・・開閉弁
525・・・開閉弁
526・・・開閉弁
53・・・第一測定管路部
531・・・測定連通口
532・・・第一測定管路
533・・・止水栓(第一測定管路側)
54・・・第二測定管路部
541・・・ゼット吐水口(測定連通口)
542・・・分岐具
543・・・第二測定管路
544・・・止水栓(第二測定管路側)
551・・・トラップタンク
56・・・排水配管圧計測手段
561・・・排水配管圧計測センサー
562・・・排水配管連絡管路
563・・・排水配管連絡口
57・・・排水配管圧変動補正手段
60・・・測定開始水位形成部
61・・・補水タンク
611・・・開閉弁
612・・・フロートスイッチ
62・・・補水ポンプ
63・・・補水管路
64・・・オーバーフロー管路
80・・・尿量検量線作成部
811・・・検量ポンプ
812・・・検量管路
812a・・・開放端(尿量検量線作成管路)
X・・・破封水位
Y・・・測定開始水位
Z,Z1〜Z4・・・排尿後水位
H・・・溢流水位
L・・・測定連通水位(第一測定管路連通)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溜水が形成された状態で使用者が排泄する排尿を受けるボウルを備えた便器と、
前記溜水によって生じる水圧を溜水圧として計測する溜水圧計測手段と、排泄に伴って前記溜水圧計測手段によって計測される前記溜水圧の変化に予め求められている溜水量と溜水圧との関係式を適用することによって、排泄された前記排尿の体積を尿量として求める尿量算出手段と、
を有する排尿情報測定装置において、
前記水圧計測手段は、排泄時に前記ボール内面の底部より所定量だけ高い所定位置に生じる水圧を前記溜水圧として計測することを特徴とする尿量排尿情報測定装置。
【請求項2】
一端に前記所定位置に開口する開口部を有した第一測定管路をさらに有し、前記溜水圧計測手段は、前記第一測定管路に流体的に連通して設けられ、排泄時に前記第一測定管路に生じる圧力を前記溜水圧として計測するものであることを特徴とする請求項1記載の排尿情報測定装置。
【請求項3】
前記ボウル内面の底部に生じる水圧を底部溜水圧として計測する底部溜水圧計測手段と、
予め求められている排泄に伴う前記溜水圧の変化と前記底部溜水圧の変化との関係式に基づいて、前記排尿の比重を求める尿比重算出手段と、
をさらに有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の排尿情報測定装置。
【請求項4】
一端に前記ボウル内面の底部に開口する開口部を有した第二測定管路をさらに有し、
前記溜水圧計測手段は、前記第二測定管路に流体的に連通して設けられ、前記第二測定管路に生じる圧力を前記底部溜水圧として計測するものであることを特徴とする請求項3記載の排尿情報測定装置。
【請求項5】
ボウル内容物を給水によって発生するサイホン現象によって下水配管に搬出するために前記ボウルの底部に開口するゼット吐水口と、
前記ゼット吐水口に給水するゼット給水管路とをさらに有し、
前記第二測定管路は、前記ゼット給水管路に流体的に連通して設けられ、排泄時に前記第二測定管路に生じる水圧を前記底部溜水圧として計測するものであることを特徴とする請求項4記載の排尿情報測定装置。
【請求項6】
前記第一測定管路と第二測定管路とを択一的に選択して連通させる測定管路切替手段をさらに有し、
前記底部溜水圧計測手段は、前記溜水圧計測手段が兼ねるものであることを特徴とする請求項4又は5に記載の排尿情報測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−169709(P2011−169709A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33070(P2010−33070)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】