説明

接着細胞の培養方法及びそれに用いる細胞培養基材

【課題】 細胞培養基材表面と血液由来単核細胞間の接着力を制御し、高い培養(増殖)性を有する血液由来単核細胞からの接着系細胞の選択的浮遊培養方法を提供する。
【解決手段】 血液由来の単核細胞集団中の接着細胞をメトキシエチルアクリレート(a)と、ジメチルアクリルアミド(b)の共重合体(A)と、水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)とを含有する細胞培養基材上で、選択的に浮遊増殖させる接着細胞の培養方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メトキシエチルアクリレートとジメチルアクリルアミドの共重合体と、無機材料とを含有する細胞培養基材上での、血液由来単核細胞からの接着系細胞の選択的浮遊培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動物組織や血液由来の単核細胞等の細胞培養基材としては、主にプラスチック(例えばポリスチレン)製容器が使用されてきた。これら容器は、細胞培養を有効に行うために、その表面にプラズマ処理や、シリコンや細胞接着因子等のコーティングなどの表面処理が施されている。これら細胞培養容器の培養性は細胞の種類により異なる。例えば血液由来単核細胞の場合、接着細胞の出現率が低いため、血液由来単核細胞から接着細胞を大量に得るには、大量の血液が必要であった。
【0003】
近年、M-CSF(Macrophage-Colony Stimulating Factor; マクロファージ刺激因子)やSDF-11(Stromal Derived Factor 1;ストローマ由来因子)等の成長因子を培養液に添加することで血液由来単核細胞からの接着細胞を増殖させる技術が開示されている。(例えば特許文献1参照)。
【0004】
しかし、成長因子を加えた培養方法は、コストがかかる他、細胞が異常増殖によるガン化を引き起こしやすい問題があった。
【0005】
一方、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー(a)を含むモノマーの重合体(P)と、水膨潤性粘土鉱物(B)とが三次元網目を形成してなる有機無機複合体粒子(X)の分散液を乾燥してなる有機無機複合体(X)の乾燥皮膜を表面に有する細胞培養基材が開示されている(例えば特許文献2参照)。
【0006】
しかし、上記従来文献においては、血液由来単核細胞から接着系細胞を選択的に浮遊培養する方法に関して具体的手段は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−100679
【特許文献2】特許第4430124
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、細胞培養基材表面と血液由来単核細胞間の接着力を制御し、高い培養(増殖)性を有する血液由来単核細胞からの接着系細胞の選択的浮遊培養方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、メトキシエチルアクリレート(a)と、ジメチルアクリルアミド(b)の共重合体(A)と、無機材料(B)とを含有する細胞培養基材の上では、血液由来単核細胞が優れた浮遊増殖性を有し、また、上記培養基材を用いた場合、基材表面と細胞間の接着力を低く維持しながら、血液由来単核細胞を培養することができ、更に、他の基材に再播種すると、浮遊増殖した血液由来単核細胞が成長因子を用いることなく効率よく接着できる、血液由来単核細胞からの接着細胞の培養方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、血液由来の単核細胞集団中の接着細胞をメトキシエチルアクリレート(a)とジメチルアクリルアミド(b)の共重合体(A)と、水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)とを含有する細胞培養基材上で、選択的に浮遊増殖させる接着細胞の培養方法を提供する。
また、本発明は、血液由来の単核細胞集団中の接着細胞をメトキシエチルアクリレート(a)とジメチルアクリルアミド(b)の共重合体(A)と、水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)とを含有する細胞培養基材上で、選択的に浮遊増殖させ、次いで接着細胞を他の基材へ再播種し、接着増殖又は浮遊増殖させる接着細胞の培養方法を提供する。
また、本発明は、骨髄血、臍帯血又は末梢血由来の単核細胞集団中の接着細胞の培養方法を提供する。
また、本発明は、前記培養方法で製造された接着細胞を提供する。
また、本発明は、血液由来単核細胞から接着細胞を選択的に浮遊増殖させるための細胞培養基材であって、メトキシエチルアクリレート(a)とジメチルアクリルアミド(b)の共重合体(A)と、水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)とを含有する接着細胞の浮遊増殖用細胞培養基材を提供する。
【0011】
本発明の細胞培養基材の特徴は、上記メトキシエチルアクリレート(a)とジメチルアクリルアミド(b)の共重合体(A)が血液由来単核細胞に対して低接着効果を付与し、無機材料(B)の構成成分が細胞の増殖を担うことにあると推測される。
加えて、本発明の細胞培養基材で培養された細胞は、他の基材へ再播種したときに良好な接着性を示す。ここで言う血液とは、ヒトまたはその他の動物の骨髄液、臍帯血液または末梢血液のことをいう。
【0012】
共重合体(A)は主にイオン結合や水素結合などにより無機材料(B)と相互作用し結合している。この結合力は強く、容易にポリマーと無機材料(B)を引き離すことはできない。
【発明の効果】
【0013】
本発明の血液由来単核細胞からの接着系細胞の選択的浮遊培養方法は、細胞と培養表面の間に弱い接着力を維持しながら、高い増殖能を有し、培養した細胞を、他の基材へ再播種することで成長因子を使用することなく、細胞を容易に接着できる特徴を有する。
また、本培養方法に用いられる培養基材は、γ線や電子線などの放射線滅菌が可能である特徴を有する。
本発明の浮遊培養方法は、上記の特長を有するので、マクロファージ細胞および樹状細胞の増殖に利用することが出来、アレルギー性疾患、アルツハイマー型痴呆症をはじめ、白血病、リンパ腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、脳腫瘍、乳癌、子宮体癌、子宮頚癌、卵巣癌、食道癌、胃癌、虫垂癌、大腸癌、肝癌、肝細胞癌、胆嚢癌、胆管癌、膵臓がん、副腎癌、消化管間質腫瘍、中皮腫、喉頭癌、口腔癌(口腔底癌、歯肉癌、舌癌、頬粘膜癌)、唾液腺癌、副鼻腔癌(上顎洞癌、前頭洞癌、篩骨洞癌、蝶型骨洞癌)、甲状腺癌、腎臓癌、肺癌、骨肉腫、前立腺癌、精巣腫瘍、腎細胞癌、膀胱癌、横紋筋肉腫、皮膚癌、肛門癌、神経芽細胞腫、中枢神経癌、ウィルムス腫瘍、生殖細胞癌、軟組織肉腫、上皮性癌等の治療に有効に活用することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0014】
メトキシエチルアクリレート(a)と、ジメチルアクリルアミド(b)の共重合体(A)の使用により、血液由来単核細胞の初期接着性を低く維持でき、且つ、細胞増殖性が良好な細胞培養基材が得られる。また、共重合体(A)は、これらの細胞培養基材をポリスチレンなどのプラスチック製基材等の支持体の表面に積層させる場合は、両者間の接着性が強く、安定した製造ができる特徴も持っている。
【0015】
また、培養性や物性に影響を及ぼさない程度に、必要に応じてその他の共重合モノマーとして、例えば、スルホン基やカルボキシル基のようなアニオン基を有するアクリル系モノマー、4級アンモニウム基のようなカチオン基を有するアクリル系モノマー、4級アンモニウム基と燐酸基とを持つ両性イオン基を有するアクリル系モノマー、カルボキシル基とアミノ基とをもつアミノ酸残基を有するアクリル系モノマー、糖残基を有するアクリル系モノマー、また、水酸基を有するアクリル系モノマー、更にポリエチレングリコールのような親水性鎖とノニルフェニル基のような疎水基を合わせ持つ両親媒性アクリル系モノマー、N−置換(メタ)アクリルアミド誘導体、N,N−ジ置換(メタ)アクリルアミド誘導体、N,N’−メチレンビスアクリルアミドなどを併用することができる。
【0016】
本発明に用いる無機材料(B)は、水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料である。水膨潤性粘土鉱物としては、層状に剥離可能な水膨潤性粘土鉱物が挙げられ、好ましくは水または水と有機溶剤との混合溶液中で膨潤し均一に分散可能な粘土鉱物、特に好ましくは水中で分子状(単一層)またはそれに近いレベルで均一分散可能な無機粘土鉱物が用いられる。また、本発明における水膨潤性粘土鉱物(B)は、共重合体(A)と三次元網目を形成できるものであることが好ましく、具体的にはナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリライト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母、等が挙げられる。これらの粘土鉱物を混合して用いても良い。
【0017】
本発明に用いるシリカ(SiO)としては、コロイダルシリカが挙げられ、好ましくは水溶液中で均一に分散可能で、粒径が10nm〜500nmのコロイダルシリカ、特に好ましくは粒径が10〜50nmのコロイダルシリカが用いられる。
【0018】
本発明の細胞培養基材において、共重合体(A)中のメトキシエチルアクリレート(a)とジメチルアクリルアミド(b)のモル比((b)/(a))が、0.11〜4.5であることが好ましく、0.2〜1がより好ましく、0.4〜0.7が特に好ましい。モル比((b)/(a))がこの範囲であると、血液由来単核細胞に対し良好な増殖性を示すことができ、好ましい。
【0019】
また、本発明の細胞培養基材において、共重合体(A)と無機材料(B)との質量比((B)/(A))が、0.03〜0.8であることが好ましく、0.05〜0.3がより好ましく、0.07〜0.1が特に好ましい。質量比((B)/(A))がこの範囲であると、血液由来単核細胞に対し良好な培養性を示すことができ、好ましい。
【0020】
更に、本発明の細胞培養基材で浮遊培養した接着系細胞を、そのまま本発明の細胞培養基材で浮遊増殖させることも出来るし、または他の基材、例えば細胞培養処理済みポリスチレンディッシュへ再播種して接着細胞を得ることもできる。
【0021】
本発明の培養方法で製造された接着細胞は、初期に基材への強い接着を伴う増殖をさせないので、細胞の基底タンパクがトリプシンなどのタンパク質分解酵素でダメージを受けず、生体内の細胞形態により近い状態にあり、細胞活性も高く、移植後の定着性や治癒性が高いと考えられる。
【0022】
本発明の培養基材の製造方法は、メトキシエチルアクリレート(a)とジメチルアクリルアミド(b)の共重合体(A)が、無機材料(B)と相互作用し、有機無機複合体を形成できるものであれば、特に限定されない。例えば、メトキシエチルアクリレート(a)とジメチルアクリルアミド(b)と前記無機材料(B)および重合開始剤とを水に混合し、支持体に塗布して、前記メトキシエチルアクリレート(a)とジメチルアクリルアミド(b)を共重合させることにより、共重合体(A)と前記無機材料(B)との複合体(X)の薄層を形成する製造方法が挙げられる。
【0023】
前記製造方法に用いる水は、モノマー(a)、(b)や無機材料(B)などを含むことができ、重合によって、物性のよい有機無機複合体が得られれば良く、特に限定されない。例えば水の他、水と混和性を有する溶剤及び/またはその他の化合物を含む水溶液であってよく、その中には更に、必要に応じて防腐剤や抗菌剤、抗生物質、着色料、香料、酵素、たんぱく質、コラーゲン、糖類、アミノ酸類、ペプチド類、DNA類、塩類、水溶性有機溶剤類、界面活性剤、高分子化合物、レベリング剤などを含むことができる。
【0024】
本発明に用いられる重合開始剤としては、公知のラジカル重合開始剤を適時選択して用いることができる。好ましくは水溶性または水分散性を有し、系全体に均一に含まれるものが好ましく用いられる。具体的には、重合開始剤として、水溶性の過酸化物、例えばペルオキソ二硫酸カリウムやペルオキソ二硫酸アンモニウム、水溶性のアゾ化合物、例えばVA−044、V−50、V−501(いずれも和光純薬工業株式会社製)の他、Fe2+と過酸化水素との混合物などが例示される。
【0025】
触媒としては、3級アミン化合物であるN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンなどは好ましく用いられる。但し、触媒は必ずしも用いなくてもよい。重合温度は、重合触媒や開始剤の種類に合わせて例えば0℃〜100℃が用いられる。重合時間も数十秒〜数十時間の間で行うことが出来る。
【0026】
一方、光重合開始剤は、酸素阻害の影響を受けにくく、重合速度が速いため、重合開始剤として好適に用いられる。具体的には、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノンなどのアセトフェノン類、4,4’−ビスジメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類、2−メチルチオキサントンなどのケトン類、ベンゾインメチルエーテルなどのベンゾインエーテル類、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのα−ヒドロキシケトン類、メチルベンゾイルホルメートなどのフェニルグリオキシレート類、メタロセン類などが挙げられる。
【0027】
本工程に用いられる光としては、電子線、γ線、X線、紫外線、可視光などを用いることができるが、中でも装置や取り扱いの簡便さから紫外線を用いることが好ましい。照射する紫外線の強度は10〜500mW/cmが好ましく、照射時間は一般に0.1秒〜200秒程度である。通常の加熱によるラジカル重合においては、酸素が重合の阻害因子として働くが、本発明では、必ずしも酸素を遮断した雰囲気で溶液の調製および紫外線照射による重合を行う必要がなく、空気雰囲気でこれらを行うことが可能である。但し、紫外線照射を不活性ガス雰囲気下で行うことによって、更に重合速度を速めることが可能で、望ましい場合がある。
【0028】
また、本発明の培養基材の第二の製造例としては、水溶液(E)中の前記無機材料(B)の濃度が下記式(1)又は式(2)で表される範囲となるように、前記モノマー(a)と前記モノマー(b)と前記無機材料(B)と重合開始剤とを含む水溶液を調製後、前記モノマー(a)と(b)を共重合させることにより共重合体(A)と前記無機材料(B)との複合体(X)の分散液(L)を製造する第1工程、前記分散液(L)を基材に塗布し、その後乾燥することにより前記複合体(X)の薄層を形成する第2工程を順次行なうことを特徴とする細胞培養基材の製造方法が挙げられる。
式(1) Ra<0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<12.4Ra+0.05
式(2) Ra≧0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<0.87Ra+2.17
(式中、無機材料(B)の濃度(質量%)は、無機材料(B)の質量を水媒体と無機材料(B)の合計質量で除して100を掛けた数値、Raは無機材料(B)と共重合体(A)との質量比((B)/(A))である。)
【0029】
無機材料(B)の水媒体に対する濃度(質量%)は式(1)又は式(2)で表される範囲内であると、良好な複合体(X)の分散液(L)が得られ、支持体への塗布が容易で、平滑で均一な薄い塗膜が得られ、好ましい。
【0030】
本発明の製造方法で製造される分散液(L)は、そのまま使用してもよいし、水洗などによる精製工程を経てから使用してもよい。また該分散液(L)に更にレベリング剤や界面活性剤、ペプチド、たんぱく質、コラーゲン、アミノ酸類、高分子化合物などを添加して使用してもよい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲がこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
共重合体(A)と無機材料(B)からなる培養基材例。
[メトキシエチルアクリレート(a)、ジメチルアクリルアミド(b)、無機材料(B)、水媒体(E)を含む反応溶液の調製]
メトキシエチルアクリレート(a)1.952g、ジメチルアクリルアミド(b)0.99g、無機材料(B)として水膨潤性粘土鉱物Laponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.2g、水100g、を均一に混合して反応溶液(1)を調製した。
【0033】
[重合開始剤を溶媒に溶解させた溶液の調整]
溶媒として、メタノール9.8g、重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン「イルガキュアー184」(チバガイギー社製)0.2gを、均一に混合して溶液(2)を調製した。
【0034】
[複合体(X)の分散液(L)の調製(第1工程)]
上記反応溶液(1)全量に、溶液(2)を250μl入れ、均一に分散させた後、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し乳白色の複合体(X)の分散液(L1)を作製した。
【0035】
この反応系のRa=0.06、無機材料(B)の濃度(質量%)=0.20(%)<12.4Ra+0.05=0.79
【0036】
[培養基材(複合体(X)の薄層)の調製(第2工程)]
直径35mmのポリスチレン製シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ430165)に、上記複合体(X)の分散液(L1)を入れ、スピンコーターを用いて3000回転で該分散液をシャーレの表面に薄く塗布した後、80℃の熱風乾燥器中で10分間乾燥させ、次いで、滅菌水によりシャーレを洗浄した後、滅菌袋中でシャーレを40℃、5時間乾燥させて、細胞培養基材1を得た。
【0037】
[血液由来単核細胞の培養・回収]
上記得られた細胞培養基材1を照射線量10kGyの電子線で滅菌した(日本照射サービス株式会社)後、培地としてリンパ球増殖基本培地(LGM-3)を適量入れ、ヒト末梢血液由来の単核細胞(TakaraCC-2072、タカラバイオ株式会社)を2.0×10個/Dishで播種して、5%二酸化炭素中、37℃で4日間培養を行った。次いで、ディッシュ中の浮遊している単核細胞を直径35mmのポリスチレン製シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ430165)に播種して、5%二酸化炭素中、37℃で1日間培養したところ、接着細胞が観察された。
上記培養基材1で培養後、ポリスチレン製シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ430165)に再播種後に接着した細胞の数(10.53×10個)が、未コート培養シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ430165)で培養後、ポリスチレン製シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ430165)に再播種後に接着した細胞の数(2.28×10個(比較例2参照))の4.7倍であった。
【0038】
この実施例より、共重合体(A)と無機材料(B)からなる培養基材が、通常のティッシュカルチャデイッシュに比べ、細胞培養性が高いことが理解できる。
なお、播種前後の細胞数は以下の方法でカウントした。まず、冷凍細胞は解凍後に培養液を添加することで細胞懸濁液とした。ディッシュ上の細胞は、0.05%トリプシン/0.53mM EDTAにて細胞回収後、培養液を添加することで懸濁液とした。次に、細胞懸濁液を100μL採取し、1.5mLマイクロチューブに入れた。そこへケモメテック社製細胞溶解液(リージェントA)を等量添加した。チューブをVortexで混和後、ケモメテック社製細胞中和液(リージェントB)をさらに100μL添加した。細胞計測用カートリッジを用いて調製した細胞懸濁液を採取し、細胞計測装置(ヌクレオカウンターTM、chemometec社)で計測した。
【0039】
(実施例2)
実施例1と同様の細胞培養基材1を作製し、細胞種のみ骨髄由来単核細胞(ベリタス株式会社)とした。上記培養基材1で培養後、ポリスチレン製シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ430165)に再播種し1日培養後の接着細胞の数(14.85×10個)が、未コート培養シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ430165)で培養後、ポリスチレン製シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ430165)に再播種後に接着した細胞の数(11.8×10個)の1.3倍であった。
【0040】
この実施例より、共重合体(A)と無機材料(B)からなる培養基材が、通常のティッシュカルチャデイッシュに比べ、細胞培養性が高いことが理解できる。
【0041】
(比較例1) メトキシエチルアクリレート(a)のみの重合体と無機材料(B)からなる培養基材例。
[メトキシエチルアクリレート(a)、無機材料(B)、水媒体を含む反応溶液の調製]
メトキシエチルアクリレート(a)3.2g、無機材料(B)として水膨潤性粘土鉱物Laponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.2g、水媒体として水100g、を均一に混合して反応溶液(2)を調製した。
【0042】
[複合体(X)の分散液(L)の調製(第1工程)]
上記反応溶液(2)全量に、溶液(2)を250μl入れ、均一に分散させた後、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し乳白色の複合体(X)の分散液(L2)を作製した。
【0043】
この反応系のRa=0.06、無機材料(B)の濃度(質量%)=0.20(%)<12.4Ra+0.05=0.79
【0044】
[培養基材(複合体(X)の薄層)の調製(第2工程)]
直径35mmのポリスチレン製シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ430165)に、上記複合体(X)の分散液(L2)を入れ、スピンコーターを用いて3000回転で該分散液をシャーレの表面に薄く塗布した後、80℃の熱風乾燥器中で10分間乾燥させ、次いで、滅菌水によりシャーレを洗浄した後、滅菌袋中でシャーレを40℃、5時間乾燥させて、細胞培養基材2を得た。
【0045】
[血液由来単核細胞の培養・回収]
上記得られた細胞培養基材2を照射線量10kGyの電子線で滅菌した(日本照射サービス株式会社)後、実施例1と同様にして、ヒト末梢血液由来の単核細胞の培養を行い、ポリスチレン製シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ430165)に再播種後の接着細胞のカウントを行ったところ、接着細胞の数は0.8×10個であった。
上記培養基材2で培養された接着細胞の数(0.8×10個)が、未コート培養シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ430165)を用いた場合(2.28×10個)の0.4倍であった。
【0046】
この比較例より、メトキシエチルアクリレート(a)のみの重合体と無機材料(B)からなる細胞培養基材2では、ヒト末梢血液由来の単核細胞に対する培養(増殖)性が低く、ポリスチレン製シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ430165)に再播種後に出現する接着細胞が少ないことが理解できる。
【0047】
(比較例2)
直径35mmのポリスチレン製シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ430165)をそのまま用いて、実施例1と同様にして、ヒト末梢血液由来の単核細胞の培養を行い、ポリスチレン製シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ430165)に再播種後の接着細胞のカウントを行ったところ、接着細胞の数は2.28×10個であった。
【0048】
この比較例より、通常のポリスチレン製セルカルチャデイッシュでは、ヒト末梢血液由来の単核細胞に対する培養(増殖)性が低く、ポリスチレン製シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ430165)に再播種後に出現する接着細胞が少ないことが理解できる。
【0049】
(比較例3)
直径35mmの市販の低接着培養シャーレ(EZ−BindShutII、AGCテクノグラス株式会社製)を用いて、実施例1と同様にして、ヒト末梢血液由来の単核細胞の培養を行い、ポリスチレン製シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ430165)に再播種後の接着細胞のカウントを行ったところ、接着細胞の数は0.4×10個であった。
【0050】
この比較例より、市販の低接着培養シャーレでは、ヒト末梢血液由来の単核細胞に対する培養(増殖)性が低く、ポリスチレン製シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ430165)に再播種後に出現する接着細胞が少ないことが理解できる。
【0051】
(比較例4) 共重合体(A)のみの(無機材料(B)を含まない)基材の例
[メトキシエチルアクリレート(a)、ジメチルアクリルアミド(b)、水媒体を含む反応溶液の調製]
メトキシエチルアクリレート(a)1.952g、ジメチルアクリルアミド(b)0.99g、水媒体として水100g、を均一に混合して反応溶液(3)を調製した。
[共重合体(A)の分散液の調製(第1工程)]
上記反応溶液(3)全量に、溶液(2)を250μl入れ、均一に分散させた後、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し乳白色の共重合体(A)の分散液を作製した。この分散液を用いて、実施例1と同様にして細胞培養基材3を得た。
【0052】
上記細胞培養基材3を用いてヒト末梢血液由来の単核細胞の培養を行い、ポリスチレン製シャーレ(CORNINGセルカルチャデイッシュ430165)に再播種後の接着細胞のカウントを行ったところ、接着する細胞は殆ど見当たらなかった。
【0053】
この比較例より、無機材料(B)を含まない、共重合体(A)のみの基材では、細胞との接着性が低過ぎて、細胞が増殖できないことが理解できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液由来の単核細胞集団中の接着細胞をメトキシエチルアクリレート(a)と、ジメチルアクリルアミド(b)の共重合体(A)と、水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)とを含有する細胞培養基材上で、選択的に浮遊増殖させる接着細胞の培養方法。
【請求項2】
血液由来の単核細胞集団中の接着細胞をメトキシエチルアクリレート(a)と、ジメチルアクリルアミド(b)の共重合体(A)と、水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)とを含有する細胞培養基材上で、選択的に浮遊増殖させ、次いで接着細胞を他の基材へ再播種し、接着増殖又は浮遊増殖させる接着細胞の培養方法。
【請求項3】
前記血液が、骨髄血、臍帯血又は末梢血である請求項1又は2記載の接着細胞の培養方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の増殖方法で製造された接着細胞。
【請求項5】
血液由来単核細胞から接着細胞を選択的に浮遊増殖させるための細胞培養基材であって、メトキシエチルアクリレート(a)と、ジメチルアクリルアミド(b)の共重合体(A)と、水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料(B)とを含有する接着細胞の浮遊増殖用細胞培養基材。
【請求項6】
前記共重合体(A)中のメトキシエチルアクリレート(a)とジメチルアクリルアミド(b)のモル比((b)/(a))が、0.11〜4.5の範囲にある請求項5記載の接着細胞の浮遊増殖用細胞培養基材。
【請求項7】
前記重合体(A)と前記無機材料(B)の質量比((B)/(A))が、0.03〜0.8の範囲にある請求項5又は6記載の接着細胞の浮遊増殖用細胞培養基材。

【公開番号】特開2013−102713(P2013−102713A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247608(P2011−247608)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000173751)一般財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】