説明

搬送機構、及び、それを備えた真空処理装置

【課題】ラック・アンド・ピニオンの技術を用いた縦型搬送によるインライン型の真空処理装置であって、ピニオンギヤとラックギヤが同期ずれにより、トレイに振動や衝撃を与えることなく搬送を可能にする搬送機構、及び、それを備えた真空処理装置を提供することを目的とする。
【解決手段】複数のピニオンギヤのうち、少なくとも2つが回転してラックギヤに順次噛合することにより、該ラックギヤを現工程の処理室内に配置されるピニオンギヤから、次工程の処理室内に配置されるピニオンギヤへと受け渡して、トレイを搬送するラック・アンド・ピニオン機構、及び、それを備えた真空処理装置であって、各処理室を仕切るゲートバルブを挟んだ2つのピニオンギヤを同時に上下移動させる上下駆動部を有していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラックギヤ・アンド・ピニオンギヤによる搬送機構、及び、基板を搬送するためのトレイ等を移動させるラックギヤ・アンド・ピニオンギヤを備えた真空処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ラック・アンド・ピニオンは、ピニオンギヤと、角棒材の一面に幅方向に歯付けしたラックギヤと、を組み合わせて構成され、ピニオンギヤの回転動作をラックギヤの直線動作に変換する機構であり、自動車のステアリング機構や搬送機構等として利用される。
【0003】
例えば、インラインスパッタ装置等の真空処理装置では、基板を保持するトレイをラック付きのキャリアで順次搬送して各処理室の間で受け渡し、基板に所望の処理を行う。即ち、ラックギヤをトレイに固定し、各処理室に設けられたピニオンギヤにラックギヤを噛合させて回転駆動させ、次工程の処理室のピニオンに順次受け渡すことによって、トレイを搬送している。
【0004】
図6は、従来の代表的な基板処理技術の一例として、基板を立てて搬送する、上記ラック・アンド・ピニオンの技術を用いた縦型搬送によるインライン型の真空処理装置の概略機構を示したものである。
【0005】
縦型搬送のインライン型では、例えば、一直線上にロードロックチャンバー11、及び、複数のプロセスチャンバー12を縦設した構成であり、ロードロックチャンバー11、及び、複数のプロセスチャンバー12を貫くようにして、基板60を搬送させる搬送機構としてラック・アンド・ピニオンが設けられている。
【0006】
また、各チャンバーは不図示の排気手段を具備し、各チャンバー間にはゲートバルブ13が設けられる。
基板10は、トレイ14に載せられた状態で搬送機構によって各チャンバーに順次搬送され、例えば、成膜等の処理が行われる。各チャンバーのうちの一つは、基板10の搬入、搬出の際に大気に開放されるロードロックチャンバー11である。
【0007】
しかし、ラックギヤを現工程のピニオンギヤから次工程のピニオンギヤに受け渡して噛み合わせる際に、ラックギヤとピニオンギヤとの歯先同士の衝突がしばしば発生する。
【0008】
歯先同士の衝突が発生すると、負荷が掛かって駆動機構を破損したり、ピニオンギヤの歯上にラックギヤの歯が乗り上げて搬送不能となったり、正常な噛み合いに戻る際の衝突で基板の破損や発塵による製品不良を招いたりする。
【0009】
そこで、このような不具合を解決するため、一方向クラッチを設けたりする技術が提案されている。これらの技術は、歯先同士の衝突があっても自動ですぐに正常な噛み合いに復帰せしめようとする発想から創案されている。
【0010】
また、ピニオンギヤの停止角度をセンサ及び制御機構によって正確に管理して、ラックギヤをピニオンギヤの歯先に衝突させることなしに係合せしめる技術も提案されている。
【0011】
この他にも、機械的手段で事前にピニオンギヤの位相をラックギヤに合わせるラック・アンド・ピニオン機構が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0012】
具体的には、この機構は、球体部材をバネで支持してカムの凹部に押し付けて接触させ、ピニオン軸の停止角度を所定位置に設定し、かつピニオンギヤとラックギヤが噛み合う前にピニオンガイドとラックガイドで位相を合わせるようになっている。かかる構成によれば、歯先同士の衝突を起こすことなく、ラックギヤとピニオンギヤを噛合させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平8−74961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記の技術はいずれの場合もピニオンギヤ上にトレイが載っている状態であるのか、それとも載っていない状態であるのかにより、サーボモータ等の駆動機構に掛かる負荷に変動が発生し、そのために発声する同期ずれに対しては解決されるべき課題として残されていた。
【0015】
一旦同期ずれが発生すると、トレイのラックギヤが、搬送先の処理室に配置したピニオンギヤに円滑に噛み合わなくなり、トレイに振動や衝撃が発生し、トレイ上に搭載された基板の位置ずれ、基板割れの原因となる可能性がある。
【0016】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、ピニオンギヤとラックギヤが同期ずれにより、トレイに振動や衝撃を与えることなく搬送を可能にし、また、異なる処理室間をトレイが搬送される際に、複雑な位置合わせ制御を必要としない搬送機構及びそれを備えた真空処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するべく成された本発明の構成は以下の通りである。
即ち、第1の発明に係るラック・アンド・ピニオン機構は、ラックギヤと、駆動源に連結され、前記ラックギヤに噛合する複数のピニオンギヤと、を備え、複数のピニオンギヤのうち、少なくとも2つが同期して回転してラックギヤに順次噛合することにより、該ラックギヤを現工程の第一の処理室内に配置される第一のピニオンギヤから、次工程の第二の処理室内に配置される第二のピニオンギヤへと受け渡して、載置台を搬送するラック・アンド・ピニオン機構であって、同期した第一のピニオンギヤと第二のピニオンギヤを同時に上下移動させる共通の上下駆動部を有していることを特徴とする。
【0018】
本発明による真空処理装置に配置されるラック・アンド・ピニオン機構は、各ピニオンギヤがトレイを搬送する必要のない場合に、ラックギヤとの噛み合わせを切り離せる上下駆動系を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明による搬送駆動部であるラック・アンド・ピニオン機構は、複数の処理室を有する真空処理装置において、1つの処理室から別の処理室へトレイを搬送する場合、搬送に使用する搬送駆動系をピニオンギヤの上下駆動部で切り替えればよく、左右どちらからの搬送にも対応できるためトレイの搬送方向に依存することなく、かつ、複雑な位置合わせを行う制御が必要なくなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の真空処理装置の搬送機構の概略図である。
【図2】本発明の真空処理装置の第1処理室から第2処理室へのトレイ搬送時の状態図である。
【図3】本発明の真空処理装置の第1処理室から第2処理室へのトレイ搬送完了時の状態図である。
【図4】本発明の真空処理装置の第2処理室から第3処理室へのトレイ搬送時の状態図である。
【図5】本発明の真空処理装置の第2処理室から第3処理室へのトレイ搬送完了時の状態図である。
【図6】従来の代表的な基板処理技術の一例としての真空処理装置を上面からみた概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の真空処理装置の搬送駆動部の実施例について、図1を用いて説明する。
図1において、第一の処理室1a、第二の処理室1b、第三の処理室1cは、図6におけるプロセスチャンバーもしくはロードロックチャンバーとプロセスチャンバーの組み合わせ等を想定することができる。
【0022】
本発明に係る搬送駆動部の構成は、第一のピニオンギヤ2a、第二のピニオンギヤ2b、及び、第三のピニオンギヤ2c、第四のピニオンギヤ2dを回転させるそれぞれドライバ機能内蔵のサーボモータ機構3a、3b、移動量の記憶部7a、7bを内蔵した各ピニオンギヤを上下させる上下駆動部6a及び6b、トレイ4を各処理室の所定の位置に固定する位置決め機構8a、8b、8cからなる。
【0023】
図2から図5を参照して、本発明の実施形態であるラック・アンド・ピニオン機構の駆動制御方法について説明する(S1〜S7)。
【0024】
まず、図2は、トレイ4の搬送をドライバ機能内蔵のサーボモータ3aにより、位置決め機構8aを動作させながら所定の位置まで搬送が完了した状態にある。
【0025】
そして、第一の処理室1a内にあるトレイ4を位置決め機構8aにより、第一の処理室1a内において所定の位置に固定している状態であり、第一の処理室1aから第二の処理室1bへの搬送に使用する第一のピニオンギヤ2a、及び、第二のピニオンギヤ2bを上下駆動部6aで駆動させることにより上昇移動し、トレイ4のラックギヤ5と第一のピニオンギヤ2aは噛み合っている状態にある。
【0026】
このとき、第一のピニオンギヤ2a、及び、第二のピニオンギヤ2bの上昇時における上下駆動部6aの移動量は、移動前に採取した位置のデータと移動後の移動した位置で採取した位置のデータの比較から算出して上下駆動部6aの記憶部7aに記憶させて、この移動量のデータに基づいて上下駆動部を動作させて移動させるとよい。
【0027】
次に、この図2に示す状態から、図3に示す現工程である第一の処理室1aから、その次工程である第二の処理室1bにトレイ4を搬送する一実施例を示す(S1〜S3)。
【0028】
a) 第二の処理室1bから第三の処理室1cへの搬送に使用される第三のピニオンギヤ
2c、第四のピニオンギヤ2dを、図2に示す上下駆動部6bによりラックギヤ5に干渉しない下方位置へ下降移動(符号31)する(S1)。
【0029】
このとき、トレイ4は第一の処理室1a内にあり、まだ、停止状態にある。第一のピニオンギヤ2a、第二のピニオンギヤ2bが上昇し、ラックギヤ5と噛み合わさった状態のままである(図2図示)。
【0030】
b) 位置決め機構8aを解除し、サーボモータ機構3aを駆動し、ピニオンギヤ2a、及び、ピニオンギヤ2bを回転し、トレイ4を第二の処理室1bに位置決め機構8bを動作させながら所定の位置まで搬送する(S2)。
【0031】
c)第二の処理室1bへトレイ4搬送後、第二の処理室1b内にトレイ4の位置決め機構8bにより、第二の処理室1b内において所定の位置に固定する(図3図示、S3)。
【0032】
次に、図4、及び、図5に、第二の処理室1bから第三の処理室2cにトレイ4を搬送する実施例を示す(S4〜S7)。
【0033】
a) 第二の処理室1bから第三の処理室1cへの搬送に使用する第三のピニオンギヤ2c、第四のピニオンギヤ2dを上下駆動部6bにより上昇移動(符号32)する(S4)。
【0034】
第三のピニオンギヤ2c、及び、第四のピニオンギヤ2dの上昇時における上下駆動部6bの位置は、移動量の確認時に採取しておいた搬送開始時の位置データまで移動させておく。
搬送開始時の位置でピニオンギヤを上昇させることにより、トレイ4のラックギヤ5と第三のピニオンギヤ2cは円滑に噛み合うことになる。
【0035】
b) 第二の処理室1bから第三の処理室1cへの搬送に使用しない第一のピニオンギヤ2a、及び、第二のピニオンギヤ2bを上下駆動部6aにより下降移動(符号33)する(S5)。
【0036】
c) 位置決め機構8bを解除し、ドライバ機能を備えたサーボモータ機構3bを駆動させて、第三のピニオンギヤ2c、第四のピニオンギヤ2dを回転させて、トレイ4を第三の処理室1cに位置決め機構8cを動作させながら所定の位置まで搬送する(S6)。
【0037】
第三の処理室1cへトレイ4の搬送後、第三の処理室1c内トレイ4を位置決め機構8cにより、第三の処理室1c内において所定の位置に固定する(図5図示、S7)。
【0038】
このようにして、本発明に係る真空処理装置内において、1つの処理室から別の処理室へトレイを搬送する場合、搬送に使用する駆動系をピニオンギヤ上下駆動部で切り替えればよく、複雑な位置合わせを行う制御を要することなく行うことができる。
【0039】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさおよび配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎない。従って本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【符号の説明】
【0040】
1a 第一の処理室
1b 第二の処理室
1c 第三の処理室
2a 第一のピニオンギヤ
2b 第二のピニオンギヤ
2c 第三のピニオンギヤ
2d 第四のピニオンギヤ
3a 第一のサーボモータ機構
3b 第二のサーボモータ機構
4、14 トレイ
5 ラックギヤ
6a 第一の上下駆動部
6b 第二の上下駆動部
7a、7b 記憶部
8a、8b、8c 位置決め機構
10 基板
11 ロードロックチャンバー
12 プロセスチャンバー
13 ゲートバルブ
31、32、33 上下駆動部の移動方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラックギヤと、駆動源に連結され、前記ラックギヤに噛合する複数のピニオンギヤと、を備え、前記複数のピニオンギヤのうち、少なくとも二つが同期して回転して前記ラックギヤに順次噛合することにより、該ラックギヤを現工程の第一の処理室内に配置される第一のピニオンギヤから、次工程の第二の処理室内に配置される第二のピニオンギヤへと受け渡して、前記載置台を搬送するラック・アンド・ピニオン機構であって、
同期した前記第一のピニオンギヤと前記第二のピニオンギヤを同時に上下移動させる共通の上下駆動部と、を有していることを特徴とするラック・アンド・ピニオン機構。
【請求項2】
前記ラックギヤは、被搬送物を搭載して搬送軌道上を移動する載置台に固定され、
前記被搬送物が基板であって、前記載置台の搬送機構として請求項1に記載のラック・アンド・ピニオン機構を備え、
前記搬送軌道に沿って複数の前記処理室が排気可能に接続されていることを特徴とする真空処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−134344(P2012−134344A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285675(P2010−285675)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】