説明

搬送用フリーローラ

【課題】鋼板等の搬送物をフリーローラで支持する部分の面圧を低減するとともに、移送方向が無方向性のフリーローラ。
【解決手段】軸受箱11に縦軸18によって支持された回転支持台14と、その回転支持台14上に設けられたブラケット19と、そのブラケット19に前記縦軸18に対して直角方向に支持されたローラ軸21と、そのローラ軸21に回転自在に支持された円筒ローラ22とからなる搬送用フリーローラにおいて、前記円筒ローラ22に搬送物26と線接触するフラット面が形成され、前記縦軸18に対し前記円筒ローラ22のローラ軸21が一定の偏心距離Lをおいて設けられた構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船体用鋼板等の重量のある物体の移動、方向転換、突き合わせ等の搬送作業を行わせるフリーコンベヤに関し、特にそのフリーローラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
船体用鋼板の溶接工程に用いられるフリーコンベヤは、溶接対象となる鋼板のサイズが大きく(例えば、4m×12m)、また、正確な位置決めが要求される。このため、従来においては、前記フリーコンベヤのフリーローラとして一方向性のパイプローラやディスクローラに加え、無方向性のフリーベアリングを併用していた。フリーベアリングは、大鋼球を多数の小鋼球で支持し、その大鋼球上を鋼板が移動するように構成されたものである。
【0003】
しかし、前記のフリーベアリングは搬送物である鋼板に大鋼球が点接触する構成であるため、接触部分における面圧が高くなり、鋼板に圧痕を生じるおそれがある。
【0004】
一方、車両搬送用パレットを縦横に移動させる場合の搬送設備において、X、Y方向の2方向性を備えたフリーローラが従来から知られている(特許文献1)。
【0005】
このフリーローラは、球形ローラの中心に貫通されたローラ軸の両端部をローラ支持台で保持するとともに、そのローラ支持台を前記ローラ軸と直交する方向の軸線をもったアンギュラー玉軸受で回転自在に支持し、さらにそのアンギュラー玉軸受を支持する受け台を45°傾斜させた構造となっている。受け台の傾斜によって、ローラ支持台の縦軸線が傾斜するため、球形ローラとパレットとの接触点(荷重点)が、前記縦軸線とパレットの支持面が交差する交点に対し一定距離だけ偏心した位置となる。
【0006】
球形ローラを回転させるローラ軸と、ローラ支持台を回転させる縦軸が直交するため、前記荷重点に直交する方向の荷重がそれぞれ作用すると、球形ローラはローラ軸を中心として自転する場合と、前記ローラ軸と直交する方向の縦軸を中心に公転する場合とがあり、X、Y方向の2方向性を有する。
【0007】
前記のフリーローラを鋼板溶接工程のフリーコンベヤに用いることが考えられるが、球形ローラが鋼板に点接触するため、前記の場合と同様に、点接触部分における面圧が高くなり鋼板に圧痕を生じるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3021185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、この発明は、鋼板等の搬送物をローラで支持する部分の面圧を低減するとともに、移送方向がX、Y方向だけでなく、X、Y間の任意の角度方向(θ方向)への移送も可能とすることにより、いずれの方向にも移送できる無方向性のフリーローラを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するために、この発明は、軸受箱と、その軸受箱に縦軸によって支持された回転支持台と、その回転支持台上に設けられたブラケットと、そのブラケットに前記縦軸に対して直角方向に支持されたローラ軸と、前記ローラ軸により回転自在に支持されたローラとからなる搬送用フリーローラにおいて、前記ローラの搬送物との接触部分にフラット面が形成され、前記縦軸に対し前記ローラ軸が一定の偏心距離をおいて設けられた構成としたものである。
【0011】
前記回転支持台の縦軸は前記ローラの公転中心となり、またローラ軸は当該ローラの自転軸となる。ローラは、搬送物から受ける移送方向の力によってローラ軸がその力の方向と直交する角度まで公転する。ローラ軸はその位置において自転し、搬送物を移送する。
【0012】
なお、前記のローラとしては円筒ローラを用いることが望ましい。また、前記縦軸とローラ軸を支持する軸受として、いずれもアンギュラー玉軸受又は円すいころ軸受の背面組合せ型のものを使用することが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、搬送物に作用する力の方向が一定の搬送平面内のいかなる方向であっても、ローラがその自転軸と前記力の方向とが直交する位置まで公転し、その位置で自転する。これにより、ローラは無方向性のフリーローラとして使用することができる。
【0014】
前記ローラは無方向性であるので、これを用いたフリーコンベヤは、その上に載せられた船体用鋼板等の搬送物を任意の姿勢に変更させることができ、鋼板溶接時等における正確な位置決めが可能となる。
【0015】
また、前記ローラは搬送物に対して線接触するので、点接触する場合に比べて面圧が低下し、鋼板等の搬送物に圧痕が生じ難い利点がある。
【0016】
さらに、回転支持台の縦軸及びローラ軸をそれぞれ支持する軸受として、アンギュラー玉軸受又は円すいころ軸受の背面組合せ型のものを使用することにより、モーメント剛性が向上する。このため、過大な重量物を搬送する場合においても、該軸受の剛性を向上でき、ひいては重量物を搬送する際のフリーローラの強度が向上するので、フリーローラの数を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、実施形態1のフリーローラの縦断正面図である。
【図2】図2は、同上の縦断側面図である。
【図3】図3は、同上の平面図である。
【図4】図4(a)は、Y方向の力が作用した際の作用説明図、図4(b)(c)は、それぞれθ方向の力が作用した際の作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
[実施形態1]
【0019】
図1から図3に示したように、実施形態1の搬送用フリーローラは、軸受箱11と、その軸受箱11に設けられた縦向きの円筒部12の内部に設けられたラジアル軸受13と、そのラジアル軸受13によって回転自在に支持された回転支持台14を有する。軸受箱11はフランジ15を有し、そのフランジ15に挿通されたボルト16によって基台17に固定される。
【0020】
回転支持台14は、その下面中央に縦軸18が固定され、その縦軸18が前記の円筒部12に挿入され、ラジアル軸受13によって支持される。縦軸18の中心線を縦軸中心線Aとし、その縦軸中心線A上に位置する回転支持台14の中心をO1とする(図3参照)。
【0021】
前記ラジアル軸受13は、図示の場合は複列円すいころ軸受の外向き型のものを使用しているが、2個の円すいころ又はアンギュラー玉軸受の背面組合せ型のもの、また両者の間に間座を介在させたものであってもよい。いずれの場合も、作用点間距離aが大きいため高いモーメント剛性が得られる。また、これらの軸受はアキシャル荷重を受けることができるので、縦軸18の下端を支持するアキシャル軸受は不要である。
【0022】
なお、搬送物26の荷重が小さい場合は、ラジアル軸受13として深溝玉軸受を用い、縦軸18の下端をアキシャル軸受で支持する場合もある。
【0023】
回転支持台14の上面には、前記縦軸中心線Aの両側において対向一対のブラケット19が設けられる。前記ブラケット19に前記縦軸中心線Aと直交する方向のローラ軸21が設けられ、そのローラ軸21にラジアル軸受23を介して円筒ローラ22が回転自在に支持される。ローラ軸21の中心線をローラ軸中心線Bと称する(図1、図3参照)。
【0024】
ローラ軸21は、ボルト24及びナット25により構成される。また、ラジアル軸受23は、前記の場合と同様の複列円すいころ軸受の外向き型のものを使用している。2個の円すいころ軸受又はアンギュラー玉軸受の背面組合せ型のもの、また両者の間に間座を介在させてものであってもよい。荷重が小さい場合は、深溝玉軸受を複列に配置した構成であってもよい。
【0025】
前記縦軸18及びローラ軸21を支持する各軸受は、その全面に耐錆処理を施すことが望ましい。耐錆処理によって、船体用鋼板の溶接工程のフリーコンベヤに使用された場合における発錆を防止し、回転不良を引き起こすおそれを無くすることができる。
【0026】
前記円筒ローラ22は、搬送物26に対して線接触するフラット面27を有し、そのフラット面27の両端部は滑らかなアール28が形成され、搬送物26に対するエッジ応力の発生を防止するようにしている。アール28に代えてフラット面27の両側にクラウニングを施してもよい。
【0027】
前記円筒ローラ22の両側面と各ブラケット19の間には座金29やオイルシール・スペーサーが介在される。
【0028】
図2において、前記ローラ軸中心線Bと直交するローラ中心線Cを示す。この図から明らかなように、ローラ中心線C及び前記のローラ軸中心線Bは、縦軸中心線Aから一定の偏心距離Lだけ離れた位置に設けられる。この偏心距離Lは、円筒ローラ22の直径の略10%、即ち10%又はその近傍の大きさに設定される。
【0029】
偏心距離Lは、後述のように、一定の搬送面内における搬送物26の移送に伴って円筒ローラ22に付与される移送方向(X、Y、θ方向)の力によって、回転支持台14にトルクを発生させるのに必要な距離である。
【0030】
なお、円筒ローラ22が回転支持台14の縦軸18又は縦軸中心線Aを中心に回転する場合を円筒ローラ22の公転と称し、円筒ローラ22がローラ軸21又はローラ軸中心線Bを中心に回転する場合を円筒ローラ22の自転と称する。
【0031】
実施形態1の搬送用フリーローラは以上のような構成であり、次にその作用について説明する。
【0032】
図3に示したように、円筒ローラ22の中心O2に、ローラ軸21に直交する移送方向の力(X方向の力と称する。)、これと90°向きを異にしたローラ軸21の軸線方向の力(Y方向の力と称する。)、及びこれらの中間の任意の角度方向の力(θ方向の力と称する。)が作用した場合について考える。
【0033】
図3において、X方向の力が作用した場合は、その力は回転支持台14の回転中心O1を通るので、回転支持台14にはトルクが発生せず、したがって円筒ローラ22が公転することはない。一方、前記のX方向の力はローラ軸21に対し直交する方向に作用するため、円筒ローラ22がローラ軸21又はローラ軸中心線Bを中心に自転し、搬送物26をX方向へ移送する。
【0034】
一方、図3の状態においてY方向の力が作用した場合、回転支持台14に対しては、その縦軸中心線Aに対して力の作用点が偏心距離Lだけ離れているのでトルクが発生する。そのトルクによって、回転支持台14が回転し円筒ローラ22を公転させる(図4(a)の矢印参照)。公転によって円筒ローラ22がY方向を向く位置に達するとトルクがゼロとなり停止する。
【0035】
この場合、円筒ローラ22は、公転を開始してX方向に対して角度を持つと、自転方向の分力が生じるためトルクが発生し、そのトルクの大きさに応じて自転する。円筒ローラ22がY方向を向くと分力によることなくローラ軸21の周りで自転し、搬送物26をY方向に移送する。
【0036】
また、図3の状態においてθ方向の力が作用した場合は、図4(c)に示したように、その力はX方向の分力θxと、Y方向の分力θyに分解できることから明らかなように、分力θxによって自転しつつ、分力θyによって円筒ローラ22がθ方向を向くまで公転する。円筒ローラ22はθ方向を向くことにより公転が停止して自転のみ行い搬送物26をθ方向へ移送する(図4(b)参照)。
【0037】
前記のように、実施形態1に係るフリーローラは、θ方向の力が円筒ローラ22に作用すると、その円筒ローラ22がθ方向を向くまで、言い換えれば、ローラ軸21及びローラ中心線Bが前記力の方向と直交する向きとなるまで公転してその位置で停止し、その位置で自転しつつ搬送物26をθ方向へ移送することになる。
【0038】
θ方向というのは中心O2の周りの搬送面内における任意の角度であるから、搬送物26をθ方向へ移送できるということは、同一搬送面内における全方向に搬送物26を移送できること、即ち、移送の方向性に限定がなく無方向性の移送が可能であることを意味する。
【0039】
円筒ローラ22はそのフラット面27が搬送物26に対して線接触するので、点接触する従来の場合より面圧が低下し、圧痕が生じるのを防止する。また、フラット面27の両端部にアール28やクラウニングを施すことにより、エッジ応力の発生も防ぐことができる。
【符号の説明】
【0040】
A 縦軸中心線
B ローラ軸中心線
C ローラ中心線
O1 中心
O2 中心
L 偏心距離
a 作用点間距離
11 軸受箱
12 円筒部
13 ラジアル軸受
14 回転支持台
15 フランジ
16 ボルト
17 基台
18 縦軸
19 ブラケット
21 ローラ軸
22 円筒ローラ
23 ラジアル軸受
24 ボルト
25 ナット
26 搬送物
27 フラット面
28 アール
29 座金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受箱と、その軸受箱に縦軸によって支持された回転支持台と、その回転支持台上に設けられたブラケットと、そのブラケットに前記縦軸に対して直角方向に支持されたローラ軸と、前記ローラ軸により回転自在に支持されたローラとからなる搬送用フリーローラにおいて、前記ローラの搬送物との接触部分にフラット面が形成され、前記縦軸とローラ軸を支持する軸受が、円すいころ軸受の外向き型であり、前記縦軸に対し前記ローラ軸が一定の偏心距離をおいて設けられたことを特徴とする搬送用フリーローラ。
【請求項2】
前記ローラが円筒ローラであることを特徴とする請求項1に記載の搬送用フリーローラ。
【請求項3】
前記円筒ローラのフラット面の両端部に滑らかなアール又はクラウニングが施されたことを特徴とする請求項2に記載の搬送用フリーローラ。
【請求項4】
前記の偏心距離が、前記円筒ローラの直径の10%又はその近傍の大きさに設定されたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の搬送用フリーローラ。
【請求項5】
前記縦軸とローラ軸を支持する軸受が、いずれも転がり軸受の背面組合せ軸受であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の搬送用フリーローラ。
【請求項6】
前記軸受の全面に耐錆処理が施されたことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の搬送用フリーローラ。
【請求項7】
前記搬送物が船体用鋼板であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の搬送用フリーローラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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