説明

携帯型医療機器

【課題】センサに導入された試料の温度をより正確に推定することができる、携帯型医療機器を提供する。
【解決手段】試料が導入されるセンサ10がセンサ接続部30に接続される。温度推定部33は、センサ10に導入された試料の温度を推定する。測定処理部34は、温度推定部33で推定された試料の温度に基づく補正を行って試料に対する測定処理を実行する。温度検出部26は、本体23の内部に設置されて温度を検出する。温度推定部33は、処理装置(24、25)で処理が開始されたタイミングにおいて温度検出部26で検出された温度である処理開始時温度を記憶し、少なくとも、処理開始時温度が記憶された際に開始された処理装置(24、25)での処理が終了するまでの間は、処理開始時温度を試料の温度として推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に対する測定処理の結果をディスプレイに表示させる表示処理、及び外部との通信処理、のうちの少なくともいずれかを実行する処理装置を本体の内部に有し、携帯される携帯型医療機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療機器の分野では、ユーザが携帯でき、ユーザが簡易に操作できることを目指して作られた携帯型医療機器の利用が増加している。このような携帯型医療機器として、例えば、特許文献1においては、携帯型の小型の血糖値計が開示されている。特許文献1に開示されたような血糖値計では、血糖値計に挿入されたセンサに対して試料としての血液が滴下されて導入された状態で、そのセンサに導入されている血液内のグルコースに比例して流れる電流の値が測定され、測定された電流値から血糖値が算出される。そして、血糖値計は、算出した血糖値をディスプレイに表示する。
【0003】
尚、上記の血糖値計のように、試料が導入されるセンサが接続されることで試料に対する測定処理が行われる携帯型医療機器では、センサにおいて試料が導入される部分は、携帯型医療機器の本体から外部に露出した状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−42261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された血糖値計のような携帯型医療機器においては、センサに導入された試料は、外部に露出した状態であり、試料に対する測定処理が行われる際、測定処理結果は、外部の温度の影響を受けることになる。一方、外部の温度の影響を排除するために試料の温度を一定の温度に調整する温度調整機構を設けることが考えられるが、この場合、携帯型医療機器の大型化及び複雑化を招いてしまうため、好ましくない。このため、上記のような携帯型医療機器は、センサに導入された試料の温度、即ち、センサに配置された試薬と導入された試料とが反応するセンサの試料測定部の温度と同じ温度となる試料の温度を推定し、その推定した温度に基づく補正を行って試料に対する測定処理を実行する構成であることが望ましい。
【0006】
センサに導入された試料の温度を推定する方法としては、携帯型医療機器の本体の内部に温度センサを設け、試料に対する測定処理が実行される際にその温度センサで検出される温度をセンサに導入された試料の温度として推定する方法が考えられる。
【0007】
しかしながら、携帯型医療機器においては、試料に対する測定処理の結果をディスプレイに表示させる表示処理を実行する表示処理装置が設けられる。或いは、測定処理結果を外部に対して送信し又は測定処理に必要な情報を外部から受信するような外部との通信処理を実行する通信処理装置が設けられる。そして、上記のような処理装置における処理が実行されると、その処理装置が発熱することになり、その発熱により、携帯型医療機器の本体内部に設置された温度センサの近傍の領域の温度も上昇することになる。このため、携帯型医療機器の本体内部に設置された温度センサで検出される温度をセンサに導入された試料の温度として推定する場合、試料の温度を正確に推定することが困難になってしまうという問題がある。
【0008】
本発明の目的の一例は、上記問題を解消し、センサに導入された試料の温度をより正確に推定することができる、携帯型医療機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明における携帯型医療機器は、試料に対する測定処理の結果をディスプレイに表示させる表示処理、及び外部との通信処理、のうちの少なくともいずれかの処理を実行する処理装置を本体の内部に有し、携帯される携帯型医療機器であって、試料が導入されるセンサが接続されるセンサ接続部と、前記センサに導入された試料の温度を推定する温度推定部と、前記温度推定部で推定された試料の温度に基づく補正を行って試料に対する測定処理を実行する測定処理部と、前記本体の内部に設置されて温度を検出する温度検出部と、を備え、前記温度推定部は、前記処理装置で処理が開始されたタイミングにおいて前記温度検出部で検出された温度である処理開始時温度を記憶し、少なくとも、前記処理開始時温度が記憶された際に開始された前記処理装置での処理が終了するまでの間は、前記処理開始時温度を試料の温度として推定することを特徴とする。
【0010】
上記の特徴により、本発明における携帯型医療機器は、処理装置での処理開始タイミングで検出された処理開始時温度を記憶し、処理装置での処理が終了するまでの間は、その処理開始時温度を試料の温度として推定する。このため、処理装置での処理が開始されることで処理装置から伝達された熱によって温度検出部の位置で上昇する温度の影響を効率よく排除して温度を推定することができる。これにより、この携帯型医療機器は、処理装置からの熱による影響がほとんど生じていない状態で測定された温度を試料の温度として推定することができる。従って、この携帯型医療機器は、処理装置による発熱の影響を排除して、センサに導入された試料の温度をより正確に推定することができる。
【0011】
また、携帯型医療機器における処理が開始される際、通常、ユーザは、携帯型医療機器を一旦手で掴み、そのまま手で保持した状態で携帯型医療機器を用いることが多い。この場合、ユーザが携帯型医療機器を手で保持している時間がある程度長くなると、ユーザの手から伝達された熱によって温度検出部の位置における温度が上昇する虞がある。しかしながら、本発明における携帯型医療機器は、処理装置での処理開始タイミングで検出された処理開始時温度を記憶してそれを試料の温度として推定する。このため、ユーザが手にとってあまり時間が経過しておらず、人の手からの熱による影響がほとんど生じていないタイミングの温度となる処理開始時温度が記憶されることになる。従って、この携帯型医療機器は、ユーザの手からの熱によって温度検出部の位置で上昇する温度の影響も効率よく排除して試料の温度を推定することができる。
【0012】
上記本発明における携帯型医療機器においては、前記温度推定部は、前記処理開始時温度が記憶された際に開始された前記処理装置での処理が終了して所定時間が経過するまでの間においても、前記処理開始時温度を試料の温度として推定することが好ましい。
【0013】
この態様によれば、処理装置での処理終了後所定時間が経過するまでの間において、外部へ放熱された熱によって温度検出部の位置で変化する温度の影響も効率よく排除して試料の温度を正確に推定することができる。
【0014】
また、上記本発明における携帯型医療機器においては、前記温度推定部は、前記所定時間が経過した後に前記処理装置での処理が新たに開始されたときには、当該処理装置での処理が新たに開始されたタイミングにおいて前記処理開始時温度を新たに記憶することが好ましい。
【0015】
この態様によれば、処理装置での処理終了後所定時間が経過し、処理装置からの熱の影響がほとんど生じなくなった状態では、そのときの外部環境の状況に応じて、新たに処理開始時温度が記憶される。これにより、この態様の携帯型医療機器は、より正確な試料の温度を推定することができる。
【0016】
また、上記本発明における携帯型医療機器は、外部からの入力操作に基づいて、前記温度推定部での推定処理モードを処理開始時温度モードと処理開始後温度モードとのいずれかに設定する、推定モード設定部、を更に備え、前記温度推定部は、前記推定モード設定部によって前記推定処理モードが前記処理開始時温度モードに設定されたときは、少なくとも、前記処理開始時温度が記憶された際に開始された前記処理装置での処理が終了するまでの間は、前記処理開始時温度を試料の温度として推定し、前記推定モード設定部によって前記推定処理モードが前記処理開始後温度モードに設定されたときは、前記処理装置で処理が開始されたタイミングの後のタイミングにおいて前記温度検出部で検出された温度に基づいて、試料の温度を推定することが好ましい。
【0017】
この態様によれば、携帯型医療機器を使用するユーザは、外部から入力操作を行うことで、推定処理モードの設定を、処理開始時温度モード及び処理開始後温度モードのいずれかに任意に切り替えることができる。このため、携帯型医療機器が使用される外部環境の状況に応じて、ユーザが、より正確に試料の温度を推定可能と考えられる推定処理モードを選択することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明における携帯型医療機器によれば、センサに導入された試料の温度をより正確に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態における携帯型医療機器の外観を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す携帯型医療機器の外観を示す正面図である。
【図3】図3は、図1に示す携帯型医療機器の外観を示す正面図である。
【図4】図4は、図1に示す携帯型医療機器の構成を示すブロック図である。
【図5】図5は、図1に示す携帯型医療機器の外部温度及び温度センサで検出される温度についての時間に対する変化を模式的に例示する図である。
【図6】図6は、図1に示す携帯型医療機器の温度推定処理動作を例示するフロー図である。
【図7】図7は、図1に示す携帯型医療機器の測定処理動作を例示するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態における携帯型医療機器について、図1〜図7を参照しながら説明する。
【0021】
最初に、本発明の一実施の形態における携帯型医療機器の構成について、図1〜図4を参照して説明する。図1は、本発明の一実施の形態における携帯型医療機器1の外観を示す斜視図である。図2及び図3は、携帯型医療機器1の外観を示す正面図である。図4は、携帯型医療機器1の構成を示すブロック図である。尚、本実施形態では、接続されたセンサ10に導入された試料としての血液を流れる電流の値を測定するとともにその測定した電流値から血糖値を算出する血糖値計として構成された携帯型医療機器1の例が説明されている。しかし、この例に限らず、本発明は、ユーザによって携帯されるとともに種々の測定処理を行う携帯型医療機器に関して広く適用することができるものである。
【0022】
図1〜図3に示すように、本実施形態における携帯型医療機器1には、外縁形状が略長方形のセンサ10における長手方向の一端側が図2にて矢印Aで示される方向に沿って内部に挿入されるための挿入口21が設けられている。更に、携帯型医療機器1には、ディスプレイ22、本体23の内部に設置される演算処理装置24、表示処理装置25、温度センサ26、時間を計測する時計機能を有するクロック27、等が設けられている。
【0023】
尚、演算処理装置24は、試料である血液に対する測定処理を実行するとともに外部との通信処理を実行する処理装置として設けられ、メモリ等の記憶装置、プロセッサ、インターフェース、等を備えて構成されている。表示処理装置25は、演算処理装置24での測定処理の結果をディスプレイ22に表示させる表示処理を実行する表示用ドライバとして設けられている。また、温度センサ26は、本体23の内部において設置された領域における温度を検出する本実施形態の温度検出部を構成している。
【0024】
また、携帯型医療機器1には、更に、操作キー28(28a、28b、28c)、USB(Universal Serial Bus)ポート29、が設けられている。操作キー28は、ユーザによって操作されるキーとして設けられている。本実施形態で例示される操作キー28としては、決定キー28a、スクロールキー(28b、28c)が設けられている。決定キー28aは、例えば、ディスプレイ22に表示されるメニュー項目のうちから選択されたいずれかの項目に対する決定が行われる際に、ユーザによって押圧操作される。スクロールキー28aは、例えば、ディスプレイ22に表示されるスクロールメニュー画面のメニュー項目について、所定の方向にスクロールさせる際に、ユーザによって押圧操作される。また、スクロールキー28bは、例えば、ディスプレイ22に表示されるスクロールメニュー画面のメニュー項目について、上記の所定の方向と反対方向にスクロールさせる際に、ユーザによって押圧操作される。
【0025】
USBポート29は、例えば、携帯型医療機器1と外部のコンピュータ等との通信が行われる際の通信用ポートとして用いられる。この場合、例えば、USBポート29は、外部のコンピュータ(図示を省略)に接続された通信ケーブルの端部に設けられたUSBコネクタ(図示を省略)が接続されるポートとして構成される。そして、携帯型医療機器1においては、演算処理装置24が、USBポート29にUSBコネクタが接続されたUSBケーブルを介して、外部のコンピュータとの通信処理を実行する処理装置として構成されている。これにより、携帯型医療機器1は、演算処理装置24での測定処理結果のデータを外部に送信可能に又は演算処理装置24での測定処理に必要な情報を外部から受信可能に構成されている。
【0026】
また、図4に示すように、携帯型医療機器1は、センサ接続部30を備えている。そして、携帯型医療機器1は、挿入口21に設けられているセンサ接続部30において、センサ10が接続される。センサ10は、図4にて矢印Aで示す方向に沿ってセンサ接続部30に挿入されて接続される。そして、携帯型医療機器1においては、接続されたセンサ10に対して試料である血液が滴下されて導入された状態で、その血液内のグルコースに比例して流れる電流の値が測定され、血糖値が算出され、ディスプレイ22に表示される。尚、図2は、センサ10が接続される前の状態の携帯型医療機器1を示している。一方、図3は、センサ10が接続された後、演算処理装置24での血糖値の算出処理が完了し、その算出処理により得られた血糖値が表示処理装置25の制御によってディスプレイ22に表示された状態の携帯型医療機器1を示している。
【0027】
ここで、センサ10及び携帯型医療機器1の構成について、更に具体的に説明する。本実施形態では、携帯型医療機器1の測定方式は、特に限定されず、電気抵抗方式であってもよいし、光学方式であってもよい。但し、図1〜図4に示した例では、電気抵抗方式が採用されており、以下、電気抵抗方式を前提にして説明する。また、携帯型医療機器1の測定方式が電気抵抗方式である場合、試料としては、血液、間質液、等が挙げられる。更に、測定される物質としては、グルコース、ケトン体、コレステロール、乳酸、尿酸、及びビリルビンなどの生体中の生体物質が挙げられる。その他、測定される物質としては、更に、フッ化ソーダ、アスコルビン酸、及びアセトアミノフェンなどの薬物等も挙げられる。
【0028】
本実施形態では、携帯型医療機器1が電気抵抗方式を採用するため、センサ10は、試料測定部(11、12)、試料測定部(11、12)のそれぞれに電流を供給するための端子13a、端子13b、及び端子13cを備えている。このため、携帯型医療機器1は、センサ接続部30において、図4に示すように、センサ10の端子13a〜13cそれぞれに接続される3つの接続端子30aを備えている。尚、センサ10に試料が導入される場合、この試料は、例えば、センサ10がセンサ接続部30に接続された状態で、センサ10におけるセンサ接続部30に接続される側の端部と反対側の端部に対して滴下される。そして、滴下された試料が、誘導路14を介して、この試料と反応する試薬が配置された試料測定部(11、12)に導入されることになる。
【0029】
本実施形態では、図4に示すように、携帯型医療機器1は、演算処理装置24において、推定モード設定部32、温度推定部33、測定処理部34、を備えている。そして、携帯型医療機器1においては、センサ接続部30にセンサ10が挿入されると、センサ10における挿入された端部が、センサ接続部30に設けられたリミットスイッチ31に当接し、リミットスイッチ31が作動する。これにより、演算処理装置24にてリミットスイッチ31の作動信号が検知される。そして、センサ10に導入された試料に対する測定が行われ、血糖値が算出される。
【0030】
推定モード設定部32は、外部からの入力操作に基づいて、後述する温度推定部33がセンサ10に導入された試料の温度を推定する処理の形態を指標するフラグとしての推定処理モードを処理開始時温度モードと処理開始後温度モードとのいずれかに設定する。
【0031】
そして、本実施形態の携帯型医療機器1においては、センサ10が接続される操作又は操作キー28の操作として実行される外部からのユーザによる操作に基づいて、推定処理モードが、処理開始時温度モード及び処理開始後温度モードのいずれかに設定される。例えば、具体的には、ユーザによってセンサ10がセンサ接続部30に挿入されて接続された後、予め定められた一定の時間に亘ってユーザによる処理開始後温度モードに設定するための操作が行われなければ、推定モード設定部32によって、推定処理モードが処理開始時温度モードに設定される。操作キー28が操作されることでユーザによる処理開始後温度モードに設定するための操作が行われると、推定モード設定部32によって、推定処理モードが処理開始後温度モードに設定される。
【0032】
温度推定部33は、センサ接続部30に接続されているセンサ10に導入された試料の温度を推定する処理を実行する。尚、温度推定部33によって推定される、センサ10に導入された試料の温度は、センサ10に配置された試薬と導入された試料とが反応する試料測定部(11、12)の温度と同じとなる。この温度推定部33は、演算処理装置24及び表示処理装置25の少なくともいずれかで処理が開始されたタイミングにおいて温度センサ26で検出された温度である処理開始時温度を記憶する。そして、温度推定部33は、処理開始時温度を記憶した後は、少なくとも、処理開始時温度を記憶した際に開始された処理装置(24、25)での処理が終了するまでの間は、処理開始時温度を試料の温度として推定する。
【0033】
尚、処理装置(24、25)において処理が開始されて処理開始時温度が記憶される処理開始タイミングとしては、種々のタイミングを設定することができる。例えば、処理開始タイミングとしては、携帯型医療機器1と外部のコンピュータ等との通信が開始されたタイミング、通信手段としてのUSBケーブルの端部に設けられたUSBコネクタがUSBポート29に接続されたタイミング、携帯型医療機器1の電源が投入されたタイミング(電源がON状態となったタイミング)、電源がON状態となった後にユーザによる最初の操作が行われたタイミング、等が挙げられる。
【0034】
また、温度推定部33は、処理開始時温度が記憶された際に開始された処理装置(24、25)での処理が終了して、その後、予め設定された所定時間(以下、「所定時間pt」と称する)が経過するまでの間においても、既に記憶している処理開始時温度をセンサ10に導入された試料の温度として推定する。即ち、上記の所定時間pt内において、処理が再度開始された場合であっても、先に終了した処理が開始された際の処理開始タイミングで記憶された処理開始時温度がセンサ10に導入された試料の温度として推定される。尚、温度推定部33において、処理装置(24、25)での処理が終了して以降に経過する時間が予め設定された所定時間ptを経過したか否かは、クロック27で計測される時間に基づいて把握される。
【0035】
また、温度推定部33は、上記の所定時間ptが経過した後に処理装置(24、25)での処理が新たに開始されたときには、処理装置(24、25)での処理が新たに開始されたタイミングにおいて、温度センサ26で検出された温度である処理開始時温度を新たに記憶する。この場合、温度推定部33では、例えば、新たな処理開始時温度が記憶される際に、先に処理開始時温度の情報が記憶されていたメモリの所定の記憶領域において、新たな処理開始時温度の情報が上書きされることになる。これにより、処理開始時温度の情報が更新されることになる。
【0036】
また、本実施形態では、温度推定部33は、推定モード設定部32によって推定処理モードが処理開始時温度モードに設定されたときは、処理開始時温度が記憶された際に開始された処理装置(24、25)での処理が終了するまでの間及びその後上記の所定時間ptが経過するまでの間は、処理開始タイミングで記憶された処理開始時温度を試料の温度として推定する。そして、温度推定部33は、推定モード設定部32によって推定処理モードが処理開始後温度モードに設定されたときは、処理装置(24、25)で処理が開始されたタイミングの後のタイミングにおいて温度センサ26で検出された温度に基づいて、試料の温度を推定する。
【0037】
図5は、縦軸を温度を指標する軸とし、横軸を時間を指標する軸とした図であって、携帯型医療機器1の外部温度Ta及び温度センサ26で検出される検出温度Tbについての時間に対する変化を模式的に例示する図である。図5において、外部温度Taについては破線で示されており、検出温度Tbについては実線で示されている。尚、センサ接続部30に接続されたセンサ10に導入された試料は、外部に露出した状態となるため、この試料の温度は外部温度Taとほぼ同じとなる。
【0038】
演算処理装置24及び表示処理装置25の処理が行われていない状態が十分に継続されている状態では、処理装置(24、25)による発熱の影響がほとんど生じないため、外部温度Taと検出温度Tbとはほぼ一致している。しかし、演算処理装置24及び表示処理装置25の少なくともいずれか一方の処理が開始されると、処理を開始した処理装置(24、25)が発熱する。そして、その処理装置(24、25)の熱が、熱伝導又は対流によって、温度センサ26が設置されている領域にも伝達される。これにより、検出温度Tbが上昇を開始する。尚、図5では、処理装置(24、25)の処理が開始されてから検出温度Tbが上昇する状態の時間領域を状態Z1で示している。状態Z1のときは、検出温度Tbは、処理装置(24、25)での処理が継続して実行された時間に応じて上昇することになる。
【0039】
処理装置(24、25)の処理が継続して実行されて十分な時間が経過すると、処理装置(24、25)での発熱量と、携帯型医療機器1からの外部への放熱量とがバランスし、検出温度Tbが一定の温度に収束することになる。即ち、図5に例示するように、検出温度Tbは、外部温度Taから所定の温度Tcだけ上昇した温度に収束する。尚、図5では、処理装置(24、25)の処理が継続されている状態で検出温度Tbが収束している状態の時間領域を状態Z2で示している。
【0040】
また、処理装置(24、25)での処理が終了すると、処理装置(24、25)での発熱も終了するため、外部への放熱によって温度センサ26が設置されている領域の温度も低下し、検出温度Tbが下降を開始する。尚、図5では、処理装置(24、25)の処理が終了してから検出温度Tbが下降する状態の時間領域を状態Z3で示している。状態Z3のときは、検出温度Tbは、処理装置(24、25)での処理が終了してからの時間に応じて下降することになる。そして、処理装置(24、25)での処理が終了してから十分な時間が経過すると、検出温度Tbは外部温度Taに収束することになる。
【0041】
また、処理装置(24、25)での処理が終了して十分な時間が経過し、検出温度Tbが外部温度Taに収束して以降、処理装置(24、25)での処理が新たに開始されると、前述の状態Z1のときと同様に、検出温度Tbは、上昇することになる。
【0042】
上述のように、処理装置(24、25)での処理の状況に伴い、温度センサ26の検出温度Tbが変化する。しかし、温度推定部33は、処理装置(24、25)で処理が開始されたタイミングにおいて温度センサ26で検出された温度である処理開始時温度を記憶する。そして、温度推定部33は、前述の状態Z1及び状態Z2のときは、上記の処理開始タイミングで記憶した処理開始時温度を試料の温度として推定する。
【0043】
また、前述の所定時間ptについては、処理装置(24、25)での処理が終了してから検出温度Tbが外部温度Taに収束するまでに要する状態Z3のときの時間と同等の時間もしくはこれよりも若干長い時間として、設定される。このため、温度推定部33は、状態Z3のときも、前述の処理開始タイミングで記憶した処理開始時温度を試料の温度として推定する。尚、所定時間ptの値は、例えば、予め行われる実験結果或いは解析結果に基づいて、決定される。
【0044】
また、状態Z3が終了して上記の所定時間ptが経過した後、処理装置(24、25)での処理が新たに開始されると、温度推定部33は、その新たに開始された処理の処理開始タイミングで検出された検出温度Tbを新たな処理開始時温度として記憶する。そして、温度推定部33は、この新たに記憶した処理開始時温度を試料の温度として推定する。
【0045】
測定処理部34は、試料に対する測定処理を実行する。具体的には、測定処理部34は、センサ接続部30に接続されたセンサ10に試料である血液が導入されたときに、血液を流れる電流の値を測定し、その測定した電流値から、例えば、検量線を用いて、血糖値を算出する処理を行う。即ち、試料が導入された試料測定部(11、12)に流れる電流値を測定し、血糖値を算出する。
【0046】
そして、測定処理部34は、上記の血糖値の算出において、温度推定部33で推定された試料の温度に基づく補正を行う。この補正は、例えば、検量線を用いて算出された血糖値の初期算出値Gsに対して、温度推定部33で推定された試料の温度の関数として得られる補正パラメータPtを乗じることで行われる。即ち、最終の算出値であって測定処理結果としての血糖値Geは、Ge=Pt×Gsとして算出される。
【0047】
尚、センサ10については、単一の試料測定部のみを備えた態様であってもよいが、測定精度の点から、本実施形態のように複数の試料測定部(本実施形態では、試料測定部11及び12の2つ)を備えている態様であってもよい。センサ10の内部に誘導路14を経て導入される試料は、試料測定部(11、12)のそれぞれに供給される。試料測定部(11、12)には、それぞれ異なる試薬を配置することができる。例えば、試料測定部11には、測定される物質に反応する試薬が配置され、試料測定部12には、測定される物質と共存している別の物質(生体物質、薬物等)に反応する試薬、又は試料の性状(粘性、塩濃度、ヘマトクリット値、等)に合わせて反応が変化する試薬が配置される。
【0048】
上記の形態の場合、測定処理部34は、測定される物質の情報に加え、共存している別の物質の情報(量等)、試料の性状に関する情報を取得することができる。具体的には、試料が血液であり、測定される物質がグルコースであるとすると、試料測定部11にはグルコースと反応する試薬が配置され、試料測定部12には、ヘマトクリット値に応じて異なる反応を示す試薬が配置される。この場合、測定処理部34は、グルコースの濃度を特定する情報と、ヘマトクリット値を特定する情報とを取得することができる。そして、測定処理部34は、取得したこれらの情報に基づいて、ヘマトクリット値がグルコースの濃度測定に与える影響を補正し、より正確にグルコースの濃度を算出することができる。
【0049】
次に、本発明の実施の形態における携帯型医療機器1の温度推定処理動作及び測定処理動作について、図6及び図7を参照して更に説明する。図6は、携帯型医療機器1の温度推定処理動作を例示するフロー図である。また、図7は、携帯型医療機器1の測定処理動作を例示するフロー図である。尚、以下の説明においては、適宜図1〜図5を参酌する。
【0050】
まず、図6に示す温度推定処理動作のフローについて説明する。携帯型医療機器1は、センサ10が挿入口21に挿入されると、それによって起動される。具体的には、携帯型医療機器1の電源スイッチは、挿入口21の奥に配置されている。電源スイッチは、センサ10が挿入されると、それによってON状態となる。例えば、このように電源スイッチがON状態となったタイミングで、温度推定部33において、処理装置(24、25)の処理開始タイミングが検知され、処理開始時温度が記憶される(ステップS101)。
【0051】
処理開始時温度が記憶されると、温度推定部33は、推定モード設定部32による推定処理モードの設定が行われているか否かを判断する(ステップS102)。このステップS102の判断は、推定処理モードの設定が完了するまで行われる。そして、温度推定部33は、推定処理モードの設定が行われたと判断すると(ステップS102、Yes)、設定された推定処理モードが処理開始時温度モードか否かを判断する(ステップS103)。
【0052】
設定された推定処理モードが処理開始時温度モードでない、即ち、設定された推定処理モードが処理開始後温度モードであると判断されると(ステップS103、No)、温度推定部33は、処理開始後温度モードでの処理を実行する(ステップS107)。一方、設定された推定処理モードが処理開始時温度モードであると判断されると(ステップS103、Yes)、温度推定部33は、記憶した処理開始時温度をセンサ接続部30に接続されたセンサ10に導入された試料の温度として推定する(ステップS104)。
【0053】
ステップS104での温度推定処理は、処理装置(24、25)での処理が終了したと判断されるまで、継続される(ステップS105)。また、処理装置(24、25)での処理が終了したと判断されたとき(ステップS105、Yes)であっても、処理装置(24、25)での処理終了後、前述の所定時間ptが経過するまでは、ステップS104での温度推定処理が、継続される(ステップS106)。
【0054】
処理装置(24、25)での処理終了後、前述の所定時間ptが経過したと判断されたとき(ステップS106、No)、及び、処理開始後温度モードでの処理(ステップS107)が終了したときは、図6に例示される温度推定処理動作が、一旦終了することになる。そして、この後、新たに、処理装置(24、25)での処理が開始されると、図6に例示する温度推定処理動作が行われることになる。
【0055】
次に、図7に示す測定処理動作のフローについて説明する。携帯型医療機器1は、前述のように、センサ10が挿入口21に挿入されると、電源スイッチがON状態となり、起動される。そして、試料が導入された試料測定部(11、12)に流れる電流値が測定される(ステップS201)。
【0056】
電流測定が行われると、次いで、測定処理部34において、血糖値の初期算出値Gsが算出されるとともに、この初期算出値Gsに対して、温度推定部33で推定された試料の温度の関数として得られる補正パラメータPtを乗じる温度補正処理が行われる(ステップS202)。尚、このとき、推定処理モードが処理開始時温度モードに設定されていれば、温度推定部33では、記憶された処理開始時温度がセンサ接続部30に接続されたセンサ10に導入された試料の温度として推定される。そして、上記の温度補正処理(ステップS202)が行われると、次いで、測定処理結果としての血糖値Geが算出される(ステップS203)。算出された血糖値Geは、表示処理装置25の制御によって、図3に例示するように、ディスプレイ22に表示される(ステップS204)。これにより、携帯型医療機器1の測定処理動作が終了する。
【0057】
以上のように、携帯型医療機器1は、処理装置(24、25)での処理開始タイミングで検出された処理開始時温度を記憶し、処理装置(24、25)での処理が終了するまでの間は、その処理開始時温度を試料の温度として推定する。このため、処理装置(24、25)での処理が開始されることで処理装置(24、25)から伝達された熱によって温度センサ26の位置で上昇する温度の影響を効率よく排除して温度を推定することができる。これにより、携帯型医療機器1は、処理装置(24、25)からの熱による影響がほとんど生じていない状態で測定された温度を試料の温度として推定することができる。従って、携帯型医療機器1は、処理装置(24、25)による発熱の影響を排除して、センサ10に導入された試料の温度をより正確に推定することができる。
【0058】
また、携帯型医療機器1によると、処理装置(24、25)での処理開始タイミングで検出された処理開始時温度を記憶してそれを試料の温度として推定する。このため、ユーザが携帯型医療機器1を手にとってあまり時間が経過しておらず、人の手からの熱による影響がほとんど生じていないタイミングの温度である処理開始時温度が記憶されることになる。従って、携帯型医療機器1は、ユーザの手からの熱によって温度センサ26の位置で上昇する温度の影響も効率よく排除して試料の温度を推定することができる。
【0059】
また、携帯型医療機器1によると、処理装置(24、25)での処理終了後所定時間ptが経過するまでの間において、外部へ放熱された熱によって温度センサ26の位置で変化する温度の影響も効率よく排除して試料の温度を正確に推定することができる。
【0060】
また、携帯型医療機器1によると、処理装置(24、25)での処理終了後所定時間ptが経過し、処理装置(24、25)からの熱の影響がほとんど生じなくなった状態では、そのときの外部環境の状況に応じて、新たに処理開始時温度が記憶される。これにより、携帯型医療機器1は、より正確な試料の温度を推定することができる。
【0061】
また、本実施形態によると、携帯型医療機器1を使用するユーザは、外部から入力操作を行うことで、推定処理モードの設定を、処理開始時温度モード及び処理開始後温度モードのいずれかに任意に切り替えることができる。このため、本実施形態によると、携帯型医療機器1が使用される外部環境の状況に応じて、ユーザが、より正確に試料の温度を推定可能と考えられる推定処理モードを選択することができる。
【0062】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができる。また、本発明は、血液以外の試料に対して広く適用されてもよく、例えば、乳酸計、ケトンメータ、尿分析装置、等として実施されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上のように、本発明は、携帯型医療機器の分野に有用である。そして、本発明によれば、携帯型医療機器において、センサに導入された試料の温度をより正確に推定することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 携帯型医療機器
10 センサ
22 ディスプレイ
23 本体
24 演算処理装置(処理装置)
25 表示処理装置(処理装置)
26 温度センサ(温度検出部)
30 センサ接続部
33 温度推定部
34 測定処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対する測定処理の結果をディスプレイに表示させる表示処理、及び外部との通信処理、のうちの少なくともいずれかの処理を実行する処理装置を本体の内部に有し、携帯される携帯型医療機器であって、
試料が導入されるセンサが接続されるセンサ接続部と、
前記センサに導入された試料の温度を推定する温度推定部と、
前記温度推定部で推定された試料の温度に基づく補正を行って試料に対する測定処理を実行する測定処理部と、
前記本体の内部に設置されて温度を検出する温度検出部と、
を備え、
前記温度推定部は、前記処理装置で処理が開始されたタイミングにおいて前記温度検出部で検出された温度である処理開始時温度を記憶し、少なくとも、前記処理開始時温度が記憶された際に開始された前記処理装置での処理が終了するまでの間は、前記処理開始時温度を試料の温度として推定することを特徴とする、携帯型医療機器。
【請求項2】
請求項1に記載の携帯型医療機器であって、
前記温度推定部は、前記処理開始時温度が記憶された際に開始された前記処理装置での処理が終了して所定時間が経過するまでの間においても、前記処理開始時温度を試料の温度として推定することを特徴とする、携帯型医療機器。
【請求項3】
請求項2に記載の携帯型医療機器であって、
前記温度推定部は、前記所定時間が経過した後に前記処理装置での処理が新たに開始されたときには、当該処理装置での処理が新たに開始されたタイミングにおいて前記処理開始時温度を新たに記憶することを特徴とする、携帯型医療機器。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の携帯型医療機器であって、
外部からの入力操作に基づいて、前記温度推定部での推定処理モードを処理開始時温度モードと処理開始後温度モードとのいずれかに設定する、推定モード設定部、を更に備え、
前記温度推定部は、
前記推定モード設定部によって前記推定処理モードが前記処理開始時温度モードに設定されたときは、少なくとも、前記処理開始時温度が記憶された際に開始された前記処理装置での処理が終了するまでの間は、前記処理開始時温度を試料の温度として推定し、
前記推定モード設定部によって前記推定処理モードが前記処理開始後温度モードに設定されたときは、前記処理装置で処理が開始されたタイミングの後のタイミングにおいて前記温度検出部で検出された温度に基づいて、試料の温度を推定することを特徴とする、携帯型医療機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−88147(P2013−88147A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226134(P2011−226134)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】