説明

攪拌装置

【課題】試料液の粘度等の諸条件に関わらず、安定して回転子を回転させることが可能な攪拌装置を提供する。
【解決手段】細菌検査装置10は、試料液Xを保持する測定セル1と、測定セル1の外部から付与される磁力によって測定セル1内に貯留された試料液X中において底面11bに沿って回転する回転子3とを備えている。そして、回転子3は、測定セル1の底面11bに対して両端部分においてのみ接触しながら回転して、試料液Xを攪拌する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケース部内に貯留された試料液中において、回転子を回転させることで試料液の攪拌を行う攪拌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、試料液中に含まれる細菌等の検体の反応解析を行う際に、ケース部の外部から磁気力を付与してケース部内に貯留された回転子を回転させながら、試料液の攪拌を行う攪拌装置が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、容器(ケース部)の底面に攪拌子(回転子)の回転中心となる支承部(凸部)を設けた攪拌用容器について開示されている。この構成によれば、容器の底部から離間させるようにして攪拌子を回転させるため、試料液中における回転抵抗を低減して、容器外に配置されたマグネット回転体によるスムーズな従動回転を行うことができる。
【特許文献1】特開2005−169303号公報(平成17年6月30日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の攪拌用容器では、以下に示すような問題点を有している。
すなわち、上記公報に開示された構成では、底部のほぼ中央部分に凸部を設けているため、試料液の粘度差や試料液内の固形物等との接触による負荷によって、回転中の回転子がバランスを崩して凸部上からずれ落ちてしまう場合がある。このような場合には、回転子の回転が不十分になったり、回転子の回転が完全に停止したりして、試料液の十分な攪拌を行うことができないおそれがある。
【0005】
本発明の課題は、試料液等の条件に関わらず、安定して回転子を回転させることが可能な攪拌装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明に係る攪拌装置は、ケース部と、回転子とを備えている。ケース部は、試料液を保持する。回転子は、ケース部の内壁面に対して両端部分においてのみ接触しながら、ケース部の外部から付与される磁力によってケース部内に貯留された試料液中において内壁面に沿って回転し、試料液を攪拌する。
【0007】
ここでは、試料液を貯留するケース部内に、誘電泳動によって細菌検出を行う電極部と試料液の攪拌を行う回転子とが設置される細菌検査装置において、回転子が回転するケース部内の内壁面(回転面)に対して回転子の両端においてのみ接触しながら、回転子が回転する。
【0008】
ここで、上記回転子の両端部分においてのみ、回転子とケース部の内壁面とが接触するとは、例えば、ケース部の内壁面の中央部分に凹部が形成されている構成や、回転子の両端部に径大部が設けられている構成、あるいはこれらの組み合わせが考えられる。また、回転子が回転するケース部内の内壁面としては、例えば、ケース部内の底面や側面等が含まれる。なお、従来の中央凸部を回転軸とする構成と比較して、回転子の回転抵抗が大きくなる場合には、回転子に対して付与される磁気力を大きくすることで、従来と同様の回転速度を確保することができる。
【0009】
これにより、回転子の両端における内壁面との接触部分において摩擦抵抗を伴いながら回転子の両端をバランスよく支持することができる。よって、例えば、試料液中の粘度差が大きい場合や試料液中に固形物等が混入している場合でも、回転中の回転子が外的負荷によって回転バランスを崩してしまうことを回避することができる。この結果、ケース部の内壁面に形成された突部を中心に回転子を回転させる従来の攪拌装置と比較して、回転子の回転中におけるバランスをとりやすくすることで、試料液の条件等に関わらず、試料液の攪拌を十分に行うことができる。
【0010】
第2の発明に係る攪拌装置は、第1の発明に係る攪拌装置であって、内壁面は、回転子の回転軸を中心に形成された凹部を有している。
ここでは、回転子がその両端のみにおいて内壁面と接触する形態を構成するための手段として、回転子が回転する回転中心を中心とする凹部を内壁面側に設けている。
【0011】
これにより、回転子の回転中心となる内壁面の部分に凸部を設けた従来の攪拌装置とは反対に凹部を設けることで、内壁面の凹部外の領域において回転子の両端を確実に支持しながら回転子を安定した状態で回転させることができる。
【0012】
第3の発明に係る攪拌装置は、第2の発明に係る攪拌装置であって、凹部は、回転子がケース部内の内壁面に沿って偏った位置に移動した場合でも、偏った側とは反対側の端部が凹部内に落ち込まない程度の大きさで形成されている。
【0013】
ここでは、内壁面に対して凹部を設けたことによる不具合の発生を考慮して、凹部の大きさを回転子の軸方向長さを基準にして設定している。
すなわち、内壁面に設けられた凹部内に回転子がはまり込んでしまうことのないように、凹部の大きさを、回転子が内壁面に沿って偏った位置に移動した場合でも凹部内にその一端が落ち込まないような大きさとしている。
【0014】
これにより、例えば、ケース部の内壁面に沿って回転子が偏った位置に移動した場合でも、常時その両端が内壁面上において支持された状態で回転子を配置することができる。この結果、ケース部内において、スムーズに回転子を回転させることができる。
【0015】
第4の発明に係る攪拌装置は、第2または第3の発明に係る攪拌装置であって、内壁面は、ケース部における略円形の底面であって、凹部の直径dは、略円形の内壁面の直径Dと以下の関係式(1)を満たすように形成されている。
0.3D≦d≦0.9D・・・・・(1)
【0016】
ここでは、回転子が回転する内壁面に形成された略円形の凹部の直径を、ケース部の底面を基準として設定している。
【0017】
ここで、上記略円形とは、完全な円だけでなく、外形が円形となるような多角形も含む。
これにより、回転中に回転子に対してかかる負荷(摩擦抵抗)を適度な大きさとしつつ、回転中のバランスも十分に確保することができる。
【0018】
第5の発明に係る攪拌装置は、第1から第4の発明のいずれか1つに係る攪拌装置であって、回転子は、両端部分に径大部を有している。
ここでは、ケース部の所定の内壁面において回転子が回転する際に回転子の両端部のみがこの内壁面に接触する形態として、回転子の両端部分に径大部を設けている。
【0019】
ここで、上記径大部は、回転子全体として一体成形によって形成されたものであってもよいし、略円柱あるいは略角柱の部材に対して部品の接合等の後加工によって形成されたものであってもよい。
【0020】
なお、本発明では、上記径大部の形成と上記内壁面の凹部の形成とを組み合わせて用いてもよい。
これにより、ケース部の形状を変更することなく、回転子と内壁面との接触部分を回転子の両端とすることができる。この結果、回転子の両端を内壁面の一部において支持しながら、バランスよく回転子を回転させることができる。
【0021】
第6の発明に係る細菌検査装置は、第1から第5の発明のいずれか1つに係る攪拌装置と、ケース部内に設けられており試料液内の細菌を誘電泳動によって測定するための電圧が印加される電極部と、を備えている。
【0022】
ここでは、細菌検査装置として、上述した攪拌装置を備えている。
これにより、バランスの崩れにくい姿勢で内壁面に沿って回転する回転子によって、試料液を十分に攪拌することができる。この結果、攪拌の精度を向上させて、高精度な細菌検出を行うことができる。
【0023】
第7の発明に係る細菌検査装置は、第6の発明に係る細菌検査装置であって、試料液中において回転する回転子に対して接触して、採取した細菌を試料液中に懸濁させる試料採取具を、さらに備えている。
【0024】
ここでは、上述した攪拌装置を搭載した細菌検査装置において、細菌を採取する試料採取具を試料液中に浸漬させて回転子で攪拌することで、試料液中に細菌を攪拌させる。そして、試料採取具を試料液中に浸漬させる際には、回転中の回転子に対して試料採取具の一部を衝突させる。
【0025】
ここで、上記試料採取具としては、例えば、口腔内の細菌等を採取する綿棒等を用いることができる。
これにより、試料採取具の先端等に付着した細菌を効果的に試料液中に攪拌させることができる。この結果、効果的に攪拌された試料液中から精度よく細菌を検出することが可能な細菌検査装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る攪拌装置によれば、ケース部の内壁面に形成された凸部を中心に回転子を回転させる従来の攪拌装置と比較して、回転子の回転中におけるバランスをとりやすくすることで、試料液の条件等に関わらず試料液の攪拌を十分に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の一実施形態に係る細菌検査装置(攪拌装置)10について、図1〜図6を用いて説明すれば以下の通りである。
ここで、本実施形態の細菌検査装置10の検査対象である口腔内の細菌(微生物)およびプラークについて説明すれば以下の通りである。
【0028】
すなわち、口腔内の主要な疾病(例えば、う触や歯周病)は、いずれも口腔内の細菌(微生物)の存在が主な原因である。プラークは、口腔内の細菌が増殖によって局所的に固まった状態のものであり、多糖類などの代謝物を除いてそのほとんどが微生物の固まりである。プラーク1g中の微生物の数は、実に10の10乗個から11乗個にも達する。このプラークを口腔内から除去すること(以下、プラークコントロール)は、口腔内衛生を保つ上で最も重要なことであり、具体的にはブラッシング法(歯磨き)がプラークコントロールの主な手段となる。
【0029】
このように、ほとんどの口腔内疾病は、プラークの存在によって引き起こされることが明らかになっていることから、口腔内疾病の効果的な予防を行うために、口腔内の衛生状態を精度よく検査することが極めて重要となる。
【0030】
[細菌検査装置10全体の構成]
本実施形態に係る細菌検査装置10は、例えば、試料採取具13(図6参照)を用いて採取された口腔内に存在する細菌(微生物)の検出を行う検査装置であって、図1に示すように、測定セル(ケース部)1、薄膜電極(電極部)2を含む電極基板9、回転子3、スターラ4、電源部5、測定部6、制御部7および表示部8を備えている。
【0031】
測定セル1は、試料液X(図2参照)を貯留するための円筒状のガラス製容器である。また、測定セル1内には、試料液Xを攪拌するための回転子3が投入されている。回転子3は、測定セル1の底面(内壁面)11b(図3(a)参照)に近接配置されるスターラ4と磁気力を介して結合され回転する。このため、測定セル1としては、磁力を遮蔽しないガラスが使用されている。なお、測定セル1の材料としては、ガラス以外にもプラスチック等を用いることもできる。なお、この測定セル1の詳細な構成については、後段にて詳述する。
【0032】
なお、測定セル1内に貯留される試料液Xとしては、例えば、水、油類、エタノール等のアルコール類、アセトン、DIMSO、フラン、その他有機溶剤等およびこれらの混合物等の様々な液体を用いることができる。
【0033】
薄膜電極2は、誘電泳動によって試料液中の細菌(微生物)を所定位置に移動させて細菌を検出するものであって、櫛歯状の電極が微小隙間を介して対向配置されている。なお、この微小隙間の大きさは5μmである。薄膜電極2は、導電体をスパッタリングや蒸着やメッキ等の方法によって電極基板9上に被覆して形成される。この薄膜電極2に電圧を印加すると、薄膜電極2の櫛歯状の交差部分に構成される微小隙間付近の電界が最も強くなる。そして、細菌(微生物)は、この最も電界が集中するこの微小隙間付近に向かって泳動される。また、薄膜電極2が表面に形成された電極基板9は、測定セル1の側壁面に取り付けられている。
【0034】
回転子3は、図2に示すように、略円柱状を有する金属製の部材であって、測定セル1の底面11b(図3(a)参照)に対して近接配置されたスターラ4から付与される磁気によって、測定セル1の底面11bに沿って回転する。なお、この回転子3と測定セル1の底面(内壁面)11b(図3(a)および図3(b)参照)との間の関係については、後段にて詳述する。
【0035】
スターラ4は、図2に示すように、測定セル1の底面11bに対向配置された回転可能なマグネット4aを有しており、金属製の回転子3に対して図中矢印方向に磁気力(吸引力)を付与する。また、スターラ4は、回転子3を吸引した状態で、モータ4bによってマグネット4aを回転させることで、試料液X中において回転子3を回転させる。これにより、測定セル1内では、回転子3によって試料液Xの攪拌が行われる。
【0036】
電源部5は、薄膜電極2に対して、誘電泳動を生じさせるために必要な交流電圧を印加する。ここで、上記交流電圧とは、正弦波のほか、ほぼ一定の周期で流れの向きを変える電圧であって、この双方向の電流の平均値が等しいものを含む。本実施形態では、周波数100kHz、ピーク間電圧(以下、ppと表す)5Vの交流電圧を印加している。なお、これらの交流電圧の周波数と電圧値とは、上述した値に限定されるものではなく試料液の条件や微生物の種類に応じて、例えば、100Hz〜50MHz等の広範囲の数値から選択することができる。
【0037】
測定部6は、図示しないマイクロプロセッサ、測定データ等を一時的に保存するメモリ等を含むように構成されている。そして、測定部6は、薄膜電極2におけるインピーダンスの変化を検出することで、試料液中の細菌数を検出する。
【0038】
制御部7は、図示しないマイクロプロセッサと、予め設定されたプログラムを保存するためのメモリ、タイマ、操作ボタン等を含むように構成されている。そして、制御部7は、予め設定されたプログラムに従って、電源部5を制御して薄膜電極2に対して誘電泳動のための電圧を印加する。また、制御部7は、測定部6との間において信号の送受信を行うとともに、測定結果や動作状況等を表示するように表示部8を制御する。
【0039】
表示部8は、LCD等のディスプレィやプリンタ、スピーカ等であって、評価結果として、口腔内の衛生状態を試料液中の微生物数を表示する。
(測定セル1の形状)
本実施形態の細菌検査装置10では、図3(a)および図3(b)に示すように、上述した試料液Xを貯留する測定セル1の底面11bの略中央部に凹部11aを形成している。
【0040】
凹部11aは、図3(b)に示すように、平面視において略円形の底面11bに対して略円形に形成された窪みであって、回転子3と底面11bとが回転子3の両端部分においてのみ接触するように設けられている。これにより、回転中の回転子3には、スターラ4による磁気力(吸引力)に加えて、底面11bとの間において摩擦力が働くため、回転子3の両端部を支持しながら安定した状態で回転子3を回転させることができる。
【0041】
また、凹部11aは、図3(a)に示すように、その直径dが、底面11bの直径Dに対して、以下の関係式(1)を満たすように形成されている。
0.3D≦d≦0.9D ・・・・・(1)
【0042】
これにより、試料液Xの粘度や試料採取具13との接触の有無等の諸条件に応じて、回転子3の両端部における底面11bとの接触面積を適度な大きさに設定することができる。よって、回転中の回転子3に対して適度な大きさの摩擦抵抗を付与しつつ、安定した状態で回転子3を回転させることができる。
【0043】
さらに、凹部11aは、図4に示すように、略円柱状の回転子3の軸方向長さに対して、回転子3の一方の端部が底面11bにおける最も端に移動した状態(図中点線参照)において、回転子3の他方の端部が凹部11a内に落ち込まない程度の直径となっている。
【0044】
これにより、回転子3が常時、底面11b上に配置された状態となることから、スムーズに回転子3の回転を開始することができる。
<試料採取から細菌検出までの流れ>
ここでは、試料採取具13を用いた試料の採取から試料液中の細菌(微生物)の測定、口腔内の衛生状態評価にいたるまでの一連の流れについて、図5のフローチャートおよび図6を用いて説明すれば以下の通りである。
【0045】
すなわち、図5に示すように、まず、ステップS1において、綿棒等の試料採取具13を用いて口腔内から試料(細菌)を採取する。被験者の口腔内から得られる試料としては、歯牙や舌や口腔内壁を拭った布や綿棒や、唾液や唾液を染みこませた布状のもの、歯間からピック状のもので掻き取られた試料等が考えられる。なお、本実施形態では口腔内の衛生状態を評価する試料として、歯牙表面を綿棒等の試料採取具13を用いて拭ったものを用いている。
【0046】
具体的には、本実施形態での試料採取は、被験者自らが綿棒を手に持って測定部位の歯牙表面を擦り取ることで行う。特定の歯牙表面から試料採取を行うことで、その部位のみの衛生状態が、また全体的に採取を行うと口腔内の状態が総合的に判定される。
【0047】
次に、上述した試料採取を行う一方、ステップS2において、測定評価のための準備として、まず測定セル1内に試料液Xを注入する。
次に、ステップS3において、口腔内から試料採取した試料採取具13の先端13aを試料液X中に浸漬させて(図6参照)、試料液X中に細菌を懸濁させる。
【0048】
次に、ステップS4において、図6に示すように、試料液X中に浸漬させた試料採取具13の先端13aを、試料液X中において回転する回転子3に対して接触させる。この作業は、試料採取具13の先端13aにおいて採取された細菌等の試料を、試料液X中において効果的に懸濁させるために行われる。
【0049】
ここで、測定セル1の底面11bには、ほぼ中央部に凹部11aが形成されている。このため、回転子3は、底面11bに対して両端部分においてのみ接触しながら回転する。よって、綿棒等の試料採取具13を試料液X中において回転子3に接触させた場合でも、回転子3は両端部が底面11bによって支持されているとともに、底面11bとの摩擦力によって回転バランスが崩れることを抑制することができる。
【0050】
次に、ステップS5において、スターラ4を用いて回転子3を回転させ、試料採取具13の先端13aから細菌等が放出された試料液Xを十分に攪拌する。
次に、ステップS6において、制御部7が、測定セル1の側壁面に設置された電極基板9上の薄膜電極2に対して交流電圧を印加するように、電源部5を制御する。
【0051】
次に、ステップS7において、測定部6において、薄膜電極2におけるインピーダンスの変化を検出することで、試料液X中の細菌数を検出する。
次に、ステップS8において、制御部7が、測定部6における検出結果を表示部8において表示させて、処理を終了する。
【0052】
本実施形態では、以上のような工程を経て、試料採取具13を用いた試料採取から試料液X中への最近の放出、試料液Xの攪拌、細菌検出までを行う。
これにより、単一の細菌検査装置10において、採取した細菌の試料液X中への効果的な放出、懸濁から、その放出された細菌の検出までの工程を、完結させることができる。よって、試料液Xの懸濁用に別途懸濁装置を使用することなく、上記工程を完結させることができるため、従来の工程と比較して、大幅に効率化を図ることができる。
【0053】
[本細菌検査装置10の特徴]
(1)
本実施形態の細菌検査装置10は、図2に示すように、試料液Xを保持する測定セル1と、測定セル1の外部から付与される磁力によって測定セル1内に貯留された試料液X中において底面11bに沿って回転する回転子3とを備えている。回転子3は、測定セル1の底面11bに対して両端部分においてのみ接触しながら回転して、試料液Xを攪拌する。
【0054】
これにより、その両端部分においてのみ底面11bと接触する状態で、回転子3を底面11bに沿って回転させることができる。よって、回転中の回転子3をその両端部において支持するとともに、底面11bとの接触部分に摩擦抵抗を生じさせることができる。この結果、試料液X中における外的要因等によって試料液X中における回転子3の回転バランスが崩れてしまうことを回避して、測定セル1中における試料液Xの攪拌(細菌の懸濁)を効果的に行うことができる。
【0055】
(2)
本実施形態の細菌検査装置10では、図3(a)および図3(b)に示すように、測定セル1内において回転子3が回転する底面11bにおける、平面視において回転子3の回転中心を包含する位置に、凹部11aを設けている。
【0056】
これにより、回転子3の回転バランスの崩れを回避するために必要となる回転子3の両端部分のみでの底面11bと接触する形態を、簡易な構成によって実現することができる。よって、測定セル1の底面11bの形状を工夫するだけで、安定した攪拌性能を有する装置を得ることができる。
【0057】
(3)
本実施形態の細菌検査装置10では、図4に示すように、回転子3が測定セル1内の底面11bに沿って偏った位置に移動した場合でも、偏った側とは反対側の回転子3の端部が落ち込まない程度の大きさで凹部11aが形成されている。
【0058】
これにより、略円柱状の回転子3の軸方向長さに応じて、最適な大きさの測定セル1(凹部11aおよび底面11b)を採用することで、非常にスムーズに回転子3の回転を開始させることができる。また、回転中の回転子3に対して試料採取具13等が接触した場合でも、バランスを崩した回転子3の一端が凹部11a内に落ち込んで回転不能となる不具合の発生を回避することができる。
【0059】
(4)
本実施形態の細菌検査装置10では、図3(a)等に示すように、測定セル1の底面11bは略円形の底部分を形成し、凹部11aの直径dは略円形の底面11bの直径Dと以下の関係式(1)を満たすように形成されている。
0.3D≦d≦0.9D ・・・・・(1)
【0060】
これにより、凹部11aの大きさを設定することで、回転子3の両端部における底面11bとの接触面積を調整することができる。この結果、回転子3に対して適度な大きさの摩擦抵抗を与えながら、測定セル1内において回転子3を安定して回転させることができる。
【0061】
(5)
本実施形態の細菌検査装置10は、図1に示すように、回転子3を回転させて試料液Xを攪拌する攪拌装置としての機能に加えて、測定セル1内に設けられており試料液X内の細菌を誘電泳動によって測定するための電圧が印加される薄膜電極2と、を備えている。
これにより、回転子3によって十分に攪拌された試料液X中に含まれる細菌を、薄膜電極2において精度よく検出することができる。
【0062】
(6)
本実施形態の細菌検査装置10は、図6に示すように、試料液X中において回転する回転子3に対して、細菌を採取した試料採取具13を接触させる。
【0063】
これにより、底面11bに対して両端部分が支持される回転子3によって、試料採取具13の先端13aを打撃することで、先端13aにおいて採取された細菌等を効果的に試料液X中へ放出することができる。この結果、回転子3による試料液Xの攪拌を十分に行うとともに、薄膜電極2における細菌の検出も効率よく実施することができる。
【0064】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0065】
(A)
上記実施形態では、図2等に示すように、回転子3と測定セル1の底面11bとの接触部分を、回転子3の両端部分のみとする形態として、測定セル1の底面11bの略中央部に凹部11aを設けた例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0066】
例えば、図7に示すように、左右両端部に径大部103aを有する回転子103を用いて、通常のフラットな測定セルの底面に沿って回転子103を回転させてもよい。
この場合には、回転子103の形状によって、回転子103の両端部分においてのみ測定セルの底面と接触する形態とすることができる。
【0067】
なお、径大部103aは、例えば、回転子103として一体成形によって形成されてもよいし、比較的大きな回転子であればネジを埋め込む等の方法によって略円柱状の回転子の両端部分に別途形成してもよい。
【0068】
(B)
上記実施形態では、図2等に示すように、測定セル1の底面において回転子3が回転する例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0069】
例えば、回転子を回転させる内壁面としては、底面以外に、測定セルの側面等であってもよい。
この場合には、回転子を磁石の吸引力によって側壁に移動させ、その状態で回転させることで、側壁面に沿って回転子を回転させることができる。
【0070】
(C)
上記実施形態では、図3(b)に示すように、平面視において、略円形の測定セル1の底面に対して略円形の凹部11aが形成されている例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0071】
例えば、測定セルの底面の形状、および凹部の形状としては略円形以外に、多角形であってもよいし、楕円形であってもよい。
ただし、回転子の回転軌道に沿った形状の底面や凹部を有する測定セルの方が安定して回転させることができるという点において、上記実施形態のような形状を採用することがより好ましい。
【0072】
(D)
上記実施形態では、図3(a)等に示すように、測定セル1の底面に形成された凹部11aが、正面視において滑らかな曲線に沿って形成されている例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、回転子との接触がない凹部については、必ずしも滑らかな曲線である必要はなく、ある程度凹凸がある面であってもよい。
【0073】
(E)
上記実施形態では、本発明に係る攪拌装置を、細菌検査装置10に対して適用した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0074】
例えば、細菌検査装置以外の検査装置に対して本発明を適用してもよいし、単体の攪拌装置に対して本発明を適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の攪拌装置は、ケース部の内壁面に形成された凸部を中心に回転子を回転させる従来の攪拌装置と比較して、回転子の回転中におけるバランスをとりやすくすることで、試料液の条件等に関わらず試料液の攪拌を十分に行うことができるという効果を奏することから、回転子によって攪拌作業を行う各種検査装置等に対して広く適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の一実施形態に係る細菌検査装置の構成を示す概念図。
【図2】図1の細菌検査装置に含まれる測定セル周辺の構成を示す正面図。
【図3】(a),(b)は、図1の測定セルの形状を示す正面図および平面図。
【図4】図1の測定セル内における回転子の位置と凹部の大きさとの関係を示す正面図。
【図5】図1の細菌検査装置を用いた細菌の採取から測定までの流れを示すフローチャート。
【図6】図1の測定セルに貯留された試料液内に綿棒を挿入した状態を示す正面図。
【図7】本発明の他の実施形態に係る攪拌装置に含まれる回転子の構成を示す正面図。
【符号の説明】
【0077】
1 測定セル(ケース部)
2 薄膜電極(電極部)
3 回転子
4 スターラ
4a マグネット
4b モータ
5 電源部
6 測定部
7 制御部
8 表示部
9 電極基板
10 細菌検査装置(攪拌装置)
11a 凹部
11b 底面(内壁面)
13 試料採取具
13a 先端
103 回転子
103a 径大部
S ステップ
X 試料液


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液を保持するケース部と、
前記ケース部の内壁面に対して両端部分においてのみ接触しながら、前記ケース部の外部から付与される磁力によって前記ケース部内に貯留された前記試料液中において前記内壁面に沿って回転し、前記試料液を攪拌する回転子と、
を備えている攪拌装置。
【請求項2】
前記内壁面は、前記回転子の回転軸を中心に形成された凹部を有している、
請求項1に記載の攪拌装置。
【請求項3】
前記凹部は、前記回転子が前記ケース部内の前記内壁面に沿って偏った位置に移動した場合でも、偏った側とは反対側の端部が前記凹部内に落ち込まない程度の大きさで形成されている、
請求項2に記載の攪拌装置。
【請求項4】
前記内壁面は、前記ケース部における略円形の底面であって、
前記凹部の直径dは、前記略円形の内壁面の直径Dと以下の関係式(1)を満たすように形成されている、
請求項2または3に記載の攪拌装置。
0.3D≦d≦0.9D・・・・・(1)
【請求項5】
前記回転子は、両端部分に径大部を有している、
請求項1から4のいずれか1項に記載の攪拌装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の攪拌装置と、
前記ケース部内に設けられており、前記試料液内の細菌を誘電泳動によって測定するための電圧が印加される電極部と、
を備えている細菌測定装置。
【請求項7】
前記試料液中において回転する前記回転子に対して接触して、採取した細菌を前記試料液中に懸濁させる試料採取具を、さらに備えている、
請求項6に記載の細菌検査装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−210488(P2009−210488A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55603(P2008−55603)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】