整腸作用を有するモロヘイヤおよびその育成方法
【課題】下痢などを誘導せず便秘を改善可能なモロヘイヤを提供する。
【解決手段】本発明は、青色発光ダイオードの光を照射して育成することにより得られる整腸作用を有するモロヘイヤおよびその育成方法に関するものである。本発明においては、モロヘイヤに青色発光ダイオードの光と紫外線とを照射して育成することが好ましい。また、本発明では、青色発光ダイオードの光の照射強度が、当該青色発光ダイオードの光を照射する照射装置の照射部からの隔離距離20cmの位置において、40μmol・m2・s−1以上60μmol・m2・s−1以下であることが好ましい。
【解決手段】本発明は、青色発光ダイオードの光を照射して育成することにより得られる整腸作用を有するモロヘイヤおよびその育成方法に関するものである。本発明においては、モロヘイヤに青色発光ダイオードの光と紫外線とを照射して育成することが好ましい。また、本発明では、青色発光ダイオードの光の照射強度が、当該青色発光ダイオードの光を照射する照射装置の照射部からの隔離距離20cmの位置において、40μmol・m2・s−1以上60μmol・m2・s−1以下であることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、整腸作用を有するモロヘイヤおよびその育成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
便秘は、吹き出物や肌荒れの原因となったり、大腸ガン発生のリスクを高めたり、腸の蠕動運動を低下させて腸閉塞(イレウス)に進行することがある。このような事態を防ぐために、従来から、種々の便秘改善薬が用いられている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−120719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、上記特許文献1に記載されているセンナや、ダイオウの薬効成分として知られるsennoside(センノシド)などの強い便秘改善作用を有する成分を含む薬剤は、下痢や腹痛を誘導してしまうことがあった。
【0005】
したがって、慢性的な便秘症の人は、(1)便秘改善薬の服用、(2)下痢や腹痛などの発生、(3)服薬中止、服薬中止による便秘の発生という悪循環を繰り返すことがあるため、日常生活において支障となることがあった。そこで、腹痛や下痢などを誘導せずに便秘を改善するものが、求められていた。
【0006】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、下痢などを誘導せず便秘を改善可能なモロヘイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、青色発光ダイオード(青色LED)の光を照射して育成したモロヘイヤは、適度な硬さのよい便の排泄を促進する効果、つまり、下痢などを誘導せずに便秘を改善する効果を有するという知見を得た。本発明は、かかる新規な知見に基づくものである。
【0008】
すなわち、本発明は、青色発光ダイオードの光を照射して育成することにより得られる整腸作用を有するモロヘイヤである。
【0009】
また、本発明は、波長が450nm以上470nm以下の青色発光ダイオードの光を照射して育成することを特徴とする整腸作用を有するモロヘイヤの育成方法である。
【0010】
詳細は実施例において説明するが、本発明によれば、青色発光ダイオードの光を照射してモロヘイヤを育成するので、下痢などを誘導せず便秘を改善可能なモロヘイヤを提供することができる。
【0011】
モロヘイヤを青色発光ダイオードの光を照射して育成することにより便秘を改善する効果を有するものとするメカニズムの詳細については、現時点では、不明である。このメカニズムについては予測の範囲ではあるが、青色発光ダイオードの光を照射することにより、モロヘイヤ中において、便秘改善に作用する成分が増加したか、あるいは便秘改善に作用する成分が生成されたと考えられる。
【0012】
本発明は以下の構成とするのが好ましい。
青色発光ダイオードの光および紫外線を照射して育成すると、抗酸化作用を有するクロロゲン酸の含有量が増大するので、好ましい。
【0013】
また、本発明のモロヘイヤは、照射強度が、当該青色発光ダイオードの光を照射する照射装置の照射部からの隔離距離20cmの位置において、40μmol・m2・s−1以上60μmol・m2・s−1以下での青色発光ダイオードの光を照射して育成するのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、下痢などを誘導せず便秘を改善可能なモロヘイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例において説明する光源の配置を示した摸式図
【図2】普通食摂食条件下におけるラットの体重の経時変化を示すグラフ
【図3】普通食摂食条件下におけるラットの摂食量を示すグラフ
【図4】普通食摂食条件下におけるラットの摂水量を示すグラフ
【図5】普通食摂食条件下におけるラットの糞便湿重量の経時変化を示すグラフ
【図6】普通食摂食条件下におけるラットの糞便乾燥重量の経時変化を示すグラフ
【図7】普通食摂食条件下におけるラットの糞便中の水分量の経時変化を示すグラフ
【図8】普通食摂食条件下におけるラットの摂食量に対する糞便湿重量の割合のモロヘイヤ投与前後における変化を示すグラフ
【図9】高脂肪食摂食条件下におけるラットの体重の経時変化を示すグラフ
【図10】高脂肪食摂食条件下におけるラットの摂食量を示すグラフ
【図11】普通食摂食条件下におけるラットの摂水量を示すグラフ
【図12】高脂肪食摂食条件下におけるラットの糞便湿重量の経時変化を示すグラフ
【図13】高脂肪食摂食条件下におけるラットの糞便乾燥重量の経時変化を示すグラフ
【図14】高脂肪食摂食条件下におけるラットの糞便中の水分量の経時変化を示すグラフ
【図15】高脂肪食摂食条件下におけるラットの摂食量に対する糞便湿重量の割合のモロヘイヤ投与前後における変化を示すグラフ
【図16】普通食摂食条件下のラットおよび高脂肪食摂食条件下のラットの体重に対する腎臓周囲内臓脂肪重量の割合を対比したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のモロヘイヤは、青色発光ダイオードの光を照射して育成することにより得られる整腸作用を有するものである。青色発光ダイオード(青色LEDともいう)の光を照射して育成した本発明のモロヘイヤは、適度な硬さのよい便の排泄を促進する効果、つまり、下痢などを誘導せずに便秘を改善する効果を有する。このような効果のメカニズムの詳細は、いまだ不明ではあるが、モロヘイヤ中において、便秘改善に作用する成分が増加したか、あるいは便秘改善に作用する成分が生成されたと考えられる。
【0017】
モロヘイヤは、学名がCorchorus olitoriusであり、シナノキ科の一年生草本の一つである。モロヘイヤは、カルシウム、カロテン、ビタミンC、ビタミンB群、ケルセチン、クロロゲン酸等を含み、主として若葉を食用とする緑黄色野菜である。
【0018】
本発明において、モロヘイヤに照射する青色LEDの光の波長は450nm以上470nm以下であるのが好ましい。また、本発明では、青色LEDの光とともに、波長が10nm以上400nm以下の紫外線を照射すると、クロロゲン酸の含有量が増加するので好ましい。
【0019】
ここでクロロゲン酸とは、抗酸化作用を有するポリフェノールの一種であって、血糖値の抑制、コレステロール抑制、胃液分泌促進効果を有する物質である。なお、クロロゲン酸が、整腸作用に関与しているか否かについては不明である。
【0020】
青色LEDの照射強度は、当該青色LEDの光を照射する照射装置の照射部からの隔離距離20cmの位置において、40μmol・m2・s−1以上60μmol・m2・s−1以下とするのが好ましい。青色LEDの照射強度が40μmol・m2・s−1未満であると、便秘改善効果が十分に発揮できないことがあり、照射強度が60μmol・m2・s−1を超えるとモロヘイヤの生育が抑制されることがある。
【0021】
青色LEDの光および紫外線は、モロヘイヤの葉の先端部に対向する位置から照射するのが好ましい。また、青色LEDの光や紫外線を拡散させる装置(例えば反射鏡)を設置して、モロヘイヤ全体に光が照射されるようにしてもよい。
【0022】
青色LEDの光の照射時間および紫外線の照射時間は、モロヘイヤの育成時期にもよるが、日没後3〜10時間とするのが好ましい。照射時間が10時間を超えるとモロヘイヤの生育が抑制されたり害虫による被害が発生することがあり、照射時間が3時間未満であると、便秘改善効果が十分に発現しないことがある。
【0023】
青色LEDの光および紫外線の照射時間は日照時間の長い時期は短く、日照時間の短い時期は長くするなど適宜調節することが可能である。また、着花抑制や生育期間の延長のために赤色発光ダイオードの光や赤外線を、適宜照射してもよい。
【0024】
<実施例>
以下実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されない。
1.クロロゲン酸含有量の分析
(1)モロヘイヤの育成
6月2日にモロヘイヤ(立性)の種子を水稲用育苗箱に播種しガラス温室で育苗した後、ビニルハウスH(100m2)の各試験区へ、株間25cmの千鳥配置で定植した。
【0025】
モロヘイヤに青色LEDの光を照射する試験区1を試験区1とし、モロヘイヤに青色LEDを照射しない試験区を試験区2とした。
【0026】
試験区1においては、図1に示すように、モロヘイヤMの上方に青色LEDランプL1と紫外線を照射する蛍光灯Uを配置し、モロヘイヤMの側方に青色LEDランプL2を配置した。
【0027】
青色LEDランプL1,L2としては、幅40mmで長さ750mmの外形寸法のもので消費電力が5.25W、照射光の波長が450nm〜470nmのものを22本(1本当たりのLED数は10個)用いた。青色LEDランプL1,L2の光の照射強度は、青色LEDランプL1,L2の照射部からの隔離距離20cmの位置において、50μmol・m2・s−1となるようにした。
【0028】
蛍光灯Uとしては、直径が20mmで長さが1454mmの外形寸法のもので、消費電力が25W、照射光の波長が350〜400nmのものを2本用いた。
【0029】
青色LEDランプL1,L2の光および蛍光灯Uの光の照射は、収穫日前の7日間実施し、照射時間は1日当たり、日没後5時間とした。
【0030】
(2)クロロゲン酸含有量の分析
(ア)収穫時期によるクロロゲン酸含有量の相違
収穫日を8月11日、9月27日、10月13日、11月9日とし、各収穫日に各試験区で育成したモロヘイヤを収穫して、クロロゲン酸の含有量を比較した。
【0031】
モロヘイヤの地上150cm付近の、新梢の先端から20cmの葉の部分を収穫した。収穫したモロヘイヤを水洗いして虫、ゴミ等の異物を取り除き、水気を切った後、−30℃の冷凍庫に保存したものについて、クロロゲン酸の含有量を分析した。
【0032】
解凍した冷凍モロヘイヤを、過塩素酸水溶液とメタノールとの混合液中で10分間振とう後、遠心分離により上澄み液を得て、HPLC(島津製作所、型番 ポンプ:LC−10AD、検出器:SPD−10A)によりクロロゲン酸量を分析した。
【0033】
(イ)光環境によるクロロゲン酸含有量の相違
収穫日を11月9日とし、青色LEDランプL1と蛍光灯Uの直下領域のモロヘイヤMの新梢の先端から20cmの部分であって、地上150cm付近の葉S1(サンプル1)および地上90cm付近の葉S2(サンプル2)、ならびに、青色LEDランプL2のみが配置された側方領域のモロヘイヤMの新梢の先端から20cmの部分であって地上60cm付近の葉S3(サンプル3)のクロロゲン酸含有量を(ア)と同様の方法により分析した。
【0034】
(3)結果と考察
(ア)収穫時期とクロロゲン酸量
試験区1および試験区2の双方においてクロロゲン酸含有量は、8月から10月にかけて高くなり、10月に収穫したモロヘイヤで最も高く、11月には低下した。この結果から、クロロゲン酸は太陽光の照射で増加し細胞中に蓄積され、太陽光の照射時間の減少および低温により減少すると考えられる。
【0035】
(イ)光環境とクロロゲン酸量
クロロゲン酸含有量は、サンプル1およびサンプル2では、ほぼ同量であるとともに、サンプル3の約2倍であった。この結果から、青色LEDの光と紫外線とを照射すると、青色LEDの光のみを照射するよりも、クロロゲン酸の含有量が多いモロヘイヤが得られるということがわかった。
【0036】
2.整腸作用等の評価
(1)モロヘイヤの育成
6月2日にモロヘイヤ(立性)の種子を水稲用育苗箱に播種しガラス温室で育苗した後、6月25日にビニルハウス(100m2)の各試験区へ、株間25cmの千鳥配置で定植した。
【0037】
モロヘイヤに青色LEDを照射する試験区を試験区3とした。試験区3においては、試験区1と同様に、モロヘイヤMの上方に青色LEDランプL1と紫外線を照射する蛍光灯Uを配置し、モロヘイヤMの側方に青色LEDランプL2を配置した(図1参照)。青色LEDランプL1,L2および蛍光灯Uとしては試験区1と同じものを同じ本数用い、青色LEDランプL1,L2の光の照射強度も、試験区1と同様に、青色LEDランプL1,L2の照射部からの隔離距離20cmの位置において、50μmol・m2・s−1となるようにした。
【0038】
青色LEDランプL1,L2の光および蛍光灯Uの光の照射は、7月5日から毎日実施し、照射時間は1日当たり、日没後5時間とした。
【0039】
試験区2(青色LEDを照射しない試験区)のモロヘイヤの収穫と試験区3のモロヘイヤの収穫は7月20日〜8月11日に行い、収穫したモロヘイヤを水洗して虫、ゴミ等の異物を取り除き、水気を切った後、真空冷凍乾燥し粉末化した。
【0040】
(2)実験動物の予備飼育
5週令SD系雄性ラットを、普通食を摂食させる条件で評価試験に供するグループ(NDグループ)と、高脂肪食を摂食させる条件で評価試験に供するグループ(HFDグループ)とに分けて、23±2℃条件下で2週間予備飼育した。
NDグループの予備飼育の飼料としては、市販のMS粉末(含5%ラード、商品名「MS粉末」、オリエンタル酵母工業株式会社製)を用い、HFDグループの予備飼育の飼料としては、30%の脂肪分を含む高脂肪食粉末(オリエンタル酵母工業株式会社製「MS粉末」に30%の牛脂を加えた特注品)を用いた。
【0041】
(3)評価試験
(ア)整腸作用の評価試験
予備飼育を終えた各グループのラットを、3日間絶食させ、腸内容物の排泄を行った。ただし、水は自由摂取させた。その後、各グループのラットを、体重が均一になるようにそれぞれの3つの群に分けた。3つの群は、青色LEDの光を照射しないで育成したモロヘイヤ(無補光モロヘイヤ)を飼料に混ぜて摂食させる群(無補光モロヘイヤ群)、青色LEDの光を照射して育成したモロヘイヤ(補光モロヘイヤ)を飼料に混ぜて摂食させる群(LED補光モロヘイヤ群)、およびモロヘイヤを混ぜない餌(予備飼育の飼料と同じ飼料)を摂食させる群(コントロール群)である。
【0042】
NDグループの無補光モロヘイヤ群のラットには、NDグループの予備飼育の飼料として用いた飼料に、試験区2で収穫されたモロヘイヤから作成したモロヘイヤ粉末を全体の質量の15%となるように加えた餌を摂食させた。HFDグループの無補光モロヘイヤ群のラットには、HFDグループの予備飼育の飼料として用いた飼料に、試験区2で収穫されたモロヘイヤから作成したモロヘイヤ粉末を餌全体の質量の15%となるように加えた餌を摂食させた。
【0043】
NDグループのLED補光モロヘイヤ群のラットには、NDグループの予備飼育の飼料として用いた飼料に、試験区3で収穫されたモロヘイヤから作成したモロヘイヤ粉末を全体の質量の15%となるように加えた餌を摂食させた。HFDグループのLED補光モロヘイヤ群のラットには、HFDグループの予備飼育の飼料として用いた飼料に、試験区3で収穫されたモロヘイヤから作成したモロヘイヤ粉末を餌全体の質量の15%となるように加えた餌を摂食させた。
【0044】
予備飼育期間、絶食期間、餌摂食開始から24時間経過時におけるラットの体重、摂食量、摂水量、糞便の重量を測定して、コントロール群と比較した。その後3日間のインターバルをとり、同様の実験(3日間の絶食、餌の摂食)を3回繰り返した(図2および図9のグラフの下方を参照)。
【0045】
糞便の重量については、餌の摂食を開始する直前(絶食期間完了時)、餌の摂食開始から2時間経過時、餌の摂食開始から4時間経過時にも測定した。また、糞便の重量については、排泄された状態の糞便の重さ(糞便湿重量)と、乾燥させた糞便の重さ(糞便乾燥重量)を測定した。
【0046】
NDグループのラット(普通食摂食条件下のラット)の体重、摂食量、摂水量、糞便湿重量、糞便乾燥重量、糞便中の水分量の測定結果、摂食量に対する糞便湿重量の割合を図2〜図8に示した。
【0047】
高脂肪食摂食条件下における、体重、摂食量、摂水量、糞便湿重量、糞便乾燥重量、糞便中の水分量の経時変化、摂食量に対する糞便湿重量の割合を図9〜図15に示した。
【0048】
糞便中の水分量(%)は、糞便湿重量および糞便乾燥重量の測定値から算出した。糞便中の水分量(%)は、以下の式(1)により求めることができる。
糞便中の水分量(%)=[(糞便湿重量−糞便乾燥重量)/糞便湿重量]×100 ・・・(1)
【0049】
図5〜図7および図12〜図14中、「0(h) 投与開始前」とは、3日間の絶食後であって餌の摂食(投与)を開始する直前」を意味する。
【0050】
図5〜図7および図12〜図14に示すグラフに記載の「0(h)」のデータは、絶食最終日の24時間に排泄された糞便であって、餌の摂食を開始する直前に排泄された糞便に関するデータである。図5〜図7および図12〜図14に示すグラフに記載の「2(h)」のデータは、餌の摂食開始後2時間経過時までに排泄された糞便を1日量に換算したデータである。図5〜図7および図12〜図14に示すグラフに記載の「4(h)」のデータは、餌の摂食開始から4時間経過時までに排泄された糞便を1日量に換算したデータである。図5〜図7および図12〜図14に示すグラフに記載の「24(h)」のデータは、餌の摂食開始から24時間経過時までに排泄された糞便に関するデータである。
図8および図15に示すグラフの「投与24時間後」のデータは、餌の摂食開始から24時間経過時までの摂食量および糞便湿重量に基づき算出したものである。
【0051】
(イ)脂肪組織重量の測定
(ア)の評価試験終了後のラットの体重を測定した後、解剖を行い、腎臓周囲の白色脂肪組織の重量を測定し、以下の式(2)により腎臓周囲内臓脂肪の割合(%)を算出した。
腎臓周囲内臓脂肪の割合(%)=(腎臓周囲の白色脂肪組織の重量/体重)×100 ・・・(2)
【0052】
(ウ)統計解析
解析から得られたデータは平均値±標準誤差で表した。また、これらのデータはKruskal−Wallis testにより一元配置分散分析を行い、Dunnett testにより、多重比較検定を行った。その結果、p<0.05の場合を有意差ありとした。
【0053】
(4)結果
(ア)整腸作用の評価
(i)普通食摂食条件(ND条件)下での影響
図2に示すように、予備飼育、絶食、インターバル飼育でのラットの体重において、コントロール群のラットと比較したとき、LED補光モロヘイヤ群(以下「補光モロヘイヤ群」ともいう)のラット及び無補光モロヘイヤ群のラットの体重変化はほぼ同様であった。
【0054】
予備飼育時の摂食行動において、図3に示すように、補光モロヘイヤ群及び無補光モロヘイヤ群のラットの摂食量はともに、コントロール群とほぼ同量であった。また、絶食後の餌摂食開始から24時間経過後の摂食行動においても、補光モロヘイヤ群及び無補光モロヘイヤ群のラットの摂食量はともに、コントロール群とほぼ同量であった。
【0055】
予備飼育時の摂水行動において、図4に示すように、補光モロヘイヤ群及び無補光モロヘイヤ群のラットの摂水量はともにコントロール群とほぼ同量であった。3日間の絶食時の摂水量は、補光モロヘイヤ群のみ増加傾向がみられた。餌摂食開始から24時間経過後の摂水行動において、補光モロヘイヤ群及び無補光モロヘイヤ群の摂水量は、ともにコントロール群よりも増加したが、統計学的な有意差は認められなかった。
【0056】
絶食後の餌摂食開始から24時間経過後の糞便湿重量は、図5に示すように、補光モロヘイヤ群及び無補光モロヘイヤ群はともに、コントロール群よりも多く、無補光モロヘイヤ群のほうが補光モロヘイヤ群よりも多いという結果が得られ、統計学的な有意差が認められた。
【0057】
餌摂食開始後の糞便乾燥重量は、図6に示すように、補光モロヘイヤ群及び無補光モロヘイヤ群はともに、コントロール群よりも多く、補光モロヘイヤ群のほうが無補光モロヘイヤ群よりも多かった。特に餌摂食開始から24時経過後の糞便乾燥重量は補光モロヘイヤ群で顕著に他の群よりも多いという結果が得られ、統計学的な有意差が認められた。
【0058】
餌摂食開始から24時間経過後の糞中の水分量は、図7に示すように、補光モロヘイヤ群で、コントロール群や無補光モロヘイヤ群よりも少なかった。
【0059】
糞便湿重量/摂食量は、図8に示すように、コントロール群では絶食により低下したが、補光モロヘイヤ群及び無補光モロヘイヤ群ではわずかに上昇した。
【0060】
(ii)高脂肪食摂食条件(HFD条件)下での影響
図9に示すように、予備飼育、絶食、インターバル飼育でのラットの体重において、コントロール群と比較したとき、補光モロヘイヤ群のラット及び無補光モロヘイヤ群のラットの体重変化はほぼ同様であった。
【0061】
予備飼育時の摂食行動において、図10に示すように、補光モロヘイヤ群及び無補光モロヘイヤ群のラットの摂食量はともに、コントロール群とほぼ同量であった。また、絶食後の餌摂食開始から24時間経過後の摂食行動においても、補光モロヘイヤ群及び無補光モロヘイヤ群のラットの摂食量はともに、コントロール群とほぼ同量であった。
【0062】
補光モロヘイヤ群及び無補光モロヘイヤ群の予備飼育時の摂水量、3日間の絶食時の摂水量、および餌摂食開始から24時間経過後の摂水量は、図11に示すように、コントロール群とほぼ同量であった。
【0063】
絶食後の餌摂食開始から24時間後の糞便湿重量は、図12に示すように、補光モロヘイヤ群および無補光モロヘイヤ群はともに、コントロール群よりも顕著に多いという結果が得られ、統計学的な有意差が認められた。
【0064】
また、餌摂食開始から24時間経過後の糞便乾燥重量は、図13に示すように、補光モロヘイヤ群で顕著に多く、統計学的な有意差が認められた。餌摂食開始から24時間経過後の無補光モロヘイヤ群の糞便乾燥重量は、コントロール群よりも多かったが、統計学的な有意差は認められなかった。
【0065】
餌摂食開始から24時間経過後の糞中の水分量は、図14に示すように、補光モロヘイヤ群で、コントロール群や無補光モロヘイヤ群よりも少なかった。
【0066】
糞便湿重量/摂食量は、図15に示すように、コントロール群では絶食により低下したが、補光モロヘイヤ群及び無補光モロヘイヤ群では顕著に上昇し、統計学的な有意差が認められた。特に補光モロヘイヤ群では上昇が顕著であった
【0067】
(iii)内蔵脂肪について
図16に示すように、普通食摂食条件下および高脂肪食摂食条件下の双方において、補光モロヘイヤ群及び無補光モロヘイヤ群のラットはコントロール群のラットよりも内臓脂肪組織の割合が低かった。
特に、高脂肪食摂食条件下では補光モロヘイヤ群の内臓脂肪はコントロール群に比較して顕著に低く、統計学的に有意な内臓脂肪の減少を示した。
【0068】
(5)考察
図5および図12に示す結果から、青色LED光を照射して育成したモロヘイヤと、青色LED光を照射しないで育成したモロヘイヤは、ともに、糞便排泄促進作用を有するということがわかった。
【0069】
図6および図13に示す結果から、青色LEDを照射して育成したモロヘイヤを混合した餌を摂食することにより、糞便乾燥重量の重い(水分量の少ない)便の排泄が促進され、この効果は高脂肪食摂食条件下で顕著であるということが分かった。
【0070】
つまり、モロヘイヤは育成時の青色LEDの照射の有無にかかわらず糞便排泄促進作用を有するが、青色LED光を照射して育成したモロヘイヤの摂食により、糞便乾燥重量の重い(水分量の少ない)糞便の排泄が促進され、特に、高脂肪食摂食条件では、水分量の少ない糞便排泄促進効果が顕著に発現するということがわかった。このことは、青色LEDの光を照射して育成したモロヘイヤは、摂水量の少ない状況下でも糞便排泄促進作用を誘導することを示しているとも考えられる。以上より、青色LEDの光を照射して育成することにより得られる本発明のモロヘイヤは、下痢などを誘導せずに便秘を改善する効果を有していると考えられる。
【0071】
図8および図15に示す結果から、コントロール群においては、絶食ストレスの影響により食欲とは反比例して腸の副交感神経の活性化(蠕動運動)が低下していると考えられるが、モロヘイヤを摂食することで、ストレスによリ低下した腸の蠕動運動を促進させていると考えられる。つまり、モロヘイヤにはストレス性腸疾患、特に過度の便秘や腸閉塞(イレウス)のような疾患の予防にも有用である可能性がある。
【0072】
図16に示す結果から、青色LEDの光を照射して育成したモロヘイヤは、青色LEDの光を照射せずに育成したモロヘイヤよりも、体重当たりの腎臓周囲の内臓脂肪重量を顕著に減少させる効果を有しているということがわかった。
【0073】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施例ではモロヘイヤの上方に蛍光灯と青色LEDのランプを配しモロヘイヤの側方に青色LEDランプを配置して、青色LEDの光および紫外線を照射する例を示したが、紫外線を照射する蛍光灯をモロヘイヤの側方に配置してもよい。また青色LEDランプと蛍光灯の使用本数はモロヘイヤを育成する場所の広さや日照時間などを考慮して適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0074】
H…ビニルハウス
L1,L2…青色LED
M…モロヘイヤ
S1,S2,S3…モロヘイヤの葉(サンプル)
U…蛍光灯
【技術分野】
【0001】
本発明は、整腸作用を有するモロヘイヤおよびその育成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
便秘は、吹き出物や肌荒れの原因となったり、大腸ガン発生のリスクを高めたり、腸の蠕動運動を低下させて腸閉塞(イレウス)に進行することがある。このような事態を防ぐために、従来から、種々の便秘改善薬が用いられている(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−120719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、上記特許文献1に記載されているセンナや、ダイオウの薬効成分として知られるsennoside(センノシド)などの強い便秘改善作用を有する成分を含む薬剤は、下痢や腹痛を誘導してしまうことがあった。
【0005】
したがって、慢性的な便秘症の人は、(1)便秘改善薬の服用、(2)下痢や腹痛などの発生、(3)服薬中止、服薬中止による便秘の発生という悪循環を繰り返すことがあるため、日常生活において支障となることがあった。そこで、腹痛や下痢などを誘導せずに便秘を改善するものが、求められていた。
【0006】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、下痢などを誘導せず便秘を改善可能なモロヘイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、青色発光ダイオード(青色LED)の光を照射して育成したモロヘイヤは、適度な硬さのよい便の排泄を促進する効果、つまり、下痢などを誘導せずに便秘を改善する効果を有するという知見を得た。本発明は、かかる新規な知見に基づくものである。
【0008】
すなわち、本発明は、青色発光ダイオードの光を照射して育成することにより得られる整腸作用を有するモロヘイヤである。
【0009】
また、本発明は、波長が450nm以上470nm以下の青色発光ダイオードの光を照射して育成することを特徴とする整腸作用を有するモロヘイヤの育成方法である。
【0010】
詳細は実施例において説明するが、本発明によれば、青色発光ダイオードの光を照射してモロヘイヤを育成するので、下痢などを誘導せず便秘を改善可能なモロヘイヤを提供することができる。
【0011】
モロヘイヤを青色発光ダイオードの光を照射して育成することにより便秘を改善する効果を有するものとするメカニズムの詳細については、現時点では、不明である。このメカニズムについては予測の範囲ではあるが、青色発光ダイオードの光を照射することにより、モロヘイヤ中において、便秘改善に作用する成分が増加したか、あるいは便秘改善に作用する成分が生成されたと考えられる。
【0012】
本発明は以下の構成とするのが好ましい。
青色発光ダイオードの光および紫外線を照射して育成すると、抗酸化作用を有するクロロゲン酸の含有量が増大するので、好ましい。
【0013】
また、本発明のモロヘイヤは、照射強度が、当該青色発光ダイオードの光を照射する照射装置の照射部からの隔離距離20cmの位置において、40μmol・m2・s−1以上60μmol・m2・s−1以下での青色発光ダイオードの光を照射して育成するのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、下痢などを誘導せず便秘を改善可能なモロヘイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例において説明する光源の配置を示した摸式図
【図2】普通食摂食条件下におけるラットの体重の経時変化を示すグラフ
【図3】普通食摂食条件下におけるラットの摂食量を示すグラフ
【図4】普通食摂食条件下におけるラットの摂水量を示すグラフ
【図5】普通食摂食条件下におけるラットの糞便湿重量の経時変化を示すグラフ
【図6】普通食摂食条件下におけるラットの糞便乾燥重量の経時変化を示すグラフ
【図7】普通食摂食条件下におけるラットの糞便中の水分量の経時変化を示すグラフ
【図8】普通食摂食条件下におけるラットの摂食量に対する糞便湿重量の割合のモロヘイヤ投与前後における変化を示すグラフ
【図9】高脂肪食摂食条件下におけるラットの体重の経時変化を示すグラフ
【図10】高脂肪食摂食条件下におけるラットの摂食量を示すグラフ
【図11】普通食摂食条件下におけるラットの摂水量を示すグラフ
【図12】高脂肪食摂食条件下におけるラットの糞便湿重量の経時変化を示すグラフ
【図13】高脂肪食摂食条件下におけるラットの糞便乾燥重量の経時変化を示すグラフ
【図14】高脂肪食摂食条件下におけるラットの糞便中の水分量の経時変化を示すグラフ
【図15】高脂肪食摂食条件下におけるラットの摂食量に対する糞便湿重量の割合のモロヘイヤ投与前後における変化を示すグラフ
【図16】普通食摂食条件下のラットおよび高脂肪食摂食条件下のラットの体重に対する腎臓周囲内臓脂肪重量の割合を対比したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のモロヘイヤは、青色発光ダイオードの光を照射して育成することにより得られる整腸作用を有するものである。青色発光ダイオード(青色LEDともいう)の光を照射して育成した本発明のモロヘイヤは、適度な硬さのよい便の排泄を促進する効果、つまり、下痢などを誘導せずに便秘を改善する効果を有する。このような効果のメカニズムの詳細は、いまだ不明ではあるが、モロヘイヤ中において、便秘改善に作用する成分が増加したか、あるいは便秘改善に作用する成分が生成されたと考えられる。
【0017】
モロヘイヤは、学名がCorchorus olitoriusであり、シナノキ科の一年生草本の一つである。モロヘイヤは、カルシウム、カロテン、ビタミンC、ビタミンB群、ケルセチン、クロロゲン酸等を含み、主として若葉を食用とする緑黄色野菜である。
【0018】
本発明において、モロヘイヤに照射する青色LEDの光の波長は450nm以上470nm以下であるのが好ましい。また、本発明では、青色LEDの光とともに、波長が10nm以上400nm以下の紫外線を照射すると、クロロゲン酸の含有量が増加するので好ましい。
【0019】
ここでクロロゲン酸とは、抗酸化作用を有するポリフェノールの一種であって、血糖値の抑制、コレステロール抑制、胃液分泌促進効果を有する物質である。なお、クロロゲン酸が、整腸作用に関与しているか否かについては不明である。
【0020】
青色LEDの照射強度は、当該青色LEDの光を照射する照射装置の照射部からの隔離距離20cmの位置において、40μmol・m2・s−1以上60μmol・m2・s−1以下とするのが好ましい。青色LEDの照射強度が40μmol・m2・s−1未満であると、便秘改善効果が十分に発揮できないことがあり、照射強度が60μmol・m2・s−1を超えるとモロヘイヤの生育が抑制されることがある。
【0021】
青色LEDの光および紫外線は、モロヘイヤの葉の先端部に対向する位置から照射するのが好ましい。また、青色LEDの光や紫外線を拡散させる装置(例えば反射鏡)を設置して、モロヘイヤ全体に光が照射されるようにしてもよい。
【0022】
青色LEDの光の照射時間および紫外線の照射時間は、モロヘイヤの育成時期にもよるが、日没後3〜10時間とするのが好ましい。照射時間が10時間を超えるとモロヘイヤの生育が抑制されたり害虫による被害が発生することがあり、照射時間が3時間未満であると、便秘改善効果が十分に発現しないことがある。
【0023】
青色LEDの光および紫外線の照射時間は日照時間の長い時期は短く、日照時間の短い時期は長くするなど適宜調節することが可能である。また、着花抑制や生育期間の延長のために赤色発光ダイオードの光や赤外線を、適宜照射してもよい。
【0024】
<実施例>
以下実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されない。
1.クロロゲン酸含有量の分析
(1)モロヘイヤの育成
6月2日にモロヘイヤ(立性)の種子を水稲用育苗箱に播種しガラス温室で育苗した後、ビニルハウスH(100m2)の各試験区へ、株間25cmの千鳥配置で定植した。
【0025】
モロヘイヤに青色LEDの光を照射する試験区1を試験区1とし、モロヘイヤに青色LEDを照射しない試験区を試験区2とした。
【0026】
試験区1においては、図1に示すように、モロヘイヤMの上方に青色LEDランプL1と紫外線を照射する蛍光灯Uを配置し、モロヘイヤMの側方に青色LEDランプL2を配置した。
【0027】
青色LEDランプL1,L2としては、幅40mmで長さ750mmの外形寸法のもので消費電力が5.25W、照射光の波長が450nm〜470nmのものを22本(1本当たりのLED数は10個)用いた。青色LEDランプL1,L2の光の照射強度は、青色LEDランプL1,L2の照射部からの隔離距離20cmの位置において、50μmol・m2・s−1となるようにした。
【0028】
蛍光灯Uとしては、直径が20mmで長さが1454mmの外形寸法のもので、消費電力が25W、照射光の波長が350〜400nmのものを2本用いた。
【0029】
青色LEDランプL1,L2の光および蛍光灯Uの光の照射は、収穫日前の7日間実施し、照射時間は1日当たり、日没後5時間とした。
【0030】
(2)クロロゲン酸含有量の分析
(ア)収穫時期によるクロロゲン酸含有量の相違
収穫日を8月11日、9月27日、10月13日、11月9日とし、各収穫日に各試験区で育成したモロヘイヤを収穫して、クロロゲン酸の含有量を比較した。
【0031】
モロヘイヤの地上150cm付近の、新梢の先端から20cmの葉の部分を収穫した。収穫したモロヘイヤを水洗いして虫、ゴミ等の異物を取り除き、水気を切った後、−30℃の冷凍庫に保存したものについて、クロロゲン酸の含有量を分析した。
【0032】
解凍した冷凍モロヘイヤを、過塩素酸水溶液とメタノールとの混合液中で10分間振とう後、遠心分離により上澄み液を得て、HPLC(島津製作所、型番 ポンプ:LC−10AD、検出器:SPD−10A)によりクロロゲン酸量を分析した。
【0033】
(イ)光環境によるクロロゲン酸含有量の相違
収穫日を11月9日とし、青色LEDランプL1と蛍光灯Uの直下領域のモロヘイヤMの新梢の先端から20cmの部分であって、地上150cm付近の葉S1(サンプル1)および地上90cm付近の葉S2(サンプル2)、ならびに、青色LEDランプL2のみが配置された側方領域のモロヘイヤMの新梢の先端から20cmの部分であって地上60cm付近の葉S3(サンプル3)のクロロゲン酸含有量を(ア)と同様の方法により分析した。
【0034】
(3)結果と考察
(ア)収穫時期とクロロゲン酸量
試験区1および試験区2の双方においてクロロゲン酸含有量は、8月から10月にかけて高くなり、10月に収穫したモロヘイヤで最も高く、11月には低下した。この結果から、クロロゲン酸は太陽光の照射で増加し細胞中に蓄積され、太陽光の照射時間の減少および低温により減少すると考えられる。
【0035】
(イ)光環境とクロロゲン酸量
クロロゲン酸含有量は、サンプル1およびサンプル2では、ほぼ同量であるとともに、サンプル3の約2倍であった。この結果から、青色LEDの光と紫外線とを照射すると、青色LEDの光のみを照射するよりも、クロロゲン酸の含有量が多いモロヘイヤが得られるということがわかった。
【0036】
2.整腸作用等の評価
(1)モロヘイヤの育成
6月2日にモロヘイヤ(立性)の種子を水稲用育苗箱に播種しガラス温室で育苗した後、6月25日にビニルハウス(100m2)の各試験区へ、株間25cmの千鳥配置で定植した。
【0037】
モロヘイヤに青色LEDを照射する試験区を試験区3とした。試験区3においては、試験区1と同様に、モロヘイヤMの上方に青色LEDランプL1と紫外線を照射する蛍光灯Uを配置し、モロヘイヤMの側方に青色LEDランプL2を配置した(図1参照)。青色LEDランプL1,L2および蛍光灯Uとしては試験区1と同じものを同じ本数用い、青色LEDランプL1,L2の光の照射強度も、試験区1と同様に、青色LEDランプL1,L2の照射部からの隔離距離20cmの位置において、50μmol・m2・s−1となるようにした。
【0038】
青色LEDランプL1,L2の光および蛍光灯Uの光の照射は、7月5日から毎日実施し、照射時間は1日当たり、日没後5時間とした。
【0039】
試験区2(青色LEDを照射しない試験区)のモロヘイヤの収穫と試験区3のモロヘイヤの収穫は7月20日〜8月11日に行い、収穫したモロヘイヤを水洗して虫、ゴミ等の異物を取り除き、水気を切った後、真空冷凍乾燥し粉末化した。
【0040】
(2)実験動物の予備飼育
5週令SD系雄性ラットを、普通食を摂食させる条件で評価試験に供するグループ(NDグループ)と、高脂肪食を摂食させる条件で評価試験に供するグループ(HFDグループ)とに分けて、23±2℃条件下で2週間予備飼育した。
NDグループの予備飼育の飼料としては、市販のMS粉末(含5%ラード、商品名「MS粉末」、オリエンタル酵母工業株式会社製)を用い、HFDグループの予備飼育の飼料としては、30%の脂肪分を含む高脂肪食粉末(オリエンタル酵母工業株式会社製「MS粉末」に30%の牛脂を加えた特注品)を用いた。
【0041】
(3)評価試験
(ア)整腸作用の評価試験
予備飼育を終えた各グループのラットを、3日間絶食させ、腸内容物の排泄を行った。ただし、水は自由摂取させた。その後、各グループのラットを、体重が均一になるようにそれぞれの3つの群に分けた。3つの群は、青色LEDの光を照射しないで育成したモロヘイヤ(無補光モロヘイヤ)を飼料に混ぜて摂食させる群(無補光モロヘイヤ群)、青色LEDの光を照射して育成したモロヘイヤ(補光モロヘイヤ)を飼料に混ぜて摂食させる群(LED補光モロヘイヤ群)、およびモロヘイヤを混ぜない餌(予備飼育の飼料と同じ飼料)を摂食させる群(コントロール群)である。
【0042】
NDグループの無補光モロヘイヤ群のラットには、NDグループの予備飼育の飼料として用いた飼料に、試験区2で収穫されたモロヘイヤから作成したモロヘイヤ粉末を全体の質量の15%となるように加えた餌を摂食させた。HFDグループの無補光モロヘイヤ群のラットには、HFDグループの予備飼育の飼料として用いた飼料に、試験区2で収穫されたモロヘイヤから作成したモロヘイヤ粉末を餌全体の質量の15%となるように加えた餌を摂食させた。
【0043】
NDグループのLED補光モロヘイヤ群のラットには、NDグループの予備飼育の飼料として用いた飼料に、試験区3で収穫されたモロヘイヤから作成したモロヘイヤ粉末を全体の質量の15%となるように加えた餌を摂食させた。HFDグループのLED補光モロヘイヤ群のラットには、HFDグループの予備飼育の飼料として用いた飼料に、試験区3で収穫されたモロヘイヤから作成したモロヘイヤ粉末を餌全体の質量の15%となるように加えた餌を摂食させた。
【0044】
予備飼育期間、絶食期間、餌摂食開始から24時間経過時におけるラットの体重、摂食量、摂水量、糞便の重量を測定して、コントロール群と比較した。その後3日間のインターバルをとり、同様の実験(3日間の絶食、餌の摂食)を3回繰り返した(図2および図9のグラフの下方を参照)。
【0045】
糞便の重量については、餌の摂食を開始する直前(絶食期間完了時)、餌の摂食開始から2時間経過時、餌の摂食開始から4時間経過時にも測定した。また、糞便の重量については、排泄された状態の糞便の重さ(糞便湿重量)と、乾燥させた糞便の重さ(糞便乾燥重量)を測定した。
【0046】
NDグループのラット(普通食摂食条件下のラット)の体重、摂食量、摂水量、糞便湿重量、糞便乾燥重量、糞便中の水分量の測定結果、摂食量に対する糞便湿重量の割合を図2〜図8に示した。
【0047】
高脂肪食摂食条件下における、体重、摂食量、摂水量、糞便湿重量、糞便乾燥重量、糞便中の水分量の経時変化、摂食量に対する糞便湿重量の割合を図9〜図15に示した。
【0048】
糞便中の水分量(%)は、糞便湿重量および糞便乾燥重量の測定値から算出した。糞便中の水分量(%)は、以下の式(1)により求めることができる。
糞便中の水分量(%)=[(糞便湿重量−糞便乾燥重量)/糞便湿重量]×100 ・・・(1)
【0049】
図5〜図7および図12〜図14中、「0(h) 投与開始前」とは、3日間の絶食後であって餌の摂食(投与)を開始する直前」を意味する。
【0050】
図5〜図7および図12〜図14に示すグラフに記載の「0(h)」のデータは、絶食最終日の24時間に排泄された糞便であって、餌の摂食を開始する直前に排泄された糞便に関するデータである。図5〜図7および図12〜図14に示すグラフに記載の「2(h)」のデータは、餌の摂食開始後2時間経過時までに排泄された糞便を1日量に換算したデータである。図5〜図7および図12〜図14に示すグラフに記載の「4(h)」のデータは、餌の摂食開始から4時間経過時までに排泄された糞便を1日量に換算したデータである。図5〜図7および図12〜図14に示すグラフに記載の「24(h)」のデータは、餌の摂食開始から24時間経過時までに排泄された糞便に関するデータである。
図8および図15に示すグラフの「投与24時間後」のデータは、餌の摂食開始から24時間経過時までの摂食量および糞便湿重量に基づき算出したものである。
【0051】
(イ)脂肪組織重量の測定
(ア)の評価試験終了後のラットの体重を測定した後、解剖を行い、腎臓周囲の白色脂肪組織の重量を測定し、以下の式(2)により腎臓周囲内臓脂肪の割合(%)を算出した。
腎臓周囲内臓脂肪の割合(%)=(腎臓周囲の白色脂肪組織の重量/体重)×100 ・・・(2)
【0052】
(ウ)統計解析
解析から得られたデータは平均値±標準誤差で表した。また、これらのデータはKruskal−Wallis testにより一元配置分散分析を行い、Dunnett testにより、多重比較検定を行った。その結果、p<0.05の場合を有意差ありとした。
【0053】
(4)結果
(ア)整腸作用の評価
(i)普通食摂食条件(ND条件)下での影響
図2に示すように、予備飼育、絶食、インターバル飼育でのラットの体重において、コントロール群のラットと比較したとき、LED補光モロヘイヤ群(以下「補光モロヘイヤ群」ともいう)のラット及び無補光モロヘイヤ群のラットの体重変化はほぼ同様であった。
【0054】
予備飼育時の摂食行動において、図3に示すように、補光モロヘイヤ群及び無補光モロヘイヤ群のラットの摂食量はともに、コントロール群とほぼ同量であった。また、絶食後の餌摂食開始から24時間経過後の摂食行動においても、補光モロヘイヤ群及び無補光モロヘイヤ群のラットの摂食量はともに、コントロール群とほぼ同量であった。
【0055】
予備飼育時の摂水行動において、図4に示すように、補光モロヘイヤ群及び無補光モロヘイヤ群のラットの摂水量はともにコントロール群とほぼ同量であった。3日間の絶食時の摂水量は、補光モロヘイヤ群のみ増加傾向がみられた。餌摂食開始から24時間経過後の摂水行動において、補光モロヘイヤ群及び無補光モロヘイヤ群の摂水量は、ともにコントロール群よりも増加したが、統計学的な有意差は認められなかった。
【0056】
絶食後の餌摂食開始から24時間経過後の糞便湿重量は、図5に示すように、補光モロヘイヤ群及び無補光モロヘイヤ群はともに、コントロール群よりも多く、無補光モロヘイヤ群のほうが補光モロヘイヤ群よりも多いという結果が得られ、統計学的な有意差が認められた。
【0057】
餌摂食開始後の糞便乾燥重量は、図6に示すように、補光モロヘイヤ群及び無補光モロヘイヤ群はともに、コントロール群よりも多く、補光モロヘイヤ群のほうが無補光モロヘイヤ群よりも多かった。特に餌摂食開始から24時経過後の糞便乾燥重量は補光モロヘイヤ群で顕著に他の群よりも多いという結果が得られ、統計学的な有意差が認められた。
【0058】
餌摂食開始から24時間経過後の糞中の水分量は、図7に示すように、補光モロヘイヤ群で、コントロール群や無補光モロヘイヤ群よりも少なかった。
【0059】
糞便湿重量/摂食量は、図8に示すように、コントロール群では絶食により低下したが、補光モロヘイヤ群及び無補光モロヘイヤ群ではわずかに上昇した。
【0060】
(ii)高脂肪食摂食条件(HFD条件)下での影響
図9に示すように、予備飼育、絶食、インターバル飼育でのラットの体重において、コントロール群と比較したとき、補光モロヘイヤ群のラット及び無補光モロヘイヤ群のラットの体重変化はほぼ同様であった。
【0061】
予備飼育時の摂食行動において、図10に示すように、補光モロヘイヤ群及び無補光モロヘイヤ群のラットの摂食量はともに、コントロール群とほぼ同量であった。また、絶食後の餌摂食開始から24時間経過後の摂食行動においても、補光モロヘイヤ群及び無補光モロヘイヤ群のラットの摂食量はともに、コントロール群とほぼ同量であった。
【0062】
補光モロヘイヤ群及び無補光モロヘイヤ群の予備飼育時の摂水量、3日間の絶食時の摂水量、および餌摂食開始から24時間経過後の摂水量は、図11に示すように、コントロール群とほぼ同量であった。
【0063】
絶食後の餌摂食開始から24時間後の糞便湿重量は、図12に示すように、補光モロヘイヤ群および無補光モロヘイヤ群はともに、コントロール群よりも顕著に多いという結果が得られ、統計学的な有意差が認められた。
【0064】
また、餌摂食開始から24時間経過後の糞便乾燥重量は、図13に示すように、補光モロヘイヤ群で顕著に多く、統計学的な有意差が認められた。餌摂食開始から24時間経過後の無補光モロヘイヤ群の糞便乾燥重量は、コントロール群よりも多かったが、統計学的な有意差は認められなかった。
【0065】
餌摂食開始から24時間経過後の糞中の水分量は、図14に示すように、補光モロヘイヤ群で、コントロール群や無補光モロヘイヤ群よりも少なかった。
【0066】
糞便湿重量/摂食量は、図15に示すように、コントロール群では絶食により低下したが、補光モロヘイヤ群及び無補光モロヘイヤ群では顕著に上昇し、統計学的な有意差が認められた。特に補光モロヘイヤ群では上昇が顕著であった
【0067】
(iii)内蔵脂肪について
図16に示すように、普通食摂食条件下および高脂肪食摂食条件下の双方において、補光モロヘイヤ群及び無補光モロヘイヤ群のラットはコントロール群のラットよりも内臓脂肪組織の割合が低かった。
特に、高脂肪食摂食条件下では補光モロヘイヤ群の内臓脂肪はコントロール群に比較して顕著に低く、統計学的に有意な内臓脂肪の減少を示した。
【0068】
(5)考察
図5および図12に示す結果から、青色LED光を照射して育成したモロヘイヤと、青色LED光を照射しないで育成したモロヘイヤは、ともに、糞便排泄促進作用を有するということがわかった。
【0069】
図6および図13に示す結果から、青色LEDを照射して育成したモロヘイヤを混合した餌を摂食することにより、糞便乾燥重量の重い(水分量の少ない)便の排泄が促進され、この効果は高脂肪食摂食条件下で顕著であるということが分かった。
【0070】
つまり、モロヘイヤは育成時の青色LEDの照射の有無にかかわらず糞便排泄促進作用を有するが、青色LED光を照射して育成したモロヘイヤの摂食により、糞便乾燥重量の重い(水分量の少ない)糞便の排泄が促進され、特に、高脂肪食摂食条件では、水分量の少ない糞便排泄促進効果が顕著に発現するということがわかった。このことは、青色LEDの光を照射して育成したモロヘイヤは、摂水量の少ない状況下でも糞便排泄促進作用を誘導することを示しているとも考えられる。以上より、青色LEDの光を照射して育成することにより得られる本発明のモロヘイヤは、下痢などを誘導せずに便秘を改善する効果を有していると考えられる。
【0071】
図8および図15に示す結果から、コントロール群においては、絶食ストレスの影響により食欲とは反比例して腸の副交感神経の活性化(蠕動運動)が低下していると考えられるが、モロヘイヤを摂食することで、ストレスによリ低下した腸の蠕動運動を促進させていると考えられる。つまり、モロヘイヤにはストレス性腸疾患、特に過度の便秘や腸閉塞(イレウス)のような疾患の予防にも有用である可能性がある。
【0072】
図16に示す結果から、青色LEDの光を照射して育成したモロヘイヤは、青色LEDの光を照射せずに育成したモロヘイヤよりも、体重当たりの腎臓周囲の内臓脂肪重量を顕著に減少させる効果を有しているということがわかった。
【0073】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施例ではモロヘイヤの上方に蛍光灯と青色LEDのランプを配しモロヘイヤの側方に青色LEDランプを配置して、青色LEDの光および紫外線を照射する例を示したが、紫外線を照射する蛍光灯をモロヘイヤの側方に配置してもよい。また青色LEDランプと蛍光灯の使用本数はモロヘイヤを育成する場所の広さや日照時間などを考慮して適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0074】
H…ビニルハウス
L1,L2…青色LED
M…モロヘイヤ
S1,S2,S3…モロヘイヤの葉(サンプル)
U…蛍光灯
【特許請求の範囲】
【請求項1】
青色発光ダイオードの光を照射して育成することにより得られる整腸作用を有するモロヘイヤ。
【請求項2】
前記青色発光ダイオードの光および紫外線を照射して育成することにより得られる請求項1に記載の整腸作用を有するモロヘイヤ。
【請求項3】
波長が450nm以上470nm以下の青色発光ダイオードの光を照射して育成することを特徴とする整腸作用を有するモロヘイヤの育成方法。
【請求項4】
前記青色発光ダイオードの光、および紫外線を照射して育成することを特徴とする請求項3に記載の整腸作用を有するモロヘイヤの育成方法。
【請求項5】
前記青色発光ダイオードの光の照射強度が、当該青色発光ダイオードの光を照射する照射装置の照射部からの隔離距離20cmの位置において、40μmol・m2・s−1以上60μmol・m2・s−1以下であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の整腸作用を有するモロヘイヤの育成方法。
【請求項1】
青色発光ダイオードの光を照射して育成することにより得られる整腸作用を有するモロヘイヤ。
【請求項2】
前記青色発光ダイオードの光および紫外線を照射して育成することにより得られる請求項1に記載の整腸作用を有するモロヘイヤ。
【請求項3】
波長が450nm以上470nm以下の青色発光ダイオードの光を照射して育成することを特徴とする整腸作用を有するモロヘイヤの育成方法。
【請求項4】
前記青色発光ダイオードの光、および紫外線を照射して育成することを特徴とする請求項3に記載の整腸作用を有するモロヘイヤの育成方法。
【請求項5】
前記青色発光ダイオードの光の照射強度が、当該青色発光ダイオードの光を照射する照射装置の照射部からの隔離距離20cmの位置において、40μmol・m2・s−1以上60μmol・m2・s−1以下であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の整腸作用を有するモロヘイヤの育成方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−85502(P2013−85502A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227685(P2011−227685)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】
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