説明

整腸作用組成物

【課題】腸内細菌叢のバランスを改善することのできる、魚介類由来の整腸作用組成物を提供する。
【解決手段】整腸作用組成物は、タコ粉末を有効成分として含有し腸内の善玉菌を増加させる。好ましくは、タコ粉末は、タコ乾燥粉末である。さらに好ましくは、タコ乾燥粉末は、タコを凍結乾燥し粉末化したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内環境を改善する整腸作用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
腸内細菌叢を構成する腸内細菌は、互いに共生するだけでなく、宿主であるヒト等とも共生関係にある。ヒト等に対して有益に働く菌は善玉菌と呼ばれ、腸管感染防御作用や免疫機能の増強作用、腸内腐敗の抑制作用などを示し、腸内環境を改善する。一方、ヒトに害を及ぼす菌は悪玉菌と呼ばれ、二次胆汁酸やニトロソアミンのような発ガン性物質を生成する。
【0003】
例えば、Lactobacillales属の細菌は、乳酸産生菌群であり、善玉菌としての作用を示す。一方、Clostridium属の細菌の大半は悪玉菌として知られている。
【0004】
近年、脂肪過多の食生活が進んでおり、腸内環境の悪化を招いたり、大腸疾病を引き起こしたりすることが社会問題化している。それゆえ、腸内環境を改善する食品因子の探索が盛んに行われており、例えば食物繊維やオリゴ糖などが知られている。
【0005】
また、我が国は周囲を海に囲まれ、海産物資源が豊富なこともあり、海産物資源の利活用も試みられている。例えば、非特許文献1では、エビ、イカ、タコについての研究が報じられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kazunari TANAKA,Tadashi SAKAI,Ikuo IKEDA,Katsumi IMAIZUMI,and Michihiro SUGANO;Effects of Dietary Shrimp,Squid and Octopus on Serum and Liver Lipid Levels in Mice;Biosci.Biotechnol.Biochem.,62(7),1369−1375,1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の非特許文献1では、タコ粉末がラットの血中におけるコレステロールを低下させること、及び、肝臓中のトリグリセリドを低下させることについて報告されているものの、腸内細菌叢への影響については何ら報告されていない。
【0008】
また、腸内細菌叢のバランスを改善する効果を示す魚介類は、これまでに例がない。特に、タコの健康に対する影響については極めて研究例が少ない。具体的には、タコには健康によいと言われているタウリンが豊富に含まれていることのみが知られている。
【0009】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、腸内細菌叢のバランスを改善することのできる、魚介類由来の整腸作用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明者が鋭意研究を重ねた結果、採取したタコ(広島県三原湾産マダコ)から内臓を除去した後、凍結乾燥し粉末化することにより得たタコ粉末が、腸内細菌叢のバランスを改善することができるという、整腸作用を有するということを発見した。
【0011】
そこで、本発明に係る整腸作用組成物は、
タコ粉末を有効成分として含有し腸内の善玉菌を増加させる、
ことを特徴とする。
【0012】
また、前記タコ粉末は、タコ乾燥粉末であることが好ましい。
【0013】
また、前記タコ乾燥粉末は、タコを凍結乾燥し粉末化したものであることが好ましい。
【0014】
また、前記タコ粉末は、マダコの粉末であってもよい。
【0015】
また、前記善玉菌がLactobacillales属の細菌であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、腸内細菌叢のバランスを改善することのできる、魚介類由来の整腸作用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1(A)は実施例におけるLactobacillalesの割合を示すグラフ、図1(B)は実施例におけるClostridiumの割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書において「有する」、「含む」または「含有する」といった表現は、「からなる」または「から構成される」という意も含むものとする。本実施の形態に係る整腸作用組成物は、タコ粉末を有効成分として含有している。
【0019】
タコ粉末は善玉菌を増加させる作用を備える。より具体的には、善玉菌であるLactobacillales属の細菌を増加させる。腸内の善玉菌の勢力が強くなるので、乳酸や酢酸の産生が促進され、腸内が酸性環境下になり、悪玉菌が定着しにくくなる。より具体的には、Lactobacillales属の善玉菌の増加に伴い、大半が悪玉菌として知られているClostridium属の細菌が減少する。このように、整腸作用組成物は善玉菌を増加させ、善玉菌の勢力を強くすることで、腸内環境を改善する。
【0020】
なお、上記の善玉菌を増加させる作用は、タコ粉末中のいずれの成分によるものであるかは定かではないが、後述の参考例にて記すように、タコに含まれている既知成分であるタウリンによるものではない。
【0021】
本明細書における「タコ粉末」とは、タコを種々の手法によって粉末化して得られたものに用いられ得る。例えば、以下のようにして得られたタコ粉末が用いられる。
【0022】
まず、採取されたタコを乾燥する。乾燥方法として低温、減圧下で水分を除去する凍結乾燥、熱を加えてタコの水分を除去する加熱乾燥などが挙げられる。なお、タコの内臓を除去した後に乾燥してもよい。内臓にはタコが摂取した未消化のものなど、不明な成分が含まれているおそれがある。
【0023】
タコを乾燥した後、ミキサーや粉砕機等、公知の装置や手法で粉末状に加工することで、タコ粉末が得られる。なお、タコ粉末の粒径に制限はなく、食品への添加や医薬品、医薬部外品の製造に応じ適宜設定すればよい。
【0024】
タコは、動物学上、軟体動物門イカ綱(頭足類)タコ目(八腕類)に分類される動物群であり、更に、ヒゲダコ亜目(有触手亜目)、マダコ亜目(無触手亜目)に分類される様々な種類のタコが存在する。タコ粉末に利用されるタコの種類について制限はなく、一般的に食用として利用されているタコを用いればよい。例えば、マダコ亜目マダコ科に分類されるマダコ、ミズダコなどが挙げられる。
【0025】
上述のように本実施の形態に係る整腸作用組成物は腸内環境改善効果を有するため、この効果を得ることを目的とした種々の形態で利用され得る。例えば、食品、医薬品、医薬部外品などとして利用される。食品、医薬品および医薬部外品は、上記タコ粉末を含有させること以外は、当業者が通常利用する方法により製造され得る。そして、それぞれの形態に応じ、他の成分を含有していてもよい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例および参考例を用いて本発明をより詳細に説明するが、実施例および参考例は本発明を限定するものではない。
【0027】
(実施例)
本実施例では、タコ粉末を実験動物の飼料に含有させ、給餌した場合に係る実施例について詳細に説明する。
【0028】
まず、タコ粉末を製造した。タコ粉末(タコ乾燥粉末)には、広島県の三原湾で採取されたマダコの内臓を直ちに除去して凍結乾燥し、その後、粉末化して得られたものを用いた。得られたタコ乾燥粉末の組成を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
実験動物としてSD(Sprague−Dawley)系雄ラット(3週齢、初体重40−50g、Charles River Japan Inc.製)を用いた。ラットの飼育は、国立大学法人広島大学の実験動物取扱規程に準じて行った。具体的には、ステンレス製ケージに1匹ずつ入れ、12時間明暗交代(8:00〜20:00明、20:00〜翌朝8:00暗)の恒温環境(24℃±1℃)で飼育した。
【0031】
予備飼育期間を7日間とし、予備飼育期間中は、市販の固形飼料(MF、オリエンタル酵母社製)及び脱イオン水をラットに自由に摂取させた。
【0032】
予備飼育後、タコ粉末を給餌するタコ粉末群、及び、タコ粉末を給餌しない対照群の2群(6匹/1群)に分けた。そして、各群について、30%牛脂の高脂肪食の条件下で一定量の実験食(表2参照)を給餌し、脱イオン水を自由に摂取させ、21日間飼育した。
【0033】
【表2】

【0034】
実験食は、いずれの群についても、1日目に9g、2〜4日目に10g、5〜7日目に12g、8〜13日目に14g、14〜21目に15gを毎日定刻(19:00)にラットに与えた。いずれも翌朝までに食べきる量を与えた。また、それぞれのラットの体重を毎朝定刻(10:00)に測定した。
【0035】
飼育終了日の午前(8:00)に餌を全てのケージ内から抜き取り、12:00頃に体重を測定した。そして、13:00〜15:00にジエチルエーテル麻酔下で断頭屠殺を行い、盲腸内容物を速やかに採取した。そして、盲腸内容物の一部からDNA抽出を行った。
【0036】
腸内細菌DNAの抽出、及び、腸内細菌叢の解析には、市販のキット(Ultra Clean Fecal DNA Kit,Mo BIO Laboratories Ins.社製)を用いて行った。このキットの原理は、ビーズ−フェノール法を用いて盲腸内容物のDNAを抽出するものである。
【0037】
まず、チューブの中に盲腸内容物(以下、サンプルともいう)とビーズを入れて振動させてビーズがサンプルにぶつかることで物理的に細菌の細胞壁を破壊し、更に溶菌バッファーを加えて菌体を破砕する。次に、フェノール・クロロホルム抽出による不要なタンパク質を除去し、イソプロパノール沈殿を行った後、エタノールでリンスし、TEバッファーにDNAを溶解させることにより、サンプルからDNAを抽出した。
【0038】
このようなDNA抽出の操作によって得られた盲腸内容物中の腸内細菌DNA抽出物を、T−RFLP(Terminal Restriction Fragment Length Polymorphism)法を用いて解析した。T−RFLP法とは、末端を蛍光標識したプライマーセットで鋳型DNAをPCR(Polymerase Chain Reaction)にて増幅し、制限酵素による消化後、フラグメント解析を行い、塩基配列の違いから制限酵素切断部位が異なることを利用し、検出ピークの強度、位置、数により評価・比較する断片多型性解析である。
【0039】
T−RFLP法による腸内細菌叢の解析は、細菌の16SrDNA遺伝子が標的となる。まず、末端を蛍光標識した共通のプライマーを用いて盲腸内容物中のDNAを増幅し、得られた16SrDNAを制限酵素で消化した後、キャピラリー電気泳動法を用いたDNAシークエンサーによって蛍光標識された末端を含むDNA断片(Terminal Restriction Fragment:T−RF)のみを検出する方法である。腸内フローラの構成菌種は16SrDNAの塩基配列が異なるため、制限酵素による切断部位は菌種固有のものとなる。これらの処理によって得られるT−RFに対応したピークの位置(断片長)、面積(菌数)及び数(菌種の多様性)を解析することで糞便中の構成菌種及びその割合を推定する方法である。
【0040】
本実施例では、各サンプルの細菌叢に由来する16SrDNA(16SrRNA)部分塩基配列のT−RFLP解析を行い、得られたデータに基づいてサンプル中の主要な分類群の推定及びクラスター解析によるサンプル間の比較を行った。
【0041】
T−RFLP解析の主な方法は、長島らの方法に基づき行った(Koji Nagashima,Jun Mochizaki,Takayoshi Hisada,Shuji Suzuki,Kengo Shimomura;Phylogenetic Analysis of 16S Ribosomal RNA Gene Sequences from Human Fecal Microbiota and Improved Utility of Terminal Restriction Fragment Length Polymorphism Profiling;Bioscience Microflora Vol.25(3),99−107,2006)。なお、フラグメント解析には、ABI PRISM 3130xl DNA Sequencer(Applied Biosystemu,CA,USA)及びGeneMapper(Applied Biosystemu,CA,USA)を使用した。各フラグメントの長さはoperational taxonomic unit(OTU)で判断した。クラスター解析には、解析ソフト(Gene Maths,Applied Biosystemu,CA,USA)を使用した。クラスタリングの方法には、Pearson correlation、UPGMA(非加重結合法(Unweighted Pair Group Method with Arithmetic mean))を選択した。
【0042】
上述のように得られた各群のデータは、平均±標準誤差で示し、各群の有意差の判定はStudent’st−testを用いて統計処理を行った(P<0.05)。
【0043】
タコ乾燥粉末の腸内細菌叢に及ぼす影響についての結果は次のようになった。
【0044】
表3に、各群のラットの最終体重、飲水量、食餌摂取量及び臓器重量を示す。表3に示すように、最終体重、飲水量、食餌摂取量、肝臓重量及び盲腸内容物の重量の全てにおいて、各群間で有意な差は見られなかった(P>0.05)。これは、対照群とタコ粉末群との間において、ラット自身の体重、食餌摂取量等の影響により、後述の腸内細菌叢の割合に有意な差が出ているわけではないということを意味している。
【0045】
【表3】

【0046】
表4に、各群の盲腸内容物の重量及び腸内細菌叢の割合を示す。また、各群のLactbacillusの割合及びClostridiumの割合をそれぞれ図1(A)及び図1(B)に示す。
【0047】
【表4】

【0048】
表4及び図1(A)、(B)に示すように、タコ粉末群では、対照群に比べて、Lactbacillusの増加及びClostridiumの減少が顕著に現れている(P<0.05)。なお、他の腸内細菌叢には有意な変動は見られなかった(P>0.05)。
【0049】
Lactobacillales、およびClostridiumの割合を算出したところ、対照群、およびタコ粉末群でそれぞれ0.154(3.8/24.6)、および0.736(12.0/16.3)となり、タコ粉末群は対照群と比較して、4.78倍の増加となった。
【0050】
このように、タコ乾燥粉末を摂取すると、他の因子について変化がなく、特異的に腸内のLactobacillalesの割合が増加することが明らかになった。増加したLactobacillalesは善玉菌として知られており、乳酸を産生し周囲を酸性にすることでClostridium等の悪玉菌が増殖しにくい環境を作り出す。したがって、タコ乾燥粉末には腸内細菌叢のバランスを改善する効果があることを実証した。
【0051】
(参考例)
タコにはタウリン(2−アミノエタンスルホン酸)が豊富に含まれていることが知られている。本参考例では、前述の実施例における腸内細菌叢への影響がタウリンによるものであるか否かを検証した。
【0052】
給餌する実験食を異ならせた以外は、上記実施例と同様の条件にてラットを飼育し、腸内細菌叢への影響を検証した。なお、上記実施例で用いたタコ乾燥粉末食には、1.03重量%のタウリンが含まれていた。このため、本参考例では、タウリン0重量%、0.5重量%、1.0重量%、2.5重量%の4種の実験食を4群のラットに給餌した。給餌した実験食の組成を表5に示す。
【0053】
【表5】

【0054】
そして、実施例と同様の手法により、腸内細菌叢の遺伝子解析を行った。タウリン添加食の腸内細菌叢に及ぼす影響についての結果を表6に示す。
【0055】
【表6】

【0056】
いずれの濃度においてもタウリン摂取による腸内細菌叢に有意な変化は見られなかった。したがって、タコ乾燥粉末食による腸内細菌叢の変化(ラクトバチルスの増加及びクロストリディウムの減少)は、タコに豊富に含まれていることが既知であるタウリンによるものではないことが明らかとなった。
【0057】
本発明は、上記発明の実施の形態および実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【0058】
本明細書の中で明示した論文等の内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明者が鋭意研究を重ねた結果、採取したタコ(広島県三原湾産マダコ)から内臓を除去した後、凍結乾燥し粉末化することにより得たタコ粉末が、腸内細菌叢のバランスを改善することができるという、整腸作用を有するということを発見した。
【0060】
そこで、本発明によれば、腸内細菌叢のバランスを改善することができる、魚介類由来の整腸作用組成物を提供することができる。また、当該タコ粉末を有効成分とする整腸作用組成物は、腸内の善玉菌を増加させて腸内環境を改善する作用を備えている。したがって、本発明を用いた種々の食品や医薬、医薬部外品等への応用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タコ粉末を有効成分として含有し腸内の善玉菌を増加させる、
ことを特徴とする整腸作用組成物。
【請求項2】
前記タコ粉末は、タコ乾燥粉末である、
ことを特徴とする請求項1に記載の整腸作用組成物。
【請求項3】
前記タコ乾燥粉末は、タコを凍結乾燥し粉末化したものである、
ことを特徴とする請求項2に記載の整腸作用組成物。
【請求項4】
前記タコ粉末は、マダコの粉末である、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の整腸作用組成物。
【請求項5】
前記善玉菌がLactobacillales属の細菌である、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の整腸作用組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2013−23482(P2013−23482A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160998(P2011−160998)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(510340067)有限会社蔵 (1)
【Fターム(参考)】