説明

斜毛機及び斜毛方法

【課題】連続搬送される基材上に立設された複数の毛羽を所望の方向へ精度よく傾斜させることが可能な斜毛機及び斜毛方法を提供する。
【解決手段】上流側から下流側に向かって連続搬送される長尺状の基布12上に立設された複数の毛羽13を周回移動する第1無限軌道50によって押圧することにより該各毛羽13の立設方向に対して傾斜させる場合には、基布12の搬送時における各毛羽13の第1無限軌道50に対する摺動抵抗が大きくなるほど、第1無限軌道50によって各毛羽13を傾斜させる押圧方向Aが、各毛羽13を基布12の搬送方向に対して交差する所望の傾斜方向に対して基布12の搬送方向の下流側へ大きく傾くように第1無限軌道50の回転軸線を回動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に立設された複数の毛羽を該各毛羽の立設方向に対して傾斜させる斜毛機及び斜毛方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、連続搬送される基材上に立設された複数の毛羽を該基材の搬送方向に対して斜めに傾斜させる処理(斜毛処理)をする場合には、特許文献1に示すように、基材の搬送方向に対して斜めに取り付けられたブラッシングローラ(回転体)によって各毛羽をブラッシングすることで該各毛羽を斜毛処理するようにしている。すなわち、特許文献1では、平面視において、ブラッシングローラの軸線が基材の搬送方向と交差するようにブラッシングローラが配置されており、該ブラッシングローラにより各毛羽を基材の搬送方向と交差する方向へブラッシングするようにしている。
【特許文献1】特開平5−107694号公報(段落[0010],図4〜図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、特許文献1では、基材を連続搬送しながら各毛羽をブラッシングローラによってブラッシングしている。すなわち、ブラッシングローラの周面が基材上の各毛羽に対してローラの軸方向と直交する方向に押圧力を付与しながら摺接することによって各毛羽を斜毛処理するようにしている。そのため、ブラッシングローラの周面に対する各毛羽の摺動抵抗が大きくなると、ブラッシングローラによる各毛羽の押圧方向と各毛羽が実際に傾斜する方向との間にずれが生じてしまい、各毛羽を所望の方向へ傾斜させることが困難になるという問題があった。
【0004】
本発明は、このような課題に着目してなされたものである。その目的とするところは、連続搬送される基材上に立設された複数の毛羽を所望の方向へ精度よく傾斜させることが可能な斜毛機及び斜毛方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、上流側から下流側に向かって連続搬送される長尺状の基材上に立設された複数の毛羽を回転体が回転しながら押圧することにより該各毛羽の立設方向に対して傾斜させる斜毛方法であって、前記基材の搬送時における前記各毛羽の前記回転体に対する摺動抵抗の大きさに基づいて、前記各毛羽の立設方向に延びる軸線を中心として前記回転体の回転軸線を回動することを要旨とする。
【0006】
上記構成によれば、基材の連続搬送時における各毛羽の回転体に対する摺動抵抗の大きさが変化しても、該摺動抵抗の大きさに基づいて回転体の回転軸線を回動することで、各毛羽を傾斜させる方向を補正することが可能となる。したがって、連続搬送される基材上に立設された複数の毛羽を所望の方向へ精度よく傾斜させることが可能となる。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記摺動抵抗が大きくなるほど、前記回転体によって前記各毛羽を押圧する押圧方向が、前記各毛羽を前記基材の搬送方向に対して交差する所望の傾斜方向に対して前記基材の搬送方向の下流側へ大きく傾くように前記回転体の回転軸線を回動することを要旨とする。
【0008】
通常、連続搬送中の基材上の各毛羽を回転体によって押圧方向へ傾斜させても、各毛羽は該各毛羽の回転体に対する摺動抵抗によって押圧方向よりも基材の搬送方向の上流側にずれた方向である実傾斜方向に傾斜されてしまう。こうした各毛羽の傾斜方向のずれは、各毛羽の回転体に対する摺動抵抗が大きくなるほど大きくなる。この点、上記構成によれば、各毛羽の回転体に対する摺動抵抗が大きくなるほど、押圧方向を基材の搬送方向の下流側へ大きく傾くように回転体の回転軸線を回動することで、各毛羽を回転体によって押圧方向へ傾斜させたときの実傾斜方向と各毛羽を傾斜させたい所望の傾斜方向とのずれを小さくすることが可能となる。したがって、連続搬送される基材上に立設された複数の毛羽を所望の傾斜方向へ精度よく傾斜させることが可能となる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記摺動抵抗は、前記回転体の回転速度、前記基材の搬送速度、前記各毛羽の雰囲気温度、前記各毛羽の硬さ、前記各毛羽の長さ、前記各毛羽の密度、及び前記各毛羽の材質のうち少なくとも1つのパラメータによって変化することを要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、各毛羽の回転体に対する摺動抵抗は、回転体の回転速度、基材の搬送速度、各毛羽の雰囲気温度、各毛羽の硬さ、各毛羽の長さ、各毛羽の密度、及び各毛羽の材質のうちの少なくとも1つのパラメータを考慮することで、精度が向上する。
【0011】
請求項4に記載の発明は、上流側から下流側に向かって連続搬送される長尺状の基材上に立設された複数の毛羽を前記基材の搬送経路の途中に配置された回転体が回転しながら押圧することにより該各毛羽の立設方向に対して傾斜させる斜毛機であって、前記回転体は、該回転体の回転時に前記各毛羽に対して接触可能に設けられた押圧部が該各毛羽を押圧するように構成されるとともに、前記各毛羽の立設方向に延びる軸線を中心として該回転体の回転軸線が回動することにより前記各毛羽を傾斜させる方向を変更可能に構成されていることを要旨とする。
【0012】
通常、連続搬送中の基材上の各毛羽を回転体によって加工傾斜方向へ傾斜させても、各毛羽は該各毛羽の回転体に対する摺動抵抗によって加工傾斜方向よりも基材の搬送方向の上流側にずれた方向である想定傾斜方向に傾斜されてしまう。こうした各毛羽の傾斜方向のずれは、各毛羽の回転体に対する摺動抵抗が大きくなるほど大きくなる。この点、上記構成によれば、各毛羽の回転体に対する摺動抵抗が大きくなるほど、加工傾斜方向を基材の搬送方向の下流側へ大きく傾くように回転体の回転軸線を回動することで、各毛羽を回転体によって加工傾斜方向へ傾斜させたときの想定傾斜方向と各毛羽を傾斜させたい所望の方向とのずれを小さくすることが可能となる。したがって、連続搬送される基材上に立設された複数の毛羽を所望の方向へ精度よく傾斜させることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、連続搬送される基材上に立設された複数の毛羽を所望の方向へ精度よく傾斜させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。
はじめに、本明細書において「斜毛」とは、基材上に立設された複数の毛羽を該各毛羽の立設方向に対して傾斜させることを言うものとする。
【0015】
図1に示すように、斜毛機11は、上流側である左側から下流側である右側に向かって連続搬送される基材としての長尺状の基布12上に立設された複数の毛羽13を該各毛羽13の立設方向に対して傾斜させるものである。すなわち、斜毛機11は、基布12の搬送経路の途中位置に設けられた第1斜毛ユニット14と、該第1斜毛ユニット14の下流側に隣り合うように設けられた第2斜毛ユニット15とを備えている。
【0016】
基布12の搬送経路における第1斜毛ユニット14よりも上流側の位置には、基布12上の各毛羽13に液体としての水を噴霧する液体噴霧手段としての水噴霧装置16が設けられている。一方、基布12の搬送経路における第2斜毛ユニット15よりも下流側の位置には、第1斜毛ユニット14及び第2斜毛ユニット15によって傾斜された後の各毛羽13を加熱しながらプレスする熱プレスユニット17が設けられている。
【0017】
熱プレスユニット17は、加熱ローラ18と、該加熱ローラ18の右斜め上側、左斜め下側、右斜め下側にそれぞれ配置された3つの支持ローラ19,20,21に掛装された無端状の耐熱ベルト22とを備えている。加熱ローラ18は、円柱状のローラ本体23と、該ローラ本体23の外周面を覆うように設けられた円筒状の回転筒24とを備えている。ローラ本体23と回転筒24との間には図示しないベアリングが介在しており、固定されたローラ本体23の外周面に沿って回転筒24が回転可能になっている。
【0018】
ローラ本体23には、該ローラ本体23の周方向に沿って複数(本実施形態では8本)のカートリッジヒータ25が互いに等間隔となるように埋設されている。そして、各カートリッジヒータ25が通電されて発熱することによって加熱ローラ18全体が均一に加熱されるようになっている。また、各支持ローラ19,20,21のうち加熱ローラ18の右斜め下側に配置された支持ローラ21には、該支持ローラ21を加熱ローラ18から離間するように右斜め下側に向かって付勢するコイルばね26が接続されている。
【0019】
そして、支持ローラ21がコイルばね26によって付勢されることにより、耐熱ベルト22の張力が高められ、加熱ローラ18(回転筒24)の外周面に巻き掛けられた基布12上の各毛羽13が該基布12とともに加熱ローラ18と耐熱ベルト22とによって挟圧されるようになっている。
【0020】
また、基布12の搬送経路における熱プレスユニット17よりも下流側の位置であって該熱プレスユニット17の左斜め上側には、巻き掛けられた基布12を下流側へ引っ張りながら送る引っ張りローラ27が設けられている。引っ張りローラ27の外周面は、粗面化されており、巻き掛けた基布12が滑らないようになっている。そして、引っ張りローラ27よりも下流側の位置には該引っ張りローラ27から送られる基布12を順次巻き取るための巻き取りローラ(図示略)が設けられている。
【0021】
基布12の搬送経路における該基布12の前後両側には、連続搬送されている該基布12が該基布12の搬送経路から逸脱しないように該基布12を保持するための保持手段としての保持装置28がそれぞれ設けられている。保持装置28は、基布12の搬送経路において第1斜毛ユニット14及び第2斜毛ユニット15を左右方向に挟むように設けられた一対の保持プーリ29と、該各保持プーリ29に掛装された無端状の保持ベルト30とを備えている。保持ベルト30は、各保持プーリ29間を周回移動可能に構成されている。
【0022】
保持ベルト30の外周面上には、該保持ベルト30の周回移動方向に沿って複数の保持針31が互いに等間隔となるように立設されている。そして、保持装置28は、各保持針31が連続搬送される基布12の短手方向における一方の端部を突き刺しながら保持ベルト30が各保持プーリ29間を周回移動することにより、基布12を該基布の搬送経路に沿って保持するようになっている。なお、2つの保持装置28は、基布12上の各毛羽13を傾斜させる方向に応じて、該各保持装置28のうちいずれか一方のみが使用される。すなわち、図2に示すように、各毛羽13を傾斜させる方向とは反対側に位置する保持装置(この場合、前側の保持装置)28が使用され、その保持装置28の保持ベルト30が保持針31により基布12の短手方向で対応する側の端部(この場合、前側の端部)を突き刺しながら周回移動する。
【0023】
次に、第1斜毛ユニット14の構成について詳述する。
図2及び図3に示すように、第1斜毛ユニット14は、床面F上に立設された4本の支持フレーム32と、該各支持フレーム32の上下方向における中央部よりもやや下側の位置において該各支持フレーム32同士を互いに連結する矩形板状のベース板33とを備えている。すなわち、ベース板33の四隅は、各支持フレーム32にそれぞれ固定されている。ベース板33上における中央部には直方体状の台座34が支持されており、該台座34上には左右方向に長い長尺板状の搬送台35が支持されている。
【0024】
搬送台35上には連続搬送される基布12が支持されるようになっており、搬送台35には左右方向に長く延びる複数(本実施形態では6本)のシーズヒータ36が前後方向に並列に埋設されている。そして、各シーズヒータ36が通電されて発熱することによって搬送台35が加熱されるようになっている。
【0025】
各支持フレーム32の上面には、矩形板状の天板37が前後方向にスライド移動可能に支持されている。すなわち、天板37の四隅は、各支持フレーム32の上面においてそれぞれ支持されている。天板37の中央部には該天板37を上下に貫通する円形の貫通孔38が形成されている。天板37の上面には、貫通孔38よりも径が一回り大きい円板状の回動板39が貫通孔38を塞ぐように回動可能に支持されている。
【0026】
回動板39の上面中央部にはモータ40が固定されている。モータ40の左面中央部には該モータ40の出力軸41が左方に向かって真っ直ぐに延びており、該出力軸41の先端には第1プーリ42が設けられている。回動板39の下面には下側に向かって延びる前後一対の角棒状の支持柱43が貫通孔38に挿通された状態で設けられており、各支持柱43の下端には矩形板状の支持部材44が水平状態で固定されている。
【0027】
支持部材44の下面における左右両端には一対の矩形板状の支持板45が下側に向かって延設されている。両支持板45間には、前後一対の回転軸46が所定間隔を置いて回転可能に架設されている。両回転軸46の中央部にはそれぞれ左右一対のスプロケット47が所定間隔を置いて支持されており、両回転軸46はそれぞれ両スプロケット47の中心を貫通している。
【0028】
両回転軸46に2つずつ支持された合計4つのスプロケット47のうち、右側に位置する2つのスプロケット47及び左側に位置する2つのスプロケット47には、無端状のチェーン48がそれぞれ掛装されている。両チェーン48の外周面上には、該両チェーン48間を橋架するように複数の矩形板状をなす第1履板49が設けられている。各第1履板49は、互いに平行となるように等間隔で配置されているとともに、両チェーン48を介して環状に繋がっている。各第1履板49は、基布12上の各毛羽13に対して接触可能になっている。
【0029】
図4に示すように、各第1履板49の外側の面には、両回転軸46と直交する方向に延びる複数の溝49aが互いに平行となるように該各第1履板49の外側の面全体にわたって並列に形成されている。そして、両チェーン48及び各第1履板49により第1無限軌道(いわゆるキャタピラ(R))50が構成されている。
【0030】
図2及び図3に示すように、後側の回転軸46は、その左端部が左側の支持板45よりも左側に突出しており、その左端には第2プーリ51が設けられている。また、支持部材44の上面における左端部には軸支持部材52が立設されており、該軸支持部材52には左右方向に延びる中継回転軸53がその中央部において回転可能に支持されている。中継回転軸53の左端には第3プーリ54が設けられているとともに、中継回転軸53の右端には第4プーリ55が設けられている。
【0031】
第1プーリ42と第4プーリ55とは上下方向において対応しているとともに、第2プーリ51と第3プーリ54とは上下方向において対応している。そして、第1プーリ42及び第4プーリ55には、第1タイミングベルト56が回動板39に設けられた挿通孔57に挿通された状態で掛装されている。一方、第2プーリ51及び第3プーリ54には第2タイミングベルト58が掛装されている。そして、第1〜第4プーリ42,51,54,55の径の大きさは、大きい順に第1プーリ42、第3プーリ54、第4プーリ55、第2プーリ51となっている。
【0032】
そして、モータ40を駆動すると、その回転力は、出力軸41、第1プーリ42、第1タイミングベルト56、第4プーリ55、中継回転軸53、第3プーリ54、第2タイミングベルト58、第2プーリ51を介して後側の回転軸46に伝達されるようになっている。後側の回転軸46が回転されると、該後側の回転軸46に支持された両スプロケット47を介して第1無限軌道50が右側から見て反時計回り方向(図2に矢印で示した方向)に回転するようになっている。この場合、第1無限軌道50の回転に伴って、前側の回転軸46に支持された両スプロケット47とともに該前側の回転軸46が右側から見て反時計回り方向(図2に矢印で示した方向)に従動回転する。
【0033】
したがって、第1無限軌道50は、後側の回転軸46の回転にともなって各第1履板49が両回転軸46の周囲を周回移動(回転移動)するとともに、両回転軸46間においては該両回転軸46間の距離分(所定距離)だけ各第1履板49が直線移動するようになっている。そして、第1無限軌道50は、各第1履板49が基布12上の各毛羽13の立設方向(鉛直方向)と交差する方向(水平方向)において両回転軸46の軸方向と直交する方向(図2では後方)へ直線移動する際に、該各毛羽13を順次に繰り返し押圧することで、該各毛羽13を十分に傾斜させ得るようになっている。
【0034】
この場合、第1斜毛ユニット14は、回動板39を鉛直方向に延びる軸線を中心として回動すれば、モータ40や支持部材44などとともに第1無限軌道50が該回動板39と一体的に回動するため、該第1無限軌道50によって各毛羽13を傾斜させるために押圧する方向(押圧方向)を水平方向に360度の範囲内で自由に変更することが可能になっている。すなわち、第1斜毛ユニット14は、回動板39を回動することで、第1無限軌道50の回転軸線(両回転軸46)を水平方向に360度の範囲内で自由に変更することが可能になっている。
【0035】
また、支持部材44の下面の前後両端部における左右方向の中央部には支持片59がそれぞれ下方に向かって突設されており、両支持片59間には加熱手段としてのシーズヒータ60が架設されている。シーズヒータ60は支持部材44の下面と第1無限軌道50との間に位置している。そして、シーズヒータ60が通電されて発熱すると、第1無限軌道50の各第1履板49が該シーズヒータ60の輻射熱によって加熱されるようになっている。
【0036】
次に、第2斜毛ユニット15の構成について詳述する。
第2斜毛ユニット15は、上記第1斜毛ユニット14の第1無限軌道50を図5に示した第2無限軌道61に変更したものであり、これ以外は上記第1斜毛ユニット14と全く同一の構成になっている。第2無限軌道61は、図4及び図5に示すように、上記第1無限軌道50において各第1履板49を、該各第1履板49から各溝49aを省略したものである各第2履板62に変更したものである。したがって、各第2履板62の外側の面は、平坦になっている。なお、本実施形態では、第1無限軌道50及び第2無限軌道61によって回転体が構成されるとともに、各第1履板49及び各第2履板62によって押圧部が構成されている。
【0037】
次に、斜毛機11の作用(斜毛機11による各毛羽13の斜毛方法)について説明する。
さて、左側から右側に向かって連続搬送中の基布12上に立設された各毛羽13を該基布12の搬送方向と直交する方向である後側に向かって傾斜(斜毛)させたい場合には、まず、第1無限軌道50及び第2無限軌道61によって各毛羽13を傾斜させるために押圧する方向である押圧方向A(図6参照)を決定する必要がある。
【0038】
ここで、通常、図6に示すように、連続搬送中の基布12上の各毛羽13を傾斜させるために第1無限軌道50及び第2無限軌道61によって押圧方向Aへ押圧しても、各毛羽13は該各毛羽13の第1無限軌道50及び第2無限軌道61に対する摺動抵抗Nによって押圧方向Aよりも基布12の搬送方向の上流側である左側に実傾斜方向Bがずれてしまう。こうした各毛羽13の傾斜方向のずれは、摺動抵抗Nが大きくなるほど大きくなる。
【0039】
そこで、この摺動抵抗Nの大きさに基づく押圧方向Aと実傾斜方向Bとの角度の差(図6にθで示す角度)を考慮して、実傾斜方向Bが実際に各毛羽13を傾斜させたい所望の傾斜方向である後側に向かう方向となるように、押圧方向Aを決定する必要がある。また、摺動抵抗Nは、第1無限軌道50及び第2無限軌道61の周回移動速度(回転速度)、基布12の搬送速度、各毛羽13の雰囲気温度、各毛羽13の硬さ、各毛羽13の長さ、各毛羽13の密度、及び各毛羽13の材質などのパラメータによって変化する。このため、角度θの値は、これら各パラメータによって決まる摺動抵抗Nに基づいて、予め実験を行うことで決定することができる。
【0040】
したがって、まず、各毛羽13を傾斜させたい所望の傾斜方向(本実施形態では、後側に向かう方向)が実傾斜方向Bとなるように決定した角度θ分だけ押圧方向Aが基布12の搬送方向の下流側である右側にずれる(傾く)ように、第1斜毛ユニット14及び第2斜毛ユニット15の回動板39をそれぞれ回動して第1無限軌道50及び第2無限軌道61の水平方向の向きを調節する。引き続き、第1斜毛ユニット14及び第2斜毛ユニット15のモータ40をそれぞれ駆動して第1無限軌道50及び第2無限軌道61をそれぞれ周回移動させる。
【0041】
続いて、上流側(左側)から下流側(右側)に向かって基布12を連続搬送すると、基布12上の各毛羽13は、まず、第1斜毛ユニット14において周回移動している第1無限軌道50の各第1履板49によって押圧される。すなわち、各毛羽13は、周回移動している各第1履板49によって押圧されることによって押圧方向Aに向かって順次押圧されて傾斜する。このとき、各第1履板49は、各毛羽13を押圧している間、押圧方向Aに沿って直線移動するため、ローラによって各毛羽13を押圧する場合よりも長い時間にわたって各毛羽13を押圧する。
【0042】
また、このとき、各第1履板49の外側の面(各毛羽13を押圧する押圧面)には各溝49aが形成されているため、各第1履板49は、該各溝49aが各毛羽13を梳くことにより、各毛羽13の傾斜方向への方向性を出すことを主として各毛羽13を押圧する。さらに、このとき、基布12における各毛羽13の傾斜方向とは反対側の前端部が前側の保持装置28により該基布12の搬送方向に沿って保持されているため、各第1履板49の周回移動力(回転移動力)によって基布12がその搬送経路から押圧方向A側である後側へ逸脱することはない。この場合、押圧方向Aが前側であれば、基布12における押圧方向Aとは反対側の後端部が後側の保持装置28により該基布12の搬送方向に沿って保持される。
【0043】
また、第1斜毛ユニット14においては、シーズヒータ60によって加熱された各第1履板49の熱と各シーズヒータ36によって加熱された搬送台35の熱とによって各毛羽13が効果的に加熱されることに加えて、各毛羽13が第1斜毛ユニット14よりも上流側に位置する水噴霧装置16から噴霧される水によって適度に湿らされている。このため、各第1履板49によって各毛羽13が熱で柔らかくなって傾斜されやすくなることに加えて、傾斜された後の各毛羽13が起き上がり難くなる。
【0044】
このように、第1斜毛ユニット14において連続搬送中の基布12上の各毛羽13が第1無限軌道50によって押圧方向Aに押圧されることで、各毛羽13の実傾斜方向Bが所望の傾斜(斜毛)方向と一致するようになる。
【0045】
そして、第1斜毛ユニット14において斜毛処理を施された基布12上の各毛羽13は、引き続き、第2斜毛ユニット15において、第1斜毛ユニット14の場合と同様に、斜毛処理される。すなわち、各毛羽13は、周回移動している第2無限軌道61の各第2履板62によって押圧方向Aに順次押圧される。このとき、各第2履板62の外側の面(各毛羽13を押圧する押圧面)は平坦になっているため、各第2履板62は、各毛羽13を押圧することを主として各毛羽13を傾斜させる。
【0046】
また、このとき、第2斜毛ユニット15における各毛羽13は、第1斜毛ユニット14の各第1履板49によって既に傾斜方向への方向性を出すことを主として傾斜されているため、各第2履板62により各毛羽13を押圧することを主として各毛羽13を傾斜させることで、所望の傾斜方向へ精度よく十分に傾斜される。なお、第2斜毛ユニット15では、各第2履板62によって各毛羽13を押圧すること以外は、第1斜毛ユニット14と同様の作用効果が得られる。
【0047】
このように、第2斜毛ユニット15において連続搬送中の基布12上の各毛羽13が第2無限軌道61によって押圧方向Aに傾斜されることで、各毛羽13の実傾斜方向Bが所望の傾斜(斜毛)方向と更に確実に一致するようになる。
【0048】
そして、第2斜毛ユニット15において所望の傾斜方向に傾斜された後の各毛羽13は、基布12とともに熱プレスユニット17によって挟圧されてより確実に傾斜され、その後、基布12とともに引っ張りローラ27によって下流側に送られて巻き取りローラ(図示略)によって順次巻き取られる。
【0049】
以上詳述した実施形態によれば次のような効果が発揮される。
(1)連続搬送される基布12上の各毛羽13は、周回移動(回転移動)している第1無限軌道50(各第1履板49)及び第2無限軌道61(各第2履板62)によって押圧されることで傾斜する。このとき、第1無限軌道50及び第2無限軌道61は、押圧方向Aに沿って所定距離だけ直線移動しながら各毛羽13を押圧するため、ローラによって各毛羽13を押圧する場合に比べて押圧方向Aに各毛羽13を押圧できる時間を長くすることができる。このため、基布12上の各毛羽13を十分に押圧して確実に傾斜させることができる。
【0050】
(2)第1無限軌道50及び第2無限軌道61は、鉛直方向に延びる軸線を中心として回動板39と一体回動するように構成されているため、回動板39を回動することで、水平方向に360度の範囲内で容易に押圧方向A(更に、摺動抵抗Nが同じなら実際に傾斜する実傾斜方向B)を変更することができる。
【0051】
(3)第1無限軌道50の各第1履板49及び第2無限軌道61の各第2履板62は、シーズヒータ60によって加熱されるので、加熱された各第1履板49及び各第2履板62によって各毛羽13を押圧することで、該各毛羽13を容易に傾斜させることができる。
【0052】
(4)基布12の連続搬送時に第1無限軌道50及び第2無限軌道61によって基布12上の各毛羽13を傾斜させるために押圧方向Aへ押圧する際に、基布12における押圧方向Aとは反対側の前端部が前側の保持装置28により該基布12の搬送方向に沿って保持される。このため、各第1履板49及び各第2履板62の周回移動力によって基布12がその搬送経路から押圧方向A側である後側へ逸脱しないようにすることができる。
【0053】
(5)連続搬送される基布12上の各毛羽13は、各第1履板49及び各第2履板62によって押圧方向Aへ押圧されて傾斜する前に水噴霧装置16によって適度に湿らされる。このため、各第1履板49及び各第2履板62によって押圧されて傾斜された後の各毛羽13を起き上がり難くすることができる。
【0054】
(6)連続搬送される基布12上の各毛羽13は、第1無限軌道50(各第1履板49)によって押圧された後、さらに第2無限軌道61(各第2履板62)によって押圧されるため、各毛羽13を十分に押圧して確実に傾斜させることができる。
【0055】
(7)連続搬送される基布12上の各毛羽13は、該各毛羽13を押圧する押圧面に各溝49aが形成された各第1履板49によって押圧された後、さらに該各毛羽13を押圧する押圧面が平坦な各第2履板62によって押圧される。すなわち、各毛羽13は、各第1履板49によって傾斜方向への方向性を出すことを主として傾斜された後、各第2履板62によって各毛羽13を押圧することを主として各毛羽13を傾斜される。したがって、各毛羽13を所望の傾斜方向へ精度よく十分に傾斜させることができる。
【0056】
(8)通常、連続搬送中の基布12上の各毛羽13を第1無限軌道50及び第2無限軌道61によって傾斜させるために押圧方向Aへ押圧しても、各毛羽13は該各毛羽13の第1無限軌道50及び第2無限軌道61に対する摺動抵抗Nによって押圧方向Aよりも基布12の搬送方向の上流側に角度θだけ実傾斜方向Bがずれてしまう。こうした各毛羽13の傾斜方向のずれは、摺動抵抗Nが大きくなるほど大きくなる。この点、本実施形態では、摺動抵抗Nが大きくなるほど、押圧方向Aが基布12の搬送方向の下流側へ大きく傾くように、鉛直方向に延びる軸線を中心として第1無限軌道50及び第2無限軌道61が水平方向に回動される。すなわち、摺動抵抗Nが大きくなるほど、角度θを大きくしている。このため、第1無限軌道50及び第2無限軌道61によって各毛羽を傾斜させるために押圧方向Aへ押圧したときの実傾斜方向Bと各毛羽13を傾斜させたい所望の傾斜方向とのずれを小さくすることができる。したがって、連続搬送される基布12上の各毛羽13を所望の傾斜方向へ精度よく傾斜させることができる。
【0057】
(9)摺動抵抗Nは、第1無限軌道50及び第2無限軌道61の周回移動速度、基布12の搬送速度、各毛羽13の雰囲気温度、各毛羽13の硬さ、各毛羽13の長さ、各毛羽13の密度、及び各毛羽13の材質などのパラメータによって変化する。このため、押圧方向Aと実傾斜方向Bとの角度の差である角度θは、各パラメータを考慮した摺動抵抗Nに基づく実験を行うことで、精度よく求めることができる。
【0058】
(変更例)
なお、上記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・水噴霧装置16は省略してもよい。
【0059】
・2つの保持装置28のうち少なくとも一方を省略してもよい。
・基布12は、必ずしも左側から右側に向かう水平方向に搬送する必要はなく、水平面に対して斜めに搬送するようにしてもよい。
【0060】
・シーズヒータ60は省略してもよい。
・第1無限軌道50及び第2無限軌道61のうち一方を省略してもよい。
・第1無限軌道50及び第2無限軌道61のうち少なくとも一方を、各毛羽13を押圧する無端状のベルトあるいは押圧ローラに変更してもよい。
【0061】
さらに、上記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
(イ)前記回転体は、前記押圧部が前記各毛羽の立設方向と交差する所定方向に沿って所定距離だけ直線移動して前記各毛羽を押圧しながら周回移動する構成とされていることを特徴とする請求項4に記載の斜毛機。
【0062】
上記(イ)に記載の構成によれば、回転体の押圧部が所定距離だけ直線移動しながら基材上の各毛羽を押圧するため、該各毛羽を傾斜させる方向に押圧できる時間を従来のブラッシングローラによって押圧する場合に比べて長くすることができる。したがって、基材上に立設された複数の毛羽を十分に押圧して傾斜させることができる。
【0063】
(ロ)前記回転体を加熱するための加熱手段を備えたことを特徴とする請求項4または上記(イ)に記載の斜毛機。
上記(ロ)に記載の構成によれば、加熱された押圧部によって基材上の各毛羽が押圧されるので、該押圧部によって各毛羽を容易に傾斜させることができる。
【0064】
(ハ)前記基材の搬送時に該基材が該基材の搬送経路から逸脱しないように該基材を保持する保持手段を備えたことを特徴とする請求項4、上記(イ)及び上記(ロ)のうちいずれか一項に記載の斜毛機。
【0065】
押圧部が各毛羽の立設方向と交差する所定方向に沿って回転しながら該各毛羽を押圧する際には、該押圧部の移動力によって基材が搬送経路から逸脱しようとする。この点、上記(ハ)に記載の構成によれば、基材を保持手段によって保持することができるので、該基材を搬送経路から逸脱しないようにすることができる。
【0066】
(ニ)前記基材の搬送経路における前記回転体よりも搬送方向の上流側には、前記各毛羽に液体を噴霧するための液体噴霧手段が配置されていることを特徴とする請求項4、上記(イ)、上記(ロ)及び上記(ハ)のうちいずれか一項に記載の斜毛機。
【0067】
上記(ニ)に記載の構成によれば、各毛羽を押圧部によって押圧する前に該各毛羽に液体を噴霧して湿らせることで、押圧部によって傾斜された後の各毛羽を起き上がり難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施形態における斜毛機の概略構成図。
【図2】実施形態における第1斜毛ユニットの部分断面図。
【図3】実施形態における第1斜毛ユニットの正面図。
【図4】実施形態における第1無限軌道の正面図。
【図5】実施形態における第2無限軌道の正面図。
【図6】実施形態において、連続搬送される基布と第1無限軌道(第2無限軌道)との位置関係を示す平面図。
【符号の説明】
【0069】
11…斜毛機、12…基材としての基布、13…毛羽、16…液体噴霧手段としての水噴霧装置、28…保持手段としての保持装置、49…押圧部を構成する第1履板、50…回転体を構成する第1無限軌道、60…加熱手段としてのシーズヒータ、61…回転体を構成する第2無限軌道、62…押圧部を構成する第2履板、A…押圧方向、B…実傾斜方向、N…摺動抵抗。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側から下流側に向かって連続搬送される長尺状の基材上に立設された複数の毛羽を回転体が回転しながら押圧することにより該各毛羽の立設方向に対して傾斜させる斜毛方法であって、
前記基材の搬送時における前記各毛羽の前記回転体に対する摺動抵抗の大きさに基づいて、前記各毛羽の立設方向に延びる軸線を中心として前記回転体の回転軸線を回動することを特徴とする斜毛方法。
【請求項2】
前記摺動抵抗が大きくなるほど、前記回転体によって前記各毛羽を押圧する押圧方向が、前記各毛羽を前記基材の搬送方向に対して交差する所望の傾斜方向に対して前記基材の搬送方向の下流側へ大きく傾くように前記回転体の回転軸線を回動することを特徴とする請求項1に記載の斜毛方法。
【請求項3】
前記摺動抵抗は、前記回転体の回転速度、前記基材の搬送速度、前記各毛羽の雰囲気温度、前記各毛羽の硬さ、前記各毛羽の長さ、前記各毛羽の密度、及び前記各毛羽の材質のうち少なくとも1つのパラメータによって変化することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の斜毛方法。
【請求項4】
上流側から下流側に向かって連続搬送される長尺状の基材上に立設された複数の毛羽を前記基材の搬送経路の途中に配置された回転体が回転しながら押圧することにより該各毛羽の立設方向に対して傾斜させる斜毛機であって、
前記回転体は、該回転体の回転時に前記各毛羽に対して接触可能に設けられた押圧部が該各毛羽を押圧するように構成されるとともに、前記各毛羽の立設方向に延びる軸線を中心として該回転体の回転軸線が回動することにより前記各毛羽を傾斜させる方向を変更可能に構成されていることを特徴とする斜毛機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−179905(P2009−179905A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−19517(P2008−19517)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(596024426)槌屋ティスコ株式会社 (47)
【Fターム(参考)】