説明

断面加工方法及び断面観察試料の製造方法

【課題】表面に有機物が形成されている試料の断面を精度よく得ることができる断面加工方法及び断面観察試料の製造方法を提供する。
【解決手段】有機物の層又は構造8を表面に有する試料2に、集束イオンビーム装置100を用いて集束イオンビームを照射し、試料の断面加工位置Lに断面加工を行う方法であって、保護膜となる原料ガスの存在下、断面加工位置を含む試料の表面に集束イオンビームを照射し、有機物の層又は構造の表面に保護膜7aを形成する保護膜形成工程と、保護膜が形成された断面加工位置に、保護膜形成工程における加速電圧より高い電圧で集束イオンビームを照射し、断面加工を行う断面加工工程とを有する試料の断面加工方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体デバイスの断面観察やTEM(透過電子顕微鏡)用試料の作製等に用いられ、集束イオンビームで試料を断面加工する方法及び断面観察試料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスや半導体レーザデバイスなどの微細パターンを有する試料はますます微細化が進んでいる。そのため、これらの試料の断面をSEM(走査電子顕微鏡)等により観察したり、さらにこの試料を薄片にしてTEM(透過電子顕微鏡)用試料を作製する際、断面加工をFIB(集束イオンビーム)で行うのが一般的になってきている。
ところで、表面に凹凸がある試料の断面加工を行うと、凹凸の影響によってFIBによるエッチング速度が変化し、切断面に縦筋が生じるという問題がある。そこで、断面加工を行う前に、FIBで誘起したCVD(化学的蒸着)により試料表面に膜を付ける技術が知られている(特許文献1)。
一方、近年、例えば半導体プロセスにおいて、レジストパターンが精度よく形成されているかを確認するため、表面にレジストパターンが形成されている試料の断面加工やTEM用試料の作製をFIBで行いたいという要望がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2-152155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、表面にレジスト膜等の有機物が形成されている試料の断面をFIBで加工しようとすると、ダメージに弱い有機物がFIBによって損傷を受け、その形状や構造が変わってしまい(変形し)、断面観察が十分に行えないという問題がある。又、特許文献1に記載されているように、断面加工前にFIB誘起CVDによって保護膜を付ける場合であっても、この際に照射されるFIBによって有機物が損傷を受けてしまう。一方、電子ビームにより、断面加工前の試料に保護膜を付けた場合でも、試料上の有機物を変形させてしまう。
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、表面に有機物が形成されている試料の断面を精度よく得ることができる断面加工方法及び断面観察試料の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明の断面加工方法は、有機物の層又は構造を表面に有する試料に、集束イオンビーム装置を用いて集束イオンビームを照射し、前記試料の断面加工位置に断面加工を行う方法であって、保護膜となる原料ガスの存在下、前記断面加工位置を含む前記試料の表面に前記集束イオンビームを照射し、前記有機物の層又は構造の表面に前記保護膜を形成する保護膜形成工程と、前記保護膜が形成された前記断面加工位置に、前記保護膜形成工程における加速電圧より高い電圧で前記集束イオンビームを照射し、断面加工を行う断面加工工程とを有する。
このような構成とすると、保護膜を形成する際、試料表面の有機物へのイオンビームによるダメージを少なくし、有機物の損傷を防止して精度の高い試料の断面を得ることができる。
【0006】
又、本発明の断面加工方法は、有機物の層又は構造を表面に有する試料に、集束イオンビーム装置を用いて集束イオンビームを照射し、該試料の断面加工位置に断面加工を行う方法であって、保護膜となる原料ガスの存在下、前記断面加工位置を含む前記試料の表面に第1の加速電圧で前記集束イオンビームを照射した後、前記第1の加速電圧より高い第2の加速電圧で前記試料の表面に前記集束イオンビームを照射する保護膜形成工程と、前記保護膜が形成された前記断面加工位置に、前記第1の加速電圧より高い第3の加速電圧で前記集束イオンビームを照射し、断面加工を行う断面加工工程とを有する。
このような構成とすると、試料表面の有機物に最初に保護膜を形成する際のイオンビームによるダメージを少なくし、有機物の損傷を防止して精度の高い試料の断面を得ることができる。又、最初に保護膜を形成した後は高い加速電圧で効率よく保護膜を形成することができる。
【0007】
前記試料は前記断面加工位置との位置関係が既知の位置合わせ部を備え、前記保護膜形成工程を行う前に、前記断面加工位置を含まず前記位置合わせ部を含む領域に電子ビーム又は前記集束イオンビームを照射して前記試料の位置を取得した後、前記既知の位置関係に基づき、前記電子ビーム又は前記集束イオンビームを照射せずに前記断面加工位置を前記集束イオンビームの照射領域に相対移動させる非照射移動工程をさらに有すると好ましい。
このような構成とすると、断面加工位置の位置合わせのために試料表面の有機物に電子ビーム又はイオンビームを照射する必要がなく、これら有機物の損傷を防止することができる。
【0008】
前記保護膜形成工程において前記集束イオンビームを照射する際、少なくとも2以上の異なる方向から前記集束イオンビームを前記試料に照射すると好ましい。
このような構成とすると、イオンビームの照射位置が変化するので、試料の表面の複雑な有機物の形状(例えば、凹部や側壁等)にもイオンビームが照射されて保護膜を十分に成膜することができる。
【0009】
前記保護膜形成工程において前記集束イオンビームを照射する際と、前記断面加工工程で前記集束イオンビームを照射する際とで、それぞれ異なる集束イオンビーム鏡筒を用いると好ましい。
このような構成とすると、1つの集束イオンビーム鏡筒を両工程に用いて加速電圧を途中で変える必要がなく、安定したイオンビームがすぐに得られるという利点がある。
又、各集束イオンビーム鏡筒の取り付け角度を変えることで、保護膜形成工程ではイオンビームを試料表面と角度を持って照射する一方、断面加工工程でイオンビームを試料表面に垂直に照射することができる。この場合に、1つの集束イオンビーム鏡筒を両工程に用いた場合には、試料ステージのチルト機構を用いて試料を傾ける必要があるが、このようなチルト機構を用いなくてよく、オペレータの作業が容易になる。
さらに、保護膜形成工程と断面加工工程とでイオンビームに用いるイオンを変えることができ、保護膜形成工程では断面加工工程で用いるイオンビームに比べて試料表面の有機物へのダメージの少ないイオン種を選び、有機物の損傷をより有効に防止することができる。
【0010】
さらに、前記断面加工位置から所定厚みの対向位置を断面加工し、該前記断面加工位置を表面として含む薄片を作製する薄片作製工程を有してもよい。
このようにすると、TEM(透過電子顕微鏡)用試料を作製できる。
【0011】
本発明の断面観察試料の製造方法は、有機物の層又は構造を表面に有する試料に、集束イオンビーム装置を用いて集束イオンビームを照射し、該試料の断面加工位置に断面加工を行って断面観察試料を製造する方法であって、保護膜となる原料ガスの存在下、前記断面加工位置を含む前記試料の表面に前記集束イオンビームを照射し、前記有機物の層又は構造の表面に前記保護膜を形成する保護膜形成工程と、前記保護膜が形成された前記断面加工位置に、前記保護膜形成工程における加速電圧より高い電圧で前記集束イオンビームを照射し、断面加工を行う断面加工工程とを有する。
【0012】
さらに、前記断面加工位置から所定厚みの対向位置を断面加工し、該前記断面加工位置を表面として含む薄片を作製する薄片作製工程を有してもよい。
このようにすると、TEM(透過電子顕微鏡)用試料を作製できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、表面に有機物が形成されている試料の断面を精度よく得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】試料の構成例を示す断面図である。
【図2】集束イオンビーム装置の全体構成を示すブロック図である。
【図3】断面加工する断面加工位置を決定するための非照射移動工程を示す図である。
【図4】第1保護膜形成工程を示す図である。
【図5】イオンビームの試料への照射方向を示す図である。
【図6】第2保護膜形成工程及び断面加工工程を示す図である。
【図7】薄片が形成された試料の構成を示す図である。
【図8】本実施形態による断面観察試料の構成を示す模式断面図である。
【図9】従来の断面加工方法による断面観察試料の構成を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施形態に係る断面加工方法の加工対象となる試料2の構成例を示す断面図である。
試料2は、半導体デバイス4の表面に反射防止層(BARC:Bottom Anti Reflective Coating)6を形成し、反射防止層6の表面に畝状にフォトレジストパターン8を形成した構成を有する。反射防止層6は有機被膜であり、フォトレジストの露光・現像時のパターン精度を向上させる。フォトレジストパターン8は、複数の線状の凸部が互いに離間しつつ平行に並んで構成されている。
又、フォトレジストパターン8より外側における半導体デバイス4の表面には、反射防止層6を貫き半導体デバイス4に一部到達する孔からなるアライメントマーク(位置合わせ部)9が形成されている。
なお、反射防止層6が特許請求の範囲の「有機物の層」に相当し、フォトレジストパターン8が特許請求の範囲の「有機物の構造」に相当する。有機物の層又は構造の他の例としては、Low-k膜等の各種有機被膜や構造が挙げられる。
【0016】
図2は本発明の実施形態に係る断面加工方法に好適に用いられる集束イオンビーム装置100の全体構成を示すブロック図である。図2において、集束イオンビーム装置100は、真空室10と、イオンビーム照射系(特許請求の範囲の「集束イオンビーム鏡筒」)20と、電子ビーム照射系30と、アルゴンイオンビーム照射系40と、ナノピンセット50と、試料ステージ60と、二次荷電粒子検出器70と、ガス銃80と、制御部90とを備えている。真空室10の内部は所定の真空度まで減圧され、集束イオンビーム装置100の各構成部分の一部又は全部が真空室10内に配置されている。
【0017】
又、試料ステージ60は、試料台61を移動可能に支持し、試料台61上には試料2が載置されている。そして、試料ステージ60は、試料台61を5軸で変位させることができる移動機構を有している。この移動機構は、試料台61を水平面に平行で且つ互いに直交するX軸及びY軸と、X軸及びY軸に直交するZ軸とに沿ってそれぞれ移動させるXYZ移動機構60bと、試料台61をZ軸回りに回転させるローテーション機構60cと、試料台61をX軸(又はY軸)回りに回転させるチルト機構60aとを備えている。試料ステージ60は、試料台61を5軸に変位させることで、試料2をイオンビーム20Aの照射位置に移動させる。
【0018】
制御部90は、中央演算処理装置としてのCPUと、データやプログラムなどを格納する記憶部(RAMおよびROM)93と、外部機器との間で信号の入出力を行う入力ポートおよび出力ポートとを備えるコンピュータで構成することができる。制御部90は、記憶部93に格納されたプログラムに基づいてCPUが各種演算処理を実行し、集束イオンビーム装置100の各構成部分を制御する。そして、制御部90は、イオンビーム(以下、適宜、集束イオンビームを「イオンビーム」と略記する)照射系20、電子ビーム照射系30、アルゴンイオンビーム照射系40、ナノピンセット50、二次荷電粒子検出器70、及び試料ステージ60の制御配線等と電気的に接続されている。
【0019】
また制御部90は、ソフトウェアの指令やオペレータの入力に基づいて試料ステージ60を駆動し、試料2の位置や姿勢を調整して試料2表面へのイオンビーム20Aの照射位置や照射角度を調整できるようになっている。また制御部90は、ピンセットステージ51及び挟持機構53を駆動し、ナノピンセット50の位置や姿勢を調整してナノピンセット50により試料2の把持を行えるようになっている。
なお、制御部90には、オペレータの入力指示を取得するキーボード等の入力手段92が接続されている。
【0020】
また、試料2に電子ビームやイオンビームを照射すると二次荷電粒子が生じ、二次荷電粒子検出器70で検出される。制御部90は、二次荷電粒子検出器70で検出された二次荷電粒子を輝度信号に変換して試料表面を表す画像データを生成し、この画像データを基に試料画像を生成する。試料画像は、制御部90に接続された表示装置(ディスプレイ)91に出力される。
そして、オペレータが試料画像上の所定の位置(上記したアライメントマーク9)を指定すると、制御部90は指定された座標を取得すると共に、試料2の断面加工位置とアライメントマーク9との位置関係に基づき、断面加工位置を算出する。そして、制御部90は、算出結果に基づいて試料ステージ60を移動させ、試料2の断面加工位置がイオンビームの照射領域内に配置されるようにする。断面加工位置とアライメントマーク9との位置関係は既知の情報として、予め記憶部93に格納されている。このようにして、試料2に電子ビームやイオンビームを照射せずに断面加工位置をイオンビームの照射領域内に移動させることができる。
【0021】
イオンビーム照射系(以下、適宜「第2集束イオンビーム鏡筒」という)20は、イオンを発生させるイオン源21と、イオン源21から流出したイオン(この例ではGa)を集束イオンビームに成形するとともに走査させるイオン光学系22とを備えている。イオンビーム鏡筒23を備えたイオンビーム照射系20から、真空室10内の試料ステージ60上の試料2に荷電粒子ビームであるイオンビーム20Aが照射される。このとき、試料2からは二次イオンや二次電子等の二次荷電粒子が発生する。この二次荷電粒子を、二次荷電粒子検出器70で検出して試料2の像が取得される。また、イオンビーム照射系20は、イオンビーム20Aの照射量を増すことで、照射範囲の試料2を断面加工(エッチング加工)する。
イオン光学系22は、例えば、イオンビーム20Aを集束するコンデンサーレンズと、イオンビーム20Aを絞り込む絞りと、イオンビーム20Aの光軸を調整するアライナと、イオンビーム20Aを試料に対して集束する対物レンズと、試料上でイオンビーム20Aを走査する偏向器とを備えて構成される。
【0022】
電子ビーム照射系30は、電子を放出する電子源31と、電子源31から放出された電子をビーム状に成形するとともに走査する電子光学系32とを備えている。電子ビーム照射系30から射出される電子ビーム30Aを試料2に照射することによって、試料2からは二次電子が発生するが、この発生した二次電子を、二次荷電粒子検出器70で検出して試料2の像を取得することができる。ここで、電子ビーム鏡筒33から射出される電子ビーム30Aは、イオンビーム20Aと同一位置の試料2上に照射する。
なお、本発明においては、電子ビーム照射系30を備えていない荷電粒子ビーム装置を用いてもかまわない。
【0023】
二次荷電粒子検出器70は、試料2へイオンビーム20A又は電子ビーム30Aが照射された際に、試料2から発生する二次荷電粒子(二次電子や二次イオン)を検出する。
【0024】
アルゴンイオンビーム照射系(以下、適宜「第1集束イオンビーム鏡筒」という)40は、アルゴンイオン源41と、アルゴンイオン光学系42と、アルゴンイオンビーム鏡筒43とを備えている。
アルゴンイオンビーム照射系40からは、アルゴンイオンビーム40Aが照射されるが、ガス銃80から化合物ガスを供給することで、試料2表面に保護膜を形成することができる。
【0025】
イオンビーム照射系20の照射軸は、試料台61表面に垂直であり、試料断面を作製するためのFIBが試料に対して垂直に照射できるようになっている。又、電子ビーム照射系30の照射軸はイオンビーム照射系20の照射軸と所定の角度をなしており、イオンビーム照射系20からのFIBで断面加工して形成された断面に電子ビームを斜めに照射できるようになっている。同様に、アルゴンイオンビーム照射系40の照射軸はイオンビーム照射系20の照射軸と所定の角度をなしており、試料2に電子ビームを斜めに照射できるようになっている。
そして、各照射系20、30、40から照射される3つのビームが同一領域(試料の同一の位置)で交わるように配置されている。
【0026】
ガス銃80は、試料2へデポジションガスやエッチングガス等の所定のガスを放出する。ガス銃80から、保護膜となる化合物ガスを供給しながら試料2にイオンビーム20Aやアルゴンイオンビーム40Aを照射することで、イオンビーム20Aやアルゴンイオンビーム40Aの照射領域近傍に局所的なガス成分を析出(デポジション)させて保護膜を形成することができる。又、ガス銃80からエッチングガスを供給しながら試料2にイオンビーム20Aを照射することで、イオンビーム20Aによる試料のエッチング速度を高めることができる。
【0027】
次に、本発明の実施形態に係る断面加工方法について説明する。
図3は、試料2表面上で、試料2をFIBで断面加工する断面加工位置Lを決定するための非照射移動工程を示す。断面加工位置Lは試料2表面に線状に延び、試料2の不良等を判別する際には加工後の断面を観察するようになっている。
まず、試料2表面上で、断面加工位置Lを含まず位置合わせ部を含む領域Sに電子ビーム又はイオンビームを照射すると、試料2の表面画像が得られる。オペレータが表示装置91上でアライメントマーク9(の中心O)を指定すると、制御部90は指定された座標を取得すると共に、記憶部93から断面加工位置Lとアライメントマーク9との既知の位置関係を読み出す。そして、制御部90は、この位置関係に基づき、断面加工位置Lの座標を算出して記憶部93に書き込む。そして、制御部90は、引き続く工程でイオンビーム(又は電子ビーム)照射する際、断面加工位置Lがイオンビーム(又は電子ビーム)の照射領域内に配置されるように算出結果に基づいて試料ステージ60を移動させる。
このようにして、試料2に電子ビームやイオンビームを照射せずに断面加工位置Lをイオンビームの照射領域内に移動させることができるので、断面加工位置Lの位置合わせのために試料2表面の有機物に電子ビーム又はイオンビームを照射する必要がなく、これら有機物の損傷を防止することができる。
【0028】
次に、試料2表面にイオンビームを照射して保護膜を形成する保護膜形成工程について説明する。
本発明において保護膜を形成する方法としては、a)1つのビーム照射条件(加速電圧)で一度に保護膜を形成する方法、b)複数のビーム照射条件(加速電圧)で保護膜を複数層にわたって積層形成する方法がある。又、c)断面加工工程で用いる集束イオンビーム鏡筒を兼用して保護膜を形成する方法、d)断面加工工程で用いる集束イオンビーム鏡筒と異なる集束イオンビーム鏡筒を用いて保護膜を形成する方法がある。従って、a)〜d)を組み合わせて4つの方法がある。そして、いずれの方法においても、断面加工工程における加速電圧より低い電圧で集束イオンビームを照射し、保護膜を形成する。
これらのうち、最も好ましい方法としてb)とd)を組み合わせた方法を本発明の実施形態として説明する。
【0029】
すなわち、この実施形態では、保護膜形成工程は、i)試料2の表面に第1の加速電圧で集束イオンビームを照射した後、ii)第1の加速電圧より高い第2の加速電圧で試料2の表面に集束イオンビームを照射する2つの工程を有する。そして、後工程となる断面加工工程では、iii)保護膜形成工程における加速電圧より高い電圧で集束イオンビームを照射し、断面加工を行う。
工程i)(以下、適宜「第1保護膜形成工程」という)について、図4を参照して説明する。まず、図3のようにしてイオンビーム(又は電子ビーム)を照射せずに断面加工位置Lをイオンビームの照射領域に配置した後、ガス銃80から保護膜となる化合物ガスを供給しつつ、断面加工位置Lを含む試料2表面に、第1集束イオンビーム鏡筒40からイオンビーム40Aを照射する(図4(a))。このとき、イオンビーム40Aを照射するための第1の加速電圧V1を1kV以下程度、より好ましくは500V以下程度とすることで、試料2表面の有機物へのイオンビームによるダメージを少なくし、有機物の損傷を防止しつつ保護膜(第1保護膜)を形成することができる。
保護膜としては、Pt,W,Cを例示することができるが、実際には、保護膜となる化合物ガスはPt等を含む有機化合物であるので、保護膜はPt,W,C等を含む有機被膜となる。
【0030】
この実施形態では、試料2の表面と所定の角度θ(但し90°未満、この例では45°)でイオンビーム40Aを照射している。このようにすると、試料2の表面の複雑な有機物の形状(例えば、図1に示す凹凸状のフォトレジストパターン8)の凹部や側壁にもイオンビーム40Aが照射されて保護膜を十分に成膜することができる。
又、この実施形態では、断面加工位置Lを含む所定の領域に、少なくとも2以上の異なる方向からイオンビーム40Aを照射する(図4(b)〜(f))。このようにすると、イオンビーム40Aの照射方向が変化するので、試料2の表面の複雑な有機物の形状(例えば、図1に示す凹凸状のフォトレジストパターン8)の凹部や側壁にもイオンビーム40Aが照射されて保護膜を十分に成膜することができる。
【0031】
異なる方向からイオンビーム40Aを照射することについて、図4(a)〜(f)について説明する。図4(a)〜(f)は、イオンビーム40Aの照射方向を一定としたときの、試料2の位置を上から見た図であり、試料ステージ60を平面上で回転させることにより、試料2の位置を図4(a)〜(f)のいずれかに設定することができる。
まず、フォトレジストパターン8の凸部の延びる方向A−Bに沿って、イオンビーム40Aを照射する(図4(a))。ここで、「方向A−Bに沿ってイオンビーム40Aを照射する」とは、図5(a)に示すように、イオンビーム40Aの照射方向(照射軸)と、線分ABとのなす角が、試料2の表面とイオンビーム40Aの照射方向との角度θに等しくなることをいう。
【0032】
次に、試料ステージ60を平面上で180°回転させてイオンビーム40Aを照射すると(図4(b))、イオンビーム40は方向A−Bに沿い、かつ線分ABに垂直な面に対して図4(a)の照射方向と対称な方向から照射されることになる(図5(a))。このようにすると、それぞれ異なる2つの方向(図4(a)、(b)に相当)からイオンビームを前記試料に照射するので、試料2の表面の複雑な有機物の形状(例えば、図1に示す凹凸状のフォトレジストパターン8)の各部分にイオンビーム40Aが照射され、凸部の影になる凹部や側壁にも保護膜を十分に成膜することができる。
さらに試料ステージ60を平面上で180°回転させ、図4(a)と同一の方向から再度イオンビーム40Aを照射する(図4(c))。同様に、図4(c)から試料ステージ60を平面上で180°回転させ、図4(b)と同一の方向から再度イオンビーム40Aを照射する(図4(d))。
【0033】
さらに、図4(d)から試料ステージ60を平面上で左周りに90°回転させ、図4(a)と垂直な方向からイオンビーム40Aを照射する(図4(e))。この場合、図5(b)に示すように、イオンビーム40Aの照射方向(照射軸)と、線分ABとのなす角は90°である。一方、線分ABの法線nとイオンビーム40Aの照射方向とのなす角は、試料2の表面とイオンビーム40Aの照射方向との角度θに等しくなっている。このように、図4(a)と垂直な方向からもイオンビーム40Aを照射することで、試料2の表面の複雑な有機物の形状(例えば、図1に示す凹凸状のフォトレジストパターン8)の各部分にイオンビーム40Aがさらに照射され、凸部の影になる凹部や側壁にも保護膜を十分に成膜することができる。
続いて、図4(e)から試料ステージ60を平面上で180°回転させてイオンビーム40Aを照射する(図4(f))。図4(f)の場合、イオンビーム40は、線分ABを通る面に対して図4(e)の照射方向と対称な方向から照射される。
【0034】
なお、この実施形態では、フォトレジストパターン8の凸部の延びる方向A−Bに沿ったイオンビーム40Aの照射を4回行う(図4(a)〜(d))のに対し、方向A−Bに垂直な方向からのイオンビーム40Aの照射回数が少ない(図4(e)、(f)の2回)。これは、方向A−Bに沿ってイオンビーム40Aを照射する方が、フォトレジストパターン8の凹部にイオンビーム40Aが照射されて保護膜を成膜し易いからである。なお、照射回数の制御のほかに照射時間を変えても同様の効果が得られる。
【0035】
次に、工程ii)(以下、適宜「第2保護膜形成工程」という)及び工程iii)(断面加工工程)について、図6を参照して説明する。第2保護膜形成工程では、ガス銃80から保護膜となる化合物ガスを供給しつつ、断面加工位置Lを含む試料2表面に、第2集束イオンビーム鏡筒20からイオンビーム20Aを照射し、保護膜(第2保護膜)を形成する(図6(h))。このとき、イオンビーム20Aを照射するための第2の加速電圧V2を第1の加速電圧V1より高くすることで、第1保護膜上に第2保護膜を効率よく形成することができる。つまり、試料2表面の有機物は既に第1保護膜で保護されているので、有機物へのイオンビームによるダメージを考慮せずに、比較的高い加速電圧でイオンビームを照射することができる。
第2の加速電圧V2としては、例えば5〜40kV程度、より好ましくは15〜30kV程度とすることができる。又、第2保護膜としては、第1保護膜と同様な組成とすることができるが、第1保護膜と同一組成とすると生産効率の点で好ましい。
なお、第2集束イオンビーム鏡筒20は後工程である断面加工工程でも用いるため、イオンビーム20Aが試料2の表面と垂直に照射される。
【0036】
なお、この実施形態では、第1保護膜形成工程と第2保護膜形成工程との間に、電子ビームにより保護膜(第3保護膜)を形成する第3保護膜形成工程を有する(図6(g))。第3保護膜形成工程は、ガス銃80から保護膜となる化合物ガスを供給しつつ、断面加工位置Lを含む試料2表面に、電子ビーム照射系30から電子ビーム30Aを照射して保護膜を形成するものである。
第3保護膜形成工程は必須ではないが、電子ビームは、イオンビームによる保護膜形成に比べて保護膜への不純物の混入が少なく、試料へのビーム種の注入がないため試料にダメージを与えない。又、第3保護膜形成工程で保護膜を形成することで第2保護膜形成工程で生じうるビーム種の試料への注入を抑えることができる。
【0037】
そして、第2保護膜形成工程に続く断面加工工程では、第1保護膜形成工程における加速電圧V1より高い加速電圧V3で集束イオンビーム20Aを照射し、断面加工を行う(図6(i))。イオンビーム20Aは第2集束イオンビーム鏡筒20から、試料2の表面と垂直に照射される。又、断面加工においては、イオンビーム20Aを絞り、断面加工位置Lに沿って走査してゆく。さらに、断面加工位置Lより手前の試料2の領域Rをイオンビーム20Aで深く削り、断面加工位置Lで断面が露出するようにする。
なお、加速電圧V3は、第2保護膜形成工程における加速電圧V2以上であればよく、V2と同一でもよい。V2=V3とすれば、加速電圧を変更する必要がない。
【0038】
さらに、この実施形態では、第1保護膜形成工程においてイオンビーム40Aを照射する集束イオンビーム鏡筒40が、断面加工工程でイオンビーム20Aを照射する集束イオンビーム鏡筒20と異なっている。
このようにすると、第1保護膜形成工程でのイオンビーム40Aの加速電圧V1が断面加工工程でのイオンビーム20Aの加速電圧V3より低くなっている場合に、1つの集束イオンビーム鏡筒を両工程に用いて加速電圧を途中で変える必要がなく、安定したイオンビームがすぐに得られるという利点がある。
又、第1保護膜形成工程ではイオンビーム40Aを試料2表面と角度θを持って照射する一方、断面加工工程でイオンビーム20Aを試料2表面に垂直に照射するが、1つの集束イオンビーム鏡筒を両工程に用いた場合には、試料ステージ60のチルト機構を用いて試料2を傾ける必要がある。これに対し、両工程でそれぞれ試料2に対する取り付け角度のそれぞれ異なる第1集束イオンビーム鏡筒40及び第2集束イオンビーム鏡筒20を用いるので、試料ステージ60のチルト機構を用いなくてよく、オペレータの作業が容易になる。
【0039】
さらに、第1保護膜形成工程と断面加工工程とでイオンビームに用いるイオンが異なっているが、1つの集束イオンビーム鏡筒を両工程に用いた場合には、イオンを変えることができない。つまり、第1保護膜形成工程では不活性なアルゴンイオンビームを用いているので、断面加工工程で用いるGaイオンビームに比べて試料2表面の有機物へのイオンビームによるイオン種注入によるダメージを少なくし、有機物の損傷をより有効に防止することができる。
第1保護膜形成工程で用いるイオンビームのイオン種としては、アルゴンの他、ヘリウム、ネオン、クリプトンを挙げることができ、これらは有機物へのイオンビームによるダメージが他のイオン(Ga等)に比べて少ない。
【0040】
なお、本発明において、「保護膜形成工程における加速電圧より断面加工工程における加速電圧が高い」という場合、保護膜形成工程が複数あれば、そのうち1つの工程(第1保護膜形成工程)の加速電圧より断面加工工程における加速電圧が高ければよい。
又、本発明において、「保護膜形成工程においてイオンビームを照射する際と、断面加工工程でイオンビームを照射する際とで、それぞれ異なる集束イオンビーム鏡筒を用いる」という場合、保護膜形成工程が複数あれば、そのうち1つの工程(第1保護膜形成工程)に用いる集束イオンビーム鏡筒が断面加工工程に用いる集束イオンビーム鏡筒と異なっていればよい。
【0041】
又、断面加工工程に続き、薄片作製工程を行ってもよい(図6(j))。薄片作製工程では、断面加工位置Lから所定厚みの対向位置L2に加速電圧V3で集束イオンビーム20Aを照射して断面加工し、断面加工位置Lと対向位置L2とをそれぞれ対向面とする薄片200を作製する。このとき、対向位置Lより手前の試料2の領域R2を加速電圧V3でイオンビーム20Aで深く削り、対向位置Lで断面が露出するようにする。
このようにして、薄片200が試料2の領域R,R2から立ち上がったTEM用試料を作製することができる。そして、この薄片200をナノピンセット50を用いて取出し、所定の試料台に保持し、TEM観察を行うことができる。
【0042】
図7は、薄片200が形成された試料2の構成を示す。断面加工により断面加工位置Lと対向位置L2を露出させ、薄片200を形成している。
【0043】
図8は、本発明の実施形態に係る断面加工方法によって製造された断面観察試料の構成の模式断面図を示す。
断面観察試料2Aは、半導体デバイス4の表面に反射防止層6を形成し、反射防止層6の表面にフォトレジストパターン8を形成してなっている。そして、フォトレジストパターン8の表面に第1保護膜7a、第3保護膜7b、第2保護膜7cがこの順に形成されている。又、第2保護膜7cは、第1保護膜7a及び第3保護膜7bに比べて厚い。
【0044】
一方、図9は、保護膜形成工程と断面加工工程の加速電圧が同一な(30kV)、従来の断面加工方法によって製造された断面観察試料2Bの構成の模式断面図を示す。なお、従来の断面加工方法は、保護膜形成工程において、断面加工工程に用いたのと同じ集束イオンビーム鏡筒を用い、アルゴンイオンビームを照射して保護膜を一度に形成したものである。
図9において、保護膜形成工程におけるイオンビームの加速電圧が高いため、有機膜である反射防止層6がフォトレジストパターン8の凹部の間で削られて変形部8xを形成しており、正確な断面が得られていないことがわかる。
【0045】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0046】
2 試料
2A 断面観察試料
2x 試料の断面予想位置より前方の部位
7a 保護膜(第1保護膜)
7c 保護膜(第2保護膜)
8 有機物の層又は構造
9 位置合わせ部
20、40 集束イオンビーム鏡筒
20A、40A 集束イオンビーム
30A 電子ビーム
100 集束イオンビーム装置
L 断面加工位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物の層又は構造を表面に有する試料に、集束イオンビーム装置を用いて集束イオンビームを照射し、前記試料の断面加工位置に断面加工を行う方法であって、
保護膜となる原料ガスの存在下、前記断面加工位置を含む前記試料の表面に前記集束イオンビームを照射し、前記有機物の層又は構造の表面に前記保護膜を形成する保護膜形成工程と、
前記保護膜が形成された前記断面加工位置に、前記保護膜形成工程における加速電圧より高い電圧で前記集束イオンビームを照射し、断面加工を行う断面加工工程と
を有する試料の断面加工方法。
【請求項2】
有機物の層又は構造を表面に有する試料に、集束イオンビーム装置を用いて集束イオンビームを照射し、該試料の断面加工位置に断面加工を行う方法であって、
保護膜となる原料ガスの存在下、前記断面加工位置を含む前記試料の表面に第1の加速電圧で前記集束イオンビームを照射した後、前記第1の加速電圧より高い第2の加速電圧で前記試料の表面に前記集束イオンビームを照射する保護膜形成工程と、
前記保護膜が形成された前記断面加工位置に、前記第1の加速電圧より高い第3の加速電圧で前記集束イオンビームを照射し、断面加工を行う断面加工工程と
を有する断面加工方法。
【請求項3】
前記試料は前記断面加工位置との位置関係が既知の位置合わせ部を備え、
前記保護膜形成工程を行う前に、前記断面加工位置を含まず前記位置合わせ部を含む領域に電子ビーム又は前記集束イオンビームを照射して前記試料の位置を取得した後、前記既知の位置関係に基づき、前記電子ビーム又は前記集束イオンビームを照射せずに前記断面加工位置を前記集束イオンビームの照射領域に相対移動させる非照射移動工程をさらに有する請求項1又は2記載の断面加工方法。
【請求項4】
前記保護膜形成工程において前記集束イオンビームを照射する際、少なくとも2以上の異なる方向から前記集束イオンビームを前記試料に照射する請求項1〜3のいずれかに記載の断面加工方法。
【請求項5】
前記保護膜形成工程において前記集束イオンビームを照射する際と、前記断面加工工程で前記集束イオンビームを照射する際とで、それぞれ異なる集束イオンビーム鏡筒を用いる請求項1〜4のいずれかに記載の断面加工方法。
【請求項6】
さらに、前記断面加工位置から所定厚みの対向位置を断面加工し、該前記断面加工位置を表面として含む薄片を作製する薄片作製工程を有する請求項1〜4のいずれかに記載の断面加工方法。
【請求項7】
有機物の層又は構造を表面に有する試料に、集束イオンビーム装置を用いて集束イオンビームを照射し、該試料の断面加工位置に断面加工を行って断面観察試料を製造する方法であって、
保護膜となる原料ガスの存在下、前記断面加工位置を含む前記試料の表面に前記集束イオンビームを照射し、前記有機物の層又は構造の表面に前記保護膜を形成する保護膜形成工程と、
前記保護膜が形成された前記断面加工位置に、前記保護膜形成工程における加速電圧より高い電圧で前記集束イオンビームを照射し、断面加工を行う断面加工工程と
を有する断面観察試料の製造方法。
【請求項8】
さらに、前記断面加工位置から所定厚みの対向位置を断面加工し、該前記断面加工位置を表面として含む薄片を作製する薄片作製工程を有する請求項7に記載の断面観察試料の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−176852(P2010−176852A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14925(P2009−14925)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【出願人】(508062144)エスアイアイナノテクノロジー ユウエスエイ インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】