説明

新規な抗フィブリン抗体

【課題】フィブリンと結合しかつフィブリノーゲンと結合しない新規な抗体、及びその用途の提供。
【解決手段】特定な配列からなるアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなるH鎖CDR1、H鎖CDR2、H鎖CDR3、L鎖CDR1、L鎖CDR2、L鎖CDR3を含み、ヒトフィブリン及びマウスヒブリンと結合することを特徴とする抗体又はその抗原結合性フラグメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な抗フィブリン抗体、並びにフィブリンを検出するための試薬及び方法に関する。また本発明は、抗フィブリン抗体を用いた血栓関連疾患を判定するための試薬及び方法に関する。さらに本発明は、抗フィブリン抗体と抗腫瘍性部分との複合体、及び該複合体を含む腫瘍の予防又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
癌と血液凝固との関係は1800年代のフランスの外科医トルソーの「胃癌患者における四肢の血栓による浮腫」に記されている。最近の臨床疫学データでも、膵臓癌、胃癌、脳腫瘍をはじめとして、ほとんどの癌腫において凝固亢進による血栓症の頻度が健常人より有意に高いことが明らかとなっている(非特許文献1)。癌組織の内部においても凝固異常に伴う、フィブリンの蓄積、凝固壊死、血管新生が腫瘍の進展とともに繰り返し起こっているものと思われる。
【0003】
フィブリンは、前駆体のフィブリノーゲンが生体に広く認められるのとは異なり、正常な生理的条件下の組織には存在しない。血管外に漏れ出て活性化されたトロンビンがフィブリノーゲンのC末端のペプチドを切り出すことにより、フィブリンモノマーが形成されて、そのフィブリンモノマーが重合してフィブリン繊維が形成されることによって生じるので、出血や炎症など病理的状態の組織に特異的な存在であり、癌や心筋梗塞、脳梗塞などの凝固を伴う病態が起きたときに形成される。従って、心筋梗塞や脳梗塞などの脳循環器疾患がない状況における癌組織中に存在するフィブリンは、まさに癌特異的分子といえる。
【0004】
一方、フィブリンを検出するための手段として抗体が開発されており、例えばヒトフィブリンを認識するがフィブリノーゲンを認識しない抗フィブリン抗体が特許文献1〜6に記載されている。
【0005】
また、モノクローナル抗体の作製法が確立された1970年代後半からモノクローナル抗体に毒素や抗癌剤などを付加して癌部を選択的に攻撃するという「ミサイル療法」の研究が盛んになっている。しかしながら、一部のリンパ腫や白血病での認可を除き、肺癌、大腸癌、乳癌、胃癌など通常の固形癌でのミサイル療法の臨床的な有用性は証明されず今日まで至っている。癌特異抗原に対するモノクローナル抗体を使用したいわゆるミサイル療法の問題点としては、(1)モノクローナル抗体の適応は特異的抗原が癌細胞の膜表面に発現している癌に限られる;(2)モノクローナル抗体が血中に遊離している抗原で中和されて肝心の癌局所まで送達されない可能性がある;(3)モノクローナル抗体が癌局所へ送達されたとしても、腫瘍血管から漏出後、腫瘍血管から癌細胞に到達するまでに間質が障壁となって肝心の癌細胞の部位までにモノクローナル抗体が到達できない可能性があることであり、特に、膵癌、スキルス胃癌、大腸癌、肺癌などの難治癌は間質が豊富であることが知られている。
【0006】
一方、本発明者の研究グループは癌の脈管学的特性として、腫瘍血管透過性の亢進がおきており、正常血管からは漏出しにくい高分子物質も癌の血管からは容易に漏出すること、また、血管新生に対してリンパ管新生に乏しいため、一旦癌組織で漏出した高分子物質はリンパ管にドレナージできずに長く癌組織に留まるというEPR効果(enhanced permeation and retention effect)を見い出している。
【0007】
上述のとおり、フィブリンは血栓形成や重要な疾患との関連性も示されていることから、フィブリンと特異的に反応する抗体の開発や、フィブリンを特異的に検出することができる手段及び方法が依然として望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001-354700号公報
【特許文献2】特開2009-149686号公報
【特許文献3】特開2008-29353号公報
【特許文献4】特開平9-127108号公報
【特許文献5】特開平9-104700号公報
【特許文献6】特開平8-301900号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】PD Stein et al Incidence of venous thromboembolism in patients hospitalized with cancer. American J Med 116, 60-68, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、フィブリンと結合しかつフィブリノーゲンと結合しない新規な抗体、及びその用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、フィブリン塊の粉砕産物を免疫原として用いてマウス抗体を作製したところ、ヒト及びマウスフィブリンと結合するが、ヒト及びマウスフィブリノーゲンとは結合しない抗体が得られ、この抗フィブリン抗体を用いてフィブリンの検出やフィブリンに関連する疾患の判定を行うことができることを見出した。また本発明者は、上記マウス抗フィブリン抗体に基づいてヒト型キメラ抗体を作製し、このキメラ抗体がマウス抗フィブリン抗体と同様の反応性を保持することを確認した。さらに、抗フィブリン抗体を用いて、腫瘍に存在するフィブリンを可視化でき、また腫瘍に抗腫瘍性化合物を送達できることを確認した。本発明は、上記知見に基づいてなされたものである。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[29]である。
[1]以下:
(a)配列番号1のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなるH鎖CDR1、
(b)配列番号2のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなるH鎖CDR2、
(c)配列番号3のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなるH鎖CDR3、
(d)配列番号4のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなるL鎖CDR1、
(e)配列番号5のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなるL鎖CDR2、及び
(f)配列番号6のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなるL鎖CDR3
を含み、ヒトフィブリンと結合することを特徴とする抗体又はその抗原結合性フラグメント。
【0013】
[2]ヒトフィブリン及びマウスフィブリンと結合する、[1]に記載の抗体又は抗原結合性フラグメント。
[3]ヒトフィブリノーゲン及びマウスフィブリノーゲンとは結合しない、[1]又は[2]に記載の抗体又は抗原結合性フラグメント。
[4]モノクローナル抗体である、[1]〜[3]のいずれかに記載の抗体又は抗原結合性フラグメント。
【0014】
[5]受託番号NITE P-923を有するハイブリドーマ細胞により産生される抗体である、[1]〜[4]のいずれかに記載の抗体又は抗原結合性フラグメント。
[6]受託番号NITE P-923を有するハイブリドーマ細胞により産生される抗体である、[1]〜[4]のいずれかに記載の抗体又は抗原結合性フラグメント。
[7]キメラ抗体又はヒト化抗体である、[1]〜[4]のいずれかに記載の抗体又は抗原結合性フラグメント。
【0015】
[8]配列番号8のアミノ酸配列からなるH鎖可変領域、及び配列番号10のアミノ酸配列からなるL鎖可変領域を含むキメラ抗体である、[7]に記載の抗体又はその抗原結合性フラグメント。
[9]標識されている、[1]〜[8]のいずれかに記載の抗体又は抗原結合性フラグメント。
[10][1]〜[8]のいずれかに記載の抗体又は抗原結合性フラグメントをコードする塩基配列を含む核酸。
[11][10]に記載の核酸を含む発現ベクター。
[12][10]に記載の核酸又は[11]に記載の発現ベクターを含み、[1]〜[8]のいずれかに記載の抗体又は抗原結合性フラグメントを産生する形質転換体。
【0016】
[13][12]に記載の形質転換体を培地において培養し、培養物から抗体又は抗原結合性フラグメントを採取するステップを含む、[1]〜[8]のいずれかに記載の抗体又は抗原結合性フラグメントの製造方法。
[14][1]〜[8]のいずれかに記載の抗体又は抗原結合性フラグメントを産生する細胞。
[15]受託番号NITE P-923を有するハイブリドーマ細胞である、[14]に記載の細胞。
[16][1]〜[9]のいずれかに記載の抗体又は抗原結合性フラグメントを含むことを特徴とするフィブリンの免疫学的測定用試薬。
【0017】
[17][1]〜[9]のいずれかに記載の抗体又は抗原結合性フラグメントを含むことを特徴とする血栓関連疾患の判定用試薬。
[18]血栓関連疾患が梗塞又は癌である、[17]に記載の試薬。
[19][9]に記載の標識された抗体又は抗原結合性フラグメントを含むことを特徴とする血栓可視化剤。
[20]梗塞又は癌を可視化するための、[19]に記載の血栓可視化剤。
【0018】
[21]サンプル中のフィブリンを検出するための方法であって、
(a)[1]〜[9]のいずれかに記載の抗体又は抗原結合性フラグメントと、サンプルとを接触させるステップ、
(b)該抗体又は抗原結合性フラグメントがサンプル中のフィブリンと結合したか否かを検出するステップ
を含む方法。
【0019】
[22]被験体における血栓関連疾患を判定するための方法であって、
(a)[1]〜[9]のいずれかに記載の抗体又は抗原結合性フラグメントと、被験体に由来するサンプルとを接触させるステップ、
(b)該抗体又は抗原結合性フラグメントがサンプル中のフィブリンと結合したか否かを検出するステップ
を含む方法。
[23]血栓関連疾患が梗塞又は癌である、[22]に記載の方法。
[24]サンプルが、細胞及び組織サンプル、並びに生体液サンプルからなる群より選択される、[21]〜[23]のいずれかに記載の方法。
【0020】
[25]改変型抗フィブリン抗体又は抗原結合性フラグメントの作製方法であって、
(a)[1]〜[8]のいずれかに記載の抗体又は抗原結合性フラグメントのアミノ酸配列から改変したアミノ酸配列を有する抗体又は抗原結合性フラグメントを調製するステップ、
(b)得られた抗体又は抗原結合性フラグメントがフィブリンと結合するか否かを判定するステップ
を含む方法。
[26][1]〜[9]のいずれかに記載の抗体又は抗原結合性フラグメントと、抗腫瘍性部分との複合体。
[27]抗体又は抗原結合性フラグメントと抗腫瘍性部分とが、リンカーを介して結合している、[26]に記載の複合体。
[28]抗腫瘍性部分が抗癌剤である、[26]又は[27]に記載の複合体。
[29][26]〜[28]のいずれかに記載の複合体を含む、腫瘍の予防又は治療剤。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、フィブリンに対する抗体及びその抗原結合性フラグメントが提供される。本発明の抗フィブリン抗体を用いることにより、高感度に、信頼性をもって、かつ簡便にフィブリン及び血栓の存在を検出することができ、結果として血栓関連疾患を判定することが可能となる。また、本発明の抗フィブリン抗体を用いることにより、適当な化合物又は分子を血栓が存在する部位、例えば腫瘍に送達させることが可能となる。特に本発明の抗フィブリン抗体は、ヒト及びマウスフィブリンと結合し、かつヒト及びマウスフィブリノーゲンとは結合しないものであるため、医療診断分野や医薬分野において有用と考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】マウス抗フィブリンIgM抗体と、マウス及びヒトフィブリン、並びにマウス及びヒトフィブリノーゲンとの反応性について試験したELISAの結果を示す。A及びBは、対照として市販の抗フィブリン抗体を用いた結果、Cは、本発明のマウス抗フィブリンIgM抗体を用いた結果である。
【図2】マウス抗フィブリンIgM抗体のH鎖(A)及びL鎖(B)のアミノ酸配列及び塩基配列を示す。
【図3】キメラ抗体と、マウス及びヒトフィブリン、並びにマウス及びヒトフィブリノーゲンとの反応性について試験したELISAの結果を示す。
【図4】本発明の抗体を用いたヒト膵癌組織の免疫染色結果を示す写真である。
【図5】本発明の抗体を用いたヒト脳腫瘍組織の免疫染色結果を示す写真である。Aは、ヒト脳腫瘍(グリオーマ)手術組織切片を示し、Bは、その切片を免疫染色した結果を示す。
【図6】本発明の抗体を用いた癌組織の免疫染色結果を示す写真である。Aは、ヘマトキシリン・エオジン染色を行った組織を示し、Bは、抗フィブリン抗体IgMによる免疫染色組織を示し、Cは、蛍光標識したヒト型キメラ抗フィブリンIgGの免疫染色組織を示す。
【図7】本発明の抗体を用いた癌組織のin vivoイメージングを示す写真である。Aは、ヒト乳癌担持マウスにおける腫瘍形成を示し、B及びCは、腫瘍形成部位における標識化ヒト型キメラ抗体の集積を示す。
【図8】分枝状リンカーの合成スキーム(A〜H)、抗腫瘍性化合物SN-38とPEGとの結合スキーム(I〜K)と、分枝状リンカーとPEG−SN-38複合体との結合を示す。
【図9】本発明の抗フィブリン抗体と、抗腫瘍性化合物SN-38との結合方法を示す。
【図10】直鎖状リンカーを介したSN-38と抗体との複合体(A)、又は分枝状リンカーを介したSN-38と抗体との複合体(B)の存在下における、SUIT2細胞の細胞増殖率(%)を示すグラフである。
【図11】発癌モデルマウスにおける腫瘍に対する抗フィブリン抗体−SN-38複合体の抗腫瘍効果を示すグラフである。
【図12】発癌モデルマウスにおける腫瘍に対する抗フィブリン抗体−SN-38複合体の抗腫瘍効果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、フィブリンに対する新規な抗体を提供する。フィブリンとは、血液凝固に関与するタンパク質であり、血漿中に存在するフィブリノーゲンからトロンビンの作用によりフィブリンモノマーが生成される。このフィブリンモノマーがポリマーを形成してゲル化することによって、不溶性のフィブリン塊、すなわち血栓となる。フィブリンの構造及び機能については多数の報告があり、当技術分野で公知である。本発明は、フィブリンと特異的に結合する抗体及び抗原結合性フラグメントと、それらの用途に関する。
【0024】
1.フィブリンに対する抗体及び抗原結合性フラグメント
本発明に係る抗体は、フィブリンと結合し、フィブリノーゲンとは結合しないことを特徴とする。本発明に係る抗体及び抗原結合性フラグメントは、以下のH鎖(重鎖)相補性決定領域(CDR)及びL鎖(軽鎖)CDRを含む:
(a)FTNYGMN(配列番号1)のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなるH鎖CDR1、
(b)WINTYTGEATYA(配列番号2)のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなるH鎖CDR2、
(c)LMDY(配列番号3)のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなるH鎖CDR3、
(d)KASQDINKYIA(配列番号4)のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなるL鎖CDR1、
(e)YTSTLQP(配列番号5)のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなるL鎖CDR2、及び
(f)LQYDNLTW(配列番号6)のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなるL鎖CDR3。
【0025】
本発明において「抗体」及び「抗原結合性フラグメント」とは、フィブリンに特異的に結合する抗体分子全体またはそのフラグメント(例えば、Fab、Fab'、F(ab')2、Fvなどのフラグメント)を意味し、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。また本発明において「抗体」及び「抗原結合性フラグメント」は、キメラ抗体、ヒト化抗体及びヒト抗体、並びにそれらのフラグメントも包含する。
【0026】
本発明において、抗体がフィブリンに「特異的に結合する」とは、その抗体の他のペプチド又はタンパク質に対する親和性よりも、フィブリンに対して高い親和性で結合することを意味する。ここで、「高い親和性」とは、当技術分野で公知の方法によって、フィブリンを他のペプチド又はタンパク質から区別して検出することが可能な程度に高い親和性を意味し、典型的には、結合定数(Ka)が少なくとも107M-1、好ましくは少なくとも108M-1、より好ましくは109M-1またはそれより高いものであるような結合親和性を意味する。
【0027】
本発明において、フィブリンとの結合(反応性)及びフィブリノーゲンとの結合(反応性)は、当技術分野で公知の方法により判定することができ、例えば公知のELISA法を利用して判定することができる(Wu, Sau-Ching et al. Applied and Environmental Microbiology 68:3261-3269, 2002)。
【0028】
また本発明に係る抗体及び抗原結合性フラグメントは、マウス及びヒトのフィブリンと結合することができ、マウス及びヒトのフィブリノーゲンとは結合しない。従って、マウスにおいて本抗体を用いて得られた試験データをヒトに外挿することが可能である。
【0029】
なお、本発明において「保存的アミノ酸置換」とは、当技術分野で公知であり、あるアミノ酸が、そのアミノ酸と類似の性質を示すアミノ酸と置換されることを指す。当技術分野では、特定のアミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列を含むタンパク質は、その特定のアミノ酸配列を含むタンパク質と同等の活性を保持することが知られている。従って、本発明においても、そのような保存的アミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む抗体及び抗原結合性フラグメントは、所望の活性、すなわちフィブリンとの結合性を保持している限り、本発明の抗体に含まれる。例えば、中性(極性)アミノ酸(Asn、Ser、Gln、Thr、Tyr、Cys)、中性(非極性、すなわち疎水性)アミノ酸(Gly、Trp、Met、Pro、Phe、Ala、Val、Leu、Ile)、酸性(極性)アミノ酸(Asp、Glu)、塩基性(極性)アミノ酸(Arg、His、Lys)が、同じ性質を有するアミノ酸と置換される。
【0030】
以下、本発明に係る抗体又はその抗原結合性フラグメントの作製方法について詳述する。
【0031】
本発明の抗体は、免疫原として、フィブリン塊を粉砕したものをバッファーに溶解し、必要であれば、免疫を効果的に行うためにアジュバントを添加したものを使用して作製することができる。アジュバントとしては、市販のフロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)等が挙げられる。これらのアジュバントは、単独で又は混合して用いることができる。
【0032】
モノクローナル抗体を作製する場合は、免疫原を、哺乳類、例えばマウス、ウサギ、ラットなどに投与する。免疫は、主として静脈内、皮下、腹腔内、足蹠に注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔で、1〜5回の免疫を行う。そして、最終の免疫日から3〜20日後に抗体産生細胞を採集する。抗体産生細胞としては、リンパ節細胞、脾臓細胞、末梢血細胞等が挙げられる。
【0033】
ハイブリドーマを得るため、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞として、一般に入手可能な株化細胞を使用することができる。使用する細胞株としては、薬剤選択性を有し、未融合の状態ではHAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを含む)で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが好ましい。ミエローマ細胞としては、例えばP3X63-Ag.8.U1(P3U1)、NS-Iなどのマウスミエローマ細胞株が挙げられる。
【0034】
次に、上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させる。細胞融合は、血清を含まないDMEM、RPMI-1640培地などの動物細胞培養用培地中で、抗体産生細胞とミエローマ細胞とを混合し、細胞融合促進剤(例えばポリエチレングリコール等)の存在下で融合反応を行う。また、エレクトロポレーションを利用した市販の細胞融合装置を用いて細胞融合させることもできる。
【0035】
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。例えば、細胞懸濁液をウシ胎児血清含有RPMI-1640培地などで適当に希釈後、マイクロタイタープレート上にまく。各ウエルに選択培地(例えばHAT培地)を加え、以後適当に選択培地を交換して細胞培養を行う。その結果、選択培地で培養開始後、10〜30日程度で生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
【0036】
次に、増殖してきたハイブリドーマの培養上清を、フィブリンに反応する抗体が存在するか否かについてスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは、通常の方法に従えばよく、例えば酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、酵素免疫アッセイ(EIA)、又は放射性免疫アッセイ(RIA)等を採用することができる。融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行い、目的のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを樹立する。
【0037】
樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法又は腹水形成法等を採用することができる。上記抗体の採取方法において抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
【0038】
本発明において使用可能なモノクローナル抗体のグロブリンタイプは、フィブリンとの特異的結合活性を有するものである限り特に限定されるものではなく、IgG、IgM、IgA、IgE、IgDのいずれでもよいが、IgG及びIgMが好ましい。
【0039】
上述のモノクローナル抗体の作製方法に従って、本発明者はマウス抗フィブリンIgM抗体を産生するハイブリドーマ細胞を樹立した。本発明においては、受託番号NITE P-923を有するハイブリドーマ細胞102-10から産生される抗体を使用することが好ましい。このハイブリドーマ細胞102-10から産生される抗体は、配列番号8に示されるアミノ酸配列からなるH鎖可変領域と、配列番号10に示されるアミノ酸配列からなるL鎖可変領域とを含む。また、この抗体のH鎖CDR1〜3は、それぞれ配列番号1〜3に示すアミノ酸配列を有し、L鎖CDR1〜3は、それぞれ配列番号4〜6に示すアミノ酸配列を有する。
【0040】
また本発明の抗体は、上記ハイブリドーマ細胞102-10により産生される抗体が結合するエピトープに結合する抗体であってもよい。
【0041】
また本発明の抗体は、上述のようにして作製されたフィブリンに対する抗原特異性を有する抗体分子からの遺伝子を適当な生物学的活性を有するヒト抗体分子からの遺伝子と共にスプライシングすることによって、ヒト型キメラ抗体(Morrison et al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci., 81: 6851-6855; Neuberger et al., 1984, Nature, 312: 604-608; Takeda et al., 1985, Nature, 314: 452-454)を作製することができる。また、一本鎖抗体(米国特許第4,946,778号;Bird, 1988, Science 242: 423-426; Huston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-5883; Ward et al., 1989, Nature 334: 544-546)、F(ab’)2フラグメント、Fabフラグメント、一本鎖抗体なども、当技術分野で公知の技術(例えばパパイン又はトリプシンによる消化)を利用して作製することができる。
【0042】
上述した本発明の抗体及び抗原結合性フラグメントは、遺伝子工学的手法を利用して作製することも可能である。
【0043】
例えば、上記のようにして作製したハイブリドーマ細胞株が有する核酸であって、該ハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体のH鎖又はL鎖を含む抗体をコードする塩基配列を含む核酸から、該モノクローナル抗体を作製することができる。これらの核酸はハイブリドーマから通常の遺伝子工学的手法により得ることができ、またその塩基配列も公知の塩基配列決定法により決定することができる。例えば、ハイブリドーマ細胞株よりmRNAを抽出し、cDNAを合成する。合成したcDNAを、ファージ又はプラスミドなどのベクターに挿入し、cDNAライブラリーを作製する。該ライブラリーより、ヒト以外の動物の抗体、例えばマウス抗体の定常領域部分又は可変領域部分をプローブとして用い、H鎖可変領域(VH)をコードするcDNAを有する組換えファージ又は組換えプラスミド、およびVLをコードするcDNAを有する組換えファージ又は組換えプラスミドをそれぞれ単離する。組換えファージ又は組換えプラスミド上の目的とする抗体のH鎖可変領域(VH)およびL鎖可変領域(VL)の全塩基配列を決定し、塩基配列よりVHおよびVLの全アミノ酸配列を推定する。例として、ハイブリドーマ細胞株102-10が産生するモノクローナル抗体のH鎖可変領域及びL鎖可変領域をコードする核酸の塩基配列をそれぞれ配列番号7及び配列番号9に示す。
【0044】
また、該H鎖可変領域及びL鎖可変領域をコードする核酸は、上記塩基配列の変異体(天然の変異体及び人為的な変異体)であってもよい。例えば、該H鎖又はL鎖可変領域をコードする核酸の塩基配列において、1若しくは数個の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を有し、かつフィブリンに結合するタンパク質をコードする変異体を用いることができる。ここで、「1若しくは数個」とは、1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個を指す。また例えば、H鎖又はL鎖可変領域をコードする核酸の塩基配列の相補配列に対してストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつフィブリンと結合するタンパク質をコードする変異体と用いることができる。ここで、「ストリンジェントな条件」とは、これに限定されるものではないが、例えば30℃〜50℃で、3〜4×SSC(150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム、pH7.2)、0.1〜0.5% SDS中で1〜24時間のハイブリダイゼーション、より好ましくは40℃〜45℃で、3.4×SSC、0.3%SDS中で1〜24時間のハイブリダイゼーション、そしてその後の洗浄を含む。洗浄条件としては、例えば、2×SSCと0.1%SDSを含む溶液、および1×SSC溶液、0.2×SSC溶液による室温での連続した洗浄などの条件を挙げることができる。ただし、上記条件の組み合わせは例示であり、当業者であればハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記の又は他の要素(例えば、ハイブリダーゼーションプローブの濃度、長さ及びGC含量、ハイブリダイゼーションの反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0045】
キメラ抗体は、例えばMorrison et al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci., 81: 6851-6855; Neuberger et al., 1984, Nature, 312: 604-608; Takeda et al., 1985, Nature, 314: 452-454に記載される技術を用いて製造することができる。例えば、上述のハイブリドーマ細胞株のマウスモノクローナル抗体の遺伝子を、他の哺乳動物由来の抗体分子の遺伝子と共にスプライシングすることによってキメラ抗体を作製することができる。キメラ抗体として、例えば、上記マウスモノクローナル抗体のH鎖及び/又はL鎖可変領域とヒト免疫グロブリン定常領域とを有するヒト型キメラ抗体を挙げることができる。本発明においては、キメラ抗体の作製のために、H鎖可変領域及び/又はL鎖可変領域をコードする核酸の塩基配列(それぞれ配列番号7及び配列番号9)、並びに該塩基配列の変異体を用いることができる。
【0046】
またヒト化抗体は、例えばマウスモノクローナル抗体由来の可変領域又は超可変領域を含む可変領域の一部と、ヒト免疫グロブリンの定常領域、又はヒト免疫グロブリンの可変領域の一部及び定常領域とを有する抗体であり、ヒト化抗体の場合、マウス由来の抗体領域部分は約10%未満であることが望ましい。本発明において、ヒト化抗体は、例えば上記マウスモノクローナル抗体のH鎖可変領域及び/又はL鎖可変領域のアミノ酸配列中の少なくとも1つの相補性決定領域(CDR1、2及び3)を含むアミノ酸配列を含むことができる。具体的には、マウスモノクローナル抗体由来の可変領域は、以下のCDR:
(a)FTNYGMN(配列番号1)のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなるH鎖CDR1、
(b)WINTYTGEATYA(配列番号2)のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなるH鎖CDR2、
(c)LMDY(配列番号3)のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなるH鎖CDR3、
(d)KASQDINKYIA(配列番号4)のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなるL鎖CDR1、
(e)YTSTLQP(配列番号5)のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなるL鎖CDR2、又は
(f)LQYDNLTW(配列番号6)のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなるL鎖CDR3
のうち少なくとも1つを含むものとすることができる。
【0047】
なお、配列番号1〜3は、それぞれ配列番号8に示されるH鎖可変領域アミノ酸配列の48〜54番、69〜80番及び118〜121番のアミノ酸に相当し、配列番号4〜6は、それぞれ配列番号10に示されるL鎖可変領域アミノ酸配列の44〜54番、70〜76番及び109〜116番のアミノ酸に相当する。
【0048】
上記マウスドナー配列(CDR配列)に適するヒトアクセプター抗体配列は、マウス可変領域のアミノ酸配列と既知のヒト抗体のH鎖又はL鎖の配列とのコンピュータ比較によって同定することができる。そのフレームワーク配列がマウスL鎖可変領域及びH鎖可変領域のフレームワーク領域と高い配列同一性を表すヒト抗体からの可変ドメインは、マウスフレームワーク配列を用いてNCBI BLAST(米国)を利用するKabatデータベースに照会することによって同定することができる。このとき、マウスドナー配列と80%以上、好ましくは90%以上の配列の同一性を共有するアクセプター配列を選択することができる。このようにして同定されたヒトアクセプター抗体H鎖及びL鎖配列をコードする塩基配列をベースにして、その可変領域の一部をマウス抗体のものと置換するように組換えを行う。
【0049】
また、抗原結合性フラグメント、例えばFab、F(ab’)2、Fvフラグメント、一本鎖抗体などのための発現ベクターは、当業者であれば適宜設計することができる。
【0050】
続いて、抗体又は抗原結合性フラグメントのH鎖及び/又はL鎖をコードする核酸又はその変異体をクローニングし、適当な発現ベクターに組み込む。発現ベクターとしては、例えば、pAGE107(Cytotechnology, 3, 133 (1990))、pAGE103(J. Biochem., 101, 1307 (1987))、pQCxID(クロンテック)及びpQCxIH(クロンテック)等が挙げられる。発現ベクターには、抗体又は抗原結合性フラグメントをコードする核酸の他、プロモーター及びエンハンサー、選択マーカー遺伝子などを挿入してもよい。そのようなプロモーター及びエンハンサーとしては、SV40の初期プロモーターとエンハンサー、モロニーマウス白血病ウイルスのLTRプロモーターとエンハンサー、および免疫グロブリンH鎖のプロモーターとエンハンサー等が挙げられる。また選択マーカー遺伝子としては、ネオマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子及びクロラムフェニコール耐性遺伝子が挙げられる。
【0051】
発現ベクターは、H鎖及びL鎖をコードする核酸の両方を単一の発現ベクターに組み込んだものであってもよいし、あるいはH鎖をコードする核酸を組み込んだ発現ベクター及び/又はL鎖をコードする核酸を組み込んだ発現ベクターであってもよい。
【0052】
ヒト型キメラ抗体用発現ベクターを構築する場合には、例えばキメラ抗体発現用ベクターのヒト抗体のH鎖定常領域(CH)およびL鎖定常領域(CL)をコードする遺伝子の上流にあらかじめ制限酵素の認識配列を設けておき、この認識配列からなるクローニングサイトにマウス抗体の可変領域をコードするcDNAを挿入する。
【0053】
ヒト化抗体用発現ベクターを構築する場合には、ヒト抗体の可変領域のフレームワーク領域(FR)のアミノ酸配列をコードするDNA配列とマウス抗体の可変領域のCDRのアミノ酸配列をコードするDNA配列を連結させて、VHのアミノ酸配列及びVLのアミノ酸配列をコードするDNA配列を設計する。次いで、ヒト抗体のCH及びCLをコードする遺伝子の上流に、ヒト化抗体のVH及びVLをコードするcDNAを挿入し、ヒト化抗体用発現ベクターを構築することができる。
【0054】
上述のとおり構築した発現ベクターを、適当な宿主細胞に導入して、形質転換体を得る。使用する宿主としては、導入される発現ベクター上の核酸を発現し、抗体又は抗原結合性フラグメントを産生できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、細菌(大腸菌等)、酵母(サッカロミセス・セレビシエ等)、動物細胞(COS細胞、CHO細胞等)、昆虫(カイコ、Sf9細胞、Sf21細胞等)などが挙げられる。
【0055】
細菌又は酵母への核酸又は発現ベクターの導入方法は、細菌又は酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等が挙げられる。また、動物細胞又は昆虫細胞への核酸又は発現ベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。
【0056】
形質転換体は、導入する核酸内に構成されるマーカー遺伝子の性質を利用して選択される。例えば、ネオマイシン耐性遺伝子を用いた場合には、G418薬剤に抵抗性を示す細胞を選択する。
【0057】
本発明の抗体又は抗原結合性フラグメントは、それをコードする核酸が導入された前記形質転換体を培地において培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。「培養物」とは、培養上清、培養細胞又は細胞破砕物のいずれをも意味するものである。形質転換体を培地に培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。
【0058】
細菌又は酵母を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。培養は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、約20〜40℃で約1〜24時間行う。培養期間中、pHは中性付近に保持する。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているRPMI1640培地、DMEM培地又はこれらの培地にウシ胎児血清等を添加した培地等が用いられる。培養は、通常、5%CO2存在下、約37℃で約1〜7日間行う。培養中は必要に応じてカナマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0059】
培養後、抗体又は抗原結合性フラグメントが細胞内又は菌体に生産される場合には、細胞又は菌体を破砕することによりタンパク質を抽出する。また、抗体又は抗原結合性フラグメントが細胞外又は菌体外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により細胞又は菌体を除去する。
【0060】
採取された抗体又は抗原結合性フラグメントは、当該技術分野において周知の方法、例えばプロテインA又はプロテインGカラムによるクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、硫安塩析法、ゲル濾過、アフィニティクロマトグラフィー等を適宜組み合わせることにより精製することができる。
【0061】
精製した抗体又は抗原結合性フラグメントの分子量は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、ウエスタンブロッティング法等で測定することができる。また、得られた抗体又は抗原結合性フラグメントの反応性、すなわちフィブリンに対する結合活性及び場合によりフィブリノーゲンに対する結合活性の測定は上述の方法などにより測定することができる。
【0062】
2.フィブリンの免疫学的測定用試薬
上述の通り作製した抗体を用いて、サンプル中のフィブリンを検出することが可能である。この検出は、抗体を用いる測定方法、すなわち免疫学的測定方法であれば、任意の方法に基づいて実施することができる。例えば、フィブリンの検出は、免疫組織化学染色法及び免疫電顕法、並びに免疫アッセイ(酵素免疫アッセイ(ELISA、EIA)、蛍光免疫アッセイ、放射性免疫アッセイ(RIA)、免疫クロマト法及びウエスタンブロット法等)などを利用して実施することができる。
【0063】
対象となるサンプルとしては、特に限定されるものではなく、例えば、組織又は細胞サンプル(胃、十二指腸、大腸、膵、胆嚢、胆管、気管支、肺等の癌の組織又は細胞)、生体液サンプル(胃粘液、十二指腸液、膵液、胆汁、腹水、喀痰、気管支肺胞洗浄液、血液、血清、血漿等)などが挙げられる。例えば、免疫染色の場合には、組織サンプル(生検標本、切除標本)、細胞診サンプルをサンプルとして用いることが好ましい。
【0064】
本発明の免疫学的測定方法においては、サンプル中のフィブリンを、本発明に係る抗体又は抗原結合性フラグメントと結合させて、その結合を検出することによって、フィブリンを検出する。本発明において「検出」とは、フィブリンの存在の有無を検出することだけではなく、フィブリンを定量的に検出すること、フィブリンを免疫染色することも含む。
【0065】
フィブリンについての免疫アッセイは、典型的には、試験対象のサンプルを本発明に係る抗体又は抗原結合性フラグメントと接触させ、当技術分野で公知の手法を用いて結合した抗体又は抗原結合性フラグメントを検出することを含む。「接触」は、サンプル中に存在するフィブリンと本発明に係る抗体又は抗原結合性フラグメントとが結合できるように近接することができる状態にすることを意味し、例えば、固形サンプルに対して抗体含有溶液を塗布すること、抗体含有溶液に固形サンプルを浸漬すること、液状サンプルと抗体含有溶液とを混合することなどの操作が含まれる。
【0066】
免疫アッセイは、液相系及び固相系のいずれで行ってもよい。また免疫アッセイの形式も限定されるものではなく、直接固相法の他、サンドイッチ法、競合法などであってもよい。
【0067】
本発明に係る抗体又は抗原結合性フラグメントはまた、免疫組織化学染色法(例えば免疫染色法)又は免疫電顕法のように、フィブリンのin situ検出のために、組織学的に用いることも可能である。in situ検出は、被験体から組織学的サンプルを切除し(生検組織サンプル、組織のパラフィン包埋切片など)、それに標識した抗体又は抗原結合性フラグメントを接触させることにより実施しうる。
【0068】
免疫アッセイの操作法は、公知の方法(Ausubel, F.M.ら編, Short Protocols in Molecular Biology, Chapter 11 "immunology" John Wiley & Sons, Inc. 1995)により行うことができる。あるいは、フィブリンと抗体との複合体を、公知の分離手段(クロマト法、塩析法、アルコール沈殿法、酵素法、固相法等)によって分離し、標識のシグナルを検出するようにしてもよい。
【0069】
免疫アッセイの一例として、例えば固相系を利用する場合、抗体又は抗原結合性フラグメントを固相支持体又は担体(樹脂プレート、メンブレン、ビーズなど)に固定してもよいし、あるいはサンプルを固定してもよい。例えば、抗体又は抗原結合性フラグメントを固相支持体に固定し、支持体を適当なバッファーで洗浄した後、サンプルを用いて処理する。次に固相支持体にバッファーを用いた2回目の洗浄を行って、未結合の抗体又は抗原結合性フラグメントを除去する。そして固体支持体上の結合した抗体又は抗原結合性フラグメントを、慣用的な手段により検出することによって、サンプル中のフィブリンと抗体又は抗原結合性フラグメントとの結合を検出することができる。あるいはまた、固形サンプルを抗体又は抗原結合性フラグメントを含む溶液で処理して、続いてバッファーを用いた洗浄を行って未結合の抗体又は抗原結合性フラグメントを除去した後、固形サンプル上の結合した抗体又は抗原結合性フラグメントを慣用的な手段により検出することができる。
【0070】
抗体の結合活性は、周知の方法に従って測定しうる。当業者であれば、採用する免疫アッセイの種類及び形式、使用する標識の種類及び標識の対象などに応じて、各アッセイについての有効かつ最適な測定方法を決定することができる。
【0071】
本発明においては、本発明の抗体又は抗原結合性フラグメントと、サンプル中に存在するフィブリンとの反応を容易に検出するために、本発明の抗体又は抗原結合性フラグメントを標識することにより該反応を直接検出するか、又は標識二次抗体若しくはビオチン−アビジン複合体等を用いることにより間接的に検出する。本発明で使用可能な標識の例とその検出方法について以下に記載する。
【0072】
酵素免疫アッセイの場合には、例えば、ペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、アミラーゼ等を用いることができる。また、酵素阻害物質や補酵素等を用いることもできる。これら酵素と抗体との結合は、グルタルアルデヒド、マレイミド化合物等の架橋剤を用いる公知の方法によって行うことができる。
【0073】
蛍光免疫アッセイの場合には、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)等を用いることができる。これらの蛍光標識は、慣用の手法により抗体と結合させることができる。
【0074】
放射性免疫アッセイの場合には、例えば、トリチウム、ヨウ素125及びヨウ素131等を用いることができる。放射性標識は、クロラミンT法、ボルトンハンター法等の公知の方法により、抗体に結合させることができる。
【0075】
例えば、本発明の抗体又は抗原結合性フラグメントを上記のように標識で直接標識する場合には、サンプルを標識した本発明の抗体又は抗原結合性フラグメントと接触させて、フィブリン−抗体の複合体を形成させる。定量の場合には、未結合の標識抗体を分離した後、結合標識抗体量又は未結合標識抗体量よりサンプル中のフィブリン量を測定することができる。
【0076】
また例えば、標識二次抗体を用いる場合には、本発明の抗体又は抗原結合性フラグメントとサンプルとを反応させ(1次反応)、得られた複合体にさらに標識二次抗体を反応させる(2次反応)。1次反応と2次反応は逆の順序で行ってもよいし、同時に行ってもよいし、又は時間をずらして行ってもよい。1次反応及び2次反応により、フィブリン−本発明の抗体−標識二次抗体の複合体、又は本発明の抗体−フィブリン−標識二次抗体の複合体が形成される。そして定量を行う場合には、未結合の標識二次抗体を分離して、結合標識二次抗体量又は未結合標識二次抗体量よりサンプル中のフィブリン量を測定することができる。
【0077】
ビオチン−アビジン複合体系を利用する場合には、ビオチン化した抗体又は抗原結合性フラグメントとサンプルとを反応させ、得られた複合体に標識を付加したアビジンを反応させる。アビジンは、ビオチンと特異的に結合することができるため、アビジンに付加した標識のシグナルを検出することによって、抗体とフィブリンとの結合を測定することができる。アビジンに付加する標識は特に限定されるものではないが、例えば酵素標識(ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼなど)が好ましい。
【0078】
標識シグナルの検出もまた、当技術分野で公知の方法に従って行うことができる。例えば、酵素標識を用いる場合には、酵素作用によって分解して発色する基質を加え、基質の分解量を光学的に測定することによって酵素活性を求め、これを結合抗体量に換算し、標準値との比較から抗体量が算出される。基質は、使用する酵素の種類に応じて異なり、例えば酵素としてペルオキシダーゼを使用する場合には、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)、ジアミノベンジジン(DAB)等を、また酵素としてアルカリフォスファターゼを用いる場合には、パラニトロフェノール等を用いることができる。蛍光標識は、例えば蛍光顕微鏡、プレートリーダー等を用いて検出及び定量することができる。放射性標識を用いる場合には、放射性標識の発する放射線量をシンチレーションカウンター等により測定する。
【0079】
また本発明は、本発明の抗体又は抗原結合性フラグメントを含む、フィブリンの免疫学的測定用試薬に関する。本発明の免疫学的測定用試薬において、抗体又は抗原結合性フラグメントは標識されていてもよい。また、抗体又は抗原結合性フラグメントは、遊離形態であってもよいし、固相支持体(例えば、メンブレン、ビーズ等)に固定化されていてもよい。
【0080】
免疫学的測定用試薬には、本発明の抗体又は抗原結合性フラグメントの他、免疫学的測定方法を実施するために有用な成分が含まれてもよい。そのような成分としては、例えば、免疫アッセイにおいて使用するためのバッファー、サンプル処理用試薬、標識、競合物、二次抗体などが挙げられる。
本発明の免疫学的測定用試薬を用いることによって、サンプル中のフィブリンの検出を容易かつ簡便に行うことができる。
【0081】
3.血栓関連疾患の判定
本発明の抗体又は抗原結合性フラグメントは、上述したように、ヒトフィブリンと特異的に反応するため、フィブリンに関連する疾患又は障害、例えば血栓関連疾患の判定用試薬において用いることができる。本発明において「血栓関連疾患」とは、その疾患又は障害の状態と血栓の存在との間に相関性がある疾患又は障害を意味する。そのような血栓関連疾患としては、限定されるものではないが、梗塞、例えば心筋梗塞、脳梗塞、脳出血、脳塞栓、脳血栓、くも膜下出血、肺梗塞など、並びに癌、例えば膵癌、胃癌、食道癌、結腸直腸癌、大腸癌、卵巣癌、乳癌及び肺癌が含まれる。フィブリンの存在を検出することによって、血栓関連疾患の有無の判定及び血栓関連疾患の位置の特定を行うことができる。
【0082】
本発明の抗体又は抗原結合性フラグメントは、特に癌細胞の検出に有用である。例えば、免疫染色に用いることによって癌細胞を染色することができ、癌の診断を確実かつ信頼性をもって行うことができる。
【0083】
本発明の判定用試薬は、上述した本発明の抗体又は抗原結合性フラグメントを含むものである。従って、本発明の判定用試薬を用いて、血栓関連疾患(例えば梗塞又は癌)への罹患又はその存在が疑われる被験体から採取したサンプル中に含まれるフィブリンを検出することによって、該被験体の血栓関連疾患の存在及び該被験体における血栓関連疾患の位置を迅速かつ簡便に判定することができる。このような免疫学的測定方法を利用した疾患又は障害の判定用試薬は周知であり、当業者であれば、抗体以外の適当な成分を容易に選択することができる。また本発明の判定用試薬は、免疫学的測定方法を行うための手法であればいずれの手法においても利用することができる。
【0084】
4.血栓の可視化/in vivoイメージング、血栓部位への送達
本発明の抗体及び抗原結合性フラグメントは、被験体に投与した場合に、被験体内のフィブリンと結合する。従って、本発明の抗体及び抗原性フラグメントを利用して、被験体におけるフィブリン、すなわち血栓を可視化することが可能である。また、本発明の抗体又は抗原性フラグメントに化合物又は分子を結合させることにより、被験体におけるフィブリン、すなわち血栓部位に該化合物又は分子を送達することが可能である。
【0085】
本発明の血栓可視化剤は、標識された本発明の抗体又は抗原結合性フラグメントを含む。標識は、in vivoイメージングの分野において公知の任意の標識を用いることができる。そのような標識としては、蛍光物質、例えばIRDye800シリーズ、フルオレセイン、FITC、蛍光放出金属(152Eu、ランタン系列等)など;化学又は生物発光物質、例えばルミノール、イミダゾール、ルシフェリン、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)など;放射性同位体、例えば99mTc、123I、131I、97Ru、67Cu、11C、13Nなど;常磁性同位体、例えば153Gd、157Gd、55Mn、162Dy、52Cr、56Feなど;造影剤、例えばガドリニウム、ガドリニウム錯体、ヨード造影剤などが挙げられる。抗体又は抗原結合性フラグメントと標識との結合は、当技術分野で公知の方法により行うことができ、例えば直接的に化学結合してもよいし、あるいは適当なリンカーを介して間接的に結合してもよい。
【0086】
また本発明においては、標識の代わりに薬物若しくはプロドラッグなどの化合物又は分子を本発明の抗体又は抗原結合性フラグメントに結合させることにより、該化合物又は分子を被験体のフィブリン存在部位、すなわち血栓部位に送達することが可能である。そのような薬物又はプロドラッグとしては、公知の血栓溶解剤(例えばウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、組織型プラスミノーゲン活性化因子)などが含まれる。そのような薬物又はプロドラッグの血栓への標的化剤も本発明に包含される。
【0087】
さらに本発明は、本発明の抗体又は抗原結合性フラグメントと、抗腫瘍性部分との複合体を提供する。本発明の抗体又は抗原結合性フラグメントは、上述の通り、腫瘍における血栓部位(フィブリン)に結合するため、抗腫瘍性部分と結合させることによって、抗腫瘍性部分を腫瘍に送達することができる。本発明の抗体又は抗原結合性フラグメントと結合させることができる抗腫瘍性部分は、当技術分野で公知の抗腫瘍性部分であれば特に限定されるものではない。抗腫瘍性部分としては、抗癌剤、例えばイリノテカン(CPT-11)、イリノテカンの代謝産物SN-38(10-ヒドロキシ-7-エチルカンプトテシン)、アドリアマイシン、タキソール、5-フルオロウラシル、ニムスチン、ラミニスチン等のアルキル化剤、ゲムシタビン、ヒドロキシカルバミド等の代謝拮抗剤、エトポシド、ビンクリスチン等の植物アルカロイド、マイトマイシン、ブレオマイシン等の抗癌性抗生物質、シスプラチン等の白金製剤、ソラフェニブ、エルロチニブ等の分子標的剤、メトトレキセート、シトシンアラビノシド、6-チオグアニン、6-メルカプトプリン、シクロフォスファミド、イフォスファミド、ブスルファン等;放射性同位体、例えばホウ素10(10B)、インジウム111(111In)やイットリウム90(90Y)などが挙げられる。抗腫瘍性部分は、本発明の複合体が腫瘍組織中の血栓部位に送達された後、該部位において複合体から遊離し、腫瘍組織全体に到達できる程度の分子量であることが好ましい。
【0088】
また、抗体又は抗原結合性フラグメントと抗腫瘍性部分との結合も、当技術分野で公知の方法により行うことができ、直接的結合及び間接的結合のいずれでもよい。例えば、直接的な結合として、共有結合を利用することができる。間接的な結合としては、リンカーを介した結合を利用することができる。
【0089】
本発明においては、抗体又は抗原結合性フラグメントと抗腫瘍性部分とがリンカーを介して結合していることが好ましい。リンカーを介して2つの分子が結合することにより、抗腫瘍性部分の抗原性を減弱することができ、被験体への投与に好ましい。リンカーについての一般的な技術は、例えばHermanson, G.T. Bioconjugate Techniques, Academic Press, 1996;Harris, J.M. and Zalipsky, S.編, Poly(ethylene glycol), Chemistry and Biological Applications, ACS Symposium Series, 1997;Veronese, F. and Harris, J.M.編, Peptide and protein PEGylation. Advanced Drug Delivery Review 54(4), 2002に記載されている。
【0090】
リンカーとは、2つの化合物を連結する2価以上の基を意味する。本発明において使用することができるリンカーとしては、特に限定されるものではないが、ポリアルキレングリコールリンカー、アルキレン基、ペプチド、糖鎖、及びその他の高分子担体が挙げられる。ポリアルキレングリコールリンカーの構成単位であるアルキレングリコールのアルキレン部分は、炭素数1〜3000、好ましくは炭素数2〜1000、より好ましくは炭素数2〜100である。ポリアルキレングリコールリンカーの分子量は通常30〜50000Da、好ましくは500〜30000Daである。ポリアルキレングリコールリンカーは、好ましくはポリエチレングリコール(PEG)リンカーである。アルキレン基は、直鎖状又は分枝状のいずれであってもよい。
【0091】
またリンカーには、直鎖状のリンカー(2価のリンカー)と分枝状のリンカー(3価以上のリンカー)が含まれる。直鎖状リンカーは、その一端に抗腫瘍性部分を有し、別の一端に抗フィブリン抗体又は抗原結合性フラグメントを有する。分枝状リンカーは、通常、その各分枝(各鎖)に抗腫瘍性部分を有し、別の一端に抗フィブリン抗体又は抗原結合性フラグメントを有する。
【0092】
直鎖状のリンカーの具体的な例としては、式Iのリンカー:
【化1】

〔式中、PEGはポリエチレングリコール鎖であり、n及びmはエチレングリコール単位の数であり、独立して5〜100の整数を表す。〕
が挙げられる。式Iのリンカーは、通常、スクシンイミジル基を有する末端において抗体又は抗原結合性フラグメントと連結し、他の末端において抗腫瘍性部分と連結する。
【0093】
さらに、直鎖状のリンカーの具体的な例としては、式IIのリンカー:
【化2】

〔式中、PEGはポリエチレングリコール鎖であり、xはエチレングリコール単位の数であり、5〜100の整数を表す。〕
が挙げられる。式IIのリンカーは、通常、スクシンイミジル基を有する末端において抗体又は抗原結合性フラグメントと連結し、他の末端において抗腫瘍性部分と連結する。
【0094】
分枝状のリンカーの具体的な例としては、式IIIのリンカー:
【化3】

〔式中、PEGはポリエチレングリコール鎖であり、n、m及びqはエチレングリコール単位の数であり、独立して5〜100の整数を表す。〕
が挙げられる。式IIIのリンカーは、通常、スクシンイミジル基を有する末端において抗体又は抗原結合性フラグメントと連結し、他の複数の末端において抗腫瘍性部分と連結する。この分枝状のリンカーは、例えば参考例1に記載のように調製することができる。
【0095】
リンカーを介して抗体又は抗原結合性フラグメントと抗腫瘍性部分とを結合する技術は、当技術分野において公知である。例えば、抗体又は抗原結合性フラグメントとリンカーとの結合は、共有結合又は非共有結合(イオン結合、疎水性結合など)であり、好ましくは共有結合である。この結合は、本発明の複合体を被験体へ投与した場合に、血液中では抗腫瘍性部分が遊離しにくい結合であることが好ましい。そのような結合としては、マレイミド基とチオール基との結合、ハロエステルとチオールとを反応させて得られる結合、カルボキシル基とアミノ基とのアミド結合、チオール基とチオール基とのジスルフィド結合、アミノ基とアルデヒド基によるシッフ塩基、チオール基とカルボン酸とのチオエステル結合、水酸基とカルボキシル基とのエステル結合、アミノ基とスクアリン酸誘導体(例えばジメチルスクアリン酸)による結合、ジエニルアルデヒド基とアミノ基との結合などが挙げられる。このような結合の具体例としては、リンカーの一端に存在するマレイミド基と、抗体又は抗原結合性フラグメント上のシステイン残基に含まれるチオール基との結合、リンカーの一端に存在するスクシンイミド基と、抗体又は抗原結合性フラグメント上のリジン残基に含まれるアミノ基との脱水置換結合(例えばWO2008/096760号)、リンカーの一端に存在するアミノ基と、抗体又は抗原結合性フラグメント上のアスパラギン酸又はグルタミン酸に含まれるカルボン酸との脱水縮合結合(例えばWSCDIを使用する)などが挙げられる。抗体又は抗原結合性フラグメントとリンカーとの結合の具体的な方法については、例えばWO/2010/055950号を参照されたい。
【0096】
一方、抗体若しくは抗原結合性フラグメント又はリンカーと抗腫瘍性部分との結合は、共有結合又は非共有結合(イオン結合、疎水結合など)であり、好ましくは共有結合である。特に、抗腫瘍性部分として抗腫瘍性化合物を用いる場合には、該結合は、本発明の複合体を被験体へ投与した場合に、血液中では抗腫瘍性部分が遊離しにくい結合であることが好ましい。このような観点から、抗体若しくは抗原結合性フラグメント又はリンカーと抗腫瘍性部分との結合は、限定されるものではないが、好ましくはエステル結合、カルバメート結合、カーボネート結合、チオカルバメート結合であり、より好ましくはエステル結合である。エステル結合の場合は、腫瘍組織内のカルボキシルエステラーゼにより、又は非酵素的に結合が加水分解されて、本発明の複合体から徐放的に抗腫瘍性部分が遊離することが期待される。カルバメート結合の場合は、細胞内に抗体複合体のままエンドサイトーシスされた後、細胞内のカルボキシルエステラーゼで切断され、本発明の複合体から徐放的に抗腫瘍性部分が遊離することが期待される。カーボネート結合の場合は、非酵素的に結合が加水分解されて、本発明の複合体から徐放的に抗腫瘍性部分が遊離することが期待される。チオカルバメート結合の場合は、非酵素的に結合が加水分解されて、本発明の複合体から徐放的に抗腫瘍性部分が遊離することが期待される。
【0097】
本発明の複合体において抗腫瘍性部分として抗腫瘍性化合物を用いる場合、抗体又は抗原結合性フラグメント1分子へ結合する抗腫瘍性化合物の数は、理論的には特に限定されないが、複合体の安定性や製造容易性等の観点から、通常1〜10個、好ましくは1〜8個である。
【0098】
例示的に抗腫瘍性部分としてSN-38(10-ヒドロキシー7-エチルカンプトテシン)を、リンカーとしてポリエチレングリコールリンカーを使用する場合について具体的に説明するが、他の組み合わせを用いた場合であっても、当業者であれば適宜反応条件を変更することにより、目的とする本発明の複合体を製造することができる。
【0099】
(I)先ず、一方の端にカルボキシル基を有し、他の一方の端にBoc、Fmoc等で保護されたアミノ基を有するポリエチレングリコールとSN-38とを脱水縮合させ、SN-38の水酸基にポリエチレングリコールリンカーを導入する。
【0100】
(II)一方の端にスクシンイミド基を有し、他の一方の端にマレイミド基を有するポリエチレングリコールと(I)の生成物とを混合し、スクシンイミド基と(I)の生成物のアミノ基とを反応させることにより、ポリエチレングリコールリンカーへマレイミド基を導入する。
【0101】
(III)(II)の生成物と抗体又は抗原結合性フラグメントを混合し、(II)の生成物中のマレイミド基と抗体又はフラグメント中のチオール基とを反応させ、(II)の生成物と抗体又はフラグメントとを結合させることにより、本発明の複合体を得る。
【0102】
本発明の複合体は、腫瘍組織内のフィブリンに結合して、抗腫瘍性部分を腫瘍に送達することができ、また長い期間にわたり腫瘍組織内に留まり、長い期間にわたって抗腫瘍効果を発揮し続けるという効果を有する。そのため、本発明の複合体は、腫瘍の予防又は治療剤として使用することが可能である。すなわち、本発明の複合体の有効量を被験体に投与することにより、該哺乳動物における腫瘍を予防又は治療することができる。さらに、本発明の複合体は、長い期間にわたり腫瘍組織内に留まり、腫瘍の境界領域で腫瘍に栄養を与える血管の形成を阻害することによっても、長い期間にわたって抗腫瘍効果を発揮し得る。
【0103】
本発明において治療又は予防の対象となる腫瘍は、限定されるものではなく、固形癌、例えば膵癌、胃癌、食道癌、結腸直腸癌、大腸癌、卵巣癌、乳癌及び肺癌などである。
【0104】
本発明の複合体は、癌細胞そのものに標的化するのではなく、腫瘍血管から漏出したところに存在するフィブリンに対して標的化する。本発明の抗体は、上述したようにフィブリノーゲンには反応せず、フィブリンへの親和性が極めて高い。そのため、生体親和性の高い抗体−抗腫瘍性部分複合体はEPR効果(enhanced permeation and retention effect)で腫瘍血管から選択的に漏出し(正常血管からは高分子であるゆえに漏出しない)、漏出後腫瘍間質に存在するフィブリンと結合し、そこで足場を形成する。つまり長期間にわたって、本発明の複合体は間質フィブリンに存在し続ける。後述する実施例6に記載するように、抗腫瘍性部分SN-38を本発明の抗体とエステル結合で結合させた場合、腫瘍内のカルボキシルエステラーゼにより、又は自然に、複合体からSN-38が徐放的に遊離する。SN-38は低分子であるために癌組織内を比較的自由に動きまわり、癌全体にいきわたり、癌細胞を効率よく攻撃することができる。SN-38はその抗腫瘍効果が時間依存性であるために、このような長時間にわたる癌細胞のSN-38への暴露は、効率的に癌細胞を死滅させることができる。
【0105】
上述した血栓可視化剤、及び腫瘍の予防又は治療剤を含む本発明の薬剤は、抗体又は抗原結合性フラグメントの他、薬学的に許容される担体又は添加物を共に含むものであってもよい。このような担体及び添加物の例として、水、薬学的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、マンニトール、ソルビトール、ラクトースなどが挙げられる。使用される添加物は、剤形に応じて上記の中から適宜又は組み合わせて選択される。
【0106】
本発明の薬剤の投与方法は特に限定されるものではなく、経口投与、又は非経口投与、例えば皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、静脈内投与、経皮投与、直腸投与、経鼻投与などにより行うことができる。
【0107】
本発明の薬剤を経口投与する場合は、錠剤、カプセル剤(硬カプセル剤、軟カプセル剤、マイクロカプセルなど)、顆粒剤、散剤、丸剤、トローチ剤、内用水剤、液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤などのいずれのものであってもよく、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。また、本発明の薬剤を非経口投与する場合は、例えば静脈内注射(点滴を含む)、筋肉内注射、腹腔内注射及び皮下注射用の注射剤(例えば溶液、乳剤、懸濁剤)、軟膏剤(特に眼軟膏剤)、クリーム剤、座剤、パップ剤、点眼剤、点鼻剤、吸入剤、リニメント剤、エアゾル剤などの外用剤などの製剤形態を選択することができ、注射剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。
【0108】
これらの各種製剤は、医薬において通常用いられる賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、滑沢剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、pH調整剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、吸収促進剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤などを適宜選択し、常法により製造することができる。
【0109】
本発明の薬剤に配合する抗体若しくは抗原結合性フラグメント又は複合体は、抗体の種類、複合体及び複合体に含まれる抗腫瘍性部分の種類、その用途、剤形、投与経路などにより異なるが、例えば総重量を基準として1〜99重量%、好ましくは5〜90%としうる。
【0110】
また、本発明の薬剤の投与量及び投与間隔は、薬剤に含まれる抗体又は抗原結合性フラグメントの種類、複合体に含まれる抗腫瘍性部分の種類、投与対象、被験体の年齢及び体重、投与経路、投与回数により異なり、広範囲に変更することができる。
【0111】
本発明の薬剤を投与する被験体は、特に限定されるものではなく、哺乳動物、例えばヒト、家畜(ウシ、ブタなど)、愛玩動物(イヌ、ネコなど)、実験動物(マウス、ラット、サルなど)などが含まれる。特に、血栓関連疾患の存在が疑われる被験体及び血栓関連疾患を有する被験体に使用することが好ましい。また本発明の複合体を含む薬剤については、特に腫瘍の存在が疑われる被験体及び腫瘍を有する被験体に使用することが好ましい。
【0112】
血栓可視化剤の場合には、薬剤の投与後、被験体における抗体又は抗原結合性フラグメントの存在又は位置を、標識を指標として可視化する。好ましくは、抗体又は抗原結合フラグメントの存在又は位置は、公知の画像化手法により可視化する。画像化手法は、使用する標識、被験体の種類、画像化する部位などにより異なるが、コンピュータ断層撮影法(CT)、ポジトロン断層法(PET)、核磁気共鳴画像法(MRI)、その他のin vivoイメージングシステムを用いることができる。これにより、抗体又は抗原結合性フラグメントの標識に基づいて、被験体内の血栓の存在又は位置を可視化することができる。
【0113】
5.改変型抗フィブリン抗体又は抗原結合性フラグメントの作製
本発明の抗フィブリン抗体又は抗原結合性フラグメントに基づいて、所望の活性を示す改変型の抗体又は抗原結合性フラグメントを作製することができる。具体的には、本発明の抗フィブリン抗体又は抗原結合性フラグメントのアミノ酸配列を改変して改変型の抗体又は抗原結合性フラグメントを調製し、得られた改変型抗体又は抗原結合性フラグメントの活性を判定する。アミノ酸配列の改変は、特に限定されるものではなく、アミノ酸配列における1〜100個、例えば1〜50個のアミノ酸の欠失、置換、付加若しくは挿入、別のペプチドの融合などが含まれる。このようなアミノ酸配列の改変、及び改変されたアミノ酸配列を有する抗体又は抗原結合性フラグメントの調製は、当技術分野で公知の方法により行うことができる。
【0114】
得られた改変型抗体又は抗原結合性フラグメントがフィブリンと結合するか否かは、上述のような公知の方法により判定することができる。場合により、改変型抗体又は高原結合性フラグメントのフィブリン中和活性や、フィブリノーゲンとの結合性についても調べてもよい。このようにして得られる改変型抗体又は抗原結合性フラグメントも、フィブリンとの結合活性を有するため、上述したような用途に有用である。
【実施例】
【0115】
以下、本説明を実施例によりさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
マウス抗フィブリン抗体の作製
免疫原として、20mg/mlのフィブリノーゲン(Sigma社)溶液に0.1M塩化カルシウム存在下に200IUのトロンビンを作用させてフィブリン塊を作製した。作製したフィブリン塊は乳鉢に移し、液体窒素を加え、凍結させたあと乳棒で粉砕し、最終的にリン酸バッファーに1mg/ml量のフィブリン浮遊液とし、マウス感作に用いた。
【0116】
Balb/cマウス系統に、2日あけて足の裏にフィブリン粉砕液25μgを計3回注射した。その際、アジュバントとしてTiterMAXエマルジョン(TiterMAX USA Inc.)を用いた。最終免役の3日後に、マウスからリンパ節細胞を採取した。
【0117】
得られたリンパ節細胞とミエローマ細胞(P3U1)の細胞融合を行い、さらにフィブリンタンパク質を用いたELISAによる選別を行った。具体的には、フィブリノーゲン(Sigma)プレートとフィブリンプレートを準備し、フィブリンプレートにおいてELISA陽性を示し、フィブリノーゲンプレートで陰性を示すハイブリドーマを選択した。フィブリノーゲンプレートは、50μg/mlフィブリノーゲンを溶解したTBS(pH8.5)溶液を、96ウエルプレート(Nunc468667)に100μl/ウエルで添加し、4℃で18時間おいた後、上清を除去し、PBS(0.01%Tween80を含む)で3回洗浄し、37℃で一晩おいて乾燥した後、使用まで4℃で保存した。フィブリンプレートは、フィブリノーゲンプレートと同様に乾燥操作まで行った後、10NIH U/mlヒトトロンビンを溶解したTBS溶液(10mM CaCl2及び7mM L-システインを含む)を96ウエルプレートに100μl/ウエルで添加し、37℃で1時間おいた後、上清を除去し、PBS(0.01%Tween80を含む)で3回洗浄し、37℃で一晩おいて乾燥した後、使用まで4℃で保存した。
【0118】
ELISAは、サンプリングしたハイブリドーマの培養上清(原液)をフィブリノーゲンプレート又はフィブリンプレートに50μL/ウエルで加え、室温で60分間反応させて行った。PBSで3回洗浄後、ヤギ抗マウスIgG-POD標識(MBL製品、Code.330)を希釈バッファー(MBL製)で10,000倍希釈したものを50μL/ウエルで加え、室温で60分間反応させた。3回洗浄後、発色液(MBL製)を50μL/ウエルで加えて15分間発色させ、1.5mol/Lリン酸を50μL/ウエルで加え、反応を停止した。反応停止後、測定波長450nm、参照波長620nmで吸光度を測定した。
【0119】
ヒトフィブリンと結合し、ヒトフィブリノーゲンと結合しないモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞を選択し、細胞株(クローン102-10)を樹立した。この細胞株により産生される抗体はマウスIgMであった。なお、このハイブリドーマ細胞株は、「102-10」として独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)特許微生物寄託センター(NPMD)(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 NITEバイオテクノロジー本部)に2010年4月1日付で寄託され、受託番号NITE P-923が付与されている。
【0120】
また、ハイブリドーマ細胞株102-10の培養上清、市販の抗フィブリン抗体NYB-T2G1(抗フィブリンII抗体、ACCURATE CHEMICAL & SCIENTIFIC CORPORATION)及びMH-1(American Biogenetic Sciences, Inc.、特開平11-80200号公報に記載)を用いて、マウス及びヒトフィブリン、並びにマウス及びヒトフィブリノーゲンとの反応性について、上述したフィブリンプレート及びフィブリノーゲンプレートを用いるELISAにより調べた。
【0121】
その結果を図1に示す。図1に示されるように、ハイブリドーマ細胞株102-10由来のマウスIgM抗体は、マウス及びヒトのフィブリンに特異的に反応するが、マウス及びヒトフィブリノーゲンには反応しないことが確認された。
【0122】
[実施例2]
キメラ抗体の作製
実施例1で調製したハイブリドーマ細胞株102-10から全RNAを抽出し、抗体H鎖の可変領域とL鎖の可変領域のcDNAをアダプター・ライゲーションRT-PCR法を用いて増幅した。使用したプライマーの配列は以下のとおりである:
【0123】
H鎖用
フォワードプライマー:5’-CGACTGGAGCACGAGGACACTGA-3’(配列番号11)
リバースプライマー:5’-GTTGTTCTGGTAGTTCCAGGTG-3’(配列番号12)
L鎖用
フォワードプライマー:5’-CGACTGGAGCACGAGGACACTGA-3'(配列番号13)
リバースプライマー:5’-CCGCTTAATTAACTAACACTCATTCCTGTTGAAGCTCT-3'(配列番号14)。
【0124】
増幅したcDNAをそれぞれpT7Blue(Promega)にクローニングした。H鎖の可変領域(396bp)とL鎖の可変領域(381bp)のcDNAをそれぞれ図2のA及びBに示す。図2のAは、抗体H鎖の塩基配列及びアミノ酸配列を示し、可変領域(1〜396bp)と定常領域の一部に相当する。H鎖の可変領域の塩基配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号7及び8に示す。図2のBは、抗体L鎖の塩基配列及びアミノ酸配列を示し、タンパク質コード領域全長(可変領域は1〜381bp)に相当する。L鎖の可変領域の塩基配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列番号9及び10に示す。また、図2において、H鎖及びL鎖の相補性決定領域(CDR)1〜3を四角で示している。
【0125】
H鎖及びL鎖の可変領域をPCRで増幅後、H鎖の可変領域は定常領域を組み込んだpQCxIP(クロンテック)、L鎖の可変領域は定常領域を組み込んだpQCxIH(クロンテック)に挿入し、発現ベクターを完成させた。発現ベクターをリポフェクタミン2000(インビトロジェン)を用いてCHO細胞(理研バイオリソースセンター)にトランスフェクションを行った。ヒト型抗フィブリンキメラ抗体定常発現細胞株(ヒト型IgG クローン102-10Hu)は、ピュロマイシン(シグマ)10μg/mLとハイグロマイシンB(インビトロジェン)500μg/mLで薬剤選択を行い、両耐性株を取得することで樹立された。樹立細胞株はF12(シグマ)10%FBS、1mM HEPES(シグマ)、1%ペニシリン・ストレプトマイシン(インビトロジェン)、ピュロマイシン10μg/mL、ハイグロマイシンB 500μg/mLで維持培養を行った。
【0126】
樹立細胞株を、175cm2フラスコ(付着性細胞用)を用いて、マスター細胞用10%FBS培地(F12 [Sigma社:N6658]、10%FBS [Hyclone社:lot.APM22733] (FBSはBovine IgG 除去処理して使用)、1%Penicillin-Streptomycin [Invitrogen社]、1mM HEPES [Sigma社:H4034-500G]、50 mg/mL ハイグロマイシン B 5.7 mL[WAKO社:085-06153]、及び2 mg/mL ピューロマイシン塩酸塩 2.9 mL[WAKO社:533-71593])中でコンフルエントまで培養した。培養上清を吸引除去し、PBS 10mLでフラスコを洗浄し、この洗浄を2回行った。PBSを除去後、TRYPSIN/0.5%EDTA [Invitrogen:25300054 CAMP] 5mLを添加し、CO2インキュベータで5分静置した。細胞が底面から剥がれたのを確認し、マスター細胞用10%FBS培地を10mL添加して酵素反応を止めた。その後、ピペッティングして細胞を剥がし、フラスコ内の液をすべて回収し、1000r.p.mで5分遠心した。遠心後の上清を除去し、ペレットをマスター細胞用10%FBS培地30mLに懸濁した。次に、フラスコにマスター細胞用10%FBS培地を29mL添加し、遠心後の細胞懸濁液を1mL添加した。
【0127】
続いて、大量培養のために、以下の操作を行った。175cm2フラスコ(浮遊細胞用)30本に大量培養用5%FBS培地F12(Sigma社)29mLを添加した。上記で得られた細胞懸濁液を大量培養用のフラスコに1mLずつ添加し、CO2インキュベータで静置培養した。継代後約1週間後に大量培養用5%FBS培地 5mLを添加した。顕鏡観察して浮遊した細胞がコンフルエントになった状態で、その後3〜4日ごとに大量培養用5%FBS培地 10mLを添加し、液量50mLになるまで増やした。培地添加時に顕鏡し、細胞凝集塊がほとんどなくなり死細胞の割合が8割を越えているようであれば、その時点で培養を中止し、最後に培地を添加してから3〜4日後に上清を回収し、3000r.p.mで5分遠心した。培養上清に0.05%量のアジ化ナトリウムを添加して精製まで冷蔵保存した。
【0128】
抗体の精製は次のとおり行った。すなわち、上記で得られた培養上清を0.22umフィルターでろ過し、不溶物を除いた。結合バッファー(リン酸バッファーpH7)で平衡化したプロテインG Sepharose(登録商標) 4B充填カラムに培養上清を流した。カラム体積の5倍量のリンスバッファー(リン酸バッファーpH7)で4回洗浄し、溶出バッファー(グリシンバッファー)pH4をカラム体積の1.8倍量流した。次に、溶出バッファー(グリシンバッファー)pH3をカラム体積の6倍量流し、フラクションごとに回収し、溶出液は1MトリスHClバッファー(pH7)で速やかに中和した。フラクションの吸光度を測定し、抗体が含まれるフラクションを回収し、次のハイドロキシアパタイト精製へと進めた。
【0129】
ハイドロキシアパタイト精製では、まず10 mM Na-PB(pH6.5)、300 mM NaClでサンプルを透析した。10 mM Na-PB(pH6.5)、300 mM NaClでハイドロキシアパタイトtypeII充填カラムを平衡化した後、全サンプルを添加し、10 mM Na-PB(pH6.5)、300 mM NaClで洗浄し、10 mM Na-PB(pH6.5)、2 M NaClで溶出した。フラクションを回収し、各フラクションをSDS-PAGEで確認し、サンプルを回収した。PBSに透析後、限外ろ過にて濃縮して、精製されたヒト型抗フィブリンキメラ抗体を得た。得られたキメラ抗体の反応性を、実施例1と同様にELISA法を用いて確認した。その結果を図3に示す。
【0130】
図3に示すように、ヒト型キメラ抗体は、マウス及びヒトフィブリンと特異的に反応するが、マウス及びヒトフィブリノーゲンとは反応しないことが示された。従って、マウスIgMから誘導されたヒト型抗体は、該マウスIgMの反応性を保持しており、ヒトに対してより好適に適用可能である。また、マウス及びヒトフィブリンとの結合性を有するため、マウスにおける実験結果をヒトに外挿することが可能である。
【0131】
[実施例3]
マウスIgM抗体及びヒト型キメラ抗体を用いたヒト組織の免疫染色
本実施例では、実施例1及び2で調製したマウスIgM抗体及びヒト型キメラ抗体を用いて、ヒト膵癌手術標本及びヒト脳腫瘍(グリオーマ)手術標本の免疫染色を行った。
【0132】
ヒト膵癌手術標本は、福島県立医大病理に依頼して入手し、パラフィン切片を準備した。また、ヒト脳腫瘍(グリオーマ)手術標本は、熊本大学付属病院脳神経外科から供与を受け、パラフィン切片を準備した。パラフィン切片をキシレン及びエタノールで処理して脱パラフィンし、脱塩水に浸漬した。切片を0.3%H2O2/MeOH中で20分間ブロッキングし、TBST(Trisバッファー、Tween 20)で5分間洗浄した。その後、切片を抗原賦活液(10mMクエン酸緩衝液、pH6.0)に浸漬し、マイクロウェーブ(MW)処理を93℃にて20分行い、30分間放置した後、TBSTで5分間、3回洗浄した。
【0133】
一次抗体として10μg/mlのマウスIgG抗体(実施例1)又は2μg/mlのヒト型キメラ抗体(実施例2)を用いて4℃で切片を処理した。次に、TBSTで5分間、3回洗浄した後、数滴の抗マウス二次抗体(Code No. K4001, DAKO)又は200倍希釈した抗ヒト二次抗体(Code No. 206, MBL)を、室温にて1時間反応させた。切片をTSBTで5分間、3回洗浄し、発色基質としてDAB(Code No. K4007, DAKO)を滴下して5分間反応させた。切片を脱塩水で洗い、ヘマトキシリンに20秒浸漬し、10分間水洗した後、エタノール及びキシレンで処理した。
【0134】
キメラ抗体を用いたヒト膵癌手術標本切片の免疫染色結果を図4に示す。また、マウスIgM抗体を用いたヒト脳腫瘍手術標本切片の免疫染色結果を図5に示す。図4及び5に示されるように、本抗体を用いてヒト膵癌組織を染色できることがわかった。
【0135】
[実施例4]
マウスIgM抗体及びヒト型キメラ抗体を用いたヒト組織の免疫染色
実施例3に示す手順と同様にして、浸潤性扁平上皮癌の免疫染色を行った。その結果を図6に示す。図6において、Aは、ヘマトキシリン・エオジン染色を行った組織を示し、癌間質に囲まれた浸潤性扁平上皮癌がみとめられる。Bは、抗フィブリン抗体IgMによる免疫染色組織を示し、癌間質にフィブリンが顕著に存在していることが確認される。Cは、蛍光標識したヒト型キメラ抗フィブリンIgGの腫瘍内集積像を示し、抗体が腫瘍内の間質に特異的に集積しており、Bのフィブリン存在部位と一致していることが確認できる。
【0136】
[実施例5]
抗体を用いたin vivoイメージング
本実施例では、抗フィブリン抗体の腫瘍集積性を検討した。
【0137】
BALB/cヌードマウス(メス、6週齢)の背部にヒト乳癌細胞株MCF7を移植した。図7のAに示されるように、マウスにおいて癌の形成がみとめられた。移植10日後にIRDye800(Li-Cor)により標識化したヒト型キメラ抗体をマウス尾静脈により投与した。投与1日後、3日後及び7日後の抗体の分布を生体イメージング装置OV110(Olympus)とNightOWL II LB 983(Berthold)により解析した。
【0138】
投与後7日目の結果を図7のB及びCに示す。これらの結果から、抗フィブリン抗体が腫瘍組織に選択的に集積し、長期間腫瘍組織に貯留することが示された。
【0139】
[参考例1]
分枝状リンカーと抗腫瘍性化合物SN-38との結合
図8に示すスキームに従って、分枝状リンカーと抗腫瘍性化合物SN-38(10-ヒドロキシ-7-エチルカンプトテシン)とを結合した。なお、以下の反応において、「DMAP」はN,N-ジメチル-4-アミノピリジンを表し、「DMF」はN,N-ジメチルホルムアミドを表し、「THF」はテトラヒドロフランを表す。
【0140】
(1)SN-38とPEGとの結合
10-ヒドロキシ-7-エチルカンプトテシン(102.1mg、0.260mmol)、Boc-PEG27-COOH(407.1mg、0.286mmol)、DMAP(15.9mg、0.130mmol)のDMF溶液(1mL)中に、WSCDI(water soluble carbodiimide:54.8mg、0.286mmol)を0℃で添加した。混合物を室温で19時間攪拌し、反応混合物をゲルろ過カラムクロマトグラフィー(LH20 CHCl3:MeOH=1:1)、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl3:MeOH=15:1〜9:1)により精製し、無色油状物としてエステルIを得た(420.1mg、90%)。
1H-NMR δ(CD3OD) 8.20 (d, J = 9.2 Hz, 1H), 7.99 (s, 1H), 7.66 (m, 2H), 5.60 (d, J = 16.5 Hz, 1H), 5.40 (d, J = 16.5 Hz, 1H), 5.32 (M, 2H), 3.93 (t, J = 6.4 Hz, 2H), 2.96 (t, J = 6.4 Hz, 2H), 1.97 (m, 2H), 1.43 (s, 9H), 1.40 (t, J = 7.6 Hz, 3H), 1,02 (t, J = 7.8 Hz, 3H);13C-NMR (DMSO-d6) δ164.8, 161.9, 149.2, 148.5, 143.1, 142.7, 141.3, 138.2, 137.7, 137.5, 122.4, 119.5, 118.9, 117.2, 110.7, 106.5, 89.7, 70.4, 64.6, 62.3, 62.0, 62.0, 62.0, 61.9, 61.8, 61.8, 61.7, 61.5, 58.1, 58.0, 57.1, 41.2, 40.1, 31.8, 28.1, 26.3, 19.4, 14.4, 4.9, -1.1。
【0141】
(2)分枝状リンカーの合成
3-(アリルオキシ)-2-(アリルオキシメチル)-2-((ブタ-3-エニルオキシ)メチル)プロパン-1-オール(14.85g、31.17mmol)のDMF(30mL)溶液にNaH(21.87g、46.78mmol)を室温で添加した。1時間後、臭化物1-((5-ブロモペンチルオキシ)メチル)-4-メトキシベンゼン(16.7g、58.04mmol)を添加した。フラスコをDMF(3mL)で2回洗浄した。混合物を55℃で1日攪拌した。室温まで冷却した後、N,N-ジメチル 1,3-プロパンジアミン(10mL)を添加した。1時間後、混合物を飽和NH4Cl及びEtOAcで希釈した。水性層をEtOAcで抽出した。混合した層を飽和食塩水で洗浄した。有機層はNa2SO4で乾燥させ、濾過した。蒸発後、残渣をシリカゲルカラム(ヘキサン:EtOAc 9:1〜4:1)で精製して無色油状物として化合物A [1-((5-(3-(アリルオキシ)-2-(アリルオキシメチル)-2-((ブタ-3-エニルオキシ)メチル)プロピル)ペンチルオキシ)メチル)-4-メトキシベンゼン]のエーテル化合物(8.60g、58%)を得た。
1H-NMR δ 7.23 (dd, J = 6.4 Hz, 2.4 Hz, 2H), 6.5 (dd, J = 6.4 Hz, 2.4 Hz, 2H), 5.85 (m, 3H), 5.23 (d, J = 17.2 Hz, 3H), 5.11 (d, J = 10.4 Hz, 3H), 4.41 (s, 2H), 3.93 (m, 6H), 3.78 (s, 3H), 3.42 (s, 8H) 3.39-3.36 (m, 4H), 1.60-1.51 (m, 4H), 1.38 (m, 2H), 13C-NMR δ 135.21, 129.11, 115.97, 113.69, 72.53, 72.26, 71.33, 7.13, 69.60, 69.42, 55.30, 45.44, 29.65, 29.50, 22.94。
【0142】
上記のトリアリル化合物1-((5-(3-(アリルオキシ)-2-(アリルオキシメチル)-2-((ブタ-3-エニルオキシ)メチル)プロポキシ)ペンチルオキシ)メチル)-4-メトキシベンゼン(8.60g、18.06mmol)のCH2Cl2(200mL)及びMeOH(200mL)溶液に、反応混合物が薄い青色になるまで−78℃でオゾンを通気した。オゾンを酸素ガスに置換した後、NaBH4(8.60g、210mmol)を数回に分けて添加した。反応混合物を徐々に温めた後、一晩室温で攪拌した。反応液を濃縮後、混合物をCHCl3と飽和NH4Clとの間で分液した。水性層をCHCl3で抽出した。混合した層を飽和食塩水で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濾過した。溶媒を減圧除去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl3:MeOH 9:1)で精製し、化合物B [2,2'-(2-((2-ヒドロキシエトキシ)メチル)-2-((5-(4-メトキシベンジルオキシ)ペンチルオキシ)メチル)プロパン-1,3-ジイル)ビス(オキシ)ジエタノール]のトリオール化合物(8.56g quant.)を得た。
1H-NMR δ 7.23 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 6.85 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 4.41 (s, 2H), 3.84 (s, 3H), 3.79 (s like, 6H), 3.53 (m, 6H), 3.48 (s like, 8H), 3.43-3.37 (m, 4H), 2.86 (s, 3H), 1.58-1.53 (m, 4H), 1.39 (m, 2H); 13C-NMR δ 129.16, 113.69, 72.56, 72.50, 71.67, 70.46, 70.05, 70.00, 61.4, 55.30, 45.40, 29.56, 29.32, 22.92。
【0143】
上記のトリオール化合物B(2,2'-(2-((2-ヒドロキシエトキシ)メチル)-2-((5-(4-メトキシベンジルオキシ)ペンチルオキシ)メチル)プロパン-1,3-ジイル)ビス(オキシ)ジエタノール(2.91g、6.14mmol)及びPPh3(6.43g、24.51mmol)のTHF(50mL)溶液に、CBr4(8.14g、24.51mmol)を0℃で数回に分けて添加した。混合物を一晩室温で攪拌した。ジエチルエーテルを混合物に添加し、沈殿物を濾過した。濾液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc 9:1〜4:1)で精製して化合物C [1-((5-(3-(2-ブロモエトキシ)-2,2-ビス((2-ブロモエトキシ)メチル)ポロポキシ)ペンチルオキシ)メチル)-4-メトキシベンゼン]の三臭化物(3.48g、86%)を得た。
1H-NMR d 7.25 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 6.87 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 4.42 (s, 2H), 3.80 (s, 3H), 3.74-3.71 (m, 6H), 3.47 (s, 8H), 3.47-3.38 (m, 6H), 1.7-1.50 (m, 4H), 1.40 (m, 2H); 13C-NMR δ 129.12, 113.66, 72.53, 71.33, 71.14, 70.08, 69.38, 68.88, 55.29, 45.72, 30.82, 29.63, 22.97。
【0144】
上記の三臭化物C(1-((5-(3-(2-ブロモエトキシ)-2,2-ビス((2-ブロモエトキシ)メチル)プロポキシ)ペンチルオキシ)メチル)-4-メトキシベンゼン(3.48g、5.27mmol)のDMF(10mL)溶液に、NaN3(5.27g、81.08mmol)を添加し、混合物を50℃で4時間攪拌した。混合物をEtOAc及び飽和NaHCO3で希釈した。水性層をEtOAcで抽出した。混合した層を飽和食塩水で洗浄した。Na2SO4で混合物を乾燥後、溶媒を減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc 7:3)で精製し、化合物D[1-((5-(3-(2-アジドエトキシ)-2,2-ビス((2-アジドエトキシ)メチル)プロポキシ)ペンチルオキシ)メチル)-4-メトキシベンゼン]のトリアジド化合物(2.84g、98%)を得た。
1H-NMR δ 7.23 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 6.85 (d, J = 8.8 Hz, 2H), 4.41 (s, 2H), 3.78 (s, 3H), 3.59 (t, J = 4.8 Hz, 6H), 3.47 (s, 8H), 3.44-3.28 (m, 10H), 1.61-1.55 (m, 4H), 1.39 (m, 2H); 13C-NMR δ 129.04, 113.63, 72.53, 71.32, 70.46, 70.13, 69.71, 68.85, 55.32, 50.86, 45.12, 29.70, 23.04。
【0145】
上記のPMBエーテル(2.63g、4.7mmol)のCH2Cl2(30mL)及びH2O(20mL)溶液に、DDQ(1.30g、5.75mmol)を0℃で添加した。添加後、氷浴を取り除き、室温で撹拌した。5時間後、反応をクエン酸緩衝液で停止させ、水性層をEtOAcで抽出した。混合した層を飽和NaHCO3及び飽和食塩水で洗浄した。有機層はNa2SO4で乾燥させた。濾過後、溶媒を除去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:EtOAc 1:1)で精製し、化合物E[5-(3-(2-アジドエトキシ)-2,2-ビス((2-アジドエトキシ)メチル)プロポキシ)ペンタン-1-オール] のアルコール化合物(1.55g、75%)を得た。
1H-NMR δ 3.64-3.58 (m, 8H), 3.46 (s, 6H), 3.41-3.38 (m, 4H), 3.31-3.28 (m, 6H), 1.57-1.55 (m, 4H), 1.41 (m, 2H); 13C-NMR δ 71.20, 70.46, 69.67, 68.84, 62.92, 50.86, 45.08, 32.57, 29.36, 22.56。
【0146】
上記で得たアルコール化合物(1.55g、3.61mmol)のアセトン(20mL)溶液に、ジョーンズ試薬を0℃で添加した。過剰のジョーンズ試薬をイソプロピルアルコールiPrOHで破壊し、沈殿物を濾過した。濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl3:EtOAc 7:3〜1:1)で精製し、化合物F[5-(3-(2-アジドエトキシ)-2,2-ビス((2-アジドエトキシ)メチル)プロポキシ)ペンタン酸]の酸(1.37g、86%)を得た。
1H-NMR δ 3.72 (t, J = 6.0 Hz, 3H), 3.60 (t, J = 4.4 Hz, 4H), 3.47 (s, 8H), 3.44-3.40 (m, 4H), 3.32 (t, J = 4.8 Hz, 4H), 2.83 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 1,70 (m, 2H), 1.60 (m, 2H); 13C-NMR δ 177.69, 77.21, 70.77, 70.48, 69.68, 68.96, 50.87, 45.11, 33.55, 28.93, 21.81。
【0147】
上記で得た酸(1.65g、3.85mmol)、N-(tert-ブトキシカルボニル)-1,5-ジアミノペンタン(1.56g、7.69mmol)及びHOBt(1.03g、7.60mmol)のCH2Cl2(30mL)溶液に、水溶性カルボジイミドWSCDI(1.47g、7.69mmol)を0℃で添加した。混合物を一晩室温で攪拌し、CHCl3及び飽和NH4Clで希釈した。水性層をCHCl3で抽出した。混合した層を飽和NaHCO3及び飽和食塩水で洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、溶媒を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl3:EtOAc 1:1〜EtOAcのみ)で精製し、化合物G[tert-ブチル5-(5-(3-(2-アジドエトキシ)-2,2-ビス((2-アジドエトキシ)メチル)プロポキシ)ペンタンアミド)ペンチルカルバメート] のアミド化合物(2.18g、90%)を得た。
1H-NMR δ 5.60 (bs, 1H), 4.55 (bs, 1H), 3.72 (t, J = 6.0 Hz, 2H), 3.62 (t, J = 4.8 Hz, 4H), 3.47-3.41 (m, 12H), 3.30 (t, J = 4.8 Hz, 4H), 3.22 (q, J = 6.4 H, 2H), 3.10 (m, 2H), 2.17 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 1.70-1.46 (m, 7H), 1.43 (s, 9H), 1.34 (m, 3H), 13C-NMR δ 172.64, 155.87, 77.21, 71.15, 71.13, 70.99, 70.94, 70.50, 69.73, 69.69, 69.36, 68.97, 50.91, 45.35, 45.11, 40.35, 39.36, 36.56, 31.00, 29.88, 20.40, 29.23, 28.55, 24.09, 22.77。
【0148】
(3)分枝状リンカーとSN-38との結合
化合物JのSN38−PEGのBoc化合物(0.71g、0.396mmol)をCH2Cl2(20mL)に溶かし、4.0 M ジオキサン(20mL)を加えて室温において2時間撹拌した。反応液を減圧濃縮し、トルエンを加え、さらに濃縮、真空下乾燥した。この残渣をCH2Cl2(20mL)に溶解し、iPr2NEt(0.57mmol、3.24mmol)を0℃にて加え、無水スクシイミド(60mg、0.594mmol)を加え、室温にて終夜撹拌した。反応液をLH20(CHCl3:MeOH 1:1)、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl3:MeOH 9:1〜4:1)にて精製し、Kを得た。
【0149】
一方で、トリアジドH(63mg、0.10mmol)のジオキサン(1mL)と水(0.5mL)の溶液にトリメチルホスフィン(0.5 mL, 1M溶液)を加え、窒素雰囲気下室温にて終夜撹拌した。
【0150】
反応液を濃縮し、上のカルボン酸KをCH2Cl2(10mL)に溶かし加え、これにHOBt(213mg、1.58mmol)、WSCDI(308mg、1.58mmol), iPr2NEt(0.5 mL)を加えた。反応液を終夜室温にて撹拌し、反応液をLH20(CHCl3:MeOH 1:1)にて精製し、0.71gを得た。これをジオキサン(20mL)と4.0 M 塩酸-ジオキサン溶液(20mL)に溶かし、3時間室温にて撹拌した後、反応液を減圧濃縮した。これをCH2Cl2(1mL)に溶かし、iPr2NEt(0.1mL)を加え、N-スクシミジルPEG12-Mal(100mg)、iPr2NEt(0.2 mL)を加えた。室温にて終夜撹拌し、これをLH20(CHCl3:MeOH 1:1)にて精製し、目的物Lを得た。
【0151】
[参考例2]
直鎖状リンカーと抗腫瘍性化合物SN-38との結合
以下に記載のようにして、直鎖状リンカーと抗腫瘍性化合物SN-38(10-ヒドロキシ-7-エチルカンプトテシン)とを結合した。なお、以下の反応において、「DMAP」はN,N-ジメチル-4-アミノピリジンを表し、「DMF」はN,N-ジメチルホルムアミドを表し、「TFA」はトリフルオロ酢酸を表す。
【0152】
(1)SN-38とPEGとの結合
【化4】

【0153】
10-ヒドロキシ-7-エチルカンプトテシン(102.1mg、0.260mmol)、Boc-PEG27-COOH(407.1mg、0.286mmol)、DMAP(15.9mg、0.130mmol)のDMF溶液(1mL)中に、WSCDI(water soluble carbodiimide:54.8mg、0.286mmol)を0℃で添加した。混合物を室温で19時間攪拌し、反応混合物をゲルろ過カラムクロマトグラフィー(LH20 CHCl3:MeOH=1:1)、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl3:MeOH=15:1〜9:1)により精製し、無色油状物としてエステルを得た(420.1mg、90%)。
1H-NMR δ (CD3OD) 8.20 (d, J = 9.2 Hz, 1H), 7.99 (s, 1H), 7.66 (m, 2H), 5.60 (d, J = 16.5 Hz, 1H), 5.40 (d, J = 16.5 Hz, 1H), 5.32 (M, 2H), 3.93 (t, J = 6.4 Hz, 2H), 2.96 (t, J = 6.4 Hz, 2H), 1.97 (m, 2H), 1.43 (s, 9H), 1.40 (t, J = 7.6 Hz, 3H), 1,02 (t, J = 7.8 Hz, 3H);13C-NMR (DMSO-d6) δ164.8, 161.9, 149.2, 148.5, 143.1, 142.7, 141.3, 138.2, 137.7, 137.5, 122.4, 119.5, 118.9, 117.2, 110.7, 106.5, 89.7, 70.4, 64.6, 62.3, 62.0, 62.0, 62.0, 61.9, 61.8, 61.8, 61.7, 61.5, 58.1, 58.0, 57.1, 41.2, 40.1, 31.8, 28.1, 26.3, 19.4, 14.4, 4.9, -1.1。
【0154】
(2)直鎖状リンカーへのマレイミド基の導入
【化5】

【0155】
CH2Cl2(10mL)中Boc-PEG27-カンプトテシン(221.5mg、0.123mmol)溶液に、室温でTFA(1mL)を添加した。混合物を1.5時間攪拌した後、真空内で除去し、トルエンを添加した。蒸発後、残渣を高真空下で乾燥させた。残渣をCH2Cl2(5mL)及びMAL-PEG12-NHS(128.2mg、0.148mmol)に溶解し、iPr2NEt(48μL、0.246mmol)を0℃で添加した。30分後、混合物をゲルろ過カラムクロマトグラフィー(LH-20、CHCl3:CH3OH=1:1)、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、無色油状物として目的物を得た(276.0mg、91%)。
1H-NMR (CD3OD) δ 8.20 (d, J = 9.2 Hz, 1H), 8.00 (s, 1H), 7.66-7.64 (m, 2H), 6.83 (s, 2H), 5.60 (d, J = 16.0 Hz, 1H), 5.41 (d, J = 16.0 Hz, 1H), 5.34 (s, 1H), 3.93 (t, J = 6.0 Hz, 2H), 2.97 (t, J = 6.0 Hz, 2H), 2.49-2.45 (m, 4H), 2.00-1.98 (m, 2H), 1.41 (t, J = 7.6 Hz, 3H), 1.02 (t, J = 7.6 Hz, 3H); 13C-NMR (DMSO-d6) δ 172.1, 170.4, 169.8, 169.7, 169.1, 156.5, 151.7, 149.7, 148.9, 146.2, 145.6, 145.0, 134.3, 131.1, 128.4, 126.8, 125.3, 118.8, 115.0, 96.5, 72.3, 69.9, 69.6, 69.5, 69.4, 69.0, 68.9, 66.7, 65.8, 65.1, 49.5, 36.0, 34.8, 34.1, 33.9, 31.6, 30.3, 25.4, 22.3, 13.9, 7.8。
【0156】
[実施例6]
SN-38-リンカー結合体と抗体との結合
図9に示すように、分枝状リンカーと結合させたPEG−SN-38結合体(参考例1)、又は直鎖状リンカーと結合させたPEG−SN-38結合体(参考例2)を、抗フィブリン抗体と結合させた。
【0157】
具体的には、抗体をPBSに1.0 mg/ml濃度になるよう調製した。抗体にジチオトレイトール(DTT)を最終濃度10mMになるように加えて、37℃で30分反応させた。Amicon Ultraで反応試薬を除去した。吸収測定したところ抗体の回収率は約80%であった。また、(5,5'-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸))(DNTB)によるSH基の定量結果から、1抗体あたり7個のSH基が得られた。
【0158】
次に、タンパク質濃度0.5 mg/mlとなるように100 mM リン酸緩衝液+150 mM NaCl+5 mM EDTA(pH 6.0)に溶解し、モル比で抗体1に対し、図8のL(マレイミド化合物)4の割合で混合した後、室温1時間、その後4℃で一晩反応させた。
【0159】
Amicon Ultraで反応試薬を除去した後、PBSに置換した。Amicon Ultraでタンパク質を回収したところ90%の回収率であり、分枝状リンカーを結合させた抗体では、抗体1個あたり21個のSN-38が付加された。
【0160】
また、HPLCを用いて、直鎖状リンカーと分枝状リンカーを用いた場合の、抗体へのSN-38の結合量を調べた。その結果を表1に示す。表中、「AVERAGE」の欄に、抗体1分子当たりの平均SN-38結合量を示す。
【0161】
【表1】

【0162】
表1に示すように、分枝状リンカーを介したSN-38−抗体複合体は、抗体1個当たりのSN-38結合量が、従来の直鎖状リンカーを用いた場合と比較して、平均約3倍多いことがわかった。
【0163】
[実施例7]
in vitro殺細胞効果
本実施例では、実施例6で調製した抗体−SN-38複合体の膵臓癌細胞株SUIT2に対するin vitro殺細胞効果を確認した。具体的には、96穴プレートにSUIT2癌細胞を3000個播き、その24時間後に直鎖状リンカーを介したSN-38と抗体との複合体又は分枝状リンカーを介したSN-38と抗体との複合体を添加し、その48時間後の細胞数をCell Counting Kit-8(Dojindo)を用いたWST-8法により測定した。対照として、遊離SN-38、及び公知の抗癌剤イリノテカン(CPT11)を使用した。
【0164】
その結果を図10A及びBに示す。図10では、直鎖状リンカーを介したSN-38と抗体との複合体(A)、又は分枝状リンカーを介したSN-38と抗体との複合体(B)の存在下における、SUIT2細胞の細胞増殖率(%)を示す。図10に示すように、SN-38濃度換算のIC50は、分枝状リンカーを用いた場合が0.028μM(図10のB)であり、直鎖状リンカーを用いた場合の0.034μM(図10のA)とほぼ同等であった。従って、いずれの複合体を用いた場合でも、抗腫瘍効果が確認された。また、分枝状リンカーを用いた場合には、抗体複合体の投与量は約1/3に減らすことができた。
【0165】
SN-38は、イリノテカンCPT-11というプロドラッグとしてすでに臨床応用されているが、低分子であるゆえに、分布が正常組織と癌組織との間で区別されず、癌に長く留まらない。したがって、活性本体であるSN-38の時間依存性抗腫瘍効果という特徴が活かされず、副作用が強いという問題が臨床上指摘されている。本実施例に示すように、分枝状リンカーを用いることによりSN-38の抗体への付加量を約3倍に増やすことで、癌選択毒性が高められた。
【0166】
[実施例8]
in vivo抗腫瘍効果
本実施例では、実施例6で調製した抗体−SN-38複合体のマウス化学発癌モデルに対する影響を調べた。
【0167】
マウス化学発癌モデルは、常法に従って、マウスの背中に1mg/ml DMBA(7,12-ジメチルベンズアントラセン)をイニシエーターとして約200ml塗布し、その後PMA(ホルボールミリスチン酸アセテート)を週1回塗布して約半年後に、ヒトと近い病態を示す自然化学発癌モデルマウスを確立した。マウス化学発癌モデルの腫瘍径が4mmに達したとき、CPT-11をSN-38換算23.2mg/kgで、又は抗フィブリン抗体-SN-38複合体をSN-38換算13.5mg/kgで静脈内投与した。
【0168】
その結果を図11及び12に示す。図11に示されるように、CPT-11に比べて抗フィブリン抗体-SN-38が強い抗腫瘍効果を示した。また、図12に示されるように、ケース1では腫瘍は顕著に縮小している。ケース2では、薬の効果で腫瘍の色調が赤色(血流陽性)から白色(血流陰性)に変化しており、抗腫瘍効果の強さを示している。
【0169】
従って、本発明の抗フィブリン抗体が、抗腫瘍性化合物を腫瘍部位へ送達し、抗腫瘍効果を発揮できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明により、フィブリンに対する抗体及びその抗原結合性フラグメントが提供される。本発明の抗フィブリン抗体を用いることにより、高感度に、信頼性をもって、かつ簡便にフィブリン及び血栓の存在を検出することができ、結果として血栓関連疾患を判定することが可能となる。また、本発明の抗フィブリン抗体を用いることにより、適当な化合物又は分子を血栓が存在する部位、例えば腫瘍に送達させることが可能となる。特に本発明の抗フィブリン抗体は、ヒト及びマウスフィブリンと結合し、かつヒト及びマウスフィブリノーゲンとは結合しないものであるため、医療診断分野や医薬分野において有用と考えられる。
【受託番号】
【0171】
受託番号NITE P-923(ハイブリドーマ102-10、2010年4月1日付寄託)
【配列表フリーテキスト】
【0172】
配列番号1〜6:人工配列(抗体CDR配列)
配列番号7〜10:人工配列(抗体可変領域配列)
配列番号11〜14:人工配列(プライマー)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号1のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなるH鎖CDR1、
(b)配列番号2のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなるH鎖CDR2、
(c)配列番号3のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなるH鎖CDR3、
(d)配列番号4のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなるL鎖CDR1、
(e)配列番号5のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなるL鎖CDR2、及び
(f)配列番号6のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個の保存的アミノ酸置換を含むアミノ酸配列からなるL鎖CDR3
を含み、ヒトフィブリンと結合することを特徴とする抗体又はその抗原結合性フラグメント。
【請求項2】
ヒトフィブリン及びマウスフィブリンと結合する、請求項1に記載の抗体又は抗原結合性フラグメント。
【請求項3】
ヒトフィブリノーゲン及びマウスフィブリノーゲンとは結合しない、請求項1又は2に記載の抗体又は抗原結合性フラグメント。
【請求項4】
モノクローナル抗体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性フラグメント。
【請求項5】
受託番号NITE P-923を有するハイブリドーマ細胞により産生される抗体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性フラグメント。
【請求項6】
受託番号NITE P-923を有するハイブリドーマ細胞により産生される抗体が結合するエピトープに結合する抗体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性フラグメント。
【請求項7】
キメラ抗体又はヒト化抗体である、請求項1〜4のいずれかに記載の抗体又は抗原結合性フラグメント。
【請求項8】
配列番号8のアミノ酸配列からなるH鎖可変領域、及び配列番号10のアミノ酸配列からなるL鎖可変領域を含むキメラ抗体である、請求項7に記載の抗体又はその抗原結合性フラグメント。
【請求項9】
標識されている、請求項1〜8のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性フラグメント。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性フラグメントをコードする塩基配列を含む核酸。
【請求項11】
請求項10記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項12】
請求項10記載の核酸又は請求項11記載の発現ベクターを含み、請求項1〜8のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性フラグメントを産生する形質転換体。
【請求項13】
請求項12記載の形質転換体を培地において培養し、培養物から抗体又は抗原結合性フラグメントを採取するステップを含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性フラグメントの製造方法。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれかに記載の抗体又は抗原結合性フラグメントを産生する細胞。
【請求項15】
受託番号NITE P-923を有するハイブリドーマ細胞である、請求項14に記載の細胞。
【請求項16】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性フラグメントを含むことを特徴とするフィブリンの免疫学的測定用試薬。
【請求項17】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性フラグメントを含むことを特徴とする血栓関連疾患の判定用試薬。
【請求項18】
血栓関連疾患が梗塞又は癌である、請求項17に記載の試薬。
【請求項19】
請求項9に記載の標識された抗体又は抗原結合性フラグメントを含むことを特徴とする血栓可視化剤。
【請求項20】
梗塞又は癌を可視化するための、請求項19に記載の血栓可視化剤。
【請求項21】
(a)請求項1〜9のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性フラグメントと、サンプルとを接触させるステップ、
(b)該抗体又は抗原結合性フラグメントがサンプル中のフィブリンと結合したか否かを検出するステップ
を含む、サンプル中のフィブリンを検出するための方法。
【請求項22】
(a)請求項1〜9のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性フラグメントと、被験体に由来するサンプルとを接触させるステップ、
(b)該抗体又は抗原結合性フラグメントがサンプル中のフィブリンと結合したか否かを検出するステップ
を含む、被験体における血栓関連疾患を判定するための方法。
【請求項23】
血栓関連疾患が梗塞又は癌である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
サンプルが、細胞及び組織サンプル、並びに生体液サンプルからなる群より選択される、請求項21〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
(a)請求項1〜8のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性フラグメントのアミノ酸配列から改変したアミノ酸配列を有する抗体又は抗原結合性フラグメントを調製するステップ、
(b)得られた抗体又は抗原結合性フラグメントがフィブリンと結合するか否かを判定するステップ
を含む、改変型抗フィブリン抗体又は抗原結合性フラグメントの作製方法。
【請求項26】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合性フラグメントと、抗腫瘍性部分との複合体。
【請求項27】
抗体又は抗原結合性フラグメントと抗腫瘍性部分とが、リンカーを介して結合している、請求項26に記載の複合体。
【請求項28】
抗腫瘍性部分が抗癌剤である、請求項26又は27に記載の複合体。
【請求項29】
請求項26〜28のいずれか1項に記載の複合体を含む、腫瘍の予防又は治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−72(P2012−72A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139572(P2010−139572)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】