説明

新規な無細胞百日咳ワクチン組成物およびその製造方法

本発明は、ジフテリア、破傷風、無細胞百日咳ならびにインフルエンザ菌およびポリオウイルスポリオに起因する疾患を防ぐ、抗原の混合物を含む混合ワクチンに関する。また、本発明は、該ワクチンの投与により1以上の病原体に対する免疫を同時に患者に与えることができるような、肝炎ウィルスおよび他の病原体による感染症から防御するための抗原の封入体にも関する。本発明は、特に、上記の抗原を含む、完全に液状の安定な混合ワクチンおよびその製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジフテリア、破傷風、百日咳、ならびにインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)およびポリオウィルスによる感染症などの疾患から防御するための抗原混合物を含む混合ワクチンに関する。本発明は、該ワクチンの投与により1以上の病原体に対する免疫を同時に患者に与えることができるような、肝炎ウィルスおよび他の病原体による感染症から防御するための抗原の封入体(inclusion)にも関する。本発明は、特に、上記の抗原を含む、完全に液状の安定な混合ワクチンおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワクチンの抗原
ジフテリア抗原および破傷風抗原
ジフテリアおよび破傷風は、それぞれジフテリア菌(Cornyebacterium diphtheriae)および破傷風菌(Clostridium tetani)に起因する急性感染症である。これら細菌の毒素は、各疾患の主要な原因である。これら細菌に対して防御できるワクチンは、無毒化されその感染力を消失したそれらの毒素を含有する。トキソイド[ジフテリアトキソイド(DT)および破傷風トキソイド(TT)]の作製のため、該毒素はホルムアルデヒドまたはグルタルアルデヒドなどの化学薬品を用いて処理される。ジフテリア毒素変異体CRM197もまた、特定のワクチンに使用されている。
【0003】
百日咳抗原
百日咳(whooping cough diseaseまたはpertussis)は、百日咳菌(Bordetella pertussis)によって起こる。これは死に至ることさえある衰弱性で重篤な疾患である。該疾患に対する初期のワクチンは、細胞を破壊して毒性物質を不活性化するためにホルムアルデヒドなどの化学薬品を用いて処理した全細胞型であった。「全細胞(wP)ワクチン」と呼ばれるそのようなワクチンは、非常に効果的であるが、発熱および局所反応などの副作用を伴う。より確定的なワクチンが必要であると認められており、研究者達は、その後、開発の焦点を「成分ワクチン」と呼ばれるより少数の高純度抗原を含有するワクチンに変更した。百日咳毒素(PT)、線維状赤血球凝集素(FHA)、パータクチン(PRNまたはP69)、線毛タンパク質(FIM1、2および3)、アデニルシクラーゼ、リポ多糖類および他の外膜タンパク質などの多くの病原性関連因子が、成分ワクチンに比べてあまり明確ではない「無細胞ワクチン」における封入体として示唆されてきた。その研究のほとんどは、部分的な防御でしかないPT型ワクチンに集中してきた。PT/FHAの組み合わせはより効果的であったが、依然としてwP型ワクチンより免疫原性が小さい。他の有力候補であるPRNまたはP69は、PTおよびFHAとの組み合わせでより効果的な百日咳ワクチンとなることが見出された。また、ある種の百日咳ワクチンは、百日咳に対する免疫原性を付与する第4のパートナーとしてFIMを有していた。
【0004】
灰白髄炎(Poliomyelitis)抗原
2種のワクチンが利用できる:
・1961年、アルバート・セービン(Albert Sabin)博士によって開発された弱毒(衰弱化)生経口ポリオワクチン(OPV)。セービン株を含むOPVは経口投与される。
・1955年、ジョナス・ソールク(Jonas Salk)博士によって開発された不活化(死滅化)ポリオワクチン(IPV)。ソールク株を含むIPVは注射として投与される。
【0005】
弱毒生ポリオワクチン(OPV)および不活化(IPV)ポリオワクチンの両方とも、世界的にポリオ疾患の予防に効果を奏してきた。該ポリオワクチンは、ソールク株またはセービン株を含む可能性がある。灰白髄炎疾患に対するワクチンに使用されてきたソールク株は、1型マホニー(Mahoney)、2型MEFおよび3型ソーケット(Saukett)である。セービン株としては、セービン1株およびセービン2株が挙げられる。
【0006】
インフルエンザ菌(Hib)抗原
インフルエンザ菌は、ごく普通の上気道細菌叢であるグラム陰性球桿菌である。インフルエンザ菌b型(Hibb)は、幼児における侵襲性血液感染症の主要な原因であり、生後2年間における髄膜炎の主要な原因である。インフルエンザ菌に対する予防接種は、1987年にカナダで多糖類ワクチン[ポリリボースリビトールホスファート(PRP)]を用いて始まった。Hibのポリリボシルリビトールホスファート(PRP)カプセルは、生物にとって深刻な病原性因子である。PRPに対する抗体は血清殺菌活性の第一の要因であり、抗体レベルが上昇すれば侵襲性疾患のリスクが減少する。PRPはT細胞非依存性抗原であり、したがって、a)18ヶ月未満の乳幼児における弱い抗体応答の誘導、b)T細胞依存性抗原で見られる抗体応答よりも変動的かつ定量的に小さい抗体応答、c)より高い割合の免疫グロブリンM(IgM)の産生、およびd)ブースター応答の誘導不能、によって特徴づけられる。
【0007】
PRP成分のみに基づく初期のワクチンは、乳児に効果がないことが分かった。さらなる取り組みは、髄膜炎菌の外膜タンパク質、ジフテリアトキソイド、破傷風トキソイドおよびCRM197などの担体タンパク質と呼ばれるタンパク質にPRPをコンジュゲートさせたPRP結合ワクチンに向けられた。
【0008】
肝炎(Hep)抗原
肝炎ウイルスには種々の株がある。B型肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)に起因する疾患であり、ヒトを含むヒト上科の肝臓に感染し、肝炎と呼ばれる炎症を引き起こす。肝炎は、数週間にわたる(急性の)軽度の病気から、肝臓疾患または肝臓癌に至り得る重篤で長期的な(慢性の)病気まで、重症度に幅がある。その疾患に対するワクチンは、ウイルスのエンベロープタンパク質の一つである、B型肝炎表面抗原(HBsAg)を含有する。FDAに承認されたHep B含有ワクチンは、メルク(Merck)によるRecombivax HB(登録商標)およびComvax(登録商標)、グラクソ・スミスクライン・バイオロジカルズ(GlaxoSmithKline Biologicals)によるEngerix-B(登録商標)およびPediarix(登録商標)である。
【0009】
他の抗原
人類に関係する他の抗原としては、インフルエンザ菌(a、c、d、e、f血清型および莢膜非保有株)、肝炎(A、C、D、E、FおよびG株)、髄膜炎A、BまたはC、インフルエンザ、肺炎連鎖球菌、連鎖球菌、炭疽菌、デング熱、マラリア、麻疹、流行性耳下腺炎、風疹、BCG、日本脳炎、ロタウイルス、天然痘、黄熱、腸チフス、シングルス(Singles)、水痘ウイルスなどが挙げられる。
【0010】
混合ワクチン
ワクチンの分野における数十年にわたる研究にもかかわらず、感染症は人類にとっての脅威であり続けている。種々の疾患を防ぐ混合ワクチンは、注射の回数を減らし、投与および製造コストを低減し、その上患者コンプライアンスを向上させるので、非常に望ましい。そのような混合ワクチンは一般的に受け入れられやすい。
【0011】
しかしながら、抗原競合という十分に裏付けされた現象が、多価ワクチンの開発を複雑化し妨げてきた。この現象は、複数の抗原を一緒に投与すると、抗原が別々に投与された場合の免疫応答に比べてしばしば特定の抗原に対する応答が小さくなるという観察結果をいう。
【0012】
初期の研究は、さまざまな疾患および感染症を対象とする多価のワクチンの開発に焦点がおかれてきた。そのようなワクチン組み合わせとして周知の一つは、ジフテリア、破傷風および無細胞百日咳に対する防御をもたらすものである。無細胞百日咳(aP)成分は、通常、解毒したPT(百日咳毒素)、FHA(線維状赤血球凝集素)およびPRNまたはP69(パータクチン)の2または3の全部を含む。場合によって、線毛抗原(FIM1、2または3)などの他の百日咳抗原が存在していてもよい。Infanrix(登録商標)(グラクソ・スミスクライン・バイオロジカルズ)、Tripedia(登録商標)およびDaptacel(登録商標)(サノフィ・パスツール(Sanofi Pasteur))は、FDAがDTaP混合ワクチンと認可した。
【0013】
このような混合ワクチンには、肝炎ウイルス(Hep)、インフルエンザ菌(Hib)およびポリオウイルス(IPV)に起因する疾患を予防するであろう他の抗原を添加することが望ましい。該混合ワクチンは、上記に加え、他の疾患に対する防御をもたらす抗原を有していてもよい。
【0014】
最近のグラクソ・スミスクライン・バイオロジカルズによるFDA認可ワクチンKinrix(登録商標)は、DTaP(Infanrix(登録商標))抗原とともにIPVを有する混合ワクチンである。Infanrix-Hib(登録商標)は、グラクソ・スミスクライン・バイオロジカルズから供される他の組み合わせであり、ここではDTaP抗原は液状で存在し、Hib抗原は凍結乾燥されて別バイアルで供給される。グラクソ・スミスクライン・バイオロジカルズによるPediarix(登録商標)およびInfanrix penta(登録商標)は、DTaPと一緒にHep BおよびIPV成分を含有する単一バイアル用量の混合ワクチンからなる。サノフィ・パスツールによるpentacel(登録商標)は、液状で供されるDTaP-IPVと乾燥状態で供されるHib成分5つのワクチン成分の組み合わせである。グラクソ・スミスクライン・バイオロジカルズによるInfanrix hexa(登録商標)は、ジフテリア、破傷風、百日咳、ポリオ、ならびにHep Bウイルスおよびインフルエンザ菌b型に起因する感染症などの疾患を予防する6成分混合ワクチンである。この組み合わせにおいて、Hib成分以外の全成分は液状で存在するが、Hib成分は凍結乾燥状態で存在する。このように、上記既存の混合ワクチンはどれも完全な液状製剤として市販されてなく、また単一バイアル中にジフテリア、破傷風、百日咳およびポリオに対する防御をもたらす抗原とともにHibおよびHepなどの抗原を含むものはない。
【0015】
特許文献1は、ワクチン成分の単なる混合は、抗原干渉のせいで多糖類成分に対する抗体力価の低下となると述べている。該文献は、インフルエンザ菌(Hib)b型感染症予防のワクチン製剤に関し、ここでは抗多糖類抗体の減少を防止するために、Hib bコンジュゲートをリン酸アルミニウムに吸着させる必要がある。さらに、該Hib b抗原は凍結乾燥され、投与前1時間以内に液状で存在する他の抗原と混合される。このため、該文献には、全てが液状の製剤として存在し、ジフテリア、破傷風、百日咳ならびにインフルエンザ菌、肝炎およびポリオウイルスに起因する感染症に対する防御をもたらす抗原を含有する混合ワクチンの教示はない。
【0016】
スミスクライン・ビーチャム・バイオロジカルズ(SmithKline Beecham Biologicals)による特許文献2は、リン酸アルミニウムに吸着したHBsAg(Hep B抗原)を含有する多価ワクチンに関する。水酸化アルミニウム吸着HBsAgを混合ワクチンに用いると、HBsAg成分に対する免疫応答が顕著に低下して、予防接種後の血清変換(seroconversion)が不充分となることを主張する。さらに、多価ワクチンにおいては、HBsAgの吸着用アジュバントとして水酸化アルミニウムの使用は避ける必要があると述べる。明細書は、Hib b成分は、その発明ワクチンに、用時添加することができると述べている。上記のとおり、特許文献2には、全てが液状の製剤として存在し、ジフテリア、破傷風、百日咳ならびにインフルエンザ菌、肝炎およびポリオウイルスに起因する感染症に対する防御をもたらす抗原を含有する混合ワクチンの教示はない。また、特許文献2に係るワクチンは、Hep B抗原は水酸化アルミニウムではなく、リン酸アルミニウムに吸着されるという特定の条件が要求される。
【0017】
ノバルティス・ワクチンアンドダイアグノスティックス(Novartis Vaccines and Diagnostics)による特許文献3は、DおよびT抗原が、限定的に水酸化アルミニウムに吸着され、Hib bおよびHep B抗原がリン酸アルミニウムに吸着されているワクチン組成物に関する。しかしながら、この出願は、D、TおよびaP抗原がリン酸アルミニウムに吸着されかつHep抗原が水酸化アルミニウムに吸着されている、全てが液状の安定な混合ワクチン製剤を教示しない。
【0018】
コンノート・ラボラトリース(Connaught Lab)による特許文献4は、宿主において、百日咳菌、破傷風菌、ジフテリア菌、ポリオウイルスおよび/またはインフルエンザ菌による感染に起因する疾患を予防することができる多価の免疫原性組成物を提案する。明細書によれば、該ワクチンのHib b成分は、凍結乾燥された成分であり、ワクチンの他の成分と混合する前に再溶解しなければならない。したがって、明細書中に、上記抗原を全て含み、完全に液状の混合ワクチンについての教示はない。
【0019】
フリーズドライとも呼ばれる凍結乾燥は、非常に費用がかかり、またタンパク質に対して多くのストレスを引き起こす方法でもある。ワクチンのどれかの成分が凍結乾燥されている場合、ワクチンの投与時には、凍結乾燥物を別の液体または混合ワクチンの液体成分と混合する必要がある。このことは、現場の実施者に強制追加される操作であり、首尾よくできないおそれがある。そのため、一つの区画内に凍結乾燥成分、他の区画内にワクチンの液体成分を含むであろう多区画注射器が提案された。しかしながら、ワクチン投与時にその内容物を混合することができるような注射器は、製造コスト低減の水準を満たさない上、実施者により行われる操作性も満たさない。
【0020】
したがって、このフリーズドライの工程を回避し、全成分一緒にかつ完全に液状の形態で存在する混合ワクチンを提供することが望ましい。このことは、ワクチンの投与を容易にし、患者コンプライアンスを向上させ、また製造コストを低減させるだろう。したがって、Hib抗原をワクチンの液体成分に加え、結果として完全に液状である多価ワクチンとすることが望ましい。
【0021】
グラクソ・スミスクライン・バイオロジカルズによる特許文献5は、Hib b多糖体を含むワクチンに関する。該出願は、全ての抗原を効果的に混ぜ合わせることができないという事実により、混合ワクチンの成分の単純混合は困難であることを示す。DTPワクチンの水酸化アルミニウムとPRPとの間に干渉があることが示される。特許文献5における発明は、PRPが予めリン酸アルミニウム上に吸着されている用時調製型の混合ワクチンにおける上記干渉を最小化することを目的とする。この発明はさらに、免疫干渉からある程度保護されるような、PRPを含む免疫原性組成物、ワクチンおよび混合ワクチンを提供する。この発明者らは、ポリアニオン系ポリマー添加剤を、PRPを含むワクチンに組み込むことによって、上記が達成され得ることを見出した。
【0022】
しかしながら、ワクチン製剤におけるポリアニオン系ポリマーの使用は、ワクチン製剤化コストを増加させ得るために、望ましいとはいえない。また、ワクチンは最終的にはヒトへの使用が意図されるため、可能な限り最小限の成分であることが理想的である。添加成分の使用は、身体が反応して抗体を産生する可能性のある物質を製剤に添加することを意味する。そのような身体反応を、免疫製剤のそのような成分と接触させることは望ましくないかも知れない。
【0023】
パストゥール・メリユ・セリュム(Pasteur Merieux Serums)による特許文献6は、インフルエンザ菌b型の莢膜多糖または破傷風アナトキシンに共役した高分子量ポリリボシルリビトールリン酸(PRP)、およびアルミニウム系アジュバントを含むワクチン組成物に関する。その発明で使用されるアルミニウム系アジュバントは、およそ7.2未満の電荷ゼロ点を有する。しかしながら、該特許は、ジフテリア、破傷風、百日咳ならびにインフルエンザ菌およびポリオウイルスに起因する感染症に対する防御をもたらす抗原を完全に液状の形態で含み、Hib抗原が実質的にどのアジュバントにも吸着されてなくてもよい混合ワクチンの製剤を特に教示しない。該特許は、ジフテリア、破傷風、百日咳ならびにインフルエンザ菌、肝炎およびポリオウイルスに起因する感染症に対する防御をもたらす抗原を含み、上記ジフテリア抗原、破傷風抗原および百日咳抗原がリン酸アルミニウムに吸着され、かつ肝炎抗原が水酸化アルミニウムに吸着されている、完全に液状の安定な混合ワクチンの製剤も教示しない。
【0024】
サノフィ・パスツール MSDによる特許文献7は、百日咳菌、ジフテリア菌、破傷風菌、ポリオウイルス、B型肝炎ウイルスおよびインフルエンザ菌に起因する疾患を予防することができる多価ワクチンに関する。しかしながら、該特許は、ジフテリア、破傷風、百日咳ならびにインフルエンザ菌、肝炎およびポリオウイルスに起因する感染症に対する防御をもたらす抗原を完全に液状の形態で含み、上記D抗原、T抗原およびaP抗原がリン酸アルミニウムに吸着され、かつHep抗原は水酸化アルミニウムに吸着されていない混合ワクチンの製剤を特に教示しない。
【0025】
アベンティス・パスツール(Aventis Pasteur)MSDによるHexavac(登録商標)は、上記生物に起因する疾患に対する予防が認められている全液状のワクチンである。しかしながら、このワクチンは、ワクチンのB型肝炎成分の製造方法の多様性はB型肝炎に対する長期防御を低減させる可能性があるという報告に基づく市販後の問題を背景として、世界的に使用が禁止された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】米国特許第6756040号明細書
【特許文献2】米国特許第6013264号明細書
【特許文献3】国際公開第2007/054820号
【特許文献4】国際公開第1998/000167号(A1)
【特許文献5】国際公開第2004/110480号
【特許文献6】米国特許第6333036号明細書
【特許文献7】欧州特許第1028750号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
数々の疾患を防ぐであろう種々の抗原を含む多価ワクチンの作製のための研究が進行しているものの、それらは、ジフテリア、破傷風、百日咳ならびにインフルエンザ菌およびポリオウイルスに起因する感染症に対する防御をもたらす抗原を完全に液状の形態で含み、Hib抗原が実質的にどのアジュバントにも吸着されてなくてもよい、安定な混合ワクチンを提供する必要性については取り組んでいない。また、ジフテリア、破傷風、百日咳ならびにインフルエンザ菌、肝炎およびポリオウイルスに起因する感染症に対する防御をもたらす抗原を全て液状の形態で含み、上記D抗原、T抗原およびaP抗原がリン酸アルミニウムに吸着され、かつHep抗原は水酸化アルミニウムに吸着されている、安定な混合ワクチンの製造も開示しない。混合ワクチンおよびPRPワクチンの個別投与および同時投与によって免疫化された子供における、特定の抗原に対する抗体応答に関して、対照的な報告が入手可能である。そのような結果には種々の理由があり得、その理由としては、それらワクチンが、それらの抗原の内容、トキソイド化方法、アジュバント化方法または使用された保存剤において非同一であることが挙げられる。
【0028】
現在、市販品として入手可能な混合ワクチンは、数々の疾患に対して、感受性ヒト集団において望まれるレベルの効果および免疫原性を1回の注射で達成するために適当な免疫原性形態での適当な抗原の適当な製剤を含有していないかもしれない。種々の感染症に対して予防でき、かつ投与の容易性および費用対効果の低減をもたらすような液状形態の多成分ワクチンが必要とされている。ジフテリア菌、破傷風菌、百日咳菌、ポリオウイルス、肝炎ウイルスおよびインフルエンザ菌などによる感染症に起因する疾患に対する、安定かつ効果的な多価ワクチンの提供が望ましいだろう。そのようなワクチンが効果的であるためには、ワクチンの各抗原に対する血清抗体保有(seroprotection)基準が満たされていなければならない。このためには、抗原競合および抗原干渉によってもたらされる障害および攻撃を解消する必要がある。本発明は、複数の疾患を予防する多価ワクチン製剤を提供することによって、従来技術の限界を解消し、関連する問題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明は、ジフテリア、破傷風、百日咳、ならびにインフルエンザ菌およびポリオウイルスに起因する感染症などの疾患から防御するための抗原混合物を含む混合ワクチンに関する。また、本発明は、ワクチンの投与が1以上の病原体に対して同時に対象を免疫化し得るように、肝炎ウイルスおよび他の病原体に起因する感染症から防御するための抗原の封入体にも関する。本発明は、特に、上記のような抗原を含む完全に液状の安定な混合ワクチンおよびその製造方法に関する。
【0030】
本発明は、さらに、Hib抗原が実質的にどのアジュバントにも吸着していない5価ワクチンに関する。また、本発明は、複数の疾患から防御するための抗原を含み、ジフテリア抗原、破傷風抗原および無細胞百日咳抗原がリン酸アルミニウムに吸着し、かつ肝炎抗原が水酸化アルミニウムに吸着している、完全に液状の安定な6価ワクチンにも関する。
【0031】
本発明は、さらに、各ワクチン成分に対する血清抗体保有基準を満たす、複数の疾患状態の予防、改善および治療に適切な複数のワクチン成分を含む混合ワクチンに関する。
【0032】
本発明は、各ワクチン成分に対する血清抗体保有基準を満たす、複数の疾患状態の予防、改善および治療に適切な複数のワクチン成分を含む、完全に液状で安定な混合ワクチンに関する。
【発明の効果】
【0033】
本発明の利点としては、広範な疾患および感染症に対する防御を、安全かつ効果的な様式で与え得る多価ワクチンが挙げられる。本発明のワクチンは、ワクチン中に存在するどの抗原のいかなる干渉もなく、種々の疾患および感染症への免疫原性を提供する。したがって、1回の注射が、種々の疾患および感染症に対する免疫原性を与え、ワクチンの患者コンプライアンスをより向上させるであろう。一度の注射が、数々の感染症および疾患に対する免疫を与えるであろうから、ワクチン接種の費用は低減されるであろう。本発明のワクチンは、ワクチン接種センターへの通院回数を低減させ、また多種の疾患および感染症に対して行われるべき注射の回数も低減させるという意味において有益であろう。本発明のこの特徴は、特に数多くの感染症および疾患への免疫を与えるためにワクチン接種する必要がある若年世代で、より有用かつ有利となるだろう。したがって、本発明はより満足のいくワクチンを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
定義
本明細書において、本発明のワクチンを記述するために使用される用語「完全に液状」とは、ワクチンの全ての成分が液体状態にあり、ワクチンのいかなる成分も、その成分が対象に投与される前にワクチンの他の成分と混合されることを必要とする凍結乾燥または任意の他の形態で提供されることがない、ワクチンの状態をいう。
【0035】
本明細書において、ワクチンにおいて使用される莢膜多糖(Hib)がコンジュゲート化されるタンパク質成分を記述するために使用される用語「担体タンパク質」は、T細胞非依存性多糖類をT細胞依存性抗原へ変換するためにコンジュゲート化されている。
【0036】
本明細書において、用語「アジュバント」は、抗原に対して生成される免疫応答の種類および質に影響することで、抗原と免疫系との間の接触を容易にすることによってワクチンの抗原の免疫応答を増強する、ワクチンの非抗原性成分を記述するために使用される。アジュバントは、抗原に対する免疫応答を長びかせ、またある抗原の毒性を低減させるかまたはある抗原への溶解性をもたらす作用をすることもできる。
【0037】
本明細書において、本発明のワクチンを記述するために使用される用語「安定」とは、ワクチンを5±3℃で少なくとも1ヶ月、好ましくは12ヶ月、特に好ましくは24ヶ月インキュベーションした後、ワクチン組成物の各抗原が通常の許容限界として設定されるよりも高い力価/免疫原性を有することを意味する。
【0038】
本明細書において、「Hibは、どのアジュバントにも実質的に吸着されていない」という表現において、どのアジュバントへのHibの吸着または共役の量を記述するために使用される用語「実質的に」とは、任意のアジュバントへのHibの吸着が15%未満であり、好ましくは10%未満であることを意味する。Hib抗原は、それが任意のアジュバントへ意図的に吸着されるようないかなる工程にも供されない;起こっているかもしれない吸着の量は、抗原とアジュバントとの間の接触のためといえ、意図的ではない。
【0039】
本明細書において、本発明のワクチン中に存在する成分の各々の量を記述するために使用される用語「約〜の(of about)」とは、該ワクチン成分の量であって、その特定の成分について述べられた量の好ましくは±20%、より好ましくは±10%、特に好ましくは±5%の量で存在する、該ワクチン成分の量を意味する。
【0040】
本明細書において、本発明のワクチンの調製の過程中で混合物の成分の撹拌時間を記述するために使用される用語「約」は、述べられた値の好ましくは±20%、より好ましくは±10%、特に好ましくは±5%である。
【0041】
本明細書において、本発明の混合ワクチンと関連して使用される用語「免疫学的に活性な」とは、ワクチンが対象に投与された場合、ワクチン接種された対象をそれぞれの疾患または感染症から防御するように、当該組合せの抗原の各々に対する抗体を誘発することができることを意味する。
【0042】
本明細書において、本発明の混合ワクチンの抗原と関連して使用される用語「共役または吸着」とは、抗原とアジュバントとの間の任意の形態の物理的結合をいう。
【0043】
本発明に係るワクチン
本発明は、全てのワクチン成分が一緒に、液体形態で単一のバイアル中に液状で存在する、安定な混合ワクチン組成物を提供する。
【0044】
本発明の一態様は、ジフテリア(D)抗原、破傷風(T)抗原、無細胞百日咳(aP)抗原、インフルエンザ菌(Hib)抗原およびポリオウイルス(IPV)抗原を含み、Hibが実質的にどのアジュバントにも吸着されていない、 完全に液状の安定な5価ワクチンを提供する。
【0045】
本発明の別の態様は、ジフテリア(D)抗原、破傷風(T)抗原、無細胞百日咳(aP)抗原、インフルエンザ菌(Hib)抗原、肝炎(Hep)およびポリオウイルス(IPV)抗原を含み、上記D抗原、T抗原およびaP抗原がリン酸アルミニウムに吸着され、Hep抗原が水酸化アルミニウムに吸着されている、 完全に液状の安定な6価ワクチンを提供する。
【0046】
本発明はさらに、上記ジフテリア(D)抗原、破傷風(T)抗原および無細胞百日咳(aP)抗原が、水酸化アルミニウムではなくリン酸アルミニウムのみに吸着されている態様を提供する。
【0047】
本発明の一態様によれば、Hib抗原は、破傷風トキソイド(TT)、ジフテリアトキソイド(DT)、CRM197および髄膜炎菌の外膜タンパク質もしくはそれらの任意の同等物を含む群から選択される担体タンパク質、または任意の他の公知の担体にコンジュゲートされている。
【0048】
本発明の別の態様において、Hib抗原は、実質的にどのアジュバントにも吸着されていない。
【0049】
本発明の別の一態様によれば、本発明のワクチンにおけるHib抗原は、Hib b株の莢膜多糖に由来する。
【0050】
本発明の一態様において、Hep抗原は、リン酸アルミニウムではなく水酸化アルミニウムに吸着されている。
【0051】
本発明のさらなる一態様において、Hep抗原が、B型肝炎表面抗原(HBsAg)すなわちHep B株の表面抗原に由来する。
【0052】
本発明の他の一態様によれば、IPV株は、1型マホニー、2型MEFおよび3型ソーケットの群から選択され得る1以上のソールク株、または1型もしくは2型セービンの群から選択される1以上のセービン株である。
【0053】
本発明の別の態様において、本発明のワクチンは、製剤中の保存剤として2-フェノキシエタノールを含む。
【0054】
さらに、本発明の他の態様は、本発明の混合ワクチンの製造方法に関する。
【0055】
本発明の他の一態様は、各抗原が、該抗原に対する防御免疫応答を誘発するような量でワクチン中に存在するような、本発明の混合ワクチン組成物に関する。
【0056】
本発明に係るワクチンの抗原
ジフテリアは、グラム陽性で胞子形成しない好気性菌である、ジフテリア菌に起因する。この生物は、プロファージによってコード化されるADPリボシル化外毒素(「ジフテリア毒素」)を発現し、これは(たとえば、ホルムアルデヒド使用して)処置されてトキソイドを与え得る。このトキソイドは、もはや毒性はないが、依然として抗原性を保持し、注射後に特定の抗毒素抗体の産生を刺激することができる。本発明のワクチンにおいて使用されるジフテリア抗原調製物は、好ましくはジフテリアトキソイドを含む。
【0057】
破傷風は、グラム陽性で胞子形成する桿菌である、破傷風菌に起因する。この生物は、エンドペプチダーゼ(「破傷風毒素」)を発現し、これは処置されて、もはや毒性のないトキソイドを与え得る。しかしながら、トキソイドは依然として抗原性を保持し、注射後に特定の抗毒素抗体の生産を刺激することができる。本発明のワクチンにおいて使用される破傷風抗原調製物は、好ましくは破傷風トキソイドを含む。
【0058】
百日咳(pertussis またはwhooping cough disease)は、百日咳菌に起因する。本発明の無細胞百日咳(aP)抗原は、公知のどの百日咳菌株から得られてもよい。本発明の目的には、aP抗原は、百日咳東浜(B. Tohama)株由来が好ましいといえる。培養の単離、培養、増殖および発酵のために適切な培地ならばどれでも用いることができる。本発明の目的には、改変Stainer-Scholte培地を好ましく用いることができる。本発明のワクチン組成物において使用される無細胞百日咳(aP)抗原は、百日咳トキソイド(PT)、線維状赤血球凝集素(FHA)、パータクチン(P69またはPRN)およびFIM(線毛抗原1、2または3)からなる群より選ばれる少なくとも1つの抗原を含む。しかしながら、本発明の好ましい実施態様によれば、本発明のワクチンに用いられるaP抗原調製物は、PT、FHAおよびPRN(P69)抗原を含む。
【0059】
インフルエンザ菌は、グラム陰性の球桿菌であり、侵襲性血液媒介感染症および髄膜炎を引き起こす。本発明の一実施態様によれば、莢膜多糖に由来するHib抗原は、担体タンパク質とコンジュゲートまたは共役していてもよい。Hib抗原のコンジュゲート化に使用される担体タンパク質は、破傷風トキソイド(TT)、ジフテリアトキソイド(DT)、CRM197および髄膜炎菌の外膜タンパク質またはそれらと同等物の中から選択され得る。他の適切な担体タンパク質としては、合成ペプチド、熱ショックタンパク質、百日咳タンパク質、サイトカイン、リンホカイン、ホルモン、成長因子、N19等の種々の病原体由来抗原由来の複数のヒトCD4+ T細胞エピトープを含む人工タンパク質、インフルエンザ菌由来のプロテインD、肺炎球菌表面タンパク質PspA、ニューモリシン、鉄取り込みタンパク質、クロストリジウム・ディフィシル由来の毒素AまたはBおよびストレプトコッカス・アガラクチアタンパク質が挙げられるが、それらに限定されない。本発明のワクチンにおいて使用されるHib抗原調製物は、好ましくは破傷風トキソイドとコンジュゲートまたは共役したHib抗原を含む。
【0060】
多糖類コンジュゲートは、いかなる公知の共役技術によっても調製することができる。例えば、多糖類は、チオエーテル結合を介して共役され得る。このコンジュゲート化方法は、1-シアノ-4-ジメチルアミノピリジニウムテトラフルオロボレート(CDAP)と反応してシアン酸エステルを形成する多糖類の活性化に基づいている。活性化多糖類は、したがって、担体タンパク質上のアミノ基と直接またはスペーサー基を介して共役され得る。コンジュゲートはまた、直接還元的アミノ化方法によっても調製され得る。別の方法は、アジピン酸ヒドラジド(ADH)で誘導体化された臭化シアン(CNBr)活性化多糖類のタンパク質担体への、カルボジイミド縮合による共役を伴う。本発明のワクチンに使用される多糖類コンジュゲートを調製するために、他のどのような公知の方法を使用してもよい。
【0061】
本発明の一実施態様によれば、Hib抗原は実質的にそのアジュバントにも吸着されていない;好ましくは、Hib抗原のアジュバントへの吸着率は15%以下であり;より好ましくは、Hib抗原のアジュバントへの吸着率は10%以下である。
【0062】
本発明の別の実施態様は、Hib抗原が、どのアジュバントにも意図的または故意に吸着させないことに関する。
【0063】
本発明の別の好ましい実施態様によれば、Hib抗原調製物は、Hib b株の莢膜多糖に由来する抗原を含む。
【0064】
肝炎は、A、B、C、D、E、FまたはGなどの種々の肝炎株に起因する。B型肝炎ウイルス(HBV)は、ウイルス性肝炎を引き起こす主要な因子の一つである。HBVウイルス粒子は、外部のタンパク質膜またはキャプシドによって囲まれている内部コアからなる。キャプシドの主要成分は、HBV表面抗原、または、より一般には「HBsAg」、として知られるタンパク質である。この抗原が、ワクチン接種の対象へ投与された場合、抗原は、HBV感染を防ぐ抗HBsAg抗体の生産を刺激する。本発明の一つの好ましい態様によれば、本発明のワクチンにおいて使用される肝炎(Hep)抗原調製物は、B型肝炎株の表面抗原(HBsAg)に由来するHep抗原を含む。
【0065】
ワクチン製造のためには、HBsAgは、慢性B型肝炎キャリアの血漿から微粒子形態で抗原を精製することによって(これは、HBV感染の間、大量のHBsAgが肝臓で合成されて血流へと放出されることから)、または組換えDNA法によってタンパク質を発現させることによって、産生することができる。本発明のワクチンにおいて使用されるHBsAgはいずれの方法によって調製されてもよい。
【0066】
灰白髄炎は、ポリオウイルスに起因する。本発明のワクチンは、ポリオウイルスのセービン(セービン1および/もしくはセービン2)株またはソールク株を含み得る。本発明の一つの好ましい実施態様によれば、本発明のワクチンは、ソールク株を含む。3種類のソールク株が、灰白髄炎を引き起こし得る。その3種類は類似しており、同一の症状を引き起こすが、それらは抗原的には非常に異なり、1種類による感染は、他の種類による感染を防御しない。ソールクポリオウイルスとしては、3つの株−1型(例、マホニー株)、ポリオウイルス2型(例、MEF−I株)およびポリオウイルス3型(例、ソーケット株)−が挙げられる。本発明の好ましい実施態様によれば、本発明のワクチンは、1以上の該ソールク株を含み得る。
【0067】
ポリオウイルスは、細胞培養中で生育され得る。サルの腎臓に由来する連続細胞株であるベロ細胞株が、ポリオウイルスを生育するために使用され得る。生育後、ウイルス粒子は既知の技術を用いて精製され得る。ウイルスの不活化がなされ得る。ポリオウイルスの量は典型的には、「DU」単位(「D抗原単位」)で表される。本発明のワクチンの製造に使用されるIPV抗原調製物は好ましくは、ワクチンの製造において使用される1以上の株を含むように調製される。このバルク調製物が、次いで本発明のワクチンを処方するために使用される。
【0068】
ワクチンの非抗原性成分
抗原性成分に加え、ワクチンは医薬的に許容可能な添加剤である数々の非抗原性成分を含み得る。これらとしては、pH調整剤、緩衝剤、アジュバント、保存剤、担体および浸透圧調整剤が挙げられるが、それらに制限されない。
【0069】
アジュバント
最終製剤の抗原は、アジュバントに吸着されていても、吸着されていなくてもよい。アジュバントは、ワクチン成分に対する免疫の生産を刺激するよう機能し、ワクチンをより効果的にする。
【0070】
アジュバントは:
・抗原を免疫系と接触させ、生産される免疫の種類および免疫応答の質(規模および持続時間)に影響を与える;
・一定の抗原の毒性を低減する;ならびに
・いくつかのワクチン成分に溶解性をもたらす
作用をし得る。
【0071】
多くのアルミニウム含有ワクチンは、アジュバントを含まない同等のワクチンよりも、より高くかつ延長された抗体応答を引き起こすことが研究で示されている。アジュバントの利益は通常、ブースター投与よりもむしろ初期の免疫化シリーズの間に観察されてきた。
【0072】
アルミニウム系アジュバントは、最も一般的に使用されているアジュバントである。これらのアジュバントはまた、ワクチンにおける使用について、FDAに承認されている。3つの一般的な種類のアルミニウム含有アジュバントがある:
・水酸化アルミニウム
・リン酸アルミニウム
・硫酸アルミニウムカリウム(しばしば「ミョウバン」と呼ばれる)
【0073】
本発明の一実施態様は、ワクチンのある抗原がリン酸アルミニウムに吸着され、ワクチンのある抗原が水酸化アルミニウムに吸着されることに関する。本発明の特定の抗原は、水酸化アルミニウムではなくリン酸アルミニウムのみに吸着されていてもよく、またはその逆でもよい。本発明の特定の抗原は、どのアジュバントにも、全く吸着されていないか、または実質的に吸着されていなくてもよい。該抗原の吸着についてのアジュバントの優先度が、本発明のワクチンに、その特性を与える。吸着の優先度は、以下の「本発明のワクチンの製造方法」の節において、より詳しく記述されている。
【0074】
保存剤
ワクチンは、細菌による汚染を起こしやすい。したがって、偶然の汚染の場合にワクチンに組み込まれて導入され得る、有害な微生物での、潜在的に生命を脅かすような汚染を回避するために、ワクチンを調製する間に、保存剤がワクチンの組成物中に含まれ得る。使用されてきた保存剤としては、塩化ベンゼトニウム(フェメロール(Phemerol))、チオメルサール(thiomersal)、フェノールおよび2-フェノキシエタノール(2-POE)が挙げられる。
【0075】
チメロサール(Thimerosal)は、多くのワクチンにおいて保存剤として使用されてきた、水銀含有の有機化合物(有機水銀化合物)である。チオメルサールに対し、注射部位における発赤および腫れを含む、主に遅延型の局所的な過敏反応の形態である一定のアレルギー反応に関する報告がある。自閉症と水銀とを関連付ける、矛盾する報告もまたある。
【0076】
2-フェノキシエタノール(2-POE)はまた、「l-ヒドロキシ-2-フェノキシエタン」、「2-ヒドロキシエチルフェニルエーテル」、「エチレングリコールフェニルエーテル」などとしても知られる。2-フェノキシエタノールの安全性プロファイルは、水銀保存剤(例、チオメルサール)の安全性プロファイルよりも優れている。したがって、ワクチンにおいてチオメルサールを回避し、2-フェノキシエタノールを使用する必要がある。
【0077】
したがって、本発明の別の好ましい実施態様は、ワクチン組成物における保存剤としての2-フェノキシエタノールの使用に関する。本発明の別の好ましい実施態様によれば、2-フェノキシエタノールの濃度は、5mg/ワクチンmlである。
【0078】
浸透圧調整剤
ワクチン組成物の浸透圧を調節するために、ワクチン製剤中に浸透圧調整剤を含めることが好ましい。これらの剤としては、塩(例−NaCl、MgCl2、KCl、CaCl2)、糖(例−ブドウ糖、マンニトール、乳糖)、アミノ酸(例−アルギニン、グリシン、ヒスチジン)およびポリオール(例−ショ糖、グリセロール、ソルビトール)などが挙げられるが、それらに限定されない。より好ましい実施態様において、ナトリウム塩などの生理的食塩が、ワクチン製剤において使用される。最も好ましくは、塩化ナトリウム(NaCl)が、本発明のワクチン組成物中に含まれる。
【0079】
pH調整剤および/または緩衝剤
水酸化ナトリウムまたは塩酸などの、当業者に公知の種々のpH調整剤が、ワクチン組成物のpHを望まれるように調節するために使用され得る。リン酸ナトリウム、リン酸カリウムおよびクエン酸緩衝剤などの種々の緩衝剤が、本発明の製剤において使用され得る。
【0080】
本発明に係るワクチンの組成物
本発明に係るワクチン組成物は、本発明のワクチンが、ワクチン中に含有される各抗原の量によって免疫原性とされるものである。本発明のワクチン中の各抗原は好ましくは、混合ワクチンが対象に投与された場合に、対象において組成物の該抗原に対する免疫応答を誘発するような量で存在する。
【0081】
本発明の一実施態様によれば、完全な液状の5価ワクチンは、安定で、免疫原性のある混合ワクチンとするために、D、T、aP(PT、FHA、PRN)、Hib bならびにIPV(1型マホニー、2型MEFおよび3型ソーケット)を含み、0.5mlあたり、Dは約1〜40Lfの量で存在し、Tは約1〜25Lfの量で存在し、PTは約1〜40μgの量で存在し、FHAは約1〜40μgの量で存在し、およびPRNは約1〜15μgの量で存在し、かつHib bは0.5mlあたり約1〜20μgの量で存在し、かつ1型マホニー、2型MEFおよび3型ソーケット株は、0.5mlあたり、それぞれ約1〜50DU、1〜15DUおよび1〜50DUの量で存在する。
【0082】
本発明の一実施態様によれば、完全な液状の5価ワクチンは、該ワクチンが安定な組成物であって、かつ対象に投与されたとき免疫原性であるように、D、T、aP(PT、FHA、PRN)、Hib bおよびIPVを含み、ここで、0.5mlあたり、Dは約25Lfの量で存在し、Tは約10Lfの量で存在し、PTは約25μgの量で存在し、FHAは約25μgの量で存在し、およびPRNは約8μgの量で存在し、かつHib bは0.5mlあたり約10μgの量で存在し、かつ1型マホニー、2型MEFおよび3型ソーケット株は、0.5mlあたり、それぞれ約40DU、8DUおよび32DUの量で存在する。
【0083】
本発明の別の実施態様によれば、完全な液状の6価ワクチンは、該混合ワクチンが安定でかつ対象に投与されたとき免疫原性であるように、D、T、aP(PT、FHA、PRN)、Hib b、Hep BおよびIPV(1型マホニー、2型MEFおよび3型ソーケット)を含み、0.5mlあたり、Dは約1〜40Lfの量で存在し、Tは約1〜25Lfの量で存在し、PTは約1〜40μgの量で存在し、FHAは約1〜40μgの量で存在し、およびPRNは約1〜15μgの量で存在し、0.5mlあたりHib bは約1〜20μgの量で存在し、Hep Bは約1〜25μgの量で存在し、かつ1型マホニー、2型MEFおよび3型ソーケット株は、0.5mlあたり、それぞれ約1〜50DU、1〜15DUおよび1〜50DUの量で存在する。
【0084】
本発明の別の好ましい実施態様によれば、D、T、aP(PT、FHA、PRN)、Hib b、Hep BおよびIPV(1型マホニー、2型MEFおよび3型ソーケット)を含む完全な液状の6価ワクチンが提供され、ここでは、0.5mlあたり、Dは約25Lfの量で存在し、Tは約10Lfの量で存在し、PTは約25μgの量で存在し、FHAは約25μgの量で存在し、かつPRNは0.5mlあたり約8μgの量で存在し、0.5mlあたりHib bは約10μgの量で存在し、Hep Bは約10μgの量で存在し、かつ1型マホニー、2型MEFおよび3型ソーケット株は、0.5mlあたり、それぞれ約40DU、8DUおよび32DUの量で存在する。このようなワクチンは、対象に投与されたとき、組成物中の全ての抗原に対する免疫応答を誘発しうる安定なワクチンであろう。
【0085】
本発明はさらに、免疫学的に活性な量の本発明のワクチンを投与することを含む、D、T、P、Hib、HepまたはIPVの群から選択されるいずれかの抗原への免疫応答を誘導する方法に関する。
【0086】
本発明の別の態様によれば、本発明のワクチン中のアルミニウム含量(Al+3)は、好ましくは2mg以下/0.5ml、より好ましくは1mg以下/0.5ml、最も好ましくは0.8mg以下/0.5mlであり得る。
【0087】
本発明の一つの別の態様によれば、本発明の混合ワクチン中の2-フェノキシエタノールの好ましい量は、5mg/mlであり得る。
【0088】
本発明に係るワクチンの製造方法
本発明の態様の一つは、本発明のワクチンの製造方法に関する。免疫原性組成物における抗原の免疫原性、安定性および正しい形態の保持は、組成物の調製方法に依存し得る。これは、抗原の添加の順序、一定の抗原のための特定のアジュバントの使用、ならびに撹拌、温度およびpHを含む種々のパラメータの使用を含み得る。
【0089】
本発明の実施態様の一つは、ジフテリア(D)抗原、破傷風(T)抗原、無細胞百日咳(aP)抗原、インフルエンザ菌(Hib)抗原およびIPV抗原を含む完全な液状の5価ワクチンの製造方法に関し、該方法は以下の工程を含む:
a)i)ジフテリア(D)抗原、ii)破傷風(T)抗原およびiii)無細胞百日咳(aP)抗原を含む成分Iを調製する工程、
b)上記成分Iを、インフルエンザ菌(Hib)抗原調製物に加え、混合物を得る工程、
c)上記混合物をポリオウイルス(IPV)抗原に加える工程。
ただし、上記Hibは、実質的にどのアジュバントにも吸着されていない。
【0090】
本発明の一つの好ましい実施態様によれば、D抗原、T抗原およびaP抗原は、リン酸アルミニウムに吸着されている。
【0091】
本発明の一つの別の好ましい実施態様は、成分Iの調製に関し、該方法は以下の工程を含む:
a)ジフテリア抗原および破傷風抗原を、リン酸アルミニウムゲル、食塩水および2-フェノキシエタノールとともに容器内に装入する工程、
b)PT、FHAおよびPRN抗原調製物を、撹拌下、上記容器内に装入し、混合物を得る工程、
c)食塩水および2-POEを上記容器内に装入し、上記混合物のpHを測定し、pHを6.0−7.0の範囲内に調整する工程。
【0092】
本発明の方法は、さらに、HibおよびIPV抗原と、本発明ワクチンの上記成分Iとを混合する工程に関し、該工程は、上記D抗原、T抗原およびaP抗原を含む混合物を、Hib抗原調製物中に装入して、他の混合物を得た後、該混合物をIPV抗原調製物と混合し、pHを測定し、pHを6.0−7.0の範囲内に調整する工程を含む。
【0093】
本発明は、さらに本発明の他の好ましい実施態様として、ジフテリア(D)抗原、破傷風(T)抗原、無細胞百日咳(aP)抗原、インフルエンザ菌(Hib)抗原、肝炎抗原およびIPV抗原を含む完全な液状の6価ワクチンの製造方法に関し、該方法は以下の工程を含む:
a)i)ジフテリア(D)抗原、ii)破傷風(T)抗原およびiii)無細胞百日咳(aP)抗原を含む成分Iを調製する工程、
b)肝炎(Hep)抗原を含む成分IIを調製する工程、
c)成分IおよびIIを併合して混合物を得る工程、
d)上記混合物を、HibおよびIPV抗原に加える工程。
ただし、上記D、TおよびaP抗原は、リン酸アルミニウムに吸着され、Hep 抗原は水酸化アルミニウムに吸着されている。
【0094】
本発明の別の好ましい実施態様によれば、成分Iの調製は、以下の工程を含む
a)ジフテリア抗原および破傷風抗原を、リン酸アルミニウムゲル、食塩水および2-フェノキシエタノールとともに容器内に装入する工程、
b)PT、FHAおよびPRN抗原調製物を、撹拌下、上記容器内に装入する工程、
c)食塩水および2-POEを上記容器内に装入し、pHを測定し、pHを6.0−7.0の範囲内に調整する工程。
【0095】
上記方法は、さらに以下の工程を含む本発明の成分IIの調製を含む:
a)水酸化アルミニウムゲルを容器内に装入する工程、
b)上記容器内にHep抗原調製物を装入する工程、
c)食塩水および2-POE調製物を、撹拌下に装入し、pHを測定し、pHを6.0−7.0の範囲内に調整する工程。
【0096】
さらに、本発明の方法は、成分IIの内容物を、成分Iに装入して混合物を得る工程を含む、本発明に係るワクチンの成分IおよびIIの混合に関する。
【0097】
さらに、本発明の方法は、上記混合物をHib 抗原調製物と混合して他の混合物を得た後、該混合物をIPV抗原調製物と混合し、pHを測定し、6.0−7.0の範囲に調整する工程を含むことからなる、Hib抗原およびIPV抗原を、上記で得られた混合物と混合する工程を包含する。
【0098】
本発明の一つの好ましい実施態様によれば、上記のどの工程に記載される撹拌も、150rpm、25±2℃において、約30分から2時間行われる。
【実施例】
【0099】
以下の実施例は、本発明およびその利点をさらに例証するために使用される。以下の具体的な実施例は、これらが例証を意図し、本発明の範囲を制限するものではないという理解のもと、示される。
【0100】
(実施例I)
この実施例は、本発明の態様の1つとしての5価ワクチンの組成物および製造方法を示す。
A]本発明に係る5価ワクチン組成物は以下のとおり
0.5mlの各ワクチンは、以下を含む:
【表1】

【0101】
B]本発明に係る5価ワクチンの製造方法は以下のとおり:
1.成分Iの処方手順
ジフテリアおよび破傷風抗原の調製物を、リン酸アルミニウムゲル、食塩水 および2-POEとともに容器内に装入した後、PT、FHAおよびPRN抗原調製物を装入した。次いで、食塩水および2-フェノキシエタノール(2-POE)を上記容器内で混合して混合液を得た;pHを測定し、pH6.0−7.0の範囲におさまるように調整した。
【0102】
2.Hib bおよびIPVバルクの添加
成分Iの内容物を、撹拌下、Hib b抗原調製物と混合して他の混合物とし、次いでIPV抗原調製物と混合して5価ワクチンを得た。pHを測定し、6.0−7.0の範囲におさまるように調整した。
【0103】
(実施例II)
この実施例は、本発明の態様の1つとしての6価ワクチンの組成物および製造方法を示す。
A]本発明に係る6価ワクチン組成物は以下のとおり
0.5mlの各ワクチンは、以下を含む:
【表2】

【0104】
B]本発明に係る6価ワクチンの製造方法は以下のとおり:
1.成分Iの処方手順
ジフテリアおよび破傷風抗原の調製物を、リン酸アルミニウムゲル、食塩水および2- フェノキシエタノール(2-POE)とともに容器内に装入した後、PT、FHAおよびPRN抗原調製物を装入した。次いで、食塩水および2-POEを上記容器内で混合して混合液を得た;pHを測定し、pH6.0−7.0の範囲におさまるように調整した。
【0105】
2.成分IIの処方手順
水酸化アルミニウムゲルを容器に装入した。Hep B抗原調製物を混合して混合物を得た。次に、Hep B抗原を含有する該混合物を、食塩水および2-POE調製物と混合し、pHを測定し、pH6.0−7.0の範囲におさまるように調整した。
【0106】
3.成分Iおよび成分IIの混合
この工程は、混合物を得るために、成分IIの内容物を成分Iに装入することによって行われた。
【0107】
4.Hib bおよびIPVバルクの添加
上記成分Iおよび成分IIを含有する混合物を、撹拌下、Hib b抗原調製物と混合して他の混合物とした後、IPV抗原調製物と混合し、6価ワクチンを得た。pHを測定し、6.0−7.0の範囲におさまるように調整した。
【0108】
(実施例 III)
この実施例は、ジフテリア抗原、破傷風抗原、全細胞百日咳抗原、インフルエンザ菌(Hib)b型抗原、B型肝炎抗原および不活化ポリオ抗原について実施されたin-vivo力価試験ならびにそれらの安定性データまたは力価についての概要を示す。
【0109】
A]ジフテリア抗原、破傷風抗原、全細胞百日咳抗原、インフルエンザ菌(Hib)b型抗原、B型肝炎抗原および不活化ポリオ抗原について実施されたin-vivo力価試験
【0110】
1.ジフテリアトキソイド
試験動物種:モルモット
1バッチあたりの所要動物数:116匹(試験用48匹、参照用48匹およびLD50用20匹)
ワクチンの投与経路:皮下
注射量:1.0ml
動物の飼育日数:28
【0111】
ジフテリアトキソイドの力価を、モルモットにおける致死的攻撃法により測定した。この方法では、試験ワクチンおよび参照ワクチンの各につき、その中間希釈液が、試験動物の50%以上を救うED50用量を含有するような3段階の希釈液を調製した。試験ワクチンおよび参照ワクチンの各希釈液あたり16匹ずつのモルモットに接種し、28日後に100 LD50含有ジフテリア毒素で、試験動物を皮下攻撃した。20匹のモルモット群は、ジフテリア毒素の力価測定のために未接種のままとし、この群のモルモットには、ジフテリア毒素の各種希釈液で、希釈液あたり5匹ずつのモルモットに接種した。試験は33日間で終了した。それから、PROBITを用いて計算を行った。=30IU/ヒト単回用量を含有していれば、その試料はジフテリア力価試験に合格である。
【0112】
−試験ワクチンは、参照ワクチンと直線的かつ平行関係を満たすことが望ましい。
−推定力価の信頼限界は、50〜200%間にあることが望ましい。
−推定力価は、30I.U./ヒト単回用量未満ではないことが望ましい。
−力価推定値の95%信頼区間限界は、推定力価の95%信頼区間の下限が30I.U./用量よりも大きい場合を除き、50〜200%の範囲内にあることが望ましい。
【0113】
2.破傷風トキソイド
試験動物種:スイスアルビノマウス
1バッチあたりの所要動物数:116匹(試験用48匹、参照用48匹およびLD50用50匹)
ワクチンの投与経路:皮下
注射量:0.5ml
動物の飼育日数:28
【0114】
破傷風トキソイドの力価を、スイスマウスにおける致死的攻撃法により測定した。この試験では、試験ワクチンおよび参照ワクチンの各につき、その中間希釈液が、試験動物の50%以上を救うED50用量を含有するような3段階の希釈液を調製した。試験ワクチンおよび参照ワクチンの各希釈液あたり16匹ずつのスイスマウスに接種し、28日間飼育後に100 LD50含有破傷風毒素で、試験動物を皮下攻撃した。20匹のスイスマウス群は、破傷風毒素の力価測定のために未接種のままとし、この群のスイスマウスには、LD50力価の4種希釈液あたり5匹ずつのスイスマウスに接種した。試験は33日間で終了した。それから、PROBITを用いて計算を行った。=60IU/ヒト単回用量を含有していれば、その力価試料は破傷風力価試験に合格である。
【0115】
−試験ワクチンは、参照ワクチンと直線的かつ平行関係を満たすことが望ましい。
−推定力価の信頼限界は、50〜200%間にあることが望ましい。
−推定力価は、60I.U./ヒト単回用量未満ではないことが望ましい。
力価の推定値の95%信頼区間限界は、推定力価の95%信頼区間の下限が60I.U./用量よりも大きい場合を除き、50〜200%の範囲内にあることが望ましい。
【0116】
3.無細胞百日咳(aP)抗原
試験動物種:スイスマウス
1バッチあたりの所要動物数:24匹
ワクチンの投与経路:皮下
注射量:0.5ml
動物の飼育日数:35
【0117】
aP抗原の力価を、スイスマウスにおけるELISA法により測定した。試験ワクチンの3段階希釈(ニート、1:5、1:25)を行った。8匹ずつのスイスマウスの群を選択し、各希釈液で免疫付与した。試験群の各マウスは、希釈ワクチン0.5mlを皮下注射した。最終採血は、35日目に行った。ELISA法により、血清試料の抗Hib抗体について試験した。試験群の70%以上のマウスが血清変換(seroconverted)していれば、その力価試料はaP力価試験に合格である。
【0118】
4.インフルエンザ菌b型抗原
試験動物種:スイスマウス
1バッチあたりの所要動物数:16匹(免疫用8匹、対照用として8匹)
ワクチンの投与経路:皮下
注射量:0.5ml
動物の飼育日数:35
【0119】
Hib b抗原の力価試験を、スイスマウスにおいてELISA法により行った。この試験では、2群(試験群および対照群)8匹ずつのスイスマウスを選択した。試験群の各マウスに、1:4希釈ワクチン0.5mlを皮下注射し、対照群は未接種のままにした。10日目および20日目にブースター投与し、最終的な採血を35日目に行う。ELISA法により、血清試料の抗Hib抗体について試験した。試験群の50%以上のマウスが血清変換していれば、試料はaP力価試験に合格である。
【0120】
5.B型肝炎表面抗原
試験動物種:Balb Cマウス
1バッチあたりの所要動物数:110匹(試料用50匹、参照用50匹、プラセボ用10匹)
ワクチンの投与経路:腹腔内
注射量:1.0ml
動物の飼育日数:28
【0121】
B型肝炎表面抗原の力価試験を、Balb/Cマウスにおいて実施した。この試験では、参照ワクチンおよび試験ワクチン各々につき5段階の2倍希釈液を調製し、各希釈液を10匹ずつのマウスに腹腔内接種した。10匹のマウスに希釈剤を接種し、プラセボとした。接種したマウスを、接種28日目に出血させ、溶血が起こらないように注意しながら、血清を分離した。血清試料をELISA法によって、B型肝炎に対する抗体価について試験した。試料は、その相対力価の上限が≧1の場合に、B型肝炎力価試験に合格する。
【0122】
6.不活化ポリオワクチン(IPV)
試験動物種:ウィスターラット
1バッチあたりの所要動物数:100匹(ワクチン用50匹、参照ワクチン用50匹)
ワクチンの投与経路:筋肉内
注射量:0.5ml
動物の飼育日数:21
【0123】
IPVの力価試験をRIVM TOXラットにおいて実施した。参照ワクチンおよび試験ワクチン各々につき5段階の3倍希釈物を調製し、各希釈物を0.5mlずつ、10匹のラットに筋肉内注射した。接種21日後に試験動物を出血させ、RBCの溶解を避けながら、血清試料を慎重に採取した。各血清試料を、血清中和試験によって、ポリオウイルスの1型、2型および3型血清型に対する抗体価について試験した。
【0124】
試験は、以下の場合を除き、無効である:
−試験ワクチンおよび参照ワクチン両方の50%有効量(ED50)が、動物に与えられた最少量と最大量との間にあり;
−統計解析が、直線性または平行性からの有意な逸脱を示さず;
−推定相対力価の信頼限界が、推定力価の25%と400%との間にある。
【0125】
B]本発明のワクチンにおける抗原の安定性データまたは力価
実施例IIの6価ワクチンの全ての抗原について、実施例IIIA]にしたがって試験を実施した。結果を下記表にまとめて示す。
【表3】

【0126】
したがって、ワクチンを5±3℃で長期保管した後でも、ワクチン抗原は依然として許容限界を超える力価を有し/免疫原性を有することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジフテリア(D)抗原、破傷風(T)抗原、無細胞百日咳(aP)抗原、インフルエンザ菌(Hib)抗原を含み、Hibは実質的にアジュバントに吸着されていない、完全に液状の安定な混合ワクチン。
【請求項2】
Hibが、破傷風トキソイド、ジフテリアトキソイド、CRM197および髄膜炎菌の外膜タンパク質もしくはそれらの任意の同等物を含む群から選択される担体タンパク質、または他の公知の担体にコンジュゲートされている、請求項1に記載のワクチン。
【請求項3】
前記Hib抗原が、Hib b株の莢膜多糖体に由来する、請求項1に記載のワクチン。
【請求項4】
前記IPV抗原が、1型マホニー、2型MEFおよび3型ソーケットの群から選択されるソールク株、またはセービン1もしくは2の群から選択されるセービン株である、請求項1に記載のワクチン。
【請求項5】
前記D、TおよびaP抗原がリン酸アルミニウムに吸着されている、請求項1に記載のワクチン。
【請求項6】
前記aPが、百日咳トキソイド(PT)、線維状赤血球凝集素(FHA)、パータクチン(PRNまたはP69)、線毛タンパク質(FIM1、2および3)、からなる群より選ばれる少なくとも1つの抗原を含む、請求項1に記載のワクチン。
【請求項7】
D、T、aP(PT、FHA、PRN)、Hib bならびにIPV(1型マホニー、2型MEFおよび3型ソーケット)を含み、0.5mlあたり、Dは約1〜40Lfの量で存在し、Tは約1〜25Lfの量で存在し、PTは約1〜40μgの量で存在し、FHAは約1〜40μgの量で存在し、およびPRNは約1〜15μgの量で存在し、Hib bは0.5mlあたり約1〜20μgの量で存在し、かつ1型マホニー、2型MEFおよび3型ソーケット株は、0.5mlあたり、それぞれ約1〜50DU、1〜15DUおよび1〜50DUの量で存在する、請求項1に記載のワクチン。
【請求項8】
D、T、aP(PT、FHA、PRN)、Hib bおよびIPVを含み、ここで、0.5mlあたり、Dは約25Lfの量で存在し、Tは約10Lfの量で存在し、PTは約25μgの量で存在し、FHAは約25μgの量で存在し、およびPRNは約8μgの量で存在し、かつHib bは0.5mlあたり約10μgの量で存在し、かつ1型マホニー、2型MEFおよび3型ソーケット株は、0.5mlあたり、それぞれ約40DU、8DUおよび32DUの量で存在する、請求項7に記載のワクチン。
【請求項9】
ジフテリア(D)抗原、破傷風(T)抗原、無細胞百日咳(aP)抗原、インフルエンザ菌(Hib)抗原、肝炎(Hep)およびポリオウイルス(IPV)抗原を含み、上記D抗原、T抗原およびaP抗原がリン酸アルミニウムに吸着され、Hep抗原が水酸化アルミニウムに吸着されている、完全に液状の安定な混合ワクチン。
【請求項10】
Hibが、破傷風トキソイド(TT)、ジフテリアトキソイド(DT)、CRM197および髄膜炎菌の外膜タンパク質もしくはそれらの任意の同等物を含む群から選択される担体タンパク質、または他の公知の担体にコンジュゲートされている、請求項9に記載のワクチン。
【請求項11】
前記Hibが、実質的にアジュバントに吸着されていない、請求項9に記載のワクチン。
【請求項12】
前記Hib抗原が、Hib b株の莢膜多糖体に由来する、請求項9に記載のワクチン。
【請求項13】
前記Hep抗原が、Hep B株の表面抗原に由来する、請求項9に記載のワクチン。
【請求項14】
前記IPV抗原が、1型マホニー、2型MEFおよび3型ソーケットの群から選択されるソールク株、またはセービン1もしくは2の群から選択されるセービン株である、請求項9に記載のワクチン。
【請求項15】
前記aPが、百日咳トキソイド(PT)、線維状赤血球凝集素(FHA)、パータクチン(PRNまたはP69)、線毛タンパク質(FIM1、2および3)、からなる群より選ばれる少なくとも1つの抗原を含む、請求項9に記載のワクチン。
【請求項16】
D、T、aP(PT、FHA、PRN)、Hib b、Hep BおよびIPV(1型マホニー、2型MEFおよび3型ソーケット)を含み、0.5mlあたり、Dは約1〜40Lfの量で存在し、Tは約1〜25Lfの量で存在し、PTは約1〜40μgの量で存在し、FHAは約1〜40μgの量で存在し、およびPRNは約1〜15μgの量で存在し、0.5mlあたりHib bは約1〜20μgの量で存在し、Hep Bは約1〜25μgの量で存在し、かつ1型マホニー、2型MEFおよび3型ソーケット株は、0.5mlあたり、それぞれ約1〜50DU、1〜15DUおよび1〜50DUの量で存在する、請求項9に記載のワクチン。
【請求項17】
D、T、aP(PT、FHA、PRN)、Hib bおよびIPVを含み、ここで、0.5mlあたり、Dは約25Lfの量で存在し、Tは約10Lfの量で存在し、PTは約25μgの量で存在し、FHAは約25μgの量で存在し、およびPRNは約8μgの量で存在し、Hib bは0.5mlあたり約10μgの量で存在し、Hep Bは約10μgの量で存在し、かつ1型マホニー、2型MEFおよび3型ソーケット株は、0.5mlあたり、それぞれ約40DU、8DUおよび32DUの量で存在する、請求項16に記載のワクチン。
【請求項18】
免疫学的に活性な量の請求項1または9に記載の混合ワクチンを対象に投与することを含む、D、T、P、Hib、HepまたはIPVの群から選択されるいずれかの抗原への免疫応答を誘導する方法。
【請求項19】
以下の工程を含む、完全に液状の安定な混合ワクチンの製造方法:
a)i)ジフテリア(D)抗原、ii)破傷風(T)抗原およびiii)無細胞百日咳(aP)抗原を含む成分Iを調製する工程、
b)上記成分Iを、インフルエンザ菌(Hib)抗原調製物に加え、混合物を得る工程、
c)上記混合物をポリオウイルス(IPV)抗原に加える工程。
ただし、上記Hibは、実質的にどのアジュバントにも吸着されていない。
【請求項20】
前記D抗原、T抗原およびaP抗原がリン酸アルミニウムに吸着されている、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記方法が、製剤に防腐剤として、2- フェノキシエタノール (2-POE)を添加する工程をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記成分Iの調製が以下の工程を含む、請求項19に記載の方法:
a)ジフテリア抗原および破傷風抗原を、リン酸アルミニウムゲル、食塩水および2-POEとともに容器内に装入する工程、
b)PT、FHAおよびPRN抗原調製物を、上記容器内に装入する工程、
c)食塩水および2-POEを上記容器内に装入して混合物を得、pHを測定し、pHを6.0−7.0の範囲内に調整する工程。
【請求項23】
さらに、以下の工程を含む、請求項22に記載の方法:
a)前記混合物をHib抗原調製物中に装入して別の混合物を得る工程、
b)工程a)で得られた混合物をIPV抗原調製物混合し、pHを測定し、pHを6.0−7.0の範囲内に調整する工程。
【請求項24】
以下の工程を含む、完全な液状の混合ワクチンの製造方法:
a)i)ジフテリア(D)抗原、ii)破傷風(T)抗原およびiii)無細胞百日咳(aP)抗原を含む成分Iを調製する工程、
b)肝炎(Hep)抗原を含む成分IIを調製する工程、
c)成分IおよびIIを併合して混合物を得る工程、
d)上記混合物を、HibおよびIPV抗原に加える工程。
ただし、上記D、TおよびaP抗原は、リン酸アルミニウムに吸着され、Hep 抗原は水酸化アルミニウムに吸着されている。
【請求項25】
前記方法が、製剤に防腐剤として、2- フェノキシエタノール(2-POE)を添加する工程をさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記成分Iの調製が以下の工程を含む、請求項24に記載の方法:
a)ジフテリア抗原および破傷風抗原を、リン酸アルミニウムゲル、食塩水および2-POEとともに容器内に装入する工程、
b)PT、FHAおよびPRN抗原調製物を、上記容器内に装入する工程、
c)食塩水および2-POEを上記容器内に装入して混合物を得、pHを測定し、pHを6.0−7.0の範囲内に調整する工程。
【請求項27】
前記成分IIの調製が以下の工程を含む、請求項24に記載の方法:
a)水酸化アルミニウムゲルを容器内に装入する工程、
b)該容器内にHep抗原調製物を装入する工程、
c)食塩水および2-POE調製物を、撹拌下に装入し、pHを測定し、pHを6.0−7.0の範囲内に調整する工程。
【請求項28】
前記ワクチンの成分IおよびIIの併合が、成分IIの内容物を、成分Iに装入して混合物を得る工程を含む、請求項24に記載の方法。
【請求項29】
さらに以下の工程を含む、請求項28に記載の方法:
a)成分IおよびII を含む混合物をHib 抗原調製物と混合して他の混合物とし、pHを測定し、6.0−7.0の範囲に調整する工程、
b)工程a)で得られた混合物をIPV抗原調製物に装入し、pHを測定し、6.0−7.0の範囲に調整する工程。

【公表番号】特表2012−506421(P2012−506421A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532774(P2011−532774)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【国際出願番号】PCT/IN2009/000600
【国際公開番号】WO2010/046935
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(500445631)パナセア バイオテック リミテッド (29)
【Fターム(参考)】