説明

新規のマンノース特異的アドヘシンとその使用

本発明は、新規のマンノース特異的アドヘシン及びその変異体、並びにこれらをコードする核酸配列に関する。さらに、本発明はマンノース特異的アドヘシン又はその変異体をコードする核酸を発現する宿主細胞、並びにマンノース特異的アドヘシン及び/又はアドヘシンを発現する宿主細胞を含む医薬品又は栄養補助食品組成物、並びに細菌感染の治療又は予防におけるそれらの使用に関する。さらに、プロバイオティクス特性を有する細菌株の同定に適したスクリーニング方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のマンノース特異的アドヘシン及びその変異体、並びにこれらをコードする核酸配列に関する。さらに本発明は、1つ若しくは複数のマンノース特異的アドヘシン(又はその変異体)を含む宿主細胞、並びに1つ若しくは複数のマンノース特異的アドヘシン(又はその変異体)を含み、及び/又はこれらを発現できる宿主細胞を含む食品、食品成分及び医薬品又は栄養補助食品組成物、並びに細菌感染の治療、予防、又は進行の遅延のための使用に関する。さらに、プロバイオティクス特性を有する細菌株の同定に適したスクリーニング方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
乳酸桿菌及び他の乳酸菌などの、無害な片利共生的な又は有益とさえ言える微生物(プロバイオティクス微生物と呼ぶ)は、普通ヒト及び動物の体腔に住みついている。例えば、食品業界で長期にわたる伝統を有する、多くのLactobacillus菌株及び乳酸菌の近縁種が、他の腸内微生物と共に胃腸粘膜上に多数存在する(Mitsuoka, 1992 in The Lactic Acid Bacteria in Health and Disease, Volume I, E.B.J.B.Wood, Elsevier Science Publishing Ltd. pp 69-114; Ahrne et al. J Appl Microbiol. 1998 Jul;85(l): 88-94; Vaughan EE, et al. Antonie Van Leeuwenhoek. 2002 Aug;82(l-4): 341-52; Reid et al. Clin Microbiol Rev. 2003 Oct;16(4): 658-72; Reid et al. J Clin Gastroenterol. 2003 Aug;37(2): 105〜18; Mercenier et al. Curr Pharm Des. 2003;9(2): 175-91).これらの有益な微生物は、消化管に感染しうる病原体の侵入と菌集落形成を妨害して、ヒト及び動物の健康に重要な役割を果たすと考えられている。妨害が達成されると考えられる1つの機序は、粘膜表面上の共通レセプターの占有を介した有益な微生物による病原体の競合的排除である。しかし、有益な細菌種が常在する細菌叢を確立し持続する正確な機序、及びどの様にしてこれらの菌が病原菌の接着と菌集落形成を妨げるか、又は減少させるかについてはまだ殆ど分かっていない。
【0003】
粘膜組織の細菌集落形成は、病原菌及び有益な細菌の表面に存在するタンパク質であるアドヘシンによって一般に媒介される。アドヘシンは、宿主細胞上の特異的レセプターの認識及び結合に関与し、それによって細菌の接着と集落形成に役割を果たすと考えられている。多くの場合、アドヘシンは細菌の毛髪様の付属物(ピリ線毛又は線毛)上に局在化しているが、細菌の細胞表面と直接結合していることもある(非ピリ線毛アドヘシン)(例えば、Soto and Hultgren, J. of Bacteriology 1999, Vol. 181(4), pl059-1071を参照)。
【0004】
腸管病原性大腸菌(EPEC)を含む種々の病原性グラム陰性菌は、感染過程で役割を果たすマンノース特異的接着特性を示す。例えば、尿路病原性大腸菌株の1型線毛は、宿主組織表面に存在するマンノースリガンドに結合するアドヘシンFimHを含み、腎臓と膀胱感染の確立に関与しているようである(Krogfelt et al. 1990 Infect. Immun. 58:1995-1998)。
【0005】
マンノース特異的接着は、いくつかの乳酸菌にもみられる表現型である。特に、Lactobacillus plantarumのある種の菌株(特に299v株)は、ヒト上皮細胞表面の糖部分を含むマンノシドに特異的に接着することができることが示されている(Adlerberth et al., 1996, Applied and Environmental Microbiology, p2244-2251及びWO96/29083)。プロテイナーゼK処理により、この表現型を消すことができたので、タンパク様の細菌構造物が、この表現型に含まれるのではないかと推測されている(Adlerberth et al.、前記)。さらに、L. plantarumのこの表現型の特徴が、競合的排除により、EPEC感染の阻止に関連することを示すいくつかの証拠がある(Michail & Abernathy, Pediatr. Gastroenterol. Nutr. 2002 35:350-5及びMangell et al. Dig Dis Sci, 2002, 47, p511-6)。この機能的な、表現型の特性は、機能的に意味があり、実験的に実証可能な、L. plantarumとヒト宿主間の相互作用の1つを示している。あるL. plantarum株がマンノース特異的接着特性を備えているかどうかを確認するために、各種の機能試験を用いることができる。上記の周知の機能試験の例には、酵母菌又は赤血球のマンノース感受性凝集試験、アガロースビーズ上に固定したD−マンノース又は他の表面に対する細菌の直接の結合、細胞結合(例えば上皮細胞又は細胞系)などがある。
【0006】
観察された表現型の効果(マンノース特異的接着)にもかかわらず、L. plantarumのマンノース特異的接着特性を説明するために利用できる、分子的なデータは存在しない。そのため、この相互作用に、実際に1つ又は複数のタンパク質が含まれるかどうか、そして含まれ場合は、L. plantarumのどの1つ又は複数のタンパク質(そしてどの1つ又は複数の遺伝子)が、この表現型の形質に含まれるのか分かっていない。そのうえ、L. plantarum株WCFS1の完全な33Mbpのゲノムの配列が決定されたが(Kleerebezem et al., Proc. Natl. Acad Sci. USA, 2003, 18:1990-5)、コンピュータ解析では、この機能に関与する遺伝子を同定することができていない。既知の機能を有する配列との配列の相同性又は類似性は、(たとえ利用できるとしても)仮定的な機能をせいぜい提供するだけであるが、遺伝子配列データを生体内機能に関連づけできないことは、今日ではよくみられる問題である。さらに周知のことだが、配列決定されたゲノムのかなりの割合(通常3分の1)は、その配列がユニークか、又は未知の機能の相同物を有するだけなのか機能的に注釈すら付けることができない。これは、L. plantarum WCFS1ゲノムに関して、588個の遺伝子(約19%)は、未知機能の保存された仮定的タンパク質として注釈され、一方、344個の遺伝子(約11%)は、公共配列データベースに相同物を有しないと注釈されたという知見により明らかに例証されている(Kleerebezem et al. 2003、前記である)。
【0007】
どのタンパク質(複数可)が、L. plantarumのマンノース特異的接着の決定に関与するかを理解することは、a)この有益な特性の、他の原核又は真核生物細胞への移行、b)微生物の接着効率及び/又は特異性の向上又は調整、c)病原菌感染の減少又は予防する医薬品又は栄養補助食品組成物(例えばワクチン)の開発、並びにd)微生物、特に細菌コレクションで、マンノース特異的接着の存在/非存在をスクリーニングする簡便な方法の確立にとって不可欠である。
【0008】
ヒト体腔に集落形成する能力が改善されており、それによって、病原微生物による集落形成を排除又は減少させるのに効率の一層高い微生物、特にプロバイオティクス細菌は、病原菌感染に起因する疾病の治療と予防に、明らかに大きな医学的な価値を有している。同様に、マンノース特異的接着を担う精製タンパク質は、新規のワクチンの開発(Wizemann et al. 1999, Emerging Infectious Diseases Vol. 5(3), p395-403を参照)、及び治療的な又は予防的医薬品/栄養補助食品開発のために、それ自体大きな価値がある。
【0009】
マンノース特異的接着を担う遺伝子(複数可)及びタンパク質(複数可)の解明は、例えばワクチンの送達ビヒクルとして用いられる乳酸菌などの微生物の接着と持続を増進するのにも役立つ(乳酸菌についてはWells et al.(1996 Antonie Van Leeuwenhoek 70: 317-330)及びPouwels et al.(1998 Int. J. Food Microbiol. 41: 155-167)によって解説されている)。
【0010】
【特許文献1】WO96/29083
【非特許文献1】Mitsuoka, 1992 in The Lactic Acid Bacteria in Health and Disease, Volume I.
【非特許文献2】E.B.J.B.Wood, Elsevier Science Publishing Ltd. pp 69-114.
【非特許文献3】Ahrne et al. J Appl Microbiol. 1998 Jul;85(l): 88-94;
【非特許文献4】Vaughan EE, et al. Antonie Van Leeuwenhoek. 2002 Aug;82(l-4): 341-52.
【非特許文献5】Reid et al. Clin Microbiol Rev. 2003 Oct;16(4): 658-72.
【非特許文献6】Reid et al. J Clin Gastroenterol. 2003 Aug;37(2): 105-18.
【非特許文献7】Mercenier et al. Curr Pharm Des. 2003;9(2): 175-91).
【非特許文献8】Soto と Hultgren, J. of Bacteriology 1999, Vol. 181(4), pl059-1071.
【非特許文献9】Krogfelt and 1990 Infect. Immun. 58:1995-1998.
【非特許文献10】Adlerberth et al. 1996, Applied and Environmental Microbiology, p2244-2251.
【非特許文献11】Michail & Abernathy, Pediatr. Gastroenterol. Nutr. 2002 35:350-5
【非特許文献12】Mangell et al. Dig Dis Sci, 2002, 47, p511〜6.
【非特許文献13】Kleerebezem et al. Proc. Natl. Acad Sci. USA, 2003, 18:1990-5.
【非特許文献14】Wizemann et al. 1999, Emerging Infectious Diseases Vol. 5(3), p395-403.
【非特許文献15】Wells et al. (1996 Antonie Van Leeuwenhoek 70: 317-330).
【非特許文献16】Pouwels et al. (1998 Int. J. Food Microbiol. 41: 155-167).
【発明の開示】
【0011】
[発明を実施するための最良の形態]
定義
「マンノース特異的接着」又は「マンノース感受性接着」とは、D−マンノース又はメチルα−D−マンノシドなどのリガンドを含むマンノースに接着する細胞の能力、特に微生物そして殊にバクテリアの能力を指す。マンノース特異的接着は各種の試験、例えば酵母菌凝集試験、血球凝集試験、不動化したマンノースに対する細胞の結合(例えば、マンノース被覆ビーズ)、ヒト細胞系に対するマンノース感受性結合、及び当技術分野において利用でき、本明細書に記載されるような試験によって測定できる。タンパク質又はポリペプチドについて言う場合、「マンノース特異的接着」とは、タンパク質をコードする核酸が宿主細胞で、特に細菌細胞で発現するとき、この表現型与えるか、又はかなり増強するタンパク質の能力を指す。
【0012】
「乳酸菌」及び「乳酸を産生する細菌」とは、本明細書において交換可能に用いられ、発酵の最終産物として乳酸を産生する細菌を示し、例えば、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、オエノコッカス属(Oenococcus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、カルノバクテリウム属(Carnobacterium)、プロピオン酸菌属(Propionibacterium)、エンテロコッカス(Enterococcus)及びビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)の細菌であるが、これらに限定されない。
【0013】
「プロバイオティクス」又は「プロバイオティクス菌株(複数可)」とは、生微生物の菌株、好ましくは対象によって摂取(例えば、経腸的に又は吸入よって)されたとき、宿主に対して有益な効果を有する細菌を指す。「対象」とは、本明細書ではヒト又はヒト以外の動物、特に脊椎動物を指す。
【0014】
用語「LPXTG様アンカーモティーフ」とは、グラム陽性菌の表面にアンカーされているタンパク質によくみられる細胞壁のアンカー領域を指す。Leenhouts et al.(Antonie van Leeuwenhoek 1999, 76(1-4): 367-76)に記載のように、これらのモティーフは、タンパク質又はハイブリッドタンパク質を(例えば共有結合で)グラム陽性菌の細胞表面に接着するために用いることが可能である。L. plantarum srtA遺伝子は、細胞壁へのLPXTG様アンカーモティーフを含む、タンパク質の成熟とアンカーに関わるソルターゼ(sortase)をコードする(Navarre and Schneewind, 1999, Mcrobial Mol. Biol. Rev. 63: 174-229)。
【0015】
用語「遺伝子」とは、細胞中で、適切な調節領域(例えばプロモーター)に作動可能に連結されたRNA分子(例えばmRNA)に転写される領域(転写された領域)を含むDNA断片を意味する。遺伝子は、このようにいくつかの作動可能に連結された断片、例えばプロモーター、例えば翻訳開始に関わる配列を含む5’リーダー配列、(タンパク質)コード領域、及び例えば転写終結点を含む3’非翻訳配列を含む。「遺伝子の発現」とは、適切な調節領域、特にプロモーターに作動可能に連結されているDNA領域が、生物学的に活性である、すなわち生物学的に活性タンパク質又はペプチドに翻訳されることができるRNAに転写される過程を指す。1つの実施形態では、コード配列は、好ましくは分泌シグナルをコードする核酸配列の後にあり、したがってコードされたタンパク質又はペプチドは細胞から分泌される。コード配列は、好ましくはセンス方向であり、所望の生物学的に活性なタンパク質又はペプチドをコードする。
【0016】
「キメラ」(又は組換え)遺伝子とは、自然界で生物種に通常は見いだされない任意の遺伝子、特に自然界で互いに関連していない核酸配列の1つ又は複数の部分が存在する遺伝子を指す。例えば自然界では、プロモーターは転写領域の一部又は全体、或いは別の調節領域と結合しない。用語「キメラ遺伝子」とは、プロモーター又は転写制御配列が、1つ又は複数のコード配列に作動可能に連結されている発現構築体を含むものと理解される。
【0017】
「転写制御配列」は、本明細書では、作動可能に転写制御配列と連結した(コード)配列の転写速度を調節できる核酸配列として定義される。したがって、転写制御配列は、本明細書に定義されるように、転写開始(プロモーター要素)、維持、及び例えばアテニュエータ又はエンハンサーを含む転写調節に必要な配列構成要素の全てを含む。大部分はコード配列の上流(5’)の転写制御配列を意味するが、コード配列の下流(3’)に見いだされる制御配列もこの定義に包含される。本明細書で用いられるように、用語「作動可能に連結」しているとは、機能的な関係におけるポリヌクレオチド要素の連結を意味する。核酸は、別の核酸配列と機能的な関係に配置される場合、「作動可能に連結」している。例えばプロモーター、もっと厳密には転写制御配列が、コード配列の転写に影響を及ぼす場合、この配列はコード配列に作動可能に連結している。作動可能に連結しているとは、連結されているDNA配列が、通常は連続しており、2つのタンパク質をコード領域を結合する必要がある場合は、読み枠内で連続していることを意味する。
【0018】
用語「シグナル配列」、「シグナルペプチド」及び「分泌リーダー」は、交換可能に用いられ、分泌されたポリペプチド及び膜結合ポリペプチドの、短い(通常は約15〜60個のアミノ酸)一続きのアミノ酸のアミノ末端を指し、細胞基質の外側の多様な部位にこれらポリペプチドを供給する。シグナル配列は、通常は1つの塩基性アミノ酸の直後にしばしば存在する約4〜15個のアミノ酸の疎水性コアを含む。シグナルペプチドのカルボキシ末端には、シグナルペプチド切断部位を定める1個の介在するアミノ酸によって分離されている、1対の小さい非荷電アミノ酸がある(von Heijne, 1990)。その全体の構造的及び機能的な類似点にもかかわらず、天然のシグナルペプチドは、1つの共通配列を持たない。
【0019】
用語「対象の体腔」は、対象、特に脊椎動物の、外部からアクセス可能な通常粘膜表面で裏張りされた体腔を意味するものと理解される。上記体腔の例には、口、鼻咽頭、上部と下部の消化管、直腸、膣、並びにこれらの哺乳類体腔の非哺乳類対応物が含まれる。
【0020】
「核酸構築体」は、本明細書では組換えDNA技術の使用の結果得られる人工核酸分子を意味するものと理解される。したがって、用語「核酸構築体」とは、核酸構築体は天然の核酸分子(の一部)を含み得るが、天然に存在する核酸分子は含まない。上記で定義したキメラ遺伝子は、核酸構築体の1例であり、特に発現構築体の1例である。本明細書で使用する用語「ベクター」は、外来性のDNAを宿主細胞、例えば細菌細胞に導入するために用いる核酸構築体を指す。このようにプラスミドベクターは、組換え型技術によって外来性のDNAをベクターに挿入するために用いることができる、好ましくは複製するプラスミド能力を妨げることのない、1つのレプリコンと1つのDNA切片を少なくとも含む。ベクターは通常、分子クローニングでの使用を容易にするために、選択可能なマーカー、多重クローニング部位等などのさらに別の遺伝因子を含む(下記参照)。本明細書で使用した「発現ベクター」とは、発現ベクターが適切な環境に存在するとき、挿入された外来性DNA(例えば1つ又は複数のキメラ遺伝子)の転写を可能にするために、プロモーター及び他の調節エレメントが存在している任意のクローニングベクターを指す。発現ベクターは、プラスミドをベースとするベクターであってよい。「シャトルベクター」とは、少なくとも2つの異なる宿主生物、例えば種の異なる、又は属の異なる2つの生物で複製でき、安定に維持できるプラスミドベクターを指す。この能力のためにシャトルベクターは、1つの広い宿主域を有するレプリコンに依存することがあるが、通常、シャトルベクターは異なる宿主生物用の、又は群の異なる宿主生物用の異なるレプリコンを含む。
【0021】
「宿主細胞」又は「組換え宿主細胞」とは、特に所望のタンパク質をコードする遺伝子を含む少なくとも1つの核酸分子を前記細胞に導入した結果生じる新規の個々の細胞(又は生物)を意味する用語である。宿主細胞は、組換えDNA技術か、又は「天然の」DNA移入技術、例えば細菌の接合後、分子レベル、表現型の及び/又は機能レベルで組換え体を選択することによって導入された1つ又は複数の核酸分子を含むという点で、天然の細胞とは異なる。したがって、組換え宿主細胞は、その細胞(複数可)内に1つの(人工の)核酸構築体、特に1つ又は複数のキメラ遺伝子を含むことがある。宿主細胞は、好ましくは染色体外で(エピソーム的に)複製する分子として、或いは、より好ましくは、そのゲノムに組み込まれる核酸構築体を含む。後者は、導入されたDNAが遺伝的に安定である大きな利点がある。核酸構築体がどんな方法により、宿主細胞(複数可)に導入されるかは重要でない。核酸構築体を細胞(原核又は真核生物細胞)に導入する適切な形質転換法、例えば電気穿孔法などの方法が、当業者には利用できる。或いは、組換え宿主細胞は、「天然の」DNA移入法、例えば細菌接合に続いて、目標とした核酸分子(複数可)が導入された(例えば相同組換え又は非相同組換でゲノムに組み込まれた、或いは染色体外で複製する分子、例えばプラスミドに存在する)細胞を選択することにより導入された、1つ又は複数の新たな核酸分子を含むことができる。上記の宿主細胞は、非組換え細胞と比べ、1つの特異的遺伝子の追加的なコピー(例えば1コピーから複数のコピーへの変化)の存在により、或いは非組換え細胞に以前は存在していなかった1つ又は複数の遺伝子の存在により、天然の細胞から区別される。両方の場合とも、導入された遺伝子(複数可)の1つのコピー又は複数のコピーは、宿主細胞の表現型の大きな変化をもたらす。コピーが非組換え細胞に存在しない場合、接合性伝達により、移された遺伝子が発現するため、所望の機能を獲得した表現型(例えばマンノース特異的接着)をもたらす。1つ又は複数のコピーがすでに存在する場合、前記遺伝子によりコードされたタンパク質の産生が増強されるため、追加されたコピー(又は複数のコピー)は、所望の機能の増強(例えば増強したマンノース特異的接着)をもたらす。組換え宿主細胞は、真核生物又は原核細胞、特に微生物(「組換え微生物」と呼ばれる)、特に細菌(「組換え細菌」と呼ばれる)であってよい。
【0022】
「食品用」の微生物は特に、ヒト又は動物対象によって摂取されたとき、有害でないと思われ、食品成分として許容できる生物である。
【0023】
用語「選択可能なマーカー」は、当業者に良く知られている用語であり、発現時に選択可能なマーカーを含む細胞又は複数の細胞の選択に用いることができる、任意の遺伝実体を記載するために本明細書で使用される。選択可能なマーカー遺伝子産物は、例えば抗生物質耐性与える。抗生物質、例えばカナマイシン、リファンビシン、エリスロマイシン、アクチノマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、又はナイシンなどの他の抗菌性化合物、及びラクタシンF(lactacinF)に対する耐性を与えている遺伝子は、当技術分野において一般に知られている。用語「リポーター」は、マーカーと交換可能に使用することができ、可視マーカー、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)を意味するために主として使われる。選択可能なマーカーは優性又は劣性であってよく、さらに双方向性であってよい。
【0024】
用語「相同性」は、所与の(組換え型)核酸又はポリペプチド分子と所与の宿主生物又は宿主細胞間の関係を示すために用いられるとき、事実上、その核酸又はポリペプチド分子は、宿主細胞によって、又は同じ種の生物、好ましくは同じ品種又は菌株で産生されることを意味するものと理解される。宿主細胞に相同性であるならば、あるポリペプチドをコードするある核酸配列は、通常は(しかし必ずではなく)、別の(非相同性)プロモーター配列に作動可能に連結するか、或いは、適応可能であれば、その天然の環境下よりは、別の(非相同性)分泌シグナル配列及び/又はターミネータ配列に作動可能に連結するであろう。上記の調節配列は、宿主細胞にも相同性でもあるだろう。この文脈において、「相同の」配列エレメントだけの使用は、「セルフクローニング」遺伝子改変生物(GMO's)の作成を可能にする(本明細書において、セルフクローニングとは、European Directive 98/81/EC Annex IIにおける定義と同様に定義され、また明細書の下記を参照されたい)。2つの核酸配列の関連性を示すために用いられるとき、用語「相同性」は、1本鎖核酸配列は、相補的な1本鎖核酸配列とハイブリッド形成ができることを意味する。ハイブリダイゼーションの程度は、配列間での同一性の量、及び温度などのハイブリダイゼーション時の状態、及び後述するように塩濃度を含む多くの因子によって決まる。
【0025】
「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は、所与のヌクレオチド配列と実質的に同一である、ヌクレオチド配列を同定するためにも使用することができる。ストリンジェントな条件は配列依存性であり、そして異なる環境下で異なる。一般的に、ストリンジェントな条件は、規定されたイオン強度及びpHでの特定の配列に対するする熱融点(Tm)よりも約5℃低く選択される。Tmは、標的配列の50%が完全に一致するプローブにハイブリダイズする温度(規定されたイオン強度及びpHで)である。典型的には、塩濃度がpH7において約0.02モルであり、そして温度が少なくとも60℃のストリンジェントな条件が選択される。塩濃度の減少及び/又は温度の増加は、ストリンジェンシーを増加させる。RNA−DNAハイブリダイゼーションのストリンジェントな条件(例えば100ntのプローブを用いるノーザンブロット)は、例えば63℃、20分間、0.2×SSCで少なくとも1回の洗浄を含む条件又は同等の条件である。DNA−DNAハイブリダイゼーションのストリンジェントな条件(例えば100ntのプローブを用いるサザンブロット)、例えば温度が少なくとも50℃、通常約55℃、20分間0.2×SSCで、少なくとも1回(通常2回)洗浄を含む条件又は同等の条件である。
【0026】
用語「実質的に同一の」、「実質的な同一性」、或いは、「本質的に類似の」、又は、「本質的な類似性」とは、例えば、プログラムGAP又はBESTFITにより、デフォルトパラメータを用いて、最適な形で整列されたとき、その2つのペプチド又は2つのヌクレオチド配列が、配列の一致した少なくともある最小のパーセンテージを共有することを、明細書で以下に定義するように意味する。GAPは、ニードルマン−ブンシュグローバル配列アルゴリズム(the Needleman and Wunsch global alignment algorithm)を用いて、その全長にわたって、2つの配列を整列させ、マッチするもの数を最大にし、ギャップの数を最小にする。一般に、GAPには、ギャップクリエーションペナルティ(gap creation penalty)=50(ヌクレオチド)/8(タンパク質)及びギャップエクステンションペナルティ(gap extension penalty)=3(ヌクレオチド)/2(タンパク質)の、デォルトのパラメータが用いられる。ヌクレオチドに関して使用した、デフォルトスコアリングマトリックスは、nwsgapdnaであり、タンパク質に関しては、デフォルトスコアリングマトリックスは、Blosum62である(Henikoff & Henikoff, 1992)。
【0027】
本明細書とその特許請求の範囲で、動詞「含む」及びその活用型は、語の後に続く項目は含まれるが、特に言及されない項目は、排除されないことを意味する非限定的な意味で用いられる。さらに、不定冠詞「a」又は「an」によるエレメントの参照は、コンテクストが、1つのそしてただ1つのエレメントであることを明らかに要求しない限り、2つ以上のエレメントが存在する可能性を排除しない。したがって不定冠詞「a」、又は、「an」は通常「少なくとも1つ」を意味する。
【0028】
本発明の配列
本発明者らは、L. plantarumのマンノース特異的接着を担うタンパク質(配列番号1)をコードする、L. plantarumからの核酸配列(配列番号2)を同定して、分離することができた。このタンパク質は、「マンノース特異的アドヘシン」と呼ばれる。これは最初に分離されたマンノース特異的アドヘシンで、グラム陽性細菌から特性が決定さている。L. plantarum WCFS1のノックアウト変異株(マンノース特異的接着遺伝子の機能的なコピーを欠く)は、酵母菌凝集試験で、酵母菌を凝集させる能力を完全に失った。対照的に、野生型WCFS1株のマンノース特異的接着遺伝子の過剰発現は、組換え型菌株のマンノース特異的凝集の有意な増大をもたらした。マンノース特異的アドヘシンは、細胞表面にマンノース分子を含む細胞に対してマンノース特異的凝集や接着を与える働きをすることを、本実験は立証している。
【0029】
マンノース特異的アドヘシンは、長さ1010個のアミノ酸であり、N末端及びC末端部分にいくつかの反復領域を含んでいる(それぞれ残基120〜220及び残基700〜915)。シグナルP−HMM予測に従うと、アミノ酸配列は、Sec依存経路による分泌用の残基1〜45の予想されるN末端のシグナルペプチドを有する(http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP)。さらにC末端には、モティーフLPQTNが存在し、これは一般的に、表面タンパク質がアンカーしたグラム陽性菌の細胞壁に見いだされる、LPXTG様アンカーモティーフである。このモティーフは、L. plantarumで、srtA遺伝子によりコードされるソルターゼ酵素(又は表面タンパク質ペプチド転移酵素)(配列番号3及び配列番号4)に認識されて、切断されるタンパク分解性開裂部位を含む。しかし、類似の機能を果たす酵素が、他のグラム陽性菌でも見いだされている(上記のNavarre and Schneewind, 1999、を参照)。
【0030】
相同性検索は、種々の乳酸桿菌及びブドウ球菌のいくつかの表面タンパク質に対する、マンノース特異的アドヘシン(lp_1229)のドメイン特異的類似性を明らかにし、Lactobacillus reuteriが示す粘液結着性に関わることが示されたこの菌種のタンパク質を含んでいる(Roos and Jonsson, Microbiology. 2002, 148:433-42)。L. reuteriに対する配列類似は、lp_1229マンノース特異的アドヘシンのC末端の繰り返し領域に限られている。残基265〜515は、Staphylococcus aureus(NCBIコードQ8NUJ3、Q8VQ99、Q99QY4)及びS. epidermidis(NCBIコードQ8CMU7;血球凝集素タンパク質)の大きいマルチドメイン(large multi-domain)表面タンパク質のドメイン、に強い相似性を有し、そしてこれもまた、シグナルペプチドと、LPxTGアンカーと、非常に大きい繰り返し領域とを有する。このドメインは、いくつかの三次元構造が知られている、コンカナバリンA様レクチン/グルカナーゼファミリーの1つのメンバーである(Interpro code IPR008985;structure superfamily code SSF49899)。このファミリーメンバーは、広範囲にわたる種で見いだされるが、特異的な複合糖質に可逆的に結合する共通特性を示す。ある細菌及び菌類のベータグルカナーゼは、このConA−様ドメインを有し、微生物及び植物にみられるベータグルカンの酸加水分解を行う。細胞認識と接着に関わるタンパク質にみられる、多くのConA−様ドメインが存在する。それゆえ、糖結合性ドメインの存在及び粘液結合性タンパク質に対する新たな類似性は、宿主又は宿主由来の分子との相互作用における、このlp_1229マンノース特異的アドヘシンの役割を補強する。
【0031】
1つの実施形態において、本発明は単離したマンノース特異的アドヘシンタンパク質、及びこれらをコードする核酸配列を提供する。配列番号1のマンノース特異的アドヘシン、及びそれをコードする核酸配列、配列番号2を提供する。タンパク質又は核酸(DNA又はRNA)は、天然源(例えば各種のL. plantarum菌株)から分離されるか、或いは化学的アミノ酸又は核酸合成を用いて、新たに合成により作成されるだろう。後述するように、マンノース特異的アドヘシン又はその機能的変異体は、マンノース特異的アドヘシン(又はその機能的変異体)を過剰発現する、組換え宿主細胞からも得られるであろう。
【0032】
また,配列番号1のマンノース特異的アドヘシンタンパク質の活性な変異体、及びこれらの変異体をコードする核酸配列が提供される。変異体を、当技術分野で知られている方法を用いて、これらに限定するものではないが、アミノ酸置換又は欠失(例えば機能的断片の作成)、ペプチドの新規化学合成、或いは突然変異生成又は遺伝子シャッフリング技術等で容易に作り出すことができる。変異体は、機能の保持について試験することができる(本明細書に記載されている、各種のマンノース接着性アッセイ)。また変異体は、例えば核酸のハイブリダイゼーション技術(例えばサザンブロット、ノーザンブロット)を用いて、ストリンジェントハイブリダイゼーション条件下で、配列番号2にハイブリダイズするDNA配列を特に含む他の菌種などの天然源から、分離し同定できる(上記で定義)。当技術分野において、配列番号1又は配列番号2の変異体を分離するための多くのアプローチがあることは明白である。核酸ハイブリダイゼーションの使用の代替方法は、例えば、配列番号2(又はその相補鎖)の特異的領域にハイブリダイズするように設計されている、特異的又は変性PCRプライマーの使用であり、PCR技術を用いている変異体を増幅することである。また実質的に同一な配列は、公的に利用できるアルゴリズムとデータベース(例えばBLAST、FASTAなどを用いて、入力配列として配列番号1又は2(或いはその断片又は変異体)用いて、コンピュータで同定できる。このように同定された配列は、それから標準的な分子生物学技術を用いてクローン化するか、又は例えばApplied Biosystems社(Fosters, CA, USA)によって供給される、例えばオリゴヌクレオチドシンセサイザを用いて化学的に合成される。
【0033】
本明細書で定義されるように、マンノース特異的アドヘシンの変異体は、配列番号1に対して少なくとも45%、50%、60%、75%、80%、90%、95%又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列のペプチドを含み(GAPプログラムとデフォルトパラメータを用いて決定)、マンノース特異的接着、及びこれらをコードする核酸配列を与える能力又は増進する能力を保持している。
【0034】
遺伝暗号の縮重のため各種の核酸配列は、同じアミノ酸配列をコードするだろうということは明白である。したがって、タンパク質のアミノ酸配列を変えることなく、コドンは置き換えられるであろう。同様に、一部のアミノ酸は、有意にタンパク質の活性を変えることなく(少なくともネガティブでない方向で)他の同等のアミノ酸によって置換され得る。例えば塩基性(例えば、Arg、His、Lys)、酸性(例えばAsp、Glu)、非極性(例えば、Ala、Val、Trp、Leu、Ile、Pro、Met、Phe)又は、極性(例えば、Gly、Ser、Thr、Tyr、Cys、Asn、Gln)カテゴリー内の保存的アミノ酸置換は、タンパク質のマンノース特異的接着特性が上記の変更によって減少しない限り、本発明の範囲内に入るものである。さらに、非保存性アミノ酸の置換も、タンパク質のマンノース特異的接着特性が上記の変更によって減少しない限り、本発明の範囲内に入るものである。
【0035】
配列番号2の変異体は、配列番号2に対し少なくとも45%、50%、60%、75%、80%、90%、95%又は99%の配列同一性を有する(そのことは、GAPプログラムとデフォルトパラメータ用いて決定した)核酸配列を含み、且つ特異的にマンノースに結合する能力、すなわち、核酸配列が発現される宿主細胞に、マンノース特異的接着表現型を与える能力、又は宿主細胞がすでにマンノース特異的接着を示す場合は、有意に細胞のマンノース特異的接着表現型を増強する能力を保持するタンパク質をコードする。
【0036】
配列番号2の変異体は、上述のようにストリンジェントハイブリダイゼーション条件下で、配列番号2又は配列番号2の変異体とハイブリダイズする核酸配列を含み、且つ特異的にマンノースに結合する能力、すなわち、核酸配列が発現される宿主細胞に、マンノース特異的接着表現型を与える能力、又は宿主細胞がすでにマンノース特異的接着を示す場合は、有意に細胞のマンノース特異的接着表現型を増強する能力を保持するタンパク質をコードする。
【0037】
マンノースに対する特異的結合とは、タンパク質(又は変異体)がタンパク質を発現している細胞に、マンノース−特異的接着表現型を与える、又は宿主細胞がすでにマンノース特異的接着を示す場合は、有意に細胞のマンノース特異的接着表現型を増強する能力を表す。これは当技術分野で知られている各種の試験によって調べら得る。マンノースに結合する能力を変異体が保持しているか否かを決定するための1つの適切な試験は、適切な宿主細胞、例えば機能的マンノース特異的アドヘシン(配列番号1)を含まないL. plantarumのノックアウト変異株で、変異体をコードする核酸配列の過剰発現であり、それに続く、組換え宿主細胞のマンノース特異的接着を測定する適切な試験である(本明細書の別のところで述べるように、酵母菌凝集試験など)。
【0038】
真核生物細胞での発現に関しては、真核生物細胞で翻訳開始についての最適コンテクストを作成するため、タンパク質のN末端ので、1つ又は複数のアミノ酸を変更することが望ましいであろう。
【0039】
本発明のベクター
1つの実施形態は、本発明は、マンノース特異的アドヘシンをコードする少なくとも1つの核酸配列を含む、1つの(発現)ベクター、又は前述のようなその機能的な変異体を提供する。したがって、マンノース特異的アドヘシンをコードしている核酸分子、又は、その機能的な変異体は、少なくとも1つの調節DNAエレメントに作動可能に連結し、原核又は真核生物細胞で、前記核酸の発現を可能にする。通常、本発明の核酸ベクターはDNAからなる。これらの核酸ベクターは、それ自体既知の技術を用いて提供おり、標準的なハンドブック、例えばSambrook et al.(1989)及びSambrook and Russell(2001)を参照されたい。
【0040】
マンノース特異的接着をコードする核酸配列又はその機能的な変異体を、適切な宿主細胞でマンノース特異的アドヘシンの転写及び翻訳に必要な核酸分子、例えば(5')コード配列及び(任意選択で)3'非翻訳領域の上流の(相同性又は異種性の)転写制御配列に作動可能に連結する。適切な3'非翻訳領域(転写ターミネータを含む)は天然にコード配列に連結された非翻訳領域であってもよく、又はErmolaevaet al.(J. Mol Biol. 2000, 301: 27-33.)に記載されるように、同定されるだろう。
【0041】
効率的な転写又は翻訳に必要な、或いは転写及び/又は翻訳の促進に適切な、他の核酸エレメントを作動可能に連結することができる。
【0042】
場合によって、配列番号1のアミノ酸1〜45の推定上のN末端の分泌シグナル配列は、異なるシグナル配列と置き換えるか又は、完全に除去することができる。代替的に、マンノース特異的アドヘシンは、それ自身の天然転写制御配列及び3'非翻訳配列に作動可能に連結することができ、つまりL. plantarumに天然に存在する完全な遺伝子が、ベクターに組み入れられていてもよい。完全なゲノム配列が利用できるので、マンノース特異的アドヘシンコード配列の上流の及び下流のゲノム配列が当業者には利用でき、それ自体を用いることもできるし、又は分離若しくは類似配列を同定するのに用いることもできる。
【0043】
ベクターエレメントの選択、例えば転写制御配列の選択、ベクターのバックボーン、選択可能なマーカーをコードする配列、複製開始点、エンハンサーエレメントなどは、転写と翻訳を達成しようとする宿主細胞によって決まり、当業者は容易に決定できる。原則として、宿主細胞で活性な任意の転写調節エレメントが使用でき、宿主細胞に対して相同性かまた異種性である。原核細胞、例えばグラム陽性菌の効率的な転写のためには、好ましくは原核転写制御配列を使用すべきである、一方、真核生物宿主細胞の転写と翻訳には、真核生物起源のエレメントが使用されるのが好ましい。1つの実施形態では、好ましくは宿主細胞に対して相同性であるプロモーター使用されている。例えば、構成的に活性であるか、又は誘導可能である、例えば、対象の消化管(又は消化管の特定の部分で)で誘導される、L. plantarumの転写制御配列が使用できる。上記の調節配列は、当技術分野で利用できる(上記、Kleerebezem et al.)。細菌宿主細胞一般での、マンノース特異的アドヘシン、又はそのすべての変異体の発現に関しては、食品グレードの細菌、例えば乳酸菌の核酸配列が好ましい。強力な構成的プロモーター及びインダクション後に強く誘導されるプロモーターが特に好ましい。
【0044】
他の適切な構成的プロモーターは、usp45プロモーター(van Asseldonk et al. 1990, Gene, 95: 155-160)、nisRプロモーター(de Ruyter et al. 1997, J. Bacteriol, 178: 3434-3439)、pepNプロモーター(Tan et al. 1992, FEES Lett., 306: 9-16)、及びde Vos and Simons in "Genetics and Biotechnology of Lactic Acid Bacteria", Gasson and de Vos, eds., pp. 52-106, Chapman and Hall, 1994に述べられた複数のプロモーターである。適切な調節的プロモーターの例には、バクテリオファージ31中央プロモーター(middle promoter)及びoriによる発現システム(O'Sullivan et al. 1996, Biotechnology, 14: 82-87)、xylAプロモーター(Lokman et al. 1994, Mol. Gen. Genet, 245: 117-125)、バクテリオファージrltのリプレッサー/オペレーターシステム(Nauta et al. 1996, Mol. Microbiol., 19: 1331-1341)、L. acidophilusの酸誘導性又は酸応答性のF−ATPaseプロモーター(米国特許第6,242,194)、S. thermophilusラクトースオペロンのプロモーター、及びL. lactisのlac ABCDFEGXオペロン(例えば、Simons et al. 1993, J. Bact 175:5186-5175; Mollet et al. 1993, J. Bact. 175:4315-4324を参照)、並びに米国特許第6,140,078号で開示される、L. lactisの塩誘導性プロモーターがある。
【0045】
プロモーターの別の適切なクラスは、例えばKuipers et al. (1997, Tibtech, 15: 135-140)により記載される、自動誘導性のプロモーター(auto-inducible promoters)である。非制限例には、Carnobacterium piscicolaのバクテリオシン遺伝子クラスター由来のプロモーター(複数可)、L. sakeのSakaricin遺伝子クラスター、及びBacillus subtilisの(おそらく)Subtilin遺伝子クラスターがある。本発明によれば、これらは、微生物のクオラムセンシングプロセスに含まれる、類似した非殺菌性のシグナルタンパク質に対するプロモーター、例えばL. plantarumのバクテリオシン遺伝子クラスターからのPlantaricin Aに対するプロモーターも含む。Kleerebezem et al.(1997, Mol. Microbiol. 24: 895-904)、及びその中で言及されている参照を参照されたい。EP 0 712 935(nis A)そしてまた、De Ruyter et al.(1996, Appl Environ. Microbiol. 62: 3662-3667;並びに上記のKuipers et al.及び、その中に与えられる参照)に記載されているように、使用された適切なプロモーターは、L. lactisのnisin遺伝子クラスター由来の自動誘導性のプロモーター、特にnisAとnisFプロモーターである。これらのプロモーターは、乳酸菌で、相同性及び異種性ポリペプチド(例えば大腸菌からのgusAリポーター遺伝子、pepN、及びlytic遺伝子lytHとlytA)の制御された(過度の)発現に関して、並びに異種性宿主、例えばL. helveticus及びLeuconostoc lactisでのnisin誘導発現に関してすでに使用されている。本発明の核酸分子使用に関するさらに適切なプロモーターが、de Vos(1999, Int. Dairy J. 9:3-10; 1999, Curr. Opin. Microbiol. 2:289-295)により概説されている。
【0046】
ベクターは、選択可能なマーカーをコードする1つ又は複数の遺伝子、例えば抗生物質耐性、重金属耐性をコードする遺伝子、又はある種の糖質を利用する能力をさらに含んでもよい。1つの実施形態では、ベクターを含む宿主細胞は、ヒト対象によって摂取されるので、使用される全ての遺伝的要素は、例えばマーカーとしての糖質利用遺伝子、又は食品グレードの栄養要求性マーカーなどの食品グレードが好ましい。糖質利用遺伝子の例には、Lb. pentosusからのxylRAB(Posno et al. 1991, Appl. Environ. Microbiol. 57: 2764-2766)、Lb. plantarumからの(Wanker et al. 1994, Appl Environ. Microbiol. 60: 1401-1413)、又はLb. caseiから(Wanker et al. 1995, Appl. Microbiol. Biotechnol. 43: 297-303)のlevA、及びP. pentosaceusからのscrA/scrB(Leenhouts et al. 1998, Appl. Microbiol. Biotechnol. 49: 417-423)がある。適切な食品グレード栄養要求性マーカーの例には、L. lactisのtRNA(gln)(Dickely et al. 1995, Mol. Microbiol. 15: 839-847)、及びL. lactis又はLb. plantarumのalr(Bron et al. 2002, Appl. Environ. Microbiol. 68: 5663-5670)がある。
【0047】
同様に、ベクターがソルターゼ酵素、好ましくはL. plantarumのsrtAをコードし、宿主細胞へ同時トランスファーされ、同時発現する核酸配列を含んでよい。宿主細胞が、機能的なソルターゼ酵素、すなわち配列番号2又はその変異体のマンノース特異的アドヘシンの正確な生合成を可能にするソルターゼ酵素をすでに産生している場合には、宿主でソルターゼ酵素を同時発現する必要はない。例えば、他の乳酸菌又は他のグラム陽性菌での発現に関しては、マンノース特異的アドヘシンの単独導入で、所望の細胞の表現型の変更に十分である可能性が最も高い。しかし、宿主細胞が機能的なソルターゼ酵素を含まない場合、宿主細胞の細胞壁へタンパク質を架橋結合ためにソルターゼを必要するので、機能的なソルターゼの同時発現が要求されるであろう。宿主細胞のマンノース特異的接着を媒介できるように、マンノース特異的接着で、宿主細胞の細胞壁に架橋できる限り、ソルターゼ遺伝子が、マンノース特異的接着(例えば1つのベクター又は別個のベクターで)と共に導入されるか、又は独立して導入される否かということは無関係である。明らかに、例えば、(精製した)タンパク質を含む組成物を製造するために、又は消化管に生体内分泌するために、タンパク質が分泌されることになっている所で、細胞壁アンカーレージを媒介しない宿主(例えば機能的ソルターゼ欠損宿主細胞)の選択により、或いはマンノース特異的アドヘシン配列の部分であるLPXTG−様モティーフを変更又は欠失させることにより、細胞壁アンカーレージは要求されず、阻止できる。上記の場合、既存のシグナルペプチドは、適切な分泌シグナルと置き換えられるだろう(上記参照)。
【0048】
他の用途のために、タンパク質の局在化は、重要ではないであろう。例えば、タンパク質が細胞の内部に、又は特定の細胞区画の中に局在化している場合、適切な医薬品又は栄養補助食品組成物の作成に先立ち、細胞溶解及び場合によっては以降の精製工程によって、タンパク質分離されるだろう。
【0049】
細菌は、しばしば接合伝達によって細菌間を移動する能力を有する天然プラスミドを含んでいる。上記のこれらのプラスミド或いはそれらの誘導体又は部分は、クローニングと発現ベクターとしてしばしば利用される。Lactobacillus plantarum種は、しばしば、いくつかの天然プラスミドを宿していて(Ruiz-Barba et al. 1991)、このいくつかは特性が明らかにされ、配列決定された(Bates and Gilbert, 1989, Danielsen, 2002, Eguchi et al. 2000, Kanakeo et al. 2000, Leer et al. 1992, Skaugen, 1989, Vujcic and Topisirovic, 1993)。本発明によれば、上記プラスミド又はこれから由来したベクターの使用には、宿主細胞でマンノース特異的アドヘシンを発現するベクター(又はその変異体)としての使用も可能であることが理解される。
【0050】
また、別のコード配列(又はその部分)にインフレームで連結された、マンノース特異的アドヘシン、又はマンノース結合能力を保持するその断片若しくは変異体を含む融合タンパク質が、本発明の実施形態である。各種の機能的なドメインを含む融合タンパク質を、ドメインをコードする核酸配列のインフレーム融合により作成することができ、その結果、宿主細胞で転写と翻訳と同時に、融合タンパク質が作成される。このように、種々の機能的なドメインは、1つのタンパク質中に組み合わせることができ、有利と考えられる。例えば、既知の治療特性もつタンパク質などの、生物学的に活性なタンパク質のドメイン(又はタンパク質全体)が付け加えられ、その結果、これらが宿主細胞の細胞表面に示される。
【0051】
別の実施形態では、1つ又は複数の生物学的に活性なタンパク質と本発明のマンノース特異的アドヘシンが、1つの宿主細胞で共同発現して、その結果、宿主細胞は、これらのタンパク質を宿主細胞が結合する部位で、例えばヒトの腸に送達するビヒクルとして使用できる。同時発現は、各種の手段、例えばいくつかのベクター又は2つの遺伝子を含む1つのベクターの同時形質転換で達成できる。すなわち、ベクターは、単一の調節配列の制御の下で、2シストロン性又は多シストロン性の転写物を提供する、異なる(若しくは同一の)タンパク質をコードする1つ又は複数のヌクレオチド配列を含むことができる。生物学的に活性なタンパク質(複数可)を、このように宿主細胞によって分泌でき、一方、マンノース特異的アドヘシンは、宿主細胞を対象の上皮細胞に見いだされるレセプターに結合する。
【0052】
本発明の核酸構築体又はベクターは、それ自身当技術分野で知られている各種の機能に関する、追加の配列エレメントをさらに含むことができることが理解される。上記の配列エレメントには、例えば、ベクターの染色体外の増殖と維持に関する自己複製配列又は複製開始点;宿主ゲノム中に、ベクター又はキメラ遺伝子の組込みを促進するための配列;相同的組換えのための配列;部位特異的組込み及び/又は組換えのための配列;選択マーカー遺伝子;リポーター又はインジケータ遺伝子;接合を促進するための配列、或いは遺伝物質などの他の移動手段などを含む。
【0053】
本発明の宿主細胞
本発明のもう1つの態様では、上記のような、マンノース特異的アドヘシン若しくはその変異体をコードする核酸配列を含む宿主細胞又は上記のようなベクターが提供される。宿主細胞での本核酸配列の発現は、宿主細胞がこの表現型を欠いている場合には、宿主細胞にマンノース特異的接着を与えるか、又は、宿主細胞がすでに、マンノース特異的な様式で接着する能力を示す場合には、宿主細胞のマンノース特異的接着を増強する。上述のごとく、核酸配列の発現により与えられた表現型が安定である限り、マンノース特異的アドヘシンをコードする本核酸配列は、宿主細胞ゲノムに組み込まれる必要はない。
【0054】
宿主細胞の表現型が、所望の方向で改変され、宿主細胞のその後の増殖の間、安定なままである限り、どの様にマンノース特異的アドヘシンをコードする配列が宿主細胞に導入されるかは問題ではない。したがって、マンノース特異的アドヘシン又はその変異体をコードする核酸配列(複数可)又はベクター(複数可)を、宿主細胞に導入するための、当技術分野で利用可能な各種の方法があり、前記の方法には細胞の形質転換又は、細菌間の接合伝達などがある。細菌細胞を形質転換する方法は、例えば、"Genetics and Biotechnology of Lactic Acid Bacteria", Gasson and de Vos, eds., Chapman and Hall, 1994中に記載されている。同様に、菌類、植物、及び動物に組換えDNAを導入する方法、例えばパーティクルガン形質転換、プロトプラスト形質転換、電気穿孔法、アグロバクテリウム媒介形質転換、その他は周知である。
【0055】
得られた組換え型宿主が、組み換えられた形状ではあるが、宿主と同じ種に由来する配列のみを含むように、本発明の宿主が遺伝子工学を通して構成される場合には、宿主は「セルフクローニング」で得られたと言われる。セルフクローニングによって得られた宿主は、食品(又は医薬品)での適用が、外来の(すなわち異種性の)核酸配列を含む宿主に比べて、国家及び監督機関により容易に認可されるという利点を有する。したがって本発明によれば、食品、医薬品又は栄養補助食品用途のために、セルフクローニングされたL. plantarum及び他の乳酸桿菌宿主の作成ができ(de Vos, 1999, Int. Dairy J. 9: 3-10も参照のこと)、このようなセルフクローニングされた宿主が、本発明の1つのさらなる態様である。
【0056】
宿主細胞は、原則的にはあらゆる原核又は真核生物細胞、例えばヒト若しくは動物の細胞系、グラム陽性若しくはグラム陰性細菌、菌類、ウイルス、又は他の微生物でありうる。好ましい一実施形態は、宿主細胞は、グラム陽性細菌などの細菌細胞であり、好ましく食品グレードの細菌である。1つの宿主又は複数の宿主細胞は、古典的な(X線の又は化学薬品)突然変異誘発により作製された変異体でも、或いは宿主は予めすでに形質転換されていてもよい。他の宿主は、食品グレード菌類及び酵母菌、例えばパン酵母 又は醸造酵母、例えばサッカロミセス属、ピキア属、又はハンゼヌラ属の種である。好ましい実施形態では、宿主細胞は対象によって摂取されたとき、それ自体有益な効果を有するプロバイオティクス細菌である。
【0057】
宿主細胞は、Lactobacillus、Lactococcus、Leuconostoc、Carnobacterium、Bifidobacterium、Bacillus、Streptococcusからなる群から選択される属に属するグラム陽性細菌であってよい。より好ましくは、宿主細胞は、L. acidophilus、L. amylovorus、L. bavaricus、L. brevis、L. caseii、L. crispatus、L. curvatus、L. delbrueckii、L. delbrueckii subsp.bulgaricus、L. fermentum、L. gallinarum、L. gasseri、L. helveticus、L. jensenii、L. johnsonii、L. minutis、L. murinus、L. paracasei、L. plantarum、L. pontis、L. reuteri、L. sacei、L. salivarius、L. sanfrancisco、Lactobacillus ssp.、Pediococcus spp.、Carnobacterium spp.、C. piscicola、B.subtilis、Leuconostoc mesenteroides、Leuconoctoc lactis、Leuconostoc ssp、B. bifidum、B. longum、B. infantis、B. breve、B. adolescente、B. animalis、B. gallinarum、B. magnum、及びB. thermophilumからなる群から選択される種に属するグラム陽性菌から選択される。
【0058】
核酸配列の変異体が他の生物からも得られるので、マンノース特異的接着をコードするヌクレオチド配列は、宿主細胞に対して同種又は異種であることができる。1つの実施形態では、宿主細胞は、もともと特異的にマンノースに結合する能力を欠いており、この観点から、アドヘシンの1つ又は複数のコピーの移動は、宿主細胞にこの新規の表現型を与える。それによって改変された宿主細胞は、多くの新規の検査可能な特性を得た。すなわち、この宿主細胞はマンノース(例えば、マンノース被覆アガロースビーズ)を結合することができ、マンノースを含む細胞(例えば、細胞表面で露出するオリゴマンノース鎖)、例えばヒト結腸細胞系と結合でき、そしてマンノースに特異的様式で、酵母菌又は赤血球などの細胞を構成しているマンノースを凝集できる。これらの試験の陽性スコアは、アドヘシンタンパク質は、改変細胞の外側で機能的に露出していることを示している。これは、また細胞がいろいろな医薬品及び/又は栄養補助食品用途に有用な新規の特性を有する1つの徴候である。
【0059】
別の実施形態においては、宿主細胞は、すでにマンノースに結合する能力を備えている。例えば野生型のL. plantarum WCFS1株は、用いた試験により示されたように、すでにこの能力を有する。しかし、意外にも、アドヘシンコード配列の少なくとも1つの追加のコピーを導入すると、本菌株のマンノース特異的接着の有意な改善を生ずることが判明した。したがって、宿主細胞にマンノース特異的アドヘシンの追加の機能的なコピーを導入することによって、有意に表現型を増強することができるのである。したがって、このような改変宿主細胞は、未改変細胞と比較して、同じ試験を用いて測定されるように、さらに後述するように、改善した特性を有する。遺伝子の1つ又は複数の追加のコピーを含む宿主細胞は、PCR、ハイブリダイゼーション、分子マーカーなどのような、一般的な分子学的手法を用いて、未改変宿主細胞と容易に区別できる。また、定量的逆転写酵素PCR(RT−PCR)又は、ノーザンブロットは、mRNAの存在量を示すであろう。追加の1つのコピー又は複数のコピーが、細胞表面により多くのマンノース特異的アドヘシンタンパク質を示すことにより、表現型を増強すると推定される。その結果、単一のコピーの発現が増加するとき、同様の効果が期待される。したがって定量的RT−PCRは、転写物レベルを定量化、及びマンノース特異的アドヘシン(又は変異体)遺伝子のより多くのmRNA転写物を産生する宿主細胞の選択に使用できる。このようにして、既存の菌株コレクションを、増加した転写物レベルをもち、その結果増強されたマンノース特異的接着表現型を示す菌株についてスクリーニングすることができる。また、上記のように、例えば菌株の突然変異の後に、若しくは形質転換の後に、又は菌株間の接合で、それにより、マンノース特異的接着をコードする遺伝子のコピーを、1つの菌株から他の菌株に移してこれを行ってもよい。特に、特に少なくとも10%、20%、30%、好ましく少なくとも50、70、90又は100%より多くのマンノース特異的アドヘシン(又はその変異体の)mRNA転写物を生産し、さらに、新しく獲得したか、又は有意に向上したマンノース特異的接着の表現型を酵母菌凝集試験において示す菌株が、本発明の実施形態である。
【0060】
本発明によるマンノース特異的アドヘシンをコードする少なくとも1つの配列の導入の後に、宿主又は宿主細胞は、(1)本発明によるマンノース特異的接着配列を発現、又は発現しうることができる(例えばインダクションに応じて)、(2)発現は、記載の試験で実証できるように、マンノース特異的接着特性を与えるか、又は増強する。好ましくは、細胞は、対象の消化管を通過して生存でき、且つ好ましくは、非改変細胞と比べて、対象消化管の内側を覆っている粘膜表面に接着して集落を作る増進した能力を有する。さらに、好ましくはこれらを含む細胞又は組成物の投与により、病原菌、特に腸内細菌科のメンバーである細菌性病原体例えば大腸菌、Eneterobacter、Klebsiella、Proteusなどに起因する感染を減少させるか、阻止するか、又は遅延させる。特に、本発明の細胞又は組成物は、1型線毛を含む病原細菌、例えばSalmonella、Closteridium、Campylobacter及びStreptococcusなどに起因する感染を減少させるか、阻止するか、又は遅延させる。
【0061】
どの様な詳細な機序により、本発明による組換え宿主細胞の投与の後に、病原菌の感染を阻止するか、減少させるか、又は遅延させるかというという点に関しては重要ではない。本発明の投与された細胞は、例えば病原菌とマンノース含む結合部位めぐって競合するか、或いは増殖制限基質めぐって競合するか、又は無傷の上皮の表面上へ、病原性であるか若しくは病原性の可能性のある細菌の移動を低下させたり、上皮細胞表面への病原細菌の接着を妨げるか、又は減少させたり、免疫系に影響を与えるか、又は炎症による障害を軽減したり、或いはこれらの任意の組合せで作用することなどができる。
【0062】
所望の、例えば細菌増殖/生長を通して得られる表現型を保持する、本明細書に記載されている(改変された)宿主細胞の任意の誘導体もまた、本発明の範囲に含まれることが理解されよう。
【0063】
本発明の機能試験
細胞、特に細菌細胞がマンノース特異的接着特性を示すかどうかの測定に適した多くの既知の試験がある。全ての試験は、マンノース結合を測定する。1つ又は複数のこれらの試験を用いて、本発明による少なくとも1つのマンノース特異的アドヘシンをコードする核酸配列の導入により改変された細胞が、改変前に示す表現型と比べて、マンノース特異的接着表現型(以前はこの表現型を欠いている)を獲得したか、又は有意に増強したマンノース特異的接着表現型を獲得したかどうかを判定できる。
【0064】
凝集が光学顕微鏡観察により検出できる高細菌細胞密度での酵母菌凝集試験(下記参照)で、細胞が酵母菌細胞を凝集させるならば、細胞はマンノース特異的接着特性を示す、すなわち、マンノースに結合する能力を有すると同定される。好ましくは、酵母菌細胞の凝集は、例えばメチル−α−D−マンノシドによる凝集阻害によって確立することができるような、マンノース特異的様式で生ずる(下記参照)。酵母菌凝集は、光学顕微鏡を用いてなお測定可能である最大細胞密度は、最終の凝集アッセイにおいて、約6*10コロニー形成単位/mlである(下記参照)。同様に、酵母菌凝集能力は、平均凝集素価と標準偏差として定量的に表すことができ、また精製マンノース接着タンパク質、又はマンノース接着を産生する細胞の細胞(亜)分画などの他の物質に適用することもできる。
【0065】
「増強したマンノース特異的接着」表現型とは、酵母菌凝集試験の凝集素価で、少なくとも20%、30%、40%又は50%以上のマンノース特異的接着の改善のことをいう。
【0066】
酵母菌凝集試験
「酵母菌凝集試験」は、細胞、特に微生物のマンノース特異的接着を調べるために適した試験である。Saccharomyces cerevisiaeの細胞壁は、多糖類(マンナン)を含有するマンノースを含む。この試験では、その1つがマンノースである選択した単糖類の存在下又は非存在下で、S. cervisiae細胞を、さまざまな濃度で試験する細胞(特に細菌)と接触させる。細菌株は、適切な培地で終夜増殖し、洗浄し、0.1培養容量PBS(pH7.4)に懸濁した。10倍希釈した細菌懸濁液を、適切な寒天平板にプレーティングし、37℃で48時間の増殖させた後、CFU/mlを測定して、細胞数を記録した。細菌懸濁液(PBS中)の2倍希釈系列(50μl)をマイクロタイタープレートに作製した(96穴、u字形のGreiner bio-one, Alphen a/d Rijn社製、オランダ)。50μlのPBS(pH7.4)又は、メチル−α−D−マンノピラノシドを含むPBS(最終濃度:25mM;Sigma-Aldrich Chemie社製、Zwijndrecht、オランダ)を加え、さらに麦芽エキス培地(Oxoid, Haarlem社製、オランダ)で増殖後の1%(w/v)Saccharomyces cerevisiaeのPBS懸濁液100μlを加えた。プレートを、室温で10分の間振盪し、50μl量を各々のウェルから取り出し、明光光学顕微鏡(bright-light microscopy)(200倍の倍率で、倒立顕微鏡Nikon Eclipse TS100)で凝集を調べた。なお目視可能な凝集を生じる最高希釈率の逆数を、凝集素価として記録した。3つの独立して実施したアッセイの平均凝集素価と標準偏差を算出した。この手順は、前述した上記Adlerberth et al. pages 2244 and 2245の方法を少し変更したものである。
【0067】
血球凝集試験(血球凝集試験)
赤血球のグリコプロテインはマンノースを含み、ある種の大腸菌と一部のL. plantarumの菌株は、マンノース感受性の様式で赤血球を凝集させることが知られている。この試験は、試験する細胞のさまざまな希釈液を、赤血球を懸濁した等量の標準の緩衝液、又はD−マンノース若しくはメチル−D−マンノシド追加した緩衝液と混合することを含む。約15分後に、凝集を目視で、例えば光学顕微鏡を倍率x250で用いて評価した。インキュベーション時間内に、目視可能な凝集を生じる細胞懸濁液の最高希釈率の逆数を、凝集素価として記録する。D−マンノース又はメチル−α−D−マンノシドが存在することにより、細胞と赤血球の凝集が有意に減少するか、又は又は完全に阻害される場合、細胞は、マンノース特異的接着表現型を示している。この試験の詳細は、例えばAdlerberth et al.(上述)で提供される。
【0068】
マンノース直接結合試験
この試験では、D−マンノース被覆アガロースビーズ及び非被覆ビーズを試験する細胞と混合し、結合を顕微鏡の倍率約500xで測定する。細胞がD−マンノース被覆ビーズには接着するが、非被覆ビーズには接着しない場合は、試験は陽性であり、細胞は、マンノース特異的接着表現型を示している。マンノースは、他の手段で不動化でき、接着は、他の方法で評価できるのは明らかである。この場合にも、さらにまた、詳しい説明はAdlerberth et al.(上述)で提供される。
【0069】
ヒト細胞結合試験
その表面にマンノース部分を含むことが知られている適切な細胞株、例えばヒト腺癌細胞株HT−29を、選択した単糖類の存在下か又は不在下で、試験する細胞と混合する。少なくとも40個のHT−29細胞に接着している細胞の数を、干渉−位相差顕微鏡を使い倍率約500xで測定する。試験細胞のHT−29細胞への接着を有意に減少させるマンノースの特異的能力は、試験細胞が、マンノース特異的接着表現型を示すことを証明する。特に、他の単糖類、例えばD‐グルコース、メチル−α−D−グルコシド、L−フコース、N−アセチル−グルコサミン、ガラクトースなどは、接着を阻害するか、減少させることができない。L. plantarum株299vは、マンノース不在下で、細胞当たり約10個の細菌が、HT−29細胞に接着すると言われている。メチル−α−Dマンノシドの存在下では、接着は45〜73%減少した。
【0070】
これらの上記の試験は非限定的であり、当業者ならば、代替の又は改変した試験を容易に考案することができる。
【0071】
本発明のスクリーニング法
さらなる態様においては、本発明は方法に関するものであり、特に細菌がプロバイオティクス特性を有するか、ヒト細胞に接着することができるか、且つ/又はマンノースに結合する能力を有するかどうかを測定するスクリーニング法に関するものである。好ましくは本方法は、配列番号2或いは部分又は変異体に含まれるヌクレオチド配列の有無を決定すること含む。好ましくは、本ヌクレオチド配列の存在、又はより好ましくは、その発現がプロバイオティクス特性を示す。細菌は、好ましくは細菌株又は、Lactobacillus、Lactococcus、Leuconostoc、Carnobacterium、Bifidobacterium、Bacillus、Streptococcusからなる群から選択される属からの(単1集落)分離株である。
【0072】
本発明の1つの実施形態において、マンノース特異的アドヘシンDNA及び/又はRNA配列を検出するための、PCRプライマー及びプローブ、並びにこれらを含むキットが提供される。配列番号2、或いは、これらの部分又は変異体を増幅する、1組のPCRプライマーは、当技術分野で公知な如く、配列番号2に基づき合成できる(Dieffenbach and Dveksler 1995, PCR Primer: A laboratory manual, Cold Spring Harbor Lab. Press、又はMcPherson et al. 2000, PCR-Basics: From background to bench, first edition, Springer Verlag, Germanyを参照)。PCRプライマーは、例えば、少なくとも18、19、20又はそれ以上の配列番号2(又はその相補鎖)の部分と同じヌクレオチドを含み、或いは縮退していてもよく、配列番号2(又はその相補鎖)と100%一致しなくてもよい。
【0073】
同様に、配列番号2、又はこれらの断片は、ハイブリダイゼーションプローブとして使用できる。検出キットは、マンノース特異的アドヘシンプライマー又はプローブのどちらか、これらを使用する関連するプロトコル、及び場合により必要な他の試薬を含んでもよい。
【0074】
プライマー、プローブ又はキットは、a)本発明による1つ又は複数の核酸配列を含み、その結果マンノース特異的接着表現型を有するであろう細胞の迅速な同定のために、或いはb)本発明よるマンノース特異的アドヘシンをコードする核酸配列の変異体を適切な細胞から分離するために使用できる。
【0075】
1つ又は複数の細胞、特に細菌がマンノース特異的接着能を有するかどうかを決定するスクリーニング法は、a)細胞のDNA又はRNA内に、本発明の少なくとも1つのヌクレオチド配列の存在の有無を決定するステップと、b)ヌクレオチド配列(複数可)を含む細胞を選択するステップと、c)例えば記載の酵母菌凝集試験を使用して、細胞のマンノース特異的表現型を場合によって試験するステップとを含む。
【0076】
ステップa)は、例えばPCR増幅、又は核酸のハイブリダイゼーション、又はAFLP、RFLP、RAPDなどのフィンガープリント法、又は当技術分野で既知の他の方法を含んでもよい。通常は、細胞を増殖させて採取し、細胞からDNA又はRNAを分離し、既知の直接的又は間接的な検出方法を用いて特異的DNA又はRNAを検出する。スクリーニングされる細胞は、好ましくは細菌、Lactobacillus、Lactococcus、Leuconostoc、Carnobacterium、Bifidobacterium、Bacillus、Streptococcusからなる群から選択される属に属する、特にグラム陽性菌である。
【0077】
またスクリーニング法には、タンパク質検出方法も使用でき、ここで例えば、細菌コレクションを、マンノース特異的アドヘシンタンパク質又はこれらの変異体の存在/欠如に関してスクリーニングする。タンパク質は、例えば免疫組織化学的方法、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)又は、ウエスタンブロット法、及び当技術分野で既知の他の方法を使用して、直接的に又は間接的に検出できる。アッセイには、例えば放射性同位元素、酵素、蛍光剤、ケミルミネッセンサー、スピン標識及びその他の様々な標識を使用することができる。このような検出アッセイに用いる抗体(例えばモノクロナール抗体)は、既知の方法を用もちいてマンノース特異的アドヘシン(又はこれらの変異体)対して高めることができる。
【0078】
好ましい実施形態では、本発明のマンノース特異的アドヘシンをコードする核酸分子の発現は、宿主細胞に、in vitroでヒト細胞(例えば培養した細胞株)に接着する能力を与えるか又は有意に増進し、且つ/或いはインビボで、特にヒト消化管にみられる細胞、例えば上皮細胞(腸内上皮細胞、膣の上皮細胞、尿道上皮細胞など)に接着する能力を与えるか又は、有意に増進する。特に、粘膜表面への細胞の接着と集落形成が増進するのが好ましい。また対象中で長く存続するのが好ましい。
【0079】
例えば、接着能力を、上記のヒト細胞結合試験を用いて調べることができる。この試験で、マンノース感受性の様式で細胞と結合することが知られている病原菌細胞(例えば病原性大腸菌、Salmonella typhimuriumなど)の接着は、組換え宿主細胞並びに病原菌細胞及び組換え宿主細胞の混合物の接着と比較できる。好ましくは、病原菌細胞に対する組換え宿主細胞の添加により、病原菌細胞の接着が有意に減少する。特に、病原菌の添加前に組換え宿主細胞を添加することにより、病原菌の接着を減少させる、かなりの効果があるであろう。
【0080】
インビボでの試験は、ラット、マウス、ウサギなどの試験動物で実施できる。このような試験では、組換え宿主細胞を含む組成物を、対象の消化管(例えば、経口的に又は直腸に)に数日間投与し(対照群には投与していな)、この後に続けて、又は同時に病原菌を投与する。次いで消化管から取り出した組織標本を分析して、宿主細胞の事前の又は同時の投与によって病原菌の接着及び集落形成が減少したどうかを決める。
【0081】
本発明の組成物及びその使用
a)組成物を含む宿主細胞及び方法
さらなる実施形態において、上記の宿主細胞、並びに1つ又は複数薬学的に及び生理学的受容可能な担体を含む、組成物(医薬品及び/又は栄養補助食品組成物及び/又は食品及び/又は食品成分及び/又はプロバイオティクス)が提供される。このような組成物を作成する方法は、当技術分野で既知である。
【0082】
さらに、宿主細胞を含む医薬品及び/又は栄養補助食品組成物を作成する方法であって、前記宿主細胞が、配列番号1のマンノース特異的アドヘシン又はこの機能的な変異体をコードする少なくとも1つの核酸配列を含むように改変され、それによって、未改変の宿主細胞と比べて、宿主細胞はマンノース特異的接着表現型を得たか、又は増強したマンノース特異的接着表現型を有する方法であり、a)宿主細胞を適切な培地で培養するステップと、b)宿主細胞を1つ又は複数の薬学的に(生理学的に)受容可能な担体と混合するステップとを含む方法である。宿主細胞と追加する成分を混合する前に、宿主細胞を培地から精製することは明らかである。
【0083】
医薬品/栄養補助食品組成物は、通常経腸的、例えば経口投与、経鼻/吸入膣投与、膣又は直腸投与、或いは経管摂取で用いることができる。医薬品組成物は、本発明の宿主細胞の有効量に加えて通常、薬学的に/生理学的に受容可能な担体を含む。「有効量」とは、病原微生物の少なくとも1種、例えば1型線毛を含む腸管病原性細菌の感染を有意に減少させるか、又は阻止できる、宿主細胞の最小量を指す。有効量は、当業者には容易に決定することができる。組成物の好ましい形態は、意図する投与の形態、及び治療的か、予防的か、又は健康に有益な適用かによって決まる。担体は、宿主細胞を対象の所望の体腔、例えば腸へ供給に適した任意の適合性で非毒性物質でありえる。例えば殺菌水又は不活性固体が、通常、薬学的に受容可能な補助薬、緩衝薬、分散剤、安定剤、及びその他を補充した担体として使用できる。組成物は、追加された生物学的に、又は薬学的に/生理的に活性な成分、例えば追加された微生物(例えば追加されたプロバイオティクス細菌)、生物学的に活性なタンパク質などをさらに含んでもよい。
【0084】
宿主細胞の濃度は、組成物の製剤形態と適用に依存して変化する。好ましくは、組成物は、宿主細胞を便利に(経口)投与できる量で、例えば、1日又は1週当たりの1用量以上の量で、又は1用量中の量で宿主細胞を含んでいる。特に、製剤は宿主細胞の単位服用量を含んでもよい。経腸的使用の場合、宿主細胞の用量は、好ましくは少なくとも1×10cfu、好ましくは約1×10〜1×1012cfu(コロニー形成単位)/日であり、より好ましく約1×10〜1×1011cfu/日、より好ましくは約1×10〜5×1010cfu/日であり、最も好ましくは1×10〜2×1010cfu/日であり、過度の実験を行わずに経験的に微調整できる。宿主細胞は、好ましくは生細胞であるか生存可能な細胞(例えば凍結乾燥した細胞)である。有効量はいくつかのより少ない用量に再分割でき、例えば1日に、2、3、又はそれ以上の部分で投与できる。胃を移動する間の生存率を向上するために、細胞は保護皮膜により保護できる。
【0085】
さらなる実施形態において、例えば、WO01/95741に開示されているように、細菌株(複数可)の死菌体細胞又は生存不能な菌体細胞が、生菌(又は生存可能な菌体)に代え、又は付け加えて、上記の組成物に使用される。使用される死菌体細胞又は生存不能な菌体細胞の量は、例えば、生菌で用いた量に等しい。適切な量は当業者には容易に決定するができる。上記の組成物中では、「コロニー形成単位」としての測定ができないので、当業者には周知の別の方法で、細胞量が計数(例えば、フローサイトメーターを使用して)又は測定される。
【0086】
また、宿主細胞は生存可能な形で、投与後又は液体で再構築後に再び生き返る凍結乾燥(凍結せ乾燥した)細胞で組成物中に存在できる。
【0087】
組成物は、液体、例えば宿主細胞を安定化した懸濁液であるか又は、固体形態、例えば粉末、又は半固体の形である。例えば経口投与の場合、宿主細胞は、固体剤形、例えばカプセル、錠剤及び粉末で投与でき、又は液状剤形、例えばエリキシル剤、シロップ及び懸濁液で投与できる。宿主細胞は、不活性成分及び粉末状の担体、例えば例えばブドウ糖、乳糖、蔗糖、マンニトール、澱粉、セルロース又はセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、サッカリンナトリウム、タルク、炭酸マグネシウム及びその他と共に、ゼラチンカプセルにカプセル化できる。
【0088】
1つの実施形態において、本発明による組成物は、対象、好ましくヒト又は動物による摂取に適している。上記の組成物は、食品サプリメント、又は食品、又は本発明の宿主細胞の他に適切な食品ベースをも含む食品成分の形でもよい。本明細書では食品又は食品組成物は、ヒト又は動物が摂取する液体、すなわち飲物又は飲料を含むと理解される。食品又は食品成分は固体、半固体及び/又は流動食、或いは食品成分であってもよく、特に酪農製品、例えば発酵乳製品、非限定的具体例としてはヨーグルト、ヨーグルトベースの飲物、又はバターミルクであってもよい。上記の食品又は食品成分を、それ自体は知られた方法で、例えば、本発明の宿主細胞を、適切な量で、適切な食品又は食品ベースに付け加えることにより調製できる。さらなる好ましい実施形態においては、宿主細胞は、食品又は食品成分の調製において、例えば発酵に使用される微生物である。上記の微生物の例には、パン酵母又は醸造酵母及びプロバイオティクス乳酸菌株などの乳酸菌を含む。その際に、本発明の宿主細胞は、それ自体は知られた方法で、上記の発酵食品又は食品成分の調製、例えばそれ自体は知られた方法で、乳酸菌を用いる発酵乳製品の調製に使用できる。上記の方法では、本発明の宿主細胞を通常使用する微生物の他に使用でき、且つ/或いは通常使用する微生物の1つ若しくは複数又は一部分を置き換えることができる。例えば、発酵乳製品、例えばヨーグルト又はヨーグルトベースの飲物の調製で、本発明の食品グレード乳酸菌を、発端培養の一部として添加若しくは使用できるか、又は上記の発酵の間、適切に添加することができる。
【0089】
他の態様では、本発明は対象の粘膜表面で、ポリペプチド又は生物活性物質を(部位特異的)産生する方法に関するものである。本方法は対象に、上記の宿主細胞を含む組成物を投与するステップを含む。宿主細胞は、粘膜表面に接着し、集落を作るのに特に適しているので、対象の粘膜表面に他の生物活性物質を供給するために有効に使用することができる。これは、細胞に上記の物質をプレローディングすることにより、或いは上記の細胞で生物学的に活性タンパク質又はポリペプタイドを同時発現することにより達成でき、次いで、宿主細胞の集落形成サイトで生成され且つ/又は局所的に放出される。これらは、膜結合若しくは分泌タンパク質、又は生物活性を有するタンパク質断片である。1つの実施形態では、ポリペプチドは、ヒト又は動物の病原菌由来の抗原である。病原菌の抗原(複数可)のin situ生成により、組成物を投与したヒト又は動物に予防接種ができる。別の実施形態においては、ポリペプチド又は生物活性物質は、健康促進因子である。
【0090】
b)組成物を含むタンパク質及び方法
本発明の別の実施形態では、記述のように、マンノース特異的アドヘシン又はその変異体、及び1つ又は複数の薬学的に(生理学的に)許容される担体を含む医薬品及び/又は栄養補助食品組成物を提供する。別の実施形態においては、本発明のポリペプチドを作成する方法が提供され、前記方法は、a)ポリペプチドの発現に有利な条件下で、マンノース特異的アドヘシン又はその変異体をコードする、少なくとも1つの(新しく導入されたか又は追加された)核酸配列を含むように改変された宿主細胞を培養するステップと、b)ポリペプチドを回収するステップとを含む。
【0091】
さらに、医薬品(及び/又は栄養補助食品)組成物を作成する方法が提供され、前記方法は上記ステップa)とb)を含み、ポリペプチドを薬学的に(生理学的に)許容できる担体と混合するステップをさらに含む。担体とポリペプチドを混合する前に、当技術分野で既知のタンパク質精製方法を用いて、ポリペプチドを場合によって精製できる。好ましくは、ポリペプチドは、培養した宿主細胞から分泌され、培地から容易に回復できる。
【0092】
宿主細胞を含む組成物について上記で説明した実施形態は、マンノース特異的アドヘシン又はその変異体(複数可)を含む組成物に同様に適用する。
【0093】
組成物の使用
また消化管、尿路及び/又は膣の病原菌感染を治療又は予防し、上記の治療を必要とする患者に上記の宿主細胞を含み、又は上記のマンノース特異的アドヘシンの適切量を含む有効量の組成物の投与を含む方法が提供される。特に1型線毛を発現する病原菌に起因する、対象の粘膜表面の感染を、本発明による組成物の投与によって予防又は有意に減少できる。
【0094】
したがって、消化管、尿路、及び/又は膣の病原菌感染の治療又は予防(予防的治療)のための薬剤製造ために、特に1型線毛を発現する1つ又は複数の細菌種に起因する、粘膜表面感染の治療又は予防のために、上記の宿主細胞又はマンノース特異的アドヘシンポリペプチドが使用できる。
【0095】
特に、組成物は上述の如く病原微生物に起因する感染の治療、予防又は遅延ために使用できる。
【0096】
以下の非限定的実施例は、マンノース特異的アドヘシンの同定と分離を記載する。特に記載しない限り、本発明の実施には、分子生物学、ウイルス学、細菌学又は生化学の標準的な従来の方法を使用する。上記の技術は、Sambrook et al. (1989) Molecular Cloning, A Laboratory Manual (2nd edition), Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press; Sambrook and Russell (2001) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY; Volumes 1 and 2 of Ausubel et al. (1994) Current Protocols in Molecular Biology, Current Protocols, USA; Volumes I and II of Brown (1998) Molecular Biology LabFax, Second Edition, Academic Press (UK); Oligonucleotide Synthesis (N. Gait editor); Nucleic Acid Hybridisation (Hames and Higgins, eds.)に記載され、全てここに参考により組み込まれる。
【実施例】
【0097】
(実施例1 コンピュータ解析)
L. plantarumのいずれの1つ又は複数の遺伝子が、記載されているマンノース特異的接着表現型を担っているかを同定するには、コンピュータ解析は適切でないことが分かった。これを説明するために、他の菌種で同定された遺伝子に対する配列相同性を示し、これらの菌種で粘膜表面へ接着の役割を担う可能性を有するL. plantarumの遺伝子のリストを以下に記載する。
【0098】
フォーマットは、以下の通りである。lp_xxxx:相同性検索でヒットした遺伝子名[ヒットの由来する種]。Lp_xxxxはL. plantarumの遺伝子を指し、Kleerbezemら(2003)及びEMBLデータベースアクセッション番号AL935263で示される。
L. plantarum遺伝子:相同性ヒット[ヒットの由来する種]
lp_0304:凝集促進タンパク質[Lactobacillus gasseri]
lp_0520:自動凝集媒介タンパク質[Lactobacillus reuteri]
lp_1229:粘液結合タンパク質前駆体;Mub[Lactobacillus reuteri]
lp_1643:粘液結合タンパク質前駆体;Mub[Lactobacillus reuteri]
lp_1793:フィブロネクチン結合タンパク質様プロテインA[Streptococcus gordonii]
lp_1873:凝集関連アドヘシン[Streptococcus gordonii]
lp_2278:自動凝集媒介タンパク質[Lactobacillus reuteri]
lp_2845:凝集促進タンパク質[Lactobacillus gasseri]
lp_2847:凝集促進タンパク質[Lactobacillus gasseri]
lp_3050:凝集促進タンパク質[Lactobacillus gasseri]
lp_3059:粘液結合タンパク質前駆体;Mub[Lactobacillus reuteri]
lp_3114:粘液結合タンパク質前駆体;Mub[Lactobacillus reuteri]
lp_3209:粘液接着促進タンパク質[Lactobacillus reuteri]
lp_3214:コラーゲン結合タンパク質[Lactobacillus reuteri]/粘液接着促進タンパク質[Lactobacillus reuteri]。
【0099】
このリストは完全なものではなく、相同性は限られた特異的ドメインのみの相同性に起因する可能性がある。このような部分的相同性は、多くの場合、機能注釈を付けることができず、ある種のドメインが保存されていることを単に示すだけである。
【0100】
このリストは、L. plantarumのどの1つ又は複数の遺伝子がマンノース特異的接着を担っているかを予測することが不可能であることを示しているが、L. plantarumの完全なゲノム配列は入手可能である。
【0101】
(実施例2 L. plantarum WCFS1でのマンノース特異的アドヘシンをコードする遺伝子(複数可)の同定)
L. plantarum菌株のマンノース特異的接着特性は、Adlerberth et al.(1996)の記述に従いこれを少し改変して、特異的マンノシドの添加により阻害されるL. plantarum媒介酵母菌(Sacharomyces cerevisiae)凝集に基づく簡便なアッセイで評価した。簡単に説明すると、細菌株を、適切な培地で終夜培養し、洗浄して0.1培養量のPBS(pH7.4)に懸濁した。この細菌懸濁液の10倍希釈系列を、適切な寒天平板上にプレーティングし、37℃で48時間増殖後、CFU/mlを測定して、細胞数を記録した。細菌懸濁液(PBS中)の2倍希釈系列(50μl)をマイクロタイタープレートに作成した(96穴、u字形のGreiner bio-one, Alphen a/d Rijn社製、オランダ)。50μlのPBS(pH7.4)又は、メチル−α−D−マンノピラノシドを含むPBS(最終濃度:25mM;Sigma-Aldrich Chemie社製、Zwijndrecht、オランダ)、並びに麦芽エキス培地(Oxoid, Haarlem社製、オランダ)で増殖した、1%(w/v)Saccharomyces cerevisiaeのPBS懸濁液100μlを加えた。プレートを、室温で10分間振盪し、50μl量を各々のウェルから取り出し、明光光学顕微鏡(bright-light microscopy)(200倍の倍率で、倒立顕微鏡Nikon Eclipse TS100)で凝集を調べた。なお目視可能な凝集を生じる最高希釈率の逆数を、凝集素価として記録した。3回の独立して実施したアッセイの平均凝集素価と標準偏差を算出した。
【0102】
L. plantarum WCFS1を用いた最初の実験は、この菌株は、マンノシド特異的様式で酵母菌凝集を媒介することができることを示した(図1)。WCFS1に続き、種々のL. plantarum菌株を、Saccharomyces cerevisiaeを凝集させる能力について試験した。適用した条件下では、再現可能な凝集素価が、個々の菌株に対して得られた。さらに細菌を添加しないと、酵母菌は凝集せず、この過程が細菌により誘導されていることが確かめられた(図1)。最後に、酵母菌凝集素価がL. plantarum菌株間で異なり、菌株間で凝集能力に多様性があると結論することができた(表1)。重要なことは、いくつかの菌株が、酵母菌を凝集させる能力を欠いていたことである。酵母菌凝集を示した全ての菌株に関して、この凝集は、メチル−α−D−マンノピラノシドの添加により完全に阻害でき、マンノース特異的機序を示していた(データは示さず)。
【0103】

表1の参考文献:
1: Gasser and Sebald 1966, Ann Inst Pasteur (Paris)110:261-275.
2: Adlerberth et al. AEM
3: Aukrust, T., and H. Blom. 1992. Food Res. Int. 25: 253-261.
4:K. Thompson, K. McConville, L. McNeilly, C. Nicholson and M. Collins, Abstr. 6th Symp. Lactic Acid Bacteria Genet. Metab. AppL, p. E5, 1999
5:Scheirlinck T, et al. Appl Environ Mcrobiol. 1989 55:2130-2137.
【0104】
この情報は、L. plantarum WCFS1のクローンに基づくDNAマイクロアレイを使用して、L. plantarum菌株−遺伝子タイピングを基にして前もって作成された、L. plantarum遺伝子型−多様性データベースと適合させた(未発表)。この適合により、多様性のデータベース中で10個のL. plantarum WCFS1遺伝子の存在/不在スコアのリストは、常に、酵母菌凝集アッセイでの観察された表現の変動と一致することが明らかになった。特に、これらの2の遺伝子(lp_0373、lp_1229)は、LPXTGを含む表面タンパク質をコードし、したがって、マンノシド特異的アドヘシン機能の候補である可能性が高いと考えられた。
【0105】
これらのLPXTGを含む表面タンパク質の適切な生合成は、細胞壁へこれらのタンパク質の架橋反応を触媒するソルターゼ酵素(srtA遺伝子;lp__0514によってコードされる)に厳密に依存している。いくつかの他のグラム陽性の種とは対照的に、L. plantarumゲノムは、1つのソルターゼ酵素だけをコードしている。すでにL. plantarumのsrtA変異体は、本発明者の研究所でつくられている(未発表)。酵母菌凝集アッセイで、L. plantarum菌株WCFS 1及び299vのsrtA変異体派生株を評価したところ、これらの変異体は、酵母菌凝集を媒介する能力を完全に失っていた(図1)。このような所見は、生物多様性データベース(lp_0373、lp_1229)を用いて同定された2つの(2つのうちのいずれか、又は両方の)LPXTGを含む表面タンパク質の仮定されたマンノース特異的接着特性を強く裏づけるものであった。
【0106】
(実施例3 マンノース−アドヘシンをコードする遺伝子としてのlp_1229の妥当性評価)
lp_0373及び/又はlp_1229の潜在的な役割を検証する実験的方法は、L. plantarum WCFS 1のノックアウト変異体菌株の構築と過剰発現変異体の両方からなっていた。lp_0373か又はlp_1229の機能的なコピーを欠くL. plantarum WCFS1の変異体派生株を、2回組換え遺伝子置換ストラテジー(double-cross over gene replacement strategy)により構築した。ノックアウト自殺プラスミド構築を、大腸菌をクローニング宿主として実施した。DNA操作及び大腸菌の形質転換などの分子生物学テクニックは、標準的な方法で基本的には同じように行った((Sambrook, J., Fritsch, E.F., and Maniatis, T. (1989) Molecular cloning: a laboratory manual, 2nd ed. Cold Spring Harbor, NY: Cold Spring Harbor Laboratory Press)。プラスミドDNAによるL. plantarumの形質転換は、電気穿孔法を用いて実施した(Ferain, T., Garmyn, D., Bernard, N., Hols, P., and Delcour, J. (1994) Lactobacillus plantarum ldhL gene: overexpression and deletion. J Bacteriol 176: 596-601)。製造者の使用説明書に従い、Jetstarカラムを用いて、大腸菌からプラスミドDNAを分離した(Genomed社製、Bad Oeynhausen、ドイツ)。
【0107】
本研究で使用するプライマーは、表2に列挙してあり、Proligo France SAS社製(パリ、フランス)から購入した。制限エンドヌクレアーゼ、Taq及びPfxポリメラーゼ及びT4 DNAリガーゼは、製造者が推奨するように使用した(Gibco BRL Life Technologies社製、Gaithersburg, Maryland、米国;Invitrogen社製、Breda、オランダ;New England BioLabs社製、Beverly, MA、米国)。本研究で使用したか又は、構築したプラスミドは表3に列挙した。
【0108】
3.1 lp_0373及びlp_1229遺伝子置換変異体の構築
Lactobacillus plantamm WCFS1染色体DNAをテンプレートにして、それぞれlp_0372F / lp_0372R、lp_0374F / lp_0374R、lp_1227F / lp−1227R及びlp_1230F / lp_1230Rをプライマーの組合せとして用い、2つの候補遺伝子の5'及び3'隣接領域を増幅した(表2)。必要に応じて、PCR産物を、BsaHI(プライマーに導入された部位)で消化した。これらのPCR産物(約0.8 kb)をそれぞれ、SmaI又はPvuII及びBsaHIで消化後、突然変異誘発ベクターpNZ7101に結合した。得られたプラスミドは、それぞれ、lp_0373又はlp_1229の隣接領域の間にクロラムフェニコール耐性カセット(cat)、及びエリスロマイシン抵抗性遺伝子を含む。pAL0373とpAL1229と名づけたこれらのベクターを、L. plantarum染色体DNAの、安定な2回組換え遺伝子置換に使用した。したがって、これらを電気穿孔法によってL. plantarum WCFS1に導入した。組込み体を、クロラムフェニコール7μg/mlを含むMRS寒天上にプレーティングして主として選択し、2回組換え候補集落を、エリスロマイシン25μg/mlを含むMRS平板に集落を移して評価する、エリスロマイシン感受性選択により同定した。期待されるクロラムフェニコール耐性をコードするcat遺伝子による、lp_1229及びlp_0373の2回組換え遺伝子置換を、PCR及びサザンブロット分析により確認した。
【0109】
3.2 lp_1229及びlp_0373の過剰発現変異体の構築
2つの候補遺伝子lp_0373及びlp_1229を、L. plamtarum WCFS1ゲノムDNA及びプライマーlp_0373F/lp_0373R又はlp_1229F/lp_1229Rの組合せを用いたPCRで増幅した。それぞれ、約3.1及び3.7kbのPCR産物を、PCR−ブラント(Blunt)ベクター(Invitrogen社製、Breda、オランダ)にクローニングし、引き続いて、XhoI及びNotI(プライマーに組み込まれた部位)で消化した。次いで、それぞれlp_0373及びlp_1229からなる断片を、発現ベクターpJL22に結合した。このベクターは、pNZ273 gusAプロモータープローブベクターにクローニングされた、L. plantarum WCFS1のlp_1144の上流の100bp断片の中に位置する構成的プロモーターを含有する(Platteeuw C, Simons G, de Vos WM. Appl Environ Microbiol. 1994 60:587-593)。この発現プラスミドのgusA遺伝子を、XhoI及びNotI消化によって除去し、対応するPCR−BLUNTクローンからNotI−XhoI断片として得られたlp_0373又はlp_1229と置換し、それぞれ、pAW002とpAW005を得た。これらのハイコピープラスミドを、L. plantarum WCFS1中に形質転換し、その結果、クローン化された遺伝子の構成的過剰発現が生じた。
【0110】
3.3 構築した変異体の機能的解析
構築した菌株WCFS1の変異体派生株は、野生型菌株と比較して、細菌の表現型に明白な変化も、明白な増殖又は生存力の差異も示さなかった。
【0111】
マンノース特異的接着に関する2つの候補遺伝子の重要性を検討するために、L. plantarum WCFS1の構築した変異体菌株を、引き続きそれらの凝集能力につき、改めて試験した。結果を図2に示した。lp_0373に関しては、凝集アッセイで野生型の菌株と同じ挙動を示すlp_0373を欠いているか、又は過剰発現しているL. plantarum WCFS1の両方の変異体菌株が、マンノース特異的接着には関与しないと結論を下すことができた。したがって結論として、この遺伝子によってコードされるタンパク質は、S. cerevisiaeを凝集させる能力に必要でない。対照的に、凝集アッセイでlp_1229ノックアウト及び過剰発現変異体で得た結果は、マンノース特異的接着に対するlp_1229の関与を証明している。この遺伝子のノックアウト突然変異により、結果としてL. plantarum WCFS1はS. cerevisiaeを凝集する能力を完全に失った。さらに、lp_1229の産生過剰により、結果として酵母菌凝集素価が有意に増加した。以前に観察されたと同様に、lp_1229過剰産生変異体によって示される、この凝集能力の増加を、メチル−α−D−マンノピラノシドの添加により完全に消失させることができた。これらの結果は酵母菌のマンノース特異的凝集で、lp_1229によってコードされるタンパク質の直接的な役割をはっきりと確立した。これらの結果は、lp_1229が報告されたL. plantarumが媒介するEPEC感染阻害に含まれるL. plantarumのマンノシド特異的アドヘシンをコードすることを示している。
【0112】

【0113】

Cm、クロラムフェニコール耐性;Ery、エリスロマイシン耐性;Kan、カナマイシン耐性
【0114】
(実施例4 LP 1229、タンパク質分析)
LP_1229は、細胞表面タンパク質で典型的なマルチドメイン構造を有する高分子量の表面タンパク質(1010個のアミノ酸)である。さらに、LP_1229は、タンパク質のN末端及びC末端の両方の部分が存在するいくつかの反復ドメインを含む。相同性検索で、種々の乳酸桿菌及びブドウ球菌のいくつかの表面タンパク質に対するLP_1229の相似性が明らかなり、この種により表示される粘液結着性に関与することが示されたLactobacillus reuteriiのタンパク質を含んでいた(Roos and Jonsson 2002)。しかし、見いだされた相似性は、LP_1229タンパク質の特異的ドメインに限られており、特に上述した反復ドメインにおいて顕著である。
【0115】
これらの結果は、lp_1229はマンノース特異的接着表現型を担い、したがってL. plantarum及び構築されたその(ノックアウト及び過剰発現)変異体により媒介される特異的健康効果の根底にある分子機構を説明し、インビボでこの遺伝子、タンパク質及び表現型を改変して利用する手段を提供している。この研究結果は初めて菌株と菌株コレクションを、この機能的な特性の存在そして又は発現に関し選別することを可能にし、プロバイオティクス菌株の選択を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】酵母菌マンノース特異的凝集試験の図である。上左側:酵母菌のみ;上右側:酵母菌及びL. plantarum WCFS1;下左側:L. plantarum WCFS1 及びメチルマンノシド;下右側:L. plantarum WCFS1 ΔsrtA
【図2】L. plantarum WCFS1変異株によって媒介されたSaccharomyces cerevisiae凝集の図である。3つの独立した実験から算出された平均凝集素価(log2)+/−SDを表示する。野生型(A)及びlp_0373変異株(B及びC)酵母菌細胞を凝集する同じ能力を示す。対照的に、lp_1229(D)のcat−置換は、この能力の完全な損失を導くが、lp_1229(E)の過剰発現は、凝集の増強を生じる。A:L. plantarum WCFS1野生型;B:L. plantarum WCFS1 lp_0373::cat;C:L. plantarum WCFS1 lp_0373過剰発現;D:L. plantarum WCFS1 lp_1229::cat;E:L. plantarum WCFS1 lp_1229過剰発現。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンノース特異的アドヘシンをコードするヌクレオチド配列を含む単離された核酸分子であって、前記ヌクレオチド配列が
(a)配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、
(b)配列番号2のヌクレオチド配列と少なくとも60%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含むヌクレオチド配列、
(c)その相補鎖が(a)又は(b)の核酸分子配列にハイブリダイズするヌクレオチド配列、
(d)遺伝暗号の縮重のために(c)の核酸分子の配列と異なる配列のヌクレオチド配列
からなる群から選択される核酸分子。
【請求項2】
ヌクレオチド配列が、マンノース特異的アドヘシンの変異体又は断片をコードし、前記変異体又は断片がマンノースに結合できる請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項4】
核酸分子を、少なくとも1つの調節DNAエレメントに作動可能に連結し、原核又は真核生物細胞中で前記核酸の発現を可能にする、請求項3に記載のベクター。
【請求項5】
請求項1若しくは2に記載の核酸分子、又は請求項3若しくは4に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項6】
宿主細胞がグラム陽性菌である請求項5に記載の宿主細胞。
【請求項7】
宿主細胞が、ラクトバチルス(Lactobacillus)、ラクトコッカス(Lactococcus)、ロイコノストック(Leuconostoc)、カルノバクテリウム(Carnobacterium)、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)、ペディオコッカス(Pediococcus)、バチルス(Bacillus)、ストレプトコッカス(Streptococcus)からなる群から選択される属に属する請求項6に記載の宿主細胞。
【請求項8】
核酸分子が宿主細胞に、ヒト細胞に接着する能力を与える請求項5〜7のいずれか1項に記載の宿主細胞。
【請求項9】
請求項5又は6に記載の宿主細胞、及び薬学的又は生理学的に許容される担体を含む組成物。
【請求項10】
配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する単離されたポリペプチド。
【請求項11】
請求項10のポリペプチドの断片又は変異体であり、前記断片又は変異体がマンノースに結合できるポリペプチド。
【請求項12】
請求項10又は11に記載のポリペプチド、及び薬学的又は生理学的に許容される担体を含む組成物。
【請求項13】
請求項10又は11に記載のポリペプチドを製造する方法であって、
a)前記ポリペプチドの発現を導く条件下で、請求項5〜8のいずれか1項に記載の宿主細胞を培養するステップと、
b)前記ポリペプチドを回収するステップと
を含む方法。
【請求項14】
請求項12の組成物を製造する方法であって、請求項13のステップを含み、ポリペプチドを薬学的又は生理学的に許容される担体と混合するステップをさらに含む方法。
【請求項15】
請求項9の組成物を製造する方法であって、
a)請求項5〜8のいずれか1項に記載の宿主細胞を培養するステップと、
b)前記宿主細胞を薬学的又は生理学的に許容される担体と混合するステップと
を含む方法。
【請求項16】
このような治療を必要とする患者に、有効量の請求項9又は12に記載の組成物を投与すること含む、消化管、尿路又は膣の細菌感染を治療又は予防する方法。
【請求項17】
1型線毛を発現する細菌により細菌感染が引き起こされる請求項16に記載の方法。
【請求項18】
消化管、尿路若しくは膣の細菌感染の治療又は予防用の薬剤を製造するための請求項5〜8のいずれか1項に記載の宿主細胞又は請求項10若しくは11に記載のポリペプチドの使用。
【請求項19】
1型線毛を発現する細菌により細菌感染が引き起こされる請求項18に記載の使用。
【請求項20】
細菌がマンノースに結合する能力を有するかどうかを判定する方法であって、請求項1に記載のヌクレオチド配列の有無を判定することを含み、前記ヌクレオチド配列の存在はマンノースを結合する能力を示す前記方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2007−530034(P2007−530034A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−504900(P2007−504900)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【国際出願番号】PCT/NL2005/000216
【国際公開番号】WO2005/090396
【国際公開日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(505296821)エヌ.ブイ.・ヌートリシア (32)
【Fターム(参考)】