説明

新規ベンゾイルグアニジン塩

【課題】強力な医薬的活性により特徴付けられるのみならず、物理化学的要件をできる限り満たす医薬的に活性な物質を提供する。
【解決手段】4-[4-(2-ピロリルカルボニル)-1-ピペラジニル]-3-トリフルオロメチル-ベンゾイルグアニジンの塩酸塩、それを製造する方法及び医薬組成物の調製におけるその使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4-[4-(2-ピロリルカルボニル)-1-ピペラジニル]-3-トリフルオロメチル-ベンゾイルグアニジンの塩酸塩、それを製造する方法及び医薬組成物を調製する際のその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
多くのベンゾイルフアニジン誘導体が、当該技術分野において知られている。従って、例えば、国際特許出願WO 00/17176には、有益な薬学的特性により特徴付けられるベンゾイルグアニジン誘導体が開示されている。これらの化合物は、例えば低酸素症において生じる不整脈に対して有効である。これらは、また、虚血に関する病気に対して使用することができる(例えば:心臓、脳、胃腸−例えば腸間膜血栓/塞栓症-、肺又は腎虚血、肝虚血、骨格筋虚血)。対応する徴候としては、例えば、冠状動脈障害、心筋梗塞、狭心症、安定狭心症、心室性不整脈、サブ心室性不整脈(subventricular arrhythmias)、心不全−及び、また、バイパス術を補助するための、開心術を補助するための、心臓への血液供給を遮断することを必要とする手術を補助するための、及び心臓移植を補助するためのもの−、肺循環における塞栓症、急性又は慢性腎不全(kidney failure)、慢性腎不全(renal insufficiency)、脳梗塞、血管閉塞の崩壊後の脳部位への血液供給の回復時の再灌流ダメージ、及び脳の急性及び慢性循環障害が挙げられる。上記化合物は、また、血栓溶解剤、例えばt−PA、ストレプトキナーゼ及びウロキナーゼと組み合わせて使用することができる。
【0003】
虚血心臓の再灌流の間(例えば狭心症又は心筋梗塞の攻撃後)、不可逆的ダメージが、患部の心筋細胞に生じ得る。そのようなケースにおいては、その化合物が、とりわけ、心保護作用を有する。
虚血のカテゴリーには、また、移植に関連して生じ得る、移植片に対するダメージの防止(例えば移植器官の移植前、移植する間及び移植後及び保持期間中における、その移植した器官−例えば肝臓、腎臓、心臓又は肺−の保護)が含まれるべきである。WO 00/17176に開示された化合物は、また、心臓における及び末梢血管における血管形成の外科的介入を行う際の保護的有効性を有する医薬化合物である。
本態性高血圧症及び糖尿病性腎症においては、細胞性ナトリウム−プロトン交換が高められる。従って、その化合物は、これらの疾患の予防的治療のための、この交換の抑制剤として適切なものである。
【0004】
その化合物は、更に、細胞の増殖作用を強力に抑制することにより特徴付けられる。従って、化合物は、細胞増殖が第1又は第2の役割を担う病気における薬剤として有用であり、また、癌、良性腫瘍、又は、例えば、前立腺肥大症、アテローム性動脈硬化症、器官肥大症及び過形成症、線維性疾患及び糖尿病の遅発性合併症に対する薬剤として使用することができる。
当該技術分野において開示されているベンゾイルグアニジン誘導体の上記薬理学的に有益な特性は、医薬化合物としての化合物の有効な使用にとって主な必須条件である。しかしながら、活性物質は、薬剤として使用が認められるために更により厳格な要件を満たす必要がある。これらのパラメーターは、大部分が、活性物質の物理化学的性質に関連している。
【0005】
それらに制限される訳ではないが、これらのパラメーターの例は、異なる周囲条件下での出発物質の作用の安定性、医薬配合物の製造の際の安定性、及び薬剤の最終組成物中における安定性である。医薬組成物を調製するために使用される医薬的に活性な物質は、従って、高い安定性を有するべきであり、それは、また、異なる周囲条件下でさえ保持されなければならない。これは、絶対的に、例えば活性物質自体に加えて活性物質の分解生成物を含む医薬組成物の使用を防止するために必要である。そのようなケースにおいては、医薬配合物中に存在する活性物質の含量が規定のものより低いかもしれない。
水分の吸収により、医薬的に活性な物質の含量が低減され、これは、水の吸収による質量の増加によるものである。水を吸収する傾向がある医薬組成物は、例えば、適切な乾燥剤の添加により又は湿気から保護されている環境下に医薬組成物を貯蔵することにより、貯蔵の間、水分から保護する必要がある。更に、医薬組成物が少しの水分保護もされていない環境に付される場合には、水分の吸収により、その製造の間に医薬的に活性な物質の含量が低減され得る。従って、好ましくは、医薬的に活性な物質は、吸湿性がほんの僅かなものであるべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
活性物質の結晶性改質(crystalmodification)は、医薬組成物の活性に影響し得るので、できる限り、結晶形態で存在する活性物質の現存多形(existingpolymorphism)を明らかにする必要がある。活性物質の異なる多形改質が存在する場合、活性物質の結晶性改質その後の医薬調製において変化しないことを確実なものにする点に留意する必要がある。別に、これは、薬剤の再現性活性に対する悪影響を有するかもしれない。これに関連して、制限された多形により特徴付けられる活性物質が好ましい。
配合物の選択及び配合物の製造方法の選択に依存して、ある環境下において特に重要であるかもしれない別の基準は、活性物質の溶解性である。例えば医薬溶液(例えば注入用)が好ましい場合、活性物質が薬学的に許容可能な溶剤に十分に溶解性であることが必須である。十分に溶解性の活性物質は、また、経口投与用医薬組成物に特に重要である。
本発明の目的は、強力な医薬的活性により特徴付けられるのみならず、上記物理化学的要件をできる限り満たす医薬的に活性な物質を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の詳細な記載
上記目的が、4-[4-(2-ピロリルカルボニル)-1-ピペラジニル]-3-トリフルオロメチル-ベンゾイルグアニジン塩酸塩化合物:
【0008】
【化1】

【0009】
により達成されることを見い出した。
の化合物は、吸湿性でなく、かつ、薬理学的に許容可能な溶剤中に容易に溶解する。それは、また、安定性が高いことにより特徴付けられる。
しかしながら、式の化合物とは異なる、WO 00/17176に開示された式1'のメタンスルホネート:
【0010】
【化2】

【0011】
は、前記要件を満たさない。
従って、第1態様において、本発明は、式の化合物自体に関する。別の態様において、本発明は、その水和物形態にある、好ましくはその一水和物又は半水和物形態にある式の化合物に関する。
別の態様において、本発明は、薬剤としての、式の化合物の使用に関する。本発明は、更に、細胞性Na+/H+交換の抑制剤が治療的利点をもたらし得る病気の治療用医薬組成物を調製するための、式の化合物(場合により、その水和物の形態にあるのがよい)の使用に関する。
【0012】
本発明は、更に、心血管疾患の治療用医薬組成物を調製するための、式の化合物の使用に関する。本発明は、更に、例えば、低酸素症において生じる不整脈の治療用医薬組成物を調製するための、式の化合物の使用に関する。本発明は、更に、虚血に関する病気(例えば:心臓、脳、胃腸−例えば腸間膜血栓/塞栓症-、肺又は腎虚血、肝虚血、骨格筋虚血)の治療用医薬組成物を調製するための、式の化合物の使用に関する。本発明は、更に、以下に記載のものからなる群より選ばれる病気の治療用医薬組成物を調製するための、式の化合物の使用に関する:冠状動脈障害、心筋梗塞、狭心症、安定狭心症、心室性不整脈、サブ心室性不整脈、心不全−及び、また、バイパス術を補助するための、開心術を補助するための、心臓への血液供給を遮断することを必要とする手術を補助するための、及び心臓移植を補助するためのもの−、肺循環における塞栓症、急性又は慢性腎不全、慢性腎不全、脳梗塞、血管閉塞の溶解後の脳部位への血液供給の回復時の再灌流ダメージ、及び脳の急性及び慢性循環障害。本発明は、更に、血管保護活性物質の使用が治療的利点を有し得る病気の治療用医薬組成物を調製するための、式の化合物の使用に関する。本発明は、更に、癌、良性腫瘍、又は、例えば、前立腺肥大症、アテローム性動脈硬化症、器官肥大症及び過形成症、線維性疾患及び糖尿病の遅発性合併症の治療用医薬組成物を調製するための、式の化合物の使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
の化合物は、水性注入溶液(例えば静脈内、筋肉内又は皮下投与用のもの)として、タブレットとして、坐薬として、軟膏として、経皮投与用プラスターとして、肺吸入用エアロゾルとして又は鼻用スプレーとして使用することができる。
タブレット又は坐薬中における活性物質含量は、5〜200mg、好ましくは10〜50mgである。吸入については、単一投与量は、0.05〜20mg、好ましくは0.2〜5mgである。非経口的注入については、単一投与量は、0.1〜50mg、好ましくは0.5〜20mgである。上記投与量は、必要なら、1日に数回とすることができる。
活性物質を含有する医薬調製品の例は以下のとおりである:
【0014】
【表1】

【0015】
【表2】

【0016】
この溶液は、標準的な方法を用いて殺菌することができる。
WO 00/17176には、遊離塩基4-[4-(2-ピロリルカルボニル)-1-ピペラジニル]-3-トリフルオロメチル-ベンゾイルグアニジンを合成するために使用可能な製造方法が開示されている。この化合物を出発物質として、式の化合物の合成方法の例を以下に記載する。
【実施例】
【0017】
実施例1:4-[4-(2-ピロリルカルボニル)-1-ピペラジニル]-3-トリフルオロメチル-ベンゾイルグアニジン-塩酸塩
15.1gの4-[4-(2-ピロリルカルボニル)-1-ピペラジニル]-3-トリフルオロメチル-ベンゾイルグアニジンを151mlのメタノール中に入れ、得られたサスペンションを約10℃まで冷却した。16mlの飽和エーテルHCl溶液をこのサスペンションに添加し、従って、それがpH1〜2に酸性化された。撹拌を、氷冷しながら、結晶化が完了するまで継続した。結晶を、吸引ろ過し、冷メタノールで及び次いで冷ジエチルエーテルで洗浄した。
収率:16.19g;融点:223℃(補正なし)
【0018】
実施例2:4-[4-(2-ピロリルカルボニル)-1-ピペラジニル]-3-トリフルオロメチル-ベンゾイルグアニジン-塩酸塩-半水和物
15.0kgの4-[4-(2-ピロリルカルボニル)-1-ピペラジニル]-3-トリフルオロメチル-ベンゾイルグアニジンを収集し、120リットルのエチルアセテートと組み合わせた。
サスペンションを約45℃まで加熱し、30リットルの水と組み合わせた。得られた混合物を約15分間撹拌し、水性相をその後分離除去(separate off)した。水20リットル中の濃塩酸3.62kgの溶液を、有機相に一定温度で添加した。約1〜2時間で、混合物を25〜20℃まで冷却した。得られた塩酸塩を分離除去し、エチルアセテート50リットルで洗浄し、減圧下に60℃で乾燥させた。
収率:78%;融点:225±5℃(10K/分の加熱速度でのDSC)
【0019】
実施例3:4-[4-(2-ピロリルカルボニル)-1-ピペラジニル]-3-トリフルオロメチル-ベンゾイルグアニジン-塩酸塩-一水和物
109.4gの4-[4-(2-ピロリルカルボニル)-1-ピペラジニル]-3-トリフルオロメチル-ベンゾイルグアニジンを、1.5リットルの水中に懸濁し、約50℃まで加熱した。26.1mlの水性濃塩酸を、300mlの水で希釈し、かつ、約20分以内で予熱サスペンション中に滴下した。混合物を、約15分間、一定温度で撹拌した。その後、その温度を、撹拌を伴って約1.5時間かけて約35℃に低下させた。それを、その後、5〜10℃まで冷却し、この温度で更に1時間撹拌した。得られた結晶を分離除去し、少量の水で洗浄し、減圧下に約50℃で乾燥させた。
収率:116.5g;融点:180±5℃(10K/分の加熱速度でのDSC)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で表される4-[4-(2-ピロリルカルボニル)-1-ピペラジニル]-3-トリフルオロメチル-ベンゾイルグアニジン塩酸塩の半水和物を薬剤として含有する医薬組成物。
【化1】

【請求項2】
細胞性Na+/H+交換の抑制剤が治療的利点をもたらし得る病気の治療用の請求項1記載の医薬組成物。

【公開番号】特開2013−107906(P2013−107906A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−47091(P2013−47091)
【出願日】平成25年3月8日(2013.3.8)
【分割の表示】特願2009−166773(P2009−166773)の分割
【原出願日】平成14年2月14日(2002.2.14)
【出願人】(503137975)ベーリンガー インゲルハイム ファルマ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフト (129)
【Fターム(参考)】