説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】駆動電圧が低く、発光効率が高いタンデム型の有機エレクトロルミネッセンス素子を提供すること。
【解決手段】対向する陽極12と陰極16との間に、少なくとも第一発光ユニット13、第二発光ユニット15を有するタンデム型の有機エレクトロルミネッセンス素子1であって、第一発光ユニット13と第二発光ユニット15との間には、中間ユニット14が設けられ、中間ユニット14は、陽極12側から順に、無機化合物含有層141と金属層142とを積層して含み、無機化合物含有層141は、カルシウムハロゲン化物を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
陽極と陰極との間に発光層を含む発光ユニットを備え、発光層に注入された正孔と電子との再結合によって生じる励起子(エキシトン)エネルギーから発光を得る有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という。)が知られている。
近年、有機EL素子の発光効率、及び素子寿命を向上させるための一つの方法として、中間ユニットを介して複数の発光ユニットを積層し、直列に接続した素子構成が検討されている。このような素子構成は、タンデム型と呼ばれる。
タンデム型の有機EL素子では、中間ユニットから隣接する発光ユニットへ、正孔又は電子を注入する必要がある。そのため、中間ユニットには、正孔及び電子を発生させると共に、発生させた正孔及び電子を隣接する発光ユニットそれぞれに注入する機能が求められる。
【0003】
このような背景から、中間ユニットに関する様々な検討がなされている。
例えば、特許文献1に記載された有機EL素子の中間ユニットは、電子注入層と正孔注入層との間にITOやIZO(登録商標)などの透明導電膜を挿入する構成を採用し、各発光ユニットへの電荷発生及び電荷注入を実現している。
また、特許文献2は、発光層を含む2つの有機層の間に中間電極を有するタンデム型の有機EL表示装置において、中間電極に、ITOの他、アルミニウムや銀‐マグネシウム合金等の金属系材料を用い得ることを開示する。
【0004】
しかし、透明導電膜を成膜するには、通常スパッタリングによる成膜が必要であり、プロセス中に生じる二次電子等の影響で有機膜へダメージを受けることが指摘されている。
【0005】
さらに、特許文献1や特許文献2で提案される中間ユニットの金属層や導電性酸化物層を挿入しただけでは、発光ユニットへの正孔や電子の注入が不十分となり、駆動電圧が上昇し、発光効率が低下するという課題がある。
【0006】
そこで、例えば特許文献3においては、タンデム型の有機EL素子の発光ユニット間に、従来の単ユニット型有機EL素子において一般的に用いられているフッ化リチウム(LiF)からなる電子注入層、及びアルミニウム(Al)からなる陰極の構成を採用し、発光ユニットへの正孔や電子の注入を促進しようとする試みもなされている。特許文献3に記載されたタンデム型の有機EL素子では、光透過性を確保するため、アルミニウム層の膜厚は、1nmとされている。なお、単ユニット型有機EL素子は、タンデム型有機EL素子とは異なり、一つの発光ユニットを備える構成の有機EL素子をいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−329748号公報
【特許文献2】特開平11−329749号公報
【特許文献3】特開2010−192719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、実用発光輝度における駆動電圧の上昇の課題を有する。
【0009】
本発明の目的は、各発光ユニットへの正孔、及び電子の注入が良好で駆動電圧が低く、発光効率が高いタンデム型の有機EL素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、発光ユニット間において、カルシウムハロゲン化物を含む無機化合物含有層と、金属層とを積層させ、好ましくは、さらに電子受容性材料と積層させることで、駆動電圧が低下し、発光効率が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の有機EL素子は、
対向する陽極と陰極との間に、少なくとも第一発光ユニット、第二発光ユニットを有するタンデム型の有機EL素子であって、
前記第一発光ユニットと前記第二発光ユニットとの間には、中間ユニットが設けられ、
前記中間ユニットは、陽極側から順に、無機化合物含有層と金属層とを積層して含み、
前記無機化合物含有層は、カルシウムハロゲン化物を含む
ことを特徴とする。
【0012】
本発明の有機EL素子において、
前記第二発光ユニットが、前記中間ユニットの前記陰極側に隣接して設けられ、
前記中間ユニットは、前記金属層と前記第二発光ユニットとの間に正孔注入層をさらに含み、
前記正孔注入層は、前記金属層、及び前記第二発光ユニットに隣接し、
前記正孔注入層は、電子受容基を有する有機化合物を含む
ことが好ましい。
【0013】
本発明の有機EL素子において、
前記正孔注入層は、アモルファス状態のカーボン層、及びフッ素置換されたカーボン層の少なくともいずれかである
ことが好ましい。
【0014】
本発明の有機EL素子において、
前記カーボン層は、反応性スパッタリングにより形成されている
ことが好ましい。
【0015】
本発明の有機EL素子において、
前記フッ素置換されたカーボン層は、プラズマ重合により形成さている
ことが好ましい。
【0016】
本発明の有機EL素子において、
前記金属層は、前記無機化合物含有層を真空中で熱還元しうる金属で構成される
ことが好ましい。
【0017】
本発明の有機EL素子において、
前記金属層は、アルミニウム、マグネシウム、及びそれらを含む合金から選ばれる金属からなる
ことが好ましい。
【0018】
本発明の有機EL素子において、
前記金属層は、前記無機化合物含有層上に蒸着法で形成されている
ことが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、駆動電圧が低く、発光効率が高いタンデム型の有機EL素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の一例の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の第二実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の一例の概略構成を示す図である。
【図3】本発明の第三実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子を基板厚み方向の断面で見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔第一実施形態〕
(有機EL素子の構成)
タンデム型の有機EL素子としては、複数の発光ユニット、例えば、第一発光ユニット及び第二発光ユニットを含む次のような構成が挙げられる。
「陽極/第一発光ユニット/中間ユニット/第二発光ユニット/陰極」
第一実施形態の説明においては、図1に示すような構成を備えるタンデム型の有機EL素子1を例に挙げて説明する。有機EL素子1は、基板11上に、陽極12、第一発光ユニット13、中間ユニット14、第二発光ユニット15、及び陰極16がこの順に積層されて構成される。さらに、図1に示すように、第一発光ユニット13、中間ユニット14、及び第二発光ユニット15は、複数の層で構成される。その構成は次の通りである。
・第一発光ユニット13:正孔注入層131
正孔輸送層132
発光層133
電子輸送層134
・中間ユニット14 :無機化合物含有層141
金属層142
正孔注入層143
・第二発光ユニット15:正孔輸送層151
発光層152
電子輸送層153
電子注入層154
以下に、各ユニット、及び各層の詳細な説明を示す。
【0022】
(中間ユニット)
中間ユニットは、電子を第一発光ユニットへ注入し、正孔を第二発光ユニットへ注入する。中間ユニットは、陽極側から順に無機化合物含有層と金属層と正孔注入層とを備える。
【0023】
(無機化合物含有層)
無機化合物含有層は、第一発光ユニットへ電子を注入するためのものである。
無機化合物含有層は、金属層に隣接するとともに、第一発光ユニットに隣接している。有機EL素子1においては、無機化合物含有層141は、金属層142に隣接するとともに、第一発光ユニット13の電子輸送層134と隣接している。
無機化合物含有層には、カルシウムハロゲン化合物が含まれている。カルシウムハロゲン化物は、フッ化カルシウム(CaF)、塩化カルシウム(CaCl)、臭化カルシウム(CaBr)などであり、CaFがより好ましい。
カルシウムハロゲン化物は、1種類で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。さらにカルシウムハロゲン化物は有機物と混合されていても良い。
なお、本発明における無機化合物含有層は、実質的に、このようなカルシウムハロゲン化物からなるものであり、本発明の作用及び効果に影響を与えない成分を含み得る。すなわち、本発明におけるカルシウムハロゲン化物の特性を損なわない範囲で、カルシウムハロゲン化物以外の物質(例えば、微量な不純物)も含み得る。
【0024】
無機化合物含有層は、抵抗加熱蒸着法や、電子ビーム蒸着法で形成することができるので、無機化合物含有層に隣接する有機化合物層へのダメージを抑えることができる。ここでの有機化合物層としては、例えば、電子注入層や電子輸送層であり、有機EL素子1においては、電子輸送層134である。ITO等の透明導電酸化物を有機化合物層上へ成膜する場合は、通常、スパッタプロセスが必要であり、プラズマによる当該有機化合物層へのダメージが避けられない。
【0025】
無機化合物含有層の膜厚は、好ましくは、1nm以上50nm以下であり、より好ましくは、1nm以上10nm以下である。
【0026】
(金属層)
金属層は、無機化合物含有層のアルカリ土類金属ハロゲン化物を熱還元する。
金属層を構成する金属としては、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)などが好ましく、アルミニウム、マグネシウムがより好ましい。
金属層を構成する金属は、1種類でもよいし、複数種が混合されていてもよい。複数種が混合されている場合には、合金を含む。合金として好ましいのは、マグネシウム‐銀合金(Mg−Ag合金)、マグネシウム‐アルミニウム合金(Mg−Al合金)、カルシウム‐銀合金(Ca−Ag合金)である。
金属層の金属としては、カルシウムのハロゲン化反応、及び金属のハロゲン化反応の真空下での標準反応ギブスエネルギーを比較したとき、金属のハロゲン化反応のギブスエネルギーがより低くなるような金属であることが好ましい。そのような金属として、アルミニウム、マグネシウム、及びそれらを含む合金が挙げられる。
なお、本発明における金属層は、実質的に、このような金属からなるものであり、本発明の作用及び効果に影響を与えない成分を含み得る。すなわち、本発明における金属の特性を損なわない範囲で、金属以外の物質(例えば、微量な不純物)も含み得る。
【0027】
金属層の膜厚は、好ましくは、1nm以上20nm以下であり、より好ましくは、1nm以上5nm以下である。金属層の膜厚が、このような範囲であれば、透過率が高く、発光ユニットから発せられた光を効果的に取りだせるので好ましい。
【0028】
以上のような中間ユニットを備えたタンデム型の有機EL素子は、駆動電圧が低くなるとともに、発光効率が高くなる。
ここで、中間ユニットの無機化合物含有層に、本発明のようにカルシウムハロゲン化物を用いた場合と、従来の単ユニット型有機EL素子における電子注入層として一般的に使用されるフッ化リチウム(LiF)などのアルカリ金属フッ化物を用いた場合とで、有機EL素子の上記特性に大きな違いが生じる点について説明する。
単ユニット型有機EL素子においては、フッ化リチウムなどのアルカリ金属フッ化物からなる電子注入層に対して、電極としての金属層が積層される。電極としての金属層は、例えば、100nm程度の厚膜状に蒸着法で形成される。この金属層の形成時に、アルカリ金属フッ化物が熱還元されることで、電子注入層中にアルカリ金属単体が存在するようになり、当該電子注入層の電子注入性が向上する。
このような単ユニット型有機EL素子におけるLiFなどのアルカリ金属フッ化物からなる層、及び金属層の積層構造をタンデム型の中間ユニットに採用した場合、中間ユニットには光透過性も求められることから、金属層の膜厚を光透過性が得られる程度、例えば、数nm程度に薄く形成しなければならない。つまり、単ユニット型有機EL素子のように、金属層を蒸着法で厚膜状に形成することができない。
また、例えば、フッ化カルシウムとフッ化リチウムの熱還元反応は、以下のように示される。
3LiF+Al → 3Li+AlF
(3/2)CaF+Al → (3/2)Ca+AlF
反応式から単位分子あたりのアルミニウムにおける熱還元反応に使用されるフッ化物の分子数は、フッ化リチウムの方が多い。しかし、単位膜厚あたりに存在するフッ化物のモル数は、分子量と密度の関係からフッ化リチウムの方が2.5倍多く、単位膜厚を還元するのに必要なアルミニウムは、フッ化リチウムの場合の方がより多いことが分かる。
そのため、薄膜金属層で熱還元をさせると、フッ化リチウムの場合は電子注入層中のフッ化リチウムが熱還元し切れずに膜中に残る。残留するフッ化リチウムが中間ユニットからの電子注入を阻害することで、素子の駆動電圧が高くなり、発光効率も低くなる。
一方で、本発明の中間ユニットの無機化合物含有層には、アルカリ金属フッ化物よりも熱還元されやすいカルシウムハロゲン化物を用いている。そのため、この無機化合物含有層の上に金属層を薄膜状で形成した場合でも、カルシウムが還元され、電子注入層中にアルカリ土類金属単体として存在する。その結果、中間ユニットからの電子注入性が向上し、素子の駆動電圧が低くなり、発光効率が高くなる。
【0029】
(中間ユニット内の正孔注入層)
中間ユニット内の正孔注入層は、有機EL素子に対して電圧を印加した際に、正孔を第二発光ユニットへ注入する。
本発明の中間ユニット内の正孔注入層は、有機電子受容性材料を含む。この有機電子受容性材料は、電子受容基を含む有機化合物である。特に、電子受容基を含む縮合芳香族化合物、複素環化合物であることが好ましい。また、中間ユニット内の正孔注入層は、有機化合物のみからなることが好ましい。
電子受容性基としては、ニトロ基、イミノ基、シアノ基、カルボニル基、ハロゲン基が挙げられる。中間ユニット内の正孔注入層は、電子注入層に隣接する第二発光ユニットから電子を受け取ることで、第二発光ユニットへ正孔を注入する。
【0030】
中間ユニット内の正孔注入層に用いられる有機電子受容性材料は、下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0031】
【化1】

【0032】
上記式(1)において、R〜Rは、
水素、
ハロゲン、
ヒドロキシル基、
アミノ基、
アリールアミノ基、
炭素数20以下のカルボニル基、
炭素数20以下のカルボニルエステル基、
炭素数20以下のアルキル基、
炭素数20以下のアルケニル基、
炭素数20以下のアルコキシル基、
炭素数30以下のアリール基、
炭素数30以下の複素環基、
ニトリル基、
ニトロ基、
シアノ基、又は、
シリル基
から選ばれる置換基であり、相互に同じであっても異なってもよい。上記R〜Rにおける、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、アリール基、及び複素環基は、置換基を有してもよい。
【0033】
また、上記式(1)において、隣接するR(m=1〜6)は、環状構造を通じて互いに結合してもよい。
また、X〜Xは、炭素原子、又は窒素原子であり、相互に同じであっても異なってもよい。
【0034】
上記式(1)で示される有機化合物の中で、下記式(2)で表される化合物が好ましい。
【0035】
【化2】

【0036】
また、正孔注入層に用いられる有機電子受容性材料としては、下記式(3)で表される化合物も好ましく用いられる。
【0037】
【化3】

【0038】
上記式(3)において、Arは、ハロゲン、又はCN基で置換可能な有機基であり、次に列挙する有機基が挙げられる。
【0039】
【化4】

【0040】
上記有機基において、Aは、酸素原子、硫黄原子、又はセレン原子であり、相互に同じであっても、異なっていてもよい。
上記有機基において、Aは、硫黄原子、又はセレン原子であり、相互に同じであっても、異なっていてもよい。
【0041】
さらに、正孔注入層に用いられる有機電子受容性材料としては、下記式(4)〜(6)で表される化合物も好ましく用いられる。
【0042】
【化5】

【0043】
上記式(4)〜(6)において、
は、炭素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子、又は酸素原子であり、相互に同じであっても、異なっていてもよい。
は、炭素原子、硫黄原子、セレン原子、又はテルル原子であり、相互に同じであっても、異なっていてもよい。
Mは、ニッケル原子、パラジウム原子、白金原子、又は亜鉛原子である。
は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜50のアルキル基、又は炭素数1〜50のアルコキシ基であり、相互に同じであっても、異なっていてもよい。
【0044】
上記式(3)〜(6)で表される化合物の具体例として、下記に示す有機材料及びこれらのハロゲン、又はCN基で置換された化合物が挙げられる。
【0045】
【化6】

【0046】
その他、中間ユニット内の正孔注入層に用いられる有機電子受容性材料としては、国際公開第二009/011327号に記載されたインデノフルオレンジオン誘導体、国際公開第二009/069717号に記載されたアザインデノフルオレンジオン誘導体、国際公開第二010/064655号(国際出願第PCT/JP2009/070243号)に記載されたインデノフルオレンジオン誘導体も好ましく用いられる。これらは下記式(I)で示される。
【0047】
【化7】

【0048】
上記式(I)中Arは、環形成炭素数6〜24の縮合環、又は環形成原子数6〜24の複素環である。ar、及びarは、相互に同一でも異なっていてもよく、下記式(i)、又は(ii)である。
【0049】
【化8】

【0050】
上記式(i)、又は(ii)中、X、及びXは、相互に同一でも異なっていてもよく、下記式(a)〜(g)に示す二価の基のいずれかである。
【0051】
【化9】



【0052】
上記式(a)〜(g)中、R21〜R24は、相互に同一でも異なっていてもよく、水素原子、フルオロアルキル基、アルキル基、アリール基、又は複素環基である。
ここで、上記式(a)〜(g)中のR22とR23とは互いに結合して環を形成してもよい。また、R21〜R24における、フルオロアルキル基、アルキル基、アリール基、及び複素環基は、置換基を有してもよい。
上記式(I)中のR〜Rは、相互に同一でも異なっていてもよく、
水素原子、アルキル基、アリール基、複素環基、ハロゲン原子、フルオロアルキル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、又はシアノ基である。
ここで、上記式(I)中のR〜Rのうち互いに隣接するものは互いに結合して環を形成してもよい。また、上記式(I)中のR〜Rにおける、フルオロアルキル基、アルキル基、アリール基、及び複素環基は、置換基を有してもよい。
上記式(I)中のY〜Yは、相互に同一でも異なっていてもよく、−N=、−CH=、又は−C(R)=である。ここで、Rは、アルキル基(但し、置換基を有してもよい。)、アリール基、複素環基、ハロゲン原子、フルオロアルキル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、又はシアノ基である。また、このRにおいて、アリール基、及び複素環基は、置換基を有してもよい。
【0053】
また、正孔注入層は、上記有機電子受容性材料の他にアミン系化合物や縮合環化合物を含んでいてもよい。このとき、有機電子受容性材料に対するアミン系化合物や縮合環化合物の混合比は、質量比で、好ましくは1:99から50:50であり、より好ましくは、1:99から10:90である。
【0054】
・アミン系化合物
このアミン系化合物としては、例えば、芳香族アミン化合物が好ましい。
芳香族アミン化合物としては、下記一般式(A1)で表わされる芳香族アミン誘導体が好ましい。
【0055】
【化10】

【0056】
前記一般式(A1)において、ArからArまでは、
環形成炭素数6以上50以下の芳香族炭化水素基、
環形成炭素数6以上50以下の縮合芳香族炭化水素基、
環形成炭素数2以上40以下の芳香族複素環基、
環形成炭素数2以上40以下の縮合芳香族複素環基、
上記芳香族炭化水素基と上記芳香族複素環基とを結合させた基、
上記芳香族炭化水素基と上記縮合芳香族複素環基とを結合させた基
上記縮合芳香族炭化水素基と上記芳香族複素環基とを結合させた基、または
上記縮合芳香族炭化水素基と上記縮合芳香族複素環基とを結合させた基、
を表す。但し、ここで挙げた芳香族炭化水素基、縮合芳香族炭化水素基、芳香族複素環基、及び縮合芳香族複素環基は、置換基を有してもよい。
【0057】
前記一般式(A1)において、Lは、連結基であり、
環形成炭素数6以上50以下の2価の芳香族炭化水素基、
環形成炭素数6以上50以下の2価の縮合芳香族炭化水素基、
環形成炭素数5以上50以下の2価の芳香族複素環基、
環形成炭素数5以上50以下の2価の縮合芳香族複素環基、
2個以上の芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を単結合、エーテル結合、チオエーテル結合、炭素数1以上20以下のアルキレン基、炭素数2以上20以下のアルケニレン基、もしくはアミノ基で結合して得られる2価の基、
を表す。但し、ここで挙げた2価の芳香族炭化水素基、2価の縮合芳香族炭化水素基、2価の芳香族複素環基、及び2価の縮合芳香族複素環基は、置換基を有してもよい。
【0058】
前記一般式(A1)の化合物の具体例を以下に記すが、これらに限定されるものではない。
【0059】
【化11】

【0060】
また、下記一般式(A2)の芳香族アミン誘導体も、好ましい。
【0061】
【化12】

【0062】
前記一般式(A2)において、ArからArまでの定義は前記一般式(A1)のArからArまでの定義と同様である。以下に一般式(A2)の化合物の具体例を記すがこれらに限定されるものではない。
【0063】
【化13】

【0064】
・縮合多環化合物
縮合多環芳香族誘導体としては、へテロ環骨格を有しない縮合多環芳香族炭化水素が好ましく、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、クリセン、フルオランテン、トリフェニレン等の縮合多環芳香族炭化水素、もしくは、これらの誘導体が挙げられる。
【0065】
また、正孔注入層は、金属酸化物とアミン系化合物との混合物を用いることもできる。金属酸化物としては、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化バナジウム、酸化レニウム等が挙げられる。このとき、金属酸化物に対するアミン系化合物の混合比は、質量比で、好ましくは1:99から50:50であり、より好ましくは、10:90から20:80である。である。
【0066】
・カーボン層
正孔注入層は、アモルファス状態のカーボン層、又はフッ素置換されたカーボン層であることが好ましい。
これらのカーボン層は、反応性スパッタリングにより形成されていることが好ましい。
また、フッ素置換されたカーボン層は、プラズマ重合により形成さていることが好ましい。
これらのカーボン層を挿入することで正孔輸送層への正孔の注入が促進され、素子の低電圧化及び高効率化につながる。
【0067】
その他、正孔注入層には、ポルフィリン化合物、スチリルアミン化合物、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、ポリシラン系化合物、アニリン系共重合体、導電性高分子オリゴマー等を用いることができる。
【0068】
(第一発光ユニット、及び第二発光ユニット)
次に、第一発光ユニット、及び第二発光ユニットについて説明する。なお、第一発光ユニット、及び第二発光ユニットに関して共通の内容を説明する場合には、単に発光ユニットと称する場合がある。
発光ユニットは、それぞれ少なくとも1層の発光層を含む。
発光ユニットは、それぞれ単一の発光層から形成されていてもよいし、複数の発光層を積層して構成されていてもよい。
発光ユニットは、発光層以外に、正孔注入層、正孔輸送層、電子注入層、電子輸送層、障壁層などの公知の有機EL素子で採用される層が発光層を介して積層構成されていてもよい。
【0069】
(発光層)
発光層にはAlq等の公知の発光材料が用いられ、赤色、緑色、青色、黄色等の単色光を示す構成のものや、それらの組み合わせによる発光色、例えば、白色発光を示す構成のもの等が用いられる。第一発光ユニット、及び第二発光ユニットの発光層の発光色は、同じであっても、異なっていてもよい。さらに発光ユニットに使用される材料は蛍光発光型でもりん光発光型でも構わず、これらを組み合わせる場合でも発光ユニットの順序は蛍光/りん光でもりん光/蛍光でも構わない。
また、発光層には、一般的にドーピングシステムが採用されている。この場合、発光層は、ホスト材料とドーパント材料を含む有機層である。ホスト材料は、一般的に電子と正孔の再結合を促し、再結合により生じた励起エネルギーをドーパント材料に伝達させる。ドーパント材料としては、量子収率の高い化合物が好まれ、ホスト材料から励起エネルギーを受け取ったドーパント材料は、高い発光性能を示す。
【0070】
・ドーパント材料
ドーパント材料としては、公知のドーパント材料用の材料が用いられ、蛍光型発光を示すドーパント材料又は燐光型発光を示すドーパント材料から選ばれる。
蛍光型の発光を示すドーパント材料(以下、蛍光発光性ドーパント材料と称する場合がある。)としては、フルオランテン誘導体、ピレン誘導体、アリールアセチレン誘導体、フルオレン誘導体、硼素錯体、ペリレン誘導体、オキサジアゾール誘導体、アントラセン誘導体から選ばれる。好ましくは、フルオランテン誘導体、ピレン誘導体、硼素錯体が挙げられる。
燐光型の発光を示すドーパント材料(以下、燐光発光性ドーパント材料と称する場合がある。)は、金属錯体を含有するものが好ましい。該金属錯体としては、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、オスミウム(Os)、金(Au)、レニウム(Re)、及びルテニウム(Ru)から選択される金属原子と配位子とを有するものが好ましい。特に、配位子と金属原子とが、オルトメタル結合を形成していることが好ましい。
燐光発光性ドーパント材料としては、燐光量子収率が高く、発光素子の外部量子効率をより向上させることができるという点で、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)及び白金(Pt)から選ばれる金属を含有する化合物であると好ましく、イリジウム錯体、オスミウム錯体、白金錯体等の金属錯体であるとさらに好ましく、中でもイリジウム錯体及び白金錯体がより好ましく、オルトメタル化イリジウム錯体が最も好ましい。また、発光効率等の観点からフェニルキノリン、フェニルイソキノリン、フェニルピリジン、フェニルピリミジン、フェニルピラジン及びフェニルイミダゾールから選択される配位子から構成される有機金属錯体が好ましい。
【0071】
燐光発光性ドーパント材料の具体例を次に示すが、これらに限定されない。
【0072】
【化14】

【0073】
【化15】

【0074】
【化16】

【0075】
【化17】

【0076】
ドーパント材料は、単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0077】
・ホスト材料
ホスト材料としては、公知のホスト材料用の材料が用いられ、例えば、アミン誘導体、アジン誘導体、縮合多環芳香族誘導体などが挙げられる。
アミン誘導体としては、例えば、モノアミン化合物、ジアミン化合物、トリアミン化合物、テトラミン化合物、カルバゾール基で置換されたアミン化合物などが挙げられる。
アジン誘導体としては、例えば、モノアジン誘導体、ジアジン誘導体、及びトリアジン誘導体などが挙げられる。
縮合多環芳香族誘導体としては、へテロ環骨格を有しない縮合多環芳香族炭化水素が好ましく、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、クリセン、フルオランテン、トリフェニレン等の縮合多環芳香族炭化水素、もしくは、これらの誘導体が挙げられる。
また、発光層に燐光発光性ドーパント材料を含む場合には、具体例としては、カルバゾール誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、芳香族第三アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリデン系化合物、ポルフィリン系化合物、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレンペリレン等の複素環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、各種金属錯体、ポリシラン系化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)誘導体、アニリン系共重合体、導電性高分子オリゴマー、高分子化合物等が挙げられる。ここでの各種金属錯体としては、8−キノリノール誘導体の金属錯体や、メタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾールなどを配位子とする金属錯体などが挙げられる。ここでの導電性高分子オリゴマーとしては、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェンなどが挙げられる。ここでの高分子化合物としては、ポリチオフェン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体などが挙げられる。
ホスト材料は、単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0078】
第一発光ユニット、及び第二発光ユニットの各発光層が、互いに同じ発光型のドーパント材料を含んでもよい。すなわち、第一発光ユニットの発光層が、蛍光発光性ドーパント材料を含むなら、第二発光ユニットの発光層も、蛍光発光性ドーパント材料を含んでもよいし、第一発光ユニットの発光層が、燐光発光性ドーパント材料を含むなら、第二発光ユニットの発光層も、燐光発光性ドーパント材料を含んでもよい。
又は、第一発光ユニット、及び第二発光ユニットの各発光層が、互いに異なる発光型のドーパント材料を含んでもよい。すなわち、一方の発光層が蛍光発光性ドーパント材料を含み、他方の発光層が燐光発光性ドーパント材料を含んでもよい。
このドーパント材料の発光型の組合せについては、3つ以上の発光ユニットが積層される場合も、同様である。
【0079】
(正孔注入層、及び正孔輸送層)
中間ユニット内の正孔注入層は、上記のとおりであるが、発光ユニット内の正孔注入層は、主として、陽極から正孔を受け取り、発光層への正孔注入を助ける層である。正孔輸送層は、主として、陽極から注入された正孔を発光層へ輸送し、発光層への正孔注入を助ける層である。正孔注入層、及び正孔輸送層は、一般に、正孔移動度が大きい。ここで、正孔注入層及び正孔輸送層の両方を有する場合には、陽極側に正孔注入層が設けられていることが好ましい。
第一発光ユニットが正孔注入層、及び正孔輸送層の少なくともいずれかを有する場合、陽極と第一発光ユニットの発光層との間にこれらの層が設けられる。また、第二発光ユニットが正孔注入層、及び正孔輸送層の少なくともいずれかを有する場合、中間ユニット内の正孔注入層と第二発光ユニットの発光層との間にこれらの層が設けられる。
正孔注入層や正孔輸送層は、二層以上の層を積層して形成してもよいし、二種類以上の材料を混合して形成してもよい。
【0080】
正孔注入層や正孔輸送層には、上記中間ユニット内の正孔注入層で説明した化合物を用いることができる。
【0081】
(電子注入層、及び電子輸送層)
電子注入層は、主として、陰極から電子を受け取り、発光層への電子注入を助ける層である。電子輸送層は、主として、陰極から注入された電子を発光層へ輸送し、発光層への電子注入を助ける層である。電子輸送層、及び電子注入層は、一般的に電子移動度が大きい。電子注入層及び電子輸送層の両方を有する場合には、陰極側に電子注入層が設けられていることが好ましい。
発光ユニットが電子注入層、及び電子輸送層の少なくともいずれかを有する場合、第一発光ユニットにおいては、第一発光ユニットの発光層と中間ユニットの無機化合物含有層との間に設けられ、第二発光ユニットにおいては、第二発光ユニットの発光層と陰極との間に設けられる。中間ユニットに隣接する電子輸送層は、無機化合物含有層から供給された電子を発光層へ輸送する。電子注入層や電子輸送層は、二層以上の層を積層して形成してもよいし、二種類以上の材料を混合して形成してもよい。
【0082】
第一発光ユニットにおいては、第一発光ユニットの発光層と中間ユニットの無機化合物含有層との間に電子輸送層が設けられていることが好ましい。この電子輸送層は、中間ユニットの無機化合物含有層から注入された電子の発光層への輸送を助け、素子の駆動電圧低下、及び発光効率向上に寄与する。
【0083】
電子輸送層には、電子輸送性材料を用いることが好ましい。電子輸送性材料としては、含窒素環化合物が好ましく、例えば、国際公開第04/080975号、特開2007−153778号公報、特開2001−267080号公報に記載された化合物が挙げられる。他には、公知の電子輸送層及び電子注入層に用いられる材料が挙げられる。例えば、分子内にヘテロ原子を1個以上含有する芳香族ヘテロ環化合物が挙げられ、特に含窒素環誘導体が好ましい。そして、含窒素環誘導体としては、含窒素6員環もしくは5員環骨格を有する芳香族環、又は含窒素6員環もしくは5員環骨格を有する縮合芳香族環化合物が好ましい。また、含窒素環誘導体としては、含窒素環金属キレート錯体も好ましい。
【0084】
この含窒素環金属キレート錯体としては、例えば、下記一般式(B1)で表される化合物が好ましい。
【0085】
【化18】

【0086】
一般式(B1)におけるRからRまでは、独立に、
水素原子、
ハロゲン原子、
オキシ基、
アミノ基、
炭素数1以上40以下の炭化水素基、
アルコキシ基、
アリールオキシ基、
アルコキシカルボニル基、または、
芳香族複素環基であり、
これらは、相互に同じであっても異なってもよく、また、置換基を有してもよい。
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられる。また、置換されていてもよいアミノ基の例としては、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アラルキルアミノ基が挙げられる。
【0087】
アルコキシカルボニル基は−COOY’と表され、Y’の例としては前記アルキル基と同様のものが挙げられる。アルキルアミノ基及びアラルキルアミノ基は−NQと表される。Q及びQの具体例としては、独立に、前記アルキル基、前記アラルキル基(ルキル基の水素原子がアリール基で置換された基)で説明したものと同様のものが挙げられ、好ましい例も同様である。Q及びQの一方は水素原子であってもよい。なお、アラルキル基は、前記アルキル基の水素原子が前記アリール基で置換された基である。
アリールアミノ基は−NArArと表され、Ar及びArの具体例としては、それぞれ独立に前記非縮合芳香族炭化水素基及び縮合芳香族炭化水素基で説明した基と同様である。Ar及びArの一方は水素原子であってもよい。
【0088】
Mは、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)またはインジウム(In)であり、Inであると好ましい。
上記一般式(B1)のLは、下記一般式(B2)または(B3)で表される基である。
【0089】
【化19】

【0090】
前記一般式(B2)中、RからR12までは、水素原子、または炭素数1以上40以下の炭化水素基であり、相互に同じであっても異なってもよい。互いに隣接する基が環状構造を形成していてもよい。この炭化水素基は、置換基を有してもよい。
また、前記一般式(B3)中、R13からR27までは、水素原子、または炭素数1以上40以下の炭化水素基であり、相互に同じであっても異なってもよい。互いに隣接する基が環状構造を形成していてもよい。この炭化水素基は、置換基を有してもよい。
前記一般式(B2)及び一般式(B3)のRからR12まで、及びR13からR27までが示す炭素数1以上40以下の炭化水素基としては、前記一般式(B1)中のRからRまでの具体例と同様のものが挙げられる。
また、RからR12まで、及びR13からR27までの互いに隣接する基が環状構造を形成した場合の2価の基としては、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ジフェニルメタン−2,2’−ジイル基、ジフェニルエタン−3,3’−ジイル基、ジフェニルプロパン−4,4’−ジイル基などが挙げられる。
【0091】
また、含窒素環誘導体としては、下記一般式(B4)から(B6)までで表される化合物も好ましい。
【0092】
【化20】

【0093】
前記一般式(B4)から(B6)までの式中、Rは、
水素原子、
環形成炭素数6以上60以下の芳香族炭化水素基、
環形成炭素数6以上60以下の縮合芳香族炭化水素基、
ピリジル基、
キノリル基、
炭素数1以上20以下のアルキル基、または
炭素数1以上20以下のアルコキシ基である。
nは0以上4以下の整数である。
【0094】
前記一般式(B4)から(B6)までの式中、Rは、
環形成炭素数6以上60以下の芳香族炭化水素基
環形成炭素数6以上60以下の縮合芳香族炭化水素基、
ピリジル基、
キノリル基、
炭素数1以上20以下のアルキル基、または
炭素数1以上20以下のアルコキシ基である。
【0095】
前記一般式(B4)から(B6)までの式中、R及びRは、
水素原子、
環形成炭素数6以上60以下の芳香族炭化水素基
環形成炭素数6以上60以下の縮合芳香族炭化水素基、
ピリジル基、
キノリル基、
炭素数1以上20以下のアルキル基、または
炭素数1以上20以下のアルコキシ基であり、相互に同じであっても異なってもよい。
【0096】
前記一般式(B4)から(B6)までの式中、Lは、
環形成炭素数6以上60以下の芳香族炭化水素基
環形成炭素数6以上60以下の縮合芳香族炭化水素基、
ピリジニレン基、
キノリニレン基、または
フルオレニレン基である。
【0097】
前記一般式(B4)から(B6)までの式中、Arは、
環形成炭素数6以上60以下の芳香族炭化水素基
環形成炭素数6以上60以下の縮合芳香族炭化水素基、
ピリジニレン基、
キノリニレン基である。
【0098】
前記一般式(B4)から(B6)までの式中、Arは、
環形成炭素数6以上60以下の芳香族炭化水素基
環形成炭素数6以上60以下の縮合芳香族炭化水素基、
ピリジル基、
キノリル基、
炭素数1以上20以下のアルキル基、または
炭素数1以上20以下のアルコキシ基である。
【0099】
前記一般式(B4)から(B6)までの式中、Arは、
環形成炭素数6以上60以下の芳香族炭化水素基
環形成炭素数6以上60以下の縮合芳香族炭化水素基、
ピリジル基、
キノリル基、
炭素数1以上20以下のアルキル基、
炭素数1以上20以下のアルコキシ基、または
「−Ar−Ar」で表される基(Ar及びArは、それぞれ前記と同じ)である。
【0100】
また、前記一般式(B4)から(B6)までの式中のR、R、R、R、L、Ar、Ar、及びArの説明で挙げた縮合芳香族炭化水素基、縮合芳香族炭化水素基、ピリジル基、キノリル基、アルキル基、アルコキシ基、ピリジニレン基、キノリニレン基、フルオレニレン基は、置換基を有してもよい。
【0101】
電子輸送層には、還元性の物質が含まれていてもよい。還元性の物質としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、アルカリ金属錯体、アルカリ土類金属錯体、希土類金属錯体、ハロゲン化アルカリ金属、ハロゲン化アルカリ土類金属、ハロゲン化希土類金属等が挙げられる。すなわち、電子輸送層が、電子輸送性材料と還元性の物質とが混合された層、いわゆるNドープ層、であってもよい。
【0102】
電子注入層には、上述した電子輸送性材料や電子供与性材料を用いることが好ましい。また、電子注入層には、電子輸送性材料と電子供与性材料とを混合して用いることもできる。ここで、電子供与性材料は、電子注入層に含まれる別の有機材料、例えば、電子輸送性材料、もしくは電子注入層に隣接する層を構成する有機材料と相互作用し、ラジカルアニオンを生じさせる材料、又は電子供与性ラジカルを有する材料である。
電子供与性材料としては、具体的には、アルカリ金属、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属化合物、又は有機電子供与性化合物が挙げられる。
アルカリ金属としては、Li、Na、K、Rb、Csが挙げられる。
アルカリ金属化合物としては、酸化リチウム(LiO)等のアルカリ金属酸化物、炭酸リチウム(LiCO)等のアルカリ金属炭酸化物が挙げられる。
アルカリ土類金属としては、Ca、M緑色、Ba、Srが挙げられる。
アルカリ土類金属化合物としては、酸化カルシウム(CaO)等のアルカリ土類金属酸化物、炭酸カルシウム(CaCO)等のアルカリ土類金属炭酸化物等や、中間層に用いるフッ化カルシウム(CaF2)も同様に用いられる。
有機電子供与性化合物としては、リチウムキノリノラート(Liq)などのアルカリ金属を含む有機金属錯体や、特開2007−314513号公報、特表2009−530836号公報、特開2007−273978号公報、特表2010−510645号公報、特表2010−510179号公報に記載された化合物が挙げられる。
【0103】
(基板)
本発明の有機EL素子は、透光性の基板上に作製する。この透光性基板は、有機EL素子を構成する陽極、有機化合物層、陰極等を支持する基板であり、400nm以上700nm以下の可視領域の光の透過率が50%以上で平滑な基板が好ましい。
透光性基板としては、ガラス板やポリマー板などが挙げられる。
ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英などを原料として用いてなるものを挙げられる。
またポリマー板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォンなどを原料として用いてなるものを挙げることができる。
【0104】
(陽極及び陰極)
有機EL素子の陽極は、正孔を発光層に注入する役割を担うものであり、4.5eV以上の仕事関数を有することが効果的である。
陽極材料の具体例としては、酸化インジウム錫合金(ITO)、酸化錫(NESA)、酸化インジウム亜鉛酸化物、金、銀、白金、銅などが挙げられる。
発光層からの発光を陽極側から取り出す場合、陽極の可視領域の光の透過率を10%より大きくすることが好ましい。また、陽極のシート抵抗は、数百Ω/□(Ω/sq。オーム・パー・スクウェア。)以下が好ましい。陽極の厚さ寸法は、材料にもよるが、通常10nm以上1μm以下、好ましくは10nm以上200nm以下の範囲で選択される。
【0105】
陰極としては、発光層に電子を注入する目的で、仕事関数の小さい材料が好ましい。
陰極材料は特に限定されないが、具体的にはインジウム、アルミニウム、マグネシウム、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、アルミニウム−リチウム合金、アルミニウム−スカンジウム−リチウム合金、マグネシウム−銀合金などが使用できる。
陰極も、陽極と同様に、蒸着法などの方法で、例えば、電子輸送層や電子注入層上に薄膜を形成できる。また、陰極側から、発光層からの発光を取り出す態様を採用することもできる。発光層からの発光を陰極側から取り出す場合、陰極の可視領域の光の透過率を10%より大きくすることが好ましい。
陰極のシート抵抗は、数百Ω/□以下が好ましい。
陰極の厚さ寸法は、材料にもよるが、通常10nm以上1μm以下、好ましくは50nm以上200nm以下の範囲で選択される。
【0106】
本発明の有機EL素子の各有機層の膜厚は、上記で特に言及した以外には制限されないが、一般に膜厚が薄すぎるとピンホール等の欠陥が生じやすく、逆に厚すぎると高い印加電圧が必要となり効率が悪くなるため、通常は数nmから1μmの範囲が好ましい。
【0107】
(有機EL素子の製造方法)
本発明の有機EL素子の製造において、中間ユニットの金属層は、抵抗加熱蒸着法、あるいは電子ビーム蒸着法で形成されることが好ましい。まず、基板上に、陽極、及び第一発光ユニットの各層を順次形成する。次に、第一発光ユニットの上に、無機化合物含有層を形成し、この無機化合物含有層上に、金属層を蒸着法で形成する。金属層を複数の金属で構成する場合には、共蒸着法で行う。金属層の形成後は、第二発光ユニットの各層、及び陰極を形成する。この後、さらに基板上の各層を封止部材で封止するのが好ましい。
その他、無機化合物含有層、陽極、陰極、並びに発光ユニットの各層の形成方法については、特に制限はなく、従来の有機EL素子に使用される方法を用いて形成できる。具体的には、基板上に各層を蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、キャスト法、塗布法、スピンコート法、ディッピング法、インクジェット法等により形成することができる。
また、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリアリレート、ポリエステル等の透明ポリマーに、各層の有機材料を分散させた溶液を用いたキャスト法、塗布法、スピンコート法の他、有機材料と透明ポリマーとの同時蒸着等によっても形成することができる。
【0108】
〔第二実施形態〕
次に、第二実施形態について説明する。
第二実施形態の説明において第一実施形態と同一の構成要素は、同一符号や名称を付す等して説明を省略もしくは簡略にする。また、第二実施形態では、第一実施形態で説明したものと同様の材料や化合物を用いることができる。
第二実施形態に係る有機EL素子2は、図2に示すように、発光ユニットを3つ備えると共に、中間ユニットを2つ備える構成である。
有機EL素子2は、基板11上に、陽極12、第一発光ユニット13、第一中間ユニット14A、第二発光ユニット21、第二中間ユニット14B、第三発光ユニット22、及び陰極16がこの順に積層されて構成される。
第二実施形態における第一中間ユニット14A、及び第二中間ユニット14Bは、どちらも第一実施形態と同様に無機化合物含有層と金属層と正孔注入層とを備える。第一中間ユニット14Aは、第一発光ユニット13へ電子を注入すると共に、第二発光ユニット21へ正孔を注入する。第二中間ユニット14Bは、第二発光ユニット21へ電子を注入すると共に、第三発光ユニット22へ正孔を注入する。
第二実施形態における第一発光ユニット13は、基本的に第一実施形態で説明したものと同様である。
第二発光ユニット21は、第一実施形態の場合と異なり、第一発光ユニット13と同様の構成となっており、第一中間ユニット14A側から順に、次のように構成されている。
・第二発光ユニット21:正孔輸送層211
発光層212
電子輸送層213
第三発光ユニット22は、第二中間ユニット14B側から順に、次のように構成されている。
・第三発光ユニット22:正孔輸送層221
発光層222
電子輸送層223
電子注入層224
【0109】
第二実施形態の有機EL素子2では、第一実施形態の有機EL素子1よりも、発光ユニット、及び中間ユニットがそれぞれ1つずつ多く積層されているため、有機EL素子2の発光効率は、有機EL素子1と比べて高くなる。
【0110】
〔第三実施形態〕
次に、第三実施形態について説明する。
第三実施形態の説明において第一実施形態と同一の構成要素は、同一の名称を付す等して説明を省略もしくは簡略にする。また、第三実施形態では、第一実施形態で説明したものと同様の材料や化合物を用いることができる。
第三実施形態に係る有機EL素子3は、赤(R)、緑(G)、及び青(B)の3原色(RGB)での発光が可能な素子として構成され、図3に示すように、共通の基板31上に、赤色画素としての赤色発光素子3R、緑色画素としての緑色発光素子3G、及び青色画素としての青色発光素子3Bが形成されている。
有機EL素子3は、基板31上に、陽極32、第一発光ユニット33、中間ユニット34、第二発光ユニット35、及び陰極36がこの順に積層されて構成される。第一発光ユニット33、及び第二発光ユニット35は、後述するRGBの各色で発光可能な発光層を備える。当該発光層以外の層については、赤色発光素子3R、緑色発光素子3G、及び青色発光素子3Bで共通化が図られている。
【0111】
第一発光ユニット33は、陽極32側から順に、正孔注入層331、正孔輸送層332、発光層(赤色発光層333R,緑色発光層333G,青色発光層333B)、及び電子輸送層334が積層されて構成されている。
赤色発光層333R,緑色発光層333G,及び青色発光層333Bは、それぞれ区分けされて、正孔輸送層332上に形成されている。これら各色発光層333R,333G,333Bは、それぞれ、赤色、緑色、及び青色で発光可能なように、第一実施形態で説明した材料から適宜選択されて形成されている。
電子輸送層334は、発光層(赤色発光層333R,緑色発光層333G,青色発光層333B)上に形成されている。
このように、正孔注入層331、正孔輸送層332、及び電子輸送層334は、赤色発光層333R、緑色発光層333G、及び青色発光層333Bに対して共通化が図られている。
【0112】
中間ユニット34は、第一発光ユニット33と第二発光ユニット35との間に設けられ、中間ユニット34が赤色発光素子3R、緑色発光素子3G、及び青色発光素子3Bに対して共通化が図られている。そして、中間ユニット34は、無機化合物含有層341と、金属層342と、正孔注入層343とを備え、第一実施形態で説明したものと同様の材料で形成されている。
【0113】
第二発光ユニット35は、陽極32側から順に、正孔輸送層351、発光層(赤色発光層352R、緑色発光層352G、青色発光層352B)、電子輸送層353、及び電子注入層354が積層されて構成される。
正孔輸送層351は、中間ユニット34内の正孔注入層343上に形成されている。赤色発光層352R、緑色発光層352G、青色発光層352Bは、それぞれ区分けされて、正孔輸送層351上に形成されている。これら各色発光層352R、352G、352Bは、それぞれ、赤色、緑色、及び青色で発光可能なように、第一実施形態で説明した材料から適宜選択されて形成される。さらに、第二発光ユニット35の各色発光層352R、352G、352Bは、第一発光ユニット33中の各色発光層333R、333G、333Bの位置と対応する位置に形成されている。例えば、図3に示すように、有機EL素子3を基板31の厚み方向の断面で見た場合に、各色発光層は、上下で重なる位置に形成されている。
電子輸送層353は、発光層(各色発光層352R,352G,352B)上に形成されている。
電子注入層355は、電子輸送層354上に形成されている。
このように、正孔輸送層351、電子輸送層353、及び電子注入層354は、赤色発光層352R、緑色発光層352G、及び青色発光層352Bに対して共通化が図られている。
【0114】
以上より、赤色画素としての赤色発光素子3Rの構成は、次の通りとなる。
基板31/陽極32/正孔注入層331/正孔輸送層332/赤色発光層333R/電子輸送層334/中間ユニット34(無機化合物含有層341/金属層342/正孔注入層343)/正孔輸送層351/赤色発光層352R/電子輸送層353/電子注入層354/陰極36
また、緑色画素としての緑色発光素子3G、及び青色画素としての青色発光素子3Bについては、赤色発光素子3Rの赤色発光層333R,352Rを、それぞれ、緑色発光層333G,352G、及び青色発光層333B,352Bに変更した構成となる。
【0115】
このように、有機EL素子3は、有機EL素子3の各色発光素子3R,3G,3Bを備えると共に、第一実施形態で説明したものと同様の構成、及び材料が用いられる中間ユニット34を備える。そのため、当該各色発光素子3R,3G,3Bを、高効率で発光させることができる。このような、高発光効率、かつ、カラー表示可能な有機EL素子3は、カラーディスプレイや照明パネル用の発光素子として、特に有用である。
【0116】
有機EL素子3において、各色発光層333R,333G,333B,352R,352G,352Bを区分けして形成する方法としては、例えば、マスク蒸着法、塗布法(インクジェット法)、転写法等が挙げられる。その他の層については、第一実施形態で説明した方法で形成される。
【0117】
〔実施形態の変形〕
なお、本発明は、上記の説明に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変更は本発明に含まれる。
前記実施形態では、2つ、又は3つの発光ユニットを積層させた構成の有機EL素子を示したが、これに限られない。4つ以上の発光ユニットを積層させても良く、この場合は、各発光ユニット間に中間ユニットを設ける。なお、発光ユニットの数は、光の干渉制御の容易さという観点から、好ましくは2〜4であり、より好ましくは、2又は3である。
【0118】
また、第三実施形態では、RGBの各発光層を発光ユニット内で区分けした構造の有機EL素子として説明したが、このような方式に限られない。例えば、発光ユニット33,35の発光層の発光色を適宜混合させて白色とし、別途、RGBカラーフィルターを有機EL素子3に組み合わせて、RGB発光可能な有機EL素子としてもよい。
【実施例】
【0119】
(実施例1)
25mm×75mm×1.1mm厚のITO透明電極付きガラス基板(旭硝子製)をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行なった後、UVオゾン洗浄を30分間行なった。洗浄後の透明電極ライン付きガラス基板を蒸着装置の基板ホルダーに装着し、まず透明電極ラインが形成されている側の面上に、前記透明電極を覆うようにして、膜厚5nmで化合物HI−1を抵抗加熱蒸着により成膜した。次いで、膜厚45nmで化合物HI−2を抵抗加熱蒸着により成膜した。これらHI−1、及びHI−2で構成された膜を第一発光ユニットの正孔注入層とした。
次に、この第一発光ユニットの正孔注入層上に、膜厚45nmで正孔輸送性化合物HTを抵抗加熱蒸着により成膜した。このHTで構成された膜を、第一発光ユニットの正孔輸送層とした。
さらに、この第一発光ユニットの正孔輸送層上に膜厚30nmでホスト材料として化合物BH、及びドーパント材料として化合物BDを抵抗加熱蒸着により共蒸着膜として成膜した。化合物BDの濃度は、5質量%とした。この共蒸着膜を第一発光ユニットの発光層とした。
そして、この第一発光ユニットの発光層上に膜厚5nmで電子輸送性化合物ET−1を抵抗加熱蒸着により成膜し、次いで、膜厚20nmで電子輸送性化合物ET−2を抵抗加熱蒸着により成膜した。これらET−1、及びET−2で構成された膜を第一発光ユニットの電子輸送層とした。
これら正孔注入層、正孔輸送層、発光層、及び電子輸送層で構成されるユニットを第一発光ユニットとした。
【0120】
この後、カルシウムハロゲン化物層として、第一発光ユニットの電子輸送層上に膜厚1nmでフッ化カルシウム(CaF)を抵抗加熱蒸着により成膜した。次に、金属層として、膜厚3nmでアルミニウムを抵抗加熱蒸着により成膜した。さらに、アルミニウム上に膜厚5nmで化合物HI−1を抵抗加熱蒸着により成膜し、正孔注入層とした。これら無機化合物含有層、金属層及び正孔注入層で構成されるユニットを中間ユニットとした。
【0121】
さらに、膜厚35nmで化合物HI−2を抵抗加熱蒸着により成膜した。HI−2で構成された膜を第二発光ユニットの正孔注入層とした。
この第二発光ユニットの正孔注入層の上に膜厚45nmで、化合物HTを抵抗加熱蒸着により成膜した。このHT膜を第二発光ユニットの正孔輸送層とした。
次いで、第二発光ユニットの正孔輸送層上に膜厚30nmで、ホスト材料として化合物BH、及びドーパント材料として化合物GDを抵抗加熱蒸着により共蒸着膜として成膜した。化合物GDの濃度は、10質量%とした。この共蒸着膜を第二発光ユニットの発光層とした。
そして、この第二発光ユニットの発光層上に膜厚5nmで電子輸送性化合物ET−1を抵抗加熱蒸着により成膜し、次いで、膜厚20nmで電子輸送性化合物ET−2を抵抗加熱蒸着により成膜した。これらET−1、及びET−2で構成された膜を第二発光ユニットの電子輸送層とした。
さらに、この第二発光ユニットの電子輸送層上に膜厚1nmで、電子注入層としてフッ化カルシウムを抵抗加熱蒸着により成膜した。
これら中間ユニットの上に成膜した正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、及び電子注入層で構成されるユニットを第二発光ユニットとした。
最後に、第二発光ユニットの電子注入層上に、膜厚100nmで金属アルミニウム(Al)を抵抗加熱蒸着により成膜し、陰極を形成した。
以上のような方法で、タンデム型の有機EL素子を作製した。
実施例1で用いた化合物、及び後述する実施例、比較例で用いた化合物の化学式を次に示す。
【0122】
【化21】

【0123】
【化22】

【0124】
(実施例2)
中間ユニットに用いる金属層をアルミニウムからマグネシウム・銀合金とした以外は、実施例1と同様にタンデム型の有機EL素子を作製した。マグネシウム、及び銀は、抵抗加熱法により共蒸着した。それぞれの金属の混合比は、質量比で1:1とした。
【0125】
(実施例3)
第一発光ユニット、及び第二発光ユニットの電子輸送層を5nmのET−1、15nmのET−2、及び5nmのET−2:Liq混合膜の3層構造とした以外は実施例1と同様に有機EL素子を作製した。ET−2:Liq混合膜は、抵抗加熱法により共蒸着し、混合比は、質量比で1:1とした。
【0126】
(実施例4)
第一発光ユニット、及び第二発光ユニットの電子輸送層を5nmのET−1、15nmのET−2、及び5nmのET−2:Liq混合膜の3層構造とした以外は実施例2と同様に有機EL素子を作製した。ET−2:Liq混合膜は、抵抗加熱法により共蒸着し、混合比は質量比で1:1とした。
【0127】
(実施例5)
第一発光ユニット、及び第二発光ユニットの正孔注入層のHI−1を5nmのアモルファスカーボン膜とした以外は、実施例1と同様に有機EL素子を作製した。アモルファスカーボン膜は、窒素/アルゴン混合ガス(N:2.5体積%)中、圧力を3mTorrとし、カーボンターゲットを用いてDCマグネトロンスパッタすることで成膜した。
【0128】
(比較例1)
中間層のフッ化カルシウムを挿入しない以外は実施例2と同様に素子を作製した。
【0129】
(比較例2)
中間層のフッ化カルシウムの代わりにフッ化リチウム(LiF)を用いた以外は実施例1と同様に素子を作製した。
【0130】
(参考例1)
25mm×75mm×1.1mm厚のITO透明電極付きガラス基板(旭硝子製)をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行なった後、UVオゾン洗浄を30分間行なった。洗浄後の透明電極ライン付きガラス基板を蒸着装置の基板ホルダーに装着し、まず透明電極ラインが形成されている側の面上に、前記透明電極を覆うようにして、膜厚5nmで化合物HI−1を抵抗加熱蒸着により成膜した。次いで、膜厚45nmで化合物HI−2を抵抗加熱蒸着により順に成膜した。これらHI−1、HI−2で構成された膜を正孔注入層とした。
次に、この陽極に隣接する正孔注入層上に膜厚45nmで正孔輸送性化合物HTを抵抗加熱蒸着により成膜した。このHT膜を正孔輸送層とした。
さらに、この正孔輸送層上に膜厚30nmでホスト材料として化合物BH、及びドーパント材料として化合物BDを抵抗加熱蒸着により共蒸着膜として成膜した。化合物BDの濃度は、5質量%であった。この共蒸着膜を発光層とした。
そして、この発光層上に膜厚5nmで電子輸送性化合物ET−1を抵抗加熱蒸着により成膜し、次いで、膜厚20nmで電子輸送性化合物ET−2を抵抗加熱蒸着により成膜した。これらET−1、及びET−2で構成された膜を電子輸送層とした。
さらに、この電子輸送層上に膜厚1nmで電子注入層としてフッ化カルシウムを成膜した。
次に、この電子注入層上に、膜厚100nmで金属アルミニウム(Al)を抵抗加熱蒸着により成膜し、陰極を形成した。
つまり、参考例1においては、実施例1の第一発光ユニットから、中間ユニット、並びに第二発光ユニットの正孔注入層、正孔輸送層、発光層、及び電子輸送層を除いた構成の単ユニット型の有機EL素子を作製した。
【0131】
(参考例2)
電子注入層のフッ化カルシウムの代わりにフッ化リチウムを用いた以外は参考例1と同様に素子を作製した。
【0132】
(有機EL素子の評価)
作製した有機EL素子について、駆動電圧、CIE1931色度、電流効率L/J、及び外部量子効率EQEの評価を行った。各評価は、次のようにして行った。
結果を表1に示す。
【0133】
・駆動電圧
電流密度が10.00mA/cmとなるようにITOとAlとの間に通電したときの電圧(単位:V)を計測した。
【0134】
・CIE1931色度
電流密度が10.00mA/cmとなるように素子に電圧を印加した時のCIE1931色度座標(x、y)を分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタ社製)で計測した。
【0135】
・電流効率L/J
電流密度が10.00mA/cmとなるように素子に電圧を印加した時の分光放射輝度スペクトルを上記分光放射輝度計で計測し、得られた分光放射輝度スペクトルから、電流効率(単位:cd/A)を算出した。
【0136】
・外部量子効率EQE
電流値が10.00mA/cmとなるように素子に電圧を印加し、そのときの分光放射輝度発光スペクトルを上記分光放射輝度計にて計測した。得られた分光放射輝度スペクトルから、ランバシアン放射を行なったと仮定し外部量子効率EQE(単位:%)を算出した。
【0137】
【表1】

【0138】
表1に示されているように、実施例1〜5の有機EL素子は、比較例1〜2と比較して、駆動電圧、電流効率、及び外部量子効率において優れていた。これは、中間ユニットを、第一発光ユニット側から順に無機化合物含有層と金属層とを積層させた構成としたため、正孔及び電子を中間ユニットに隣接する発光ユニットへ効率的に供給できるようになり、発光効率が向上したためである。
一方、比較例1の有機EL素子は、実施例1〜5と比較して、駆動電圧が高く、電流効率、及び外部量子効率が低かった。さらにCIE−x、及びCIE−yにおいていずれの値も増加していた。これは、カルシウムハロゲン化物層としてのフッ化カルシウムを挿入しないと、電子が第一発光ユニットへ注入がされ難くなり、駆動電圧上昇、電流効率、及び外部量子効率の低下と共に、第一発光ユニットの青色発光が相対的に弱くなったためである。
比較例2の有機EL素子では、フッ化カルシウムの代わりに電子注入層として一般的に用いられるフッ化リチウムを挿入したところ、駆動電圧が大きく上昇し、計測が困難であった。これは、次のように説明される。アルカリ金属化合物層上やアルカリ土類金属化合物層上に金属層を蒸着することで、これらのアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物が熱還元作用を受ける。しかしながら、その熱還元作用には、効果の差があり、フッ化カルシウムよりフッ化リチウムのほうが還元され難い。そのため、膜厚が3nmと薄いアルミニウム金属層ではフッ化リチウムを還元仕切れなかったと考えられる。これは、表1に示す参考例として単ユニットの有機EL素子(複数の発光ユニットを備えていない有機EL素子)の評価結果のとおり、陰極に膜厚が100nmと厚いアルミニウム金属層を用いた場合は、電子注入層にフッ化カルシウムを用いた素子、及び電子注入層にフッ化リチウムを用いた素子のいずれもが低電圧で発光することからも明らかである。
参考例1の有機EL素子は、電子注入層としてフッ化カルシウムを使用した単一発光ユニットの例である。一方の参考例2の有機EL素子は、電子注入層としてフッ化リチウムを使用した単一発光ユニットの例である。どちらの場合も、陰極からの電子注入が良好にされており、有機EL素子として良好な性能を示す。
これらのことから、タンデム型の有機EL素子においては、カルシウムハロゲン化物と金属層とを積層した中間ユニットを用いることで、第一発光ユニットへの電子の注入、及び第二発光ユニットへの正孔の注入が効率よく行われ、当該有機EL素子が、低い駆動電圧で駆動し、かつ高効率で発光することが分かった。すなわち、このような中間ユニットの構成がタンデム型の有機EL素子において有効であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明は、駆動電圧が低く、高効率で発光可能なタンデム型の有機EL素子として、表示装置や照明装置等に用いることができる。
【符号の説明】
【0140】
1,2,3…有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)
12…陽極
13,33…第一発光ユニット
14,34…中間ユニット
15,21,35…第二発光ユニット
16…陰極
143,343…正孔注入層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する陽極と陰極との間に、少なくとも第一発光ユニット、第二発光ユニットを有するタンデム型の有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記第一発光ユニットと前記第二発光ユニットとの間には、中間ユニットが設けられ、
前記中間ユニットは、陽極側から順に、無機化合物含有層と金属層とを積層して含み、
前記無機化合物含有層は、カルシウムハロゲン化物を含む
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記第二発光ユニットが、前記中間ユニットの前記陰極側に隣接して設けられ、
前記中間ユニットは、前記金属層と前記第二発光ユニットとの間に正孔注入層をさらに含み、
前記正孔注入層は、前記金属層、及び前記第二発光ユニットに隣接し、
前記正孔注入層は、電子受容基を有する有機化合物を含む
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記正孔注入層は、アモルファス状態のカーボン層、及びフッ素置換されたカーボン層の少なくともいずれかである
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記カーボン層は、反応性スパッタリングにより形成されている
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記フッ素置換されたカーボン層は、プラズマ重合により形成さている
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記金属層は、前記無機化合物含有層を真空中で熱還元しうる金属で構成される
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記金属層は、アルミニウム、マグネシウム、及びそれらを含む合金から選ばれる金属からなる
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記金属層は、前記無機化合物含有層上に蒸着法で形成されている
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−195054(P2012−195054A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55866(P2011−55866)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】