説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】発光効率が高い有機エレクトロルミネッセンス素子を提供すること。
【解決手段】陽極2、主として第1有機材料により構成される第1有機層4、主として第2有機材料により構成される第2有機層5、陰極7をこの順に積層した構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子において、第1有機層4と第2有機層5のうちの少なくとも一方に発光材料を含み、以下の式(A)および式(B)を満たすことを特徴とする。式(A)T1(第1)−T1(発光)>0.19eV、式(B)T1(第2)−T1(発光)>0.24eV(T1(第1)、T1(第2)、T1(発光)は、それぞれ第1有機材料、第2有機材料、発光材料の77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い発光効率を有する有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)の発光効率を高める研究が盛んに行われている。これまでにも、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する電子輸送材料、ホール輸送材料、発光材料などを新たに開発して組み合わせることにより、発光効率を高める工夫が種々なされてきている。なかでも、リン光材料は励起三重項状態を使用することができ、量子効率が高いことから発光材料として注目を集めている。しかしながら、リン光材料には、トリプレット−トリプレット失活を起こしやすいという共通の課題があるため、そのような失活を抑えるための様々な検討がなされている(非特許文献1参照)。
【0003】
例えば、トリフェニルホスフィンオキサイド構造を含む化合物は、従来のカルバゾール系化合物に比べて最低励起三重項エネルギー準位が高いことから、発光材料のホスト材料として注目されている。例えば特許文献1には、最低励起三重項エネルギー準位が2.65eV以上である化合物を選択して用いることにより発光効率を改善することが記載されている。特許文献1には、下記の構造を有する化合物に発光材料をドープした層を4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(NPB)層に積層した構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子が記載されている。
【化1】

【0004】
非特許文献2には、下記のトリフェニルホスフィンオキサイド構造を含む化合物にイリジウム(III)ビス(4,6−ジフルオロフェニル)ピリジナト−N,C2)ピコリナート(Flrpic)をドープした発光層に4,4’,4”−トリス(カルバゾール−9−イル)トリフェニルアミン(TCTA)からなるホール輸送層を積層した構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子が記載されている。この文献には、希薄溶液で測定したリン光スペクトルが掲載されている。
【化2】

【0005】
非特許文献3には、下記のトリフェニルホスフィンオキサイド構造を含む化合物からなる層に、9−(3−(9H−カルバゾール−9−イル)フェニル)−3−(ジブロモフェニルホスホリル)−9H−カルバゾール(mCPPO1)にビス(3,5−ジフルオロ−4−シアノフェニル)ピリジン)イリジウムピコリナート(FCNIrpic)をドープした発光層を積層した構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子が記載されている。この文献には、このような構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子によれば、高い発光効率を達成しうることが記載されている。
【化3】

【0006】
非特許文献4には、下記のトリフェニルホスフィンオキサイド構造を含む化合物にイリジウム(III)ビス(4,6−ジフルオロフェニル)ピリジナト−N,C2)ピコリナート(Flrpic)をドープした発光層に、4,4’,4”−トリス(カルバゾール−9−イル)トリフェニルアミン(TCTA)からなるホール輸送層を積層した構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子が記載されている。この文献には、このような構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子によれば、高い発光効率を達成しうることが記載されている。
【化4】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2006/130353号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】L.Xiao, Adv. Mater. 2011, 23, 926-952
【非特許文献2】P.A.Vecchi et.al., Organic Letters, 2006, Vol.8, No.19, 4211-4214
【非特許文献3】S.O.Jeon, Adv. Mater. 2011, XX, 1-6
【非特許文献4】C. Han, Chem. Eur. J. 2011, 17, 5800-5803
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1や非特許文献2の記載にしたがってトリフェニルホスフィンオキサイド構造を含む化合物を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子を製造しても、十分な発光効率を達成することはできない。また、非特許文献3および非特許文献4には高い発光効率を達成しうることが記載されているが、高い発光効率を達成するために各材料が満たすべき一般的な条件については記載されていない。このため、これまでの研究では、いかなる条件がそろえば高い発光効率を達成することができるのかを一般化するに至っていない。そこで、本発明者らは、高い発光効率を達成するために必要な材料の条件を一般化し、有用な有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを課題として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために鋭意検討を進めた結果、本発明者らは、有機エレクトロルミネッセンス素子内にて隣接する2つの有機層を構成する各有機材料の最低励起三重項エネルギー準位とドーパントとして添加する発光材料の最低励起三重項エネルギー準位が、一定の関係を満たすときに高い発光効率を達成することを見出した。本発明者らは、この知見に基づいて、上記の課題を解決する手段として、以下の本発明を提供するに至った。
【0011】
[1] 陽極、主として第1有機材料により構成される第1有機層、主として第2有機材料により構成される第2有機層、陰極をこの順に積層した構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記第1有機層と前記第2有機層のうちの少なくとも一方に発光材料を含み、以下の式(A)および式(B)を満たすことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
式(A) T1(第1) − T1(発光) > 0.19eV
式(B) T1(第2) − T1(発光) > 0.24eV
(上式において、T1(第1)は前記第1有機材料の77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位を表し、T1(第2)は前記第2有機材料の77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位を表し、T1(発光)は前記発光材料の77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位を表す。)
[2] 前記第1有機材料の77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位が2.80eV以上であることを特徴とする[1]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[3] 前記第2有機材料の77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位が2.95eV以上であることを特徴とする[1]または[2]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[4] 前記発光材料が第1有機層のみに含まれていることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[5] 前記第2有機層の厚みが40nm以上であることを特徴とする[4]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[6] 前記発光材料が第2有機層のみに含まれていることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[7] 前記第1有機層の厚みが30nm以上であることを特徴とする[6]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[8] 前記発光材料が第1有機層と第2有機層の両方に含まれていることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[9] 前記発光材料がリン光発光材料であることを特徴とする[1]〜[8]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[10] 前記発光材料が熱活性化型遅延蛍光材料であることを特徴とする[1]〜[8]のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[11] 前記発光材料がエキサイプレックス型発光材料であることを特徴とする[1]〜[8]のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[12] 前記発光材料がCu錯体であることを特徴とする[1]〜[8]のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
[13] 陽極、主として第1有機材料により構成される第1有機層、主として第2有機材料により構成される第2有機層、陰極をこの順に積層した構造を有しており、前記第1有機層と前記第2有機層のうちの少なくとも一方に発光材料を含む有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、以下の式(A)および式(B)を満たすように前記第1有機層、前記第2有機層および発光材料を選択する工程を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
式(A) T1(第1) − T1(発光) > 0.19eV
式(B) T1(第2) − T1(発光) > 0.24eV
(上式において、T1(第1)は前記第1有機材料の77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位を表し、T1(第2)は前記第2有機材料の77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位を表し、T1(発光)は前記発光材料の77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位を表す。)
[14] 陽極、主として第1有機材料により構成される第1有機層、主として第2有機材料により構成される第2有機層、陰極をこの順に積層した構造を有しており、前記第1有機層と前記第2有機層のうちの少なくとも一方に発光材料を含む有機エレクトロルミネッセンス素子の量子効率を向上させる方法であって、以下の式(A)および式(B)を満たすように前記第1有機層、前記第2有機層および発光材料を選択することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の量子効率を向上させる方法。
式(A) T1(第1) − T1(発光) > 0.19eV
式(B) T1(第2) − T1(発光) > 0.24eV
(上式において、T1(第1)は前記第1有機材料の77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位を表し、T1(第2)は前記第2有機材料の77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位を表し、T1(発光)は前記発光材料の77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位を表す。)
[15] 式(B)におけるT1(第2)−T1(発光)がより大きくなるように前記第2有機層および発光材料を選択することを特徴とする[14]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の量子効率を向上させる方法。
[16] 式(A)におけるT1(第1)−T1(発光)がより大きくなり、かつ式(B)におけるT1(第2)−T1(発光)がより大きくなるように、前記第1有機層、前記第2有機層および発光材料を選択することを特徴とする[15]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の量子効率を向上させる方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、特定の条件を満たす2種類の有機材料と発光材料を組み合わせて用いているため、発光効率が極めて高いという特徴を有する。特に、本発明によればリン光青色錯体の発光効率を大きく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例の有機EL素子の層構成を示す概略断面図である。
【図2】実施例1における電流密度と量子効率の関係を示すグラフである。
【図3】実施例1における電流密度と量子効率の関係を示す別のグラフである。
【図4】実施例1における電流密度と量子効率の関係を示すさらに別のグラフである。
【図5】実施例2における電流密度と量子効率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
[本発明の特徴]
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極、主として第1有機材料により構成される第1有機層、主として第2有機材料により構成される第2有機層、陰極をこの順に積層した構造を有する。
第1有機層は主としてホール輸送機能を果たす層であり、第1有機層に発光材料をドープしたときには第1有機層は発光材料へ電子を輸送する機能も果たす。第1有機層は、そのような機能を果たす第1有機材料から主として形成されており、ここでいう「主として」とは第1有機層を構成する有機材料の中で最も含有量が多い有機材料を意味する。通常は50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上の含有量を示す。
第2有機層は主として電子輸送機能を果たす層であり、第2有機層に発光材料をドープしたときには第2有機層は発光材料へホールを輸送する機能も果たす。第2有機層は、そのような機能を果たす第2有機材料から主として形成されており、ここでいう「主として」とは第2有機層を構成する有機材料の中で最も含有量が多い有機材料を意味する。通常は50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上の含有量を示す。
【0016】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する陽極と第1有機層の間には、他の層が積層されていてもよい。例えば、ホール注入機能を有する有機層、ホール輸送機能を有する有機層、電子ブロッキング機能を有する有機層が積層されていてもよい。
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する陰極と第2有機層の間にも、他の層が積層されていてもよい。例えば、電子注入機能を有する有機層、電子輸送機能を有する有機層、ホールブロッキング機能を有する有機層が積層されていてもよい。
【0017】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子では、発光材料は第1有機層か第2有機層の少なくとも一方に含まれている。したがって、発光材料は第1有機層のみに含まれていてもよいし、第2有機層のみに含まれていてもよいし、第1有機層と第2有機層の両方に含まれていてもよい。好ましいのは、第1有機層のみに含まれている態様と第2有機層のみに含まれている態様であり、より好ましくは第1有機層にのみ含まれている態様である。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子では、第1有機層のみに発光材料が含まれている場合に、第2有機層の厚みを40nm以上にすることが好ましく、50nm以上にすることがより好ましい。また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子では、第2有機層にのみ発光材料が含まれている場合に、第1有機層の厚みを30nm以上にすることが好ましく、50nm以上にすることがより好ましい。このような態様を採用することによって、発光材料が添加された有機層で発生したエキシトンの消光が抑えられ、発光効率が大きく増大する。
【0018】
発光材料の含有量は、発光材料が含まれている有機層の0.1重量%以上であることが好ましく、
1.0重量%以上であることがより好ましく、3.0重量%以上であることがさらに好ましい。また、発光材料の含有量は、発光材料が含まれている有機層の30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがさらに好ましい。
【0019】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、下記の式(A)および式(B)を満たす。
式(A) T1(第1) − T1(発光) > 0.19eV
式(B) T1(第2) − T1(発光) > 0.24eV
上式において、T1(第1)は第1有機材料の77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位を表し、T1(第2)は第2有機材料の77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位を表し、T1(発光)は発光材料の77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位を表す。本発明における最低励起三重項エネルギー準位は、石英基板上に形成した薄膜の77°KにおけるPLスペクトルを測定し、最も短波側のピーク値のエネルギーを算出することにより決定した値である。したがって、本発明における薄膜での最低励起三重項エネルギー準位の値は、従来技術文献によく記載されているような溶液状態において測定されたものとは数値が異なる。薄膜状態において高い最低励起三重項エネルギー準位を有する材料を提供するためには、分子間の水素結合による会合を防ぐことが重要であることを本発明者らは見出した。
【0020】
従来の研究では、発光材料の最低励起三重項エネルギー準位と、その発光材料を添加した有機層を構成する有機材料の最低励起三重項エネルギー準位との関係が、もっぱら注目されてきた。これに対して本発明者らは、発光材料を添加した層に隣接する有機層を構成する有機材料の薄膜での最低励起三重項エネルギー準位についても考慮する必要があることを初めて見出した。そして、そのような隣接する有機層を構成する有機材料の薄膜での最低励起三重項エネルギー準位と発光材料の薄膜での最低励起三重項エネルギー準位との間に一定以上のエネルギー差が存在することも、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光効率を高めるために重要であることを見出した。上記の式(A)および式(B)は、このような知見に基づいて導出されたものである。
【0021】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、さらに下記の式(A−1)を満たすものであることが好ましく、式(A−2)を満たすものであることがより好ましく、式(A−3)を満たすものであることがより好ましい。
式(A−1) T1(第1) − T1(発光) > 0.21eV
式(A−2) T1(第1) − T1(発光) > 0.23eV
式(A−3) T1(第1) − T1(発光) > 0.25eV
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、さらに下記の式(B−1)を満たすものであることが好ましく、式(B−2)を満たすものであることがより好ましく、式(B−3)を満たすものであることがより好ましい。
式(B−1) T1(第2) − T1(発光) > 0.29eV
式(B−2) T1(第2) − T1(発光) > 0.34eV
式(B−3) T1(第2) − T1(発光) > 0.40eV
【0022】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子において、第1有機材料の77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位[T1(第1)]は、2.80eV以上であることが好ましく、2.85eV以上であることがより好ましく、2.90eV以上であることがさらに好ましく、2.92eV以上であることがさらにより好ましい。また、第2有機材料の77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位[T1(第2)]は、2.80eV以上であることが好ましく、2.95eV以上であることがより好ましく、3.00eV以上であることがさらに好ましく、3.03eV以上であることがさらにより好ましく、3.05eV以上であることが特に好ましい。発光材料の77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位[T1(発光)]は、2.0〜2.8eVであることが好ましく、2.4〜2.8eVであることがより好ましく、2.6〜2.8eVであることがさらに好ましい。
【0023】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、式(A)および式(B)を満たすために、発光効率が極めて高いという特徴を有する。後述する実施例に具体的に示すように、発光材料としてFIrpicを用いた場合に外部量子効率18%を達成しており、また発光材料としてCu錯体を用いた場合にも15%を超える外部量子効率を達成している。
例えば、非特許文献2や非特許文献4に記載される従来の有機エレクトロルミネッセンス素子では、発光材料であるFlrpicの77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位が2.67eVであるのに対して、発光材料をドープした発光層に隣接するホール輸送層には、77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位が2.70eVである4,4’,4”−トリス(カルバゾール−9−イル)トリフェニルアミン(TCTA)が用いられているに過ぎない。T1(第1)−T1(発光)は0.06eVで小さいため、発光効率は本発明ほど高くすることはできない。
【0024】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、上記の式(A)および式(B)を満たす限り、第1有機材料、第2有機材料、発光材料の種類と組み合わせは特に制限されない。以下において、好ましい具体例を参照しながら本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の具体例に基づく説明により限定的に解釈されるべきものではない。
【0025】
[好ましい第2有機材料の説明]
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子には、第2有機材料として下記一般式(1)で表される構造を有する化合物を好ましく用いることができる。
【化5】

【0026】
一般式(1)において、Xはm価の連結基を表し、mは2〜4のいずれかの整数を表す。R1、R2およびR3は各々独立に置換基を表し、n1およびn2は各々独立に0〜5のいずれかの整数を表し、n3は0〜4のいずれかの整数を表す。n1が2〜5のいずれかの整数であるとき、n1個のR1はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよく、n2が2〜5のいずれかの整数であるとき、n2個のR2はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよく、また、n3が2〜4のいずれかの整数であるとき、n3個のR3はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。さらに、m個の各構造単位におけるR1、R2、R3、n1、n2およびn3は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0027】
一般式(1)におけるXは、下記のいずれかの構造を有する連結基であることが好ましい。
【化6】

【0028】
上記構造において、R5およびR6は、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基を表す。R7、R8、R9およびR10は、各々独立に水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、または置換もしくは無置換のアリール基を表し、置換もしくは無置換のアルキル基、または置換もしくは無置換のアリール基であることが好ましい。
【0029】
5およびR6として採用しうるハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であることが好ましく、フッ素原子、塩素原子であることがより好ましく、フッ素原子であることがさらに好ましい。
5、R6、R7、R8、R9およびR10として採用しうるアルキル基は、直鎖状であっても、分枝状であっても、環状であってもよい。好ましいのは直鎖状または分枝状のアルキル基である。アルキル基の炭素数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましく、1〜3であること(すなわちメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基)がさらにより好ましい。環状のアルキル基としては、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基を挙げることができる。
5、R6、R7、R8、R9およびR10として採用しうるアリール基は、1つの芳香環からなるものであってもよいし、2以上の芳香環が融合した構造を有するものであってもよい。アリール基の炭素数は、6〜22であることが好ましく、6〜18であることがより好ましく、6〜14であることがさらに好ましく、6〜10であること(すなわちフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基)がさらにより好ましい。
【0030】
上記アルキル基は、さらに置換されていてもよいし、置換されていなくてもよい。置換されている場合の置換基としては、例えばアルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基を挙げることができ、置換基としてのアリール基の説明と好ましい範囲については上記アリール基の記載を参照することができる。
また、上記アリール基は、さらに置換されていてもよいし、置換されていなくてもよい。置換されている場合の置換基としては、例えばアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基を挙げることができ、アルキル基とアリール基の説明と好ましい範囲については上記アルキル基と上記アリール基の記載を参照することができる。
置換基として採用しうるアルコキシ基は、直鎖状であっても、分枝状であっても、環状であってもよい。好ましいのは直鎖状または分枝状のアルコキシ基である。アルコキシ基の炭素数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましく、1〜3であること(すなわちメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基)がさらにより好ましい。環状のアルコキシ基としては、例えばシクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基を挙げることができる。
置換基として採用しうるアリールオキシ基は、1つの芳香環からなるものであってもよいし、2以上の芳香環が融合した構造を有するものであってもよい。アリールオキシ基の炭素数は、6〜22であることが好ましく、6〜18であることがより好ましく、6〜14であることがさらに好ましく、6〜10であること(すなわちフェニルオキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基)がさらにより好ましい。
【0031】
5、R6、R7、R8、R9またはR10を有する上記構造のうち、好ましい構造の具体例を以下に挙げる。
【化7】

【0032】
一般式(1)におけるXとして、例えば以下の連結基をさらに好ましい連結基として採用することができる。
【化8】

【0033】
一般式(1)におけるXとして、例えば以下の連結基をさらにより好ましい連結基として採用することができる。
【化9】

【0034】
一般式(1)におけるmは、2または3であることが好ましい。
【0035】
一般式(1)におけるR1、R2およびR3が表す置換基として、例えば置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基を挙げることができる。好ましいのは、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のアルコキシ基、置換もしくは無置換のアリールオキシ基であり、より好ましいのは、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基である。
【0036】
置換基として採用しうるアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基の説明と好ましい範囲については、上記のR5、R6、R7、R8、R9およびR10が表すアルキル基とアリール基の説明と好ましい範囲、および上記の置換基として採用しうるアルコキシ基とアリールオキシ基の説明と好ましい範囲と同じである。
【0037】
1、R2およびR3が表す置換基は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、分子中に複数のR1が存在する場合、複数のR1が表す置換基は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。分子中に複数のR2が存在する場合や、分子中に複数のR3が存在する場合も同じである。
【0038】
一般式(1)におけるn1、n2およびn3は各々独立に0〜3のいずれかの整数であることが好ましく、0〜2のいずれかの整数であることがより好ましい。また、n1、n2およびn3がすべて0であるものも好ましい。
【0039】
一般式(1)で表される化合物の中では、下記一般式(2)で表される化合物を好ましく用いることができる。
【化10】

【0040】
一般式(2)において、X11は2つのトリフェニルホスフィン構造を連結する2価の連結基を表す。R11、R12、R13、R21、R22およびR23は各々独立に置換基を表し、n11、n12、n21およびn22は各々独立に0〜5のいずれかの整数を表し、n13およびn23は各々独立に0〜4のいずれかの整数を表す。n11が2〜5のいずれかの整数であるとき、n11個のR11はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよく、n12が2〜5のいずれかの整数であるとき、n12個のR12はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよく、n13が2〜4のいずれかの整数であるとき、n13個のR13はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよく、n21が2〜5のいずれかの整数であるとき、n21個のR21はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよく、n22が2〜5のいずれかの整数であるとき、n22個のR22はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよく、n23が2〜4のいずれかの整数であるとき、n23個のR23はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0041】
一般式(2)のX11の具体例については、一般式(1)のXの具体例の中の2価の連結基を挙げることができる。一般式(2)のX11の好ましい具体例については、一般式(1)のXの好ましい具体例の中の2価の連結基を挙げることができる。
一般式(2)のR11、R12、R13、R21、R22およびR23の置換基の具体例と好ましい範囲は、一般式(1)のR1、R2およびR3の置換基の具体例と好ましい範囲と同じである。
【0042】
一般式(2)は、以下の一般式(2−1)、一般式(2−2)および一般式(2−3)を包含する。その中では、一般式(2−1)で表される化合物と一般式(2−3)で表される化合物がより好ましい。一般式(2−1)で表される化合物は結晶化しにくい点で好ましく、一般式(2−3)で表される化合物は最低励起三重項エネルギー準位が高い点で好ましい。
【化11】

【0043】
一般式(2−1)、一般式(2−2)および一般式(2−3)における、X11、R11、R12、R13、R21、R22およびR23の定義と具体例と好ましい範囲については、式(2)と同じである。
【0044】
一般式(1)で表される化合物の中では、下記一般式(3)で表される化合物も好ましく用いることができる。
【化12】

【0045】
一般式(3)において、R11、R12、R13、R21、R22、R23、R31、R32およびR33は各々独立に置換基を表し、n11、n12、n21、n22、n31およびn32は各々独立に0〜5のいずれかの整数を表し、n13、n23およびn33は各々独立に0〜4のいずれかの整数を表す。n11が2〜5のいずれかの整数であるとき、n11個のR11はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよく、n12が2〜5のいずれかの整数であるとき、n12個のR12はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよく、n13が2〜4のいずれかの整数であるとき、n13個のR13はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよく、n21が2〜5のいずれかの整数であるとき、n21個のR21はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよく、n22が2〜5のいずれかの整数であるとき、n22個のR22はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよく、n23が2〜4のいずれかの整数であるとき、n23個のR23はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよく、n31が2〜5のいずれかの整数であるとき、n31個のR31はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよく、n32が2〜5のいずれかの整数であるとき、n32個のR32はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよく、n33が2〜4のいずれかの整数であるとき、n33個のR33はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0046】
一般式(3)のR11、R12、R13、R21、R22、R23、R31、R32およびR33の置換基の具体例と好ましい範囲は、一般式(1)のR1、R2およびR3の置換基の具体例と好ましい範囲と同じである。
一般式(3)のn11、n12、n21、n22、n31およびn32の好ましい範囲は、一般式(1)のn1およびn2の好ましい範囲と同じである。また、一般式(3)のn13、n23およびn33の好ましい範囲は、一般式(1)のn3の好ましい範囲と同じである。
【0047】
以下において、一般式(1)で表される化合物の具体例を例示するが、本発明において用いることができる一般式(1)で表される化合物はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。なお、以下の具体例の構造式の中でPhはフェニル基を表す。
【0048】
【化13】

【0049】
なお、本発明において第2有機材料として使用することができる化合物は一般式(1)で表される化合物に限定されるものではなく、式(A)および式(B)を満たす限り、一般式(1)で表される化合物以外の化合物も用いることができる。
【0050】
[好ましい第1有機材料の説明]
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子に用いる第1有機材料として、例えば、下記の一般式(4)で表される化合物を好ましく用いることができる。
【化14】

【0051】
一般式(4)において、Zはq価の連結基を表し、qは2〜4のいずれかの整数を表す。R41およびR42は各々独立に置換基を表し、n41およびn42は各々独立に0〜4のいずれかの整数を表す。n41が2〜4のいずれかの整数であるとき、n41個のR41はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよく、n42が2〜4のいずれかの整数であるとき、n42個のR42はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。さらに、q個の各構造単位におけるR41、R42、n41およびn42は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0052】
一般式(4)におけるZは、芳香環または複素環を含む連結基であることが好ましい。芳香環は、単環であっても、2以上の芳香環が融合した融合環であってもよい。芳香環の炭素数は、6〜22であることが好ましく、6〜18であることがより好ましく、6〜14であることがさらに好ましく、6〜10であることがさらにより好ましい。芳香環の具体例として、ベンゼン環、ナフタレン環を挙げることができる。複素環は、単環であっても、1以上の複素環と芳香環または複素環が融合した融合環であってもよい。複素環の炭素数は5〜22であることが好ましく、5〜18であることがより好ましく、5〜14であることがさらに好ましく、5〜10であることがさらにより好ましい。複素環を構成する複素原子は窒素原子であることが好ましい。複素環の具体例として、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、トリアゾール環、ベンゾトリアゾール環を挙げることができる。一般式(4)におけるZは、芳香環または複素環を含むとともに、非芳香族連結基を含んでいてもよい。そのような非芳香族連結基として、以下の構造を有するものを挙げることができる。
【化15】

【0053】
上記の非芳香族連結基におけるR7、R8、R9およびR10の説明と好ましい範囲については、上記の一般式(1)のXの説明と好ましい範囲の記載を参照することができる。
また、一般式(4)におけるR41およびR42の置換基の説明と好ましい範囲については、上記の一般式(1)のR1およびR2の説明と好ましい範囲の記載を参照することができる。さらに、一般式(4)におけるn41と42の説明と好ましい範囲については、上記の一般式(1)のn3の説明と好ましい範囲の記載を参照することができる。
【0054】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子に用いる第1有機材料として、例えば、下記の一般式(5)で表される化合物も好ましく用いることができる。
【化16】

【0055】
一般式(5)において、R51、R52およびR53は各々独立に置換基を表し、n51およびn52は各々独立に1〜4のいずれかの整数を表し、n53は1〜5のいずれかの整数を表す。少なくとも1つのR51、少なくとも1つのR52、および少なくとも1つのR53は、アリール基である。n51が2〜4のいずれかの整数であるとき、n51個のR51はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよく、n52が2〜4のいずれかの整数であるとき、n52個のR52はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよく、n53が2〜5のいずれかの整数であるとき、n53個のR53はそれぞれ互いに同一であっても異なっていてもよい。
一般式(5)におけるR51、R52およびR53の置換基およびアリール基の説明と好ましい範囲については、上記の一般式(1)のR1、R2およびR3の説明と好ましい範囲の記載を参照することができる。さらに、一般式(5)におけるn51、n52およびn53は1〜3であることが好ましく、1または2であることがより好ましい。
【0056】
以下において、一般式(4)または一般式(5)で表される化合物の具体例を例示するが、本発明において用いることができる一般式(4)または一般式(5)で表される化合物はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【化17】

【0057】
なお、本発明において第1有機材料として使用することができる化合物は一般式(4)または一般式(5)で表される化合物に限定されるものではなく、式(A)および式(B)を満たす限り、一般式(4)または一般式(5)で表される化合物以外の化合物も用いることができる。
【0058】
[好ましい発光材料]
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子に用いる発光材料は、発光させたい波長等を考慮して選択することができる。例えば、リン光発光材料、熱活性化型遅延蛍光材料、エキサイプレックス型発光材料などを適宜選択して用いることができる。
リン光発光材料としては、従来公知の種々の金属錯体を挙げることができる。本発明では特に深い青色のリン光を発光する材料を好ましく選択することができる。リン光発光材料としては、例えば、Flrpic、FCNIr、Ir(dbfmi)、FIr6、Ir(fbppz)2(dfbdp)、FIrN4などのIr錯体や、後掲の[Cu(dnbp)(DPEPhos)]BF4や、[Cu(dppb)(DPEPhos)]BF4、[Cu(μ−l)dppb]2、[Cu(μ−Cl)DPEphos]2、Cu(2−tzq)(DPEPhos)、[Cu(PNP)]2、compound 1001、Cu(Bpz4)(DPEPhos)などのCu錯体、FPt、Pt−4などのPt錯体を好ましい例として挙げることができる。これらの構造を以下に示す。
【0059】
【化18】

【0060】
【化19】

【0061】
【化20】

【0062】
上に代表的なリン光発光材料を記載したが、本発明に用いることができるリン光発光材料はこれらに限定されるものではなく、式(A)と式(B)を満たす限り、公知の発光材料も用いることができる。主な発光材料は、例えば、シーエムシー出版、「有機ELのデバイス物理・材料化学・デバイス応用」の第9章に記載されている。
【0063】
熱活性化型遅延蛍光材料としては、例えば下記のPIC−TRZ、[Cu(PNP−tBu)]2を好ましい例として挙げることができる。
【化21】

【0064】
エキサイプレックス型発光材料としては、例えば下記のm−MTDATAとPBD、PyPySPyPyとNPB、PPSPPとNPBを好ましい例として挙げることができる。
【化22】

【0065】
[その他の材料]
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子を構成するその他の材料については、既知の材料の中から適宜選択して最適化することができる。例えば、陽極と第1有機層の間には、上記のようにホール注入層を設けることが好ましいが、そのようなホール注入層を構成する材料として、ポリ(エチレンジオキシ)チオフェン(PEDOT)、酸化モリブデン等の金属酸化物、公知のアニリン誘導体を好ましく用いることができる。また、第2有機材料と陰極の間には、公知のホールブロッキング材料を用いた層を挿入することが好ましい。
また、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する各層や電極を製造する際には、既知の製造方法を適宜選択して採用することができる。また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子には、公知の技術や公知の技術から容易に想到しうる様々な改変を必要に応じて加えることができる。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0067】
有機エレクトロルミネッセンス素子の作製において第1有機材料として用いた化合物のうち、上記以外のものの構造を以下に示す。
【化23】

【0068】
有機エレクトロルミネッセンス素子の作製において第2有機材料として用いた化合物のうち、上記以外のものの構造を以下に示す。
【化24】

【0069】
(実施例1)
本実施例において、発光材料と第2有機材料の種類を種々変更した有機エレクトロルミネッセンス素子を作製して、その発光効率を評価した。
(1)有機エレクトロルミネッセンス素子の作製
ガラス1上にインジウム・スズ酸化物(ITO)2をおよそ30〜100nmの厚さで製膜し、さらにその上にポリ(エチレンジオキシ)チオフェン(PEDOT)3を30nmの厚さで製膜した。次いで、[Cu(dnbp)(DPEPhos)]BF4、[Cu(μ−l)dppb]2、FlrPicのいずれか1つの発光材料を10重量%ドープした第1有機材料を有機溶媒に溶解させてスピンコートすることにより、第1有機層4を30nmの厚さで製膜した。第1有機材料としては、CzSi、PO12、mCP、SimCP、SimCP2、CBPE、CBZ、PYD2のいずれか1つを用いた。さらに第1有機層の上に、BPhen、TPBI、TmPyPB、SPPO1、TSPO1、PO15、化合物2、化合物17のいずれか1つの第2有機材料を真空蒸着することにより第2有機層5を50nmの厚さで製膜した。次いで、フッ化リチウム(LiF)6を0.5nm真空蒸着し、次いでアルミニウム(Al)7を100nmの厚さに蒸着して、図1に示す層構成を有する有機エレクトロルミネッセンス素子とした。
【0070】
(2)最低励起三重項エネルギー準位の測定
有機エレクトロルミネッセンス素子の製造に用いた化合物2の77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位(T1)を以下の手順で測定した。
石英基板上に化合物2を真空蒸着することにより、厚さ100〜200nmの化合物2の薄膜を形成した。このサンプルを77°Kに冷却してPLスペクトルを測定した。PLスペクトルの最も短波側のピーク値のエネルギーを算出し、それによって化合物2の最低励起三重項エネルギー準位は3.05eVであると測定された。
本実施例で用いた他の材料の77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位(T1)も、同じ手順により測定した。結果を以下の表に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
(3)発光効率の評価
半導体パラメータ−アナライザーおよびパワーメータを用いて、上記(1)で製造した各有機エレクトロルミネッセンス素子の電流−電圧−輝度(J-V-L)特性を測定した。ELスペクトルはマルチチャンネル分光器を用いて測定した。これらの結果より、量子効率の算出を行った。
図2〜4に、本実施例で製造した代表的な有機エレクトロルミネッセンス素子の結果を示す。リン光材料であるFlrPicを発光材料として用いて、第1有機材料としてPDY2を用いて、第2有機材料として化合物2や化合物17を用いた場合には、18%という極めて高い量子効率が得られた。また、Cu錯体である[Cu(dnbp)(DPEPhos)]BF4を発光材料として用いて、第1有機材料としてPDY2を用いて、第2有機材料として化合物2を用いた場合にも、15%を超える高い量子効率が得られた。このことから、式(A)と式(B)の条件を満たす場合に、比較的高い量子効率が得られることが確認された。
また、発光材料と第2有機材料を固定して、第1有機材料の種類を表1に記載される8種の化合物に変えて評価した結果も同じ傾向を示した。例えば、第2有機材料として化合物2または化合物17を用いて、第2有機材料の種類を変えた場合には、第1有機材料としてmCP、SimCP、SimCP2、CBPE、CBZ、PYD2を用いた場合に比較的高い量子効率が得られ、第1有機材料としてCBZ、PYD2を用いた場合にさらに高い量子効率が得られた。
【0073】
(実施例2)
本実施例において、発光材料を添加する有機層を変えた有機エレクトロルミネッセンス素子を作製して、その発光効率を評価した。
実施例1の製法にしたがって、ガラス1上、インジウム・スズ酸化物(ITO)2、ポリ(エチレンジオキシ)チオフェン(PEDOT)3、FlrPicをドープしたPYD2の第1有機層4、化合物2の第2有機層5、フッ化リチウム(LiF)6、アルミニウム(Al)7を、実施例1と同じ厚さで製膜し、これをデバイスIとした。
FlrPicをドープする層を第1有機層から第2有機層に変えた点を変更して、その他はデバイスIと同様に製膜して、デバイスIIを作製した。
FlrPicをドープする層を第1有機層と第2有機層の両方に変えた点を変更して、その他はデバイスIと同様に製膜して、デバイスIIIを作製した。
【0074】
各デバイスの発光効率を実施例1と同様に評価した結果を図5に示す。
いずれのデバイスにおいても、15%を超える高い量子効率が得られた。特に、第1有機層のみに発光材料をドープしたデバイスIと第2有機層のみに発光材料をドープしたデバイスIIにおいて、一段と高い量子効率が得られた。
【0075】
(実施例3)
ガラス1上にインジウム・スズ酸化物(ITO)2をおよそ30〜100nmの厚さで製膜し、さらにその上にポリ(エチレンジオキシ)チオフェン(PEDOT)3を40nmの厚さで製膜した。次いで、FlrPicまたは[Cu(dnbp)(DPEPhos)]+のいずれか1つの発光材料を10重量%ドープしたPYD2(第1有機材料)を有機溶媒に溶解させてスピンコートすることにより、第1有機層4を30nmの厚さで製膜した。さらにその上に、表2に記載の第2有機材料を真空蒸着することにより第2有機層5を50nmの厚さで製膜した。次いで、フッ化リチウム(LiF)6を0.7nm真空蒸着し、次いでアルミニウム(Al)7を100nmの厚さに蒸着して、図1に示す層構成を有する有機エレクトロルミネッセンス素子とした。実施例1と同じ方法により量子効率を測定した結果を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
表2の結果から明らかなように、式(A)および式(B)を満たす本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、高い発光効率を実現することができる。また、第2有機材料の最低励起三重項エネルギー準位と発光材料の最低励起三重項エネルギー準位との差が大きいほど、発光効率は高くなる傾向が認められる。
なお、表2の結果は、化合物9、13、15および16を用いた場合の発光効率が比較的低い値となっているが、これらの化合物を用いた場合であっても、式(A)および式(B)を満たすように第1有機材料と発光材料を選択して組み合わせれば発光効率が高い有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の遅延蛍光材料は、発光効率が高いことから様々な工業製品に応用することが可能である。例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子などの表示素子、ディスプレイ、バックライト、電子写真、照明光源、露光光源、読み取り光源、標識、看板、インテリアの分野への応用が期待される。このため、本発明は産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0079】
1 ガラス
2 ITO
3 PEDOT
4 第1有機層
5 第2有機層
6 LiF
7 Al

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極、主として第1有機材料により構成される第1有機層、主として第2有機材料により構成される第2有機層、陰極をこの順に積層した構造を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記第1有機層と前記第2有機層のうちの少なくとも一方に発光材料を含み、以下の式(A)および式(B)を満たすことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
式(A) T1(第1) − T1(発光) > 0.19eV
式(B) T1(第2) − T1(発光) > 0.24eV
(上式において、T1(第1)は前記第1有機材料の77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位を表し、T1(第2)は前記第2有機材料の77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位を表し、T1(発光)は前記発光材料の77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位を表す。)
【請求項2】
前記第1有機材料の77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位が2.80eV以上であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記第2有機材料の77°Kにおける最低励起三重項エネルギー準位が2.95eV以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記発光材料が第1有機層のみに含まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記第2有機層の厚みが40nm以上であることを特徴とする請求項4に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記発光材料が第2有機層のみに含まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記第1有機層の厚みが30nm以上であることを特徴とする請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記発光材料が第1有機層と第2有機層の両方に含まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記発光材料がリン光発光材料であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記発光材料が熱活性化型遅延蛍光材料であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記発光材料がエキサイプレックス型発光材料であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記発光材料がCu錯体であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−8806(P2013−8806A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140046(P2011−140046)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】