有機分子メモリおよび有機分子メモリ用有機分子
【課題】メモリ保持特性に優れた有機分子メモリを提供する。
【解決手段】実施の形態の有機分子メモリは、第1の導電層と、第2の導電層と、第1の導電層と第2の導電層との間に設けられ、分子軸に沿ってπ電子系が拡がっている分子骨格を持つ分子系において、(I)分子の最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)のうちいずれか一方が分子軸にそって非局在化し、他方が分子軸に対して局在化している、(II)分子の最高被占軌道(HOMO)エネルギー準位が−5.75eV以上の値を持つ、を同時に満たす分子群より選ばれる有機分子を含む有機分子層と、を備える。
【解決手段】実施の形態の有機分子メモリは、第1の導電層と、第2の導電層と、第1の導電層と第2の導電層との間に設けられ、分子軸に沿ってπ電子系が拡がっている分子骨格を持つ分子系において、(I)分子の最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)のうちいずれか一方が分子軸にそって非局在化し、他方が分子軸に対して局在化している、(II)分子の最高被占軌道(HOMO)エネルギー準位が−5.75eV以上の値を持つ、を同時に満たす分子群より選ばれる有機分子を含む有機分子層と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、有機分子メモリおよび有機分子メモリ用有機分子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年記憶素子、論理素子ともにスケーリングによる高密度化が進んでいる。そして、それに伴う集積回路の高集積化、大容量化が進んでいる。特に、メモリ回路においてはその傾向が著しい。
【0003】
しかしながら、現在のシリコン(Si)メモリデバイスでは現行の基本構造を維持する限り、早晩そのスケーリングが限界に達し、メモリチップの高密度化や大容量化の進行が停止すると予想されている。
【0004】
その限界を超えるものとして単分子ないしは分子集合体をメモリ素子に用いた新たなメモリデバイスである有機分子メモリが提案され、これまでその試作の報告がされてきた。既に報告されている通り、その様な有機分子メモリを用いることによって、従来のシリコンデバイスを用いる場合に較べて、飛躍的な高密度化、高集積化、低消費電力化の実現が可能となる。
【0005】
メモリ素子では、一定のメモリ保持時間が必要とされる。このためメモリ素子に用いられる有機分子のメモリ保持特性の向上が重要となる。特に、不揮発性メモリとしての使用を目的とした場合には、長いメモリ保持時間が要求されるためメモリ保持特性の一層の向上が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2004−518268号公報
【0007】
【特許文献2】米国特許6756605明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】C.Li et. al,“Fabrication approach for molecular memory arrays”, Appl.Phys.Lett.,Vol.82,No.4,pp645−647(2003)
【0009】
【非特許文献2】W.Hehre,L.Radom,P.von R.Schleyer,J.A.Pople,“Ab Initio Molecular Orbital Theory” Willey:New York,1986.
【0010】
【非特許文献3】A.D.Becke,J.Chem.Phys.98,5648(1993).
【0011】
【非特許文献4】A.E.Frisch,M.J.Frisch,“Gaussian 98 User’s Reference” Gaussian Inc.:Pittsburgh,PA,1998.
【0012】
【非特許文献5】W.Kohn and J.Sham,Phys.Rev.140,A1133(1965).
【0013】
【非特許文献6】R.Parr and W.Yang,“Density−Functional Theory of Atoms and Molecules”Oxford Univ. Press (1994).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、メモリ保持特性に優れた有機分子メモリおよび有機分子メモリ用有機分子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
実施の形態の有機分子メモリは、第1の導電層と、第2の導電層と、前記第1の導電層と前記第2の導電層との間に設けられ、分子軸に沿ってπ電子系が拡がっている分子骨格を持つ分子系において、下記(I)、(II)で示される条件を同時に満たす分子群より選ばれる有機分子を含む有機分子層と、を備えている。
(I)分子の最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)のうちいずれか一方が分子軸にそって非局在化し、他方が分子軸に対して局在化していることを特徴とする分子群。
(II)分子の最高被占軌道(HOMO)エネルギー準位が−5.75eV以上の値を持つ分子群。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施の形態の有機分子メモリの模式斜視図である。
【図2】第1の実施の形態のメモリセル部の有機分子の分子構造の一例を示す図である。
【図3】第1の実施の形態のメモリセル部の回路図である。
【図4】分子Aの最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)を示す図である。
【図5】有機分子メモリにおけるメモリ保持時間の説明図である。
【図6】有機分子中の電子の移動を説明する図である。
【図7】分子S1の軌道図である。
【図8】分子S2の軌道図である。
【図9】分子S3の軌道図である。
【図10】分子S4の軌道図である。
【図11】分子S5の軌道図である。
【図12】分子S6の軌道図である。
【図13】分子S7の軌道図である。
【図14】分子S8の軌道図である。
【図15】分子S9の軌道図である。
【図16】分子S10の軌道図である。
【図17】分子S11の軌道図である。
【図18】分子T1の軌道図である。
【図19】分子T2の軌道図である。
【図20】第2の実施の形態の有機分子メモリの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
有機分子メモリは、例えば、単分子の両端あるいは分子集合体である単分子膜の上下の面を電極で接合した2端子有機分子メモリから構成される。そして、分子の抵抗が低抵抗と高抵抗に変化する現象をメモリの0、1に対応させることによってメモリ機能を発現させる。従来、伝導性分子の2端子素子を試作し、その抵抗変化現象の発現を利用したメモリ機能発現とその際の書き込み−消去回数、メモリ保持時間等のメモリ諸特性の報告が成されている。
【0018】
この様な有機分子を用いたメモリデバイスは、分子集合体のみならず、原理的に1個の分子単独でも機能することが確認されていることから、集積回路として考えると圧倒的なスケーラビリティーを持ち、従来のシリコンデバイスに較べて飛躍的な高密度化、大容量化が可能となる。
【0019】
一方、有機分子メモリにおいては、一定のメモリ保持時間が要求される。とりわけ不揮発性メモリとしての使用を目的とした場合は、長期のメモリ保持時間の実現が必要条件となる。逆にメモリ保持時間が短いと、一定のメモリ機能自体はあるものの、メモリとしての応用用途は制限されてしまうことになる。
【0020】
従来報告されているメモリ素子の場合、メモリ保持時間は数10−数100秒の範囲に留まり、集積回路としての高密度、高集積度、大容量化という潜在能力を持つものの応用範囲が限定され、今後一層の大容量化が要求される不揮発性メモリとしての使用は不十分な状態にある。すなわち、現状のままでは有機分子メモリの持つ飛躍的な高密度化、大容量化、低消費電力化の能力が十分に生かしきれないと考えられる。
【0021】
したがって、不揮発性メモリを含む広範なメモリ用途に対応させるためにはメモリ保持時間のさらなる向上が望まれる。
【0022】
一方、メモリ素子は一定以上のメモリ保持時間を持てばそれに対応した応用分野に使用可能となるが、用途によって要求されるメモリ保持時間の範囲は一様ではなく、その意味では満たすべきメモリ保持時間は決して固定したものではない。その点から考えれば、基本的なメモリ素子構造を維持しながら、メモリ用途に対応してメモリ保持時間が分子構造を含む構造設計によってある程度自由に制御できるとすれば、不揮発性メモリを含む広範な応用範囲に適用できるメモリ素子を任意に設計することが可能となる。
【0023】
実施の形態においては、メモリ保持特性に優れた有機分子メモリおよび有機分子メモリ用有機分子について説明する。
【0024】
なお、本明細書中、分子の最高被占軌道(HOMO)または最低空軌道(LUMO)が、「局在化」または「非局在化」しているという表現を用いている。ここでいう「局在化」とは、以下に示す特定の方法論の分子軌道計算で算出された分子軌道を0.02au(atomic unit)の等振幅強度面で表示した分子軌道分布に於いて、分子軸にそった分子軌道の主分布領域比率が、分子軸に対して少なくとも90%以下であるものとして定義される。
【0025】
ここで、特定の方法論の分子軌道計算とは以下の条件で算出される分子軌道計算を示す。すなわち、LCAO(Linear Combination of Atomic Orbital)近似で行われる分子軌道計算において、
(1)基底関数系は6−31+G(d)基底を用いる。
(2)B3LYP hybrid exchange−correlation functionalを用いたKohn−Sham DFTによって分子軌道関数と1電子エネルギー準位の算出を行う。
(3)上記の1電子エネルギー準位の算出値は分子がBorn−Oppenheimer面上で最小エネルギーを持つ構造での算出値とする。
【0026】
また、本明細書中の最高被占軌道(HOMO)のエネルギー準位の値は、上記分子軌道計算と同一の方法で算出された値として規定される。
【0027】
また、本明細書中、主分布領域比率とは、分子軸の全長に対し、分子軌道の主分布領域が占める長さの割合を意味する。ここで分子軸とは分子の両端の環式化合物の末端の原子を結ぶ軸である。分子軌道の主分布領域とは、分子軌道を構成するp軌道群のうち、最大振幅を持つp軌道の振幅を1とした場合、p軌道の振幅が0.5以上で連続する範囲を主分布領域として定義するものである。但しp軌道の振幅とは、分子軌道を0.02au(atomic unit)の等振幅強度面で表示したとき、その等振幅強度面で囲まれるp軌道主軸の長さとして規定される。
【0028】
また、本明細書中「化学結合」とは、共有結合、イオン結合、金属結合のいずれかを指す概念とし、水素結合やファンデルワールス力による結合を除外する概念とする。
【0029】
また、本明細書中「空隙」の幅とは、電極(導電層)と、この電極に対向する有機分子層を構成する有機分子の端部との間の距離を意味する。より厳密には、電極表面と有機分子の終端部の炭素(C)原子、または酸素(O)原子、窒素(N)原子、硫黄(S)原子等のヘテロ原子の重心との距離を表わす概念とする。そして、「空隙(エアギャップ)」部分は、真空であっても、空気あるいはその他の気体が存在していてもかまわない。
【0030】
(第1の実施の形態)
本実施の形態の有機分子メモリは、第1の導電層と、第2の導電層と、第1の導電層と第2の導電層との間に設けられ、分子軸に沿ってπ電子系が拡がっている分子骨格を持つ分子系において、下記(I)、(II)で示される条件を同時に満たす分子群より選ばれる有機分子を含む有機分子層と、を備えている。
(I)分子の最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)のうちいずれか一方が分子軸にそって非局在化し、他方が分子軸に対して局在化していることを特徴とする分子群。
(II)分子の最高被占軌道(HOMO)エネルギー準位が−5.75eV以上の値を持つ分子群。
【0031】
本実施の形態によれば、有機分子層に含まれる有機分子のHOMOとLUMOのいずれか一方が局在化し、他方が非局在化することで、2つコンダクタンス(抵抗)の異なる状態が実現される。そして、この2つの状態を利用して有機分子メモリを実現することが可能となる。このように、抵抗が変化する機能を備える有機分子は抵抗変化型分子鎖とも称される。
【0032】
さらに、有機分子層中の有機分子の最高被占軌道(HOMO)エネルギー準位が−5.75eV以上の値を持つことにより、導電層(電極)の電子が有機分子層中の有機分子のHOMO準位に戻りにくくなり、メモリ保持時間が向上する。
【0033】
図1は、本実施の形態の有機分子メモリの模式斜視図である。図2は、メモリセル部の有機分子の分子構造の一例を示す図である。図3は、メモリセル部の回路図である。
【0034】
本実施の形態の分子メモリは、クロスポイント型の有機分子メモリである。図1に示すように、たとえば基板(図示せず)の上部に下部電極配線(第1の導電層)12が設けられている。そして、下部電極配線12に交差するように上部電極配線(第2の導電層)14が設けられている。電極配線のデザインルールは例えば、5〜20nm程度である。
【0035】
図1に示すように、下部電極配線12と上部電極配線14との交差部の、下部電極配線12と上部電極配線14との間には、有機分子層16が設けられている。抵抗変化型分子鎖16aが、有機分子層16を構成する。有機分子層の厚さは、例えば、1〜20nm程度である。
【0036】
そして、図3に示すように、複数本の下部電極配線(ワード線)12と複数本の上部電極配線(ビット線)14が交差する点のそれぞれに、図1のように有機分子層16を設けてメモリセルを形成する。このようにして、複数のメモリセルで構成されるメモリセルアレイが実現される。
【0037】
なお、本実施の形態の抵抗変化型分子鎖16aは、後述するようにダイオード特性を備え、そのダイオード特性がメモリ動作にとって十分であるため、別途、ダイオード特性を備える素子を接続することを要しない。ダイオード特性を備えない、または、十分なダイオード特性を備えない抵抗変化型素子をメモリセルに適用する場合には、別途ダイオード特性を備える素子を抵抗変化型分子鎖に接続することで、図3の回路構成を実現することが可能である。
【0038】
本実施の形態の有機分子層16は、例えば複数の抵抗変化型分子鎖16aで構成されている。抵抗変化型分子鎖16aの少なくとも一端が下部電極配線12と化学結合している。抵抗変化型分子鎖16aは、下部電極配線12側から上部電極配線14に向かって伸長する。
【0039】
下部電極配線12は、例えば、(110)面を表面とするシリコン(Si)の基板(図示せず)上に形成される。下部電極配線12は、例えば、金属材料である金(Au)である。下部電極配線12の有機分子層16に接する面は、例えば(111)面である。また、上部電極配線14は、例えば、金属材料であるモリブデン(Mo)である。
【0040】
本実施の形態の有機分子層16を構成する抵抗変化型分子鎖16aは、例えば、図2に示すような、分子構造を備えている。
【0041】
図2の抵抗変化型分子鎖は、電極に結合される前に一端にリンカーと称される反応性官能基としてチオール基を備える。そして、硫黄原子(S)と、下部電極配線12表面の金原子(Au)とが化学結合している。ここで、リンカーとは化学結合により電極(導電層)に対して分子を固定する部位を意味する。結合前の図2の抵抗変化型分子鎖16aは、後に記述する分子S10に相当する。
【0042】
このように、下部電極12表面の金原子とチオール基が結合されて、いわゆる、自己組織化単分子膜(Self−assembled monolayer:SAM)である有機分子層16が形成されている。一方、抵抗変化型分子鎖16aの他端のベンゼン環は、上部電極14表面のモリブデン(Mo)原子と化学結合していない。
【0043】
すなわち、抵抗変化型分子鎖16aの他端は、他方の導電層と物理吸着するか他方の導電層との間に空隙を備える。空隙の幅は0.3nm以下であることが抵抗増大を抑制する観点から望ましい。
【0044】
ここで、抵抗変化型分子鎖16aは、電場の有無や電荷の注入により抵抗が変化する機能を備える分子鎖である。例えば、図2に示す分子構造を備える抵抗変化型分子鎖は、両端部の間に電圧を印加することで低抵抗状態と高抵抗状態とを切り替えることが可能である。この抵抗状態の変化を利用することでメモリセルが実現される。
【0045】
従来、有機分子メモリに用いる分子として最も多く報告されていた代表的な分子は下記式(A)の分子構造式で示される分子(分子A)であり、特有の構造と特有の電子状態を持つ。ここでSH基は電極と結合させるための反応性官能基である。分子Aは抵抗変化型分子鎖であり、ツアーワイア(Tour wire)とも称される。
【0046】
【化1】
【0047】
図4は、分子Aの最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)を示す図である。図4(a)がLUMO、図4(b)がHOMOを示している。
【0048】
分子Aはそのフロンティア軌道である最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)で特有の性質を持ち、分子軌道法によって計算されるHOMO及びLUMOは図4に示される軌道になる。すなわち、HOMOは分子軸に沿って非局在化し、分子軸全体に拡がっているのに対し、LUMOは分子軸左側部分に非対照的に局在化している。
【0049】
分子Aの左右に電極を接合し、電流を流した場合、分子A全体の電荷状態によって電子が移動する主経路が変化する。通常の分子の様に分子全体で電荷的中性が保たれている場合、電子が占有されていない最もエネルギー準位の低い軌道がLUMOであることから、LUMOが電子の主移動経路になる。それに対し、正荷電状態になると、電子が占有されていない最もエネルギー準位の低い軌道がHOMOになることからHOMOが電子の主移動経路になる。
【0050】
したがって、LUMOとHOMOの軌道分布状態に大きな差がある程、電荷的中性状態と正荷電状態との間でおおきなコンダクタンス変化(抵抗変化)が生じる。とりわけHOMOとLUMOのいずれかが分子軸に沿って非局在化しているとその場合にはコヒーレント伝導に近い伝導になり、高いコンダクタンス(低い抵抗)が実現される。
【0051】
一方の軌道が分子軸全体に拡がらないで局在化すると電子移動効率が低下し、コンダクタンスが低下する。図4に示される様に、特に分子軌道が分子軸に対して非対称的に局在するとI−V曲線の非対称性が実現しやすい。このため、分子軌道の非対称性は整流特性を合わせ持つ分子メモリ素子の実現には重要な要素となる。したがって、分子軌道は非対称的に局在化することが望ましい。
【0052】
上述した様な特有の電子状態を持つ分子に対し、分子の電荷状態をパルス電圧印加制御等によって、電荷的中性状態と正荷電状態の2種の状態を交互に実現させ、そのことによって、該当分子は2種のコンダクタンスを持つことになる。そして2種のコンダクタンスをメモリの“0”、“1”に対応させることによって、該当分子を左右の電極に接合させた整流作用を併せ持つ2端子分子メモリ素子が実現できる。
【0053】
有機分子が十分な整流作用を備える場合には、図1のようなクロスポイント型の有機分子メモリにおいて、例えば、ダイオード素子を別途付加することなくメモリ機能を実現できる。したがって、有機分子メモリの高密度化、低コスト化に好適である。
【0054】
図5は、有機分子メモリにおけるメモリ保持時間の説明図である。例えば、分子Aでは、コンダクタンスを変化させた状態が長くは続かず、メモリ保持時間が数10秒から数100秒に留まる。
【0055】
これは、図5に示される通り、正荷電状態になってコンダクタンスを変化させた状態にしても、電極からフェルミ準位にある電子が短時間のうちに正荷電状態にある分子のHOMO準位に戻り、分子がもとの電荷的中性状態に戻ってしまうことによる。それは電子が電極のフェルミ準位から分子のHOMO準位に戻る移動速度が速すぎるために起きる現象である。例えば、電子移動速度が1桁遅くなればメモリ保持時間は1桁延びることになる。したがって、電極から分子への電子の移動速度を下げることによって、メモリ保持時間の増大が可能となる。
【0056】
ところで、電極のフェルミ準位にある電子が正荷電状態にあるHOMO準位に戻る移動速度はフェルミ準位とHOMO準位の差の上昇とともに指数関数的に増大する。分子構造の修正によって従来のHOMO準位を上昇させ、フェルミ準位とHOMO準位の差を減少させることによって電子移動速度を低下させれば、メモリ保持時間の増大が実現可能であることが発明者らの検討によって明らかになった。
【0057】
図5でみれば、HOMO準位をHOMO(1)からHOMO(2)のエネルギー準位にすることにより、メモリ保持時間が増大する。
【0058】
一方、全てのメモリデバイスが不揮発性メモリ程長期のメモリ保持時間が要求される訳ではなく、要求されるメモリ保持時間はメモリ用途によって様々である。その様な要求に対しても、分子のHOMO準位を制御することによって、メモリ用途に応じた保持時間を持つ有機分子メモリを提供することが可能となる。
【0059】
ただし、長いメモリ保持時間を持つ有機分子メモリ実現のためには、分子のHOMO準位の制御という条件の他に、素子に用いる有機分子が以下に示す条件(X)を満たすことが必要条件となり、更に条件(Y)を満たすことが好ましい。
条件(X):該当分子が再現性のあるヒステリシス機能を持つ。
条件(Y):非対称的なI−V特性を持ち、整流機能を有する。
【0060】
すなわち、メモリ保持時間の長い有機分子メモリの実現、及び分子構造制御によってメモリ保持時間が制御可能な、用途に応じたメモリ時間を有する有機分子メモリを提供するためには、条件(X)を満たしながらHOMO準位を上昇させ、かつその上昇度の制御を行う必要がある。更には同時に条件(Y)を満たしながらHOMO準位を上昇させることがより好ましい。
【0061】
分子の最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)のうちいずれか一方が分子軸にそって非局在化し、それ以外の一方が分子軸に対して局在化することで、条件(X)が充足される。そして、一方が分子軸に対して非対称的に局在化することで、条件(Y)が充足されることになる。
【0062】
本実施の形態によれば、分子軸に沿ってπ電子系が拡がっている分子骨格を持つ分子系において、以下の(I)、(II)で示される条件を同時に満たし、好ましくは(III)の条件を満たす分子群より選ばれる単分子ないしは分子集合体を電極(導電層)に結合あるいは接触させたものを有機分子層の主構成要素として用いる。これによって、抵抗変化によるメモリ機能の実現とメモリ保持時間の向上、両者の達成が可能となる。
(I)分子の最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)のうちいずれか一方が分子軸にそって非局在化し、それ以外の一方が分子軸に対して非対称的或いは対称的に局在化していることを特徴とする分子群
(II)分子の最高被占軌道エネルギー準位が−5.75eV以上の値を持つ分子群。
(III)以下の(イ)または(ロ)に示される分子群から選ばれるπ電子を持つ分子群
(イ)下記一般式1で示される特定の構造を中核構造として持つ分子群で、かつ、第1の導電層または第2の導電層と結合させるための反応性官能基を備える分子群。
【化2】
上記一般式1において、C、D、E、Fは下記(a)群より選ばれる置換基または水素原子であり、AおよびBは下記(b)で表される構造群より選ばれる分子構造体から構成される。
(a)NO2、CN、F、COOH、COOR、SO3H、SO3R、NH2、NR2、OH、OR、R。ただし、Rはアルキル基。
(b)フェニル環、チオフェン環、ピロール環、フラン環、ピリジン環、ピラジン環、カルバゾール環、キサンテン環、キノリン環、インキノリン環、アクリジン環およびそれらの置換修飾体単独およびそれらが特定のユニット構造を介して連結した構造を持つ連結体。ここで、特定のユニット構造は、C−C結合ユニット、エチレン型2重結合ユニット(C=C)、アセチレン型C−C3重結合型ユニットから選ばれる構造体である。
(ロ)下記式(C1)〜(C16)に示される多環系芳香族炭化水素およびその炭素(C)の一部を窒素(N)に置換したπ電子骨格系分子単独、または、それらが特定のユニット構造を介して連結した構造を持つ連結体を(a)群から選ばれる置換基で置換基修飾した分子系を中核構造とし、第1の導電層または第2の導電層と結合させるための反応性官能基を結合させた分子群。ここで、特定のユニット構造は、C−C結合ユニット、エチレン型2重結合ユニット(C=C)、アセチレン型C−C3重結合型ユニットから選ばれる構造体である。
【0063】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【0064】
一般式1において、AおよびBが下記式(B1)〜(B16)で示される構造(式中C、D、E、Fは前記(a)群から選ばれる置換基、Rはアルキル基)単独またはそれらの置換修飾体からなる基本構造単独、または、その基本構造が特定のユニット構造で連結された連結体からなることが望ましい。ここで、特定のユニット構造は、C−C結合ユニット、エチレン型2重結合ユニット(C=C)、アセチレン型C−C3重結合型ユニットから選ばれる構造体である。
【0065】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
【化30】
【化31】
【化32】
【化33】
【化34】
【0066】
また、上記(イ)で規定される分子群において、上記中核構造と上記反応性官能基との間に、アルキル基を備え、上記(ロ)で規定される分子群において、上記分子系と上記反応性官能基との間に、アルキル基を備えることが望ましい。
【0067】
次に、3つの条件(I)、(II)、(III)について詳述する。条件(I)は電荷的中性状態→正荷電状態→電荷的中性状態の様な荷電状態変化に伴ってそのコンダクタンス変化が生じるための要件として設定される。
【0068】
図6は、有機分子中の電子の移動を説明する図である。図6(a)は分子が電荷的中性状態を維持している場合、図6(b)は分子が正電荷状態になった場合である。
【0069】
分子を通して電子が移動する場合、電荷的中性が保たれている場合、図6(a)に示される通り、電子が占有されていないなかで最もエネルギーの低い軌道であるLUMOが主伝導経路を担う。一方、正荷電状態の場合には、図6(b)に示される通り、電子非占有で最もエネルギーの低い軌道がHOMOになることから、その場合にはHOMOが主伝導経路を担う。
【0070】
仮に、HOMOとLUMOが空間的に全く同じ波動関数ならば電荷的中性状態と正荷電状態とでは同じコンダクタンスを持つことになる。
【0071】
したがって、電荷的中性状態から正荷電状態に変化させたときに分子のコンダクタンス変化を発現させるためには、電荷的中性状態での主伝導経路を担うLUMOと、正荷電状態での主伝導経路となるHOMOの波動関数形態が異なることが要請される。より具体的には、いずれか一方が分子軸に沿って非局在化し、もう一方が局在化している波動関数形態であることが要請される。
【0072】
そして、この様な電子状態の実現によって、電荷的中性状態→正荷電状態→電荷的中性状態と、荷電状態を変化させることによって、分子のコンダクタンス変化の実現が可能となる。構造式(A)で示される分子Aは、図4で示される通り、LUMOが局在化し、HOMOが分子軸にそって非局在化している点で条件(I)を満足する。
【0073】
もっとも、本実施の形態の有機分子メモリに用いる分子群は、必ずしも分子Aの様にHOMOが非局在化している必要はなく、HOMO、LUMOのうちいずれか一方が非局在化していれば抵抗変化機能の発現には充分な要件を満たす。
【0074】
また、HOMO、LUMOいずれにせよ、分子軸に関し左右対称的な局在化よりは非対称的な局在化の仕方の方が望ましい。その理由はその場合の方が分子と電極との接合の仕方如何にかかわらず、I−V曲線の非対称性の発現にとって有利であることによる。
【0075】
分子Aは、図1に示される通り、LUMOが分子軸に対して非対称的に局在化しており、I−V曲線の非対称性の発現にとって望ましい軌道パターンをとる。実際、分子Aを用いた2端子有機分子メモリでは非対称的なI−V特性の発現が確認される。ただし、分子Aは本実施の形態の有機分子メモリに用いる分子群には適合しない。
【0076】
本実施の形態の有機分子メモリに用いる分子の要件を満たすためには更に上記条件(II)を満たすことが要請される。例えば、分子Aを用いた2端子有機分子メモリは充分なメモリ寿命を持たず、そのメモリ用途が狭い範囲に限定され、抵抗変化型分子鎖の持つ利点が充分に発揮できないという問題点がある。
【0077】
その原因は、電荷状態を変化させてコンダクタンスを変えた状態に変化させたものの、その状態が不安定なため、0バイアスの状態になると短時間のうちにもとの電荷状態に戻ることによる。本実施の形態によれば、変化させた荷電状態の安定性を増大させることによってメモリ保持時間を増大させることが可能となる。
【0078】
書き込まれたメモリ保持状態が消失するということをエネルギー準位的に述べると、図5に示される通り、電極のフェルミ準位にある電子が、書き込まれて正荷電状態にある分子のHOMO準位に戻り、元のコンダクタンスに戻ってしまう現象になる。その戻る際の電子移動速度ないしは電子移動確率が小さい程、長いメモリ保持時間が実現される。
【0079】
そして、電子移動速度は電極のフェルミ準位と分子のHOMO準位の差に比例して増大していく。正荷電状態を安定させることは、より安定した正荷電状態を持つ分子を用いることと等価であり、それはもともと高いHOMO準位を持つ分子を用いることに相当する。
【0080】
一定のエネルギー以上の高いHOMO準位を持つ分子を用いることによって、図5に示される通り、電極のフェルミ準位と分子のHOMO準位との差は減少し、それに伴って電極から分子への電子移動速度ないしは電子移動確率は低下していき、有機分子メモリのメモリ保持時間は増大していく。
【0081】
その際、適切なHOMO準位の設定によって、長期のメモリ保持時間の実現が可能となる。また、HOMO準位を適度に制御することによって、メモリ用途に応じたメモリ保持時間を持つ有機分子メモリの提供が可能となる。
【0082】
その様な特性を持つ分子を規定する方法としては、UPS等の実験から得られた第1イオン化ポテンシャルの値、或いは特定の方法論の分子軌道計算から得られた第1イオン化ポテンシャルの値で規定することができる。
【0083】
また、特定の方法論の分子軌道計算の計算値を用いる場合には、計算で得られたHOMO準位の値で条件(II)を規定することができる。本実施の形態においては特定の方法論によって計算された値によって規定する。これによって一義的に条件(II)を規定することができる。
【0084】
ここで、特定の方法論の分子軌道計算とは以下の条件で算出される分子軌道計算を示す。すなわち、LCAO(Linear Combination of Atomic Orbital)近似で行われる分子軌道計算において、
(1)基底関数系は6−31+G(d)基底を用いる。
(2)B3LYP hybrid exchange−correlation functionalを用いたKohn−Sham DFTによって分子軌道関数と1電子エネルギー準位の算出を行う。
(3)上記の算出値は分子がBorn−Oppenheimer面上で最小エネルギーを持つ構造での算出値とする。
なお、この分子軌道計算の詳細については、非特許文献2−6参照のこと。
【0085】
条件(III)は、本実施の形態に用いる有機分子が比較的良好な電子伝導性を持ち、同時にその分子集合体が自己集合的な単分子膜を形成しやすいという、有機分子メモリ形成に必要とされる基本的条件を満たすための分子構造要件である。
【0086】
例えば、一般式1で示される構造を持つ分子群は特定のユニットで結合された隣接する、π電子系を有する分子ユニット、から構成される構造を基本骨格とする。したがって、それらの分子群のフロンティア軌道周辺の1電子波動関数の多くが分子軸にそって非局在化した関数形態をとり、その非局在化したπ電子系の存在のために、比較的高い電子伝導性発現が可能となる。
【0087】
一方、一般式1に記述されている置換基群は主に条件(I)、(II)を実現させるための必要条件として機能する役割を担う。ただし、条件(III)を満たす分子群の全てが本発明の有機分子メモリに用いる分子に該当するものではなく、そのうち条件(I)、(II)を同時に満たすものに限定される。
【0088】
以上詳述した通り、条件(I)および(II)、好ましくは(III)をともに満たす分子群から選ばれる有機分子を主構成要素として有機分子層も用いると、コンダクタンス変化と非対称的なI−V曲線の発現というメモリ機能を維持しながら、従来よりも長いメモリ保持時間が実現できる。したがって、実用性を飛躍的に増大させた新たな有機分子メモリを提供することが可能となる。
【0089】
また、本実施の形態による有機分子メモリを用いれば、分子のHOMO準位を適切に制御することによって、メモリ用途に応じたメモリ時間を持つ有機分子メモリの実現も可能である。従って本発明の有機分子メモリによってメモリ用途は飛躍的に拡大し、とりわけ格段の大容量化、高密度化が要求されるメモリ製品領域に有機分子の利点を最大限に生かした有機分子メモリが提供できる。
【0090】
以下、本実施の形態の有機分子メモリに関して、分子のHOMO準位を上昇させた場合の相対的メモリ保持時間のシミュレーション結果、及び具体的な分子群とそれらの特性、及び相対的メモリ保持時間のシミュレーション結果を例示し、メモリ保持時間の増大とその制御可能性という、本実施の形態の有機分子メモリによってもたらされる優れた特性にについて説明する。
【0091】
上記分子Aを用いた2端子素子と同じ構成の有機分子メモリにおいて、有機分子を変えた場合も、分子Aの場合と同じ分子−電極間接合状態を維持することを前提として、分子のHOMO準位を上昇させた場合のメモリ保持時間比率のシミュレーション結果を表1に示す。表1は、分子Aを用いたメモリ保持時間を基準にしたメモリ保持時間比率を表示している。
【0092】
シミュレーションにおいては、0バイアス状態で、電子が電極から、正荷電し1個空軌道になっている分子のHOMO準位に移動する際の移動速度と、同じく正荷電している比較分子Aにおいて電極の電子が同じく従来のHOMOに移動する際の移動速度との、移動速度比率を、基本的には電子移動反応の遷移状態理論に基づいた方法論で算出し、更にその電子移動速度比率の逆数を相対的なメモリ保持時間比率として算出している。
【0093】
表1は、分子のHOMO準位の上昇に伴う2端子素子メモリ保持時間のシミュレーション結果である。
表1に示される通り、分子のHOMO準位の上昇に伴ってメモリ保持時間は増大していく。メモリ保持時間は+0.2eV程度の範囲ではゆるやかに上昇していくが、+0.45eVの上昇で約2桁上昇し、それ以降は指数関数的に上昇していく。
【0094】
このことから、HOMO準位の充分高い分子を用いることによって、メモリ保持時間を向上させ、不揮発性メモリの実現が可能であることが分かる。またHOMO準位制御によってメモリ保持時間制御が可能なことから、適切なHOMO準位を持つ分子を選択することによって、メモリ用途に応じたメモリ保持時間を持つ有機分子メモリを提供できる。
【0095】
【表1】
【0096】
上記シミュレーション結果が示す通り、本実施の形態が提供する有機分子メモリは分子Aを用いる有機分子メモリに較べてより長いメモリ保持時間を実現する。例えば、HOMO準位が−5.70eVでは分子Aに対し、1.3倍のメモリ保持時間が実現される。前述した通り本実施の形態に用いる有機分子は条件(I)および(II)、好ましくは(III)を同時に満たす分子群から選ばれる。
【0097】
条件(I)および(II)、(III)を同時に満たす有機分子の分子構造の具体例、分子構造式S1〜S11で表される分子S1〜S11を、以下に示す。ここで例示した分子群は、π電子系を持つユニットの連続的な結合体から構成される。分子軸に沿ってπ電子系を持つユニットが配列する。これは前述した通り分子伝導を実現するための必要条件となる。
【0098】
【化35】
【化36】
【化37】
【化38】
【化39】
【化40】
【化41】
【化42】
【化43】
【化44】
【化45】
【0099】
例示した分子S1〜S11は、いずれも下記一般式2で示される分子構造式を中核構造としている点では共通している。
【0100】
【化46】
上記一般式2に於いて、C、D、E、は下記(e)群より選ばれる置換基または水素原子であり、AおよびBは下記(f)で表される構造群より選ばれる分子構造体から構成される。
(e)NO2、CN、F、COOH、COOR、SO3H、SO3R、NH2、NR2、OH、OR、R。ただし、Rはアルキル基。
(f)フェニル環、チオフェン環、ピロール環、フラン環、ピリジン環、ピラジン環、カルバゾール環、キサンテン環、キノリン環、インキノリン環、アクリジン環およびそれらの置換修飾体単独及びそれらが特定のユニット構造を介して連結した構造を持つ連結体。ここで、特定のユニット構造は、C−C結合ユニット、エチレン型2重結合ユニット(C=C)、アセチレン型C−C3重結合型ユニットから選ばれる構造体である。
【0101】
この中核構造の存在はLUMOの分子軸に沿っての非対称的な局在化現象の発現する要素として機能する。ただし、それらの特性を発現するための中核構造としては何ら一般式2の構造に限定されるものではない。
【0102】
また、例示した分子のうち、分子S2〜S11は、いずれもチオフェンまたはその誘導体を分子中に備える点で共通している。特に、分子S5、S6、S9〜S11は、いずれもチオフェンまたはその誘導体を、複数分子中に備えている点で共通している。
【0103】
また、例示した分子のうち、分子S9〜S11は、いずれも下記一般式3または一般式4で示される分子構造式を中核構造としている点では共通している。
【0104】
【化47】
【化48】
上記一般式3、一般式4に於いて、C、D、E、F、G、H、Iは下記(e)群より選ばれる置換基または水素原子であり、Aは下記(f)で表される構造群より選ばれる分子構造体から構成される。また、Xは反応性官能基である。
(e)NO2、CN、F、COOH、COOR、SO3H、SO3R、NH2、NR2、OH、OR、R。ただし、Rはアルキル基。
(f)フェニル環、チオフェン環、ピロール環、フラン環、ピリジン環、ピラジン環、カルバゾール環、キサンテン環、キノリン環、インキノリン環、アクリジン環およびそれらの置換修飾体単独及びそれらが特定のユニット構造を介して連結した構造を持つ連結体。ここで、前記特定のユニット構造は、C−C結合ユニット、エチレン型2重結合ユニット(C=C)、アセチレン型C−C3重結合型ユニットから選ばれる構造体である。
【0105】
図7〜図17は、分子S1の最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)を示す図である。HOMO、LUMO及び分子軸に対する分子軌道の主分布領域比率もそれぞれ図7〜図17に示す。図から明らかなように、S1からS11に示される分子群は、分子軸にそった分子軌道(LUMO)の主分布領域比率が、分子軸に対して90%以下であり、いずれも条件(I)を満たす。
【0106】
また、いずれの分子もHOMOが分子軸にそって非局在化しているのに対し、LUMOでは分子軸に沿って拡がっていたπ電子系が途中で途切れ、左側に局在した状態になっている。すなわち、分子軌道が非対称的に局在化している。これは荷電状態の変化に伴うコンダクタンス変化と非対称的なI−V特性変化が発現される電子状態であり、分子S1〜S11の分子例のいずれもこの性質を保持していることが分かる。
【0107】
同時にこれらの分子群は条件(II)を満たし、かつ条件(III)に規定される分子群に属している。
【0108】
ただし、条件(II)、(III)を満たす分子群がそのまま条件(I)を満たす訳ではない。例えば、条件(II)、(III)を満たす分子例として下記構造式T1、T2で示される分子T1、T2を挙げることができる。
【0109】
【化49】
【化50】
【0110】
分子T1、T2は一般式1に示される中核構造を持ち、電子供与性質を持つエーテル系置換基によってそれらのHOMO準位は押し上げられ、分子軌道計算によるHOMO準位の算出値はT1、T2がそれぞれ−5.12、−4.92eVと条件(II)を満たしている。
【0111】
しかしながら、図18、図19に示される通り、本分子ではLUMO、HOMOともに分子軸にそって非局在化しており、本実施の形態の有機分子メモリの構成要件である条件(I)を充足せず、抵抗変化現象の発現しにくい電子状態となっている。それに対し、分子S1〜S11に示される本実施の形態による分子群は、上述した通り、いずれもHOMOが分子軸に対し非局在化し、LUMOが分子軸に対し局在化している。
【0112】
表2は、、分子Aおよび分子S1〜S11の分子群を主構成要素とする2端子素子でのメモリ保持時間のシミュレーション結果である。表に示される通り、いずれも既存の分子である分子Aよりも長いメモリ保持時間を示している。
【0113】
分子AのHOMO準位に対し0.4eV程度(HOMO準位が−5.45eV程度)の上昇範囲ではメモリ保持時間の上昇は緩やかではあるが、HOMO準位の上昇が0.45eV(HOMO準位が−5.40eV)を超えるあたりから、メモリ保持時間は急激に増大し、S11では分子Aのメモリ保持時間に対し、8.07×104倍のメモリ保持時間を有することを示している。
【0114】
【表2】
【0115】
以上のように、本実施の形態が規定する新たな分子を用いた有機分子メモリによって、従来よりも長いメモリ保持時間を持つ有機分子メモリの提供が可能となる。また特定の分子構造と特定の電子状態に規定された条件下でHOMO準位の異なる分子を用いることによって、有機分子メモリのメモリ保持時間の制御が可能となり、例えばメモリ用途に応じたメモリ保持時間を持つ素子の提供も可能となる。
【0116】
これまで飛躍的な高密度化、大容量化、低消費電力化という潜在能力をもちながらも、メモリ保持時間が短いために、有機分子メモリが製品化されたとしても、極めて狭い応用範囲に限定される様な状態であった。しかし、本実施の形態の有機分子メモリを用いることによってその応用範囲が飛躍的に拡大され、有機分子メモリの持つ上述の利点が充分に活用された実用的な電子デバイス群の提供が可能となる。
【0117】
(第2の実施の形態)
本実施の形態の有機分子メモリは、1個のトランジスタと1個の有機分子層をメモリセルとする有機分子メモリである。メモリセル構造以外は、基本的に第1の実施の形態と同様である。したがって、第1の実施の形態と重複する内容については記述を省略する。
【0118】
図20は、本実施の形態の有機分子メモリのメモリセル部の模式断面図である。
【0119】
本実施の形態の有機分子メモリは、1個のトランジスタと1個の抵抗変化型の有機分子層をメモリセルとする分子メモリである。図20に示すように、基板70上に、ゲート絶縁膜72とゲート電極74とを備える選択トランジスタ76が形成される。基板70には、ゲート電極74を挟んで第1のソース・ドレイン領域80と第2のソース・ドレイン領域82が形成される。
【0120】
基板70は、例えばシリコン基板である。ゲート絶縁膜72は、例えば、シリコン酸化膜である。ゲート電極74は、例えば多結晶シリコンである。第1のソース・ドレイン領域80および第2のソース・ドレイン領域82は、例えば、砒素(As)を不純物とする拡散層である。
【0121】
第1のソース・ドレイン領域80上には、第1のコンタクトプラグ84が形成される。そして、第1のコンタクトプラグ84上には第1のビット線86が形成される。第1のコンタクトプラグ84の材料は、例えば、タングステンであり、第1のビット線86の材料は、例えば、モリブデンである。
【0122】
第2のソース・ドレイン領域82上には、第2のコンタクトプラグ(第1の導電層)88が形成される。そして、第2のコンタクトプラグ88上には、有機分子層90を挟んで第2のビット線(第2の導電層)92が形成される。第2のコンタクトプラグ88の材料は、例えば、タングステンであり、第2のビット線92の材料は、例えば、モリブデンである。第2のビット線92の材料は、第2のコンタクトプラグ88とは異なる材料で形成される。
【0123】
複数の抵抗変化型分子鎖16aが、有機分子層90を構成する。有機分子層90を構成する抵抗変化型分子鎖は、例えば、図2に示すような、抵抗変化型分子鎖である。
【0124】
抵抗変化型分子鎖は、電場の有無や電荷の注入により抵抗が変化する機能を備える分子鎖である。例えば、図2に示す分子構造を備える抵抗変化型分子鎖は、両端部の間に電圧を印加することで低抵抗状態と高抵抗状態とを切り替えることが可能である。
【0125】
本実施の形態の有機分子メモリは、選択トランジスタ76をオンさせた状態で、第1のビット線86と第2のビット線92との間に電圧を印加することで、有機分子層90への書き込み、消去が可能となる。また、選択トランジスタ76をオン状態にして、第1のビット線86と第2のビット線92間に流れる電流をモニタすることで、有機分子層90の抵抗状態の読み出しが可能となる。これらの動作によりメモリセルが機能する。
【0126】
本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様、メモリ保持時間の向上する有機分子メモリを実現することが可能となる。
【0127】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態および実施例について説明した。上記、実施の形態および実施例はあくまで、例として挙げられているだけであり、本発明を限定するものではない。また、実施の形態の説明においては、有機分子メモリ、有機分子メモリ用有機分子等で、本発明の説明に直接必要としない部分等については記載を省略したが、必要とされる有機分子メモリ、有機分子メモリ用有機分子等に関わる要素を適宜選択して用いることができる。
【0128】
例えば、本実施の形態の有機分子メモリにおける電極との接合形態は、片方が化学結合を形成し、もう一方が物理吸着状態或いは空隙が空いた状態という、接合構造自体に非対称性を導入したデバイス構造として使用することができる。これにより、非対称なI−V特性が実現される。また、本実施の形態のように分子の電子状態自体に非対称性を導入した分子を用いれば、両電極とも化学結合で接合する素子構造で使用しても非対称なI−V特性を実現することが可能である。
【0129】
また、本実施の形態の有機分子は、上述の通り、一方の分子端或いは両端を電極に対し化学結合によって接合する構造として使用される場合が多いため、そのため分子の一端或いは両端にリンカーという反応性官能基を付けたものを用いる。実施の形態ではリンカーとしてSH基を使用する場合を例示している。しかし、リンカーとして用いる反応性官能基は何らSH基に限定されるものではなく、例えば以下に示す官能基を使用することができる。
【0130】
−SCOCH3、−SeH、−TeH、−SCN、−NC、−SiCl3、−Si(OR)3、RSiCl3、−RSi(OR)3、−CH=CH2、−NH2、−COOH、−COOR、−SO2OR、−NC、−CN、−P=O(OH)2、−P=O(OR)2。ただし、Rはアルキル基。
【0131】
これらの反応性官能基は、本実施の形態の有機分子のπ電子系が拡がっている分子骨格に直接結合しても構わない。また、π電子系が拡がっている分子骨格との間にアルキル基を挟んで、反応性官能基が結合しても構わない。
【0132】
π電子系が拡がっている分子骨格との間にアルキル基を挟んで反応性官能基を備える有機分子を電極に化学結合する場合、化学結合する部位とπ電子系が拡がっている分子骨格との間にアルキル基が存在することになる。
【0133】
また、有機分子メモリとして、実施の形態で説明したクロスポイント型、1トランジスタ+有機分子層型に限らず、3次元構造型等のその他の構造の有機分子メモリを採用することも可能である。
【0134】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての有機分子メモリおよび有機分子メモリ用有機分子が、本発明の範囲に包含される。本発明の範囲は、特許請求の範囲およびその均等物の範囲によって定義されるものである。
【符号の説明】
【0135】
12 第1の導電層
14 第2の導電層
16 有機分子層
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、有機分子メモリおよび有機分子メモリ用有機分子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年記憶素子、論理素子ともにスケーリングによる高密度化が進んでいる。そして、それに伴う集積回路の高集積化、大容量化が進んでいる。特に、メモリ回路においてはその傾向が著しい。
【0003】
しかしながら、現在のシリコン(Si)メモリデバイスでは現行の基本構造を維持する限り、早晩そのスケーリングが限界に達し、メモリチップの高密度化や大容量化の進行が停止すると予想されている。
【0004】
その限界を超えるものとして単分子ないしは分子集合体をメモリ素子に用いた新たなメモリデバイスである有機分子メモリが提案され、これまでその試作の報告がされてきた。既に報告されている通り、その様な有機分子メモリを用いることによって、従来のシリコンデバイスを用いる場合に較べて、飛躍的な高密度化、高集積化、低消費電力化の実現が可能となる。
【0005】
メモリ素子では、一定のメモリ保持時間が必要とされる。このためメモリ素子に用いられる有機分子のメモリ保持特性の向上が重要となる。特に、不揮発性メモリとしての使用を目的とした場合には、長いメモリ保持時間が要求されるためメモリ保持特性の一層の向上が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2004−518268号公報
【0007】
【特許文献2】米国特許6756605明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】C.Li et. al,“Fabrication approach for molecular memory arrays”, Appl.Phys.Lett.,Vol.82,No.4,pp645−647(2003)
【0009】
【非特許文献2】W.Hehre,L.Radom,P.von R.Schleyer,J.A.Pople,“Ab Initio Molecular Orbital Theory” Willey:New York,1986.
【0010】
【非特許文献3】A.D.Becke,J.Chem.Phys.98,5648(1993).
【0011】
【非特許文献4】A.E.Frisch,M.J.Frisch,“Gaussian 98 User’s Reference” Gaussian Inc.:Pittsburgh,PA,1998.
【0012】
【非特許文献5】W.Kohn and J.Sham,Phys.Rev.140,A1133(1965).
【0013】
【非特許文献6】R.Parr and W.Yang,“Density−Functional Theory of Atoms and Molecules”Oxford Univ. Press (1994).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、メモリ保持特性に優れた有機分子メモリおよび有機分子メモリ用有機分子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
実施の形態の有機分子メモリは、第1の導電層と、第2の導電層と、前記第1の導電層と前記第2の導電層との間に設けられ、分子軸に沿ってπ電子系が拡がっている分子骨格を持つ分子系において、下記(I)、(II)で示される条件を同時に満たす分子群より選ばれる有機分子を含む有機分子層と、を備えている。
(I)分子の最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)のうちいずれか一方が分子軸にそって非局在化し、他方が分子軸に対して局在化していることを特徴とする分子群。
(II)分子の最高被占軌道(HOMO)エネルギー準位が−5.75eV以上の値を持つ分子群。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施の形態の有機分子メモリの模式斜視図である。
【図2】第1の実施の形態のメモリセル部の有機分子の分子構造の一例を示す図である。
【図3】第1の実施の形態のメモリセル部の回路図である。
【図4】分子Aの最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)を示す図である。
【図5】有機分子メモリにおけるメモリ保持時間の説明図である。
【図6】有機分子中の電子の移動を説明する図である。
【図7】分子S1の軌道図である。
【図8】分子S2の軌道図である。
【図9】分子S3の軌道図である。
【図10】分子S4の軌道図である。
【図11】分子S5の軌道図である。
【図12】分子S6の軌道図である。
【図13】分子S7の軌道図である。
【図14】分子S8の軌道図である。
【図15】分子S9の軌道図である。
【図16】分子S10の軌道図である。
【図17】分子S11の軌道図である。
【図18】分子T1の軌道図である。
【図19】分子T2の軌道図である。
【図20】第2の実施の形態の有機分子メモリの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
有機分子メモリは、例えば、単分子の両端あるいは分子集合体である単分子膜の上下の面を電極で接合した2端子有機分子メモリから構成される。そして、分子の抵抗が低抵抗と高抵抗に変化する現象をメモリの0、1に対応させることによってメモリ機能を発現させる。従来、伝導性分子の2端子素子を試作し、その抵抗変化現象の発現を利用したメモリ機能発現とその際の書き込み−消去回数、メモリ保持時間等のメモリ諸特性の報告が成されている。
【0018】
この様な有機分子を用いたメモリデバイスは、分子集合体のみならず、原理的に1個の分子単独でも機能することが確認されていることから、集積回路として考えると圧倒的なスケーラビリティーを持ち、従来のシリコンデバイスに較べて飛躍的な高密度化、大容量化が可能となる。
【0019】
一方、有機分子メモリにおいては、一定のメモリ保持時間が要求される。とりわけ不揮発性メモリとしての使用を目的とした場合は、長期のメモリ保持時間の実現が必要条件となる。逆にメモリ保持時間が短いと、一定のメモリ機能自体はあるものの、メモリとしての応用用途は制限されてしまうことになる。
【0020】
従来報告されているメモリ素子の場合、メモリ保持時間は数10−数100秒の範囲に留まり、集積回路としての高密度、高集積度、大容量化という潜在能力を持つものの応用範囲が限定され、今後一層の大容量化が要求される不揮発性メモリとしての使用は不十分な状態にある。すなわち、現状のままでは有機分子メモリの持つ飛躍的な高密度化、大容量化、低消費電力化の能力が十分に生かしきれないと考えられる。
【0021】
したがって、不揮発性メモリを含む広範なメモリ用途に対応させるためにはメモリ保持時間のさらなる向上が望まれる。
【0022】
一方、メモリ素子は一定以上のメモリ保持時間を持てばそれに対応した応用分野に使用可能となるが、用途によって要求されるメモリ保持時間の範囲は一様ではなく、その意味では満たすべきメモリ保持時間は決して固定したものではない。その点から考えれば、基本的なメモリ素子構造を維持しながら、メモリ用途に対応してメモリ保持時間が分子構造を含む構造設計によってある程度自由に制御できるとすれば、不揮発性メモリを含む広範な応用範囲に適用できるメモリ素子を任意に設計することが可能となる。
【0023】
実施の形態においては、メモリ保持特性に優れた有機分子メモリおよび有機分子メモリ用有機分子について説明する。
【0024】
なお、本明細書中、分子の最高被占軌道(HOMO)または最低空軌道(LUMO)が、「局在化」または「非局在化」しているという表現を用いている。ここでいう「局在化」とは、以下に示す特定の方法論の分子軌道計算で算出された分子軌道を0.02au(atomic unit)の等振幅強度面で表示した分子軌道分布に於いて、分子軸にそった分子軌道の主分布領域比率が、分子軸に対して少なくとも90%以下であるものとして定義される。
【0025】
ここで、特定の方法論の分子軌道計算とは以下の条件で算出される分子軌道計算を示す。すなわち、LCAO(Linear Combination of Atomic Orbital)近似で行われる分子軌道計算において、
(1)基底関数系は6−31+G(d)基底を用いる。
(2)B3LYP hybrid exchange−correlation functionalを用いたKohn−Sham DFTによって分子軌道関数と1電子エネルギー準位の算出を行う。
(3)上記の1電子エネルギー準位の算出値は分子がBorn−Oppenheimer面上で最小エネルギーを持つ構造での算出値とする。
【0026】
また、本明細書中の最高被占軌道(HOMO)のエネルギー準位の値は、上記分子軌道計算と同一の方法で算出された値として規定される。
【0027】
また、本明細書中、主分布領域比率とは、分子軸の全長に対し、分子軌道の主分布領域が占める長さの割合を意味する。ここで分子軸とは分子の両端の環式化合物の末端の原子を結ぶ軸である。分子軌道の主分布領域とは、分子軌道を構成するp軌道群のうち、最大振幅を持つp軌道の振幅を1とした場合、p軌道の振幅が0.5以上で連続する範囲を主分布領域として定義するものである。但しp軌道の振幅とは、分子軌道を0.02au(atomic unit)の等振幅強度面で表示したとき、その等振幅強度面で囲まれるp軌道主軸の長さとして規定される。
【0028】
また、本明細書中「化学結合」とは、共有結合、イオン結合、金属結合のいずれかを指す概念とし、水素結合やファンデルワールス力による結合を除外する概念とする。
【0029】
また、本明細書中「空隙」の幅とは、電極(導電層)と、この電極に対向する有機分子層を構成する有機分子の端部との間の距離を意味する。より厳密には、電極表面と有機分子の終端部の炭素(C)原子、または酸素(O)原子、窒素(N)原子、硫黄(S)原子等のヘテロ原子の重心との距離を表わす概念とする。そして、「空隙(エアギャップ)」部分は、真空であっても、空気あるいはその他の気体が存在していてもかまわない。
【0030】
(第1の実施の形態)
本実施の形態の有機分子メモリは、第1の導電層と、第2の導電層と、第1の導電層と第2の導電層との間に設けられ、分子軸に沿ってπ電子系が拡がっている分子骨格を持つ分子系において、下記(I)、(II)で示される条件を同時に満たす分子群より選ばれる有機分子を含む有機分子層と、を備えている。
(I)分子の最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)のうちいずれか一方が分子軸にそって非局在化し、他方が分子軸に対して局在化していることを特徴とする分子群。
(II)分子の最高被占軌道(HOMO)エネルギー準位が−5.75eV以上の値を持つ分子群。
【0031】
本実施の形態によれば、有機分子層に含まれる有機分子のHOMOとLUMOのいずれか一方が局在化し、他方が非局在化することで、2つコンダクタンス(抵抗)の異なる状態が実現される。そして、この2つの状態を利用して有機分子メモリを実現することが可能となる。このように、抵抗が変化する機能を備える有機分子は抵抗変化型分子鎖とも称される。
【0032】
さらに、有機分子層中の有機分子の最高被占軌道(HOMO)エネルギー準位が−5.75eV以上の値を持つことにより、導電層(電極)の電子が有機分子層中の有機分子のHOMO準位に戻りにくくなり、メモリ保持時間が向上する。
【0033】
図1は、本実施の形態の有機分子メモリの模式斜視図である。図2は、メモリセル部の有機分子の分子構造の一例を示す図である。図3は、メモリセル部の回路図である。
【0034】
本実施の形態の分子メモリは、クロスポイント型の有機分子メモリである。図1に示すように、たとえば基板(図示せず)の上部に下部電極配線(第1の導電層)12が設けられている。そして、下部電極配線12に交差するように上部電極配線(第2の導電層)14が設けられている。電極配線のデザインルールは例えば、5〜20nm程度である。
【0035】
図1に示すように、下部電極配線12と上部電極配線14との交差部の、下部電極配線12と上部電極配線14との間には、有機分子層16が設けられている。抵抗変化型分子鎖16aが、有機分子層16を構成する。有機分子層の厚さは、例えば、1〜20nm程度である。
【0036】
そして、図3に示すように、複数本の下部電極配線(ワード線)12と複数本の上部電極配線(ビット線)14が交差する点のそれぞれに、図1のように有機分子層16を設けてメモリセルを形成する。このようにして、複数のメモリセルで構成されるメモリセルアレイが実現される。
【0037】
なお、本実施の形態の抵抗変化型分子鎖16aは、後述するようにダイオード特性を備え、そのダイオード特性がメモリ動作にとって十分であるため、別途、ダイオード特性を備える素子を接続することを要しない。ダイオード特性を備えない、または、十分なダイオード特性を備えない抵抗変化型素子をメモリセルに適用する場合には、別途ダイオード特性を備える素子を抵抗変化型分子鎖に接続することで、図3の回路構成を実現することが可能である。
【0038】
本実施の形態の有機分子層16は、例えば複数の抵抗変化型分子鎖16aで構成されている。抵抗変化型分子鎖16aの少なくとも一端が下部電極配線12と化学結合している。抵抗変化型分子鎖16aは、下部電極配線12側から上部電極配線14に向かって伸長する。
【0039】
下部電極配線12は、例えば、(110)面を表面とするシリコン(Si)の基板(図示せず)上に形成される。下部電極配線12は、例えば、金属材料である金(Au)である。下部電極配線12の有機分子層16に接する面は、例えば(111)面である。また、上部電極配線14は、例えば、金属材料であるモリブデン(Mo)である。
【0040】
本実施の形態の有機分子層16を構成する抵抗変化型分子鎖16aは、例えば、図2に示すような、分子構造を備えている。
【0041】
図2の抵抗変化型分子鎖は、電極に結合される前に一端にリンカーと称される反応性官能基としてチオール基を備える。そして、硫黄原子(S)と、下部電極配線12表面の金原子(Au)とが化学結合している。ここで、リンカーとは化学結合により電極(導電層)に対して分子を固定する部位を意味する。結合前の図2の抵抗変化型分子鎖16aは、後に記述する分子S10に相当する。
【0042】
このように、下部電極12表面の金原子とチオール基が結合されて、いわゆる、自己組織化単分子膜(Self−assembled monolayer:SAM)である有機分子層16が形成されている。一方、抵抗変化型分子鎖16aの他端のベンゼン環は、上部電極14表面のモリブデン(Mo)原子と化学結合していない。
【0043】
すなわち、抵抗変化型分子鎖16aの他端は、他方の導電層と物理吸着するか他方の導電層との間に空隙を備える。空隙の幅は0.3nm以下であることが抵抗増大を抑制する観点から望ましい。
【0044】
ここで、抵抗変化型分子鎖16aは、電場の有無や電荷の注入により抵抗が変化する機能を備える分子鎖である。例えば、図2に示す分子構造を備える抵抗変化型分子鎖は、両端部の間に電圧を印加することで低抵抗状態と高抵抗状態とを切り替えることが可能である。この抵抗状態の変化を利用することでメモリセルが実現される。
【0045】
従来、有機分子メモリに用いる分子として最も多く報告されていた代表的な分子は下記式(A)の分子構造式で示される分子(分子A)であり、特有の構造と特有の電子状態を持つ。ここでSH基は電極と結合させるための反応性官能基である。分子Aは抵抗変化型分子鎖であり、ツアーワイア(Tour wire)とも称される。
【0046】
【化1】
【0047】
図4は、分子Aの最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)を示す図である。図4(a)がLUMO、図4(b)がHOMOを示している。
【0048】
分子Aはそのフロンティア軌道である最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)で特有の性質を持ち、分子軌道法によって計算されるHOMO及びLUMOは図4に示される軌道になる。すなわち、HOMOは分子軸に沿って非局在化し、分子軸全体に拡がっているのに対し、LUMOは分子軸左側部分に非対照的に局在化している。
【0049】
分子Aの左右に電極を接合し、電流を流した場合、分子A全体の電荷状態によって電子が移動する主経路が変化する。通常の分子の様に分子全体で電荷的中性が保たれている場合、電子が占有されていない最もエネルギー準位の低い軌道がLUMOであることから、LUMOが電子の主移動経路になる。それに対し、正荷電状態になると、電子が占有されていない最もエネルギー準位の低い軌道がHOMOになることからHOMOが電子の主移動経路になる。
【0050】
したがって、LUMOとHOMOの軌道分布状態に大きな差がある程、電荷的中性状態と正荷電状態との間でおおきなコンダクタンス変化(抵抗変化)が生じる。とりわけHOMOとLUMOのいずれかが分子軸に沿って非局在化しているとその場合にはコヒーレント伝導に近い伝導になり、高いコンダクタンス(低い抵抗)が実現される。
【0051】
一方の軌道が分子軸全体に拡がらないで局在化すると電子移動効率が低下し、コンダクタンスが低下する。図4に示される様に、特に分子軌道が分子軸に対して非対称的に局在するとI−V曲線の非対称性が実現しやすい。このため、分子軌道の非対称性は整流特性を合わせ持つ分子メモリ素子の実現には重要な要素となる。したがって、分子軌道は非対称的に局在化することが望ましい。
【0052】
上述した様な特有の電子状態を持つ分子に対し、分子の電荷状態をパルス電圧印加制御等によって、電荷的中性状態と正荷電状態の2種の状態を交互に実現させ、そのことによって、該当分子は2種のコンダクタンスを持つことになる。そして2種のコンダクタンスをメモリの“0”、“1”に対応させることによって、該当分子を左右の電極に接合させた整流作用を併せ持つ2端子分子メモリ素子が実現できる。
【0053】
有機分子が十分な整流作用を備える場合には、図1のようなクロスポイント型の有機分子メモリにおいて、例えば、ダイオード素子を別途付加することなくメモリ機能を実現できる。したがって、有機分子メモリの高密度化、低コスト化に好適である。
【0054】
図5は、有機分子メモリにおけるメモリ保持時間の説明図である。例えば、分子Aでは、コンダクタンスを変化させた状態が長くは続かず、メモリ保持時間が数10秒から数100秒に留まる。
【0055】
これは、図5に示される通り、正荷電状態になってコンダクタンスを変化させた状態にしても、電極からフェルミ準位にある電子が短時間のうちに正荷電状態にある分子のHOMO準位に戻り、分子がもとの電荷的中性状態に戻ってしまうことによる。それは電子が電極のフェルミ準位から分子のHOMO準位に戻る移動速度が速すぎるために起きる現象である。例えば、電子移動速度が1桁遅くなればメモリ保持時間は1桁延びることになる。したがって、電極から分子への電子の移動速度を下げることによって、メモリ保持時間の増大が可能となる。
【0056】
ところで、電極のフェルミ準位にある電子が正荷電状態にあるHOMO準位に戻る移動速度はフェルミ準位とHOMO準位の差の上昇とともに指数関数的に増大する。分子構造の修正によって従来のHOMO準位を上昇させ、フェルミ準位とHOMO準位の差を減少させることによって電子移動速度を低下させれば、メモリ保持時間の増大が実現可能であることが発明者らの検討によって明らかになった。
【0057】
図5でみれば、HOMO準位をHOMO(1)からHOMO(2)のエネルギー準位にすることにより、メモリ保持時間が増大する。
【0058】
一方、全てのメモリデバイスが不揮発性メモリ程長期のメモリ保持時間が要求される訳ではなく、要求されるメモリ保持時間はメモリ用途によって様々である。その様な要求に対しても、分子のHOMO準位を制御することによって、メモリ用途に応じた保持時間を持つ有機分子メモリを提供することが可能となる。
【0059】
ただし、長いメモリ保持時間を持つ有機分子メモリ実現のためには、分子のHOMO準位の制御という条件の他に、素子に用いる有機分子が以下に示す条件(X)を満たすことが必要条件となり、更に条件(Y)を満たすことが好ましい。
条件(X):該当分子が再現性のあるヒステリシス機能を持つ。
条件(Y):非対称的なI−V特性を持ち、整流機能を有する。
【0060】
すなわち、メモリ保持時間の長い有機分子メモリの実現、及び分子構造制御によってメモリ保持時間が制御可能な、用途に応じたメモリ時間を有する有機分子メモリを提供するためには、条件(X)を満たしながらHOMO準位を上昇させ、かつその上昇度の制御を行う必要がある。更には同時に条件(Y)を満たしながらHOMO準位を上昇させることがより好ましい。
【0061】
分子の最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)のうちいずれか一方が分子軸にそって非局在化し、それ以外の一方が分子軸に対して局在化することで、条件(X)が充足される。そして、一方が分子軸に対して非対称的に局在化することで、条件(Y)が充足されることになる。
【0062】
本実施の形態によれば、分子軸に沿ってπ電子系が拡がっている分子骨格を持つ分子系において、以下の(I)、(II)で示される条件を同時に満たし、好ましくは(III)の条件を満たす分子群より選ばれる単分子ないしは分子集合体を電極(導電層)に結合あるいは接触させたものを有機分子層の主構成要素として用いる。これによって、抵抗変化によるメモリ機能の実現とメモリ保持時間の向上、両者の達成が可能となる。
(I)分子の最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)のうちいずれか一方が分子軸にそって非局在化し、それ以外の一方が分子軸に対して非対称的或いは対称的に局在化していることを特徴とする分子群
(II)分子の最高被占軌道エネルギー準位が−5.75eV以上の値を持つ分子群。
(III)以下の(イ)または(ロ)に示される分子群から選ばれるπ電子を持つ分子群
(イ)下記一般式1で示される特定の構造を中核構造として持つ分子群で、かつ、第1の導電層または第2の導電層と結合させるための反応性官能基を備える分子群。
【化2】
上記一般式1において、C、D、E、Fは下記(a)群より選ばれる置換基または水素原子であり、AおよびBは下記(b)で表される構造群より選ばれる分子構造体から構成される。
(a)NO2、CN、F、COOH、COOR、SO3H、SO3R、NH2、NR2、OH、OR、R。ただし、Rはアルキル基。
(b)フェニル環、チオフェン環、ピロール環、フラン環、ピリジン環、ピラジン環、カルバゾール環、キサンテン環、キノリン環、インキノリン環、アクリジン環およびそれらの置換修飾体単独およびそれらが特定のユニット構造を介して連結した構造を持つ連結体。ここで、特定のユニット構造は、C−C結合ユニット、エチレン型2重結合ユニット(C=C)、アセチレン型C−C3重結合型ユニットから選ばれる構造体である。
(ロ)下記式(C1)〜(C16)に示される多環系芳香族炭化水素およびその炭素(C)の一部を窒素(N)に置換したπ電子骨格系分子単独、または、それらが特定のユニット構造を介して連結した構造を持つ連結体を(a)群から選ばれる置換基で置換基修飾した分子系を中核構造とし、第1の導電層または第2の導電層と結合させるための反応性官能基を結合させた分子群。ここで、特定のユニット構造は、C−C結合ユニット、エチレン型2重結合ユニット(C=C)、アセチレン型C−C3重結合型ユニットから選ばれる構造体である。
【0063】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【0064】
一般式1において、AおよびBが下記式(B1)〜(B16)で示される構造(式中C、D、E、Fは前記(a)群から選ばれる置換基、Rはアルキル基)単独またはそれらの置換修飾体からなる基本構造単独、または、その基本構造が特定のユニット構造で連結された連結体からなることが望ましい。ここで、特定のユニット構造は、C−C結合ユニット、エチレン型2重結合ユニット(C=C)、アセチレン型C−C3重結合型ユニットから選ばれる構造体である。
【0065】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
【化30】
【化31】
【化32】
【化33】
【化34】
【0066】
また、上記(イ)で規定される分子群において、上記中核構造と上記反応性官能基との間に、アルキル基を備え、上記(ロ)で規定される分子群において、上記分子系と上記反応性官能基との間に、アルキル基を備えることが望ましい。
【0067】
次に、3つの条件(I)、(II)、(III)について詳述する。条件(I)は電荷的中性状態→正荷電状態→電荷的中性状態の様な荷電状態変化に伴ってそのコンダクタンス変化が生じるための要件として設定される。
【0068】
図6は、有機分子中の電子の移動を説明する図である。図6(a)は分子が電荷的中性状態を維持している場合、図6(b)は分子が正電荷状態になった場合である。
【0069】
分子を通して電子が移動する場合、電荷的中性が保たれている場合、図6(a)に示される通り、電子が占有されていないなかで最もエネルギーの低い軌道であるLUMOが主伝導経路を担う。一方、正荷電状態の場合には、図6(b)に示される通り、電子非占有で最もエネルギーの低い軌道がHOMOになることから、その場合にはHOMOが主伝導経路を担う。
【0070】
仮に、HOMOとLUMOが空間的に全く同じ波動関数ならば電荷的中性状態と正荷電状態とでは同じコンダクタンスを持つことになる。
【0071】
したがって、電荷的中性状態から正荷電状態に変化させたときに分子のコンダクタンス変化を発現させるためには、電荷的中性状態での主伝導経路を担うLUMOと、正荷電状態での主伝導経路となるHOMOの波動関数形態が異なることが要請される。より具体的には、いずれか一方が分子軸に沿って非局在化し、もう一方が局在化している波動関数形態であることが要請される。
【0072】
そして、この様な電子状態の実現によって、電荷的中性状態→正荷電状態→電荷的中性状態と、荷電状態を変化させることによって、分子のコンダクタンス変化の実現が可能となる。構造式(A)で示される分子Aは、図4で示される通り、LUMOが局在化し、HOMOが分子軸にそって非局在化している点で条件(I)を満足する。
【0073】
もっとも、本実施の形態の有機分子メモリに用いる分子群は、必ずしも分子Aの様にHOMOが非局在化している必要はなく、HOMO、LUMOのうちいずれか一方が非局在化していれば抵抗変化機能の発現には充分な要件を満たす。
【0074】
また、HOMO、LUMOいずれにせよ、分子軸に関し左右対称的な局在化よりは非対称的な局在化の仕方の方が望ましい。その理由はその場合の方が分子と電極との接合の仕方如何にかかわらず、I−V曲線の非対称性の発現にとって有利であることによる。
【0075】
分子Aは、図1に示される通り、LUMOが分子軸に対して非対称的に局在化しており、I−V曲線の非対称性の発現にとって望ましい軌道パターンをとる。実際、分子Aを用いた2端子有機分子メモリでは非対称的なI−V特性の発現が確認される。ただし、分子Aは本実施の形態の有機分子メモリに用いる分子群には適合しない。
【0076】
本実施の形態の有機分子メモリに用いる分子の要件を満たすためには更に上記条件(II)を満たすことが要請される。例えば、分子Aを用いた2端子有機分子メモリは充分なメモリ寿命を持たず、そのメモリ用途が狭い範囲に限定され、抵抗変化型分子鎖の持つ利点が充分に発揮できないという問題点がある。
【0077】
その原因は、電荷状態を変化させてコンダクタンスを変えた状態に変化させたものの、その状態が不安定なため、0バイアスの状態になると短時間のうちにもとの電荷状態に戻ることによる。本実施の形態によれば、変化させた荷電状態の安定性を増大させることによってメモリ保持時間を増大させることが可能となる。
【0078】
書き込まれたメモリ保持状態が消失するということをエネルギー準位的に述べると、図5に示される通り、電極のフェルミ準位にある電子が、書き込まれて正荷電状態にある分子のHOMO準位に戻り、元のコンダクタンスに戻ってしまう現象になる。その戻る際の電子移動速度ないしは電子移動確率が小さい程、長いメモリ保持時間が実現される。
【0079】
そして、電子移動速度は電極のフェルミ準位と分子のHOMO準位の差に比例して増大していく。正荷電状態を安定させることは、より安定した正荷電状態を持つ分子を用いることと等価であり、それはもともと高いHOMO準位を持つ分子を用いることに相当する。
【0080】
一定のエネルギー以上の高いHOMO準位を持つ分子を用いることによって、図5に示される通り、電極のフェルミ準位と分子のHOMO準位との差は減少し、それに伴って電極から分子への電子移動速度ないしは電子移動確率は低下していき、有機分子メモリのメモリ保持時間は増大していく。
【0081】
その際、適切なHOMO準位の設定によって、長期のメモリ保持時間の実現が可能となる。また、HOMO準位を適度に制御することによって、メモリ用途に応じたメモリ保持時間を持つ有機分子メモリの提供が可能となる。
【0082】
その様な特性を持つ分子を規定する方法としては、UPS等の実験から得られた第1イオン化ポテンシャルの値、或いは特定の方法論の分子軌道計算から得られた第1イオン化ポテンシャルの値で規定することができる。
【0083】
また、特定の方法論の分子軌道計算の計算値を用いる場合には、計算で得られたHOMO準位の値で条件(II)を規定することができる。本実施の形態においては特定の方法論によって計算された値によって規定する。これによって一義的に条件(II)を規定することができる。
【0084】
ここで、特定の方法論の分子軌道計算とは以下の条件で算出される分子軌道計算を示す。すなわち、LCAO(Linear Combination of Atomic Orbital)近似で行われる分子軌道計算において、
(1)基底関数系は6−31+G(d)基底を用いる。
(2)B3LYP hybrid exchange−correlation functionalを用いたKohn−Sham DFTによって分子軌道関数と1電子エネルギー準位の算出を行う。
(3)上記の算出値は分子がBorn−Oppenheimer面上で最小エネルギーを持つ構造での算出値とする。
なお、この分子軌道計算の詳細については、非特許文献2−6参照のこと。
【0085】
条件(III)は、本実施の形態に用いる有機分子が比較的良好な電子伝導性を持ち、同時にその分子集合体が自己集合的な単分子膜を形成しやすいという、有機分子メモリ形成に必要とされる基本的条件を満たすための分子構造要件である。
【0086】
例えば、一般式1で示される構造を持つ分子群は特定のユニットで結合された隣接する、π電子系を有する分子ユニット、から構成される構造を基本骨格とする。したがって、それらの分子群のフロンティア軌道周辺の1電子波動関数の多くが分子軸にそって非局在化した関数形態をとり、その非局在化したπ電子系の存在のために、比較的高い電子伝導性発現が可能となる。
【0087】
一方、一般式1に記述されている置換基群は主に条件(I)、(II)を実現させるための必要条件として機能する役割を担う。ただし、条件(III)を満たす分子群の全てが本発明の有機分子メモリに用いる分子に該当するものではなく、そのうち条件(I)、(II)を同時に満たすものに限定される。
【0088】
以上詳述した通り、条件(I)および(II)、好ましくは(III)をともに満たす分子群から選ばれる有機分子を主構成要素として有機分子層も用いると、コンダクタンス変化と非対称的なI−V曲線の発現というメモリ機能を維持しながら、従来よりも長いメモリ保持時間が実現できる。したがって、実用性を飛躍的に増大させた新たな有機分子メモリを提供することが可能となる。
【0089】
また、本実施の形態による有機分子メモリを用いれば、分子のHOMO準位を適切に制御することによって、メモリ用途に応じたメモリ時間を持つ有機分子メモリの実現も可能である。従って本発明の有機分子メモリによってメモリ用途は飛躍的に拡大し、とりわけ格段の大容量化、高密度化が要求されるメモリ製品領域に有機分子の利点を最大限に生かした有機分子メモリが提供できる。
【0090】
以下、本実施の形態の有機分子メモリに関して、分子のHOMO準位を上昇させた場合の相対的メモリ保持時間のシミュレーション結果、及び具体的な分子群とそれらの特性、及び相対的メモリ保持時間のシミュレーション結果を例示し、メモリ保持時間の増大とその制御可能性という、本実施の形態の有機分子メモリによってもたらされる優れた特性にについて説明する。
【0091】
上記分子Aを用いた2端子素子と同じ構成の有機分子メモリにおいて、有機分子を変えた場合も、分子Aの場合と同じ分子−電極間接合状態を維持することを前提として、分子のHOMO準位を上昇させた場合のメモリ保持時間比率のシミュレーション結果を表1に示す。表1は、分子Aを用いたメモリ保持時間を基準にしたメモリ保持時間比率を表示している。
【0092】
シミュレーションにおいては、0バイアス状態で、電子が電極から、正荷電し1個空軌道になっている分子のHOMO準位に移動する際の移動速度と、同じく正荷電している比較分子Aにおいて電極の電子が同じく従来のHOMOに移動する際の移動速度との、移動速度比率を、基本的には電子移動反応の遷移状態理論に基づいた方法論で算出し、更にその電子移動速度比率の逆数を相対的なメモリ保持時間比率として算出している。
【0093】
表1は、分子のHOMO準位の上昇に伴う2端子素子メモリ保持時間のシミュレーション結果である。
表1に示される通り、分子のHOMO準位の上昇に伴ってメモリ保持時間は増大していく。メモリ保持時間は+0.2eV程度の範囲ではゆるやかに上昇していくが、+0.45eVの上昇で約2桁上昇し、それ以降は指数関数的に上昇していく。
【0094】
このことから、HOMO準位の充分高い分子を用いることによって、メモリ保持時間を向上させ、不揮発性メモリの実現が可能であることが分かる。またHOMO準位制御によってメモリ保持時間制御が可能なことから、適切なHOMO準位を持つ分子を選択することによって、メモリ用途に応じたメモリ保持時間を持つ有機分子メモリを提供できる。
【0095】
【表1】
【0096】
上記シミュレーション結果が示す通り、本実施の形態が提供する有機分子メモリは分子Aを用いる有機分子メモリに較べてより長いメモリ保持時間を実現する。例えば、HOMO準位が−5.70eVでは分子Aに対し、1.3倍のメモリ保持時間が実現される。前述した通り本実施の形態に用いる有機分子は条件(I)および(II)、好ましくは(III)を同時に満たす分子群から選ばれる。
【0097】
条件(I)および(II)、(III)を同時に満たす有機分子の分子構造の具体例、分子構造式S1〜S11で表される分子S1〜S11を、以下に示す。ここで例示した分子群は、π電子系を持つユニットの連続的な結合体から構成される。分子軸に沿ってπ電子系を持つユニットが配列する。これは前述した通り分子伝導を実現するための必要条件となる。
【0098】
【化35】
【化36】
【化37】
【化38】
【化39】
【化40】
【化41】
【化42】
【化43】
【化44】
【化45】
【0099】
例示した分子S1〜S11は、いずれも下記一般式2で示される分子構造式を中核構造としている点では共通している。
【0100】
【化46】
上記一般式2に於いて、C、D、E、は下記(e)群より選ばれる置換基または水素原子であり、AおよびBは下記(f)で表される構造群より選ばれる分子構造体から構成される。
(e)NO2、CN、F、COOH、COOR、SO3H、SO3R、NH2、NR2、OH、OR、R。ただし、Rはアルキル基。
(f)フェニル環、チオフェン環、ピロール環、フラン環、ピリジン環、ピラジン環、カルバゾール環、キサンテン環、キノリン環、インキノリン環、アクリジン環およびそれらの置換修飾体単独及びそれらが特定のユニット構造を介して連結した構造を持つ連結体。ここで、特定のユニット構造は、C−C結合ユニット、エチレン型2重結合ユニット(C=C)、アセチレン型C−C3重結合型ユニットから選ばれる構造体である。
【0101】
この中核構造の存在はLUMOの分子軸に沿っての非対称的な局在化現象の発現する要素として機能する。ただし、それらの特性を発現するための中核構造としては何ら一般式2の構造に限定されるものではない。
【0102】
また、例示した分子のうち、分子S2〜S11は、いずれもチオフェンまたはその誘導体を分子中に備える点で共通している。特に、分子S5、S6、S9〜S11は、いずれもチオフェンまたはその誘導体を、複数分子中に備えている点で共通している。
【0103】
また、例示した分子のうち、分子S9〜S11は、いずれも下記一般式3または一般式4で示される分子構造式を中核構造としている点では共通している。
【0104】
【化47】
【化48】
上記一般式3、一般式4に於いて、C、D、E、F、G、H、Iは下記(e)群より選ばれる置換基または水素原子であり、Aは下記(f)で表される構造群より選ばれる分子構造体から構成される。また、Xは反応性官能基である。
(e)NO2、CN、F、COOH、COOR、SO3H、SO3R、NH2、NR2、OH、OR、R。ただし、Rはアルキル基。
(f)フェニル環、チオフェン環、ピロール環、フラン環、ピリジン環、ピラジン環、カルバゾール環、キサンテン環、キノリン環、インキノリン環、アクリジン環およびそれらの置換修飾体単独及びそれらが特定のユニット構造を介して連結した構造を持つ連結体。ここで、前記特定のユニット構造は、C−C結合ユニット、エチレン型2重結合ユニット(C=C)、アセチレン型C−C3重結合型ユニットから選ばれる構造体である。
【0105】
図7〜図17は、分子S1の最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)を示す図である。HOMO、LUMO及び分子軸に対する分子軌道の主分布領域比率もそれぞれ図7〜図17に示す。図から明らかなように、S1からS11に示される分子群は、分子軸にそった分子軌道(LUMO)の主分布領域比率が、分子軸に対して90%以下であり、いずれも条件(I)を満たす。
【0106】
また、いずれの分子もHOMOが分子軸にそって非局在化しているのに対し、LUMOでは分子軸に沿って拡がっていたπ電子系が途中で途切れ、左側に局在した状態になっている。すなわち、分子軌道が非対称的に局在化している。これは荷電状態の変化に伴うコンダクタンス変化と非対称的なI−V特性変化が発現される電子状態であり、分子S1〜S11の分子例のいずれもこの性質を保持していることが分かる。
【0107】
同時にこれらの分子群は条件(II)を満たし、かつ条件(III)に規定される分子群に属している。
【0108】
ただし、条件(II)、(III)を満たす分子群がそのまま条件(I)を満たす訳ではない。例えば、条件(II)、(III)を満たす分子例として下記構造式T1、T2で示される分子T1、T2を挙げることができる。
【0109】
【化49】
【化50】
【0110】
分子T1、T2は一般式1に示される中核構造を持ち、電子供与性質を持つエーテル系置換基によってそれらのHOMO準位は押し上げられ、分子軌道計算によるHOMO準位の算出値はT1、T2がそれぞれ−5.12、−4.92eVと条件(II)を満たしている。
【0111】
しかしながら、図18、図19に示される通り、本分子ではLUMO、HOMOともに分子軸にそって非局在化しており、本実施の形態の有機分子メモリの構成要件である条件(I)を充足せず、抵抗変化現象の発現しにくい電子状態となっている。それに対し、分子S1〜S11に示される本実施の形態による分子群は、上述した通り、いずれもHOMOが分子軸に対し非局在化し、LUMOが分子軸に対し局在化している。
【0112】
表2は、、分子Aおよび分子S1〜S11の分子群を主構成要素とする2端子素子でのメモリ保持時間のシミュレーション結果である。表に示される通り、いずれも既存の分子である分子Aよりも長いメモリ保持時間を示している。
【0113】
分子AのHOMO準位に対し0.4eV程度(HOMO準位が−5.45eV程度)の上昇範囲ではメモリ保持時間の上昇は緩やかではあるが、HOMO準位の上昇が0.45eV(HOMO準位が−5.40eV)を超えるあたりから、メモリ保持時間は急激に増大し、S11では分子Aのメモリ保持時間に対し、8.07×104倍のメモリ保持時間を有することを示している。
【0114】
【表2】
【0115】
以上のように、本実施の形態が規定する新たな分子を用いた有機分子メモリによって、従来よりも長いメモリ保持時間を持つ有機分子メモリの提供が可能となる。また特定の分子構造と特定の電子状態に規定された条件下でHOMO準位の異なる分子を用いることによって、有機分子メモリのメモリ保持時間の制御が可能となり、例えばメモリ用途に応じたメモリ保持時間を持つ素子の提供も可能となる。
【0116】
これまで飛躍的な高密度化、大容量化、低消費電力化という潜在能力をもちながらも、メモリ保持時間が短いために、有機分子メモリが製品化されたとしても、極めて狭い応用範囲に限定される様な状態であった。しかし、本実施の形態の有機分子メモリを用いることによってその応用範囲が飛躍的に拡大され、有機分子メモリの持つ上述の利点が充分に活用された実用的な電子デバイス群の提供が可能となる。
【0117】
(第2の実施の形態)
本実施の形態の有機分子メモリは、1個のトランジスタと1個の有機分子層をメモリセルとする有機分子メモリである。メモリセル構造以外は、基本的に第1の実施の形態と同様である。したがって、第1の実施の形態と重複する内容については記述を省略する。
【0118】
図20は、本実施の形態の有機分子メモリのメモリセル部の模式断面図である。
【0119】
本実施の形態の有機分子メモリは、1個のトランジスタと1個の抵抗変化型の有機分子層をメモリセルとする分子メモリである。図20に示すように、基板70上に、ゲート絶縁膜72とゲート電極74とを備える選択トランジスタ76が形成される。基板70には、ゲート電極74を挟んで第1のソース・ドレイン領域80と第2のソース・ドレイン領域82が形成される。
【0120】
基板70は、例えばシリコン基板である。ゲート絶縁膜72は、例えば、シリコン酸化膜である。ゲート電極74は、例えば多結晶シリコンである。第1のソース・ドレイン領域80および第2のソース・ドレイン領域82は、例えば、砒素(As)を不純物とする拡散層である。
【0121】
第1のソース・ドレイン領域80上には、第1のコンタクトプラグ84が形成される。そして、第1のコンタクトプラグ84上には第1のビット線86が形成される。第1のコンタクトプラグ84の材料は、例えば、タングステンであり、第1のビット線86の材料は、例えば、モリブデンである。
【0122】
第2のソース・ドレイン領域82上には、第2のコンタクトプラグ(第1の導電層)88が形成される。そして、第2のコンタクトプラグ88上には、有機分子層90を挟んで第2のビット線(第2の導電層)92が形成される。第2のコンタクトプラグ88の材料は、例えば、タングステンであり、第2のビット線92の材料は、例えば、モリブデンである。第2のビット線92の材料は、第2のコンタクトプラグ88とは異なる材料で形成される。
【0123】
複数の抵抗変化型分子鎖16aが、有機分子層90を構成する。有機分子層90を構成する抵抗変化型分子鎖は、例えば、図2に示すような、抵抗変化型分子鎖である。
【0124】
抵抗変化型分子鎖は、電場の有無や電荷の注入により抵抗が変化する機能を備える分子鎖である。例えば、図2に示す分子構造を備える抵抗変化型分子鎖は、両端部の間に電圧を印加することで低抵抗状態と高抵抗状態とを切り替えることが可能である。
【0125】
本実施の形態の有機分子メモリは、選択トランジスタ76をオンさせた状態で、第1のビット線86と第2のビット線92との間に電圧を印加することで、有機分子層90への書き込み、消去が可能となる。また、選択トランジスタ76をオン状態にして、第1のビット線86と第2のビット線92間に流れる電流をモニタすることで、有機分子層90の抵抗状態の読み出しが可能となる。これらの動作によりメモリセルが機能する。
【0126】
本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様、メモリ保持時間の向上する有機分子メモリを実現することが可能となる。
【0127】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態および実施例について説明した。上記、実施の形態および実施例はあくまで、例として挙げられているだけであり、本発明を限定するものではない。また、実施の形態の説明においては、有機分子メモリ、有機分子メモリ用有機分子等で、本発明の説明に直接必要としない部分等については記載を省略したが、必要とされる有機分子メモリ、有機分子メモリ用有機分子等に関わる要素を適宜選択して用いることができる。
【0128】
例えば、本実施の形態の有機分子メモリにおける電極との接合形態は、片方が化学結合を形成し、もう一方が物理吸着状態或いは空隙が空いた状態という、接合構造自体に非対称性を導入したデバイス構造として使用することができる。これにより、非対称なI−V特性が実現される。また、本実施の形態のように分子の電子状態自体に非対称性を導入した分子を用いれば、両電極とも化学結合で接合する素子構造で使用しても非対称なI−V特性を実現することが可能である。
【0129】
また、本実施の形態の有機分子は、上述の通り、一方の分子端或いは両端を電極に対し化学結合によって接合する構造として使用される場合が多いため、そのため分子の一端或いは両端にリンカーという反応性官能基を付けたものを用いる。実施の形態ではリンカーとしてSH基を使用する場合を例示している。しかし、リンカーとして用いる反応性官能基は何らSH基に限定されるものではなく、例えば以下に示す官能基を使用することができる。
【0130】
−SCOCH3、−SeH、−TeH、−SCN、−NC、−SiCl3、−Si(OR)3、RSiCl3、−RSi(OR)3、−CH=CH2、−NH2、−COOH、−COOR、−SO2OR、−NC、−CN、−P=O(OH)2、−P=O(OR)2。ただし、Rはアルキル基。
【0131】
これらの反応性官能基は、本実施の形態の有機分子のπ電子系が拡がっている分子骨格に直接結合しても構わない。また、π電子系が拡がっている分子骨格との間にアルキル基を挟んで、反応性官能基が結合しても構わない。
【0132】
π電子系が拡がっている分子骨格との間にアルキル基を挟んで反応性官能基を備える有機分子を電極に化学結合する場合、化学結合する部位とπ電子系が拡がっている分子骨格との間にアルキル基が存在することになる。
【0133】
また、有機分子メモリとして、実施の形態で説明したクロスポイント型、1トランジスタ+有機分子層型に限らず、3次元構造型等のその他の構造の有機分子メモリを採用することも可能である。
【0134】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての有機分子メモリおよび有機分子メモリ用有機分子が、本発明の範囲に包含される。本発明の範囲は、特許請求の範囲およびその均等物の範囲によって定義されるものである。
【符号の説明】
【0135】
12 第1の導電層
14 第2の導電層
16 有機分子層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の導電層と、
第2の導電層と、
前記第1の導電層と前記第2の導電層との間に設けられ、分子軸に沿ってπ電子系が拡がっている分子骨格を持つ分子系において、下記(I)、(II)で示される条件を同時に満たす分子群より選ばれる有機分子を含む有機分子層と、
を有することを特徴とする有機分子メモリ。
(I)分子の最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)のうちいずれか一方が分子軸にそって非局在化し、他方が分子軸に対して局在化していることを特徴とする分子群。
(II)分子の最高被占軌道(HOMO)エネルギー準位が−5.75eV以上の値を持つ分子群。
【請求項2】
前記分子群が、下記(イ)または(ロ)で規定される分子群であることを特徴とする請求項1記載の有機分子メモリ。
(イ)下記一般式1で示される特定の構造を中核構造として持つ分子群。
【化51】
上記一般式1において、C、D、E、Fは下記(a)群より選ばれる置換基または水素原子であり、AおよびBは下記(b)で表される構造群より選ばれる分子構造体から構成される。
(a)NO2、CN、F、COOH、COOR、SO3H、SO3R、NH2、NR2、OH、OR、R。ただし、Rはアルキル基。
(b)フェニル環、チオフェン環、ピロール環、フラン環、ピリジン環、ピラジン環、カルバゾール環、キサンテン環、キノリン環、インキノリン環、アクリジン環およびそれらの置換修飾体単独およびそれらが特定のユニット構造を介して連結した構造を持つ連結体。ここで前記特定のユニット構造は、C−C結合ユニット、エチレン型2重結合ユニット(C=C)、アセチレン型C−C3重結合型ユニットから選ばれる構造体である。
(ロ)下記式(C1)〜(C16)に示される多環系芳香族炭化水素およびその炭素(C)の一部を窒素(N)に置換した分子単独、または、それらが特定のユニット構造を介して連結した構造を持つ連結体を(a)群から選ばれる置換基で置換基修飾した分子群。ここで前記特定のユニット構造は、C−C結合ユニット、エチレン型2重結合ユニット(C=C)、アセチレン型C−C3重結合型ユニットから選ばれる構造体である。
【化52】
【化53】
【化54】
【化55】
【化56】
【化57】
【化58】
【化59】
【化60】
【化61】
【化62】
【化63】
【化64】
【化65】
【化66】
【化67】
【請求項3】
前記有機分子が少なくとも一つ以上のNO2置換基を備えることを特徴とする請求項2記載の有機分子メモリ。
【請求項4】
前記一般式1において、AおよびBが下記式(B1)〜(B16)で示される構造(式中C、D、E、Fは前記(a)群から選ばれる置換基、Rはアルキル基)単独またはそれらの置換修飾体からなる基本構造単独、または、その基本構造が特定のユニット構造で連結された連結体からなることを特徴とする請求項2または請求項3記載の有機分子メモリ。ここで、前記特定のユニット構造は、C−C結合ユニット、エチレン型2重結合ユニット(C=C)、アセチレン型C−C3重結合型ユニットから選ばれる構造体である。
【化68】
【化69】
【化70】
【化71】
【化72】
【化73】
【化74】
【化75】
【化76】
【化77】
【化78】
【化79】
【化80】
【化81】
【化82】
【化83】
【請求項5】
前記有機分子の一端が前記第1の導電層または前記第2の導電層のいずれか一方に化学結合し、他端は他方の導電層と物理吸着するか他方の導電層との間に0.3nm以下の空隙を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項4いずれか一項記載の有機分子メモリ。
【請求項6】
前記有機分子の端部が前記第1の導電層および前記第2の導電層に化学結合することを特徴とする請求項1ないし請求項4いずれか一項記載の有機分子メモリ。
【請求項7】
第1の導電層と、
第2の導電層と、
前記第1の導電層と前記第2の導電層との間に設けられ、下記一般式2で示される分子群より選ばれ、かつ、分子の最高被占軌道(HOMO)エネルギー準位が−5.75eV以上の値を持つ分子群より選ばれる有機分子を含む有機分子層と、
を有することを特徴とする有機分子メモリ。
【化84】
上記一般式2に於いて、C、D、E、は下記(e)群より選ばれる置換基または水素原子であり、AおよびBは下記(f)で表される構造群より選ばれる分子構造体から構成される。
(e)NO2、CN、F、COOH、COOR、SO3H、SO3R、NH2、NR2、OH、OR、R。ただし、Rはアルキル基。
(f)フェニル環、チオフェン環、ピロール環、フラン環、ピリジン環、ピラジン環、カルバゾール環、キサンテン環、キノリン環、インキノリン環、アクリジン環およびそれらの置換修飾体単独およびそれらが特定のユニット構造を介して連結した構造を持つ連結体。ここで、前記特定のユニット構造は、C−C結合ユニット、エチレン型2重結合ユニット(C=C)、アセチレン型C−C3重結合型ユニットから選ばれる構造体である。
【請求項8】
下記(I)、(II)で示される条件を同時に満たす分子群より選ばれる有機分子メモリ用有機分子。
(I)分子の最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)のうちいずれか一方が分子軸にそって非局在化し、他方が分子軸に対して局在化していることを特徴とする分子群。
(II)分子の最高被占軌道(HOMO)エネルギー準位が−5.75eV以上の値を持つ分子群。
【請求項9】
前記分子群が、下記(イ)または(ロ)で規定される分子群であることを特徴とする請求項8記載の有機分子メモリ用有機分子。
(イ)下記一般式1で示される特定の構造を中核構造として持つ分子群で、かつ、反応性官能基を有する分子群。
【化85】
上記一般式1において、C、D、E、Fは下記(a)群より選ばれる置換基または水素原子であり、AおよびBは下記(b)で表される構造群より選ばれる分子構造体から構成される。
(a)NO2、CN、F、COOH、COOR、SO3H、SO3R、NH2、NR2、OH、OR、R。ただし、Rはアルキル基。
(b)フェニル環、チオフェン環、ピロール環、フラン環、ピリジン環、ピラジン環、カルバゾール環、キサンテン環、キノリン環、インキノリン環、アクリジン環およびそれらの置換修飾体単独およびそれらが特定のユニット構造を介して連結した構造を持つ連結体。ここで前記特定のユニット構造は、C−C結合ユニット、エチレン型2重結合ユニット(C=C)、アセチレン型C−C3重結合型ユニットから選ばれる構造体である。
(ロ)下記式(C1)〜(C15)に示される多環系芳香族炭化水素およびその炭素(C)の一部を窒素(N)に置換した分子単独、または、それらが特定のユニット構造を介して連結した構造を持つ連結体を(a)群から選ばれる置換基で置換基修飾した分子系に、反応性官能基を有する分子群。ここで前記特定のユニット構造は、C−C結合ユニット、エチレン型2重結合ユニット(C=C)、アセチレン型C−C3重結合型ユニットから選ばれる構造体である。
【化86】
【化87】
【化88】
【化89】
【化90】
【化91】
【化92】
【化93】
【化94】
【化95】
【化96】
【化97】
【化98】
【化99】
【化100】
【化101】
【請求項10】
前記反応性官能基が下記(d)群で示される官能基であることを特徴とする請求項8または請求項9記載の有機分子メモリ用有機分子。
(d)−SCOCH3、−SeH、−TeH、−SCN、−NC、−SiCl3、−Si(OR)3、RSiCl3、−RSi(OR)3、−CH=CH2、−NH2、−COOH、−COOR、−SO2OR、−NC、−CN、−P=O(OH)2、−P=O(OR)2。ただし、Rはアルキル基。
【請求項11】
前記(イ)で規定される分子群において、前記中核構造と前記反応性官能基との間に、アルキル基を備え、
前記(ロ)で規定される分子群において、前記分子系と前記反応性官能基との間に、アルキル基を備えることを特徴とする請求項9または請求項10記載の有機メモリ用有機分子。
【請求項1】
第1の導電層と、
第2の導電層と、
前記第1の導電層と前記第2の導電層との間に設けられ、分子軸に沿ってπ電子系が拡がっている分子骨格を持つ分子系において、下記(I)、(II)で示される条件を同時に満たす分子群より選ばれる有機分子を含む有機分子層と、
を有することを特徴とする有機分子メモリ。
(I)分子の最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)のうちいずれか一方が分子軸にそって非局在化し、他方が分子軸に対して局在化していることを特徴とする分子群。
(II)分子の最高被占軌道(HOMO)エネルギー準位が−5.75eV以上の値を持つ分子群。
【請求項2】
前記分子群が、下記(イ)または(ロ)で規定される分子群であることを特徴とする請求項1記載の有機分子メモリ。
(イ)下記一般式1で示される特定の構造を中核構造として持つ分子群。
【化51】
上記一般式1において、C、D、E、Fは下記(a)群より選ばれる置換基または水素原子であり、AおよびBは下記(b)で表される構造群より選ばれる分子構造体から構成される。
(a)NO2、CN、F、COOH、COOR、SO3H、SO3R、NH2、NR2、OH、OR、R。ただし、Rはアルキル基。
(b)フェニル環、チオフェン環、ピロール環、フラン環、ピリジン環、ピラジン環、カルバゾール環、キサンテン環、キノリン環、インキノリン環、アクリジン環およびそれらの置換修飾体単独およびそれらが特定のユニット構造を介して連結した構造を持つ連結体。ここで前記特定のユニット構造は、C−C結合ユニット、エチレン型2重結合ユニット(C=C)、アセチレン型C−C3重結合型ユニットから選ばれる構造体である。
(ロ)下記式(C1)〜(C16)に示される多環系芳香族炭化水素およびその炭素(C)の一部を窒素(N)に置換した分子単独、または、それらが特定のユニット構造を介して連結した構造を持つ連結体を(a)群から選ばれる置換基で置換基修飾した分子群。ここで前記特定のユニット構造は、C−C結合ユニット、エチレン型2重結合ユニット(C=C)、アセチレン型C−C3重結合型ユニットから選ばれる構造体である。
【化52】
【化53】
【化54】
【化55】
【化56】
【化57】
【化58】
【化59】
【化60】
【化61】
【化62】
【化63】
【化64】
【化65】
【化66】
【化67】
【請求項3】
前記有機分子が少なくとも一つ以上のNO2置換基を備えることを特徴とする請求項2記載の有機分子メモリ。
【請求項4】
前記一般式1において、AおよびBが下記式(B1)〜(B16)で示される構造(式中C、D、E、Fは前記(a)群から選ばれる置換基、Rはアルキル基)単独またはそれらの置換修飾体からなる基本構造単独、または、その基本構造が特定のユニット構造で連結された連結体からなることを特徴とする請求項2または請求項3記載の有機分子メモリ。ここで、前記特定のユニット構造は、C−C結合ユニット、エチレン型2重結合ユニット(C=C)、アセチレン型C−C3重結合型ユニットから選ばれる構造体である。
【化68】
【化69】
【化70】
【化71】
【化72】
【化73】
【化74】
【化75】
【化76】
【化77】
【化78】
【化79】
【化80】
【化81】
【化82】
【化83】
【請求項5】
前記有機分子の一端が前記第1の導電層または前記第2の導電層のいずれか一方に化学結合し、他端は他方の導電層と物理吸着するか他方の導電層との間に0.3nm以下の空隙を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項4いずれか一項記載の有機分子メモリ。
【請求項6】
前記有機分子の端部が前記第1の導電層および前記第2の導電層に化学結合することを特徴とする請求項1ないし請求項4いずれか一項記載の有機分子メモリ。
【請求項7】
第1の導電層と、
第2の導電層と、
前記第1の導電層と前記第2の導電層との間に設けられ、下記一般式2で示される分子群より選ばれ、かつ、分子の最高被占軌道(HOMO)エネルギー準位が−5.75eV以上の値を持つ分子群より選ばれる有機分子を含む有機分子層と、
を有することを特徴とする有機分子メモリ。
【化84】
上記一般式2に於いて、C、D、E、は下記(e)群より選ばれる置換基または水素原子であり、AおよびBは下記(f)で表される構造群より選ばれる分子構造体から構成される。
(e)NO2、CN、F、COOH、COOR、SO3H、SO3R、NH2、NR2、OH、OR、R。ただし、Rはアルキル基。
(f)フェニル環、チオフェン環、ピロール環、フラン環、ピリジン環、ピラジン環、カルバゾール環、キサンテン環、キノリン環、インキノリン環、アクリジン環およびそれらの置換修飾体単独およびそれらが特定のユニット構造を介して連結した構造を持つ連結体。ここで、前記特定のユニット構造は、C−C結合ユニット、エチレン型2重結合ユニット(C=C)、アセチレン型C−C3重結合型ユニットから選ばれる構造体である。
【請求項8】
下記(I)、(II)で示される条件を同時に満たす分子群より選ばれる有機分子メモリ用有機分子。
(I)分子の最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)のうちいずれか一方が分子軸にそって非局在化し、他方が分子軸に対して局在化していることを特徴とする分子群。
(II)分子の最高被占軌道(HOMO)エネルギー準位が−5.75eV以上の値を持つ分子群。
【請求項9】
前記分子群が、下記(イ)または(ロ)で規定される分子群であることを特徴とする請求項8記載の有機分子メモリ用有機分子。
(イ)下記一般式1で示される特定の構造を中核構造として持つ分子群で、かつ、反応性官能基を有する分子群。
【化85】
上記一般式1において、C、D、E、Fは下記(a)群より選ばれる置換基または水素原子であり、AおよびBは下記(b)で表される構造群より選ばれる分子構造体から構成される。
(a)NO2、CN、F、COOH、COOR、SO3H、SO3R、NH2、NR2、OH、OR、R。ただし、Rはアルキル基。
(b)フェニル環、チオフェン環、ピロール環、フラン環、ピリジン環、ピラジン環、カルバゾール環、キサンテン環、キノリン環、インキノリン環、アクリジン環およびそれらの置換修飾体単独およびそれらが特定のユニット構造を介して連結した構造を持つ連結体。ここで前記特定のユニット構造は、C−C結合ユニット、エチレン型2重結合ユニット(C=C)、アセチレン型C−C3重結合型ユニットから選ばれる構造体である。
(ロ)下記式(C1)〜(C15)に示される多環系芳香族炭化水素およびその炭素(C)の一部を窒素(N)に置換した分子単独、または、それらが特定のユニット構造を介して連結した構造を持つ連結体を(a)群から選ばれる置換基で置換基修飾した分子系に、反応性官能基を有する分子群。ここで前記特定のユニット構造は、C−C結合ユニット、エチレン型2重結合ユニット(C=C)、アセチレン型C−C3重結合型ユニットから選ばれる構造体である。
【化86】
【化87】
【化88】
【化89】
【化90】
【化91】
【化92】
【化93】
【化94】
【化95】
【化96】
【化97】
【化98】
【化99】
【化100】
【化101】
【請求項10】
前記反応性官能基が下記(d)群で示される官能基であることを特徴とする請求項8または請求項9記載の有機分子メモリ用有機分子。
(d)−SCOCH3、−SeH、−TeH、−SCN、−NC、−SiCl3、−Si(OR)3、RSiCl3、−RSi(OR)3、−CH=CH2、−NH2、−COOH、−COOR、−SO2OR、−NC、−CN、−P=O(OH)2、−P=O(OR)2。ただし、Rはアルキル基。
【請求項11】
前記(イ)で規定される分子群において、前記中核構造と前記反応性官能基との間に、アルキル基を備え、
前記(ロ)で規定される分子群において、前記分子系と前記反応性官能基との間に、アルキル基を備えることを特徴とする請求項9または請求項10記載の有機メモリ用有機分子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図20】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図20】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2013−115388(P2013−115388A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263099(P2011−263099)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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