説明

有機発光デバイス用の複合有機/無機層

【課題】有機発光デバイス用の複合有機/無機層を提供する。
【解決手段】共有結合した有機/無機複合層を含む有機電子デバイス。複合層は、1つ以上のヒドロキシル基を有する電荷輸送化合物と金属アルコキシドの反応により形成されてもよい。使用可能な金属アルコキシドの例としては、バナジウムアルコキシド、モリブデンアルコキシド、チタンアルコキシドまたはシリコンアルコキシドが含まれる。この複合層は、ホール注入層を含めた有機電子デバイス内のさまざまな電荷伝導層のいずれかについて使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光デバイス(OLED)、そしてより具体的にはこのようなデバイス内で使用される有機層に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料を使用する光電子デバイスは、数多くの理由から、増々所望されるものとなっている。このようなデバイスを製造するために使用される材料の多くは比較的安価であり、したがって有機光電子デバイスは、無機デバイスに比べコスト面で有利となる潜在性を有している。さらに、可撓性などのその固有の特性のため、有機材料は可撓性基板上での製造などの特定の利用分野に適切なものであり得る。有機光電子デバイスの例としては、有機発光デバイス(OLED)、有機フォトトランジスタ、有機光電池および有機光検出器が含まれる。OLEDについて、有機材料は従来の材料に比べて性能上の利点を有し得る。例えば、有機発光層が光を発出する波長は一般に適切なドーパントを用いて容易に調整され得る。
【0003】
本明細書で使用される「有機」という用語は、ポリマー材料ならびに有機光電子デバイスを製造するために使用してもよい小分子有機材料を含む。「小分子」とは、ポリマーでないあらゆる有機材料を意味するが、「小分子」は実際には極めて大きいものであってもよい。小分子は、一部の状況において反復単位を含み得る。例えば、置換基として長鎖アルキル基を使用しても、分子が「小分子」の部類から除外されることはない。小分子は、例えばポリマー主鎖上のペンダント基として、または主鎖の一部としてポリマー内に取込まれてもよい。小分子は同様に、コア部分上に構築された一連の化学的シェルで構成されるデンドリマーのコア部分としても役立ち得る。デンドリマーのコア部分は、蛍光または燐光小分子エミッタであってもよい。デンドリマーは「小分子」であってもよく、現在OLEDの分野で使用されている全てのデンドリマーが小分子であると考えられている。一般に、小分子は単一の分子量を伴う明確な化学式を有し、一方ポリマーは分子によって変動してもよい化学式と分子量を有する。本明細書中で使用される「有機」という用語は、ヒドロカルビルとヘテロ原子で置換されたヒドロカルビル配位子の金属錯体を含む。
【0004】
OLEDは、デバイスを横断して電圧が印加された場合に光を発出する薄い有機膜を利用する。OLEDは、フラットパネルディスプレー、照明およびバックライトなどの利用分野において使用するための増々有利な技術となりつつある。いくつかのOLED材料および構成が、(特許文献1)、(特許文献2)および(特許文献3)中に記載されており、これらの文書はその全体が参照により本明細書に援用されている。
【0005】
OLEDデバイスは一般に(ただし常にではない)、電極の少なくとも1つを通して光を発出するように意図され、有機光電子デバイス内では、1つ以上の透明な電極が有用であり得る。例えば、透明な電極材料、例えばインジウム錫酸化物(ITO)が底面電極として使用されてもよい。全体が参照により援用されている(特許文献4)および(特許文献3)中で開示されているものなどの透明な上面電極も使用してもよい。底面電極のみを通して光を発出するように意図されているデバイスについては、上面電極は透明である必要はなく、高い電気伝導度を有する厚い反射性の金属層で構成されていてもよい。同様にして、上面電極を通してのみ光を発出するように意図されたデバイスについては、底面電極は、不透明および/または反射性であってもよい。電極が透明である必要がない場合、より厚い層を使用することでより優れた伝導度が提供されることがあり、反射性電極を使用すると、光を透明な電極に向かって戻るように反射することによりもう一方の電極を通して発出される光の量が増大し得る。完全に透明なデバイスも製造してもよく、この場合両方の電極が透明である。側面発光OLEDも製造してもよく、このようなデバイスにおいては、一方または両方の電極が不透明または反射性であってもよい。
【0006】
本明細書中で使用される「上面」という用語は、基板から最も遠く離れたところを意味し、一方「底面」は基板の最も近くを意味する。例えば、2つの電極を有するデバイスについて、底面電極は基板に最も近い電極であり、一般に最初に製造された電極である。底面電極は2つの表面すなわち、基板に最も近い底面と基板からさらに離れた上面を有する。第1層が第2層「の上に配置されている」ものとして記述されている場合、第1層は基板からさらに離れて配置されている。第1層が第2層「と物理的に接触した状態」にあると規定されているのでないかぎり、第1層と第2層の間には他の層が存在していてもよい。例えば、カソードは、たとえその間にさまざまな有機層が存在する場合であってもアノード「の上に配置されている」ものとして記述され得る。
【0007】
本明細書で使用される、「溶液処理可能」という用語は、溶液または懸濁液のいずれかの形で、液体媒質中に溶解、分散または輸送しかつ/またはそこから被着させることができるということを意味している。
【0008】
本明細書中で使用され、当業者であれば一般に理解すると思われるように、第1の「最高占有分子軌道」(HOMO)または「最低非占有分子軌道」(LUMO)エネルギー準位は、第1のレベルが真空エネルギー準位により近い場合、第2のHOMOまたはLUMOエネルギー準位「よりも大きい」または「高い」。イオン化ポテンシャル(IP)は真空レベルとの関係における負のエネルギーとして測定されることから、より高いHOMOエネルギー準位は、より小さい絶対値を有するIP(負度が低いIP)に対応する。同様にして、より高いLUMOエネルギー準位は、より小さい絶対値を有する電子親和力(EA)(負度が低いEA)に対応する。最上部に真空レベルがある従来のエネルギー準位図上で、材料のLUMOエネルギー準位は同じ材料のHOMOエネルギー準位より高い。「より低い」HOMOまたはLUMOエネルギー準位に比べて「より高い」HOMOまたはLUMOエネルギー準位が、このような図の最上部により近いところに現われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,844,363号明細書
【特許文献2】米国特許第6,303,238号明細書
【特許文献3】米国特許第5,707,745号明細書
【特許文献4】米国特許第5,703,436号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、有機電子デバイスの電荷伝導層用の複合有機/無機層を提供する。一実施形態において、本発明は、有機電子デバイス用の複合有機/無機層の製造方法において:(a)金属アルコキシドとヒドロキシル基を含む電荷輸送化合物とを含む溶液を得るステップと;(b)表面上に溶液を被着させて、複合有機/無機層を形成するステップと;(c)金属アルコキシドと電荷輸送化合物を反応させて共有結合した複合有機/無機層を形成するステップと、を含む方法を提供する。
【0011】
別の実施形態において、本発明は、有機電子デバイスにおいて:(a)第1の電極と;(b)第2の電極と;(c)第1および第2の電極の間にあり、ヒドロキシル基を有する電荷輸送化合物と金属アルコキシドの反応により製造される、共有結合した複合有機/無機層と、を含む有機電子デバイスを提供する。
【0012】
別の実施形態において、本発明は、ヒドロキシル基を有する電荷輸送化合物と金属アルコキシドの反応によって形成された金属有機材料を含む、共有結合した複合有機/無機層を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】別個の電子輸送層、ホール輸送層および発光層、ならびに他の層を有する有機発光デバイスを示す。
【図2】別個の電子輸送層をもたない倒置型有機発光デバイスを示す。
【図3−1】本発明において使用するためのヒドロキシル基を付加することのできる電荷輸送化合物の例を示す。
【図3−2】本発明において使用するためのヒドロキシル基を付加することのできる電荷輸送化合物の例を示す。
【図3−3】本発明において使用するためのヒドロキシル基を付加することのできる電荷輸送化合物の例を示す。
【図3−4】本発明において使用するためのヒドロキシル基を付加することのできる電荷輸送化合物の例を示す。
【図3−5】本発明において使用するためのヒドロキシル基を付加することのできる電荷輸送化合物の例を示す。
【図3−6】本発明において使用するためのヒドロキシル基を付加することのできる電荷輸送化合物の例を示す。
【図3−7】本発明において使用するためのヒドロキシル基を付加することのできる電荷輸送化合物の例を示す。
【図3−8】本発明において使用するためのヒドロキシル基を付加することのできる電荷輸送化合物の例を示す。
【図3−9】本発明において使用するためのヒドロキシル基を付加することのできる電荷輸送化合物の例を示す。
【図3−10】本発明において使用するためのヒドロキシル基を付加することのできる電荷輸送化合物の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一般に、OLEDは、アノードとカソードの間に配置されこれらに電気的に接続された少なくとも1つの有機層を含む。電流が加えられた場合、アノードはホールを、カソードは電子を有機層内に注入する。注入されたホールおよび電子は各々、逆に帯電した電極に向かって移動する。電子およびホールが同じ分子上に局在する場合、励起されたエネルギー状態を有する局在電子−ホール対である「励起子」が形成される。励起子が光電子放出機序を介して緩和された時点で光が発出される。一部の場合において、励起子は、エキシマーまたはエキシプレックス上に局在化され得る。熱緩和などの非放射機序も発生し得るが、一般に望ましくないものとみなされている。
【0015】
初期のOLEDは、例えば、全体が参照により援用されている米国特許第4,769,292号明細書中に開示されている通り、その一重項状態から光(蛍光)を発出する発光分子を使用していた。蛍光発光は一般に、10ナノ秒未満の時間枠で発生する。
【0016】
より最近では、三重項状態からの光(燐光)を発出する発光材料を有するOLEDが実証された。全体が参照により援用されているBaldo et al.,「Highly Efficient Phosphorescent Emission from Organic Electroluminescent Devices」 Nature,vol.395,151−154,1998;(「Baldo−I」) and Baldo et al.,「Very high−efficency green organic light−emitting devices based on electrophosphorescence」Appl.Phys.Lett.,vol.75,No.1,4−6(1999)(「Baldo−II」)。燐光は、遷移にスピン状態の変化が必要であり、量子力学はこのような遷移を好ましくないものと指摘しているため、「禁制遷移」と呼ばれる場合がある。その結果、燐光は一般に、少なくとも10ナノ秒を超える時間枠、典型的には100ナノ秒超の時間枠で発生する。燐光の自然放射寿命が過度に長い場合、三重項は非放射機序により減衰することがあり、こうして光は全く発出されない。有機燐光も同様に、多くの場合、非常に低い温度で電子の非共有対と共にヘテロ原子を含む分子内で観察される。2,2’−ビピリジンがこのような分子である。非放射減衰機序は典型的には温度依存性であり、そのため液体窒素温度で燐光を示す有機材料は典型的に室温では燐光を示さない。しかし、Baldoが実証しているように、この問題は、室温でまさに燐光を発する燐光化合物を選択することによって対処されてもよい。代表的な発光層には、米国特許第6,303,238号明細書および米国特許第6,310,360号明細書;米国特許出願公開第2002/0034656号明細書;米国特許出願公開第2002/0182441号明細書;米国特許出願公開第2003/0072964号明細書;およびPCT国際公開第02/074015号パンフレットに開示されているものなどのドープされたまたはドープされていない燐光性有機金属材料が含まれる。
【0017】
一般に、OLED内の励起子は、約3:1の比で、すなわちおよそ75%の三重項と25%の一重項の比で作り出されるものと考えられている。全体が参照により援用されているAdachi1 et al.,「Nearly 100% internal Phosphorescent Efficiency In An Organic Light Emitting Device」J.Appl.Phs.,90,5048(2001)を参照のこと。多くの場合において、一重項励起子は、そのエネルギーを「項間交差」を介して三重項励起状態へと容易に移行させることがあり、一方三重項励起子は容易にそのエネルギーを一重項励起状態へと移行させない場合がある。その結果、燐光OLEDを用いて理論的には100%の内部量子効率が可能である。蛍光デバイスにおいては、三重項励起子のエネルギーは一般に、デバイスを加熱する無放射減衰プロセスに対し無感応になっている。三重項励起状態から発光する燐光材料を用いるOLEDが、例えば、全体が参照により援用されている米国特許第6,303,238号明細書中で開示されている。
【0018】
燐光には、三重項励起状態から中間非三重項状態への遷移が先行してもよく、そこから発光減衰が発生する。例えば、ランタニド元素に配位された有機分子は多くの場合、ランタニド金属上に局在する励起状態から燐光を発する。しかしながら、このような材料が、三重項励起状態から直接燐光を発することはなく、代りに、ランタニド金属イオン上に中心をおく原子励起状態から発光する。ユーロピウムジケトネート錯体が、これらのタイプの種の一群を例示するものである。
【0019】
原子番号の高い原子に極く近接させて有機分子を好ましくは結合を通して閉じ込めることによって、三重項からの燐光を蛍光に比べ増強させることができる。この現象は重原子効果と呼ばれ、スピン軌道結合として公知の機序により作り出される。このような燐光遷移は、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(III)などの有機金属分子の励起金属−配位子電荷移動(MLCT)状態から観察され得る。
【0020】
本明細書中で使用される「三重項エネルギー」という用語は、所与の材料の燐光スペクトル中で識別可能な最高のエネルギー特徴に対応するエネルギーを意味する。最高のエネルギー特徴は、必ずしも燐光スペクトル中で最大の強度を有するピークであるとはかぎらず、例えば、このようなピークの高エネルギー側の明白なショルダーの局所的最大であり得ると考えられる。
【0021】
本明細書中で使用されている「有機金属」という用語は、当業者が一般に理解する通りであり、かつ「Inorganic Chemistry」(2nd Edition) by Gary L.Miessler and Donald A.Tarr,Prentice Hall(1998)中に記載されている通りである。したがって、有機金属という用語は、炭素−金属結合を通して金属に結合させられた有機基を有する化合物を意味する。この部類は、それ自体、アミン、ハロゲン化物、擬ハロゲン化物(CN、など)などの金属錯体などの、ヘテロ原子由来のドナー結合のみを有する物質である配位化合物を含んでいない。実際には、有機金属化合物は一般に、有機種に対する1つ以上の炭素−金属結合に加えて、ヘテロ原子由来の1つ以上のドナー結合を含む。有機種に対する炭素−金属結合は、フェニル、アルキル、アルケニルなどの有機基の炭素原子と金属の間の直接的結合を意味するが、CNまたはCOの炭素などの「無機炭素」に対する金属結合を意味しない。
【0022】
図1は、有機発光デバイス100を示す。図は必ずしも原寸に比例して描かれていない。デバイス100は、基板110、アノード115、ホール注入層120、ホール輸送層125、電子遮断層130、発光層135、ホール遮断層140、電子輸送層145、電子注入層150、保護層155およびカソード160を含んでいてもよい。カソード160は、第1の導電層162と第2の導電層164を有する複合カソードである。デバイス100は、描写されている層を順番に被着させることによって製造されてもよい。
【0023】
基板110は、所望の構造特性を提供する任意の適切な基板であってもよい。基板110は、可撓性または剛性であってもよい。基板110は、透明、半透明または不透明であってもよい。プラスチックおよびガラスが好ましい剛性基板材料の例である。プラスチックおよび金属ホイルが好ましい可撓性基板材料の例である。基板110は、回路の製造を容易にするための半導体材料であってもよい。例えば、基板110は、後で被着されるOLEDを制御することのできる回路が基板上に製造されるシリコンウェーハであってもよい。他の基板を使用してもよい。基板110の材料および厚みは、所望の構造的および光学的特性を得るように選択されてもよい。
【0024】
アノード115は、ホールを有機層に輸送するのに充分な伝導度を有する任意の適切なアノードであってもよい。アノード115の材料は好ましくは、約4eVより高い仕事関数(「高仕事関数材料」)を有する。好ましいアノード材料としては、伝導度の高い金属酸化物、例えばインジウム錫酸化物(ITO)およびインジウム亜鉛酸化物(IZO)、アルミニウム亜鉛酸化物(AlZnO)および金属が含まれる。アノード115(および基板110)は、底面発光デバイスを作り出すのに充分な透明度を有するものであってもよい。好ましい透明基板およびアノードの組合せは、ガラスまたはプラスチック(基板)上に被着された市販のITO(アノード)である。可撓性でかつ透明な基板−アノード組合せは、全体が参照により援用されている米国特許第5,844,363号明細書および同6,602,540号明細書中に開示されている。アノード115は、不透明かつ/または反射性であってもよい。一部の上面発光デバイスについては、デバイスの上面から発出される光の量を増大させるため、反射性アノード115が好まれ得る。アノード115の材料および厚みは、所望の伝導度および光学特性を得るように選択されてもよい。アノード115が透明である場合、所望の伝導度を提供するのに充分厚くしかも所望の透明度を提供するのに充分薄い特定の材料についての厚み範囲が存在し得る。
【0025】
ホール輸送層125は、ホールを輸送できる材料を含んでいてもよい。ホール輸送層130は、真性(未ドープ)のものであっても、ドープされたものであってもよい。ドーピングは、伝導度を増強するために使用されてもよい。α−NPDおよびTPDが、真性ホール輸送層の例である。p−ドープホール輸送層の一例としては、全体が参照により援用されているForrestらに対する米国特許出願公開第2003/0230980号明細書中で開示されている、50:1のモル比でF−TCNQによりドープされたm−MTDATAがある。他のホール輸送層を使用してもよい。
【0026】
発光層135は、アノード115とカソード160の間に電流が通された場合に光を発出できる有機材料を含んでいてもよい。好ましくは、発光層135は燐光発光材料を含むが、蛍光発光材料を使用してもよい。燐光材料は、この材料に付随する発光効率がより高いものであることから、好ましい。発光層135は、励起子が光電子放出機序を介して発光材料から緩和するように、電子、ホールおよび/または励起子を捕捉し得る発光材料でドープされた、電子および/またはホールを輸送できるホスト材料も含んでいてもよい。発光層135は、輸送および発光特性を組合せた単一の材料を含んでいてもよい。発光材料がドーパンドであるかまたは主成分であるかに関わらず、発光層135は、他の材料、例えば発光材料の発光を調整するドーパントを含んでいてもよい。励起子135は、組合せた形で所望の光スペクトルを発出できる複数の発光材料を含んでいてもよい。燐光発光材料の例としては、Ir(ppy)が含まれる。蛍光発光材料の例としては、DCMおよびDMQAが含まれる。ホスト材料の例としては、Alq、CBPおよびmCPが含まれる。発光材料およびホスト材料の例は、全体が参照により援用されているThompsonらに対する米国特許第6,308,238号明細書中に開示されている。発光材料を、数多くの方法で発光層135中に含み入れてもよい。例えば、発光小分子をポリマー中に取込んでよい。これは、複数の方法、すなわち小分子を別個のかつ相異なる分子種のいずれかとしてポリマー内にドープすることにより;または、ポリマーの主鎖の中に小分子を取込んでコポリマーを形成することにより;またはポリマー上にペンダント基として小分子を結合させることにより、達成してもよい。他の発光層材料および構造を使用してもよい。例えば、デンドリマーのコアとして、小分子発光材料が存在してもよい。
【0027】
多くの有用な発光材料が、金属中心に結合した1つ以上の配位子を含む。配位子は、それが有機金属発光材料の光活性特性に直接寄与する場合に「光活性」と呼んでよい。「光活性」配位子は、金属と併せて、光子が発出された時点でそこからおよびそこへ電子が移動するエネルギー準位を提供し得る。他の配位子は、「補助」配位子と呼んでよい。補助配位子は、例えば光活性配位子のエネルギー準位をシフトさせることにより、分子の光活性特性を修飾し得るが、発光に関与するエネルギー準位を直接には提供しない。1つの分子内で光活性である配位子は、別の分子内で補助配位子であり得る。光活性および補助のこれらの定義は、非限定的理論として意図されている。
【0028】
電子輸送層145は、電子を輸送できる材料を含んでいてもよい。電子輸送層145は真性(未ドープ)であっても、またはドープされたものであってもよい。ドーピングは、伝導度を増強するために使用されてもよい。Alqが、真性電子輸送層の一例である。n−ドープ電子輸送層の一例は、全体が参照により援用されているForrestらに対する米国特許出願公開第2003/0230980号明細書中で開示されている通り、1:1のモル比でLiでドープされたBphenである。他の電子輸送層を使用してもよい。
【0029】
電子輸送層の電荷担持構成要素は、カソードから電子輸送層のLUMO(最低非占有分子軌道)エネルギー準位内へ電子が効率良く注入され得るような形で選択されてもよい。「電荷担持構成要素」は、実際に電子を輸送するLUMOエネルギー準位の原因となる材料である。この構成要素は、ベース材料であってもよく、またはドーパントであってもよい。有機材料のLUMOエネルギー準位は、一般に、その材料の電子親和力によって特徴づけされてもよく、カソードの相対的電子注入効率は、一般に、カソード材料の仕事関数に関して特徴づけされてもよい。このことはすなわち、電子輸送層および隣接するカソードの好ましい特性を、ETLの電荷担持構成要素の電子親和力およびカソード材料の仕事関数として規定してもよいということを意味している。詳細には、高い電子注入効率を達成するためには、カソード材料の仕事関数が約0.75eV超だけ、より好ましくは約0.5eV以下だけ、電子輸送層の電荷担持構成要素の電子親和力を上回らないことが好ましい。類似の考慮事項は、電子が注入されているあらゆる層にあてはまる。
【0030】
カソード160は、それが電子を伝導でき、これらの電子をデバイス100の有機層内に注入できるように、当該技術分野にとって公知の任意の適切な材料または材料の組合せであってもよい。カソード160は、透明または不透明であってもよく、反射性であってもよい。金属および金属酸化物が、適切なカソード材料の例である。カソード160は、単層であってもよいし、あるいは複合構造を有していてもよい。図1は、薄い金属層162およびより厚い伝導度金属酸化物層164を有する複合カソード160を示す。複合カソードにおいて、より厚い層164のための好ましい材料には、ITO、IZOそして当該技術分野において公知の他の材料が含まれる。全体が参照により援用されている米国特許第5,703,436号明細書;5,707,745号明細書;6,548,956号明細書;および6,576,134号明細書は、Mg:Agなどの薄い金属層とその上にある透明で伝導性のスパッタリング蒸着ITO層を有する複合カソードを含めたカソードの例を開示している。下にある有機層と接触しているカソード160の部分は、それが単層カソード160であるか、複合カソードの薄い金属層162であるか、またはいずれかの他の部分であるかに関わらず、好ましくは、約4eV未満の仕事関数を有する材料(「低仕事関数材料」)で作られている。他のカソード材料および構造を使用してもよい。
【0031】
発光層を離れる励起子および/または電荷担体(電子またはホール)の数を削減するために、遮断層を使用してもよい。発光層135とホール輸送層125の間に電子遮断層130を配置して、電子がホール輸送層125に向かって発光層135を離れるのを遮断してもよい。同様にして、発光層135と電子輸送層145の間にホール遮断層140を配置して、ホールが電子輸送層145に向かって発光層135から離れるのを遮断してもよい。発光層から励起子が拡散するのを遮断するために遮断層を使用してもよい。遮断層の理論および使用は、全体が参照により援用されている米国特許第6,097,147号明細書およびForrestらに対する米国特許出願公開第2003/0230980号明細書の中でさらに詳述されている。
【0032】
本明細書中で使用され当業者であれば理解すると思われる通り、「遮断層」という用語は、この層が必然的に電荷担体および/または励起子を完全に遮断することを示唆することなく、デバイスを通した電荷担体および/または励起子の輸送を有意に阻害するバリアをこの層が提供していることを意味する。このような遮断層がデバイス内に存在する結果、遮断層が欠如した類似のデバイスと比べて効率は実質的に高くなり得る。同様に、OLEDの所望の領域に発光を限定するために遮断層を用いてもよい。
【0033】
一般に、注入層は、電極または有機層などの1つの層から隣接する有機層への電荷担体の注入を改善し得る材料で構成される。注入層は同様に、電荷輸送機能も果たしてもよい。デバイス100において、ホール注入層120は、アノード115からホール輸送層125までのホールの注入を改善する任意の層であってもよい。CuPcが、ITOアノード115および他のアノードからのホール注入層として使用してもよい材料の一例である。デバイス100において、電子注入層150は、電子輸送層145内への電子の注入を改善する任意の層であってもよい。LiF/Alが、隣接する層から電子輸送層内への電子注入層として使用してもよい材料の一例である。注入層として他の材料または材料組合せを使用してもよい。特定のデバイスの構成に応じて、注入層を、デバイス100に示された場所以外の場所に配置してもよい。全体が参照により援用されているLuらに対する米国特許第7,071,615号明細書中に、さらに多くの注入層の例が提供されている。ホール注入層には、スピンコーティングされたポリマー、例えばPEDOT:PSSなどの溶液被着された材料を含んでいてもよく、あるいは、それは例えばCuPcまたはMTDATAなどの蒸着された小分子材料であってもよい。
【0034】
ホール注入層(HIL)は、アノード表面を平担化または湿潤化して、アノードからホール注入材料への効率の良いホール注入を提供し得る。ホール注入層は同様に、本明細書中に記載されている相対的イオン化ポテンシャル(IP)エネルギーにより定義される通りHILの片側の隣接するアノード層およびHILの反対の側のホール輸送層と有利に調和するHOMO(最高占有分子軌道)エネルギー準位を有する電荷担持構成要素も有していてもよい。「電荷担持構成要素」は、実際にホールを輸送するHOMOエネルギー準位の原因である材料である。この構成要素は、HILのベース材料であってもよく、あるいはドーパントであり得る。ドープされたHILを使用することで、ドーパントをその電気的特性について選択することが可能となり、またホストを濡れ性、可撓性、堅牢性などの形態学的特性について選択することが可能となる。HIL材料のための好ましい特性は、アノードからHIL材料内にホールを効率よく注入できるようなものである。詳細には、HILの電荷担持構成要素は、アノード材料のIPより約0.7eV以下だけ大きいIPを有する。より好ましくは、電荷担持構成要素は、アノード材料より0.5eV以下だけ大きいIPを有する。同様の考慮事項は、ホールが中に注入されつつあるあらゆる層にあてはまる。HIL材料は、このようなHIL材料が従来のホール輸送材料のホール伝導度よりも実質的に低いホール伝導度を有していてもよいという点において、OLEDのホール輸送層で典型的に使用される従来のホール輸送材料とさらに区別される。本発明のHILの厚みは、アノード層の表面を平担化または湿潤化する一助となるのに充分なほどの厚みを有していてもよい。例えば、非常に平滑なアノード表面のためには、10nmというわずかなHIL厚みが許容可能であり得る。しかしながら、アノード表面は非常に粗いものである傾向をもつため、一部の場合において、最高50nmというHILの厚みが所望され得る。
【0035】
後続する製造プロセス中、下にある層を保護するために保護層を使用してもよい。例えば、金属または金属酸化物の上面電極を製造するために使用されるプロセスは有機層を損傷することがあり、このような損傷を削減または削除するために保護層を使用してもよい。デバイス100において、保護層155は、カソード160の製造中の下にある有機層に対する損傷を削減し得る。好ましくは、保護層は、輸送する担体のタイプ(デバイス100中では電子)のための高い担体移動度を有し、こうしてそれがデバイス100の動作電圧を有意に増大させることはない。CuPc、BCPおよびさまざまな金属フタロシアニンが、保護層内で使用してもよい材料の例である。他の材料または材料組合せを使用してもよい。保護層155の厚みは、好ましくは、有機保護層160が被着された後に発生する製造プロセスに起因する下にある層への損傷がほとんどまたは全く存在しないほどに充分厚く、しかもデバイス100の動作電圧を有意に増大させるほどには厚くないものである。保護層155は、その伝導度を高めるためにドープされてもよい。例えば、CuPcまたはBCP保護層160はLiでドープされてもよい。保護層のさらに詳細な説明は、全体が参照により援用されているLuらに対する米国特許第7,071,615号明細書中に見出され得る。
【0036】
図2は、倒置型OLED200を示す。デバイスは、基板210、カソード215、発光層220、ホール輸送層225、およびアノード230を含む。デバイス200は、記述された層を順番に被着させることによって製造されてもよい。最も一般的なOLED構成は、アノードの上に配置されたカソードを有し、デバイス200はアノード230の下に配置されたカソード215を有することから、デバイス200は「倒置型」OLEDと呼んでよい。デバイス100に関して記述したものと類似の材料を、デバイス200の対応する層において使用してもよい。図2は、デバイス100の構造から一部の層を削除する方法の一例を提供している。
【0037】
図1および2に示されている単純な重層構造は、非限定的な例として提供されており、本発明の実施形態を多様な他の構造と関連して使用してもよいということが理解される。記述された具体的材料および構造は、事実上例示的なものであり、他の材料および構造を使用してもよい。機能的OLEDは、記述されたさまざまな層を異なる形で組合せることによって達成されてもよく、あるいは設計、性能およびコスト因子に基づいて複数の層を完全に削除してもよい。具体的に記載されていない他の層も含み入れてもよい。具体的に記載されていない材料以外の材料も使用してもよい。本明細書中で提供されている例の多くは、単一の材料を含むものとしてさまざまな層を記述しているが、ホストおよびドーパントの混合物などの材料の組合せ、またはより一般的に混合物を使用してもよいことが理解される。同様に、層はさまざまな副層を有していてもよい。本明細書中でさまざまな層に与えられている名称は、厳密に限定的であるようには意図されていない。例えば、デバイス200において、ホール輸送層225はホールを輸送し、ホールを発光層220に注入し、ホール輸送層またはホール注入層として記述されてもよい。一実施形態において、OLEDはカソードとアノードの間に配置された「有機層」を有するものとして記述されてもよい。この有機層は、単一の層を含んでいてもよく、またはさらに、例えば図1および2に関して記述された通り、異なる有機材料の多重層を含んでいてもよい。
【0038】
全体が参照により援用されているFriendらに対する米国特許第5,247,190号明細書中に開示されているものなどのポリマー材料で構成されたOLEDなど、具体的に記述されていない構造および材料も使用してもよい。さらなる例として、単一の有機層を有するOLEDを使用してもよい。OLEDを、例えば、全体が参照により援用されているForrestらに対する米国特許第5,707,745号明細書に記述されているように積重ねてもよい。OLED構造は、図1および2に示された単純な重層構造から逸脱してもよい。例えば、基板は、全体が参照により援用されているForrestらに対する米国特許第6,091,195号明細書中に記述されているようなメサ構造および/またはBulovicらに対する米国特許第5,834,893号明細書中に記述されているようなピット構造など、アウトカップリングを改善するための角度を有する反射面を含んでいてもよい。
【0039】
別段の規定のないかぎり、さまざまな実施形態の層のいずれかを任意の適切な方法により被着させてもよい。有機層について、好ましい方法としては、全体が参照により援用されている米国特許第6,013,982号明細書および6,087,196号明細書中に記載のものなどのインクジェット、熱蒸発;全体が参照により援用されているForrestらに対する米国特許第6,337,102号明細書中に記載のものなどの有機気相堆積法(OVPD);および全体が参照により援用されているShteinらに対する米国特許第7,431,968号明細書中に記載のものなどの有機蒸気ジェットプリント法(OVJP)による被着が含まれる。他の適切な被着方法としては、スピンコーティングおよび他の溶液ベースのプロセスが含まれる。溶液ベースのプロセスは、好ましくは、窒素または不活性雰囲気内で実施される。他の層については、好ましい方法には熱蒸発が含まれる。好ましいパターニング方法としては、マスクを通した被着、全体が参照により援用されている米国特許第6,294,398号明細書および6,468,819号明細書に記載のものなどの冷間溶接、およびインクジェットやOVJPなどの被着方法の一部と結びつけられたパターニングが含まれる。他の方法を使用してもよい。被着すべき材料は、それらを特定の被着方法に適合させるように、改質されてもよい。例えば、分岐または未分岐の、そして好ましくは少なくとも3個の炭素を含むアルキルおよびアリール基などの置換基を小分子内で使用して、溶液処理を受けるその能力を増強してもよい。20個以上の炭素を有する置換基を使用してもよく、3〜20個の炭素が好ましい範囲である。非対称構造を有する材料は、非対称材料の再結晶化傾向が低い可能性があることを理由として、対称構造を有する材料より優れた溶液処理可能性を有し得る。デンドリマー置換基を用いて、溶液処理を受ける小分子の能力を増強してもよい。
【0040】
本明細書中で開示される分子は、本発明の範囲から逸脱することなく、多数の異なる方法で置換されてもよい。例えば、置換基が加えられた後二座配位子の1つ以上が共に連結して例えば四座または六座配位子を形成するように、3つの二座配位子を有する化合物に置換基を加えてもよい。このタイプの連結は、当該技術分野において一般に「キレート効果」として理解されているものに起因して、連結無しの類似の化合物に比べて安定性を増大し得ると考えられている。
【0041】
本発明の実施形態によって製造されるデバイスは、フラットパネルディスプレー、コンピュータモニター、テレビ、広告掲示板、屋内または屋外照明および/または信号伝達用の光源、ヘッドアップディスプレー、完全透過型ディスプレー、フレキシブルディスプレー、レーザープリンター、電話、携帯電話、携帯情報端末(PDA)、ラップトップコンピュータ、デジタルカメラ、ビデオカメラ、ファインダー、超小型表示装置、車両、大面積壁、劇場またはスタジアム用スクリーンまたは看板を含めた多様な消費者製品の中に内蔵されてもよい。パッシブマトリックスおよびアクティブマトリックスを含めたさまざまな制御機序を、本発明によって製造されたデバイスの制御に使用してもよい。デバイスの多くは、18〜30℃などの人間にとって快適である温度範囲内、そしてより好ましくは室温(20〜25℃)で使用するように意図されている。
【0042】
本明細書中に記載されている材料および構造は、OLED以外のデバイス内での用途を有し得る。例えば、有機太陽電池および有機光検出器などの他の光電子デバイスがこの材料および構造を利用し得る。より一般的には、有機トランジスタなどの有機デバイスがこれらの材料および構造を利用し得る。
【0043】
一態様において、本発明は、電荷伝導層として、共有結合された複合有機/無機層を含む有機電子デバイスを提供している。複合有機/無機層は、(例えば架橋または重合を介した)共有金属−酸素−炭素結合を伴う金属−有機材料を含む。これは、金属−酸素結合のみを有する純粋な金属−酸化物材料と対照的である。本発明の複合有機/無機層は、任意の適切な方法を用いて製造可能である。
【0044】
一実施形態において、複合層は、1つ以上のヒドロキシル基を有する電荷輸送化合物と金属アルコキシドの反応により製造される。さまざまな異なる種類の電荷輸送化合物(ヒドロキシル基を伴う)が、本発明における使用に適し得る。電荷輸送化合物は、ホール輸送、電子輸送またはその両方であってもよい。ヒドロキシル基を本発明内での使用のために添加できる電荷輸送化合物の例が、図3に示されている。一部の場合において、本発明の電荷輸送化合物は金属錯体である。一部の場合において、本発明の電荷輸送化合物は、1つ以上のトリアリールアミン部分を有するホール輸送化合物である。複合層の製造に関与するヒドロキシル基を有する2つ以上のタイプの電荷輸送化合物および/または2つ以上のタイプの金属アルコキシドが存在し得る。
【0045】
電荷輸送化合物上のヒドロキシル基は、共有結合を形成するための金属アルコキシドとの反応を促進する。金属アルコキシド内の金属は、有機電子デバイスの電荷伝導層内で使用するのに適したさまざまな金属のいずれであってもよい。使用可能な金属元素の例としては、バナジウム、モリブデン、チタンまたはシリコン(従来「金属として言及されていないが、便宜上、「金属」という用語はシリコンを含むように意図される)が含まれ、すなわち金属アルコキシドはバナジウムアルコキシド、モリブデンアルコキシド、チタンアルコキシドまたはシリコンアルコキシドであり得る。金属アルコキシド中の金属原子は、比較的高原子価の状態を有していてもよく、これは、(伝導度を増強し得る)金属アルコキシドの電子親和力の増加および/または架橋部位数の増加にとって特に有用であり得る。一部の場合において、金属は、金属アルコキシド中で少なくとも2の酸化状態を有する。一部の場合において、金属は3、4、5または6族の遷移金属の1つから選択されてもよい。一部の場合において、アルコキシド中のアルキル部分は1〜15個の炭素原子を有する。
【0046】
シクロヘキサノンなどのさまざまなタイプの有機溶媒のいずれでも、本発明の複合層の製造に適し得る。溶液中の水酸化電荷輸送化合物材料との関係における金属アルコキシド材料の量は、特定の利用分野に応じて変動する。一部の場合において、金属アルコキシド材料対水酸化電荷輸送化合物材料のモル比は1:1〜1:3である。
【0047】
溶液の色は、金属アルコキシドと電荷輸送化合物を組合せた時点で変化し得る。この色変化は、金属アルコキシドと電荷輸送化合物が組合わさってドナー・アクセプター電荷移動錯体を形成する(電荷輸送化合物が電子ドナーとして作用し、金属アルコキシドが電子アクセプタとして作用する)時の光吸収の結果であり得る。この結果、溶液の吸収スペクトルは、より長い波長(より低いエネルギー)に向かってシフトし得る。一部の場合において、色変化した溶液の吸収スペクトルは、700nm超の波長を含む吸収バンドを有する。
【0048】
溶液は、表面上に被着されて、複合有機/無機層を形成する。溶液の被着は、スピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、スロットコーティング、ノズル印刷またはインクジェット印刷を含めた任意の適切な溶液被着技術によって実施してもよい。共有結合した複合有機/無機層は、共有結合を形成するためそのヒドロキシル基を介して金属アルコキシド材料が電荷輸送化合物材料と反応する時に形成される。結果として得られた複合有機/無機層は、(例えば架橋または重合を介して)共有金属−酸素−炭素結合を伴う金属−有機材料で作られている。この反応は、被着された溶液の加熱を含めたさまざまな手段によって加速されてもよい。
【0049】
一部の場合において、有機層を作るために従来使用されている材料に対する損傷効果を有するかまたは優れた膜形成と干渉すると思われる酸素および/または水分の量を含む雰囲気内で、被着した膜の乾燥および/または加熱を行なってもよい。従来の方法において、層被着プロセスでは、酸素および/または水分の不利な効果を最小限におさえるために、不活性雰囲気(例えばグローブボックス内部)が必要とされ得る。しかしながら、本発明においては、金属アルコキシドがすでに酸化された形態にあることから、複合層の適切な反応または形成は、酸素の存在の影響をさほど受けない。同様に水分の存在は、金属アルコキシドの加水分解を促進することができる。こうして、一部の場合において、溶液の被着、乾燥および/または加熱は、少なくとも18%の酸素または少なくとも5%の相対湿度またはその両方を含む雰囲気内で実施してもよく、それでもなお優れた膜形成が結果として得られる。一部の場合において、被着された溶液は、周囲空気中で乾燥および/または加熱されてもよい。例えば、加熱は、グローブボックス内の不活性雰囲気を必要とせずに実施され得る。
【0050】
複合層は、有機電子デバイスのさまざまな電荷伝導層のいずれかのために使用されてもよい。例えば、複合層はホール注入層、ホール輸送層、電子注入層または電子輸送層として役立ってもよい。一部の場合において、本発明の複合層は、電荷注入層例えばホール注入層または電子注入層である。電荷注入層は、電極の1つに直接隣接していてもよい(電子注入の場合はカソードに直接隣接し、またホール注入の場合はアノードに直接隣接している)。
【0051】
一部の場合において、複合層はホール注入層であり、このホール注入層は任意の適切な厚みを有していてもよい。本発明の複合層は、比較的厚いホール注入層を可能にするために充分な伝導度を有していてもよい。一部の場合において、ホール注入層は50〜750Åの範囲内の厚みを有し、一部の場合において、300〜750Åの範囲内の厚みを有する。比較的厚いホール注入層は、短絡の欠陥なく粗表面のより優れた被覆率を可能にするという利点を有する。有機発光デバイスにおいて、比較的厚いホール注入層を有することは、彩度を増強するマイクロキャビティ効果を提供するためにも有用であり得る。
【0052】
共有結合したマトリックスで形成された複合有機/無機層は、スピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、インクジェットなどの溶液処理技術による有機電子デバイスの製造において有用であり得る。溶液処理において、有機層は溶媒中で被着される。したがって、多層構造において、下にあるあらゆる層は、好ましくは、その上に被着されつつある溶媒に対して耐性を有する。したがって、一部の実施形態において、複合層内の電荷輸送化合物と金属アルコキシドの共有結合は、複合層を溶媒に対する耐性のあるものにする。こうして、複合層は、溶解、形態学的影響またはその上に被着される溶媒による分解を受けることを回避できる。
【実施例】
【0053】
実験
本発明の具体的な代表的実施形態について、このような実施形態を実施する方法を含めて、以下で説明する。具体的方法、材料、条件、プロセスパラメータ、装置などが必ずしも本発明の範囲を限定するものではないということが理解される。
【0054】
水酸化ホール輸送化合物としての以下の化合物Aと、ホール注入層を作製するための以下の金属アルコキシドとを用いて、有機発光デバイス例を製造した:
【化1】

【0055】
ホール注入層HIL1の調製:シクロヘキサン5mL中にイソプロポキシバナジウムオキシド(0.225モル)を溶解させた。シクロヘキサン5mL中に化合物A(0.45モル)を溶解させ、バナジウム溶液に添加した。溶液(イソプロポキシバナジウムオキシド:化合物Aのモル比1:2)は暗緑色に変化し、これを一晩勢いよく撹拌した。結果として得た溶液の濃度を(シクロヘキサノンで希釈することによって)調整して、40秒間4000rpmでスピンコーティングした場合に150Åの厚みを生成した。結果として得た膜を200℃で30分間空気中で焼成した。焼成後、膜は不溶性になった。この結果得た膜をHIL1と呼ぶ。
【0056】
ホール注入層HIL2の調製:シクロヘキサン5mL中にモリブデン(V)エトキシド(0.225モル)を溶解させた。シクロヘキサン5mL中に化合物A(0.45モル)を溶解させ、モリブデン溶液に添加した。溶液(モリブデンエトキシド:化合物Aのモル比1:2)は褐色に変化し、これを一晩勢いよく撹拌した。結果として得た溶液の濃度を(シクロヘキサノンで希釈することによって)調整して、40秒間3000rpmでスピンコーティングした場合に115Åの厚みを生成した。結果として得た膜を200℃で30分間空気中で焼成した。焼成後、膜は不溶性になった。この結果得た膜をHIL2と呼ぶ。
【0057】
ホール注入層(比較用)HIL3の調製:比較用デバイスについては、シクロヘキサン溶媒中に伝導性ドーパント−1(以下参照)と共にホール注入材料化合物Bを溶解させた。溶液中の伝導性ドーパント−1の量は、化合物Bに対して10wt%であった。化合物Bと伝導度ドーパント−1の合計濃度は、シクロヘキサン中0.5wt%であった。60秒間4000rpmで、パターニングしたインジウム錫酸化物(ITO)電極上に溶液をスピンコーティングした。結果として得た膜を250℃で30分間、グローブボックス内で焼成した。焼成後、膜は不溶性であった。結果として得た膜を、HIL3と呼ぶ。
【0058】
ホール注入層(比較用)HILPEDOT:PSSの調製:低伝導性のPEDOT:PSS(Sigma−Aldrich Corp.より購入)を脱イオン水で希釈した。溶液を4000rpmでスピンコーティングし、200℃で10分間空気中で焼成した。
【0059】
上述のホール注入層を用いて有機発光デバイスを作製した。ホール注入層をITO基板上に作製し、次にホール輸送層(HTL)そしてその後発光層(EML)をスピンコーティングにより形成した。蒸着により遮断層と電子輸送層を作製した。トルエン中のホール輸送材料HTL1の0.5wt%溶液(以下参照)を4000rpmで60秒間スピンコーティングすることによって、HTLを作製した。30分間200℃でHTL膜を焼成した。焼成後に、HTLは不溶性膜となった。
【0060】
EMLを形成するため、88:12というHost−1:Green Dopant−1重量比でHost−1とDopant−1を含むトルエン溶液(トルエン中0.75wt%の正味濃度)を60秒間、1000rpmで不溶性HTLの上面にスピンコーティングし、その後60分間80℃で焼成して溶媒残渣を除去した。遮断層(BL)および電子輸送層(ETL)を形成するため、化合物BL1またはBL2を含む50Åのホール遮断層(以下参照)をEML上に蒸着させる。その後続いて、LG201(LG Chemical Corp.)を含む350Åの電子輸送層を蒸着させる。この後にLiFを含む電子注入層とアルミニウム電極(カソード)が続き、これらを従来の要領で順次真空蒸着させた。
【0061】
以上の説明にしたがって以下のデバイスを作製した:
デバイス1: HIL1/HTL1/Host−1:Green Dopant−1(88:12)/BL1/LG201
デバイス2: HIL2/HTL1/Host−1:Green Dopant−1(88:12)/BL1/LG201
デバイス3: HIL1/HTL1/Host−1:Green Dopant−1(88:12)/BL2/LG201
デバイス4: HIL2/HTL1/Host−1:Green Dopant−1(88:12)/BL2/LG201
比較用デバイス5: HIL3/HTL1/Host−1:Green Dopant−1(88:12)/BL1/LG201
比較用デバイス6: HIL3/HTL1/Host−1:Green Dopant−1(88:12)/BL2/LG201
比較用デバイス7: PEDOT:PSS/HTL1/Host−1:Green Dopant−1(88:12)/BL2/LG201
【0062】
デバイスの性能を、DC定電流下での動作によりテストした。下表1は、デバイスの性能をまとめたものである(LEは発光効率、EQEは外部量子効率そしてPEは出力効率である)。寿命試験のためには、これらのデバイスを、8,000cd/mの初期輝度レベルに対応するDC定電流下で動作させた。輝度が初期レベルの80%まで減衰するのに経過した時間によって、寿命LT80を測定する。
【0063】
【表1】

【0064】
上述のデバイスにおいて、ホール遮断材料BL1は、ホール遮断材料BL2よりも電子伝導性が高い。この実験の他の顕著な結果の1つは、BL1のより電子伝導性の高い遮断層が効率、電圧および寿命に関してより優れた性能を示すという点にある(デバイス1および2とデバイス3および4の比較)。したがって、ホール遮断層の使用により、本発明におけるデバイス性能はさらに改善され得る。
【0065】
以上で説明した通り、実験的デバイス1〜4を、周囲空気中で処理したHIL1とHIL2を用いて作製した。空気中で膜を硬化させるこの能力は、デバイスを作るための処理上の必要性を削減することから、利点であり得る。従来のHIL3を空気中で処理しなければならない場合、結果として得られるデバイスの性能はきわめて低くなると考えられる。比較用デバイス7においては、PEDOT:PSSホール注入層は空気中で処理され、デバイスは非常に短い寿命を有していた。
【0066】
デバイスを作製するために用いられる材料:
【化2】

【化3】

Green Dopant−1は1.9:18.0:46.7:32.8の比でA、B、CおよびDの混合物である。
【化4】

【0067】
本明細書中で記述したさまざまな実施形態は、一例にすぎず、本発明の範囲を限定することが意図されたものではない。例えば、本明細書中で記述した材料および構造の多くは、本発明の精神から逸脱することなく、他の材料および構造で置換されてもよい。本発明が機能する理由についてのさまざまな理論は限定的な意図のないものであると理解される。例えば電荷移動に関する理論は限定的な意図のあるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機電子デバイス用の複合有機/無機層の製造方法であって、
金属アルコキシドとヒドロキシル基を含む電荷輸送化合物とを含む溶液を得るステップと;
表面上に前記溶液を被着させて、複合有機/無機層を形成するステップと;
前記金属アルコキシドと前記電荷輸送化合物を反応させて共有結合した複合有機/無機層を形成するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記被着された複合層を加熱するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電荷輸送化合物が金属錯体である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記電荷輸送化合物がトリアリールアミン部分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記金属アルコキシドが少なくとも2の酸化状態を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記金属アルコキシドが、バナジウムアルコキシド、モリブデンアルコキシドまたはチタンアルコキシドである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記電荷輸送化合物および前記金属アルコキシドが溶液の形で組合わされて、ドナー・アクセプター電荷移動錯体を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記溶液が、前記金属アルコキシドと前記電荷輸送化合物を溶媒中で組合せることによって提供され、結果として、前記溶液に色変化がもたらされ、前記溶液の吸収スペクトルはより長い波長に向かってシフトさせられる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記電荷輸送化合物がホール輸送化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記電荷輸送化合物が電子輸送化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記溶液を被着させる前記ステップが、スピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング、スロットコーティング、ノズル印刷またはインクジェット印刷によって実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記金属アルコキシドが前記電荷輸送化合物に関する電子アクセプタである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
第1の電極と;
第2の電極と;
前記第1および第2の電極の間にあり、ヒドロキシル基を有する電荷輸送化合物と金属アルコキシドの反応により製造される、共有結合した複合有機/無機層と;
を含む有機電子デバイス。
【請求項14】
前記電荷輸送化合物がホール輸送化合物であり、前記複合層がホール注入層である、請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
前記電荷輸送化合物が電子輸送化合物であり、前記複合層が電子注入層である、請求項13に記載のデバイス。
【請求項16】
前記金属アルコキシドがバナジウムアルコキシド、モリブデンアルコキシドまたはチタンアルコキシドである、請求項14に記載のデバイス。
【請求項17】
前記複合層が前記第1の電極に直接隣接するホール注入層である、請求項13に記載のデバイス。
【請求項18】
前記ホール注入層が50〜750Åの厚みを有する、請求項17に記載のデバイス。
【請求項19】
前記デバイスが有機発光デバイスである、請求項13に記載のデバイス。
【請求項20】
前記複合層と前記第2の電極の間に発光層をさらに含む、請求項19に記載のデバイス。
【請求項21】
前記複合層が前記第1の電極に直接隣接するホール注入層である、請求項20に記載のデバイス。
【請求項22】
前記発光層が燐光発光ドーパントを含む、請求項20に記載のデバイス。
【請求項23】
前記発光層が蛍光発光化合物を含む、請求項20に記載のデバイス。
【請求項24】
前記発光層と前記第2の電極の間にホール遮断層をさらに含む、請求項20に記載のデバイス。
【請求項25】
ヒドロキシル基を有する電荷輸送化合物と金属アルコキシドの反応によって形成された金属有機材料を含む、共有結合した複合有機/無機層。
【請求項26】
前記電荷輸送化合物が金属錯体である、請求項25に記載の複合層。
【請求項27】
前記電荷輸送化合物がトリアリールアミン部分を含む、請求項25に記載の複合層。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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【図3−5】
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【図3−6】
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【図3−7】
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【図3−8】
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【図3−9】
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【図3−10】
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【公開番号】特開2013−26220(P2013−26220A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−145355(P2012−145355)
【出願日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【出願人】(503055897)ユニバーサル ディスプレイ コーポレイション (61)
【Fターム(参考)】