説明

有機発光表示装置及びその製造方法

【課題】優れた特性の正極を有機発光層が損傷することなく形成できる有機発光表示装置、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の実施形態にかかる有機発光表示装置は、複数の画素が定義された基板、各画素に位置した薄膜トランジスター、この薄膜トランジスターと連結された負極、この負極上に位置した有機発光層、及びこの有機発光層上に位置する正極を含む。正極は有機発光層上に位置する補助層、この補助層上に位置する導電層、及びこの導電層上に位置する絶縁層を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機発光表示装置及びその製造方法に関し、有機発光素子(organic light emitting diode)の構造を改善した有機発光表示装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
能動駆動型有機発光表示装置は、正極、有機発光層、負極を備えた有機発光素子と、この有機発光素子を駆動する薄膜トランジスターを備える。正極から注入された正孔と負極から注入された電子が有機発光層内で結合して生成された励起子(exciton)が励起状態から基底状態に落ちる時に発生するエネルギーによって発光する。このような発光によって有機発光表示装置において表示が行われる。
【0003】
ここで、有機発光素子は、薄膜トランジスターと連結される正極上に、有機発光層、負極が順に積層して形成される。このような構造では正極が薄膜トランジスターと連結されるため、薄膜トランジスターがp型でなければならないため、薄膜トランジスターの半導体層が多結晶シリコンで構成されなければならない。そのため、多結晶シリコンを形成するための結晶化工程が必要となる。
【0004】
しかし、一般に結晶化を均一に行い難く、形成された半導体層の特性が均一でないこともある。このように均一でない半導体層を備えた有機発光表示装置は、発光特性が均一でなく、酷い場合には不良が生じることがある。有機発光表示装置が大面積化する場合、このような問題はさらに深刻になる。
【0005】
そのために、負極、有機発光層、正極を順に積層して、負極を薄膜トランジスターと連結して、薄膜トランジスターをn型に形成する反転(invert)構造が提案された。この場合、正極は透明導電性物質のインジウム・スズ酸化物(indium tin oxide、ITO)等をスパッタリングして形成される。
【0006】
しかし、正極をスパッタリングで形成する工程によって、下部の有機発光層が損傷する恐れがある。また、正極を構成するインジウム・スズ酸化物の抵抗が高いため、電圧降下(IR drop)現象が生じて輝度が不均一となる。大面積の有機発光表示装置では中間部分が発光しない現象が生じることもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前述した問題を解決するためのものであって、本発明の目的とするところは、優れた特性の正極を有機発光層が損傷することなく形成できる有機発光表示装置、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態にかかる有機発光表示装置は、複数の画素が定義された基板、各画素に位置した薄膜トランジスター、この薄膜トランジスターと連結された負極、この負極上に位置した有機発光層、及びこの有機発光層上に位置する正極を含む。正極は有機発光層上に位置する補助層、この補助層上に位置する導電層、及びこの導電層上に位置する絶縁層を含む。
【0009】
補助層は、タングステン酸化物、モリブデン酸化物、フラーレン(C60)、銅フタロシアニン(copper phthalocyanine、CuPc)、テトラシアノキノジメタン(tetracyanoquinodimethane、TCNQ)、トリフェニルテトラゾリウムクロライド(triphenyltetrazoliumchloride、TTC)、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(naphthalenetetracarboxylic dianhydride、NTCDA)、ペリレンテトラカルボン酸二無水物(perylenetetracarboxylic dianhydride、PTCDA)及びフッ素化銅フタロシアニン(copperhexadecafluorophtalocyanine、F16CuPc)で構成される群より選択される物質を少なくとも1つ含むことができる。また、導電層は、銀、アルミニウム、クロム、サマリウム及びこれらの合金で構成される群より選択される物質を少なくとも1つ含むことができる。絶縁層は、シリコン酸化物、モリブデン酸化物、タングステン酸化物、有機物及び無機物で構成される群より選択される物質を少なくとも1つ含むことができる。
【0010】
ここで、補助層はタングステン酸化物を含み、導電層は銀を含み、絶縁層はタングステン酸化物を含むことができる。
【0011】
ここで、補助層は、有機発光層を構成する層よりも低いエネルギー準位を有する物質を含むエネルギー準位が低い物質層、及び双極子物質を含む双極子物質層が積層して形成される。エネルギー準位が低い物質層はタングステン酸化物を含むことができる。双極子物質層は、モリブデン酸化物、フラーレン、銅フタロシアニン、テトラシアノキノジメタン、トリフェニルテトラゾリウムクロライド、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ペリレンテトラカルボン酸二無水物及びフッ素化銅フタロシアニンで構成される群より選択される物質を少なくとも1つ含む。
【0012】
導電層の厚さの範囲は8〜24nmであってもよい。絶縁層の厚さの範囲は30〜80nmであってもよい。前記エネルギー準位が低い物質層の厚さの範囲は5〜40nmであってもよく、前記双極子物質層の厚さは10nm以下であってもよい。
【0013】
補助層、導電層及び絶縁層は熱蒸着方法によって形成できる。
【0014】
一方、本発明の実施形態にかかる有機発光表示装置の製造方法は、複数の画素が定義された基板を準備する段階、各画素に薄膜トランジスターを形成する段階、及びこの薄膜トランジスターと連結された負極を形成する段階、この負極上に有機発光層を形成する段階、及びこの有機発光層上に正極を形成する段階を含む。正極を形成する段階では、熱蒸着方法によって、補助層、導電層及び絶縁層を順に形成する。
【0015】
補助層は、タングステン酸化物、モリブデン酸化物、フラーレン(C60)、銅フタロシアニン(copper phthalocyanine、CuPc)、テトラシアノキノジメタン(tetracyanoquinodimethane、TCNQ)、トリフェニルテトラゾリウムクロライド(triphenyltetrazoliumchloride、TTC)、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(naphthalenetetracarboxylic dianhydride、NTCDA)、ペリレンテトラカルボン酸二無水物(perylenetetracarboxylicdianhydride、PTCDA)及びフッ素化銅フタロシアニン(copperhexadecafluorophtalocyanine、F16CuPc)で構成される群より選択される物質を少なくとも1つ含むことができる。また、導電層は、銀、アルミニウム、クロム、サマリウム及びこれらの合金で構成される群より選択される物質を少なくとも1つ含むことができる。絶縁層は、シリコン酸化物、モリブデン酸化物、タングステン酸化物、有機物及び無機物で構成される群より選択される物質を少なくとも1つ含むことができる。ここで、補助層はタングステン酸化物を含み、導電層は銀を含み、絶縁層はタングステン酸化物を含むことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の実施形態による有機発光表示装置は、正極が補助層、導電層、絶縁層で構成されて、優れた発光効率及び発光特性を有することができる。
【0017】
一方、本発明の実施形態による有機発光表示装置の製造方法は、正極を構成する補助層、導電層、絶縁層を熱蒸着方法によって形成して、正極形成工程で有機発光層が損傷することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる有機発光表示装置の配置図である。
【図2】図1のII-II線に沿った断面図である。
【図3】図1のA部分を拡大して示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態にかかる有機発光表示装置において正極の部分を拡大して示す図である。
【図5】本発明の第1実施形態にかかる有機発光表示装置の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が容易に実施できるよう本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明は多様な形態で実現でき、ここで説明する実施形態に限定されない。本発明の実施形態を明確に説明するために説明と関係ない部分は省略し、明細書全体にわたって同一または類似した構成要素については同じ参照符号を付ける。
【0020】
また、図面では説明の便宜のために各構成の大きさ及び厚さを任意に示したが、本発明が必ずしもこれに限定されるものではない。また、図面で複数の層及び領域を明確に表現するために厚さを拡大して示した。
【0021】
層、膜、領域、板などの部分が他の部分の「上に」または「上側に」あるとする時、これは他の部分の「直ぐ上に」ある場合だけでなく、その間に別の他の部分がある場合も含む。一方、ある部分が他の部分の「直ぐ上に」あるとする時、これはその間に他の部分がないことを意味する。
【0022】
以下、図1〜図4を参照して本発明の実施形態にかかる有機発光表示装置を説明する。
【0023】
図1は本発明の第1実施形態にかかる有機発光表示装置の配置図であり、図2は図1のII-II線に沿った断面図である。
【0024】
図1及び図2に示すように、本実施形態にかかる有機発光表示装置101は、基板111に定義された複数の画素に各々形成されたスイッチング薄膜トランジスター10、駆動薄膜トランジスター20、蓄電素子80、及び有機発光素子(organic light emitting diode、OLED)70を含む。また、有機発光表示装置101は、一方向に沿って配置されるゲートライン151と、このゲートライン151と絶縁交差するデータライン171、及び共通電源ライン172をさらに含む。
【0025】
ここで、各画素はゲートライン151、データライン171及び共通電源ライン172を境界として定義してもよいが、必ずしもこれに限定されるのではない。
【0026】
また、基板本体111とスイッチング薄膜トランジスター10及び有機発光素子70等の間にはバッファー層120がさらに形成されてもよい。バッファー層120は不純物元素または水分のように不要な成分の浸透を防止するとともに、表面を平坦化する役割を果たす。しかし、バッファー層120は必ずしも必要な構成ではなく、基板本体111の種類及び工程条件によって省略してもよい。
【0027】
有機発光素子70は、負極710と、この負極710上に形成された有機発光層720と、この有機発光層720上に形成された正極730を含む。ここで、負極710は画素毎に1つ以上ずつ形成されるため、有機発光表示装置101は互いに離隔された複数の負極710を有する。有機発光層720に注入された正孔と電子が結合して生成された励起子(exciton)が励起状態から基底状態に落ちる時に発光される。
【0028】
有機発光層720は低分子有機物、または高分子有機物で構成される。このような有機発光層720は、発光層と、正孔注入層(hole injection layer、HIL)、正孔輸送層(hole transpoting layer、HTL)、電子輸送層(electron transporting layer、ETL)及び電子注入層(electron injection layer、EIL)のうちのいずれか1つ以上を含む多重膜で形成されることができる。例えば、これらを全部含む場合には、電子注入層が負極710上に配置され、その上に電子輸送層、有機発光層、正孔輸送層、正孔注入層が順に積層される。
【0029】
本実施形態では、負極710が駆動薄膜トランジスター20と連結され、この負極710上に有機発光層720、正極730が順に積層される反転構造を有するが、これに対する詳細な説明は図3を参照して後述する。
【0030】
蓄電素子80は、層間絶縁膜160を間において互いに対向して配置された一対の蓄電板158、178を含む。ここで、層間絶縁膜160は誘電体となる。蓄電素子80に蓄積された電荷と一対の蓄電板158、178の間の電圧によって蓄電容量が決定される。
【0031】
スイッチング薄膜トランジスター10は、スイッチング半導体層131、スイッチングゲート電極152、スイッチングソース電極173、及びスイッチングドレイン電極174を含む。駆動薄膜トランジスター20は、駆動半導体層132、駆動ゲート電極155、駆動ソース電極176及び駆動ドレイン電極177を含む。本実施形態では、スイッチング駆動半導体層131と駆動半導体層132、スイッチングゲート電極152と駆動ゲート電極155がゲート絶縁膜140を間において形成されて、スイッチング半導体層131と駆動半導体層132、スイッチングソース電極173と駆動ソース電極176、スイッチングドレイン電極174と駆動ドレイン電極177がゲート絶縁膜140及び層間絶縁膜160に形成されたコンタクトホール(contact hole)によって連結された構成が開示されているが、本発明が必ずしもこの構造に限定されるのではない。
【0032】
スイッチング薄膜トランジスター10は、発光しようとする画素を選択するスイッチング素子として使用される。スイッチングゲート電極152はゲートライン151と連結され、スイッチングソース電極173はデータライン171と連結される。スイッチングドレイン電極174はスイッチングソース電極173から離隔配置され、いずれか1つの蓄電板158と連結される。
【0033】
駆動薄膜トランジスター20は、選択された画素内の有機発光素子70の有機発光層720を発光させるための駆動電源を負極710に印加する。駆動ゲート電極155はスイッチングドレイン電極174に連結された蓄電板158と連結される。駆動ソース電極176及び他の1つの蓄電板178は各々共通電源ライン172と連結される。駆動ドレイン電極177が平坦化膜180のコンタクトホールを通して、有機発光素子70の負極710と連結される。しかし、本発明が必ずしもこれに限定されるのではなく、平坦化膜180が形成されずにドレイン電極177と画素電極710が同一層に形成されてもよい。
【0034】
各画素に対応する負極710は平坦化膜180上に形成された画素定義膜190によって互いに絶縁された状態を維持する。
【0035】
このような構造によって、スイッチング薄膜トランジスター10は、ゲートライン151に印加されるゲート電圧によって作動して、データライン171に印加されるデータ電圧を駆動薄膜トランジスター20に伝達する役割を果たす。共通電源ライン172から駆動薄膜トランジスター20に印加される共通電圧とスイッチング薄膜トランジスター10から伝達されたデータ電圧との差に相当する電圧が蓄電素子80に保存されて、蓄電素子80に保存された電圧に対応する電流が駆動薄膜トランジスター20を通して有機発光素子70に流れて有機発光素子70が発光する。
【0036】
以下では図3を参照して、本実施形態にかかる有機発光素子70をより詳細に説明する。図3は図1のA部分を拡大して示す図面である。
【0037】
本実施形態では、前述のように、負極710が駆動薄膜トランジスター20と連結され、この負極710上に有機発光層720、正極730が順に積層される反転構造を有する。
【0038】
図2に示すように、駆動半導体層132は不純物がドーピングされないチャンネル領域135と、このチャンネル領域135の両側に位置して、不純物がドーピングされるソース領域136及びドレイン領域137を含む。本実施形態では、負極710が駆動薄膜トランジスター20と連結されるため、ソース領域136及びドレイン領域137がn型の不純物でドーピングされる。このように本実施形態では反転構造を有しているため、薄膜トランジスターをn型で形成することができるようになる。
【0039】
従って、別途の結晶化工程を行わなくてもよい酸化物半導体物質などでスイッチング半導体層131及び駆動半導体層132を形成することができる。これによって、結晶化工程を省略することができ、半導体層形成の安定性を向上させることができる。
【0040】
図3を参照すると、本実施形態における正極730は、有機発光層720上に形成されて有機発光層720への正孔注入を補助する補助層732、この補助層732上に位置する導電層734、及びこの導電層上に位置する絶縁層736を含む。
【0041】
ここで、補助層732は、正極730から有機発光層720(または有機発光層720の正孔注入層)への正孔注入を補助する役割を果たす。即ち、本実施形態では導電層734と有機発光層720との間のエネルギー障壁を調節できる物質で構成された補助層732を導電層734と有機発光層720との間に挿入して、導電層734から有機発光層720への正孔注入を容易にする。
【0042】
このような補助層732は、有機発光層720(または有機発光層720の正孔注入層)よりもエネルギー準位が低い物質または双極子物質を含む。この時、補助層732はエネルギー準位が低い物質のみで構成されるか、双極子物質のみで構成される。または、補助層723がエネルギー準位が低い物質と双極子物質を共に含んでもよい。また、他の例として、図4に示したように、補助層733が双極子物質層733aとエネルギー準位が低い物質層733bが積層されて形成されてもよい。
【0043】
有機発光層720(または有機発光層720の正孔注入層)よりもエネルギー準位が低い物質としてはタングステン酸化物などがあって、双極子物質としては、モリブデン酸化物、フラーレン(C60)、銅フタロシアニン(copper phthalocyanine、CuPc)、テトラシアノキノジメタン(tetracyanoquinodimethane、TCNQ)、トリフェニルテトラゾリウムクロライド(triphenyltetrazoliumchloride、TTC)、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(naphthalenetetracarboxylic dianhydride、NTCDA)、ペリレンテトラカルボン酸二無水物(perylenetetracarboxylicdianhydride、PTCDA)、フッ素化銅フタロシアニン(copperhexadecafluorophtalocyanine、F16CuPc)などがある。ここで、TCNQ、TTC、NTCDA、PTCDA、F16CuPCなどの物質は電子をよく引き寄せる性質を有するため、有機発光層720への正孔注入を補助することができる。
【0044】
この補助層732上に形成された導電層734は、導電性に優れた物質からなって、正極730の抵抗を低くする役割を果たす。このような導電層734は導電性に優れた金属物質からなり、例えば、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、サマリウム(Sm)またはこれらの合金からなる。
【0045】
この導電層734上に位置する絶縁層736は、有機発光表示装置101から発光された光の透過率を調節する役割を果たす。このような絶縁層736は、シリコン酸化物、モリブデン酸化物、タングステン酸化物、有機物、無機物などで構成されることができる。ここで、タングステン酸化物は高い透過率を有するため、絶縁層736がタングステン酸化物で構成される場合、透過率をより向上させることができる。有機物としては、有機発光表示装置で使用される多様な有機物を使用することができる。例えば、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq3)等の低分子有機物を使用することができる。無機物としては、シリコン酸化物またはシリコン窒化物などが用いることができる。
【0046】
即ち、本実施形態における正極730は、正孔注入を補助する補助層732、抵抗を低くする導電層734、及び透過率を調節する絶縁層736を含んで構成される。
【0047】
これによって補助層732が有機発光層720への正孔注入を補助するため、有機発光表示装置101の発光効率を向上できる。
【0048】
そして、低い抵抗の導電層734によって正極730が低い抵抗を有することができる。このとき、補助層732、導電層734及び絶縁層736が順に積層されて正極730が形成されるため、抵抗が並列に連結されて正極730の抵抗をより低くすることができる。従って、有機発光表示装置101の発光効率を向上させることができ、電圧降下(IR drop)によるパネルの輝度が不均一になる現象を防止することができる。
【0049】
また、透過率を調節する絶縁層736によって有機発光表示装置101から発光された光の透過率を向上させることができる。また、反射率に優れた物質で構成された導電層734が補助層732と絶縁層736との間に挿入されるため、多重反射(multiple reflection)によって微細空洞(microcavity)によるアウトカップリング(out coupling)を向上させることができる。これにより、発光された有機発光表示装置101の発光効率を向上させることができる。
【0050】
結果として、本実施形態では、正極730が補助層732、導電層734及び絶縁層736を含むため、有機発光表示装置101の発光特性及び発光効率を向上することができる。
【0051】
ここで、補助層732、導電層734及び絶縁層736の厚さを限定して、正極730の特性をさらに向上することができる。
【0052】
例えば、補助層732をエネルギー準位の低い物質で構成する場合、その厚さは5〜40nmの範囲であることができる。これは補助層732の厚さが40nmを超える場合には正孔注入特性が低下し、5nm未満の場合には工程の安定性が低下して薄膜形成に困難が生じることがある。このとき、正孔注入特性をさらに考慮すると、エネルギー準位の低い物質で構成される補助層732の厚さは10nmであることができる。
【0053】
また、補助層732を双極子物質で構成する場合、双極子特性を有するように10nm以下の厚さで形成する。図4のように、補助層733が双極子物質層733aとエネルギー準位の低い物質層733bを両方とも含む場合、前述のような理由によって、双極子物質層733aは10nm以下の厚さを有し、エネルギー準位の低い物質層733bは5〜40nmの厚さで形成することができる。
【0054】
また、導電層734の厚さを調節して、正極730の抵抗及び透過率特性を調節することができる。導電層734の厚さを厚くして抵抗を低くすることができ、これによって、正極730の電気的特性を向上させることができる。または、導電層734の厚さを薄くして正極730の透過率を向上させることができる。導電層734の厚さを薄くする場合には、有機発光表示装置101を透明ディスプレイとして使用してもよい。
【0055】
抵抗特性及び透過率特性を全て考慮すると、導電層734は8〜24nmの厚さを有することができる。これは、導電層734の厚さが24nmを超える場合には正極730での透過率を低くなり、8nm未満の場合には正極730の抵抗を高くすることがあるためである。抵抗特性をより向上させる場合には、導電層734を16nm超過24nm以下の厚さに形成することができ、透過率をより向上させる場合には、導電層734を8nm〜16nmの厚さに形成することができる。
【0056】
絶縁層736は光効率を最大化できる厚さに形成できるが、例えば、30〜80nmの厚さで形成できる。厚さが80nmを超える場合、及び30nm未満の場合には、光の波長が変動して光学特性が低下することがある。
【0057】
一方、本実施形態において、正極730を構成する補助層732、導電層734及び絶縁層736は、熱蒸着方法によって蒸着できる物質で構成されるため、正極730を形成する時、有機発光層720が損傷するのを防止することができる。これについては図5を参照して本発明の第1実施形態による有機発光表示装置の製造方法を通してより詳細に説明する。
【0058】
図5は本発明の第1実施形態による有機発光表示装置の製造方法を示したフローチャートである。
【0059】
図5に示すように、本実施形態にかかる有機発光表示装置の製造方法は、複数の画素が定義された基板を準備する段階(ST10)、各画素に薄膜トランジスターを形成する段階(ST20)、薄膜トランジスターと連結された負極を形成する段階(ST30)、負極上に有機発光層を形成する段階(ST40)及び有機発光層上に正極を形成する段階(ST50)を含む。
【0060】
ここで、正極を形成する段階(ST50)以外の段階(ST10、ST20、ST30、ST40)は、公知された多様な方法が適用されるため、これに対する詳細な説明は省略する。従って、以下では正極を形成する段階(ST50)についてのみ詳細に説明する。
【0061】
本実施形態による正極を形成する段階(ST50)では、熱蒸着方法によって補助層(図3の参照符号732及び図4の参照符号733、以下同一)、導電層(図3及び図4の参照符号734、以下同一)及び絶縁層(図3及び図4の参照符号736、以下同一)を順に形成する。
【0062】
本実施形態では補助層732、733がタングステン酸化物、モリブデン酸化物、フラーレン、または銅プタロシアニンなどからなり、導電層734が銀、アルミニウム、クロム、サマリウム、またはこれらの合金などからなり、絶縁層736がシリコン酸化物、モリブデン酸化物、タングステン酸化物、有機物、または無機物などからなる。このように正極730を構成する補助層732、733、導電層734及び絶縁層736が熱蒸着によって形成できる物質で構成されるため、本実施形態では補助層732、733、導電層734及び絶縁層736を熱蒸着方法によって順に形成する。
【0063】
熱蒸着方法に使用される熱蒸着装備は、蒸着材料を入れるボートまたは坩堝と、これを加熱するための熱線を備える。熱線によって、ボートまたは坩堝に含まれた蒸着材料が蒸発し、有機発光層720上に蒸着されて、補助層732、733、導電層734及び絶縁層736を各々形成することができる。より詳しくは、補助層732、733はタングステン酸化物を略800℃以上で熱蒸着方法によって形成することができ、導電層734は銀を1000℃以上で熱蒸着方法によって形成することができ、絶縁層736はタングステン酸化物を略800℃以上で熱蒸着方法によって形成することができる。ここで、タングステン酸化物は99.9%、銀は99.999%純度の物質を使用できる。
【0064】
このように熱蒸着方法によって正極730を形成する場合、スパッタリングを使用する場合とは異なって、有機発光層720を損傷することなく正極730を形成することができる。即ち、本実施形態では反転構造でも有機発光層720を損傷することなく、優れた特性の正極730を形成することができる。
【0065】
以下、本発明の実験例及び比較例を参照して本発明をより詳細に説明する。これは本発明を例示するためのものであり、本発明がこれに限定されるのではない。
【0066】
(実験例1)
タングステン酸化物を800℃で40nmの厚さで熱蒸着して補助層を形成し、その上に銀を1000℃で12nmの厚さで熱蒸着して導電層を形成し、タングステン酸化物を800℃で40nmの厚さで熱蒸着して絶縁層を形成して正極を製造した。
【0067】
(実験例2)
導電層の厚さを16nmにして形成したこと以外には、実験例1の方法と同様にして正極を製造した。
【0068】
(実験例3)
導電層の厚さを24nmにして形成したこと以外には、実験例1の方法と同様にして正極を製造した。
【0069】
(実験例4)
導電層の厚さを29nmにして形成したこと以外には、実験例1の方法と同様にして正極を製造した。
【0070】
(実験例5)
導電層の厚さを40nmにして形成したこと以外には、実験例1の方法と同様にして正極を製造した。
【0071】
(実験例6)
導電層の厚さを50nmにして形成したこと以外には、実験例1の方法と同様にして正極を製造した。
【0072】
(比較例)
インジウム・スズ酸化物をスパッタリングして正極を形成した。
【0073】
実験例1〜6によって製造された正極の面抵抗を測定して表1に示した。比較例によって製造された正極の面抵抗は10Ω/□と測定された。
【0074】
【表1】

【0075】
実験例1〜6によって製造された正極は、比較例によって製造された正極と類似しているか、小さい面抵抗を有することが分かる。特に、導電層の厚さが16nm以上である場合、実験例によって製造された正極は、比較例によって製造された正極に比べて非常に優れた面抵抗を有することが分かる。
【0076】
以上で、本発明の望ましい実施形態について説明したが、本発明がこれに限定されるのではなく、特許請求の範囲と発明の詳細な説明及び添付図面の範囲内で多様に変形して、実施することが可能であり、これも本発明の範囲に属するのは当然である。
【符号の説明】
【0077】
10 スイッチング薄膜トランジスター
101 有機発光表示装置
111 基板
120 バッファー層
131 スイッチング半導体層
132 駆動半導体層
135 チャンネル領域
136 ソース領域
137 ドレイン領域
151 ゲートライン
152 スイッチングゲート電極
155 駆動ゲート電極
158、178 蓄電板
160 層間絶縁膜
171 データライン
172 共通電源ライン
173 スイッチングソース電極
174 スイッチングドレイン電極
176 駆動ソース電極
177 駆動ドレイン電極
180 平坦化膜
190 画素定義膜
20 駆動薄膜トランジスター
70 有機発光素子
710 負極
720 有機発光層
730 正極
732 補助層
734 導電層
736 絶縁層
80 蓄電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の画素が定義された基板、
前記各画素に位置した薄膜トランジスター、
前記薄膜トランジスターと連結された負極、
前記負極上に位置された有機発光層、及び
前記有機発光層上に位置する補助層、前記補助層上に位置する導電層、及び前記導電層上に位置する絶縁層を含む正極を含むことを特徴とする、有機発光表示装置。
【請求項2】
前記補助層は、タングステン酸化物、モリブデン酸化物、フラーレン(C60)、銅フタロシアニン(copper phthalocyanine、CuPc)、テトラシアノキノジメタン(tetracyanoquinodimethane、TCNQ)、トリフェニルテトラゾリウムクロライド(triphenyltetrazoliumchloride、TTC)、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(naphthalenetetracarboxylic dianhydride、NTCDA)、ペリレンテトラカルボン酸二無水物(perylenetetracarboxylicdianhydride、PTCDA)及びフッ素化銅フタロシアニン(copperhexadecafluorophtalocyanine、F16CuPc)で構成される群より選択される物質を少なくとも1つ含むことを特徴とする、請求項1に記載の有機発光表示装置。
【請求項3】
前記導電層は、銀、アルミニウム、クロム、サマリウム及びこれらの合金で構成される群より選択される物質を少なくとも1つ含むことを特徴とする、請求項1に記載の有機発光表示装置。
【請求項4】
前記絶縁層は、シリコン酸化物、モリブデン酸化物、タングステン酸化物、有機物及び無機物で構成される群より選択される物質を少なくとも1つ含むことを特徴とする、請求項1に記載の有機発光表示装置。
【請求項5】
前記補助層はタングステン酸化物を含み、前記導電層は銀を含み、前記絶縁層はタングステン酸化物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の有機発光表示装置。
【請求項6】
前記補助層は、前記有機発光層を構成する層よりも低いエネルギー準位を有する物質を含むエネルギー準位が低い物質層及び双極子物質を含む双極子物質層が積層されて形成されることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光表示装置。
【請求項7】
前記エネルギー準位が低い物質層はタングステン酸化物を含み、
前記双極子物質層はモリブデン酸化物、フラーレン、銅フタロシアニン、テトラシアノキノジメタン、トリフェニルテトラゾリウムクロライド、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ペリレンテトラカルボン酸二無水物、フッ素化銅フタロシアニンで構成される群より選択される物質を少なくとも1つ含むことを特徴とする、請求項6に記載の有機発光表示装置。
【請求項8】
前記導電層の厚さの範囲は8〜24nmであることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光表示装置。
【請求項9】
前記絶縁層の厚さの範囲は30〜80nmであることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光表示装置。
【請求項10】
前記エネルギー準位が低い物質層の厚さの範囲は5〜40nmであり、前記双極子物質層の厚さは10nm以下であることを特徴とする、請求項6に記載の有機発光表示装置。
【請求項11】
前記補助層、前記導電層及び前記絶縁層は熱蒸着方法によって形成されることを特徴とする、請求項1に記載の有機発光表示装置。
【請求項12】
複数の画素が定義された基板を準備する段階、
前記各画素に薄膜トランジスターを形成する段階、
前記薄膜トランジスターと連結された負極を形成する段階、
前記負極上に有機発光層を形成する段階、及び
前記有機発光層上に正極を形成する段階を含み、
前記正極を形成する段階は、熱蒸着方法によって、補助層、導電層及び絶縁層を順に形成することを特徴とする、有機発光表示装置の製造方法。
【請求項13】
前記補助層は、タングステン酸化物、モリブデン酸化物、フラーレン(C60)、銅フタロシアニン(copper phthalocyanine、CuPc)、テトラシアノキノジメタン(tetracyanoquinodimethane、TCNQ)、トリフェニルテトラゾリウムクロライド(triphenyltetrazoliumchloride、TTC)、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(naphthalenetetracarboxylic dianhydride、NTCDA)、ペリレンテトラカルボン酸二無水物(perylenetetracarboxylicdianhydride、PTCDA)及びフッ素化銅フタロシアニン(copperhexadecafluorophtalocyanine、F16CuPc)で構成される群より選択される物質を少なくとも1つ含むことを特徴とする、請求項12に記載の有機発光表示装置の製造方法。
【請求項14】
前記導電層は、銀、アルミニウム、クロム、サマリウム及びこれらの合金で構成される群より選択される物質を少なくとも1つ含むことを特徴とする、請求項12に記載の有機発光表示装置の製造方法。
【請求項15】
前記絶縁層は、シリコン酸化物、モリブデン酸化物、タングステン酸化物、有機物及び無機物で構成される群より選択される物質を少なくとも1つ含むことを特徴とする、請求項12に記載の有機発光表示装置の製造方法。
【請求項16】
前記補助層はタングステン酸化物を含み、前記導電層は銀を含み、前記絶縁層はタングステン酸化物を含むことを特徴とする、請求項12に記載の有機発光表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−222475(P2011−222475A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204263(P2010−204263)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(308040351)三星モバイルディスプレイ株式會社 (764)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Mobile Display Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】San #24 Nongseo−Dong,Giheung−Gu,Yongin−City,Gyeonggi−Do 446−711 Republic of KOREA
【Fターム(参考)】