説明

有機金属アミド錯体の精製方法

【課題】 半導体製造における成膜原料として有用な有機金属アミド錯体の精製方法を提供する。
【解決手段】 一般式:M[N(R)(R)]で示される有機金属アミド錯体の製造において、該有機金属アミド錯体中に含有する塩素を精製除去するに際し、該有機金属アミド錯体中に含有する塩素1当量に対し、1〜100当量のリチウムアルキルアミドを添加し、減圧蒸留を行う(但し、Mは、Hf、Zr、Ti、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Ga、Ge、Sn、またはSbであり、R及びRはメチル基又はエチル基であり、nはMの価数である。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造における成膜原料として好適な有機金属アミド錯体の精製方法に関する。更に詳しくは有機金属化学気相成長法(Metal Organic ChemicalVapor Deposition、以下MOCVD法と略す。)にてHfO膜、ZrO膜、TaN膜等を作製するための原料として好適な有機アミド錯体の精製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機金属アミド錯体は半導体の高誘電率ゲート絶縁膜や、銅薄膜のバリア膜を形成するための成膜原料として近年用途が拡大している。有機金属アミド錯体の製造法としては、金属塩化物(MCl)とリチウムアルキルアミド(LiNR)を有機溶媒中反応させる方法が一般的である。
【0003】
例えば、四塩化ハフニウム(HfCl)とリチウムジエチルアミド[LiN(C]とをヘキサン溶媒中で反応させることによりテトラキスジエチルアミドハフニウム{[HfN(C}を合成する方法が開示されている(非特許文献1)。また、四塩化ジルコニウム(ZrCl)とリチウムジエチルアミド[LiN(CH]とをベンゼン溶媒中で反応させることによりテトラキスジメチルアミドジルコニウム{[ZrN(CH}を合成する方法が開示されている(非特許文献2)。これらの合成法における原料は、一般に金属塩化物が用いられ、また副生成物として塩化リチウム(LiCl)が副生する。
【0004】
しかし、上記文献に記載された有機金属アミド錯体には、これらの化合物の組成には塩素等は含まれていないが、合成反応において、原料若しくは副生成物由来の塩素成分が1〜50,000ppm程度必ず含まれてしまう。本原因としては原料若しくは副生成物が有機溶媒に溶解せず、スラリー状態で反応が進行するためと考えられる。昨今、半導体製造における成膜原料には、非常に高純度なものが必要とされており、塩素成分が混入している有機金属アミド錯体を成膜原料として用いると、気化安定性の低下や配管及び容器の壁面と塩素成分が架橋結合を形成し、パーティクル(塵埃)の発生原因となる。従って半導体成膜原料用途向けの有機金属化合物において、有機金属アミド錯体中の塩素成分を分離することは必要不可欠である。
【0005】
有機金属アミド錯体中の塩素成分を除去する方法としては、通常、減圧蒸留操作による精製が一般的である。副生成物である塩化リチウムは減圧蒸留時の温度条件で殆ど蒸気圧を有しないため、有機金属アミド錯体から完全に分離可能である。しかしながら、原料である金属塩化物は減圧蒸留時の温度条件で若干の蒸気圧を有するため、1回の蒸留操作で塩素成分を完全に分離することは難しい。このことにより、半導体製膜用途向けの有機金属アミド錯体を提供するためには、この減圧蒸留操作を数回或いは数十回行わなくてはならない。
【非特許文献1】J.Chem.Soc.(A),980(1969)
【非特許文献2】J.Chem.Soc.,3857(1960)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、半導体用途に供する有機金属アミド錯体製造において、有機金属アミド錯体中の塩素成分を簡便に高収率でかつ完全に精製除去することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討を重ねた結果、塩素を含有している有機金属アミド錯体中に、リチウムアルキルアミドを添加し、減圧蒸留操作を行う精製方法により、有機金属アミド錯体中の塩素成分を1ppm以下に低減できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、一般式:M[N(R)(R)]で示される有機金属アミド錯体の製造において、該有機金属アミド錯体中に含有する塩素を精製除去するに際し、該有機金属アミド錯体中に含有する塩素1当量に対し、1〜100当量のリチウムアルキルアミドを添加し、減圧蒸留を行うことを特徴とする有機金属アミド錯体の精製方法(但し、Mは、Hf、Zr、Ti、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Ga、Ge、Sn、またはSbであり、R及びRはメチル基又はエチル基であり、nはMの価数である。)を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、有機金属アミド錯体を、リチウムアルキルアミド存在下減圧蒸留を行う手法により、有機金属アミド錯体中の塩素成分を半導体製膜用材料として要求されるレベルにまで低減することができ、高い蒸留収率で有機金属アミド錯体を回収できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、半導体製造プロセス等の高純度が要求される用途に使用する有機金属アミド錯体に適応される。本発明における有機金属アミド錯体は、例えば半導体製造プロセスで高誘電率ゲート絶縁膜形成のためのMOCVD材料等で使用されるものであり、それらは一般式:M[N(R)(R)]で示される有機金属アミド錯体である(但し、Mは、Hf、Zr、Ti、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Ga、Ge、Sn、またはSbであり、R及びRはメチル基又はエチル基であり、nはMの価数である。)。
【0011】
本発明の方法を用いることにより、原料若しくは副生成物由来の塩素を1〜50,000ppm含有する有機金属アミド錯体を、塩素1ppm以下に低減した有機金属アミド錯体にすることができる。
【0012】
以下に本発明を更に詳しく説明する。
本発明の有機金属アミド錯体中の塩素成分を低減させる方法は、有機金属アミド錯体に含まれる塩素成分に対して、過剰量のリチウムアルキルアミド存在下、減圧蒸留単離することにより行う。
【0013】
使用するリチウムアルキルアミドは、有機金属アミド錯体のアミド配位子と同じ置換基を有するものを使用する。すなわち、例えば有機金属アミド錯体がテトラキスジエチルアミドハフニウムの場合、リチウムアルキルアミドはリチウムジエチルアミドを用い、有機金属アミド錯体がテトラキスジメチルアミドハフニウムの場合、リチウムアルキルアミドはリチウムジメチルアミドを用いる。
【0014】
リチウムアルキルアミドの使用量は、用いる有機金属アミド錯体の含まれる塩素1当量に対して、1〜100当量使用することが好ましい。これより少ない場合には塩素分が十分減少しないおそれがあり、また、これより多く用いてもより一層の塩素分の低下は望めず、経済的でなく好ましくない。
【0015】
リチウムアルキルアミドは、常温で粉末固体であるが、固体として有機金属アミド錯体中に加えても、ジエチルエーテル等の有機溶媒等に溶かした状態で有機金属アミド錯体に添加しても良い。
【0016】
有機金属アミド錯体にリチウムアルキルアミドを添加する際の温度は、−78〜200℃、好ましくは0〜100℃で行う。200℃よりも高い温度で添加した場合、リチウムアルキルアミドが熱によって自己分解してしまう恐れがあり好ましくない。また、リチウムアルキルアミドを添加した後、瞬時に蒸留を行っても、攪拌機等により攪拌を行ってもよい。
【0017】
添加後は、減圧蒸留により単離を行う。減圧蒸留を常法で行うことにより、目的の塩素成分が1ppm以下の有機金属アミド錯体を得ることができる。また、本発明は、有機溶媒の存在下で行っても良く、目的の塩素成分が1ppm以下に低減した有機金属アミド錯体を得ることができる。用いる有機溶媒としては、有機金属アミド錯体の溶解性、反応性等を考慮して、ジエチルエーテル、ヘキサン、テトラヒドロフラン等が使用される。特に、入手が容易で安価なヘキサン等が好ましい。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例に制限されるものではない。
【0019】
[参考例]テトラキスジエチルアミドハフニウムの合成
3Lの5つ口ガラスフラスコに還流冷却器、温度計、滴下漏斗及び攪拌機を取り付け、内部を窒素置換した。このフラスコに四塩化ハフニウム(HfCl)160gとヘキサン0.4Lを仕込んだ。反応釜を氷冷した後、別途n−ブチルリチウムとジエチルアミンから調製したリチウムジエチルアミド[LiN(C]溶液を滴下漏斗より3時間かけて滴下した。更に、氷冷温度下1時間攪拌を行った後、135℃、0.37kPaで減圧蒸留を行うことにより、テトラキスジエチルアミドハフニウム{Hf[N(C}を210g得た。このテトラキスジエチルアミドハフニウムをイオンクロマトグラフィーにより測定したところ、塩素濃度は396ppmであった。
【0020】
[実施例1]
100mLの4つ口ガラスフラスコに還流冷却器、温度計及び攪拌機を取り付け、内部を窒素置換した。このフラスコに、塩素濃度が396ppmであるテトラキスジエチルアミドハフニウム{Hf[N(C}30.0g、リチウムジエチルアミド[LiN(C]0.30gを仕込み、室温で2時間攪拌した。次いでこの反応液を125℃、0.12kPaの条件下蒸留を行い、テトラキスジエチルアミドハフニウム29.4gを得た(収率98.0%)。得られたテトラキスジエチルアミドハフニウムの塩素濃度をイオンクロマトグラフィーにより測定したところ、塩素濃度は0.2ppmまで低減していた。
【0021】
[実施例2]
100mLの4つ口ガラスフラスコに還流冷却器、温度計及び攪拌機を取り付け、内部を窒素置換した。このフラスコに、塩素濃度が107ppmであるテトラキスジメチルアミドハフニウム{Hf[N(CH3}25.0g、リチウムジメチルアミド[LiN(CH3]0.04gを仕込み、室温で2時間攪拌した。次いでこの反応液を76℃、0.27kPaの条件下蒸留を行い、テトラキスジメチルアミドハフニウム24.2gを得た(収率96.8%)。得られたテトラキスジメチルアミドハフニウムの塩素濃度をイオンクロマトグラフィーにより測定したところ、塩素濃度は0.2ppmまで低減していた。
【0022】
[実施例3]
100mLの4つ口ガラスフラスコに還流冷却器、温度計及び攪拌機を取り付け、内部を窒素置換した。このフラスコに、塩素濃度が2.6ppmであるテトラキスエチルメチルアミドハフニウム{Hf[N(CH3)(C}11.3g、リチウムエチルメチルアミド[LiN(CH3)(C)]0.01gを仕込み、室温で2時間攪拌した。次いでこの反応液を95℃、0.25kPaの条件下蒸留を行い、テトラキスエチルメチルアミドハフニウム10.6gを得た(収率94.2%)。得られたテトラキスジメチルアミドハフニウムの塩素濃度をイオンクロマトグラフィーにより測定したところ、塩素濃度は0.3ppmまで低減していた。
【0023】
[実施例4]
100mLの4つ口ガラスフラスコに還流冷却器、温度計及び攪拌機を取り付け、内部を窒素置換した。このフラスコに、塩素濃度が400ppmであるテトラキスジエチルアミドジルコニウム{Zr[N(C}20.0g、リチウムジエチルアミド[LiN(C]0.18gを仕込み、室温で2時間攪拌した。次いでこの反応液を108℃、0.13kPaの条件下蒸留を行い、テトラキスジエチルアミドジルコニウム19.0gを得た(収率95.0%)。得られたテトラキスジエチルアミドジルコニウムの塩素濃度をイオンクロマトグラフィーにより測定したところ、塩素濃度は0.5ppmまで低減していた。
【0024】
[比較例1]
リチウムジエチルアミド[LiN(C]を仕込まないこと以外は実施例1と同様の方法で行った。塩素濃度が75ppmであるテトラキスジメチルアミドハフニウム{Hf[N(CH3}37.3gを76℃、0.08kPaの条件下蒸留を行った。得られたテトラキスジエチルアミドハフニウムは36.5gであり、塩素濃度は13.9ppmであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:M[N(R)(R)]で示される有機金属アミド錯体の製造において、該有機金属アミド錯体中に含有する塩素を精製除去するに際し、該有機金属アミド錯体中に含有する塩素1当量に対し、1〜100当量のリチウムアルキルアミドを添加し、減圧蒸留を行うことを特徴とする有機金属アミド錯体の精製方法。
但し、Mは、Hf、Zr、Ti、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Ga、Ge、Sn、またはSbであり、R及びRはメチル基又はエチル基であり、nはMの価数である。


【公開番号】特開2006−249047(P2006−249047A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−71522(P2005−71522)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】