説明

有機金属化合物の製造方法

【課題】 工業的に、かつ廉価に有機金属化合物を製造する方法を提供する。
【解決手段】 トリアルキルアルミニウムと金属ハライドを反応させて有機金属化合物を得て、その副生物であるジアルキルアルミニウムハライドを含むものからトリアルキルアルミニウムを再生し、再生したトリアルキルアルミニウムを再び金属ハライドと反応させて有機金属化合物を得ることを繰り返すことを特徴とする有機金属化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体デバイスの製造に有用な有機金属化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体材料、例えばヒ化ガリウム、リン化インジウム、窒化ガリウムのような材料は、高速デバイスや発光デバイスとして用いられており、移動体通信、デジタル家電、及び半導体照明等のエレクトロニクス分野の発展と相まって、近年急速にその需要を増してきており、廉価な化合物半導体材料が切望されている。
これらの化合物半導体は、トリメチルガリウム、トリメチルインジウム等のIII族有機金属化合物とアルシン、ホスフィン等のV族有機金属化合物を用いたMOCVD法により製造される。
これらのIII族有機金属化合物を製造する方法としては、トリアルキルアルミニウムと金属ハライドを反応させる方法が公知であるが、トリアルキルアルミニウムを金属ハライドに対して大過剰に用いなければならず、結果としてジアルキルアルミニウムハライドが大量に副生してしまう問題を有しており、高価なトリメチルアルミニウムを大量に用いることや、非常に活性に富むジアルキルアルミニウムハライドの処理の困難さから、製造コストが非常に大きな方法となっている。
【0003】
Inorg. Synth. (1974),15,203.(非特許文献1)には、三塩化ガリウムと大過剰のトリメチルアルミニウムからトリメチルガリウムを得る方法が報告されているが、反応の副生物は加溶媒分解処理により廃棄しており、不経済かつ危険である。特公昭51−29880号公報(特許文献1)には、アルミニウムとハロゲン化エチルとの反応によって得られるエチルアルミニウムセスキハライドを還元して得たトリエチルアルミニウムを蒸留精製し、続いて精製したトリエチルアルミニウムと金属ハライドとを反応させて得た有機金属化合物を蒸留により精製する方法が報告されているが、反応副生物の再利用及び廃棄方法についてはなんら記載されていない。なお、特開平1−197489号公報(特許文献2)には、三塩化ガリウムとトリメチルアルミニウムの反応の副生物から有用な有機金属化合物を製造する方法が示されているが、副生物の塩化ジメチルアルミニウムを金属水素化物と反応させて水素化ジメチルアルミニウムを製造する方法であり、本発明とは本質的に異なる。
【0004】
また、トリアルキルアルミニウムと金属ハライドとの反応は、通常、回分式製造方法によって行われる。この回分式製造方法は種々の利点を有するが、製造量を大きくするためには、反応器を大きくしなければならず、工業生産を行う際に制約が出る。
【0005】
【特許文献1】特公昭51−29880号公報
【特許文献2】特開平1−197489号公報
【非特許文献1】Inorg. Synth. (1974),15,203.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、有機金属化合物を製造する際に本来廃棄されていた副生物を還元工程によって再循環することで、工業的に、かつ廉価に有機金属化合物を製造することができ、工業的な連続製造をも可能とする有機金属化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を達成するために鋭意検討を行った結果、有機金属化合物を製造する際に、本来廃棄していた副生物を還元再生して、再び有機金属化合物を製造することに利用するといった方法で上記目的を達成できること、更には、出発原料を精製する工程、出発原料を混合する工程、有機金属化合物を得る工程、有機金属化合物を精製する工程、副生物を再生する工程を連続させる方法を見い出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
従って、本発明は、下記製造方法を提供する。
[I]トリアルキルアルミニウムと金属ハライドを反応させて有機金属化合物を製造する方法において、この反応により副生成するジアルキルアルミニウムハライドを含む副生物からトリアルキルアルミニウムを再生し、再生したトリアルキルアルミニウムを再び金属ハライドと反応させて有機金属化合物を得ることを繰り返すことを特徴とする有機金属化合物の製造方法。
[II]トリメチルアルミニウムを蒸留により精製し、精製したトリメチルアルミニウムと高純度三塩化ガリウムをメシチレンの存在下で反応させ、生成したトリメチルガリウムをジメチルアルミニウムクロライドとメシチレンを含む副生物から分離し、更にトリメチルガリウムを蒸留により精製して高純度トリメチルガリウムを得ると共に、ジメチルアルミニウムクロライドとメシチレンを含む副生物をナトリウムによる還元反応に付し、その反応混合物から生成したトリメチルアルミニウムを分離し、得られたトリメチルアルミニウムと前記精製したトリメチルアルミニウムとの混合物を再び高純度三塩化ガリウムと反応させてトリメチルガリウムを得ることを繰り返すことを特徴とする有機金属化合物の製造方法。
[III]トリアルキルアルミニウムを連続蒸留する工程、トリアルキルアルミニウムと金属ハライドを連続反応させる工程、この反応により生成した反応生成物から有機金属化合物を連続蒸留して高純度有機金属化合物を得る工程、ジアルキルアルミニウムハライドを含む副生物をナトリウムと連続反応させてトリアルキルアルミニウムを再生する工程、再生トリメチルアルミニウムを連続蒸留する工程を有することを特徴とする有機金属化合物の製造方法。
【0009】
この場合、好適な態様を挙げると、以下の通りである。
(i)特に上記[I]の態様として、トリアルキルアルミニウムを再生する工程が、ジアルキルアルミニウムハライドを含むものをナトリウムにより還元して、得られた混合物からトリアルキルアルミニウムを分離する工程である。
(ii)精製したトリアルキルアルミニウム中の有機珪素不純物が0.1ppm未満である。
(iii)金属ハライドの純度が99.99%以上である。
(iv)高純度有機金属化合物中の有機珪素不純物が0.05ppm未満、酸素不純物が10ppm未満、炭化珪素不純物が10ppm未満である。
(v)トリアルキルアルミニウムがトリメチルアルミニウムであり、金属ハライドが三塩化ガリウムであり、有機金属化合物がトリメチルガリウムであり、ジアルキルアルミニウムハライドがジメチルアルミニウムクロライドである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有機金属化合物の製造方法によれば、トリアルキルアルミニウムと金属ハライドから有機金属化合物を製造する際に、本来廃棄していた副生物を有効に利用でき、原料コストを大幅に改善でき、その後の廃棄物処理も容易で、かつ廃棄物のコストを低減できるといった工業的利益が発揮される。また、本発明による連続製造方法によれば、小容量設備で十分な量、具体的には回分式製造方法の数倍から数十倍量の高純度有機金属化合物を製造することができるといった工業的利益が発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、出発原料として用いられるトリアルキルアルミニウムは、具体的にはトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム等が挙げられ、公知の方法によって製造したものを使用できる。但し、高純度の有機金属化合物を得るためには、高純度のトリアルキルアルミニウムが不可欠であり、このためトリアルキルアルミニウムを精製して用いることが好ましい。トリアルキルアルミニウムの精製手段は主に蒸留(真空蒸留も可)で行われ、精製によりトリアルキルアルミニウム中の有機珪素不純物を1ppm未満とすることが望ましく、更に望ましくは0.1ppm未満とする。同時にトリアルキルアルミニウム中の金属不純物であるCa,Cd,Co,Cr,Cu,Fe,Mg,Mn,Ni,Si,Zn,Na,Kをそれぞれ0.1ppm未満とし、炭化水素不純物も低減することが好ましい。精製は通常1回で十分であるが、必要に応じて精製を繰り返してもよい。
【0012】
なお、有機珪素不純物は、具体的にはテトラメチルシラン、トリメチルクロロシラン、テトラクロロシラン、メチルトリクロロシラン等の有機溶媒に抽出される珪素化合物が挙げられ、酸素不純物は金属アルコキシド、金属酸化物等が挙げられ、炭化水素は炭素数5〜20のあらゆる炭化水素化合物が挙げられる。
【0013】
その精製方法としては、特に制限されないが、例えば本出願人が先に提案した実質的に不純物を含まない金属ナトリウムを、精製すべきトリメチルアルミニウム又はこれにトリメチルアルミニウムより沸点が10℃以上高い溶媒を混合した溶液に添加、溶解し、この溶液を蒸留するトリメチルアルミニウムの精製方法(特願2004−181009号)、あるいは有機珪素化合物不純物等のトリメチルアルミニウムよりも蒸気圧の高い不純物を蒸留精製で除去する場合は、トリメチルアルミニウムの蒸気中に不活性ガスを流通させながら蒸留する方法(特願2004−180971号)等が挙げられる。
【0014】
この場合、トリアルキルアルミニウムを連続蒸留させることもでき、トリアルキルアルミニウムの連続蒸留方法は、蒸留、真空蒸留のいずれの方法を用いてもよく、好ましくは上記した特願2004−181009号あるいは特願2004−180971号記載の方法を採用して、精製によりトリアルキルアルミニウム中の有機珪素不純物、金属不純物量を上記した量とすることが好ましい。この場合、連続蒸留装置は十分な段数を持つカラムとリボイラー、還流冷却器を備えた公知の連続蒸留設備を用いることができる。連続蒸留装置にトリアルキルアルミニウムを流量調節器で定量的に供給し、全還流させて定常状態になった際に、カラム上部から低沸点留分を、カラム中部から中沸点成分を、カラム底部から高沸点留分をそれぞれ流量調節器で定量的に留出させる。蒸留カラム上部と底部の差圧が一定になるように、トリアルキルアルミニウムの供給速度及び各沸点留分の留出速度を制御する。トリアルキルアルミニウムはカラム上部、カラム中部、カラム底部、リボイラー部のいずれの場所に供給してもよいが、好ましくはカラム中部に供給する。精製は、通常1回で十分であるが、必要に応じて連続蒸留設備を増やして連続蒸留精製を繰り返してもよい。連続蒸留精製を繰り返す場合には、連続蒸留設備ごとに除去すべき不純物を分けることもできる。例えば、1塔目で塔頂から低沸点不純物を除去し、2塔目ではリボイラー部から高沸点不純物を除去して精製トリアルキルアルミニウムを得る。得られた精製トリアルキルアルミニウムは次の反応に用いられる。
【0015】
本発明の実施に用いる他方の原料である金属ハライドは、具体的には三塩化ガリウム、三臭化ガリウム、三沃化ガリウム、三塩化インジウム、三臭化インジウム、三沃化インジウム、二塩化亜鉛、二臭化亜鉛、二沃化亜鉛等が挙げられ、公知の方法によって製造したものを使用できるが、これもトリアルキルアルミニウムと同様に高純度のものが好適に使用される。低純度のハロゲン化金属を使用すると、たとえトリアルキルアルミニウムが高純度であっても、有機金属化合物収率が著しく低下したり、得られた有機金属化合物中に容易に除去できない不純物が混入することがある。
【0016】
この場合、金属ハライドの純度は99.99%以上のものを使用するのが好ましく、更に好ましくは純度が99.999%以上のものを使用することによって十分な純度の有機金属化合物を得ることができる。
【0017】
本発明においては、上記トリアルキルアルミニウムと金属ハライドとを反応させる。なお、本発明を実施するにあたり、系内は不活性ガス、例えば窒素、アルゴン、ヘリウムにより置換して行う。
【0018】
トリアルキルアルミニウムと金属ハライドとの反応は溶媒の存在下、公知の方法によって実施することができる。トリアルキルアルミニウムは金属ハライドに対して大過剰用いるのが好ましく、更に好ましくは金属原子の酸化数に対して1.1倍等量用いる。溶媒は、生成する有機金属化合物との分離をよくするため、有機金属化合物と10℃以上沸点差があるものから選ばれ、事前に水分、溶存酸素等を厳密に排除してから使用する。この場合、特開2005−8553号公報に開示した方法も好適に使用される。反応は0〜250℃で行うことが好ましく、更に好ましくは室温(20℃)〜100℃で行う。生成した有機金属化合物は、通常、蒸留又は真空蒸留によって、副生物であるジアルキルアルミニウムハライドと溶媒から分離される。分離した有機金属化合物の純度は、有機珪素不純物が0.05ppm未満、酸素不純物、金属不純物及び炭化水素不純物は検出限界以下となる。得られた有機金属化合物は、更に、蒸留又は真空蒸留により精製して、高純度有機金属化合物を得る。高純度有機金属化合物の純度は、有機珪素不純物、酸素不純物、金属不純物及び炭化水素不純物のいずれも検出限界以下となる。精製は通常1回で十分であるが、必要に応じて精製を繰り返してもよい。
【0019】
なお、ジアルキルアルミニウムハライドは、具体的にはジメチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムクロライド、ジプロピルアルミニウムクロライド、ジメチルアルミニウムブロミド、ジエチルアルミニウムブロミド、ジプロピルアルミニウムブロミド、ジメチルアルミニウムアイオダイド、ジエチルアルミニウムアイオダイド、ジプロピルアルミニウムアイオダイド等である。有機金属化合物は、具体的にはトリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリプロピルガリウム、トリメチルインジウム、トリエチルインジウム、トリプロピルインジウム、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジプロピル亜鉛等である。
【0020】
この場合、トリアルキルアルミニウムと金属ハライドとは連続的に反応を行うことができ、連続反応装置には公知の連続槽型反応器を用いることができる。反応は金属ハライドを溶媒に溶解した溶液と、前述の精製トリアルキルアルミニウムと後述の再生トリアルキルアルミニウムとの混合液を、それぞれ流量調節器を用いて定量的に反応槽に供給し、生成した混合物を流量調節器で抜き出しながら行う。反応槽中の定常状態は原料の供給速度と生成物の抜き出し速度で制御する。金属ハライド溶液とトリアルキルアルミニウムの混合液は反応槽に供給する前に、例えばスタティックミキサー等で事前に混合して供給してもよい。トリアルキルアルミニウムは、金属ハライドに対して大過剰存在させるのが好ましく、更に金属原子の酸化数に対して1.1倍等量過剰に存在させるのが好ましい。反応槽は通常1基で十分であるが、必要に応じて反応槽を数基連結し、反応物の滞留時間を長くする、及び2基目以降の反応槽において反応温度を上げることで、より反応を完結することができる。生成した混合物は次の精製に用いられる。
【0021】
前記反応により生成した混合物は蒸留又は真空蒸留によって、高純度有機金属化合物と、副生物であるジアルキルアルミニウムハライドと溶媒に連続蒸留分離される。分離した高純度有機金属化合物の純度は、通常、有機珪素不純物が0.05ppm未満(検出限界以下)、酸素不純物10ppm未満(検出限界以下)、炭化水素不純物10ppm未満(検出限界以下)、金属不純物は検出限界以下となる。連続蒸留装置は十分な段数を持つカラムとリボイラー、還流冷却器を備えた公知の連続蒸留設備を用いることができる。連続蒸留装置に生成した混合物を流量調節器で定量的に導入し、全還流させて定常状態になった際に、カラム上部から低沸点留分である高純度有機金属化合物を、カラム底部から高沸点留分であるジアルキルアルミニウムハライドと溶媒との混合物をそれぞれ流量調節器で定量的に留出させる。カラム上部の温度が有機金属化合物の沸点になるように、又は蒸留カラム上部と底部の差圧が一定になるように、混合物の供給速度及び各沸点留分の留出速度を制御する。また、カラム上部から低沸点留分を、カラム中部から高純度有機金属化合物を、カラム底部から高沸点留分を留出させてもよい。混合物はカラム上部、カラム中部、カラム底部、リボイラー部のいずれの場所に供給してもよいが、好ましくはカラム中部に供給する。精製は、通常1回で十分であるが、必要に応じて連続蒸留設備を増やして連続蒸留精製を繰り返してもよい。連続蒸留精製を繰り返す場合には、連続蒸留設備ごとに除去すべき不純物を分けることもできる。例えば、1塔目で塔頂から低沸点不純物を除去し、2塔目でリボイラー部から高沸点不純物を除去して高純度有機金属化合物を得る。精製した高純度有機金属化合物は製品タンクに貯蔵され、ジアルキルアルミニウムハライドと溶媒との混合物(副生物)は次の反応に用いられる。
【0022】
本発明においては、上記ジアルキルアルミニウムハライドを含む副生物からトリアルキルアルミニウムを再生し、この再生したトリアルキルアルミニウムを再び金属ハライドとの反応に使用する。この場合、この再生方法としては、副生物のジアルキルアルミニウムハライドと溶媒の混合物をナトリウムで還元してトリアルキルアルミニウムを再生する方法が好適に採用される。この場合、ナトリウムは、事前に高純度化したものを用い、ジアルキルアルミニウムハライドに対して0.9〜1.2等量存在されることが好ましい。生成したトリアルキルアルミニウムは、通常、蒸留又は真空蒸留によってその混合物から分離される。前記反応の副生物であるアルミニウムと塩化ナトリウムと溶媒の混合物は活性がほとんどなくなっているので、希釈した後、容易に加水分解処理できる。通常、再生したトリアルキルアルミニウムは、未反応のジアルキルアルミニウムハライドと有機金属化合物を少量含有しているが、そのまま次の反応に用いてもよく、必要に応じて蒸留精製してから次の反応に用いてもよい。
【0023】
この場合、上記再生処理を連続的に行うことができ、副生物のジアルキルアルミニウムハライドと溶媒の混合物をナトリウムで還元してトリアルキルアルミニウムを再生する連続反応は、公知の方法に準じて実施できる。ナトリウムは事前に高純度化し、溶媒に分散したものを用いる。溶媒は生成するトリアルキルアルミニウムより10℃以上沸点の高いものから選ばれるのが好ましく、更に好ましくはトリアルキルアルミニウムと金属ハライドとの反応で使用した溶媒と同一のものを選び、事前に水分、溶存酸素等を厳密に排除してから使用する。連続反応装置には公知の連続槽型反応器を用いることができる。反応はナトリウムを分散させた懸濁液と、ジアルキルアルミニウムハライドと溶媒との混合物とをそれぞれ流量調節器を用いて定量的に反応槽に供給し、生成した懸濁液を流量調節器で抜き出しながら行う。反応槽中の定常状態は、原料の供給速度と生成物の抜き出し速度で制御する。ナトリウムはジアルキルアルミニウムハライドに対して0.9〜1.2等量存在させることが好ましく、更に好ましくは0.95〜1.05等量存在させる。反応槽は通常1基で十分であるが、必要に応じて反応槽を数基連結し、反応物の滞留時間を長くすること、及び2基目以降の反応槽において反応温度を上げることで、より反応を完結することができる。生成した懸濁液は次の精製に用いられる。
【0024】
再生トリアルキルアルミニウムは、前記懸濁液より、蒸留もしくは真空蒸留によって連続蒸留分離される。再生トリアルキルアルミニウムの純度は、有機珪素不純物0.1ppm未満、炭化水素不純物10ppm未満とすることが好ましい。再生トリアルキルアルミニウムは、未反応のジアルキルアルミニウムハライドと有機金属化合物を少量含有している場合があるが、そのまま次の反応に用いてもよい。連続蒸留装置は十分な段数を持つカラムと撹拌機付リボイラー、還流冷却器を備えた公知の連続蒸留設備を用いることができる。連続蒸留装置に懸濁液を流量調節器で定量的に供給し、全還流させて定常状態になった際に、カラム上部から低沸点留分を、カラム中部から中沸点成分である再生トリアルキルアルミニウムを、カラム底部から高沸点留分をそれぞれ流量調節器で定量的に留出させる。カラム中の定常状態は懸濁液の供給速度及び各沸点留分の留出速度で制御される。また、カラム上部から再生トリアルキルアルミニウムを、カラム底部から高沸点留分を留出させてもよい。懸濁液はカラム上部、カラム中部、カラム底部、リボイラー部のいずれの場所に供給してもよいが、リボイラー部に供給するのが好ましい。精製は、通常1回で十分であるが、必要に応じて連続蒸留設備を増やして連続蒸留精製を繰り返してもよい。連続蒸留精製を繰り返す場合には、連続蒸留設備ごとに除去すべき不純物を分けることもできる。例えば、1塔目で塔頂から低沸点不純物を除去し、2塔目でリボイラー部から高沸点不純物を除去して再生トリメチルアルミニウムを得ることができる。
【0025】
このように再生した再生トリアルキルアルミニウムは、必要量の蒸留精製したトリアルキルアルミニウムと混合して、再び有機金属化合物を製造することに用いる。この場合、再生トリアルキルアルミニウムのみを使用しても、精製したトリアルキルアルミニウムのみを使用しても一向に差し支えない。
これら一連の工程を繰り返し、有機金属化合物、特には高純度有機金属化合物を製造することができる。
【0026】
図1は、トリメチルアルミニウム(TMA)と三塩化ガリウムGaCl3とを用いてトリメチルガリウム(TMG)を製造する本発明の一実施態様を示すもので、原料トリメチルアルミニウム[TMA(1)]を蒸留装置1に供給し、蒸留して精製トリメチルアルミニウム[TMA(2)]を得る。この際、釜残(廃TMA)はこれを抜き出し、排ガスは排ガス処理装置2にて処理する。上記TMA(2)は,TMG合成槽(反応器)3に供給し、またこの合成槽にはGaCl3を純化処理メシチレン(脱水・不活性ガス処理されたメシチレン)に溶解した溶液を供給し、反応させてTMGを合成する。得られたTMGはTMG合成槽3に付設されたTMG蒸留塔3’にて蒸留され、この蒸留された合成直後のトリメチルガリウム[TMG(1)]は精製蒸留装置4に導入されて蒸留精製されたトリメチルガリウム[TMG(2)]が得られる。
なお、TMG蒸留塔3’からの排ガスは上記排ガス処理装置2で処理され、精製蒸留装置4からの釜残は上記TMG蒸留塔に戻され、排ガスは上記排ガス処理装置2で処理される。
【0027】
一方、TMG合成槽3からの反応残渣(副生物)は、これをジメチルアルミニウムクロライド−金属ナトリウム反応層(DMAC還元槽)5に導入すると共に、この反応槽5に金属ナトリウムを純化処理メシチレンに分散させたものを供給し、反応させる。得られた反応混合物は蒸留装置6で蒸留し、得られた再生TMAはTMA(2)と混合使用する。なお、上記反応槽5からの残渣はこれを廃液処理し、蒸留装置6からの排ガスは排ガス処理装置にて処理する。
【0028】
図2は、トリメチルアルミニウム(TMA)とGaCl3とを用いてトリメチルガリウム(TMG)を連続的に製造する本発明の一実施態様を示す。図中11は、TMA連続蒸留装置で、該装置11のカラム中部にTMAを供給し、蒸留を行ってカラム上部から低沸点留分、中部から精製TMG、底部から高沸点留分を留出させる。精製TMGはメシチレンに溶解されたGaCl3と共に混合カラム12に供給した後、TMAとGaCl3の連続槽型第1反応装置13に導入して反応を行わせる。ここで、生成した反応混合物は、次いでTMAとGaCl3の連続槽型第2反応装置14に導入し、更なる反応を行わせる。得られた反応混合物は、TMG連続蒸留第1蒸留装置15のカラム中部に導入し、蒸留を行ってカラム上部からTMGを留出させ、カラム下部から高沸点留分のジメチルアルミニウムクロライド(DMAC)を含む副生物を留出させる。カラム上部から留出させたTMGは、TMG連続蒸留第2蒸留装置16のカラム中部に導入し、蒸留を行って、カラム上部から低沸点留分、中部から高純度TMG、底部から高沸点留分を留出させ、高純度TMGは貯留容器17に導入し、高沸点留分は前記第1反応装置13に連続的に戻す。
【0029】
一方、上記第1蒸留装置15のカラム底部から留出する高沸点留分の副生物は、DMAC還元反応連続槽型反応装置18に導入すると共に、該反応装置18にメシチレンに分散した金属ナトリウムを供給して反応を行い、得られた反応懸濁液を再生TMA連続蒸留装置19のリボイラー部に供給し、蒸留を行ってカラム上部から再生TMA、底部から高沸点留分を留出させ、再生TMAは前記精製TMAと混合して混合カラム12に導入し、以上上述した操作を繰り返し、高沸点留分は加水分解装置20に導入して加水分解処理を行う。
【0030】
図3は、TMAとGaCl3からTMGを連続的に製造する他の実施態様を示すもので、この例にあっては、TMA(1)をTMA放散塔21のカラム中部に供給し、蒸留を行ってカラム上部から低沸点不純物残分[TMA(VI)]リボイラー部から高沸点成分を留出させ、更にこの高沸点成分をTMA精留塔22のカラム中部に導入し、蒸留を行ってカラム上部から精製TMA、リボイラー部から高沸点残分[(B1)TMA]を留出させる。上記精製TMAは、TMA貯槽23に導入し、ここからTMG合成槽(第1反応器)24に供給する(なお、図中TMA(P)は高純度TMPを示す)。更に、GaCl3混合槽25にGaCl3を供給すると共に、メシチレン槽26から不活性ガスで純化処理したメシチレンを供給し、この混合槽25で得られたGaCl3メシチレン溶液をTMG合成槽24に導入し、反応を行わせる。更に、生成した反応混合物をTMG熟成槽27に導入し、反応を行わせる。得られた反応生成物をTMG放散塔28のカラム中部に導入し、蒸留を行ってカラム上部からTMG、底部から高沸点成分である副生物を留出させ、前記TMGを第1TMG精製塔29のカラム中部に導入し、蒸留を行って、カラム上部から低沸点留分、リボイラー部から高沸点成分を留出させ、この高沸点成分を第2TMG精製塔30のカラム中部に導入し、蒸留を行ってカラム上部から高純度TMG[TMG(p)]を留出させる。また、リボイラー部からは高沸点成分を留出させ、これはTMG熟成槽27に連続的に戻す。なお、図中、TMG(V1),(V2)は低沸点残分を示す。
【0031】
一方、上記TMG放散塔28から留出した高沸点成分(副生物)は、DMAC貯槽31に供給し、ここからDMAC第1還元槽32に供給する。また、金属ナトリウムを金属Na混合槽33に供給すると共に、前記メシチレン槽26からメシチレンを供給し、この混合槽33にて得られた金属ナトリウムのメシチレン分散液をDMAC第1還元槽32に供給し、DMACの還元反応を行わせる。得られた反応懸濁液をDMAC第2還元槽34に導入し、更なる還元反応を行い、ここで得られた反応懸濁液をTMA放散塔35のリボイラー部に送り、蒸留を行って、カラム上部から低沸点不純物残分[TMA(V2)]、中部から中沸点成分を留出させ、この中沸点成分をTMA精製塔36のカラム中部に導入し、蒸留を行ってカラム上部から再生TMA、リボイラー部から高沸点成分を留出させる。再生TMAは、再生TMA貯槽37に送られ、ここからTMG合成槽24に供給されて、再度TMG製造原料として使用する。なお、TMA放散塔35からの残渣液は、廃液処理工程にまわされて処理される。また、図中、(B2)TMAは高沸点残分である。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0033】
[実施例1]
図1に示す方法で、トリメチルガリウムの合成を行った。還流冷却器、蒸留塔(2B)を備えた10Lの蒸留設備にトリメチルアルミニウム7.0kgを仕込み、常圧、窒素ガス流入(蒸気負荷量に対して5体積%)下で蒸留して精製トリメチルアルミニウム5.0kgを得、釜残は抜き出した。更に、この精製トリメチルアルミニウム全量を再度当該蒸留設備に仕込み、1回目と同一条件で蒸留し、最終的に主留として3.0kgを得た。
一方、合成した5N(純度99.999%)三塩化ガリウム0.41kgをメシチレン0.40kgに溶解し、還流冷却器、蒸留塔(1B)を備えた撹拌機付5Lの反応器に仕込んだ。撹拌しながらここに先に調製した精製トリメチルアルミニウム0.56kgを50℃、約1.5時間で徐々に滴下した。
反応器を昇温してトリメチルガリウム0.25kgを塔頂から留出させた後、釜からジメチルアルミニウムクロライドとメシチレンを含む反応残渣約1.1kgを抜き出した。
この一連のトリメチルガリウム合成・蒸留操作を更に1バッチ行い、トリメチルガリウム0.25kgを得た。1回目と合わせて0.50kgを得た。
得られたトリメチルガリウム全量を還流冷却器、蒸留塔を備えた1Lの蒸留設備に仕込み、常圧下、57℃で蒸留して高純度トリメチルガリウム0.42kgを得た。
【0034】
還流冷却器、蒸留塔を備えた2Lの反応器に高純度ナトリウム0.20kgを仕込み、メシチレン0.2kgに分散させた。ここに先の反応残渣1.1kgを約100℃で滴下した。
反応器を昇温してトリメチルアルミニウムを主成分とする留分0.29kgを塔頂から留出させた。この再生トリメチルアルミニウム全量に精製トリメチルアルミニウム0.28kgを混合し、再び5N三塩化ガリウム0.40kgをメシチレン0.40kgに溶解した溶液と反応させてトリメチルガリウム0.24kgを塔頂から留出させた後、釜からジメチルアルミニウムクロライドとメシチレンを含む反応残渣を抜き出した。これを2回繰り返し、更に蒸留によって総重量0.63kgの高純度トリメチルガリウムを得た。得られた高純度トリメチルガリウムの純度は、有機珪素不純物、酸素不純物、金属不純物及び炭化水素不純物のいずれも検出限界以下であった。
【0035】
[実施例2]
還流冷却器、蒸留塔を備えた200Lの蒸留設備にトリメチルアルミニウム110kgを仕込み、常圧下127℃で蒸留して精製トリメチルアルミニウム50kgを得た。5N三塩化ガリウム37kgをメシチレン37kgに溶解し、還流冷却器、蒸留塔を備えた190Lの反応器に仕込んだ。撹拌しながらここに先に調製した精製トリメチルアルミニウムを50℃で滴下した。反応器を昇温してトリメチルガリウム22kgを塔頂から留出させた後、釜からジメチルアルミニウムクロライドとメシチレンを含む反応残渣100kgを抜き出した。得られたトリメチルガリウムを還流冷却器、蒸留塔を備えた50Lの蒸留設備に仕込み、常圧下、57℃で蒸留して高純度トリメチルガリウム20kgを得た。還流冷却器、蒸留塔を備えた150Lの反応器に高純度ナトリウム15kgを仕込み、メシチレン15kgに分散させた。ここに先の反応残渣100kgを100℃で滴下した。反応器を昇温してトリメチルアルミニウムを主成分とする留分30kgを塔頂から留出させた。この再生トリメチルアルミニウム30kgに精製トリメチルアルミニウム24kgを混合し、再び5N三塩化ガリウム37kgをメシチレン37kgに溶解した溶液と反応させてトリメチルガリウム23kgを塔頂から留出させた後、釜からジメチルアルミニウムクロライドとメシチレンを含む反応残渣106kgを抜き出した。
上記反応を3回繰り返し、総重量60kgの高純度トリメチルガリウムを得た。得られた高純度トリメチルガリウムの純度は、有機珪素不純物、酸素不純物、金属不純物及び炭化水素不純物のいずれも検出限界以下であった。
【0036】
[実施例3]
図2に示す方法でトリメチルガリウムの合成を行った。実施の前に全ての系内をアルゴン置換した。還流冷却器、蒸留塔、リボイラーを備えた連続蒸留設備にトリメチルアルミニウムを111g/minでカラム中部に供給した。リボイラーを150℃に加熱し、差圧が100Paで安定したところで、カラム上部から低沸点留分を43.0g/minで、カラム中部から精製トリメチルアルミニウムを49.9g/minで、カラム底部から高沸点留分を8.6g/minでそれぞれ留出させた。次に撹拌機を備えた反応器2基からなる連続槽型反応器の第1反応器に、50質量%三塩化ガリウムメシチレン溶液を73.8g/minで、精製トリメチルアルミニウムを49.9g/minで供給した。
【0037】
ここで、後述する再生トリメチルアルミニウムが生成した段階で、全量を精製トリメチルアルミニウムで供給する代わりに、精製トリメチルアルミニウム24.4g/min、再生トリメチルアルミニウム30.2g/minの供給に切り替えた。
反応釜を50℃に保ち、反応器が一定量満たされた段階で、生成した混合物を128g/minで抜き出した。前記混合物を第2反応器に128g/minで供給し、反応器を80℃に保ち、反応器が一定量満たされた段階で、混合物を128g/minで抜き出した。還流冷却器、蒸留塔、リボイラーを2基ずつ備えた連続蒸留設備に前記混合物を128g/minで第1カラム中部に供給した。リボイラーを160℃に加熱し、カラム上部温度が57℃で安定したところで、カラム上部からトリメチルガリウムを23.2g/minで、カラム底部から高沸点留分である副生物を102g/minでそれぞれ留出させた。前記トリメチルガリウムを第2カラム中部へ23.2g/minで供給した。リボイラーを80℃に加熱し、差圧が300Paで安定したところで、カラム上部から低沸点留分を1.2g/minで、カラム中部から高純度トリメチルガリウムを19.0g/minで、カラム底部から高沸点留分を2.1g/minでそれぞれ留出させた。高沸点留分は第1反応器に連続的に戻した。
【0038】
次に、撹拌機を備えた反応器からなる連続槽型反応器に、50質量%ナトリウムのメシチレン懸濁液を31.2g/minで、先の反応の副生物を102g/minで供給した。反応器を100℃に保ち、反応器が一定量満たされた段階で、生成した懸濁液を133g/minで抜き出した。還流冷却器、蒸留塔、リボイラーを備えた連続蒸留設備に前記懸濁液を133g/minでリボイラー部に供給した。リボイラーを190℃に加熱し、カラム上部温度が127℃で安定したところで、カラム上部から再生トリメチルアルミニウムを30.2g/minで、カラム底部から高沸点留分を102g/minでそれぞれ留出させた。再生トリメチルアルミニウムは上記三塩化ガリウムとの反応に使用した。
1時間連続運転し、総重量1,120gの高純度トリメチルガリウムを得た。得られた高純度トリメチルガリウムの純度は、有機珪素不純物、酸素不純物、炭化水素不純物及び金属不純物のいずれも検出限界以下であった。
【0039】
[実施例4]
図3に示す方法でトリメチルガリウムの合成を行った。実施の前に全ての系内を窒素置換した。還流冷却器、蒸留塔、リボイラーを備えたTMA放散塔にトリメチルアルミニウムを28.2kg/hでカラム中部に供給した。リボイラーを150℃に加熱し、差圧が70Paで安定したところで、カラム上部から低沸点留分を11.3kg/hで、リボイラー部から高沸点成分を16.9kg/hで留出させた。この高沸点成分をTMA精留塔のカラム中部に16.9kg/hで供給した。リボイラーを150℃に加熱し、差圧が100Paで安定したところで、カラム上部から精製トリメチルアルミニウムを15.4kg/hで、リボイラー部から高沸点成分を1.4kg/hで留出させた。撹拌機を備えた反応器2基からなる連続槽型反応器の第1反応器(TMG合成槽)に、50質量%三塩化ガリウムメシチレン溶液を49.2kg/hで、精製トリメチルアルミニウム33.0kg/hで供給した。
【0040】
ここで、後述する再生トリメチルアルミニウムが生成した段階で、全量を精製トリメチルアルミニウムで供給する代わりに、精製トリメチルアルミニウム15.4kg/h、再生トリメチルアルミニウム17.7kg/hの供給に切り替えた。
TMG合成槽を50℃に保ち、TMG合成槽が一定量満たされた段階で、生成した混合物を82.3kg/hで抜き出した。前記混合物を第2反応器(TMG熟成槽)に82.3kg/hで供給し、反応器を80℃に保ち、反応器が一定量満たされた段階で、混合物を82.3kg/hで抜き出した。還流冷却器、蒸留塔、リボイラーを3基ずつ備えた連続蒸留設備に前記混合物を82.3kg/hで第1カラム(TMG放散塔)中部に供給した。リボイラーを160℃に加熱し、カラム上部温度が57℃で安定したところで、カラム上部からトリメチルガリウムを15.7kg/hで、カラム底部から高沸点留分である副生物を65.7kg/hでそれぞれ留出させた。前記トリメチルガリウムを第2カラム(第1TMG精製塔)中部へ15.7kg/hで供給した。リボイラーを80℃に加熱し、差圧が200Paで安定したところで、カラム上部から低沸点留分を0.8kg/hで、リボイラー部から高沸点成分を14.8kg/hでそれぞれ留出させた。
【0041】
この高沸点成分を第3カラム(第2TMG精製塔)中部に14.8kg/hで供給した。リボイラーを80℃に加熱し、差圧が200Paで安定したところで、カラム上部から高純度トリメチルガリウムを13.4kg/hで、リボイラー部から高沸点成分を1.4kg/hでそれぞれ留出させた。高沸点留分はTMG熟成槽に連続的に戻した。次に撹拌機を備えた反応器2基ずつからなる連続槽型反応器の第1反応器(DMAC第1還元槽)に、50質量%ナトリウムのメシチレン懸濁液を20.8kg/hで、先の反応の副生物を65.7kg/hで供給した。反応器を100℃に保ち、反応器が一定量満たされた段階で、生成した懸濁液を86.5kg/hで抜き出した。この懸濁液を86.5kg/hで第2反応器(DMAC第2還元槽)に供給し、反応器を140℃に保ち、反応器が一定量満たされた段階で、生成した懸濁液を86.5kg/hで抜き出した。還流冷却器、蒸留塔、リボイラーを2基ずつ備えた連続蒸留設備の第1蒸留設備(TMA放散塔)に前記懸濁液を86.5kg/hでリボイラー部に供給した。リボイラーを190℃に加熱し、カラム上部温度が127℃で安定したところで、カラム上部から低沸点成分を0.44kg/hで、カラム中部から中沸点成分を19.7kg/hでそれぞれ留出させた。この中沸点成分を第2蒸留設備(TMA精製塔)のカラム中部に19.7kg/hで供給した。リボイラーを160℃に加熱し、差圧が100Paで安定した際に、カラム上部から再生トリメチルアルミニウムを17.7kg/hで、高沸点成分をリボイラー部から1.93kg/hでそれぞれ留出させた。再生トリメチルアルミニウムは上記三塩化ガリウムとの反応に使用した。
【0042】
5時間連続運転し、総重量67.2kgの高純度トリメチルガリウムを得た。得られた高純度トリメチルガリウムの純度は有機珪素不純物、酸素不純物、炭化水素不純物及び金属不純物のいずれも検出限界以下であった。
トリメチルアルミニウムと三塩化ガリウムとの反応における、反応温度と反応器中の滞留時間と収率の関係を下記の表1に示した。
【0043】
【表1】

【0044】
ジメチルアルミニウムクロライドの還元反応における、反応温度と反応器中の滞留時間と収率の関係を下記の表2に示した。
【0045】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明を実施するための有機金属化合物の製造方法の工程図の一例を示す。
【図2】本発明を実施するための工程図の他の例を示す。
【図3】本発明を実施するための別の工程図を示す。
【符号の説明】
【0047】
1 蒸留装置
2 排ガス処理装置
3 TMG合成槽
3’TMG蒸留塔
4 精製蒸留装置
5 DMAC還元槽
6 蒸留装置
TMA(1) 原料トリメチルアルミニウム
TMA(2) 精製トリメチルアルミニウム
TMG(1) 合成直後のトリメチルガリウム
TMG(2) 蒸留精製後のトリメチルガリウム
11 トリメチルアルミニウム連続蒸留装置
12 混合カラム
13 トリメチルアルミニウムと三塩化ガリウムの連続槽型第1反応装置
14 トリメチルアルミニウムと三塩化ガリウムの連続槽型第2反応装置
15 トリメチルガリウム連続蒸留第1蒸留装置
16 トリメチルガリウム連続蒸留第2蒸留装置
17 貯留容器
18 ジメチルアルミニウムクロライド還元反応連続槽型反応装置
19 再生トリメチルアルミニウム連続蒸留装置
20 加水分解装置
21 TMA放散塔
22 TMA精留塔
23 TMA貯槽
24 TMG合成槽
25 GaCl3混合槽
26 メシチレン槽
27 TMG熟成槽
28 TMG放散塔
29 第1TMG精製塔
30 第2TMG精製塔
31 DMAC貯槽
32 DMAC第1還元槽
33 金属Na混合槽
34 DMAC第2還元槽
35 TMA放散塔
36 TMA精製塔
37 TMA貯槽
TMA(V1),(V2) 低沸点不純物残分
(B1),(B2)TMA 高沸点残分
TMG(V1),(V2) 低沸点残分
TMG(p) 高純度トリメチルガリウム
TMA(P) 高純度トリメチルアルミニウム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリアルキルアルミニウムと金属ハライドを反応させて有機金属化合物を製造する方法において、この反応により副生成するジアルキルアルミニウムハライドを含む副生物からトリアルキルアルミニウムを再生し、再生したトリアルキルアルミニウムを再び金属ハライドと反応させて有機金属化合物を得ることを繰り返すことを特徴とする有機金属化合物の製造方法。
【請求項2】
出発原料のトリアルキルアルミニウムを蒸留により精製してから使用することを特徴とする請求項1記載の有機金属化合物の製造方法。
【請求項3】
得られた有機金属化合物を蒸留により精製することを特徴とする請求項1又は2記載の有機金属化合物の製造方法。
【請求項4】
トリアルキルアルミニウムを再生する工程が、ジアルキルアルミニウムハライドを含む副生物をナトリウムによる還元反応に付し、得られた反応混合物からトリアルキルアルミニウムを分離する工程である請求項1〜3のいずれか1項記載の有機金属化合物の製造方法。
【請求項5】
トリメチルアルミニウムを蒸留により精製し、精製したトリメチルアルミニウムと高純度三塩化ガリウムをメシチレンの存在下で反応させ、生成したトリメチルガリウムをジメチルアルミニウムクロライドとメシチレンを含む副生物から分離し、更にトリメチルガリウムを蒸留により精製して高純度トリメチルガリウムを得ると共に、ジメチルアルミニウムクロライドとメシチレンを含む副生物をナトリウムによる還元反応に付し、その反応混合物から生成したトリメチルアルミニウムを分離し、得られたトリメチルアルミニウムと前記精製したトリメチルアルミニウムとの混合物を再び高純度三塩化ガリウムと反応させてトリメチルガリウムを得ることを繰り返すことを特徴とする有機金属化合物の製造方法。
【請求項6】
トリアルキルアルミニウムを連続蒸留する工程、トリアルキルアルミニウムと金属ハライドを連続反応させる工程、この反応により生成した反応生成物から有機金属化合物を連続蒸留して高純度有機金属化合物を得る工程、ジアルキルアルミニウムハライドを含む副生物をナトリウムと連続反応させてトリアルキルアルミニウムを再生する工程、再生トリメチルアルミニウムを連続蒸留する工程を有することを特徴とする有機金属化合物の製造方法。
【請求項7】
精製したトリアルキルアルミニウム中の有機珪素不純物が0.1ppm未満である請求項6記載の有機金属化合物の製造方法。
【請求項8】
金属ハライドの純度が99.99%以上である請求項6又は7記載の有機金属化合物の製造方法。
【請求項9】
高純度有機金属化合物中の有機珪素不純物が0.05ppm未満、酸素不純物が10ppm未満、炭化珪素不純物が10ppm未満である請求項6〜8のいずれか1項記載の有機金属化合物の製造方法。
【請求項10】
トリアルキルアルミニウムがトリメチルアルミニウムであり、金属ハライドが三塩化ガリウムであり、有機金属化合物がトリメチルガリウムであり、ジアルキルアルミニウムハライドがジメチルアルミニウムクロライドである請求項6〜9のいずれか1項記載の有機金属化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−342101(P2006−342101A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−169084(P2005−169084)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】