説明

未加硫ゴムの表面改質方法

【課題】未加硫ゴム部材組立工程に必要な未加硫ゴム同士の密着力を確保する。
【解決手段】未加硫ゴム部材12の接合予定部位に赤外線のレーザー光Laを照射して表面の密着阻害物質(例えば、脂肪酸亜鉛、ワックス類等のブルーム)をエッチングにより除去する。密着阻害物質の除去された部分は、未加硫ゴム本来の粘着性が得られるため、未加硫ゴム部材組立工程に必要な未加硫ゴム同士の密着力を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未加硫ゴムの表面改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
未加硫ゴムを組み立てる工程、例えば、タイヤの製造工程では、未加硫ゴムを貼り合わせたり、ジョイントする工程がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
未加硫ゴム同士を貼り合わせたり、ジョイントする際には、未加硫ゴム表面の粘着性が求められる。即ち、組み立てられた物がモールドで加硫される前に、貼り合せ箇所やジョイント箇所が剥れたり、ずれたりしないように未加硫ゴム同士の密着力が必要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−025510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ゴム押出機から押し出された直後の未加硫ゴムは、ある程度大きな粘着性を有しているが、ゴム押出機から押し出された未加硫ゴムを放置すると、経時変化により、脂肪酸亜鉛、ワックス類等の配合剤がゴム表面に移行して析出する場合がある(ブルームと呼ばれる。)。
【0006】
未加硫ゴムの表面にブルームが生ずると、未加硫ゴムの粘着性が低下する問題があり、未加硫ゴム同士を貼り合せたりジョイントした後に剥れる場合がある。なお、粘着性は低くとも、剥れなければその後の加硫工程で未加硫ゴム同士は接着される。
【0007】
未加硫ゴム同士を密着させるために、ゴムセメントを塗布して粘着力を向上させる技術がある。貼り合せ部分やジョイント部分の未加硫ゴム同士の密着力を確保する目的でセメント塗布を行おうとするとゴム揮発油(ガソリン)等の溶剤化学成分が必要となるが、溶剤化学成分が大気中に揮発する問題がある。
【0008】
一方、未加硫ゴムの端部をカットしてフレッシュ面を露出させ、未加硫ゴム本来の粘着力を得る方法では、カットした部材の端部は再利用できず、産業廃棄物となってしまい、材料の無駄となる。
【0009】
本発明は、上記問題を解決すべく成されたもので、従来技術の問題を解決し、未加硫ゴム部材組立工程に必要な未加硫ゴム同士の密着力を確保することのできる未加硫ゴムの表面改質方法を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであって、請求項1に記載の未加硫ゴムの表面改質方法は、未加硫ゴム同士を接合する前に、前記未加硫ゴムの接合予定部位に電磁波を照射し、未加硫ゴム同士の密着力を確保する様に前記接合予定部位の表面を改質する。
【0011】
次に、請求項1に記載の未加硫ゴムの表面改質方法を説明する。
未加硫ゴムの接合予定部位に電磁波を照射することで、接合予定部位のゴム表面が改質され、未加硫ゴム同士の密着力を確保することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の未加硫ゴムの表面改質方法において、前記改質は、前記接合予定部位の表面に付着している未加硫ゴム同士の密着力を阻害する密着阻害物質を前記電磁波の照射により除去する。
【0013】
次に、請求項2に記載の未加硫ゴムの表面改質方法を説明する。
請求項2に記載の未加硫ゴムの表面改質方法では、接合予定部位の表面に付着している未加硫ゴム同士の密着力を阻害する密着阻害物質が電磁波の照射により除去される。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の未加硫ゴムの表面改質方法において、前記電磁波は、波長が0.8〜0.9μmのレーザー光であり、前記接合予定部位において、前記レーザー光の照射密度が3〜4W/cm、前記レーザー光の照射時間が0.2〜0.6secの範囲内である。
【0015】
次に、請求項3に記載の未加硫ゴムの表面改質方法を説明する。
波長0.8〜0.9μmのレーザー光をゴム表面に照射し、ゴム表面におけるレーザー光の単位面積当たりの照射密度を3〜4W/cm、照射時間を0.2〜0.6secの範囲内とすることで、ゴム表面の密着阻害物質を効率的に除去することができる。
【0016】
なお、照射密度が3W/cm未満、かつ照射時間が0.2sec未満では、密着阻害物質を低減乃至除去するにはエネルギーが不足気味となる。
一方、照射密度が4W/cmを超え、かつ照射時間が0.6secを超えると、未加硫ゴム表面の温度上昇により未加硫ゴムが加硫する虞がある。
【0017】
なお、レーザー光の波長を0.8〜0.9μmの範囲内とすることで、密着阻害物質を効率的に低減乃至除去することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明の未加硫ゴムの表面改質方法によれば、ゴム揮発油を大気に揮発させたり、産業廃棄物を増やす事無く、未加硫ゴム部材組立工程に必要な未加硫ゴム同士の密着力を簡単に確保することができる、という効果がある。
【0019】
また、電磁波を波長0.8〜0.9μmのレーザー光とし、ゴム表面におけるレーザー光の単位面積当たりの照射密度を3〜4W/cm、照射時間を0.2〜0.6secとすることで、未加硫ゴムの表面の改質を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(A)〜(C)は、未加硫ゴムの改質を行う工程の説明図である。
【図2】レーザー照射装置の概略構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の未加硫ゴムの表面改質方法に用いる装置構成を図面を用いて説明する。
図1の符合10は、生タイヤを製造する際に用いる一般的な周知のタイヤ成形ドラムであり、タイヤ成形ドラム10の矢印L方向側には、帯状の未加硫ゴム部材12を搬送するコンベア14が設けられている。生タイヤの製造に用いる未加硫ゴム部材12としては、インナーライナー、トレッドゴム、サイドゴム、クッションゴム、カーカスプライ、ベルトプライ、ビードフィラー、各種補強層等を上げることができるが、これら以外のものであっても良い。
【0022】
コンベア14とタイヤ成形ドラム10との間には、未加硫ゴム部材12の搬送経路下側、及びタイヤ成形ドラム10の上方には、各々レーザー照射装置16が配置されている。
図2に示すように、レーザー照射装置16は、ボックス18の内部に、赤外線のレーザー光Laを出射するレーザーダイオード24、可視光のレーザー光Lbを出射する照準用のレーザーダイオード26、ミラー28、レーザーダイオード24、及びレーザーダイオード26の制御を行う制御回路30、レーザーダイオード24から出射されたレーザー光La、及びレーザーダイオード26から出射されたレーザー光Lbを線状にするレンズ系(例えば、柱状レンズ)32等を備えている。なお、制御回路30は、成形ドラム10を回転させるモータも制御することができる。
レーザー光Lbは可視光であれば良く、赤色、緑色、青色等、視認性がよければその色(波長)は特に問わない。
【0023】
レーザーダイオード24から出射されたレーザー光Laは、レンズ系32に向けて出射される。レーザーダイオード24とレンズ系32との間には、赤外線を通過し、可視光を反射するミラー28がレーザー光Laに対して斜めに配置されており、レーザーダイオード24からミラー28に向けて出射された可視光のレーザー光Lbは、ミラー28で反射され、ミラー28を透過した赤外線のレーザー光Laと同軸でレンズ系32に向けて出射される。
【0024】
赤外線のレーザー光La及び可視光のレーザー光Lbは、レンズ系32に入射後、線状となって出射する。なお、照射位置における、レーザー光La及びレーザー光Lbの照射長さ、照射幅は、レーザー照射装置16から照射位置までの距離、及びレンズ系32によって決めることができる。赤外線のレーザー光La及び可視光のレーザー光Lbは同位置に照射される。
【0025】
(作用)
次に、レーザー照射装置16を用いた未加硫ゴムの表面改質方法を説明する。
本実施形態では、タイヤ成形ドラム10の外周に、帯状の未加硫ゴム部材12を貼り付け、未加硫ゴム部材12の端部同士を重ねてジョイントする例で説明する。
【0026】
(1) 図1(A)に示すように、コンベア14から送り出された未加硫ゴム部材12の先端(搬送方向側の端部)を、タイヤ成形ドラム10の外周面に貼り付ける。
(2) レーザー照射装置16からガイド用のレーザー光Lbのみを出射し、レーザー光Lbが未加硫ゴム部材12の外面先端側に照射されるようにタイヤ成形ドラム10を回転させ、初期位置とする。
【0027】
(3) 次に、赤外線のレーザー光Laを出射すると共に、タイヤ成形ドラム10を矢印A方向へ回転させる。レーザー光Laは、レーザー光Lbと同位置に線状に照射される。そして、タイヤ成形ドラム10を一定速度で回転(矢印A方向)させることで、未加硫ゴム部材12の上面先端側の一定範囲にレーザー光Laが照射される。
【0028】
赤外線のレーザー光Laを未加硫ゴム部材12の表面に照射することで、レーザー光Laが照射された部分では、未加硫ゴム同士の密着力を阻害する表面の密着阻害物質(例えば、脂肪酸亜鉛、ワックス類等のブルーム)がエッチング(密着阻害物質が蒸発)により除去され、ゴム表面は未加硫ゴム本来の粘着性が得られる。
【0029】
本実施形態のレーザーダイオード24は、波長0.8〜0.9μmのレーザー光Laを出射するものであるが、ブルーム等の密着阻害物質を除去乃至低減でき、必要とされる未加硫ゴム同士の密着力が得られれば、レーザー光Laの波長は上記以外であっても良く、レーザー光Laは赤外線に限らず、可視光線、紫外線等の他の波長の光線であっても良い。
【0030】
本実施形態では、制御回路30は、未加硫ゴムの照射部位の単位面積当たりのレーザー光Laの照射密度が3〜4W/cm、照射時間が0.2〜0.6secの範囲内となるように、レーザーダイオード24、及びタイヤ成形ドラム10の回転を制御するが、ブルーム等の密着阻害物質を除去乃至低減でき、必要とする粘着性が得られれば、照射密度、及び照射時間等はこれら以外であっても良く、タイヤ成形ドラム10の回転速度にも制限は無い。
【0031】
なお、未加硫ゴム部材12のレーザー光Laを照射した部位の温度が高くなると、未加硫ゴム部材12が加硫して粘着性が低下する虞があるので、未加硫ゴム部材12が加硫しない様に、波長の選択、照射密度及び照射時間のコントロール、タイヤ成形ドラム10の回転速度のコントロール等をする必要がある。
【0032】
(4) 接合すべき領域のエッチングが終了した後、レーザー光Laの出射を停止してタイヤ成形ドラム10を約1周回転させるが、図1(B)に示すように、1周させる前に、未加硫ゴム部材12の下面(未加硫ゴム部材12の上面先端側のエッチングを行った部分に対して貼り合わされる予定の部位)に、下側のレーザー照射装置16からレーザー光Laを照射し、上面と同様にエッチングを行う。これによって、未加硫ゴム部材12の下面においても、レーザー光Laによってエッチングされた部分は、未加硫ゴム本来の粘着性が得られるようになる。
【0033】
(5)その後、図1(C)に示すように、未加硫ゴム部材12を図示しないカッターでカットし、端部同士が重なり合うようにエッチングを行った先端側の上面にエッチングを行った先端側の下面を押し付けて密着させる。未加硫ゴム本来の粘着性を有する部分同士を密着させるので、後の加硫工程まで、剥れや位置ずれ等の発生を防止することができる。
このように、本実施形態の未加硫ゴムの表面改質方法を用いることで、粘着性を得るために従来必要としていた、ゴムセメントの塗布や、表面をカットしてフレッシュ面を露出させる等の工程が必要無くなり、未加硫ゴム部材組立工程に必要な未加硫ゴム同士の密着力を簡単に確保することができる。
【0034】
[その他の実施形態]
上記実施形態では、生タイヤを構成する部材としての未加硫ゴム部材12の表面を改質する説明をしたが、表面を改質する未加硫ゴム部材12は生タイヤの構成部材に限らず、クローラー、コンベア用ベルト、動力伝達ベルト等、他のゴム製品の構成部材であっても良い。
【0035】
上記実施形態では、未加硫ゴム部材12を重ね合わせてジョイントするために、未加硫ゴム部材12の下面側と上面側の一部分にレーザー光Laを照射して改質を行ったが、未加硫ゴム部材12の端面同士を接合する場合には(所謂、突合せジョイント)、未加硫ゴム部材12の端面にレーザー光Laを照射して改質を行えば良い。
【0036】
上記実施形態では、レーザーダイオード24から出射されたレーザー光Laをレンズ系32で線状にして未加硫ゴム部材12に照射したが、レーザー光Laの照射方法はこれに限らず、例えば、レーザーダイオード24から出射されたレーザー光Laをポリゴンミラー、ガルバノミラー等を用いて線状に走査しても良く、レンズ系、矩形の孔の形成されたスリット等を用いて照射対象に対してレーザー光Laが矩形状に照射されるように、レーザーダイオード24から出射されたレーザー光Laを整形しても良い。
【0037】
上記実施形態では、赤外線のレーザー光を出射する光源として、レーザーダイオード24を用いたが、固体レーザー、炭酸ガスレーザー等の他の種類のレーザー光源を用いても良い。また、レーザー光源に限らず、赤外線ランプ、放電式ランプ等のレーザー光源以外の光源以外を用いても良い。レーザー光源以外の、例えばランプ等を用いる場合、特定の部位に赤外線を照射するために、湾曲したミラー、レンズ等を用いて赤外線を特定の部位に集光するようにしても良い。
【0038】
なお、未加硫ゴムの密着阻害物質の具体例としては、本実施形態では 例えば、脂肪酸亜鉛、ワックス類を上げたが、密着阻害物質としては、その他として、イオウ分の析出物等を上げることができる。なお、未加硫ゴムの密着を阻害するものであればこれら以外の物質であっても良い。
【0039】
未加硫ゴムを放置すると、ゴム表面に密着阻害物質が徐々に析出してくる場合があるため、未加硫ゴムを接合する前、好ましくは、出来る限り接合する直前に表面の改質を行うことが好ましい。
上記実施形態では、密着阻害物質を除去するために電磁波として赤外線を用いたが、密着阻害物質を除去乃至低減できれば、紫外線、可視光線等の赤外線以外の電磁波を用いても良い。
【0040】
(試験例)
本願発明の未加硫ゴムの表面改質方法の効果を確かめるために、表面の改質を行っていない未加硫ゴム同士の密力と、表面の改質を行った未加硫ゴム同士の密着力との比較を行った。
【0041】
比較例1は、表面の改質を全く行っていない未加硫ゴムを用いており、実施例1〜4は、下記の表1内の条件で改質を行った未加硫ゴムを用いた。
【0042】
密着力の試験方法は、株式会社東洋精機製作所製のPICMA・タックテスタを用い、当該テスタのアルミロールの外周に未加硫ゴムを巻き付け、外周に巻き付けた未加硫ゴムに対して試験用の未加硫ゴムを500gfの荷重で30秒押し当て、30m/minで引き上げ、その際の応力(未加硫ゴムの測定位置を変え、5点計測の平均値)を密着力(タッキネス:単位N)とした。
なお、評価は、部材製造1時間後の密着力を100とする指数表示としており、数値が大きいほど密着力が高いことを表している。
【0043】
加硫後の部材間の剥離力は、JIS K6854に準拠して、T型剥離試験で測定した
(単位:N/25mm)。
なお、評価は、比較例1の剥離力を100とする指数表示としており、数値が大きいほど部材同士を剥離するに必要な力が大きい、即ち、部材同士の接合強度が高いことを表している。
【0044】
【表1】

試験の結果、製造後7日後の未加硫ゴムは、表面に脂肪酸亜鉛、ワックス類等のブルームが生じたため、未加硫ゴム同士の密着力は未加硫ゴムの製造1時間後の未加硫ゴム同士の密着力(指数100)の半分(指数で50)に低下したが、表面の改質を行うことで、部材製造後1時間と同等の密着力を得ることが出来た。
なお、加硫後の部材間の剥離力に関して、指数90で以上であれば問題ない。照射時間0.30secを超えると、加硫後の部材間の剥離力が指数90未満となり好ましくない。
【符号の説明】
【0045】
12 未加硫ゴム部材(未加硫ゴム)
16 レーザー照射装置
24 レーザーダイオード
La レーザー光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未加硫ゴム同士を接合する前に、前記未加硫ゴムの接合予定部位に電磁波を照射し、未加硫ゴム同士の密着力を確保する様に前記接合予定部位の表面を改質する、未加硫ゴムの表面改質方法。
【請求項2】
前記改質は、前記接合予定部位の表面に付着している未加硫ゴム同士の密着力を阻害する密着阻害物質を前記電磁波の照射により除去する、請求項1に記載の未加硫ゴムの表面改質方法。
【請求項3】
前記電磁波は、波長が0.8〜0.9μmのレーザー光であり、
前記接合予定部位において、前記レーザー光の照射密度が3〜4W/cm、前記レーザー光の照射時間が0.2〜0.6secの範囲内である、請求項2に記載の未加硫ゴムの表面改質方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−41455(P2012−41455A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184385(P2010−184385)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】