説明

架橋可能なフッ化ビニルコポリマー

本発明は、
フッ化ビニルから誘導される約40〜約90モル%の繰り返し単位と、
以下の(a)と(b)およびこれらの混合物からなる群から選択されるモノマーから誘導される約10〜約60モル%の繰り返し単位とを、コポリマーの約0.1モル%〜50モル%の繰り返し単位が、(b)から選択されるモノマーから誘導されるという条件で含み、
(a)は、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンおよびこれらの混合物からなる群から選択されるモノマーであり、
(b)は、ヒドロキシル、チオール、カルボニル、カルボン酸、カルボン酸エステル、酸無水物、スルホニル、スルホン酸、スルホン酸エステル、リン酸、リン酸エステル、ホウ酸、ホウ酸エステル、エポキシ、イソシアネート、チオシアネート、アミン、アミド、ニトリルならびに臭素およびヨウ素から選択されるハロゲンからなる群から選択される少なくとも1つの官能基を含有するビニルモノマーである、フッ化ビニルコポリマーを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、官能基を含有するフッ化ビニルコポリマー、その製造、保護被膜の製造における使用および膜を含む成型物品の分野である。
【背景技術】
【0002】
ポリフッ化ビニル(PVF)は、長年製造されてきており、耐久性のあるクリーニング可能な表面を提供する様々な基材への保護膜または被膜として多用されてきている。しかしながら、大量にフッ化ビニルを含むポリマーは、溶融(例えば、成型)物から処理することができない。PVFの熱分解が、その融点である約200℃で生じるからである。さらに、PVFは、その高結晶化度および大量の分子内水素結合のために、通常の温度ではたいていの溶剤中で溶解しないため、溶液から膜を成型するのも難しい。従って、PVFは、通常、高沸点を有する極性溶剤に分散されて、高温で凝集し膜を形成する。この方法には、複雑な技術および設備が必要とされ、塗装や被膜の形態で容易に現場での適用ができない。
【0003】
PVF中のフッ素原子は、優れた耐候性、耐化学性および機械的特性というその特性の大部分を担っている。これらの特性は、ポリマーのフッ素含量を増やすと向上する。ポリマーのフッ素含量を増やす1つの方法は、テトラフルオロエチレン(TFE)を、一部、フッ化ビニル(VF)に換えたコポリマーを調製することである。かかるジポリマーは、CoffmanおよびFordによる特許文献1(1947年)、非特許文献1、ならびに特許文献2(1970年)に記載されている。他の方法は、Stilmarによる特許文献3(1970年)に報告されており、非水性媒体中、ビニリデン基に付加した芳香族基もハロゲン基もないVF、TFEおよびビニリデンモノマーで構成されたトリ−およびテトラ−ポリマーの調製が記載されている。最近では、低結晶化度のフッ化ビニルコポリマーおよびフッ化ビニル共重合体が、Uscholdによる特許文献4(2001年)、特許文献5(2001年)、特許文献6(2002年)および特許文献7(2001年)に記載されている。Uscholdによる特許文献8には、VFおよび少なくとも2つの高フッ素化モノマーで構成された共重合体が提案されており、高フッ素化モノマーのうち少なくとも1つによって、ポリマーに少なくとも1つの炭素原子を有する側鎖が導入されている。かかる共重合体は、結晶化度が減少したために、いくつかの有機溶剤に容易に溶解し、共重合体から得られる膜も表面張力が低い。
【0004】
しかしながら、以前から調製されているVFコポリマーにおいては、VFコポリマー中のフッ素含量が増大するにつれ、得られる樹脂の分子間力(分子間凝集エネルギー)が低く、かつ臨界表面張力が低くなって、基材、特に、金属やガラスに対する接着力が低下する傾向がある。
【0005】
また、処理性、特に、有機溶剤中でのポリマーの溶解度を改善するには、VFコポリマーの結晶化度または分子量を減じる必要がある。しかしながら、機械的性能、耐熱性および基材への接着力が低下する結果となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第2,419,009号明細書
【特許文献2】米国特許第3,513,116号明細書
【特許文献3】米国特許第3,531,441号明細書
【特許文献4】米国特許第6,242,547号明細書
【特許文献5】米国特許第6,271,303号明細書
【特許文献6】米国特許第6,403,740号明細書
【特許文献7】特表2001−524146号公報
【特許文献8】米国特許第6,242,547号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】SianesiおよびCaporiccioのJ.Polymer Sci.,PartA−1,6,(1968年)335
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
フッ化ビニルから誘導される約40〜約90モル%の繰り返し単位と、
以下の(a)と(b)およびこれらの混合物からなる群から選択されるモノマーから誘導される約10〜約60モル%の繰り返し単位とを含むフッ化ビニルコポリマーを、コポリマーの約0.1モル%〜50モル%の繰り返し単位が、(b)から選択されるモノマーから誘導されるという条件で含み、
(a)は、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンおよびこれらの混合物からなる群から選択されるモノマーであり、
(b)は、ヒドロキシル、チオール、カルボニル、カルボン酸、カルボン酸エステル、酸無水物、スルホニル、スルホン酸、スルホン酸エステル、リン酸、リン酸エステル、ホウ酸、ホウ酸エステル、エポキシ、イソシアネート、チオシアネート、アミン、アミド、ニトリルならびに臭素およびヨウ素から選択されるハロゲンからなる群から選択される少なくとも1つの官能基を含有するビニルモノマーである、フッ化ビニルコポリマーを提供する。
【0009】
好ましいフッ化ビニルコポリマーは、フッ素化ビニルエーテル、フッ素化アルキル(メタ)アクリレート、3〜10個の炭素原子を有するパーフルオロオレフィン、パーフルオロC1〜C8アルキルエチレン、フッ素化ジオキソールおよびこれらの混合物から選択されるモノマー(c)から誘導される約0.1〜約10モル%の繰り返し単位をさらに含む。
【0010】
フッ化ビニルコポリマーの好ましい形態において、モノマー(b)は、少なくとも1つの官能基を含有するフッ素化ビニルモノマーであり、より好ましくは(b)は、少なくとも1つの官能基を含有するフッ素化ビニルエーテルモノマーである。
【0011】
フッ化ビニルコポリマーの他の好ましい形態において、モノマー(a)は、テトラフルオロエチレンを含む。
【0012】
本発明はまた、フッ化ビニルコポリマーと、アルコール、フェノール、チオール、過酸化物、アミン、アゾ化合物、カルボン酸、カルボン酸エステル、酸無水物、スルホン酸、スルホン酸エステル、リン酸、リン酸エステル、ホウ酸、ホウ酸エステル、エポキシ、イソシアネート、チオシアネート、ニトリル、メラミン、アルデヒド、スルフィド化合物、シラン化合物、金属酸化物、ハロゲン化合物および有機金属化合物からなる群から選択される少なくとも1つの架橋剤とを含む架橋可能なポリマー組成物も提供する。
【0013】
本発明はまた、互いに架橋可能な官能基を提供するもの(b)から選択される少なくとも2つのモノマーから誘導される単位を有するフッ化ビニルコポリマーを含む架橋可能なポリマー組成物も提供する。
【0014】
本発明は、フッ化ビニルコポリマーと、フッ化ビニルコポリマーとは異なる少なくとも1つのフルオロポリマーとを含むフルオロポリマーブレンドとして実施することができる。
【0015】
フッ化ビニルコポリマーの水性液体分散液または有機液体分散液または溶液および被覆組成物もまた本発明により提供される。
【0016】
本発明は、好ましくは、膜の形態にあるフッ化ビニルコポリマーの分散液または溶液から作製された成型物品をさらに提供する。成型物品はまた、フッ化ビニルコポリマーを成型することによっても作製することができる。
【0017】
本発明によるフッ化ビニルコポリマーを用いると、容易に、保護膜が作製され、分散液または溶液形態から膜等の物品へと処理される。望ましい機械的特性および/または基材への接着力は架橋により得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のフッ化ビニルコポリマーは、
フッ化ビニルから誘導される約40〜約90モル%の繰り返し単位と、
以下の(a)と(b)およびこれらの混合物からなる群から選択されるモノマーから誘導される約10〜約60モル%の繰り返し単位とを含むフッ化ビニルコポリマーを、コポリマーの約0.1モル%〜50モル%の繰り返し単位が、(b)から選択されるモノマーから誘導されるという条件で含み、
(a)は、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンおよびこれらの混合物からなる群から選択されるモノマーであり、
(b)は、ヒドロキシル、チオール、カルボニル、カルボン酸、カルボン酸エステル、酸無水物、スルホニル、スルホン酸、スルホン酸エステル、リン酸、リン酸エステル、ホウ酸、ホウ酸エステル、エポキシ、イソシアネート、チオシアネート、アミン、アミド、ニトリルならびに臭素およびヨウ素から選択されるハロゲンからなる群から選択される少なくとも1つの官能基を含有するビニルモノマーである。
【0019】
好ましいフッ化ビニルコポリマーは、フッ素化ビニルエーテル、フッ素化アルキル(メタ)アクリレート、3〜10個の炭素原子を有するパーフルオロオレフィン、パーフルオロC1〜C8アルキルエチレン、フッ素化ジオキソールおよびこれらの混合物からなる群から選択されるモノマー(c)から誘導される約0.1〜約10モル%の繰り返し単位をさらに含む。
【0020】
ポリマーの特性を必要に応じて調節するために、指定した範囲内のモノマー単位の量を変えることができる。フッ化ビニル(VF)は、ポリマーの特性を調節するために、約40〜約90モル%の範囲内で変えることができる。例えば、VFは、VdFを含有する以外は同じポリマーよりも、通常、有機溶剤に対しより低い溶解性のコポリマーを提供する。耐候性、耐化学性および熱安定性を改善するのが望ましいときは、通常、VF含量を減らし、VFよりフッ素含量の多いモノマーの量を増やすのが望ましい。好ましくは、本発明のフッ化ビニルベースのコポリマーは、フッ化ビニル(VF)から誘導される50〜80モル%の構造単位を含む。
【0021】
本発明によるコポリマーは、(a)と(b)およびこれらの混合物からなる群から選択されるモノマーから誘導される約10〜約60モル%、好ましくは約20〜約50モル%の繰り返し単位を含む。好ましくは、モノマー(b)および/またはモノマー(c)は、用いる場合には、少なくとも1つの炭素原子の側鎖でポリマーに導入される。少なくとも1つの炭素原子の側鎖を提供するモノマーは、コポリマーの有機溶剤における溶解度を改善する。
【0022】
モノマー(a)は、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンおよびこれらの混合物からなる群から選択される。選択したモノマーおよび用いる量によって、ポリマーのフッ素含量を増大し、かつ、ポリマーの有機溶剤における溶解度にも影響し得る。例えば、好ましいモノマー(a)は、テトラフルオロエチレン(TFE)であり、本発明の好ましいフッ化ビニルコポリマーは、好ましくは、テトラフルオロエチレンから誘導される少なくとも約30モル%の単位を含む。テトラフルオロエチレンは、低コストかつ高フッ素含量であるため、好ましいモノマーである。コポリマーにおける−CFCF−セグメントが高含量だと、改善された耐候性、耐化学性および熱安定性を提供するが、有機溶剤における溶解度は減少する。
【0023】
好ましいフッ化ビニルコポリマーは、フッ素化ビニルエーテル、フッ素化アルキル(メタ)アクリレート、3〜10個の炭素原子を有するパーフルオロオレフィン、パーフルオロC1〜C8アルキルエチレン、フッ素化ジオキソールおよびこれらの混合物からなる群から選択されるモノマー(c)から誘導される約0.1〜約10モル%の繰り返し単位をさらに含む。コポリマーの少なくとも1つの炭素原子の側鎖に導入されるこの種のモノマーは、通常、コポリマーの有機溶剤における溶解度を改善する。モノマー(c)に特に好ましいのは、3〜10個の炭素原子を有するパーフルオロオレフィン、パーフルオロC1〜C8アルキルエチレンおよびフッ素化ビニルエーテルである。最も好ましくは、高フッ素化ビニルエーテルおよびパーフルオロC1〜C8アルキルエチレンを用いる。
【0024】
モノマー(b)は、ヒドロキシル、チオール、カルボニル、カルボン酸、カルボン酸エステル、酸無水物、スルホニル、スルホン酸、スルホン酸エステル、リン酸、リン酸エステル、ホウ酸、ホウ酸エステル、エポキシ、イソシアネート、チオシアネート、アミン、アミド、ニトリルならびに臭素およびヨウ素から選択されるハロゲンからなる群から選択される少なくとも1つの官能基を含有するビニルモノマーである。好ましくは、モノマー(b)はまた、少なくとも1つの炭素原子のコポリマーに側鎖も導入する。モノマー(b)の官能基は、架橋可能な反応部位を提供し、導入された官能基(および存在する場合は、側鎖)も、有機溶剤におけるコポリマーの溶解度を改善して、本発明のフッ化ビニルコポリマーの処理性を改善する。本発明によるコポリマーにおいて、モノマー(b)から誘導される単位は、約0.1モル%〜50モル%、好ましくは約0.1モル%〜約40モル%、より好ましくは約0.2モル%〜30モル%、最も好ましくは約0.2モル%〜約20モル%の量で存在する。官能基を有する様々なビニルモノマーが、架橋を形成し、溶解度特性を調節する能力は、用いる特定のモノマーで異なり、所望の効果を与えるためには、かかるモノマーの十分量を用いなければならない。
【0025】
好ましくは、コポリマーのフッ素含量を増大するために、モノマー(b)は、少なくとも1つの官能基を含有するフッ素化ビニルモノマーを含む。より好ましくは、モノマー(b)は、少なくとも1つの官能基を含むフッ素化ビニルエーテルモノマーである。この種のフッ素化ビニルエーテルモノマーは、Hungによる米国特許第5,059,720号明細書、Brothersらによる米国特許第5,969,067号明細書およびBrothersらによる米国特許第6,177,196号明細書に開示されている。Hungによる米国特許第5,059,720号明細書に開示されているある特定の有用なモノマーは、9,9−ジヒドロ−9−ヒドロキシ−パーフルオロ(3,6−ジオキサ−5−メチル−1−ノネン)であり、以降(EVE−OH)と呼ぶ。
【0026】
本発明の好ましい一実施形態において、コポリマーは、約40〜約70モル%のVFから誘導される単位、(a)から選択される約15〜約29.9モル%のモノマー、少なくとも1つの官能基を含有する少なくとも1つの約0.1〜約15モル%の(b)ビニルモノマーおよび約0.1〜約10モル%の少なくとも1つのモノマー(c)を含む。例えば、ヒドロキシ官能基を有する好ましいフッ化ビニルコポリマーは、VF、TFEであるモノマー(a)、EVE−OHであるモノマー(b)およびフッ素化ビニルエーテルおよび/またはパーフルオロブチルエチレン(PFBE)であるモノマー(c)を、上述した範囲内で共重合することにより得られる。
【0027】
フッ化ビニルコポリマーは、乳化重合、懸濁重合、溶液重合およびバルク重合等の様々な好適な重合方法のいずれかにより製造してよい。高度の重合であり、低コストであるため、かつ分散したポリマーが生成され多くの最終用途にとって利点があるため、乳化重合が望ましい。乳化重合は、好適な界面活性剤、Berryによる米国特許第2,559,752号明細書に記載されているパーフルオロオクタン酸アンモニウム等のフルオロ界面活性剤、またはBakerらによる米国特許第5,688,884号明細書に記載されている6,2TBS、またはその他の好適な界面活性剤を存在させて、水溶性フリーラジカル重合開始剤を用いて、水中で実施することができる。約40℃〜150℃、好ましくは60℃〜100℃の重合温度が好適であり、約1MPa〜12MPa(145psi〜1,760psi)の圧力を用いてよい。必要に応じて、リン酸塩、炭酸塩および酢酸塩等の緩衝剤を、ラテックスのpHを調整するために用いることができる。
【0028】
本発明のフッ化ビニルコポリマーを生成するために、様々な重合開始剤を用いてよい。好ましい開始剤としては、有機アゾ型開始剤、例えば、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩および2,2’−アゾビス(N,N−ジメチレンイソブチロアミジン)二塩酸塩と、無機過酸の水溶性塩、例えば、過硫酸のアルカリ金属またはアンモニウム塩が挙げられる。さらに、連鎖移動剤を、重合反応に必要であれば、任意で用いて、フッ化ビニルベースのコポリマーの分子量を調節する。好ましい連鎖移動剤としては、エタン、シクロヘキサン、メタノール、イソプロパノール、マロン酸エチルおよびアセトン等が挙げられる。
【0029】
乳化水性乳化重合を用いて、本発明によるコポリマーを調製するときは、コポリマーの水分散液を生成する。このように、本発明はまた、フッ化ビニルコポリマーと水性媒体とを含む水分散液も提供する。必要に応じて、乳化重合により生成される水分散液は、後に、界面活性剤、典型的には、ノニオン界面活性剤を添加することにより安定化し、任意で濃縮して、固体含量を増大することができる。必要に応じて、コポリマーを、分散液から単離して、様々な公知の技術、例えば、強攪拌、イオン強度の増大、冷凍と解凍およびこれらの組み合わせのいずれかにより、コポリマー樹脂を生成することができる。
【0030】
本発明はまた、好適な有機液体媒体における本発明のフッ化ビニルコポリマーの有機液体分散液または溶液も提供する。コポリマーの有機液体分散液および溶液を生成するのに有用な有機液体は、例えば、極性有機溶剤、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)および炭酸プロピレン、γ−ブチロラクトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン(MEK)およびテトラヒドロフラン(THF)である。かかる分散液または溶液は、樹脂形態にあるコポリマーを、好適な有機液体に分散または分解することにより形成される。分散液の生成について、用途に好適な分散液を生成するために、分散液のグラインディングまたはミリングが必要である。
【0031】
本発明はまた、フッ化ビニルコポリマーと、アルコール、フェノール、チオール、過酸化物、アミン、アゾ化合物、カルボン酸、カルボン酸エステル、酸無水物、スルホン酸、スルホン酸エステル、リン酸、リン酸エステル、ホウ酸、ホウ酸エステル、エポキシ、イソシアネート、チオシアネート、ニトリル、メラミン、アルデヒド、スルフィド化合物、シラン化合物、金属酸化物、ハロゲン化合物および有機金属化合物からなる群から選択される少なくとも1つの架橋剤とを含む架橋可能なポリマー組成物も提供する。
【0032】
通常、本発明による架橋可能な組成物は、当該技術分野において公知の他の架橋可能な組成物と同様に用い、被膜として、そして膜の製造に特に有用である。本発明の他の実施形態において、架橋可能なポリマー組成物と、媒体に分散または溶解したコポリマーを含む液体媒体とを含む被膜組成物が提供される。組成物に用いる架橋剤は、被膜組成物媒体に好ましくは可溶であり、コポリマーモノマー(b)にある官能基の種類と反応性がある。典型的に、組成物は、基材に適用し、加熱して、液体媒体を除去する。コポリマーが分散液形態にある場合には、コポリマーを凝集するにも、加熱が必要である。加熱を続けて、架橋剤と本発明によるコポリマーとの間の反応を促進して、架橋ポリマーを生成することができる。ある架橋剤と共に、可視またはUV光を用いて、架橋剤とコポリマーとの間の反応性を促進する。
【0033】
本発明により提供される架橋したフッ化ビニルコポリマーは、典型的に、異なるポリマー鎖にある官能基および同じポリマー鎖にある他の官能基と反応する架橋剤により形成される三次元網目構造を有する。
【0034】
本発明はまた、互いに架橋可能な官能基を提供するもの(b)から選択される少なくとも2つのモノマーから誘導される単位を有する本発明のコポリマー、すなわち自己架橋コポリマー、を含有する架橋可能なポリマー組成物も提供する。例えば、ヒドロキシ基とカルボン酸基の両方を有する本発明によるコポリマーは、熱処理することにより自己架橋して、縮合反応においてエステル基を形成する。同様に、ヒドロキシル基とブロックイソシアネート基の両方を有する本発明によるコポリマーは、熱処理により自己架橋する。
【0035】
本発明はまた、本発明のコポリマーとは異なる少なくとも1つのフルオロポリマーとブレンドされた本発明のコポリマーを含むフルオロポリマーブレンドも提供する。様々な異なるフルオロポリマーのいずれかを用いることができ、例えば、フッ化ビニル(VF)、フッ化ビニリデン(VdF)、テトラフルオロエチレン(TFE)、トリフルオロエチレン(TrFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フッ素化ビニルエーテル、フルオロアルキル(メタ)アクリレート、パーフルオロ(C〜C10)アルケン、パーフルオロ(C〜C)アルキルエチレン、フッ素化ジオキソール等から重合されたホモポリマーおよびコポリマーが挙げられる。好ましいフルオロポリマーとしては、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、VF−TFEコポリマー、VF−TFE−パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)コポリマー、VdF−ヘキサフルオロプロペン(HFP)コポリマー、VdF−TFE−HFPコポリマーおよびVdF−TFE−PAVEコポリマー等が挙げられる。
【0036】
本発明によるフルオロポリマーブレンドは、予期する目的に有用なポリマーのブレンドを提供する任意の好適な方法により生成される。製造方法としては、分散液または溶液の溶融ブレンドまたは混合の後、分散液または溶液媒体を除去することが挙げられる。
【0037】
本発明による水分散液または有機液体分散液または溶液を用いて、成型物品、好ましくは膜を作製するのが好ましい。さらに、被膜は、金属、プラスチック、セラミック、ガラス、コンクリート、布および木等の様々な基材に有利に適用される。膜および被膜は、溶剤支援押出し、成型、浸漬、スプレーおよび塗装等の従来の方法により生成することができる。被膜組成物は、製造される膜または被膜に望ましい顔料、フィラー、バリア粒子、光安定剤、熱安定剤等の様々な添加剤を含んでいてもよい。
【0038】
樹脂形態にある本発明によるコポリマーは、成型により、成型物品へと好適に形成することができる。成型は、処理されているコポリマーの特徴に適合された当該技術分野において公知の技術を用いて実施される。
【0039】
試験方法
以下の試験を用いて、本発明において試料の特性を求める。
【0040】
融点
フッ化ビニルコポリマーの融点は、示差走査熱量計(Pyris1、Perkin Elmer Inc.製)を用いて測定される。
【0041】
溶解度
コポリマーは、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に、50℃〜70℃で、水浴インキュベータ(モデルBT−31、Yamato Scientific Co.Ltd.製)を用いて溶解する。
【0042】
引張り特性
NMP中フッ化ビニルコポリマー10%溶液を用いて、膜を生成し、引張り特性を、TENSILON(UTM−1T、TOYO BALDWIN Co.Ltd.製)を用いて測定する。
【0043】
接着力試験
本発明のフッ化ビニルコポリマー溶液を、混合し、アルミニウムカップ(No.107、AS ONE Corp.製)に入れ、真空乾燥機を用いて、乾燥および架橋する。得られる樹脂膜のアルミニウム基材に対する接着力を目視観察により評価する。
【実施例】
【0044】
実施例1〜7、比較例1
フッ化ビニルベースのコポリマーの合成
攪拌器とジャケットとを備えた7.6L(2USガロン)の容量の水平ステンレス鋼オートクレーブを、重合反応器として用いる。温度および圧力を測定するための機器、ならびにモノマー混合物をオートクレーブへ、所望の圧力で供給するための圧縮器が、オートクレーブに取り付けられている。
【0045】
オートクレーブは、15gの6,2−TBS(Bakerら、米国特許第5,688,884号明細書に記載されたようにして調製したもの)を含有する脱イオン水で、その容量の70〜80%まで充填した後、内部温度を90℃まで上げる。次に、オートクレーブを、窒素を用いて、3回、3.1MPa(450psig)まで加圧することにより、空気でパージする。パージ後、内圧が3.1MPa(450psig)に達するまで、以下の表1に示す組成を有するモノマー混合物により、オートクレーブを充填する。
【0046】
【表1】

【0047】
20gの過硫酸アンモニウムを、1Lの脱イオン水に溶解することにより、開始剤溶液を調製する。この開始剤溶液を、25ml/分の速度で、5分間にわたって、反応器に供給し、その後、速度を下げ、反応中、1ml/分に維持する。内圧が3.0MPaに低下したら、表2に示すメークアップモノマー混合物を供給して、圧力を一定に保つ。
【0048】
【表2】

【0049】
このメークアップ供給物の組成は、各モノマーの反応性が異なるために、予備充填混合物とは異なる。その組成は、反応器中のモノマー組成物が一定に保たれて、均一な組成の生成物が得られるようなものを選択する。
【0050】
モノマーは、生成したラテックス中の固体含量が約20%に達するまで、オートクレーブに供給される。固体含量が、所定の値に達したら、モノマーの供給を即時に停止し、その後、オートクレーブの中身を冷却し、オートクレーブ中の未反応のガスをパージして出す。
【0051】
得られたラテックスに、高速で攪拌しながら、ラテックス1L当たり、水に溶解した炭酸アンモニウム15g、次に、ラテックス1L当たり70mLのHFC−4310(1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロペンタン)を添加した後、ろ過により、ポリマーを単離する。ポリマーを水で洗い、温風乾燥機にて、90〜100℃で乾燥する。生成されたポリマーの組成および融点を表3に示す。
【0052】
得られたVFコポリマーを、NMPに、55〜60℃で、水浴インキュベータを用いて溶解し、その後、室温(25℃)まで冷やし、安定な透明溶液が得られる樹脂の溶解度を測定する。結果を表3に示す。
【0053】
【表3】

【0054】
実施例8〜22
フッ化ビニルベースのコポリマーの架橋反応および接着力試験
実施例1〜7で合成したフッ化ビニルベースのコポリマーを、50〜70℃で、N−メチル−2−ピロリドンに溶解することにより、樹脂溶液を調製する。アセチルアセトン酸チタン(TYZOR(登録商標)AA75、DuPont Co.製)を架橋剤として選択する。この架橋剤をN−メチル−2−ピロリドンに溶解して、10%溶液とする。
【0055】
架橋剤、アセチルアセトン酸チタンの上記溶液を、1%、3%および5%(%は、フッ化ビニルベースのコポリマー樹脂に対する重量による)の量で樹脂溶液に添加し、均一に混合する。
【0056】
この樹脂と架橋剤の混合溶液を、アルミニウムカップ(No.107、AS ONE Corp.製)に入れ、150℃で2時間、真空乾燥機(LCV−232、TABAI ESPEC Corp.製)で乾燥および架橋する。室温まで冷却した後、得られた膜のアルミニウム基材への接着力を目視観察により評価する。結果を表4に示す。
【0057】
【表4】

【0058】
本実施例を、架橋剤を添加せずに実施すると、得られる膜はアルミニウム基材から完全に剥がれる。一方、架橋剤を用いる実施例13〜16の得られた膜は、アルミニウム基材に対して優れた接着力を示している。さらに、部分架橋反応による実施例8〜12の得られた膜は、良好な接着力を示している。
【0059】
実施例23〜25
フッ化ビニルベースのコポリマーの引張り特性試験
実施例23〜25は、実施例12、17および22で作製したVFコポリマー膜のTENSILONにより測定される引張り強度および破断時伸びを例示するものである。結果を表5に示す。
【0060】
【表5】

【0061】
表5に示すとおり、本発明の架橋樹脂は、高最大応力や破断時伸び値等良好な機械的特性を有することが分かった。
【0062】
実施例26〜28
架橋可能なフッ化ビニルベースのコポリマーの水分散液およびその架橋反応
実施例1〜7と同じまたは同様の条件を用いて、表6に示すポリマー組成物を有する架橋可能なフッ化ビニルベースのコポリマーの水分散液をいくつか調製して試験する。水分散液と架橋剤(メラミン樹脂、Cymel350、CYTEC INDUSTRIES INC.)を均一に混合する。混合物をアルミニウムカップ(No.107、AS ONE Corp.製)に入れ、190℃で5時間、真空乾燥機で乾燥および架橋する。室温まで冷却した後、得られた被膜を目視観察により評価する。結果を表6に示す。
【0063】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニルおよびその混合物から誘導される約40〜約90モル%の繰り返し単位と、
以下の(a)と(b)およびこれらの混合物からなる群から選択されるモノマーから誘導される約10〜約60モル%の繰り返し単位と含み、但し該コポリマーの約0.1モル%〜50モル%の繰り返し単位が、(b)から選択されるモノマーから誘導され、
(a)は、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンおよびこれらの混合物からなる群から選択されるモノマーであり、
(b)は、ヒドロキシル、チオール、カルボニル、カルボン酸、カルボン酸エステル、酸無水物、スルホニル、スルホン酸、スルホン酸エステル、リン酸、リン酸エステル、ホウ酸、ホウ酸エステル、エポキシ、イソシアネート、チオシアネート、アミン、アミド、ニトリル、および臭素およびヨウ素から選択されるハロゲンからなる群から選択される少なくとも1つの官能基を含有するビニルモノマーである、フッ化ビニルコポリマー。
【請求項2】
フッ素化ビニルエーテル、フッ素化アルキル(メタ)アクリレート、3〜10個の炭素原子を有するパーフルオロオレフィン、パーフルオロC1〜C8アルキルエチレン、フッ素化ジオキソール、およびこれらの混合物からなる群から選択されるモノマー(c)から誘導される約0.1〜約10モル%の繰り返し単位をさらに含む請求項1に記載のフッ化ビニルコポリマー。
【請求項3】
モノマー(b)が、少なくとも1つの官能基を含有するフッ素化ビニルモノマーである請求項1に記載のフッ化ビニルコポリマー。
【請求項4】
モノマー(b)が、少なくとも1つの官能基を含有するフッ素化ビニルエーテルモノマーである請求項1に記載のフッ化ビニルコポリマー。
【請求項5】
モノマー(a)が、テトラフルオロエチレンを含む請求項1に記載のフッ化ビニルコポリマー。
【請求項6】
テトラフルオロエチレンから誘導される少なくとも約30モル%の単位を含む請求項5に記載のフッ化ビニルコポリマー。
【請求項7】
コポリマーが、高フッ素化ビニルエーテルおよびパーフルオロC1〜C8アルキルエチレンから選択される少なくとも1つのモノマーから誘導される約0.1〜約10モル%の単位をさらに含む請求項5に記載のフッ化ビニルコポリマー。
【請求項8】
請求項1に記載のフッ化ビニルコポリマーと、
アルコール、フェノール類、チオール、過酸化物、アミン、アゾ化合物、カルボン酸、カルボン酸エステル、酸無水物、スルホン酸、スルホン酸エステル、リン酸、リン酸エステル、ホウ酸、ホウ酸エステル、エポキシ、イソシアネート、チオシアネート、ニトリル、メラミン、アルデヒド、スルフィド化合物、シラン化合物、金属酸化物、ハロゲン化合物および有機金属化合物からなる群から選択される少なくとも1つの架橋剤と
を含む架橋可能なポリマー組成物。
【請求項9】
請求項8に記載の組成物を架橋することにより形成された架橋されたポリマー。
【請求項10】
互いに架橋可能な官能基を与える(b)から選択される少なくとも2つのモノマーから誘導される単位を有する請求項1に記載のフッ化ビニルコポリマーを含む架橋可能なポリマー組成物。
【請求項11】
請求項10に記載のフッ化ビニルコポリマーが自己架橋することにより形成された架橋されたポリマー。
【請求項12】
請求項1に記載のフッ化ビニルコポリマーと、
請求項1に記載のフッ化ビニルコポリマーとは異なる少なくとも1つのフルオロポリマーと
を含むフルオロポリマーブレンド。
【請求項13】
水性媒体に分散された請求項1に記載のフッ化ビニルコポリマーを含む水性液体分散液。
【請求項14】
有機液体媒体に分散または溶解した請求項1に記載のフッ化ビニルコポリマーを含む有機液体分散液または溶液。
【請求項15】
請求項8に記載の架橋可能なポリマー組成物と、液体媒体とを含むコーティング組成物。
【請求項16】
請求項10に記載の架橋可能なポリマー組成物と、液体媒体とを含むコーティング組成物。
【請求項17】
請求項13に記載の水性液体分散液から形成された造形品。
【請求項18】
請求項14に記載の有機液体溶液または分散液から形成された造形品。
【請求項19】
請求項15に記載のコーティング組成物から形成された造形品。
【請求項20】
請求項16に記載のコーティング組成物から形成された造形品。
【請求項21】
薄膜の形態にある請求項17に記載の造形品。
【請求項22】
薄膜の形態にある請求項18に記載の造形品。
【請求項23】
薄膜の形態にある請求項19に記載の造形品。
【請求項24】
薄膜の形態にある請求項20に記載の造形品。
【請求項25】
請求項1に記載のフッ化ビニルコポリマーを成形することにより形成された造形品。

【公表番号】特表2010−513680(P2010−513680A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−542965(P2009−542965)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【国際出願番号】PCT/US2007/026286
【国際公開番号】WO2008/079394
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【出願人】(000174851)三井・デュポンフロロケミカル株式会社 (59)
【Fターム(参考)】