架橋脂肪酸を基材とした生体材料
脂肪酸誘導生体材料、その生体材料を製造する方法、およびそれらを薬物送達担体として使用する方法が記載される。脂肪酸誘導生体材料を、1つまたは複数の治療薬の放出および局所送達のために、単独で、または医療デバイスと組み合わせて利用することができる。前記生体材料を形成し、それらの特性を調整する方法、および哺乳類における傷害を治療するために前記生体材料を使用する方法も提供される。様々な態様において、本発明は、単独で、あるいは1つまたは複数の治療薬と組み合わせて利用できる疎水性架橋脂肪酸誘導生体材料(例えば、医療デバイスコーティングまたは独立型フィルム)を製造するための方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年12月1日出願の米国特許出願番号第12/325,546号(これは2008年10月10日出願の米国仮特許出願番号第61/104,568号に対して優先権を主張する)に対しての優先権を主張する。本出願は、また2006年10月16日出願の米国特許出願番号第11/582,135号(これは2005年10月15日出願の米国仮特許出願番号第60/727,312号に対して優先権を主張する)の一部継続出願である。本出願は、また2005年9月28日出願の米国特許出願番号第11/237,264号(これは2004年9月28日出願の米国仮特許出願番号第60/613,808号に対して優先権を主張する)の一部継続出願である。本出願は、また2005年9月28日出願の米国特許出願番号第11/236,908号(これは2004年9月28日出願の米国仮特許出願番号第60/613,745号に対して優先権を主張する)の一部継続出願である。これら先行特許出願の全体の内容は、本明細書中で参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
血管再灌流処置、バルーン血管形成および機械的ステント展開などの血管介入は、狭窄血管の機械的拡張および管腔拡大(luminal expansion)による血管傷害をしばしば招き得る。そのような血管内処置に続いて、新生内膜増殖および血管傷害再構築が、傷害血管の管腔表面に沿って生じることが多い。より具体的には、再構築は心臓、ならびに頸動脈、回腸動脈、大腿動脈および膝窩動脈のような脆弱な末梢血管に生じる。機械的介入およびカテーテル再灌流処置による血管傷害の直後にそのような細胞増殖が生じるのを防止または効果的に抑制するための既知の機械的抑制手段は見いだされていない。血管介入後に未処置のままで放置されると、通常、血管傷害の数週間以内に処置管腔内にその処置管腔内に再狭窄が生じる。限局した機械的傷害によって誘発される再狭窄は、再構築血管腔組織の増殖を引き起こして、乱血流線維素活性化による血栓閉塞、血小板沈着および血管流表面傷害の加速化を招き得る管腔の再狭窄をもたらす。再狭窄は、患者を血栓閉塞にかかりやすくし、他の部位への流れを止めて、しばしば病的状態を伴う危険な虚血事象をもたらす。
【0003】
機械的誘発血管傷害細胞再構築によって開始された再狭窄は、緩やかなプロセスであり得る。線維素活性化、トロンビン重合および血小板沈着、管腔血栓形成、炎症、カルシニューリン活性化、成長因子およびサイトカイン放出、細胞増殖、細胞移動および細胞外マトリックス合成を含む複数のプロセスが、それぞれ再狭窄プロセスに寄与する。再狭窄の生物機械的メカニズムの正確な筋道(sequence)は、完全に把握されてはいないが、細胞炎症、成長因子刺激ならびに線維素および血小板沈着に関与するいくつかの疑わしい生化学的経路が仮定されている。血小板、侵入するマクロファージおよび/または白血球からから放出されるか、または平滑筋細胞から直接放出される血小板由来成長因子、線維芽細胞成長因子、表皮成長因子、トロンビン等のような細胞由来成長因子は、内側平滑筋細胞における増殖性応答および移動性応答を誘発する。これらの細胞は、収縮表現型から合成表現型に変化する。増殖/移動は、通常、傷害後1または2日以内で開始し、その数日後にピークに達する。正常の動脈壁においては、平滑筋細胞は、1日あたり約0.1パーセント未満の小さい速度で増殖する。
【0004】
しかし、娘細胞は、動脈平滑筋の内膜層に移動し、継続的に増殖し、重要な量の細胞外マトリックスタンパク質を分泌する。増殖、移動および細胞外マトリックス合成は、通常は傷害後7から14日以内に増殖が内膜内で緩慢になる、損傷した内皮層が修復されるときまで継続する。新たに形成された組織は新内膜と呼ばれる。次の3から6カ月間にわたって生じるさらなる血管狭窄は、主として陰性または収縮性再構築に起因する。
【0005】
局所的増殖および移動と同時に、血管壁の内側層から誘導される炎症性細胞は、治癒過程の一部として血管傷害の部位において継続的に侵入および増殖する。傷害後3から7日以内に、実質的な炎症性細胞形成および移動が開始して、血管壁に沿って蓄積して、血管傷害の部位を覆い、治癒させた。動物モデルにおいて、バルーン傷害またはステント移植のいずれかを採用すると、炎症性細胞は、少なくとも30日間にわたって血管傷害の部位に存続し得る。炎症性細胞は、再狭窄および血栓形成の急性相および遅延慢性相の両方に寄与し得る。
【0006】
今日、冠状動脈ステントなどの血管内医療デバイスによって引き起こされる血管傷害の部位への薬物の局所的送達の好適なアプローチは、薬物溶出コーティングをデバイスに配置することである。臨床的に、永久的ポリマーまたは分解性ポリマーのいずれかおよび適切な治療薬で構成された薬物溶出コーティングで被覆された医療デバイスは、血管傷害および/または血管再灌流処置後の血管壁増殖が、バルーン血管形成および/または機械的ステント展開に続く一定の時間にわたって消滅しなくても、減少し得るという血管造影的証拠を示した。薬物溶出医療デバイスを介する単一のシロリムスまたはタキソールの化合物局所的送達は、血管傷害直後に適用されると、細胞増殖および細胞再構築を最小限に抑えるか、または防止するのに有効であることが示された。これらの2つの抗増殖性化合物例の様々な類似体が、類似の薬物溶出コーティングと類似の抗増殖活性を示すことが実験的および臨床的に示された。しかし、シロリムスおよびタキソールなどの抗増殖性化合物は、ポリマー薬物溶出コーティング(polymeric drug eluting coating)とともに、薬物溶出コーティングからの主要薬物の放出の最中およびその後にいくつかの毒性副作用を示すことも臨床的に示された。これらの慢性および/または遅延副作用は、所定の期間にわたって実際に送達することができる薬物の量を制限するとともに、治療薬を炎症の部位に直接適用する場合に血管傷害の部位に局所的に送達するのに使用されるポリマーコーティングの相溶性および/または細胞再構築を損なう。加えて、シロリムスおよびタキソールのような化合物の局所的過剰投与は、医療デバイスの局在的組織領域内またはその周辺における細胞再構築または増殖を防止、制限、またはさらには停止させ得る。例えば、血管傷害治癒過程全体を通じての細胞増殖の中断の間の内皮細胞被覆の欠如は、管腔血栓形成の高い潜在性を示すことにより、線維素、および血小板の不断の沈着が、露出および非治癒型(non−healed)医療デバイスおよび/または損傷血管傷害を覆う。薬物溶出医療デバイスの展開の前および後にASAなどの抗凝血薬と組み合せたクロピデグレルのような抗血小板薬の不断の全身維持または投与がなくては、そのようなデバイスは、展開の数日以内に血栓形成および閉塞を引き起こすことが臨床的に示された。加えて、医療デバイスに採用されるこれらの市販の薬物溶出ポリマーコーティングは、全般的に生体適合性があると特徴づけられるが、これらのポリマーを基材とした(polymer−based)化学物質のより小さく代謝がより容易な化学成分または生成物への化学的加水分解、分解および吸収の欠如は、抗血小板薬投与の停止の数日以内に不測の血栓閉塞を招き得る、血管傷害の部位における遅延局所炎症応答を引き起こすことがさらに臨床的に実証された。
【0007】
創傷治癒またはインビボ傷害に対する応答(例えばヘルニア修復)は、血管傷害と同じ全般的生物学的カスケードに従う(例えば、非特許文献1)。このカスケードは、天然の組織(native tissue)の炎症と、その後の血小板およびマクロファージを含む、炎症応答を軽減するための細胞の移動および増殖、ならびに線維素沈着および線維素マトリックスの形成と、その後の組織再構築とを含むその後の治癒段階を含む。ヘルニア修復の場合は、線維素マトリックスが適正に分解できなくするとともに、癒着物を形成させ得るマクロファージからの炎症性サイトカイン(例えばα−TNF)の発現が存在するときに、異常な腹膜治癒が起こり得る(非特許文献1)。ヘルニア修復後に形成される腹膜癒着は、疼痛、腸嵌頓、不妊、および場合によっては死を招き得る(非特許文献1)。
【0008】
傷害に対する血栓および炎症応答の持続的性質により、移植後の炎症および異物体応答の発生率を低減することができる生体材料を提供することが望ましい。そのような細胞活性化応答を最小限に抑えるために、一定の時間にわたって1つまたは複数の治療薬を放出させる生体材料を有することも好ましい。また、生体吸収メカニズムを介してそのような生体材料を代謝させることも好ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Y. G. Cheongら、Human Reproduction Update.2001年;第7巻、第6号、556〜566頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
治療薬またはコーティングの加水分解生成物による慢性炎症を防止または軽減する、単独で、または薬物送達担体として利用できる生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)が所望される。また、生体材料が、治療薬を持続した様式でおよび制御した様式で局部組織に放出および送達することが望ましい。本発明は、この必要性への対応を容易にする様々な解決策に向けられる。
【0011】
細胞によって生体吸収することができる、そして、機械的に傷害された、または再灌流傷害により傷害された組織(例えば、腹膜組織または血管組織)に慢性の局所的炎症を引き起こさずに薬物を送達することができる、生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)もまた所望されるが、細胞が薬物を含む生体材料の加水分解生成物を消費するので、その生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)および治療薬は、その細胞によって消化される。
【0012】
様々な態様において、生体材料は、医療デバイス用コーティング、または独立型フィルムである。生体材料は、疎水性脂肪酸誘導架橋生体材料(本明細書では「脂肪酸誘導生体材料」と称する)であり得る。様々な実施形態において、脂肪酸誘導生体材料は非ポリマーである。特定の場合において、本明細書に記載されているように、脂肪酸源は、油、例えば魚油である。そのような場合には、脂肪酸誘導生体材料を「油誘導生体材料」と呼ぶこともできる。
【0013】
様々な態様において、本発明は、単独で、あるいは1つまたは複数の治療薬と組み合わせて利用できる疎水性架橋脂肪酸誘導生体材料(例えば、医療デバイスコーティングまたは独立型フィルム)を製造するための方法であって、治療薬が制御充填量を有し、コーティングが吸収されているときに持続的に放出される方法を提供することができる。様々な実施形態において、多価不飽和脂肪酸出発材料、例えば、油、例えば天然油を含む出発材料から脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)を製造するのに使用されるプロセスまたは調製(例えば硬化)条件を制御すること;それから脂肪酸誘導生体材料が形成される元になる油含有出発材料に遊離ラジカル捕捉剤を使用すること、またはそれらの組合せによって、疎水性架橋脂肪酸誘導生体材料の薬物放出プロファイルを調整する方法が提供される。様々な実施形態において、本発明の方法は、架橋の程度を制御することによって、脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)の薬物放出特性を調整する。様々な実施形態において、本発明の方法は、架橋脂肪酸誘導生体材料における脂肪酸、トコフェロール、脂質酸化生成物および可溶性成分の量を制御することによって、脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)の薬物送達特性を調整する。
【0014】
様々な態様において、本発明は、1つまたは複数の治療薬に対する調整放出(tailored release)プロファイルを有する1つまたは複数の治療薬を含む脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)を提供することができる。様々な実施形態において、調整放出プロファイルは、持続放出プロファイルを含む。様々な実施形態において、調整放出プロファイル特性は、脂肪酸誘導生体材料における脂肪酸、トコフェロール、脂質酸化生成物および可溶性成分の量によって制御される。本発明の様々な態様において、脂肪酸誘導生体材料は、その多くがトリグリセリドに由来する脂肪酸を含む。トリグリセリド副生成物、例えば部分加水分解トリグリセリド、および脂肪酸分子は、細胞膜に組み込まれ、細胞膜への薬物の溶解性を高めることができることが以前に実証されている(M. Cote, J. of Controlled Release. 2004年、第97巻、269〜281頁;C. P. Burnsら、Cancer Research.1979年、第39巻、1726〜1732頁;R. Beckら、Circ. Res.1998年、第83巻、923〜931頁;B. Henningら、Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 1984年、第4巻、489〜797頁)。全トリグリセリドは、それらの分子サイズが比較的大きいことにより細胞膜を横断するのが困難であるため、全トリグリセリド、ならびに部分加水分解トリグリセリドは、細胞の取り込み(cellular uptake)を向上させないことが知られる。ビタミンE化合物も細胞膜に組み込まれて、膜流動性および細胞の取り込みを低下させ得る(P. P. Constantinide. Pharmaceutical Research.2006年;第23巻、第2号,243−255頁)。
【0015】
様々な態様において、本発明は、脂肪酸、グリセリド、脂質酸化生成物およびアルファ−トコフェロールを、架橋脂肪酸誘導生体材料およびそれに混合された任意の治療薬の細胞の取り込み特性に関して制御するようにして、架橋脂肪酸誘導生体材料に寄与する異なる量および割合で含む脂肪酸誘導生体材料(例えば、医療デバイスコーティングまたは独立型フィルム)を提供することができる。
【0016】
様々な態様において、本発明は、前記脂肪酸誘導生体材料の1つまたは複数の層を含む脂肪酸誘導生体材料薬物放出コーティングを有する被覆医療デバイスであって、脂肪酸誘導生体材料層の少なくとも1つが1つまたは複数の治療薬を含む医療デバイスを提供することができる。コーティングは、疎水性脂肪酸誘導架橋生体材料(例えば魚油から誘導される)であり得る。様々な実施形態において、コーティングは非ポリマーである。様々な実施形態において、薬物放出コーティングは、インビボで加水分解して、実質的に非炎症性の化合物になる。様々な実施形態において、脂肪酸誘導生体材料は、患者への治療薬の長期的局所送達を行うように患者に移植可能である医療デバイスに被覆される。様々な実施形態において、送達は、長時間にわたって放出される治療薬の全量および相対量によって少なくとも部分的に特徴づけられる。様々な実施形態において、調整送達プロファイルは、脂肪酸誘導生体材料における脂質酸化および/または可溶性成分の量によって制御される。様々な実施形態において、送達プロファイルは、インビボでのコーティング成分および治療薬の可溶性および親油性の関数である。脂肪酸誘導生体材料は、上述の特性を有する独立型フィルムであり得る。
【0017】
様々な実施形態において、本発明は、コーティングの薬物放出プロファイルが、2つ以上のコーティングの供給(provision)および治療薬の配置(location)の選択を介して調整されるコーティングを提供することができる。例えば、医療デバイスの裸の部分を第1の出発材料で被覆し、第1の硬化コーティングを生成し、次いで第1の硬化コーティングの少なくとも一部を薬物−油処方物で被覆して、第2の被覆層コーティングを生成することによって、薬物の配置を変化させることができる。2つの層を設けるプロセスを拡大して3つ以上の層を設けることができ、それらの層の少なくとも1つが脂肪酸誘導生体材料を含むことが理解されるべきである。加えて、それらの層の1つまたは複数の層は、薬物放出することができ、本明細書に記載の方法を使用してそのような層の薬物放出プロファイルを調整することができる。
【0018】
本発明の様々な実施形態によれば、脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)は脂質を含む。脂肪酸誘導生体材料を出発材料である魚油などの油から形成することができる。脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)は、飽和、不飽和または多価不飽和脂肪酸を含むことができる。脂肪酸誘導生体材料は、架橋されると、オメガ−3脂肪酸を含むことができる。脂肪酸誘導生体材料は、アルファ−トコフェロールまたはビタミンEを含むこともできる。
【0019】
コーティングを、治療薬に加えて、薬学的に許容し得る担体、賦形剤、界面活性剤、結合剤、補助剤(adjuvant agent)および/または安定剤(防腐剤、緩衝剤および酸化防止剤を含む)の1種または複数種を含むが、それらに限定されない様々な他の化学物質および成分(entity)を含むように配合することができる。一実施形態において、アルファ−トコフェロールTPGSを本発明のコーティングに添加することができる。
【0020】
様々な態様において、本発明は、例えばヒトなどの哺乳類における傷害を治療するための方法を提供することができる。様々な実施形態において、傷害は、血管傷害である。様々な実施形態において、上記方法は、脂肪酸誘導生体材料を含むコーティングからの1つまたは複数の治療薬の持続放出によって、1つまたは複数の治療薬を治療有効量で局所投与することを含む。
【0021】
本明細書における教示は、本明細書に提供される硬化コーティングおよび独立型フィルムが、フィルムからのまたは移植可能デバイスからの薬物装填脂肪酸誘導生体材料の放出プロファイルを調節する能力を提供することを実証する。様々な実施形態において、脂肪酸誘導生体材料(例えば、医療デバイス用コーティングまたは独立型フィルム)組成および硬化時間を変化させることによる油化学的性質の変化を介して、放出プロファイルを制御することができる。それらの教示は、脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)からの治療化合物の放出を、油硬化条件、油出発材料、硬化の長さおよび架橋の量を変化させることにより改良できることを実証する。それらの教示は、硬化油コーティングおよび独立型フィルムの架橋およびゲル化が、油の温度および不飽和度が上昇しているときに増加する油成分におけるヒドロペルオキシドの形成に直接依存し得ることを実証する。薬物放出は、より高い温度硬化条件(例えば約200°F)より低い温度硬化条件(例えば約150°F)を使用して生成された架橋コーティングの方がより迅速であることが分解実験(dissolution experiment)によって示された。
【0022】
本明細書における教示は、硬化油(例えば魚油)コーティングおよび独立型フィルムにおけるビタミンEの使用が、コーティングの架橋および薬物放出特性を変化させる別の方法であることを実証する。ビタミンEは、硬化の間のヒドロペルオキシドの形成を低減することによって(と考えられている)油の自己酸化を弱めることができる酸化防止剤である。これは、さらなる酸化架橋種の形成を抑制することによって硬化油コーティングまたは独立型フィルムにおいて観察される架橋の量を減少させることができる。コーティングまたは独立型フィルムにおけるビタミンEの量を増加させることで、コーティングからの治療薬の放出を長時間化および緩慢化することができる。例えば、本明細書における教示は、化合物Dが硬化魚油コーティング中の脂肪酸およびビタミンE成分に対して親和性を有する(と考えられる)ため、疎水性非ポリマー架橋脂肪酸誘導生体材料コーティングから溶解バッファーへの化合物Dの放出が長時間化および緩慢化されることを実証する。本明細書における教示は、さらに、ビタミンEが、化合物Dなどの薬物を保護し、コーティングから抽出されるそのような薬物の量を増加させることもできることを示す。
【0023】
一態様において、本発明は、飽和、一価不飽和および/または多価不飽和脂肪酸を含む出発材料から形成される脂肪酸誘導生体材料(例えば、医療デバイスコーティングまたは独立型フィルム)を提供することができる。一態様において、出発材料は、油、例えば魚油である。
【0024】
別の態様において、本発明は、架橋脂肪酸およびグリセリドを含む医療デバイス用コーティングを提供することができる。脂肪酸源は、オメガ−3脂肪酸であり得る。
【0025】
別の態様において、本発明は、約5〜50%のC16脂肪酸、例えば5〜30%のC16脂肪酸を含む架橋脂肪酸油を含む医療デバイス用コーティングを提供することができる。一実施形態において、油は、5〜25%のC14脂肪酸を含む。油は、C18脂肪酸(例えば0〜60%)、C20脂肪酸(例えば0〜40%)、C20脂肪酸(例えば0〜40%)、C22脂肪酸(例えば0〜30%)および/またはC24脂肪酸(例えば5%未満)を含むこともできる。
【0026】
別の態様において、本発明は、インビボで脂肪酸、グリセリドおよびグリセロールに加水分解する医療デバイス用コーティングを提供することができる。
【0027】
さらに別の態様において、本発明は、約5〜25%のC14脂肪酸および5〜50%のC16脂肪酸を含む非ポリマー架橋脂肪酸を含む医療デバイス用コーティングを提供することができる。
【0028】
さらに別の態様において、本発明は、脂肪酸およびグリセリドが、生体材料を柔軟および水和性にする無秩序アルキル基を有する、架橋脂肪酸およびグリセリドを含む医療デバイス用コーティングを提供することができる。
【0029】
別の態様において、本発明は、デルタ−ラクトンを含む脂肪酸誘導生体材料を含む医療デバイス用コーティングを提供することができる。
【0030】
さらに別の態様において、本発明は、それぞれ約1740〜1830cm−1にピークを有する赤外吸収スペクトルによって示されるラクトンおよびエステル架橋(ester cross link)を含む医療デバイス用コーティングを提供することができる。
【0031】
さらに別の態様において、本発明は、生体材料の約60〜90%が、500未満の分子量を有する脂肪酸で構成される架橋油誘導生体材料を含む医療デバイス用コーティングを提供することができる。
【0032】
別の態様において、本発明は、エステル交換された(interesterified)脂肪酸を含む医療デバイス用コーティングを提供することができる。脂肪酸は、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アルファ−リノレン酸またはガンマ−リノレン酸であり得る。脂肪酸源は、油、例えば、魚油、オリーブ油、グレープ油、パーム油または亜麻仁油であり得る。
【0033】
さらに別の態様において、本発明は、疎水性非ポリマー架橋脂肪酸;および治療薬を含み、患者における医療デバイスの配置に耐えるのに十分な耐久性を有する医療デバイス用コーティングを提供することができる。
【0034】
さらに別の態様において、本発明は、最初に0.1MのPBS溶液に曝露されると約90〜110度の接触角を有し、約1時間の曝露の後に50〜70度の接触角を有する油誘導生体材料を含む医療デバイス用コーティングを提供することができる。
【0035】
別の態様において、本発明は、α−TNFの生成を阻害する医療デバイス用コーティングを提供することができる。
【0036】
別の態様において、本発明は、モジュレートされた治癒の達成を必要とする組織領域でモジュレートされた治癒を達成するのに好適な脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)であって、上記生体材料が、上記組織領域またはその付近における血小板または線維素沈着のモジュレーションを含む上記モジュレートされた治癒を達成するのに十分な量で投与される、脂肪酸誘導生体材料を提供することができる。生体材料は、コーティングに一価不飽和および/または飽和脂肪酸を含むことができる。一実施形態において、組織領域は、被験体の血管系である。
【0037】
別の態様において、本発明は、モジュレートされた治癒の達成を必要とする血管傷害の部位でモジュレートされた治癒を達成するのに好適な脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)であって、上記組成物が、少なくとも1測定基準(one metric)の器質化組織修復(organized tissue repair)のモジュレーションを含む上記モジュレートされた治癒を達成するのに十分な量で投与される、脂肪酸誘導生体材料を提供することができる。一実施形態において、血管治癒は、血管治癒の炎症段階である。別の実施形態において、器質化組織組織修復は、血管傷害の部位における血小板または線維素沈着を含む。別の実施形態において、少なくとも1測定基準の器質化組織修復のモジュレーションは、血管傷害の部位における治癒プロセスの遅延である。
【0038】
本明細書に記載のモジュレートされた治癒生体材料を、カテーテル、バルーン、ステント、外科用包帯または移植片を介して、それを必要とする組織領域に投与することができる。
【0039】
本発明のコーティングの一実施形態において、生体材料は、ラクトンおよびエステル架橋を含む。
【0040】
本発明のコーティングの別の実施形態において、生体材料は、赤外吸収およびX線回折によって測定される無秩序炭化水素鎖を含む。
【0041】
本発明のコーティングのさらに別の実施形態において、生体材料は、インビボの加水分解を促進するのに十分な量のカルボン酸基を含む。コーティングは、インビボで非炎症性成分;または脂肪酸、グリセロールおよびグリセリドに分解することができる。
【0042】
本発明のコーティングの一実施形態において、生体材料は、インビボで代謝するとグリセリドを生成するように構成される。
【0043】
本発明のコーティングは、約30〜90%の飽和脂肪酸を含むことができる。一実施形態において、コーティングは、約30〜80%の不飽和脂肪酸を含む。コーティングは、グリセリドをさらに含むことができる。別の実施形態において、前記コーティングは、いずれも部分的に架橋され得るグリセリド、グリセロールおよび脂肪アルコールからなる群の1種または複数種をさらに含む。別の実施形態において、コーティングは、架橋剤を含まない。
【0044】
本発明のコーティングの一実施形態において、脂肪酸およびグリセリド源は、油、例えば、魚油、オリーブ油、グレープ油、パーム油または亜麻仁油である。油は、単独、あるいは1つまたは複数の油の組合せであり得る。コーティングは、ビタミンEをさらに含むことができる。コーティングを移植可能デバイス、例えば医療デバイス、例えば、カテーテル、外科用メッシュまたはバルーンと結合することができる。
【0045】
コーティングは、抗増殖薬、抗炎症薬、抗微生物薬または抗生物質を含むが、それらに限定されない治療薬をさらに含むことができる。治療薬は、化合物A、化合物B、化合物C、化合物D、化合物E、あるいは他のシクロスポリン誘導体またはラパマイシン誘導体であり得る。
【0046】
【化1】
【0047】
【化2】
コーティングは、0.01Mリン酸緩衝食塩水(PBS)中で約5〜20日間、例えば17〜20日間、または20日を超える日数まで治療薬を放出する放出プロファイルを有することができる。別の実施形態において、コーティングは、前記治療薬をインビボにて所望の放出速度で放出する。
【0048】
別の態様において、本発明は、医療デバイス用コーティングを調製する方法であって、油の二重結合が酸化され、脂肪酸およびグリセリドが形成され、ラクトンおよびエステル架橋が脂肪酸とグリセリドの間に形成され、それによってコーティングが形成されるように、酸素の存在下で脂肪酸含有(例えば多価不飽和脂肪酸含有)油を加熱することを含む方法を提供することができる。この方法の一実施形態において、中断せずに油を連続的に加熱する。
【0049】
別の態様において、本発明は、医療デバイス用コーティングを調製する方法であって、油の二重結合が酸化され、水、炭化水素およびアルデヒドが揮発され、エステルおよびラクトン架橋が形成され、それによってコーティングが形成されるように、酸素の存在下で脂肪酸含有(例えば多価不飽和脂肪酸含有)油を加熱することを含む方法を提供する。この方法の一実施形態において、中断せずに油を連続的に加熱する。
【0050】
上記方法のいずれかにおいて、油を約140°Fから約300°Fまで加熱することができ、例えば、油を150°Fまたは200°Fで加熱する。上記方法に使用される油は、魚油であり得る。上記方法は、治療薬の添加を含むこともできる。特定の実施形態において、硬化工程の時間および温度を調整して、薬物放出を調整する。治療薬は、抗増殖薬、抗炎症薬、抗微生物薬または抗生物質、例えば、化合物A、化合物B、化合物C、化合物D、化合物E、シクロスポリン誘導体またはラパマイシン誘導体であり得る。これらの方法によって製造されたコーティングを有機溶媒と組み合わせ、ステント、カテーテル、外科用メッシュまたはバルーンなどの医療デバイスに噴霧することができる。これらの方法によって製造されたコーティングは、それぞれ約1740〜1830cm−1にピークを有する赤外吸収スペクトルによって示されるラクトンおよびエステル架橋を含むことができる。コーティングは、約3000〜2800cm−1に赤外吸収を有する無秩序炭化水素鎖を含むこともできる。
【0051】
別の態様において、本発明は、脂肪酸誘導生体材料を形成する方法であって、脂肪酸を連続的に加熱することによって、脂肪酸に架橋を形成した後、C=C二重結合を開裂させて、脂肪酸を酸化副生成物に変換することを含む方法を提供することができる。酸化副生成物は、アルデヒド、ケトン、アルコール、脂肪酸、エステル、ラクトン、エーテルまたは炭化水素であり得る。副生成物は、コーティング内に残留することができ、かつ/または加熱プロセスの間に揮発される。このプロセスによって形成された架橋は、エステル化、アルコール分解、酸分解またはエステル交換を介して起こるエステルおよびラクトン架橋であり得る。
【0052】
別の態様において、本発明は、脂肪酸誘導生体材料を形成する方法であって、脂肪酸を連続的に加熱することによって、不飽和脂肪酸鎖の二重結合を酸化しながら、トリグリセリドエステル官能基を優勢に保存することによって、生体材料の粘度を高めることを含む方法を提供することができる。エステル結合は、エステル、無水物、脂肪族ペルオキシドおよびラクトンを含むことができる。一実施形態において、ヒドロキシルおよびカルボキシル官能基が酸化プロセスから形成される。さらに別の実施形態において、EPAおよびDHAの酸化副生成物が形成される。
【0053】
本明細書に提供される方法の様々な実施形態によれば、硬化(加熱)工程は、架橋剤を使用せずにおこる。また、硬化時間および温度を調整して、コーティングの分解を調整することができる。別の実施形態において、プロセスの間にビタミンEを添加して、油誘導生体材料における架橋の程度を調整する。
【0054】
一実施形態において、本発明の生体材料(例えば、医療デバイスコーティングまたは独立型フィルム)を調製するのに使用される出発材料は、40%(GCによって測定される面積%)の多価不飽和脂肪酸である。
【0055】
一実施形態において、本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)は、生体組織と類似する脂肪酸組成を有する。
【0056】
別の態様において、本発明は、約5〜50%のC16脂肪酸を含む非ポリマー架橋脂肪酸を含む独立型フィルムを提供することができる。独立型フィルムは、5〜25%のC14脂肪酸を含むこともできる。別の実施形態において、独立型フィルムは、5〜40%、例えば5〜30%のC16脂肪酸を含む。独立型フィルムは、ビタミンEを含むこともできる。独立型フィルムおよびコーティングは、生体吸収性であってよく、それは癒着防止特性を維持することができる。別の実施形態において、独立型フィルムは、化合物A、化合物B、化合物C、化合物D、化合物E、シクロスポリン誘導体またはラパマイシン誘導体を含むが、それらに限定されない治療薬をさらに含むことができる。一実施形態において、治療薬をフィルムの形成の前に脂肪酸化合物と組み合わせることで、治療薬をフィルム全体に分散させる。
【0057】
上記実施形態の多くが、「コーティング」または「医療デバイス用コーティング」を指しているが、本発明は、コーティング、ならびに独立型材料、または本明細書に記載の他の形として実装することが可能であり、当業者によって理解されるように、実装されるとその環境と相互作用する外面および/またはコーティングを有することが理解されるはずである。したがって、本明細書に記載の実施形態は、具体的にコーティングと呼ばれるものも、他の形で示されるものも、それらが本明細書に記載の脂肪酸誘導生体材料に基づく限り、すべてが本発明の範囲内にあることを意図する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
本発明の上記および他の態様、実施形態、目的、特徴および利点を、添付の図面とともに以下の説明からより深く理解することができる。図面において、それぞれの図面全体を通じて、同様の参照符号は、同様の特徴および構造要素を指す。図面は、必ずしも縮尺に従って作成されず、むしろ本発明の原理を例示することが強調されている。
【図1】図1は、多価不飽和油における過酸化物およびエーテル架橋の生成の例の概略図である。
【図2】図2は、多価不飽和油における炭素−炭素架橋の生成(ディールス・アルダー型反応)の例の概略図である。
【図3】図3は、疎水性脂肪酸誘導架橋生体材料コーティングの形成のためのメカニズムを示す図である。
【図4】図4は、脂肪酸誘導生体材料反応化学の概要を示す図である。
【図5】図5は、エステル基を形成させる脂肪酸の反応の概略図である。
【図6】図6は、トリグリセリドにおけるエステル結合の加水分解を概略的に示す図である。
【図7】図7は、脂肪酸誘導生体材料コーティングと生体組織との脂肪酸組成の類似性を示す棒グラフを示す図である。
【図8】図8は、本発明の一実施形態による、本発明の被覆医療デバイスを製造する方法を示すフローチャートである。
【図9】図9は、本発明の一実施形態による図8の方法の変形を示すフローチャートである。
【図10】図10A〜10Eは、被覆医療デバイスの様々な画像である。
【図11】図11は、24時間にわたって200°Fで加熱された後の最終硬化コーティングのFTIR分析を示す図である(実施例1)
【図12】図12A〜12Bは、実施例1に記載されるFTIRデータの分析を示す図である。
【図13】図13は、実施例1に記載されるGC−FID脂肪酸プロファイルデータを示す図である。
【図14】図14は、実施例1に記載されるGC−MS脂質酸化副生成物分析を示す図である。
【図15】図15は、実施例2に記載される、脂肪酸誘導生体材料への硬化後の異なる油出発材料のFTIR分析を示す図である。
【図16】図16は、実施例2に記載される、脂肪酸誘導生体材料への硬化後の異なる油出発材料のFTIR分析によって決定された化学的性質の差異をグラフで示す図である。
【図17】図17A、17B、18Aおよび18Bは、実施例2に記載される、脂肪酸誘導生体材料への硬化前および硬化後の異なる油出発材料のGC−FID脂肪酸プロファイルデータを示す図である。
【図18】図17A、17B、18Aおよび18Bは、実施例2に記載される、脂肪酸誘導生体材料への硬化前および硬化後の異なる油出発材料のGC−FID脂肪酸プロファイルデータを示す図である。
【図19】図19は、実施例3に記載される、脂肪酸誘導生体材料についての水和時間の関数としての接触角の変化を示す図である。
【図20】図20Aおよび20Bは、実施例3に記載される、脂肪酸誘導生体材料についての水和時間の関数としての魚油誘導生体材料のFTIRスペクトルを示す図である。
【図21】図21Aおよび21Bは、実施例4に記載される、中和後の塩基消化魚油誘導生体材料のFTIRスペクトルを示す図である。
【図22】図22は、実施例5に記載される、脂肪酸誘導生体材料の30日の曝露後の0.1MのPBS溶液からのGC−FID脂肪酸プロファイルを示す図である。
【図23】図23は、実施例6に記載されるFTIRデータを示す図である。
【図24】図24は、実施例7に記載される、様々な時点における外移植後の脂肪酸誘導生体材料からのGC−FID脂肪酸プロファイルデータを示す図である。
【図25】図25および26は、実施例10に記載される、異なる製造方法を使用して製造された脂肪酸誘導生体材料についての特徴付けFTIRおよびGC−FID脂肪酸プロファイルデータを示す図である。
【図26】図25および26は、実施例10に記載される、異なる製造方法を使用して製造された脂肪酸誘導生体材料についての特徴付けFTIRおよびGC−FID脂肪酸プロファイルデータを示す図である。
【図27】図27および28は、実施例11に記載の水性媒体における薬物放出データを示す図である。
【図28】図27および28は、実施例11に記載の水性媒体における薬物放出データを示す図である。
【図29】図29は、実施例11に記載される様々なビタミンEを含む脂肪酸誘導生体材料についてのFTIRデータを示す図である。
【図30】図30は、実施例11に記載の水性媒体における薬物放出データを示す図である。
【図31】図31は、実施例に12に概説される、治療薬が充填されたステントに硬化コーティングを生成する方法を示す流れ図を示す。
【図32】図32は、実施例12に記載されている0.01MのPBSバッファーにおける硬化油治療コーティングについての薬物放出プロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
脂肪酸誘導生体材料は、1つまたは複数の治療薬の放出および局所送達のために場合により単独で、または医療デバイスと組み合わせて利用できる。前記生体材料を形成し、それらの特性を調整する方法、および哺乳類における傷害を治療するために前記生体材料を使用する方法も提供される。また、生体材料の基礎をなす化学的性質の独自の特性により、生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)は、そのインビボ性能を向上させる移植の間の組織傷害の部位における異物応答および炎症を軽減するのに役立つ特定の化学成分を含むことが実証されることになる。
【0060】
本発明の実施形態をさらに説明する前に、傷害およびそれに対する生体応答を概略的かつ手短に説明することが有益であり得る。
【0061】
血管傷害
内膜肥厚を引き起こす血管傷害を、生物学的または機械的に誘発されるもののいずれかとして広く分類することができる。生物学的に媒介される血管傷害は、エンドトキシンおよびサイトメガロウィルスなどのヘルペスウィルスを含む感染障害に起因する傷害;アテローム硬化症などの代謝障害;ならびに低温症および照射に起因する血管傷害を含むが、それらに限定されない。機械的に媒介される血管傷害は、カテーテル挿入処置または血管掻爬処置(vascular scraping procedure)、例えば経皮経管冠動脈形成;血管外科手術;移植手術;レーザ治療;ならびに血管内膜または内皮の完全性を破壊する他の侵襲的処置によって引き起こされる血管傷害を含むが、それらに限定されない。一般に、新生内膜形成は、血管傷害に対する治癒応答である。
【0062】
炎症性応答
血管傷害の際の創傷治癒は、いくつかの段階で生じる。第1の段階は、炎症期である。炎症期は、止血および炎症によって特徴づけられる。創傷形成の間に露出するコラーゲンは、凝固カスケード(内因性経路および外因性経路の両方)を活性化させて、炎症期を開始させる。組織に対する傷害が生じた後に、傷形成により損傷された細胞膜は、強力な血管収縮物質であるトロンボキサンA2およびプロスタグランジン2−アルファを放出する。この初期応答は、出血を制限するのに役立つ。短期間の後、毛細血管拡張が局所的ヒスタミン放出に続発して生じ、炎症の細胞は、創傷層に移動することが可能である。正常な創傷治癒プロセスにおける細胞移動のタイムラインが予測可能である。第1の応答細胞である血小板は、上皮成長因子(EGF)、フィブロネクチン、フィブリノゲン、ヒスタミン、血小板由来成長因子(PDGF)、セロトニンおよびフォン・ウィルブランド因子を含む複数のケモカインを放出する。これらの因子は、凝血塊形成を介して創傷を安定させるのに役立つ。これらの媒介物は、出血を制御し、傷害の範囲を制限するように作用する。血小板脱顆粒は、また、好中球に対する強力な化学誘引物質である補体カスケード、具体的にはC5aを活性化させる。
【0063】
炎症期が継続するに従って、より多くの免疫応答細胞が創傷部に移動する。創傷部に移動する第2の応答細胞、すなわち好中球は、細片除去(debris scavenging)、細菌の補体−媒介オプソニン化、および酸化バースト(oxidative burst)メカニズム(すなわち超酸化物および過酸化水素形成)を介する細菌破壊に関与する。好中球は、細菌を死滅させ、外来細片から創傷部を除染する。
【0064】
創傷部に存在する次の細胞は、白血球およびマクロファージ(単球)である。オーケストレータと呼ばれるマクロファージは、創傷治癒に不可欠である。多くの酵素およびサイトカインがマクロファージによって分泌される。これらは、創傷部を鮮創するコラゲナーゼ;線維芽細胞を刺激し(コラーゲンを生成し)、新脈管形成を促進するインターロイキンおよび腫瘍壊死因子(TNF);ならびにケラチノサイトを刺激する形質転換成長因子(TGF)を含む。このステップは、組織再構成のプロセス、すなわち増殖段階への移行をマークする。
【0065】
細胞増殖
創傷治癒の第2段階は、増殖期である。上皮形成、新脈管形成、顆粒化組織形成およびコラーゲン沈着は、創傷治癒の同化部分における主たる段階である。上皮形成は、創傷修復において早期に生じる。創傷部の縁において、表皮が直ちに肥厚化し始める。辺縁の基底細胞は、フィブリン鎖に沿って創傷部を移動し始め、それらが互いに接触すると停止する(接触阻害)。傷害後最初の48時間以内に、創傷部全体が上皮形成される。上皮形成の層化が再確立される。この点における創傷の深部は、炎症細胞およびフィブリン鎖を含む。ほとんどでなくても多くの問題の創傷がより高齢の人口に生じるため、老化効果は、創傷治癒において重要である。例えば、より高齢の患者の細胞は、増殖しにくく、より短い寿命を有し、より高齢の患者の細胞は、サイトカインに対する応答が弱い。
【0066】
心臓疾患は、内膜平滑筋細胞肥厚化が先行する、心臓に血液供給する血管の部分血管閉塞によって引き起こされ得る。内膜平滑筋細胞肥厚の基本的な原因は、血管平滑筋傷害および内皮層の完全性の破壊である。動脈傷害に続く内膜肥厚を3つの連続的ステップ、すなわち1)血管傷害に続く平滑筋細胞増殖の開始、2)平滑筋細胞の内膜への移動および3)マトリックスの沈着による内膜における平滑筋細胞のさらなる増殖、に分類することができる。内膜肥厚の病因の調査は、動脈傷害後に、血小板、内皮細胞、マクロファージおよび平滑筋細胞が、パラクリンおよびオートクリン成長因子(血小板由来成長因子、表皮成長因子、インシュリン様成長因子および形質転換成長因子)、ならびに平滑筋細胞の増殖および移動をもたらすサイトカインを放出することを示した。T細胞およびマクロファージは、新生内膜にも移動する。この事象のカスケードは、動脈傷害に限定されず、静脈および細動脈に対する傷害後にも生じる。
【0067】
肉芽腫性炎症
慢性炎症または肉芽腫性炎症は、血管傷害の治癒を通じてさらなる合併症を引き起こし得る。肉芽腫は、ミリメートルサイズ範囲の結節を形成する特定の型の慢性炎症細胞の凝集体である。肉芽腫は、集密的であり、より大きい領域を形成し得る。肉芽腫の必須成分は、通常はリンパ球の周囲域を含む、類上皮細胞と呼ばれる変性マクロファージ(modified macrophage)の集合体である。類上皮細胞は、上皮細胞に対するそれらの組織的類似性により伝統的にそのように呼ばれるが、実際は上皮細胞でない。それらは、すべてのマクロファージと同様に血液単球から誘導される。類上皮細胞は、他のマクロファージより食作用が弱く、分泌機能について修飾されているようである。それらの機能の全範囲は、まだ不明である。一般には、肉芽腫におけるマクロファージをさらに修飾して、多核巨細胞を形成する。これらは、数十個もの核を含むことができる巨大単一細胞を形成する核または細胞分裂を伴わない類上皮マクロファージの融合によって生じる。いくつかの場合において、核は、ラングハンス型巨細胞と呼ばれる細胞の周縁に配置され、他の場合において、核は、細胞質全体を通じて無作為に散在する(すなわち、組織における他の消化しにくい物質の存在に応答して形成される異物型巨細胞)。肉芽腫炎症の部分は、一般に壊死する。
【0068】
肉芽腫炎症の形成は、(細菌または他の源に由来する)消化しにくい異物の存在および/または傷害性物質に対する細胞媒介免疫反応(IV型過敏性反応)を必要とするようである。
【0069】
脂肪酸誘導生体材料:コーティングおよび独立型フィルム
本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えばコーティングおよび独立型フィルム)は、疎水性架橋脂肪酸誘導生体材料、および場合により、脂肪酸誘導生体材料に含まれる1つまたは複数の治療薬を含む。本明細書に記載の架橋脂肪酸誘導生体材料コーティングの文脈で使用されているように、「可溶性」および「不溶性」という用語は、例えばテトラヒドロフラン(THF)などの有機溶媒へのコーティングの溶解性を指す。加えて、本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングおよび独立型フィルム)は、本明細書に記載されるように生体吸収性である。治療薬は、コーティングに含まれる活性薬、および/または例えばコーティングから一旦放出されると活性になるプロドラッグであり得る。本発明の一実施形態において、薬物溶出脂肪酸誘導生体材料は、架橋脂肪酸、例えばオメガ−3脂肪酸である。架橋脂肪酸は、非ポリマーであり得る。オメガ−3脂肪酸の源は、天然に存在する油、例えば魚油であり得る。
【0070】
本発明の疎水性脂肪酸誘導生体材料コーティングおよび独立型フィルムを油成分から形成することができる。油成分は、油または油組成物のいずれかであり得る。油成分は、魚油、タラ肝油、亜麻仁油、ブドウ種子油、パーム油または所望の特性を有する他の油などの天然に存在する油であり得る。油は、また、脂肪酸を含む合成または非天然油であり得る。本発明の一実施形態は、一部にオメガ−3脂肪酸の含有量が大きいために、魚油を利用する。魚油は、癒着防止剤として機能することもできる。加えて、魚油は、抗炎症または非炎症特性も維持する。本発明は、魚油を油出発材料とする脂肪酸誘導生体材料の形成に限定されない。しかし、以下の説明は、1つの例示的な実施形態として魚油の使用に関する。他の油を、本明細書に記載の本発明に従って利用することができる。
【0071】
本明細書に利用されているように、魚油脂肪酸という用語は、オメガ−3脂肪酸、油脂肪酸、遊離脂肪酸、モノグリセリド、ジグリセリドまたはトリグリセリド、脂肪酸のエステル、あるいはそれらの組合せを含むが、それらに限定されないことに留意されたい。魚油脂肪酸はアラキジン酸、ガドレイン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸またはそれらの誘導体、類似体および薬学的に許容し得る塩の1種または複数種を含む。また、本明細書に利用されているように、遊離脂肪酸という用語は、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、アルファ−リノレン酸、ガンマ−リノレン酸、ベヘン酸、エルシン酸、リグノセリン酸、それらの類似体および薬学的に許容し得る塩を含むが、それらに限定されない。魚油を含む油を本明細書に記載するように硬化させて、疎水性架橋脂肪酸誘導生体材料を形成する。
【0072】
本発明のいくつかの実施形態は、抗炎症特性、非炎症(non−inflammatory)特性および癒着防止特性を発揮することができる生体吸収性医療デバイスコーティングおよび独立型フィルム、ならびに対応する製造方法に関する場合がある。独立型フィルムは、一般に、魚油などの油で形成される。加えて、油組成物は、薬物または他の生体活性薬などの治療薬成分を含むことができる。独立型フィルムは、短時間または長時間適用に向けて患者に移植可能である。本明細書に実装されるように、独立型フィルムは、少なくとも一部に脂肪酸化合物から誘導される非ポリマー架橋脂肪酸誘導生体材料であり得、独立型フィルムは、本発明の方法に従って調製される。本発明のさらなる態様によれば、独立型フィルムは、脂肪酸化合物の一部を形成するビタミンE化合物をさらに含むことができる。
【0073】
本発明のさらなる態様によれば、独立型フィルムは、治療薬をさらに含む。治療薬は、酸化防止剤、抗炎症剤、抗凝血剤、脂質代謝を変化させる薬物、抗増殖薬、抗腫瘍薬、組織成長刺激薬、機能性タンパク質/因子送達薬、抗感染薬、造影剤、麻酔薬、化学療法薬、組織吸収エンハンサー、癒着防止剤、殺菌薬、鎮痛薬、プロドラッグおよび消毒薬を含むことができる。
【0074】
本発明のさらなる態様によれば、治療薬を、フィルムの形成前に脂肪酸化合物と組み合わせて、治療薬をフィルム全体に分散させる。代替的に、治療薬をコーティングの形でフィルムに塗布する。本発明のさらなる態様によれば、独立型フィルムは生体吸収性である。独立型フィルムは、さらに、癒着防止特性を維持することができる。
【0075】
本発明のさらに別の実施形態によれば、独立型フィルムを形成する方法が導入される。上記方法は、脂肪酸化合物を液体の形で供給する工程と、脂肪酸化合物を基材(substrate)に塗布する工程とを含む。上記方法は、また、脂肪酸化合物を硬化させて、独立型フィルムを形成する工程を含む。本発明の一態様によれば、基材は、発泡ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む。本発明のさらなる態様によれば、硬化は、UV光をあてることおよび熱を加えることを含む硬化方法の群から選択される少なくとも1つの硬化方法を使用することを含む。UV光を照射して、さらなる硬化の前に液体の形の脂肪酸化合物の上面に皮を形成することにより脂肪酸化合物を固めることもできる。本発明のさらなる態様によれば、基材は、独立型フィルムを成形するための鋳型として使用される窪みを有する。代替的に、上記方法は、フィルムを望ましい形状に裁断する工程をさらに含むことができる。
【0076】
本発明の独立型フィルムをバリヤとして使用して組織を分離させて癒着を避けることができる。癒着防止のための用途例は、腹部外科手術、脊髄修復、整形外科手術、腱および靱帯修復、婦人科系および骨盤手術、ならびに神経修復用途を含む。独立型フィルムを外傷部位に貼付するか、または組織もしくは器官のまわりに巻きつけて、癒着形成を制限することができる。これらの癒着防止用途に使用される独立型フィルムへの治療薬の添加を、疼痛軽減または感染最小化などのさらなる有益な効果のために利用することができる。独立型フィルムの他の外科用途は、硬膜パッチ、バットレス材料、内部創傷医療(移植片吻合部など)および内部薬物送達系として独立型フィルムを使用することを含む。独立型フィルムを経皮創傷治癒の用途および非外科分野に使用することもできる。独立型フィルムを、火傷または皮膚潰瘍に対する治療など、外部創傷医療に使用することができる。独立型フィルムを清浄な不透過性、非癒着性、非炎症性、抗炎症性包帯として治療薬を含めずに使用することができ、あるいは独立型フィルムをさらなる有益な効果のために1つまたは複数の治療薬とともに使用することができる。独立型フィルムに1つまたは複数の治療薬を充填または塗布すると、経皮薬物送達パッチとして使用することもできる。
【0077】
油
前記油に関して、脂肪酸の不飽和度が高くなるほど、脂肪の融点が低下し、炭化水素鎖が長くなるほど、脂肪の融点が高くなることが一般的に公知である。したがって、不飽和脂肪はより低い融点を有し、飽和脂肪はより高い融点を有する。より低い融点を有する脂肪は、室温で油であることが多い。より高い融点を有する脂肪は、室温で蝋または固体であることが多い。したがって、室温で液体の物理的状態を有する脂肪は油である。概して、不飽和脂肪は、室温で液体油であり、飽和脂肪は、室温で蝋または固体である。
【0078】
多価不飽和脂肪は食物から体によって誘導される4つの基本型の脂肪の1つである。他の脂肪は、飽和脂肪、ならびに一価不飽和脂肪およびコレステロールを含む。不飽和脂肪はさらにオメガ−3脂肪酸およびオメガ−6脂肪酸で構成することができる。炭素のその第1の二重結合の位置に従って不飽和脂肪酸を命名する慣習に基づき、分子のメチル末端からの第3の炭素原子におけるそれらの第1の二重結合を有する脂肪酸は、オメガ−3脂肪酸と称する。同様に、第6の炭素原子における第1の二重結合は、オメガ−6脂肪酸と呼ばれる。一価不飽和および多価不飽和オメガ脂肪酸の両方が存在し得る。
【0079】
オメガ−3およびオメガ−6脂肪酸は、また、人体が自分自身でそれらを作り出すことができないという事実にもかかわらず、それらが良好な健康を維持するのに重要であるため、必須脂肪酸として公知である。そのように、オメガ−3およびオメガ−6脂肪酸を食物などの外部源から得なければならない。オメガ−3脂肪酸を、さらに、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(docosahexanoic acid)(DHA)およびアルファ−リノレン酸(ALA)を含むものとして特徴づけることができる。EPAおよびDHAは両方とも、人体内で抗炎症効果および創傷治癒効果を有することが公知である。
【0080】
本明細書に利用されているように、「生体吸収性(bio−absorbable)」という用語は、一般に、患者の体の組織に浸透することが可能であるという特性または特徴を有することを指す。本発明の一部の実施形態において、生体吸収は、親油性メカニズムを介して生じる、生体吸収性物質は、体組織の細胞のリン脂質二重層において可溶であり得るため、生体吸収性物質がいかにして細胞内に浸透するかということに影響を及ぼし得る。
【0081】
生体吸収性物質は、生分解性物質と異なることに留意されたい。生分解性は、一般には、生物学的物質によって分解することが可能であるか、または微生物もしくは生物学的プロセスによって分解することが可能であるものとして定義される。生分解性物質は、親物質、または分解中に形成された物質のいずれかにより炎症応答を引き起こすことができ、それらは、組織に吸収されてもされなくてもよい。
【0082】
薬物送達
脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングおよび独立型フィルム)は、治療を必要とする患者の選択された標的の組織部位(targeted tissue location)にコーティングを保持する独立型フィルム、医療デバイスまたは装置を使用して、1つまたは複数の治療薬を目標部分に局所的に送達することができる。治療薬は、生体材料から標的の組織部位に放出される。治療薬の局所送達は、より広い全身副作用をもたらすことなく、より高濃度およびより高量の治療薬を標的の組織部位に直接送達することを可能にする。局所送達により、標的の組織部位から出た治療薬は、患者の体の他の部分に移動するに従って希釈するため、全身副作用を実質的に低減するか、またはなくす。
【0083】
脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングおよび独立型フィルム)を使用する標的の局所治療薬送達を2つの範疇、すなわち短期および長期にさらに分類することができる。治療薬の短期送達は、一般には、数秒または数分以内から数日または数週間なでで行われる。治療薬の長期送達は、一般には数週間以内から数カ月まで行われる。
【0084】
「持続放出」という語句は、本明細書に使用されているように、活性薬の長期送達をもたらす生体活性薬の放出を指す。
【0085】
「制御放出」という語句は、本明細書に使用されているように、それが放出される元になる医療デバイスに生体活性薬が形成された際の所望および予定された数週間または数カ月の期間にわたる実質的に予測可能な形態の生体活性薬の放出を指す。制御放出は、移植後の規定量(provision)の初期バースト放出、およびその後の前記期間にわたる実質的に予測可能な放出を含む。
【0086】
薬物放出メカニズム
ステントの分野などのフィルムおよび薬物送達プラットフォームを生成する先の試みは、主として、高分子量合成ポリマーを基材とした材料を利用して、治療薬の放出をより良好に制御する能力を提供する。基本的に、プラットフォームにおけるポリマーは、患者体内の部位に一旦移植されると、所定の速度で薬物または薬剤を放出する。どの程度の量の治療薬が損傷組織に最も有益であるかということにかかわらず、ポリマーは、ポリマーの特性、例えば、ポリマー材料の浸食又はポリマーを介する薬剤の拡散に基づいて治療薬を放出する。よって、治療薬の効果は、コーティングを有する医療デバイスと接触する組織の表面において実質的に局所的である。場合によっては、例えば、治療されている組織部位に対して押しつけられたステントストラットまたはメッシュの特定の部位に向けてさらに局在化される。これらの以前のアプローチは、局在化した毒性作用の可能性をもたらし得る。
【0087】
本発明の様々な実施形態において、本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングおよび独立型フィルム)は、溶解メカニズム、例えば、コーティングに接触する媒体(例えば組織)への、コーティングの可溶性成分に含まれる治療薬の溶解によって1つまたは複数の治療薬を放出する。その結果、薬物放出メカニズムは、周囲媒体中での治療薬の溶解度に基づくことができる。例えば、疎水性コーティングと周囲媒体との間の界面付近の治療薬は、治療薬を油を基材としたコーティングから追い出して周囲媒体中で溶液にすることができる化学ポテンシャル勾配を経験し得る。よって、様々な実施形態において、治療薬の放出は、コーティングの拡散または加水分解によって速度制限されない。
【0088】
様々な実施形態において、本発明の脂肪酸誘導生体材料、例えば、疎水性架橋脂肪酸誘導生体材料の分解生成物は、それら自体が溶解メカニズムを介して治療薬の1種または複数種を放出することができる非炎症性副生成物、例えば遊離脂肪酸およびグリセリドに分解する。
【0089】
治療薬
本明細書に利用されているように、「治療薬(複数可)」という語句は、入手可能ないくつかの異なる薬物または薬剤、ならびに本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングおよび独立型フィルム)との使用に有益であり得る将来的な薬剤を指す。治療薬成分は、酸化防止剤、抗炎症薬、抗凝血薬、脂質代謝を変化させる薬物、抗増殖薬、抗腫瘍薬、組織成長刺激薬、機能性タンパク質/因子送達薬、抗感染薬、抗造影剤、麻酔薬、治療薬、組織吸収エンハンサー、癒着防止剤、殺菌薬、消毒薬、鎮痛薬、それらのプロドラッグ、および以下の表1に示される治療薬などの任意のさらなる所望の治療薬を含むいくつかの異なる形をとることができる。
【0090】
【表1−1】
【0091】
【表1−2】
【0092】
【表1−3】
抗再狭窄分野において有用な治療薬の具体例としては、セレバスタチン、シロスタゾール、、フルバスタチン、ロバスタチン、パクリタキセル、プラバスタチン、ラパマイシン、(例えば、米国特許第出願公開第2004/0235762号に記載の)ラパマイシンカルボハイドレート誘導体、(例えば、米国特許第6,200,985号に記載の)ラパマイシン誘導体、エベロリムス、セコ−ラパマイシン、セコ−エベロリムスおよびシンバスタチンが挙げられる。全身投与については、治療薬が経口または静脈内投与されて、患者により全身的に処理される。しかし、治療薬の全身送達には欠点があり、その1つは、治療薬が患者の体のすべての部分に移動し、治療薬による治療の標的でない領域に望ましくない作用を有し得ることである。また、高投与量の治療薬は、非標的領域において望ましくない作用を増大するだけである。したがって、全身投与する場合は、患者における具体的な標的部位への適用をもたらす治療薬の量を低減して、より高投与量の治療薬に起因する毒性による合併症を軽減する必要があり得る。
【0093】
「mTOR標的化合物」という用語は、mTORを直接または間接的にモジュレートする任意の化合物を指す。「mTOR標的化合物」の例は、FKBP12に結合して、例えば、ホスホイノスチド(PI)−3キナーゼ、すなわちmTORを阻害することになる複合体(complex)を形成する化合物を指す。様々な実施形態において、mTOR標的化合物は、mTORを阻害する。好適なmTOR標的化合物としては、例えば、ラパマイシンおよびその誘導体、類似体、プロドラッグ、エステルおよび薬学的に許容し得る塩が挙げられる。
【0094】
カルシニューリンは、セリン/トレオニンホスホ−タンパク質ホスファターゼであり、触媒(カルシニューリンA)および調節(カルシニューリンB)サブユニット(それぞれ約60および約18kDa)で構成される。哺乳類において、その触媒サブユニットについての3つの異なる遺伝子(A−アルファ、A−ベータ、A−ガンマ)が特徴づけられており、それぞれがさらなるバリアントを生成するための選択的スプライシングを生じ得る。すべての3つの遺伝子に対するmRNAがたいていの組織に発現されるようであるが、2つのイソ型(A−アルファおよびA−ベータ)が脳において最も支配的である。
【0095】
カルシニューリンシグナル伝達経路は、免疫応答、ならびにニューロン細胞におけるグルタメート興奮毒性によるアポトーシス誘発に関与する。カルシニューリンの低酵素レベルは、アルツハイマー病に関連していた。心臓または脳カルシニューリンは、低酸素または虚血後のストレス応答にも主要な役割を果たす。
【0096】
カルシニューリンシグナル経路を遮断することが可能な物質は、本発明の好適な治療薬であり得る。そのような治療薬の例としては、FK506、タクロリムス、シクロスポリンおよびそれらの誘導体、類似体、エステル、プロドラッグ、薬学的に許容し得る塩、ならびにそれらまたはそれらの代謝生成物が同じ作用メカニズムを有するそれらの結合体が挙げられるが、それらに限定されない。シクロスポリン誘導体のさらなる例としては、完全もしくは半合成手段、または改良型培養技術によって調製された天然に存在するおよび非天然シクロスポリンが挙げられるが、それらに限定されない。シクロスポリンを含むクラスは、例えば、天然に存在するシクロスポリンAからZ、ならびに様々な非天然シクロスポリン誘導体、人工または合成シクロスポリン誘導体を含む。人工または合成シクロスポリンは、ジヒドロシクロスポリン、誘導体化シクロスポリン、ならびに改変体アミノ酸がペプチド配列内の特定の位置に組み込まれたシクロスポリン、例えばジヒドロ−シクロスポリンDを含むことができる。
【0097】
様々な実施形態において、治療薬は、mTOR標的化合物およびカルシニューリン阻害薬の1種または複数種を含む。様々な実施形態において、mTOR標的化合物は、化合物D、またはその誘導体、類似体、エステル、プロドラッグ、薬学的に許容し得る塩、あるいはそれらまたはそれらの代謝生成物が同じ作用メカニズムを有するそれらの結合体である。様々な実施形態において、カルシニューリン阻害薬は、タクロリムス、またはその誘導体、類似体、エステル、プロドラッグ、薬学的に許容し得る塩、あるいはそれらまたはそれらの代謝生成物が同じ作用メカニズムを有するそれらの結合体の化合物、あるいはシクロスポリン、またはその誘導体、類似体、エステル、プロドラッグ、薬学的に許容し得る塩、あるいはそれらまたはそれらの代謝生成物が同じ作用メカニズムを有するそれらの結合体の化合物である。
【0098】
本発明の脂肪酸誘導予備硬化生体材料とともに使用できる治療薬は、抗ウィルス薬、抗生物質、抗真菌薬および抗寄生虫薬を含む抗微生物薬を含むこともできる。本発明の脂肪酸誘導予備硬化生体材料とともに使用できる具体的な抗微生物薬は、ペニシリンG、エファロチン、アンピシリン、アモキシシリン、オウグメンチン、アズトレオナム、イミペネム、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、バンコマイシン、クリンダマイシン、エリトロマイシン、アジスロマイシン、ポリミキシン、バシトラシン、アンホテリシン、ナイスタチン、リファンピシン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、クロラムフェニコール、ナルジクス酸(nalidixic acid)、シプロフロキサシン、スルファニルアミド、ガントリシン、トリメトプリム、イソニアジド(INH)、パラ−アミノサリチル酸(PAS)およびゲンタマイシンを含む。
【0099】
治療有効量および投薬量
治療有効量は、症候の軽減、例えば、関連する医学的状態の治療、治癒、予防または改善、あるいはそのような状態の治療、治癒、予防または改善の速度の向上をもたらすのに十分な化合物の量を指す。単独で投与される個々の活性成分に適用される場合は、治療有効量は、その単独の成分を指す。組み合わせに適用される場合は、治療有効量は、組み合わせ投与が連続的であるか同時的であるかにかかわらず、治療効果をもたらす活性成分の組み合わせた量を指す。製剤が2つ以上の治療薬を含む様々な実施形態において、そのような製剤を、適応A(indication A)に対する治療有効量の化合物Aおよび適応Bに対する治療有効量の化合物Bと記述することができ、そのような記述は、適応Aに対する治療効果を有するが必ずしも適応Bには有さないAの量、および適応Bに対する治療効果を有するが必ずしも適応Aには有さないBの量を指す。
【0100】
本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングおよび独立型フィルム)における活性成分の実際の投薬量を、許容することができない毒性をもたらすことなく所望の治療応答を達成するのに有効な活性成分の量を得るように変更することができる。選択される投薬量は、採用される特定の治療薬(薬物)、またはそのエステル、塩もしくはアミドの活性、薬物作用のメカニズム、投与時間、コーティングの薬物放出プロファイル、採用されている特定の化合物の排泄速度、治療継続時間、採用される特定の化合物と併用される他の薬物、化合物および/または材料、ならびに医学技術分野で公知の同様の要因に依存することになる。
【0101】
他の薬剤
本発明の脂肪酸生体材料(例えば、コーティングおよび独立型フィルム)は、治療薬に加えて、薬学的に許容し得る担体、賦形剤、界面活性剤、結合剤、補助剤および/または安定剤(防腐剤、緩衝剤および酸化防止剤を含む)の一種または複数種を含むが、それらに限定されない1つまたは複数の他の化学物質および成分を含むことができる。他の薬剤は、1つまたは複数の機能を発揮することができ、例えば、補助剤は安定剤として機能することもできる。
【0102】
様々な実施形態において、本発明のコーティングおよび独立型フィルムは、遊離ラジカル捕捉剤および吸収エンハンサーの一種または複数種を含む。様々な実施形態において、コーティングおよび独立型フィルムは、ビタミンEを含む。
【0103】
本発明を説明するために本明細書に利用されているように、ビタミンEという用語およびアルファ−トコフェロールという用語は、それらが互換性を有し、一方の使用が両者の暗示的言及を含むように同一または実質的に類似の物質を指すことを意図する。さらに、ビタミンEという用語に関連して、アルファ−トコフェロール、ベータ−トコフェロール、デルタ−トコフェロール、ガンマ−トコフェロール、アルファ−トコトリエノール、ベータ−トコトリエノール、デルタ−トコトリエノール、ガンマ−トコトリエノール、酢酸アルファ−トコフェロール、酢酸ベータ−トコフェロール、酢酸ガンマ−トコフェロール、酢酸デルタ−トコフェロール、酢酸アルファ−トコトリエノール、酢酸ベータ−トコトリエノール、酢酸デルタ−トコトリエノール、酢酸ガンマ−トコトリエノール、コハク酸アルファ−トコフェロール、コハク酸ベータ−トコフェロール、コハク酸ガンマ−トコフェロール、コハク酸デルタ−トコフェロール、コハク酸アルファ−トコトリエノール、コハク酸ベータ−トコトリエノール、コハク酸デルタ−トコトリエノール、コハク酸ガンマ−トコトリエノール、混合トコフェロール、ビタミンE TPGS、それらの誘導体、類似体および薬学的に許容し得る塩の一種または複数種が含まれるがそれらに限定されないそのような変形物が含まれる。
【0104】
組織をあまりにも迅速に移動する化合物は、目的の領域に十分に高濃度の用量を供給する上で効果的でない可能性がある。逆に、組織において移動しない化合物は、目的の領域に到達し得ない。脂肪酸などの細胞の取り込みエンハンサーおよびアルファ−トコフェロールなどの細胞の取り込み阻害薬を単独で、または組み合わせて使用して、所定の化合物の所定の領域または部位への効果的な輸送を提供することができる。脂肪酸およびアルファ−トコフェロールの両方を本明細書に記載の本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングおよび独立型フィルム)に含めることができる。よって、コーティングおよびそれに混合されたあらゆる治療薬の細胞の取り込み特性を制御するように、脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングおよび独立型フィルム)に寄与するために異なる量および割合で遊離脂肪酸とアルファ−トコフェロールを組み合わせることができる。
【0105】
例えば、コーティングにおけるアルファ−トコフェロールの量を変更することができる。アルファ−トコフェロールは、ヒドロペルオキシド形成を低下させることによって魚油における自己酸化を緩慢にすることが公知であり、硬化した脂肪酸誘導予備硬化生体材料における架橋の量の低下をもたらす。加えて、アルファ−トコフェロールを使用して、コーティングを形成する油中で薬物の溶解度を高めることができる。様々な実施形態において、アルファ−トコフェロールは、硬化中に治療薬を保護して、硬化後のコーティング中の薬物充填量の増加をもたらすことができる。なおその上、特定の治療薬では、コーティング中のアルファ−トコフェロールの増加は、コーティング中のアルファ−トコフェロール成分への薬物の溶解度の向上により、薬物放出を緩慢にするおよび伸ばすように作用することができる。
【0106】
硬化および脂肪酸誘導生体材料の形成
(例えば、本明細書に参照により組み込まれる米国特許出願公開第2008/0118550号、同第2007/0202149号、同第2007/0071798号、同第2006/0110457号、2006/0078586号、同第2006/0067983号、同第2006/0067976号、同第2006/0067975号に記載されているように)1つまたは複数の治療薬を含む油出発材料を硬化させて、本発明による薬物放出および送達コーティングまたは独立型フィルムのための脂肪酸誘導生体材料を製造するためのいくつかの方法が利用可能である。出発材料を硬化させて、本発明の脂肪酸誘導生体材料を製造するための好適な方法としては、(例えば、オーブン、広帯域赤外線(IR)光源、干渉性IR光源(例えばレーザ)およびそれらの組合せを採用する)加熱および紫外線(UV)照射が挙げられるが、それに限定されない。出発材料を自己酸化により架橋することができる(例えば酸化架橋)。
【0107】
本明細書に記載の様々な実施形態によれば、本発明の薬物放出コーティングは、飽和および不飽和脂肪酸化合物(例えば、遊離脂肪酸、脂肪酸エステル、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、金属塩等)から得ることができる脂肪酸誘導生体材料で形成される。好ましくは、本発明に記載の脂肪酸の源は、様々な油(例えば魚油)においてトリグリセリドの形で容易に入手可能なものなどの飽和および不飽和脂肪酸である。脂肪酸誘導生体材料を形成する1つの方法は、油の自己酸化を介して実施される。不飽和脂肪酸を含む液体油が加熱されると、酸素の油への吸収により自己酸化が生じて、油における不飽和(C=C)部の量に依存する量でヒドロペルオキシドを生成する。しかし、(C=C)結合は、この初期反応で消費されない。ヒドロペルオキシドの形成と並行して、二重結合のコンジュゲーションの他に、シスからトランスへの(C=C)二重結合の異性化が進行する。油の継続的な加熱は、架橋の形成を介して、かつヒドロペルオキシドのさらなる反応、ならびにそれらを、コーティング内に残留することができ、かつ/またはそのプロセスの間に揮発するアルデヒド、ケトン、アルコール、脂肪酸、エステル、ラクトン、エーテルおよび炭化水素を含む二次酸化副生成物に変換するC=C二重結合の開裂によってコーティングを固化させる。
【0108】
油酸化中に形成された架橋の種類および量を選択された条件(コーティングの厚さ、温度、金属組成物等)に応じて調整することができる。例えば、油の加熱は、ペルオキシド(C−O−O−C)、エーテル(C−O−C)と炭化水素(C−C)架橋(bridge)の組合せを使用して魚油不飽和鎖の間の架橋を可能にする(例えば、F. D. Gunstone、「Fatty Acid and Lipid Chemistry」、1999年参照)。しかし、より低温(すなわち150℃未満)で加熱すると、主として過酸化物(peroxide)架橋が形成され、より高い温度(すなわち150℃を超える温度)で加熱すると、過酸化物の熱分解が生じ、C=Cおよびエーテル架橋が支配的になる(F. D. Gunstone、1999年)。様々な架橋メカニズムおよびスキームの概略図を図1〜2に示す。
【0109】
熱硬化方法に加えて、油の酸化を光によって誘導することもできる(例えば光酸素付加)。光酸素付加は、C=C炭素原子に限定され、(熱で開始される硬化とともに生じる)硬化の間のシスからトランスC=C異性体への変換をもたらす。しかし、UVを使用する光酸素付加は、約1000〜1500倍速い範囲で熱硬化による自己酸化より比較的高速の反応である。より高速の反応は、特に、本発明の魚油に基づく実施形態に見いだされるEPAおよびDHAなどのメチレン中断(methylene interrupted)多価不飽和脂肪酸に当てはまる。
【0110】
熱硬化と比較した場合のUV硬化の重要な側面は、両硬化方法によって得られた副生成物が類似しているが、量または化学構造が必ずしも同一でないことである。この1つの理由は、より可能性の高いC=C部にヒドロペルオキシドを生成する光酸素付加の能力によるものである。
【0111】
UV硬化に起因するものなどの光酸素付加は、内部ヒドロペルオキシドを生成するその能力が向上しているため、魚油炭化水素鎖の間の過酸化物架橋にも関連する比較的多量の環式副生成物を形成することも可能である。例えば、リノレネートの光酸素付加は、6つの異なる種類のヒドロペルオキシドを形成させるが、自己酸化は4種類のみをもたらす。光酸素付加を使用して生成されたより多量のヒドロペルオキシドは、熱硬化による自己酸化と比較して、類似しているが、わずかに異なる構造および量の二次副生成物を形成させる。具体的には、これらの副生成物は、アルデヒド、ケトン、アルコール、脂肪酸、エステル、ラクトン、エーテルおよび炭化水素である。
【0112】
出発油の油硬化条件および脂肪酸組成に応じて、脂肪酸誘導生体材料を、不飽和脂肪酸鎖の二重結合を酸化しながら、トリグリセリドエステル官能基を優先的に保持するように油を硬化させることによって製造することができる。不飽和脂肪酸鎖の酸化は、継続的な硬化により、アルデヒド、ケトン、アルコール、脂肪酸、エステル、ラクトン、エーテルおよび炭化水素に変換されるヒドロペルオキシドを形成させる。酸化油を継続的に加熱すると、副生成物が揮発し、エステル架橋の形成に加えて、コーティング粘度が上昇する。エステルとラクトンの架橋の形成は、酸化プロセスから形成されたコーティングにおけるヒドロキシルとカルボキシル官能成分(すなわちグリセリドと脂肪酸)との間に異なる種類のメカニズム(すなわち、本明細書に参照として組み込まれるF. D. Gunstone、1999年、第8章に記載されている、エステル化、アルコール分解、酸分解、エステル交換)で生じ得る。架橋反応は、エステル、無水物、脂肪族過酸化物、およびラクトンなどの様々なタイプのエステル結合を形成できる。図3〜4は、それぞれ油誘導生体材料の形成のメカニズムおよび反応化学の概要を示す。図5は、例示の目的で、油反応スキームからエステルを形成するための異なる方法の概略を示すが、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0113】
本発明の脂肪酸誘導生体材料コーティングおよび独立型フィルムは油成分から形成される。「油成分」という用語は、本明細書では「油酸含有出発材料」または「脂肪酸含有出発材料」と称する。「脂肪酸含有出発材料」は、天然であっても、合成源から誘導されてもよい。好ましくは、「油含有出発材料」は、不飽和脂肪酸を含む。油成分は、油または油組成物であり得る。油成分は、魚油、亜麻仁油、ブドウ種子油、パーム油などの天然に存在する油、合成油、または所望の特性を有する他の油であり得る。油はまた、合成油であり得る。本発明の1つの実施形態は、一部に、本明細書で考察するように損傷組織に対する治癒支援を提供できる高含有量のオメガ−3脂肪酸を有するという理由から魚油を利用する。魚油は、癒着防止薬として機能することもできる。加えて、魚油は、抗炎症特性または非炎症特性をも維持する。本発明は、魚油を油とする脂肪酸誘導生体材料の形成に限定されない。しかし、以下の説明は、1つの例示的な実施形態として魚油の使用に言及する。他の天然に存在する油または合成油を、本明細書に記載されるように、本発明に従って利用することができる。
【0114】
脂肪酸誘導生体材料のコーティング加水分解および生体吸収化学反応
エステル、ラクトンおよび無水物官能基を有する生分解性および生体吸収性移植可能材料は、典型的には、化学加水分解メカニズムおよび/または酵素加水分解メカニズムによって分解される(K. Parkら、「Biodegradable Hydrogels for Drug Delivery」、1993年;J. M. Andersen, 「Perspectives on the In−Vivo Responses of Biodegradable Polymers」、Biomedical Applications of Synthetic Biodegradable Polymers、Jeffrey O. Hollinger編、1995年、223〜233頁)。材料に存在する官能基が水によって開裂されると、脂肪酸誘導生体材料の化学加水分解が生じる。塩基性条件下でのトリグリセリドの化学加水分解の例が図6に示されている。酵素加水分解は、特定の酵素との反応によって引き起こされる脂肪酸誘導生体材料における官能基の開裂である(すなわち、トリグリセリドが、次に細胞膜を横切って輸送され得る遊離脂肪酸を生成するリパーゼ(酵素)によって分解される)。生分解性および/または生分解性硬化誘導生体材料が加水分解するのに要する時間の長さは、材料の架橋密度、厚さ、コーティングの水和能力、脂肪酸誘導生体材料の結晶性、および体によって加水分解生成物を代謝する能力などのいくつかの要因に依存する(K. Parkら、1993年およびJ. M. Andersen、1995年)。
【0115】
生体吸収性物質は、生分解性物質とは異なることに留意されたい。生分解性は、一般的に、生体物質(biological agent)によって分解することが可能である、または微生物もしくは生物学的プロセスによって分解することが可能であると定義される。生分解性物質は、親物質または加水分解中に形成される物質のいずれかにより炎症応答を引き起こすことができ、それらは、組織によって吸収されてもされなくてもよい。いくつかの生分解性物質は、加水分解についてのバルク浸食メカニズムに限定される。例えば、広く使用される生分解性ポリマー、PLGA(ポリ(乳酸−コ−グリコール酸))は、インビボで化学加水分解をうけ、2つのアルファ−ヒドロキシ酸、具体的にはグリコール酸および乳酸を形成する。グリコール酸および乳酸は、体の様々な代謝経路の副生成物であるが、先の医学的移植および局所薬部物送達用途において、これらの生成物の局所濃度は、炎症および損傷を局所組織にもたらし得る酸性環境を生成させることが既に実証された(S. Dumitriu、「Polymeric Biomaterials」、2002年)。臨床的には、これは、再狭窄などの損なわれた臨床転帰(D. E. DrachmanおよびD. I. Simon、Current Atherosclerosis Reports、2005年、第7巻、44〜49頁; S. E. Goldblumら、Infection and Immunity、1989年、第57巻、第4号、1218〜1226頁)および腹部ヘルニア修復における後期ステント血栓形成または癒着形成を招き得る冠状動脈ステント使用における損なわれた治癒(Y. C. Cheongら、Human Reproduction Update、2001年;第7巻、第6号:556〜566頁)をもたらし得る。したがって、理想的な脂肪酸生体材料は、移植すると優れた生体適合性を実証する必要があるだけでなく、その加水分解副生成物が局所組織によって吸収可能でありながら、その移植の寿命の間に生体適合性を維持する必要がある。
【0116】
独立型フィルム、医療デバイス用コーティングとして使用されるか、または薬物送達用途に使用される脂肪酸誘導生体材料の生体吸収性の特徴は、生体材料を体組織の細胞に長時間にわたって吸収させる。様々な実施形態において、コーティングまたはコーティングのインビボ変換副生成物において、炎症応答を誘導する物質が実質的に存在しない。例えば、コーティングは、インビボで非炎症性成分に変換する。例えば、様々な実施形態において、本発明のコーティングは、吸収に際しておよび加水分解に際して、測定可能な量の乳酸およびグリコール酸分解生成物を生成しない。本発明に記載の脂肪酸誘導生体材料の化学は、細胞膜を横断して輸送され得る脂肪酸およびグリセリド成分を放出させる化学的手段および/または酵素的手段のいずれかによってインビボで加水分解できる脂肪酸およびグリセリド成分から主としてなる。続いて、脂肪酸誘導生体材料から溶出した脂肪酸およびグリセリド成分は、細胞によって直接代謝される(すなわち、それらは生体吸収性である)。本発明のコーティングおよび独立型フィルムの生体吸収性の特徴は、コーティングを長時間にわたって吸収させて、基底送達(underlying delivery)のみをもたらすかまあるいは生体適合性である他の医療デバイス構造を残す。本発明の好適な実施形態においては、生体吸収性コーティングまたはその加水分解による分解生成物に対する異物炎症応答が実質的に存在しない。
【0117】
脂肪酸誘導生体材料の生体適合性およびインビボ性能
本発明に記載される脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)を製造する方法は(process)、油の酸化に関する従来の科学報告書に鑑みて、いくつかの予想外の化学的プロセスをもたらす(J. Duboisら、JAOCS、1996年、第73巻、第6号、787〜794頁、H. Ohkawaら、Analytical Biochemistry、1979年、第95巻、351〜358頁;H. H. Draper、2000年、第29巻、第11号、1071〜1077頁)。油酸化は、生体適合性がないと考えられるヒドロペルオキシドおよびアルファ−ベータ不飽和アルデヒドなどの反応性副生成物を形成するため、油硬化法にとって従来よりの懸念事項であった(H. C. Yeoら、Methods in Enzymology、1999年、第300巻、70〜78頁;S−S. Kimら、Lipids、1999年、第34巻、第5号、489〜496頁)。しかし、油および脂肪の脂肪酸の酸化は、普通であり、インビボの生化学的プロセスの制御に重要である。例えば、炎症の促進または軽減などの特定の生化学的経路の調節が、異なる脂質酸化生成物によって制御される(V. N. Bochkov and N. Leitinger、J. Mol. Med.、2003年;第81巻、613〜626頁)。また、オメガ−3脂肪酸は、人間の健康に重要であることが公知であり、特にEPAおよびDHAは、インビボで抗炎症特性を有することが公知である。しかし、EPAおよびDHAは、それ自体が抗炎症性でないが、それらが生化学的に変換される酸化副生成物がインビボで抗炎症効果をもたらす(V. N. BochkovおよびN. Leitinger、2003年;L. J. Roberts IIら、The Journal of Biological Chernistry、1998年; 第273号、第22号、13605〜13612頁)。したがって、生体適合性ではない特定の油酸化生成物が存在するが、インビボで正の生化学特性を有するいくつかの他の生成物も存在する(V. N. BochkovおよびN. Leitinger、2003年;F. M. SacksおよびH. Campos. J Clin Endocrinol Metab、2006;第91巻、第2号、398〜400頁;A. Mishraら、Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2004年;1621〜1627頁)。したがって、適切なプロセス条件を選択することにより、インビボで好ましい生物学的性能を有することになる最終的な化学的プロファイルを有する油酸化の化学反応を使用して(例えば魚油から)架橋疎水性脂肪酸誘導生体材料を生成および制御することができる。
【0118】
本発明に記載されている脂肪酸誘導疎水性非ポリマー生体材料を製造する方法は、生体適合性を有する最終的な化学的プロファイルをもたらし、癒着形成を最小限に抑え、組織分離遮断物(tissue separating barrier)として作用し、材料化学、ならびにインビボでの身体による加水分解および吸収により生成される生成物に対して非炎症性である。これらの特性の理由は、本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)のいくつかの独自の特性による。
【0119】
本発明の1つの重要な態様は、本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)を形成するために、有毒な短鎖架橋剤(グルタルアルデヒドなど)を使用しないことである。短鎖架橋剤は、生分解性ポリマーの加水分解中に溶出し、局所の組織炎症を引き起こし得ることが文献において既に実証されている。脂肪酸誘導生体材料を生成するプロセスは、油の自己酸化または光酸化化学反応を使用して専ら油をコーティング中に硬化させるため、外部架橋剤の添加を含まない。酸化プロセスは、脂肪酸誘導生体材料が水和され、滑りやすくなって、移植の最中および後の摩擦傷害を有意に低減および/または除去することを可能にする、カルボキシルおよびヒドロキシル官能基を形成させる。本明細書に記載の脂肪酸誘導生体材料を作製する方法により、コーティングに存在する脂肪酸、グリセリドおよび他の脂質副生成物のアルキル鎖を無秩序化することを可能にし、それにより、柔軟性があって、移植の間にその材料を処理する(handle)のに役立つコーティングを生み出す。
【0120】
コーティングの生体適合性、およびインビボで観察されるその低または非炎症応答に寄与する、コーティングのいくつかの個々の化学成分が存在する。1つの重要な態様は、本明細書に記載されている脂肪酸誘導生体材料を生み出す方法が、アルデヒドなどの生体適合性の問題を有する酸化脂質副生成物を低量から検出されない量までとすることである。本明細書に記載されるように、これらの生成物は、硬化プロセスの間にほぼ完全に反応するかまたは揮発する。脂肪酸誘導生体材料を生成するプロセスは、未変性の(native)油トリグリセリドのエステルを十分に保存し、生体適合性を有するエステルおよび/またはラクトン架橋を形成する(K. Parkら、1993年;J. M. Andersen、1995年)。
【0121】
その生体適合性を助ける脂肪酸誘導生体材料の全般的な化学特性に加えて、明確な生物学的特性を有する特定の化学成分も存在する。別の態様は、脂肪酸誘導生体材料の生成により生成される脂肪酸化学物質が、図7に示される組織の脂肪酸化学物質と類似することである。したがって、脂肪酸がコーティングから溶出しているときに、それらは、体によって「異物」と見なされず、炎症応答を引き起こす。実際、コーティングに存在するC14(ミリスチン酸)およびC16(パルミチン酸)脂肪酸は、文献において、炎症性サイトカインであるα−TNFの生成を低減することが示された。α−TNFの発現は、後に異常治癒および癒着形成をもたらし得る、ヘルニア修復後の腹膜の(peoritoneal)炎症の「誘発(turning on)」に関与する主たるサイトカインの1つと特定された(Y. C. Cheongら、2001年)。α−TNFは、また、ステント展開の間に引き起こされる血管傷害などの血管傷害および炎症における重要なサイトカインである(D. E. DrachmanおよびD. I. Simon、2005年;S. E. Goldblum、1989年)。ここに特定された脂肪酸に加えて、抗炎症特性を有するさらなる酸化脂肪酸も特定された。本発明に記載されている脂肪酸誘導コーティングから特定された最終成分は、デルタ−ラクトン(すなわち6−員環環式エステル)である。デルタ−ラクトンは、抗腫瘍特性を有すると特定された(H. Tanakaら、Life Sciences 2007;第80巻、1851〜1855頁)。
【0122】
特定されたこれらの成分は、出発油組成および/またはプロセス条件の変化が脂肪酸および/または酸化副生成物プロファイルを常に変化させることができ、脂肪酸生体材料の適用の意図された目的および部位により必要に応じて調整され得るため、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0123】
要約すると、本発明に記載の脂肪酸誘導生体材料の生体適合性および観察されたインビボ性能は、移植および治癒の間における材料の加水分解中の脂肪酸の溶出に起因し、天然の組織に対するその材料の脂肪酸組成の類似性(すなわち生体「ステルス」コーティング)によるインビボの異物応答を防止するのに有益であるばかりでなく、コーティングから溶出する特定の脂肪酸および/または他の脂質酸化成分が、異物反応を防止し、炎症を低減または解消して、患者の転帰の向上をもたらすことに役立つ。また、脂肪酸誘導生体材料から溶出する脂肪酸およびグリセリド成分は、局所組織に吸収され、例えばクエン酸回路で細胞により代謝されることが可能である(M. J. Campell、「Biochemistry: Second Edition.」、1995年、366〜389頁)。したがって、本発明に記載の脂肪酸誘導生体材料(例えばコーティングまたは独立型フィルム)は、生体吸収性をも有する。
【0124】
よって、一態様において、本発明は、架橋脂肪酸誘導生体材料および治療薬を含む医療デバイス用生体吸収性脂肪酸系コーティングを提供する。本発明は、また、架橋脂肪酸誘導生体材料および治療薬を含む生体吸収性脂肪酸を基材とした独立型フィルムを提供する。コーティングおよび独立型フィルムを本明細書に記載の方法に従って調製することができる。
【0125】
脂肪酸誘導材料を使用する治療方法
血管傷害および/または血管炎症に関連する障害を治療または予防するのに好適な脂肪酸を基材とした生体材料も本明細書に提供される。脂肪酸を基材とした生体材料を使用して、組織、例えば軟部組織の傷害を治療または予防に使用することもできる。脂肪酸を基材とした生体材料は、医療デバイス用コーティングまたは独立型フィルムであり得る。別の実施形態において、生体材料のための脂肪酸源は、魚油などの油である。
【0126】
概して、人間には4つのタイプの軟部組織、すなわち上皮組織、例えば、皮膚ならびに血管および多くの器官の内層;結合組織、例えば、腱、靱帯、軟骨、脂肪、血管および骨;筋肉、例えば、(横紋のある)骨格筋、心筋または平滑筋;ならびに神経組織、例えば、脳、脊髄および神経が存在する。本発明の脂肪酸を基材とした生体材料(例えば、独立型フィルム)を使用して、これらの軟部組織領域の傷害を治療することができる。したがって、一実施形態において、本発明の脂肪酸を基材とした生体材料(例えば、独立型フィルム)を創傷治癒のための軟部組織の増殖の促進に使用することができる。また、急性外傷に続いて、軟部組織は、治癒および修復プロセスの結果としての変化および順応を経験し得る。そのような変化は、限定するものではないが、1種類の組織をその組織にとって正常でない形に変換することである異形成;組織の異常発達である形成異常;正常組織の配列における正常細胞の過剰増殖である過形成;細胞死および再吸着または細胞増殖の低下による組織サイズの減少である萎縮を含む。よって、本発明の脂肪酸を基材とした生体材料(例えば、独立型フィルム)を、軟部組織における急性外傷に伴う、またはそれによって引き起こされる少なくとも1つの症候の低減または軽減のために使用することができる。
【0127】
一実施形態において、以下に記載されるように、脂肪酸を基材とした生体材料を使用して、例えば、組織癒着を予防することができる。組織癒着は、ブラントディセクションの結果であり得る。ブラントディセクションを、一般に、切除を伴わない自然割線(natural cleavage line)に沿って組織を分離することによって実施される切開と記載することができる。ブラントディセクションは、当業者に理解されるように、いくつかの異なるブラント外科用具を使用して実施される。ブラントディセクションは、心臓血管、結腸−直腸、泌尿器、婦人科、上部GIおよび形成外科用途等で実施されることが多い。
【0128】
ブラントディセクションが所望の組織を個別の領域に分離した後に、それらの組織の分離を維持することがしばしば必要である。実際、ほぼあらゆるタイプの外科手術の後に外科手術後癒着が生じて、深刻な手術後合併症を引き起こし得る。外科手術癒着の形成は、通常は体内で分かれて存在している組織が、外科手術外傷の結果として、互いに物理的に接触し、互いに接着する複雑な炎症プロセスである。
【0129】
損傷組織の血漿タンパク質を有する出液(bleeding)および漏出物が腹腔内に沈着し、所謂線維素滲出物を形成すると癒着が形成されると考えられる。傷害組織を回復させる線維素は粘着性であるため、線維素滲出物は、腹部における隣接する解剖学的構造体に接着し得る。線維素沈着が局所炎症に対する均一の宿主応答であるため、外傷後または連続的炎症はこのプロセスを悪化させる。この接着は、線維素滲出物が、線維素溶解因子、最も顕著には組織型プラスミノゲン活性化因子(t−PA)の放出によって引き起こされる酵素分解を経るため、傷害後最初の数日間の間可逆的であると思われる。t−PAとプラスミノゲン活性化因子インヒビターの間に一定の作用がある。外科手術外傷は、通常、t−PA活性を低下させ、プラスミノゲン活性化因子インヒビターを減少させる。これが起こると、線維素滲出物における線維素がコラーゲンに置き換えられる。血管が形成し始めて、癒着の発生に至る。これが生じると、癒着は不可逆的になると考えられる。したがって、外傷後最初の数日間にわたる線維素沈着と分解との均衡は、癒着の発生にとって重要である(Holmdahl L. Lancet 1999;353:1456〜57頁)。正常な線維素溶解活性を維持するか、または迅速に回復することができれば、線維沈着物が溶解し、永久的な癒着を回避することができる。癒着は、組織の薄いシートまたは厚い線維帯として現れることができる。
【0130】
炎症応答は、また、移植された医療デバイスなどのインビボの外来物質(foreign substance)によって誘発されることが多い。身体は、この移植片を外来物質と見なし、炎症応答は、異物を隔離するための細胞反応である。この炎症は、移植されたデバイスに対する癒着形成を招き得るため、炎症応答をほとんどまたは全く引き起こさない材料が所望される。
【0131】
したがって、本発明の脂肪酸を基材とした生体材料(例えば、独立型フィルム)を、組織の分離を維持するための遮断物として使用して、癒着、例えば外科手術癒着の形成を回避することができる。癒着防止の用途例は、腹部外科手術、脊髄修復、整形外科手術、腱および靱帯修復、婦人科系および骨盤手術、ならびに神経修復用途を含む。脂肪酸系を基材とした生体材料(例えば、独立型フィルム)を外傷部位に貼付するか、または組織もしくは器官のまわりに巻きつけて、癒着形成を制限することができる。これらの癒着防止用途に使用される脂肪酸を基材とした生体材料への治療薬の添加を、疼痛軽減または感染最小化などのさらなる有益な効果のために利用することができる。脂肪酸を基材とした生体材料の他の外科用途は、硬膜パッチ、バットレス材料、内部創傷治療薬(移植片吻合部など)および内部薬物送達系として独立型フィルムを使用することを含み得る。脂肪酸系生体材料を経皮創傷治癒の用途および非外科分野に使用することもできる。脂肪酸を基材とした生体材料を、火傷または皮膚潰瘍に対する治療薬などの外的創傷の治療に使用することができる。脂肪酸を基材とした生体材料を清浄な、不透過性、非癒着性、非炎症性、抗炎症性包帯として治療薬を含めずに使用することができ、あるいは脂肪酸を基材とした生体材料をさらなる有益な効果のために1つまたは複数の治療薬とともに使用することができる。脂肪酸を基材とした生体材料に1つまたは複数の治療薬が充填または塗布されている場合に、脂肪酸を基材とした生体材料を経皮薬物送達貼付薬として使用することもできる。
【0132】
創傷治癒のプロセスは、傷害に応答する組織修復を含み、それは、上皮成長および分化、線維組織生成および機能、新脈管形成ならびに炎症を含む多くの異なる生物学的プロセスを包含する。よって、脂肪酸を基材とした生体材料(例えば、独立型フィルム)は、創傷治癒用途に好適な優れた材料を提供する。
【0133】
モジュレートされた治癒
モジュレートされた治癒の達成を必要とする組織領域におけるモジュレートされた治癒を達成するのに好適な脂肪酸を基材とした生体材料であって、組成物が上記モジュレートされた治癒を達成するのに十分な量で投与される脂肪酸を基材とした生体材料も本明細書に提供される。一実施形態において、脂肪酸を基材とした生体材料は、医療デバイス用医療コーティングまたは独立型フィルムである。別の実施形態において、生体材料の脂肪酸のための源は、魚油などの油である。
【0134】
モジュレートされた治癒を、生物学的応答を変化させて異物応答を有意に低減する、移植後に観察されるインビボ効果と記載することができる。本明細書に利用されるように、「モジュレートされた治癒」という語句およびこの用語の変形物は、一般には、実質的にそれらの炎症効果を低減する、局在化した組織傷害に応答する異なるカスケードまたは順序の自然発生的組織修復を含むプロセスのモジュレーション(例えば、変化、延滞、減速、低減、抑止)を指す。モジュレートされた治癒は、上皮成長、線維素沈着、血小板活性化および接着、阻害、増殖および/または分化、結合線維組織生成および機能、新脈管形成、ならびにいくつかの段階の急性および/または慢性炎症、ならびにそれらの相互作用を含む多くの異なる生物学的プロセスを包含する。例えば、本明細書に記載の脂肪酸は、炎症相(例えば、血小板または線維素沈着)および増殖相を含むが、それらに限定されない、医学的処置によって引き起こされる血管傷害の治癒に伴う相の1種または複数種を変化、遅延、減速、低減および/または抑止することができる。一実施形態において、「モジュレートされた治癒」は、組織治癒プロセスの開始のときに実質的な炎症相(例えば、血小板または線維素沈着)を変化させる脂肪酸誘導生体材料の能力を指す。本明細書に使用されているように、「実質的な炎症相を変化させる」という語句は、傷害部位における炎症応答を実質的に低減させる脂肪酸誘導生体材料の能力を指す。そのような場合では、少量の炎症が組織傷害に応答できるが、このレベルの炎症応答、例えば、血小板および/または線維素沈着は、脂肪酸誘導生体材料の不在下で生じる炎症と比較すると、実質的に減少している。
【0135】
例えば、本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)は、血管傷害に伴う炎症応答、ならびに組織傷害の後の結合線維組織の過剰形成を遅延または変化させることが動物モデルで実験的に示された。本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)は、血管傷害の後の線維素沈着および血液接触面への血小板接着を遅延または低減することができる。
【0136】
よって、本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)は、瘢痕組織の生成を回避し、傷害後のモジュレートされた期間または遅延された期間に結局は健康な組織の形成を促進する、モジュレートされた治癒効果をもたらす外科用具または医療デバイスとの使用に好適な優れた吸収性細胞界面を提供する。理論に縛られることなく、このモジュレートされた治癒効果は、血管傷害の治癒プロセスに伴う分子プロセスのいずれかのモジュレーション(例えば、変化、遅延、減速、低減、抑止)に起因し得る。例えば、本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)は、医療デバイス移植片(例えば、外科用メッシュ、グラフトもしくはステント)または外科用具と、血管の内面を裏打ちする内皮細胞および平滑筋細胞などの血管壁を構成する細胞およびタンパク質との間の遮断物または遮断層として作用することができる。遮断層は、外科移植片と血管表面との相互作用を防止することによって、血管壁の細胞およびタンパク質による治癒プロセスの開始を防止する。この点において、遮断層は、血管壁に結合し、血管壁の細胞およびタンパク質が外科移植片を認識するのを阻止するパッチとして作用する(すなわち、遮断層は、細胞―デバイスおよび/またはタンパク質−デバイス相互作用を阻止する)ことによって、血管治癒プロセスの開始を阻止し、線維素活性化および沈着ならびに血小板活性化および沈着を回避する。
【0137】
別の非結合例において、モジュレートされた治癒効果は、血管壁を構成する細胞およびタンパク質と、さもなければ血管治癒プロセスを開始する血流の様々な成分との間のシグナル伝達のモジュレーション(例えば、変化、遅延、減速、低減、抑止)に起因し得る。言い方を変えれば、血管傷害の部位において、本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)は、内皮細胞および/または平滑筋細胞などの血管壁の細胞と、さもなければ損傷細胞と相互作用して治癒プロセスを開始する血管の他の細胞および/またはタンパク質との相互作用をモジュレートすることができる。また、血管傷害の部位において、本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)は、血管壁のタンパク質と、血液の他の細胞および/またはタンパク質との相互作用をモジュレートすることによって、治癒プロセスをモジュレートすることができる。
【0138】
本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)を、所望の期間にわたってその完全性を維持し、次いで加水分解を開始し、それを取り囲む組織に吸収されるように設計することができる。代替的に、脂肪酸誘導生体材料を、脂肪酸誘導生体材料が被験体に挿入された直後に、それが周囲組織にある程度吸収されるように設計することができる。脂肪酸誘導生体材料の配合に応じて、1日から24カ月、例えば、1週間から12カ月、例えば1カ月から10カ月、例えば3カ月から6カ月の期間内にそれを周囲組織に完全に吸収させることができる。動物試験は、移植により生じ、3から6カ月間以上にわたって継続するおよびそれを超えて脂肪酸誘導生体材料の再吸収を示した。
【0139】
薬物放出プロファイルの調整
様々な態様において、本発明は、脂肪酸誘導コーティング、好ましくは魚油を硬化して、コーティングまたはフィルムからの治療薬の放出プロファイルを調整できる、1つまたは複数の治療薬を含む脂肪酸誘導生体材料コーティングまたは独立型フィルムを得る方法を提供する。例えば、コーティング組成、温度および硬化時間を変化させることによる脂肪酸(例えば、魚油などの油)の化学的性質の変化を介して放出プロファイルを調整することができる。被覆デバイス上の薬物含有層の位置は、非ポリマー架橋脂肪酸誘導生体材料コーティングの放出プロファイルを変化させるさらなるメカニズムを提供する。これを、例えば、薬物を硬化された基部コーティング層に充填し、上塗被覆層硬化コーティング(topcoat overlayer cured coating)を既に硬化された封入基部層(base layer)上に塗布することによって達成することができる。
【0140】
本発明の様々な実施形態における硬化魚油コーティングおよび独立型フィルムの利点は、利用される硬化条件(すなわち硬化時間および温度)が、後のコーティングの分解に影響を与えるコーティング架橋密度および副生成物形成の量に直接影響を及ぼし得ることである。したがって、採用される硬化条件を変化させることによって、コーティングに含まれる目的の治療化合物の溶解速度を変化させることもできる。
【0141】
様々な実施形態において、例えば遊離ラジカル捕捉剤などの薬剤を出発材料に添加して、形成される脂肪酸誘導生体材料の薬物放出プロファイルを調整することができる。様々な実施形態において、例えば、ヒドロペルオキシド形成を低減することによって魚油における自動酸化を緩慢化するためにビタミンEを出発材料に添加することで、硬化魚油コーティングに観察される架橋の量を減少させることができる。加えて、他の薬剤を使用して、出発材料の油組成物中での治療薬の溶解度を高めるか、または薬物が硬化プロセスの間に分解するのを防止するか、またはその両方を行うことができる。例えば、ビタミンEを使用して、魚油出発材料中での特定の薬物の溶解度を高めることによって、究極的な硬化コーティングが有する薬物充填量の調整を容易にすることができる。したがって、コーティングに存在するビタミンEの量を変化させると、本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングおよび独立型フィルム)の架橋および化学組成を変化させるさらなるメカニズムが得られる。
【0142】
様々な実施形態において、本発明は、脂肪酸誘導生体材料の薬物放出プロファイルが、2つ以上のコーティングの供給(provision)および治療薬の位置の選択を介して調整される、脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングおよび独立型フィルム)を提供する。例えば、医療デバイスの裸の部分を第1の出発材料で被覆して第1の硬化コーティングを生成し、次いで第1の硬化コーティングの少なくとも一部を薬物−油処方物で被覆して、第2の上塗り層コーティング(overlayer coating)を生成することによって、薬物の位置を変化させることができる。第1の出発材料は、1つまたは複数の治療薬を含むことができる。様々な実施形態において、第2の上塗り層コーティングも硬化される。第1のコーティング、その上塗り層コーティング(overlay coating)またはその両方の薬物充填量(drug load)または薬物放出プロファイルまたはその両方を、異なる硬化条件の使用および/または本明細書に記載の遊離ラジカル捕捉剤(例えばビタミンE)の添加を介して調整することができる。2つの層を設けるプロセスを拡大して3つ以上の層を設けることができ、それらの層の少なくとも1つは、魚油などの脂肪酸含有油から調製された疎水性架橋脂肪酸誘導生体材料を含む。加えて、それらの層の1つまたは複数の層は、薬物を溶出することができ、そのような層の薬物放出プロファイルを、本明細書に記載の方法を使用して調整することができる。
【0143】
様々な実施形態において、本発明は、コーティング全体の薬物放出プロファイルが、異なる薬物放出プロファイルを有する2つ以上のコーティング領域の調製ならびに治療薬の位置の選択を介して調整されるコーティングを提供する。様々な実施形態において、異なる薬物放出特性を有する異なるコーティング領域の形成が、位置特異的硬化条件、例えば位置特異的UV放射、および/または例えばインクジェット印刷法による被覆デバイスへの出発材料の位置特異的沈着によって得られる。
【0144】
コーティングアプローチ
図8は、本発明の一実施形態による、例えば薬物溶出被覆ステントなどの医療デバイスを製造する1つの方法を示す。上記方法は、ステントなどの医療デバイスを提供する工程(ステップ100)を含む。次いで、非ポリマー架橋脂肪酸誘導生体材料コーティングを医療デバイスに塗布する(ステップ102)。コーティングをステントなどの医療デバイスに塗布するこの基本的方法は、記載の方法に含まれるいくつかの異なる変形を有することができることを当業者なら理解するはずである。コーティング物質を塗布して、医療デバイスにコーティングを形成する工程は、いくつかの異なる塗布方法を含むことができる。例えば、医療デバイスをコーティング物質の液体溶液に浸漬させることができる。コーティング物質をデバイスに噴霧することができる。別の塗布方法は、コーティング物質を医療デバイスに塗ることである。静電接着(electrostatic adhension)などの他の方法を利用して、コーティング物質を医療デバイスに塗布することができることを当業者なら理解するはずである。いくつかの塗布方法は、コーティング物質に、および/またはコーティングを受ける医療デバイスの構造に特異的であってよい。よって、本発明は、本明細書に記載の出発材料塗布の具体的な実施形態に限定されず、一般には、得られたコーティングに所望の特性を維持させるのに必要なあらゆる措置を講じて、医療デバイスの脂肪酸誘導生体材料コーティングとなる、出発材料の塗布に適用されることを意図する。
【0145】
図9は、図8の方法の1つの例示的な実施を示すフローチャートである。図9に示されるステップに従って、本発明の非ポリマー脂肪酸誘導生体材料から形成される生体吸収性担体成分、または当該生体材料の生体吸収性担体成分が、治療薬成分とともに供給される(ステップ110)。生体吸収性担体成分の供給および治療薬成分の供給は個々に、または組み合わせて行われ得、任意の順序で、または同時に行われ得る。生体吸収性担体成分を治療薬成分と(または後者を前者と)混合して、疎水性脂肪酸誘導生体材料コーティングになる出発材料を形成する(ステップ112)。出発材料をステント10などの医療デバイスに塗布してコーティングを形成する(ステップ114)。次いで、本明細書に記載の硬化方法のいずれかによってコーティングを硬化させて(ステップ116)、脂肪酸誘導生体材料コーティングを形成する。
【0146】
次いで、任意の数の異なる滅菌プロセスを使用して被覆医療デバイスを滅菌する(ステップ118)。例えば、酸化エチレン、ガンマ線、Eビーム、水蒸気、ガスプラズマまたは蒸気化過酸化水素を利用して滅菌を実施することができる。他の滅菌法も適用できること、および本明細書に示される滅菌法は、好ましくはコーティングに悪影響を与えることなく、被覆ステントを滅菌させる滅菌法の例にすぎないことを当業者なら理解するはずである。
【0147】
油成分または油組成物を複数回添加して、コーティングを形成するに際して複数の階層(tier)を生成できることに留意されたい。例えば、より厚いコーティングが所望される場合は、油成分または油組成物のさらなる階層を追加することができる。油を硬化させるときおよび油に他の物質を添加するときと関連する異なる変形が、いくつかの異なるプロセス構成で可能である。よって、本発明は、例示される具体的な順序に限定されない。むしろ、例示される基本的なステップの異なる組合せが本発明によって予測される。
【0148】
図10A〜10Eは、本発明のコーティング10と組み合わされる上記医療デバイスの他の形の一部を示す。図10Aは、コーティング10が結合または接着されたグラフト50を示す。図10Bは、コーティング10が結合または接着されたカテーテルバルーン52を示す。図10Cは、コーティング10が結合または接着されたステント54を示す。図10Dは、本発明の一実施形態によるステント10を示す。ステント10は、治療結果に影響を与えるようにコーティングを塗布するのに好適である医療デバイスを表す。ステント10は、空隙14がその間に形成された一連の相互接続されたストラット12(strut 12)で構成される。ステント10は、全体的に円筒形である。よって、ステント10は、内面16および外面18を維持する。図10Eは、本発明の一実施形態に従って生体適合性メッシュ構造体10として表される被覆外科用メッシュを示す。生体適合性メッシュ構造体10は、平坦構成、湾曲構成またはロール構成で患者内に配置できる程度に柔軟である。生体適合性メッシュ構造体10は、短期間および長期間の適用の両方に対して移植可能である。生体適合性メッシュ構造体10の具体的な配合に応じて、生体適合性メッシュ構造体10は、移植後数時間から数日間の期間、または恐らくは数カ月間の期間、または永久に存在することになる。
【0149】
具体的に例示または記載されていない医療デバイスに加えて、例示されている医療デバイスの各々を、本明細書に記載の方法またはそれらの変形を使用してコーティング10と組み合わせることができる。よって、本発明は、例示されている例示的な実施形態に限定されない。むしろ、例示の実施形態は、本発明の例示的な実施態様にすぎない。
【0150】
様々な態様および実施形態を以下の実施例によりさらに記載する。本実施例は、例示の目的で示され、限定することを目的とするものではない。
【実施例】
【0151】
以下の実施例は、本発明に記載の新規の疎水性架橋脂肪酸誘導生体材料の化学的性質を特徴づけ、形成の化学的メカニズムに伴う境界(boundary)の一部、およびそれらのメカニズムの変化が最終生成物の特性(例えば、治療便益および/または薬物放出プロファイル)にどのように影響するかを示す。加水分解生成物のいくつかの本質(identity)を、インビトロ実験を介して特定し、インビボ実験と関連づけて、コーティングまたは独立型フィルムを生体吸収させる能力を実証する。最後に、冠状動脈ステントおよびヘルニアメッシュデバイス上の薬物送達用途における本発明に記載の脂肪酸誘導生体材料の有用性を示す実施例を提示する。
【0152】
以下の実施例は、実証を目的とするものであって、限定することを意図しない。
【0153】
(実施例1)
魚油から誘導された新規の生体材料の特徴付け
本実施例において、被覆医療デバイス(例えばポリプロピレンメッシュ)を高空気流オーブンにて200°Fで24時間にわたって硬化させた後、魚油を、魚油に存在するC=C結合を酸化させて酸化副生成物(すなわち、炭化水素、アルデヒド、ケトン、グリセリド、脂肪酸)を形成させ、元々の油のトリグリセリドから誘導されたエステルを十分に保存しながら、ポリプロピレンメッシュを封入する架橋生体材料コーティングに変換した。副生成物を揮発させた後にエステルおよびラクトン架橋を形成させ、油を生体吸収性疎水性架橋脂肪酸誘導生体材料中に固化させる。FTIR、X線回折、ならびにGC−FID脂肪酸組成分析およびGC−MSを魚油誘導コーティングに対して実施してその化学的性質を特徴付けた。
【0154】
FTIR分析:図11は、未硬化魚油(801)と最終硬化脂肪酸誘導生体材料との比較を示すFTIR分析である。FTIRは、コーティングがヒドロキシル(800)、メチレン(805)、トランスC=C(810)およびラクトン/エステル結合(815および830)を含んだことを示す。架橋(830)の存在の検出に加えて、複雑なカルボニルバンドの形が得られ、エステル(820)、ケトン(825)、アルデヒド(825)および脂肪酸(825)吸収を含むと決定された。いくつかの異なるタイプのエステル架橋(例えば、無水物、ラクトン、脂肪族過酸化物等)が可能であるが、ラクトン/バンドの幅広さは、1740〜1840cm−1からの単一の架橋ピーク吸収が存在するため、ラクトン(環式エステル)官能基とエステル(R−C=C−O−CO−アルキル)官能基の組合せが支配的であることを示唆している。対照的に、無水物(CO−O−CO)および脂肪族過酸化物(CO−O−O−CO)の両方が、2つのカルボニルを有し、約1850〜1800および1790〜1740cm−1付近に吸収をもつ2つのピークを有することが期待される。また、魚油および脂肪酸誘導生体材料エステル(820)吸収バンドの評価は、硬化後のエステルバンド高さが顕著に低下しないことを示し、このことは、元のトリグリセリドエステル基が硬化プロセスを通じて十分に保存されていることを示す。メチレンバンドの位置は、コーティングに存在する炭化水素鎖が無秩序状態(disordered state)(約2918cm−1の上方の位置)にあり、それが非結晶構造と一致することを示した。この結果は、脂肪酸誘導生体材料コーティングが非晶質(すなわち、無秩序)であることを示したX線回折結果によっても確認された。さらに、魚油出発材料(835)中のシスC=C結合は、硬化プロセスの間にほぼ完全に消費されることが観察された。硬化プロセスの間にトランスC=C結合(810)が増加したが、元のシスC=C結合と比較してピーク面積が減少し、それは、硬化プロセスの間の油に中のC=C結合の酸化と一致する。
【0155】
FTIRスペクトルは、また、正規化ピーク高さ比を使用して脂肪酸誘導生体材料の硬化の間のコーティングの化学的性質の変化を監視するために、文献(例えば、その全内容が参照により本明細書に組み込まれているVan de Voortら、(1994年)JAOCS、第70巻、第3号、243〜253頁参照)に記載の手順を使用して、硬化プロセスの間に動力学的に取得された。図12Aは、温度の関数としてのOH、グリセリドエステルおよびラクトン/エステルの正規化ピーク高さの変化を比較する。図12Aのデータは、OHバンドが11時間目まで急激に増大し、その後、このOHバンドが硬化プロセスの残りを通じて劇的に減少することを示す。これは、コーティングが物理的にゲルに変換することが観察される10〜11時間目付近でもまた劇的に増大するラクトン/エステル架橋バンドの増大に相関する。また、この同じ時間間隔で、C=C結合は、シスからトランス配置に異性化することで、エステルおよびラクトン結合の形成(すなわち、油に存在する酸化脂肪酸およびグリセリド中のヒドロキシル官能基とカルボキシル官能基とのエステル化(図12B))の促進に役立つ。11時間目の後に、トランスC=C結合は、硬化プロセスが継続するに従って減少し、それは、C=C結合が酸化されていることを示す。硬化プロセスの終了までに、トランスC=Cバンドは、元のシスC=C結合のピーク面積のほぼ半分になる。最後に、Van de Voortらによって言及された減算技法を使用して、未変性の(native)グリセリドバンドにおける少量の熱加水分解を解明した後、正規化ピーク高さ測定を使用して硬化反応中のエステル化を解明することが可能である(図12A)。しかし、既に述べたように、減算および正規化を行わないで硬化前および硬化後のグリセリドピークの高さにおける全体のピーク高さは、ほとんど変化していない(図11)。
【0156】
GC−FID脂肪酸組成分析:図13に示されるように、公定AOCS法Ce 1b−89を使用して、GC脂肪酸プロファイル分析を魚油および魚脂肪酸誘導生体材料に対して実施した。脂肪酸誘導生体材料コーティングは、AOCS手順に概略的に記載されている条件を使用して完全に鹸化されたことに留意することが重要である。GC脂肪酸プロファイルデータは、多価不飽和脂肪酸が顕著に減少し、一価不飽和および飽和脂肪酸のみが検出されるため、生体材料に存在する脂肪酸のC=C結合が硬化プロセスの間に酸化および開裂されることを証明している。(C20−1(すなわち20個の炭素、1個の二重結合)を超える)より長い多価不飽和脂肪酸は、硬化プロセス後に、検出されなくなるまで顕著に減少する。これは、存在する脂肪酸の鎖長を減ずることなく、C=C結合をCH2−CH2官能基に変換する(すなわち、C20−5が、同様のピーク面積%を有するC20−0になる)水素化プロセスと対照的である。
【0157】
GC−MS組成分析:GC−MS組成分析を(魚油からの)脂肪酸誘導生体材料に対して実施した。この生体材料を65℃でTHFに溶解させ、可溶性成分を不溶性成分から濾別した。このプロセスを使用して、コーティングの68%がTHFに不溶であり、架橋脂肪酸およびグリセリドで構成されると決定した。コーティングの残りの32%(可溶部)を、GC−MSを使用してアッセイし、図14に示されるように、異なる副生成物の正体(identity)および量を決定した。GC−MSは、検出および同定されたTHF可溶性成分の90%超が脂肪酸およびグリセリドであり、副生成物の約5%のみが、個々にアルデヒドまたはケトンであると同定されたことを示した。最後に、個別の実験において、37℃で24時間にわたってヘキサン抽出を使用してGC−MS分析を実施した。図14に既に同定されている生成物に加えて、約150〜300ppmの3つの異なるデルタ−ラクトンも検出された。
【0158】
(実施例2)
他の油出発材料から誘導された新規の生体材料の特徴付け
実施例2では、実施例1に記載の酸化架橋メカニズムによって非ポリマー脂肪酸誘導疎水性生体材料コーティングを形成する能力に対するはじめの脂肪酸出発物の化学的性質(initial fatty acid starting chemistry)の影響を決定するために、亜麻仁油、魚油、グレープ種子油またはオリーブ油を出発材料として使用して、個別の被覆医療デバイスを高空気流オーブンにて200°Fで24時間にわたって硬化させた。硬化プロセス後、各脂肪酸誘導コーティングの物理特性を、FTIR、GC−FID脂肪酸プロファイルおよびGC−FIDアルデヒドアッセイ試験を用いて分析することに加えて、記録した。
【0159】
物理特性:表2は、200°Fで24時間硬化した後の各油コーティングに観察された物理特性の概要を示す。
【0160】
【表2】
FTIR分析:図15は、オリーブ、亜麻仁、グレープ種子および魚脂肪酸誘導生体材料に対する200°F硬化プロセス後のカルボニル吸収領域のFTIRスペクトルを示す。カルボニルバンド領域のFTIRスペクトルは、表2に観察された物理特性に相関する。液体であるオリーブ油は、1755〜1840cm−1からの検出可能な量のラクトン/エステル架橋を示さない。これは、異なる量の架橋を示す他の油と対照的であり、採用された条件下では魚油が最も多くの架橋を有する。図16は、図15に示されるFTIRスペクトルからのシスおよびトランスC=C、ラクトン/エステル架橋および脂肪酸副生成物に対する正規化ピーク比のプロットを示す。図16のデータは、同じ硬化プロセスに異なる出発油を使用して、生成物の最終的な化学的性質を変化させることができるが、これらのプロセス条件下で硬化脂肪酸誘導生体材料コーティングを成さないオリーブ油については、ピーク比が、魚油、亜麻仁油およびグレープ種子油生体材料コーティングと比較して顕著に異なることを示す。
【0161】
GC−FID脂肪酸組成分析:図17〜18に示されるように、公定AOCS法Ce 1−89bを使用して、魚油および魚脂肪酸誘導疎水性架橋ゲルに対してGC脂肪酸プロファイル分析を実施した。グレープ種子油、魚油および亜麻仁油については、硬化前および硬化後の脂肪酸組成に顕著な差が観察される。具体的には、硬化プロセスの間に長鎖多価不飽和脂肪酸が酸化され、主として飽和および不飽和脂肪酸のみが検出される(図17および18A)。対照的に、オリーブ油(図18B)については、最初と最後の脂肪酸組成分析でほとんど相対的な変化がない。オリーブ油と他の油との出発物の脂肪酸組成の差異は、出発物の多価不飽和脂肪酸組成である。オリーブ油は、多価不飽和脂肪酸をわずか9%しか有さず、他の全ての油は、少なくとも40%以上を有する。
【0162】
GC−FIDアルデヒドアッセイ分析:各生体材料コーティングに対して、37℃にて1時間または24時間にわたってそのサンプルをヘキサンで抽出し、液体溶液をそのままGCに注入することによって、GCアルデヒドアッセイを実施した。外部標準曲線を使用してアルデヒドを定量した。先のGC−MS実験により、アルデヒドの正体を決定することが可能になり、定量化に使用すべき適切な外部標準が選択された。初期の試験は、魚油誘導生体材料をヘキサンで1時間にわたって抽出し、オリーブ油が硬化後も液体状態に留まるため、オリーブ油をヘキサンで希釈することを含んでいた。この抽出実験の結果は、アルデヒドをオリーブ油サンプルから容易に定量することが可能であるが、魚油コーティングからヘキサンで1時間だけ抽出した後に魚油コーティングから検出することができないことを示していた。魚油、グレープ種子油および亜麻仁油のヘキサンによる徹底的抽出を37℃で24時間にわたって実施した。魚油、グレープ種子油および亜麻仁油についてのアルデヒドの全量は、オリーブ油において検出された量より一桁超少なかった。
【0163】
【表3】
【0164】
【表4】
様々な油についての脂肪酸範囲:亜麻仁、グレープ種子および魚脂肪酸誘導生体材料を、本実施例の手順に従って調製した。GC脂肪酸プロファイル分析は、以下の脂肪酸範囲を示した。
【0165】
【表9】
結論:この実験群は、脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)を生成するために、油源は、不飽和脂肪酸のみならず、具体的には、本発明に記載の新規の脂肪酸誘導生体材料を形成するための多価不飽和脂肪酸を含む必要がある。また、生成したコーティングは、有機溶媒による過酷な抽出条件を採用しなければ検出できない硬化プロセスからの非常に少量の残留アルデヒドを含む架橋マトリックスを形成する。
【0166】
(実施例3)
魚油から誘導された新規の生体材料のインビトロ水和能力
以下の実施例では、新規の脂肪酸系疎水性架橋生体材料の水和および加水分解能力を特徴付け、インビトロおよびインビボ実験から、材料から放出された溶出成分の化学構造を同定する。
【0167】
被覆医療デバイスを高空気流オーブンにて200°Fで24時間にわたって硬化させた後、魚油を、魚油に存在するC=C結合を酸化させて酸化副生成物(すなわち、炭化水素、アルデヒド、ケトン、グリセリド、脂肪酸)を形成させながら、元の油トリグリセリドから誘導されるエステルを十分に保存することによって、ポリプロピレンメッシュを封入する脂肪酸誘導生体材料コーティングに変換した。副生成物を揮発させた後にエステルおよびラクトン架橋を形成させて、油を生体吸収性疎水性架橋生体材料中に固化させる。脂肪酸誘導生体材料が0.1MのPBS中にて37℃で水和する速度を決定するために、FTIRおよび接触角測定を実施した。
【0168】
接触角測定は、表面の疎水性/親水性特性を決定するために、生体材料の表面に一滴の水を添加することによって行われる。水滴が表面に広がる(または「濡らす」)能力を決定するために、水滴の各側の接触角を測定する。(80度を超える)大きな接触角は、疎水性の表面を示す。例えば、疎水性材料であるPTFEは、典型的には、110〜120度の接触角測定値を示す。対照的に、小さな接触角は、親水性の表面を示す(S. W. Jordanら、Biomaterials. 2006年、第27巻、3473〜3481頁)。細胞膜の外面に見出されるものなどのリン脂質は、40〜60度の接触角を有する(S. W. Jordanら、2006年)。
【0169】
図19は、時間の関数として魚油誘導生体材料に対して実施された接触角測定を示す。最初に、魚脂肪酸誘導生体材料から得られた接触角は、疎水性表面であることを示す100度であった。しかしながら、0.1MのPBS溶液に対する曝露後から1時よりも前に、コーティングが急速に水和し、60度の接触角が得られ、親水性の表面が生成されたことを示した。物理的に、魚脂肪酸誘導生体材料が膨潤し、滑りやすくなったが粘着性でなく、物理的に無傷の状態を維持した。0.1MのPBSに対する曝露の6時間後に、コーティング接触角は、約32度で平坦化した。物理的に、コーティングは、継続的に、滑りやすいが粘着性のない表面を示し、物理的に無傷の状態を維持する。コーティングが水和し、物理的に無傷の状態を維持する能力により、外科移植の間の取扱いおよび配置の向上を可能にし、ヘルニア修復の間または冠動脈ステント移植の間などにおける患者に対する摩擦傷害を最小限にする。医療デバイスの配置によって引き起こされる摩擦傷害は、ヘルニア修復における癒着形成および冠動脈ステント展開における再狭窄などの臨床的合併症をもたらし得る炎症を招き得る。
【0170】
0.1MのPBSでの水和の10分後のコーティングのFTIR分析を図20Aに示す。過剰の水をコーティング分析の前に除去し、Ge感知結晶体を備えたSpecac Silvergate ATRアクセサリをコーティングの分析に使用した。図20AのFTIRスペクトルは、脂肪酸誘導生体材料が、PBS溶液に10分間浸漬された後に、わずか10分間の水和後の強いOH吸収バンドの存在によって示されるように、急速に水を吸収することを示している。また、6時間までの時間の関数として取得され、コーティングからのカルボニルバンドの高さに対して正規化されたFTIRの測定値(図20B)は、OH湾曲(OH bending)吸収バンドが継続的に大きくなり、コーティングが水和しているときの4時間目で横ばいになる(left off)ことを示しており、それは、接触角測定値と一致する。最後に、1580cm−1においてOH湾曲モードにショルダーが存在し、それは、水和環境における脂肪酸COOHのCOO−へのイオン化と一致する(K. M. FaucherおよびR. A. Dluhy、Colloids and Surfaces A、2003年、第219号、125〜145頁)。
【0171】
(実施例4)
塩基消化を使用する、魚油から誘導された新規の生体材料のインビトロ加水分解化学反応の分析
以下の実施例において、被覆医療デバイスを高空気流オーブンにて200°Fで24時間にわたって硬化させた後、魚油を、魚油に存在するC=C結合を酸化させて酸化副生成物(すなわち、炭化水素、アルデヒド、ケトン、グリセリド、脂肪酸)を形成させながら、元の油トリグリセリドから誘導されるエステルを十分に保存することによって、ポリプロピレンメッシュを封入する架橋生体材料ゲルコーティングに変換した。副生成物を揮発させた後にエステルおよびラクトン架橋を形成させて、油を生体吸収性疎水性架橋生体材料中に固化させる。塩基消化を使用して、コーティングが加水分解される能力を調べ、FTIRを使用して、中和後にその成分を同定した。
【0172】
魚脂肪酸誘導生体材料コーディングを0.1MのNaOH溶液に浸漬させ、室温にて20分未満で完全に加水分解して、透明な琥珀色溶液を生成させた。次いで、HClを使用して、塩基性溶液を中性pHに調整した後、沈殿物を形成させた。Ge感知結晶体を備えたSpecac Silvergate ATRアクセサリを備えたFTIRを使用して中和溶液および沈殿物の両方を分析した。FTIR分析の前に材料をGe ATR結晶体上で乾燥させた。加水分解したコーティング画分について取得したFTIRスペクトルを図21に示す。乾燥後の中和溶液のFTIRスペクトル(図15A)は、OH、CH2、エステルC=O、脂肪酸C=OおよびCOO−(反対称および対称)吸収バンドを示す。OHおよびエステルC=Oは、グリセロールおよびグリセリド成分の存在と一致する。加水分解溶液からのカルボン酸イオン(COO−)ピークは、ケトン分子もアルデヒド分子もこの領域において吸収バンドを示さないため、コーティングにおける脂肪酸に特有のものである(K. M. Faucher、2003年;Van de Voortら、1994年)。図21AにおけるOHおよびCOO−バンドの強度は、加水分解溶液が主として脂肪酸、グリセリドおよびグリセロール成分を含むことを示している。脂肪酸誘導生体材料コーティングの塩基消化の中和に際して沈殿した材料に関する図21Bは、強いCH2、C=OおよびCH2鋏形、横揺れおよび縦揺れモードの存在を伴う脂肪酸結晶化スペクトルに特徴的なスペクトルを示した(K. M. Faucher、2003年)。これらの結果は、検出されたコーティング成分の大半が脂肪酸およびグリセリドであることを示した図14(実施例1)に示されるコーティングのGC−MS有機抽出と一致する。
【0173】
(実施例5)
0.1MのPBS溶液中の魚油から誘導された新規の生体材料のインビトロ加水分解化学反応の分析
以下の実施例において、被覆医療デバイス(例えばポリプロピレンメッシュ)を高空気流オーブンにて200°Fで24時間にわたって硬化させた後、魚油を、魚油に存在するC=C結合を酸化させて酸化副生成物(すなわち、炭化水素、アルデヒド、ケトン、グリセリド、脂肪酸)を形成させ、元々の油のトリグリセリドから誘導されたエステルを十分に保存しながら、ポリプロピレンメッシュを封入する架橋生体材料ゲルコーティングに変換した。副生成物を揮発させた後、エステルとラクトンの架橋を形成させ、油を生体吸収性疎水性架橋生体材料中に固化させる。コーティングを徐々に加水分解させる能力を、0.1MのPBS溶液を使用して調べた。30日間にわたるPBS中での脂肪酸誘導生体材料の加水分解の後に、GC−FID脂肪酸プロファイルおよびGPCクロマトグラフィー測定を使用してPBS溶液を分析した。
【0174】
図22は、PBS溶液を乾燥させ、次いでAOCS公定法Ce1−89bに記載されるGC−FID脂肪酸プロファイル分析を実施して、溶液に存在する脂肪酸を特定して得られた脂肪酸プロファイル結果を要約したものである。図22は、PBS溶液から特定された脂肪酸がコーティングそのものから検出された脂肪酸と同じであることを示す(図22対図13)。加水分解溶液に対してもGPC分析を実施し、それらの結果を表5に要約する。GPC結果は、特定された大多数の分子量成分(80%)が、コーティングの脂肪酸成分と一致して、分子量500未満であることを示した。また、コーティングのグリセリド成分は、分子量が約1000であることを特定することが可能であった(コーティングの15%)。GPC結果は、また、無視できる量(約4%)の高分子量ゲルを示した。それらのGPC結果は、脂肪酸誘導生体材料が架橋グリセリドおよび脂肪酸で構成されること、ならびにコーティングが非ポリマーであることを示す脂肪酸誘導コーティングに対する他の分析的特徴づけ実験を裏づけている。
【0175】
【表5】
(実施例6)
インビボで移植された後の様々な時点における魚脂肪酸誘導生体材料のFTIR分析
以下の実施例において、被覆医療デバイス(例えばポリプロピレンメッシュ)を高空気流オーブンにて200°Fで24時間にわたって硬化させた後、魚油を、魚油に存在するC=C結合を酸化させて酸化副生成物(すなわち、炭化水素、アルデヒド、ケトン、グリセリド、脂肪酸)を形成させ、元々の油トリグリセリドから誘導されるエステルを十分に保存しながら、ポリプロピレンメッシュを封入する架橋生体材料ゲルコーティングに変換した。副生成物を揮発させた後にエステルおよびラクトン架橋を形成させ、油を固化させて生体吸収性疎水性架橋生体材料を得た。様々な時間の長さにわたるラット腹壁欠損(abdominal wall defect)への移植後の本明細書に記載のコーティングを評価するために、本実施例を実施した。メッシュサンプルをラット腹壁欠損に4、7、14、21および28日間にわたって移植した。それぞれの時点において、メッシュの全断片および一部の周囲組織を外植し、食塩水浸漬ガーゼで包み、試料容器内に入れた。外植メッシュの切片(約1cm×1cm)を切除し冷蔵庫内でNERL水に終夜浸漬させ、フード内で終夜空気乾燥させた。乾燥したメッシュ外植体を、Specac Silvergate HATR Geアクセサリを使用して分析して、コーティングのバルク切片を分析した。
【0176】
理学的に、外植体において、経時的に粗面側(腹膜側)で増大した組織内植を有しているのが観察された。この内植は、後の時点(21および28日目)において除去するのが非常に困難であった。後の時点(21および28日目)において外植体の平滑面に非常に薄い組織の層が認められた。この組織の層は、コーティングに付着していないが、その上に広がっており、容易に除去された。加えて、コーティングは本実施例の過程を通して吸収されたようであった。なぜなら、通常、裸のポリプロピレン繊維が、移植前にコーティングの連続的な平滑面上に埋めこまれる部位で露出したコーティングの薄化が明らかに示されたからであった。
【0177】
図23は、時間の関数として、CH2反対称ストレッチに対して正規化されたラクトン/エステル架橋(◆)、グリセリドエステル(■)、脂肪酸(▲)およびタンパク質(X)バンドピーク高さの正規化された変化のプロットを示す。このデータは、FTIRデータで観察されたピーク高さの変化を数値的に要約したものである。これらの結果は、メッシュコーティングがインビボで加水分解および吸収されることを示している。化学的に、それは、脂肪族過酸化物、無水物およびラクトン架橋バンドを分解することに加えて、短鎖脂肪酸、ケトンおよびアルデヒド副生成物の吸収によって生じていることは明らかである。インビボのGI管におけるトリグリセリドおよび脂肪酸の代謝に関する文献調査から、より短い鎖長の副生成物は、架橋グリセリド成分より迅速に吸収されることが推定される。FTIRデータは、この結果と一致するようである。特定の理論に縛られることなく、架橋バンドの加水分解および先行文献に基づいて、FTIRデータは、コーティングの加水分解および/または酵素(すなわちリパーゼ)生体吸収を裏づける。
【0178】
(実施例7)
インビボで移植された後の様々な時点における魚脂肪酸誘導生体材料のGC−FID脂肪酸プロファイル分析
本実施例において、被覆医療デバイスを高空気流オーブンにて200°Fで24時間にわたって硬化させた後、魚油を、魚油に存在するC=C結合を酸化させて酸化副生成物(すなわち、炭化水素、アルデヒド、ケトン、グリセリド、脂肪酸)を形成させ、元々の油トリグリセリドから誘導されるエステルを十分に保存しながら、ポリプロピレンメッシュを封入する架橋生体材料ゲルコーティングに変換した。副生成物を揮発させた後にエステルおよびラクトン架橋を形成させ、油を生体吸収性疎水性架橋生体材料中に固化させる。様々な時間の長さにわたるラット腹壁欠損への移植後の本明細書に記載のコーティングを評価するために、本実施例を実施した。メッシュサンプルをラット腹壁欠損に4、7、14および21日間にわたって移植した。それぞれの時点において、メッシュの全断片および一部の周囲組織を外植し、試料容器内に仕込み、分析するまで−80℃で凍結させた。外植メッシュの切片(約2.5cm×2.5cm)の切片を組織から切除し、AOCS法Ce 1−89bを用いたGC−FID脂肪酸プロファイル分析を施した。
【0179】
実施例4に記載されているFTIR分析と同様に、外植体は、経時的に粗面側(腹膜側)での増大した組織内植を有しているのが観察された。この内植は、後の時点(21日目)において除去するのが非常に困難であった。後の時点において、外植体の平滑面にわたって非常に薄い組織の層が認められ、ポリプロピレンメッシュを通した組織内植が存在した(21日目)。加えて、コーティングは、コーティングの明らかな薄化によって示されるように、本実施例の過程を通して吸収されたようであった。
【0180】
図24は、様々な時点における、かつ内部標準で正規化された外植魚油誘導コーティングのGC−FID脂肪酸プロファイル分析を示す。このデータは、組織がコーティング中に成長しているときに脂肪酸が吸収されてなくなっていくことを示す。21日目における脂肪酸組成の有意な低下は、明らかな組織内植に相関しており、これらの所見は、コーティングの生体吸収メカニズムと一致する。
【0181】
(実施例8)
脂肪酸誘導疎水性生体材料の生体適合性試験
本実施例において、被覆医療デバイスを高空気流オーブンにて200°Fで24時間にわたって硬化させた後、魚油を、魚油に存在するC=C結合を酸化させて酸化副生成物(すなわち、炭化水素、アルデヒド、ケトン、グリセリド、脂肪酸)を形成させさせ、元々の油トリグリセリドから誘導されるエステルを十分に保存しながら、ポリプロピレンメッシュを封入する架橋生体材料ゲルコーティングに変換した。副生成物を揮発させた後にエステルおよびラクトン架橋を形成させ、油を生体吸収性疎水性架橋生体材料中に固化させる。魚脂肪酸誘導コーティングの生体適合性およびインビボ性能を評価するために、本実施例を実施した。
【0182】
本明細書に記載の魚油誘導コーティングにISO 10993(医療デバイスの生体評価)試験を施した。それらの結果を表6に要約する。表6における結果に基づいて、新規の魚脂肪酸誘導生体材料は、生体適合性を有することが実証された。魚脂肪酸誘導生体材料コーティングをラット腹部欠損モデルに移植して、癒着形成を低減するコーティングの能力をポリプロピレン対照と比較して決定した。サンプルを4、7、14、21および28日目に外植し、癒着スコア(0−癒着なし;1−穏やかな鈍的切除によって剥離する癒着;2−激しい鈍的切除によって剥離する癒着;3−鋭利な切除(切断)を必要とする癒着)を割り当てた。それらの結果(表7)は、魚油誘導生体材料が、ポリプロピレンメッシュ対照と比較すると、さらに癒着の発生および固着性(tenacity)を低減することを示した。
【0183】
【表6】
【0184】
【表7】
(実施例9)
魚脂肪酸誘導生体材料のインビボ性能
実施例7に記載されているように調製されたコーティングをラット腹壁欠損モデルに30日間にわたって移植して、コーティングの炎症応答、ならびに裸のポリプロピレンメッシュと比較したその癒着形成低減能力を評価した。標準的なH&E染色を使用して、外植サンプルに対して組織病理検査を実施して、被覆サンプルおよび裸のポリプロピレンサンプル上に存在する炎症の量を決定した。それらの結果を以下の表8に示す。被覆サンプルに対する組織病理検査はコーティングそのものに伴う炎症が最小限であることを明らかにした。なぜなら、存在するたいていの炎症細胞がポリプロピレンモノフィラメントに伴うものであったためだからであった。組織検査により、全体的な癒着評価で認められたこと、すなわち移植片の内臓表面上の組織癒着が最小限であるか、または存在しないことも確認された。30日の時点において、裸のポリプロピレンおよび被覆サンプルの両方により、移植片の腹壁面上に組織が良好に取り込まれていることが実証された。
【0185】
【表8】
[炎症スケール:1−炎症細胞が存在しない;2−軽度、わずかな炎症細胞が存在する;3−中度;4−重度、強い炎症応答]
[癒着スケール:0−癒着なし;1−穏やかな鈍的切除によって剥離する癒着;2−激しい鈍的切除によって剥離する癒着;3−鋭利な切除(切断)を必要とする癒着]
(実施例10)
形成プロセスを変化させることによって、異なる物理特性および化学的性質を有する脂肪酸誘導生体材料を形成する能力
本実施例において、異なる魚脂肪酸系生体材料デバイスを製造した。最初に、1Lの魚油を採取し、それをジャケット付ガラス反応器中で硬化しながら、酸素を200°Fで20分間にわたってそれに吹き込み、最終粘度範囲を120kcpsから130k cpsとすることによって、部分硬化魚油ゲルを製造した。部分硬化魚油を使用し、それをPTFE内張りステンレス鋼パン上にキャストし、最初に、25分間にわたって殺菌灯を使用してUVランプ露光によりコーティングを固め(すなわち光酸化)させ、次いで24時間目に200°Fでそのフィルムに最終熱硬化プロセスを施すことによって独立型フィルムを生成した。裸メッシュの断片を純粋の魚油で被覆し、150°F(72時間)または200°F(24時間)の硬化条件を使用して硬化することによって魚油被覆メッシュサンプルを生成した。本実施例において、魚油誘導生体材料コーティングの組成に対する硬化プロセスの影響を調べた。
【0186】
異なる硬化材料(すなわち150°Fコーティング、200°Fコーティング、フィルムおよび部分硬化魚油)のFTIR分析を図25に要約する。図25のデータは、硬化条件を変化させると、脂肪酸副生成物の量、ラクトン/エステル架橋、およびシス−トランスC=C異性体比が異なる材料が生成されることを示す。これらの差異は、硬化プロセスを変化させることによって、最終的な脂肪酸組成を変化させることができることを示す、公定AOCS Ce 1−89bを使用して得られたGC−FID脂肪酸プロファイル(図26)にも反映されている。脂肪酸組成の変化は、薬物送達放出プロファイル、および潜在的に脂肪酸誘導生体材料の炎症特性の両方に影響を与え得る。
【0187】
(実施例11)
コーティングの薬物放出プロファイルの調整
以下の実施例は、硬化魚油メッシュコーティング中の薬物含有層の化学的性質および位置を変化させる能力を実証する。異なる硬化条件および/またはビタミンE組成を採用することによって様々なコーティング層の化学的性質を調整することができる。
【0188】
硬化時間および温度の影響
すべての被覆メッシュサンプルを1×1”とし、溶解(dissolution)を0.01MのPBS溶液中で実施した。魚油と薬物を混合した後、裸メッシュの断片を被覆し、150°F(72時間)または200°F(24時間)の硬化条件を使用して硬化することによって、薬物放出被覆メッシュサンプルを生成した。
【0189】
図27は、抗炎症薬について測定された薬物放出プロファイルを示す。図では、2つの硬化条件、すなわち200°Fで24時間加熱する条件または150°Fで3日間加熱する条件が比較されている。出発材料は、3.29%のモデル抗炎症薬(nMP溶媒を除去した後)を魚油(EPAX3000TG)中に含んでいた。
【0190】
これらの結果は、硬化温度を調整することで、抗炎症治療薬の放出を変化させることができることを示している。150°F(▲)で硬化したサンプルは、架橋および最終の脂肪酸組成物の量がより少ないために、より多く架橋された200°Fのサンプル(◆)より迅速に放出する。これは、治療薬の放出速度を、硬化時間、利用する油のタイプ、硬化方法、コーティングの厚さ、および/または採用する温度条件に基づいて調整できる、脂肪酸誘導生体材料コーティングの化学的性質に基づいて変化させることができるコーティング系の柔軟性を示している。
【0191】
図28は、抗増殖薬について測定したさらなる薬物放出プロファイルを示す。図では、2つの硬化条件、すなわち200°Fで24時間加熱する条件または150°Fで3日間加熱する条件が比較されている。出発材料は、2.84%の化合物Eを魚油(EPAX3000TG)中に含んでいた。化合物Eは、37℃でわずかに加熱することで魚油に可溶であるため、溶媒を使用しなかった。HPLC測定に基づく硬化後の最初の薬物充填量は、200°Fで硬化されたコーティングでは約478μg(14.22%の回収率、◆)であり、150°Fで硬化されたコーティングでは約1158μg(26.00%の回収率、▲)であった。回収量のパーセンテージは、コーティング重量、および硬化魚油コーティングからの薬物抽出の後にHPLC法を用いて検出された薬物の量に依存することに留意すべきである。
【0192】
これらの結果は、硬化温度および薬物層コーティング位置を調整しても、抗増殖薬である化合物Eの放出を変化させることができることを示している。150°Fのサンプルは、架橋の量が少ないために、200°Fで硬化した、より多く架橋されたサンプルよりも迅速に放出する。最後に、薬物抽出結果は、ペプチドである化合物Eが、150°Fの硬化条件を使用した方がより安定である(すなわちHPLCアッセイ回収率がより高い)ことを示している。
【0193】
ビタミンEとの組合せ
すべての被覆メッシュサンプルを1×1”とし、溶解を0.01MのPBS溶液中で実施した。すべての薬物サンプルを硬化された第1の層としてメッシュ上に充填し、溶媒を用いて、または用いずに、液体の魚油と薬物とを一緒に混合した後、裸メッシュの断片を被覆し、150°Fで3日間硬化することによって生成した。
【0194】
図29は、温度の関数としての、架橋およびトランスC=Cバンドに対するビタミンE組成の影響を示す。ビタミンEの量が増加するに従って、ラクトン/エステル架橋の量が減少し、(トランスC=Cバンドによって監視される)酸化の量も減少する。図30は、化合物Dについて測定された薬物放出プロファイルを示す。図では、150°Fで3日間にわたって硬化する前に出発材料に添加された異なる量のビタミンEが比較されている。出発材料は、4.88%の化合物D(溶媒除去後)を魚油コーティング中で異なる量のビタミンEに含んでいた(0〜5%)。100%の魚油サンプル(ビタミンEを含まない)に対する最初の薬物充填量は、硬化後に、HPLC測定に基づいて、上塗り層(overlayer)では約270μg(5.5%の回収率、●)であり、第1のコーティング(下層)では約378μg(16.5%の回収率、◆)であった。魚油サンプル中5%ビタミンEに対する初期薬物充填量は、硬化後に、HPLC測定に基づいて、上塗り層では約3584μg(66.7%の回収率、+)であり、第1のコーティング(下層)では約3013μg(52.2%の回収率、■)であった。
【0195】
これらの結果は、ビタミンE組成を変化させると、硬化魚油コーティングからの治療薬の放出を変化させることができることを示している。ビタミンEの量を増加させると、硬化魚油コーティング中のビタミンE成分に対する溶解性および親和性が高くなるため、化合物Dの溶解バッファーへの放出が長時間化および緩慢化する。また、硬化した5%ビタミンE/魚油被覆層コーティングは、封入メッシュと比較すると、薬物の放出量が多くなる。
【0196】
(実施例12)
治療薬が充填され、金属ステントに塗布される硬化油コーティング
この特定の実施形態において、治療薬が充填され、心臓ステントに塗布される硬化油コーティングの用途を示す。治療薬が充填されたステント上に硬化コーティングを生成するプロセスを示す流れ図の概要を図31に示す。手短に述べると、20時間にわたって200°Fで加熱しながら撹拌下で反応容器中で部分硬化魚油コーティングを生成する。溶媒を用いて、脂肪酸誘導コーティングを目的の治療薬およびビタミンEと混合し、次いでステントに噴霧してコーティングを生成する。コーティングを、200°Fで7時間加熱することによって、ステント表面にアニールして、均一のコーティングを生成する。モデル抗炎症薬を含むコーティングは、このプロセスにより、デバイスからの薬物の抽出を用いてHPLC分析により決定した場合に、硬化後に薬物の90%を回収することが可能になることを示した。図32は、0.01MのPBSバッファー中でのこのコーティングについての薬物放出プロファイルであって、このプロセスを使用して回収された薬物に関して90%を超える回収率で、20日間までに放出している(going out)ことを示す。
【0197】
本発明の多くの修正および代替的な実施形態は、これまでの説明を読めば当業者に明らかになるはずである。よって、この説明は、単に例示と見なされるべきであり、本発明を実施するための最良の形態を当業者に教示することを目的とする。構造の詳細は、本発明の主旨から逸脱することなく実質的に変更されてよく、添付の特許請求の範囲内に含まれるすべての修正の排他的な使用が確保される。本発明は、添付の特許請求の範囲および適用可能な法律の規則が必要とする範囲のみに限定されることを意図する。
【0198】
本出願に引用されているすべての文献および類似の資料は、特許、特許出願、記事、書籍、論文、学位論文およびウェブ頁を含めて、当該文献および類似の資料の形式に関係なく、それらの全体が参照により明示的に組み込まれている。1つ以上の組み込まれた文献および類似の資料が、用語定義、用語使用または記載技術等を含めて、本出願と異なるか、または矛盾する場合は、本出願が優先される。
【0199】
本明細書に使用されるセクション見出しは、単に編成上の目的のためであり、いかなる場合も記載の主題を限定するものと見なされるべきでない。
【0200】
本発明を様々な実施形態および実施例とあわせて記載したが、これらの教示は、そのような実施形態または実施例に限定されることを意図しない。対照的に、本発明は、当業者に理解されるように、様々な変更、修正および同等物を包含する。
【0201】
特許請求の範囲は、そのように指定される場合を除いて、記載の順序または要素に限定されるものとして読まれるべきでない。添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、形および詳細の様々な変更を加えることができることが理解されるべきである。したがって、以下の特許請求の範囲およびそれらの同等物の範囲および主旨内に含まれるすべての実施形態が主張される。
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年12月1日出願の米国特許出願番号第12/325,546号(これは2008年10月10日出願の米国仮特許出願番号第61/104,568号に対して優先権を主張する)に対しての優先権を主張する。本出願は、また2006年10月16日出願の米国特許出願番号第11/582,135号(これは2005年10月15日出願の米国仮特許出願番号第60/727,312号に対して優先権を主張する)の一部継続出願である。本出願は、また2005年9月28日出願の米国特許出願番号第11/237,264号(これは2004年9月28日出願の米国仮特許出願番号第60/613,808号に対して優先権を主張する)の一部継続出願である。本出願は、また2005年9月28日出願の米国特許出願番号第11/236,908号(これは2004年9月28日出願の米国仮特許出願番号第60/613,745号に対して優先権を主張する)の一部継続出願である。これら先行特許出願の全体の内容は、本明細書中で参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
血管再灌流処置、バルーン血管形成および機械的ステント展開などの血管介入は、狭窄血管の機械的拡張および管腔拡大(luminal expansion)による血管傷害をしばしば招き得る。そのような血管内処置に続いて、新生内膜増殖および血管傷害再構築が、傷害血管の管腔表面に沿って生じることが多い。より具体的には、再構築は心臓、ならびに頸動脈、回腸動脈、大腿動脈および膝窩動脈のような脆弱な末梢血管に生じる。機械的介入およびカテーテル再灌流処置による血管傷害の直後にそのような細胞増殖が生じるのを防止または効果的に抑制するための既知の機械的抑制手段は見いだされていない。血管介入後に未処置のままで放置されると、通常、血管傷害の数週間以内に処置管腔内にその処置管腔内に再狭窄が生じる。限局した機械的傷害によって誘発される再狭窄は、再構築血管腔組織の増殖を引き起こして、乱血流線維素活性化による血栓閉塞、血小板沈着および血管流表面傷害の加速化を招き得る管腔の再狭窄をもたらす。再狭窄は、患者を血栓閉塞にかかりやすくし、他の部位への流れを止めて、しばしば病的状態を伴う危険な虚血事象をもたらす。
【0003】
機械的誘発血管傷害細胞再構築によって開始された再狭窄は、緩やかなプロセスであり得る。線維素活性化、トロンビン重合および血小板沈着、管腔血栓形成、炎症、カルシニューリン活性化、成長因子およびサイトカイン放出、細胞増殖、細胞移動および細胞外マトリックス合成を含む複数のプロセスが、それぞれ再狭窄プロセスに寄与する。再狭窄の生物機械的メカニズムの正確な筋道(sequence)は、完全に把握されてはいないが、細胞炎症、成長因子刺激ならびに線維素および血小板沈着に関与するいくつかの疑わしい生化学的経路が仮定されている。血小板、侵入するマクロファージおよび/または白血球からから放出されるか、または平滑筋細胞から直接放出される血小板由来成長因子、線維芽細胞成長因子、表皮成長因子、トロンビン等のような細胞由来成長因子は、内側平滑筋細胞における増殖性応答および移動性応答を誘発する。これらの細胞は、収縮表現型から合成表現型に変化する。増殖/移動は、通常、傷害後1または2日以内で開始し、その数日後にピークに達する。正常の動脈壁においては、平滑筋細胞は、1日あたり約0.1パーセント未満の小さい速度で増殖する。
【0004】
しかし、娘細胞は、動脈平滑筋の内膜層に移動し、継続的に増殖し、重要な量の細胞外マトリックスタンパク質を分泌する。増殖、移動および細胞外マトリックス合成は、通常は傷害後7から14日以内に増殖が内膜内で緩慢になる、損傷した内皮層が修復されるときまで継続する。新たに形成された組織は新内膜と呼ばれる。次の3から6カ月間にわたって生じるさらなる血管狭窄は、主として陰性または収縮性再構築に起因する。
【0005】
局所的増殖および移動と同時に、血管壁の内側層から誘導される炎症性細胞は、治癒過程の一部として血管傷害の部位において継続的に侵入および増殖する。傷害後3から7日以内に、実質的な炎症性細胞形成および移動が開始して、血管壁に沿って蓄積して、血管傷害の部位を覆い、治癒させた。動物モデルにおいて、バルーン傷害またはステント移植のいずれかを採用すると、炎症性細胞は、少なくとも30日間にわたって血管傷害の部位に存続し得る。炎症性細胞は、再狭窄および血栓形成の急性相および遅延慢性相の両方に寄与し得る。
【0006】
今日、冠状動脈ステントなどの血管内医療デバイスによって引き起こされる血管傷害の部位への薬物の局所的送達の好適なアプローチは、薬物溶出コーティングをデバイスに配置することである。臨床的に、永久的ポリマーまたは分解性ポリマーのいずれかおよび適切な治療薬で構成された薬物溶出コーティングで被覆された医療デバイスは、血管傷害および/または血管再灌流処置後の血管壁増殖が、バルーン血管形成および/または機械的ステント展開に続く一定の時間にわたって消滅しなくても、減少し得るという血管造影的証拠を示した。薬物溶出医療デバイスを介する単一のシロリムスまたはタキソールの化合物局所的送達は、血管傷害直後に適用されると、細胞増殖および細胞再構築を最小限に抑えるか、または防止するのに有効であることが示された。これらの2つの抗増殖性化合物例の様々な類似体が、類似の薬物溶出コーティングと類似の抗増殖活性を示すことが実験的および臨床的に示された。しかし、シロリムスおよびタキソールなどの抗増殖性化合物は、ポリマー薬物溶出コーティング(polymeric drug eluting coating)とともに、薬物溶出コーティングからの主要薬物の放出の最中およびその後にいくつかの毒性副作用を示すことも臨床的に示された。これらの慢性および/または遅延副作用は、所定の期間にわたって実際に送達することができる薬物の量を制限するとともに、治療薬を炎症の部位に直接適用する場合に血管傷害の部位に局所的に送達するのに使用されるポリマーコーティングの相溶性および/または細胞再構築を損なう。加えて、シロリムスおよびタキソールのような化合物の局所的過剰投与は、医療デバイスの局在的組織領域内またはその周辺における細胞再構築または増殖を防止、制限、またはさらには停止させ得る。例えば、血管傷害治癒過程全体を通じての細胞増殖の中断の間の内皮細胞被覆の欠如は、管腔血栓形成の高い潜在性を示すことにより、線維素、および血小板の不断の沈着が、露出および非治癒型(non−healed)医療デバイスおよび/または損傷血管傷害を覆う。薬物溶出医療デバイスの展開の前および後にASAなどの抗凝血薬と組み合せたクロピデグレルのような抗血小板薬の不断の全身維持または投与がなくては、そのようなデバイスは、展開の数日以内に血栓形成および閉塞を引き起こすことが臨床的に示された。加えて、医療デバイスに採用されるこれらの市販の薬物溶出ポリマーコーティングは、全般的に生体適合性があると特徴づけられるが、これらのポリマーを基材とした(polymer−based)化学物質のより小さく代謝がより容易な化学成分または生成物への化学的加水分解、分解および吸収の欠如は、抗血小板薬投与の停止の数日以内に不測の血栓閉塞を招き得る、血管傷害の部位における遅延局所炎症応答を引き起こすことがさらに臨床的に実証された。
【0007】
創傷治癒またはインビボ傷害に対する応答(例えばヘルニア修復)は、血管傷害と同じ全般的生物学的カスケードに従う(例えば、非特許文献1)。このカスケードは、天然の組織(native tissue)の炎症と、その後の血小板およびマクロファージを含む、炎症応答を軽減するための細胞の移動および増殖、ならびに線維素沈着および線維素マトリックスの形成と、その後の組織再構築とを含むその後の治癒段階を含む。ヘルニア修復の場合は、線維素マトリックスが適正に分解できなくするとともに、癒着物を形成させ得るマクロファージからの炎症性サイトカイン(例えばα−TNF)の発現が存在するときに、異常な腹膜治癒が起こり得る(非特許文献1)。ヘルニア修復後に形成される腹膜癒着は、疼痛、腸嵌頓、不妊、および場合によっては死を招き得る(非特許文献1)。
【0008】
傷害に対する血栓および炎症応答の持続的性質により、移植後の炎症および異物体応答の発生率を低減することができる生体材料を提供することが望ましい。そのような細胞活性化応答を最小限に抑えるために、一定の時間にわたって1つまたは複数の治療薬を放出させる生体材料を有することも好ましい。また、生体吸収メカニズムを介してそのような生体材料を代謝させることも好ましい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Y. G. Cheongら、Human Reproduction Update.2001年;第7巻、第6号、556〜566頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
治療薬またはコーティングの加水分解生成物による慢性炎症を防止または軽減する、単独で、または薬物送達担体として利用できる生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)が所望される。また、生体材料が、治療薬を持続した様式でおよび制御した様式で局部組織に放出および送達することが望ましい。本発明は、この必要性への対応を容易にする様々な解決策に向けられる。
【0011】
細胞によって生体吸収することができる、そして、機械的に傷害された、または再灌流傷害により傷害された組織(例えば、腹膜組織または血管組織)に慢性の局所的炎症を引き起こさずに薬物を送達することができる、生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)もまた所望されるが、細胞が薬物を含む生体材料の加水分解生成物を消費するので、その生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)および治療薬は、その細胞によって消化される。
【0012】
様々な態様において、生体材料は、医療デバイス用コーティング、または独立型フィルムである。生体材料は、疎水性脂肪酸誘導架橋生体材料(本明細書では「脂肪酸誘導生体材料」と称する)であり得る。様々な実施形態において、脂肪酸誘導生体材料は非ポリマーである。特定の場合において、本明細書に記載されているように、脂肪酸源は、油、例えば魚油である。そのような場合には、脂肪酸誘導生体材料を「油誘導生体材料」と呼ぶこともできる。
【0013】
様々な態様において、本発明は、単独で、あるいは1つまたは複数の治療薬と組み合わせて利用できる疎水性架橋脂肪酸誘導生体材料(例えば、医療デバイスコーティングまたは独立型フィルム)を製造するための方法であって、治療薬が制御充填量を有し、コーティングが吸収されているときに持続的に放出される方法を提供することができる。様々な実施形態において、多価不飽和脂肪酸出発材料、例えば、油、例えば天然油を含む出発材料から脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)を製造するのに使用されるプロセスまたは調製(例えば硬化)条件を制御すること;それから脂肪酸誘導生体材料が形成される元になる油含有出発材料に遊離ラジカル捕捉剤を使用すること、またはそれらの組合せによって、疎水性架橋脂肪酸誘導生体材料の薬物放出プロファイルを調整する方法が提供される。様々な実施形態において、本発明の方法は、架橋の程度を制御することによって、脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)の薬物放出特性を調整する。様々な実施形態において、本発明の方法は、架橋脂肪酸誘導生体材料における脂肪酸、トコフェロール、脂質酸化生成物および可溶性成分の量を制御することによって、脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)の薬物送達特性を調整する。
【0014】
様々な態様において、本発明は、1つまたは複数の治療薬に対する調整放出(tailored release)プロファイルを有する1つまたは複数の治療薬を含む脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)を提供することができる。様々な実施形態において、調整放出プロファイルは、持続放出プロファイルを含む。様々な実施形態において、調整放出プロファイル特性は、脂肪酸誘導生体材料における脂肪酸、トコフェロール、脂質酸化生成物および可溶性成分の量によって制御される。本発明の様々な態様において、脂肪酸誘導生体材料は、その多くがトリグリセリドに由来する脂肪酸を含む。トリグリセリド副生成物、例えば部分加水分解トリグリセリド、および脂肪酸分子は、細胞膜に組み込まれ、細胞膜への薬物の溶解性を高めることができることが以前に実証されている(M. Cote, J. of Controlled Release. 2004年、第97巻、269〜281頁;C. P. Burnsら、Cancer Research.1979年、第39巻、1726〜1732頁;R. Beckら、Circ. Res.1998年、第83巻、923〜931頁;B. Henningら、Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 1984年、第4巻、489〜797頁)。全トリグリセリドは、それらの分子サイズが比較的大きいことにより細胞膜を横断するのが困難であるため、全トリグリセリド、ならびに部分加水分解トリグリセリドは、細胞の取り込み(cellular uptake)を向上させないことが知られる。ビタミンE化合物も細胞膜に組み込まれて、膜流動性および細胞の取り込みを低下させ得る(P. P. Constantinide. Pharmaceutical Research.2006年;第23巻、第2号,243−255頁)。
【0015】
様々な態様において、本発明は、脂肪酸、グリセリド、脂質酸化生成物およびアルファ−トコフェロールを、架橋脂肪酸誘導生体材料およびそれに混合された任意の治療薬の細胞の取り込み特性に関して制御するようにして、架橋脂肪酸誘導生体材料に寄与する異なる量および割合で含む脂肪酸誘導生体材料(例えば、医療デバイスコーティングまたは独立型フィルム)を提供することができる。
【0016】
様々な態様において、本発明は、前記脂肪酸誘導生体材料の1つまたは複数の層を含む脂肪酸誘導生体材料薬物放出コーティングを有する被覆医療デバイスであって、脂肪酸誘導生体材料層の少なくとも1つが1つまたは複数の治療薬を含む医療デバイスを提供することができる。コーティングは、疎水性脂肪酸誘導架橋生体材料(例えば魚油から誘導される)であり得る。様々な実施形態において、コーティングは非ポリマーである。様々な実施形態において、薬物放出コーティングは、インビボで加水分解して、実質的に非炎症性の化合物になる。様々な実施形態において、脂肪酸誘導生体材料は、患者への治療薬の長期的局所送達を行うように患者に移植可能である医療デバイスに被覆される。様々な実施形態において、送達は、長時間にわたって放出される治療薬の全量および相対量によって少なくとも部分的に特徴づけられる。様々な実施形態において、調整送達プロファイルは、脂肪酸誘導生体材料における脂質酸化および/または可溶性成分の量によって制御される。様々な実施形態において、送達プロファイルは、インビボでのコーティング成分および治療薬の可溶性および親油性の関数である。脂肪酸誘導生体材料は、上述の特性を有する独立型フィルムであり得る。
【0017】
様々な実施形態において、本発明は、コーティングの薬物放出プロファイルが、2つ以上のコーティングの供給(provision)および治療薬の配置(location)の選択を介して調整されるコーティングを提供することができる。例えば、医療デバイスの裸の部分を第1の出発材料で被覆し、第1の硬化コーティングを生成し、次いで第1の硬化コーティングの少なくとも一部を薬物−油処方物で被覆して、第2の被覆層コーティングを生成することによって、薬物の配置を変化させることができる。2つの層を設けるプロセスを拡大して3つ以上の層を設けることができ、それらの層の少なくとも1つが脂肪酸誘導生体材料を含むことが理解されるべきである。加えて、それらの層の1つまたは複数の層は、薬物放出することができ、本明細書に記載の方法を使用してそのような層の薬物放出プロファイルを調整することができる。
【0018】
本発明の様々な実施形態によれば、脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)は脂質を含む。脂肪酸誘導生体材料を出発材料である魚油などの油から形成することができる。脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)は、飽和、不飽和または多価不飽和脂肪酸を含むことができる。脂肪酸誘導生体材料は、架橋されると、オメガ−3脂肪酸を含むことができる。脂肪酸誘導生体材料は、アルファ−トコフェロールまたはビタミンEを含むこともできる。
【0019】
コーティングを、治療薬に加えて、薬学的に許容し得る担体、賦形剤、界面活性剤、結合剤、補助剤(adjuvant agent)および/または安定剤(防腐剤、緩衝剤および酸化防止剤を含む)の1種または複数種を含むが、それらに限定されない様々な他の化学物質および成分(entity)を含むように配合することができる。一実施形態において、アルファ−トコフェロールTPGSを本発明のコーティングに添加することができる。
【0020】
様々な態様において、本発明は、例えばヒトなどの哺乳類における傷害を治療するための方法を提供することができる。様々な実施形態において、傷害は、血管傷害である。様々な実施形態において、上記方法は、脂肪酸誘導生体材料を含むコーティングからの1つまたは複数の治療薬の持続放出によって、1つまたは複数の治療薬を治療有効量で局所投与することを含む。
【0021】
本明細書における教示は、本明細書に提供される硬化コーティングおよび独立型フィルムが、フィルムからのまたは移植可能デバイスからの薬物装填脂肪酸誘導生体材料の放出プロファイルを調節する能力を提供することを実証する。様々な実施形態において、脂肪酸誘導生体材料(例えば、医療デバイス用コーティングまたは独立型フィルム)組成および硬化時間を変化させることによる油化学的性質の変化を介して、放出プロファイルを制御することができる。それらの教示は、脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)からの治療化合物の放出を、油硬化条件、油出発材料、硬化の長さおよび架橋の量を変化させることにより改良できることを実証する。それらの教示は、硬化油コーティングおよび独立型フィルムの架橋およびゲル化が、油の温度および不飽和度が上昇しているときに増加する油成分におけるヒドロペルオキシドの形成に直接依存し得ることを実証する。薬物放出は、より高い温度硬化条件(例えば約200°F)より低い温度硬化条件(例えば約150°F)を使用して生成された架橋コーティングの方がより迅速であることが分解実験(dissolution experiment)によって示された。
【0022】
本明細書における教示は、硬化油(例えば魚油)コーティングおよび独立型フィルムにおけるビタミンEの使用が、コーティングの架橋および薬物放出特性を変化させる別の方法であることを実証する。ビタミンEは、硬化の間のヒドロペルオキシドの形成を低減することによって(と考えられている)油の自己酸化を弱めることができる酸化防止剤である。これは、さらなる酸化架橋種の形成を抑制することによって硬化油コーティングまたは独立型フィルムにおいて観察される架橋の量を減少させることができる。コーティングまたは独立型フィルムにおけるビタミンEの量を増加させることで、コーティングからの治療薬の放出を長時間化および緩慢化することができる。例えば、本明細書における教示は、化合物Dが硬化魚油コーティング中の脂肪酸およびビタミンE成分に対して親和性を有する(と考えられる)ため、疎水性非ポリマー架橋脂肪酸誘導生体材料コーティングから溶解バッファーへの化合物Dの放出が長時間化および緩慢化されることを実証する。本明細書における教示は、さらに、ビタミンEが、化合物Dなどの薬物を保護し、コーティングから抽出されるそのような薬物の量を増加させることもできることを示す。
【0023】
一態様において、本発明は、飽和、一価不飽和および/または多価不飽和脂肪酸を含む出発材料から形成される脂肪酸誘導生体材料(例えば、医療デバイスコーティングまたは独立型フィルム)を提供することができる。一態様において、出発材料は、油、例えば魚油である。
【0024】
別の態様において、本発明は、架橋脂肪酸およびグリセリドを含む医療デバイス用コーティングを提供することができる。脂肪酸源は、オメガ−3脂肪酸であり得る。
【0025】
別の態様において、本発明は、約5〜50%のC16脂肪酸、例えば5〜30%のC16脂肪酸を含む架橋脂肪酸油を含む医療デバイス用コーティングを提供することができる。一実施形態において、油は、5〜25%のC14脂肪酸を含む。油は、C18脂肪酸(例えば0〜60%)、C20脂肪酸(例えば0〜40%)、C20脂肪酸(例えば0〜40%)、C22脂肪酸(例えば0〜30%)および/またはC24脂肪酸(例えば5%未満)を含むこともできる。
【0026】
別の態様において、本発明は、インビボで脂肪酸、グリセリドおよびグリセロールに加水分解する医療デバイス用コーティングを提供することができる。
【0027】
さらに別の態様において、本発明は、約5〜25%のC14脂肪酸および5〜50%のC16脂肪酸を含む非ポリマー架橋脂肪酸を含む医療デバイス用コーティングを提供することができる。
【0028】
さらに別の態様において、本発明は、脂肪酸およびグリセリドが、生体材料を柔軟および水和性にする無秩序アルキル基を有する、架橋脂肪酸およびグリセリドを含む医療デバイス用コーティングを提供することができる。
【0029】
別の態様において、本発明は、デルタ−ラクトンを含む脂肪酸誘導生体材料を含む医療デバイス用コーティングを提供することができる。
【0030】
さらに別の態様において、本発明は、それぞれ約1740〜1830cm−1にピークを有する赤外吸収スペクトルによって示されるラクトンおよびエステル架橋(ester cross link)を含む医療デバイス用コーティングを提供することができる。
【0031】
さらに別の態様において、本発明は、生体材料の約60〜90%が、500未満の分子量を有する脂肪酸で構成される架橋油誘導生体材料を含む医療デバイス用コーティングを提供することができる。
【0032】
別の態様において、本発明は、エステル交換された(interesterified)脂肪酸を含む医療デバイス用コーティングを提供することができる。脂肪酸は、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アルファ−リノレン酸またはガンマ−リノレン酸であり得る。脂肪酸源は、油、例えば、魚油、オリーブ油、グレープ油、パーム油または亜麻仁油であり得る。
【0033】
さらに別の態様において、本発明は、疎水性非ポリマー架橋脂肪酸;および治療薬を含み、患者における医療デバイスの配置に耐えるのに十分な耐久性を有する医療デバイス用コーティングを提供することができる。
【0034】
さらに別の態様において、本発明は、最初に0.1MのPBS溶液に曝露されると約90〜110度の接触角を有し、約1時間の曝露の後に50〜70度の接触角を有する油誘導生体材料を含む医療デバイス用コーティングを提供することができる。
【0035】
別の態様において、本発明は、α−TNFの生成を阻害する医療デバイス用コーティングを提供することができる。
【0036】
別の態様において、本発明は、モジュレートされた治癒の達成を必要とする組織領域でモジュレートされた治癒を達成するのに好適な脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)であって、上記生体材料が、上記組織領域またはその付近における血小板または線維素沈着のモジュレーションを含む上記モジュレートされた治癒を達成するのに十分な量で投与される、脂肪酸誘導生体材料を提供することができる。生体材料は、コーティングに一価不飽和および/または飽和脂肪酸を含むことができる。一実施形態において、組織領域は、被験体の血管系である。
【0037】
別の態様において、本発明は、モジュレートされた治癒の達成を必要とする血管傷害の部位でモジュレートされた治癒を達成するのに好適な脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)であって、上記組成物が、少なくとも1測定基準(one metric)の器質化組織修復(organized tissue repair)のモジュレーションを含む上記モジュレートされた治癒を達成するのに十分な量で投与される、脂肪酸誘導生体材料を提供することができる。一実施形態において、血管治癒は、血管治癒の炎症段階である。別の実施形態において、器質化組織組織修復は、血管傷害の部位における血小板または線維素沈着を含む。別の実施形態において、少なくとも1測定基準の器質化組織修復のモジュレーションは、血管傷害の部位における治癒プロセスの遅延である。
【0038】
本明細書に記載のモジュレートされた治癒生体材料を、カテーテル、バルーン、ステント、外科用包帯または移植片を介して、それを必要とする組織領域に投与することができる。
【0039】
本発明のコーティングの一実施形態において、生体材料は、ラクトンおよびエステル架橋を含む。
【0040】
本発明のコーティングの別の実施形態において、生体材料は、赤外吸収およびX線回折によって測定される無秩序炭化水素鎖を含む。
【0041】
本発明のコーティングのさらに別の実施形態において、生体材料は、インビボの加水分解を促進するのに十分な量のカルボン酸基を含む。コーティングは、インビボで非炎症性成分;または脂肪酸、グリセロールおよびグリセリドに分解することができる。
【0042】
本発明のコーティングの一実施形態において、生体材料は、インビボで代謝するとグリセリドを生成するように構成される。
【0043】
本発明のコーティングは、約30〜90%の飽和脂肪酸を含むことができる。一実施形態において、コーティングは、約30〜80%の不飽和脂肪酸を含む。コーティングは、グリセリドをさらに含むことができる。別の実施形態において、前記コーティングは、いずれも部分的に架橋され得るグリセリド、グリセロールおよび脂肪アルコールからなる群の1種または複数種をさらに含む。別の実施形態において、コーティングは、架橋剤を含まない。
【0044】
本発明のコーティングの一実施形態において、脂肪酸およびグリセリド源は、油、例えば、魚油、オリーブ油、グレープ油、パーム油または亜麻仁油である。油は、単独、あるいは1つまたは複数の油の組合せであり得る。コーティングは、ビタミンEをさらに含むことができる。コーティングを移植可能デバイス、例えば医療デバイス、例えば、カテーテル、外科用メッシュまたはバルーンと結合することができる。
【0045】
コーティングは、抗増殖薬、抗炎症薬、抗微生物薬または抗生物質を含むが、それらに限定されない治療薬をさらに含むことができる。治療薬は、化合物A、化合物B、化合物C、化合物D、化合物E、あるいは他のシクロスポリン誘導体またはラパマイシン誘導体であり得る。
【0046】
【化1】
【0047】
【化2】
コーティングは、0.01Mリン酸緩衝食塩水(PBS)中で約5〜20日間、例えば17〜20日間、または20日を超える日数まで治療薬を放出する放出プロファイルを有することができる。別の実施形態において、コーティングは、前記治療薬をインビボにて所望の放出速度で放出する。
【0048】
別の態様において、本発明は、医療デバイス用コーティングを調製する方法であって、油の二重結合が酸化され、脂肪酸およびグリセリドが形成され、ラクトンおよびエステル架橋が脂肪酸とグリセリドの間に形成され、それによってコーティングが形成されるように、酸素の存在下で脂肪酸含有(例えば多価不飽和脂肪酸含有)油を加熱することを含む方法を提供することができる。この方法の一実施形態において、中断せずに油を連続的に加熱する。
【0049】
別の態様において、本発明は、医療デバイス用コーティングを調製する方法であって、油の二重結合が酸化され、水、炭化水素およびアルデヒドが揮発され、エステルおよびラクトン架橋が形成され、それによってコーティングが形成されるように、酸素の存在下で脂肪酸含有(例えば多価不飽和脂肪酸含有)油を加熱することを含む方法を提供する。この方法の一実施形態において、中断せずに油を連続的に加熱する。
【0050】
上記方法のいずれかにおいて、油を約140°Fから約300°Fまで加熱することができ、例えば、油を150°Fまたは200°Fで加熱する。上記方法に使用される油は、魚油であり得る。上記方法は、治療薬の添加を含むこともできる。特定の実施形態において、硬化工程の時間および温度を調整して、薬物放出を調整する。治療薬は、抗増殖薬、抗炎症薬、抗微生物薬または抗生物質、例えば、化合物A、化合物B、化合物C、化合物D、化合物E、シクロスポリン誘導体またはラパマイシン誘導体であり得る。これらの方法によって製造されたコーティングを有機溶媒と組み合わせ、ステント、カテーテル、外科用メッシュまたはバルーンなどの医療デバイスに噴霧することができる。これらの方法によって製造されたコーティングは、それぞれ約1740〜1830cm−1にピークを有する赤外吸収スペクトルによって示されるラクトンおよびエステル架橋を含むことができる。コーティングは、約3000〜2800cm−1に赤外吸収を有する無秩序炭化水素鎖を含むこともできる。
【0051】
別の態様において、本発明は、脂肪酸誘導生体材料を形成する方法であって、脂肪酸を連続的に加熱することによって、脂肪酸に架橋を形成した後、C=C二重結合を開裂させて、脂肪酸を酸化副生成物に変換することを含む方法を提供することができる。酸化副生成物は、アルデヒド、ケトン、アルコール、脂肪酸、エステル、ラクトン、エーテルまたは炭化水素であり得る。副生成物は、コーティング内に残留することができ、かつ/または加熱プロセスの間に揮発される。このプロセスによって形成された架橋は、エステル化、アルコール分解、酸分解またはエステル交換を介して起こるエステルおよびラクトン架橋であり得る。
【0052】
別の態様において、本発明は、脂肪酸誘導生体材料を形成する方法であって、脂肪酸を連続的に加熱することによって、不飽和脂肪酸鎖の二重結合を酸化しながら、トリグリセリドエステル官能基を優勢に保存することによって、生体材料の粘度を高めることを含む方法を提供することができる。エステル結合は、エステル、無水物、脂肪族ペルオキシドおよびラクトンを含むことができる。一実施形態において、ヒドロキシルおよびカルボキシル官能基が酸化プロセスから形成される。さらに別の実施形態において、EPAおよびDHAの酸化副生成物が形成される。
【0053】
本明細書に提供される方法の様々な実施形態によれば、硬化(加熱)工程は、架橋剤を使用せずにおこる。また、硬化時間および温度を調整して、コーティングの分解を調整することができる。別の実施形態において、プロセスの間にビタミンEを添加して、油誘導生体材料における架橋の程度を調整する。
【0054】
一実施形態において、本発明の生体材料(例えば、医療デバイスコーティングまたは独立型フィルム)を調製するのに使用される出発材料は、40%(GCによって測定される面積%)の多価不飽和脂肪酸である。
【0055】
一実施形態において、本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)は、生体組織と類似する脂肪酸組成を有する。
【0056】
別の態様において、本発明は、約5〜50%のC16脂肪酸を含む非ポリマー架橋脂肪酸を含む独立型フィルムを提供することができる。独立型フィルムは、5〜25%のC14脂肪酸を含むこともできる。別の実施形態において、独立型フィルムは、5〜40%、例えば5〜30%のC16脂肪酸を含む。独立型フィルムは、ビタミンEを含むこともできる。独立型フィルムおよびコーティングは、生体吸収性であってよく、それは癒着防止特性を維持することができる。別の実施形態において、独立型フィルムは、化合物A、化合物B、化合物C、化合物D、化合物E、シクロスポリン誘導体またはラパマイシン誘導体を含むが、それらに限定されない治療薬をさらに含むことができる。一実施形態において、治療薬をフィルムの形成の前に脂肪酸化合物と組み合わせることで、治療薬をフィルム全体に分散させる。
【0057】
上記実施形態の多くが、「コーティング」または「医療デバイス用コーティング」を指しているが、本発明は、コーティング、ならびに独立型材料、または本明細書に記載の他の形として実装することが可能であり、当業者によって理解されるように、実装されるとその環境と相互作用する外面および/またはコーティングを有することが理解されるはずである。したがって、本明細書に記載の実施形態は、具体的にコーティングと呼ばれるものも、他の形で示されるものも、それらが本明細書に記載の脂肪酸誘導生体材料に基づく限り、すべてが本発明の範囲内にあることを意図する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
本発明の上記および他の態様、実施形態、目的、特徴および利点を、添付の図面とともに以下の説明からより深く理解することができる。図面において、それぞれの図面全体を通じて、同様の参照符号は、同様の特徴および構造要素を指す。図面は、必ずしも縮尺に従って作成されず、むしろ本発明の原理を例示することが強調されている。
【図1】図1は、多価不飽和油における過酸化物およびエーテル架橋の生成の例の概略図である。
【図2】図2は、多価不飽和油における炭素−炭素架橋の生成(ディールス・アルダー型反応)の例の概略図である。
【図3】図3は、疎水性脂肪酸誘導架橋生体材料コーティングの形成のためのメカニズムを示す図である。
【図4】図4は、脂肪酸誘導生体材料反応化学の概要を示す図である。
【図5】図5は、エステル基を形成させる脂肪酸の反応の概略図である。
【図6】図6は、トリグリセリドにおけるエステル結合の加水分解を概略的に示す図である。
【図7】図7は、脂肪酸誘導生体材料コーティングと生体組織との脂肪酸組成の類似性を示す棒グラフを示す図である。
【図8】図8は、本発明の一実施形態による、本発明の被覆医療デバイスを製造する方法を示すフローチャートである。
【図9】図9は、本発明の一実施形態による図8の方法の変形を示すフローチャートである。
【図10】図10A〜10Eは、被覆医療デバイスの様々な画像である。
【図11】図11は、24時間にわたって200°Fで加熱された後の最終硬化コーティングのFTIR分析を示す図である(実施例1)
【図12】図12A〜12Bは、実施例1に記載されるFTIRデータの分析を示す図である。
【図13】図13は、実施例1に記載されるGC−FID脂肪酸プロファイルデータを示す図である。
【図14】図14は、実施例1に記載されるGC−MS脂質酸化副生成物分析を示す図である。
【図15】図15は、実施例2に記載される、脂肪酸誘導生体材料への硬化後の異なる油出発材料のFTIR分析を示す図である。
【図16】図16は、実施例2に記載される、脂肪酸誘導生体材料への硬化後の異なる油出発材料のFTIR分析によって決定された化学的性質の差異をグラフで示す図である。
【図17】図17A、17B、18Aおよび18Bは、実施例2に記載される、脂肪酸誘導生体材料への硬化前および硬化後の異なる油出発材料のGC−FID脂肪酸プロファイルデータを示す図である。
【図18】図17A、17B、18Aおよび18Bは、実施例2に記載される、脂肪酸誘導生体材料への硬化前および硬化後の異なる油出発材料のGC−FID脂肪酸プロファイルデータを示す図である。
【図19】図19は、実施例3に記載される、脂肪酸誘導生体材料についての水和時間の関数としての接触角の変化を示す図である。
【図20】図20Aおよび20Bは、実施例3に記載される、脂肪酸誘導生体材料についての水和時間の関数としての魚油誘導生体材料のFTIRスペクトルを示す図である。
【図21】図21Aおよび21Bは、実施例4に記載される、中和後の塩基消化魚油誘導生体材料のFTIRスペクトルを示す図である。
【図22】図22は、実施例5に記載される、脂肪酸誘導生体材料の30日の曝露後の0.1MのPBS溶液からのGC−FID脂肪酸プロファイルを示す図である。
【図23】図23は、実施例6に記載されるFTIRデータを示す図である。
【図24】図24は、実施例7に記載される、様々な時点における外移植後の脂肪酸誘導生体材料からのGC−FID脂肪酸プロファイルデータを示す図である。
【図25】図25および26は、実施例10に記載される、異なる製造方法を使用して製造された脂肪酸誘導生体材料についての特徴付けFTIRおよびGC−FID脂肪酸プロファイルデータを示す図である。
【図26】図25および26は、実施例10に記載される、異なる製造方法を使用して製造された脂肪酸誘導生体材料についての特徴付けFTIRおよびGC−FID脂肪酸プロファイルデータを示す図である。
【図27】図27および28は、実施例11に記載の水性媒体における薬物放出データを示す図である。
【図28】図27および28は、実施例11に記載の水性媒体における薬物放出データを示す図である。
【図29】図29は、実施例11に記載される様々なビタミンEを含む脂肪酸誘導生体材料についてのFTIRデータを示す図である。
【図30】図30は、実施例11に記載の水性媒体における薬物放出データを示す図である。
【図31】図31は、実施例に12に概説される、治療薬が充填されたステントに硬化コーティングを生成する方法を示す流れ図を示す。
【図32】図32は、実施例12に記載されている0.01MのPBSバッファーにおける硬化油治療コーティングについての薬物放出プロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
脂肪酸誘導生体材料は、1つまたは複数の治療薬の放出および局所送達のために場合により単独で、または医療デバイスと組み合わせて利用できる。前記生体材料を形成し、それらの特性を調整する方法、および哺乳類における傷害を治療するために前記生体材料を使用する方法も提供される。また、生体材料の基礎をなす化学的性質の独自の特性により、生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)は、そのインビボ性能を向上させる移植の間の組織傷害の部位における異物応答および炎症を軽減するのに役立つ特定の化学成分を含むことが実証されることになる。
【0060】
本発明の実施形態をさらに説明する前に、傷害およびそれに対する生体応答を概略的かつ手短に説明することが有益であり得る。
【0061】
血管傷害
内膜肥厚を引き起こす血管傷害を、生物学的または機械的に誘発されるもののいずれかとして広く分類することができる。生物学的に媒介される血管傷害は、エンドトキシンおよびサイトメガロウィルスなどのヘルペスウィルスを含む感染障害に起因する傷害;アテローム硬化症などの代謝障害;ならびに低温症および照射に起因する血管傷害を含むが、それらに限定されない。機械的に媒介される血管傷害は、カテーテル挿入処置または血管掻爬処置(vascular scraping procedure)、例えば経皮経管冠動脈形成;血管外科手術;移植手術;レーザ治療;ならびに血管内膜または内皮の完全性を破壊する他の侵襲的処置によって引き起こされる血管傷害を含むが、それらに限定されない。一般に、新生内膜形成は、血管傷害に対する治癒応答である。
【0062】
炎症性応答
血管傷害の際の創傷治癒は、いくつかの段階で生じる。第1の段階は、炎症期である。炎症期は、止血および炎症によって特徴づけられる。創傷形成の間に露出するコラーゲンは、凝固カスケード(内因性経路および外因性経路の両方)を活性化させて、炎症期を開始させる。組織に対する傷害が生じた後に、傷形成により損傷された細胞膜は、強力な血管収縮物質であるトロンボキサンA2およびプロスタグランジン2−アルファを放出する。この初期応答は、出血を制限するのに役立つ。短期間の後、毛細血管拡張が局所的ヒスタミン放出に続発して生じ、炎症の細胞は、創傷層に移動することが可能である。正常な創傷治癒プロセスにおける細胞移動のタイムラインが予測可能である。第1の応答細胞である血小板は、上皮成長因子(EGF)、フィブロネクチン、フィブリノゲン、ヒスタミン、血小板由来成長因子(PDGF)、セロトニンおよびフォン・ウィルブランド因子を含む複数のケモカインを放出する。これらの因子は、凝血塊形成を介して創傷を安定させるのに役立つ。これらの媒介物は、出血を制御し、傷害の範囲を制限するように作用する。血小板脱顆粒は、また、好中球に対する強力な化学誘引物質である補体カスケード、具体的にはC5aを活性化させる。
【0063】
炎症期が継続するに従って、より多くの免疫応答細胞が創傷部に移動する。創傷部に移動する第2の応答細胞、すなわち好中球は、細片除去(debris scavenging)、細菌の補体−媒介オプソニン化、および酸化バースト(oxidative burst)メカニズム(すなわち超酸化物および過酸化水素形成)を介する細菌破壊に関与する。好中球は、細菌を死滅させ、外来細片から創傷部を除染する。
【0064】
創傷部に存在する次の細胞は、白血球およびマクロファージ(単球)である。オーケストレータと呼ばれるマクロファージは、創傷治癒に不可欠である。多くの酵素およびサイトカインがマクロファージによって分泌される。これらは、創傷部を鮮創するコラゲナーゼ;線維芽細胞を刺激し(コラーゲンを生成し)、新脈管形成を促進するインターロイキンおよび腫瘍壊死因子(TNF);ならびにケラチノサイトを刺激する形質転換成長因子(TGF)を含む。このステップは、組織再構成のプロセス、すなわち増殖段階への移行をマークする。
【0065】
細胞増殖
創傷治癒の第2段階は、増殖期である。上皮形成、新脈管形成、顆粒化組織形成およびコラーゲン沈着は、創傷治癒の同化部分における主たる段階である。上皮形成は、創傷修復において早期に生じる。創傷部の縁において、表皮が直ちに肥厚化し始める。辺縁の基底細胞は、フィブリン鎖に沿って創傷部を移動し始め、それらが互いに接触すると停止する(接触阻害)。傷害後最初の48時間以内に、創傷部全体が上皮形成される。上皮形成の層化が再確立される。この点における創傷の深部は、炎症細胞およびフィブリン鎖を含む。ほとんどでなくても多くの問題の創傷がより高齢の人口に生じるため、老化効果は、創傷治癒において重要である。例えば、より高齢の患者の細胞は、増殖しにくく、より短い寿命を有し、より高齢の患者の細胞は、サイトカインに対する応答が弱い。
【0066】
心臓疾患は、内膜平滑筋細胞肥厚化が先行する、心臓に血液供給する血管の部分血管閉塞によって引き起こされ得る。内膜平滑筋細胞肥厚の基本的な原因は、血管平滑筋傷害および内皮層の完全性の破壊である。動脈傷害に続く内膜肥厚を3つの連続的ステップ、すなわち1)血管傷害に続く平滑筋細胞増殖の開始、2)平滑筋細胞の内膜への移動および3)マトリックスの沈着による内膜における平滑筋細胞のさらなる増殖、に分類することができる。内膜肥厚の病因の調査は、動脈傷害後に、血小板、内皮細胞、マクロファージおよび平滑筋細胞が、パラクリンおよびオートクリン成長因子(血小板由来成長因子、表皮成長因子、インシュリン様成長因子および形質転換成長因子)、ならびに平滑筋細胞の増殖および移動をもたらすサイトカインを放出することを示した。T細胞およびマクロファージは、新生内膜にも移動する。この事象のカスケードは、動脈傷害に限定されず、静脈および細動脈に対する傷害後にも生じる。
【0067】
肉芽腫性炎症
慢性炎症または肉芽腫性炎症は、血管傷害の治癒を通じてさらなる合併症を引き起こし得る。肉芽腫は、ミリメートルサイズ範囲の結節を形成する特定の型の慢性炎症細胞の凝集体である。肉芽腫は、集密的であり、より大きい領域を形成し得る。肉芽腫の必須成分は、通常はリンパ球の周囲域を含む、類上皮細胞と呼ばれる変性マクロファージ(modified macrophage)の集合体である。類上皮細胞は、上皮細胞に対するそれらの組織的類似性により伝統的にそのように呼ばれるが、実際は上皮細胞でない。それらは、すべてのマクロファージと同様に血液単球から誘導される。類上皮細胞は、他のマクロファージより食作用が弱く、分泌機能について修飾されているようである。それらの機能の全範囲は、まだ不明である。一般には、肉芽腫におけるマクロファージをさらに修飾して、多核巨細胞を形成する。これらは、数十個もの核を含むことができる巨大単一細胞を形成する核または細胞分裂を伴わない類上皮マクロファージの融合によって生じる。いくつかの場合において、核は、ラングハンス型巨細胞と呼ばれる細胞の周縁に配置され、他の場合において、核は、細胞質全体を通じて無作為に散在する(すなわち、組織における他の消化しにくい物質の存在に応答して形成される異物型巨細胞)。肉芽腫炎症の部分は、一般に壊死する。
【0068】
肉芽腫炎症の形成は、(細菌または他の源に由来する)消化しにくい異物の存在および/または傷害性物質に対する細胞媒介免疫反応(IV型過敏性反応)を必要とするようである。
【0069】
脂肪酸誘導生体材料:コーティングおよび独立型フィルム
本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えばコーティングおよび独立型フィルム)は、疎水性架橋脂肪酸誘導生体材料、および場合により、脂肪酸誘導生体材料に含まれる1つまたは複数の治療薬を含む。本明細書に記載の架橋脂肪酸誘導生体材料コーティングの文脈で使用されているように、「可溶性」および「不溶性」という用語は、例えばテトラヒドロフラン(THF)などの有機溶媒へのコーティングの溶解性を指す。加えて、本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングおよび独立型フィルム)は、本明細書に記載されるように生体吸収性である。治療薬は、コーティングに含まれる活性薬、および/または例えばコーティングから一旦放出されると活性になるプロドラッグであり得る。本発明の一実施形態において、薬物溶出脂肪酸誘導生体材料は、架橋脂肪酸、例えばオメガ−3脂肪酸である。架橋脂肪酸は、非ポリマーであり得る。オメガ−3脂肪酸の源は、天然に存在する油、例えば魚油であり得る。
【0070】
本発明の疎水性脂肪酸誘導生体材料コーティングおよび独立型フィルムを油成分から形成することができる。油成分は、油または油組成物のいずれかであり得る。油成分は、魚油、タラ肝油、亜麻仁油、ブドウ種子油、パーム油または所望の特性を有する他の油などの天然に存在する油であり得る。油は、また、脂肪酸を含む合成または非天然油であり得る。本発明の一実施形態は、一部にオメガ−3脂肪酸の含有量が大きいために、魚油を利用する。魚油は、癒着防止剤として機能することもできる。加えて、魚油は、抗炎症または非炎症特性も維持する。本発明は、魚油を油出発材料とする脂肪酸誘導生体材料の形成に限定されない。しかし、以下の説明は、1つの例示的な実施形態として魚油の使用に関する。他の油を、本明細書に記載の本発明に従って利用することができる。
【0071】
本明細書に利用されているように、魚油脂肪酸という用語は、オメガ−3脂肪酸、油脂肪酸、遊離脂肪酸、モノグリセリド、ジグリセリドまたはトリグリセリド、脂肪酸のエステル、あるいはそれらの組合せを含むが、それらに限定されないことに留意されたい。魚油脂肪酸はアラキジン酸、ガドレイン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸またはそれらの誘導体、類似体および薬学的に許容し得る塩の1種または複数種を含む。また、本明細書に利用されているように、遊離脂肪酸という用語は、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、アルファ−リノレン酸、ガンマ−リノレン酸、ベヘン酸、エルシン酸、リグノセリン酸、それらの類似体および薬学的に許容し得る塩を含むが、それらに限定されない。魚油を含む油を本明細書に記載するように硬化させて、疎水性架橋脂肪酸誘導生体材料を形成する。
【0072】
本発明のいくつかの実施形態は、抗炎症特性、非炎症(non−inflammatory)特性および癒着防止特性を発揮することができる生体吸収性医療デバイスコーティングおよび独立型フィルム、ならびに対応する製造方法に関する場合がある。独立型フィルムは、一般に、魚油などの油で形成される。加えて、油組成物は、薬物または他の生体活性薬などの治療薬成分を含むことができる。独立型フィルムは、短時間または長時間適用に向けて患者に移植可能である。本明細書に実装されるように、独立型フィルムは、少なくとも一部に脂肪酸化合物から誘導される非ポリマー架橋脂肪酸誘導生体材料であり得、独立型フィルムは、本発明の方法に従って調製される。本発明のさらなる態様によれば、独立型フィルムは、脂肪酸化合物の一部を形成するビタミンE化合物をさらに含むことができる。
【0073】
本発明のさらなる態様によれば、独立型フィルムは、治療薬をさらに含む。治療薬は、酸化防止剤、抗炎症剤、抗凝血剤、脂質代謝を変化させる薬物、抗増殖薬、抗腫瘍薬、組織成長刺激薬、機能性タンパク質/因子送達薬、抗感染薬、造影剤、麻酔薬、化学療法薬、組織吸収エンハンサー、癒着防止剤、殺菌薬、鎮痛薬、プロドラッグおよび消毒薬を含むことができる。
【0074】
本発明のさらなる態様によれば、治療薬を、フィルムの形成前に脂肪酸化合物と組み合わせて、治療薬をフィルム全体に分散させる。代替的に、治療薬をコーティングの形でフィルムに塗布する。本発明のさらなる態様によれば、独立型フィルムは生体吸収性である。独立型フィルムは、さらに、癒着防止特性を維持することができる。
【0075】
本発明のさらに別の実施形態によれば、独立型フィルムを形成する方法が導入される。上記方法は、脂肪酸化合物を液体の形で供給する工程と、脂肪酸化合物を基材(substrate)に塗布する工程とを含む。上記方法は、また、脂肪酸化合物を硬化させて、独立型フィルムを形成する工程を含む。本発明の一態様によれば、基材は、発泡ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む。本発明のさらなる態様によれば、硬化は、UV光をあてることおよび熱を加えることを含む硬化方法の群から選択される少なくとも1つの硬化方法を使用することを含む。UV光を照射して、さらなる硬化の前に液体の形の脂肪酸化合物の上面に皮を形成することにより脂肪酸化合物を固めることもできる。本発明のさらなる態様によれば、基材は、独立型フィルムを成形するための鋳型として使用される窪みを有する。代替的に、上記方法は、フィルムを望ましい形状に裁断する工程をさらに含むことができる。
【0076】
本発明の独立型フィルムをバリヤとして使用して組織を分離させて癒着を避けることができる。癒着防止のための用途例は、腹部外科手術、脊髄修復、整形外科手術、腱および靱帯修復、婦人科系および骨盤手術、ならびに神経修復用途を含む。独立型フィルムを外傷部位に貼付するか、または組織もしくは器官のまわりに巻きつけて、癒着形成を制限することができる。これらの癒着防止用途に使用される独立型フィルムへの治療薬の添加を、疼痛軽減または感染最小化などのさらなる有益な効果のために利用することができる。独立型フィルムの他の外科用途は、硬膜パッチ、バットレス材料、内部創傷医療(移植片吻合部など)および内部薬物送達系として独立型フィルムを使用することを含む。独立型フィルムを経皮創傷治癒の用途および非外科分野に使用することもできる。独立型フィルムを、火傷または皮膚潰瘍に対する治療など、外部創傷医療に使用することができる。独立型フィルムを清浄な不透過性、非癒着性、非炎症性、抗炎症性包帯として治療薬を含めずに使用することができ、あるいは独立型フィルムをさらなる有益な効果のために1つまたは複数の治療薬とともに使用することができる。独立型フィルムに1つまたは複数の治療薬を充填または塗布すると、経皮薬物送達パッチとして使用することもできる。
【0077】
油
前記油に関して、脂肪酸の不飽和度が高くなるほど、脂肪の融点が低下し、炭化水素鎖が長くなるほど、脂肪の融点が高くなることが一般的に公知である。したがって、不飽和脂肪はより低い融点を有し、飽和脂肪はより高い融点を有する。より低い融点を有する脂肪は、室温で油であることが多い。より高い融点を有する脂肪は、室温で蝋または固体であることが多い。したがって、室温で液体の物理的状態を有する脂肪は油である。概して、不飽和脂肪は、室温で液体油であり、飽和脂肪は、室温で蝋または固体である。
【0078】
多価不飽和脂肪は食物から体によって誘導される4つの基本型の脂肪の1つである。他の脂肪は、飽和脂肪、ならびに一価不飽和脂肪およびコレステロールを含む。不飽和脂肪はさらにオメガ−3脂肪酸およびオメガ−6脂肪酸で構成することができる。炭素のその第1の二重結合の位置に従って不飽和脂肪酸を命名する慣習に基づき、分子のメチル末端からの第3の炭素原子におけるそれらの第1の二重結合を有する脂肪酸は、オメガ−3脂肪酸と称する。同様に、第6の炭素原子における第1の二重結合は、オメガ−6脂肪酸と呼ばれる。一価不飽和および多価不飽和オメガ脂肪酸の両方が存在し得る。
【0079】
オメガ−3およびオメガ−6脂肪酸は、また、人体が自分自身でそれらを作り出すことができないという事実にもかかわらず、それらが良好な健康を維持するのに重要であるため、必須脂肪酸として公知である。そのように、オメガ−3およびオメガ−6脂肪酸を食物などの外部源から得なければならない。オメガ−3脂肪酸を、さらに、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(docosahexanoic acid)(DHA)およびアルファ−リノレン酸(ALA)を含むものとして特徴づけることができる。EPAおよびDHAは両方とも、人体内で抗炎症効果および創傷治癒効果を有することが公知である。
【0080】
本明細書に利用されているように、「生体吸収性(bio−absorbable)」という用語は、一般に、患者の体の組織に浸透することが可能であるという特性または特徴を有することを指す。本発明の一部の実施形態において、生体吸収は、親油性メカニズムを介して生じる、生体吸収性物質は、体組織の細胞のリン脂質二重層において可溶であり得るため、生体吸収性物質がいかにして細胞内に浸透するかということに影響を及ぼし得る。
【0081】
生体吸収性物質は、生分解性物質と異なることに留意されたい。生分解性は、一般には、生物学的物質によって分解することが可能であるか、または微生物もしくは生物学的プロセスによって分解することが可能であるものとして定義される。生分解性物質は、親物質、または分解中に形成された物質のいずれかにより炎症応答を引き起こすことができ、それらは、組織に吸収されてもされなくてもよい。
【0082】
薬物送達
脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングおよび独立型フィルム)は、治療を必要とする患者の選択された標的の組織部位(targeted tissue location)にコーティングを保持する独立型フィルム、医療デバイスまたは装置を使用して、1つまたは複数の治療薬を目標部分に局所的に送達することができる。治療薬は、生体材料から標的の組織部位に放出される。治療薬の局所送達は、より広い全身副作用をもたらすことなく、より高濃度およびより高量の治療薬を標的の組織部位に直接送達することを可能にする。局所送達により、標的の組織部位から出た治療薬は、患者の体の他の部分に移動するに従って希釈するため、全身副作用を実質的に低減するか、またはなくす。
【0083】
脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングおよび独立型フィルム)を使用する標的の局所治療薬送達を2つの範疇、すなわち短期および長期にさらに分類することができる。治療薬の短期送達は、一般には、数秒または数分以内から数日または数週間なでで行われる。治療薬の長期送達は、一般には数週間以内から数カ月まで行われる。
【0084】
「持続放出」という語句は、本明細書に使用されているように、活性薬の長期送達をもたらす生体活性薬の放出を指す。
【0085】
「制御放出」という語句は、本明細書に使用されているように、それが放出される元になる医療デバイスに生体活性薬が形成された際の所望および予定された数週間または数カ月の期間にわたる実質的に予測可能な形態の生体活性薬の放出を指す。制御放出は、移植後の規定量(provision)の初期バースト放出、およびその後の前記期間にわたる実質的に予測可能な放出を含む。
【0086】
薬物放出メカニズム
ステントの分野などのフィルムおよび薬物送達プラットフォームを生成する先の試みは、主として、高分子量合成ポリマーを基材とした材料を利用して、治療薬の放出をより良好に制御する能力を提供する。基本的に、プラットフォームにおけるポリマーは、患者体内の部位に一旦移植されると、所定の速度で薬物または薬剤を放出する。どの程度の量の治療薬が損傷組織に最も有益であるかということにかかわらず、ポリマーは、ポリマーの特性、例えば、ポリマー材料の浸食又はポリマーを介する薬剤の拡散に基づいて治療薬を放出する。よって、治療薬の効果は、コーティングを有する医療デバイスと接触する組織の表面において実質的に局所的である。場合によっては、例えば、治療されている組織部位に対して押しつけられたステントストラットまたはメッシュの特定の部位に向けてさらに局在化される。これらの以前のアプローチは、局在化した毒性作用の可能性をもたらし得る。
【0087】
本発明の様々な実施形態において、本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングおよび独立型フィルム)は、溶解メカニズム、例えば、コーティングに接触する媒体(例えば組織)への、コーティングの可溶性成分に含まれる治療薬の溶解によって1つまたは複数の治療薬を放出する。その結果、薬物放出メカニズムは、周囲媒体中での治療薬の溶解度に基づくことができる。例えば、疎水性コーティングと周囲媒体との間の界面付近の治療薬は、治療薬を油を基材としたコーティングから追い出して周囲媒体中で溶液にすることができる化学ポテンシャル勾配を経験し得る。よって、様々な実施形態において、治療薬の放出は、コーティングの拡散または加水分解によって速度制限されない。
【0088】
様々な実施形態において、本発明の脂肪酸誘導生体材料、例えば、疎水性架橋脂肪酸誘導生体材料の分解生成物は、それら自体が溶解メカニズムを介して治療薬の1種または複数種を放出することができる非炎症性副生成物、例えば遊離脂肪酸およびグリセリドに分解する。
【0089】
治療薬
本明細書に利用されているように、「治療薬(複数可)」という語句は、入手可能ないくつかの異なる薬物または薬剤、ならびに本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングおよび独立型フィルム)との使用に有益であり得る将来的な薬剤を指す。治療薬成分は、酸化防止剤、抗炎症薬、抗凝血薬、脂質代謝を変化させる薬物、抗増殖薬、抗腫瘍薬、組織成長刺激薬、機能性タンパク質/因子送達薬、抗感染薬、抗造影剤、麻酔薬、治療薬、組織吸収エンハンサー、癒着防止剤、殺菌薬、消毒薬、鎮痛薬、それらのプロドラッグ、および以下の表1に示される治療薬などの任意のさらなる所望の治療薬を含むいくつかの異なる形をとることができる。
【0090】
【表1−1】
【0091】
【表1−2】
【0092】
【表1−3】
抗再狭窄分野において有用な治療薬の具体例としては、セレバスタチン、シロスタゾール、、フルバスタチン、ロバスタチン、パクリタキセル、プラバスタチン、ラパマイシン、(例えば、米国特許第出願公開第2004/0235762号に記載の)ラパマイシンカルボハイドレート誘導体、(例えば、米国特許第6,200,985号に記載の)ラパマイシン誘導体、エベロリムス、セコ−ラパマイシン、セコ−エベロリムスおよびシンバスタチンが挙げられる。全身投与については、治療薬が経口または静脈内投与されて、患者により全身的に処理される。しかし、治療薬の全身送達には欠点があり、その1つは、治療薬が患者の体のすべての部分に移動し、治療薬による治療の標的でない領域に望ましくない作用を有し得ることである。また、高投与量の治療薬は、非標的領域において望ましくない作用を増大するだけである。したがって、全身投与する場合は、患者における具体的な標的部位への適用をもたらす治療薬の量を低減して、より高投与量の治療薬に起因する毒性による合併症を軽減する必要があり得る。
【0093】
「mTOR標的化合物」という用語は、mTORを直接または間接的にモジュレートする任意の化合物を指す。「mTOR標的化合物」の例は、FKBP12に結合して、例えば、ホスホイノスチド(PI)−3キナーゼ、すなわちmTORを阻害することになる複合体(complex)を形成する化合物を指す。様々な実施形態において、mTOR標的化合物は、mTORを阻害する。好適なmTOR標的化合物としては、例えば、ラパマイシンおよびその誘導体、類似体、プロドラッグ、エステルおよび薬学的に許容し得る塩が挙げられる。
【0094】
カルシニューリンは、セリン/トレオニンホスホ−タンパク質ホスファターゼであり、触媒(カルシニューリンA)および調節(カルシニューリンB)サブユニット(それぞれ約60および約18kDa)で構成される。哺乳類において、その触媒サブユニットについての3つの異なる遺伝子(A−アルファ、A−ベータ、A−ガンマ)が特徴づけられており、それぞれがさらなるバリアントを生成するための選択的スプライシングを生じ得る。すべての3つの遺伝子に対するmRNAがたいていの組織に発現されるようであるが、2つのイソ型(A−アルファおよびA−ベータ)が脳において最も支配的である。
【0095】
カルシニューリンシグナル伝達経路は、免疫応答、ならびにニューロン細胞におけるグルタメート興奮毒性によるアポトーシス誘発に関与する。カルシニューリンの低酵素レベルは、アルツハイマー病に関連していた。心臓または脳カルシニューリンは、低酸素または虚血後のストレス応答にも主要な役割を果たす。
【0096】
カルシニューリンシグナル経路を遮断することが可能な物質は、本発明の好適な治療薬であり得る。そのような治療薬の例としては、FK506、タクロリムス、シクロスポリンおよびそれらの誘導体、類似体、エステル、プロドラッグ、薬学的に許容し得る塩、ならびにそれらまたはそれらの代謝生成物が同じ作用メカニズムを有するそれらの結合体が挙げられるが、それらに限定されない。シクロスポリン誘導体のさらなる例としては、完全もしくは半合成手段、または改良型培養技術によって調製された天然に存在するおよび非天然シクロスポリンが挙げられるが、それらに限定されない。シクロスポリンを含むクラスは、例えば、天然に存在するシクロスポリンAからZ、ならびに様々な非天然シクロスポリン誘導体、人工または合成シクロスポリン誘導体を含む。人工または合成シクロスポリンは、ジヒドロシクロスポリン、誘導体化シクロスポリン、ならびに改変体アミノ酸がペプチド配列内の特定の位置に組み込まれたシクロスポリン、例えばジヒドロ−シクロスポリンDを含むことができる。
【0097】
様々な実施形態において、治療薬は、mTOR標的化合物およびカルシニューリン阻害薬の1種または複数種を含む。様々な実施形態において、mTOR標的化合物は、化合物D、またはその誘導体、類似体、エステル、プロドラッグ、薬学的に許容し得る塩、あるいはそれらまたはそれらの代謝生成物が同じ作用メカニズムを有するそれらの結合体である。様々な実施形態において、カルシニューリン阻害薬は、タクロリムス、またはその誘導体、類似体、エステル、プロドラッグ、薬学的に許容し得る塩、あるいはそれらまたはそれらの代謝生成物が同じ作用メカニズムを有するそれらの結合体の化合物、あるいはシクロスポリン、またはその誘導体、類似体、エステル、プロドラッグ、薬学的に許容し得る塩、あるいはそれらまたはそれらの代謝生成物が同じ作用メカニズムを有するそれらの結合体の化合物である。
【0098】
本発明の脂肪酸誘導予備硬化生体材料とともに使用できる治療薬は、抗ウィルス薬、抗生物質、抗真菌薬および抗寄生虫薬を含む抗微生物薬を含むこともできる。本発明の脂肪酸誘導予備硬化生体材料とともに使用できる具体的な抗微生物薬は、ペニシリンG、エファロチン、アンピシリン、アモキシシリン、オウグメンチン、アズトレオナム、イミペネム、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、バンコマイシン、クリンダマイシン、エリトロマイシン、アジスロマイシン、ポリミキシン、バシトラシン、アンホテリシン、ナイスタチン、リファンピシン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、クロラムフェニコール、ナルジクス酸(nalidixic acid)、シプロフロキサシン、スルファニルアミド、ガントリシン、トリメトプリム、イソニアジド(INH)、パラ−アミノサリチル酸(PAS)およびゲンタマイシンを含む。
【0099】
治療有効量および投薬量
治療有効量は、症候の軽減、例えば、関連する医学的状態の治療、治癒、予防または改善、あるいはそのような状態の治療、治癒、予防または改善の速度の向上をもたらすのに十分な化合物の量を指す。単独で投与される個々の活性成分に適用される場合は、治療有効量は、その単独の成分を指す。組み合わせに適用される場合は、治療有効量は、組み合わせ投与が連続的であるか同時的であるかにかかわらず、治療効果をもたらす活性成分の組み合わせた量を指す。製剤が2つ以上の治療薬を含む様々な実施形態において、そのような製剤を、適応A(indication A)に対する治療有効量の化合物Aおよび適応Bに対する治療有効量の化合物Bと記述することができ、そのような記述は、適応Aに対する治療効果を有するが必ずしも適応Bには有さないAの量、および適応Bに対する治療効果を有するが必ずしも適応Aには有さないBの量を指す。
【0100】
本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングおよび独立型フィルム)における活性成分の実際の投薬量を、許容することができない毒性をもたらすことなく所望の治療応答を達成するのに有効な活性成分の量を得るように変更することができる。選択される投薬量は、採用される特定の治療薬(薬物)、またはそのエステル、塩もしくはアミドの活性、薬物作用のメカニズム、投与時間、コーティングの薬物放出プロファイル、採用されている特定の化合物の排泄速度、治療継続時間、採用される特定の化合物と併用される他の薬物、化合物および/または材料、ならびに医学技術分野で公知の同様の要因に依存することになる。
【0101】
他の薬剤
本発明の脂肪酸生体材料(例えば、コーティングおよび独立型フィルム)は、治療薬に加えて、薬学的に許容し得る担体、賦形剤、界面活性剤、結合剤、補助剤および/または安定剤(防腐剤、緩衝剤および酸化防止剤を含む)の一種または複数種を含むが、それらに限定されない1つまたは複数の他の化学物質および成分を含むことができる。他の薬剤は、1つまたは複数の機能を発揮することができ、例えば、補助剤は安定剤として機能することもできる。
【0102】
様々な実施形態において、本発明のコーティングおよび独立型フィルムは、遊離ラジカル捕捉剤および吸収エンハンサーの一種または複数種を含む。様々な実施形態において、コーティングおよび独立型フィルムは、ビタミンEを含む。
【0103】
本発明を説明するために本明細書に利用されているように、ビタミンEという用語およびアルファ−トコフェロールという用語は、それらが互換性を有し、一方の使用が両者の暗示的言及を含むように同一または実質的に類似の物質を指すことを意図する。さらに、ビタミンEという用語に関連して、アルファ−トコフェロール、ベータ−トコフェロール、デルタ−トコフェロール、ガンマ−トコフェロール、アルファ−トコトリエノール、ベータ−トコトリエノール、デルタ−トコトリエノール、ガンマ−トコトリエノール、酢酸アルファ−トコフェロール、酢酸ベータ−トコフェロール、酢酸ガンマ−トコフェロール、酢酸デルタ−トコフェロール、酢酸アルファ−トコトリエノール、酢酸ベータ−トコトリエノール、酢酸デルタ−トコトリエノール、酢酸ガンマ−トコトリエノール、コハク酸アルファ−トコフェロール、コハク酸ベータ−トコフェロール、コハク酸ガンマ−トコフェロール、コハク酸デルタ−トコフェロール、コハク酸アルファ−トコトリエノール、コハク酸ベータ−トコトリエノール、コハク酸デルタ−トコトリエノール、コハク酸ガンマ−トコトリエノール、混合トコフェロール、ビタミンE TPGS、それらの誘導体、類似体および薬学的に許容し得る塩の一種または複数種が含まれるがそれらに限定されないそのような変形物が含まれる。
【0104】
組織をあまりにも迅速に移動する化合物は、目的の領域に十分に高濃度の用量を供給する上で効果的でない可能性がある。逆に、組織において移動しない化合物は、目的の領域に到達し得ない。脂肪酸などの細胞の取り込みエンハンサーおよびアルファ−トコフェロールなどの細胞の取り込み阻害薬を単独で、または組み合わせて使用して、所定の化合物の所定の領域または部位への効果的な輸送を提供することができる。脂肪酸およびアルファ−トコフェロールの両方を本明細書に記載の本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングおよび独立型フィルム)に含めることができる。よって、コーティングおよびそれに混合されたあらゆる治療薬の細胞の取り込み特性を制御するように、脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングおよび独立型フィルム)に寄与するために異なる量および割合で遊離脂肪酸とアルファ−トコフェロールを組み合わせることができる。
【0105】
例えば、コーティングにおけるアルファ−トコフェロールの量を変更することができる。アルファ−トコフェロールは、ヒドロペルオキシド形成を低下させることによって魚油における自己酸化を緩慢にすることが公知であり、硬化した脂肪酸誘導予備硬化生体材料における架橋の量の低下をもたらす。加えて、アルファ−トコフェロールを使用して、コーティングを形成する油中で薬物の溶解度を高めることができる。様々な実施形態において、アルファ−トコフェロールは、硬化中に治療薬を保護して、硬化後のコーティング中の薬物充填量の増加をもたらすことができる。なおその上、特定の治療薬では、コーティング中のアルファ−トコフェロールの増加は、コーティング中のアルファ−トコフェロール成分への薬物の溶解度の向上により、薬物放出を緩慢にするおよび伸ばすように作用することができる。
【0106】
硬化および脂肪酸誘導生体材料の形成
(例えば、本明細書に参照により組み込まれる米国特許出願公開第2008/0118550号、同第2007/0202149号、同第2007/0071798号、同第2006/0110457号、2006/0078586号、同第2006/0067983号、同第2006/0067976号、同第2006/0067975号に記載されているように)1つまたは複数の治療薬を含む油出発材料を硬化させて、本発明による薬物放出および送達コーティングまたは独立型フィルムのための脂肪酸誘導生体材料を製造するためのいくつかの方法が利用可能である。出発材料を硬化させて、本発明の脂肪酸誘導生体材料を製造するための好適な方法としては、(例えば、オーブン、広帯域赤外線(IR)光源、干渉性IR光源(例えばレーザ)およびそれらの組合せを採用する)加熱および紫外線(UV)照射が挙げられるが、それに限定されない。出発材料を自己酸化により架橋することができる(例えば酸化架橋)。
【0107】
本明細書に記載の様々な実施形態によれば、本発明の薬物放出コーティングは、飽和および不飽和脂肪酸化合物(例えば、遊離脂肪酸、脂肪酸エステル、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、金属塩等)から得ることができる脂肪酸誘導生体材料で形成される。好ましくは、本発明に記載の脂肪酸の源は、様々な油(例えば魚油)においてトリグリセリドの形で容易に入手可能なものなどの飽和および不飽和脂肪酸である。脂肪酸誘導生体材料を形成する1つの方法は、油の自己酸化を介して実施される。不飽和脂肪酸を含む液体油が加熱されると、酸素の油への吸収により自己酸化が生じて、油における不飽和(C=C)部の量に依存する量でヒドロペルオキシドを生成する。しかし、(C=C)結合は、この初期反応で消費されない。ヒドロペルオキシドの形成と並行して、二重結合のコンジュゲーションの他に、シスからトランスへの(C=C)二重結合の異性化が進行する。油の継続的な加熱は、架橋の形成を介して、かつヒドロペルオキシドのさらなる反応、ならびにそれらを、コーティング内に残留することができ、かつ/またはそのプロセスの間に揮発するアルデヒド、ケトン、アルコール、脂肪酸、エステル、ラクトン、エーテルおよび炭化水素を含む二次酸化副生成物に変換するC=C二重結合の開裂によってコーティングを固化させる。
【0108】
油酸化中に形成された架橋の種類および量を選択された条件(コーティングの厚さ、温度、金属組成物等)に応じて調整することができる。例えば、油の加熱は、ペルオキシド(C−O−O−C)、エーテル(C−O−C)と炭化水素(C−C)架橋(bridge)の組合せを使用して魚油不飽和鎖の間の架橋を可能にする(例えば、F. D. Gunstone、「Fatty Acid and Lipid Chemistry」、1999年参照)。しかし、より低温(すなわち150℃未満)で加熱すると、主として過酸化物(peroxide)架橋が形成され、より高い温度(すなわち150℃を超える温度)で加熱すると、過酸化物の熱分解が生じ、C=Cおよびエーテル架橋が支配的になる(F. D. Gunstone、1999年)。様々な架橋メカニズムおよびスキームの概略図を図1〜2に示す。
【0109】
熱硬化方法に加えて、油の酸化を光によって誘導することもできる(例えば光酸素付加)。光酸素付加は、C=C炭素原子に限定され、(熱で開始される硬化とともに生じる)硬化の間のシスからトランスC=C異性体への変換をもたらす。しかし、UVを使用する光酸素付加は、約1000〜1500倍速い範囲で熱硬化による自己酸化より比較的高速の反応である。より高速の反応は、特に、本発明の魚油に基づく実施形態に見いだされるEPAおよびDHAなどのメチレン中断(methylene interrupted)多価不飽和脂肪酸に当てはまる。
【0110】
熱硬化と比較した場合のUV硬化の重要な側面は、両硬化方法によって得られた副生成物が類似しているが、量または化学構造が必ずしも同一でないことである。この1つの理由は、より可能性の高いC=C部にヒドロペルオキシドを生成する光酸素付加の能力によるものである。
【0111】
UV硬化に起因するものなどの光酸素付加は、内部ヒドロペルオキシドを生成するその能力が向上しているため、魚油炭化水素鎖の間の過酸化物架橋にも関連する比較的多量の環式副生成物を形成することも可能である。例えば、リノレネートの光酸素付加は、6つの異なる種類のヒドロペルオキシドを形成させるが、自己酸化は4種類のみをもたらす。光酸素付加を使用して生成されたより多量のヒドロペルオキシドは、熱硬化による自己酸化と比較して、類似しているが、わずかに異なる構造および量の二次副生成物を形成させる。具体的には、これらの副生成物は、アルデヒド、ケトン、アルコール、脂肪酸、エステル、ラクトン、エーテルおよび炭化水素である。
【0112】
出発油の油硬化条件および脂肪酸組成に応じて、脂肪酸誘導生体材料を、不飽和脂肪酸鎖の二重結合を酸化しながら、トリグリセリドエステル官能基を優先的に保持するように油を硬化させることによって製造することができる。不飽和脂肪酸鎖の酸化は、継続的な硬化により、アルデヒド、ケトン、アルコール、脂肪酸、エステル、ラクトン、エーテルおよび炭化水素に変換されるヒドロペルオキシドを形成させる。酸化油を継続的に加熱すると、副生成物が揮発し、エステル架橋の形成に加えて、コーティング粘度が上昇する。エステルとラクトンの架橋の形成は、酸化プロセスから形成されたコーティングにおけるヒドロキシルとカルボキシル官能成分(すなわちグリセリドと脂肪酸)との間に異なる種類のメカニズム(すなわち、本明細書に参照として組み込まれるF. D. Gunstone、1999年、第8章に記載されている、エステル化、アルコール分解、酸分解、エステル交換)で生じ得る。架橋反応は、エステル、無水物、脂肪族過酸化物、およびラクトンなどの様々なタイプのエステル結合を形成できる。図3〜4は、それぞれ油誘導生体材料の形成のメカニズムおよび反応化学の概要を示す。図5は、例示の目的で、油反応スキームからエステルを形成するための異なる方法の概略を示すが、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0113】
本発明の脂肪酸誘導生体材料コーティングおよび独立型フィルムは油成分から形成される。「油成分」という用語は、本明細書では「油酸含有出発材料」または「脂肪酸含有出発材料」と称する。「脂肪酸含有出発材料」は、天然であっても、合成源から誘導されてもよい。好ましくは、「油含有出発材料」は、不飽和脂肪酸を含む。油成分は、油または油組成物であり得る。油成分は、魚油、亜麻仁油、ブドウ種子油、パーム油などの天然に存在する油、合成油、または所望の特性を有する他の油であり得る。油はまた、合成油であり得る。本発明の1つの実施形態は、一部に、本明細書で考察するように損傷組織に対する治癒支援を提供できる高含有量のオメガ−3脂肪酸を有するという理由から魚油を利用する。魚油は、癒着防止薬として機能することもできる。加えて、魚油は、抗炎症特性または非炎症特性をも維持する。本発明は、魚油を油とする脂肪酸誘導生体材料の形成に限定されない。しかし、以下の説明は、1つの例示的な実施形態として魚油の使用に言及する。他の天然に存在する油または合成油を、本明細書に記載されるように、本発明に従って利用することができる。
【0114】
脂肪酸誘導生体材料のコーティング加水分解および生体吸収化学反応
エステル、ラクトンおよび無水物官能基を有する生分解性および生体吸収性移植可能材料は、典型的には、化学加水分解メカニズムおよび/または酵素加水分解メカニズムによって分解される(K. Parkら、「Biodegradable Hydrogels for Drug Delivery」、1993年;J. M. Andersen, 「Perspectives on the In−Vivo Responses of Biodegradable Polymers」、Biomedical Applications of Synthetic Biodegradable Polymers、Jeffrey O. Hollinger編、1995年、223〜233頁)。材料に存在する官能基が水によって開裂されると、脂肪酸誘導生体材料の化学加水分解が生じる。塩基性条件下でのトリグリセリドの化学加水分解の例が図6に示されている。酵素加水分解は、特定の酵素との反応によって引き起こされる脂肪酸誘導生体材料における官能基の開裂である(すなわち、トリグリセリドが、次に細胞膜を横切って輸送され得る遊離脂肪酸を生成するリパーゼ(酵素)によって分解される)。生分解性および/または生分解性硬化誘導生体材料が加水分解するのに要する時間の長さは、材料の架橋密度、厚さ、コーティングの水和能力、脂肪酸誘導生体材料の結晶性、および体によって加水分解生成物を代謝する能力などのいくつかの要因に依存する(K. Parkら、1993年およびJ. M. Andersen、1995年)。
【0115】
生体吸収性物質は、生分解性物質とは異なることに留意されたい。生分解性は、一般的に、生体物質(biological agent)によって分解することが可能である、または微生物もしくは生物学的プロセスによって分解することが可能であると定義される。生分解性物質は、親物質または加水分解中に形成される物質のいずれかにより炎症応答を引き起こすことができ、それらは、組織によって吸収されてもされなくてもよい。いくつかの生分解性物質は、加水分解についてのバルク浸食メカニズムに限定される。例えば、広く使用される生分解性ポリマー、PLGA(ポリ(乳酸−コ−グリコール酸))は、インビボで化学加水分解をうけ、2つのアルファ−ヒドロキシ酸、具体的にはグリコール酸および乳酸を形成する。グリコール酸および乳酸は、体の様々な代謝経路の副生成物であるが、先の医学的移植および局所薬部物送達用途において、これらの生成物の局所濃度は、炎症および損傷を局所組織にもたらし得る酸性環境を生成させることが既に実証された(S. Dumitriu、「Polymeric Biomaterials」、2002年)。臨床的には、これは、再狭窄などの損なわれた臨床転帰(D. E. DrachmanおよびD. I. Simon、Current Atherosclerosis Reports、2005年、第7巻、44〜49頁; S. E. Goldblumら、Infection and Immunity、1989年、第57巻、第4号、1218〜1226頁)および腹部ヘルニア修復における後期ステント血栓形成または癒着形成を招き得る冠状動脈ステント使用における損なわれた治癒(Y. C. Cheongら、Human Reproduction Update、2001年;第7巻、第6号:556〜566頁)をもたらし得る。したがって、理想的な脂肪酸生体材料は、移植すると優れた生体適合性を実証する必要があるだけでなく、その加水分解副生成物が局所組織によって吸収可能でありながら、その移植の寿命の間に生体適合性を維持する必要がある。
【0116】
独立型フィルム、医療デバイス用コーティングとして使用されるか、または薬物送達用途に使用される脂肪酸誘導生体材料の生体吸収性の特徴は、生体材料を体組織の細胞に長時間にわたって吸収させる。様々な実施形態において、コーティングまたはコーティングのインビボ変換副生成物において、炎症応答を誘導する物質が実質的に存在しない。例えば、コーティングは、インビボで非炎症性成分に変換する。例えば、様々な実施形態において、本発明のコーティングは、吸収に際しておよび加水分解に際して、測定可能な量の乳酸およびグリコール酸分解生成物を生成しない。本発明に記載の脂肪酸誘導生体材料の化学は、細胞膜を横断して輸送され得る脂肪酸およびグリセリド成分を放出させる化学的手段および/または酵素的手段のいずれかによってインビボで加水分解できる脂肪酸およびグリセリド成分から主としてなる。続いて、脂肪酸誘導生体材料から溶出した脂肪酸およびグリセリド成分は、細胞によって直接代謝される(すなわち、それらは生体吸収性である)。本発明のコーティングおよび独立型フィルムの生体吸収性の特徴は、コーティングを長時間にわたって吸収させて、基底送達(underlying delivery)のみをもたらすかまあるいは生体適合性である他の医療デバイス構造を残す。本発明の好適な実施形態においては、生体吸収性コーティングまたはその加水分解による分解生成物に対する異物炎症応答が実質的に存在しない。
【0117】
脂肪酸誘導生体材料の生体適合性およびインビボ性能
本発明に記載される脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)を製造する方法は(process)、油の酸化に関する従来の科学報告書に鑑みて、いくつかの予想外の化学的プロセスをもたらす(J. Duboisら、JAOCS、1996年、第73巻、第6号、787〜794頁、H. Ohkawaら、Analytical Biochemistry、1979年、第95巻、351〜358頁;H. H. Draper、2000年、第29巻、第11号、1071〜1077頁)。油酸化は、生体適合性がないと考えられるヒドロペルオキシドおよびアルファ−ベータ不飽和アルデヒドなどの反応性副生成物を形成するため、油硬化法にとって従来よりの懸念事項であった(H. C. Yeoら、Methods in Enzymology、1999年、第300巻、70〜78頁;S−S. Kimら、Lipids、1999年、第34巻、第5号、489〜496頁)。しかし、油および脂肪の脂肪酸の酸化は、普通であり、インビボの生化学的プロセスの制御に重要である。例えば、炎症の促進または軽減などの特定の生化学的経路の調節が、異なる脂質酸化生成物によって制御される(V. N. Bochkov and N. Leitinger、J. Mol. Med.、2003年;第81巻、613〜626頁)。また、オメガ−3脂肪酸は、人間の健康に重要であることが公知であり、特にEPAおよびDHAは、インビボで抗炎症特性を有することが公知である。しかし、EPAおよびDHAは、それ自体が抗炎症性でないが、それらが生化学的に変換される酸化副生成物がインビボで抗炎症効果をもたらす(V. N. BochkovおよびN. Leitinger、2003年;L. J. Roberts IIら、The Journal of Biological Chernistry、1998年; 第273号、第22号、13605〜13612頁)。したがって、生体適合性ではない特定の油酸化生成物が存在するが、インビボで正の生化学特性を有するいくつかの他の生成物も存在する(V. N. BochkovおよびN. Leitinger、2003年;F. M. SacksおよびH. Campos. J Clin Endocrinol Metab、2006;第91巻、第2号、398〜400頁;A. Mishraら、Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2004年;1621〜1627頁)。したがって、適切なプロセス条件を選択することにより、インビボで好ましい生物学的性能を有することになる最終的な化学的プロファイルを有する油酸化の化学反応を使用して(例えば魚油から)架橋疎水性脂肪酸誘導生体材料を生成および制御することができる。
【0118】
本発明に記載されている脂肪酸誘導疎水性非ポリマー生体材料を製造する方法は、生体適合性を有する最終的な化学的プロファイルをもたらし、癒着形成を最小限に抑え、組織分離遮断物(tissue separating barrier)として作用し、材料化学、ならびにインビボでの身体による加水分解および吸収により生成される生成物に対して非炎症性である。これらの特性の理由は、本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)のいくつかの独自の特性による。
【0119】
本発明の1つの重要な態様は、本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)を形成するために、有毒な短鎖架橋剤(グルタルアルデヒドなど)を使用しないことである。短鎖架橋剤は、生分解性ポリマーの加水分解中に溶出し、局所の組織炎症を引き起こし得ることが文献において既に実証されている。脂肪酸誘導生体材料を生成するプロセスは、油の自己酸化または光酸化化学反応を使用して専ら油をコーティング中に硬化させるため、外部架橋剤の添加を含まない。酸化プロセスは、脂肪酸誘導生体材料が水和され、滑りやすくなって、移植の最中および後の摩擦傷害を有意に低減および/または除去することを可能にする、カルボキシルおよびヒドロキシル官能基を形成させる。本明細書に記載の脂肪酸誘導生体材料を作製する方法により、コーティングに存在する脂肪酸、グリセリドおよび他の脂質副生成物のアルキル鎖を無秩序化することを可能にし、それにより、柔軟性があって、移植の間にその材料を処理する(handle)のに役立つコーティングを生み出す。
【0120】
コーティングの生体適合性、およびインビボで観察されるその低または非炎症応答に寄与する、コーティングのいくつかの個々の化学成分が存在する。1つの重要な態様は、本明細書に記載されている脂肪酸誘導生体材料を生み出す方法が、アルデヒドなどの生体適合性の問題を有する酸化脂質副生成物を低量から検出されない量までとすることである。本明細書に記載されるように、これらの生成物は、硬化プロセスの間にほぼ完全に反応するかまたは揮発する。脂肪酸誘導生体材料を生成するプロセスは、未変性の(native)油トリグリセリドのエステルを十分に保存し、生体適合性を有するエステルおよび/またはラクトン架橋を形成する(K. Parkら、1993年;J. M. Andersen、1995年)。
【0121】
その生体適合性を助ける脂肪酸誘導生体材料の全般的な化学特性に加えて、明確な生物学的特性を有する特定の化学成分も存在する。別の態様は、脂肪酸誘導生体材料の生成により生成される脂肪酸化学物質が、図7に示される組織の脂肪酸化学物質と類似することである。したがって、脂肪酸がコーティングから溶出しているときに、それらは、体によって「異物」と見なされず、炎症応答を引き起こす。実際、コーティングに存在するC14(ミリスチン酸)およびC16(パルミチン酸)脂肪酸は、文献において、炎症性サイトカインであるα−TNFの生成を低減することが示された。α−TNFの発現は、後に異常治癒および癒着形成をもたらし得る、ヘルニア修復後の腹膜の(peoritoneal)炎症の「誘発(turning on)」に関与する主たるサイトカインの1つと特定された(Y. C. Cheongら、2001年)。α−TNFは、また、ステント展開の間に引き起こされる血管傷害などの血管傷害および炎症における重要なサイトカインである(D. E. DrachmanおよびD. I. Simon、2005年;S. E. Goldblum、1989年)。ここに特定された脂肪酸に加えて、抗炎症特性を有するさらなる酸化脂肪酸も特定された。本発明に記載されている脂肪酸誘導コーティングから特定された最終成分は、デルタ−ラクトン(すなわち6−員環環式エステル)である。デルタ−ラクトンは、抗腫瘍特性を有すると特定された(H. Tanakaら、Life Sciences 2007;第80巻、1851〜1855頁)。
【0122】
特定されたこれらの成分は、出発油組成および/またはプロセス条件の変化が脂肪酸および/または酸化副生成物プロファイルを常に変化させることができ、脂肪酸生体材料の適用の意図された目的および部位により必要に応じて調整され得るため、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0123】
要約すると、本発明に記載の脂肪酸誘導生体材料の生体適合性および観察されたインビボ性能は、移植および治癒の間における材料の加水分解中の脂肪酸の溶出に起因し、天然の組織に対するその材料の脂肪酸組成の類似性(すなわち生体「ステルス」コーティング)によるインビボの異物応答を防止するのに有益であるばかりでなく、コーティングから溶出する特定の脂肪酸および/または他の脂質酸化成分が、異物反応を防止し、炎症を低減または解消して、患者の転帰の向上をもたらすことに役立つ。また、脂肪酸誘導生体材料から溶出する脂肪酸およびグリセリド成分は、局所組織に吸収され、例えばクエン酸回路で細胞により代謝されることが可能である(M. J. Campell、「Biochemistry: Second Edition.」、1995年、366〜389頁)。したがって、本発明に記載の脂肪酸誘導生体材料(例えばコーティングまたは独立型フィルム)は、生体吸収性をも有する。
【0124】
よって、一態様において、本発明は、架橋脂肪酸誘導生体材料および治療薬を含む医療デバイス用生体吸収性脂肪酸系コーティングを提供する。本発明は、また、架橋脂肪酸誘導生体材料および治療薬を含む生体吸収性脂肪酸を基材とした独立型フィルムを提供する。コーティングおよび独立型フィルムを本明細書に記載の方法に従って調製することができる。
【0125】
脂肪酸誘導材料を使用する治療方法
血管傷害および/または血管炎症に関連する障害を治療または予防するのに好適な脂肪酸を基材とした生体材料も本明細書に提供される。脂肪酸を基材とした生体材料を使用して、組織、例えば軟部組織の傷害を治療または予防に使用することもできる。脂肪酸を基材とした生体材料は、医療デバイス用コーティングまたは独立型フィルムであり得る。別の実施形態において、生体材料のための脂肪酸源は、魚油などの油である。
【0126】
概して、人間には4つのタイプの軟部組織、すなわち上皮組織、例えば、皮膚ならびに血管および多くの器官の内層;結合組織、例えば、腱、靱帯、軟骨、脂肪、血管および骨;筋肉、例えば、(横紋のある)骨格筋、心筋または平滑筋;ならびに神経組織、例えば、脳、脊髄および神経が存在する。本発明の脂肪酸を基材とした生体材料(例えば、独立型フィルム)を使用して、これらの軟部組織領域の傷害を治療することができる。したがって、一実施形態において、本発明の脂肪酸を基材とした生体材料(例えば、独立型フィルム)を創傷治癒のための軟部組織の増殖の促進に使用することができる。また、急性外傷に続いて、軟部組織は、治癒および修復プロセスの結果としての変化および順応を経験し得る。そのような変化は、限定するものではないが、1種類の組織をその組織にとって正常でない形に変換することである異形成;組織の異常発達である形成異常;正常組織の配列における正常細胞の過剰増殖である過形成;細胞死および再吸着または細胞増殖の低下による組織サイズの減少である萎縮を含む。よって、本発明の脂肪酸を基材とした生体材料(例えば、独立型フィルム)を、軟部組織における急性外傷に伴う、またはそれによって引き起こされる少なくとも1つの症候の低減または軽減のために使用することができる。
【0127】
一実施形態において、以下に記載されるように、脂肪酸を基材とした生体材料を使用して、例えば、組織癒着を予防することができる。組織癒着は、ブラントディセクションの結果であり得る。ブラントディセクションを、一般に、切除を伴わない自然割線(natural cleavage line)に沿って組織を分離することによって実施される切開と記載することができる。ブラントディセクションは、当業者に理解されるように、いくつかの異なるブラント外科用具を使用して実施される。ブラントディセクションは、心臓血管、結腸−直腸、泌尿器、婦人科、上部GIおよび形成外科用途等で実施されることが多い。
【0128】
ブラントディセクションが所望の組織を個別の領域に分離した後に、それらの組織の分離を維持することがしばしば必要である。実際、ほぼあらゆるタイプの外科手術の後に外科手術後癒着が生じて、深刻な手術後合併症を引き起こし得る。外科手術癒着の形成は、通常は体内で分かれて存在している組織が、外科手術外傷の結果として、互いに物理的に接触し、互いに接着する複雑な炎症プロセスである。
【0129】
損傷組織の血漿タンパク質を有する出液(bleeding)および漏出物が腹腔内に沈着し、所謂線維素滲出物を形成すると癒着が形成されると考えられる。傷害組織を回復させる線維素は粘着性であるため、線維素滲出物は、腹部における隣接する解剖学的構造体に接着し得る。線維素沈着が局所炎症に対する均一の宿主応答であるため、外傷後または連続的炎症はこのプロセスを悪化させる。この接着は、線維素滲出物が、線維素溶解因子、最も顕著には組織型プラスミノゲン活性化因子(t−PA)の放出によって引き起こされる酵素分解を経るため、傷害後最初の数日間の間可逆的であると思われる。t−PAとプラスミノゲン活性化因子インヒビターの間に一定の作用がある。外科手術外傷は、通常、t−PA活性を低下させ、プラスミノゲン活性化因子インヒビターを減少させる。これが起こると、線維素滲出物における線維素がコラーゲンに置き換えられる。血管が形成し始めて、癒着の発生に至る。これが生じると、癒着は不可逆的になると考えられる。したがって、外傷後最初の数日間にわたる線維素沈着と分解との均衡は、癒着の発生にとって重要である(Holmdahl L. Lancet 1999;353:1456〜57頁)。正常な線維素溶解活性を維持するか、または迅速に回復することができれば、線維沈着物が溶解し、永久的な癒着を回避することができる。癒着は、組織の薄いシートまたは厚い線維帯として現れることができる。
【0130】
炎症応答は、また、移植された医療デバイスなどのインビボの外来物質(foreign substance)によって誘発されることが多い。身体は、この移植片を外来物質と見なし、炎症応答は、異物を隔離するための細胞反応である。この炎症は、移植されたデバイスに対する癒着形成を招き得るため、炎症応答をほとんどまたは全く引き起こさない材料が所望される。
【0131】
したがって、本発明の脂肪酸を基材とした生体材料(例えば、独立型フィルム)を、組織の分離を維持するための遮断物として使用して、癒着、例えば外科手術癒着の形成を回避することができる。癒着防止の用途例は、腹部外科手術、脊髄修復、整形外科手術、腱および靱帯修復、婦人科系および骨盤手術、ならびに神経修復用途を含む。脂肪酸系を基材とした生体材料(例えば、独立型フィルム)を外傷部位に貼付するか、または組織もしくは器官のまわりに巻きつけて、癒着形成を制限することができる。これらの癒着防止用途に使用される脂肪酸を基材とした生体材料への治療薬の添加を、疼痛軽減または感染最小化などのさらなる有益な効果のために利用することができる。脂肪酸を基材とした生体材料の他の外科用途は、硬膜パッチ、バットレス材料、内部創傷治療薬(移植片吻合部など)および内部薬物送達系として独立型フィルムを使用することを含み得る。脂肪酸系生体材料を経皮創傷治癒の用途および非外科分野に使用することもできる。脂肪酸を基材とした生体材料を、火傷または皮膚潰瘍に対する治療薬などの外的創傷の治療に使用することができる。脂肪酸を基材とした生体材料を清浄な、不透過性、非癒着性、非炎症性、抗炎症性包帯として治療薬を含めずに使用することができ、あるいは脂肪酸を基材とした生体材料をさらなる有益な効果のために1つまたは複数の治療薬とともに使用することができる。脂肪酸を基材とした生体材料に1つまたは複数の治療薬が充填または塗布されている場合に、脂肪酸を基材とした生体材料を経皮薬物送達貼付薬として使用することもできる。
【0132】
創傷治癒のプロセスは、傷害に応答する組織修復を含み、それは、上皮成長および分化、線維組織生成および機能、新脈管形成ならびに炎症を含む多くの異なる生物学的プロセスを包含する。よって、脂肪酸を基材とした生体材料(例えば、独立型フィルム)は、創傷治癒用途に好適な優れた材料を提供する。
【0133】
モジュレートされた治癒
モジュレートされた治癒の達成を必要とする組織領域におけるモジュレートされた治癒を達成するのに好適な脂肪酸を基材とした生体材料であって、組成物が上記モジュレートされた治癒を達成するのに十分な量で投与される脂肪酸を基材とした生体材料も本明細書に提供される。一実施形態において、脂肪酸を基材とした生体材料は、医療デバイス用医療コーティングまたは独立型フィルムである。別の実施形態において、生体材料の脂肪酸のための源は、魚油などの油である。
【0134】
モジュレートされた治癒を、生物学的応答を変化させて異物応答を有意に低減する、移植後に観察されるインビボ効果と記載することができる。本明細書に利用されるように、「モジュレートされた治癒」という語句およびこの用語の変形物は、一般には、実質的にそれらの炎症効果を低減する、局在化した組織傷害に応答する異なるカスケードまたは順序の自然発生的組織修復を含むプロセスのモジュレーション(例えば、変化、延滞、減速、低減、抑止)を指す。モジュレートされた治癒は、上皮成長、線維素沈着、血小板活性化および接着、阻害、増殖および/または分化、結合線維組織生成および機能、新脈管形成、ならびにいくつかの段階の急性および/または慢性炎症、ならびにそれらの相互作用を含む多くの異なる生物学的プロセスを包含する。例えば、本明細書に記載の脂肪酸は、炎症相(例えば、血小板または線維素沈着)および増殖相を含むが、それらに限定されない、医学的処置によって引き起こされる血管傷害の治癒に伴う相の1種または複数種を変化、遅延、減速、低減および/または抑止することができる。一実施形態において、「モジュレートされた治癒」は、組織治癒プロセスの開始のときに実質的な炎症相(例えば、血小板または線維素沈着)を変化させる脂肪酸誘導生体材料の能力を指す。本明細書に使用されているように、「実質的な炎症相を変化させる」という語句は、傷害部位における炎症応答を実質的に低減させる脂肪酸誘導生体材料の能力を指す。そのような場合では、少量の炎症が組織傷害に応答できるが、このレベルの炎症応答、例えば、血小板および/または線維素沈着は、脂肪酸誘導生体材料の不在下で生じる炎症と比較すると、実質的に減少している。
【0135】
例えば、本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)は、血管傷害に伴う炎症応答、ならびに組織傷害の後の結合線維組織の過剰形成を遅延または変化させることが動物モデルで実験的に示された。本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)は、血管傷害の後の線維素沈着および血液接触面への血小板接着を遅延または低減することができる。
【0136】
よって、本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)は、瘢痕組織の生成を回避し、傷害後のモジュレートされた期間または遅延された期間に結局は健康な組織の形成を促進する、モジュレートされた治癒効果をもたらす外科用具または医療デバイスとの使用に好適な優れた吸収性細胞界面を提供する。理論に縛られることなく、このモジュレートされた治癒効果は、血管傷害の治癒プロセスに伴う分子プロセスのいずれかのモジュレーション(例えば、変化、遅延、減速、低減、抑止)に起因し得る。例えば、本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)は、医療デバイス移植片(例えば、外科用メッシュ、グラフトもしくはステント)または外科用具と、血管の内面を裏打ちする内皮細胞および平滑筋細胞などの血管壁を構成する細胞およびタンパク質との間の遮断物または遮断層として作用することができる。遮断層は、外科移植片と血管表面との相互作用を防止することによって、血管壁の細胞およびタンパク質による治癒プロセスの開始を防止する。この点において、遮断層は、血管壁に結合し、血管壁の細胞およびタンパク質が外科移植片を認識するのを阻止するパッチとして作用する(すなわち、遮断層は、細胞―デバイスおよび/またはタンパク質−デバイス相互作用を阻止する)ことによって、血管治癒プロセスの開始を阻止し、線維素活性化および沈着ならびに血小板活性化および沈着を回避する。
【0137】
別の非結合例において、モジュレートされた治癒効果は、血管壁を構成する細胞およびタンパク質と、さもなければ血管治癒プロセスを開始する血流の様々な成分との間のシグナル伝達のモジュレーション(例えば、変化、遅延、減速、低減、抑止)に起因し得る。言い方を変えれば、血管傷害の部位において、本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)は、内皮細胞および/または平滑筋細胞などの血管壁の細胞と、さもなければ損傷細胞と相互作用して治癒プロセスを開始する血管の他の細胞および/またはタンパク質との相互作用をモジュレートすることができる。また、血管傷害の部位において、本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)は、血管壁のタンパク質と、血液の他の細胞および/またはタンパク質との相互作用をモジュレートすることによって、治癒プロセスをモジュレートすることができる。
【0138】
本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)を、所望の期間にわたってその完全性を維持し、次いで加水分解を開始し、それを取り囲む組織に吸収されるように設計することができる。代替的に、脂肪酸誘導生体材料を、脂肪酸誘導生体材料が被験体に挿入された直後に、それが周囲組織にある程度吸収されるように設計することができる。脂肪酸誘導生体材料の配合に応じて、1日から24カ月、例えば、1週間から12カ月、例えば1カ月から10カ月、例えば3カ月から6カ月の期間内にそれを周囲組織に完全に吸収させることができる。動物試験は、移植により生じ、3から6カ月間以上にわたって継続するおよびそれを超えて脂肪酸誘導生体材料の再吸収を示した。
【0139】
薬物放出プロファイルの調整
様々な態様において、本発明は、脂肪酸誘導コーティング、好ましくは魚油を硬化して、コーティングまたはフィルムからの治療薬の放出プロファイルを調整できる、1つまたは複数の治療薬を含む脂肪酸誘導生体材料コーティングまたは独立型フィルムを得る方法を提供する。例えば、コーティング組成、温度および硬化時間を変化させることによる脂肪酸(例えば、魚油などの油)の化学的性質の変化を介して放出プロファイルを調整することができる。被覆デバイス上の薬物含有層の位置は、非ポリマー架橋脂肪酸誘導生体材料コーティングの放出プロファイルを変化させるさらなるメカニズムを提供する。これを、例えば、薬物を硬化された基部コーティング層に充填し、上塗被覆層硬化コーティング(topcoat overlayer cured coating)を既に硬化された封入基部層(base layer)上に塗布することによって達成することができる。
【0140】
本発明の様々な実施形態における硬化魚油コーティングおよび独立型フィルムの利点は、利用される硬化条件(すなわち硬化時間および温度)が、後のコーティングの分解に影響を与えるコーティング架橋密度および副生成物形成の量に直接影響を及ぼし得ることである。したがって、採用される硬化条件を変化させることによって、コーティングに含まれる目的の治療化合物の溶解速度を変化させることもできる。
【0141】
様々な実施形態において、例えば遊離ラジカル捕捉剤などの薬剤を出発材料に添加して、形成される脂肪酸誘導生体材料の薬物放出プロファイルを調整することができる。様々な実施形態において、例えば、ヒドロペルオキシド形成を低減することによって魚油における自動酸化を緩慢化するためにビタミンEを出発材料に添加することで、硬化魚油コーティングに観察される架橋の量を減少させることができる。加えて、他の薬剤を使用して、出発材料の油組成物中での治療薬の溶解度を高めるか、または薬物が硬化プロセスの間に分解するのを防止するか、またはその両方を行うことができる。例えば、ビタミンEを使用して、魚油出発材料中での特定の薬物の溶解度を高めることによって、究極的な硬化コーティングが有する薬物充填量の調整を容易にすることができる。したがって、コーティングに存在するビタミンEの量を変化させると、本発明の脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングおよび独立型フィルム)の架橋および化学組成を変化させるさらなるメカニズムが得られる。
【0142】
様々な実施形態において、本発明は、脂肪酸誘導生体材料の薬物放出プロファイルが、2つ以上のコーティングの供給(provision)および治療薬の位置の選択を介して調整される、脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングおよび独立型フィルム)を提供する。例えば、医療デバイスの裸の部分を第1の出発材料で被覆して第1の硬化コーティングを生成し、次いで第1の硬化コーティングの少なくとも一部を薬物−油処方物で被覆して、第2の上塗り層コーティング(overlayer coating)を生成することによって、薬物の位置を変化させることができる。第1の出発材料は、1つまたは複数の治療薬を含むことができる。様々な実施形態において、第2の上塗り層コーティングも硬化される。第1のコーティング、その上塗り層コーティング(overlay coating)またはその両方の薬物充填量(drug load)または薬物放出プロファイルまたはその両方を、異なる硬化条件の使用および/または本明細書に記載の遊離ラジカル捕捉剤(例えばビタミンE)の添加を介して調整することができる。2つの層を設けるプロセスを拡大して3つ以上の層を設けることができ、それらの層の少なくとも1つは、魚油などの脂肪酸含有油から調製された疎水性架橋脂肪酸誘導生体材料を含む。加えて、それらの層の1つまたは複数の層は、薬物を溶出することができ、そのような層の薬物放出プロファイルを、本明細書に記載の方法を使用して調整することができる。
【0143】
様々な実施形態において、本発明は、コーティング全体の薬物放出プロファイルが、異なる薬物放出プロファイルを有する2つ以上のコーティング領域の調製ならびに治療薬の位置の選択を介して調整されるコーティングを提供する。様々な実施形態において、異なる薬物放出特性を有する異なるコーティング領域の形成が、位置特異的硬化条件、例えば位置特異的UV放射、および/または例えばインクジェット印刷法による被覆デバイスへの出発材料の位置特異的沈着によって得られる。
【0144】
コーティングアプローチ
図8は、本発明の一実施形態による、例えば薬物溶出被覆ステントなどの医療デバイスを製造する1つの方法を示す。上記方法は、ステントなどの医療デバイスを提供する工程(ステップ100)を含む。次いで、非ポリマー架橋脂肪酸誘導生体材料コーティングを医療デバイスに塗布する(ステップ102)。コーティングをステントなどの医療デバイスに塗布するこの基本的方法は、記載の方法に含まれるいくつかの異なる変形を有することができることを当業者なら理解するはずである。コーティング物質を塗布して、医療デバイスにコーティングを形成する工程は、いくつかの異なる塗布方法を含むことができる。例えば、医療デバイスをコーティング物質の液体溶液に浸漬させることができる。コーティング物質をデバイスに噴霧することができる。別の塗布方法は、コーティング物質を医療デバイスに塗ることである。静電接着(electrostatic adhension)などの他の方法を利用して、コーティング物質を医療デバイスに塗布することができることを当業者なら理解するはずである。いくつかの塗布方法は、コーティング物質に、および/またはコーティングを受ける医療デバイスの構造に特異的であってよい。よって、本発明は、本明細書に記載の出発材料塗布の具体的な実施形態に限定されず、一般には、得られたコーティングに所望の特性を維持させるのに必要なあらゆる措置を講じて、医療デバイスの脂肪酸誘導生体材料コーティングとなる、出発材料の塗布に適用されることを意図する。
【0145】
図9は、図8の方法の1つの例示的な実施を示すフローチャートである。図9に示されるステップに従って、本発明の非ポリマー脂肪酸誘導生体材料から形成される生体吸収性担体成分、または当該生体材料の生体吸収性担体成分が、治療薬成分とともに供給される(ステップ110)。生体吸収性担体成分の供給および治療薬成分の供給は個々に、または組み合わせて行われ得、任意の順序で、または同時に行われ得る。生体吸収性担体成分を治療薬成分と(または後者を前者と)混合して、疎水性脂肪酸誘導生体材料コーティングになる出発材料を形成する(ステップ112)。出発材料をステント10などの医療デバイスに塗布してコーティングを形成する(ステップ114)。次いで、本明細書に記載の硬化方法のいずれかによってコーティングを硬化させて(ステップ116)、脂肪酸誘導生体材料コーティングを形成する。
【0146】
次いで、任意の数の異なる滅菌プロセスを使用して被覆医療デバイスを滅菌する(ステップ118)。例えば、酸化エチレン、ガンマ線、Eビーム、水蒸気、ガスプラズマまたは蒸気化過酸化水素を利用して滅菌を実施することができる。他の滅菌法も適用できること、および本明細書に示される滅菌法は、好ましくはコーティングに悪影響を与えることなく、被覆ステントを滅菌させる滅菌法の例にすぎないことを当業者なら理解するはずである。
【0147】
油成分または油組成物を複数回添加して、コーティングを形成するに際して複数の階層(tier)を生成できることに留意されたい。例えば、より厚いコーティングが所望される場合は、油成分または油組成物のさらなる階層を追加することができる。油を硬化させるときおよび油に他の物質を添加するときと関連する異なる変形が、いくつかの異なるプロセス構成で可能である。よって、本発明は、例示される具体的な順序に限定されない。むしろ、例示される基本的なステップの異なる組合せが本発明によって予測される。
【0148】
図10A〜10Eは、本発明のコーティング10と組み合わされる上記医療デバイスの他の形の一部を示す。図10Aは、コーティング10が結合または接着されたグラフト50を示す。図10Bは、コーティング10が結合または接着されたカテーテルバルーン52を示す。図10Cは、コーティング10が結合または接着されたステント54を示す。図10Dは、本発明の一実施形態によるステント10を示す。ステント10は、治療結果に影響を与えるようにコーティングを塗布するのに好適である医療デバイスを表す。ステント10は、空隙14がその間に形成された一連の相互接続されたストラット12(strut 12)で構成される。ステント10は、全体的に円筒形である。よって、ステント10は、内面16および外面18を維持する。図10Eは、本発明の一実施形態に従って生体適合性メッシュ構造体10として表される被覆外科用メッシュを示す。生体適合性メッシュ構造体10は、平坦構成、湾曲構成またはロール構成で患者内に配置できる程度に柔軟である。生体適合性メッシュ構造体10は、短期間および長期間の適用の両方に対して移植可能である。生体適合性メッシュ構造体10の具体的な配合に応じて、生体適合性メッシュ構造体10は、移植後数時間から数日間の期間、または恐らくは数カ月間の期間、または永久に存在することになる。
【0149】
具体的に例示または記載されていない医療デバイスに加えて、例示されている医療デバイスの各々を、本明細書に記載の方法またはそれらの変形を使用してコーティング10と組み合わせることができる。よって、本発明は、例示されている例示的な実施形態に限定されない。むしろ、例示の実施形態は、本発明の例示的な実施態様にすぎない。
【0150】
様々な態様および実施形態を以下の実施例によりさらに記載する。本実施例は、例示の目的で示され、限定することを目的とするものではない。
【実施例】
【0151】
以下の実施例は、本発明に記載の新規の疎水性架橋脂肪酸誘導生体材料の化学的性質を特徴づけ、形成の化学的メカニズムに伴う境界(boundary)の一部、およびそれらのメカニズムの変化が最終生成物の特性(例えば、治療便益および/または薬物放出プロファイル)にどのように影響するかを示す。加水分解生成物のいくつかの本質(identity)を、インビトロ実験を介して特定し、インビボ実験と関連づけて、コーティングまたは独立型フィルムを生体吸収させる能力を実証する。最後に、冠状動脈ステントおよびヘルニアメッシュデバイス上の薬物送達用途における本発明に記載の脂肪酸誘導生体材料の有用性を示す実施例を提示する。
【0152】
以下の実施例は、実証を目的とするものであって、限定することを意図しない。
【0153】
(実施例1)
魚油から誘導された新規の生体材料の特徴付け
本実施例において、被覆医療デバイス(例えばポリプロピレンメッシュ)を高空気流オーブンにて200°Fで24時間にわたって硬化させた後、魚油を、魚油に存在するC=C結合を酸化させて酸化副生成物(すなわち、炭化水素、アルデヒド、ケトン、グリセリド、脂肪酸)を形成させ、元々の油のトリグリセリドから誘導されたエステルを十分に保存しながら、ポリプロピレンメッシュを封入する架橋生体材料コーティングに変換した。副生成物を揮発させた後にエステルおよびラクトン架橋を形成させ、油を生体吸収性疎水性架橋脂肪酸誘導生体材料中に固化させる。FTIR、X線回折、ならびにGC−FID脂肪酸組成分析およびGC−MSを魚油誘導コーティングに対して実施してその化学的性質を特徴付けた。
【0154】
FTIR分析:図11は、未硬化魚油(801)と最終硬化脂肪酸誘導生体材料との比較を示すFTIR分析である。FTIRは、コーティングがヒドロキシル(800)、メチレン(805)、トランスC=C(810)およびラクトン/エステル結合(815および830)を含んだことを示す。架橋(830)の存在の検出に加えて、複雑なカルボニルバンドの形が得られ、エステル(820)、ケトン(825)、アルデヒド(825)および脂肪酸(825)吸収を含むと決定された。いくつかの異なるタイプのエステル架橋(例えば、無水物、ラクトン、脂肪族過酸化物等)が可能であるが、ラクトン/バンドの幅広さは、1740〜1840cm−1からの単一の架橋ピーク吸収が存在するため、ラクトン(環式エステル)官能基とエステル(R−C=C−O−CO−アルキル)官能基の組合せが支配的であることを示唆している。対照的に、無水物(CO−O−CO)および脂肪族過酸化物(CO−O−O−CO)の両方が、2つのカルボニルを有し、約1850〜1800および1790〜1740cm−1付近に吸収をもつ2つのピークを有することが期待される。また、魚油および脂肪酸誘導生体材料エステル(820)吸収バンドの評価は、硬化後のエステルバンド高さが顕著に低下しないことを示し、このことは、元のトリグリセリドエステル基が硬化プロセスを通じて十分に保存されていることを示す。メチレンバンドの位置は、コーティングに存在する炭化水素鎖が無秩序状態(disordered state)(約2918cm−1の上方の位置)にあり、それが非結晶構造と一致することを示した。この結果は、脂肪酸誘導生体材料コーティングが非晶質(すなわち、無秩序)であることを示したX線回折結果によっても確認された。さらに、魚油出発材料(835)中のシスC=C結合は、硬化プロセスの間にほぼ完全に消費されることが観察された。硬化プロセスの間にトランスC=C結合(810)が増加したが、元のシスC=C結合と比較してピーク面積が減少し、それは、硬化プロセスの間の油に中のC=C結合の酸化と一致する。
【0155】
FTIRスペクトルは、また、正規化ピーク高さ比を使用して脂肪酸誘導生体材料の硬化の間のコーティングの化学的性質の変化を監視するために、文献(例えば、その全内容が参照により本明細書に組み込まれているVan de Voortら、(1994年)JAOCS、第70巻、第3号、243〜253頁参照)に記載の手順を使用して、硬化プロセスの間に動力学的に取得された。図12Aは、温度の関数としてのOH、グリセリドエステルおよびラクトン/エステルの正規化ピーク高さの変化を比較する。図12Aのデータは、OHバンドが11時間目まで急激に増大し、その後、このOHバンドが硬化プロセスの残りを通じて劇的に減少することを示す。これは、コーティングが物理的にゲルに変換することが観察される10〜11時間目付近でもまた劇的に増大するラクトン/エステル架橋バンドの増大に相関する。また、この同じ時間間隔で、C=C結合は、シスからトランス配置に異性化することで、エステルおよびラクトン結合の形成(すなわち、油に存在する酸化脂肪酸およびグリセリド中のヒドロキシル官能基とカルボキシル官能基とのエステル化(図12B))の促進に役立つ。11時間目の後に、トランスC=C結合は、硬化プロセスが継続するに従って減少し、それは、C=C結合が酸化されていることを示す。硬化プロセスの終了までに、トランスC=Cバンドは、元のシスC=C結合のピーク面積のほぼ半分になる。最後に、Van de Voortらによって言及された減算技法を使用して、未変性の(native)グリセリドバンドにおける少量の熱加水分解を解明した後、正規化ピーク高さ測定を使用して硬化反応中のエステル化を解明することが可能である(図12A)。しかし、既に述べたように、減算および正規化を行わないで硬化前および硬化後のグリセリドピークの高さにおける全体のピーク高さは、ほとんど変化していない(図11)。
【0156】
GC−FID脂肪酸組成分析:図13に示されるように、公定AOCS法Ce 1b−89を使用して、GC脂肪酸プロファイル分析を魚油および魚脂肪酸誘導生体材料に対して実施した。脂肪酸誘導生体材料コーティングは、AOCS手順に概略的に記載されている条件を使用して完全に鹸化されたことに留意することが重要である。GC脂肪酸プロファイルデータは、多価不飽和脂肪酸が顕著に減少し、一価不飽和および飽和脂肪酸のみが検出されるため、生体材料に存在する脂肪酸のC=C結合が硬化プロセスの間に酸化および開裂されることを証明している。(C20−1(すなわち20個の炭素、1個の二重結合)を超える)より長い多価不飽和脂肪酸は、硬化プロセス後に、検出されなくなるまで顕著に減少する。これは、存在する脂肪酸の鎖長を減ずることなく、C=C結合をCH2−CH2官能基に変換する(すなわち、C20−5が、同様のピーク面積%を有するC20−0になる)水素化プロセスと対照的である。
【0157】
GC−MS組成分析:GC−MS組成分析を(魚油からの)脂肪酸誘導生体材料に対して実施した。この生体材料を65℃でTHFに溶解させ、可溶性成分を不溶性成分から濾別した。このプロセスを使用して、コーティングの68%がTHFに不溶であり、架橋脂肪酸およびグリセリドで構成されると決定した。コーティングの残りの32%(可溶部)を、GC−MSを使用してアッセイし、図14に示されるように、異なる副生成物の正体(identity)および量を決定した。GC−MSは、検出および同定されたTHF可溶性成分の90%超が脂肪酸およびグリセリドであり、副生成物の約5%のみが、個々にアルデヒドまたはケトンであると同定されたことを示した。最後に、個別の実験において、37℃で24時間にわたってヘキサン抽出を使用してGC−MS分析を実施した。図14に既に同定されている生成物に加えて、約150〜300ppmの3つの異なるデルタ−ラクトンも検出された。
【0158】
(実施例2)
他の油出発材料から誘導された新規の生体材料の特徴付け
実施例2では、実施例1に記載の酸化架橋メカニズムによって非ポリマー脂肪酸誘導疎水性生体材料コーティングを形成する能力に対するはじめの脂肪酸出発物の化学的性質(initial fatty acid starting chemistry)の影響を決定するために、亜麻仁油、魚油、グレープ種子油またはオリーブ油を出発材料として使用して、個別の被覆医療デバイスを高空気流オーブンにて200°Fで24時間にわたって硬化させた。硬化プロセス後、各脂肪酸誘導コーティングの物理特性を、FTIR、GC−FID脂肪酸プロファイルおよびGC−FIDアルデヒドアッセイ試験を用いて分析することに加えて、記録した。
【0159】
物理特性:表2は、200°Fで24時間硬化した後の各油コーティングに観察された物理特性の概要を示す。
【0160】
【表2】
FTIR分析:図15は、オリーブ、亜麻仁、グレープ種子および魚脂肪酸誘導生体材料に対する200°F硬化プロセス後のカルボニル吸収領域のFTIRスペクトルを示す。カルボニルバンド領域のFTIRスペクトルは、表2に観察された物理特性に相関する。液体であるオリーブ油は、1755〜1840cm−1からの検出可能な量のラクトン/エステル架橋を示さない。これは、異なる量の架橋を示す他の油と対照的であり、採用された条件下では魚油が最も多くの架橋を有する。図16は、図15に示されるFTIRスペクトルからのシスおよびトランスC=C、ラクトン/エステル架橋および脂肪酸副生成物に対する正規化ピーク比のプロットを示す。図16のデータは、同じ硬化プロセスに異なる出発油を使用して、生成物の最終的な化学的性質を変化させることができるが、これらのプロセス条件下で硬化脂肪酸誘導生体材料コーティングを成さないオリーブ油については、ピーク比が、魚油、亜麻仁油およびグレープ種子油生体材料コーティングと比較して顕著に異なることを示す。
【0161】
GC−FID脂肪酸組成分析:図17〜18に示されるように、公定AOCS法Ce 1−89bを使用して、魚油および魚脂肪酸誘導疎水性架橋ゲルに対してGC脂肪酸プロファイル分析を実施した。グレープ種子油、魚油および亜麻仁油については、硬化前および硬化後の脂肪酸組成に顕著な差が観察される。具体的には、硬化プロセスの間に長鎖多価不飽和脂肪酸が酸化され、主として飽和および不飽和脂肪酸のみが検出される(図17および18A)。対照的に、オリーブ油(図18B)については、最初と最後の脂肪酸組成分析でほとんど相対的な変化がない。オリーブ油と他の油との出発物の脂肪酸組成の差異は、出発物の多価不飽和脂肪酸組成である。オリーブ油は、多価不飽和脂肪酸をわずか9%しか有さず、他の全ての油は、少なくとも40%以上を有する。
【0162】
GC−FIDアルデヒドアッセイ分析:各生体材料コーティングに対して、37℃にて1時間または24時間にわたってそのサンプルをヘキサンで抽出し、液体溶液をそのままGCに注入することによって、GCアルデヒドアッセイを実施した。外部標準曲線を使用してアルデヒドを定量した。先のGC−MS実験により、アルデヒドの正体を決定することが可能になり、定量化に使用すべき適切な外部標準が選択された。初期の試験は、魚油誘導生体材料をヘキサンで1時間にわたって抽出し、オリーブ油が硬化後も液体状態に留まるため、オリーブ油をヘキサンで希釈することを含んでいた。この抽出実験の結果は、アルデヒドをオリーブ油サンプルから容易に定量することが可能であるが、魚油コーティングからヘキサンで1時間だけ抽出した後に魚油コーティングから検出することができないことを示していた。魚油、グレープ種子油および亜麻仁油のヘキサンによる徹底的抽出を37℃で24時間にわたって実施した。魚油、グレープ種子油および亜麻仁油についてのアルデヒドの全量は、オリーブ油において検出された量より一桁超少なかった。
【0163】
【表3】
【0164】
【表4】
様々な油についての脂肪酸範囲:亜麻仁、グレープ種子および魚脂肪酸誘導生体材料を、本実施例の手順に従って調製した。GC脂肪酸プロファイル分析は、以下の脂肪酸範囲を示した。
【0165】
【表9】
結論:この実験群は、脂肪酸誘導生体材料(例えば、コーティングまたは独立型フィルム)を生成するために、油源は、不飽和脂肪酸のみならず、具体的には、本発明に記載の新規の脂肪酸誘導生体材料を形成するための多価不飽和脂肪酸を含む必要がある。また、生成したコーティングは、有機溶媒による過酷な抽出条件を採用しなければ検出できない硬化プロセスからの非常に少量の残留アルデヒドを含む架橋マトリックスを形成する。
【0166】
(実施例3)
魚油から誘導された新規の生体材料のインビトロ水和能力
以下の実施例では、新規の脂肪酸系疎水性架橋生体材料の水和および加水分解能力を特徴付け、インビトロおよびインビボ実験から、材料から放出された溶出成分の化学構造を同定する。
【0167】
被覆医療デバイスを高空気流オーブンにて200°Fで24時間にわたって硬化させた後、魚油を、魚油に存在するC=C結合を酸化させて酸化副生成物(すなわち、炭化水素、アルデヒド、ケトン、グリセリド、脂肪酸)を形成させながら、元の油トリグリセリドから誘導されるエステルを十分に保存することによって、ポリプロピレンメッシュを封入する脂肪酸誘導生体材料コーティングに変換した。副生成物を揮発させた後にエステルおよびラクトン架橋を形成させて、油を生体吸収性疎水性架橋生体材料中に固化させる。脂肪酸誘導生体材料が0.1MのPBS中にて37℃で水和する速度を決定するために、FTIRおよび接触角測定を実施した。
【0168】
接触角測定は、表面の疎水性/親水性特性を決定するために、生体材料の表面に一滴の水を添加することによって行われる。水滴が表面に広がる(または「濡らす」)能力を決定するために、水滴の各側の接触角を測定する。(80度を超える)大きな接触角は、疎水性の表面を示す。例えば、疎水性材料であるPTFEは、典型的には、110〜120度の接触角測定値を示す。対照的に、小さな接触角は、親水性の表面を示す(S. W. Jordanら、Biomaterials. 2006年、第27巻、3473〜3481頁)。細胞膜の外面に見出されるものなどのリン脂質は、40〜60度の接触角を有する(S. W. Jordanら、2006年)。
【0169】
図19は、時間の関数として魚油誘導生体材料に対して実施された接触角測定を示す。最初に、魚脂肪酸誘導生体材料から得られた接触角は、疎水性表面であることを示す100度であった。しかしながら、0.1MのPBS溶液に対する曝露後から1時よりも前に、コーティングが急速に水和し、60度の接触角が得られ、親水性の表面が生成されたことを示した。物理的に、魚脂肪酸誘導生体材料が膨潤し、滑りやすくなったが粘着性でなく、物理的に無傷の状態を維持した。0.1MのPBSに対する曝露の6時間後に、コーティング接触角は、約32度で平坦化した。物理的に、コーティングは、継続的に、滑りやすいが粘着性のない表面を示し、物理的に無傷の状態を維持する。コーティングが水和し、物理的に無傷の状態を維持する能力により、外科移植の間の取扱いおよび配置の向上を可能にし、ヘルニア修復の間または冠動脈ステント移植の間などにおける患者に対する摩擦傷害を最小限にする。医療デバイスの配置によって引き起こされる摩擦傷害は、ヘルニア修復における癒着形成および冠動脈ステント展開における再狭窄などの臨床的合併症をもたらし得る炎症を招き得る。
【0170】
0.1MのPBSでの水和の10分後のコーティングのFTIR分析を図20Aに示す。過剰の水をコーティング分析の前に除去し、Ge感知結晶体を備えたSpecac Silvergate ATRアクセサリをコーティングの分析に使用した。図20AのFTIRスペクトルは、脂肪酸誘導生体材料が、PBS溶液に10分間浸漬された後に、わずか10分間の水和後の強いOH吸収バンドの存在によって示されるように、急速に水を吸収することを示している。また、6時間までの時間の関数として取得され、コーティングからのカルボニルバンドの高さに対して正規化されたFTIRの測定値(図20B)は、OH湾曲(OH bending)吸収バンドが継続的に大きくなり、コーティングが水和しているときの4時間目で横ばいになる(left off)ことを示しており、それは、接触角測定値と一致する。最後に、1580cm−1においてOH湾曲モードにショルダーが存在し、それは、水和環境における脂肪酸COOHのCOO−へのイオン化と一致する(K. M. FaucherおよびR. A. Dluhy、Colloids and Surfaces A、2003年、第219号、125〜145頁)。
【0171】
(実施例4)
塩基消化を使用する、魚油から誘導された新規の生体材料のインビトロ加水分解化学反応の分析
以下の実施例において、被覆医療デバイスを高空気流オーブンにて200°Fで24時間にわたって硬化させた後、魚油を、魚油に存在するC=C結合を酸化させて酸化副生成物(すなわち、炭化水素、アルデヒド、ケトン、グリセリド、脂肪酸)を形成させながら、元の油トリグリセリドから誘導されるエステルを十分に保存することによって、ポリプロピレンメッシュを封入する架橋生体材料ゲルコーティングに変換した。副生成物を揮発させた後にエステルおよびラクトン架橋を形成させて、油を生体吸収性疎水性架橋生体材料中に固化させる。塩基消化を使用して、コーティングが加水分解される能力を調べ、FTIRを使用して、中和後にその成分を同定した。
【0172】
魚脂肪酸誘導生体材料コーディングを0.1MのNaOH溶液に浸漬させ、室温にて20分未満で完全に加水分解して、透明な琥珀色溶液を生成させた。次いで、HClを使用して、塩基性溶液を中性pHに調整した後、沈殿物を形成させた。Ge感知結晶体を備えたSpecac Silvergate ATRアクセサリを備えたFTIRを使用して中和溶液および沈殿物の両方を分析した。FTIR分析の前に材料をGe ATR結晶体上で乾燥させた。加水分解したコーティング画分について取得したFTIRスペクトルを図21に示す。乾燥後の中和溶液のFTIRスペクトル(図15A)は、OH、CH2、エステルC=O、脂肪酸C=OおよびCOO−(反対称および対称)吸収バンドを示す。OHおよびエステルC=Oは、グリセロールおよびグリセリド成分の存在と一致する。加水分解溶液からのカルボン酸イオン(COO−)ピークは、ケトン分子もアルデヒド分子もこの領域において吸収バンドを示さないため、コーティングにおける脂肪酸に特有のものである(K. M. Faucher、2003年;Van de Voortら、1994年)。図21AにおけるOHおよびCOO−バンドの強度は、加水分解溶液が主として脂肪酸、グリセリドおよびグリセロール成分を含むことを示している。脂肪酸誘導生体材料コーティングの塩基消化の中和に際して沈殿した材料に関する図21Bは、強いCH2、C=OおよびCH2鋏形、横揺れおよび縦揺れモードの存在を伴う脂肪酸結晶化スペクトルに特徴的なスペクトルを示した(K. M. Faucher、2003年)。これらの結果は、検出されたコーティング成分の大半が脂肪酸およびグリセリドであることを示した図14(実施例1)に示されるコーティングのGC−MS有機抽出と一致する。
【0173】
(実施例5)
0.1MのPBS溶液中の魚油から誘導された新規の生体材料のインビトロ加水分解化学反応の分析
以下の実施例において、被覆医療デバイス(例えばポリプロピレンメッシュ)を高空気流オーブンにて200°Fで24時間にわたって硬化させた後、魚油を、魚油に存在するC=C結合を酸化させて酸化副生成物(すなわち、炭化水素、アルデヒド、ケトン、グリセリド、脂肪酸)を形成させ、元々の油のトリグリセリドから誘導されたエステルを十分に保存しながら、ポリプロピレンメッシュを封入する架橋生体材料ゲルコーティングに変換した。副生成物を揮発させた後、エステルとラクトンの架橋を形成させ、油を生体吸収性疎水性架橋生体材料中に固化させる。コーティングを徐々に加水分解させる能力を、0.1MのPBS溶液を使用して調べた。30日間にわたるPBS中での脂肪酸誘導生体材料の加水分解の後に、GC−FID脂肪酸プロファイルおよびGPCクロマトグラフィー測定を使用してPBS溶液を分析した。
【0174】
図22は、PBS溶液を乾燥させ、次いでAOCS公定法Ce1−89bに記載されるGC−FID脂肪酸プロファイル分析を実施して、溶液に存在する脂肪酸を特定して得られた脂肪酸プロファイル結果を要約したものである。図22は、PBS溶液から特定された脂肪酸がコーティングそのものから検出された脂肪酸と同じであることを示す(図22対図13)。加水分解溶液に対してもGPC分析を実施し、それらの結果を表5に要約する。GPC結果は、特定された大多数の分子量成分(80%)が、コーティングの脂肪酸成分と一致して、分子量500未満であることを示した。また、コーティングのグリセリド成分は、分子量が約1000であることを特定することが可能であった(コーティングの15%)。GPC結果は、また、無視できる量(約4%)の高分子量ゲルを示した。それらのGPC結果は、脂肪酸誘導生体材料が架橋グリセリドおよび脂肪酸で構成されること、ならびにコーティングが非ポリマーであることを示す脂肪酸誘導コーティングに対する他の分析的特徴づけ実験を裏づけている。
【0175】
【表5】
(実施例6)
インビボで移植された後の様々な時点における魚脂肪酸誘導生体材料のFTIR分析
以下の実施例において、被覆医療デバイス(例えばポリプロピレンメッシュ)を高空気流オーブンにて200°Fで24時間にわたって硬化させた後、魚油を、魚油に存在するC=C結合を酸化させて酸化副生成物(すなわち、炭化水素、アルデヒド、ケトン、グリセリド、脂肪酸)を形成させ、元々の油トリグリセリドから誘導されるエステルを十分に保存しながら、ポリプロピレンメッシュを封入する架橋生体材料ゲルコーティングに変換した。副生成物を揮発させた後にエステルおよびラクトン架橋を形成させ、油を固化させて生体吸収性疎水性架橋生体材料を得た。様々な時間の長さにわたるラット腹壁欠損(abdominal wall defect)への移植後の本明細書に記載のコーティングを評価するために、本実施例を実施した。メッシュサンプルをラット腹壁欠損に4、7、14、21および28日間にわたって移植した。それぞれの時点において、メッシュの全断片および一部の周囲組織を外植し、食塩水浸漬ガーゼで包み、試料容器内に入れた。外植メッシュの切片(約1cm×1cm)を切除し冷蔵庫内でNERL水に終夜浸漬させ、フード内で終夜空気乾燥させた。乾燥したメッシュ外植体を、Specac Silvergate HATR Geアクセサリを使用して分析して、コーティングのバルク切片を分析した。
【0176】
理学的に、外植体において、経時的に粗面側(腹膜側)で増大した組織内植を有しているのが観察された。この内植は、後の時点(21および28日目)において除去するのが非常に困難であった。後の時点(21および28日目)において外植体の平滑面に非常に薄い組織の層が認められた。この組織の層は、コーティングに付着していないが、その上に広がっており、容易に除去された。加えて、コーティングは本実施例の過程を通して吸収されたようであった。なぜなら、通常、裸のポリプロピレン繊維が、移植前にコーティングの連続的な平滑面上に埋めこまれる部位で露出したコーティングの薄化が明らかに示されたからであった。
【0177】
図23は、時間の関数として、CH2反対称ストレッチに対して正規化されたラクトン/エステル架橋(◆)、グリセリドエステル(■)、脂肪酸(▲)およびタンパク質(X)バンドピーク高さの正規化された変化のプロットを示す。このデータは、FTIRデータで観察されたピーク高さの変化を数値的に要約したものである。これらの結果は、メッシュコーティングがインビボで加水分解および吸収されることを示している。化学的に、それは、脂肪族過酸化物、無水物およびラクトン架橋バンドを分解することに加えて、短鎖脂肪酸、ケトンおよびアルデヒド副生成物の吸収によって生じていることは明らかである。インビボのGI管におけるトリグリセリドおよび脂肪酸の代謝に関する文献調査から、より短い鎖長の副生成物は、架橋グリセリド成分より迅速に吸収されることが推定される。FTIRデータは、この結果と一致するようである。特定の理論に縛られることなく、架橋バンドの加水分解および先行文献に基づいて、FTIRデータは、コーティングの加水分解および/または酵素(すなわちリパーゼ)生体吸収を裏づける。
【0178】
(実施例7)
インビボで移植された後の様々な時点における魚脂肪酸誘導生体材料のGC−FID脂肪酸プロファイル分析
本実施例において、被覆医療デバイスを高空気流オーブンにて200°Fで24時間にわたって硬化させた後、魚油を、魚油に存在するC=C結合を酸化させて酸化副生成物(すなわち、炭化水素、アルデヒド、ケトン、グリセリド、脂肪酸)を形成させ、元々の油トリグリセリドから誘導されるエステルを十分に保存しながら、ポリプロピレンメッシュを封入する架橋生体材料ゲルコーティングに変換した。副生成物を揮発させた後にエステルおよびラクトン架橋を形成させ、油を生体吸収性疎水性架橋生体材料中に固化させる。様々な時間の長さにわたるラット腹壁欠損への移植後の本明細書に記載のコーティングを評価するために、本実施例を実施した。メッシュサンプルをラット腹壁欠損に4、7、14および21日間にわたって移植した。それぞれの時点において、メッシュの全断片および一部の周囲組織を外植し、試料容器内に仕込み、分析するまで−80℃で凍結させた。外植メッシュの切片(約2.5cm×2.5cm)の切片を組織から切除し、AOCS法Ce 1−89bを用いたGC−FID脂肪酸プロファイル分析を施した。
【0179】
実施例4に記載されているFTIR分析と同様に、外植体は、経時的に粗面側(腹膜側)での増大した組織内植を有しているのが観察された。この内植は、後の時点(21日目)において除去するのが非常に困難であった。後の時点において、外植体の平滑面にわたって非常に薄い組織の層が認められ、ポリプロピレンメッシュを通した組織内植が存在した(21日目)。加えて、コーティングは、コーティングの明らかな薄化によって示されるように、本実施例の過程を通して吸収されたようであった。
【0180】
図24は、様々な時点における、かつ内部標準で正規化された外植魚油誘導コーティングのGC−FID脂肪酸プロファイル分析を示す。このデータは、組織がコーティング中に成長しているときに脂肪酸が吸収されてなくなっていくことを示す。21日目における脂肪酸組成の有意な低下は、明らかな組織内植に相関しており、これらの所見は、コーティングの生体吸収メカニズムと一致する。
【0181】
(実施例8)
脂肪酸誘導疎水性生体材料の生体適合性試験
本実施例において、被覆医療デバイスを高空気流オーブンにて200°Fで24時間にわたって硬化させた後、魚油を、魚油に存在するC=C結合を酸化させて酸化副生成物(すなわち、炭化水素、アルデヒド、ケトン、グリセリド、脂肪酸)を形成させさせ、元々の油トリグリセリドから誘導されるエステルを十分に保存しながら、ポリプロピレンメッシュを封入する架橋生体材料ゲルコーティングに変換した。副生成物を揮発させた後にエステルおよびラクトン架橋を形成させ、油を生体吸収性疎水性架橋生体材料中に固化させる。魚脂肪酸誘導コーティングの生体適合性およびインビボ性能を評価するために、本実施例を実施した。
【0182】
本明細書に記載の魚油誘導コーティングにISO 10993(医療デバイスの生体評価)試験を施した。それらの結果を表6に要約する。表6における結果に基づいて、新規の魚脂肪酸誘導生体材料は、生体適合性を有することが実証された。魚脂肪酸誘導生体材料コーティングをラット腹部欠損モデルに移植して、癒着形成を低減するコーティングの能力をポリプロピレン対照と比較して決定した。サンプルを4、7、14、21および28日目に外植し、癒着スコア(0−癒着なし;1−穏やかな鈍的切除によって剥離する癒着;2−激しい鈍的切除によって剥離する癒着;3−鋭利な切除(切断)を必要とする癒着)を割り当てた。それらの結果(表7)は、魚油誘導生体材料が、ポリプロピレンメッシュ対照と比較すると、さらに癒着の発生および固着性(tenacity)を低減することを示した。
【0183】
【表6】
【0184】
【表7】
(実施例9)
魚脂肪酸誘導生体材料のインビボ性能
実施例7に記載されているように調製されたコーティングをラット腹壁欠損モデルに30日間にわたって移植して、コーティングの炎症応答、ならびに裸のポリプロピレンメッシュと比較したその癒着形成低減能力を評価した。標準的なH&E染色を使用して、外植サンプルに対して組織病理検査を実施して、被覆サンプルおよび裸のポリプロピレンサンプル上に存在する炎症の量を決定した。それらの結果を以下の表8に示す。被覆サンプルに対する組織病理検査はコーティングそのものに伴う炎症が最小限であることを明らかにした。なぜなら、存在するたいていの炎症細胞がポリプロピレンモノフィラメントに伴うものであったためだからであった。組織検査により、全体的な癒着評価で認められたこと、すなわち移植片の内臓表面上の組織癒着が最小限であるか、または存在しないことも確認された。30日の時点において、裸のポリプロピレンおよび被覆サンプルの両方により、移植片の腹壁面上に組織が良好に取り込まれていることが実証された。
【0185】
【表8】
[炎症スケール:1−炎症細胞が存在しない;2−軽度、わずかな炎症細胞が存在する;3−中度;4−重度、強い炎症応答]
[癒着スケール:0−癒着なし;1−穏やかな鈍的切除によって剥離する癒着;2−激しい鈍的切除によって剥離する癒着;3−鋭利な切除(切断)を必要とする癒着]
(実施例10)
形成プロセスを変化させることによって、異なる物理特性および化学的性質を有する脂肪酸誘導生体材料を形成する能力
本実施例において、異なる魚脂肪酸系生体材料デバイスを製造した。最初に、1Lの魚油を採取し、それをジャケット付ガラス反応器中で硬化しながら、酸素を200°Fで20分間にわたってそれに吹き込み、最終粘度範囲を120kcpsから130k cpsとすることによって、部分硬化魚油ゲルを製造した。部分硬化魚油を使用し、それをPTFE内張りステンレス鋼パン上にキャストし、最初に、25分間にわたって殺菌灯を使用してUVランプ露光によりコーティングを固め(すなわち光酸化)させ、次いで24時間目に200°Fでそのフィルムに最終熱硬化プロセスを施すことによって独立型フィルムを生成した。裸メッシュの断片を純粋の魚油で被覆し、150°F(72時間)または200°F(24時間)の硬化条件を使用して硬化することによって魚油被覆メッシュサンプルを生成した。本実施例において、魚油誘導生体材料コーティングの組成に対する硬化プロセスの影響を調べた。
【0186】
異なる硬化材料(すなわち150°Fコーティング、200°Fコーティング、フィルムおよび部分硬化魚油)のFTIR分析を図25に要約する。図25のデータは、硬化条件を変化させると、脂肪酸副生成物の量、ラクトン/エステル架橋、およびシス−トランスC=C異性体比が異なる材料が生成されることを示す。これらの差異は、硬化プロセスを変化させることによって、最終的な脂肪酸組成を変化させることができることを示す、公定AOCS Ce 1−89bを使用して得られたGC−FID脂肪酸プロファイル(図26)にも反映されている。脂肪酸組成の変化は、薬物送達放出プロファイル、および潜在的に脂肪酸誘導生体材料の炎症特性の両方に影響を与え得る。
【0187】
(実施例11)
コーティングの薬物放出プロファイルの調整
以下の実施例は、硬化魚油メッシュコーティング中の薬物含有層の化学的性質および位置を変化させる能力を実証する。異なる硬化条件および/またはビタミンE組成を採用することによって様々なコーティング層の化学的性質を調整することができる。
【0188】
硬化時間および温度の影響
すべての被覆メッシュサンプルを1×1”とし、溶解(dissolution)を0.01MのPBS溶液中で実施した。魚油と薬物を混合した後、裸メッシュの断片を被覆し、150°F(72時間)または200°F(24時間)の硬化条件を使用して硬化することによって、薬物放出被覆メッシュサンプルを生成した。
【0189】
図27は、抗炎症薬について測定された薬物放出プロファイルを示す。図では、2つの硬化条件、すなわち200°Fで24時間加熱する条件または150°Fで3日間加熱する条件が比較されている。出発材料は、3.29%のモデル抗炎症薬(nMP溶媒を除去した後)を魚油(EPAX3000TG)中に含んでいた。
【0190】
これらの結果は、硬化温度を調整することで、抗炎症治療薬の放出を変化させることができることを示している。150°F(▲)で硬化したサンプルは、架橋および最終の脂肪酸組成物の量がより少ないために、より多く架橋された200°Fのサンプル(◆)より迅速に放出する。これは、治療薬の放出速度を、硬化時間、利用する油のタイプ、硬化方法、コーティングの厚さ、および/または採用する温度条件に基づいて調整できる、脂肪酸誘導生体材料コーティングの化学的性質に基づいて変化させることができるコーティング系の柔軟性を示している。
【0191】
図28は、抗増殖薬について測定したさらなる薬物放出プロファイルを示す。図では、2つの硬化条件、すなわち200°Fで24時間加熱する条件または150°Fで3日間加熱する条件が比較されている。出発材料は、2.84%の化合物Eを魚油(EPAX3000TG)中に含んでいた。化合物Eは、37℃でわずかに加熱することで魚油に可溶であるため、溶媒を使用しなかった。HPLC測定に基づく硬化後の最初の薬物充填量は、200°Fで硬化されたコーティングでは約478μg(14.22%の回収率、◆)であり、150°Fで硬化されたコーティングでは約1158μg(26.00%の回収率、▲)であった。回収量のパーセンテージは、コーティング重量、および硬化魚油コーティングからの薬物抽出の後にHPLC法を用いて検出された薬物の量に依存することに留意すべきである。
【0192】
これらの結果は、硬化温度および薬物層コーティング位置を調整しても、抗増殖薬である化合物Eの放出を変化させることができることを示している。150°Fのサンプルは、架橋の量が少ないために、200°Fで硬化した、より多く架橋されたサンプルよりも迅速に放出する。最後に、薬物抽出結果は、ペプチドである化合物Eが、150°Fの硬化条件を使用した方がより安定である(すなわちHPLCアッセイ回収率がより高い)ことを示している。
【0193】
ビタミンEとの組合せ
すべての被覆メッシュサンプルを1×1”とし、溶解を0.01MのPBS溶液中で実施した。すべての薬物サンプルを硬化された第1の層としてメッシュ上に充填し、溶媒を用いて、または用いずに、液体の魚油と薬物とを一緒に混合した後、裸メッシュの断片を被覆し、150°Fで3日間硬化することによって生成した。
【0194】
図29は、温度の関数としての、架橋およびトランスC=Cバンドに対するビタミンE組成の影響を示す。ビタミンEの量が増加するに従って、ラクトン/エステル架橋の量が減少し、(トランスC=Cバンドによって監視される)酸化の量も減少する。図30は、化合物Dについて測定された薬物放出プロファイルを示す。図では、150°Fで3日間にわたって硬化する前に出発材料に添加された異なる量のビタミンEが比較されている。出発材料は、4.88%の化合物D(溶媒除去後)を魚油コーティング中で異なる量のビタミンEに含んでいた(0〜5%)。100%の魚油サンプル(ビタミンEを含まない)に対する最初の薬物充填量は、硬化後に、HPLC測定に基づいて、上塗り層(overlayer)では約270μg(5.5%の回収率、●)であり、第1のコーティング(下層)では約378μg(16.5%の回収率、◆)であった。魚油サンプル中5%ビタミンEに対する初期薬物充填量は、硬化後に、HPLC測定に基づいて、上塗り層では約3584μg(66.7%の回収率、+)であり、第1のコーティング(下層)では約3013μg(52.2%の回収率、■)であった。
【0195】
これらの結果は、ビタミンE組成を変化させると、硬化魚油コーティングからの治療薬の放出を変化させることができることを示している。ビタミンEの量を増加させると、硬化魚油コーティング中のビタミンE成分に対する溶解性および親和性が高くなるため、化合物Dの溶解バッファーへの放出が長時間化および緩慢化する。また、硬化した5%ビタミンE/魚油被覆層コーティングは、封入メッシュと比較すると、薬物の放出量が多くなる。
【0196】
(実施例12)
治療薬が充填され、金属ステントに塗布される硬化油コーティング
この特定の実施形態において、治療薬が充填され、心臓ステントに塗布される硬化油コーティングの用途を示す。治療薬が充填されたステント上に硬化コーティングを生成するプロセスを示す流れ図の概要を図31に示す。手短に述べると、20時間にわたって200°Fで加熱しながら撹拌下で反応容器中で部分硬化魚油コーティングを生成する。溶媒を用いて、脂肪酸誘導コーティングを目的の治療薬およびビタミンEと混合し、次いでステントに噴霧してコーティングを生成する。コーティングを、200°Fで7時間加熱することによって、ステント表面にアニールして、均一のコーティングを生成する。モデル抗炎症薬を含むコーティングは、このプロセスにより、デバイスからの薬物の抽出を用いてHPLC分析により決定した場合に、硬化後に薬物の90%を回収することが可能になることを示した。図32は、0.01MのPBSバッファー中でのこのコーティングについての薬物放出プロファイルであって、このプロセスを使用して回収された薬物に関して90%を超える回収率で、20日間までに放出している(going out)ことを示す。
【0197】
本発明の多くの修正および代替的な実施形態は、これまでの説明を読めば当業者に明らかになるはずである。よって、この説明は、単に例示と見なされるべきであり、本発明を実施するための最良の形態を当業者に教示することを目的とする。構造の詳細は、本発明の主旨から逸脱することなく実質的に変更されてよく、添付の特許請求の範囲内に含まれるすべての修正の排他的な使用が確保される。本発明は、添付の特許請求の範囲および適用可能な法律の規則が必要とする範囲のみに限定されることを意図する。
【0198】
本出願に引用されているすべての文献および類似の資料は、特許、特許出願、記事、書籍、論文、学位論文およびウェブ頁を含めて、当該文献および類似の資料の形式に関係なく、それらの全体が参照により明示的に組み込まれている。1つ以上の組み込まれた文献および類似の資料が、用語定義、用語使用または記載技術等を含めて、本出願と異なるか、または矛盾する場合は、本出願が優先される。
【0199】
本明細書に使用されるセクション見出しは、単に編成上の目的のためであり、いかなる場合も記載の主題を限定するものと見なされるべきでない。
【0200】
本発明を様々な実施形態および実施例とあわせて記載したが、これらの教示は、そのような実施形態または実施例に限定されることを意図しない。対照的に、本発明は、当業者に理解されるように、様々な変更、修正および同等物を包含する。
【0201】
特許請求の範囲は、そのように指定される場合を除いて、記載の順序または要素に限定されるものとして読まれるべきでない。添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、形および詳細の様々な変更を加えることができることが理解されるべきである。したがって、以下の特許請求の範囲およびそれらの同等物の範囲および主旨内に含まれるすべての実施形態が主張される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋脂肪酸およびグリセリドを含む医療デバイス用コーティング。
【請求項2】
前記脂肪酸の源がオメガ−3脂肪酸である請求項1に記載のコーティング。
【請求項3】
約5〜50%のC16脂肪酸を含む架橋脂肪酸油を含む医療デバイス用コーティング。
【請求項4】
前記油が5〜25%のC14脂肪酸を含む請求項3に記載のコーティング。
【請求項5】
前記油が5〜30%のC16脂肪酸を含む請求項3に記載のコーティング。
【請求項6】
脂肪酸、グリセリドおよびグリセロールにインビボで加水分解する医療デバイス用コーティング。
【請求項7】
約5〜25%のC14脂肪酸および5〜50%のC16脂肪酸を含む非ポリマー架橋脂肪酸を含む医療デバイス用コーティング。
【請求項8】
架橋脂肪酸およびグリセリドを含む医療デバイス用コーティングであって、前記脂肪酸およびグリセリドが、前記コーティングを柔軟かつ水和性にする無秩序アルキル基を有するコーティング。
【請求項9】
脂肪酸誘導生体材料を含む医療デバイス用コーティングであって、前記脂肪酸誘導生体材料がデルタ−ラクトンを含むコーティング。
【請求項10】
それぞれ約1740〜1830cm−1にピークを有する赤外吸収スペクトルによって示されるラクトンとエステルの架橋を含む医療デバイス用コーティング。
【請求項11】
架橋脂肪酸誘導生体材料を含む医療デバイス用コーティングであって、前記生体材料の約60〜90%が、500未満の分子量を有する脂肪酸によって構成されるコーティング。
【請求項12】
エステル交換脂肪酸を含む医療デバイス用コーティング。
【請求項13】
前記脂肪酸がステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アルファ−リノレン酸またはガンマ−リノレン酸である請求項12に記載のコーティング。
【請求項14】
前記脂肪酸の源が油である請求項12に記載のコーティング。
【請求項15】
前記油が魚油、オリーブ油、グレープ油、パーム油または亜麻仁油である請求項14に記載のコーティング。
【請求項16】
医療デバイス用コーティングであって、
疎水性非ポリマー架橋脂肪酸と、
治療薬とを含み、
患者における前記医療デバイスの配置に耐えるための十分な耐久性を有するコーティング。
【請求項17】
最初に0.1MのPBS溶液に曝露されると約90〜110度の接触角を有し、約1時間の曝露の後は50〜70度の接触角を有する脂肪酸誘導生体材料を含む医療デバイス用コーティング。
【請求項18】
α−TNFの生成を抑制する脂肪酸誘導生体材料を含む医療デバイス用コーティング。
【請求項19】
モジュレートされた治癒を、それを必要とする組織領域で達成するのに好適な脂肪酸誘導生体材料であって、前記生体材料が、前記モジュレートされた治癒を達成するのに十分な量で投与され、前記モジュレートされた治癒が、前記組織領域内または前記組織領域付近の血小板または線維素沈着のモジュレーションを含む脂肪酸誘導生体材料。
【請求項20】
前記組織領域が被験体の血管系である請求項19に記載の生体材料。
【請求項21】
モジュレートされた治癒を、それを必要とする血管傷害の部位で達成するのに好適な脂肪酸誘導生体材料であって、前記組成物が、前記モジュレートされた治癒を達成するのに十分な量で投与され、前記モジュレートされた治癒が、少なくとも1測定基準の器質化組織修復のモジュレーションを含む脂肪酸誘導生体材料。
【請求項22】
前記血管治癒が、血管治癒の炎症段階である請求項21に記載の生体材料。
【請求項23】
前記器質化組織修復が、前記血管傷害の部位における血小板または線維素沈着を含む請求項21に記載の生体材料。
【請求項24】
前記少なくとも1測定基準の器質化組織修復のモジュレーションが、血管傷害の部位における治癒プロセスの遅延である請求項21に記載の生体材料。
【請求項25】
前記組成物が、カテーテル、バルーン、ステント、外科用メッシュ、外科用包帯または移植片を介して、それを必要とする組織領域に投与される請求項19または21に記載の生体材料。
【請求項26】
ラクトンおよびエステル架橋を含む請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項27】
赤外吸収およびX線回折によって測定される無秩序炭化水素鎖を含む請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項28】
インビボでの加水分解を促進するのに十分な量のカルボン酸基を含む請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項29】
インビボで非炎症性成分に分解する請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項30】
インビボで脂肪酸、グリセロールおよびグリセリドに分解する請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項31】
インビボで一旦代謝されるとグリセリドを生成するように構成される請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項32】
約30〜90%の飽和脂肪酸を含む請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項33】
約30〜80%の不飽和脂肪酸を含む請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項34】
グリセリドをさらに含む請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項35】
グリセリド、グリセロールおよび脂肪アルコールからなる群の1種または複数種をさらに含み、そのいずれも部分架橋することができる請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項36】
外部架橋剤を含まない請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項37】
前記脂肪酸およびグリセリドの源が油である請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項38】
前記油が魚油、オリーブ油、グレープ油、パーム油または亜麻仁油である請求項37に記載のコーティング。
【請求項39】
前記油が魚油である請求項37に記載のコーティング。
【請求項40】
ビタミンEをさらに含む請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項41】
移植可能デバイスに結合される請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項42】
前記コーティングが医療デバイスに結合され、前記医療デバイスがステント、カテーテル、医療用メッシュまたはバルーンである請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項43】
治療薬をさらに含む請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項44】
前記治療薬が抗増殖薬、抗炎症薬、抗微生物薬または抗生物質である請求項43に記載のコーティング。
【請求項45】
前記治療薬が化合物A、化合物B、化合物C、化合物D、化合物E、シクロスポリン誘導体またはラパマイシン誘導体である請求項43に記載のコーティング。
【請求項46】
0.01Mリン酸緩衝食塩水(PBS)中で約5〜20日間まで前記治療薬を放出する放出プロファイルを有する請求項43に記載のコーティング。
【請求項47】
0.01Mリン酸緩衝食塩水(PBS)中で17〜20日まで前記治療薬を放出する放出プロファイルを有する請求項43に記載のコーティング。
【請求項48】
前記治療薬をインビボにて所望の放出速度で放出する請求項43に記載のコーティング。
【請求項49】
0.01Mリン酸緩衝食塩水(PBS)中で20日間を超える日数まで前記治療薬を放出する放出プロファイルを有する請求項43に記載のコーティング。
【請求項50】
医療デバイス用コーティングを調製する方法であって、脂肪酸含有油を、
前記油の二重結合が酸化され、
脂肪酸およびグリセリドが形成され、
ラクトンおよびエステル架橋が脂肪酸とグリセリドの間に形成され、それによって前記コーティングが形成されるように、
酸素の存在下で加熱することを含む方法。
【請求項51】
前記油を、中断せずに連続的に加熱する請求項50に記載の方法。
【請求項52】
医療デバイス用コーティングを調製する方法であって、脂肪酸含有油を、
前記油の二重結合が酸化され、
水、炭化水素およびアルデヒドが揮発され、
エステルおよびラクトンの架橋が形成され、それによって前記コーティングが形成されるように、
酸素の存在下で加熱することを含む方法。
【請求項53】
前記油を、中断せずに連続的に加熱する請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記油を本明細書に記載の手順に従って硬化させる請求項50または52に記載の方法。
【請求項55】
前記油を約140°Fから約300°Fまでで加熱する請求項50または52に記載の方法。
【請求項56】
前記油を150°Fまたは200°Fで加熱する請求項50または52に記載の方法。
【請求項57】
前記油が魚油である請求項50または52に記載の方法。
【請求項58】
治療薬を添加することをさらに含む請求項50または52に記載の方法。
【請求項59】
前記治療薬が抗増殖薬、抗炎症薬、抗微生物薬または抗生物質である請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記治療薬が化合物A、化合物B、化合物C、化合物D、化合物E、シクロスポリン誘導体またはラパマイシン誘導体である請求項59に記載の方法。
【請求項61】
請求項50または52に記載の方法によって製造される非ポリマー医療デバイスコーティング。
【請求項62】
さらに医療デバイスと結合された請求項61に記載のコーティング。
【請求項63】
有機溶媒と組み合わされ、医療デバイスに噴霧された請求項62に記載のコーティング。
【請求項64】
前記医療デバイスがステント、カテーテル、外科用メッシュまたはバルーンである請求項63に記載のコーティング。
【請求項65】
それぞれ約1740〜1830cm−1にピークを有する赤外吸収スペクトルによって示されるラクトンおよびエステル架橋を含む請求項61に記載のコーティング。
【請求項66】
約3000〜2800cm−1に赤外吸収を有する無秩序炭化水素鎖を含む請求項61に記載のコーティング。
【請求項67】
脂肪酸誘導生体材料を形成する方法であって、
脂肪酸を連続的に加熱することによって、前記脂肪酸に架橋を形成させた後に、
C=C二重結合を開裂させて、前記脂肪酸を酸化副生成物に変換することを含む方法。
【請求項68】
前記酸化副生成物がアルデヒド、ケトン、アルコール、脂肪酸、エステル、ラクトン、エーテルまたは炭化水素である請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記副生成物が前記コーティング内に残留し、かつ/または前記加熱プロセスの間に揮発される請求項67に記載の方法。
【請求項70】
前記架橋がエステルおよびラクトン架橋であり、前記エステルおよびラクトン架橋がエステル化、アルコール分解、酸分解またはエステル交換を介して生じる請求項67に記載の方法。
【請求項71】
脂肪酸誘導生体材料を形成する方法であって、
脂肪酸を連続的に加熱することによって、不飽和脂肪酸鎖の二重結合を酸化しながら、トリグリセリドエステル官能基を優勢に保存することによって、前記生体材料の粘度を高めることを含む方法。
【請求項72】
前記エステル結合は、エステル、無水物、脂肪族過酸化物およびラクトンを含む請求項71に記載の方法。
【請求項73】
前記酸化プロセスによりヒドロキシルおよびカルボキシル官能基を形成する請求項71に記載の方法。
【請求項74】
EPAおよびDHAの酸化副生成物を形成する請求項71に記載の方法。
【請求項75】
架橋剤を使用せずに硬化することを含む請求項67から74のいずれか一項に記載の方法。
【請求項76】
硬化時間および温度を調整して、コーティングの分解を調整する請求項67から74のいずれか一項に記載の方法。
【請求項77】
ビタミンEを添加して、前記脂肪酸誘導生体材料における架橋の程度を調整する請求項67から74のいずれか一項に記載の方法。
【請求項78】
出発材料が40%の多価不飽和脂肪酸である請求項67から74のいずれか一項に記載の方法。
【請求項79】
約5〜50%のC16脂肪酸を含む非ポリマー架橋脂肪酸を含む独立型フィルム。
【請求項80】
5〜25%のC14脂肪酸を含む請求項79に記載の独立型フィルム。
【請求項81】
5〜40%のC16脂肪酸を含む請求項79に記載の独立型フィルム。
【請求項82】
ビタミンEをさらに含む請求項79に記載の独立型フィルム。
【請求項83】
生体吸収性である請求項79に記載の独立型フィルム。
【請求項84】
癒着防止特性を維持する請求項79に記載の独立型フィルム。
【請求項85】
治療薬をさらに含む請求項79に記載の独立型フィルム。
【請求項86】
前記治療薬は、化合物A、化合物B、化合物C、化合物D、化合物E、シクロスポリン誘導体またはラパマイシン誘導体である請求項79に記載の独立型フィルム。
【請求項87】
前記治療薬が前記独立型フィルムの形成前に前記脂肪酸化合物と組み合わされ、前記治療薬が前記フィルム全体に分散している請求項79に記載の独立型フィルム。
【請求項88】
軟部組織損傷の治療を必要とする被験体における軟部組織損傷を治療する方法であって、請求項79に記載の独立型フィルムを前記被験体の前記損傷組織に投与することを含む方法。
【請求項1】
架橋脂肪酸およびグリセリドを含む医療デバイス用コーティング。
【請求項2】
前記脂肪酸の源がオメガ−3脂肪酸である請求項1に記載のコーティング。
【請求項3】
約5〜50%のC16脂肪酸を含む架橋脂肪酸油を含む医療デバイス用コーティング。
【請求項4】
前記油が5〜25%のC14脂肪酸を含む請求項3に記載のコーティング。
【請求項5】
前記油が5〜30%のC16脂肪酸を含む請求項3に記載のコーティング。
【請求項6】
脂肪酸、グリセリドおよびグリセロールにインビボで加水分解する医療デバイス用コーティング。
【請求項7】
約5〜25%のC14脂肪酸および5〜50%のC16脂肪酸を含む非ポリマー架橋脂肪酸を含む医療デバイス用コーティング。
【請求項8】
架橋脂肪酸およびグリセリドを含む医療デバイス用コーティングであって、前記脂肪酸およびグリセリドが、前記コーティングを柔軟かつ水和性にする無秩序アルキル基を有するコーティング。
【請求項9】
脂肪酸誘導生体材料を含む医療デバイス用コーティングであって、前記脂肪酸誘導生体材料がデルタ−ラクトンを含むコーティング。
【請求項10】
それぞれ約1740〜1830cm−1にピークを有する赤外吸収スペクトルによって示されるラクトンとエステルの架橋を含む医療デバイス用コーティング。
【請求項11】
架橋脂肪酸誘導生体材料を含む医療デバイス用コーティングであって、前記生体材料の約60〜90%が、500未満の分子量を有する脂肪酸によって構成されるコーティング。
【請求項12】
エステル交換脂肪酸を含む医療デバイス用コーティング。
【請求項13】
前記脂肪酸がステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アルファ−リノレン酸またはガンマ−リノレン酸である請求項12に記載のコーティング。
【請求項14】
前記脂肪酸の源が油である請求項12に記載のコーティング。
【請求項15】
前記油が魚油、オリーブ油、グレープ油、パーム油または亜麻仁油である請求項14に記載のコーティング。
【請求項16】
医療デバイス用コーティングであって、
疎水性非ポリマー架橋脂肪酸と、
治療薬とを含み、
患者における前記医療デバイスの配置に耐えるための十分な耐久性を有するコーティング。
【請求項17】
最初に0.1MのPBS溶液に曝露されると約90〜110度の接触角を有し、約1時間の曝露の後は50〜70度の接触角を有する脂肪酸誘導生体材料を含む医療デバイス用コーティング。
【請求項18】
α−TNFの生成を抑制する脂肪酸誘導生体材料を含む医療デバイス用コーティング。
【請求項19】
モジュレートされた治癒を、それを必要とする組織領域で達成するのに好適な脂肪酸誘導生体材料であって、前記生体材料が、前記モジュレートされた治癒を達成するのに十分な量で投与され、前記モジュレートされた治癒が、前記組織領域内または前記組織領域付近の血小板または線維素沈着のモジュレーションを含む脂肪酸誘導生体材料。
【請求項20】
前記組織領域が被験体の血管系である請求項19に記載の生体材料。
【請求項21】
モジュレートされた治癒を、それを必要とする血管傷害の部位で達成するのに好適な脂肪酸誘導生体材料であって、前記組成物が、前記モジュレートされた治癒を達成するのに十分な量で投与され、前記モジュレートされた治癒が、少なくとも1測定基準の器質化組織修復のモジュレーションを含む脂肪酸誘導生体材料。
【請求項22】
前記血管治癒が、血管治癒の炎症段階である請求項21に記載の生体材料。
【請求項23】
前記器質化組織修復が、前記血管傷害の部位における血小板または線維素沈着を含む請求項21に記載の生体材料。
【請求項24】
前記少なくとも1測定基準の器質化組織修復のモジュレーションが、血管傷害の部位における治癒プロセスの遅延である請求項21に記載の生体材料。
【請求項25】
前記組成物が、カテーテル、バルーン、ステント、外科用メッシュ、外科用包帯または移植片を介して、それを必要とする組織領域に投与される請求項19または21に記載の生体材料。
【請求項26】
ラクトンおよびエステル架橋を含む請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項27】
赤外吸収およびX線回折によって測定される無秩序炭化水素鎖を含む請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項28】
インビボでの加水分解を促進するのに十分な量のカルボン酸基を含む請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項29】
インビボで非炎症性成分に分解する請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項30】
インビボで脂肪酸、グリセロールおよびグリセリドに分解する請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項31】
インビボで一旦代謝されるとグリセリドを生成するように構成される請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項32】
約30〜90%の飽和脂肪酸を含む請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項33】
約30〜80%の不飽和脂肪酸を含む請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項34】
グリセリドをさらに含む請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項35】
グリセリド、グリセロールおよび脂肪アルコールからなる群の1種または複数種をさらに含み、そのいずれも部分架橋することができる請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項36】
外部架橋剤を含まない請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項37】
前記脂肪酸およびグリセリドの源が油である請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項38】
前記油が魚油、オリーブ油、グレープ油、パーム油または亜麻仁油である請求項37に記載のコーティング。
【請求項39】
前記油が魚油である請求項37に記載のコーティング。
【請求項40】
ビタミンEをさらに含む請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項41】
移植可能デバイスに結合される請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項42】
前記コーティングが医療デバイスに結合され、前記医療デバイスがステント、カテーテル、医療用メッシュまたはバルーンである請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項43】
治療薬をさらに含む請求項1から18のいずれか一項に記載のコーティング。
【請求項44】
前記治療薬が抗増殖薬、抗炎症薬、抗微生物薬または抗生物質である請求項43に記載のコーティング。
【請求項45】
前記治療薬が化合物A、化合物B、化合物C、化合物D、化合物E、シクロスポリン誘導体またはラパマイシン誘導体である請求項43に記載のコーティング。
【請求項46】
0.01Mリン酸緩衝食塩水(PBS)中で約5〜20日間まで前記治療薬を放出する放出プロファイルを有する請求項43に記載のコーティング。
【請求項47】
0.01Mリン酸緩衝食塩水(PBS)中で17〜20日まで前記治療薬を放出する放出プロファイルを有する請求項43に記載のコーティング。
【請求項48】
前記治療薬をインビボにて所望の放出速度で放出する請求項43に記載のコーティング。
【請求項49】
0.01Mリン酸緩衝食塩水(PBS)中で20日間を超える日数まで前記治療薬を放出する放出プロファイルを有する請求項43に記載のコーティング。
【請求項50】
医療デバイス用コーティングを調製する方法であって、脂肪酸含有油を、
前記油の二重結合が酸化され、
脂肪酸およびグリセリドが形成され、
ラクトンおよびエステル架橋が脂肪酸とグリセリドの間に形成され、それによって前記コーティングが形成されるように、
酸素の存在下で加熱することを含む方法。
【請求項51】
前記油を、中断せずに連続的に加熱する請求項50に記載の方法。
【請求項52】
医療デバイス用コーティングを調製する方法であって、脂肪酸含有油を、
前記油の二重結合が酸化され、
水、炭化水素およびアルデヒドが揮発され、
エステルおよびラクトンの架橋が形成され、それによって前記コーティングが形成されるように、
酸素の存在下で加熱することを含む方法。
【請求項53】
前記油を、中断せずに連続的に加熱する請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記油を本明細書に記載の手順に従って硬化させる請求項50または52に記載の方法。
【請求項55】
前記油を約140°Fから約300°Fまでで加熱する請求項50または52に記載の方法。
【請求項56】
前記油を150°Fまたは200°Fで加熱する請求項50または52に記載の方法。
【請求項57】
前記油が魚油である請求項50または52に記載の方法。
【請求項58】
治療薬を添加することをさらに含む請求項50または52に記載の方法。
【請求項59】
前記治療薬が抗増殖薬、抗炎症薬、抗微生物薬または抗生物質である請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記治療薬が化合物A、化合物B、化合物C、化合物D、化合物E、シクロスポリン誘導体またはラパマイシン誘導体である請求項59に記載の方法。
【請求項61】
請求項50または52に記載の方法によって製造される非ポリマー医療デバイスコーティング。
【請求項62】
さらに医療デバイスと結合された請求項61に記載のコーティング。
【請求項63】
有機溶媒と組み合わされ、医療デバイスに噴霧された請求項62に記載のコーティング。
【請求項64】
前記医療デバイスがステント、カテーテル、外科用メッシュまたはバルーンである請求項63に記載のコーティング。
【請求項65】
それぞれ約1740〜1830cm−1にピークを有する赤外吸収スペクトルによって示されるラクトンおよびエステル架橋を含む請求項61に記載のコーティング。
【請求項66】
約3000〜2800cm−1に赤外吸収を有する無秩序炭化水素鎖を含む請求項61に記載のコーティング。
【請求項67】
脂肪酸誘導生体材料を形成する方法であって、
脂肪酸を連続的に加熱することによって、前記脂肪酸に架橋を形成させた後に、
C=C二重結合を開裂させて、前記脂肪酸を酸化副生成物に変換することを含む方法。
【請求項68】
前記酸化副生成物がアルデヒド、ケトン、アルコール、脂肪酸、エステル、ラクトン、エーテルまたは炭化水素である請求項67に記載の方法。
【請求項69】
前記副生成物が前記コーティング内に残留し、かつ/または前記加熱プロセスの間に揮発される請求項67に記載の方法。
【請求項70】
前記架橋がエステルおよびラクトン架橋であり、前記エステルおよびラクトン架橋がエステル化、アルコール分解、酸分解またはエステル交換を介して生じる請求項67に記載の方法。
【請求項71】
脂肪酸誘導生体材料を形成する方法であって、
脂肪酸を連続的に加熱することによって、不飽和脂肪酸鎖の二重結合を酸化しながら、トリグリセリドエステル官能基を優勢に保存することによって、前記生体材料の粘度を高めることを含む方法。
【請求項72】
前記エステル結合は、エステル、無水物、脂肪族過酸化物およびラクトンを含む請求項71に記載の方法。
【請求項73】
前記酸化プロセスによりヒドロキシルおよびカルボキシル官能基を形成する請求項71に記載の方法。
【請求項74】
EPAおよびDHAの酸化副生成物を形成する請求項71に記載の方法。
【請求項75】
架橋剤を使用せずに硬化することを含む請求項67から74のいずれか一項に記載の方法。
【請求項76】
硬化時間および温度を調整して、コーティングの分解を調整する請求項67から74のいずれか一項に記載の方法。
【請求項77】
ビタミンEを添加して、前記脂肪酸誘導生体材料における架橋の程度を調整する請求項67から74のいずれか一項に記載の方法。
【請求項78】
出発材料が40%の多価不飽和脂肪酸である請求項67から74のいずれか一項に記載の方法。
【請求項79】
約5〜50%のC16脂肪酸を含む非ポリマー架橋脂肪酸を含む独立型フィルム。
【請求項80】
5〜25%のC14脂肪酸を含む請求項79に記載の独立型フィルム。
【請求項81】
5〜40%のC16脂肪酸を含む請求項79に記載の独立型フィルム。
【請求項82】
ビタミンEをさらに含む請求項79に記載の独立型フィルム。
【請求項83】
生体吸収性である請求項79に記載の独立型フィルム。
【請求項84】
癒着防止特性を維持する請求項79に記載の独立型フィルム。
【請求項85】
治療薬をさらに含む請求項79に記載の独立型フィルム。
【請求項86】
前記治療薬は、化合物A、化合物B、化合物C、化合物D、化合物E、シクロスポリン誘導体またはラパマイシン誘導体である請求項79に記載の独立型フィルム。
【請求項87】
前記治療薬が前記独立型フィルムの形成前に前記脂肪酸化合物と組み合わされ、前記治療薬が前記フィルム全体に分散している請求項79に記載の独立型フィルム。
【請求項88】
軟部組織損傷の治療を必要とする被験体における軟部組織損傷を治療する方法であって、請求項79に記載の独立型フィルムを前記被験体の前記損傷組織に投与することを含む方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【公表番号】特表2012−505025(P2012−505025A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−531009(P2011−531009)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【国際出願番号】PCT/US2008/085386
【国際公開番号】WO2010/042134
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(506087004)アトリウム メディカル コーポレーション (8)
【氏名又は名称原語表記】ATRIUM MEDICAL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】5 Wentworth Drive, Hudson, NH03051 (US).
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【国際出願番号】PCT/US2008/085386
【国際公開番号】WO2010/042134
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(506087004)アトリウム メディカル コーポレーション (8)
【氏名又は名称原語表記】ATRIUM MEDICAL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】5 Wentworth Drive, Hudson, NH03051 (US).
【Fターム(参考)】
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