説明

柔軟性と保水性に優れた不織布およびその製造方法

【課題】柔軟性と保水性のある、生分解性ポリマーからなるシート状不織布を提供する。
【解決手段】繊維径が500nmから30μmである生分解性ポリマーの繊維構造体からなり、100μmから2mm間隔で交互に疎密が変化しており、疎構造の嵩密度が20から90kg/m、密構造の嵩密度が100から200kg/mであるシート状不織布、ならびにエレクトロスピニング法により繊維構造体を作製する工程、およびそれを水流絡合により疎密構造とする工程を含む、該シート状不織布の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意の間隔で交互に疎密がある柔軟性と保水性を備えたシート状不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
生分解性高分子を成型加工した医療用具はいくつも知られており、特にポリ乳酸やポリグリコール酸、ポリカプロラクトンに代表される脂肪族ポリエステルやその共重合体は、さまざまな医療用具に用いられている。例えば、脂肪族ポリエステルを繊維に加工した成形体は、縫合糸や生体吸収性シートなどに応用されている。
【0003】
エレクトロスピニング法(静電紡糸法、電界紡糸法ともいう)によれば、繊維径の細い繊維を簡便に製造できる。この製造法によれば、繊維構造体の表面積を大きくすることで細胞との接着性を高めることができるため、細胞培養用の担体や再生医療のための足場材料などへの応用が検討されている。エレクトロスピニング法は、ポリマー溶液を高電圧、低電流で電極付きシリンジから一定速度で押し出すと同時に放電処理を行い、捕集電極に繊維構造体を堆積させる方法である。例えば再生医療用マトリックス作成法として注目されていて、通常、電極板上に繊維を堆積させるのみで繊維密度の高いシートが得られる。このようにして得られたシートは、癒着防止材や創傷被覆材などシート状の材料が必要とされる領域では優位に使用されるが、靭帯組織様の繊維束や凹凸のある臓器表面など柔軟性が必要な部位には繊維密度が高いため使用しづらく、また水分保持能力が低いため、臓器表面などへの親和性に乏しいといった問題があった。
【0004】
特許文献1には繊維捕集部位に筒状内にマイナスイオン発生装置を設置することで、繊維を浮遊させて空中で堆積化を誘導することで綿状繊維を得る方法が記載されている。しかし、綿状に得られた繊維は靭帯組織様の繊維束のように、細胞培養後、必要な形状に成形する場合には向いているが、凹凸のある臓器表面にシート形状のまま設置するような場合には適していない。
【0005】
特許文献2には、人工血管のように、血圧や体の動きによる伸縮に耐えうる柔軟性と強度を有する材料を提供するために、基材に簡単に、かつ極細繊維がその気孔を保持しつつ固着できる方法が記載されている。しかし、柔軟性を付与するために、極細繊維の他に基材が必要となり、繊維単独では使用できない。
【0006】
特許文献3には、親水剤を塗布した保水性に優れた不織布が記載されているが、親水剤などの化学処理を施さずに保水性を向上させる記載はない。
また、衛生材料等に適用できる柔軟な不織布としては、乾式スパンレース法による不織布が知られている。これは、綿やレーヨンなどの天然系素材、ポリエステルやナイロンなどの合成繊維などをカード法によりウェブ(綿状の材料)を形成した後に高圧水流で繊維同士を絡合させたものである。
【0007】
特許文献4には、湿式抄紙法と水流絡合によるスパンレース不織布が記載されている。湿式抄紙法は、まずウェブを作製し、次に水流絡合によりシート化される。しかしポリビニルアルコール等のバインダーを必要とし、その除去のための工程も必要となり煩雑である。また、繊維長が30mm以下と短く、長繊維では作製できない問題を有している。通常、水流絡合は、ウェブをシート化するために用いられており、ウェブではなくシートそのものを水流絡合して疎密構造を作製したり、シートに水分含有性と柔軟性を共に付与するためには用いられない。
【0008】
特許文献5には、保水性を有する不織布と防水層とで形成された積層シートが記載されている。しかし、水溶性熱可塑性樹脂を不織布中に含有することにより保水性を有しているのであり、水不溶性の熱可塑性樹脂単体で保水性を向上させるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−39401号公報
【特許文献2】特開2009−19300号公報
【特許文献3】特開2006−297967号公報
【特許文献4】特開平4−222263号公報
【特許文献5】特開2006−289728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、その構造のみで柔軟性と保水性をもつ、生分解性ポリマーからなるシート状不織布を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者らは柔軟性と保水性を有するシート状不織布について鋭意研究した結果、驚くべきことに長繊維からなるシート状の繊維構造体の嵩密度を任意の間隔で交互に変化させることにより、柔軟性と保水性に優れるシート状不織布が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明は、繊維径が500nmから30μmである生分解性ポリマーの繊維構造体からなるシート状不織布であって、100μmから2mm間隔で交互に疎密が変化しており、疎構造の嵩密度が20から90kg/m、密構造の嵩密度が100から200kg/mであるシート状不織布である。
また、本発明はエレクトロスピニング法により繊維構造体を作製する工程、およびそれを水流絡合により疎密構造とする工程を含む、該シート状不織布の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のシート状不織布は、柔軟性と保水性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明で用いる生分解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキ酸、乳酸−グリコール酸共重合体、乳酸−カプロラクトン共重合体、ポリグリセロールセバシン酸、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリブチレンサクシネートなどの脂肪族ポリエステル類、ポリメチレンカーボネートなどの脂肪族ポリカーボネート類が挙げられる。好ましくはポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸−グリコール酸共重合体などの脂肪族ポリエステル類であり、さらに好ましくはポリ乳酸、乳酸−グリコール酸共重合体である。
【0015】
なお、いずれの生分解性ポリマーも疎水性ポリマーであるため、ポリマーそのものは保水性を有していない。本発明では、ポリマーの性質による保水ではなく、構造による保水が達成されている。よって、いずれの生分解性ポリマーでも、本発明のシート状不織布の構造をもつ限り、同様な保水性が得られる。
【0016】
生分解性ポリマーとしてポリ乳酸を用いる場合、ポリマーを構成するモノマーには、L−乳酸、D−乳酸があるが、特に制限はない。またポリマーの光学純度や分子量、L体とD体の組成比や配列には特に制限はないが、好ましくはL体の多いポリマーであり、ポリL乳酸とポリD乳酸のステレオコンプレックスを用いてもよい。
【0017】
本発明で用いる生分解性ポリマーは高純度であることが好ましく、とりわけポリマー中に含まれる添加剤や可塑剤、残存触媒、残存モノマー、成形加工や後加工に用いた残留溶媒などの残留物は少ないほうが好ましい。とりわけ医療に用いる場合は、安全性の基準値未満に抑える必要がある。
【0018】
また、本発明で用いる生分解性ポリマーの分子量としては、1×10〜5×10が好ましく、より好ましくは1×10〜1×10、さらに好ましくは5×10〜5×10である。またポリマーの末端構造やポリマーを重合する触媒は任意に選択できる。
【0019】
本発明で用いる繊維には、所期の目的を損なわない範囲で、他のポリマーや他の化合物を混合してもよい。例えば、ポリマー共重合、ポリマーブレンド、化合物混合である。
本発明で用いる繊維はリン脂質を含有していてもよい。かかるリン脂質はポリマー重量に対して0.1〜10重量%含有することができる。リン脂質の含有量が0.1重量%より少ないと、生分解性ポリマーの疎水性性質のため濡性が好ましくなく、10重量%よりも多いと、繊維構造体自体の耐久性が低下し、好ましくない。好ましい含有量は、0.2〜5重量%であり、さらに好ましくは、0.3〜3重量%である。
【0020】
かかるリン脂質は、動物組織から抽出したものでも人工的に合成したものでもよく、例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロールなどが挙げられる。これらのうち1種類を選択してもよいし、2種類以上の混合物を用いてもよい。好ましくはホスファチジルコリンまたはホスファチジルエタノールアミンであり、さらに好ましくはジラウロイルホスファチジルコリンまたはジオレオイルホスファチジルエタノールアミンである。
【0021】
本発明で用いる繊維構造体は長繊維よりなる。長繊維とは、具体的には紡糸から繊維構造体への加工にいたるプロセスの中で、繊維を切断する工程を加えずに形成される繊維構造体をいう。長繊維の長さは300mm以上が好ましい。かかる繊維構造体の全体の厚みに特に制限はないが、好ましくは25μm〜300μm、さらに好ましくは100〜200μmである。
【0022】
本発明で用いる長繊維を得る方法としては、エレクトロスピニング法が挙げられる。エレクトロスピニング法は、ポリマーを溶媒に溶解させた溶液に高電圧を印加することで、電極上に繊維構造体を得る方法である。
【0023】
本発明で用いる繊維構造体の平均繊維径は500nm〜30μmであることが好ましい。500nmよりも小さいか30μmよりも大きいと、それを繊維構造体にして医療用品として用いた場合に良好な特性が得られない。より好ましい平均繊維径は1.0〜10μmであり、さらに好ましくは、2.0〜7.0μmである。なお、繊維径とは繊維断面の直径を表す。繊維断面の形状は円形に限らず、楕円形や異形になることもありうる。楕円形の場合の繊維径とは、その長軸方向の長さと短軸方向の長さの平均をその繊維径として算出する。また、繊維断面が円形でも楕円形でもないときには円または楕円に近似して繊維径を算出する。
【0024】
本発明のシート状不織布を得る方法としては、通常のシートの作製後に、例えば水流絡合法やニードルパンチ処理により嵩密度を変化させる手法が挙げられる。水流絡合とは、ウェブ(綿状の材料)に高圧の水流をノズルからネット上に噴射して繊維間を絡め、綿状の材料から不織布を作製するために用いられている方法である。ニードルパンチ処理は、ウェブに棘のある針を突き刺し、機械的に繊維間を絡めるもので、いずれも綿状の材料から不織布を作製するために用いられている。
【0025】
具体的には、水流絡合法では、ノズルから水圧の加わった水流を噴射して繊維を絡合させる。ノズルヘッドには、シートの幅方向に多数のノズルが配列されており、ノズルにかかる水圧を変えることができるようになっている。各ノズルからの水流は、連続的に噴射されており、シートは一定の速度で搬送されながら、表から水流を受け、繊維を絡合させることになる。水流絡合の回数は本発明の目的を損なわない範囲で任意に選択でき、表のみ1回絡合させても、表裏に数回絡合させてもよい。水流絡合する際の水圧については、水圧が高いと長繊維を切断してしまうためにシート強度が脆弱になり、水圧が低いとシートの嵩密度を変化させることができない。本発明では、中程度の圧力として、シート強度と柔軟性の双方を所望の範囲内に保っている。
【0026】
ニードルパンチ加工では、高速で上下するニードル(針)で、シート全体を繰り返し突き刺し、ニードルに刻まれたバーブという突起により繊維を絡ませるものである。ニードルパンチ加工の特徴は、バルク性に富み、繊維間の剥離がないことである。
【0027】
本発明のシート状不織布の嵩密度を変化させる幅は、100μmから2mmであり、より好ましくは500μmから1mmである。100μm以下では嵩密度をコントロールすることが困難であり、2mm以上では求める柔軟性に達しない。また、嵩密度は疎な部分と密な部分が存在するが、その幅は同一であっても、いずれか一方の幅の方が太くても上記範囲であれば問題ない。疎な部分は、密な部分に比べ、水流絡合法やニードルパンチ処理を受けている分、膜厚が薄くなり、通常、表面に凹凸が形成される。
【0028】
疎な部分と密な部分のそれぞれの嵩密度は、疎な部分では20から90kg/mであり、より好ましくは40から70kg/mである。20kg/m以下では、構造保持が難しく、90kg/m以上では、密な部分との差が得られない。一方、密な部分は100kg/mから200kg/mである、より好ましくは110から150kg/mである。100kg/m以下では、疎な部分との差がなくなり柔軟性が得られない。200kg/m以上では、シート自体が硬すぎて柔軟性が得られない。
【0029】
本発明のシート状不織布は保水性に優れており、医療用品として体内で使用する際にはそれに体液や血液が保持される。このような条件を満足する不織布の保水率は、通常800〜2000重量%、好ましくは1000〜1500重量%である。このような保水性を保持するためには、上記の疎密構造が重要である。保水性を上げるためには、嵩密度を低下させることが重要だが、嵩密度を低下させるとシートの自己支持性に欠け、その分、膜厚の増加が必要となり、製造時間の上昇、製造コストの増加に繋がる。本発明では、嵩密度の変化する幅が100μmから2mmであることから、嵩密度が疎な部分の構造保持力の低下が密な部分によって補われている。また、表面に凹凸があると、疎密部分のそれぞれの保水力のみならず、構造体として水分保持能力を増加させることができるため、表面に凹凸構造を有していてもよい。具体的には、疎な部分は、密な部分よりも水流絡合法やニードルパンチ処理により膜厚が薄くなっている。そのくぼみ部分に水の表面張力作用により水が捕集できるようになっている。
【0030】
シート状不織布の柔軟性は、剛軟性で測定することができる。具体的には、JISL1096 6.19.1E法(ハンドルオメーター法)などを用いて測定することができる。剛軟度は90mN以下であることが好ましく、より好ましくは70mN以下である。90mN以上であるとシートは柔軟性に欠け、表面が凹凸な組織表面への追従性に欠けるので好ましくない。
【0031】
本発明のシート状不織布の表面に、さらに綿状の繊維構造物を積層することや、綿状構造物を本発明のシート状不織布ではさんでサンドイッチ構造にするなどの加工は、所期の目的を損ねない範囲で任意に実施しうる。
【0032】
本発明で用いる繊維や繊維構造体は、医療応用においては、さらに抗血栓性を付与するためのコーティング処理、抗体や生理活性物質で表面をコーティングすることも任意に実施できる。このときのコーティング方法や処理条件、その処理に用いる化学薬品は、繊維の構造を極端に破壊せず、本発明の目的を損なわない範囲で任意に選択できる。
【0033】
本発明で用いる繊維構造体の繊維内部にも任意に薬剤を含ませることができる。エレクトロスピニング法で成形する場合は、揮発性溶媒に可溶であり、溶解によりその生理活性を損なわないものであれば、使用する薬剤に特に制限はない。かかる薬剤の具体例としては、タクロリムスもしくはその類縁体、スタチン系、またはタキサン系抗癌剤が例示できる。また、揮発性溶媒中において活性を維持できるものであれば、タンパク質製剤、核酸医薬であってもよい。また、薬剤以外でも、金属、多糖、脂肪酸、界面活性剤、揮発性溶媒耐性微生物を含んでいてもよい。
【0034】
本発明のシート状不織布は、医療用品、とりわけ臓器表面や創傷部位の保護材、被覆材、シール材として、人工硬膜、癒着防止材、止血材などに好適に用いられる。
【実施例】
【0035】
本発明のシート状不織布の各種評価は次の条件で実施した。
保水性:1cm×1cm角の試料を切り取り、試料に5μlずつ水を含浸させ、含水量を求めた。
保水率(重量%)=(W2−W1)/W1×100
W1:初期試料重量 W2:含水時試料重量
柔軟性:(JIS−L−1906 6.19.1E法)ハンドルオメーター法で剛軟度測定を行った。シートは縦方向および横方向での評価を実施した。
【0036】
[実施例1]
0.4%のホスファチジルコリンジラウロイルを添加したポリ乳酸(分子量13万3千、PURAC)11重量部を、79重量部のジクロロメタンと10重量部のエタノールに溶解し、均一な溶液を得た。この溶液を用いてエレクトロスピニング法で紡糸し、シート状の繊維構造体を調製した。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は23kV、噴出ノズルから陰極平板までの距離は35cm、湿度25%であった。得られた繊維構造体の厚さは80μm、繊維径は4.8μmであった。次いで、水流絡合により、疎構造500μm、密構造1mmの筋を形成させたシート状不織布を得た。疎構造の嵩密度は、80kg/m、密構造の嵩密度は、105kg/mであった。水流絡合は、50メッシュの金属メッシュの上に置き、ウォーターニードル試験機を用いて高圧水流による絡合処理を施した(ノズル0.1mmφ、40kg/cm、速度2m/min、表裏各1回)。得られたシート状不織布の重量は1.2mg/cm、保水率は1566重量%、柔軟性は縦37mN、横42mNであった。
【0037】
[実施例2]
0.4%のホスファチジルコリンジラウロイルを添加したポリ乳酸(分子量13万3千、PURAC)11重量部を、79重量部のジクロロメタンと10重量部のエタノールに溶解し、均一な溶液を得た。この溶液を用いてエレクトロスピニング法で紡糸し、シート状の繊維構造体を調製した。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は23kV、噴出ノズルから陰極平板までの距離は35cm、湿度25%であった。得られた繊維構造体の厚さは150μm、繊維径は3.2μmであった。次いで、水流絡合により、疎構造500μm、密構造1mmの筋を形成させたシート状不織布を得た。疎構造の嵩密度は、70kg/m、密構造の嵩密度は、110kg/mであった。水流絡合は、50メッシュの金属メッシュの上に置き、ウォーターニードル試験機を用いて高圧水流による絡合処理を施した(ノズル0.1mmφ、40kg/cm、速度2m/min、表裏各1回)。得られたシート状不織布の重量は2.9mg/cm、保水率は1624重量%、柔軟性は縦49mN、横61mNであった。
【0038】
[比較例1]
0.4%のホスファチジルコリンジラウロイルを添加したポリ乳酸(分子量13万3千、PURAC)11重量部を、79重量部のジクロロメタンと10重量部のエタノールに溶解し、均一な溶液を得た。この溶液を用いてエレクトロスピニング法で紡糸し、シート状の繊維構造体を調製した。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は23kV、噴出ノズルから陰極平板までの距離は35cm、湿度25%であった。得られた繊維構造体の厚さは150μm、繊維径は4μm、嵩密度は144kg/mであった。得られたシート状不織布の重量は2.9mg/cm、保水率は589重量%、柔軟性は縦237mN、横288mNであった。
【0039】
[比較例2]
0.4%のホスファチジルコリンジラウロイルを添加したポリ乳酸(分子量13万3千、PURAC)11重量部を、79重量部のジクロロメタンと10重量部のエタノールに溶解し、均一な溶液を得た。この溶液を用いてエレクトロスピニング法で紡糸し、シート状の繊維構造体を調製した。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は23kV、噴出ノズルから陰極平板までの距離は35cm、湿度25%であった。得られた繊維構造体の厚さは80μm、繊維径は5.2μm、嵩密度は146kg/mであった。得られたシート状不織布の重量は1.2mg/cm、保水率は733重量%、柔軟性は縦133mN、横92mNであった。
【0040】
[比較例3]
0.4%のホスファチジルコリンジラウロイルを添加したポリ乳酸(分子量13万3千、PURAC)11重量部を、79重量部のジクロロメタンと10重量部のエタノールに溶解し、均一な溶液を得た。これを用いてエレクトロスピニング法で紡糸し、シート状の繊維構造体を調製した。噴出ノズルの内径は0.8mm、電圧は45kV、噴出ノズルから陰極平板までの距離は35cm、湿度25%であった。得られた繊維構造体の厚さは102μm、繊維径は4.6μm、嵩密度は65kg/mであった。得られたシート状不織布の重量は0.6mg/cm、保水率は784重量%、柔軟性は縦125mN、横119mNであった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のシート状不織布は柔軟性が高いので凹凸のある組織表面への追従性が高く、また保水性にも優れているので、医療用品、とりわけ臓器表面や創傷部位の保護材、被覆材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径が500nmから30μmである生分解性ポリマーの繊維構造体からなるシート状不織布であって、100μmから2mm間隔で交互に疎密が変化しており、疎構造の嵩密度が20から90kg/m、密構造の嵩密度が100から200kg/mであることを特徴とするシート状不織布。
【請求項2】
生分解性ポリマーが、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリジオキ酸、乳酸−グリコール酸共重合体、および乳酸−カプロラクトン共重合体からなる群から選ばれる一つ以上のポリマーである請求項1に記載のシート状不織布。
【請求項3】
繊維構造体の繊維長が300mm以上である請求項1または2に記載のシート状不織布。
【請求項4】
繊維中、生分解性ポリマーに対してリン脂質を0.1重量%から1重量%含む請求項1から3のいずれかに記載のシート状不織布。
【請求項5】
リン脂質が、ホスファチジルコリンまたはホスファチジルエタノールアミンである請求項4に記載のシート状不織布。
【請求項6】
リン脂質がジラウロイルホスファチジルコリンである請求項4に記載のシート状不織布。
【請求項7】
リン脂質がジオレオイルホスファチジルエタノールアミンである請求項4に記載のシート状不織布。
【請求項8】
エレクトロスピニング法により繊維構造体を作製する工程、およびそれを水流絡合により疎密構造とする工程を含む、請求項1から7のいずれかに記載のシート状不織布の製造方法。

【公開番号】特開2012−207350(P2012−207350A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75072(P2011−75072)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】